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特許7355319IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を含む、脳内炎症に起因する疲労を予防、及び/又は、改善するための抗疲労組成物とその利用
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  • 特許-IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を含む、脳内炎症に起因する疲労を予防、及び/又は、改善するための抗疲労組成物とその利用 図1
  • 特許-IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を含む、脳内炎症に起因する疲労を予防、及び/又は、改善するための抗疲労組成物とその利用 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を含む、脳内炎症に起因する疲労を予防、及び/又は、改善するための抗疲労組成物とその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20230926BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230926BHJP
   A61K 35/744 20150101ALI20230926BHJP
   A61K 36/062 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K36/899
A23L33/105
A61K35/744
A61K36/062
A61P3/02
A61P37/02
A61P43/00 105
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019555391
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 JP2018043374
(87)【国際公開番号】W WO2019103138
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2017226305
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・研究集会名 第13回日本疲労学会総会・学術集会 開催場所 名古屋大学東山キャンパス 野依記念学術交流館 開催日 平成29年5月27日・28日 ポスターセッションP-3 ・刊行物名 「日本疲労学会誌 第13巻第1号、第75頁」 発行日 平成29年5月27日 発行者 日本疲労学会事務局
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000204686
【氏名又は名称】大関株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大和 正典
(72)【発明者】
【氏名】片岡 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】田村 泰久
(72)【発明者】
【氏名】久米 慧嗣
(72)【発明者】
【氏名】峰時 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】樋詰 和久
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 悟志
(72)【発明者】
【氏名】平田 みよ
(72)【発明者】
【氏名】奥田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】坊垣 隆之
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-177330(JP,A)
【文献】特開2016-222646(JP,A)
【文献】特開2017-163867(JP,A)
【文献】特開2017-143766(JP,A)
【文献】特開2009-292785(JP,A)
【文献】国際公開第2004/062675(WO,A1)
【文献】特開2015-157855(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032322(WO,A1)
【文献】特開2009-221135(JP,A)
【文献】片渕 俊彦 ほか,疲労の条件づけとセロトニン,別冊・医学のあゆみ 疲労の科学,第204巻,第5号,日本,2003年02月01日,p.46-50,特に、p.48
【文献】斉木 臣二,<Symposium 31-3> 神経変性疾患における神経炎症 パーキンソン病と神経炎症,臨床神経学,2014年,54 巻 12 号,pp. 1125-1127,<DOI https://doi.org/10.5692/clinicalneurol.54.1125>
【文献】YAMATO Masanori et al.,Brain Interleukin-1β and the Intrinsic Receptor Antagonist Control Peripheral Toll-Like Receptor 3-,PLOS ONE,米国,2014年03月,Vol.9, Issue.3, e90950,p.1-9,特に、Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を含む、TNF-αの発現を抑制せずに、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現を抑制することにより脳内炎症に起因する疲労を予防、及び/又は、改善するための抗疲労組成物であって、
前記発現抑制剤は、アルコール発酵粕に由来する成分を含み、
前記アルコール発酵粕に由来する成分は、アルコール発酵粕を水のみで抽出した水抽出物、又はアルコール発酵粕を少なくとも1回乳酸発酵及び/若しくはアルコール発酵した再発酵物である、抗疲労組成物。
【請求項2】
慢性疲労症候群予防用である、請求項1に記載の抗疲労組成物。
【請求項3】
前記アルコール発酵粕が酒粕である、請求項1又は2に記載の抗疲労組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗疲労組成物を含む、TNF-αの発現を抑制せずに、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現を抑制することにより脳内炎症に起因する疲労を予防、及び/又は、改善するための飲食品組成物。
【請求項5】
抗疲労の表示がなされた、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、又は、栄養機能飲食品である、請求項に記載の飲食品組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗疲労組成物、又は請求項又はに記載の飲食品組成物から選択される少なくとも一つを、非ヒト動物に対して投与する工程を含む、脳内炎症に起因する疲労の改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール発酵粕に由来する成分を含む、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤とその利用とに関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会において、疲労倦怠感は、患者が、医療機関を訪れる主な理由の一つとなっている。疲労倦怠感は、過労、精神ストレス、及び病気等の様々な要因により引き起こされ、患者における恒常性の乱れを知らせる重要なシグナルの一つと考えられている。
【0003】
また、近年では、疲労は脳で関知されて疲労倦怠感として発症することや、疲労による作業効率の低下にも脳が深く関わっていることが解明されつつある。例えば、本発明者らは、インターロイキン-1β(IL-1β)等の炎症性物質が脳内で産生されることが、少なくともある種の疲労倦怠感の発症の引き金となっていることを明らかにしている(非特許文献1)。
【0004】
疲労倦怠感を改善する手法の開発は盛んに行われている。例えば、特許文献1には、特定のアミノ酸配列を持つオリゴペプチドを含む、慢性疲労症候群等の症状を緩和等するための組成物が記載されている。また、特許文献2には、酒粕をバチルス・ステアロサーモフィラス由来のタンパク質分解酵素で処理して得られるペプチド混合物を含む疲労の軽減剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国公開特許公報「特開2016-222646号公報(2016年12月26日公開)」
【文献】日本国公開特許公報「特開2009-221135(特許第5317501号)(2009年10月1日公開)」
【非特許文献】
【0006】
【文献】PLOS ONE, 2014(Published: March 12, 2014, https://doi.org/10.1371/journal.pone.0090950) : Brain Interleukin-1β and the Intrinsic Receptor Antagonist Control Peripheral Toll-Like Receptor 3-Mediated Suppression of Spontaneous Activity in Rats; Masanori Yamato, Yasuhisa Tamura, Asami Eguchi, Satoshi Kume, Yukiharu Miyashige, Masayuki Nakano, Yasuyoshi Watanabe, Yosky Kataoka
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで開発されている疲労倦怠感を改善する手法は、その改善効果に関して、ヒト又は動物の個体を用いた充分な裏付けがなされているものは少ない。
【0008】
例えば、特許文献1では、免疫細胞であるミクログリアに対する組成物の作用を、単離されているミクログリアの炎症性サイトカインの産生を指標として観察はしている。しかし、ヒト又は非ヒト動物に対する効果は、マウスの探索行動で評価を行っているのみである。
【0009】
また、特許文献2では、疲労の軽減剤をヒトに投与してその効果を評価しているが、その評価方法は定性的なものに過ぎない。
【0010】
本発明の課題は、疲労倦怠感の発症の分子メカニズムに基づいて、新規なIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤とその利用とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
【0012】
(1)アルコール発酵粕に由来する成分を含む、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、新規なIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を得ることができ、また、例えば、このIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を用いて抗疲労効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例における、酒粕エキスの効果を検証するための実験スケジュールである。
図2】本発明の実施例における、qPCR法によって大脳皮質及び海馬での各種炎症サイトカインのmRNA発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変形を加えた態様で実施できるものである。尚、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0016】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
〔1.IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤〕
本発明の一態様に係る発現抑制剤は、アルコール発酵粕に由来する成分を含み、代表的な炎症性サイトカインであるIL‐1β及び/又はIL‐6の発現を抑制する。なお、本明細書において「A及び/又はB」とは、「A及びB」と「A又はB」との双方の意味を含む。
【0018】
<炎症性サイトカインとその発現抑制>
炎症性サイトカインは、細胞によって分泌される小さなタンパク質で、炎症を高め病気を悪化させる。IL-1β又はIL‐6がヒトに投与された場合、体全体に発熱、炎症、又は細胞及び組織の崩壊をもたらし、ショック死を生じる場合もある。炎症性サイトカインは、怪我、感染、酸素欠乏又は毒性物質への曝露などのストレスが引き金となって分泌されるが、そのストレスは肉体的にもたらされるものに限定されず、精神的にもたらされるものも含まれる。本発明の一態様に係る発現抑制剤は、炎症性サイトカインが産生されうるストレス下において、IL‐1β及びIL‐6の少なくとも一方の発現を抑制するものであり、好ましくはIL‐1β及びIL‐6の双方の発現を抑制するものである。すなわち、本発明の一態様に係る発現抑制剤は、IL‐1βの発現抑制剤であるか、IL‐6の発現抑制剤であるか、IL‐1β及びIL‐6の発現抑制剤である。なお、本発明の一態様に係る発現抑制剤は、炎症性サイトカインの一種であるTNF-αの発現抑制に関して有意な効果を認めないか、IL‐1β及び/又はIL‐6に対する発現抑制能と比較して、より低い発現抑制能を示す場合がある。
【0019】
ここで、炎症性サイトカインの発現を抑制するとは、発現抑制剤を用いない場合と比較して、1)炎症性サイトカインをコードしているmRNAへの転写を抑制する場合と、2)当該mRNAからタンパク質への翻訳を抑制する場合とがあり得、少なくとも1)の抑制効果を示すことが好ましい場合がある。
【0020】
<アルコール発酵粕>
本発明の一態様に係る発現抑制剤は、アルコール発酵粕に由来する成分を含む。アルコール発酵粕とは、糖類(例えば、グルコース、フルクトース、ショ糖等)を含む原料をアルコール発酵してアルコール(エチルアルコール)を得るアルコール発酵工程で生じる残渣、すなわち酒類の絞り粕の総称である。
【0021】
糖類を含む原料は、例えば、米(胚芽米を含む)、麦(麦芽を含む)、いも類、とうもろこし、豆類、又はそば類等のようなデンプン質の材料を糖化したものでもよいし、ぶどう等の果汁のように元より糖類が豊富な材料をそのまま用いてもよい。ここで用いられる材料は、米、及び麦が好ましく、米がさらに好ましい。
【0022】
酒類の絞り粕としては、例えば、ウイスキー粕、果実酒粕(ワインの絞り粕等)、酒粕(日本酒の絞り粕を指す)及び焼酎粕等が挙げられ、酒粕及び焼酎粕が好ましく、酒粕がより好ましい。
【0023】
酒粕としては、例えば、普通酒粕、吟醸酒粕、液化酒粕等が含まれる。酒粕は加熱殺菌されていてもよいし、されていなくてもよい。また、清酒を造る工程において、米のデンプンを糖化する際に用いられる種麹は、黒麹、白麹及び黄麹が挙げられ、黄麹が好ましい場合がある。一方、焼酎を造る工程において用いられる種麹は、黒麹、白麹及び黄麹が挙げられ、黒麹又は白麹が好ましい場合がある。
【0024】
<発現抑制剤に含まれる、アルコール発酵粕に由来する成分とその調製の例>
本発明の一態様に係る発現抑制剤に含まれる、アルコール発酵粕に由来する成分として、アルコール発酵粕自体の他にも、例えば以下のようなアルコール発酵粕を用いた調製品等が挙げられる。但し、これら成分に限定されるものではない。
【0025】
(1)アルコール発酵粕の水抽出物等
本発明の一態様では、アルコール発酵粕に由来する成分は、アルコール発酵粕の水抽出物、又は、水抽出後の固形分であってもよい。アルコール発酵粕は、水抽出に際して加水により懸濁液とされる。水抽出の温度は特に限定されないが、例えば、20℃~100℃以上の水での抽出であり、60~80℃以上の水での抽出であることが好ましい。抽出の時間は特に限定されないが、例えば、30分以上で6時間以下の範囲内であり、好ましくは1時間以上で3時間以下の範囲内である。抽出操作後は、必要に応じて固液分離することによって、抽出液(アルコール発酵粕エキス)と固形分とに分けてもよい。固液分離の方法は、例えば、後述する(2)で述べる方法を用いればよい。
【0026】
得られた抽出液は、必要に応じて水を除去して濃縮を行い、アルコール発酵粕エキスの濃縮液を得てもよい。得られた濃縮液は、必要に応じて乾燥させて粉末状態にしてもよい。具体的な乾燥方法としては、特に限定されないが、フリーズドライ、ドラムドライ、スプレードライ等が挙げられる。
【0027】
(2)アルコール発酵粕をアルコール発酵した再発酵物
本発明の一態様では、アルコール発酵粕に由来する成分は、上述したアルコール発酵粕(好ましくは酒粕)をアルコール発酵した再発酵物であってもよい。ここで再発酵物の範疇には、再発酵物の液体部分のみ、再発酵物の固形分のみ、又はこれらの加工物(液体部分を粉末状にしたものなど)等も含まれる。
【0028】
アルコール発酵粕は、必要に応じてデンプン分解酵素処理及び/又はタンパク質分解酵素処理(以下、まとめて「酵素処理」と称する場合もある)と、酵母での発酵処理(アルコール発酵処理)とに供される。
【0029】
アルコール発酵粕は、酵素処理及び発酵処理の際に、加水により懸濁液とされる。この際、下記の酵素、酵母、有機酸等を同時に加えてもよいし、これらを懸濁液または水溶液としてアルコール発酵粕に加えてもよい。
【0030】
本発明の一態様において、アルコール発酵粕は、酵素処理及び/又は発酵処理の前にpH調整される。好ましくは、pH調整は酸を用いて行われる。この場合に使用する酸は、食品に使用できる限りいずれのものであってもよく、例えばリン酸及び塩酸などの無機酸、酢酸、クエン酸、乳酸及びコハク酸などの有機酸などを用いてもよい。好ましくは、酸は有機酸であり、さらに好ましくは乳酸である。
【0031】
pH調整を行う場合、pH5以下、好ましくはpH5未満、より好ましくはpH4.5以下に調整することが好ましい。好ましいpHの例は、pH2~5、pH2.5~5、pH2.5~4.5、pH3~4.8、pH3.5~4.5等である。
【0032】
本発明の一態様において、必要に応じて行われるデンプン分解酵素処理、必要に応じて行われるタンパク質分解酵素処理、及び酵母での発酵処理はいかなる順番で行ってもよく、これらのうち2つの処理を同時に行い、その前後に残りの1つの処理を行ってもよい。また、これらの処理の全てを同時に行ってもよい。全ての処理を同時に行うことにより、アルコール発酵粕由来の組成物の製造時間を短縮し、工程及び設備を簡略化することができる。
【0033】
本発明の一態様において、使用するデンプン分解酵素は食品に利用できる限りいずれのものであってもよく、例えば、麹菌など糸状菌由来のデンプン分解酵素、枯草菌などの細菌由来のデンプン分解酵素などを用いてもよい。デンプン分解酵素としては、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼなどのアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、トランスグルコシダーゼなどのグルコシダーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼなどの枝切り酵素、などが挙げられる。これらの酵素は精製品であっても、粗精製品であってもよい。パンクレアチンなどのようにデンプン分解酵素以外にタンパク質分解酵素などの他の酵素を含むものを使用してもよい。市販のデンプン分解酵素剤を使用することもできる。市販のデンプン分解酵素剤としては、グルク100(アマノエンザイム社製)、グルクSB(アマノエンザイム社製)、グルクザイムAF6(アマノエンザイム社製)、コクゲンL(大和化成社製)、スピターゼCP-40FG(ナガセケムテックス社製)、スミチームS(新日本化学工業社製)、ビオザイムA(アマノエンザイム社製)、クライスターゼL1(大和化成社製)、コクラーゼ-G2(三共ライフテック社製)などがある。デンプン分解酵素又は酵素剤は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。これらのデンプン分解酵素及び市販のデンプン分解酵素剤は例示であり、原料の種類、処理量、目的とする製品などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。
【0034】
本発明の一態様において、使用するタンパク質分解酵素は食品に利用できる限りいずれのものであってもよく、例えば、麹菌など糸状菌由来のタンパク質分解酵素、枯草菌などの細菌由来のタンパク質分解酵素、植物由来のパパイン、動物由来のペプシン、トリプシンなどを用いてもよい。タンパク質分解酵素としては、ペプチダーゼなども挙げられる。これらの酵素は精製品であっても、粗精製品であってもよい。パンクレアチンなどのようにタンパク質分解酵素以外にデンプン分解酵素などの他の酵素を含むものを使用してもよい。市販のタンパク質分解酵素剤を使用することもできる。市販のタンパク質分解酵素剤としては、ペプシン(和光純薬社製)、オリエンターゼ20A(エイチビィアイ社製)、オリエンターゼ90N(エイチビィアイ社製)、オリエンターゼONS(エイチビィアイ社製)、ニューラーゼF3G(アマノエンザイム社製)、プロテアーゼA「アマノ」G(アマノエンザイム社製)、プロテアーゼM「アマノ」G(アマノエンザイム社製)、スミチームAP(新日本化学工業社製)、スミチームLP(新日本化学工業社製)などがある。タンパク質分解酵素または酵素剤は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。これらのタンパク質分解酵素及び市販のタンパク質分解酵素剤は例示であり、原料の種類、処理量、目的とする製品などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。
【0035】
好ましくは、デンプン分解酵素処理及び/又はタンパク質分解酵素処理の前後、又は処理と並行して、酵母によるアルコール発酵処理を行う。本発明の一態様において、使用する酵母は食品に利用できる限りいずれのものであってもよく、例えば、清酒酵母、ビール酵母、ワイン酵母、パン酵母などの酵母、別の分類では、例えばサッカロマイセス属(Saccharomyces)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)などの酵母を用いてもよい。本発明の一態様において、アルコール発酵粕の再発酵物の製造に用いる酵母は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。これらの酵母は例示であり、原料の種類、処理量、目的とする製品などに応じて上記以外のものを適宜選択して用いることができる。
【0036】
必要に応じて行われる酵素処理、及び酵母でのアルコール発酵処理が終わった後、好ましくは反応物を加熱して酵素及び酵母を失活させる。失活のための加熱条件は当業者が適宜調整でき、例えば、70℃達温での加熱が挙げられる。また、反応物を加熱せずに酵素及び酵母の活性を残したままであってもよい。
【0037】
得られた反応物(すなわち再発酵物)を、固液分離することにより、液体部分をアルコール粕発酵エキス(すなわち上記再発酵物の一部(液体部分))とする。固液分離方法は当業者に公知の方法を用いることができ、例えば、遠心分離、濾過、デカンテーション等を用いることができる。必要な素材の量、沈殿の性質等の因子に応じて上記固液分離方法、あるいは上記以外の固液分離方法を、適宜選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0038】
アルコール粕発酵エキスは、必要に応じてアルコールを除去してもよい。アルコール粕発酵エキスは、必要に応じて水を除去して濃縮を行い、アルコール粕発酵エキスの濃縮液を得てもよい。得られた濃縮液は、必要に応じて乾燥させて粉末状態にしてもよい。具体的な乾燥方法としては、特に限定されないが、フリーズドライ、ドラムドライ、スプレードライ等が挙げられる。
【0039】
(3)アルコール粕発酵エキスを乳酸発酵した再発酵物
本発明の一態様では、アルコール発酵粕に由来する成分は、上記(2)で得られたアルコール発酵粕エキス(その濃縮液であってもよい)を乳酸発酵した再発酵物であってもよい。ここで再発酵物の範疇には、再発酵物の液体部分のみ、又はこれらの加工物(液体部分を粉末状にしたものなど)等も含まれる。
【0040】
本発明の好ましい一態様では、アルコール発酵粕に由来する成分は、酒粕をデンプン分解酵素処理及び/又はタンパク質分解酵素処理、並びに酵母でのアルコール発酵処理に供し、次いで、固液分離を行って固体成分を除去することにより得られる酒粕発酵エキス(アルコール粕発酵エキス)を乳酸発酵した再発酵物である。
【0041】
上記(2)で得られたアルコール発酵粕エキス(その濃縮液であってもよい)は、必要に応じて糖等の発酵を補助する成分を添加されていてもよい。
【0042】
乳酸発酵に用いる乳酸菌としては、ラクトバチルス属の微生物が挙げられる。用いられるラクトバチルス属の微生物は、好ましくはラクトバチルス・ブレビス、又はラクトバチルス・ヒルガルディである。これらは、単独で用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。好ましいラクトバチルス属の微生物の例は、ラクトバチルス・ヒルガルディ376-80株(受託番号;P-02160)、ラクトバチルス・ヒルガルディ301-259株(受託番号;P-02161)、ラクトバチルス・ブレビス301-282株(受託番号;P-02167)、などである。
【0043】
ラクトバチルス属の微生物による発酵の条件は当業者が適宜調整できる。より具体的な発酵条件として、例えば、好ましい温度条件の例は、20~40℃、20~37℃、25~40℃、25~37℃、25~30℃、30~40℃、好ましい時間の例は、20時間以上、20時間~5日間、20時間~50日間、1日間以上、1~7日間、1~14日間、1~50日間、2~14日間、2~21日間、5~15日間、5~21日間、5~50日間、などである。
【0044】
ラクトバチルス属の微生物による発酵によって、アルコール発酵粕の乳酸発酵エキス(乳酸発酵した再発酵物)が得られる。
【0045】
得られる乳酸発酵エキスはそのまま用いてもよいし、当該乳酸発酵エキスから菌体を除去して得られた液体部分(乳酸発酵エキス(液体部分))を用いてもよい。菌体の除去方法は当業者に公知の方法を用いることができ、例えば、遠心分離、濾過などを用いることができる。得られた乳酸発酵エキスは、所望により、濃縮して適切な濃度に調整してもよい。濃縮の手段として当業者に周知の方法が使用できる。例えば、濃縮はエバポレーター等で行うことができる。
【0046】
また、得られた濃縮液を乾燥させて粉末状態にしたものを用いてもよい。具体的な乾燥方法としては、特に限定されないが、フリーズドライ、ドラムドライ、スプレードライ等が挙げられる。
【0047】
(4)アルコール発酵粕を乳酸発酵した再発酵物
本発明の一態様では、アルコール発酵粕に由来する成分は、上述したアルコール発酵粕(好ましくは酒粕)を乳酸発酵した再発酵物であってもよい。ここで再発酵物の範疇には、再発酵物の液体部分のみ、再発酵物の固形分のみ、又はこれらの加工物(液体部分を粉末状にしたものなど)等も含まれる。
【0048】
アルコール発酵粕は、必要に応じてデンプン分解酵素処理及び/又はタンパク質分解酵素処理と、乳酸菌での発酵処理(乳酸発酵処理)とに供される。これらの酵素処理は、上述の「(2)アルコール発酵粕をアルコール発酵した再発酵物」における酵素処理と同様に行うことができる。また、乳酸発酵処理は、上述の「(3)アルコール粕発酵エキスを乳酸発酵した再発酵物」における乳酸発酵処理と同様に行うことができる。
【0049】
得られた反応物(すなわち再発酵物)を、固液分離することにより、液体部分を乳酸発酵エキス(すなわち上記再発酵物の一部(液体部分))とする。得られる乳酸発酵エキスはそのまま用いてもよいし、当該乳酸発酵エキスから菌体を除去して得られた液体部分(乳酸発酵エキス(液体部分))を用いてもよい。得られた乳酸発酵エキスは、所望により、濃縮して適切な濃度に調整してもよい。
【0050】
また、得られた濃縮液を乾燥させて粉末状態にしたものを用いてもよい。具体的な乾燥方法としては、特に限定されないが、フリーズドライ、ドラムドライ、スプレードライ等が挙げられる。
【0051】
なお、上記(2)~(4)は、アルコール発酵粕を少なくとも1回乳酸発酵及び/又はアルコール発酵した再発酵物に相当する一例示である。乳酸発酵の工程を複数回含む、アルコール発酵の工程を複数回含む、各工程の順序を入れ替える等の変形的なプロセスを経ることで、アルコール発酵粕を少なくとも1回乳酸発酵及び/又はアルコール発酵した再発酵物の他の形態を得ることもできる。
【0052】
<発現抑制剤の形態>
本発明の一態様において、発現抑制剤は、上述したようなアルコール発酵粕に由来する成分を含んでいる。発現抑制剤は、アルコール発酵粕に由来する成分そのままであってもよいし、各製品に通常用いられる他の原料を当該成分に添加したものでもよい。
【0053】
〔2.発現抑制剤の用途〕
本発明の一形態に係る発現抑制剤は、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤そのもの(例えば試薬等の用途)として用いる場合の他、例えば、飲食品組成物、飲食品添加物、調味料、医薬品、化粧品等の製品に用いることが出来る。飲食品組成物には、サプリメント、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、及び栄養機能飲食品等が含まれる。
発現抑制剤を有効量含むこれら製品は、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制性を示すため、抗炎症用及び/又は抗疲労用等の機能及び効能などを表示しうる。例えば、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、及び栄養機能飲食品等であれば、抗炎症用及び/又は抗疲労用等の機能表示であり、医薬品であれば抗炎症医薬品、抗疲労医薬品等である。
【0054】
なお、抗炎症とは、炎症を予防すること、及び/又は、炎症を改善することを指し、炎症を予防すること(個体に対して、炎症の素因に対する抵抗性を付与すること)が好ましい一態様である場合がある。炎症とは、体内に発生する炎症、及び、対外に発生する炎症を指すが、好ましくは体内に発生する炎症であり、より好ましくは脳内炎症である。脳内炎症は、特に精神的な疲労の素因と考えられている。
【0055】
抗疲労とは、疲労を予防すること、及び/又は、疲労を改善することを指し、疲労を予防すること(個体に対して、疲労の素因に対する抵抗性を付与すること)が好ましい一態様である場合がある。疲労とは、肉体的な疲労、及び精神的な疲労の双方を指し、好ましくは精神的な疲労を指すが、中でも慢性疲労症候群が好ましい対象である場合がある。慢性疲労症候群は、生活が著しく損なわれるほどの強い全身倦怠感、微熱、リンパ節腫脹、頭痛、筋力低下、睡眠障害、思考力・集中力低下などが休養しても回復せず、少なくとも6カ月以上の長期に渡って症状が続く疾患である。重症例では、生活全般において介護が必要な状態となり得る。
【0056】
本発明の一態様において、発現抑制剤は自体公知の方法により各製品に配合することができ、その配合量及び他の配合成分などは特に限定されない。他の原料の例として、調味料、酸味料、甘味料、香辛料、着色料、香料、塩類、糖類、酸化防止剤、ビタミン、安定剤、増粘剤、担体、賦形剤、潤滑剤、界面活性剤、噴射剤、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、等が挙げられる。上述の工程を阻害しない限り、これらの他の原料はいかなる時期に添加してもよい。
【0057】
飲食品組成物、飲食品添加物、調味料、医薬品、化粧品等の製品の形態は特に限定されず、例えば、固体(錠剤、粉末、顆粒等)、半固体(ペースト等)、液体(溶液、懸濁液、エマルジョン等)、またはカプセルに封入されたものであってもよい。使用される飲食品の種類も特に限定されず、例えば、麺類、肉加工品、魚加工品、野菜加工品、惣菜、菓子、飲料などが挙げられる。調味料の種類も特に限定されず、例えば、だし汁、スープ、ソースなどが挙げられる。
【0058】
〔3.IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制の方法〕
本発明の一態様では、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制をするために、上述の発現抑制剤、又は当該発現抑制剤を含む組成物(例えば、飲食品組成物及び医薬品等)を対象に対して有効量投与する工程を含む。投与の方法は、投与対象の種類、投与される発現抑制剤、及び組成物の形態などに応じて適宜決定すればよい。対象が個体(ヒト又は非ヒト動物)である場合は、例えば経口投与である。対象が、細胞及び組織等である場合は、例えば、培養培地中への添加である。
【0059】
〔4.炎症の予防、及び改善の方法〕
本発明の一態様では、炎症を予防及び/又は改善するために、上述の発現抑制剤、又は当該発現抑制剤を含む組成物(例えば、飲食品組成物及び医薬品等)をヒト又は非ヒト動物に対して有効量投与する工程を含む。投与の方法は、予防及び/又は改善の対象となる炎症が生じる部位、投与される発現抑制剤及び組成物の形態などに応じて適宜決定すればよいが、例えば経口投与(経口での摂取)である。
【0060】
〔5.疲労の予防、及び改善の方法〕
本発明の一態様では、疲労を予防及び/又は改善するために、上述の発現抑制剤、又は当該発現抑制剤を含む組成物(例えば、飲食品組成物及び医薬品等)をヒト又は非ヒト動物に対して有効量投与する工程を含む。投与の方法は、予防及び/又は改善の対象となる疲労の種類、投与される発現抑制剤、並びに組成物の形態などに応じて適宜決定すればよいが、例えば経口投与(経口での摂取)である。
〔まとめ〕
(1)アルコール発酵粕に由来する成分を含む、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤。
(2)前記アルコール発酵粕の水抽出物を含むか、前記アルコール発酵粕を少なくとも1回乳酸発酵及び/又はアルコール発酵した再発酵物を含む、(1)に記載のIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤。
(3)上記(1)又は(2)に記載の発現抑制剤を含む、抗疲労組成物。
(4)慢性疲労症候群予防用である、(3)に記載の抗疲労組成物。
(5)上記(1)若しくは(2)に記載のIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤、又は(3)若しくは(4)に記載の抗疲労組成物を含む、飲食品組成物。
(6)抗疲労の表示がなされた、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、又は、栄養機能飲食品である、(5)に記載の飲食品組成物。
(7)上記(1)若しくは(2)に記載のIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤、(3)若しくは(4)に記載の抗疲労組成物、又は(5)又は(6)に記載の飲食品組成物から選択される少なくとも一つを、ヒト又は非ヒト動物に対して投与する工程を含む、疲労の改善方法。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1:酒粕エキス(SLE)粉末の製造〕
日本酒の絞り粕である酒粕20kgと水40Lをミキサーで攪拌し酒粕を均一に溶解させた。溶液を70℃に加熱し、圧搾により固液分離して固形分を除去した。固形分を除去した溶液を5℃まで降温し、2.5μmフィルターで濾過して濾液を得た。濾液を減圧濃縮した後、90℃で加熱殺菌を行い、濃縮液を得た。濃縮液にデキストリン30重量%添加し、スプレードライすることで酒粕エキス粉末(以下では、「SLE粉末」とも称する)2.9kgを得た。
【0063】
〔実施例2:酒粕発酵エキス(RFSLE)粉末の製造〕
日本酒の絞り粕である酒粕40kgに水72Lを混合し、pHが4.5になるように乳酸を添加した。これに清酒酵母、アミラーゼ剤(酒粕の1/2000量)とプロテアーゼ剤(酒粕の1/800量)を加え、25℃一定で3日間発酵させた。発酵終了後、溶液を70℃達温で殺菌し、圧搾により固液分離して固形分を除去した酒粕発酵エキスを得た。酒粕発酵エキスを2.5μmフィルターで濾過し、減圧濃縮した後、90℃で加熱殺菌を行い、酒粕発酵エキスの濃縮液を得た。酒粕発酵エキス濃縮液にデキストリン(30重量%)を添加し、スプレードライすることで酒粕発酵エキス粉末(以下では、「RFSLE粉末」とも称する。)3.0kgを得た。
【0064】
〔実施例3:乳酸発酵RFSLE粉末の製造〕
実施例2の酒粕発酵エキスをpH5.5に調整し、溶液を92.5℃に昇温して、30分間加熱殺菌を行った。これに40重量%グルコース溶液を酒粕発酵エキス濃縮液に対し1/400量添加し、乳酸菌ラクトバチルス・ヒルガルディを酒粕発酵エキス濃縮液に対して当該濃縮液の重量を100%として1%添加した。35℃で保温して48時間乳酸発酵させた後、溶液を再度92.5℃に昇温し、30分間加熱殺菌を行った。溶液をpH5.3に調整した後、速度6500rpmにて15分間遠心し、遠心上清を除去した。得られた溶液を減圧濃縮し、デキストリンを30重量%添加し、スプレードライすることで乳酸発酵RFSLE粉末2.6kgを得た。
【0065】
〔実施例4:酒粕由来組成物の中枢神経炎症モデルラットに対する効果の検証〕
合成二本鎖RNAであるポリリボイノシン酸-ポリリボシチジル酸(以下、Poly I:Cと称する。)をラットの腹腔より投与すると、末梢組織で炎症が起こり、そのシグナルが脳内へ伝わって脳内神経炎症が惹起される。一過性の発熱及び数日間持続する自発活動の抑制等が起こる(非特許文献1)。このラット(雄性SD系ラット:8週齢)を中枢神経炎症モデルラットとして、酒粕由来組成物が及ぼす効果について検証した。なお、この中枢神経炎症モデルラットは、疲労モデル動物として用いられる。
【0066】
実施例1~3の酒粕由来組成物を用い、それぞれの組成物と通常食(オリエンタル酵母製MF)とを1:1の重量比で均一に混合後、少量加水して円柱状に成形し、凍結乾燥したものを動物試験用飼料とした。試験用飼料をモデルラットに7日間自由摂取させた後、Poly I:Cをラットに投与し、その5時間後にそれぞれのラットの大脳皮質及び海馬サンプルを取得した。実施スケジュールを図1に示す。
比較例として、通常食を摂取させてPoly I:Cの代わりに生理食塩水を投与するラット((1)Vehicle+通常食群)、通常食を摂取させてpoly I:Cを投与するラット((2)Poly I:C+通常食群)の2種類を用いた。
【0067】
中枢神経炎症の評価として、炎症のマーカーとして代表的な炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、TNF-αのmRNA発現を、半定量RT-PCR法(qRT-PCR法)を用いて調べた。
【0068】
〔結果〕
検証の結果を図2に示す。図2に示すように、(2)Poly I:C+通常食群ではサイトカインの発現が大脳皮質、海馬において有意な発現増強を認めた一方、試験用飼料を与えた3群((3)、(4)、(5))ではPoly I:C投与によるIL-1beta、IL-6の発現を有意に抑制した。それに対して、TNF-αの発現増強に対してはあまり効果が見られなかった。以上より、酒粕由来組成物が抗炎症性及び抗疲労性を示すことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明により、IL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を得ることが出来る。本発明のIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤によって、抗疲労の効果が得られ、またIL‐1β及び/又はIL‐6の発現抑制剤を慢性疲労症候群の予防に利用することができる。
図1
図2