(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】建築物の緩衝部材、建築物、および、建築物の基礎の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20230926BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/12 Z
(21)【出願番号】P 2022010899
(22)【出願日】2022-01-27
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高山 博樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 安史
(72)【発明者】
【氏名】村島 正憲
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-077661(JP,A)
【文献】特開2017-057616(JP,A)
【文献】特開2002-097649(JP,A)
【文献】特開平09-049239(JP,A)
【文献】特開2011-047196(JP,A)
【文献】特開平09-177095(JP,A)
【文献】特開平01-304226(JP,A)
【文献】特開2015-172329(JP,A)
【文献】国際公開第2016/145270(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
E02D 27/12
E04B 1/36
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の基礎と地盤に埋められた既存杭との間に配置される緩衝部材であって、
弾性を有するゴム製の弾性部と、前記弾性部に上面に設けられる上側プレートと、を備え、
前記弾性部は、複数の弾性部位を有し、
複数の前記弾性部位は、互いに接触しないように配置され、
前記弾性部は、前記複数の弾性部位として、第1弾性部位と、第2弾性部位とを有し、
前記第1弾性部位は、環状部を有し、
前記第2弾性部位は、前記第1弾性部位の前記環状部内に配置されるように構成され、
前記複数の弾性部位は、前記弾性部位の上下方向の圧縮において圧縮変形可能であるように空間を介して配置される、
建築物の緩衝部材。
【請求項2】
建築物の基礎と地盤に埋められた既存杭との間に配置される緩衝部材であって、
弾性を有するゴム製の弾性部と、前記弾性部に上面に設けられる上側プレートと、を備え、
前記弾性部は、複数の弾性部位を有し、前記複数の弾性部位は、前記弾性部位の上下方向の圧縮において圧縮変形可能であるように空間を介して配置さ
れ、
前記複数の弾性部位は、弾性を有する連結部によって互いに連結される、
建築物の緩衝部材。
【請求項3】
前記弾性部は、前記弾性部位として、前記弾性部の外周を構成する外周部位と、前記外周部位内に設けられるランド部位と、前記ランド部位同士を連結する第1連結部と、前記外周部位と前記ランド部位とを連結する第2連結部と、を有する、
請求項
2に記載の建築物の緩衝部材。
【請求項4】
前記弾性部の下面に設けられる下側プレートをさらに備え、
前記下側プレートは、前記上側プレートに平行に配置される、
請求項1~3のいずれか一項に記載の建築物の緩衝部材。
【請求項5】
前記緩衝部材の鉛直剛性は、5000kN/m以下である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の建築物の緩衝部材。
【請求項6】
前記緩衝部材の鉛直剛性は、300kN/m以上である、
請求項5に記載の建築物の緩衝部材。
【請求項7】
既存杭が埋設された地盤に設けられる建築物であって、
請求項1~6のいずれか一項に記載の緩衝部材を備え、
前記建築物の基礎は、下方突出部を有し、前記基礎は、前記下方突出部の一部が前記既存杭の上に位置するように構築され、
前記緩衝部材は、前記下方突出部と前記既存杭との間に配置される
建築物。
【請求項8】
建築物の基礎の施工方法であって、
基礎の下方突出部の下に配置される予定の既存杭の頭部を切断する第1工程と、
前記頭部が切断された前記既存杭に緩衝部材を配置
し、前記緩衝部材を接着剤によって前記既存杭の切断面に固定する第2工程と、
地盤において前記既存杭を含む領域を転圧する第3工程と、
転圧された前記地盤に前記基礎を作る第4工程と、を含む、
建築物の基礎の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物の緩衝部材、建築物、および、建築物の基礎の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存杭が残置された地盤に新たに建築物を建てる場合がある(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の技術では、建築物の建て替え時に既存杭を再利用する。例えば、既存杭の杭頭部と築建物の基礎との間に積層ゴムまたはアイソレータを配置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存杭が残置された地盤に新たに建築物を建てる場合において、地盤に埋められた既存杭を利用しない場合がある。例えば、既存杭を避けて建築物の基礎を作る。しかし、建築物の設計上、全ての既存杭を避けて基礎を作ることが出来ない場合があり、基礎の下に幾つかの杭が配置されることがある。この場合、将来、建築物の不同沈下が生じる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記課題を解決する建築物の緩衝部材は、建築物の基礎と地盤に埋められた既存杭との間に配置される緩衝部材であって、弾性を有するゴム製の弾性部と、前記弾性部に上面に設けられる上側プレートと、を備え、前記弾性部は、複数の弾性部位を有し、前記複数の弾性部位は、前記弾性部位の上下方向の圧縮において圧縮変形可能であるように空間を介して配置される。
【0006】
この構成によれば、緩衝部材は、建築物から受ける力によって変形する。例えば、地盤沈下によって建築物が沈むとき、建築物の沈下量(沈下の距離)に応じて弾性部が変形する。これによって、基礎において、既存杭の上に位置する杭上部分と、杭上部分以外の部分とが同じように沈下し、建築物の不同沈下を抑制できる。
【0007】
(2)上記(1)に記載の建築物の緩衝部材において、前記弾性部の下面に設けられる下側プレートをさらに備え、前記下側プレートは、前記上側プレートに平行に配置される。この構成によれば、上側プレートと下側プレートとの間で弾性部を均等に変形させ易くできる。
【0008】
(3)上記(1)または(2)に記載の建築物の緩衝部材において、前記緩衝部材の鉛直剛性は、5000kN/m以下である。この構成によれば、緩衝部材は、建築物の重さによって適度に変形する。このため、地盤沈下において緩衝部材が障害物となって建築物の沈下が妨げられるという状況が生じ難くなる。
【0009】
(4)上記(3)に記載の建築物の緩衝部材において、前記緩衝部材の鉛直剛性は、300kN/m以上である。この構成によれば、基礎において緩衝部材が接触する部分を支持できる。
【0010】
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の建築物の緩衝部材において、前記弾性部位は、互いに接触しないように配置される。この構成によれば、弾性部位の周囲に空間が設けられるため、弾性部位を圧縮変形させ易い。
【0011】
(6)上記(5)に記載の建築物の緩衝部材において、前記弾性部は、前記複数の弾性部位として、第1弾性部位と、第2弾性部位とを有し、前記第1弾性部位は、環状部を有し、前記第2弾性部位は、前記第1弾性部位の前記環状部内に配置されるように構成される。この構成によれば、第1弾性部位の内側に水または土が侵入することを抑制できる。これによって、第2弾性部位の劣化を抑制できる。
【0012】
(7)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の建築物の緩衝部材において、前記複数の弾性部位は、弾性を有する連結部によって互いに連結される。この構成によれば、連結部によって複数の弾性部位同士が繋がるため、弾性部が局所的に潰れることが抑制される。
【0013】
(8)上記(7)に記載の建築物の緩衝部材において、前記弾性部は、前記弾性部位として、前記弾性部の外周を構成する外周部位と、前記外周部位内に設けられるランド部位と、前記ランド部位同士を連結する第1連結部と、前記外周部位と前記ランド部位とを連結する第2連結部と、を有する。この構成によれば、外周部位内に水または土が侵入することを抑制できる。これによって、外周部位内のランド部位の劣化を抑制できる。
【0014】
(9)上記課題を解決する建築物は、既存杭が埋設された地盤に設けられる建築物であって、上記(1)~(8)のいずれか1つの緩衝部材を備え、前記建築物の基礎は、下方突出部を有し、前記基礎は、前記下方突出部の一部が前記既存杭の上に位置するように構築され、前記緩衝部材は、前記下方突出部と前記既存杭との間に配置される。この構成によれば、緩衝部材は、建築物から受ける力によって変形する。これによって、建築物の不同沈下を抑制できる。
【0015】
(10)上記課題を解決する建築物の基礎の施工方法は、基礎の下方突出部の下に配置される予定の既存杭の頭部を切断する第1工程と、前記頭部が切断された前記既存杭に緩衝部材を配置する第2工程と、地盤において前記既存杭を含む領域を転圧する第3工程と、転圧された前記地盤に前記基礎を作る第4工程と、を含む。この構成によれば、建築物の不同沈下を起こし難い基礎を形成できる。
【発明の効果】
【0016】
本開示の建築物の緩衝部材、建築物、および、建築物の基礎の施工方法によれば、建築物の不同沈下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図4】
図3の4-4線に沿う緩衝部材の断面図である。
【
図5】
図3の5-5線に沿う緩衝部材の断面図である。
【
図6】緩衝部材の作用を説明する、緩衝部材の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図6を参照して、建築物1の緩衝部材10、建築物1、および、建築物1の基礎5の施工方法について説明する。
【0019】
<建築物>
建築物1として、住宅、店舗、公民館、および、病院などの施設が挙げられる。建築物1は、既存杭2が埋設された地盤3に設けられる。例えば、軟弱地盤は、杭の打設によって補強される。このように補強された地盤3であっても、経過年数によって地盤3が固まることがあり、地盤3に直に建築物1を建築できるようになる場合がある。このような場合、既存杭2を避けるようにして、地盤3に対して直に建築物1が建てられる。しかし、既存杭2を利用しない場合において、全ての既存杭2を避けて基礎5を設けることが難しい。このため、基礎5下に幾つかの杭が配置される。本実施形態の建築物1では、基礎5下に1または幾つかの既存杭2が配置される。
【0020】
図1に示されるように、例えば、建築物1は、基礎5と、基礎5に設けられる建築物本体6と、を備える。建築物1の基礎5は、下方突出部5Aを有する。布基礎では、下方突出部5Aはフーチングである。ベタ基礎では、下方突出部5Aは、下方に突出するように基礎外周に沿うように設けられる部分である。下方突出部5Aの一部が既存杭2の上に位置するように、基礎5が構築される。フーチングが基礎外周に沿うように構成される場合、フーチングの全周における一箇所または数箇所で既存杭2と重なるように、基礎5が構成される。下方突出部5Aと既存杭2との間には緩衝部材10が配置される。緩衝部材10について、以下に説明する。
【0021】
<緩衝部材>
図1~
図6を参照して、緩衝部材10を説明する。
図1に示されるように、緩衝部材10は、地盤3に埋められた既存杭2と基礎5の下方突出部5A(例えば、フーチング)との間に配置される。
【0022】
図2および
図3に示されるように、緩衝部材10は、弾性を有するゴム製の弾性部11と、弾性部11に上面に設けられる上側プレート12と、を備える。緩衝部材10は、下側プレート13をさらに備えてもよい。下側プレート13は、弾性部11の下面に設けられる。下側プレート13は、上側プレート12に平行に配置される。
【0023】
上側プレート12および下側プレート13は、樹脂によって構成される。上側プレート12および下側プレート13は、建築物1から加わる荷重によって変形し難い樹脂によって構成される。建築物1から加わる荷重は、10kN以上50kN以下である。10kN以上50kN以下の荷重(以下、想定荷重という。)は、建築物1が住宅または住宅程度の構造物である場合に、1個の既存杭2に加わる力として想定される値である。上側プレート12および下側プレート13を樹脂で形成することによって、上側プレート12および下側プレート13の腐食を抑制できる。
【0024】
上側プレート12および下側プレート13用の樹脂として、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボン樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート樹脂)、および、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレン共重合樹脂)が挙げられる。上側プレート12および下側プレート13を形成する樹脂は、セラミック系またはガラス系のフィラーを含んでもよい。
【0025】
緩衝部材10は、10kN以上50kN以下の荷重が加わった場合に、荷重によって、上下方向に圧縮され、圧縮変形するように構成される。10kN以上50kN以下の荷重は、上記の想定荷重である。
【0026】
一例では、緩衝部材10は、鉛直剛性が5000kN/m以下であるように構成される。緩衝部材10は、鉛直剛性が300kN/m以上であるように構成される。他の例では、緩衝部材10は、鉛直剛性が4000kN/m以下であるように構成される。更に別の例では、緩衝部材10は、鉛直剛性が3000kN/m以下であるように構成される。
【0027】
一例では、緩衝部材10は、平面視で円形に構成される。緩衝部材10の直径は、既存杭2の頭部の大きさに応じて設定される。緩衝部材10の直径は、200mm以上600mm以下である。緩衝部材10の厚さは、100mm以下である。
【0028】
弾性部11は、天然ゴム、または、合成ゴムによって構成される。弾性部11は、天然ゴム製部材と合成ゴム製部材との積層体であってもよい。合成ゴムとして、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、および、ブタジエンゴムが挙げられる。
【0029】
弾性部11の厚さの減少最大幅が10mmと想定される場合、弾性部11の厚さは、30mm以上70mm以下に設定される。減少最大幅は、「弾性部11の元の厚さ」-「弾性部11の圧縮変更後の想定厚さ」と定義される。減少最大幅は、地盤沈下量の想定値と等しい。
【0030】
平面視における上側プレート12の面積を全体面積と定義した場合、弾性部11は、平面視で、全体面積に対して10%以上50%以下の面積を占めるように構成される。一例では、弾性部11は、平面視で全体面積の15%以上25%以下の面積を占めるように構成される。
【0031】
弾性部11は、複数の弾性部位15を有する。弾性部位15は、ゴムによって構成される。弾性部位15は、接着剤によって上側プレート12および下側プレート13に固定される。
【0032】
複数の弾性部位15は、弾性部位15の上下方向の圧縮において圧縮変形可能であるように空間Sを介して配置される。複数の弾性部位15は、互いに接触しないように配置されてもよく、また、複数の弾性部位15は、互いに接触してもよい。
【0033】
図4および
図5に示されるように、本実施形態では、複数の弾性部位15は、互いに接触しないように配置される。
例えば、弾性部11は、第1弾性部位16と第2弾性部位17とを有する。さらに、弾性部11は、第3弾性部位18を有する。第1弾性部位16は、第1環状部16Aを有する。第2弾性部位17は、第2環状部17Aを有する。第3弾性部位18は、第3環状部18Aを有する。第1弾性部位16、第2弾性部位17および第3弾性部位18は、断面矩形のゴムロープを環状に曲げることによって構成される。ゴムロープの断面は円形または楕円であってもよい。
【0034】
第2弾性部位17は、第1弾性部位16に接触しないように、第1弾性部位16の第1環状部16A内に配置される。第1弾性部位16と第2弾性部位17との間には、第1空間SAが設けられる。
【0035】
第3弾性部位18は、第2弾性部位17に接触しないように、第2弾性部位17の第2環状部17A内に配置される。第2弾性部位17と第3弾性部位18との間には、第2空間SBが設けられる。
【0036】
図6を参照して、本実施形態における「圧縮変形」について説明する。緩衝部材10に荷重が加わり、緩衝部材10が圧縮されると、上下方向における弾性部位15の中間付近が拡張する。このように、弾性部位15の中間付近が元の太さに比べて大きくなる変形が「圧縮変形」である。弾性部位15が圧縮変形するため、建築物1の沈下が妨げられない。
【0037】
<基礎の施工方法>
基礎5の施工方法は、第1工程~第4工程を含む。第1工程では、地盤3の掘削後、基礎5の下方突出部5A(例えば、フーチング)の下に配置される予定の既存杭2の頭部を切断する。既存杭2に一例は、例えば、コンクリート杭である。この場合、既存杭2の頭部をブレーカーによって削る。さらに、既存杭2の切断面を平坦に加工する。既存杭2の切断面にモルタルを塗布することによって、切断面を平坦にしてもよい。既存杭2が鋼杭である場合、切断機によって鋼杭の頭部を切断する。さらに、鋼杭の切断面に平坦なプレートを設ける。
【0038】
第2工程では、頭部が切断された既存杭2に緩衝部材10を配置する。緩衝部材10は、接着剤によって既存杭2の切断面に固定される。緩衝部材10は、後工程の転圧において既存杭2から位置ずれしないように、既存杭2の切断面に固定される。
【0039】
第3工程では、地盤3において既存杭2を含む領域を転圧する。一例では、基礎5が構築される領域全体(以下、基礎構築領域)を転圧機によって第1回目の転圧を行う。第1回目の転圧後、基礎構築領域に砕石を敷き、2回目の転圧を行う。
【0040】
なお、第1回目の転圧は省略されてもよい。砕石は、緩衝部材10の上に配置されてもよい。また、砕石は、緩衝部材10の上に配置されなくてもよい。緩衝部材10の上には、砕石に替えて、スペーサーが置かれてもよい。スペーサーとして、発泡スチロールが挙げられる。
【0041】
第4工程では、転圧された地盤3に基礎5を作る。基礎5は、既存の工法によって形成される。例えば、鉄筋を組み、基礎5の型枠を組み、次いで、型枠にコンクリートを流しこむことによって、基礎5が形成される。
【0042】
本実施形態の作用を説明する。
建築物1の基礎5下の地盤3が沈下し、基礎5の下面を押す土圧が低下すると、既存杭2の上に配置される緩衝部材10に建築物1の荷重が集中する。そうすると、緩衝部材10が押されて圧縮変形する。緩衝部材10の上面の位置が下がることによって、緩衝部材10周りの地盤3が押し固められて土圧が上昇すると、基礎5は、地盤3によって支持され、緩衝部材10に加わる力が相対的に小さくなる。このように、地盤沈下時、建築物1が傾く前に緩衝部材10に応力が集中し、緩衝部材10が圧縮変形する。このため、地盤沈下時、建築物1は傾かずに沈下する。このようにして、建築物1の不同沈下が生じ難くなる。
【0043】
本実施形態の効果を説明する。
(1)緩衝部材10は、弾性部11と、弾性部11に上面に設けられる上側プレート12と、を備える。弾性部11は、複数の弾性部位15を有する。複数の弾性部位15は、弾性部位15の上下方向の圧縮において圧縮変形可能であるように空間Sを介して配置される。
【0044】
この構成によれば、緩衝部材10は、建築物1から受ける力によって変形する。例えば、地盤沈下によって建築物1が沈むとき、建築物1の沈下量(沈下の距離)に応じて弾性部11が変形する。これによって、基礎5において、既存杭2の上に位置する杭上部分と、杭上部分以外の部分とが同じように沈下し、建築物1の不同沈下を抑制できる。
【0045】
既存杭2の上に基礎5を構築する場合、既存杭2の影響を小さくするために、既存杭2の頭部を大きく切除する必要がある。この点、緩衝部材10によれば、緩衝部材10を既存杭2に配置できる程度に既存杭2の頭部の切除することで足りる。このように、既存杭2が存在する地盤3に基礎5を構築する場合において、既存杭2に対する前処理作業を軽減できる。
【0046】
(2)緩衝部材10は、下側プレート13をさらに備える。下側プレート13は、上側プレート12に平行に配置される。この構成によれば、上側プレート12と下側プレート13との間で弾性部11を均等に変形させ易くできる。
【0047】
(3)緩衝部材10の鉛直剛性は、5000kN/m以下である。この構成によれば、緩衝部材10は、建築物1の重さによって適度に変形する。このため、地盤沈下において緩衝部材10が障害物となって建築物1の沈下が妨げられるという状況が生じ難くなる。
【0048】
(4)緩衝部材10の鉛直剛性は、300kN/m以上である。この構成によれば、基礎5において緩衝部材10が接触する部分を支持できる。
【0049】
(5)弾性部位15は、互いに接触しないように配置される。この構成によれば、弾性部位15の周囲に空間Sが設けられるため、弾性部位15を圧縮変形させ易い。
【0050】
(6)弾性部11は、第1弾性部位16と、第2弾性部位17と、を有する。第1弾性部位16は、環状部を有する。第2弾性部位17は、第1弾性部位16の環状部内に配置される。この構成によれば、第1弾性部位16の内側に水または土が侵入することを抑制できる。これによって、第2弾性部位17の劣化を抑制できる。
【0051】
また、このような弾性部11は、ゴムロープから形成され得る。例えば、第1弾性部位16は、ゴムロープを環状に曲げることによって形成される。このように、ゴムロープを予め準備することによって、建築現場で簡単に弾性部11を形成できる。したがって、想定外に既存杭2に発見された場合であっても、新たに発見された既存杭2に対して迅速に対応できるため、基礎施工の計画からの遅延を短くできる。
【0052】
(7)建築物1は、緩衝部材10を備える。建築物1の基礎5は、下方突出部5A(例えば、フーチング)の一部が既存杭2の上に位置するように構築される。緩衝部材10は、下方突出部5Aと既存杭2との間に配置される。この構成によれば、緩衝部材10は、建築物1から受ける力によって変形する。これによって、建築物1の不同沈下を抑制できる。
【0053】
(8)建築物1の基礎5の施工方法は、第1工程から第4工程を含む。第1工程では、基礎5の下方突出部5Aの下に配置される予定の既存杭2の頭部を切断する。第2工程では、頭部が切断された既存杭2に緩衝部材10を配置する。第3工程では、地盤3において既存杭2を含む領域を転圧する。第4工程では、転圧された地盤3に基礎5を作る。この構成によれば、建築物1の不同沈下を起こし難い基礎5を形成できる。
【0054】
<変形例>
上記実施形態は、建築物1の緩衝部材10、建築物1、および、建築物1の基礎5の施工方法が取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。建築物1の緩衝部材10、建築物1、および、建築物1の基礎5の施工方法は、上記実施形態に例示された形態とは異なる形態を取り得る。その例は、実施形態の構成の一部を置換、変更、省略した形態、または、実施形態に新たな構成を付加した形態である。以下に実施形態の変形例を示す。
【0055】
実施形態の緩衝部材10において、第3弾性部位18は省略されてもよい。緩衝部材10は、さらに、追加の弾性部位15を有してもよい。追加の弾性部位15は、第3弾性部位18の第3環状部18A内に配置されてもよい。
【0056】
図7を参照して、緩衝部材10の第1変形例を説明する。
第1変形例では、実施形態の緩衝部材10と異なり、複数の弾性部位15は、弾性を有する連結部20によって互いに連結される。連結部20は、ゴムによって構成される。例えば、弾性部11は、弾性部位15としての外周部位21と、弾性部位15としてのランド部位22と、ランド部位22同士を連結する第1連結部23と、外周部位21とランド部位22とを連結する第2連結部24と、を有する。外周部位21は、弾性部11の外周を構成する。ランド部位22は、外周部位21内に設けられる。ランド部位22は、外周部位21に接触してもよいし、外周部位21から離れていてもよい。外周部位21、ランド部位22、第1連結部23、および、第2連結部24は、断面矩形のゴムロープから構成される。ゴムロープの断面は円形であってもよい。このような構成であっても、実施形態と同様の効果を奏する。また、連結部20によって複数の弾性部位15同士が繋がるため、弾性部11が局所的に潰れることが抑制される。また、外周部位21内に水または土が侵入することを抑制できる。これによって、外周部位21内のランド部位22の劣化を抑制できる。
【0057】
図8を参照して、緩衝部材10の第2変形例を説明する。
第2変形例の弾性部11は、弾性部位15として複数のランド部位22を有する。ランド部位22は、互いに接触しないように配置される。ランド部位22は、縦横に配列される。この構成によれば、ランド部位22の周囲に空間Sが設けられるため、弾性部位15を圧縮変形させ易い。このような構成であっても、実施形態と同様の効果を奏する。
【0058】
図9を参照して、緩衝部材10の第3変形例を説明する。第3変形例の弾性部11は、実施形態と同じように環状の第1弾性部位16と、環状の第2弾性部位17と、環状の第3弾性部位18と、を有する。第1弾性部位16、第2弾性部位17、および、第3弾性部位18は、それぞれ、平面視で矩形に構成される。さらに、上側プレート12、および、下側プレート13は、平面視で矩形に構成される。このような構成によって、実施形態と同様の効果を奏する。
【0059】
図10を参照して、緩衝部材10の第4変形例を説明する。緩衝部材10の弾性部11は、弾性部位15としての外周部位21と、弾性部位15としての複数のランド部位22と、を有する。外周部位21は、環状に構成される。外周部位21は、弾性部11の外周を構成する。ランド部位22は直線に延びる。複数のランド部位22は、外周部位21内に設けられる。複数のランド部位22は、空間Sを介して互いに平行に配置される。
図10では、ランド部位22は外周部位21に接触するが、ランド部位22は外周部位21から離れてもよい。このような構成によって、実施形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0060】
S…空間、1…建築物、2…既存杭、3…地盤、5…基礎、5A…下方突出部、10…緩衝部材、11…弾性部、12…上側プレート、13…下側プレート、15…弾性部位、16…第1弾性部位、17…第2弾性部位、20…連結部、21…外周部位、22…ランド部位、23…第1連結部、24…第2連結部。