(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】金属多孔体シート、燃料電池及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0232 20160101AFI20230926BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20230926BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20230926BHJP
H01M 8/026 20160101ALI20230926BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20230926BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230926BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20230926BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20230926BHJP
【FI】
H01M8/0232
H01M8/0247
H01M8/0258
H01M8/026
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/032
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
(21)【出願番号】P 2020566008
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015526
(87)【国際公開番号】W WO2020235237
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019096228
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昂真
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】小川 光靖
(72)【発明者】
【氏名】東野 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】俵山 博匡
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/057877(WO,A1)
【文献】特開2009-187887(JP,A)
【文献】特開2003-168448(JP,A)
【文献】特開平10-134833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
C25B 9/00
C25B 1/00
C25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属多孔体シートであって、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体により形成されており、
溝が形成された主面を有しており、
前記溝の深さは、前記金属多孔体シートの厚さの10パーセント以上であり、
平面視において、前記溝の面積は、前記主面の面積の10パーセント以上であり、
前記主面に形成されている溝は、全て、平面視において同一方向に延在している、金属多孔体シート。
【請求項2】
前記溝の深さは、前記金属多孔体シートの厚さの30パーセント以上90パーセント以下である、請求項1に記載の金属多孔体シート。
【請求項3】
平面視において、前記溝の面積は、前記主面の面積の30パーセント以上90パーセント以下である、請求項1又は請求項2に記載の金属多孔体シート。
【請求項4】
前記溝は、断面視において互いに対向する第1側面及び第2側面を有し、
前記第1側面と前記第2側面との間の距離は、前記主面から離れるにしたがって小さくなっている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属多孔体シート。
【請求項5】
金属多孔体シートであって、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体により形成されており、
溝が形成された主面を有しており、
前記溝の深さは、前記金属多孔体シートの厚さの10パーセント以上であり、
平面視において、前記溝の面積は、前記主面の面積の10パーセント以上であり、
前記溝は、平面視において第1方向に沿う複数の列をなすように配置されており、
前記列に属する前記溝の深さの各々は、前記第1方向における一方側から前記第1方向における他方側に向かうにしたがって大きくなっている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金属多孔体シート。
【請求項6】
金属多孔体シートであって、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体により形成されており、
溝が形成された主面を有しており、
前記溝の深さは、前記金属多孔体シートの厚さの10パーセント以上であり、
平面視において、前記溝の面積は、前記主面の面積の10パーセント以上であり、
前記溝は、平面視において同心円状に配列されている、金属多孔体シート。
【請求項7】
金属多孔体シートであって、
三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体により形成されており、
溝が形成された主面を有しており、
前記溝の深さは、前記金属多孔体シートの厚さの10パーセント以上であり、
平面視において、前記溝の面積は、前記主面の面積の10パーセント以上であり、
前記溝は、平面視において
円形形状の底部を有している穴であり、格子状に配列されている、金属多孔体シート。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の前記金属多孔体シートと、
前記主面と対向配置されたインターコネクタとを備える、燃料電池。
【請求項9】
前記金属多孔体シートは、前記溝に交差する方向に沿ってガスが供給されるように配置
されている、請求項8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記金属多孔体シートは、前記溝と平行な方向に沿ってガスが供給されるように配置さ
れている、請求項8に記載の燃料電池。
【請求項11】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の前記金属多孔体シートと、
前記主面と対向配置されたインターコネクタとを備える、水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属多孔体シート、燃料電池及び水電解装置に関する。本出願は、2019年5月22日に出願した日本特許出願である特願2019-096228号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一種として、従来から、固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)が知られている。固体酸化物形燃料電池は、一般的に、第1インターコネクタと、第1インターコネクタ上に配置された燃料極集電体(ガス拡散層)と、燃料極集電体上に配置された燃料極と、燃料極上に配置された固体電解質と、固体電解質上に配置された酸素極と、酸素極上に配置された酸素極集電体と、酸素極集電体上に配置された第2インターコネクタとを有している(以下においては、第1インターコネクタ及び第2インターコネクタを「インターコネクタ」といい、燃料極集電体及び酸素極集電体を「集電体」という)。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2017-33918号公報)においては、集電体として、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体を適用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の金属多孔体シートは、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体により形成されており、溝が形成された主面を有している。溝の深さは、金属多孔体シートの厚さの10パーセント以上である。平面視において、溝の面積は、主面の面積の10パーセント以上である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、金属多孔体シート10の斜視図である。
【
図3】
図3は、金属多孔体シート10の内部構造を示す模式図である。
【
図4】
図4は、金属多孔体シート10の内部構造を示す拡大断面図である。
【
図6】
図6は、金属多孔体シート10の製造方法を示す工程図である。
【
図7】
図7は、燃料電池100の分解斜視図である。
【
図9】
図9は、実施例における圧力損失の評価方法を説明するための第1説明図である。
【
図10】
図10は、実施例における圧力損失の評価方法を説明するための第2説明図である。
【
図15】
図15は、水電解装置300の単位セルの模式的な断面図である。
【
図16】
図16は、金属多孔体シート10Aを用いた水電解装置300の効果を説明するための模式図である。
【
図17】
図17は、変形例に係る金属多孔体シート10Aの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
固体酸化物形燃料電池においては、集電体にガスを均一に流すために、集電体と対向するインターコネクタの主面に溝を形成することがある。インターコネクタは、例えば、鉄(Fe)-クロム(Cr)合金で形成されている。鉄-クロム合金は難加工性の合金であるため、機械加工により上記の溝を形成することが困難である。また、上記の溝は、例えばエッチングにより形成することが可能であるが、製造コストが増大してしまう。
【0008】
上記の溝を形成しない場合(すなわち、集電体に対向しているインターコネクタの面が平坦である場合)、ガスは、集電体の内部のみを通ることになるため、ガスの流通に伴う圧力損失が大きくなる。
【0009】
本開示の目的は、ガスの流通に伴う圧力損失の増大を抑制しつつ、製造コストの低減が可能な金属多孔体シートを提供することである。
【0010】
[本開示の効果]
本開示の金属多孔体シートによると、ガスの流通に伴う圧力損失の増大を抑制しつつ、製造コストの低減が可能である。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
まず、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0012】
(1)一実施形態に係る金属多孔体シートは、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体により形成されており、溝が形成された主面を有している。溝の深さは、金属多孔体シートの厚さの10パーセント以上である。平面視において、溝の面積は、主面の面積の10パーセント以上である。
【0013】
上記の金属多孔体シートによると、ガスの流通に伴う圧力損失の増大を抑制しつつ、製造コストの低減が可能である。
【0014】
(2)上記の金属多孔体シートでは、溝の深さは、金属多孔体シートの厚さの30パーセント以上90パーセント以下であってもよい。この場合、ガスの流通に伴う圧力損失の増大をさらに抑制しつつ、燃料電池集電体中におけるガスの流れの均一性を高めることが可能である。
【0015】
(3)上記の金属多孔体シートでは、平面視において、溝の面積は、主面の面積の30パーセント以上90パーセント以下であってもよい。この場合、ガスの流通に伴う圧力損失の増大をさらに抑制しつつ、金属多孔体シート中におけるガスの流れの均一性を高めることができる。
【0016】
(4)上記の金属多孔体シートでは、溝は、断面視において互いに対向する第1側面及び第2側面を有していてもよい。第1側面と第2側面との間の距離は、主面から離れるにしたがって小さくなっていてもよい。
【0017】
(5)上記の金属多孔体シートでは、溝は、平面視において第1方向に沿う複数の列をなすように配置されていてもよい。列に属する溝の深さの各々は、第1方向における一方側から第1方向における他方側に向かうにしたがって大きくなっていてもよい。
【0018】
(6)一実施形態に係る燃料電池は、上記の金属多孔体シートと、上記の金属多孔体シートの主面に対向配置されるインターコネクタとを備える。
【0019】
上記の燃料電池によると、ガスの流通に伴う圧力損失の増大を抑制しつつ、製造コストの低減が可能である。
【0020】
(7)上記の燃料電池では、金属多孔体シートは、溝に交差する方向に沿ってガスが供給されるように配置されていてもよい。この場合、金属多孔体シートにより均一にガスを流すことが可能となる。
【0021】
(8)上記の燃料電池では、金属多孔体シートは、溝と平行な方向に沿ってガスが供給されるように配置されていてもよい。この場合、ガスの流通に伴う圧力損失の増大をさらに抑制することが可能となる。
【0022】
(9)一実施形態に係る水電解装置は、上記の金属多孔体シートと、上記の金属多孔体シートの主面に対向配置されるインターコネクタとを備える。
【0023】
上記の水電解装置によると、水素発生極及び酸素発生極中における水溶液の流れの均一性を向上させることができるとともに、水溶液が水素発生極及び酸素発生極を通過する際の圧力損失を低減することができる。その結果、水素ガス及び酸素ガスを発生させる際に水素発生極と酸素発生極との間に印加される電圧を下げることが可能になる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態の詳細を、図面を参酌しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0025】
(第1実施形態に係る金属多孔体シートの構成)
以下に、第1実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては、「金属多孔体シート10」という)の構成を説明する。
【0026】
図1は、金属多孔体シート10の斜視図である。金属多孔体シート10は、例えば、燃料電池用集電体である。金属多孔体シート10は、水電解装置用の電極であってもよい。
図1に示されるように、金属多孔体シート10は、シート状の形状を有している。金属多孔体シート10は、第1主面10aと、第2主面10bとを有している。第1主面10a及び第2主面10bは、金属多孔体シート10を構成する複数の面のうち、他の面によりも面積が相対的に大きい一対の面である。金属多孔体シート10は、平面視において、矩形形状を有している。以下において、平面視とは、第1主面10aに直交する方向から金属多孔体シート10を見た場合をいう。
【0027】
図2は、
図1のII-IIにおける断面図である。
図2に示されるように、第1主面10aには、溝10cが形成されている。第1主面10aは、溝10cにおいて、第2主面10b側に向かって窪んでいる。すなわち、周囲よりも第2主面10b側に窪んでいる第1主面10aの部分が、溝10cである。
【0028】
金属多孔体シート10は、厚さTを有している。厚さTは、第1主面10aと第2主面10bとの間の距離である。溝10cは、深さDを有している。深さDは、溝10cが形成されていない部分の第1主面10aと第2主面10bに最も近い位置にある溝10cの底部との間の距離である。深さDは、厚さTの10パーセント以上である。深さDは、厚さTの30パーセント以上であることが好ましい。深さDは、厚さTの90パーセント以下である。
【0029】
図1に示されるように、溝10cは、平面視において、第1方向DR1に沿って延在している。溝10cは、第2方向DR2に沿って間隔を空けながら、複数形成されている。第2方向DR2は、第1方向DR1と直交する方向である。
【0030】
図2に示されるように、溝10cは、第1方向DR1に直交する断面視において、矩形形状を有している。溝10cは、側面10caと、側面10cbとを有している。側面10ca及び側面10cbは、第2方向DR2において、互いに対向している。側面10caと側面10cbとの間の距離を、溝10cの幅Wとする。幅Wは、1mm以上であることが好ましい。幅Wは、5mm以上であることがさらに好ましい。幅Wは、25mm以上であってもよい。
【0031】
ある溝10cの側面10caと第2方向DR2において当該溝10cの隣にある溝10cの側面10cbとの間の距離の最小値を、ピッチPという。ピッチPは、例えば一定である。
【0032】
平面視において、溝10cの総面積を、第1面積とする。平面視において、第1主面10aの面積を、第2面積という。第1面積は、第2面積の10パーセント以上である。第1面積は、第2面積の30パーセント以上であることが好ましい。第1面積は、第2面積の90パーセント以下である。以下においては、第2面積に対する第1面積の比率を、溝割合ということがある。
【0033】
図3は、金属多孔体シート10の内部構造を示す模式図である。金属多孔体シート10は、
図3に示されるように、金属多孔体により形成されている。金属多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格11を有している。
【0034】
図4は、金属多孔体シート10の内部構造を示す拡大断面図である。
図5は、
図4のV-Vにおける断面図である。
図4及び
図5に示されるように、骨格11は、中空の筒状形状を有している。すなわち、骨格11は、骨格本体11aと、骨格本体11aによって画された内部空間11bとを有している。骨格本体11aは、金属材料で形成されている。金属材料は、例えばニッケル(Ni)、ニッケル合金である。骨格本体11aは、延在方向に交差する断面視において、三角形形状を有している。なお、三角形形状は、数学的に厳密な三角形形状である必要はない。骨格11は、中実になっていてもよい。
【0035】
金属多孔体中においては、骨格11の間にある空間が、気孔になっている。金属多孔体中における気孔率は、例えば、40パーセント以上98パーセント以下である。なお、金属多孔体中の気孔率は、{金属多孔体の見かけ体積-(金属多孔体の重量÷骨格を構成する金属材料の密度)}÷金属多孔体の見かけ体積×100により算出される。
【0036】
なお、上記の例の他、金属多孔体シート10は、内部に気孔が形成された材料の焼結体により形成されてもよい。
【0037】
(第1実施形態に係る金属多孔体シートの製造方法)
以下に、金属多孔体シート10の製造方法を説明する。
【0038】
図6は、金属多孔体シート10の製造方法を示す工程図である。金属多孔体シート10の製造方法は、
図6に示されるように、金属多孔体形成工程S1と、溝形成工程S2とを有している。金属多孔体形成工程S1は、ベース多孔体準備工程S11と、導電化処理工程S12と、めっき工程S13と、後処理工程S14とを有している。
【0039】
ベース多孔体準備工程S11においては、ベース多孔体の準備が行われる。ベース多孔体は、例えば発泡ウレタン、発泡スチレン等の樹脂材料で形成されている多孔体である。ベース多孔体は、シート状の形状を有している。
【0040】
導電化処理工程S12においては、ベース多孔体の表面に、導電被覆層が形成される。導電被覆層は、金属材料、炭素材料等の導電性材料で形成されている。導電化処理工程S12は、導電被覆層の材質に応じて、スパッタリング、めっき法等により適宜行われる。
【0041】
めっき工程S13においては、ベース多孔体の表面に(すなわち、導電被覆層上に)、骨格本体11aを構成する材料が形成される。めっき工程S13は、例えば、電気めっき法により行われる。
【0042】
後処理工程S14においては、ベース多孔体の除去が行われる。後処理工程S14においては、第1熱処理と、第2熱処理とが行われる。第1熱処理は、ベース多孔体を酸化により除去するための熱処理である。第1熱処理は、酸化性雰囲気下において行われる。この際、ベース多孔体が酸化により除去されるとともにベース多孔体の表面に形成されていた骨格本体11aが酸化される。第1熱処理前にベース多孔体が存在していた空間は、第1熱処理後には、骨格11の内部空間11bになる。第2熱処理は、第1熱処理において酸化された骨格本体11aを還元するための還元性雰囲気下での熱処理である。以上により、三次元網目状構造を有する骨格11を有するシート状の金属多孔体が形成される。
【0043】
金属多孔体形成工程S1において形成されたシート状の金属多孔体は、第1主面10aと、第2主面10bとを有している。溝形成工程S2においては、第1主面10aに、溝10cが形成される。溝10cの形成は、第1主面10aに対して、金型を押し付けることにより行われる。金型は、溝10cの形状に対応した凸部を有しているため、金型を第1主面10aに押し付けることにより、当該凸部の形状が第1主面10aに転写され、溝10cが形成される。以上により、金属多孔体シート10が形成される。
【0044】
(第1実施形態に係る燃料電池の構成)
以下に、第1実施形態に係る燃料電池(以下においては、「燃料電池100」という)の構成を説明する。
【0045】
図7は、燃料電池100の分解斜視図である。
図7に示されるように、燃料電池100は、平板型の固体酸化物形燃料電池である。
【0046】
燃料電池100は、インターコネクタ20と、燃料極集電体30と、燃料極40と、固体電解質50と、酸素極60と、酸素極集電体70と、インターコネクタ80とを有している。燃料電池100は、図示されていないが、インターコネクタ20、燃料極集電体30、燃料極40、固体電解質50、酸素極60、酸素極集電体70及びインターコネクタ80を含む単セル構造を積層することにより構成されたセルスタックを有している。
【0047】
インターコネクタ20は、平板状の部材である。インターコネクタ20は、例えば、鉄-クロム合金で形成されている。インターコネクタ20の燃料極集電体30側の面は、平坦である(溝が形成されていない)。インターコネクタ20上には、燃料極集電体30が配置されている。燃料極集電体30には、金属多孔体シート10が用いられている。燃料極集電体30は、第1主面10aがインターコネクタ20と対向するように配置されている。
【0048】
燃料極40は、シート状の多孔体である。燃料極40を構成する多孔体は、例えばジルコニア(ZrO2)及びニッケルの混合物により形成されている。燃料極40は、燃料極集電体30上(より具体的には、第2主面10b上)に配置されている。
【0049】
固体電解質50は、酸素イオンを透過させるシート状部材である。固体電解質50は、例えば安定化ジルコニア(YSZ)により形成されている。固体電解質50は、燃料極40上に配置されている。
【0050】
酸素極60は、平板状の多孔体である。酸素極60を構成する多孔体は、例えば、(La,Sr)MnO3(ランタンストロンチウムマンガナイト)、(La,Sr)CoO3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等により形成されている。酸素極60は、固体電解質50上に配置されている。
【0051】
酸素極集電体70には金属多孔体シート10が用いられている。酸素極集電体70は、第2主面10bが酸素極60と対向するように、酸素極60上に配置されている。インターコネクタ80は、平板状の部材である。インターコネクタ80は、例えば、鉄-クロム合金で形成されている。インターコネクタ80は、酸素極集電体70の第1主面10aと対向するように、酸素極集電体70上に配置されている。インターコネクタ20の燃料極集電体30側の面は、平坦である(溝が形成されていない)。図示されていないが、インターコネクタ80は、インターコネクタ20に電気的に接続されている。
【0052】
燃料極集電体30には、水素(H2)ガスが供給される。好ましくは、燃料極集電体30は、溝10cと水素ガスの供給方向とが交差するように配置されている。さらに好ましくは、燃料極集電体30は、溝10cと水素ガスの供給方向とが直交するように配置されている。燃料極集電体30は、溝10cと水素ガスの供給方向とが平行になるように配置されていてもよい。
【0053】
酸素極集電体70には、酸素(O2)ガスが供給される。好ましくは、酸素極集電体70は、溝10cと酸素ガスの供給方向とが交差するように配置されている。さらに好ましくは、酸素極集電体70は、溝10cと酸素ガスの供給方向とが直交するように配置されている。酸素極集電体70は、溝10cと水素ガスの供給方向とが平行になるように配置されていてもよい。
【0054】
酸素イオンは、固体電解質50を介して、酸素極60から燃料極40へと移動する。燃料極40に到達した酸素イオンは、燃料極集電体30を介して燃料極40に供給された水素ガスと反応し、水(H2O)及び電子を発生させる。発生した電子は、インターコネクタ20、インターコネクタ80及び酸素極集電体70を介して酸素極60に供給され、酸素極集電体70を介して酸素極60に供給された酸素ガスをイオン化する。以上の反応が繰り返されることにより、燃料電池100は、発電を行う。
【0055】
(第1実施形態に係る水電解装置の構成)
以下に、第1実施形態に係る水電解装置(以下においては、「水電解装置200」という)の構成を説明する。
【0056】
水電解装置200は、例えば、アルカリ水電解装置である。
図8は、水電解装置200の断面図である。
図8に示されるように、水電解装置200は、インターコネクタ110と、水素発生極120と、隔膜130と、酸素発生極140と、インターコネクタ150とを有している。
【0057】
インターコネクタ110は、平板状の部材であり、例えば、鉄-クロム合金で形成されている。インターコネクタ110の水素発生極120側の面は、平坦である(溝が形成されていない)。インターコネクタ110上には、水素発生極120が配置されている。水素発生極120には、金属多孔体シート10が用いられている。水素発生極120は、第1主面10aがインターコネクタ110と対向するように配置されている。
【0058】
水素発生極120上には、隔膜130が配置されている。隔膜130は、H+(水素イオン)を透過させる材料により形成されている。隔膜130上には、酸素発生極140が配置されている。酸素発生極140には、金属多孔体シート10が用いられている。酸素発生極140は、第2主面10bが隔膜130と対向するように隔膜130上に配置されている。インターコネクタ150は、平板状の部材であり、例えば鉄-クロム合金で形成されている。インターコネクタ150は、酸素発生極140の第1主面10aと対向するように、酸素発生極140上に配置されている。なお、図示されていないが、インターコネクタ150は、インターコネクタ110に電気的に接続されている。
【0059】
水電解装置200の動作時には、水素発生極120における電位が酸素発生極140における電位よりも低くなるようにインターコネクタ110とインターコネクタ150との間に電圧が印加される。水電解装置200の動作時には、水素発生極120及び酸素発生極140にアルカリ水溶液が供給される。アルカリ水溶液は、例えば水酸化カリウム(KOH)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液である。アルカリ水溶液は、溝10cと交差する方向に沿って水素発生極120及び酸素発生極140に供給されてもよく、溝10cと平行な方向に沿って供給されてもよい。
【0060】
水電解装置200の動作時には、酸素発生極140において、アルカリ水溶液中に含まれる水酸化物イオンが酸化されることにより、酸素ガスが発生する。酸素発生極140からは、隔膜130を介して水素イオンが水素発生極120へと移動する。水素発生極120においては、当該水素イオンが還元されることにより、水素ガスが発生する。このような反応が繰り返されることにより、水素発生極120及び酸素発生極140において、水素ガス及び酸素ガスが発生する。
【0061】
(実施例)
以下に、金属多孔体シート10及び燃料電池100の実施例を説明する。
【0062】
図9は、実施例における圧力損失の評価方法を説明するための第1説明図である。
図10は、実施例における圧力損失の評価方法を説明するための第2説明図である。
図9及び
図10に示されるように、実施例における圧力損失の評価においては、金属多孔体シート10の一方端側から水素ガスを金属多孔体シート10に供給するとともに、金属多孔体シート10の他方端側から当該水素ガスを排出させた。圧力損失の評価において、水素ガスの流量は、0.5L/分とされた。圧力損失の評価において、水素ガスの温度は、800℃とされた。
【0063】
実施例における圧力損失の評価は、水素ガスの供給方向が溝10cと平行な場合(
図9の場合)及び水素ガスの供給方向が溝10cと直交する場合(
図10の場合)に関して行った。圧力損失の評価は、金属多孔体シート10に供給される水素ガスの圧力に対する金属多孔体シート10から排出された水素ガスの圧力の比率により、評価された。圧力損失は、サンプル1における圧力損失(以下においては、「基準圧力損失」という)の80パーセント未満の場合に、良好であると評価された。
【0064】
表1には、圧力損失の評価に供されたサンプルの詳細が示されている。表1に示されるように、サンプル1には溝10cが形成されておらず、サンプル2~サンプル25には溝10cが形成された。サンプル1~サンプル25の厚さTは、全て500μmとされた。
【0065】
サンプル2~サンプル13においては、金属多孔体シート10は、水素ガスの供給方向と溝10cとが平行になるように配置された。サンプル14~サンプル25において、金属多孔体シート10は、水素ガスの供給方向と溝10cとが直交するように配置された。
【0066】
サンプル2~サンプル6及びサンプル14~サンプル18においては、幅W及び溝割合を一定とした上で、厚さTに対する深さDの割合を8パーセント以上96パーセント以下の範囲で変化させた。なお、サンプル2~サンプル6及びサンプル14~サンプル18においては、幅W及び溝割合が一定となっているため、ピッチPも一定になっている。
【0067】
サンプル7~サンプル11及びサンプル19~サンプル23においては、厚さTに対する深さDの割合及び幅Wを一定とした上で、溝割合を8パーセント以上91パーセント以下の範囲で変化させた。なお、サンプル7~サンプル11及びサンプル19~サンプル23においては、幅Wが一定になっている一方で、溝割合を変化させているため、溝割合の変化に比例して、ピッチPも変化している。
【0068】
サンプル12、サンプル13、サンプル24及びサンプル25においては、厚さTに対する深さDの割合及び溝割合を一定とした上で、幅W及びピッチPを変化させた。
【0069】
サンプル2、サンプル14及びサンプル19においては、圧力損失が、基準圧力損失の80パーセント以上100パーセント未満になっていた。サンプル1、サンプル2、サンプル14及びサンプル19以外のサンプルにおいては、圧力損失が、基準圧力損失の80パーセント未満となっていた。この比較から、厚さTに対する深さDの割合が10パーセント以上とするとともに、溝割合を10パーセント以上とすることにより、圧力損失を低減できることが明らかになった。
【0070】
サンプル2~サンプル6及びサンプル14~サンプル18においては、厚さTに対する深さDの割合が大きくなるほど圧力損失が減少していた。サンプル12、サンプル13、サンプル24及びサンプル25においては、幅W及びピッチPを変化させても、圧力損失が変化していなかった。サンプル7~サンプル11及びサンプル19~サンプル23においては、溝割合が大きくなるほど、圧力損失が減少していた。
【0071】
表1には、さらに、サンプル1~サンプル25を燃料極集電体30及び酸素極集電体70に用いた燃料電池100における出力が示されている。燃料電池100の出力は、サンプル1を燃料極集電体30及び酸素極集電体70に用いた燃料電池100の出力(以下においては、「基準出力」という)の1.15倍を超えている場合に、良好であると評価した。なお、燃料電池100の出力の高低は、ガス(水素ガス及び酸素ガス)が金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)中において均一に流れているか否かの指標となる。
【0072】
表1に示されるように、サンプル2を用いた燃料電池100の出力及びサンプル14を用いた燃料電池100の出力は、基準出力の1.15倍以下であった。サンプル6を用いた燃料電池100の出力、サンプル7を用いた燃料電池100の出力、サンプル11を用いた燃料電池100の出力、サンプル19を用いた燃料電池100の出力及びサンプル23を用いた燃料電池100の出力は、基準出力の1.15倍以下であった。
【0073】
サンプル1、サンプル2、サンプル6、サンプル7、サンプル11、サンプル14、サンプル19及びサンプル23以外のサンプルを用いた燃料電池100の出力は、基準出力の1.15倍を超えていた。この比較から、厚さTに対する深さDの割合を10パーセント以上90パーセント以下にするとともに、溝割合を10パーセント以上90パーセント以下とすることにより、圧力損失を低減しつつ、金属多孔体シート10中におけるガスの流れの均一性の向上が可能になることが明らかにされた。
【0074】
サンプル3~サンプル5、サンプル8~サンプル10、サンプル12及びサンプル13における圧力損失は、それぞれ、サンプル15~サンプル17、サンプル20~サンプル22、サンプル24及びサンプル25における圧力損失よりも小さくなっていた。この比較から、金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)を、溝10cがガス(水素ガス及び酸素ガス)の供給方向と平行になるように配置することにより、圧力損失のさらなる低減が可能であることが明らかになった。
【0075】
サンプル3~サンプル5、サンプル8~サンプル10、サンプル12及びサンプル13を用いた燃料電池100の出力は、それぞれ、サンプル15~サンプル17、サンプル20~サンプル22、サンプル24及びサンプル25を用いた燃料電池100の出力よりも小さくなっていた。この比較から、金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)を、溝10cがガス(水素ガス及び酸素ガス)の供給方向と交差するように配置することにより、金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)中におけるガスの流れの均一性のさらなる向上が可能になることが明らかにされた。
【0076】
【0077】
(第1実施形態に係る金属多孔体シート、燃料電池及び水電解装置の効果)
以下に、金属多孔体シート10及び燃料電池100の効果を説明する。
【0078】
金属多孔体シート10を構成している金属多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格11により形成されているため、変形能が高い。そのため、第1主面10aに金型を押し当てて金型の凸部の形状を転写することにより、溝10cを容易に形成することができる。このように、金属多孔体シート10によると、製造コストの低減が可能となる。
【0079】
金属多孔体シート10においては、深さDが厚さTの10パーセント以上となっているとともに、溝割合が10パーセント以上となっているため、ガスが金属多孔体シート10を通過する際の圧力損失を低減することができる。
【0080】
金属多孔体シート10においては、深さDを厚さTの30パーセント以上とすることにより、ガスが金属多孔体シート10を通過する際の圧力損失をさらに低減することができる。金属多孔体シート10において、溝比率を30パーセント以上とすることにより、ガスが金属多孔体シート10を通過する際の圧力損失をさらに低減することができる。
【0081】
金属多孔体シート10において、深さDを厚さTの90パーセント以下とすることにより、金属多孔体シート10中におけるガスの流れの均一性を向上させることができる。金属多孔体シート10において、溝比率を90パーセント以下とすることにより、金属多孔体シート10中におけるガスの流れの均一性を向上させることができる。
【0082】
燃料電池100において、金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)を、ガス(水素ガス及び酸素ガス)の供給方向が溝10cと交差するように配置することにより、金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)中におけるガスの流れの均一性をさらに向上させることができる。
【0083】
燃料電池100において、金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)を、ガス(水素ガス及び酸素ガス)の供給方向が溝10cと平行になるように配置することにより、ガス(水素ガス及び酸素ガス)が金属多孔体シート10(燃料極集電体30及び酸素極集電体70)を通過する際の圧力損失をさらに低減することができる。
【0084】
水電解装置200は、金属多孔体シートを水素発生極120及び酸素発生極140として用いることにより、水素発生極120及び酸素発生極140中におけるアルカリ水溶液の流れの均一性を向上させることができるとともに、アルカリ水溶液が水素発生極120及び酸素発生極140を通過する際の圧力損失を低減することができる。その結果、水電解装置200は、水素ガス及び酸素ガスを発生させる際に水素発生極120と酸素発生極140との間に印加される電圧を下げることができる。
【0085】
(溝の断面形状に関する変形例)
図11Aは、第1変形例に係る金属多孔体シート10の断面図である。
図11Aに示されるように、溝10cの断面形状は、矩形形状に限られない。溝10cの断面形状は、半円形状(
図11A参照)であってもよい。
図11Bは、第2変形例に係る金属多孔体シート10の断面図である。
図11Bに示されるように、隣り合って配置されている2つの溝10cの断面形状は、互いに異なっていてもよい。
【0086】
(溝の平面形状に関する変形例)
図12Aは、第3変形例に係る金属多孔体シート10の平面図である。
図12Aに示されるように、隣り合って配置される2つの溝10cの幅Wは互いに異なっていてもよい。
【0087】
図12Bは、第4変形例に係る金属多孔体シート10の平面図である。
図12Bに示されるように、溝10cは、同心円状に形成されていてもよい。
図12Cは、第5変形例に係る金属多孔体シート10の平面図である。溝10cは、渦巻き状に形成されていてもよい。
【0088】
図12Dは、第6変形例に係る金属多孔体シート10の平面図である。
図12Eは、第7変形例に係る金属多孔体シート10の平面図である。
図12D及び
図12Eに示されるように、溝10cは、放射状に形成されていてもよい。
図12Eに示されるように、金属多孔体シート10は、平面視において、矩形形状以外の形状を有していてもよい。具体的には、金属多孔体シート10は、平面視において、円形形状を有していてもよい。
【0089】
(第2実施形態に係る金属多孔体シートの構成)
以下に、第2実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては、「金属多孔体シート10A」という)の構成を説明する。ここでは、金属多孔体シート10の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0090】
図13は、金属多孔体シート10Aの平面図である。
図14は、
図13におけるXIV-XIVにおける断面図である。
図13及び
図14に示されるように、溝10cは、平面視において円形形状の底部10eを有する穴である。溝10cは、平面視において、格子状(より具体的には正方格子状)に配列されている。このことを別の観点から言えば、溝10cは、第1方向DR1に沿って複数の列をなすように配列されている。溝10cは、これらの点に関して、金属多孔体シート10Aの構成は、金属多孔体シート10の構成と異なっている。なお、溝10cに平面視において円形形状の有底穴が含まれるとされていることから明らかなように、幅Wに対する溝10cの長さL(
図13参照、幅Wの方向に直交している方向における溝10cの長さ)は、特に限定されていない。
【0091】
(第2実施形態に係る水電解装置)
以下に、第2実施形態に係る水電解装置(以下においては、「水電解装置300」とする)の構成を説明する。
【0092】
図15は、水電解装置300の単位セルの模式的な断面図である。
図15の上下は、それぞれ鉛直上方及び鉛直下方に対応している。
図15に示されるように、水電解装置300の単位セルは、水素発生極310及び酸素発生極320と、隔膜330と、複極板340と、板バネ350a及び板バネ350bと、フレーム360a及びフレーム360bとを有している。水電解装置300は、この単位セルを複数配列することにより構成されている。
【0093】
水素発生極310及び酸素発生極320は、それぞれ、金属多孔体シート10Aと、支持体370とを有している。水素発生極310と酸素発生極320との間には、隔膜330が挟み込まれている。隔膜330は、水酸化物イオン(又は水素イオン)を透過させる膜である。水素発生極310に含まれる金属多孔体シート10Aの第2主面10b及び酸素発生極320に含まれる金属多孔体シート10Aの第2主面10bは、隔膜330と対向している。水素発生極310に含まれる金属多孔体シート10A及び酸素発生極320に含まれる金属多孔体シート10Aは、例えば、第1方向DR1が鉛直方向に沿うように配置されている。
【0094】
支持体370は、例えば、エキスパンドメタルである。支持体370には、厚さ方向に沿って支持体370を貫通している開口が形成されている。支持体370は、水素発生極310に含まれる金属多孔体シート10Aの第1主面10a上及び酸素発生極320に含まれる金属多孔体シート10Aの第1主面10a上に配置されている。支持体370の開口からは、溝10cが露出している。
【0095】
フレーム360aには、開口部360aaが形成されている。開口部360aaは、厚さ方向に沿ってフレーム360aを貫通している。フレーム360aには、穴360ab及び穴360acが形成されている。穴360abは、開口部360aaから鉛直下方に向かって延びており、開口部360aaとフレーム360aの外部とを接続している。穴36acは、開口部360aaから鉛直上方に向かって延びており、開口部360aaとフレーム360aの外部とを接続している。
【0096】
フレーム360bには、開口部360baが形成されている。開口部360baは、厚さ方向に沿ってフレーム360bを貫通している。フレーム360bには、穴360bb及び穴360bcが形成されている。穴360bbは、開口部360baから鉛直下方に向かって延びており、開口部360baとフレーム360bの外部とを接続している。穴36acは、開口部360baから鉛直上方に向かって延びており、開口部360baとフレーム360bの外部とを接続している。
【0097】
フレーム360a及びフレーム360bは、開口部360aa及び開口部360baが互いに重なるように配置されている。隔膜330は、開口部360aa及び開口部360baから露出するように、フレーム360a及びフレーム360bに挟み込まれている。
【0098】
フレーム360a及びフレーム360bは、2枚の複極板340により挟み込まれている。複極板340は、隣り合う単位セルを電気的に接続している。図示されていないが、複極板340は、水電解装置300の終端部において、電源に電気的に接続されている。複極板340は、水素発生極310(酸素発生極320)に含まれている支持体370に対向するように配置されている。
【0099】
隔膜330、複極板340及び開口部360aaにより画される空間内には、水素発生極310が配置されている。隔膜330、複極板340及び開口部360baにより画される空間内には、酸素発生極320が配置されている。
【0100】
複極板340と水素発生極310に含まれている支持体370との間には、板バネ350aが配置されている。複極板340と酸素発生極320に含まれている支持体370との間には、板バネ350bが配置されている。その結果、水素発生極310に含まれている金属多孔体シート10A及び酸素発生極320に含まれている金属多孔体シート10Aが隔膜330に押し付けられる。
【0101】
穴360abから隔膜330、複極板340及び開口部360aaにより画される空間内に、アルカリ水溶液が供給される。穴360bbから隔膜330、複極板340及び開口部360baにより画される空間内に、アルカリ水溶液が供給される。これにより、隔膜330、複極板340及び開口部360aaにより画される空間内及び隔膜330、複極板340及び開口部360baにより画される空間内が、電解液としてのアルカリ水溶液により満たされる。このアルカリ水溶液は、例えば、水酸化カリウム水溶液である。
【0102】
水電解装置300の動作時には、水素発生極310における電位が酸素発生極320における電位よりも低くなるように、単位セルの両端にある複極板340の間に電圧が印加される。これにより、水素発生極310において、アルカリ水溶液中の水が還元され、水素ガスが発生する。水素発生極310において発生した水素ガスは、アルカリ水溶液とともに、隔膜330、複極板340及び開口部360aaにより画される空間から穴360acを通って排出される。また、この際、アルカリ水溶液中の水酸化物イオンが、隔膜330を通って、水素発生極310側から酸素発生極320側に移動する。
【0103】
酸素発生極320側へと移動してきた水酸化物イオンは、酸素発生極320において酸化される。これにより、酸素発生極320において、酸素ガスが発生する。酸素発生極320において発生した酸素ガスは、アルカリ水溶液とともに、隔膜330、複極板340及び開口部360baにより画される空間から穴360bcを通って排出される。このような反応が継続することにより、水電解装置300は水素ガス及び酸素ガスを生成する。
【0104】
(第2実施形態に係る金属多孔体シート及び水電解装置の効果)
以下に、金属多孔体シート10A及び水電解装置300の効果を説明する。
【0105】
図16は、金属多孔体シート10Aを用いた水電解装置300の効果を説明するための模式図である。
図16に示されるように、水素発生極310(酸素発生極320)に含まれる金属多孔体シート10Aの内部では、電解液の電解に伴い、水素ガス(酸素ガス)が発生する。この水素ガス(酸素ガス)は、泡Bとなる。
【0106】
泡Bは、浮力の作用により鉛直上方に向かって移動して、溝10cに達する。溝10cに達した泡Bは、溝10cを通って、金属多孔体シート10Aの外部に放出される。金属多孔体シート10Aにおいては、泡Bが金属多孔体シート10Aの外部に放出されやすくなっている結果、発生した泡Bが水素発生極310(酸素発生極320)における反応の妨げになりにくい。このように、金属多孔体シート10Aを水電解装置300に適用することにより、水電解を行う際の電解電圧を低下させることができる。また、溝10cの第2主面10b側には底部10eがあるため、溝10cに達した泡Bは、第2主面10b側から放出されにくい。そのため、金属多孔体シート10Aを水電解装置300に適用することにより、隔膜330の近傍に泡Bがたまってしまうことを抑制できる。
【0107】
なお、上記においては、水電解装置300に金属多孔体シート10Aを適用したが、水電解装置300には、金属多孔体シート10が適用されてもよい。また、上記においては、金属多孔体シート10Aを水電解装置300に適用したが、金属多孔体シート10Aは、燃料電池100又は水電解装置200に適用されてもよい。
【0108】
(変形例)
図17は、変形例に係る金属多孔体シート10Aの断面図である。
図17に示されるように、溝10cの深さDは、第1方向DR1における一方側(図中左側)から第1方向DR1における他方側(図中右側)に向かうにしたがって、大きくなっていてもよい。変形例に係る金属多孔体シート10Aは、水電解装置300に適用する際、第1方向DR1における一方側が鉛直下方に対応するとともに、第
1方向
DR1における他方側が鉛直上方に対応するように配置されることが好ましい。これにより、鉛直上方に位置する溝10cほど深さDが大きくなるため、泡Bが金属多孔体シート10Aの外部にさらに放出されやすくなる。
【0109】
(第3実施形態、第4実施形態及び第5実施形態)
以下に、第3実施形態に係る金属多孔体シート、第4実施形態に係る金属多孔体シート及び第5実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては、それぞれ、「金属多孔体シート10B」、「金属多孔体シート10C」及び「金属多孔体シート10D」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0110】
図18は、金属多孔体シート10Bの断面図である。
図18に示されるように、金属多孔体シート10Bにおいて、溝10cの断面形状は、三角形形状である。金属多孔体シート10Bにおいて、側面10caと側面10cbとの間の距離は、第1主面10a側から第2主面10b側に向かうにしたがって小さくなっている。なお、金属多孔体シート10Bにおいて、幅Wは、第1主面10aにおける側面10caと側面10cbとの間の距離である。
【0111】
図19は、金属多孔体シート10Cの断面図である。
図19に示されるように、金属多孔体シート10Cにおいて、溝10cの底面は、第2主面10b側に向かって凸の曲線により構成されている。この曲線は、例えば、半円である。
【0112】
図20は、金属多孔体シート10Dの断面図である。
図20に示されるように、金属多孔体シート10Dにおいて、側面10caと側面10cbとの間の距離は、第1主面10a側から第2主面10b側に向かうにしたがって小さくなっている。金属多孔体シート10Dにおいて、幅Wは、第1主面10aにおける側面10caと側面10cbとの間の距離である。最も底面側における側面10caと側面10cbとの間の距離を、幅W1とする。幅W1は、幅Wよりも小さい。
【0113】
(第6実施形態)
以下に、第6実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては「金属多孔体シート10E」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0114】
図21は、金属多孔体シート10Eの平面図である。
図21に示されるように、溝10cは、第1主面10aを構成する各辺に対して傾斜するように延在している。第1主面10aを構成する辺を、第1辺10fa、第2辺10fb、第3辺10fc及び第4辺10fdとする。第1辺10fa及び第2辺10fbは、第1方向DR1に沿っている。第3辺及び第4辺10fdは、第2方向DR2に沿っている。
【0115】
第3辺10fcから第4辺10fdに向かう方向を第3方向DR3とし、第4辺10fdから第3辺10fcに向かう方向を第4方向DR4とする。第1辺10faから第2辺10fbに向かう方向を第5方向DR5とし、第2辺10fbから第1辺10faに向かう方向を第6方向DR6とする。溝10cは、第2辺10fbから離れるにしたがって第3辺10fcに近づくように傾斜している(第1辺10faから離れるにしたがって第4辺10fdに近づくように傾斜している)。
【0116】
(第7実施形態)
以下に、第7実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては「金属多孔体シート10F」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0117】
図22は、金属多孔体シート10Fの平面図である。
図22に示されるように、金属多孔体シート10Fの第1主面10aには、さらに、溝10dが形成されている。溝10dは、溝10cと直交する方向に沿って延在している。溝10dのピッチは、ピッチPに等しい。溝10dの幅は、幅Wに等しい。
【0118】
(第8実施形態)
以下に、第8実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては「金属多孔体シート10G」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0119】
図23は、金属多孔体シート10Gの平面図である。
図23に示されるように、第3辺10fc側から第4辺10fd側に向かうにしたがって、幅Wが大きくなっている。第3辺10fcにおける幅Wを幅W2とし、第4辺10fdにおける幅Wを幅W3とする。幅W3は、幅W2よりも大きい。溝10cの深さDは、第3辺10fc側から第4辺10fd側に向かうにしたがって、小さくなっていてもよい。第3辺10fcにおける深さDを深さD1とし、第4辺10fdにおける深さを深さD2とする。深さD2は、深さD1よりも大きくてもよい。
【0120】
(第9実施形態)
以下に、第9実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては「金属多孔体シート10H」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0121】
図24は、金属多孔体シート10Hの平面図である。
図24に示されるように、金属多孔体シート10Hにおいて、溝10cは、平面視において楕円形状の有底穴である。この楕円形状の長軸は、第1方向DR1に沿っている。溝10cは、平面視において、格子状(具体的には、正方格子状)に配列されている。
【0122】
溝10cは、第1方向DR1に沿う複数の列をなすように配列されている。第1方向DR1に沿う列に含まれる複数の溝10cの各々は、第4辺10fdに近い位置に配置されているものほど、幅Wが大きくなっている。第1方向DR1に沿う列に含まれる複数の溝10cのうちの最も第3辺10fc側に配置されている溝10cの幅Wを幅W4とし、第1方向DR1に沿う列に含まれる複数の溝10cのうちの最も第4辺10fd側に配置されている溝10cの幅Wを幅W5とする。幅W5は、幅W4よりも大きい。
【0123】
第1方向DR1に沿う列に含まれる複数の溝10cの各々は、第4辺10fdに近い位置に配置されているものほど、深さDが小さくなっている。第1方向DR1に沿う列に含まれる複数の溝10cのうちの最も第3辺10fc側に配置されている溝10cの深さDを深さD3とし、第1方向DR1に沿う列に含まれる複数の溝10cのうちの最も第4辺10fd側に配置されている溝10cの深さDを深さD4とする。深さD4は、深さD3よりも大きくてもよい。
【0124】
(第10実施形態)
以下に、第10実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては、「金属多孔体シート10I」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10Eと異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0125】
図25は、金属多孔体シート10Iの平面図である。
図25に示されるように、金属多孔体シート10
Iの第1主面10aには、さらに、溝10dが形成されている。溝10dは、溝10cと直交する方向に沿って延在している。溝10dのピッチは、ピッチPに等しい。溝10dの幅は、幅Wに等しい。
【0126】
(第11実施形態)
以下に、第11実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては金属多孔体シート10J」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0127】
図26は、金属多孔体シート10Jの平面図である。
図26に示されるように、金属多孔体シート10Jにおいて、溝10cは、平面視において正方形の有底穴である。正方形の対角線は、それぞれ第1方向DR1及び第2方向DR2に沿っている。溝10cは、平面視において、格子状(具体的には、千鳥格子状)に配列されている。このことを別の観点から言えば、金属多孔体シート10Iにおいて溝10c及び溝10dが形成されている位置と溝10c及び溝10dが形成されていない位置とを反転させることにより、金属多孔体シート10Jの構造が得られる。なお、金属多孔体シート10Jにおいて、幅Wは、正方形形状の対辺の間の距離である。
【0128】
(第12実施形態)
以下に、第12実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては、「金属多孔体シート10K」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10Iと異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0129】
図27は、金属多孔体シート10Kの平面図である。
図27に示されるように、金属多孔体シート10Kにおいて、溝10c及び溝10dは、互いに交差しているが、直交していない。隣り合う2つの溝10c(溝10d)の間の第1方向DR1における距離を、ピッチP1とする。隣り合う2つの溝10c(溝10d)の間の第2方向DR2における距離を、ピッチP2とする。ピッチP2は、ピッチP1よりも大きい。
【0130】
以下に、第13実施形態に係る金属多孔体シート(以下においては、「金属多孔体シート10L」とする)を説明する。ここでは、金属多孔体シート10と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0131】
図28は、金属多孔体シート10Lの平面図である。
図28に示されるように、金属多孔体シート10Lにおいて、溝10cは、平面視において菱形の有底穴である。菱形は、第1対角線と、第1対角線よりも長い第2対角線とを有している。第1対角線及び第2対角線は、それぞれ第1方向DR1及び第2方向DR2に沿っている。溝10cは、平面視において、格子状(具体的には、千鳥格子状)に配列されている。このことを別の観点から言えば、金属多孔体シート10Kにおいて溝10c及び溝10dが形成されている位置と溝10c及び溝10dが形成されていない位置とを反転させることにより、金属多孔体シート10Lの構造が得られる。金属多孔体シート10
Lにおいて、溝10cは、幅W6と、幅W7とを有している。幅W6及び幅W7は、それぞれ、第1対角線及び第2対角線の長さに等しい。すなわち、幅W7は、幅W6よりも大きい。
【0132】
(実施例)
以下に、金属多孔体シート10A~金属多孔体シート10L及びそれらの金属多孔体シートを用いた燃料電池100の実施例を説明する。金属多孔体シート10A~金属多孔体シート10Lを用いた燃料電池における圧力損失及び出力は、金属多孔体シート10を用いた燃料電池100と同様の方法により評価された。
【0133】
表2及び表3には、圧力損失の評価に供されたサンプルの詳細が示されている。表2及び表3に示されるように、サンプル26~サンプル58には溝10cが形成された。サンプル26~サンプル58の厚さTは、全て500μmとされた。表2及び表3には、各サンプルにおける溝割合、厚さTに対する深さDの割合及びその他の溝形状の特徴が示されている。また、表2及び表3には、各サンプルにおける圧力損失(サンプル1に対する相対値)及び出力が示されている。
【0134】
【0135】
【0136】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0137】
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H,10I,10J,10K,10L 金属多孔体シート、10a 第1主面、10b 第2主面、10c 溝、10d 溝、10ca,10cb 側面、10e 底部、10fa 第1辺、10fb 第2辺、10fc 第3辺、10fd 第4辺、11 骨格、11a 骨格本体、11b 内部空間、20 インターコネクタ、30 燃料極集電体、40 燃料極、50 固体電解質、60 酸素極、70 酸素極集電体、80 インターコネクタ、100 燃料電池、110 インターコネクタ、120 水素発生極、130 隔膜、140 酸素発生極、150 インターコネクタ、200 水電解装置、300 水電解装置、310 水素発生極、320 酸素発生極、330 隔膜、340 複極板、350a 板バネ350b 板バネ、360a フレーム、360b フレーム、360aa 開口部、360ab 穴、360ac 穴、360ba 開口部、360bb 穴、360bc 穴、370 支持体、D,D1,D2,D3,D4 深さ、DR1 第1方向、DR2 第2方向、DR3 第3方向、DR4 第4方向、DR5 第5方向、DR6 第6方向、P,P1,P2 ピッチ、S1 金属多孔体形成工程、S2 溝形成工程、S11 ベース多孔体準備工程、S12 導電化処理工程、S13 めっき工程、S14 後処理工程、T 厚さ、W,W1,W2,W3,W4,W5,W6,W7 幅、L 長さ。