(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】風力発電装置のブレード用レセプタ
(51)【国際特許分類】
F03D 80/30 20160101AFI20230926BHJP
F03D 1/06 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
F03D80/30
F03D1/06 A
(21)【出願番号】P 2022042936
(22)【出願日】2022-03-17
【審査請求日】2023-03-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】石川 啓太
(72)【発明者】
【氏名】目黒 早恵
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】蔭田 壮志
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-113735(JP,A)
【文献】特開2016-142205(JP,A)
【文献】国際公開第2013/084634(WO,A1)
【文献】特許第5880789(JP,B1)
【文献】特開2012-087753(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0110789(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0003094(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 1/06
F03D 80/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風を受けて回転するロータを構成するブレード
を備えた風力発電装置のブレード用レセプタであって、
前記ブレードの先端に取り付けられ、
内部に空洞部が形成され、
複合合金により構成されたレセプタ本体と、
前記レセプタ本体の内部に形成された前記空洞部と、
を備え、
前記レセプタ本体は、Cu相にMo,W,Ta,Nb,V,Zrのいずれかの耐熱元素とCrの固溶体である固溶体粒子の相が均一に分散してなる複合合金により構成され、
前記複合合金は、当該複合合金に対して重量比で、
Cuを20~70%
Crを1.5~64%、含有し、残部が不可避的不純物から構成され、
前記複合合金に含まれる固溶体粒子は、平均粒子径が20μm以下であり、分散状態指数が1.0以下でCu相に均一に分散し、
前記レセプタ本体は、ボルトを用いて前記ブレード側に取り付けられ、かつ前記空洞部内への出入口として切欠部が形成され、
前記ボルトを前記空洞部内から前記ブレード側に締結および締結解除することが可能なことを特徴とする風力発電装置のブレード用レセプタ。
【請求項2】
前記ボルトは、前記複合合金により構成されている
ことを特徴とする請求項
1記載の風力発電装置のブレード用レセプタ。
【請求項3】
前記ボルトの頭部および軸部本体は、前記複合合金により構成されている一方、
前記ボルトの軸部のねじ山は、チタン合金により構成されている
ことを特徴とする請求項
2記載の風力発電装置のブレード用レセプタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置(風力発電機)のブレードに用いられる落雷対策用のレセプタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の風力発電装置の大型化に伴い、風力発電装置の落雷被害が生じ、特に最高点を通過するブレードの落雷被害が多く報告されている。
【0003】
例えばブレード先端のレセプタから引き下げ導線に雷電流を導くまでの間で落雷が補足されてブレード貫通の損傷が発生する場合がある。この場合、引き下げ導線接触箇所の腐食の影響で接触抵抗が高くなると、雷電流によるブレード内部で発熱溶損が発生し、断線や水蒸気爆発を誘発するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1は、ブレード先端の内部から引き下げ導線までの導体を絶縁した先端ユニットを用いることで雷被害の抑制を図っている。また、特許文献2は、ブレード先端の受雷部に受雷突起を形成することで捕雷作用を向上させ、ブレードと受雷部との境界への受雷の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6467050号
【文献】特許第5158730号
【文献】特許第5880789号
【文献】WO2013/084634 AI
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に風力発電装置に落雷した場合に雷電流はブレードの受雷部品、即ちレセプタから導線を通じてハブ・主軸・タワーの経路で地面に流される。このときブレード先端に取り付けられるレセプタについては、遠心力の影響を受けることから軽量化が望まれている。
【0007】
ところが、特許文献1の先端ユニットは、交換可能なものの、外周部と内周部との接続に導電性ブッシング(特許文献1の
図7参照)を必要とするため、部品点数が多く、軽量化に向かないおそれがある。また、特許文献2の受雷構造も、受雷突起を設けなくてはならないため、やはり部品点数が増加し、軽量化が図れない場合がある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、風力発電装置のブレードの落雷対策に用いられるレセプタの軽量化を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明は、風を受けて回転するロータを構成するブレード
を備えた風力発電装置のブレード用レセプタであって、
前記ブレードの先端に取り付けられ、
内部に空洞部が形成されていることを特徴としている。
【0010】
(2)本発明の一態様は、
複合合金により構成されたレセプタ本体と、
前記レセプタ本体の内部に形成された前記空洞部と、を備え、
前記レセプタ本体は、Cu相にMo,W,Ta,Nb,V,Zrのいずれかの耐熱元素とCrの固溶体である固溶体粒子の相が均一に分散してなる前記複合合金により構成され、
前記複合合金は、当該複合合金に対して重量比で、
Cuを20~70%
Crを1.5~64%、含有し、残部が不可避的不純物から構成され、
前記複合合金に含まれる固溶体粒子は、平均粒子径が20μm以下であり、分散状態指数が1.0以下でCu相に均一に分散していることを特徴としている。
【0011】
(3)本発明の他の態様において、
前記レセプタ本体は、ボルトを用いて前記ブレード側に取り付けられ、かつ前記空洞部内への出入口として切欠部が形成され、
前記ボルトを前記空洞部内から前記ブレード側に締結および締結解除することが可能なことを特徴としている。
【0012】
(4)本発明のさらに他の態様において、
前記ボルトは、前記複合合金により構成されていることを特徴としている。
【0013】
(5)本発明のさらに他の態様において、
前記ボルトの頭部および軸部本体は、前記複合合金により構成されている一方、
前記ボルトの軸部のねじ山は、チタン合金により構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、風力発電装置のブレードの落雷被害を抑制するレセプタの軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】(a)は同レセプタの縦断面斜視図、(b)は同レセプタの斜視図、(c)は
図1の部分断面図、(d)は同レセプタの縦断面図。
【
図3】タングステン合金の溶損比較試験結果を示す断面図。
【
図4】実施例1の複合合金の溶損比較試験結果を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る風力発電装置のブレード用レセプタを説明する。このレセプタは、前述のように風力発電装置のブレードの落雷対策(雷保護用)として用いられている。
【0017】
図6に基づき風力発電装置の概略を説明すれば、風力発電装置1は地上・洋上に設置された基礎2と、基礎2上に設置されたタワー3と、タワー3の頂部に回転自在に設置されたロータ4とを主体に構成されている。
【0018】
ロータ4は、前記頂部のナセル5と、ナセル5内部の回転自在な主軸(図示省略)に取り付けられたハブ6と、ハブ6に取り付けられた複数のブレード7とを備えている。
【0019】
また、
図7に示すように、ブレード7の先端には雷保護装置として前記レセプタ10が取り付けられ、前記レセプタ10はダウンコンダクタ11により接地極となる基礎2と電気的に接続されている。
【0020】
したがって、前記レセプタ10に着雷した際に雷電流が、ダウンコンダクタ11を介して接地極(基礎2)に導かれる。このダウンコンダクタ11は楔状のレセプタアンカー12に固定され、前記レセプタ10は接着剤13およびボルト25(
図1参照)によりレセプタアンカー12に取り付けられている。この接着剤13は、レセプタアンカー12とブレード7との間の空隙に充填されている。
【0021】
前記レセプタ10については、ブレード7の回転時における遠心力の影響を受けるため、従来から軽量で加工性に優れるアルミ合金が活用されていた。ところが、風力発電装置1においてブレード7は、ナセル5などの構造物より雷雲との距離が近く落雷によるダメージが大きい。
【0022】
その結果、高額な補修費用が発生するおそれがあり、耐雷性の高い軽量タイプの前記レセプタ10が望まれている。この点を実現すべく実施例1,2の前記レセプタ10が提案されている。
【実施例1】
【0023】
図1~
図4に基づき前記レセプタ10の実施例1を説明する。本実施例の前記レセプタ10は、軽量化を実現するため、鋳造鋳型などにより中空構造に成形されている。
【0024】
前記レセプタ10は、
図1および
図2に示すように、レセプタ本体20内に空洞部21を形成して構成されている。このレセプタ本体20は、略三角形状に形成された一対の側部20a,20b(
図2(a)(d)参照)と、レセプタアンカー12側に形成された底部22とを備えている。
【0025】
空洞部21は、レセプタ本体20と略相似形(サイズは小さい)に形成され、レセプタ本体20の先端内から底部22までの領域に形成されている。また、底部22には一対の挿通孔(図示省略)が形成され、側部20aには空洞部21内への出入口として切欠部(切欠空間)29が形成されている。
【0026】
したがって、切欠部29からボルト25の軸部28を空洞部21内に配置し、前記挿通孔に挿通することができる。これにより軸部28を空洞部21からレセプタアンカー12の雌ねじ穴(図示省略)に締結することが可能となる。また、前記レセプタ10の交換時には、空洞部21内から前記締結を解除することができる。
【0027】
前記レセプタ本体20は、非特許文献3に記載された複合合金(複合金属)をレセプタ材料として成形されている。この複合合金は、Cu(銅)相にMo(モリブデン),W(タングステン),Ta(タンタル),Nb(ニオブ),V(バナジウム),Zr(ジルコニウム)のいずれかの耐熱元素と、Cr(クロム)の固溶体である固溶体粒子の相とが均一に分散してなる複合合金により構成されている。
【0028】
このとき前記複合合金は、当該複合合金に対して重量比で「Cu=20~70%」・「Cr=1.5~64%」含有している一方、残部が不可避的不純物から構成されている。また、前記複合合金に含まれる固溶体粒子は、平均粒子径が「20μm」以下であり、分散状態指数が「1.0」以下でCu相に均一に分散している。このように構成された本実施例の前記レセプタ10によれば、以下の効果が得られる。
【0029】
(1)空洞部21を形成した中空構造なため、中実構造を採用する従来製品よりも軽量化を実現している。すなわち、前記複合合金はアルミ合金よりも質量が大きいものの、前記中空構造を採用することで軽量化を達成でき、ブレード7の遠心力による影響を低減することができる。
【0030】
また、軽量タイプなので、宙づりで行われるレセプタ交換作業を容易に行え、作業性を向上させることができる。さらに側部20aには切欠部29が形成されているため、ボルト25の軸部28を空洞部21内からレセプタアンカー12に締結・締結解除でき、この点でレセプタ交換作業も容易に行うこともできる。
【0031】
(2)前記複合合金をレセプタ材料に用いることでアルミ合金よりも雷撃の溶損損失を抑制する効果が得られる。
【0032】
すなわち、累積3000C(600C×5回)とした溶損比較試験(参考 IEC61400-24 Ed.2.0 /D.3)を実施した結果、前記複合合金はアルミ合金よりも雷撃による溶損損失を抑え、タングステン合金と同等に溶損が僅かなことが確認された。
【0033】
図3および
図4は、比較例(タングステン合金/W合金・300)と前記複合合金との溶損比較試験結果をそれぞれ示している。具体的には両者の溶融部を断面から電子顕微鏡で確認したところ、前記複合合金はタングステン合金よりも表層部の溶融を抑えていたことが判明した。
【0034】
言い換えれば本実施例の前記レセプタ10は、前記中空構造の採用により前記複合合金をレセプタ材料に選択可能とし、雷撃による溶損損失の抑制効果を高めている。この点で前記レセプタ10は、耐雷性が高くブレード7の雷撃による損傷を抑制する効果が得られる。
【0035】
(3)前記複合合金は、溶損損失の抑制効果だけでなく、前記レセプタ10の機械強度・加工性の観点からもレセプタ10の材料として好適である。
【0036】
【0037】
表1は、アルミ合金・タングステン合金・前記複合合金の引張強度と材料硬度の比較試験結果を示している。この比較試験結果によれば、前記複合合金はアルミ合金よりも引張強度が優れ、タングステン合金よりも硬度が柔らかいことが確認された。その結果、本実施例のレセプタ10は、前記複合合金を採用することでアルミ合金製よりも機械強度が高く、タングステン合金製より加工性が高い効果が得られる。
【実施例2】
【0038】
図5に基づき前記レセプタ10の実施例2を説明する。本実施例では、前記レセプタ10をレセプタアンカー12に固定するためのボルト25に前記複合合金が用いられている。以下、前記複合合金を用いたボルト25を導電ボルト25と呼ぶ。
【0039】
具体的には導電ボルト25の頭部27および軸部28の内部28aに導電性の高い前記複合合金が用いられている。一方、軸部28のねじ山28bには耐熱性・耐食性の高いチタン合金(Ti合金)が用いられている。本実施例の導電ボルト25は、例えば熱間等方圧プレスにより接合し、かつ切削加工して研磨することで製作することが可能である。
【0040】
このように構成された導電ボルト25によれば、導電性ブッシングなどの部品が不要となるため、部品点数を減らしてメンテナンスの作業性を向上させることができる。また、導電ボルト25は、ブレード7のサイドレセプタとしても使用することが可能である。
【0041】
なお、特許文献4の先端レセプタは本実施例と同様にボルト連結されているが、雷撃によるボルト破断や損傷・飛散などの懸念があった。これに対して本実施例の導電ボルト25によれば、雷撃の雷電流をダウンコンダクタ11側に流すことができ、前記懸念を払拭することができる。
【0042】
≪その他・他例≫
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。以下に一例を示す。
【0043】
(1)実施例1のレセプタ本体20は、中空構造を採用するため、レセプタ材料に前記複合合金だけでなく、タングステン合金のような質量の大きい金属を用いることも可能である。この場合には、遠心力など設計上の影響を考慮したうえで前記複合合金の代用として用いることができる。
【0044】
(2)空洞部21は、レセプタ本体20との略相似形に限らず、底部22側のみに形成してレセプタ本体20の先端側を中実としてもよい。また、空洞部21をレセプタ本体20の先端側および底部22側にそれぞれ形成して両者間を中実としてもよく、さらに空洞部21を蜂巣構造(多孔構造)としてもよい。
【0045】
(3)ボルト25は、
図1および
図2に示す丸頭ボルトには限定されず、例えば六角ボルトやターンバックボルトを用いてもよい。このターンバックボルトを用いる場合には、一端部側に形成された一方向の雄ねじを底部22の雌ねじ穴に締結する一方、他端部側に形成された他方向の雄ねじをレセプタアンカー12の雌ねじ穴に締結することで前記レセプタ10を固定する。
【0046】
なお、ボルト25の固定位置は、
図1および
図2に示す底部22の中央部には限定されず、例えば底部22の両端部23,24であってもよい。
【0047】
(4)実施例2の導電ボルト25は、軸部28のねじ山28bをチタン合金ではなく、前記複合材料により構成してもよい。この場合には、導通ボルト25のすべてが前記複合合金で製作されるため、両者10,25が同一素材となり、電飾の影響が低減される。なお、導通ボルト25も、丸頭ボルトに限定されず、例えば六角ボルトやターンバックボルトなどを用いることができる。
【0048】
(5)なお、レセプタ本体20の先端部に水抜き用のドレイン孔を設けてもよく、ボルト25の損傷を抑えるために頭部27は接着剤で固定してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1…風力発電装置
2…基礎
3…タワー
4…ロータ
5…ナセル
6…ハブ
7…ブレード
10…レセプタ
11…ダウンコンダクタ
20…レセプタ本体
20a,20b…側部
21…空洞部
22…底部
23,24…両端部
25…ボルト,導電ボルト
27…頭部
28…軸部
28a…軸部の内部
28b…軸部のねじ山
29…切欠部
【要約】 (修正有)
【課題】風力発電装置のブレードの落雷対策に用いられるレセプタの軽量化を図る。
【解決手段】レセプタ10は、風力発電装置のロータを構成するブレードの先端に取り付けられている。このレセプタ10は、耐熱元素と固溶体粒子の相とが均一に分散してなる複合合金をレセプタ材料とするレセプタ本体20と、レセプタ本体20内の空洞部21を備えている。このレセプタ本体20の底部22はボルト25によりレセプタアンカーに取り付けられ、側部20aにはボルト25の締結・締結解除を空洞部21内から行うための切欠部29が形成されている。
【選択図】
図1