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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】成形構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20230926BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020037970
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021138055
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 亮
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-192604(JP,A)
【文献】特開2019-89432(JP,A)
【文献】特開平11-19963(JP,A)
【文献】特開2019-25811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
B29C 45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含む基材と、前記基材に接合された成形体と、を備える成形構造体の製造方法であって、
外部への開口を有するキャビティと、前記開口とは反対側で前記キャビティに溶融樹脂を送るためのゲートと、を備える成形型の前記キャビティに対し、前記ゲートと離間し、かつ、少なくとも一部が前記ゲートに対向するようにゲート対向部材を配置するゲート対向部材配置工程と、
前記キャビティの前記開口を閉塞し、前記ゲート対向部材に重ねる形で前記基材を配置する基材配置工程と、
前記ゲートから前記キャビティに前記溶融樹脂を射出することで、前記ゲート対向部材によって前記溶融樹脂の射出圧を受けたのちに、前記溶融樹脂を前記キャビティ内に送り、前記キャビティに送られた前記溶融樹脂を固化することで前記成形体を前記ゲート対向部材および前記基材と一体的に成形する成形体成形工程と、
を含む、成形構造体の製造方法。
【請求項2】
前記キャビティは、
前記成形体の外形に対応する第1キャビティと、
前記第1キャビティに連通し、前記第1キャビティおよび前記ゲートを間に挟むように形成された一対の第2キャビティと、
を含み、
前記ゲート対向部材配置工程において、一の前記ゲート対向部材を前記ゲートに架かるように一対の前記第2キャビティに渡して配置する、請求項1に記載の成形構造体の製造方法。
【請求項3】
前記ゲート対向部材は、前記基材の表面に備えられる板状の本体部と、前記本体部から立ち上がり、前記成形体を前記基材の表面に沿う一の方向で挟むように支持する一対の壁部と、を備え、
前記ゲート対向部材配置工程においては、前記ゲート対向部材を、前記本体部および一対の前記壁部に囲まれてなる流路が前記ゲートに対向し、かつ、前記流路が前記キャビティに連通するように前記キャビティに配置する、請求項1または2に記載の成形構造体の製造方法。
【請求項4】
一対の前記壁部の先端は、前記壁部が互いに向き合う対向面とは反対側の外壁面において角部が切欠きされている、請求項3に記載の成形構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ゲート対向部材は前記ゲート側に指向するゲート側指向面を備え、
前記ゲート側指向面は、前記ゲートの中心を前記ゲートから前記溶融樹脂が射出される向きである射出方向に投影してなる射出点を含むとともに、この射出点から離れるにつれて前記射出方向に後退する傾斜面を含む、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の成形構造体の製造方法。
【請求項6】
前記ゲート対向部材は、前記ゲートに対向する面側である表面と、前記表面とは反対側であって前記基材に対向する背面と、前記表面および前記背面に連なる側面と、を備え、
前記背面と前記側面との間には面取り部が設けられている、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の成形構造体の製造方法。
【請求項7】
前記ゲート対向部材として、前記成形体を構成する樹脂よりも融点の高い高融点樹脂材料、金属材料、およびセラミック材料の少なくとも1種によって構成された非接合ゲート対向部材を用意し、
前記成形体成形工程において成形された成形構造体から、前記非接合ゲート対向部材を除去する除去工程を含む、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の成形構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドアトリム等の成形構造体の製造方法として、繊維を含む基材を成形型によってプレスした状態で、成形型のキャビティ(成形型と基材との間に形成される空間)に溶融樹脂を射出し、基材に成形体を一体的に成形する方法が知られている。例えば下記の特許文献1には、基材を成形型によってプレスする際に、成形体が接合される接合部の周縁を他の領域よりも高密度となるようにプレスすることが開示されている。このような技術によると、接合部からその周縁への溶融樹脂の染み出し(樹脂漏れ)が抑制されると記載されている。
【0003】
この特許文献1では、ブラケット等の成形体を形成するための成形型として、成形体に対応するキャビティに対し、基材に当接する側とは反対側であって、基材と略平行に延びた部分において、溶融樹脂を供給するゲート(溶融樹脂の流入口)が設けられたものが使用されている。このような成形型を使用すると、射出装置から射出される溶融樹脂は、まずは成形型の壁面に直撃し、その後にキャビティに送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5803572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数の成形体が基材に接合される成形構造体の製造方法においては、複数の成形体のキャビティをランナー(溶融樹脂の流路)で接続し、このランナー内に供給される溶融樹脂も成形体(ランナー成形体)として基材に一体的に成形することが行われてもいる。この製造方法によると、成形型の設計が容易となり、また、ランナー成形体をドアトリムの補強リブなどとして利用できるといった利点もある。しかしながら、このランナーは基材の表面に沿って形成されることから、射出装置からランナーに射出された溶融樹脂は高圧のまま基材に直撃する。加えて、ゲート近傍において、ランナーには、射出装置から射出される溶融樹脂のほぼ全量が流通する。そのため、特許文献1に開示の技術によっても、ゲート近傍においては、ランナーと基材との接合部における溶融樹脂の樹脂漏れが避けられないのが現状である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ゲート近傍であっても樹脂漏れを防止することが可能な成形構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、繊維を含む基材と、前記基材に接合された成形体と、を備える成形構造体の製造方法を提供する。この成形構造体の製造方法は、外部への開口を有するキャビティと、前記開口とは反対側で前記キャビティに溶融樹脂を送るためのゲートと、を備える成形型の前記キャビティに対し、前記ゲートと離間し、かつ、少なくとも一部が前記ゲートに対向するようにゲート対向部材を配置するゲート対向部材配置工程と、前記キャビティの前記開口を閉塞し、前記ゲート対向部材に重ねる形で前記基材を配置する基材配置工程と、前記ゲートから前記キャビティに前記溶融樹脂を射出することで、前記ゲート対向部材によって前記溶融樹脂の射出圧を受けたのちに、前記溶融樹脂を前記キャビティ内に送り、前記キャビティに送られた前記溶融樹脂を固化することで前記成形体を前記ゲート対向部材および前記基材と一体的に成形する成形体成形工程と、を含むことに特徴を有する。
【0008】
このような製造方法によると、ゲートから射出される溶融樹脂はゲートに対向して配されたゲート対向部材に向けて射出され、基材には直撃しない。そのため、成形型内に高圧で溶融樹脂を射出した場合でも、ゲート対向位置において基材の繊維が圧密されて基材の表面が凹んだり、これに伴い成形型と基材との間に隙間が形成されて溶融樹脂が意図しない基材表面で固まったりすること(樹脂漏れ)が防止される。その結果、溶融樹脂の不要な消費が防止され、成形体の充填不足(欠肉)を抑制することができる。また、漏れ出た樹脂の収縮硬化に因るヒケの発生を防止し、成形構造体の意匠性の低下を抑制することができる。
【0009】
上記製造方法の好ましい態様において、前記キャビティは、前記成形体の外形に対応する第1キャビティと、前記第1キャビティの周縁で前記第1キャビティに連通し、前記第1キャビティおよび前記ゲートを間に挟むように形成された一対の第2キャビティと、を含む。そして前記ゲート対向部材配置工程において、一の前記ゲート対向部材を前記ゲートに架かるように一対の前記第2キャビティに渡して配置することを特徴とする。
【0010】
上記製造方法においては、成形型として、ゲート対向位置にゲート対向部材を位置決めする第2キャビティが設けられたものを用いるようにしている。これにより、ゲート対向部材配置工程において、一対の第2キャビティにゲート対向部材を嵌めるだけで、基材に対してゲート対向部材を適切な位置に安定して配置させることができる。
【0011】
上記製造方法の好ましい態様において、前記ゲート対向部材は、前記基材の表面に備えられる板状の本体部と、前記本体部から立ち上がり、前記成形体を前記基材の表面に沿う一の方向で挟むように支持する一対の壁部と、を備えている。そして、前記ゲート対向部材配置工程においては、前記ゲート対向部材を、前記本体部および一対の前記壁部に囲まれてなる流路が前記ゲートに対向し、かつ、前記流路が前記キャビティに連通するように前記キャビティに配置することを特徴としている。なお、一対の前記壁部の先端は、前記壁部が互いに向き合う対向面とは反対側の外壁面において角部が切欠きされていてもよい。
【0012】
上記製造方法においては、ゲート対向部材が溝状の流路を備える構成とされており、ゲート対向部材はその流路がゲートに対向するように成形型に配置される。そのため、ゲートから射出された溶融樹脂の射出圧を溝状のゲート対向部材で確実に受けとるとともに、溶融樹脂を基材に衝突させることなく流路に沿ってキャビティに送ることができる。また、壁部の先端が外壁面において切り欠かれていることで、ゲート対向部材の質量を軽減することができる。これにより、成形構造体の軽量化を図ることができる。
【0013】
上記製造方法の好ましい態様において、前記ゲート対向部材は前記ゲート側に指向するゲート側指向面を備え、前記ゲート側指向面は、前記ゲートの中心を前記ゲートから前記溶融樹脂が射出される向きである射出方向に投影してなる射出点を含むとともに、この射出点から離れるにつれて前記射出方向に後退する傾斜面を含むことを特徴とする。
【0014】
上記構成によると、ゲート対向部材の樹脂受面が、射出点から離れるにつれて徐々に射出方向に後退(下降)するように傾斜している。このことにより、ゲートから射出された射出方向に沿う溶融樹脂の流れを、ゲート対向部材の傾斜面に沿う方向を介して、基材の表面に沿う方向へと、よりスムーズに変化させることができる。これにより、溶融樹脂の流れが乱れることを抑制して、基材の表面に沿う方向における溶融樹脂の流速を高めることができる。延いては、溶融樹脂をゲートからより遠くに位置するキャビティにまでスムーズに行き渡らせることができる。
【0015】
上記製造方法の好ましい態様において、前記ゲート対向部材は、前記ゲートに対向する表面と、前記表面とは反対側であって前記基材に対向する背面と、前記表面および前記背面に連なる側面と、を備え、前記背面と前記側面との間には面取り部が設けられている。
【0016】
上記製造方法においては、ゲート対向部材として、背面と側面との角が面取りされたものを用いるようにしている。そのため、例えば、基材の表面にゲート対向部材を押し当てたときに、ゲート対向部材との当接面とその隣接領域とで大きな圧力差が生まれることを防止できる。これにより、基材表面の変形に伴う樹脂漏れや、基材中の繊維の切断による強度低下などを避けることができる。
【0017】
上記製造方法の好ましい態様では、前記ゲート対向部材として、前記成形体を構成する樹脂よりも融点の高い高融点樹脂材料、金属材料、およびセラミック材料の少なくとも1種によって構成された非接合ゲート対向部材を用い、前記成形体成形工程において成形された成形構造体から、前記非接合ゲート対向部材を除去する除去工程を含むことを特徴とする。
【0018】
上記製造方法によると、ゲート対向部材として、成形体形成工程で軟化または溶融しない材料により構成された非接合ゲート対向部材を使用するため、成形構造体において非接合ゲート対向部材の背面は基材に接合されない。したがって、非接合ゲート対向部材は、その上に架かる成形体を切り離すことにより基材を傷つけることなく成形構造体から除去することができる。これにより、さらに軽量な成形構造体を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、射出成形時のゲート近傍での樹脂漏れとこれに伴う不具合を抑制できる成形構造体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係るトリムボードを示す正面図
図2図1に係るトリムボードの要部を車外側から視た要部斜視図
図3】一実施形態に係る成形構造体の製造方法のフロー図
図4図2のA-A断面に相当する位置において、一対の成形型の型開き状態を説明する断面図
図5図2のA-A断面に相当する位置において、一対の成形型の型閉じ状態(樹脂射出前)を示す断面図
図6図2のA-A断面に相当する位置において、一対の成形型の型閉じ状態(樹脂射出後)を示す断面図
図7】ゲート対向部材の一例(角部の切り欠き)を示す斜視図
図8】ゲート対向部材の他の一例(ゲート側指向面は傾斜面)を示す斜視図
図9】ゲート対向部材の他の一例(背面の面取り)を示す斜視図
図10】他の実施形態に係るトリムボードを車外側から視た要部斜視図であって、図2のトリムボードからゲート対向部材を除去した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
本発明の成形構造体の製造方法の一実施形態を図1から図6に基づいて説明する。本実施形態では、成形構造体としてトリムボード30を製造する場合を例にしている。そこで、まず、製造対象であるトリムボード30の構成について説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「X~Y」の表記は、「X以上」および「Y以下」を意味し、「X超過」および「Y未満」の意味をも包含する。
【0022】
トリムボード30は、車両用ドアの車内側の面であるドアトリム20を構成する部品の一つである。図1のドアトリム20は、車両の右側に配されるものであるが、左側においても同様の構成が備えられる。なお、図中に示した符号F,Rr,U,D,IN,OUTは、車両進行方向の前方,後方,鉛直方向の上方,下方,車内側,車外側をそれぞれ示す。また、図2図4から図9に示した符号L,W,Hはそれぞれ、後述するランナー成形体を基準とした長手方向,幅方向,高さ方向を示す。高さ方向は、後述する製造方法において、射出方向および板厚方向に一致する。しかしながら、これらの各方向は便宜的に使用されるものであって、トリムボード30の構成を何ら制限するものではない。
【0023】
ドアトリム20は、図1に示すように、車内側を向く面を構成する主面部21と、主面部21の上方であって、車外側に向かって丸みをもって湾曲しているショルダー部23と、を有している。ショルダー部23は、座席に着座した乗員が肘を置いたり、車両用ドアの開閉の際に手を掛けたりすることが想定されるため、外部から荷重が掛かり易い部分である。また、ドアトリム20には、ドアインサイドハンドルを取り付けるためのドアインサイドハンドル孔25や、アームレスト26、ドアポケット27等が設けられている。
【0024】
ドアトリム20は、骨格たるトリムボード30を主体として構成されている。図2は、トリムボード30のショルダー部23における一部分を車外側から見たときの要部斜視図であり、図1にランナー成形体45の矢印で示した部分に相当する。トリムボード30は、板状の基材31と、基材31の車外側板面31B(図1のトリムボード30の裏面)に設けられる樹脂成形体40と、ゲート対向部材50と、を備えている。樹脂成形体40は、本発明における「成形体」に相当する。ゲート対向部材50は、本発明の製造方法により製造される成形構造体において特徴的な要素である。
【0025】
基材31は、繊維がバインダとしての熱可塑性樹脂により結着された構成を有している。基材31に用いられる繊維としては、例えばケナフ繊維が挙げられるが、繊維の種類はこれに限定されず、木質繊維や、ガラス繊維、炭素繊維等を用いてもよい。また、本実施形態においては、熱可塑性樹脂の一例としてポリプロピレンを例示しているが、本発明の技術的範囲はこれに限定されない。基材31における繊維と熱可塑性樹脂との割合は特に制限されないものの、繊維と熱可塑性樹脂の合計に占める繊維の割合が30質量%以上(例えば、40質量%以上)であると、基材31の剛性を高めつつ軽量化できる点において好ましい。その一方で、基材31の成形性を良好に保つとの観点から、繊維の割合は70質量%以下(例えば、60質量%以下)であることが好ましい。本実施形態における繊維と熱可塑性樹脂との割合は、質量基準で、50:50である。この基材31は、後述するが、略平板状のプレボードP(図4参照)が加熱プレスにより成形されることで、所望のドアトリム20の外形を実現するための湾曲や凹凸等が実現されている。また、基材31には車内側板面31Aを覆うように表皮材32が貼着され、車室内に表われるドアトリム20の意匠面を構成している。
【0026】
樹脂成形体40は、熱可塑性樹脂により構成される部材であって、基材31の車外側板面31Bに固着されている。樹脂成形体40としては、トリムボード30をドアパネル(図示せず)に取り付けるための締結部材や、トリムボード30にドアインサイドハンドルや、アームレスト26、ドアポケット27等を取り付けるための締結部材を基材31に固定するためのブラケットやボスであったり、基材31を補強する機能を有するリブ等が挙げられる。基材31に所定の機能を付与する、ブラケット、ボス、リブ等の部材は、機能性成形体とも言える。また、樹脂成形体40には、このような機能を有する機能性成形体のほかに、複数の機能性成形体を繋ぐランナー成形体45が含まれる。図1に示される樹脂成形体40は、複数のリブ41と、これらを繋ぐ一本のランナー成形体45とを含んでいる。リブ41は、機能性成形体の一例である。複数のリブ41は、ランナー成形体45によって一体的に連結されている。複数のリブ41とランナー成形体45とは、それぞれが車外側板面31Bから立ち上がるように配設されている。リブ41およびランナー成形体45は、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂によって構成されている。本実施形態においては、樹脂成形体40を構成する熱可塑性樹脂の一例として、ポリプロピレンを例示しているが、本発明の技術的範囲はこれに限定されない。
【0027】
ランナー成形体45は、図2に示すように、車外側板面31Bに沿って細長く延び、車外側板面31Bから車外側に向けて突出する突条状をなしている。ランナー成形体45は、基材31に複数のリブ41を一体的に射出成形により成形する際のランナー(流路)に満たされていた溶融樹脂が固化したものである。ランナーとは、後述する射出成形の成形型に設けられるキャビティ(空隙)のうち、複数のリブ41に対応するキャビティのそれぞれに溶融樹脂を供給するための供給流路である。ランナー成形体45の高さ方向の寸法は、射出成形における成形型の設計によるものの、ランナーの形状に対応して約1cm以下(例えば6~8mm)程度である。
【0028】
図2のランナー成形体45には、ランナーに溶融樹脂を供給するための供給孔(後述するゲート46)に対応してランナー成形体45から突出するゲート部45Gが形成されている。ただし、ゲート部45Gは、供給される溶融樹脂の量によって形成されなかったり、事後的に除去したりできるため、必ずしもランナー成形体45に備えられる要素ではない。本実施形態のランナー成形体45は、隣り合うリブ41同士の間を繋ぐように、車両前後方向に沿って形成されている。しかしながら、ランナー成形体45の形状はこれに限定されない。ランナー成形体45は、例えば、一本の線状のものに限定されず、分岐していてもよい。また、ランナー成形体45は、車外側板面31B上で、折れ曲がったり、屈曲するなどして、車外側板面31Bの広範囲にわたって延設されていてもよい。
【0029】
ゲート対向部材50は、図2、および図4から図6に示すように、基材31の車外側板面31Bとランナー成形体45との間に設けられている。ゲート対向部材50は、後述する成形体形成工程において、成形型に設けられたゲートに対向する位置に配置される部材である。ゲート対向部材50は、ランナー成形体45のゲート部45Gに対向する位置に配置される。このゲート対向部材50は、射出成形で一体的に成形されるリブ41やランナー成形体45とは異なり、予め用意されるものである。ゲート対向部材50は、各種の金属、樹脂、セラミック、およびこれらの複合体等のいずれによって構成されていてもよい。好適例として、高い剛性と軽量性とを兼ね備え、製造が容易である点等から、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂やポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂等に代表される熱可塑性樹脂が挙げられる。本実施形態におけるゲート対向部材50は、樹脂成形体40の構成材料よりも融点が高く、高い剛性と軽量性とを兼ね備えているポリアミド系樹脂により構成されている。
【0030】
本実施形態のゲート対向部材50は、図4から図6に示すように、断面が略コの字型の溝状をなしている。具体的には、ゲート対向部材50は、本体部51と一対の壁部53,53とを有している。本体部51は平板状の形状(例えば、直方体形状)を有しており、表面51Aと、表面51Aとは反対側の背面51Bと、表面51Aおよび背面51Bに連なる側面51Cとを備えている。一対の壁部53,53は、表面51Aにおいて対向する一組の端部から立ち上がるように設けられている。図2のトリムボード30において、ゲート対向部材50の本体部51は基材31に埋設されており、壁部53,53のみが基材31から突出している。本実施形態における本体部51は、表面51Aが基材31の表面(後述する薄板部37の表面)と高さが同じとされているが、表面51Aの高さはこれに限定されない。本体部51の表面51Aとは反対側の背面51Bは、基材31に埋設された状態で車外側板面31Bに当接している。また、壁部53,53の互いに対向する面53A,53Aおよび本体部51の表面51Aは、ランナー成形体45に当接している。一対の壁部53,53は、長手方向に直交する幅方向でランナー成形体45を挟むように配置されている。
【0031】
ゲート対向部材50の壁部53,53は、基材31の表面に直交する高さ方向において、ランナー成形体45の高さの20%程度以上であって80%程度以下(例えば50%)に至る高さを有している。また、ゲート対向部材50の本体部51は、高さ方向において、基材31の厚み(高さ方向の寸法)の5%程度以上であって50%程度以下(例えば20%)の寸法を有している。ゲート対向部材50は、ランナー成形体45の長手方向に沿う寸法が、後述する成形型62のゲート64の直径の5倍程度以上であって50倍程度以下(例えば10倍程度、一例として2~3cm)であってよい。ゲート対向部材50は、基材31の表面に沿う方向であってランナー成形体45の幅方向の寸法が、ランナー成形体45の幅方向の寸法よりも壁部53,53の幅の分だけ大きい。例えば、ゲート対向部材50の幅方向の寸法は、ゲート対向部材50の長手方向の寸法と同程度(例えば80%以上120%以下程度、一例として2~3cm)であってよい。
【0032】
次に、基材31の構成について説明する。基材31は、図2図5、および図6に示すように、樹脂成形体40(リブ41およびランナー成形体45)が接合される接合部35と、接合部35の周辺部分である周辺部36と、周辺部36内において接合部35を横断する保護部39と、接合部35及び周辺部36以外の部分である一般部38と、を有している。接合部35、周辺部36、および保護部39は、一般部38よりも厚みが小さい薄板部37とされる。図5および図6に示すように、本実施形態において薄板部37のうちの保護部39は、接合部35および周辺部36よりもさらに厚みが小さくなっている。
【0033】
一般部38は、図2に示すように、基材31における薄板部37の周囲に位置する所定の板厚を有する板状の部分であり、基材31の大部分を占めている。一方、薄板部37は、接合部35を中心にして、その周縁に一定幅で延設された領域であり、基材31に局在して形成されている。換言すれば、薄板部37は、樹脂成形体40を所定の幅で取り囲むように形成されている。薄板部37のうち、周辺部36が表面に露出されている。
【0034】
薄板部37のうちの接合部35は、樹脂成形体40と基材31が接合される部分である。詳細に述べると、接合部35においては、樹脂成形体40の成形時に樹脂成形体40の材料である溶融した熱可塑性樹脂(以下、単に溶融樹脂という)が一部含浸してその後固化している。そして固化した樹脂のアンカー効果や溶着効果により、樹脂成形体40が接合部35に固着されるようになっている。
【0035】
薄板部37のうちの保護部39は、ゲート対向部材50が基材31に当接する部分である。保護部39は、ゲート対向部材50の背面51Bに対応した形状に形成される。保護部39は、ゲート対向部材50の配置に対応して、成形型に設けられたゲートに対向する位置に配置されるとともに、接合部35を幅方向で横断する。本実施形態におけるゲート対向部材50は、高融点なポリアミド(PA)により構成されているため、ゲート対向部材50は、基材31および樹脂成形体40に接合されていない。ただし、ゲート対向部材50を比較的低融点の熱可塑性樹脂により構成する場合は、ゲート対向部材50が基材31や樹脂成形体40に接合されていてもよい。
【0036】
基材31の密度等の性状は特に制限されないものの、本実施形態における基材31の一般部38の平均密度は、例えば0.1~0.8g/cm(一例として、0.15~0.78g/cm程度)である。このように比較的低密度で軽量の基材31を使用するトリムボード30の製造に本発明を適用することで、本発明の利点が効果的に発揮されるために好ましい。また、本実施形態に係る薄板部37の板厚は、一般部38の板厚を基準としてその80%以下程度(例えば60%以下)とされる。また、薄板部37の幅は、薄板部37の板厚以上とされる。この薄板部37は、一般部38よりも板厚方向に圧縮された部分とされ、一般部38に比して密度(単位体積当たりの繊維および熱可塑性樹脂の質量)が高くなっている。後に詳述するが、このような構成により、溶融樹脂67(図6参照)が接合部35の周囲に漏れ出る事態を抑制できるようになっている。また、本実施形態に係る保護部39の板厚は、薄板部37の板厚を基準としてその70%から100%程度(例えば80%以上)とされる。この保護部39は、接合部35および周辺部36よりも板厚方向にさらに圧縮されているとき、接合部35および周辺部36に比して密度が高くなっている。
【0037】
次に、トリムボード30の製造方法において用いる成形装置60について、図4から図6を参照しつつ説明する。
成形装置60は、射出プレス成形装置とされ、一対の成形型61,62と、射出装置65とを備えている。本実施形態では、上側に配された成形型61が基材31の車内側板面31Aを成形するキャビティ型(雌型)とされ、下側に配された成形型62が基材31の車外側板面31Bを成形するコア型(雄型)とされている。射出装置65は、例えばスクリュータイプのものとされ、ノズル66からゲート64へと溶融樹脂67(図7参照)を圧送できるようになっている。射出装置65は、本実施形態では成形型62に設けられている。射出装置65は、例えば50kg/cm以上の圧力で溶融樹脂67を射出する能力を備えている。
【0038】
成形型61は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダ等)によって成形型62に対して移動可能であり、成形型61を成形型62に対して接近および離隔させることで、型閉および型開きができる構成となっている。図4に示す型開き状態では、成形型61,62の間に、成形型61の側からゲート対向部材50およびプレボードPがこの順に配される。図4では、理解を容易にするため、成形型61に対して、ゲート対向部材50およびプレボードPを離間させた状態で示している。
【0039】
また成形型61は、図5および図6に示すように、型閉じ状態では成形型62に対して基材31の一般部38における板厚だけ離隔して対向配置される。これにより、成形型61と成形型62との間には基材31を成形するための基材成形空間70が形成される。成形型61,62でプレボードPをプレスすると、プレボードPが基材成形空間70の形状に対応する形に圧縮され、その結果、所定の形状を備える基材31が成形される。
【0040】
本実施形態に係る成形型62は、成形面62Aにおいて樹脂流動路であるランナー72が凹設されている。ランナー72は、成形型61(すなわち外部)に向かう開口を有している。成形面62Aには、図示されていない領域にリブ41を成形するためのリブ成形空間が複数凹設されており、ランナー72は、成形面62Aにおいてリブ成形空間に連通するように延設されている。ランナー72は、各リブ成形空間に溶融樹脂67を供給するための流路となる。このランナー72は、ランナー成形体45の位置および外形に対応した空間を備えるランナー成形体成形空間でもあり、本発明におけるキャビティおよび第1キャビティの一例である。また、ランナー72は、ゲート64において射出装置65のノズル66と連結されている。ゲート64は、ランナー72に対し開口とは反対側、すなわち成形面62Aとは反対側に配置されている。このような構成により、ノズル66からゲート64へ射出された溶融樹脂67は、ランナー72に射出され、複数のリブ成形空間に到達するようになっている。
【0041】
また、成形型62の成形面62Aには、ゲート対向部材50を支持するための支持凹部74,74がランナー72に連通するように凹設されている。支持凹部74,74は、成形面62Aにおいて、ランナー72およびゲート64を間に挟むように一対となって形成されている。支持凹部74,74はまた、成形型61(外部)に向かう開口を有し、ゲート対向部材50の対向する一対の端部の外形の少なくとも一部に対応する空間を備えている。換言すると、支持凹部74,74は、ゲート対向部材50が成形型61の側から嵌るように形成されている。したがって、一つのゲート対向部材50を一対の支持凹部74,74に渡して嵌めることで、ランナー72およびゲート64に対して、成形型61の側に、ゲート対向部材50を架設することができる。支持凹部74,74は、本発明におけるキャビティおよび第2キャビティの一例である。
【0042】
さらに、成形型62の成形面62Aには、ランナー72、支持凹部74,74、およびリブ成形空間を含む領域において、成形型61に向かって突出してなる突出部63が形成されている。この突出部63は、基材31における薄板部37を成形するためのものであり、突出端面の形状は、図2における薄板部37の位置および形状に対応している。
【0043】
以下、トリムボード30の製造方法について、図3から図6を参照しつつ説明する。本実施形態に係るトリムボード30の製造方法は、図3に示すように、ゲート対向部材配置工程(S1)と、基材配置工程(S2)と、基材成形工程(S3)と、成形体成形工程(S4)と、を含む。基材成形工程(S3)は、本発明の製造方法において付加的に含まれる工程である。また、本実施形態に係る製造方法では、除去工程(S5)は含まない。
【0044】
ゲート対向部材配置工程(S1)では、上記のとおり、ランナー72、支持凹部74,74、およびゲート64を備える成形型62の支持凹部74,74にゲート対向部材50を配置する。このとき、本体部51の表面51Aをゲート64の側に向けた状態で、壁部53,53の先端をそれぞれ支持凹部74,74に嵌める。これにより、ゲート対向部材50を、ゲート64と離間し、かつ、少なくとも一部がゲート64に対向するように、キャビティ内に配置させることができる。本実施形態において、ゲート対向部材50は、ゲート64に離間して対向する位置でランナー72の一部を覆うように配置される。また、壁部53,53の間に形成される溝状の空間は、長手方向に延びるキャビティ72に連通されることとなる。
【0045】
基材配置工程(S2)では、ランナー72の開口を閉塞し、支持凹部74,74に配置されているゲート対向部材50に重ねる形で、プレボードPの状態の基材31を成形型62に配置する。プレボードPは、繊維と糸状に加工された熱可塑性樹脂とが混紡されたマット材を加熱して、平板状に成形されたものである。プレボードPは、成形された平板状の成形品を所定のサイズに切断されたものを用いるとよい。プレボードPの状態における板厚および密度は、板面方向および板厚方向において略均一なものとされている。プレボードPは、熱可塑性樹脂が再度、軟化または溶融する程度に加熱した状態で成形型62に配置してもよい。
【0046】
基材成形工程(S3)では、図5に示すように、成形型61,62を型閉じする。これにより、成形型61,62とゲート対向部材50とによって、プレボードPがプレス成形されて、基材31を得ることができ。ここで、基材31には、所定の厚みの一般部38、薄板部37、および保護部39が形成される。より詳細には、プレボードPにおいて、成形型62における突出部63と対向する箇所(薄板部37に相当する箇所)およびゲート対向部材50と対向する箇所(保護部39に相当する箇所)には、突出部63以外の平坦な部分と対向する箇所(一般部38に相当する箇所)に比して高いプレス圧が掛かる。その結果、薄板部37および保護部39が一般部38よりも高密度な状態に圧縮されるとともに、成形型62(突出部63)と薄板部37および保護部39との間に隙間を生じ難くなる。なお、基材31としてプレボードPを用いずに、あらかじめ所定の形状に成形された基材31を用いる場合は、この基材成形工程は省略することができる。
【0047】
次いで、成形体成形工程(S4)では、基材成形工程に引き続き、成形型61,62を型閉じした状態のままで、ゲート64からランナー72に溶融樹脂67を射出する。ここで、ゲート64に対向する位置に、ランナー72を取り囲むようにゲート対向部材50が配置されている。また、射出装置65による溶融樹脂67の射出方向とランナー72の延設方向とは直交している。したがって、射出装置65から射出された溶融樹脂67はゲート対向部材50に直撃する。ゲート対向部材50は、溶融樹脂67の射出圧を受けたのちに、ランナー72と協働して溶融樹脂67をランナー72の先に送る。溶融樹脂67は、ランナー72内を流動し、各リブ成形空間へと到達する。このことにより、溶融樹脂67を、ランナー72およびリブ成形空間に充填することができる。本実施形態では、ランナー72は直線状に配されているため、溶融樹脂67は迂回することなく短時間でランナー72の端部まで到達して、各リブ成形空間に充填される。
【0048】
ランナー72に送られた溶融樹脂67は、ゲート対向部材50が設けられた位置においては基材31と接触しない。換言すれば、基材31の保護部39はゲート対向部材50によって溶融樹脂67との接触が遮断(シールド)されている。これにより、射出装置65から射出された溶融樹脂67が基材31を直撃することが防止される。
【0049】
なお、従来のトリムボード30の製造方法では成形型62にゲート対向部材50を配置させていなかったため、キャビティのゲート64に対向する位置には基材31の車外側板面31Bが表れていた。そのため、射出された溶融樹脂67は車外側板面31Bに直撃し、基材31の内部の軟化した熱可塑性樹脂を強く押し込むことで基材31の車外側板面31Bを変形させていた。その結果、溶融樹脂67は、成形型62と車外側板面31Bとの間に形成された隙間に漏れ出して、車外側板面31Bの表面に樹脂層が形成されてしまっていた。この場合、漏れ出た分の樹脂が不足してリブ成形空間の端部にまで溶融樹脂67が到達せず、リブ41に欠肉が生じたり、漏れ出た溶融樹脂67が固化して形成された樹脂層にヒケが生じ、車内側板面31Aにまで影響する皺を発生させたりする事態が生じていた。しかし、本発明の製造方法によると、ゲート対向部材50を基材31のゲート対向部(すなわち、保護部39)に配置することでこれを抑制できる。
【0050】
一方で、ランナー72およびリブ成形空間に送られた溶融樹脂67は、ゲート対向部材50が設けられていない接合部35において、基材31内部の軟化した熱可塑性樹脂を押し込みつつ、繊維の内部へと浸透する。繊維の内部に浸透した溶融樹脂67は、基材31内部の軟化した熱可塑性樹脂と一部混ざり合う。この際、基材31における接合部35の周囲に位置する薄板部37は一般部38に比べて高密度な状態となっているから、仮に当該部分が一般部38と同様の密度を有している構成と比べて、接合部35に浸透した溶融樹脂67が薄板部37側にまで拡がり難くなっている。また本実施形態では、保護部39が薄板部37に比べてさらに高密度な状態となっているから、仮に当該部分が薄板部37と同様の密度を有している構成と比べて、薄板部37に浸透した溶融樹脂67はさらに保護部39の側にまで拡がり難い。また、薄板部37は、突出部63との間に隙間を生じ難い構成とされており、そのような隙間から溶融樹脂67が漏れ出し難くなっている。
【0051】
この後、ランナー72およびリブ成形空間に送られた溶融樹脂67を固化することで、基材31の一方の板面31Bに、局所的にゲート対向部材50を介在させた形で、樹脂成形体40(リブ41およびランナー成形体45)が一体的に形成される。そして、成形型61,62を開き、脱型すると、基材31、樹脂成形体40、及びゲート対向部材50が一体となったトリムボード30を得ることができる。なお、その後、トリムボード30に表皮材32を貼着する工程や、ドアインサイドハンドル等の各種機能部品を取り付ける工程等を経て、ドアトリム20が完成する。
【0052】
以上の本実施形態に係るトリムボード30の製造方法は、ゲート対向部材配置工程と、基材配置工程と、成形体成形工程とを含み、対向部材配置工程は、外部への開口を有するランナー72、支持凹部74,74、およびリブ成形空間(キャビティ)と、開口とは反対側でキャビティに溶融樹脂67を送るためのゲート64と、を備える成形型62の支持凹部74,74(キャビティ)に対し、ゲート64と離間し、かつ、少なくとも一部がゲート64に対向するようにゲート対向部材50を配置するものであることを特徴とする。
【0053】
このような構成では、射出装置65によってゲート64から射出される溶融樹脂67の射出圧がゲート対向部材50によって受けられ、基材31の車外側板面31Bに溶融樹脂67が直撃することが防止される。その結果、基材31のゲート64に対向する位置における車外側板面31Bの変形および樹脂漏れ、ならびに、これに伴う欠肉、ヒケ等の不都合が抑制される。
【0054】
また、上記実施形態において、キャビティは、樹脂成形体40の外形に対応するランナー72およびリブ成形空間(第1キャビティ)と、ランナー72(第1キャビティ)の周縁でランナー72に連通し、ランナー72およびゲート64を間に挟むように形成された一対の支持凹部74,74(第2キャビティ)と、を含むように構成されている。そして、ゲート対向部材配置工程(S1)において、一のゲート対向部材50をゲート64に架かるように一対の支持凹部74,74に渡して配置するようにしている。つまり、成形型62として、ゲート64に対向する位置にゲート対向部材50を位置決めする支持凹部74,74が設けられたものを用いるようにしている。そのため、例えばゲート対向部材50が基材31に対して微小な場合であっても、ゲート対向部材50を適切な位置に安定して配置させることができる。
【0055】
上記実施形態において、ゲート対向部材50は、基材31の車外側板面31B(表面)に備えられる板状の本体部51と、本体部51から立ち上がり、ランナー成形体45を基材31の車外側板面31Bに沿う一の方向で挟むように支持する一対の壁部53,53と、を備える溝状をなしている。そしてゲート対向部材配置工程(S1)においては、ゲート対向部材50を、本体部51および一対の壁部53,53に囲まれてなる流路がゲート64に対向し、かつ、流路の末端がランナー72(キャビティ)に連通するように支持凹部74,74(キャビティ)に配置するようにしている。つまり、ゲート対向部材50が溝状をなし、流路を備える構成とされており、ゲート対向部材50はその流路がゲート64に対向するように成形型62に配置される。そのため、ゲート64から射出された溶融樹脂67の射出圧をゲート対向部材50で確実に受けることができるとともに、射出された溶融樹脂67を基材31に衝突させることなく流路に沿ってランナー72(キャビティ)に送ることができる。また、ゲート対向部材50は溝状をなしており、ゲート64に対向する位置において、基材31の車外側板面31Bだけでなく、車外側板面31Bと成形型62のランナー72との境界およびその周辺を覆っている。その結果、例えばゲート対向部材50の寸法にばらつきが生じてゲート対向部材50の寸法が小さくなった場合でも、車外側板面31Bとランナー72との境界に溶融樹脂67が到達することを防ぐことができ、溶融樹脂67の樹脂漏れをより確実に防止することができる。
【0056】
<他の実施形態>
以上、本発明の具体例を上記記述および図面によって詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、例えば次のような実施形態も含まれる。さらに、ここに例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0057】
(1)上記実施形態のトリムボード30の製造方法は、ゲート対向部材配置工程(S1)から成形体成形工程(S4)までを含むものであり、製造されるトリムボード30にはゲート対向部材50が含まれていた。しかしながら、トリムボード30の製造方法は、ゲート対向部材50として、樹脂成形体40を構成する樹脂よりも融点の高い高融点樹脂材料、金属材料、およびセラミック材料の少なくとも1種によって構成された非接合ゲート対向部材を用意しておき、さらに、成形体成形工程において成形されたトリムボード30(成形構造体)から、少なくとも非接合ゲート対向部材を除去する除去工程(S5)を含むものであってもよい(図3参照)。
【0058】
このような製造方法によると、非接合ゲート対向部材は樹脂成形体40を構成する樹脂よりも融点の高い材料によって構成されている。そのため、非接合ゲート対向部材の背面は成形体成形工程において溶融されることがなく、基材31に接合されない。したがって、例えば図10に示すように、非接合ゲート対向部材の車外側に配置されるランナー成形体45を、長手方向において非接合ゲート対向部材の両端に合わせて幅方向に切断することで、非接合ゲート対向部材と、切断されたランナー成形体45とを、トリムボード30から除去することができる。これにより、より軽量なトリムボード30を製造することができる。なお、非接合ゲート対向部材が、ランナー成形体45とも接合されていない場合(換言すれば、非接合ゲート対向部材が、ランナー成形体45に対して化学的結合および機械的接合を乗じないように構成されている場合)は、非接合ゲート対向部材を回収することで、トリムボード30の製造に繰り返し使用することができる点において有利である。
【0059】
(2)また、上記実施形態において、溝状をなすゲート対向部材50の壁部53,53のそれぞれは、本体部51に接続された部分から先端まで断面が一定の角柱状であった。しかしながら、ゲート対向部材50の一対の壁部53,53の形状はこれに限定されない。例えば図7に示すように、ゲート対向部材150の一対の壁部153,153の先端は、壁部153,153が互いに向き合う対向面153A,153Aとは反対側の外壁面153B,153Bにおいて、その角部が切欠きされていてもよい。これにより、壁部153,153における十分な厚みによりその強度を確保しつつ、ゲート対向部材150全体としてはその質量を軽減することができ、トリムボード30の軽量化を図ることができる。また、切欠きを設けることにより、例えば、ゲート対向部材150の占める領域の形を、背面151B側に対してゲート64に対向する側において、異なる様々な形状に変化させることができる。このことにより、例えば、ゲート対向部材150のゲート64に対向する側の占める領域の形、ならびに、成形型62の対応する支持凹部74,74の形状に、異方性を付与することができる。その結果、ゲート対向部材配置工程においてゲート対向部材150を支持凹部74,74に嵌め合わせる際に、不適切な姿勢でゲート対向部材150が支持凹部74,74に嵌ることを防止することができる。
【0060】
(3)さらに、上記実施形態において、ゲート対向部材50は本体部51の表面51Aに一対の壁部53,53が備えられ、断面が略コの字型の形状を有していた。また、ゲート対向部材50は、本体部51が平板状であり、その表面51Aは基材31の表面に沿って平坦であった。しかしながら、ゲート対向部材50は、壁部53,53を備えるものや、表面51Aが平坦なものに限定されない。例えば図8に示すように、ゲート対向部材250は、断面が扁平な二等辺三角形をなす三角柱状であってもよい。このゲート対向部材250には、幅方向の両端に壁部が備えられていない。このゲート対向部材250は、大きさの等しい二つのゲート側指向面251A,251Aと、背面251Bとを備えている。このようなゲート対向部材250は、ゲート側指向面251A,251Aがゲート64側に指向し、背面251Bが成形型62の開口(すなわち、成形型61)の側に指向するように、支持凹部74,74に配置される。また、ゲート対向部材250は、二つのゲート側指向面251A,251Aが付き合わされてなる尾根部分の幅方向の略中央に、射出点Qを含む。この射出点Qは、ゲート対向部材250が支持凹部74,74に配置されたときに、射出装置65のノズル66のノズル軸の延長に一致するように支持凹部74,74の位置が調整されている。換言すれば、ゲート対向部材250は、ゲート64の中心を射出方向に投影してなる位置に射出点Qを含む。そして、二つのゲート側指向面251A,251Aは、射出点Qから離れるにつれて高さ方向に下降(後退)する傾斜面を構成している。このようなゲート対向部材50は、射出点Qがゲート64に対向し、かつ、傾斜面のうちの射出点Qから離れた側の末端がランナー72に連通するように支持凹部74,74に配置される。
【0061】
上記の構成によると、ゲート64から射出される溶融樹脂67は、ゲート対向部材250の射出点Qに直撃する。ゲート対向部材250のゲート側指向面251Aは、射出点Qから離れるにつれて徐々に射出方向に後退するように傾斜している。このことにより、ゲート側指向面251Aは、ゲート64から射出された射出方向に沿う溶融樹脂の流れを、自身の傾斜面に沿う方向に変えてから、基材31の車外側板面31Bに沿う方向へとスムーズに変化させることができる。これにより、射出された溶融樹脂67から基材31の車外側板面31Bに作用する射出圧を射出方向から車外側板面31Bに沿う方向に効果的に逸らすことができ、溶融樹脂67を基材31の車外側板面31Bに沿う方向に効率よく送ることができる。その結果、ゲート対向部材250が傾斜面を備えない場合と比較して、ゲート64からより遠くに位置するリブ成形空間にまでスムーズに溶融樹脂67を行き渡らせることができる。延いては、トリムボード30一つ当たりに設けるゲート64の数を削減することができる。
【0062】
さらに、上記の構成によると、ゲート対向部材250のゲート側指向面251Aは、射出点Qから離れるにつれて射出方向に後退する傾斜面を有しており、その高さ方向の寸法が徐々に小さくなっている。例えば、ゲート対向部材250の傾斜面のうちの射出点Qから離れた側の末端における高さ方向の寸法はゼロであり得る。この場合、ゲート対向部材250は基材31に埋設されていなくてもよい。換言すれば、基材31の接合部35と保護部39とは面一であってもよい。これにより、基材31の厚みを保護部39において薄くする必要がない点において有利となる。また、ゲート対向部材250が基材31に埋設されない場合は、ゲート対向部材250を非接合ゲート対向部材とすることで、トリムボード30とランナー成形体45との間からゲート対向部材250のみを抜き出すことができる点において好ましい。
【0063】
(4)上記実施形態において、ゲート対向部材50の本体部51は直方体形状であり、背面51Bと側面51Cとは約90°の角部をなしていた。しかしながら、ゲート対向部材50の形状はこれに限定されない。ゲート対向部材350の本体部351は、例えば図9に示すように、ゲート64に対向する表面351Aと、表面351Aとは反対側であって基材31に対向する背面351Bと、表面351Aおよび背面351Bに連なる側面351Cと、を備えており、背面351Bと側面351Cとの間には面取り部Cが設けられていてもよい。換言すれば、背面351Bと側面351Cとの間には、90°以下の尖った角部が存在せずに、90°を超える緩やかな角部を形成する面取り部Cが備えられている。このような構成によると、基材31の車外側板面31Bにゲート対向部材350を押し当てたときに、ゲート対向部材350との当接面とその隣接領域とで大きな圧力差が生まれることを防止できる。これにより、基材31の保護部39にはゲート対向部材350の緩やかな角部によって緩やかな凹みが形成されるものの、尖った角部による急激な段差や、尖った角部に追随できない車外側板面31Bの浮き(ゲート対向部材350と車外側板面31Bとの間に隙間が形成されること)が生じることが抑制される。その結果、基材31に含まれる繊維の切断や、車外側板面31Bの浮き部分への樹脂漏れなどを避けることができる。なお、ゲート対向部材50において、面取り部Cは、具体的には図示しないものの、背面351Bと側面351Cとの間に角部を形成しない曲面からなる面取り部(R面)であってもよい。
【0064】
(5)上記実施形態において、基材31に含まれる熱可塑性樹脂と樹脂成形体40を構成する熱可塑性樹脂(溶融樹脂67)とはポリプロピレンであり、ゲート対向部材50を構成する樹脂は、ポリプロピレンよりも融点が高く、ポリプロピレンと相溶性のないポリアミド系樹脂であった。そのため、製造されたトリムボード30において、基材31と樹脂成形体40とは接合されていたものの、ゲート対向部材50は基材31および樹脂成形体40(ランナー成形体45)と接合されていなかった。しかしながら、ゲート対向部材50を構成する材料はこれに限定されず、例えば、溶融樹脂67よりも融点が低く、かつ、基材31に含まれる熱可塑性樹脂および樹脂成形体40を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも一方に対して相溶性を有する樹脂材料(例えば、ポリプロピレン)であってもよい。このような構成によると、ゲート64から射出された溶融樹脂47を受けたゲート対向部材50が軟化し、少なくともゲート対向部材50とランナー成形体45とが一体化される。これにより、ゲート対向部材50の位置で樹脂成形体40の剛性が低下することを抑制することができる。なお、溶融樹脂47によるゲート対向部材50の軟化の程度にもよるが、ゲート対向部材50は、背面51Bが軟化されて基材31と一体化されていてもよい。
【0065】
(6)上記実施形態において、ゲート対向部材50は比較的小さい寸法のものであって、成形型62のゲート64に対向する比較的狭い領域に配置させていた。しかしながら、ゲート対向部材50の寸法や、ゲート対向部材50を配置する位置は上記例に限定されない。ゲート対向部材50は、ゲート64から射出される溶融樹脂67によって基材31の表面(車外側板面31B)が変形されるなどして、成形型62と基材31の表面(車外側板面31B)との間から樹脂漏れが生じ得る領域に、特に制限なく配置することができる。
【符号の説明】
【0066】
30…トリムボード(成形構造体)、31…基材、35…接合部、36…周辺部、37…薄板部、38…一般部、39…保護部、40…樹脂成形体、41…リブ、45…ランナー部、50…ゲート対向部材、62…成形型、64…ゲート、72…ランナー(第1キャビティ)、74…支持凹部(第2キャビティ)
図1
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図10