IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ポリオレフィンフィルム 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ポリオレフィンフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
B32B27/32 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022111590
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2020553677の分割
【原出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022140475
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019186528
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
(72)【発明者】
【氏名】中西 佑太
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170244(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/006578(WO,A1)
【文献】特開2015-107612(JP,A)
【文献】特開2019-147953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面の突出山部高さSPkが80nm以下であり、主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率が2.0%以下であり、主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和が16nm以下であり、ポリプロピレン樹脂を主成分としてなり、かつ少なくとも、表層(I)、基層(II)を有してなり、前記突出山部高さSPkが前記表層(I)の突出山部高さSPkであり、ポリプロピレン原料A及びポリプロピレン原料Bを含み、以下の特徴1及び2を具備する、ポリオレフィンフィルム。
特徴1:前記ポリプロピレン原料AのZ+1平均分子量が180万以上250万以下であり、前記ポリプロピレン原料BのZ+1平均分子量が110万以上200万以下であり、かつ前記ポリプロピレン原料AのZ+1平均分子量が前記ポリプロピレン原料BのZ+1平均分子量よりも大きい。
特徴2:前記ポリプロピレン原料Aの数平均分子量が7.5万以上10万以下であり、前記ポリプロピレン原料Bの数平均分子量が5.0万以上7.5万以下であり、かつ前記ポリプロピレン原料Aの数平均分子量が前記ポリプロピレン原料Bの数平均分子量よりも大きい。
【請求項2】
少なくとも片面の突出山部高さSPkが80nm以下であり、主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率が2.0%以下であり、主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和が16nm以下であり、ポリプロピレン樹脂を主成分としてなり、かつ少なくとも、表層(I)、基層(II)を有してなり、前記突出山部高さSPkが前記表層(I)の突出山部高さSPkであり、ポリプロピレン原料A及び分岐鎖状ポリプロピレン原料を含み、以下の特徴3及び4を具備するポリオレフィンフィルム
特徴3:前記ポリプロピレン原料AのZ+1平均分子量が180万以上250万以下であり、前記分岐鎖状ポリプロピレン原料の溶融張力が3gf以上40gf以下である。
特徴4:前記ポリプロピレン原料Aの数平均分子量が7.5万以上10万以下であり、前記分岐鎖状ポリプロピレン原料の溶融張力が3gf以上40gf以下である。
【請求項3】
フィルムをDSCで測定し、外挿点法により求めた、結晶化温度Tcが115℃以上である、請求項1または2に記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
130℃10分加熱処理後の主配向直交方向の動摩擦係数μdが0.7以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項5】
主配向方向、及び、その直交方向のヤング率の和が6.0GPa以上である、請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項6】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分布値が3%以上15%以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項7】
ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が6.1のときの微分分布値が1%以上15%以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルム。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムを用いた表面保護フィルム。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムを用いた工程フィルム。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムを用いた離型用フィルム。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィンフィルムを用いたフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑性、耐熱性、易滑性に優れた、工業材料用フィルムとして好適に用いることのできるポリオレフィンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、離型用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。特に、表面の離型性や機械特性に優れることから、プラスチック製品や建材や光学部材など、様々な部材の離型用フィルムや工程フィルムとして好適に用いられる。
【0003】
保護フィルムやカバーフィルムとして用いる場合、被着体への打痕転写を抑制するために、フィルムには平滑性が求められる。また、コンデンサ用フィルムとして用いる場合も耐電圧性を向上する目的でフィルムの平滑性が求められる。特に、打痕転写に大きく影響を与える指標として、突出部山高さが関係することが知られている。また、熱硬化性樹脂等のカバーフィルムとして用いる場合は、フィルムと貼り合わせた後で、熱硬化する為に、高温に晒される場合がある。また、コンデンサ用フィルムでは、装置内の高温環境下で使用される。この様に、工業材料用フィルムとして使用する場合、平滑性、耐熱性が両方必要となる場合があり、近年ますますその要求レベルは高くなっている。
【0004】
一般的に、平滑性を高めようとする場合、ポリオレフィン樹脂の結晶性を低下させる手法や、延伸倍率を高くしてフィルム表面の凹凸を平滑化させる方法が用いられる。しかしながら、結晶性低下や延伸高倍率化は耐熱性が悪化する場合があり、平滑性と耐熱性を両立させるのは困難であった。
【0005】
また、フィルムを平滑化させると、易滑性が悪化し、製膜時の工程搬送時や顧客での使用時にシワが入り、ポリオレフィンフィルムの平面性が悪化する場合がある。そのため、平滑性と易滑性を両立するのも困難であった。
【0006】
以上のことから、要求特性を満たす工業材料用フィルムには、平滑性、耐熱性、易滑性を兼ね備えたフィルムが求められる。
【0007】
突出部山高さを低減し平滑化したフィルムとしては、たとえば特許文献1には、プロピレン系重合体と4-メチル1-ペンテン系樹脂、ポリブテン系樹脂をメルトブレンドすることで平滑化した例が記載されている。また、熱収縮率を下げ耐熱性を高めたフィルムとしては、例えば特許文献2には、ポリプロピレン樹脂の立体規則性を高くすることで低熱収化した例が記載されている。また、特許文献3には、コンデンサを熱プレスすることで耐熱性を高めた例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-068387号公報
【文献】特開2015-120331号公報
【文献】特開平11-273990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の特許文献1に記載の方法では、耐熱性が不十分である問題があった。また特許文献2、3に記載の方法では、表面粗度が高く、平滑性が不十分であった。そこで本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、平滑性、耐熱性、易滑性に優れたポリオレフィンフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のポリオレフィンフィルムは、少なくとも片面の突出山部高さSPkが130nm以下であり、主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率が2%以下であり、主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和が20nm以下であり、ポリプロピレン樹脂を主成分と
してなり、かつ少なくとも、表層(I)、基層(II)を有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオレフィンフィルムは、平滑性、耐熱性、易滑性に優れることから、工業材料用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、離型用フィルム、及びコンデンサ用フィルム等として幅広く好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ポリオレフィンフィルムの結晶化温度T を表すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリオレフィンフィルムは、少なくとも片面の突出山部高さSPkが130nm以下であり、主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率が2%以下であり、主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和が20nm以下である。ポリオレフィンフィルムとは、フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、ポリオレフィン樹脂を、50質量%を超えて100質量%以下含むフィルムをいう。また、ポリオレフィン樹脂とは、樹脂を構成する全構成単位に占めるオレフィン単位が50モル%より多く100モル%以下である樹脂をいう。
【0014】
本発明のポリオレフィンフィルムにおいて、少なくとも片面の突出山部高さSPkは130nm以下であり、好ましくは110nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下、特に好ましくは30nm以下である。SPkが130nmより大きい場合、ポリオレフィンフィルムを光学用部材の離型フィルムとして用いた際に、ポリオレフィンフィルムの表面凹凸の光学用部材への転写が起こる場合がある。また、ポリオレフィンフィルムをコンデンサ用フィルムとして用いた際に、ポリオレフィンフィルムと電極間の隙間が大きく、電子が加速しやすい状態になり、耐電圧の低下を引き起こす場合がある。なお、SPkは走査型白色干渉顕微鏡と付随の解析システムにより測定することができ、測定方法の詳細は実施例に示す。
【0015】
SPkを130nm以下とするには、例えばポリオレフィンフィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、結晶化温度の高い原料を用いてキャスト時に形成する球晶を小さくすること、押出温度やキャストドラムの温度を低温化してキャスト時の冷却を高めること、縦/横延伸時の予熱温度を高めて延伸を低温で行うことで、均一に延伸することが効果的である。SPkの下限は特に限定されないが、実質的には5nm程度が下限である。
【0016】
本発明のポリオレフィンフィルムにおいて、主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率は2.0%以下であり、1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が特に好ましい。主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率が2.0%より大きい場合、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いた際に、被着体と貼り合わせて高温の工程を通過させるタイミングでシワが入り、品位が損なわれる場合がある。また、ポリオレフィンフィルムをコンデンサ用フィルムとして用いた際に、製造工程および使用工程の熱によりフィルム自体の収縮が生じて素子端部メタリコンとの接触不良により耐電圧性が低下する場合や、素子が巻き締まることで容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。
【0017】
主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率を2.0%以下とするには、例えばポリオレフィンフィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、立体規則性が高くCXSの低い原料を用いて結晶性を高めること、また、縦、横延伸後に熱処理、及びリラックスを行うことが効果的である。主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率の下限は特に限定されないが、-0.5%程度が下限である。
【0018】
主配向方向の130℃で15分加熱処理した際の熱収縮率は、以下の手順で測定することができる。ポリオレフィンフィルムの主配向方向について、幅10mm、長さ200mm(測定方向)の試料を用意し、両端から25mmの位置に標線として印を付けて、標線間の距離を測定し試長(l0)とする。荷重ゼロの状態で130℃に保温されたオーブン内で、15分間加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l1)を測定して下記式にて当該試料の熱収縮率を求める。
熱収縮率={(l0-l1)/l0}×100(%)。
【0019】
本発明のポリオレフィンフィルムにおいて、主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和は20nm以下であり、18nm以下が好ましく、17nm以下がより好ましく、16nm以下がさらに好ましく、15nm以下が特に好ましい。α(110)の結晶子サイズはX線回折法により測定することができ、その詳細な測定方法は実施例に示す。なお、本発明における主配向方向とはフィルム面内において、任意の方向を0°として、該任意の方向に対して5°刻みに0°~175°の角度をなす各々の方向でヤング率を測定したとき、最も高い値を示す方向をいう。また、本発明においては、ポリオレフィンフィルムを製膜する方向に平行な方向を製膜方向、長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
【0020】
主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和が20nmより大きい場合、結晶間の非晶のサイズが大きくなる。そのため、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いた際に、被着体と貼り合わせて高温の工程を通過させた後、剥離する際に被着体との離型性が低くなって生産性が低下する場合がある。また、ポリオレフィンフィルムをコンデンサ用フィルムとして用いた際に、非晶部を流れる漏れ電流が増大しやすくなる。その結果、コンデンサとした場合に、特に高温環境下において漏れ電流の増大に繋がり、コンデンサの自己発熱に伴う温度上昇による容量低下やショート破壊、耐電圧性の低下などを招いて信頼性が損なわれる場合がある。
【0021】
主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和を20nm以下とするには、例えばポリオレフィンフィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、結晶化温度の高い原料を用いてキャスト時に形成する球晶を小さくすること、押出温度やキャストドラムの温度を低温化してキャスト時の冷却を高めること、縦/横延伸時の予熱温度を高め、低温かつ均一に高倍率延伸することが効果的である。主配向方向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズの和の下限は特に限定されないが、実質的には10nm程度が下限である。
【0022】
本発明のポリオレフィンフィルムは、フィルムをDSCで測定し、外挿点法により求めた、結晶化温度Tcが115℃以上であることが好ましい。より好ましくは118℃以上、さらに好ましくは、123℃以上である。Tcが115℃未満である場合、キャスト時に粗大な球晶が形成されるため、SPkや結晶子サイズが大きくなる場合がある。そのため、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いた際に、被着体への打痕転写が起こる場合がある。また、ポリオレフィンフィルムをコンデンサ用フィルムと用いた際には、耐電圧の低下が起こる場合がある。
【0023】
Tcを115℃以上又は上記の好ましい範囲とするには、ポリオレフィンフィルムの原料組成を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、核剤作用を有する原料を添加することが好ましく、その中でも分岐鎖状ポリプロピレン原料を添加することが好ましい。また、ポリオレフィンフィルムの主成分としてポリプロピレン樹脂を用いる場合は、その高分子量成分、低分子量成分の量を特定の範囲に調整することも効果的である。結晶化温度Tcの上限は特に制限されないが、実質的に135℃程度が上限である。なお、DSCとは示差走査熱量計の意味である。
【0024】
Tcは、以下の手順により測定することができる。DSCを用いて、窒素雰囲気中でポリオレフィンフィルムを25℃から250℃まで20℃/minで昇温し、5分間保持する。ついで250℃から25℃まで10℃/minで降温し、この降温時に得られる発熱カーブのピーク温度をT 10とする。その後、ポリオレフィンフィルムを25℃から250℃まで20℃/minで昇温し、5分間保持する。ついで250℃から25℃まで40℃/minで降温し、この降温時に得られる発熱カーブのピーク温度を、T 40とする。次に、図1に示すように、横軸に降温速度を、縦軸に各降温速度で求めた結晶化温度をプロットし、T 40からT 10に向かって直線を引き、降温速度0℃/minに外挿した際の結晶化温度をT とする。
【0025】
本発明のポリオレフィンフィルムは、130℃10分加熱処理後の主配向方向に直交する方向(以下、主配向直交方向ということもある)の動摩擦係数μdが0.7以下であることが好ましい。より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは、0.5以下である。ポリオレフィンフィルムを保護フィルムとして使用する場合、様々な高温の工程を通過する場合がある。例えば、ポリオレフィンフィルムを熱硬化樹脂の離型フィルムとして使用する場合、熱硬化樹脂に貼り合わせた後、120~150℃程度の温度域で熱硬化させる場合がある。また、ポリオレフィンフィルムをコンデンサ用フィルムとして用いる場合、金属スパッタ時に130~150℃の輻射熱がかかる場合がある。ポリオレフィンフィルムを平滑化する際に、ポリオレフィンフィルムの結晶性を低下させる手法がよく知られているが、このような手法では高温の熱がかかった際に、表層の低融点樹脂部分が融解してμdが大きくなる場合がある。加熱後のμdが0.7より大きい場合、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムやコンデンサ用フィルムとして用いた際に、高温の工程を通過した後の搬送ロール上にシワが入ることや、被着体と共に巻き取るタイミングで巻きズレが起きる場合がある。
【0026】
加熱後のμdを0.7以下とするには、例えばポリオレフィンフィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、縦/横延伸時の予熱温度を高めて低温かつ均一に高倍率延伸すること、また、二軸延伸後の熱処理、リラックスを後述するような範囲で実施することが効果的である。加熱後のμdの下限は特に制限されないが、実質的に0.1程度が下限である。なお、加熱後のμdはJIS K 7125(1999)に準じて測定することができる。
【0027】
本発明のポリオレフィンフィルムは、主配向方向、及び、その直交方向のヤング率の和が6.0GPa以上であることが好ましい。より好ましくは6.5GPa以上、さらに好ましくは、7.0GPa以上である。主配向方向、及び、その直交方向のヤング率の和が6.0GPa未満である場合、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いた際に、被着体と貼り合わせて高温の工程を通過するタイミングでフィルムが伸びてしまい、被着体から剥離されてしまう場合がある。また、ポリオレフィンフィルムをコンデンサ用フィルムとして用いる際に、耐電圧性が低下する場合がある。なお、ヤング率は室温23℃、相対湿度65%の雰囲気で、初期引張チャック間距離50mm、引張速度を300mm/分として引張試験機により測定することができる。
【0028】
主配向方向、及び、その直交方向のヤング率の和を6.0GPa以上とするには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、結晶化温度の高い原料を用い、また、縦/横延伸時の予熱温度を高めて低温で均一に高倍率延伸することが効果的である。主配向方向、及び、その直交方向のヤング率の和の上限は特に制限されないが、実質的に10GPa程度が上限である。
【0029】
本発明のポリオレフィンフィルムは、100℃加熱時の主配向直交方向の収縮応力が0.6N/mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.3N/mm以下、さらに好ましくは、0.1N/mm以下である。100℃加熱時の主配向直交方向の収縮応力が0.6N/mmより大きい場合、ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いた際に、被着体と貼り合わせて高温の工程を通過させて被着体と共に巻き取りロールとするタイミングで経時で巻き取る力が大きくなり、シワや弛みが発生することや、被着体から剥離してしまうことなどにより、品位が低下する場合がある。なお、100℃加熱時の主配向直交方向の収縮応力は、熱機械分析(TMA)により測定することができ、その詳細な測定条件は実施例に示す。
【0030】
100℃加熱時の主配向直交方向の収縮応力を0.6N/mm以下とするには、例えば、ポリオレフィンィルムの原料組成を後述する範囲とし、また、製膜条件を後述する範囲とする方法を用いることができる。特に、結晶化温度の高い原料を用い、また、縦/横延伸時の予熱温度を高め、低温で均一に高倍率延伸すること、二軸延伸後の熱処理、リラックスを後述するような範囲で実施することが効果的である。100℃加熱時の主配向直交方向の収縮応力の下限は特に制限されないが、実質的に0.0001N/mm程度が下限である。
【0031】
本発明のポリオレフィンフィルムの厚みは、用途によって適宜調整されるものであり特に限定はされないが、0.5μm以上100μm以下であることがハンドリング性の観点から好ましい。ポリオレフィンフィルムを離型フィルムとして用いる際の厚みの上限は60μmがより好ましく、30μmがさらに好ましく、16μmが特に好ましい。下限は4μmがより好ましく、8μmがさらに好ましく、11μmが特に好ましい。また、コンデンサ用フィルムとして用いる際の厚みの上限は15μmがより好ましく、8μmがさらに好ましく、3μmが特に好ましい。下限は0.9μmがより好ましく、1.5μmがさらに好ましい。ポリオレフィンフィルムの厚みは他の物性を低下させない範囲内で、押出機のスクリュー回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。なお、ポリオレフィンフィルムの厚みはマイクロ厚み計で測定することができる。
【0032】
次に本発明のポリオレフィンフィルムの原料について説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0033】
本発明のポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主成分としてなることが好ましい。本発明において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%より多く100質量%以下であることを意味し、より好ましくは90質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは95質量%以上100質量%以下、より一層好ましくは96質量%以上100質量%以下、特に好ましくは97質量%以上100質量%以下、最も好ましくは98質量%以上100質量%以下である。なお、本発明のポリオレフィンフィルムは、一種のポリプロピレン樹脂のみを含んでもよいが、二種以上のポリプロピレン樹脂を含むことが好ましい。なお、フィルム中にポリプロピレン樹脂に相当する成分が二種以上含まれる場合は、これらの成分を合算して50質量%より多く100質量%以下であれば、「ポリプロピレン樹脂を主成分としてなる」とみなすものとする。
【0034】
ポリプロピレン樹脂とは、樹脂の分子鎖を構成する全構成単位を100モル%としたときに、プロピレン単位を50モル%より多く100モル%以下含むポリオレフィン樹脂をいう。なお、ポリプロピレン樹脂については、以下「ポリプロピレン原料」ということもある。
【0035】
本発明のポリオレフィンフィルムは、その層構成については特に制限されず、単層、積層のいずれの構成をとることもできるが、平滑性、易滑性、耐熱性等の互いに異なる特性を満足させる観点から、少なくとも、表層(I)、基層(II)を有してなることが好ましい。ポリオレフィンフィルムが単層構成の場合はポリオレフィンフィルム自体の主成分がポリプロピレン樹脂であることが好ましい。ポリオレフィンフィルムが積層構成の場合は、ポリオレフィンフィルム自体がポリプロピレン樹脂を主成分とし、さらに後述する基層(II)の主成分がポリプロピレン樹脂であることが好ましい。
【0036】
以下、本発明のポリオレフィンフィルムに最も多く含まれる成分として好適なポリプロピレン樹脂(ポリプロピレン原料Aということがある。)、について説明する。
【0037】
ポリプロピレン原料Aの数平均分子量(Mn)の下限は、低分子量成分を一定以下の量に制限する観点から、7.5万が好ましく、8万がより好ましく、8.5万がさらに好ましい。Mnの上限は10万が好ましく、9.4万がより好ましい。また、Z+1平均分子量(Mz+1)の下限は、高分子量成分を一定以上含有させる観点から180万が好ましく、200万がより好ましい。Mz+1の上限は250万が好ましく、220万がより好ましい。
【0038】
ポリプロピレン原料Aのメルトフローレート(MFR)は、1g/10分以上、10g/10分以下(230℃、21.18N荷重)の範囲であることが製膜性やフィルム強度の観点から好ましい。MFRの下限は、2g/10分がより好ましい。上限は、8g/10分がより好ましく、5g/10分がさらに好ましい。ポリプロピレン原料AのMFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。より具体的には、重合時の水素ガス濃度を調整する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行い、ポリプロピレン原料の分子量や分子量分布を制御する方法等が好ましく採用される。分子量を低くすることでMFRは高くなり、分子量分布において低分子量成分が多いほどMFRは高くなる。
【0039】
ポリプロピレン原料Aの融点は155℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは165℃以上である。ポリプロピレン原料Aの融点が155℃未満である場合、得られるポリオレフィンフィルムは耐熱性に乏しく、例えば離型フィルムとして用いた際に、被着体と貼り合わせた後に熱のかかる工程を通過するタイミングで軟化して張力方向に伸びてしまい、被着体が変形する場合がある。
【0040】
ポリプロピレン原料Aは、好ましくは冷キシレン可溶部(以下CXS)が4質量%以下であり、かつメソペンタッド分率が0.90以上であることが好ましい。これらを満たさないと製膜安定性に劣ったり、得られるポリオレフィンフィルムの強度が低下したり、寸法安定性および耐熱性の低下が大きくなる場合がある。
【0041】
ここで冷キシレン可溶部(CXS)とは、試料をキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリオレフィン成分のことをいい、立体規則性の低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当しているものと考えられる。このような成分が多く樹脂中に含まれているとフィルムの熱寸法安定性に劣ることがある。従って、上記観点からCXSは3.5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、更に好ましくは2.0質量%以下である。CXSは低いほど好ましいが、0.1質量%程度が下限である。CXSを上記の好ましい範囲とするには、樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られた樹脂を溶媒あるいはオレフィンモノマー自身で洗浄する方法が使用できる。
【0042】
ポリプロピレン原料Aのメソペンタッド分率は0.94以上であることが好ましく、より好ましくは0.96以上であり、更に好ましくは0.97以上、特に好ましくは0.98以上である。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度や融点が高くなり、高温での寸法安定性が高くなるので好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。このように立体規則性の高い樹脂を得るには、n-ヘプタン等の溶媒で得られた樹脂パウダーを洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。
【0043】
ポリプロピレン原料Aとしては、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよい。このような共重合成分を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0044】
ポリプロピレン原料Aの共重合成分量は、10モル%以下であることが好ましい。より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは3モル%以下である。エチレン成分の含有量が多いほど、結晶性が低下して、透明性を向上させやすいが、エチレン成分の含有量が10モル%を超えると、フィルムとしたときの強度が低下したり、耐熱性が低下して熱収縮率が悪化したりする場合がある。また、押出工程中で樹脂が劣化しやすくなり、ポリオレフィンフィルム中のフィッシュアイが生じやすくなる場合がある。
【0045】
本発明のポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレン原料Aとは異なるポリプロピレン樹脂(以下、ポリプロピレン原料Bということがある。)を含むことができる。ポリプロピレン原料Bを含むことで、低分子量成分が延伸時の延伸助剤として働き、延伸時の破膜抑制や物性斑の低減に寄与する場合がある。
【0046】
ポリプロピレン原料Bの数平均分子量(Mn)の上限は、低分子量成分を一定以上含有させる観点から、7.5万が好ましく、7.0万がより好ましく、6.5万がさらに好ましい。Mnの下限は5.0万が好ましく、5.5万がより好ましく、6.2万がさらに好ましい。また、Z+1平均分子量(Mz+1)の上限は、高分子量成分を一定以下に抑える観点から200万が好ましく、180万がより好ましい。Mz+1の下限は110万が好ましく、130万がより好ましく、155万がさらに好ましい。なお、ポリプロピレン原料BのMnやMz+1は、ポリプロピレン原料AのMnやMz+1よりも小さくなる。
【0047】
ポリプロピレン原料Bのメルトフローレート(MFR)は、3g/10分以上、11g/10分以下(230℃、21.18N荷重)の範囲であることが押出安定性の観点から好ましい。ポリプロピレン原料BのMFRの下限は、3.5g/10分がより好ましい。上限は、9g/10分がより好ましく、8g/10分がさらに好ましい。ポリプロピレン原料BのMFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。より具体的には、重合時の水素ガス濃度を調整する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行い、ポリプロピレン原料の分子量や分子量分布を制御する方法等が好ましく採用される。分子量を低くすることでMFRは高くなり、分子量分布において低分子量成分が多いほどMFRは高くなる。
【0048】
本発明のポリオレフィンフィルムは、共に直鎖状であるポリプロピレン原料Aやポリプロピレン原料Bの他に、分岐鎖状ポリプロピレン樹脂(以下、分岐鎖状ポリプロピレン原料ということがある。)を含むことができる。分岐鎖状ポリプロピレン原料はα晶またはβ晶の結晶核剤効果を有する。そのため、分岐鎖状ポリプロピレン原料を含むことで、その核剤効果により、キャスト時における粗大な球晶形成が抑制されるため、SPkや結晶子サイズを小さくすることができる。
【0049】
分岐鎖状ポリプロピレン原料のMFRは、0.5g/10分以上、9g/10分以下(230℃、21.18N荷重)であることが押出安定性の観点から好ましい。分岐鎖状ポリプロピレン原料のMFRの下限は2g/10分であることがより好ましく、6g/10分がさらに好ましい。分岐鎖状ポリプロピレン原料のMFRの上限は8g/10分であることがより好ましい。分岐鎖状ポリプロピレン原料のMFRを上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。より具体的には、重合時の水素ガス濃度を調整する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行い、ポリプロピレン原料の分子量や分子量分布を制御する方法等が好ましく採用される。分子量を低くすることでMFRは高くなり、分子量分布において低分子量成分が多いほどMFRは高くなる。
【0050】
分岐鎖状ポリプロピレン原料の溶融張力は、3gf以上40gf以下であることが延伸均一性の観点から好ましい。溶融張力の下限は4gfであることがより好ましく、6gfがさらに好ましい。上限は30gfがより好ましく、25gfがさらに好ましい。溶融張力を上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布、ポリプロピレン原料中の分岐度を制御する方法などが採用される。特に、長鎖分岐を有する場合、溶融張力を飛躍的に高めることができ、長鎖分岐の分子鎖や、分岐度を調整することで好ましい値に調整することができる。
【0051】
分岐鎖状ポリプロピレン原料は、チーグラーナッタ触媒系やメタロセン系触媒系など、複数市販されているが、ポリプロピレン原料A、ポリプロピレン原料Bと組み合わせて用いる観点において、低分子量成分、高分子量成分が少なく、分子量分布の狭いメタロセン触媒系がより好ましい。
【0052】
本発明のポリオレフィンフィルムに用いるポリオレフィン原料には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることもできる。
【0053】
これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は酸化防止剤のブリードアウトの観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製“Irganox”(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。
【0054】
これら酸化防止剤の総含有量はポリオレフィン原料全量に対して0.03~1.0質量部の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると押出工程でポリマーが劣化してフィルムが着色する場合や、長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトにより透明性が低下する場合がある。上記観点から、酸化防止剤のより好ましい含有量は0.05~0.9質量部であり、特に好ましくは0.1~0.8質量部である。
【0055】
本発明のポリオレフィンフィルムには、目的に反しない範囲で、結晶核剤を添加することができる。結晶核剤の具体例としては、α晶核剤(ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等)、β晶核剤(1,2-ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド等のアミド系化合物、キナクリドン系化合物等)等が挙げられる。但し、上記別種の核剤の過剰な添加は延伸性の低下やボイド形成等による透明性や強度の低下を引き起こす場合があるため、添加量は通常ポリオレフィン原料全量に対して、0.5質量部以下、好ましくは0.1質量部以下、更に好ましくは0.05質量部以下である。
【0056】
本発明のポリオレフィンフィルムには、有機粒子および無機粒子を含まないことが好ましい。本発明のポリオレフィンフィルムの主成分として好ましく用いることができるポリプロピレン樹脂は、有機粒子や無機粒子との親和性が低いため、粒子が脱落して工程や製品を汚染する場合がある。また、硬度の高い粒子によって粗大突起が形成されると、光学用部材の樹脂層に凹凸転写する場合があり、ディスプレイ部材など高品位が求められる製品の保護フィルムや製造用基材フィルムとして用いる際に品質低下の原因となることがある。上記観点から、本発明のポリオレフィンフィルムは有機粒子や無機粒子等の滑剤を含有しないことが好ましい。
【0057】
本発明のポリオレフィンフィルムにおいて、樹脂成分全量に対して、ポリプロピレン原料A、ポリプロピレン原料B、分岐鎖状ポリプロピレン原料の占める割合は以下であることが好ましい。ポリプロピレン原料Aは50質量%以上99.9質量%以下がフィルムの表面平滑性、機械強度の観点から好ましい。ポリプロピレン原料Aの占める割合の下限は60質量%がより好ましく、70質量%がさらに好ましい。上限は99質量%がより好ましく、98質量%がさらに好ましい。ポリプロピレン原料Bの占める割合としては、樹脂成分全量のうち、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。ポリプロピレン原料Bの占める割合の下限は0.5質量%がより好ましく、3質量%がさらに好ましい。上限は30質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。分岐鎖状ポリプロピレン原料の占める割合としては、フィルム全体のうち、0.1質量%以上30質量%以下が好ましい。分岐鎖状ポリプロピレン原料の占める割合の下限は0.2質量%がより好ましく、0.5質量%がさらに好ましく、1.0質量%が最も好ましい。上限は20質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。
【0058】
本発明のポリオレフィンフィルムは、上述のポリプロピレン原料Aに加えて、ポリプロピレン原料Bか分岐鎖状ポリプロピレン原料、もしくは、ポリプロピレン原料Bと分岐鎖状ポリプロピレン原料の両方を含むことが好ましい。
【0059】
本発明のポリオレフィンフィルムは、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分布値が3%以上15%以下であることが好ましい。対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分布値が3%未満である場合、延伸時に潤滑成分となる低分子量成分が少なく、延伸時に破断しやすくなる場合がある。対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分布値が15%より大きくなると、ポリオレフィンフィルムの耐熱性が低下する場合がある。上記観点から、対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分布値の下限は4%であることがより好ましく、5%であることがさらに好ましい。対数分子量Log(M)が4.0のときの微分分布値の上限は13%であることがより好ましく、10%であることがさらに好ましい。
【0060】
本発明のポリオレフィンフィルムは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法で測定した分子量分布曲線において、対数分子量Log(M)が6.1のときの微分分布値が1%以上15%以下であることが好ましい。対数分子量Log(M)が6.1のときの微分分布値が1%未満である場合、延伸時にタイ分子となる高分子量成分が少なく、延伸時の均一性に劣る場合がある。対数分子量Log(M)が6.1のときの微分分布値が15%より大きくなると、ポリオレフィンフィルムをロールとして巻き上げた後、経時での常温収縮が大きくなり、フィルムロールの平面性が損なわれる場合がある。上記観点から、対数分子量Log(M)が6.1のときの微分分布値の下限は5%であることがより好ましく、7%であることがさらに好ましい。対数分子量Log(M)が6.1のときの微分分布値の上限は、13%であることがより好ましく、11%であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明のポリオレフィンフィルムは、上述した原料を用い、二軸延伸することが好ましい。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、テンター同時二軸延伸法、ロール式延伸機とテンターによる逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点においてロール式延伸機とテンターによる逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0062】
次に本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法の一態様を、2種3層構成のポリプロピレンフィルムを例として説明するが、本発明のポリオレフィンフィルムの製造方法は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0063】
まず、ポリプロピレン原料Aを80質量部とポリプロピレン原料Bを15質量部、分岐鎖状ポリプロピレン原料5質量部をドライブレンドして基層(II)(以下、B層ということがある。)用の単軸押出機に供給し、ポリオレフィン原料Bを表層(I)(以下、A層ということがある。)用の単軸押出機に供給する。その後、それぞれ200~280℃、より好ましくは220~280℃、更に好ましくは240~270℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルタにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、マルチマニホールド型のA層/B層/A層複合Tダイにて積層し、キャスティングドラム上に吐出して冷却固化することにより、A層/B層/A層の層構成を有する積層未延伸シートを得る。この際、積層厚み比は、1/8/1~1/60/1の範囲が好ましい。上記範囲とすることで、ポリプロピレン原料Aを含有する表層がフィルム表面に薄く均一に形成され、延伸時に形成される突起の高さの均一性が増し、粗大突起の形成を抑制することができる。
【0064】
また、キャスティングドラムは表面温度が10~50℃、好ましくは10~40℃、好ましくは15~30℃、更に好ましくは15~20℃である。また、層構成はA層/B層の2層積層構成としても構わない。キャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性が良好でかつ表面粗さの制御が可能なエアナイフ法が好ましい。キャスティングドラム上のシートの非冷却ドラム面を冷却する観点から、エアナイフのエア温度を低温化することが好ましい。エアナイフのエア温度は10~50℃、好ましくは10~40℃、より好ましくは15~30℃、さらに好ましくは15~25℃で、吹き出しエア速度は130~150m/sが好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアが流れるようにエアナイフの位置を適宜調整することが好ましい。なお、A層/B層の2種2層積層構成の場合はA層側をキャスティングドラム側にすることが好ましい。
【0065】
得られた未延伸シートは、縦延伸工程に導入される。縦延伸工程ではまず複数の80℃以上150℃以下、好ましくは80℃以上130℃以下、より好ましくは90℃以上130℃以下、更に好ましくは100℃以上130℃以下に保たれた金属ロールに未延伸シートを接触させて予熱させ、周速差を設けたロール間でまず、長手方向に1.1~3.0倍、より好ましくは1.3~2.5倍に延伸した後、続いて、長手方向に2.0~5.0倍、より好ましくは3.0~4.5倍に延伸し、室温まで冷却する。1段目の延伸温度は、80℃以上130℃以下、好ましくは90℃以上130℃以下、更に好ましくは100℃以上130℃以下であり、2段目の延伸温度は130℃以上150℃以下、好ましくは140℃以上150℃以下、更に好ましくは145℃以上150℃以下である。縦延伸の前半に、低温かつ高応力で低倍延伸した後、一気に高温で延伸することで、全幅にわたって均一に縦方向に配向され、均一性の高い高配向の一軸延伸フィルムが得られる。
【0066】
1段目の縦延伸温度と2段目の縦延伸温度が大きく異なる場合、フィルムが高温の延伸ロールに触れた際に幅方向に収縮する。その際に、不均一にフィルムが収縮することで、長手方向のシワが入る場合がある。その対策として、延伸ロールにセラミックロールを用いた。セラミックロール上では、フィルムが滑りやすくなり、フィルムが均一に収縮することでシワ無く延伸が可能である。2段延伸の合計延伸倍率は3.0倍未満であるとフィルムの配向が弱くなり、強度が低下する場合があることから、3.0倍以上6.0倍以下が好ましく、4.0倍以上5.5倍以下が更に好ましい。
【0067】
次いで、幅方向両端部をクリップで把持して一軸延伸フィルムをテンターに導き、予熱した後、幅方向に7.0~13倍に横延伸する。予熱温度は165~180℃であり、より好ましくは168~180℃、更に好ましくは170~180℃である。また、延伸温度は148~165℃であり、より好ましくは148~160℃であり、さらに好ましくは148~155℃である。延伸温度に対し、予熱温度を5℃以上、好ましくは8℃以上、より好ましくは10℃以上高くすることにより、フィルム全幅にわたり均一に高配向延伸が可能となり、得られるポリオレフィンフィルムの平滑性の観点から好ましい。
【0068】
続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に5~20%、より好ましくは8~18%、さらに好ましくは11~18%の弛緩率で弛緩を与えつつ、160℃以上180℃以下、好ましくは165℃以上180℃未満、より好ましくは168℃以上180℃未満、さらに好ましくは、170℃以上180℃未満の温度で熱固定し、クリップで幅方向を緊張把持したまま80~100℃での冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップを解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、ポリオレフィンフィルム製品ロールを巻き取る。熱処理温度は横延伸温度に対して5℃以上、より好ましくは8℃以上、さらに好ましくは10℃以上高温で熱固定を行うことで、フィルム内の残留応力を緩和させ、熱収縮率を低下させることができる。
【0069】
また、テンターから出てきたポリオレフィンフィルムが渡りを通過する際に、ホットロールにて加熱することが耐熱性の観点から好ましい。加熱温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。140℃以上の温度では、ホットロールとポリオレフィンフィルムの易滑性が損なわれ、シワが入り平面性が悪化する場合があることから上限は140℃程度である。加熱時間は、0.2秒以上が好ましく、0.4秒がより好ましく、0.5秒以上がさらに好ましい。加熱時間の上限は特に制限されないが、生産性の観点から2.0秒程度が上限である。
【0070】
以上のようにして得られたポリオレフィンフィルムは、包装用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品や、コンデンサ用フィルムなど様々な工業用途で用いることができるが、特に表面平滑性に優れることから、表面保護フィルム、工程フィルム、離型用フィルム、コンデンサ用フィルムとして好ましく用いることができる。ここで、表面保護フィルムとは、成形体やフィルム等の対象物に貼り付け、加工時や運搬時に発生するキズや汚染等から防止する機能を有するフィルムをいう。工程フィルムとは、成形体やフィルム等の対象物に貼り付けて製造時や加工時に発生するキズや汚染等から防止し、最終製品としての使用時には破棄されるフィルムをいう。離型用フィルムとは、離型性が高く、成形体やフィルム等の対象物に貼り付けて加工時や運搬時に発生するキズや汚染等から防止し、最終製品としての使用時には容易に剥離して破棄することのできる機能を有するフィルムをいう。コンデンサ用フィルムとは、樹脂フィルムを誘電体として利用したフィルムコンデンサに使用されるフィルムをいう。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。但し、以下実施例3~6は参考例とする。
【0072】
(1)フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて測定した。フィルムを10cm四方にサンプリングし、任意に5点測定し、平均値を求めた。
【0073】
(2)突出山部高さSPk、平均粗さSa、最大高さSz
測定は走査型白色干渉顕微鏡「VS1540」(株式会社日立ハイテクサイエンス製、測定条件と装置構成は後述する)を使用して行い、付属の解析ソフトにより撮影画面を補完処理(完全補完)し、多項式4次近似にて面補正した後、メジアンフィルタ(3×3ピクセル)で処理して表面形状を求めた。
【0074】
測定は、5cm×5cmの正方形状に切ったポリオレフィンフィルムの対角線の交差点を開始点とし、次の手順に従って合計9箇所の測定位置を決めて各測定位置で行った。さらに面を替えて同じ測定を繰り返した。その後、上記の手順に従って各面毎に各測定位置のSPk、Sa、Szを求め、各面毎にSPk、Sa、Szの平均値を算出した。得られた値のうち、小さい方のSPkの値をフィルムのSPkの値として採用した。
【0075】
<測定位置の決め方>
測定1:開始点の位置
測定2:開始点から3.0mm右の位置
測定3:開始点から6.0mm右の位置
測定4:開始点から3.0mm下の位置
測定5:開始点から3.0mm下、3.0mm右の位置
測定6:開始点から3.0mm下、6.0mm右の位置
測定7:開始点から6.0mm下の位置
測定8:開始点から6.0mm下、3.0mm右の位置
測定9:開始点から6.0mm下、6.0mm右の位置
<測定条件と装置構成>
対物レンズ:10x
鏡筒:1x
ズームレンズ:1x
波長フィルタ:530nm white
測定モード:Wave
測定ソフトウェア:VS-Measure 10.0.4.0
解析ソフトウェア:VS-Viewer10.0.3.0
測定領域:561.1μm×561.5μm
画素数:1,024×1,024。
【0076】
(3)主配向方向の130℃15分の熱収縮率(130℃熱収縮率)
ポリオレフィンフィルムの主配向方向について、幅10mm、長さ200mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から25mmの位置に標線として印を付けて、万能投影機で標線間の距離を測定し試長(l0)とする。次に、試験片を紙に挟み込み荷重ゼロの状態で130℃に保温されたオーブン内で、15分間加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l1)を万能投影機で測定して下記式にて当該試料の熱収縮率を求めた。同様の測定を合計5本の試料について行い、得られた熱収縮率の平均値を主配向方向の熱収縮率とした。なお、主配向方向はフィルム面内において、任意の方向を0°とした場合に、該任意の方向に対して5°刻みに、0°~175°の角度をなす各々の方向で後述の(7)に記載の方法でヤング率を測定したとき、最も高い値を示す方向とした。
熱収縮率={(l0-l1)/l0}×100(%)。
【0077】
(4)主配向、及び、その直交方向のα(110)の結晶子サイズ
ポリオレフィンフィルムを長さ4cm、幅1mmの短冊状に切断し、厚さが1mmになるように重ねて試料調製した。ポリオレフィンフィルムに対してX線が透過するように、X線源と検出器の間にフィルム試料を設置し、フィルム面に関して対称にX線源と検出器の角度(2θ/θ)を走査してX線回折を測定した。主配向方向、及び、その直交方向それぞれの走査方向について2θ=約14°(α晶(110)面)における結晶ピークの半値幅βから、下記式(1)、(2)を用いて、主配向、及びその直交方向それぞれの結晶子サイズを求めた後、両数値の和を求めた。
【0078】
【数1】
【0079】
【数2】
【0080】
ここで、λ:X線波長(=0.15418nm)、βe:回折ピークの半値幅、βo:半値幅の補正値(=0.6)、K:Scherrer定数(=1.0)である。
(測定装置)
・X線回折装置 理学電機(株)社製 4036A2型
X線源 :CuKα線(Niフィルタ使用)
出力 :40kV-30mA
・ゴニオメータ 理学電機(株)社製 2155D型
スリット:2mmφ-1°-1°
検出機 :シンチレーションカウンター
・計数記録装置 理学電機(株)社製 RAD-C型。
【0081】
(5)外挿点法により求めた結晶化温度T
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgのポリオレフィンフィルムを25℃から250℃まで20℃/minで昇温し、5分間保持した。ついで250℃から25℃まで10℃/minで降温した。同様の手順を5回繰り返し、各回における降温時に得られる発熱カーブのピーク温度の算術平均値を、T 10とした。その後、別途同様にサンプリングしたポリオレフィンフィルムを25℃から250℃まで20℃/minで昇温し、5分間保持した。ついで250℃から25℃まで40℃/minで降温した。同様の手順を5回繰り返し、各回における降温時に得られる発熱カーブのピーク温度の算術平均値を、T 40とした。次に、図1に示すように、横軸に降温速度を、縦軸に各降温速度で求めた結晶化温度T 10とT 40をプロットし、T 40からT 10に向かって直線を引き、降温速度が0℃/minに外挿した際の結晶化温度をT とした。なお、T 10とT 40の測定のための各回の測定において、複数のピーク温度が観測できる場合には80℃から130℃の領域で最も高温のピークの温度をピーク温度として用いた。
【0082】
(6)130℃10分加熱処理後の主配向直交方向の動摩擦係数μd
ポリオレフィンフィルムを幅6.5cm、長さ12cmに切り出し、試験片を紙に挟み込み荷重ゼロの状態で130℃に保温されたオーブン内で、10分間加熱後に取り出して、室温で冷却後、東洋精機(株)製スリップテスターを用いて、JIS K 7125(1999)に準じて、25℃、65%RHにて測定した。なお、測定は主配向直交方向同士で、かつ、異なる面同士を重ねて、すなわち、一方のフィルムの表面と他方のフィルムの裏面とが接するように重ねて行った。同じ測定を一つのサンプルにつき5回行い、得られた値の平均値を算出し、当該サンプルの動摩擦係数(μd)とした。
【0083】
(7)主配向方向、及び、その直交方向のヤング率の和
フィルム試料の主配向方向および、その直交方向に対して長い方の辺が平行となるよう長さ(測定方向)150mm×幅10mmの矩形に、それぞれ5枚ずつ切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気で、初期引張チャック間距離50mm、引張速度を300mm/分としてフィルムの主配向方向のヤング率の測定用のサンプルと主配向直交方向のヤング率の測定用のサンプルについてそれぞれ引張試験を行った。サンプルが2%伸長したとき(チャック間距離が51mmとなったとき)のフィルムにかかる荷重を読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×10mm)で除した値をF2値とし、原点とF2値の測定に用いた点を通る直線の傾きをヤング率と定義した。試験は主配向方向および、その直交方向にそれぞれ5回ずつ行い、各々の方向で算術平均値としてヤング率を算出した。
【0084】
(8)100℃加熱時の主配向直交方向の収縮応力
TMA(SII・ナノテクノロジー(株)社製/型式TMA/SS6100)を用いて、以下の条件でフィルム主配向直交方向の熱収縮力曲線を測定した。
【0085】
(a)サンプル:幅4mm×長さ20mm
(b)温度プログラム:30℃から加熱レート10℃/minにて昇温
該熱収縮応力曲線から100℃の熱収縮力(mN)を読みとった。測定は3回行い、平均を求めた。
【0086】
(9)溶融張力
JIS K 7199(1999)に準じた装置を用い、以下の条件で測定を行った。
・装置:メルトテンションテスター付きキャピログラフ 1BPMD-i((株)東洋精機製)
・温度:230℃(保温チャンバー使用)
・ダイス:L=8(mm)、 D=2.095(mm)
・押出速度:20mm/分
・引取速度:15.7m/分
・サンプル質量:15~20g。
【0087】
(10)数平均分子量Mn、Z+1平均分子量Mz+1、分子量分布値
ポリオレフィンフィルムを1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、165℃で30分間攪拌し、溶解させた。その後、0.5μmフィルターを用いてろ過し、ろ液の分子量分布を測定し、対数分子量Log(M)が4.0及び、6.1のときの微分分布値を読み取った。
また、下記の標準試料を用いて作成した分子量の検量線を用いて、試料の数平均分子量、及びZ+1平均分子量を求めた。
・装置:高温GPC装置(機器No.HT-GPC-1、Polymer Laboratories製 PL-220)
・検出器:示差屈折率検出器 RI
・カラム:Shodex HT-G(ガードカラム)
Shodex HT-806M(2本)(φ8.0mm×30cm、昭和電工製)
・流速:1.0mL/min
・カラム温度:145℃
・注入量:0.200mL
・標準試料:東ソー製単分散ポリスチレン、東京化成製ジベンジル
(11)被着体への転写評価
ポリオレフィンフィルムおよび厚み20μmの日本ゼオン株式会社製“ゼオノアフィルム”(登録商標)を幅100mm、長さ100mmの正方形にサンプリングし、ポリオレフィンフィルムの表裏のうちSPkの小さい方の面と“ゼオノアフィルム”(登録商標)とが接触するように重ねて、それを2枚のアクリル板(幅100mm、長さ100mm)に挟んで、3kgの荷重をかけ、23℃の雰囲気下で24時間静置した。24時間後に、“ゼオノアフィルム”(登録商標)の表面(ポリオレフィンフィルムが接していた面)を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、表裏のSPkの値が同じ場合、平均表面粗さSaの値が小さい方の面を貼り合わせ面とした。更にSaの値が表裏で同じ値の場合、最大面粗さSzの小さい方の面を貼り合わせ面とした。
A:きれいであり、荷重をかける前と同等。
B:弱い凹凸が確認される。
C:強い凹凸が確認される。
【0088】
(12)フィルムの平面性
ポリオレフィンフィルムを、幅500mmで長さ200m分をコアに巻き取り、60℃のオーブン中で7日間加熱後に取り出し、室温に冷却後、コアに巻き取った500mm幅のポリオレフィンフィルムを1mだけ巻き出し、フリーテンション(フィルムの自重により垂直方向に垂らした状態)および、フィルム幅全体にまたムラ無く一様に1kg/m、及び3kg/mのテンションを付加し、凹みやうねりといった平面性不良箇所の有無を目視にて確認した。
S:フリーテンションで平面性不良の箇所がない。
A:フリーテンションでは平面性不良の箇所が見られ、1kg/m幅のテンションでは消えるもの。
B:1kg/m幅のテンションでは平面性不良の箇所が見られ、3kg/m幅のテンションでは消えるもの。
C:3kg/m幅のテンションでも平面性不良の箇所が消えないもの。
【0089】
(ポリプロピレン原料等)
実施例、比較例のポリオレフィンフィルムの製造に、下記の表1に示す、数平均分子量(Mn)、Z+1平均分子量(Mz+1)を有するポリプロピレン原料を使用した。なお、これらの値は、原料樹脂ペレットの形態で評価した値である。PP原料Aとして2種類、PP原料Bとして2種類の原料を用意した。また、分岐鎖状ポリプロピレン原料としては以下のものを使用した。
ポリプロピレン原料1(PP1):(株)プライムポリマー製
ポリプロピレン原料2(PP2):(株)プライムポリマー製
ポリプロピレン原料3(PP3):住友化学(株)製
ポリプロピレン原料4(PP4):(株)プライムポリマー製
分岐鎖状ポリプロピレン原料1(分岐PP1):メタロセン触媒系分岐鎖状ポリプロピレン原料(日本ポリプロ(株)製、溶融張力:13gf)
分岐鎖状ポリプロピレン原料2(分岐PP2):メタロセン触媒系分岐鎖状ポリプロピレン原料(日本ポリプロ(株)製、溶融張力:5gf)
分岐鎖状ポリプロピレン原料3(分岐PP3):チーグラーナッタ触媒系分岐鎖状ポリプロピレン原料(Basell社製、溶融張力:15gf)。
【0090】
【表1】
【0091】
ポリプロピレン原料D:ポリプロピレン原料3と4-メチル-1-ペンテン系重合体1(後述)を、90:10(質量比)となるように計量ホッパーから二軸押出機に供給し、260℃で溶融混練を行い、溶融した樹脂組成物をストランド状にダイから吐出して25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしたもの。
4-メチル-1-ペンテン系重合体1:三井化学(株)製 MX004
4-メチル-1-ペンテン系重合体2:三井化学(株)製 “TPX”(登録商標)EP0518(MFR=4g/10分(P=2.16Kg、230℃)
1-ブテン系重合体:三井化学(株)製 “タフマー”(登録商標)BL3450(MFR=12g/10分(荷重21.18N、230℃)、1-ブテン由来の構造単位:87モル%)。
【0092】
(実施例1)
表層(I)用の原料として、ポリプロピレン原料3とポリプロピレン原料Dを80:20(質量比)でドライブレンドして表層(I)層用の単軸の一軸押出機に供給した。基層(II)用の原料として、ポリプロピレン原料2、ポリプロピレン原料3、及び分岐鎖状ポリプロピレン原料1を70:27:7(質量比)でドライブレンドして内層(II)用の単軸の一軸押出機に供給した。それぞれの樹脂混合物について260℃で溶融押出を行い、20μmカットの焼結フィルタで異物を除去後、フィードブロック型のA/B/A複合Tダイにて、表層(I)/基層(II)/表層(I)が1/20/1の厚み比となるように積層し、15℃に表面温度を制御したキャスティングドラムに吐出してエアナイフによりキャスティングドラムに密着させた。その後、キャスティングドラム上のシートの非冷却ドラム面に、15℃の圧空エアを吹き出しエア速度140m/sで噴射させて冷却し、未延伸シートを得た。続いて、該未延伸シートをセラミックロールで108℃に予熱し、1段目の延伸として周速差を設けた108℃のロール間で長手方向に1.5倍の延伸を行った。続いて、2段目の延伸として146℃のロール間で長手方向に3.5倍の延伸を行った。次に、得られた一軸延伸フィルムを、幅方向両端部をクリップで把持させてテンター式延伸機に導入し、172℃で3秒間予熱後、152℃で幅方向に9.3倍に延伸し、幅方向に13%の弛緩を与えながら175℃で熱処理を行った。その後、100℃の冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム幅方向両端部のクリップを解放し、渡りにて123℃のホットロールで0.5秒間加熱した後、コアに巻き取って厚み15μmのポリオレフィンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表2に示す。
【0093】
(実施例2~6、比較例1,2)
各層の原料組成、製膜条件を表2のとおりとした以外は実施例1と同様にポリオレフィンフィルムを得た。このとき、厚みの調節は押出時の吐出量の調整やキャスティングドラムの速度調整にて行った。得られたフィルムの物性および評価結果を表2に示す。なお、表層の原料の混合については、実施例3、比較例1の表層(I)においては、ポリプロピレン原料3とポリプロピレン原料Dを70:30(質量比)でドライブレンドすることにより、比較例2の表層(I)においては、ポリプロピレン原料3とポリプロピレン原料Dを80:20(質量比)でドライブレンドすることにより行った。他の実施例の表層(I)及び基層(II)においてはポリプロピレン原料Dを用いずに、各樹脂成分を表2の比率でドライブレンドした。
【0094】
(比較例3)
ポリプロピレン原料4、4-メチルペンテン-1系重合体2、及び1-ブテン系重合体を84:15:1(質量比)でドライブレンドし、樹脂組成物aを得た。東洋精機社製ラボプラストミル(モデル4C150)に2軸押出機(ストランドダイ装備、L/D=25)を接続した試験機構成にて、得られた樹脂組成物aのドライブレンド物をホッパーから投入し、最高温度250℃にて溶融混合した。次いで、樹脂ストランドを生成させ、連続して水冷後ストランドカッターを用いてペレットを作製し、メルトブレンド(溶融混合)された樹脂組成物aのペレットを得た。
【0095】
得られた樹脂組成物aを、表層(I)用原料として直径50mmのGMエンジニアリング社製 単軸押出機GM50にホッパーから投入し、一方、基層(II)用原料としてポリプロピレン原料4のみを直径65mmのGMエンジニアリング社製 単軸押出機GM65に投入して、それぞれ250℃にて溶融した。その後、マルチマニホールドダイ(幅300mm)から表層(I)/基層(II)/表層(I)の構成となるように厚み比1:30:1の溶融樹脂シートとして押出したのち、表面温度40℃の冷却ドラム上で、エア温度を30℃としたエアナイフを用いて空気圧で押しつけながら、溶融樹脂シートを冷却固化させ、未延伸シートを得た。次いで、ブルックナー社製バッチ式二軸延伸機KARO IVを用いて、予熱温度162℃、予熱時間2分、延伸温度162℃、延伸速度100%/秒の延伸条件で長手方向に5倍、幅方向に9倍延伸し、熱セット条件162℃、30秒にて処理した後、得られたフィルムを30℃で冷却して厚み20μmのポリオレフィンフィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
なお、製膜条件における「-」は該当する工程が存在しないことを示す。また、比較例3のみ同時二軸延伸であり、同時二軸延伸においては、多段階延伸はしていない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
上述のとおり、本発明のポリオレフィンフィルムは、包装用フィルム、表面保護フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品や、コンデンサ用フィルムなど様々な工業用途で用いることができるが、特に表面平滑性に優れることから、表面保護フィルム、工程フィルム、離型用フィルム、コンデンサ用フィルムとして好ましく用いることができる。
図1