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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】内燃機関の排気浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/04 20060101AFI20230926BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20230926BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20230926BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20230926BHJP
   F01N 3/029 20060101ALI20230926BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20230926BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
F01N3/04 D ZAB
F01N3/08 B
F01N3/20 H
F01N3/28 301E
F01N3/029 Z
F01N3/035 E
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01D53/94 400
B01D53/94 222
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020161765
(22)【出願日】2020-09-28
(65)【公開番号】P2022054625
(43)【公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 浩司
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044627(JP,A)
【文献】特表2006-519331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/04
F01N 3/08
F01N 3/20
F01N 3/28
F01N 3/029
F01N 3/035
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気を浄化する排気浄化システムであって、
前記内燃機関の排気管に接続された酸化触媒と、
前記酸化触媒よりも下流側の前記排気管に接続された粒子捕集フィルターと、
前記酸化触媒よりも上流側の前記排気管内にアンモニアを供給するアンモニア供給装置と、
前記酸化触媒に流入する排気の温度を検出する第1の温度センサーと、
前記粒子捕集フィルターに流入する排気の温度を検出する第2の温度センサーと、
前記第1及び第2の温度センサーによって検出された温度に基づいて、前記アンモニア供給装置による前記排気管内へのアンモニアの供給を制御する制御部と、
前記酸化触媒よりも上流側の排気に含まれるNOxの量を取得する取得部と、
を備え
前記制御部は、
前記第1の温度センサーの温度が、前記酸化触媒においてアンモニアが酸化可能な温度であり、かつ、前記第2の温度センサーの温度が、前記粒子捕集フィルターにおける堆積粒子の燃焼に適した温度範囲であり、かつ、前記取得部によって取得された前記NOxの量が閾値未満の場合に、前記アンモニア供給装置がアンモニアの供給を行うように制御する、
排気浄化システム。
【請求項2】
前記粒子捕集フィルターの下流側の前記排気管には、選択還元型触媒が接続されており、
前記アンモニア供給装置は、前記酸化触媒よりも上流側の前記排気管内に加えて、前記選択還元型触媒にもアンモニアを供給する、
請求項1に記載の排気浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化システムにおけるDPF再生技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等の内燃機関の排気浄化装置として、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)、ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF:Diesel Particulate Filter)、選択還元型触媒(SCR:Selective Catalystic Reduction)を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
DOCは、排気ガス中の煤の中に含まれる有機成分の大部分を酸化し、HC及びCOを浄化する。なお、以下では、煤を、微粒子物質(PM:Particulate Matter)と呼ぶ場合がある。
【0004】
DPFは、DOCの後段に設けられ、排気中のPMを捕集する。捕集されたPMはDPFに堆積する。PMの堆積量が所定値以上の場合、DPF再生が行われる。DPF再生は、例えば、燃料をDOCの排気上流側に噴射してDOCで燃焼させて排気ガスの温度を上昇させて、DPFに堆積したPMを燃焼させることにより行われる。
【0005】
SCRは、DPFの後段に設けられる。SCRでは、排気管内に噴射された尿素水を排気の熱で加水分解して生成されたアンモニアが、触媒の作用により排気ガス中のNOxを窒素(N2)に還元することで、NOxが低減される。なお、DPF再生前に、SCR内のアンモニアの浄化(パージ)が行われる。
【0006】
また、尿素水に代えてアンモニアを排気管内に供給する技術も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2010-519459号公報
【文献】特開2013-124569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来のDPF再生のための排気の昇温は、上述したように未燃燃料の排気管への直接噴射やエンジンへのポスト噴射により行われるので、多くのCO2が発生してしまう欠点がある。
【0009】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、CO2の発生を抑制しつつ、効果的にDPF再生を行うことができる、排気浄化システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の内燃機関の排気浄化システムの一つの態様は、
内燃機関の排気を浄化する排気浄化システムであって、
前記内燃機関の排気管に接続された酸化触媒と、
前記酸化触媒よりも下流側の前記排気管に接続された粒子捕集フィルターと、
前記酸化触媒よりも上流側の前記排気管内にアンモニアを供給するアンモニア供給装置と、
前記酸化触媒に流入する排気の温度を検出する第1の温度センサーと、
前記粒子捕集フィルターに流入する排気の温度を検出する第2の温度センサーと、
前記第1及び第2の温度センサーによって検出された温度に基づいて、前記アンモニア供給装置による前記排気管内へのアンモニアの供給を制御する制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、CO2の発生を抑制しつつ、効果的にDPF再生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態の排気浄化システムの要部構成を示した図
図2】実施の形態によるDPF再生制御の説明に供するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
<1>排気浄化システムの構成
図1は、本実施の形態の排気浄化システムの要部構成を示した図である。本実施形態では、本発明を、ディーゼルエンジン10の排気浄化システム100に適用した態様について説明する。ただし、本実施形態に係る排気浄化システムは、ディーゼルエンジン10の排気浄化システム100に限らず、ガソリンエンジンの排気浄化システムにも適用し得る。
【0015】
排気浄化システム100は、例えば、トラック等の車両に搭載されており、エンジン10の排気ガス中のNOxを浄化する。
【0016】
エンジン10は、例えば、燃焼室、燃焼室内で燃料を噴射する燃料噴射装置、及び、燃料噴射装置を制御するエンジンECU等(図示せず)を含んで構成される。エンジン10は、燃焼室内で、燃料と空気の混合気を燃焼及び膨張させて、動力を発生する。エンジン10には、燃焼室内に空気を導入する吸気管20と、燃焼室から排出される燃焼後の排気ガスを、車両の外部に排出する排気管30と、が接続されている。
【0017】
排気浄化システム100は、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)101、粒子捕集フィルター(DPF:Diesel Particulate Filter)102及び選択還元型触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)103を有する。なお、排気浄化システム100は、触媒として、SCR103に加えて、あるいは、SCRに代えて、LNT(Lean NOx Trap)などを有していてもよい。
【0018】
DOC101は、酸化アルミニウム又は金属等からなる担持体に、ロジウム、白金等を担持して形成される。DOC101は、排気中の未燃成分(炭化水素HC及び一酸化炭素CO)を酸化除去するとともに、このときの反応熱で排気ガスを加熱昇温し、また排気中のNOをNO2に酸化する。
【0019】
DPF102は、所謂連続再生式の触媒付きフィルターからなり、排気中に含まれる粒子状物質(PM: Particulate Matter)を捕集するとともに、捕集・堆積されたPMを連続的に燃焼除去する。
【0020】
SCR103は、例えば円柱形状を有し、セラミックで作製されたハニカム担体を有する。ハニカム壁面には、例えばゼオライトやバナジウム等の触媒が担持又はコーティングされる。SCR103は、アンモニアを吸蔵するとともに、当該吸蔵したアンモニアによって排気ガス中からNOxを選択的に還元浄化する。
【0021】
排気浄化システム100は、排気管30内にアンモニアを供給するアンモニア供給装置110を有する。アンモニア供給装置110は、液化アンモニア(液化NH3)を貯蔵するアンモニアタンク111、遮断弁112、減圧弁113、流量調整弁114、115及びアンモニア噴射ポート116、117を有する。
【0022】
さらに、排気浄化システム100は、ECU(Electronic Control Unit)130を有する。ECU130は、排気浄化システム100の動作を制御する。
【0023】
ECU130は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、及び出力ポート等を含んで構成されている。ECU130の後述する機能は、例えば、CPUがROM、RAM等に記憶された制御プログラムや各種データを参照することによって実現される。但し、当該機能は、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア回路によっても実現できることは勿論である。
【0024】
なお、ECU130は、エンジン10のエンジンECU(図示せず)等と通信することで、これらを制御したり、これらの状態を取得したりする。
【0025】
ECU130は、アンモニア供給装置110による排気管30内へのアンモニアの供給を制御する制御部として機能する。
【0026】
DOC101の入り口付近には温度センサー141が設けられている。また、DPF102の入り口付近には温度センサー142が設けられている。温度センサー141は、DOC101に流入する排気の温度を検出する。温度センサー142は、DPF102に流入する排気の温度を検出する。
【0027】
ECU130は、温度センサー141、142により検出された温度情報を入力し、当該温度情報に基づいて、遮断弁112及び流量調整弁115の開度を制御することにより、アンモニア噴射ポート117から噴射されるアンモニアの量を制御する。
【0028】
<2>DPF再生制御
次に、本実施の形態によるDPF再生制御について説明する。
【0029】
まず、詳細な説明を行う前に、本実施の形態によるDPF再生の原理について説明する。
【0030】
DPF102に煤が堆積すると排気圧力が上昇し燃費悪化の要因となる等の問題が生じるため、予め実験等で定めた堆積量を超えないように煤を燃焼させるDPF再生が行われる。従来は、DPFへの排気温度が煤の燃焼が可能となる例えば500℃以上に達していない場合は、DOCに未燃燃料を供給し、酸化、発熱(燃焼)により排気温度を昇温することが一般に行われているが、CO2が発生してしまう。
【0031】
これを考慮して、本実施の形態では、DOC101の上流側の排気管30内にアンモニアを供給し、このアンモニアをDOC101で燃焼させることで、DPF再生を促進させ、これにより、CO2の発生を低減させることができる。
【0032】
本実施の形態のアンモニア供給によるDPF再生は、従来の燃料燃焼によるDPF再生と組み合わせて用いることができる。例えば、DOC101においてアンモニアの燃焼が可能となる排気温度になるまでは、従来の燃料燃焼によって排気温度を上昇させ、その後、アンモニア供給によるDPF再生に切り替える。これにより、DPF再生で発生するCO2を低減できる。
【0033】
ここで、DPF102に堆積したPM(煤)を除去するための反応としては、以下の2つの反応がある。
【0034】
(1)高い排気温度(例えば500℃以上)の環境下でのO2によるPM燃焼
【0035】
(2)適切な排気温度(例えば300℃前後)において、2NO2+2C → 2CO2+N2 の反応によるPM燃焼
【0036】
従来の燃料燃焼によるDPF再生は、主に(1)の反応に依拠している。これに対して、本実施の形態のアンモニア供給によるDPF再生は、主に(2)の反応を促進させるものである。
【0037】
DOC101においてアンモニアが酸化可能な排気温であるという条件下で、DOC101にアンモニアを供給すると、DOC101では、4NH3+7O2→4NO2+6H2O の反応が起こり、NO2が発生する。このNO2がDPF102での上記(2)のPM燃焼反応に使われる。
【0038】
ここで、一般には、エンジンからの排気に含まれるNOからDOC101によってNO2が生成され、これが上記(2)のPM燃焼反応に使われる。本実施の形態では、DOC101にアンモニアを供給したことにより、DPF102により多くのNO2を与えることができ、その結果、上記(2)の反応がより促進される。
【0039】
図2は、本実施の形態によるDPF再生制御の説明に供するフローチャートである。図2のフローチャートは、ECU130によって実行される。
【0040】
ECU130は、DPF再生を開始すると、ステップS11において、温度センサー141の温度は、DOC101においてアンモニアが酸化可能な温度であるか否か判断する。この温度は、例えば250℃程度である。
【0041】
ECU130は、ステップS11で肯定結果を得た場合(ステップS11;YES)、ステップS12に移る。ECU130は、ステップS12において、温度センサー142の温度は、DPF102における堆積粒子の燃焼に適した温度範囲であるか否か判断する。この温度範囲は、例えば300℃~350℃である。
【0042】
ECU130は、ステップS12で肯定結果を得た場合(ステップS12;YES)、ステップS13に移る。ECU130は、ステップS13において、DOC101にアンモニアを供給する。具体的には、ECU130は、遮断弁112及び流量調整弁115を開状態に制御することでアンモニア噴射ポート117からアンモニアを噴射させることで、DOC101にアンモニアを供給する。
【0043】
次に、ECU130は、ステップS14において、DPF102でのPM除去量が目標量を超えたか否か判断し、目標量を超えた場合には(ステップS14;YES)、DPF再生制御を終了し、目標値を超えていない場合には(ステップS14;NO)、ステップS11に戻る。
【0044】
なお、ECU130は、ステップS11又はステップS12で否定結果が得られた場合には、ステップS15に移り、温度調整を要求する。例えば、ECU130は、エンジンECU(図示せず)にエンジンによる排気の昇温を要求する。また、例えば排気管30を昇温する電気ヒーターなどが設けられている場合には、電気ヒーターによって温度調整を行うようにしてもよい。要は、何らかの手段によってステップS11及びステップS12で肯定結果が得られるような温度調整を行う。
【0045】
ここで、ステップS11及びステップS12で肯定結果が得られ、ステップS13でDOC101にアンモニアが供給されると、上述したように、DOC101では、4NH3+7O2 → 4NO2+6H2O の反応が起こり、DPF102では、2NO2+2C → 2CO2+N2 の反応によるPM燃焼が行われる。
【0046】
この結果、CO2の発生を抑制しつつ、効率的なDPF再生を行うことができる。
【0047】
<3>まとめ
以上説明したように、本実施の形態によれば、内燃機関の排気管30に接続された酸化触媒(DOC101)と、酸化触媒よりも下流側の排気管30に接続された粒子捕集フィルター(DPF102)と、酸化触媒よりも上流側の排気管30内にアンモニアを供給するアンモニア供給装置110と、酸化触媒に流入する排気の温度を検出する第1の温度センサー141と、粒子捕集フィルターに流入する排気の温度を検出する第2の温度センサー142と、第1及び第2の温度センサー141、142によって検出された温度に基づいて、アンモニア供給装置110による排気管30内へのアンモニアの供給を制御する制御部(ECU130)と、を設けたことにより、CO2の発生を抑制しつつ、効果的にDPF再生を行うことができる排気浄化システム100を実現できる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、アンモニア供給装置110を、DOC101とSCR103とで共有しているので、排気浄化システムの大型化も抑制できる。ただし、SCR103にはアンモニアに代えて尿素水を供給する構成にしてもよい。
【0049】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0050】
上述の実施の形態の構成に加えて、DOC101よりも上流側の排気に含まれるNOxの量を取得する取得部を設け、ECU130が取得部により取得されたNOxの量に基づいて、アンモニアの供給を制御してもよい。例えば、ECU130は、ステップS11及びステップS12で肯定結果が得られ、かつ、取得部によって取得されたNOxの量が閾値未満の場合に、アンモニアの供給を行うように制御してもよい。このようにすれば、DPF102でNO2が不足しそうなときにアンモニアを供給することで、DOC101でのアンモニア燃焼で発生するNO2をDPF102に送ることができ、この結果、DPF再生を促進できるようになる。
【0051】
ここで、NOxの量を取得する取得部は、図1に示してNOxセンサー160であってもよく、内燃機関の稼働状況に基づいてNOxの量を演算により推定する推定手段であってもよい。
【0052】
さらに、DOC101に供給するアンモニアの量を、排気中のO2濃度に基づいて制御してもよい。例えば、排気中のO2濃度がDOC101でのアンモニア燃焼(NH3酸化)に十分な濃度のときのみアンモニアを供給してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、排気浄化システムのDPF再生技術として広く用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 ディーゼルエンジン(エンジン)
20 吸気管
30 排気管
100 排気浄化システム
101 DOC(酸化触媒)
102 DPF(ディーゼル微粒子捕集フィルター)
103 SCR(選択還元型触媒)
110 アンモニア供給装置
111 アンモニアタンク
112 遮断弁
113 減圧弁
114、115 流量調整弁
116、117 アンモニア噴射ポート
130 ECU(制御部)
141、142 温度センサー
160 NOxセンサー
図1
図2