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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】電動機の固定子、及び、電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/20 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
H02K1/20 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022522526
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021006975
(87)【国際公開番号】W WO2021229888
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2020086027
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/革新的ハイブリッドの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】関 直喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 史典
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/154944(WO,A1)
【文献】特開平11-234157(JP,A)
【文献】特開平11-103549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平角線導体が巻かれたコイルと、
前記コイルの一部を収容するスロットを有する固定子コアと、
前記スロットの壁部と当該壁部に対向する前記コイルの外面とに挟まれた位置に設けられ、冷媒を流通させる流路部と、を備え、
前記冷媒の導入口から導出口に至るまでの前記流路部の延伸形状は、前記固定子コアの軸方向に沿って変化する、電動機の固定子。
【請求項2】
前記流路部は、前記スロットの前記壁部に形成された凹部である、請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項3】
前記スロットの前記壁部における前記凹部に隣接する壁面は、絶縁部材を介して前記コイルに接触する、請求項2に記載の電動機の固定子。
【請求項4】
前記スロットの前記壁部と当該壁部に対向する前記コイルの外面との間にスペーサーを備え、
前記流路部は、前記スペーサーの外周部に形成された凹部である、請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項5】
前記凹部は、前記コイルの前記外面と対向する前記外周部に形成され、
前記スペーサーの前記外周部における前記凹部に隣接する外周面は、前記コイルに接触する、請求項4に記載の電動機の固定子。
【請求項6】
前記平角線導体は、前記固定子コアの前記軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、
前記凹部は、前記放射方向では、前記平角線導体の厚みを一単位として、前記平角線導体ごとに対向する、請求項2~5のいずれか1項に記載の電動機の固定子。
【請求項7】
前記流路部は、前記平角線導体の側面部に形成された複数の凹部の組み合わせである、請求項1に記載の電動機の固定子。
【請求項8】
前記平角線導体の前記側面部における前記凹部に隣接する側面は、絶縁部材を介して前記スロットの前記壁部に接触する、請求項7に記載の電動機の固定子。
【請求項9】
前記平角線導体は、前記固定子コアの前記軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、
前記凹部は、前記放射方向では、前記平角線導体の厚みを一単位として形成される、請求項7又は8に記載の電動機の固定子。
【請求項10】
平角線導体が巻かれたコイルと、
前記コイルの一部を収容するスロットを有し、軸方向に複数の積層した電磁鋼板を備える固定子コアと、
前記スロットの壁部に形成され、冷媒を流通させる流路部と、を備え、
前記電磁鋼板には、それぞれ前記電磁鋼板の厚みを一単位とした凹部が形成され、
前記流路部は、前記凹部の組み合わせで形成される流路を含み、
前記凹部は、前記電磁鋼板ごとに位置、大きさ又は個数が異なる、電動機の固定子。
【請求項11】
前記平角線導体は、前記固定子コアの前記軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、
前記凹部の組み合わせパターンは、前記放射方向では、前記平角線導体の厚みを一単位として規定される、請求項10に記載の電動機の固定子。
【請求項12】
前記凹部の組み合わせパターンは、同一の位置、大きさ及び個数の前記凹部を有する複数の前記電磁鋼板の第1組と、同一の位置、大きさ及び個数の前記凹部を有する複数の前記電磁鋼板の第2組とが積層されることで規定され、
前記第1組に含まれる前記凹部と、前記第2組に含まれる前記凹部とでは、位置、大きさ及び個数のうちの少なくともいずれかが異なる、請求項10又は11に記載の電動機の固定子。
【請求項13】
平角線導体が巻かれたコイルと、
前記コイルの一部を収容するスロットを有する固定子コアと、
前記平角線導体の側面部に形成され、冷媒を流通させる流路部と、を備え、
前記流路部は、前記平角線導体に形成された複数の凹部の組み合わせであり、
前記平角線導体は、前記固定子コアの軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、
前記スロットでは、前記凹部が形成されている前記平角線導体と、前記凹部が形成されていない前記平角線導体とが互いに積層されている、動機の固定子。
【請求項14】
固定子と、
前記固定子で発生した磁界により回転する回転子と、を備え、
前記固定子は、請求項1~13のいずれか1項に記載の固定子である、電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機の固定子、及び、それを用いた電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷媒を用いて固定子を冷却する冷却機構を備えた電動機がある。特許文献1は、固定子を構成する複数のティース部において、ティース部ごとに平角線導体を複数列に巻いた複数の巻線を形成して、巻線同士の間に冷媒流路を設けた電動機の固定子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-242368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている固定子では、ティース部ごとに巻線を複数列に形成されているが、冷却効率を向上させるためには、更なる改良の余地がある。
【0005】
本開示は、冷却効率を向上させるのに有利となる固定子、及び、それを用いた電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様に係る固定子は、平角線導体が巻かれたコイルと、コイルの一部を収容するスロットを有する固定子コアと、スロットの壁部と当該壁部に対向するコイルの外面とに挟まれた位置に設けられ、冷媒を流通させる流路部と、を備え、冷媒の導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、固定子コアの軸方向に沿って変化する。
【0007】
上記の固定子では、流路部は、スロットの壁部に形成された凹部であってもよい。スロットの壁部における凹部に隣接する壁面は、絶縁部材を介してコイルに接触してもよい。上記の固定子は、スロットの壁部と当該壁部に対向するコイルの外面との間にスペーサーを備え、流路部は、スペーサーの外周部に形成された凹部であってもよい。凹部は、コイルの外面と対向する外周部に形成され、スペーサーの外周部における凹部に隣接する外周面は、コイルに接触してもよい。平角線導体は、固定子コアの軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、凹部は、放射方向では、平角線導体の厚みを一単位として、平角線導体ごとに対向してもよい。流路部は、平角線導体の側面部に形成された複数の凹部の組み合わせであってもよい。平角線導体の側面部における凹部に隣接する側面は、絶縁部材を介してスロットの壁部に接触してもよい。平角線導体は、固定子コアの軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、凹部は、放射方向では、平角線導体の厚みを一単位として形成されてもよい。
【0008】
本開示の第2の態様に係る固定子は、平角線導体が巻かれたコイルと、コイルの一部を収容するスロットを有し、軸方向に複数の積層した電磁鋼板を備える固定子コアと、スロットの壁部に形成され、冷媒を流通させる流路部と、を備え、電磁鋼板には、それぞれ電磁鋼板の厚みを一単位とした凹部が形成され、流路部は、凹部の組み合わせで形成される流路を含み、凹部は、電磁鋼板ごとに位置、大きさ又は個数が異なる。
【0009】
上記の固定子では、平角線導体は、固定子コアの軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、凹部の組み合わせパターンは、放射方向では、平角線導体の厚みを一単位として規定されてもよい。凹部の組み合わせパターンは、同一の位置、大きさ及び個数の凹部を有する複数の電磁鋼板の第1組と、同一の位置、大きさ及び個数の凹部を有する複数の電磁鋼板の第2組とが積層されることで規定され、第1組に含まれる凹部と、第2組に含まれる凹部とでは、位置、大きさ及び個数のうちの少なくともいずれかが異なってもよい。
【0010】
本開示の第3の態様に係る固定子は、平角線導体が巻かれたコイルと、コイルの一部を収容するスロットを有する固定子コアと、平角線導体の側面部に形成され、冷媒を流通させる流路部と、を備え、流路部は、平角線導体に形成された複数の凹部の組み合わせであり、平角線導体は、固定子コアの軸方向と直交する放射方向に沿って積層され、スロットでは、凹部が形成されている平角線導体と、凹部が形成されていない平角線導体とが互いに積層されている。
【0012】
また、本開示の一態様に係る電動機は、固定子と、固定子で発生した磁界により回転する回転子と、を備え、固定子は、上記の固定子である。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、冷却効率を向上させるのに有利となる固定子、及び、それを用いた電動機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、いくつかの実施形態に係る電動機の構成を示す側面図である。
図2図2は、図1のII-II部に対応した第1実施形態に係る固定子の断面図である。
図3図3は、図2のIII-III部に対応した第1実施形態に係る固定子の断面図である。
図4図4は、第1実施形態の変形例としての固定子の断面図である。
図5図5は、第2実施形態に係る固定子の断面図である。
図6図6は、図5のVI-VI部に対応した第2実施形態に係る固定子の断面図である。
図7図7は、第2実施形態の変形例としての固定子の断面図である。
図8図8は、第3実施形態に係る固定子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、例示的ないくつかの実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、各実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。また、実質的に同一の機能および構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素については図示を省略する。
【0016】
(電動機)
図1は、以下で詳説するいずれかの固定子を備える、いくつかの実施形態に係る電動機1の構成を示す断面図である。電動機1は、固定子2と、回転子3と、ケース4とを備える。電動機1は、固定子2で発生した磁界により回転子3を回転させる。本実施形態に係る電動機1は、冷媒Cを流通させることにより固定子2を冷却する冷却機構を有する。
【0017】
固定子2は、固定子コア10と、コイル40とを備える。なお、図1では、回転子3の上方側に描画されている固定子コア10は、コイル40を含む部分での断面を示している。一方、下方に描画されている固定子コア10は、コイル40を含まない部分での断面を示している。固定子コア10は、全体として筒状であり、磁性体からなる板材としての電磁鋼板10aを軸方向に複数積層した積層体である。コイル40は、平角線導体41を複数層に巻いた巻線である。本実施形態に係る固定子2は、冷媒Cを流通させる流路部を有するが、固定子2の具体的な構造等については、以下で詳説する。
【0018】
回転子3は、固定子2の内側空間に配置され、不図示の電磁鋼板を軸方向に複数積層した円筒状の電機子鉄心3aと、回転軸3bとを備える。電機子鉄心3aは、不図示であるが、永久磁石を有する。回転軸3bは、電機子鉄心3aの軸中心部分には形成されている挿入穴に圧入されている。
【0019】
ケース4は、回転軸3bの少なくとも一方の先端部を外部に露出させた状態で、固定子2及び回転子3を内部に収容する。ケース4は、金属製であり、外周壁部4aと、内周壁部4bと、第1底壁部4dと、第2底壁部4eとを有する。外周壁部4aは、内側に固定子2の外周部を圧入させることで固定子2を結合保持する筒状部材である。内周壁部4bは、外周壁部4aの内側にあり、固定子2と回転子3との間の空間に含まれる外径及び内径を有する筒状部材である。ただし、内周壁部4bは、おおよそ固定子コア10の内周部に対向する位置に穴部4cを有する。穴部4cは、樹脂壁5により埋められる。このとき、穴部4cを覆った樹脂壁5は、固定子コア10とは接触し、回転子3とは接触しない。第1底壁部4dは、外周壁部4aと内周壁部4bとの一方の開口端に、例えば溶接により接続される板状部材である。第1底壁部4dは、回転軸3bが貫通する開口部に、第1軸受6を備える。第1軸受6は、回転軸3bの一方の端部を回転自在に支持する。第2底壁部4eは、第1底壁部4dと軸方向で対向し、外周壁部4aと内周壁部4bとの他方の開口端に、例えば溶接により接続される板状部材である。第2底壁部4eは、回転軸3bが貫通する開口部に、第2軸受7を備える。第2軸受7は、回転軸3bの他方の端部を回転自在に支持する。
【0020】
固定子2が上記のように外周壁部4aと内周壁部4bとに対して密に設置されることで、ケース4の内部には、固定子コア10の軸方向の一方の端部に面する第1環状空間S1と、固定子コア10の軸方向の他方の端部に面する第2環状空間S2とが形成される。ケース4は、外周壁部4aに、第1環状空間S1と外部とで連通し、外部に設置された冷媒供給部から冷媒Cを流入させる流入口部4fを備える。一方、ケース4は、外周壁部4aに、第2環状空間S2と外部とで連通し、外部に設置された冷媒回収部へ冷媒Cを流出させる流出口部4gを備える。固定子2は、冷媒Cを流通させる流路部を有するので、流入口部4fを介して外部から第1環状空間S1に流入した冷媒Cは、第1環状空間S1から固定子2内の流路部に導入される。そして、固定子2内の流路部を流通してきた冷媒Cは、第1環状空間S1とは反対側にある第2環状空間S2に導出されて、最終的に、流出口部4gを介して第2環状空間S2から外部に流出する。電動機1は、このように冷媒Cを流通させることで、コイル40で発生した熱を冷媒Cに吸収させることができるので、固定子2の昇温を抑えることができる。つまり、固定子2に形成されている流路部と、第1環状空間S1及び第2環状空間S2とを含む、冷媒Cの流路全体が、本実施形態に係る電動機1に含まれる冷却機構である。
【0021】
なお、本実施形態で採用し得る冷媒Cは、特に限定されるものではなく、窒素ガス等の気体やオイルなどの種々の冷媒を採用することができる。
【0022】
(固定子の第1実施形態)
次に、上記例示したような電動機1に適用し得る、第1実施形態に係る固定子2について説明する。図2は、図1におけるII-II部に対応する、固定子2を軸方向に対して垂直な面で切断した一部断面図である。なお、図2では、ケース4や樹脂壁5の描画を省略している。固定子2が固定子コア10とコイル40とを備える点については、上記のとおりである。
【0023】
固定子コア10は、それぞれ、固定子2の軸方向に沿って設けられ、コイル40の一部を収容する複数のスロット23を有する。また、固定子コア10は、互いに連続するコイル40を各々のスロット23に取り付けるために、複数のコア部材を組み合わせて構成される。本実施形態では、固定子コア10は、複数のティース部20と、1つの筒状部30とを含む。複数のティース部20は、それぞれ、固定子コア10の中心軸に対して等距離で、かつ、互いに周方向に等間隔で配置される。この場合、各々のスロット23は、互いに隣り合うティース部20同士の間に形成される空間である。筒状部30は、環状に組み合わされた複数のティース部20を内周側で保持する。各々のティース部20が組み合わされて形成される環状体の内周面21は、回転子3の電機子鉄心3aの外周面と対向する。一方、各々のティース部20が組み合わされて形成される環状体の外周面22は、筒状部30の内周面と接触する。ここで、各々のティース部20は、筒状部30の内周部に対向する面に、先端部が根元部よりも広い凸部22aを有する。これに対して、筒状部30は、内周部に、各々のティース部20に設けられている凸部22aをそれぞれ係合させることができる複数の凹部31を有する。これにより、筒状部30は、各々のティース部20を安定して保持することができる。
【0024】
なお、図2では、固定子コア10の一部として、周方向で互いに隣り合う2つのスロット23と、これらのスロット23を形成する3つのティース部、すなわち、第1ティース部20a、第2ティース部20b及び第3ティース部20cを例示している。
【0025】
コイル40を構成する平角線導体41は、固定子コア10の軸方向と直交する放射方向に沿って積層されている。図2では、一例として、1つのスロット23において、平角線導体41が計8つの層として積層されている場合を例示している。つまり、この例での平角線導体41は、最も外周側に位置する第1層41aから、内周側に向かって順に、第2層41b、第3層41c、第4層41d、第5層41e、第6層41f、第7層41g及び第8層41hの8つの層が存在する。以下、平角線導体41の厚みをT41と表記する。ここで、各々のスロット23には、内周面21から回転子3側に向かって開放される空間部が含まれる。コイル40は、スロット23に設置された後、これらの空間部に樹脂材60が充填されることで、スロット23に対して密着して固定される。
【0026】
また、固定子2は、スロット23ごとに、固定子コア10とコイル40との間に設置される絶縁部材50を備える。絶縁部材50は、例えば絶縁紙である。
【0027】
さらに、固定子2は、スロット23ごとに、第1環状空間S1に面する軸方向の一方の端部から第2環状空間S2に面する軸方向の他方の端部に向かって冷媒Cを流通させる流路部を備える。流路部は、スロット23の壁部と、当該壁部に対向するコイル40の外面とに挟まれた位置に設けられる。ここで、スロット23の壁部とは、基本的には、固定子コア10の周方向でコイル40の外面と対向する壁部をいう。そして、固定子コア10における冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、固定子コア10の軸方向に沿って変化する。つまり、軸方向に沿って軸方向に直交する断面の形状を見た場合に、流路部の断面形状・位置は、軸方向に沿って変化する。換言すれば、流路部の断面形状は、部分的に、軸方向で変化しない領域を含んでいてもよい。
【0028】
図3は、図2におけるIII-III部に対応する、固定子2を、軸方向と当該軸方向と直交する放射方向とに沿った面で切断した一部断面図である。
【0029】
本実施形態における流路部は、スロット23の壁部に形成された凹部24である。凹部24の形状は、延伸形状が固定子コア10の軸方向に沿って変化するとの条件を満たせば、種々設定され得る。図3に示す例では、凹部24の形状、すなわち、凹部24の組み合わせパターンは、以下のような基準に基づいて規定されている。
【0030】
第1に、凹部24の組み合わせパターンは、固定子コア10の軸方向と直交する放射方向では、平角線導体41の厚みT41を一単位として規定されてもよい。例えば、凹部24の放射方向の幅W24は、平角線導体41の厚みT41と同等である。また、凹部24は、放射方向では、平角線導体41ごとに対向する。例えば、図2において、第1ティース部20aと第2ティース部20bとに挟まれた位置にあるスロット23を参照する。第1ティース部20aに形成されている凹部24のうち、図2に描画されている部分の4つの凹部24は、平角線導体41のうちの第1層41a、第3層41c、第5層41e及び第7層41gのいずれかの側面と対向している。同様に、第2ティース部20bに形成されている凹部24のうち、図2に描画されている部分の4つの凹部24は、平角線導体41のうちの第2層41b、第4層41d、第6層41f及び第8層41hのいずれかの側面と対向している。
【0031】
上記のように凹部24が形成されている場合、スロット23の壁部には、凹部24に隣接して複数の凸部25が存在する。換言すれば、凸部25は、凹部24が形成された際にスロット23の壁部に残存した部位である。本実施形態では、スロット23の壁部において凹部24に隣接する壁面、すなわち、凸部25の壁面25aは、図2に示すように、絶縁部材50を介してコイル40に接触する。この場合、放射方向では、凸部25の幅W25は、平角線導体41の厚みT41と同等であり、かつ、平角線導体41ごとに対向する。例えば、図2において、第1ティース部20aと第2ティース部20bとに挟まれた位置にあるスロット23を参照する。第1ティース部20aに存在する壁面25aのうち、図2に描画されている部分の4つの壁面25aは、平角線導体41のうちの第2層41b、第4層41d、第6層41f及び第8層41hのいずれかの側面に絶縁部材50を介して接触している。同様に、第2ティース部20bに存在する壁面25aのうち、図2に描画されている部分の4つの壁面25aは、第1層41a、第3層41c、第5層41e及び第7層41gのいずれかの側面に絶縁部材50を介して接触している。
【0032】
第2に、凹部24の組み合わせパターンは、固定子コア10の軸方向では、固定子コア10を形成する電磁鋼板10aの厚みT10を一単位として規定されてもよい。電磁鋼板10aごとに形成された凹部24を組み合わせることで、全体としての流路部を構成することができる。なお、図3では、電磁鋼板10aが破線で示されている。本実施形態で採用される電磁鋼板10aの厚みT10は、2mm程度ある。
【0033】
本実施形態では、凹部24の延伸形状が軸方向に沿って変化するとの条件を、電磁鋼板10aごとに凹部24の位置、大きさ又は個数を異ならせることで満足させる。図3に示す例では、凹部24の組み合わせパターンには、それぞれ、複数の電磁鋼板10aからなり、かつ、形成されている凹部24の位置、大きさ及び個数が同一である、第1組U1と、第2組U2と、第3組U3とが含まれる。また、第1組U1と第2組U2と第3組U3とを互いに比較すると、それぞれに形成されている凹部24の位置、大きさ又は個数は、組ごとに異なる。
【0034】
具体的には、第1組U1及び第2組U2は、それぞれ、同一形状の5つの電磁鋼板10aを積層した組である。ここで、第1組U1と第2組U2とでは、凹部24の大きさ及び個数(本実施形態では4つ)は同一であるが、凹部24の位置は、固定子コア10の放射方向では凹部24の幅W24分、互いにズレている。つまり、軸方向では、凹部24と凸部25とが交互に存在することになる。一方、第3組U3は、第1組U1と第2組U2とに挟まれた位置に存在する。そして、第3組U3に含まれる凹部24は、コイル40の側面全体に対向するスロット23の壁部全体が切り欠かれた形状を有する。つまり、第3組U3に形成されている凹部24は、第1組U1に形成されている4つの凹部24と、第2組U2に形成されている4つの凹部24とを連続させている。
【0035】
上記のように規定された凹部24の組み合わせパターンによれば、固定子2の軸方向の一方の側から凹部24に導入された冷媒Cは、合流と分岐とを繰り返して複雑に進行方向を変えながら、固定子2の軸方向の他方の側に向けて流通する。
【0036】
一方、固定子コア10における冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、図3に示すような凹部24の組み合わせパターン以外にも、種々あり得る。
【0037】
図4は、図3に示した凹部24の組み合わせパターンを変形した、本実施形態における別例としての凹部24の組み合わせパターンを示す図である。なお、図4は、図3に合わせた固定子2の一部断面図として描かれている。
【0038】
上記の第1組U1、第2組U2及び第3組U3と同様に、図4に示す例では、凹部24の組み合わせパターンには、第1組U11と、第2組U12と、第3組U13とが含まれる。具体的には、第1組U11及び第2組U12は、それぞれ、同一形状の5つの電磁鋼板10aを積層した組である。ここで、第1組U11と第2組U12とでは、凹部24の大きさ及び個数(本実施形態では2つ)は同一であるが、凹部24の位置は、固定子コア10の放射方向では凹部24の幅W24分、互いにズレている。つまり、軸方向では、凹部24と凸部25とが交互に存在することになる。一方、第3組U13は、第1組U11と第2組U12とに挟まれた位置に存在する。そして、第3組U13に含まれる凹部24は、第1組U11に形成されている1つの凹部24と、第2組U12に形成されている1つの凹部24とを連続させるために必要な形状を有する。特に、図4に示すような凹部24の組み合わせパターンでは、複数の平角線導体41のうちのいずれにも凹部24が対向しない部分が生じ得る。図4の描画を参照すると、第1ティース部20aにあるスロット23の壁部において、平角線導体41のうちの第1層41a、第2層41b、第6層41f及び第7層41gのいずれかと対向する部分には、凹部24が形成されていない。
【0039】
図4に示される凹部24の組み合わせパターンによれば、固定子2の軸方向の一方の側から凹部24に導入された冷媒Cは、蛇行しながら、固定子2の軸方向の他方の側に向けて流通する。
【0040】
次に、固定子2及び固定子2を用いた電動機1による作用・効果について説明する。
【0041】
本実施形態に係る固定子2は、平角線導体41が巻かれたコイル40と、コイル40の一部を収容するスロット23を有する固定子コア10とを備える。また、固定子2は、スロット23の壁部と当該壁部に対向するコイル40の外面とに挟まれた位置に設けられ、冷媒Cを流通させる流路部を備える。冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、固定子コア10の軸方向に沿って変化する。
【0042】
まず、固定子2によれば、固定子コア10に備えられた流路部に冷媒Cを流通させることができるので、コイル40で発生した熱を冷媒Cに吸収させて、固定子2を冷却することができる。
【0043】
また、固定子2によれば、冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、固定子コア10の軸方向に沿って変化する。したがって、流路部が、例えば直線状に延伸する場合と比べて、冷媒Cの流れが乱流となりやすく、また、コイル40の外面形状に合わせて広く流路部を這わせやすくなくため、冷却効率が向上する。
【0044】
このように、本実施形態によれば、冷却効率を向上させるのに有利となる固定子2を提供することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る固定子2によれば、流路部は、スロット23の壁部と当該壁部に対向するコイル40の外面とに挟まれた位置に設けられる。したがって、本実施形態における流路部が存在しない場合と比べて、固定子2の構成要素の形状を大きく変更しなくてもよく、場合によっては、固定子2の構成要素を増加させなくてもよい。
【0046】
また、本実施形態に係る電動機1は、固定子2と、固定子2で発生した磁界により回転する回転子3とを備える。
【0047】
本実施形態によれば、上記説明したような効果を奏する固定子2を備えるので、冷却効率を向上させるのに有利となる電動機1を提供することができる。ひいては、このような電動機1によれば、小型化や高出力化に有利となり得る。
【0048】
また、固定子2では、流路部は、スロット23の壁部に形成された凹部24であってもよい。
【0049】
このような固定子2によれば、凹部24をスロット23の壁部に形成するので、凹部24の形状を所望の形状に設定しやすい。また、この場合には、流路部を固定子2に設けるに際して更なる構成要素を要しないので、固定子2の構造の簡略化に寄与し得る。
【0050】
また、固定子2では、スロット23の壁部における凹部24に隣接する壁面25aは、絶縁部材50を介してコイル40に接触してもよい。
【0051】
このような固定子2によれば、スロット23の壁部とコイル40の外面とに挟まれた位置に流路部を設けたとしても、固定子コア10は、コイル40を強固に支持することができる。
【0052】
また、固定子2では、平角線導体41は、固定子コア10の軸方向と直交する放射方向に沿って積層される。このとき、凹部24は、放射方向では、平角線導体41の厚みT41を一単位として、平角線導体41ごとに対向してもよい。
【0053】
このような固定子2によれば、凹部24の各部が、個々の発熱源である複数層の平角線導体41に対して直接的に対向するので、冷却効率をより向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態に係る固定子2は、平角線導体41が巻かれたコイル40と、コイル40の一部を収容するスロット23を有し、軸方向に複数の電磁鋼板10aを互いに積層して形成される固定子コア10とを備える。また、固定子2は、スロット23の壁部に形成され、冷媒Cを流通させる流路部を備える。電磁鋼板10aには、それぞれ電磁鋼板10aの厚みT10を一単位とした凹部24が形成される。流路部は、凹部24の組み合わせで形成される流路を含む。凹部24は、電磁鋼板10aごとに位置、大きさ又は個数が異なる。
【0055】
このような固定子2によれば、流路部が、固定子コア10を形成する電磁鋼板10aの厚みT10を一単位として規定されるので、固定子コア10の製造時には、流路部の形状を確定させやすい。なお、電磁鋼板10aに凹部24を形成するタイミングとしては、固定子コア10を組み立てる前に予め個々の電磁鋼板10aに凹部24が形成されていてもよいし、又は、固定子コア10が組み立てられた後に凹部24が形成されてもよい。また、凹部24は、電磁鋼板10aごとに位置、大きさ又は個数が異なるので、各々の電磁鋼板10aに形成されている複数の凹部24を組み合わせて流路部を構成しても、流路部に延伸形状は、少なくとも直線状にはならない。したがって、冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状を、確実に、固定子コア10の軸方向に沿って変化させることができる。
【0056】
また、固定子2では、平角線導体41は、固定子コア10の軸方向と直交する放射方向に沿って積層される。このとき、凹部24の組み合わせパターンは、放射方向では、平角線導体41の厚みT41を一単位として規定されてもよい。
【0057】
このような固定子2によれば、凹部24が電磁鋼板10aの厚みT10を一単位として規定されたとしても、凹部24の各部を、個々の発熱源である複数層の平角線導体41に対して直接的に対向するように形成することができる。
【0058】
さらに、固定子2では、凹部24の組み合わせパターンは、同一の位置、大きさ及び個数の凹部24を有する複数の電磁鋼板10aの第1組と、同一の位置、大きさ及び個数の凹部24を有する複数の電磁鋼板10aの第2組とが積層されることで規定される。このとき、第1組に含まれる凹部24と、第2組に含まれる凹部24とでは、位置、大きさ及び個数のうちの少なくともいずれかが異なってもよい。
【0059】
このような固定子2によれば、例えば、固定子コア10が組み立てられる前に、第1組を構成する形状の電磁鋼板10aと、第2組を構成する形状の電磁鋼板10aとを予め準備しておくことができる。このように、特定形状の凹部24を有するいくつかの電磁鋼板10aを準備しておくことで、その後、これらの電磁鋼板10aを組み合わせて、凹部24を組み合わせた流路部を含む固定子コア10を容易に製造することができる。
【0060】
(固定子の第2実施形態)
次に、上記例示したような電動機1に適用し得る、第2実施形態に係る固定子102について説明する。図5は、第1実施形態に関する図2と対比される、固定子102を軸方向に対して垂直な面で切断した一部断面図である。図6は、図5におけるVI-VI部に対応する、固定子102を、軸方向と当該軸方向と直交する放射方向とに沿った面で切断した一部断面図である。なお、図5及び図6では、第1実施形態に係る固定子2と同一の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0061】
固定子102は、第1実施形態に係る固定子2と同様に、スロット123ごとに、第1環状空間S1に面する軸方向の一方の端部から第2環状空間S2に面する軸方向の他方の端部に向かって冷媒Cを流通させる流路部を備える。本実施形態においても、流路部は、スロット123の壁部と、当該壁部に対向するコイル140の外面とに挟まれた位置に設けられる。また、冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、固定子コア110の軸方向に沿って変化する。ここで、第1実施形態における流路部は、スロット23の壁部に形成された凹部24である。これに対して、本実施形態における流路部は、平角線導体141の側面部に形成された複数の凹部143の組み合わせである。
【0062】
固定子コア110は、第1実施形態における固定子コア10に対応する部材である。固定子コア110の基本構造は、固定子コア10と同等である。ただし、図5に例示されている第1ティース部120a、第2ティース部120b及び第3ティース部120cのように、固定子コア110に含まれる複数のティース部120には、流路部となる凹部が形成されていない。
【0063】
コイル140は、第1実施形態におけるコイル40に対応する部材である。コイル140を構成する平角線導体141は、固定子コア110の軸方向と直交する放射方向に沿って積層されている。ここでも、図5では、一例として、1つのスロット123において、平角線導体141が計8つの層として積層されている場合を例示している。つまり、平角線導体141は、最も外周側に位置する第1層141aから、内周側に向かって順に、第2層141b、第3層141c、第4層141d、第5層141e、第6層141f、第7層141g及び第8層141hの8つの層が存在する。以下、平角線導体141の厚みをT141(図6参照)と表記する。
【0064】
平角線導体141に形成されている複数の凹部143の形状は、流路部の延伸形状が固定子コア110の軸方向に沿って変化するとの条件を満たせば、種々設定され得る。図6に示す例では、凹部143の形状は、以下のような基準に基づいて規定されている。
【0065】
第1に、複数の凹部143は、平角線導体141の積層方向では、平角線導体141の厚みT141を一単位として規定されてもよい。つまり、凹部143は、平角線導体141の側面部が積層方向に沿って全体が切り欠かれることで形成されることになる。
【0066】
第2に、複数の凹部143は、固定子コア110の軸方向では、互いに隣り合う同士の間隔を一定の間隔L2として、一定の長さL1で規定されてもよい。ここで、間隔L2は、長さL1よりも短い。また、長さL1及び間隔L2は、平角線導体141を巻いてコイル140を形成したときに、図6に示すように、第1層141aから第8層141hまでの間で積層方向に沿って1層おきに複数の凹部143同士が整列するように規定される。
【0067】
ここで、平角線導体141の各層のうち、積層方向に相互に隣接する位置に重ねられた部位を含む一方の層(以下「上位層」という。)と他方の層(以下「下位層」という。)に着目する。上位層に形成された凹部143と、下位層に形成された凹部143とは、積層方向で互いに重なっている。例えば、図6を参照し、上位層が第1層141aであり、下位層が第2層141bであるとすると、第1層141aに形成された凹部143と、第2層141bに形成された凹部143とが、第1領域R1で重なっている。これにより、冷媒Cが積層方向にわたり流通することができる。
【0068】
また、流路が軸方向に変化することから、図6に示すように、上位層と下位層との凹部143同士が積層方向で重ならない第2領域R2も含むことがある。つまり、下位層の凹部143の一部が、上位層の凹部143に対して突出した凸部を覆い得る。
【0069】
さらに、流路に、下位層の1つの凹部143が上位層の複数の凹部143を覆うパターンが含まれていてもよい。
【0070】
また、平角線導体141の側面部における凹部143に隣接する側面142、すなわち、間隔L2で表される側面は、絶縁部材50を介してスロット123の壁部に接触する。
【0071】
上記のように規定された複数の凹部143の組み合わせによれば、固定子102の軸方向の一方の側から凹部143に導入された冷媒Cは、合流と分岐とを繰り返して複雑に進行方向を変えながら、固定子102の軸方向の他方の側に向けて流通する。
【0072】
一方、固定子コア110における冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、図6に示すような凹部143の組み合わせ以外にも、種々あり得る。
【0073】
図7は、図6に示した凹部143の組み合わせを変更した、本実施形態における別例としての凹部143の組み合わせパターンを示す図である。なお、図7は、図6に合わせた固定子102の一部断面図として描かれている。
【0074】
図7に示す例では、1つのスロット123では、凹部143が図6と同様に形成されている平角線導体141と、凹部が形成されていない平角線導体141とが互いに積層されている。図7の描画を参照すると、第2ティース部120bにあるスロット123において、平角線導体141のうちの第1層141a、第2層141b、第5層141e及び第6層141fには、凹部が形成されていない。
【0075】
図7に示される凹部143の組み合わせによれば、固定子102の軸方向の一方の側から凹部143に導入された冷媒Cは、蛇行しながら、固定子102の軸方向の他方の側に向けて流通する。
【0076】
このような固定子102による作用・効果として、まず、第1実施形態に係る固定子2と同様に、スロット23の壁部と当該壁部に対向するコイル40の外面とに挟まれた位置に流路部を設けることができる。また、冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状を、固定子コア110の軸方向に沿って変化させることができる。したがって、本実施形態によれば、冷却効率を向上させるのに有利となる固定子102を提供することができる。
【0077】
また、固定子102では、流路部は、平角線導体141の側面部に形成された複数の凹部143の組み合わせであってもよい。
【0078】
このような固定子102によれば、流路部を設けるための加工は、平角線導体141の側面部に凹部143を形成する加工のみであるので、容易に、かつ、簡略的に、流路部を形成することができる。
【0079】
また、固定子102では、平角線導体141の側面部における凹部143に隣接する側面142は、絶縁部材50を介してスロット123の壁部に接触してもよい。
【0080】
このような固定子102によれば、スロット123の壁部とコイル140の外面とに挟まれた位置に流路部を設けたとしても、固定子コア110は、コイル140を強固に支持することができる。また、この場合には、流路部自体は、絶縁部材50を介さずにコイル140と面することになるので、冷却効率をより向上させる点で有利となり得る。
【0081】
さらに、固定子102では、平角線導体141は、固定子コア110の軸方向と直交する放射方向に沿って積層される。このとき、凹部143は、放射方向では、平角線導体141の厚みT141を一単位として形成されてもよい。
【0082】
また、本実施形態に係る固定子102は、平角線導体141が巻かれたコイル140と、コイル140の一部を収容するスロット123を有する固定子コア110とを備える。また、固定子102は、平角線導体141の側面部に形成され、冷媒Cを流通させる流路部を備える。流路部は、平角線導体141に形成された複数の凹部143の組み合わせである。
【0083】
このような固定子102によれば、上記のとおり、凹部143は、平角線導体141の側面部が積層方向に沿って全体が切り欠かれる形となるため、冷媒Cは、1つの凹部143を積層方向に横切って流通することができる。したがって、このような凹部143を複数組み合わせることで、全体として連続した流路部を容易に構成することができる。
【0084】
さらに、固定子102では、平角線導体141は、固定子コア110の軸方向と直交する放射方向に沿って積層される。このとき、スロット123では、凹部143が形成されている平角線導体141と、凹部が形成されていない平角線導体141とが互いに積層されていてもよい。
【0085】
このような固定子102によれば、流路部の形状を、例えば、図7に示したような蛇行形状とするなど、流路部の形状の選択の幅を広げることができる。
【0086】
(固定子の第3実施形態)
次に、上記例示したような電動機1に適用し得る、第3実施形態に係る固定子202について説明する。図8は、第1実施形態に関する図2、又は、第2実施形態に関する図6と対比される、固定子202を軸方向に対して垂直な面で切断した一部断面図である。なお、図8では、第1実施形態に係る固定子2、又は、第2実施形態に係る固定子102と同一の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0087】
固定子202は、第1実施形態に係る固定子2等と同様に、スロット123ごとに、第1環状空間S1に面する軸方向の一方の端部から第2環状空間S2に面する軸方向の他方の端部に向かって冷媒Cを流通させる流路部を備える。本実施形態においても、流路部は、スロット123の壁部と、当該壁部に対向するコイル40の外面とに挟まれた位置に設けられる。また、冷媒Cの導入口から導出口に至るまでの流路部の延伸形状は、固定子コア110の軸方向に沿って変化する。ここで、固定子202は、スロット123ごとに、スロット123の壁部と当該壁部に対向するコイル40の外面との間にスペーサー70を備える。そして、本実施形態では、流路部は、スペーサー70の外周部に形成された凹部74である。凹部74の組み合わせパターンは、例えば、第1実施形態における凹部24の組み合わせパターンと同様であってもよい。
【0088】
本実施形態に係る固定子202によれば、スペーサー70を有する分、構成要素が増えるものの、固定子コア110及びコイル40には流路部が形成されない。したがって、例えば、電動機1全体として、製造に要する時間や手間、ひいては製造コストの面などで有利となり得る。
【0089】
さらに、固定子202では、凹部74は、コイル40の外面と対向する外周部75に形成され、スペーサー70の外周部75における凹部74に隣接する外周面75aは、コイル40に接触してもよい。
【0090】
このような固定子202によれば、凹部74は、スペーサー70のうち、コイル40の外面と対向する外周部75に形成される。したがって、流路部自体は、絶縁部材50を介さずにコイル40と面することになるので、冷却効率をより向上させる点で有利となり得る。また、スペーサー70の外周部75における外周面75aがコイル40に接触する。したがって、スペーサー70が設けられたとしても、固定子コア110は、コイル40を強固に支持することができる。
【0091】
なお、上記の各実施形態では、流路部の形状を規定する凹部24の幅W24や凸部25の幅W25、又は、平角線導体141に形成される凹部143の長さL1や間隔L2などが、流路部全体として一定であるものとしている。しかし、本開示による固定子2等では、各部の寸法がこのように厳密に規定されるものに限定されない。すなわち、凹部24の組み合わせパターンの各部で幅W24や幅W25が異なっていてもよいし、平角線導体141の各部で凹部143の長さL1や間隔L2がことなっていてもよい。
【0092】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記の各実施形態のすべての構成要素、および請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0093】
特願2020-086027号(出願日:2020年5月15日)の全内容は、ここに援用される。
【符号の説明】
【0094】
1 電動機
2 固定子
3 回転子
10 固定子コア
10a 電磁鋼板
23 スロット
24 凹部
25a 壁面
40 コイル
41 平角線導体
50 絶縁部材
70 スペーサー
74 凹部
75 スペーサーの外周部
75a スペーサーの外周面
102 固定子
110 固定子コア
123 スロット
140 コイル
141 平角線導体
142 平角線導体の側面
143 凹部
202 固定子
C 冷媒
T10 電磁鋼板の厚み
T41 平角線導体の厚み
T141 平角線導体の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8