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特許7355316移動体の管理システム、移動体の管理装置、及び移動体の管理方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】移動体の管理システム、移動体の管理装置、及び移動体の管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/34 20060101AFI20230926BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20230926BHJP
   G05D 1/10 20060101ALI20230926BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20230926BHJP
【FI】
G01C21/34
G05D1/02 H
G05D1/10
G06Q10/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019178281
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021056692
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2018年10月1日から5日間の日程でSpainのMadridにおいて開催された「The IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems」で発表 [刊行物等] 2018年12月19日に東京銀座ロータリークラブ(東京都中央区)の「先端技術活用による土木革命 米国一流大学と新潟企業の海を越えた共同開発」で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】506112410
【氏名又は名称】株式会社トップライズ
(73)【特許権者】
【識別番号】502064461
【氏名又は名称】カーネギーメロン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Carnegie Mellon University
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 卓己
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ダァン ディ
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-530692(JP,A)
【文献】特開2015-102426(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193578(WO,A1)
【文献】特開2018-112871(JP,A)
【文献】特開2019-96126(JP,A)
【文献】特開2016-110272(JP,A)
【文献】特開2019-151149(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2984916(EP,A1)
【文献】特許第7195652(JP,B2)
【文献】特開2018-165932(JP,A)
【文献】特開2018-77652(JP,A)
【文献】特開2017-90115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
G06Q 10/20
G01C 21/34
G05D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
点検作業を実施する第1移動体と、前記第1移動体から前記点検作業の結果データを受信し記録する第2移動体と、を用いて、点検範囲が広範囲に及ぶ構造物の前記点検作業を実施するための移動体の管理システムであって、
前記構造物に対して前記第1移動体が全ての点検作業を実施するために、全点検区間を対象に、前記第1移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における前記第1移動体の移動経路を計画する計画部と、
前記点検作業を中断するか否かを判定する判定部と、
前記点検作業を中断すると判定した場合に、前記全点検区間において、前記点検作業を中断するまでに実施した点検済み区間を除く残りの未点検区間を対象に、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算し、前記点検作業の再開後における前記第1移動体の移動経路を再計画する再計画部と、
再計画した移動経路に従って、前記第1移動体が前記未点検区間を移動し前記点検作業を実施するように、前記第1移動体の駆動を制御する制御部と、を備え、
前記計画部は、
前記複数の部分点検区間の間を前記第2移動体が移動するための前記第2移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における前記第2移動体の移動経路を計画し、
前記点検作業を再開したときに複数の第2移動体を利用する場合、
前記再計画部は、
前記点検作業の再開時に利用可能な前記第2移動体の総数に基づき、前記複数の第2移動体それぞれの前記最短移動経路を再計算する、移動体の管理システム。
【請求項2】
前記再計画部は、
前記全点検区間における前記第1移動体の移動経路を示すパスデータから、前記点検済み区間に対応する第1パスデータを削除し、前記点検作業の再開後に実施が予定されている前記未点検区間に対応する第2パスデータを対象に、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算する、請求項1に記載の移動体の管理システム。
【請求項3】
前記再計画部は、
前記点検作業が中断されたときの前記第1移動体の位置及び/又は前記点検作業が中断されたときの時間に基づき、前記全点検区間における前記点検済み区間と前記未点検区間とを特定する、請求項1又は2に記載の移動体の管理システム。
【請求項4】
前記第1移動体は、駆動装置に電力を供給する電源としてバッテリを備え、
前記再計画部は、
前記点検作業が中断されたときの前記バッテリの状態を示す状態情報に基づき、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の移動体の管理システム。
【請求項5】
前記再計画部は、
前記状態情報に含まれる前記バッテリの残容量に基づき、前記点検作業の再開後に前記第1移動体が前記バッテリの交換なしで継続移動可能な距離又は時間を計算し、計算した移動距離、又は、計算した移動時間及び移動速度、に基づき、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算する、請求項4に記載の移動体の管理システム。
【請求項6】
前記再計画部は、
前記第1移動体と前記第2移動体との通信可能距離に基づき、前記未点検区間において、前記第1移動体の移動位置が前記第2移動体と通信可能な位置となる、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の移動体の管理システム。
【請求項7】
前記点検作業を再開したときに複数の第1移動体を利用する場合、
前記再計画部は、
前記点検作業の再開時に利用可能な前記第1移動体の総数に基づき、前記複数の第1移動体それぞれの前記最短移動経路を再計算する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の
移動体の管理システム。
【請求項8】
前記判定部は、
前記第1移動体において、継続移動が不可能な異常又は故障の発生の有無に関する情報に基づき、前記点検作業を中断するか否かを判定する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の移動体の管理システム。
【請求項9】
前記判定部は、
前記第1移動体又は前記第2移動体の移動に悪影響を及ぼす現象の発生の有無に関する情報に基づき、前記点検作業を中断するか否かを判定する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の移動体の管理システム。
【請求項10】
前記第1移動体は飛行体であり、前記第2移動体は車両であり、
前記判定部は、
前記第2移動体が走行する道路の交通渋滞に関する交通情報、及び/又は、前記第1移動体が飛行するエリアの気象現象に関する気象情報に基づき、前記点検作業を中断するか否かを判定する、請求項9に記載の移動体の管理システム。
【請求項11】
点検作業を実施する第1移動体と、前記第1移動体から前記点検作業の結果データを受信し記録する第2移動体とを用いて、点検範囲が広範囲に及ぶ構造物の前記点検作業を実施するための移動体の管理装置であって、
前記構造物に対して前記第1移動体が全ての点検作業を実施するために、全点検区間を対象に、前記第1移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における前記第1移動体の移動経路を計画する計画部と、
前記点検作業を中断するか否かを判定する判定部と、
前記点検作業を中断すると判定した場合に、前記全点検区間において、前記点検作業を中断するまでに実施した点検済み区間を除く残りの未点検区間を対象に、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算し、前記点検作業の再開後における前記第1移動体の移動経路を再計画する再計画部と、
再計画した移動経路に従って、前記第1移動体が前記未点検区間を移動し前記点検作業を実施するように、前記第1移動体の駆動を制御する制御部と、を備え、
前記計画部は、
前記複数の部分点検区間の間を前記第2移動体が移動するための前記第2移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における前記第2移動体の移動経路を計画し、
前記点検作業を再開したときに複数の第2移動体を利用する場合、
前記再計画部は、
前記点検作業の再開時に利用可能な前記第2移動体の総数に基づき、前記複数の第2移動体それぞれの前記最短移動経路を再計算する、移動体の管理装置。
【請求項12】
点検作業を実施する第1移動体と、前記第1移動体から前記点検作業の結果データを受信し記録する第2移動体と、を用いて、点検範囲が広範囲に及ぶ構造物の前記点検作業を実施するための移動体の管理方法であって、
前記構造物に対して前記第1移動体が全ての点検作業を実施するために、全点検区間を対象に、前記第1移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における前記第1移動体の移動経路を計画するステップと、
前記点検作業を中断するか否かを判定するステップと、
前記点検作業を中断すると判定した場合に、前記全点検区間において、前記点検作業を中断するまでに実施した点検済み区間を除く残りの未点検区間を対象に、前記第1移動体の前記最短移動経路を再計算し、前記点検作業の再開後における前記第1移動体の移動経路を再計画するステップと、
再計画した移動経路に従って、前記第1移動体が前記未点検区間を移動し前記点検作業を実施するように、前記第1移動体の駆動を制御するステップと、を含み、
前記計画するステップは、
前記複数の部分点検区間の間を前記第2移動体が移動するための前記第2移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における前記第2移動体の移動経路を計画し、
前記点検作業を再開したときに複数の第2移動体を利用する場合、
前記再計画するステップは、
前記点検作業の再開時に利用可能な前記第2移動体の総数に基づき、前記複数の第2移動体それぞれの前記最短移動経路を再計算する、移動体の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の移動計画を管理する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の1つである無人航空機(UAV: Unmanned aerial vehicle)は、姿勢制御や飛行制御等に関する技術が改良され、その操作性が向上した。またこのような無人航空機は、小型で低価格帯の機種も増えている。このような背景から、近年では、様々な産業分野での活用が試行されている。
例えば、建築・土木分野において、橋やビル等の構造物の点検に無人航空機が用いられる場合がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-127245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大型の構造物の点検に無人航空機を用いる場合には、点検を行う作業範囲は広範囲に及ぶ。そのため、点検を実施する無人航空機に対して要求される飛行距離も長くなる。よって、無人航空機は、例えば長い飛行距離による機体への負荷に起因して、点検中に何らかの異常が発生して故障することが考えられる。そのため、無人航空機を用いる点検作業現場では、無人航空機の故障等に起因して(何らかの原因で)作業が中断しても、効率よく適切な点検を継続して実施できることが望まれている。
【0005】
本発明の態様は、2つの異なる移動体を用いた構造物の点検作業において、作業が中断しても、効率がよく適切な点検の継続実施を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様である移動体の管理システムは、第1移動体と第2移動体とを用いて、点検範囲が広範囲に及ぶ構造物の点検作業を実施するためのシステムである。第1移動体は、駆動装置に電力を供給する電源としてバッテリを備え、点検作業を実施する。第2移動体は、第1移動体から前記点検作業の結果データを受信し記録する。
本管理システムは、計画部、判定部、及び再計画部を備える。計画部は、構造物に対して第1移動体が全ての点検作業を実施するために、全点検区間を対象に、第1移動体の最短移動経路を計算し、前記点検作業の実施時における第1移動体の移動経路を計画する。判定部は、点検作業を中断するか否かを判定する。再計画部は、点検作業を中断すると判定した場合に、全点検区間において、点検作業を中断するまでに実施した点検済み区間を除く残りの未点検区間を対象に、第1移動体の最短移動経路を再計算し、点検作業の再開後における第1移動体の移動経路を再計画する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、2つの異なる移動体を用いた作業において、作業が中断しても、効率がよく適切な点検が継続して実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係る管理システムの一例を示す図である。
図2図2は、コンピュータシステムの一例を示す図である。
図3図3は、第1実施形態に係る水路の点検作業の流れを示す模式図である。
図4図4は、第1実施形態に係る管理システムの処理を示す図である。
図5図5は、第1実施形態に係る無人航空機の離陸時の様子を示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係る無人航空機による水路の点検の様子を示す図である。
図7図7は、第1実施形態に係る無人航空機による水路点検時の飛行経路の一例を示す図である。
図8図8は、第1実施形態に係る無人航空機の着陸時の様子を示す図である。
図9図9は、第1実施形態に係る移動計画機能(事前計画機能)の概要を示す図である。
図10図10は、第1実施形態に係る移動計画機能(再計画機能)の概要を示す図である。
図11図11は、第1実施形態に係る管理システム(管理装置及び無人航空機)の機能ブロック図である。
図12A図12Aは、第1実施形態に係るグラフ生成の一例を示す図である。
図12B図12Bは、第1実施形態に係るグラフ生成の一例を示す図である。
図12C図12Cは、第1実施形態に係るグラフ生成の一例を示す図である。
図13図13は、第1実施形態に係るサブグラフ生成の一例を示す図である。
図14図14は、第1実施形態に係るサブグラフ生成の計算処理を示すフローチャートである。
図15図15は、第1実施形態に係るサブグラフに対する車両及び無人航空機の最短経路問題の一例を示す図である。
図16図16は、第1実施形態に係るに対する車両及び無人航空機の最短経路問題を解決するための計算処理を示すフローチャートである。
図17図17は、第1実施形態に係るサブグラフ間における車両の最短経路問題を非対称の巡回セールスマン問題に置き換える例を示す図である。
図18図18は、第1実施形態に係るサブグラフ間における車両の最短経路問題を解決するための計算処理のフローチャートである。
図19図19は、第1実施形態に係る移動体の管理処理(事前計画処理)を示すフローチャートである。
図20図20は、第1実施形態に係る移動体の管理処理(再計画処理)を示すフローチャートである。
図21図21は、第1変形例に係る管理装置の機能ブロック図である。
図22図22は、第2変形例に係る管理装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本開示の実地形態では、移動体の管理システムを「水路の点検作業」に活用する場合を例に説明を行う。日本では、長さは数十キロメートルに及ぶ灌漑用水路の点検が手作業で行われている。このような手動点検方法では、老朽化に伴う定期的な点検に対する需要の増加と、季節的に点検の実施に適した時期が限られているため、対応が不十分な状況となっている。そこで、点検時間の短縮(作業の効率化)を目的とし、無人航空機と地上車両との異なる移動体を組み合わせて用いる自動点検は、手動点検の代替手段として有効である。このような産業上の利用効果の観点から、本開示の実施形態では、水路の点検作業に適用する例を挙げる。
【0010】
以降に、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、実施形態の内容に限定されない。本発明の構成は、本開示の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0011】
<第1実施形態>
[システム構成]
図1は、本実施形態に係る移動体の管理システム1の一例を示す図である。図1に示すように、作業現場では、少なくとも2つの異なる移動体を用いる。具体的には、車両2(第2移動体)及び無人航空機3(第1移動体)である。
【0012】
車両2は、運転者Drの運転操作により走行する移動体である。車両2は、乗車している管理者Opが無人航空機3による作業を監視できるように、水路周辺の道路を移動し、点検作業の拠点として機能する基地車両である。なお、車両2は、後述する移動計画(走行計画)に従って、遠隔操作により走行してもよいし、自律走行してもよい。以降の説明では、車両2は、便宜上、基地車両2と称す。無人航空機3は、無人で飛行する移動体である。無人航空機3は、上述したように、点検対象の水路に進入し、所定距離又は所定時間の間、水路内を飛行し、水路の壁面等の劣化状態を点検する。無人航空機3は、後述する移動計画(飛行計画)に従って自律飛行する。以降の説明では、無人航空機3は、便宜上、ドローン3と称す。
【0013】
管理システム1は、管理装置4と、入力装置5と、出力装置6と、通信装置7と、位置センサ8と、を備える。管理装置4、入力装置5、出力装置6、通信装置7、及び位置センサ8は、例えば基地車両2に設置される。通信装置7は、管理装置4とドローン3の間で通信を実施する。管理装置4は無線通信機9を備え、ドローン3は無線通信機34を備える。よって、管理装置4とドローン3とは、通信装置7を介して無線通信する。通信装置7は、例えばIPアドレスのルーティング機能を用いて、管理装置4とドローン3の間で通信を実施する。
【0014】
入力装置5は、例えば管理者Opからの入力操作を受け付け、入力データを生成する。入力装置5により生成された入力データは、管理装置4に出力される。入力装置5は、コンピュータ用キーボード、ボタン、スイッチ、及びタッチパネル等の少なくとも1つである。
【0015】
出力装置6は、管理装置4からの出力信号を受信しデータを出力することで、例えば管理者Opに情報を提供する。出力装置6は、表示データを表示可能な表示装置、音声を出力可能な音声出力装置、及び印刷物を出力可能な印刷装置等の少なくとも1つである。なお、表示装置は、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)又は有機ELディスプレイ(Organic Electroluminescence Display:OELD)のようなフラットパネルディスプレイ等を含む。
【0016】
位置センサ8は、基地車両2の位置を検出する。位置センサ8は、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)を利用して、基地車両2の位置を検出する。全地球航法衛星システムは、全地球測位システム(GPS:Global Positioning System)等を含む。全地球航法衛星システムは、例えば緯度、経度、及び高度の座標データで規定される基地車両2の絶対位置を検出する。全地球航法衛星システムにより、グローバル座標系において規定される基地車両2の位置が検出される。グローバル座標系とは、地球に固定された座標系をいう。位置センサ8は、GPS受信機等を含み、基地車両2の絶対位置(座標)を検出する。
【0017】
ドローン3は、飛行制御装置30と、飛行装置31と、本体32と、位置センサ33と、無線通信機34と、電源35と、計測装置36と、を備える。
【0018】
ドローン3は、プロペラ31Pが回転することにより飛行する。よって、飛行装置31は、プロペラ31P及び駆動装置31D等を含む。駆動装置31Dは、プロペラ31Pを回転させるための駆動力を発生する。駆動装置31Dは、電動機(モータ)等を含む。飛行制御装置30は、フライトコントローラと呼ばれ、後述する計測装置36からの計測データに基づき所定の演算を行い、機体の姿勢制御や飛行制御を行う。飛行制御装置30は、演算結果に基づき駆動装置31Dに制御信号を送信することで機体を制御する。本体32は、飛行装置31に支持される。位置センサ33は、ドローン3の位置を検出する。位置センサ33は、GPS受信機等を含み、ドローン3の絶対位置(座標)を検出する。無線通信機34は、基地車両2が搭載する通信装置7と無線通信可能である。
【0019】
ドローン3は、電動機に電力を供給する電源35を有する。電源35は、充電池(バッテリ)等を含む。以降の説明では、電源35は、便宜上、バッテリ35と称す。
【0020】
計測装置36は、撮像装置37及び慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)等を含み、ドローン3の周辺及び機体自身をセンシングし、飛行環境及び飛行状態を計測する。撮像装置37は、被写体を撮像し画像データを取得する。撮像装置37は、光学デバイスとイメージセンサとを有する。光学デバイスは、光学レンズ等を含む。イメージセンサは、CCD(Couple Charged Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等を含む。慣性計測装置(非図示)は、移動体の角速度(回転運動)を検出する角速度計(ジャイロ)、加速度(直線運動)を検出する加速度計等を備え、移動体の動きを計測する。慣性計測装置は、加速度計及び角速度計以外にも、磁力計(3軸)、温度センサ、及びプロセッサ等を含んでいてもよい。
【0021】
[コンピュータシステムの基本構成]
図2は、本実施形態に係るコンピュータシステム100の一例を示す図である。
上述の管理装置4及び飛行制御装置30のそれぞれは、コンピュータシステム100等を含む。コンピュータシステム100は、プロセッサ101と、メモリ102と、ストレージ103と、インタフェース104と、を有する。プロセッサ101は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。メモリ102は、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリ等を含む。ストレージ103は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等を含む。インタフェース104は、入出力回路等を含む。上述の管理装置4の機能及び飛行制御装置30の機能は、プログラムとしてストレージ103に記憶されている。プロセッサ101は、プログラムをストレージ103から読み出してメモリ102に展開し、プログラムに従って処理を実行する。なお、プログラムは、公衆回線を介してコンピュータシステム100に配信されてもよい。
【0022】
[水路の点検作業]
図3は、本実施形態に係る水路の点検作業の流れを示す模式図である。図3に示すように、水路の点検作業は、いくつかの作業工程に分けられる。まずは、少なくとも管理者である現場監督を含む数人の担当者は、点検作業を実施する現場に行き、事前の調査を行う(ステップS1)。担当者は、事前調査の結果に基づき、点検に関する全体の作業計画を検討する(ステップS2)。このとき検討される作業計画には、後述する基地車両2及びドローン3の移動計画が含まれる。また、作業計画は、管理装置4の機能を用いて行われる。
【0023】
担当者は、管理装置4とドローン3を乗せた基地車両2によって再び現場に行き、点検作業を実施する(ステップS3)。このときドローン3は、事前に決定しておいた作業計画に従って、点検対象の水路に対して飛行を開始し、水路を点検する。基地車両2は、作業計画に従って、水路周辺の道路の走行を開始する。その結果、乗車している管理者Opが点検中のドローン3を監視し、実施作業を管理する。
【0024】
担当者は、点検後に水路の計測データを処理する(ステップS4)。ここでいうデータ処理では、計測データの確からしさを確認するとともに、所定のツールを用いてデータ分析を行い、分析結果に基づき報告書を作成する。
【0025】
図4は、本実施形態に係る管理システム1の処理を示す図である。図4に示す処理は、上述したステップS3の工程で実行される処理の詳細である。図4に示すように、管理システム1では、現地作業において、基地車両2とドローン3との間で次のような処理が実行される。
【0026】
基地車両2では、乗車中の管理者Opが管理装置4を介しドローン3に対して離陸を指示する(ステップS21)。その後、基地車両2が走行を開始することで、管理者Opがドローン3の機体を監視する(ステップS22)。基地車両2は、事前に計画された移動計画に従って運転手Drが運転操作を行うことで、水路周辺の道路を走行し移動する(ステップS23)。
【0027】
基地車両2では、移動計画に従ってドローン3の機体回収位置に到着すると(ステップS24)、管理者Opがドローン3の機体を回収する(ステップS25)。そして、管理者Opは、点検の途中であれば、回収したドローン3のバッテリ35を交換し(ステップS26)、バッテリ35を交換した後のドローン3を所定の離陸位置に設置する。このとき離陸位置が現在の機体回収位置から所定の距離以上遠い場合には、基地車両2によってバッテリ35を交換した後のドローン3を離陸位置まで運ぶ。
【0028】
ドローン3は、離陸指示を受信すると、飛行制御装置30が駆動装置31Dを制御し、プロペラ31Pを回転させ離陸する(ステップS31)。そして、ドローン3は、図5に示すように、離陸位置から水路C内に進入し、点検開始位置SPに移動する(ステップS32)。
【0029】
ドローン3は、例えば図6に示すように、事前に計画された移動計画に従って水路C内を自律飛行し点検する(ステップS33)。このときドローン3は、物体検出領域DRを有し、機体周辺の物体(例えば進行方向に対して右側の壁RW及び左側の壁LW等)と接触しないように飛行する。また、ドローン3は、撮像装置37により、水路C内の左右両方の壁RW,LWを、同じ画角IA(以下「撮像範囲」と称す)内に撮像し、撮像画像を基地車両2(管理装置4)に送信する。これにより、管理者Opは、管理装置4を用いて、蓄積された撮像画像の時系列データを画像解析することで、水路Cの劣化状態を判断する。なお、ドローン3は、撮像装置37による撮像範囲IAに、水路Cの右側及び左側の壁RW,LWが含まれない場合には、例えば図7に示すように、水路C内をジグザグ飛行してもよい。これにより、ドローン3は、例えば水路Cの横幅が撮像範囲IAの横幅よりも格段に広い場合であっても、点検対象である壁RW,LWの全ての範囲を撮像できる。
【0030】
ドローン3は、移動計画に従って点検終了位置Eに到着すると(ステップS34)、図8に示すように、機体の飛行位置を点検終了位置EPから所定の高さまで上昇させる。その結果、ドローン3は、水路C内から退出した後、機体回収位置に移動し着陸する(ステップS35)。上述したように、その後は、管理者Opによって着陸したドローン3が回収され、バッテリ35が交換される。
【0031】
[機能構成]
大規模な農業地域では、点検対象である水路Cの作業範囲は広い。具体的には、大規模な農業地域では、数十[km]に及ぶ水路Cが数十[km]の農地に広がっている。これに対して、通常、産業分野で利用されるドローン3は、管理者Opが居る基地から通信可能な約7[km]以内の飛行領域において約20分から40分間飛行できる程度である。
【0032】
このように、点検対象である水路Cは、搭載バッテリ35の容量に基づくドローン3の継続飛行可能な範囲を超えている。そのため、点検作業全体の中で、ドローン3のバッテリ35を複数回交換しながら点検作業を繰り返し実施する必要がある。また、水路Cの長さは、点検を実施するドローン3に対して想定以上に負荷を掛ける。そのため、作業が中断しても、ドローン3によって点検作業を再開し、残りの作業を効率よくかつ適切に実施する必要がある。
【0033】
そこで、本実施形態に係る管理システム1では、適切なタイミングでバッテリ35を交換し、効率よく繰り返し点検作業が実施されるように、管理装置4によって次のような処理を行う。具体的には、管理装置4は、基地車両2及びドローン3における点検作業全体の移動経路を最適化する(移動経路を計画する)。このとき管理装置4は、バッテリ35の容量に応じた継続飛行可能範囲等に基づき最適な移動経路を計算し決定する。そして、管理装置4は、最適化された移動経路のデータを基地車両2及びドローン3の移動計画のデータに反映する。
【0034】
さらに、本実施形態に係る管理システム1では、作業が中断しても、効率よく適切な点検が継続して実施されるように、管理装置4によって次のような処理を行う。具体的には、管理装置4は、作業が中断された位置に基づき、基地車両2及びドローン3における点検作業全体の移動経路を再び最適化する(移動経路を再計画する)。このとき管理装置4は、作業中断前までに移動経路に従って作業が実施された点検済み区間を除く残りの点検区間(未点検区間)に対して、基地車両2及びドローン3それぞれの最適な移動経路を再計算し決定する。そして、管理装置4は、再び最適化された移動経路のデータを基地車両2及びドローン3の移動計画のデータに反映する。
【0035】
以下に本実施形態に係る管理システム1が有する移動計画機能について説明する。上述したように、本実施形態に係る移動計画機能は、主に作業実施前の計画機能と作業中の再計画機能の2つに分けられる。
[事前計画機能]
図9(A)に示すように、本実施形態に係る移動計画機能は、まず、点検対象全体の水路Cを表す水路パスPと水路Cの周辺の道路を表す道路パスPとを地図データ441から抽出する。次に、移動計画機能は、図9(B)に示すように、抽出データに含まれる水路パスPを、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な範囲に従って分割し、複数の分割水路パスDPCn(点検対象全てのうち、継続飛行可能な距離又は時間に相当する点検区間)を生成する。次に、移動計画機能は、図9(C)に示すように、分割水路パスDP(分割点検区間)ごとに当該パスに対する基地車両2及びドローン3の各移動経路の最適化を実行する。換言すれば、移動計画機能は、基地車両2とドローン3とが通信可能な位置関係を維持可能な、分割点検区間における第1移動経路(基地車両2及びドローン3の移動距離又は移動時間)を最適化する第1移動経路決定処理を実行する。次に、移動計画機能は、図9(D)に示すように、各分割水路パスDPCn同士を接続する基地車両2の移動経路の最適化を実行する。換言すれば、移動計画機能は、各分割点検区間同士を接続する第2移動経路(基地車両2がドローン3を運ぶ際の移動距離又は移動時間)を最適化する第2移動経路決定処理を実行する。
【0036】
このように、本実施形態に係る移動計画機能は、点検対象全ての水路Cを表す水路パスPを、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な範囲(継続飛行可能な距離又は時間:20分から40分)の単位で分割する。そして、移動計画機能は、複数の分割水路パスDPCnに対して、パス内の移動経路(第1移動経路)の最適化を行う。そして、移動計画機能は、パスごとに移動経路が最適化された各分割水路パスDPCn同士を接続する移動経路(第2移動経路)の最適化を行う。これにより、本実施形態に係る管理システム1(管理装置4)は、バッテリ35の容量に応じて、適切に移動経路を決定できる。すなわち、管理システム1は、適切なタイミングでバッテリ35を交換し、効率のよい作業の実施を実現する、基地車両2及びドローン3(異なる2種類の移動体)の移動計画を作成できる。
【0037】
[再計画機能]
図10は、本実施形態に係る移動計画機能(再計画機能)の概要を示す図である。図10に示すように、本実施形態に係る移動計画機能は、移動経路が最適化された分割水路パスDP(分割点検区間)において、作業が中断されたときの位置IP(t)(以下「作業中断位置」と称す)と作業が中断されたときの時間t(以下「作業中断時間」と称す)とを確認する。次に、移動計画機能は、作業中断位置IP及び/又は作業中断時間tに基づき、分割水路パスDPのうち、作業中断前までに移動経路に従って点検が実施された点検済み区間ST(図中の点線箇所)を特定する。そして、移動計画機能は、特定した点検済み区間STに該当するパスを分割水路パスDPから削除する。移動計画機能は、分割水路パスDPにおける未点検区間ST(図中の実線箇所)に対して、基地車両2及びドローン3の最適な移動経路を再計算し決定する。つまり、移動計画機能は、作業中断時間tによって特定された作業中断前までの点検済み区間STを、移動経路の再計算の対象から除外する。
【0038】
これにより、本実施形態に係る管理システム1(管理装置4)は、未点検区間STを含む残りの分割水路パスDPについて、基地車両2及びドローン3の最適な移動経路を作業中断後に迅速に決定できる。すなわち、管理システム1は、作業が中断しても、効率がよく適切な点検作業の継続実施を実現する、基地車両2及びドローン3(異なる2種類の移動体)の移動計画を作成できる。
【0039】
図11は、本実施形態に係る管理システム1の機能ブロック図である。本実施形態に係る管理システム1が有する管理装置4及びドローン3は、図11に示すような各機能を有する。
【0040】
[管理装置]
管理装置4は、送受信部40、グラフ処理部41、経路計画部42、移動体制御部43、記憶部44、作業中断判定部45、及び再計画部46等を有し、各機能部が連携して動作することで所定の機能を提供する。送受信部40は、ドローン3等の管理装置4以外の他の機器との間でデータの送受信を行う。記憶部44は、管理装置4が移動計画機能を実行するために必要な各種データを保存する所定の記憶領域である。なお、記憶部44は、図2に示すメモリ102及び/又はストレージ103が有する機能である。
【0041】
本実施形態に係る各種データは、地図データ441、パラメータデータ442、移動計画データ443、及び計測データ444等を含む。地図データ441は、点検対象全体の水路Cとその周辺の道路とを含む地図データである。地図データ441は、例えば現地踏査の段階で事前に入手しておく。パラメータデータ442は、移動計画の中で、基地車両2及び/又はドローン3の移動経路を決定するための各種パラメータ値を示すデータである。パラメータデータ442は、主に、基地車両2及びドローン3それぞれに関する情報を含む。基地車両2に関するパラメータ値は、例えば点検作業に利用する車両総数及び通信装置7による通信距離(車両から無線通信可能な距離)等を含む。ドローン3に関するパラメータ値は、例えば点検作業に利用する機体総数、バッテリ35の交換なしでの継続飛行可能時間及び飛行速度等を含む。また、パラメータデータ442は、点検作業に影響を及ぼす外部要因に関する情報をさらに含んでもよい。外部要因のパラメータ値は、例えば基地車両2が走行予定の道路の交通情報、点検作業を実施する地域の気象情報、及び航空法に基づく飛行禁止区域の設定情報等を含む。なお、外部要因のパラメータ値は、例えば公衆回線(インターネット)を介して取得した最新の情報を記憶するようにしてもよい。一方、外部要因以外のパラメータ値は、例えば現地踏査の結果を基に決定した事前の情報を記憶するようにしてもよい。移動計画データ443は、異なる2種類の移動体を用いて水路Cの点検作業を実施するための移動体の移動計画を示すデータである。移動計画データ443は、基地車両2及び/又はドローン3の最適な移動経路データ(移動経路の最適化データ)等を含む。移動計画データ443は、後述する経路計画部42が生成し記憶部44に記憶される。計測データ444は、水路Cの点検結果を示すデータであり、各種センサの計測データである。計測データ444は、撮像装置37の撮像データ等を含む。計測データ444は、ドローン3から所定の通信回線を介して管理装置4に送信される。その結果、計測データ444は、送受信部40を介して受信され記憶部44に記憶される。このとき計測データ444は、ドローン3から定期的に送信され記憶部44に時系列データとして記憶される。
【0042】
[グラフ処理機能]
グラフ処理部41は、点検対象全体の水路Cとその周辺の道路とが含まれている地図データ441から、移動計画機能において利用可能なデータを生成し、所定のデータ処理を行う。本実施形態では、数学的モデルの1つであるグラフデータを生成する。なお、ここでいうグラフデータとは、ノード(節点/頂点)の集合とエッジ(枝/辺)の集合によって表現され、各エッジの接続関係によって、ノード間の経路を表すデータ構造の1つである。
【0043】
グラフ処理部41は、グラフ生成部411及びエッジ分割部412を有する。
【0044】
図12は、本実施形態に係るグラフ生成の一例を示す図である。グラフ生成部411は、地図データ441からグラフデータGDを生成する。グラフ生成部411は、図12Aに示すように、所定の画像処理(例えば所定の特徴量に基づくフィルタ処理)によって、地図データ441から点検対象全体の水路Cを表す水路パスPを抽出する。また、グラフ生成部411は、所定の画像処理によって、地図データ441から水路Cの周辺の道路を表す道路パスPを抽出する。グラフ生成部411は、図12Bに示すように、水路Cの抽出データ(パスデータ)から水路CのグラフデータGDを生成する。グラフ生成部411は、例えば抽出した水路パスPに対して、各パス同士の接続点にノードを挿入する。これにより、グラフ生成部411は、パスデータを複数のノードND(1≦n≦a)と複数のエッジEG(1≦n≦a)によってノード間(ノードNDとノードNDn+1との間)の経路を表すデータ構造のグラフデータGDを生成する。つまり、グラフ生成部411は、地図データ441を、パスデータを介してグラフデータGDに変換する。
【0045】
エッジ分割部412は、図12Cに示すように、グラフデータGDを構成する各エッジEGを等間隔に分割し、グラフデータGDを再構成する。上述したように、水路Cの作業範囲は広い。そのため、1つのエッジEDに対応する作業対象範囲が、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能な範囲より広い場合がある。具体的には、1つのエッジEDに対応する作業対象の距離又は時間が、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能な距離又は時間より長い場合がある。そこで、本実施形態では、エッジ分割部412が、1つのエッジEGを等間隔に分割する。そして、後述する経路計画部42が、複数の分割エッジSEGnmを連結し組み合わせることによって、点検区間に対応するサブグラフデータを生成する構成としている。これにより、本実施形態では、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能な点検区間を柔軟に構成できる。
【0046】
なお、エッジEGの分割間隔d1,d2(分割エッジSEGに対応する距離又は時間)は、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な距離又は時間よりも短い必要がある。一方、分割間隔d1,d2が小さすぎると(分割粒度が細かすぎると)、後述する移動経路の決定に関する計算量が増加する(計算コストが増大する)。そのため、エッジEGの分割間隔d1,d2は、例えば作業計画を検討する中で事前にシミュレーションを行い、継続飛行可能な距離又は時間と計算量とに基づき最適化された間隔(距離又は時間の事前調整値)を用いることが望ましい。
【0047】
[移動計画機能(事前計画機能)]
経路計画部42は、水路Cを表す水路パスPにおいてドローン3が飛行し点検する移動経路を最適化する。経路計画部42は、水路Cの周辺の道路の道路パスPにおいて基地車両2が走行しドローン3の飛行に追従する移動経路を最適化する。このとき経路計画部42は、バッテリ35の容量に応じた継続飛行可能時間及び飛行速度等に基づき最適な移動経路を計算し決定する。このように、移動計画部42は、基地車両2及びドローン3における点検作業全体の移動経路を最適化し、最適化された移動経路のデータを基地車両2及びドローン3の移動計画データ443に反映する。その結果、水路Cの点検作業において、適切なタイミングでドローン3のバッテリ35を交換し、基地車両2及びドローン3を用いた効率のよい作業の実施を実現する、異なる2種類の移動体の最適な移動計画が作成される。
【0048】
経路計画部42は、サブグラフ生成部421、第1移動経路決定部422、及び第2移動経路決定部423を有する。
【0049】
図13は、本実施形態に係るサブグラフ生成の一例を示す図である。サブグラフ生成部421は、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能な点検区間を表すサブグラフデータSGDを生成する。サブグラフ生成部421は、図13に示すように、各エッジEGを等間隔に分割し再構成されたグラフデータRGDから複数のサブグラフデータSGD(1≦n≦c)を生成する。
【0050】
サブグラフデータSGDを生成するためには、サブグラフデータSGDの生成数(サブグラフの総数)及びサブグラフデータSGDを構成するエッジ数(1つのサブグラフのエッジ総数)を決定する必要がある。具体的には、サブグラフデータSGDの生成では、水路Cの点検作業全体の移動経路において、ドローン3のバッテリ35を交換し、水路Cの各分割水路パスDPCnの間を移動する時間が最小限となるようなサブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数を決定する必要がある。そこで、本実施形態では、この問題(サブグラフの生成数の最小化問題)を数理モデル化し(問題を定式化し)、数理最適化(問題解決の一手法)によって問題を解決する手法を適用する。これにより、サブグラフ生成部421は、サブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数を計算し、計算結果に基づき複数のサブグラフデータSGDを生成する。
【0051】
数理モデルは、変数、制約条件、及び目的関数によって構成される。本実施形態では、上記問題を、目的関数が二次式であり、制約条件が一次式の二次計画問題(QP:Quadratic Programming)とする。さらに、本実施形態では、二次計画問題のうち、変数の中に整数が含まれる場合の混合整数二次計画問題(MIQP:Mixed Integer Quadratic Programming)とする。
【0052】
図14は、本実施形態に係るサブグラフ生成の計算処理を示すフローチャートである。サブグラフ生成部421は、上記問題を混合整数二次計画問題として数理モデル化し、図14に示すような計算処理を実行する。これにより、サブグラフ生成部421は、サブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数の計算結果に基づき、複数のサブグラフデータSGDを生成する。
【0053】
図14に示すように、サブグラフ生成部421は、サブグラフデータSGDの生成数Sの初期値Sを設定する(ステップS41)。初期値Sは下記式[1]で示される。
【数1】
(変数リスト)
K:ドローンの総数;
M:完全に充電されたバッテリによってドローンが点検作業を実施可能な範囲に相当するエッジeの数(ドローンがバッテリの交換なしで継続飛行可能な範囲に相当するエッジeの数);
Ne:再構成後のグラフのエッジeの総数;及び
KM:サブグラフを構成するエッジeの最大数である。
【0054】
なお、上記変数値K,Mは、記憶部44が記憶するパラメータデータ442に含まれる各パラメータ値又はパラメータ値から算出された値である。例えば変数値Kは、点検作業に利用するドローン3の総数の値である。また、変数値Mは、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な時間の値及び飛行速度の値に基づき、再構成後のグラフデータRGDにおけるエッジEGに対して計算された値である。このように、サブグラフ生成部421は、点検作業時に用いるドローン3の総数、及び、バッテリ35の容量に応じた継続飛行可能範囲を考慮し、サブグラフデータSGDの生成数S及びエッジ数を決定している。
【0055】
サブグラフ生成部421は、初期値Sを設定後、上記混合整数二次計画問題を数理モデル化した下記式[2]から[6](目的関数及び定式化された制約条件)を用いて計算し、サブグラフの生成数の最小化問題を解決する(ステップS42)。
(目的関数)
【数2】
【0056】
(定式化された制約条件)
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0057】
(変数リスト)
si∈{0,1}:ノードiがサブグラフsに含まれるか否かを表す決定変数;
sj∈{0,1}:ノードjがサブグラフsに含まれるか否かを表す決定変数;及び
se∈{0,1}:エッジeがサブグラフsに含まれるか否かを表す決定変数である。
【0058】
(制約条件リスト)
制約[3]:各エッジeが1つのサブグラフsにのみ属している必要がある;
制約[4]:ドローンの総数Kを全てのサブグラフsのエッジ数Eの下限値とし、サブグラフsの最大数KMを全てのサブグラフsのエッジ数Eの上限値とする;
制約[5]:各サブグラフs同士を接続する必要がある;及び
制約[6]:エッジeijがサブグラフsに含まれる場合にはノードiとノードjとの両方がサブグラフsに含まれる。
【0059】
サブグラフ生成部421は、上記式[2]から[6]に基づき、上記混合整数二次計画問題の数理モデルの計算が実行可能か否かを判定する(ステップS43)。つまり、サブグラフ生成部421は、生成数Sの最小化問題が解決されたか否かを判定する。サブグラフ生成部421は、実行不可能と判定した場合(ステップS43:NO)、生成数Sに1を加算する(ステップS44)。一方、サブグラフ生成部421は、実行可能と判定した場合(ステップS43:YES)、処理を終了する。このように、サブグラフ生成部421は、上記混合整数二次計画問題が解決されるまで反復処理を実行する。そして、サブグラフ生成部421は、サブグラフデータSGDの生成数Sを初期値Sから+1ずつ増加させる。その結果、サブグラフ生成部421は、上記混合整数二次計画問題が解決された時点の生成数S(サブグラフの総数)及びエッジ数E(1つのサブグラフのエッジ総数)に基づき、複数のサブグラフデータSGDを生成する。
【0060】
サブグラフデータSGDが生成された後は、当該データに対応する水路Cの分割水路パスDP内をドローン3が点検作業するための最適な移動経路を決定する必要がある。そのため、第1移動経路決定部422は、生成された1つのサブグラフデータSGDに対して、基地車両2及びドローン3の各移動経路(第1移動経路)の最適化を行う。具体的には、第1移動経路決定部422は、1つのサブグラフデータSGD内の複数のノードNDと複数のエッジEGとを最短で経由するドローン3の移動経路を決定する。また、第1移動経路決定部422は、ドローン3の移動経路に対して、通信装置7を介して移動中のドローン3と通信可能な距離に位置する基地車両2の移動経路を決定する。そこで、本実施形態では、サブグラフ生成時と同様に、この問題を数理モデル化し、数理最適化によって問題を解決する手法を適用する。
【0061】
図15は、本実施形態に係るサブグラフに対する基地車両2及びドローン3の最短経路問題の一例を示す図である。図15に示す例は、1つのサブグラフデータSGDで表現される水路Cの分割水路パスDPを1台のドローン3が点検作業する場合を想定している。また、分割水路パスDPの周辺には、基地車両3が走行可能な道路(道路パスP)が存在する。そして、ドローン3の周囲には、基地車両2(車両に搭載された通信装置7)との通信可能領域CRが存在する。このように、1つのサブグラフデータSGDに対して、点検作業で用いられる基地車両2の総数とドローン3の総数とが決まっている場合には、基地車両2及びドローン3の最短経路問題(サブグラフ内の移動距離の最小化問題)は、混合整数二次計画問題として数理モデル化することができる。
【0062】
図16は、本実施形態に係るに対する基地車両2及びドローン3の最短経路問題を解決するための計算処理を示すフローチャートである。第1移動経路決定部422は、上記問題を混合整数二次計画問題として数理モデル化し、図16に示すような計算処理を実行する。これにより、第1移動経路決定部422は、1つのサブグラフデータSGDに対するドローン3の最短移動経路を決定し、ドローン3の最短移動経路に応じた基地車両2の最短移動経路を決定する。つまり、第1移動経路決定部422は、1つのサブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の各最短移動経路を含む第1移動経路を決定する。
【0063】
図16に示すように、第1移動経路決定部422は、サブグラフデータSGDで表現される水路Cの分割水路パスDPに対する作業計画対象時間(離散時間ステップ)Tの初期値Tを設定する(ステップS51)。初期値Tは下記式[7]で示される。
【数7】
(変数リスト)
Ns:サブグラフsにおけるエッジeの総数である。
【0064】
第1移動経路決定部422は、初期値Tを設定後、上記混合整数二次計画問題を数理モデル化した下記式[8]から[14](目的関数及び定式化された制約条件)を用いて計算し、サブグラフ内の移動距離の最小化問題を解決する(ステップS52)。
(目的関数)
【数8】
【0065】
(定式化された制約条件)
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【0066】
(変数リスト)
car:基地車両の総数;
kti∈{0,1}:時間tにおいてドローンkがサブグラフのノードiに位置するか否かを表す決定変数;
kcarti∈{0,1}:時間tにおいて基地車両kcarがサブグラフのノードiに位置するか否かを表す決定変数;及び
ωktkcar∈{0,1}:時間tにおいてドローンkが基地車両kcarの通信可能領域内に位置するか否か表す決定変数;
ektd∈{0,1}:d方向において時間tから点検作業の飛行を開始するドローンkによってエッジeが訪問されるか否かを表す決定変数である。
なお、エッジeij(ノードi<ノードj)の場合のd=1は、エッジeijがドローンkによって点検されるときに、ドローンが最初にノードiに到達し、次にノードjに到達することを表す。d=2は、ドローンが最初にノードjに到達し、次にノードiに到達することを表す。
R: 0と1で構成される伝送行列であり、ノードiとノードjとの間のユークリッド距離がドローンの最大伝送可能距離より小さい場合にはR(i,j)=1である;
Acanal:0と1で構成される水路の分割水路パスを表すサブグラフの隣接行列であり、ノードiとノードjとが隣接している場合にはAcanal(i,j)=1である;及び
Aroad:0と1で構成される道路の分割道路パスを表すサブグラフの隣接行列であり、ノードiとノードjとが隣接している場合にはAroad(i,j)=1である。
【0067】
なお、上記変数値ωktkcarは、記憶部44が記憶するパラメータデータ442に含まれるパラメータ値から算出された値である。例えば変数値ωktkcarは、ドローン3が基地車両2と通信可能な距離の値に基づき、ドローン3が基地車両2の通信可能領域CR内に位置するか否かを判断し、判断結果から計算された値である。このように、第1移動経路決定部422は、ドローン3と基地車両2との間の通信可能領域CRを考慮し、1つのサブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の各最短移動経路を含む第1移動経路を決定している。
【0068】
(制約条件リスト)
制約条件には、主に、基地車両2とドローン3との位置関係の制約及び通信可能範囲の制約である。具体的には下記の通りである。
制約[9]:全てのエッジeを1回ずつ点検する必要がある;及び
制約[10]:決定変数wektdが決定変数xktiの十分条件である。
具体的には、wekt1=1は、xkti=1及びxk(t+1)j=1の十分条件であり、wekt2=1は、xktj=1及びxk(t+1)i=1の十分条件であるという関係である。
制約[11],[12]:常に全てのドローンにおいて、ドローンkの伝送可能距離内(通信可能距離内)に少なくとも1台の基地車両kcarが位置していなければならない;
制約[13]:一定の時間経過の中で、全ての基地車両Kcar及びドローンKが1つのノードにのみ出現しなければならない;及び
制約[14]:基地車両kcarとドローンkとは連続する時間経過の中で隣接するノードにだけ移動する。
【0069】
なお、第1移動経路決定部422では、1つのサブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の各最短移動経路を含む第1移動経路を決定する上で、上記制約[9]から[14]に加え、次のような条件も想定している。
(追加想定条件)
想定[1]:サブグラフで表現される水路の分割水路パスの端は、ドローンによって点検される必要がある;
想定[2]:サブグラフを構成するエッジをドローンによって点検するには一定の時間が必要である;及び
想定[3]:点検作業の開始時と終了時において、ドローンが水路と基地車両との間を飛行するためにかかる時間は、点検作業時間に比べてかなり短いため、経路決定処理において考慮しなくてもよい。
【0070】
上記想定[3]の理由は、下記の通りである。
点検作業時に移動しながら水路Cの壁の鮮明な撮像画像を取得するために、ドローン3は、低速(画像品質を維持可能な速度)で飛行する必要がある。そのため、経路決定処理では、この点検作業時間を考慮する必要がある。それに比べて、ドローン3は、水路Cと基地車両2との間を飛行するとき、点検作業時に比べて高速で飛行してもよい。よって、経路決定処理では、水路Cと基地車両2との間の飛行時間を考慮する必要はない。
【0071】
第1移動経路決定部422は、上記式[7]から[14]に基づき、上記混合整数二次計画問題の数理モデルの計算が実行可能か否かを判定する(ステップS53)。つまり、第1移動経路決定部422は、最短経路問題が解決されたか否かを判定する。第1移動経路決定部422は、実行不可能と判定した場合(ステップS53:NO)、作業計画対象時間(離散時間ステップ)Tに1を加算する(ステップS54)。一方、第1移動経路決定部422は、実行可能と判定した場合(ステップS53:YES)、処理を終了する。このように、第1移動経路決定部422は、上記混合整数二次計画問題が解決されるまで反復処理を実行する。そして、第1移動経路決定部422は、サブグラフデータSGDで表現される水路Cの分割水路パスDPに対する作業計画対象時間Tを初期値Tから+1ずつ増加させる。第1移動経路決定部422は、上記混合整数二次計画問題が解決された時点の移動経路を、基地車両2及びドローン3の最短移動経路として決定する。
【0072】
水路Cの分割水路パスDP内を点検作業するための最適な移動経路を決定後は、全ての分割水路パスDPCnを基地車両2が経由する最短の移動経路を決定する必要がある。そのため、第2移動経路決定部423は、グラフ内の移動経路が最適化された全てのサブグラフデータSGDに対して、基地車両2の移動経路(第2移動経路)の最適化を行う。具体的には、第2移動経路決定部423は、複数のサブグラフ同士を最短で経由する基地車両2の移動経路を決定する。
【0073】
図17は、本実施形態に係るサブグラフ間における基地車両2の最短経路問題を非対称の巡回セールスマン問題に置き換える例を示す図である。図17に示す例では、水路Cの各分割水路パスDPCnを表現する1つのサブグラフSGを1つのノードNDとしている。これにより、複数のサブグラフ同士を経由する場合の最短経路問題を、非対称の巡回セールスマン問題(ATSP:Asymmetric Traveling Salesman Problem)に置き換えている。より具体的には、本実施形態では、各サブグラフSGに対応する複数のノードNDを含む新しいグラフデータNGDを生成する。そして、本実施形態では、基地車両2がノード間を自由に移動可能とするために、新しいグラフNGDは、複数のサブグラフSGが互いに接続されている。その上で、本実施形態では、互いに接続されているサブグラフSGを経由し各サブグラフSGを1回ずつ経由する場合の最短経路問題(サブグラフ間の移動距離の最小化問題)を、非対称の巡回セールスマン問題として解決する。なお、巡回セールスマン問題は、組み合わせ最適化問題の1つである。
【0074】
図18は、本実施形態に係るサブグラフ間における基地車両2の最短経路問題を解決するための計算処理のフローチャートである。第2移動経路決定部423は、上記問題を非対称の巡回セールスマン問題として数理モデル化し、図18に示すような計算処理を実行する。これにより、第2移動経路決定部423は、グラフ内の移動経路が最適化された全てのサブグラフデータSGDを1回ずつ経由する基地車両2の最短移動経路を決定する。つまり、第2移動経路決定部423は、全てのサブグラフデータSGDを1回ずつ経由する基地車両2の最短移動経路を含む第2移動経路を決定する。
【0075】
図18に示すように、第2移動経路決定部423は、各サブグラフSGに対応する複数のノードNDによって構成された新しいグラフデータNGDにおいて、各サブグラフ同士を接続するエッジの重みを決定する(ステップS61)。エッジの重みを決定する問題(エッジの重み付け問題)は、混合整数二次計画問題として数理モデル化することができる。よって、第2移動経路決定部423は、上記混合整数二次計画問題を数理モデル化した下記式[15]から[16](目的関数及び定式化された制約条件)を用いて計算し、エッジの重み付け問題を解決する。
(目的関数)
【数15】
【0076】
(定式化された制約条件)
【数16】
【0077】
(変数リスト)
Q:各サブグラフ同士を接続する各エッジの重みを表す行列であり、QAB:=Q(A,B)は、サブグラフAのノードからサブグラフBのノードへの移動方向を示す有向エッジの重みである;
ij:道路の道路パスPを表すグラフのノードiとノードjとの間の最短経路の長さ;及び
ij∈{0,1}:サブグラフAのノードiからサブグラフBのノードjに移動するか否かを表す決定変数である。
【0078】
図17には、サブグラフデータSGDで表現される水路Cの分割水路パスDPにおけるドローン3の離陸位置(飛行開始位置)が“○”で示されており、着陸位置が“×”で示されている。この場合、ドローン3の離陸位置(飛行終了位置)は、分割水路パスDPの点検作業の開始位置に相当し、対応するサブグラフの開始ノードに相当する。また、ドローン3の着陸位置は、分割水路パスDPの点検作業の終了位置に相当し、対応するサブグラフの終了ノードに相当する。よって、第2移動経路決定部423は、例えばサブグラフAの終了ノードとサブグラフBの開始ノードとを接続する全てのエッジのうち最短のエッジを特定しQABを算出する。このようなQABを算出する手法は、上記式[15]のように数理モデルの目的関数として定式化できる。なお、上記ドローン3の離陸位置(飛行開始位置)及び着陸位置(飛行終了位置)は、第1移動経路決定部422によって決定されている。ドローン3の離陸位置及び着陸位置は、サブグラフデータSGDに対するドローン3の移動経路が決定した時点で、決定した移動経路における移動開始ノードと移動終了ノードに基づき特定される。よって、第1移動経路決定部422は、計算用のパラメータ値として、決定した移動経路における移動開始ノードと移動終了ノードに対応するドローン3の離陸位置及び着陸位置を第2移動経路決定部423に渡す。
【0079】
(制約条件リスト)
制約[16]:サブグラフAの全ての終了ノードに1回だけ到達する必要があり、サブグラフBの全ての開始ノードに1回だけ到達する必要がある。
【0080】
第2移動経路決定部423は、上記式[15]から[16]を用いて、新しいグラフデータNGDにおける各サブグラフ同士を接続するエッジの重みQを決定後、複数のサブグラフ同士を最短で経由する基地車両2の移動経路(最小距離の閉塞パス)を決定する(ステップS62)。
【0081】
上述したように、サブグラフ間における基地車両2の最短経路問題(サブグラフ間の移動距離の最小化問題)は、非対称の巡回セールスマン問題として数理モデル化することができる。よって、第2移動経路決定部423は、上記非対称の巡回セールスマン問題を数理モデル化した下記式[17]から[19](目的関数及び定式化された制約条件)を用いて計算し、サブグラフ間の移動距離の最小化問題を解決する。
(目的関数)
【数17】
【0082】
(定式化された制約条件)
【数18】
【数19】
【0083】
(変数リスト)
st∈{0,1}:は、時間tに基地車両によってサブグラフsが訪問されるか否かを表す決定変数である。
【0084】
(制約条件リスト)
制約[18]:基地車両は例えば会社から点検作業現場に移動し、作業終了後に再び会社に戻る必要がある;及び
制約[19]:各サブグラフは1回しか訪問できない。
【0085】
第2移動経路決定部422は、上記式[17]から[19]に基づき、上記非対称の巡回セールスマン問題の数理モデルの計算を実行し、問題が解決された時点の移動経路を、サブグラフ間の基地車両2の最短移動経路(最小距離の閉塞パス)として決定する。
【0086】
以上のように、本実施形態に係る管理装置4では、サブグラフ生成部421は、ドローン3の継続飛行可能距離又は継続飛行可能時間に基づき、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な点検区間に対応するサブグラフデータSGDを生成する。第1移動経路決定部422は、基地車両2とドローン3との間の通信可能領域CRに基づき、1つのサブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の各最短移動経路を含む第1移動経路を決定する。第2移動経路決定部423は、決定された第1移動経路における移動開始ノードと移動終了ノードに対応するドローン3の離陸位置及び着陸位置に基づき、全てのサブグラフデータSGDを1回ずつ経由する基地車両2の最短移動経路を含む第2移動経路を決定する。
【0087】
移動計画部42は、決定された第1移動経路及び第2移動経路の各データを、基地車両2及びドローン3の移動計画データ443に反映するために記憶部44に書き込む。
【0088】
[移動計画機能(再計画機能)]
作業中断判定部45は、実施中の作業を中断すべき状態か否かを判定する。作業中断判定部45は、例えば次のような情報に基づき、作業を中断すべき状態と判定する。作業中断判定部45は、送受信部40を介してドローン3から受信した異常/故障の情報に基づき、実施中の作業を中断すべき状態であると判定する。また、作業中断判定部45は、記憶部44の所定の記憶領域に記憶されているパラメータデータ442として、公衆回線を介して取得した最新の交通情報に基づき、基地車両2が走行中の道路で、当該車両の走行に悪影響を及ぼす交通現象(例えば交通渋滞等)が発生しているか否かを判定する。作業中断判定部45は、走行に悪影響を及ぼす交通現象が発生していると判定した場合に、実施中の作業を中断すべき状態であると判定する。また、作業中断判定部45は、パラメータデータ442として、公衆回線を介して取得した最新の気象情報に基づき、ドローン3が飛行中の地域で、当該機体の飛行に悪影響を及ぼす気象現象(例えば強風、強雨、又は降雪等)が発生しているか否かを判定する。作業中断判定部45は、飛行に悪影響を及ぼす気象現象が発生していると判定した場合に、実施中の作業を中断すべき状態であると判定する。このように、作業中断判定部45は、ドローン3の飛行環境及び飛行状態に関する情報や点検作業に影響を及ぼす外部要因に関する情報等に基づき、実施中の作業を中断すべき状態であるか否かを判定する。
【0089】
作業中断判定部45は、実施中の作業を中断すべき状態であると判定した場合に、作業中断時における基地車両2及びドローン3の位置情報を取得する。ドローン3からの受信情報に基づき、実施中の作業を中断すべき状態であると判定した場合には、作業中断判定部45は、ドローン3からの受信情報に位置情報(例えばGPS値等)が含まれているため、この情報を、作業中断時のドローン3の位置情報とする。一方、パラメータデータ442に基づき、実施中の作業を中断すべき状態であると判定した場合には、作業中断判定部45は、位置センサ8を介して、基地車両2の位置情報(例えばGPS値等)を取得する。そして、作業中断判定部45は、送受信部40を介して、ドローン3に対して位置情報の提供を要求する。その結果、作業中断判定部45は、ドローン3から位置情報を取得できる。
【0090】
また、作業中断判定部45は、実施中の作業を中断すべき状態であると判定した場合に、作業中断時におけるドローン3の搭載バッテリ35の状態情報(例えば残容量等)を取得する。なお、ドローン3からのバッテリ35の状態情報の取得方法については、上述した位置情報の取得方法と略同一であるため、上記該当記載を援用しここでの詳述は省略する。
【0091】
作業中断判定部45は、このようにして取得した位置情報及びバッテリ35の状態情報を再計画部46に転送することによって、作業中断後に残りの作業を効率よくかつ適切に実施可能な、基地車両2及びドローン3の移動経路の最適化(再計画)を指示する。
【0092】
再計画部46は、事前計画で最適化された水路パスPにおいて、作業中断後、ドローン3が再び飛行し点検する移動経路を最適化する。再計画部46は、水路Cの周辺の道路の道路パスPにおいて、作業中断後、基地車両2が走行しドローン3の飛行に追従する移動経路を最適化する。このとき再計画部46は、作業中断前までに移動経路に従って点検が実施された点検済み区間に該当するパス(第1パスデータ)を分割水路パスDPから削除する。そして、再計画部46は、作業再開後に実施が予定されている未点検区間に該当するパス(第2パスデータ)を、移動経路の再計算の対象とする。つまり、再計画部46は、作業中断前までの点検済み区間を、移動経路の再計算の対象から除外する構成としている。このように、再計画部46は、基地車両2及びドローン3における未点検の作業範囲全体の移動経路を最適化し、再び最適化された移動経路のデータに基づき、基地車両2及びドローン3の移動計画データ443を更新する。その結果、作業が中断しても、効率がよく適切な点検の継続実施を実現する、異なる2種類の移動体の最適な移動計画が作成される。
【0093】
再計画部46は、サブグラフ再生成部461及び移動経路再決定部462を有する。
【0094】
サブグラフ再生成部461は、作業再開後に点検作業を実施する予定の未点検区間STを表すサブグラフデータSGDを再生成(再構成)する。サブグラフ再生成部461は、作業中断前に使用していた移動計画データ443に含まるグラフデータGDを記憶部44から読み出す。サブグラフ再生成部461は、作業中断位置IP(t)として作業中断判定部45から取得した位置情報(ドローン3の位置情報)及び/又は作業中断時間tに基づき、グラフデータGDのうち、作業が中断された点検中断区間に対応するエッジEDを特定する。サブグラフ再生成部461は、グラフ内における点検中断区間のエッジEGの位置に基づき、グラフデータGDのうち、作業中断前までに移動経路に従って作業が実施された点検済み区間STに対応するエッジEGを特定する。サブグラフ再生成部461は、特定したエッジEGをグラフデータGDから削除する。これにより、点検済み区間STを再計画の対象から除外し、再計画の対象を、作業再開後に点検作業を実施する予定の未点検区間STに絞り込める。
【0095】
サブグラフ再生成部461は、未点検区間STに対応するエッジEGのみを含むグラフデータGDから、サブグラフデータSGDを再生成する。なお、サブグラフデータSGDの再生成方法については、上述したサブグラフ生成部421による生成方法と略同一であるため、上記該当記載を援用しここでの詳述は省略する。ただし、サブグラフデータSGDの構成条件(例えばサブグラフに含まれるエッジ数等)は、バッテリ35の容量に応じた継続飛行可能な範囲(継続飛行可能な距離又は時間)に依存する。そのため、サブグラフ再生成部461は、作業中断判定部45から取得したバッテリ35の状態情報(作業中断時におけるバッテリ35の残容量)と、ドローン3の飛行速度と、に基づき、作業再開後にドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な距離又は時間を再計算する。サブグラフ再生成部461は、再計算した継続飛行可能距離又は継続飛行可能時間を1つのパラメータ値として、サブグラフデータSGDの構成条件値を再計算する。サブグラフ再生成部461は、サブグラフデータSGDの構成条件値の計算結果に基づき、サブグラフデータSGDを再生成する。また、サブグラフデータSGDの構成条件は、基地車両2の総数やドローン3の総数にも依存する。そのため、管理装置4は、作業を再開する際に用いる基地車両2の総数やドローン3の総数を、入力装置5を介して受け付ける。サブグラフ再生成部461は、入力された総数値を1つのパラメータ値として、サブグラフデータSGDの構成条件値を再計算する。
【0096】
移動経路再決定部462は、サブグラフ再生成部461によって生成された1つのサブグラフデータSGD(未点検区間STによるサブグラフ)に対して、基地車両2及びドローン3の各移動経路(第1移動経路)の最適化を行う。なお、サブグラフ内における基地車両2及びドローン3の最短経路の決定方法については、上述した第1移動経路決定部422による決定方法と略同一であるため、上記該当記載を援用しここでの詳述は省略する。ただし、サブグラフ内における基地車両2及びドローン3の最短経路は、バッテリ35の容量に応じた継続飛行可能な範囲(継続飛行可能な距離又は時間)に依存する。よって、移動経路再決定部462は、サブグラフ再生成部461によって再計算された継続飛行可能な距離又は時間を1つのパラメータ値として用いる。また、移動経路再決定部462は、第1経路決定部422と同様に、サブグラフ内の移動距離の最小化問題を、混合整数二次計画問題として数理モデル化し、最短経路を計算する。このとき移動経路再決定部462は、上記[1]から[3]の想定条件に加えて、「基地車両2及びドローン3は、再計算前の最短経路における作業中断時間tの位置から中断された点検作業を再開する」も想定条件[4]としている。
【0097】
[移動体制御機能]
移動体制御部43は、移動体の1つであるドローン3の飛行を制御する。移動体制御部43は、記憶部44が記憶するドローン3の移動計画データ443を参照し、設定された移動計画(飛行計画)に従ってドローン3が飛行するように所定の制御信号(例えば離陸指示等)や所定の飛行計画データ(例えば作業終了時の着陸位置等)を送信する。制御信号や飛行計画データは、送受信部40を介してドローン3に送信される。
【0098】
[ドローン]
ドローン3は、送受信部50、位置特定部51、飛行制御部52、駆動部53、計測データ処理部54、検出部55、及び異常判定部56等を有し、各機能部が連携して動作することで所定の機能を提供する。送受信部50は、無線通信機54が有する機能であり、基地車両2等のドローン3以外の他の機器との間でデータの送受信を行う。
位置特定部51は、位置センサ33が有する機能であり、所定の座標系に基づきドローン3の現在位置を特定する。位置特定部51は、特定した現在位置を位置情報(例えばGPS値等)として飛行制御部52に転送する。
【0099】
飛行制御部52は、飛行制御装置30が有する機能であり、駆動部53への制御信号の送信、検出部55からの検出情報の受信、及び位置特定部51からの位置情報の受信等により、飛行に関するドローン3の機体制御を行う。例えば飛行制御部52は、送受信部50を介して管理装置4から受信した制御信号に従って、ドローン3の離陸等を制御する。また、飛行制御部52は、送受信部50を介して管理装置4から受信した飛行計画データに基づき、経路に沿ったドローン3の飛行及び所定の位置への着陸等を制御する。なお、飛行制御部52は、検出信号及び現在位置に基づく自律飛行の制御も行う。
【0100】
駆動部53は、飛行装置31が有する機能であり、例えば飛行制御部52からの制御信号に従って、指示された挙動となるように駆動装置31Dを制御し、プロペラ31Pを回転駆動する。計測データ処理部54は、検出部55から入力された検出結果、すなわち計測データ444に対して所定のデータ処理を行い、送受信部50を介して処理後のデータを管理装置4に送信する。本実施形態では、点検結果である水路C内の撮像画像が計測データ444の一例として挙げられる。計測データ処理部54は、撮像画像の場合、当該画像に所定の画像処理(例えば画像特徴を強調するためのフィルタ処理等)を行う。なお、計測データ処理部54は、飛行制御装置50が有する機能であってもよい。また、画像処理を行う場合には、画像処理用の集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)によって実現してもよい。検出部55は、計測装置36が有する機能であり、各種センサによるセンシング結果を検出結果として取得し、取得した検出結果を検出情報として飛行制御部52及び計測データ処理部54に転送する。本実施形態では、撮像装置37を各種センサの一例として挙げている。
【0101】
異常判定部56は、ドローン3の継続飛行が不可能な異常/故障が発生したか否かを判定する。ここでいう継続飛行が不可能な異常/故障とは、例えばドローン3が物体に接触/衝突し飛行装置31の一部を破損した状態等が挙げられる。このような異常/故障の発生の有無は、検出部55からの検出情報に基づき判定できる。本実施形態では、計測装置36が慣性計測装置を含む。よって、検出部55は、これらのセンシングデバイスを介して、飛行環境及び飛行状態の計測結果を検出情報として遅延なく得ることができる。本実施形態では、例えば正常飛行時の慣性計測結果(以降「正常値」と称す)を、ドローン3が備える記憶装置(非図示)の所定の記憶領域に記憶している。異常判定部56は、予め記憶されている正常値を参照し、検出部55から検出情報として取得した慣性計測結果の値(以降「計測値」と称す)と正常値とを比較する。異常判定部56は、計測値と正常値との差分の絶対値が所定の閾値より大きい場合に、継続飛行が不可能な異常/故障が発生したと判定する。また、異常判定部56は、異常な値とされた慣性計測の種別に基づき、発生した異常/故障の種別を予測してもよい。異常判定部56は、異常/故障の発生ありの判定結果とともに、異常/故障の種別の予測結果を、飛行制御部52に転送する。
【0102】
これを受けて、飛行制御部52は、異常/故障が発生したドローン3を、可能な限り安全な場所に着陸させる機体制御を行う。また、飛行制御部52は、このタイミングで、位置特定部51から位置情報(例えばGPS値等)を取得するとともに、バッテリ35から現在の状態情報(例えば残容量等)を取得する。飛行制御部52は、取得した位置情報及びバッテリ35の状態情報とともに、発生した異常/故障の情報(異常/故障の種別予測結果を含む)を、送受信部50を介して管理装置4に送信する。
【0103】
以上のように、本実施形態に係るドローン3は、飛行制御部52が、管理装置4から送信された移動計画に従ってドローン3を飛行させる。これにより、ドローン3は、図6,7に示すような飛行を実施し、水路C内の点検を行う。また、ドローン3は、飛行中に発生した異常/故障を検出し、その旨を、遅延なく管理装置4に通知するとともに、可能な限り安全な場所に着陸する。
【0104】
[移動体の管理処理(事前計画処理)]
図19は、本実施形態に係る基地車両2及びドローン3の管理処理(事前計画処理)を示すフローチャートである。図19に示す処理は、管理システム1の管理装置4によって実行される。本処理は、主にグラフ生成部41によるグラフ生成処理(ステップS71からS73)及び移動計画部42による移動計画処理(ステップS74からS77)に分けられる。
【0105】
[グラフ生成処理]
管理装置4は、点検対象である水路Cとその周辺の道路を含む地図データ441を読み込む(ステップS71)。管理装置4は、点検対象全体の水路Cを表す水路パスPと水路Cの周辺の道路を表す道路パスPとを地図データ441から抽出し、水路パスP及び道路パスPのそれぞれに対応するグラフデータGDを生成する(ステップS72)。管理装置4は、グラフデータGDを構成する各エッジEGを等間隔に分割し、グラフデータGDを再構成する(ステップS73)。これにより、本処理では、例えば図12Cに示す再構成後のグラフデータRGDが生成される。
【0106】
[移動計画処理]
管理装置4は、以降の処理において参照するパラメータデータ442を読み込む(ステップS74)。このとき管理装置4は、点検作業に用いる基地車両2の総数、ドローン3の総数、ドローン3におけるバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な距離又は時間、ドローン3の飛行速度、及び、基地車両2とドローン3との通信可能領域CR等の各種パラメータ値を取得する。
【0107】
管理装置4は、取得したパラメータ値に基づき、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能な点検区間を表すサブグラフデータSGDを生成する(ステップS75)。このとき管理装置4は、各エッジEGを等間隔に分割し再構成されたグラフデータRGDから複数のサブグラフデータSGDを生成する。そのため、水路Cの点検作業全体の移動経路において、ドローン3のバッテリ35を交換し、水路Cの各分割水路パスDPCnの間を移動する時間が最小限となるようなサブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数を決定する必要がある。
【0108】
そこで、本実施形態では、サブグラフの生成数の最小化問題を混合整数二次計画問題(MIQP)として数理モデル化し問題解決する。管理装置4は、数理モデルの目的関数及び定式化された制約条件を用いて所定の計算を行い、サブグラフの生成数の最小化問題を解決する。なお、このとき用いられるパラメータ値は、ドローン3の総数、バッテリ35の交換なしで継続飛行可能な距離又は時間、及び飛行速度の各値である。その結果、本処理では、ドローン3のバッテリ35を交換し、水路Cの各分割水路パスDPCnの間を移動する時間が最小限となる最適なサブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数が決定される。
【0109】
管理装置4は、生成されたサブグラフ内におけるドローン3の最短移動経路を決定する(ステップS76)。つまり、管理装置4は、生成されたサブグラフデータSGDに対応する水路Cの分割水路パスDP内をドローン3が点検作業するための最適な移動経路を決定する。具体的には、管理装置4は、1つのサブグラフデータSGD内の複数のノードNDと複数のエッジEGとを最短で経由するドローン3の移動経路を決定する。また、管理装置4は、ドローン3の移動経路に対して、通信装置7を介して移動中のドローン3と通信可能な距離に位置する基地車両2の移動経路を決定する。
【0110】
そこで、本実施形態では、サブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の最短経路問題(サブグラフ内の移動距離の最小化問題)を混合整数二次計画問題(MIQP)として数理モデル化し問題解決する。なお、このとき用いられるパラメータ値は、基地車両2の総数、及び、基地車両2とドローン3との通信可能領域(通信可能距離)CRの各値である。その結果、本処理では、ドローン3と基地車両2との間の通信可能領域CR内において、1つのサブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の各最短移動経路を含む第1移動経路が決定される。
【0111】
管理装置4は、グラフ内の移動経路が最適化されたサブグラフ間における基地車両2の最短移動経路を決定する(ステップS77)。つまり、管理装置4は、全ての分割水路パスDPCnを基地車両2が経由する最短の移動経路を決定する。
【0112】
そこで、本実施形態では、互いに接続されているサブグラフSGを経由し各サブグラフSGを1回ずつ経由する場合の最短経路問題(サブグラフ間の移動距離の最小化問題)を、非対称の巡回セールスマン問題として混合整数二次計画問題(MIQP)として数理モデル化し問題解決する。なお、このとき用いられるパラメータ値は、第1移動経路における移動開始ノードと移動終了ノードに対応するドローン3の離陸位置及び着陸位置の各値である。その結果、本処理では、全てのサブグラフデータSGDを1回ずつ経由する基地車両2の最短移動経路を含む第2移動経路が決定される。
【0113】
管理装置4は、決定された第1移動経路及び第2移動経路の各データを、基地車両2及びドローン3の移動計画データ443に反映するためにデータ出力する(ステップS78)。
【0114】
[移動体の管理処理(再計画処理)]
図20は、本実施形態に係る基地車両2及びドローン3の管理処理(再計画処理)を示すフローチャートである。図20に示す処理は、管理システム1の管理装置4によって実行される。
【0115】
管理装置4は、実施中の作業を中断すべき状態か否かを判定する(ステップS81)。管理装置4は、作業を中断すべき状態であると判定された場合(ステップS81:YES)、基地車両2及びドローン3の作業中断位置IP(t)を取得する(ステップS82)。このとき管理装置4は、位置情報だけでなくバッテリ35の状態情報もドローン3から取得する。なお、ドローン3の各種情報は、管理装置4からの取得要求に関わらず、異常/故障が発生した場合等ドローン3から能動的に送信されてもよい。
【0116】
管理装置4は、ドローン3の作業中断位置IP(t)及び/又は作業中断時間tに基づき、点検済み区間STを再計画処理の対象から除外する(ステップS83)。管理装置4は、作業中断前に使用していた移動計画データ443に含まるグラフデータGDを記憶部44から読み出す。管理装置4は、ドローン3の作業中断位置IP(t)及び/又は作業中断時間tに基づき、グラフデータGDのうち、作業中断前までに移動経路に従って作業が実施された点検済み区間STに対応するエッジEGを特定し、特定したエッジEGをグラフデータGDから削除する。これにより、再計画処理の対象を、作業再開後に点検作業を実施する予定の未点検区間STに絞り込める。
【0117】
管理装置4は、以降の処理において参照するパラメータデータ442を読み込む(ステップS84)。このとき管理装置4は、再開する点検作業に用いる基地車両2の総数、ドローン3の総数、ドローン3におけるバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な距離又は時間、ドローン3の飛行速度、及び、基地車両2とドローン3との通信可能領域CR等の各種パラメータ値を取得する。なお、継続飛行可能な距離又は時間に関するパラメータには、記憶部44に記憶されているパラメータ値をそのまま適用するのではない。作業中断時のバッテリ35の状態は、作業が中断される前の状態から変化している。ここでいう状態には、例えば残容量(充電率;SOC:State Of Charge)や劣化状態(容量維持率;SOH:State Of Health)等が含まれる。よって、管理装置4は、ドローン3から取得したバッテリ35の状態情報に含まれる残容量とドローン3の飛行速度とに基づき、継続飛行可能な距離又は時間を再計算し、再計算した値をパラメータ値として適用する。この点については、基地車両2の総数やドローン3の総数に関するパラメータも同様である。作業再開時における利用可能数は、異常/故障の発生に伴い作業が中断される前の状態から変化している可能性がある。よって、管理装置4は、作業を再開する際に用いる基地車両2の総数及びドローン3の総数を、入力装置5を介して受け付け、入力された値をパラメータ値として適用する。
【0118】
管理装置4は、取得したパラメータ値に基づき、未点検区間STを対象に、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能なサブグラフデータSGDを再生成する(ステップS85)。つまり、管理装置4は、点検済み区間STに対応するエッジEGが削除されたグラフデータGDから、ドローン3がバッテリ35の交換なしで点検作業を実施可能なサブグラフデータSGDを生成する。本処理は、図19を参照し上述したステップS75の処理と略同一である。よって、上記該当記載を援用しここでの詳述は省略する。ここで、水路Cの未点検の作業範囲全体の移動経路において、ドローン3のバッテリ35を交換し、水路Cの未点検区間STを移動する時間が最小限となるようなサブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数を決定する必要がある。よって、管理装置4は、サブグラフの生成数の最小化問題を混合整数二次計画問題(MIQP)として数理モデル化し問題解決する。管理装置4は、数理モデルの目的関数及び定式化された制約条件を用いて所定の計算を行い、サブグラフの生成数の最小化問題を解決する。なお、このとき用いられる継続飛行可能な距離又は時間に関するパラメータ値は、上述したように、バッテリ35の残容量に応じて再計算された値である。その結果、本処理では、ドローン3のバッテリ35を交換し、水路Cの未点検区間STを移動する時間が最小限となる最適なサブグラフデータSGDの生成数及びエッジ数が決定される。
【0119】
管理装置4は、再生成されたサブグラフ内(未点検区間STによるサブグラフ内)におけるドローン3の最短移動経路を再決定する(ステップS86)。本処理は、図19を参照し上述したステップS76の処理と略同一である。よって、上記該当記載を援用しここでの詳述は省略する。管理装置4は、再生成されたサブグラフデータSGDに対応する水路Cの未点検区間ST内をドローン3が点検作業するための最適な移動経路を決定する。そこで、管理装置4は、サブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の最短経路問題(サブグラフ内の移動距離の最小化問題)を混合整数二次計画問題(MIQP)として数理モデル化し問題解決する。その結果、本処理では、ドローン3と基地車両2との間の通信可能領域CR内において、1つのサブグラフデータSGDに対する基地車両2及びドローン3の各最短移動経路を含む第1移動経路が再決定される。
【0120】
管理装置4は、再決定された第1移動経路のデータを、基地車両2及びドローン3の移動計画データ443に反映するためにデータ出力する(ステップS87)。
【0121】
[効果]
以上詳述したように、本実施形態に係る管理システム1では、以下の効果が得られる。管理システム1は、点検対象全体の水路Cを表す水路パスPを、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な範囲に従って分割する。その結果、水路パスPから複数の分割水路パスDPCn(点検対象全てのうち、継続飛行可能な距離又は時間に相当する点検区間)が生成される。さらに、管理システム1は、分割水路パスDPCn(分割点検区間)ごとに当該パスに対する基地車両2及びドローン3の各移動経路の最適化(分割点検区間における基地車両2及びドローン3の最短移動距離又は最短移動時間の決定)を行う。
【0122】
これにより、本実施形態に係る管理システム1では、搭載バッテリ35の容量に基づくドローン3の継続飛行可能な範囲を超える広域な作業範囲において、バッテリ35を適切なタイミングで交換しながら、効率よく作業を実施することができる。また、管理システム1では、バッテリ35の交換なしで継続飛行が可能な分割点検区間において、ドローン3が最短距離(又は最短時間)で点検作業を実施できる。
【0123】
そして、本実施形態に係る管理システム1は、実施中の作業を中断すべき状態か否かを判定する。管理システム1は、中断すべき状態であると判定した場合、ドローン3の作業中断位置IP(t)及び/又は作業中断時間tに基づき、基地車両2及びドローン3における点検作業全体の移動経路を再び最適化する。より具体的には、管理システム1は、作業中断位置IP(t)及び/又は作業中断時間tに基づき、作業中断前までに移動経路に従って作業が実施された点検済み区間STに対応するパスを水路パスPから削除する。その結果、再計算する対象は、点検済み区間STを除く残りの未点検区間STに絞り込まれる。管理システム1は、絞り込まれた未点検区間STに対して、基地車両2及びドローン3ぞれぞれの最適な移動経路を再計算し決定する。
【0124】
これにより、本実施形態に係る管理システム1では、何らかの原因で作業が中断しても、作業現場において、未点検区間STの最短移動経路が再計算され、効率よく適切な点検を継続して実施できる。
【0125】
さらに、本実施形態に係る管理システム1は、作業中断時のバッテリ35の残容量に基づき、ドローン3がバッテリ35の交換なしで継続飛行可能な距離又は時間を再計算する。管理システム1は、再計算した継続飛行距離又は継続飛行時間を、サブグラフデータSGDの再生成処理の決定パラメータの1つとして用いる。これにより、管理システム1では、作業再開後におけるドローン3がバッテリ35の残容量に応じた継続飛行可能な距離又は時間に基づき、未点検区間STに対するドローン3の最短移動経路を再計算できる。つまり、管理システム1では、作業再開後でも、バッテリ35の交換なしで継続飛行が可能な未点検区間STにおいて、ドローン3が最短距離(又は最短時間)で点検作業を実施できる。
【0126】
さらに、本実施形態に係る管理システム1は、作業再開時におけるドローン3の利用可能数に基づき、未点検区間STに対するドローン3の最短移動経路を再計算する。これにより、管理システム1では、異常/故障が発生し利用可能数が減ったとしても、作業再開時に利用可能なドローン3を用いて効率よく適切な点検を継続して実施できる。
【0127】
さらに、本実施形態に係る管理システム1は、ドローン3と基地車両2との間の通信可能領域CRを考慮し、基地車両2の移動経路の最適化を行う。これにより、管理システム1では、バッテリ35の交換なしで継続飛行が可能な分割点検区間において、移動中のドローン3から点検結果のデータを受信しながら、バッテリ35の交換地点へ基地車両2を走行させられる。
【0128】
さらに、本実施形態に係る管理システム1は、パス内の移動経路が最適化された各分割水路パスDPCn同士を接続する基地車両2の移動経路の最適化(各分割点検区間を1回ずつ経由する基地車両2の最短移動経路の決定)を行う。これにより、管理システム1では、各分割点検区間の間を、バッテリ35を交換した後のドローン3を運ぶ基地車両2を効率よく走行させることができる。
【0129】
以上のように、本実施形態に係る管理システム1では、駆動電力を供給する電バッテリ35の交換が必要なドローン3を用いる作業において、適切なタイミングでバッテリ35を交換し、効率のよい作業を実施できる。つまり、管理システム1では、ドローン3の継続飛行可能な範囲を超える広域な作業範囲であっても、ドローン3を用いて最適な作業が実施できる。さらに、管理システム1は、作業が中断しても、効率がよく適切な点検を継続して実施できる。つまり、管理システム1では、何らかの原因で作業が中断しても、作業現場において、未点検区間STの最短移動経路が再計算され、効率よく適切な点検を継続して実施できる。
【0130】
[変形例]
図21は、第1変形例に係る管理装置4aの機能ブロック図である。図21に示すように、管理装置4aとは異なる第1装置11がグラフ処理部41を有する構成としてもよい。この場合、地図データ441は、例えば第1装置11が備える記憶部(非図示)の所定の記憶領域に記憶される。また、第1装置11は、グラフ処理部41が生成したグラフデータGDを管理装置4に送信する。その結果、管理装置4aは、送受信部40を介してグラフデータGDを受信し、記憶部44に記憶する。そして管理装置4aは、移動計画部42が移動計画処理の実行時にグラフデータGDを記憶部44から読み込む構成となる。なお、本変形例に係る第1装置11は、コンピュータシステム100であってもよく、特定用途向けの集積回路(ASIC)であってもよい。
【0131】
図22は、第2変形例に係る管理装置4bの機能ブロック図である。図22に示すように、管理装置4bとは異なる第2装置12が移動体制御部43を有する構成としてもよい。この場合、第2装置12は、移動計画データ443の取得要求を管理装置4bに送信する。管理装置4は、送受信部40を介して取得要求を受信すると、移動計画部42により計画され記憶部44に記憶されている移動計画データ443を、送受信部40を介して第2装置12に送信する。その結果、受信した移動計画データ443は、例えば第2装置12が備える記憶部(非図示)の所定の記憶領域に記憶される。第2装置12は、移動体制御部43が移動体制御処理の実行時に移動計画データ443を記憶部から読み込む構成となる。なお、本変形例に係る第2装置12は、コンピュータシステム100であってもよく、特定用途向けの集積回路(ASIC)であってもよい。
【0132】
上記実施形態では、サブグラフの生成数の最小化問題やサブグラフ内の移動距離の最小化問題等を数理最適化問題として数理モデル化している。また、サブグラフ間の移動距離の最小化問題を組み合わせ最適化問題として数理モデル化している。これらの数理モデルについては、上記実施形態において説明した混合整数二次計画問題や非対称の巡回セールスマン問題等の数理モデルに限定されない。数理モデルは、問題の定義に応じて適切な解決手法を特定することによって決定されればよい。
【0133】
上記実施形態では、基地車両2は運転者Drの運転操作により走行するとしたが、本開示の技術は、これに限定されない。例えば、基地車両2は、車両周辺のセンシングデータと移動計画データ443とに基づき、自律走行する構成であってもよい。また、基地車両2は、車両周辺のセンシングデータと移動計画データ443とに基づき、遠隔操作により走行する構成であってもよい。
【0134】
上記実施形態に係る管理システム1は、1台の基地車両2と1台のドローン3とを点検作業に用いる構成に限定されない。複数の基地車両2と複数のドローン3とを用いる構成であってもよい。上記実施形態では、点検作業に利用する基地車両2の総数やドローン3の総数等をパラメータデータ442として保持し、移動計画部42がこれらの値を参照し、基地車両2及びドローン3それぞれの最短移動経路を決定する構成が示されている。
【0135】
上記実施形態では、車両2と無人航空機3を、異なる2つの移動体の一例として挙げた。ここでいう車両2には、4輪の車両だけでなく2輪や3輪の車両等が含まれる。また、無人航空機3には、マルチコプター(回転翼機)だけでなく固定翼機や飛行船型の飛行体等が含まれる。また、移動体としては、車両2や無人航空機3等の地上領域や上空領域を移動可能な移動体だけでなく、水上領域や水中領域を移動可能な移動体である船舶や小型潜水艦等も一例として挙げられる。なお、これらの移動体については、用いる作業に応じて適切に選択することが望ましい。
【0136】
上記実施形態では、移動体の管理システム1を水路Cの点検作業に適用する例を挙げたが、本開示の技術は、これに限定されない。本開示の技術は、少なくとも2つの移動体を用いて実施可能な作業であれば適用できる。さらに、本開示の技術は、作業時間の短縮(作業の効率化)を目的とし、手動作業の代替手段として有効である。
【符号の説明】
【0137】
1:管理システム,2:基地車両(車両),3:ドローン(無人航空機),4:管理装置,5:入力装置,6:出力装置,7:通信装置,8:位置センサ,9:無線通信機;
40:送受信部;
41:グラフ処理部,411:グラフ生成部,412:エッジ分割部;
42:移動計画部,421:サブグラフ生成部,422:第1経路決定部,423:第2経路決定部;
43:移動体制御部;
44:記憶部,441:地図データ,442:パラメータデータ,443:移動計画データ,444:計測データ;
45:作業中断判定部;
46:再計画部,461:サブグラフ再生成部,462:移動経路再決定部;
50:送受信部;
51:位置特定部,52:飛行制御部,53:駆動部,54:計測データ処理部,55:検出部,56:異常判定部;
100:コンピュータシステム,101:プロセッサ,102:メモリ,103:ストレージ,104:インタフェース;
GD:グラフデータ,SGD:サブグラフデータ;
ND:ノード,EG:エッジ。
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
図11
図12A
図12B
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