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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】膜の製造方法および導電性膜
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/02 20060101AFI20230926BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20230926BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20230926BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D7/24 301E
B05D7/24 303J
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022542830
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029149
(87)【国際公開番号】W WO2022034852
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2020136824
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡矩
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-22056(JP,U)
【文献】特開平11-244738(JP,A)
【文献】特開昭58-205556(JP,A)
【文献】特開2004-230243(JP,A)
【文献】特開昭54-71492(JP,A)
【文献】特開平6-93408(JP,A)
【文献】特開2003-272628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0240000(US,A1)
【文献】国際公開第2018/212044(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0009846(US,A1)
【文献】国際公開第2016/101450(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107393622(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05B 1/00-17/08
H01B 5/14、13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む膜の製造方法であって、
前記層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリーと、気体とをノズルから別々に吐出して、該ノズルの外部にて互いに衝突させ、前記層状材料の粒子を基材上に堆積させて膜を形成することを含む、膜の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーにおける前記層状材料の粒子の濃度が、30mg/mL以上である、請求項1に記載の膜の製造方法。
【請求項3】
前記ノズルが、該ノズルの外部にて前記スラリーと前記気体とを渦流にて衝突させる構成を有する、請求項1または2に記載の膜の製造方法。
【請求項4】
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、請求項1~3のいずれかに記載の膜の製造方法。
【請求項5】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性膜をX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下であり、前記導電性膜が、3000S/cm以上の導電率を有する、導電性膜。
【請求項6】
電極または電磁シールドとして使用される、請求項5に記載の導電性膜。
【請求項7】
請求項5または6に記載の導電性膜が得られる、請求項4に記載の膜の製造方法。
【請求項8】
前記導電性膜は、10000S/cm以上の導電率を有する、請求項5または6に記載の導電性膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜の製造方法および導電性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料、いわゆる二次元材料としてMXene、グラフェン、黒リンなどが注目されている。MXeneは、導電性を有する新規材料であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
MXeneなどの層状材料(二次元材料)の粒子は、スラリーの状態で、吸引ろ過に付すことにより、あるいは、スプレーコーティングにより、基材上に成膜できることが知られている(非特許文献1のFigure 7を参照のこと)。吸引ろ過に比べて、スプレーコーティングは、膜を工業的に製造するのに適している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mohamed Alhabeb et al., "Guidelines for Synthesis and Processing of Two-Dimensional Titanium Carbide (Ti3C2Tx MXene)", Chemistry of Materials, 2017, Volume 29, Issue 18, pp. 7633-7644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、層状材料(二次元材料)の粒子を含む膜を基材上に形成するために従来利用されていた吸引ろ過やスプレーコーティングでは、得られた膜中にて該粒子が比較的乱雑に積み重なって存在しており、必ずしも十分な配向性が得られていない(図9参照)。層状材料の粒子を含む膜は、膜中の層状材料の粒子の配向性によって、膜の物性が異なり得る。層状材料の特性を効果的に発現させるには、膜中の層状材料の粒子の配向性が高いほうが好ましいと考えられる。例えば、MXeneの場合、膜中のMXene粒子の配向性が高いほど、より高い導電率を有する導電性膜を得ることができると考えらえる。
【0006】
本発明の目的は、層状材料の粒子を含む膜であって、膜中の粒子の配向性が高い膜を製造することができる方法を提供することにある。本発明のもう1つの目的は、MXeneを含み、かつ、高い導電率を有する導電性膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む膜の製造方法であって、
前記層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリーと、気体とをノズルから別々に吐出して、該ノズルの外部にて互いに衝突させ、前記層状材料の粒子を基材上に堆積させて膜を形成することを含む、膜の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の1つの態様において、前記スラリーにおける前記層状材料の粒子の濃度が、30mg/mL以上であり得る。
【0009】
本発明の1つの態様において、前記ノズルが、該ノズルの外部にて前記スラリーと前記気体とを渦流にて衝突させる構成を有し得る。
【0010】
本発明の1つの態様において、前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み得る。
【0011】
本発明のもう1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜であって、
前記層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性膜をX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下であり、前記導電性膜が、3000S/cm以上の導電率を有する、導電性膜が提供される。
【0012】
本発明の1つの態様において、前記導電性膜が、電極または電磁シールドとして使用され得る。
【0013】
本発明の前記導電性膜が、本発明の前記膜の製造方法によって製造され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリーと、気体とをノズルから別々に吐出して、ノズルの外部にて互いに衝突させ、層状材料の粒子を基材上に堆積させることにより、層状材料の粒子を含む膜であって、膜中の粒子の配向性が高い膜を製造することができる。また、本発明によれば、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の粒子を含み、かつ、高い導電率を有する導電性膜も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の1つの実施形態における膜の製造方法を説明する概略模式図である。
図2】本発明の1つの実施形態において利用可能な外部混合式多流体ノズルの1つの例を説明する概略模式断面図である。
図3】本発明の1つの実施形態において利用可能な外部混合式多流体ノズルの別の例を説明する概略模式断面図である。
図4】本発明の1つの実施形態において利用可能な外部混合式多流体ノズルの更に別の例を説明する概略模式部分断面図である。
図5図4に示した外部混合式多流体ノズルの細部の例を説明する概略模式図であって、(a)は外部混合式多流体ノズルの概略模式分解図であり、(b)は外部混合式多流体ノズルの概略模式断面図である。
図6】本発明の1つの実施形態において製造される膜を説明する図であって、(a)は基材上の膜の概略模式断面図を示し、(b)は膜における層状材料の概略模式斜視図を示す。
図7】本発明の1つの実施形態において利用可能な層状材料であるMXeneの粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)MXene粒子を示す。
図8】内部混合式多流体ノズルの例を説明する概略模式図である。
図9】内部混合式多流体ノズルを使用して製造される膜を説明する図であって、基材上の膜の概略模式断面図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1:膜の製造方法)
以下、本発明の1つの実施形態における膜の製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1を参照して、本実施形態の膜の製造方法は、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む膜30の製造方法であって、
層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリー(流体)と、気体(別の流体)とをノズル20から別々に吐出して、該ノズル20の外部にて互いに衝突させ(これにより混合し)、層状材料の粒子を基材31上に堆積させて膜30を形成することを含む。
【0018】
より詳細には、本実施形態に利用可能なノズル20は、外部混合式多流体ノズルと称されるノズルである。本実施形態を限定するものではないが、図2~5に外部混合式多流体ノズルの様々な例を示す。ノズル20は、ノズル20の外部にてスラリーと気体とを渦流にて衝突させる構成を有するもの(図4~5を参照して後述する)が好ましい。
【0019】
図2を参照して、外部混合式多流体ノズル20aは、吐出方向が互いに角度(例えば、θ=10~170°)を成して対向配置された2流体ノズル部PおよびPを有する。これら2流体ノズル部PおよびPは、互いに独立して構成されていてもよいが、上流にて互いに接続されて全体として1つのノズルを構成していてもよい。ノズル20aを用いることにより、以下のようにして、スラリーSおよび気体Gの混合流体から、層状材料の粒子を含むミストMをスプレーすることができる。ノズル20aでは、スラリーSおよび気体Gが別々に吐出されて、まず、2流体ノズル部PおよびPの各々にて互いに衝突する(スラリーが微粒化される)。そして、2流体ノズル部PおよびPの各々にて形成された混合流体(第1の微粒化されたスラリーを含む)は、それぞれ2流体ノズル部PおよびPからそのまま前方に吐出され、交点Cまたはその近傍にて互いに衝突する(スラリーが更に微粒化される)。そして、交点Cまたはその近傍にて形成された混合流体(第2の微粒化されたスラリー)は、層状材料の粒子を含むミストMとして、ノズル20aからスプレーされる。かかる外部混合式多流体ノズル20aは、衝突型ノズル(例えば、株式会社いけうち製、霧のいけうち(登録商標)、AKIJet(登録商標)シリーズ)などであり得る。
【0020】
図3を参照して、外部混合式多流体ノズル20bは、2流体ノズル部PおよびPとエッジ部Eを有し、全体として1つのノズルとして構成され得る。ノズル20bを用いることにより、以下のようにして、スラリーSおよび気体Gの混合流体から、層状材料の粒子を含むミストMをスプレーすることができる。ノズル20bでは、スラリーSおよび気体Gが別々に吐出されて、まず、2流体ノズル部PおよびPの各々にて互いに衝突する(スラリーが微粒化される)。そして、2流体ノズル部PおよびPの各々にて形成された混合流体(第1の微粒化されたスラリーを含む)は、それぞれ2流体ノズル部PおよびPからエッジ部Eまでノズル表面に沿って流動し、エッジ部Eにて互いに衝突する(スラリーが更に微粒化される)。そして、エッジ部Eにて形成された混合流体(第2の微粒化されたスラリー)は、層状材料の粒子を含むミストMとして、ノズル20bからスプレーされる。かかる外部混合式多流体ノズル20bは、ツインジェットノズル(例えば、大川原化工機株式会社製、ツインジェットノズル RJシリーズ)、四流体ノズル(例えば、株式会社GF製、四流体ノズル)などであり得る。
【0021】
図4を参照して、外部混合式多流体ノズル20cは、ノズル20cの外部にてスラリーSと気体Gとを渦流にて衝突させる構成を有する、外部混合渦流式多流体ノズルである。より詳細には、外部混合式多流体ノズル20cは、スラリーSを吐出して、別途、渦流(好ましくは高速旋回渦流)として吐出した気体Gと衝突させるように構成されたヘッド部Hを有する。例えば、ノズル20cを用いることにより、以下のようにして、スラリーSおよび気体Gの混合流体から、層状材料の粒子を含むミストMをスプレーすることができる。ノズル20cでは、気体Gを、ヘッド部Hに組み込まれた旋回部材(図4に示さず)に設けられた1つ以上のスパイラル溝(図4に示さず)に通過させて、気体吐出口(図4に示さず)から吐出することにより、気体Gの高速旋回渦流が発生する。スラリーSは、気体Gによる高速旋回渦流の負圧により、スラリーS用に設けられたノズル20c内部の流体供給管に導入され、流体供給管の先端の流体吐出口(図4に示さず)から吐出される。そして、ノズル20cのヘッド部Hの前方で、流体吐出口から吐出されたスラリーSが、気体吐出口から吐出された気体Gによる高速旋回渦流と衝突する(スラリーが微粒化される)。ヘッド部Hの前方で形成された混合流体(微粒化されたスラリーを含む)は、層状材料の粒子を含むミストMとして、ノズル20cからスプレーされる。かかる外部混合式多流体ノズル20cは、外部混合渦流式多流体ノズル(例えば、株式会社アトマックス製、アトマックスノズル)などであり得る。
【0022】
図5は、外部混合式多流体ノズル20cの一例を示す(図5中、ノズルの上下を図4と反転して示す)。図5に示す例において、外部混合式多流体ノズル20cは、ノズルボディ21と中子部材25とから構成され得、ヘッド部Hは、ノズルボディ21の外側ヘッド部Hと中子部材25の内側ヘッド部Hとから構成され得る。ノズルボディ21は、気体供給口22、ノズル先端部23、および気体吐出口24を有し得る。中子部材25は、流体供給管26、流体吐出口27、流体吐出口27の近傍にて流体供給管26の周囲に設けられた旋回部材28、および旋回部材28に対して反対側にて流体供給管26の周囲に設けられたパッキン29を有し得る。旋回部材28には、複数のスパイラル溝(図5(a)参照)が設けられている。ノズルボディ21と中子部材25とを組み合わせて外部混合式多流体ノズル20cを構成した状態(図5(b)参照)では、ノズル先端部23の内面と旋回部材28の外面(スパイラル溝のない壁面を除く)とが接してスパイラル溝から成る気体流路(図5(b)に示さず)を形成し、気体供給口22より下方(ヘッド部Hと反対側)においてノズルボディ21と中子部材25とがパッキン29(ならびに、ノズルボディ21および中子部材25に互いに対応して設けられたネジ部)により気密的に嵌合する。気体Gは、気体供給口22から供給され、ノズルボディ21の内面と流体供給管26の外面との間の空間、そして旋回部材28のスパイラル溝を通り、渦流室Wを経て、気体吐出口24から高速旋回渦流の形態で吐出される。他方、スラリーSは、流体供給管26の内部を通って、流体供給管26の先端の流体吐出口27から吐出される。これにより、ヘッド部Hの前方で、流体吐出口27から吐出されたスラリーSが、気体吐出口24から吐出された気体Gによる高速旋回渦流と衝突する(スラリーが微粒化される)。ヘッド部Hの前方で形成された混合流体(微粒化されたスラリーを含む)は、層状材料の粒子を含むミストMとして、ノズル20cからスプレーされる。
【0023】
このようにして、ノズル20により、層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリーSと、気体Gとをノズル20から別々に吐出して、ノズル20の外部にて互いに衝突させることにより、スラリーSを極めて微粒で均質なミストMにすることができ、かつ、層状材料の粒子に強いせん断力を印加することができる。これにより、層状材料の粒子が凝集している場合には、凝集を解くことができ、層状材料の粒子が重なりあっている場合には、重なりを解くことができる。そして/あるいは、粒子が多層構造を有する粒子である場合には、層分離(デラミネーション)させることができる。
【0024】
スラリーSに含まれる層状材料の粒子は、実施形態2にて後述する所定の層状材料(MXene)の粒子であることが好ましい。しかしながら、層状材料はこれに限定されず、例えばグラフェン、グラファイト、黒リン、窒化ホウ素、硫化モリブデン、硫化タングステン、酸化グラフェンなどであってよく、これらの粒子の粒径は、適宜選択され得る。本発明において「層状材料」とは、2次元的な広がりを有する化合物を主成分とする材料(修飾/終端を有していても、添加剤等を比較的少量含んでいてもよい)であり、いわゆる二次元材料として理解されるものである。
【0025】
スラリーSは、層状材料の粒子10を液状媒体中に含む分散液および/または懸濁液であってよい。液状媒体は、水性媒体および/または有機系媒体であり得、好ましくは水性媒体である。水性媒体は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(水性媒体全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。有機系媒体は、例えばN-メチルピロリドン、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、エタノール、メタノール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、酢酸などであってよい。
【0026】
スラリーSにおける層状材料の粒子10の濃度は、例えば5mg/mL以上であり得るが、特に、上述のように粒子の凝集/重なりを解き、場合により層分離させることができるので、ノズル詰まりを招くことなく、30mg/mL以上にすることが可能である。スラリーSにおける層状材料の粒子10の濃度が高いほど、所望の厚さの膜30をより短時間で製造することができ、工業的量産に適する。層状材料の粒子10の濃度の上限は、適宜選択できるが、例えば、200mg/mL以下であり得る。層状材料の粒子10の濃度は、スラリーS中に層状材料の粒子10以外に固形分が存在しないと想定される場合はスラリーSにおける固形分濃度として理解され、固形分濃度は、例えば加熱乾燥重量測定法、凍結乾燥重量測定法、ろ過重量測定法などを用いて測定可能である。
【0027】
スラリーSは、ノズル20に対して加圧方式またはサクション方式のいずれで供給されてもよい。
【0028】
気体Gは、特に限定されず、例えば空気、窒素ガスなどであってよい。気体Gの圧力は適宜設定され得、例えば0.05~1.0MPa(ゲージ圧)であってよい。
【0029】
ミストMの粒径は、適宜調整され得、例えば1μm以上15μm以下であってよい。
【0030】
ノズル20からスプレーされたミストMは、基材31(より詳細には基材表面31a)上に供給(塗布)され(スプレーコーティング)、層状材料の粒子が基材31上に堆積されて膜30が形成される。ミストMに含まれる液体成分(スラリーSの液状媒体に由来する)は、基材31上に供給される間および/またはその後に、乾燥により少なくとも部分的に、好ましくは全部が、除去され得る。
【0031】
基材は、特に限定されず、任意の適切な材料から成り得る。基材は、例えば樹脂フィルム、金属箔、プリント配線基板、実装型電子部品、金属ピン、金属配線、金属ワイヤなどであってよい。
【0032】
乾燥は、自然乾燥(代表的には常温常圧下にて、空気雰囲気中に配置する)や空気乾燥(空気を吹き付ける)などのマイルドな条件で行っても、温風乾燥(加熱した空気を吹き付ける)、加熱乾燥、および/または真空乾燥などの比較的アクティブな条件で行ってもよい。
【0033】
ノズル20からのスプレー(前駆体の形成であり得る)および乾燥は、所望の膜厚さが得られるまで適宜繰り返してもよい。例えば、スプレーと乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してもよい。しかしながら、本実施形態によれば、粒子10を比較的高濃度で含むスラリーを利用できるので、1回のスプレー(および場合により乾燥)を実施するだけで、比較的厚い膜(例えば厚さ0.5μm以上)を得ることができ、所望の膜厚さが得られるまでに実施するスプレー(および場合により乾燥)の回数を低減することができる。
【0034】
これにより膜30が製造される。膜30は、層状材料の粒子10を含み、スラリーSの液状媒体に由来する成分が残留していても、実質的に存在していなくてもよい。
【0035】
図6に模式的に示すように、最終的に得られる膜30において層状材料の粒子10が比較的整列した状態で存在し、より詳細には、基材表面31a(換言すれば、膜30の主面)に対して、層状材料の二次元シート面(層状材料の層に平行な平面)が比較的揃っている(好ましくは平行である)粒子10が多い。すなわち、膜30中の粒子10の配向性が高い膜30を得ることができる。
【0036】
本発明者は、層状材料の粒子を含む膜を基材上に形成する従来のスプレーコーティングでは、内部混合式多流体ノズルが使用されていたことに着目した。図8を参照して、内部混合式多流体ノズル120では、層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリーSと、気体Gとは、ノズル120の内部で混合されて、ノズル120から一緒に吐出される(図示する態様では、スラリーSと気体Gとは、ノズル120内部の中央に配置されたニードルNに対して同心円状に供給されて吐出される)。内部混合式多流体ノズルを使用して得られる膜は、図9に模式的に示すように、基材表面31a(換言すれば、膜の主面)に対して、層状材料粒子が比較的乱雑に存在しており、配向性が低いという問題がある。また、層状材料の粒子を液状媒体中に含むスラリーを、内部混合式多流体ノズルを用いてスプレーコーティングしようとすると、スプレーされる液滴の肥大化(いわゆるボタ落ち)が発生したり、ノズル詰まりを頻繁に起こしたりするという問題もある。これらの問題は、スラリー中に存在し得る多層の層状材料の粒子にせん断力が印加されて単層化することによって、スラリーの粘度が顕著に増加し、このように粘度上昇したスラリーを内部混合式多流体ノズルで無理に吹き付けるために起こるものと思われる。ノズル詰まりを回避するには、粒子の濃度(固形分濃度)が低い(30mg/mL未満)スラリーしか使用できず、所望の厚さの膜を得るために長時間を要し、工業的量産に適さない。
【0037】
本発明者の研究によれば、内部混合式多流体ノズルを使用した場合、層状材料の粒子に印加されるせん断力が弱く、また粘度上昇したスラリーを吹き付ける勢いも弱いため、上記のような問題を招いているものと考えられる。
【0038】
これに対して、本実施形態によれば、上述のように外部混合式多流体ノズルを使用することにより、層状材料の粒子に強いせん断力を印加することができ、また粘度上昇したスラリーを吹き付ける勢いも強いため、高い配向性を有する膜を、工業的量産に適した方法で製造することができる。外部混合式多流体ノズルでは、高粘度のスラリーも容易に吹き付けられるため上述のような問題を生じないものと考えられる。これに対して、内部混合式多流体ノズルでは、単に吐出圧力を上げただけでは、外部混合式多流体ノズルと同様に高い配向性を有する膜を製造することはできない。
【0039】
本実施形態によれば、層状材料の粒子10の配向性が高い膜30を得ることができる。層状材料として導電性の材料(実施形態2にて後述する所定の層状材料(MXene)や、グラフェンなど)を使用して、本実施形態の方法で膜を製造した場合、配向性が低い他の方法(例えば内部混合式多流体ノズルを使用した方法や、ディップコートなど)で膜を製造した場合に比べて、高い配向性によって、高い導電率を達成することができ、例えば、任意の適切な電気デバイスにおける電極(例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体電極、センサ用電極、アンテナ用電極、電気分解用電極)や電磁シールド(EMIシールド)など、高い導電率が要求されるような用途に利用され得る。また、本実施形態の方法で膜を製造した場合(層状材料が、導電性か否かに関わらず)、配向性が低い他の方法で膜を製造した場合に比べて、高い配向性によって、高い熱伝導率を達成することができると考えられる。
【0040】
本実施形態の製造方法において、スラリーは、層状材料の粒子10および液状媒体から実質的に成っていてよく、かかるスラリー(MXeneスラリー)を用いて得られる膜は、層状材料の粒子および場合により残留する液状媒体に由来する成分を含み、他の成分(例えばいわゆるバインダ)を実質的に含まない。あるいは、本実施形態の製造方法において、スラリーは、層状材料の粒子10および液状媒体に加えて、任意の適切な成分を含んでいてよく、かかるスラリーを用いて得られる膜は、当該成分を更に含んでいてよい。当該他の成分は、例えばポリマーであってよく、スラリー(MXene-ポリマーコンポジットスラリー)におけるポリマーの含有割合は、使用するポリマーにより適宜選択され得る。ポリマーは、スラリーに使用される液状媒体に対して溶解および/または分散可能であり得、界面活性剤、分散剤、乳化剤等と共に使用されてもよい。ポリマーは、例えばポリウレタン(特に、水溶性および/または水分散性ポリウレタン)、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、アクリル酸系水溶性ポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアニリンスルホン酸、およびナイロンからなる群より選択される1種類以上のポリマーが好ましいが、これに限定されない。スラリー中(およびこれによって得られる膜中)のMXene粒子とポリマーとの質量比は、特に限定されないが、例えば1:4以下、好ましくは1:0.01~3であり得る。
【0041】
(実施形態2:導電性膜およびその製造方法)
以下、本発明の1つの実施形態における導電性膜およびその製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0042】
図6を参照して、本実施形態の導電性膜30は、所定の層状材料の粒子10を含み、導電性膜30をX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下であり、3000S/cm以上の導電率を有する。以下、その製造方法を通じて、本実施形態の導電性膜を説明する。なお、特に説明のない限り、実施形態1の膜の製造方法の説明が本実施形態にも同様に当て嵌まり得る。
【0043】
まず、所定の層状材料の粒子を準備する。本実施形態において使用可能な所定の層状材料はMXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該層が、以下の式:

(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「M」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0044】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0045】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
AX
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、Mで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「M層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したM層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、Fを含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneに分離すること)を促進してもよい。なお、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXene粒子が破壊され得る(小片化し得る)ので、アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene粒子(好ましくは単層MXene粒子)を得ることが望まれる場合には、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。
【0046】
MXeneは、上記の式:Mが、以下のように表現されるものが知られている。
ScC、TiC、TiN、ZrC、ZrN、HfC、HfN、VC、VN、NbC、TaC、CrC、CrN、MoC、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)C、(Ti,Nb)C、WC、W1.3C、MoN、Nb1.3C、Mo1.30.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti、Ti、Ti(CN)、Zr、(Ti,V)、(TiNb)C、(TiTa)C、(TiMn)C、Hf、(HfV)C、(HfMn)C、(VTi)C、(CrTi)C、(CrV)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoSc)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(MoV)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
Ti、V、Nb、Ta、(Ti,Nb)、(Nb,Zr)、(TiNb)C、(TiTa)C、(VTi)C、(VNb)C、(VTa)C、(NbTa)C、(CrTi)C、(Cr)C、(CrNb)C、(CrTa)C、(MoTi)C、(MoZr)C、(MoHf)C、(Mo)C、(MoNb)C、(MoTa)C、(WTi)C、(WZr)C、(WHf)C
【0047】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、TiAlCであり、MXeneは、Tiである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0048】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、導電性膜の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0049】
このようにして合成されるMXeneの粒子10は、図7に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料の粒子(MXene粒子10の例として、図7(a)中に1つの層のMXene粒子10aを、図7(b)中に2つの層のMXene粒子10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、Mで表される層本体(M層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M」とも表され、sは任意の数である。MXene粒子10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在する粒子(図7(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXeneの粒子10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体の粒子(図7(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXeneの粒子10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene粒子10は、単層MXene粒子10aおよび/または多層MXene粒子10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXene粒子である場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0050】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。MXene粒子が積層体(多層MXene)の粒子である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、図7(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、層の総数は、2以上であればよいが、例えば50以上100,000以下、特に1,000以上20,000以下であり、積層方向の厚さは、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下であり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上100μm以下、特に1μm以上20μm以下である。なお、これら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められる。
【0051】
そして、MXene粒子を液状媒体中に含むスラリーSを調製する。スラリーSにおけるMXene粒子の濃度は、実施形態1にて上述した説明が同様に当て嵌まる。
【0052】
このようにして調整したスラリーSを用いて、実施形態1にて上述した方法を実施して膜30が製造される。本実施形態の膜30は、MXene粒子10を含む導電性膜である。導電性膜30は、スラリーSの液状媒体に由来する成分が残留していても、実質的に存在していなくてもよい。導電性膜30は、MXene粒子10および場合により残留する液状媒体に由来する成分を含み、他の成分(例えばいわゆるバインダを実質的に含まないものであってよい。あるいは、スラリーSが、層状材料の粒子10および液状媒体に加えて、任意の適切な成分(例えば実施形態1にて上述したポリマー)を含んでいてよく、かかるスラリーを用いて得られる導電性膜30は、当該成分を更に含んでいてよい。
【0053】
図6に模式的に示すように、最終的に得られる導電性膜30においてMXene粒子10が比較的整列した状態で存在し、より詳細には、基材表面31a(換言すれば、膜30の主面)に対して、MXeneの二次元シート面(MXeneの層に平行な平面)が比較的揃っている(好ましくは平行である)粒子10が多い。すなわち、導電性膜30中の粒子10の配向性が高い導電性膜30を得ることができる。
【0054】
本実施形態の導電性膜は、これをX線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下であり、3000S/cm以上の導電率を有する。
【0055】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、MXene粒子を含む導電性膜は、MXene粒子(単層MXene粒子および/または多層MXene粒子であってよく、単層MXene粒子は「ナノシート」または「シングルフレーク」とも称され得る)同士が積み重なって形成され得、かかる導電性膜の導電率は、MXene粒子の配向性によって支配されていると考えられ得る。高導電率の導電性膜を得るには、MXene粒子同士ができるだけ平行かつ均一に配向していること、換言すれば、配向性が高いことが好ましい。MXene粒子の配向性を示す尺度として、X線回折測定して得られる(00l)面(lは2の自然数倍の数である)のピークに関するχ軸方向ロッキングカーブ半値幅(以下、単に「χ軸方向ロッキングカーブ半値幅」とも言う)を適用できる。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が狭いほど、導電性膜におけるMXene粒子の配向性が高い。
【0056】
χ軸方向ロッキングカーブ半値幅は、導電性膜をX線回折(XRD)測定し、該導電性膜に含まれるMXeneの(00l)面(lは2の自然数倍の数、即ち、l=2、4、6、8、10、12・・・)のピークに関して得られ、より詳細には以下のようにして決定される。MXeneを含む導電性膜をXRD測定すると、θ軸方向スキャンによるXRDプロファイルにおいてMXeneの(00l)面のピークが観測される。θ軸方向スキャンのXRDプロファイルにおいて、MXeneの(00l)面のピークが複数観測され得、いずれのピークを採用してもよいが、代表的には(0010)面(l=10)のピークを採用し得る。そして、かかる(00l)面のピークが得られる2θで固定したχ軸方向スキャンによりχ軸方向ロッキングカーブが得られる。χ軸方向ロッキングカーブにおいて1つのピークが観測され、このピークの強度が半分になるときのχ軸角度の幅(°)を「χ軸方向ロッキングカーブ半値幅」とする。
【0057】
XRD測定には、例えば、二次元検出器を備えた微小部X線回折(μ-XRD)装置を使用でき、これにより得られる二次元X線回折像を一次元に変換して(適宜フィッティングして)、θ軸方向スキャンのXRDプロファイル(縦軸が強度で、横軸が2θであり、一般的に「XRDプロファイル」と称される)と、所定の2θに関してχ軸方向ロッキングカーブプロファイル(縦軸が強度で、横軸がχである)とを得ることができる。
【0058】
MXeneの(00l)面は、基本的に、MXeneの結晶c軸方向を示し、θ軸方向スキャンのXRDプロファイルにおいて(00l)面のピークを観測できる。なお、θ軸方向スキャンのXRDプロファイルでは、MXeneの周期構造(単層MXeneおよび/または多層MXeneの積層構造における、積層方向に沿った周期構造)の長さdに対応したθにおいて、ブラッグの回折条件(2d・sinθ=n・λ(nは自然数、λは波長))に従って、(00l)面のピークが観測され得るが、周期構造の長さdは、MXeneの層間距離(単層MXeneおよび多層MXeneに関わらず、導電性膜中にて隣接する任意の2つのMXene層の間の距離を言う)や、MXene層の厚さ等によってシフトし得る。上記の式:MがTiで表されるMXeneの場合、(0010)面のピークは、2θ=35~40°(おおよそ36°)付近のピークとして観測される。かかる(00l)面のピークに関してχ軸方向ロッキングカーブを取得すると、導電性膜の主面に対して垂直な角度(またはその付近)で強度が最大になる(ピークが観測される)。MXeneの結晶c軸方向が揃っているほど、上記垂直な角度からずれたときの強度低下が著しい。よって、χ軸方向ロッキングカーブにおけるピークの半値幅が小さいほど、MXeneの結晶c軸方向が揃っていること、換言すれば、配向性が高いこと(図6参照)を示している。
【0059】
本実施形態の導電性膜は、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下であり、これにより高い導電率(3000S/cm以上)を得ることができる。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅は、好ましくは15°以下であり得、下限は特に存在しないが、例えば3°以上であり得る。
【0060】
具体的には、本実施形態の導電性膜は、3000S/cm以上の導電率を有する。導電性膜の導電率は、好ましくは1S/cm以上であり得、上限は特に存在しないが、例えば12000S/cm未満、特に10000S/cm以下であり得る。導電率は、導電性膜の抵抗率および厚さを測定し、これらの測定値から算出可能である。
【0061】
本実施形態の導電性膜は、いわゆるフィルムとしての形態を有し得、具体的には、互いに対向する2つの主面を有するものであり得る。導電性膜の厚さ、および平面視した場合の形状および寸法などは、導電性膜の用途に応じて適宜選択され得る。
【0062】
本実施形態の導電性膜は、任意の適切な用途に利用され得る。例えば、任意の適切な電気デバイスにおける電極や電磁シールド(EMIシールド)など、高い導電率が要求されるような用途に利用され得る。
【0063】
電極は、特に限定されないが、例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体電極、センサ用電極、アンテナ用電極、電気分解用電極などであり得る。本実施形態の導電性膜を使用することにより、より小さい容積(装置占有体積)でも、大容量のキャパシタおよびバッテリ、低インピーダンスの生体電極、高感度のセンサおよびアンテナ、低廉な電気分解用電極を得ることができる。
【0064】
キャパシタは、電気化学キャパシタであり得る。電気化学キャパシタは、電極(電極活物質)と電解液中のイオン(電解質イオン)との間での物理化学反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタであり、電気エネルギーを蓄えるデバイス(蓄電デバイス)として使用可能である。バッテリは、繰り返し充放電可能な化学電池であり得る。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ、マグネシウムイオンバッテリ、リチウム硫黄バッテリ、ナトリウムイオンバッテリなどであり得るが、これらに限定されない。
【0065】
生体電極は、生体信号を取得するための電極(生体信号センシング電極)である。生体電極は、例えばEEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)を測定するための電極であり得るが、これらに限定されない。生体電極は、例えば、人体の皮膚に接触させて使用され得るが、これに限定されない。
【0066】
センサ用電極は、目的の物質、状態、異常等を検知するための電極(センシング電極)である。センサは、例えば歪センサ、ガスセンサ、バイオセンサ(生体起源の分子認識機構を利用した化学センサ)などであり得るが、これらに限定されない。
【0067】
MXene粒子を含む導電性膜は、フレキシブル性およびピエゾ抵抗効果を有し得、これらの少なくとも一方を利用して、歪センサ用電極、生体電極(生体信号センシング電極)などに好適に使用され得る。MXene粒子の配向性が高い導電性膜は、フレキシブル性および/またはピエゾ抵抗効果を利用した、歪センサ用電極および生体電極(生体信号センシング電極)などの性能を向上させ得る。
【0068】
アンテナ用電極は、空間に電磁波を放射する、および/または、空間中の電磁波を受信するための電極である。
【0069】
電気分解用電極は、電解質溶液に浸漬されて電気分解反応をもたらすために電圧が印加される電極であり、例えば水素発生用電極(触媒機能を有し得る)などであり得る。本実施形態の導電性膜は、実施形態1にて上述した方法を実施して製造可能であり、これにより、水素発生用電極として実用に耐え得る膜厚で一度に導電性膜を形成でき、導電性膜の製造コストを低減し得る。
【0070】
とりわけ、本実施形態の導電性膜を使用することにより、高い遮蔽率(EMIシールド性)の電磁シールドを得ることができる。一般的には、EMIシールド性は、下記の式(1)に基づいて、導電率に対して表1のように算出される。
【0071】
【数1】
式(1)中、SEはEMIシールド性(dB)であり、σは導電率(S/cm)であり、fは電磁波の周波数(MHz)であり、tは膜の厚さ(cm)である。
【0072】
【表1】


*但し、f=1000MHzとし、t=0.001cmとした。
【0073】
表1から理解される通り、導電率が3000S/cm未満であると、EMIシールド性が減少するが、導電率が3000S/cm以上であると、高いEMIシールド性が得られる。本実施形態の導電性膜によれば、導電率が3000S/cm以上であるので、厚さ一定の場合には、より高いEMIシールド性が得られ、あるいは、厚さを低減しても十分なEMIシールド効果を得ることができる。
【0074】
以上、本発明の2つの実施形態について詳述したが、本発明は種々の改変が可能である。例えば、実施形態2では、層状材料としてMXeneを使用した場合について説明したが、MXeneの導電性機構は、グラフェンなどの他の導電性の層状材料の導電性機構と同様であると考えられ、よって、実施形態2におけるMXeneの導電性に関連した定性的な説明(作用および/または効果)は、グラフェンなどの他の導電性の層状材料についても同様に当て嵌まり得る。なお、本発明の導電性膜は、上述の実施形態1における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明の膜の製造方法は、上述の実施形態2における導電性膜を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0075】
(実施例1)
実施例1は、外部混合式多流体ノズル、より詳細には外部混合渦流式多流体(二流体)ノズル(図4~5参照)を使用して導電性膜を製造した例であって、MXeneスラリーを使用した例に関する。
【0076】
・MXeneスラリーの調製
MAX粒子としてTiAlC粒子を既知の方法で調製した。このTiAlC粒子(粉末)をLiFと共に9モル/Lの塩酸に添加して(TiAlC粒子1gにつき、LiF 1g、9モル/Lの塩酸10mLとした)、35℃にてスターラーで24時間撹拌して、TiAlC粒子に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄みの分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物を再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施した。そして、沈降物に純水を添加した混合物をオートマチックシェーカーで15分間撹拌し、その後、遠心分離機で5分間の遠心分離操作に付して上澄みと沈降物に分離させ、上澄みを遠心脱水により分離除去した。これにより、上澄みを除いた残りの沈降物に純水を添加することにより希釈して、粗精製スラリーを得た。粗精製スラリーは、MXene粒子として、単層MXene粒子と、層分離(デラミネーション)不足により単層化されていない多層MXene粒子とを含み得、更に、MXene粒子以外の不純物(未反応のMAX粒子および、エッチングされたA原子に由来する副生成物の結晶物(例えばAlFの結晶物)等)を含むと理解される。
【0077】
上記で得た粗精製スラリーを遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、2600×gの相対遠心力(RCF)にて5分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて回収し、精製スラリーを得た。精製スラリーは、MXene粒子として、単層MXene粒子を多く含むと理解される。上澄みを除いた残りの沈降物は、その後、使用しなかった。
【0078】
上記で得た精製スラリーを遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、3500×gのRCFにて120分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて分離除去した。分離除去した上澄みは、その後、使用しなかった。上澄みを除いた残りの沈降物として粘土状物質(クレイ)を得た。これにより、MXeneクレイとして、Ti-水分散体クレイを得た。このMXeneクレイと純水とを適切な量で混合して、固形分濃度(MXene濃度)が84mg/mLのMXeneスラリーを準備した。
【0079】
・スプレーコーティング
外部混合式多流体ノズルとして、外部混合渦流式多流体(二流体)ノズル(株式会社アトマックス製、アトマックスノズルAM12型)を使用した。上記で準備したMXeneスラリー(固形分濃度84mg/mL)をプラスチックシリンジに入れ、シリンジポンプ(株式会社ワイエムシィ製、YSP-101)にセットした。シリンジポンプの押し出し速度を5.0mL/minに設定し、プラスチックシリンジの吐出口を、外部混合式多流体ノズルの液状物(スラリー)供給口に接続した。他方、外部混合式多流体ノズルの気体供給口を圧縮空気の供給源(工場内圧縮空気ライン)にプラスチックホースを介して接続し、ノズルからの気体吐出圧力が0.45MPa(ゲージ圧)となるように調整した。
【0080】
その後、外部混合式多流体ノズルからスラリーおよび気体(空気)を吐出して、ポリエチレンテレフタレートフィルムから成る基材(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)T60)上にスプレーした。スプレー後、ハンドドライヤー(パナソニック株式会社製、EH5206P-A)で乾燥させた。かかるスプレーおよび乾燥の操作を合計15回繰り返した。これにより、導電性膜を基材(PETフィルム)上に作製した。
【0081】
(比較例1)
比較例1は、内部混合式多流体(二流体)ノズル(図8参照)を使用して導電性膜を製造した例に関する。
【0082】
・MXeneスラリーの調製
実施例1と同様にして得た固形分濃度(MXene濃度)が84mg/mLのMXeneスラリーを、純水で希釈して、固形分濃度(MXene濃度)が15mg/mLのMXeneスラリーを準備した。
【0083】
・スプレーコーティング
内部混合式多流体(二流体)ノズルとして、エアブラシ(株式会社タミヤ製、スプレーワークHGエアーブラシワイド(トリガータイプ))を使用した。上記で準備したMXeneスラリー(固形分濃度15mg/mL)を、内部混合式多流体ノズルの液状物(スラリー)供給口に接続された塗料カップに入れた。他方、内部混合式多流体ノズルの気体供給口を圧縮空気の供給源(株式会社タミヤ製、エアーブラシシステム No.53 スプレーワークパワーコンプレッサー 74553)に接続し、ノズルからの気体吐出圧力が0.40MPa(ゲージ圧)となるように調整した。
【0084】
その後、(エアブラシのトリガーを引いて)内部混合式多流体ノズルからスラリーおよび気体(空気)を吐出して、ポリエチレンテレフタレートフィルムから成る基材(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)T60)上にスプレーした。スプレー後、ハンドドライヤー(パナソニック株式会社製、EH5206P-A)で乾燥させた。かかるスプレーおよび乾燥の操作を合計120回繰り返した。これにより、導電性膜を基材(PETフィルム)上に作製した。
【0085】
(評価)
上記で作製した実施例1および比較例1の基材付き導電性膜(サンプル)について、導電性膜を基材(PETフィルム)ごと打ち抜くか切り出して、μ-XRD(Bruker Corporation製、AXS D8 DISCOVER with GADDS)を用いてXRD測定し、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅を算出した。より詳細には、XRD測定により、導電性膜の2次元X線回折像を得(特性X線:CuKα=1.54Å)、θ軸方向スキャンのXRDプロファイルにおいて2θ=35~40°(36°付近)のピーク(式:MがTiで表されるMXeneの(0010)面のピーク)を調べ、このピークに関してχ軸方向ロッキングカーブを取得して、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅を算出した。χ軸方向ロッキングカーブ半値幅は、XRD測定で得られる2箇所の測定値の平均値とした。結果を表2に示す。
【0086】
また、上記で作製した実施例1および比較例1の基材付き導電性膜(サンプル)のうち、上記で打ち抜いた部分ではない部分を用いて、導電性膜の導電率(S/cm)を測定した。より詳細には、導電率は、1サンプルにつき3箇所で、抵抗率(表面抵抗率)(Ω)および(基材の厚さを差し引いた)厚さ(μm)を測定して、これら測定値から導電率(S/cm)を算出し、これにより得られた3箇所の導電率の算術平均値を採用した。抵抗率測定には、低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、ロレスタAX MCP-T370)を用いた。厚さ測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、MDH-25MB)を用いた。結果を表2に併せて示す。
【0087】
【表2】

【0088】
表2を参照して、実施例1の導電性膜では、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下で配向性が高く、よって、3000S/cm以上(より詳細には6000S/cm以上)の高い導電率が得られた。
【0089】
実施例1では、外部混合式多流体ノズル、とりわけ、外部混合渦流式多流体ノズル(図4~5参照)を使用することにより、MXeneの粒子に強いせん断力を印加して、MXeneの粒子の凝集や、粒子間の重なりを解くことができ、更に、粒子が多層構造を有する場合には層間の結合エネルギー(多層MXeneの層間の結合エネルギーは、1.0~3.3J/mと報告されている)よりも大きいせん断力エネルギーを印加して層分離(デラミネーション)させることができて、基材表面に対して垂直方向の厚さが揃い、高い配向性(図6参照)ひいては高い導電率が得られたものと考えられる。また、外部混合式多流体ノズルでは、ノズル詰まりが起き難く、30mg/mL以上の高い固形分濃度を有する(つまり高粘度の)スラリーをそのまま使用できて、工業的量産に適する。
【0090】
再び表2を参照して、比較例1の導電性膜では、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以上で配向性が低く、よって、3000S/cm未満(より詳細には2500S/cm未満)の低い導電率しか得られなかった。
【0091】
比較例1では、内部混合式多流体ノズル(図8参照)を使用することにより、MXeneの粒子に十分なせん断力を印加できず、MXeneの粒子がそのまま(例えば単層MXeneはそのままで、多層MXeneの粒子は嵩高いままで)基材上に供給され、基材表面に対して垂直方向の厚さが不揃いで、配向性が低くなり(図9参照)、ひいては低い導電率しか得られなかったものと考えられる。また、内部混合式多流体ノズルでは、ノズルの内部でスラリーと気体とを混合しているためノズル詰まりが起き難く、30mg/mL以上の高い固形分濃度を有する(つまり高粘度の)スラリーをそのまま使用できず、希釈して使用する必要があるため、工業的量産に適さない。
【0092】
(実施例2)
実施例2は、実施例1の改変例であって、MXene-ポリマーコンポジットスラリーを使用した例に関する。
【0093】
・MXeneスラリーの調製
実施例1と同様に、MAX粒子としてTiAlC粒子を既知の方法で調製した。このTiAlC粒子(粉末)を、48質量%のフッ酸(フッ化水素水溶液)と35質量%の塩酸に添加し、純水18mLを加えて(TiAlC粒子1gにつき、48質量%のフッ酸2mL、35質量%の塩酸12mLとした)、35℃にてスターラーで24時間撹拌して、TiAlC粒子に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いたデカンテーションによる上澄みの分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物を再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施した。そして、沈降物に純水を添加した混合物をオートマチックシェーカーで15分間撹拌し、その後、遠心分離機で5分間の遠心分離操作に付して上澄みと沈降物に分離させ、上澄みを遠心脱水により分離除去した。これにより、上澄みを除いた残りの沈降物に純水を添加することにより希釈して、粗精製スラリーを得た。粗精製スラリーは、MXene粒子として、単層MXene粒子と、層分離(デラミネーション)不足により単層化されていない多層MXene粒子とを含み得、更に、MXene粒子以外の不純物(未反応のMAX粒子および、エッチングされたA原子に由来する副生成物の結晶物(例えばAlFの結晶物)等)を含むと理解される。
【0094】
上記で得た粗精製スラリーを遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、2600×gの相対遠心力(RCF)にて5分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて回収し、精製スラリーを得た。精製スラリーに含まれるMXene粒子のほとんどが、単層MXene粒子であると理解される。上澄みを除いた残りの沈降物は、その後、使用しなかった。
【0095】
上記で得た精製スラリーを遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、3500×gのRCFにて120分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みをデカンテーションにて分離除去した。分離除去した上澄みは、その後、使用しなかった。上澄みを除いた残りの沈降物として粘土状物質(クレイ)を得た。これにより、MXeneクレイとして、Ti-水分散体クレイを得た。このMXeneクレイと純水とを適切な量で混合して、固形分濃度(MXene濃度)が約34mg/mLのMXeneスラリーを準備した。
【0096】
・MXene-ポリマーコンポジットスラリーの調製
上記で準備したMXeneスラリー(固形分濃度34mg/mL)を31.3907gで採取した。35質量%のポリウレタンディスパージョン(大日精化工業株式会社製、D4090)を純水で100倍希釈したものを18.6136gで採取し、上記で採取したMXeneスラリーと混合した。混合物をシェイカーで15分間振盪して、MXene-ポリマーコンポジットスラリーを準備した。
【0097】
・スプレーコーティング
外部混合式多流体ノズルとして、外部混合渦流式多流体(二流体)ノズル(株式会社アトマックス製、アトマックスノズルAM12型)を使用した。上記で準備したMXene-ポリマーコンポジットスラリーをプラスチックシリンジに入れ、シリンジポンプ(株式会社ワイエムシィ製、YSP-101)にセットした。シリンジポンプの押し出し速度を5.0mL/minに設定し、プラスチックシリンジの吐出口を、外部混合式多流体ノズルの液状物(スラリー)供給口に接続した。他方、外部混合式多流体ノズルの気体供給口を圧縮空気の供給源(工場内圧縮空気ライン)にプラスチックホースを介して接続し、ノズルからの気体吐出圧力が0.45MPa(ゲージ圧)となるように調整した。
【0098】
その後、外部混合式多流体ノズルからスラリーおよび気体(空気)を吐出して、ポリエチレンテレフタレートフィルムから成る基材(東レ株式会社製、ルミラー(登録商標)T60)上にスプレーした。スプレー後、ハンドドライヤー(パナソニック株式会社製、EH5206P-A)で乾燥させた。かかるスプレーおよび乾燥の操作を合計30回繰り返した。これにより、導電性膜を基材(PETフィルム)上に作製した。
【0099】
(評価)
上記で作製した実施例2の基材付き導電性膜(サンプル)について、上記と同様にして評価した。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
表3を参照して、実施例2の導電性膜では、χ軸方向ロッキングカーブ半値幅が20°以下で配向性が高く、よって、3000S/cm以上(より詳細には10000S/cm以上)の高い導電率が得られた。なお、実施例1の導電性膜に比べて、実施例2の導電性膜において、より小さいχ軸方向ロッキングカーブ半値幅およびより高い導電性が得られたのは、MAX粒子のエッチング方法が異なることに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の膜の製造方法は、高い配向性が求められる層状材料の粒子から成る膜を得るために利用され得る。本発明の導電性膜は、任意の適切な用途に利用され得、例えば電気デバイスにおける電極や電磁シールドとして特に好ましく使用され得る。
【0103】
本願は、2020年8月13日付けで日本国にて出願された特願2020-136824に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0104】
1a、1b 層本体(M層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene(層状材料)粒子
20 ノズル
20a、20b、20c 外部混合式多流体ノズル
30 膜(導電性膜)
31 基材
31a 基材表面
120 内部混合式多流体ノズル
S スラリー
G 気体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9