(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】製品品質分析支援システム
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20230926BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20230926BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20230926BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B21C51/00 R
G05B23/02 X
G05B19/418 Z
B21C51/00 Q
B21B38/00 G
(21)【出願番号】P 2020099484
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】井波 治樹
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-296251(JP,A)
【文献】特開2003-223210(JP,A)
【文献】特開2001-025819(JP,A)
【文献】特開2007-083300(JP,A)
【文献】特開2020-003871(JP,A)
【文献】国際公開第2019/102614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 51/00
B21B 31/00
G05B 19/418
G05B 3/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼プラントで製造された鋼板の品質の維持のための分析作業を支援する製品品質分析支援システムであって、
前記鉄鋼プラントの圧延ラインにおいてセンサーにより計測された前記品質に係る物理量の
定サンプリング時間毎の変化を表す定時間サンプリングデータが保存されるデータ保存装置と、
前記データ保存装置に保存された前記
定時間サンプリングデータを処理するデータ処理装置と、を備え、
前記品質は前記鋼板の板幅と板厚の少なくとも一方であり、
前記データ処理装置は、
前記
定時間サンプリングデータを
前記鋼板の搬送距離と時間との関係に基づき前記鋼板の所定長さごとのデータに編集することによって定長サンプリングデータを作成する第1の処理と、
前記定長サンプリングデータを先端部、中央部、及び尾端部に分割する第2の処理と、
前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のそれぞれの前記定長サンプリングデータ
の統計値を計算し、前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のそれぞれ
について前記統計値が前記品質の基準値を満たしているか判定する第3の処理と、を実行し、
前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のいずれかの
前記統計値が前記品質の前記基準値を満たしていない場合、
前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のそれぞれの前記品質をランク付けする第4の処理と、
前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のそれぞれについて前記定長サンプリングデータの波形パターンを波形登録データベースに登録する第5の処理と、
前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のそれぞれの前記波形パターンを特定する情報と、前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のそれぞれの前記品質のランクを特定する情報とを含むパターンIDを決定する第6の処理と、をさらに実行する
ことを特徴とする製品品質分析支援システム。
【請求項2】
前記製品品質分析支援システムは、情報表示装置をさらに備え、
前記データ処理装置は、
前記先端部、前記中央部、及び前記尾端部のいずれかの
前記統計値が前記品質の前記基準値を満たしていない場合、
前記パターンIDに対応する品質不良の要因に関する要因情報と前記品質不良への対策に関する対策情報の少なくとも1つを情報登録データベースから読み出して前記情報表示装置に表示する第7の処理、をさらに実行する
ことを特徴とする請求項1に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項3】
前記製品品質分析支援システムは、情報入力装置をさらに備え、
前記データ処理装置は、
前記パターンIDに対応する前記要因情報又は前記対策情報が前記情報登録データベースに登録されていない場合、
前記パターンIDに対応する波形パターンを前記波形登録データベースから読み出して前記パターンIDとともに前記情報表示装置に表示し、前記情報入力装置から入力された前記要因情報及び前記対策情報を前記パターンIDに関連付けて前記情報登録データベースに登録する第8の処理、をさらに実行する
ことを特徴とする請求項2に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項4】
前記データ処理装置は、
前記第5の処理では、
新たに取得された波形パターンと類似の波形パターンが前記波形登録データベースに既に登録されていない場合、前記新たに取得された波形パターンが属する新規グループを作成するとともに、前記新たに取得された波形パターンを前記新規グループの代表波形パターンとして前記波形登録データベースに登録し、
前記新たに取得された波形パターン
の波形との距離が所定値以内である波形を有する類似の波形パターンが前記波形登録データベースに既に登録されている場合、前記新たに取得された波形パターンを前記類似の波形パターンが属する既存グループに入れるとともに、前記既存グループ内の他の波形パターンとの類似度が最も高い波形パターンを前記既存グループの代表波形パターンとして前記波形登録データベースに登録し、
前記第6の処理では、前記波形パターンを特定する情報として前記代表波形パターンを特定する情報を前記パターンIDに含ませる
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項5】
前記データ処理装置は、
前記第2の処理では、前記先端部と前記尾端部とを固定長とし、前記中央部を前記鋼板の全長から前記先端部と前記尾端部とを差し引いた長さとして前記定長サンプリングデータを分割する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の製品品質分析支援システム。
【請求項6】
前記データ処理装置は、
前記
第4の処理では、
前記統計値と前記統計値に対して設定された1又は複数の境界値との比較に基づいて前記品質をランク付けする
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の製品品質分析支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼プラントで製造された鋼板の品質維持のための分析作業、詳しくは、鋼板の品質不良の発生を把握し、品質不良への対策を実行する一連の作業を支援する製品品質分析支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、鉄鋼プラントの多くの工程において、制御技術やシステム技術の駆使によって自動化が進んでいる。しかし、現在のところ鉄鋼プラント全体の自動化にまでは至っていない。機械にとって難しい臨機応変な判断が必要な仕事は、人(以下では、使用者と呼ぶ)が担当することによって、鉄鋼プラントの操業が滞りなく行われている。
【0003】
鉄鋼プラントの操業においては、製造された鋼板の品質維持のため分析作業がかかせない。分析作業には、品質の不良発生を判断し、不良の詳細状況を把握し、不良を取り除くための操業条件の変更方法を決定し、決定した変更方法を実際に実行することが含まれる。また、操業条件を変更した後は、対策が有効であったかを評価し、有効でなければ更なる対策を検討しなければならない。このため、対策に対する評価のために必要なデータを収集し、必要に応じて計算処理を施し、判断のための分析を行うことも必要となる。これら一連の作業には数多くのデータや情報からの総合的な判断が必要とされることから、誰でもが分析作業を行えるわけではない。
【0004】
そこで、これらの一連の分析作業を支援する支援システムの開発が望まれていた。そのような支援システムに関係する一般的な技術が、以下の文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/102614号
【文献】特開2019-16209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、鉄鋼プラントのメンテナンス支援システムに関するものである。このシステムでは、圧延材の品質がセンサーで計測された物理量の実績データから計算される。最新の圧延材の品質が基準値を下回った場合、過去にデータベースに登録された不良波形パターンの中から今回の実績データの波形に類似したものが検索される。類似した不良波形パターンがデータベース内に見つかった場合、その不良波形パターンに紐づけられた過去の対策内容が使用者に対して表示される。しかし、不良波形パターンと対策内容をデータベースに登録する際、その不良波形パターンは何らかの方法を使って使用者が試行錯誤することにより決定しなければならない。その作業には時間と労力が必要である。
【0007】
特許文献2に開示された技術は、診断対象システムの診断結果の妥当性の判断を支援する診断装置に関するものである。この診断装置では、計測データに基づいて異常診断が行われ、異常診断の結果に応じてグラフ作成用のパラメータ情報が決定され、パラメータ情報に従って計測データからグラフが作成される。使用者は表示されたグラフを参照し、診断結果が妥当か否かを判断する。診断結果が妥当でないときは、グラフ作成用のパラメータ情報を指定してグラフを再表示することが繰り返し行われる。しかし、その作業には使用者の試行錯誤が含まれるため、時間と労力が必要である。
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、鉄鋼プラントで製造された鋼板の品質維持のための分析作業にかかる時間及び労力の低減に役立つ製品品質分析支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る製品品質分析支援システムは、鉄鋼プラントで製造された鋼板の品質維持のための分析作業を支援する製品品質分析支援システムである。本発明に係る製品品質分析支援システムは、データ保存装置とデータ処理装置とを備える。データ保存装置は、鉄鋼プラントの圧延ラインにおいてセンサーにより計測された鋼板の品質に係る物理量の実績データを保存する装置である。データ処理装置は、データ保存装置に保存された実績データを処理する装置であって、詳しくは以下の処理を実行するように構成されている。
【0010】
データ処理装置は、第1乃至第3の処理を実行する。第1の処理では、実績データを鋼板の所定長さごとのデータに編集することによって定長サンプリングデータを作成することが行われる。第2の処理では、定長サンプリングデータを先端部、中央部、及び尾端部に分割することが行われる。そして、第3の処理では、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれの定長サンプリングデータに基づき、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれの品質が基準を満たしているか判定することが行われる。
【0011】
品質の不良が発生する頻度は、制御が安定する中央部では小さく、先端部や尾端部において大きい。また、先端部と尾端部での不良の発生要因は、それぞれの特性に依存して異なっている。このため、先端部での不良と尾端部での不良は独立的に発生する。したがって、鋼板全体として品質を判定するよりも、先端部、中央部、及び尾端部に分割し判定を行うほうが効率的であり、且つ、判定精度も高められる。
【0012】
先端部、中央部、及び尾端部のいずれかの品質が基準を満たしていない場合、データ処理装置は、さらに第4乃至第6の処理を実行する。第4の処理では、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれの品質をランク付けすることが行われる。第5の処理では、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれについて定長サンプリングデータの波形パターンを波形登録データベースに登録することが行われる。そして、第6の処理では、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれの波形パターンを特定する情報と、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれの品質のランクを特定する情報とを含むパターンIDを決定することが行われる。
【0013】
以上の第1乃至第6の処理が行われることにより、先端部、中央部、及び尾端部のいずれかで品質が基準を満たしていない鋼板が製造された場合には、パターンIDとともに各部の波形パターンが自動で登録される。パターンIDからは、品質不良と判断された鋼板の各部の波形パターンと品質のランクとを特定することができる。このようなパターンIDが自動で生成されることにより、分析作業に要する使用者の時間と労力は低減される。
【0014】
データ処理装置は、先端部、中央部、及び尾端部のいずれかの品質が基準を満たしていない場合、さらに第7の処理を実行してもよい。分析作業では、不良の詳細状況を把握し、不良を取り除くための操業条件の変更方法を決定するという作業が必要とされる。この点に関し、第7の処理では、パターンIDに対応する品質不良の要因に関する要因情報と品質不良への対策に関する対策情報の少なくとも1つを情報登録データベースから読み出して情報表示装置に表示することが行われる。第7の処理が行われることにより、上記作業に要する使用者の負担は低減される。
【0015】
データ処理装置は、パターンIDに対応する要因情報又は対策情報が情報登録データベースに登録されていない場合、さらに第8の処理を実行してもよい。第8の処理では、パターンIDに対応する波形パターンを波形登録データベースから読み出してパターンIDとともに情報表示装置に表示し、情報入力装置から入力された要因情報及び対策情報をパターンIDに関連付けて情報登録データベースに登録することが行われる。第8の処理が行われることにより、情報登録データベースの登録内容を完備することができる。
【0016】
データ処理装置は、新たに取得された波形パターンと類似の波形パターンが波形登録データベースに登録されていない場合と既に登録されている場合とで、第5の処理の内容を変えてもよい。具体的には、類似の波形パターンが登録されていない場合、新たに取得された波形パターンが属する新規グループを作成するとともに、新たに取得された波形パターンを新規グループの代表波形パターンとして登録する。類似の波形パターンが既に登録されている場合は、新たに取得された波形パターンを類似の波形パターンが属する既存グループに入れるとともに、既存グループ内の他の波形パターンとの類似度が最も高い波形パターンを既存グループの代表波形パターンとして登録する。この場合、パターンIDの作成には、代表波形パターンを特定する情報が用いられる。類似する波形パターンがグループ化され、グループの代表波形パターンがパターンIDに紐付けられることで、全ての波形パターンに対応してパターンIDが作成される場合に比較して、分析作業に要する使用者の時間と労力は低減される。
【0017】
データ処理装置は、第2の処理では、先端部と尾端部とを固定長とし、中央部を鋼板の全長から先端部と尾端部とを差し引いた長さとして定長サンプリングデータを分割してもよい。鋼板の先端側において品質の不良が発生しやすい領域は、圧延プラントの構造や特性から決まり、鋼板全体の長さにはよらない。鋼板の尾端側についても同様である。定長サンプリングデータを分割する際に、先端部と尾端部とを固定長とすることで、鋼板全体の長さによって品質の判定精度が変動することを抑えることができる。
【0018】
また、データ処理装置は、第4の処理では、定長サンプリングデータの統計値と統計値に対して設定された1又は複数の境界値との比較に基づいて品質をランク付けしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したとおり、本発明に係る製品品質の分析支援システムによれば、先端部、中央部、及び尾端部のいずれかで品質が基準を満たしていない鋼板が製造された場合には、パターンIDとともに各部の波形パターンが自動で登録される。これにより、分析作業に要する使用者の時間と労力は低減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る製品品質分析支援システムが適用される鉄鋼プラント、ならびに同システムで使われるデータの流れを示した模式図である。
【
図2】定時間サンプリングデータと定長サンプリングデータを説明する図である。
【
図4】データ処理装置による計算フローを表す図である。
【
図5】情報表示装置に表示される各パターンIDに対する要因・対策の登録画面の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造や方法中の工程は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0022】
図1には、本実施形態に係る製品品質分析支援システム4が適用される鉄鋼プラント、ならびに同システムで使われるデータの流れが模式的に示されている。鉄鋼プラントには、圧延ライン2と、圧延ライン2を制御する制御システム3が設けられている。圧延ライン2は複数の設備によって構成されている。それら複数の設備を鋼板1が通過する過程において、鋼板1に対して加熱、加工、冷却、巻取りが順に行われ、最終的に製品が製造される。圧延ライン2の各設備は、制御システム3から送信される指令データd1によって制御される。
【0023】
圧延ライン2の各設備には、センサーが取り付けられている。センサーによって計測される実績データは大きく2種類に分けられる。1つは、制御システム3で使われる実績データd2である。制御システム3は、実績データd2に基づいて指令データd1を生成する。もう1つは、制御システム3で使われずに分析や評価に使われる実績データd4である。
【0024】
製品品質分析支援システム4は、データ保存装置5、データ処理装置6、及び情報表示装置7を備える。これらの装置5,6,7は、それぞれが独立したハードウェアを有する装置でもよいし、それぞれに対応するプログラムがプロセッサで実行されることで実現されるコンピュータの機能であってもよい。
【0025】
データ保存装置5は、製品品質の分析に用いるデータを保存する装置であって、例えば、HDDなどの磁気ディスク、DVDなどの光学ディスク、SSDなどのフラッシュメモリ記憶装置などを含む。データ保存装置5には、データ集合d3と実績データd4とが送られ保存される。データ集合d3は、制御システム3で使われた実績データd2と、制御システム3内の途中計算データならびに計算結果データを合わせたデータの集合である。データ保存装置5は、データ集合d3と実績データd4とを併せたデータd5をデータ処理装置6に送る。
【0026】
データ処理装置6は、データ保存装置5から受け取ったデータd5を処理し、分析作業を支援するための計算を行う。データ処理装置6の構成と計算フローの詳細については後述する。データ処理装置6による計算結果は、情報表示装置7に送られる。情報表示装置7は、データ処理装置6の計算結果を編集し、情報表示装置7の表示画面としてのモニター8に表示する。使用者100はモニター8に表示された支援情報を見ながら分析作業を行うことができる。
【0027】
主に製品品質分析において対象とされるデータには、センサーにより計測された設備や鋼板1の物理量、例えば、速度、開度、寸法などの実績データが含まれる。この実績データは定サンプリング時間毎の変化を表すデータ(以下、定時間サンプリングデータという)である。定時間サンプリングデータの1つのデータ項目に対して、X軸を時刻、Y軸を物理量としてグラフに描くと
図2(a)のようになる。
図2(a)には、対象の物理量の変化とともにその物理量が計測された設備を鋼板1が通過した距離(以下、搬送距離という)のグラフも重ねて表示されている。搬送距離は、制御システム3で生成されてデータ保存装置5に送られるデータ集合d3に含まれている。搬送距離は、データ保存装置5に保存される。
【0028】
データ処理装置6は、データ保存装置5から送られる定時間サンプリングデータを再編集する。搬送距離が例えば1m毎の点に対応する物理量のデータを集めて再編集したものを定長サンプリングデータという。定長サンプリングデータの搬送距離の値をX軸にとり、物理量をY軸にとってグラフを描くと
図2(b)のようになる。このように製品品質に係る実績データを定長サンプリングデータに加工し、2次元のXY平面にプロットすることにより、圧延材の先端からの距離に対する実績データの変化が視覚化される。
【0029】
製品品質に係る実績データの全長における変化は、先端部、中央部、及び尾端部に分けて調べることが有効である。なぜならば、品質の不良が発生する頻度は、制御が安定する中央部では小さく、先端部や尾端部において大きいからである。また、先端部と尾端部での不良の発生要因は、それぞれの特性に依存して異なっている。このため、先端部での不良と尾端部での不良は独立的に発生する。したがって、鋼板1の全体として品質を判定するよりも、先端部、中央部、及び尾端部に分割し判定を行うほうが効率的であり、且つ、判定精度も高められる。
【0030】
そこで、データ処理装置6は、先端部と尾端部とをそれぞれ固定長A[m]、B[m]とし、中央部を鋼板の全長から先端部と尾端部とを差し引いた長さL-A-B[m]として定長サンプリングデータを分割する。鋼板1の先端側において品質の不良が発生しやすい領域は、圧延プラントの構造や特性から決まり、鋼板1の全体の長さにはよらない。鋼板1の尾端側についても同様である。定長サンプリングデータを分割する際に、先端部と尾端部とを固定長とすることで、鋼板1の全体の長さによって品質の判定精度が変動することを抑えることができる。
【0031】
次に、データ処理装置6の構成について
図3を用いて説明する。データ処理装置6は大きく分けて2つのユニットから構成されている。1つのユニットは自動操作ユニット9であり、もう1つのユニットは手動操作ユニット10である。これらのユニット9,10は、それぞれが独立したハードウェアを有する装置でもよいし、それぞれに対応するプログラムがプロセッサで実行されることで実現されるコンピュータの機能であってもよい。自動操作ユニット9は、不良判定部11、不良パターンID取得部12、要因・対策出力部13と、不良波形パターン登録データベース14から構成される。手動操作ユニット10は、要因・対策入力部15を含む。各部11~14の機能については、データ処理装置6による計算フローの説明の中で説明する。
【0032】
図4は、データ処理装置6による計算フロー、より詳しくは、自動操作ユニット9による計算フローを表す図である。以下、
図4に基づいてデータ処理装置6の動作を説明する。
【0033】
まず、不良判定部11により行われる処理から説明する。ステップS101では、データ保存装置5に保存された定時間サンプリングデータが鋼板1の長さで再編集され、当該鋼板1の品質を表す定長サンプリングデータが作成される。定長サンプリングデータは、分析対象とされる製品品質項目ごとに作成される。分析対象とされる製品品質項目は、例えば、板幅と板厚である。次に、ステップS102では、先端部、中央部、及び尾端部の3つの部分に定長サンプリングデータが分割される。
【0034】
ステップS103では、製品品質項目毎に作成された定長サンプリングデータに対して、それぞれの製品品質項目の精度指標に従った統計計算が施される。統計計算では、定長サンプリングデータを構成するデータ集合の平均値や標準偏差などの統計値が計算される。そして、統計値が基準値を満たすかどうかの判定が行われる。この判定は、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれに対して行われる。全ての部位において統計値が基準値を満たしているのであれば、当該鋼板1の品質は不良ではないので、計算フローはここで終了する。しかし、先端部、中央部、及び尾端部のいずれかの部位において統計値が基準値を満たさない場合は、不良判定部11による処理から不良パターンID取得部12による処理に移行する。
【0035】
次に、不良パターンID取得部12で行われる処理について説明する。ステップS201では、鋼板1の部位を示すカウンタPに1が設定される。カウンタPの値は1、2、及び3であり、先端部には1が割り当てられ、中央部には2が割り当てられ、尾端部には3が割り当てられている。ステップS202では、カウンタPが3以下かどうか、つまり、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれについての後述する処理がまだ残っているか判定される。
【0036】
カウンタPが3以下の場合、ステップS203において、定長サンプリングデータを構成するデータ集合の平均値や標準偏差などの統計値や、長さに対するデータの振動周波数等が計算される。ただし、計算に用いられる定長サンプリングデータは、例えばP=1の場合であれば、先端部の定長サンプリングデータのみであり、P=3の場合であれば、尾端部の定長サンプリングデータのみである。ステップS203では、統計値や振動周波数等の数値と予め設定された1又は複数の境界値との比較に基づいて、定長サンプリングデータに対してクラス番号が付与される。つまり、連続値である統計値や振動周波数を離散値であるクラス番号に変換することが行われる。クラス番号は、品質のランクを示している。例えば、品質に問題がない場合にはクラス番号としてゼロが付けられ、品質の不良度が大きいほど、大きい値のクラス番号が付けられる。
【0037】
ステップS204では、不良波形パターン登録データベース(DB)14に不良波形パターンのグループが登録されていないか確認される。不良波形パターンとは、品質不良と判定された鋼板1の定長サンプリングデータの波形パターンである。不良波形パターン登録データベース14には、先端部、中央部、及び尾端部の別に不良波形パターンが登録される。不良波形パターン登録データベース14に不良波形パターンのグループが登録されていない場合、後述のステップS205の処理が行われる。なお、不良波形パターンのグループが登録されているか否かは部位ごとに判定される。例えば、今回の判定が尾端部(P=3)についての判定である場合、先端部や中央部では既にグループが登録されていたとしても、尾端部では既登録のグループが無いのであれば、ステップS204の判定結果はYesとなる。
【0038】
不良波形パターン登録データベース14に不良波形パターンのグループが登録されている場合、ステップS207の処理が行われる。ステップS207では、登録された不良波形パターンのグループの中に、今回新たに取得された波形パターンと類似の波形パターンがあるかどうか判定される。類似しているかどうかは、例えば、波形間の距離によって判断される。波形間の距離がゼロであれば同じ波形と判断され、距離が大きくなるにつれて波形間の類似度は低下する。ステップS207で行われる判定の具体例では、距離が所定値以内であれば類似の波形と判定され、距離が所定値より大きければ類似していないと判定される。既登録のいずれのグループの中にも今回新たに取得された波形パターンと類似の波形パターンがない場合、ステップS205の処理が行われる。
【0039】
ステップS205では、不良波形パターンの新規グループが作成される。新規グループには、例えば既に10個のグループが登録されていれば、重ならないように次の番号11がグループ番号として付けられる。今回新たに取得された波形パターンは新規グループに入れられ、新規グループの代表波形パターンとして不良波形パターン登録データベース14に登録される。グループ番号は代表波形パターンと一義的な関係にあり、代表波形パターンを特定する情報として用いられる。続いて、ステップS206では、今回新たに作成された新規グループのグループ番号が、後述するパターンIDの作成用の情報として取得される。
【0040】
ステップS207において、今回新たに取得された不良波形パターンと類似の不良波形パターンが不良波形パターン登録データベース14に既に登録されている場合、ステップS208の処理が行われる。ステップS208では、類似の不良波形パターンが属する既存グループに、新た取得された不良波形パターンが登録される。そして、その類似の不良波形パターンが属するグループのグループ番号が、後述するパターンIDの作成用の情報として取得される。
【0041】
続いて、ステップS209では、今回新たに取得された不良波形パターンが登録されたグループ内で、不良波形パターン間の類似度の計算が行われる。類似度は、例えば、波形間の距離で表すことができる。具体例をあげると、グループ内の全ての不良波形パターンについて他の不良波形パターンとの距離が計算される。さらに、不良波形パターン毎に他の不良波形パターンとの距離の積算値が計算される。この場合における他の不良波形パターンとの類似度が最も高い不良波形パターンは、距離の積算値が最も小さい不良波形パターンである。ステップS209では、グループ内で他の不良波形パターンとの類似度が最も高い不良波形パターンが、当該グループの代表波形パターンとして決定される。代表波形パターンは、不良波形パターン登録データベース14に登録される。
【0042】
ステップS206の処理の後、また、ステップS209処理の後、ステップS210の処理が行われる。ステップS210では、カウンタPの値に1が加算される。カウンタPの値が4になった場合、つまり、先端部、中央部、及び尾端部の全ての部位で代表波形パターンが決定され、グループ番号が取得された場合、ステップS202の判定結果はNoとなる。この場合、ステップS211の処理が行われる。
【0043】
ステップS211では、ステップS203で取得されたクラス番号と、ステップS205或いはステップS208で取得されたグループ番号とが連結される。詳しくは、先端部、中央部、及び尾端部のそれぞれのグループ番号とクラス番号とが連結され、1つのパターンIDが生成される。例えば、先端部のグループ番号が3でクラス番号が2、中央部のグループ番号が2でクラス番号が1、尾端部のグループ番号が5でクラス番号が4の場合、パターンIDは以下のように決定される。
パターンID:32-21-54
【0044】
ステップS211の処理の完了後、不良パターンID取得部12による処理から要因・対策出力部13による処理に移行する。要因・対策出力部13では、ステップS301の処理が行われる。ステップS301では、パターンIDによって情報登録データベースが検索される。そして、パターンIDに対応する品質不良の要因に関する要因情報と、パターンIDに対応する品質不良への対策に関する対策情報とが情報登録データベースから読み出される。情報登録データベースは、不良波形パターン登録データベース14と一体化されていてもよい。読み出された各情報は、パターンIDに対応する代表波形パターンとともにモニター8に表示される。
【0045】
製品品質の分析作業では、不良の詳細状況を把握し、不良を取り除くための操業条件の変更方法を決定するという作業が必要とされる。本実施形態に係る製品品質分析支援システム4によれば、パターンIDに対応する要因情報と対策情報とがモニター8に表示されるので、上記作業に要する使用者100の負担は低減される。なお、本実施形態では、パターンIDに対応する要因情報と対策情報の両方をモニター8に表示しているが、例えば何れか一方の情報のみしか用意されていない場合には、その一方の情報のみを表示することでもよい。
【0046】
パターンIDに対応する要因情報又は対策情報が情報登録データベースに登録されていない場合には、使用者100による要因・対策入力部15への入力が行われる。使用者100が要因・対策入力部15を操作することにより、パターンIDに対応する代表波形パターンが不良波形パターン登録データベース14から読み出され、パターンIDとともにモニター8に表示される。使用者100は、例えば
図5に示すような登録画面をモニター8で見ながら、代表波形パターンに応じた要因情報及び対策情報を要因・対策入力部15に入力することができる。入力された要因情報及び対策情報は、パターンIDに関連付けて情報登録データベースに登録される。
【0047】
以上述べたように、本実施形態に係る製品品質分析支援システム4によれば、先端部、中央部、及び尾端部のいずれかで品質が基準を満たしていない鋼板1が製造された場合には、パターンIDとともに各部の不良波形パターンが自動で不良波形パターン登録データベース14に登録される。これにより、分析作業に要する使用者100の時間と労力は低減される。また、パターンIDに対応する要因情報と対策情報とがモニター8に表示されるので、不良の詳細状況を把握し、不良を取り除くための操業条件の変更方法を決定するという作業に要する使用者100の負担は低減される。
【符号の説明】
【0048】
1 鋼板
2 圧延ライン
3 制御システム
4 製品品質分析支援システム
5 データ保存装置
6 データ処理装置
7 情報表示装置
8 モニター
9 自動操作ユニット
10 手動操作ユニット
11 不良判定部
12 不良パターンID取得部
13 要因・対策出力部
14 不良波形パターン登録データベース
15 要因・対策入力部
100 使用者
d1 制御システムから圧延ラインの各設備への指令データ
d2 圧延ラインの各設備に付属するセンサーから収集された実績データ(制御システムで使用)
d3 制御システム内の途中計算データ、計算結果データ、及びd2のデータの集合
d4 圧延ラインの各設備に付属するセンサーから収集された実績データ(制御システムで不使用)
d5 データ処理装置で使われるデータ