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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】経粘膜投与薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/68 20170101AFI20230926BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61K 31/745 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 11/08 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 11/10 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 23/00 20060101ALI20230926BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
A61K47/68
A61K45/00
A61K31/745
A61P29/02
A61P29/00 101
A61P1/04
A61P25/06
A61P25/16
A61P25/08
A61P25/24
A61P25/04
A61P29/00
A61P25/18
A61P25/22
A61P25/20
A61P25/28
A61P9/10
A61P9/12
A61P21/02
A61P9/00
A61P9/06
A61P13/02
A61P37/08
A61P11/08
A61P11/14
A61P11/10
A61P11/06
A61P3/06
A61P3/10
A61P5/00
A61P19/10
A61P31/04
A61P31/12
A61P33/00
A61P37/06
A61P37/04
A61P23/00
A61P3/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019143948
(22)【出願日】2019-08-05
(65)【公開番号】P2021024810
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三隅 将吾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三股 亮大郎
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-512548(JP,A)
【文献】特表2018-538356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-9/72
A61K47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合断片を結合させた薬剤化合物を有効成分とする経粘膜投与薬剤。
【請求項2】
抗ポドカリキシン抗体又はその抗原結合断片を結合させた薬剤化合物を含有する経粘膜投与組成物。
【請求項3】
組成物が経鼻吸入、経肺吸入、気管若しくは気管支吸入、又は点眼のための組成物である、請求項2記載の経粘膜投与組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物送達性能が優れる経粘膜投与薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経粘膜投与製剤は様々な疾病の治療及び予防に用いられており、特に経口投与製剤は、服薬の利便性と侵襲性の低さから医薬品の過半数を占めている。しかし、経粘膜投与製剤では、粘膜上皮細胞層が脂溶性のバリアとして機能するため、分子サイズが小さく、比較的脂溶性の高い薬剤であれば効率的に粘膜から吸収されるが、分子サイズの大きい薬物や水溶性が非常に高い薬物では粘膜上皮層を通過できず、体内へ吸収されない。したがって、どれほど薬理活性に優れた化合物であっても、粘膜からの吸収が乏しい薬物では、経口投与製剤をはじめとする経粘膜投与製剤には使用できない。
【0003】
粘膜からの吸収が低い薬物の膜透過性の改善方法としては、吸収促進剤の使用及びプロドラッグ化が挙げられる。吸収促進剤は、粘膜上皮細胞層のタイトジャンクションを弛ませて、細胞間隙からの薬物の透過性を高めることができる。しかし、界面活性剤、胆汁酸及び脂肪酸に代表される吸収促進剤は、粘膜傷害性を伴うことが多く、薬物以外の粘膜表面に存在する物質の粘膜透過性も高まるため、予期せぬ副作用を招く危険性が高く、このため臨床での使用例も少ない。
【0004】
一方、プロドラッグ化は薬物自体を化学修飾することにより、吸収を改善させたものである。プロドラッグ化は、薬物を化学修飾して粘膜での吸収を向上するが、生体内に到達した後は代謝を受けて親薬物に復元し、効果を発揮するよう設計されている。例えば、アンピシリンに脂溶性を高める修飾をしたバカンピシリン等が挙げられる。しかし、近年はバイオ医薬品等のタンパク質性の薬物が多く流通しており、このような薬物は高い水溶性を有した高分子であるため粘膜透過性が乏しいが、吸収を促進する化学修飾を施すのは非常に難しい。
【0005】
また、古くからワクチン製剤では弱毒化した病原体、不活化した病原体若しくは病原体のコンポーネントを有効成分として製剤に使用しており、これらは抗体医薬品等と比較しても粒子サイズや分子サイズの大きい、タンパク質を主成分とする製剤である。承認されるワクチンのほとんどは注射剤であるが、多くの病原体は侵入の門戸が粘膜であり、粘膜ワクチンにより全身性の免疫応答にくわえて粘膜局所における免疫応答を高めることができれば、より効果の高いワクチンの創製が期待できる。しかし、既に承認される粘膜ワクチンは、感染性を有する弱毒生ワクチン若しくは粘膜への結合活性を有する毒素等を抗原としたワクチンであり、粘膜親和性が無い不活化抗原では粘膜からの取り込みが乏しく、そのためこのような抗原の単独投与では十分な免疫応答を惹起することが難しい。
【0006】
一方、ポドカリキシン(Podocalyxin,PCX)は、腎臓糸球体上皮細胞で発見された分子量が約140kDaの糖タンパク質であり、細胞の接着性、形態形成、がんの進行等に関与することが知られている(非特許文献1及び2)。
【0007】
しかしながら、ポドカリキシンが薬物の粘膜吸収に関係することは全く知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Sizemore S, Cicek M, Sizemore N, Ng KP, Casey G. Podocalyxin increases the aggressive phenotype of breast and prostate cancer cells in vitro through its interaction with ezrin. Cancer Res. 2007 Jul 1;67(13):6183-91.
【文献】Takeda T, McQuistan T, Orlando RA, Farquhar MG. Loss of glomerular foot processes is associated with uncoupling of podocalyxin from the actin cytoskeleton. J Clin Invest. 2001 Jul;108(2):289-301.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、薬物の粘膜上皮層からの吸収効率を高める薬剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、粘膜上皮のMicrofold cell(M細胞)にポドカリキシンが高発現していることを発見した。そして、驚くべきことに、薬物等の物質にポドカリキシン標的分子を結合することで、当該物質の粘膜からの吸収が促進することを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の1)~5)に係るものである。
1)ポドカリキシン標的分子を結合させた薬剤化合物を有効成分とする経粘膜投与薬剤。
2)ポドカリキシン標的分子を結合させた薬剤化合物を含有する経粘膜投与組成物。
3)ポドカリキシン標的分子が抗ポドカリキシ抗体又はその抗原結合断片である、1)の経粘膜投与薬剤。
4)ポドカリキシン標的分子が抗ポドカリキシ抗体又はその抗原結合断片である、2)の経粘膜投与組成物。
5)組成物が経鼻吸入、経肺吸入、気管若しくは気管支吸入、又は点眼のための組成物である、2)又は4)の経粘膜投与組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、粘膜からの吸収性の乏しい薬剤の吸収効率を改善し、非経粘膜投与製剤にできなかった薬剤の経粘膜投与が可能となり、これにより服薬の利便性や有効性の向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】Caco-2単層におけるポドカリキシンの発現確認。MERGE像はDAPI像とGP2像の合成画像。
図1B】In vitro M-like cellにおけるポドカリキシンの発現確認。MERGE像はDAPI像とGP2像の合成画像。
図2】カニクイザル腸管M細胞のポドカリキシンの発現確認。
図3】抗ポドカリキシン抗体を標識した蛍光ビーズのトランスサイトーシスの評価。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明において、ポドカリキシン(Podocalyxin,PCX)は、腎臓糸球体上皮細胞に発現するI型膜貫通タンパク質を指し、558残基のアミノ酸からなる。
本発明におけるポドカリキシン標的分子とは、ポドカリキシンと結合する能力、好ましくは特異的に結合する能力を有する分子を意味する。標的分子の化学種は特に制限されず、低分子化合物、高分子化合物、生体由来物質等様々な化学種を含むことができる。具体的には、例えば糖類、脂質類、オリゴペプチド、タンパク質、及び核酸を挙げることができる。標的分子の機能としては、例えばポドカリキシンを認識する抗体、レクチン、相互作用タンパク質等を挙げることができる。ポドカリキシン標的分子としては、好ましくは、抗ポドカリキシ抗体又はその抗原結合断片、レクチン(例えば、rBC2LCN)等が挙げられる。
【0016】
抗ポドカリキシン抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、抗ポドカリキシン抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリ等の非ヒト動物に免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。
抗ポドカリキシ抗体の抗原結合断片とは、抗ポドカリキシン抗体の断片(フラグメント)であって、ポドカリキシンに結合する断片を意味する。具体的には、VL、VH、CL、及びCH1領域からなるFab、2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab)2、VL及びVHからなるFv、VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvの他、diabody型、scDb型、tandemscFv型、ロイシンジッパー型等の二重特異性抗体等が挙げられる。
【0017】
本発明における薬剤化合物としては、解熱薬、鎮痛薬、抗炎症薬、抗リウマチ薬、催眠薬、鎮静薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗てんかん薬、パーキンソン病治療薬、脳循環代謝改善薬、筋弛緩薬、自律神経系作用薬、抗めまい薬、片頭痛治療薬、強心薬、抗狭心症薬、β遮断薬、Ca拮抗薬、抗不整脈薬、利尿薬、降圧薬、抗アレルギー薬、気管支拡張薬、ぜんそく治療薬、鎮咳薬、去痰薬、消化性潰瘍治療薬、痛風治療薬、脂質異常症薬、糖尿病薬、ホルモン製剤、骨粗鬆症薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、抗寄生虫薬、抗原虫薬、免疫抑制薬、麻酔及びワクチンに分類される薬剤が挙げられるが、経口投与した場合に吸収性が低いペプチド又はタンパク性医薬品、水溶性高分子医薬品に対して適用するのが好ましい。
【0018】
本発明において、薬剤化合物とポドカリキシンを標的化する物質との結合は、例えば、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシル基及び還元糖末端や過ヨウ素酸酸化により糖鎖に生じるアルデヒド基を介して結合することが挙げられる。具体的には、アミノ基であれば、N-ヒドロキシスクシイミドエステル及びイソチオシアノ基を有する架橋剤、スルフヒドリル基であれば、マレイミド基やブロモアセトアミド基を有する架橋剤、アルデヒドであればヒドラジド基を有する架橋剤を介して結合することができる。また、カルボキシル基であれば、N-ヒドロキシスクシイミドエステルを用いてカルボキシル基を活性エステルとし、この活性エステルに1級アミンを有する架橋剤を反応させることで結合することができるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の経粘膜投与薬剤における経粘膜投与とは、体腔粘膜を介して吸収される投与形態を指す。具体的には、鼻腔を覆っている粘膜を経由する経鼻吸入、結膜又は角膜上への点眼、肺胞の粘膜を経由する経肺吸入、気管粘膜や気管支粘膜に対する吸入、膣内の粘膜を経由する経膣投与、胃、十二指腸、小腸、結腸及び直腸を含む大腸等の消化管粘膜を経由する経口投与や直腸投与、並びに中耳粘膜に対する中耳投与等が挙げられる。このうち、好ましい投与形態は、経鼻吸入、経肺吸入、気管又は気管支吸入、点眼である。
【0020】
後述実施例に示す通り、抗ポドカリキシンモノクローナル抗体を蛍光ビーズに結合すると、アイソタイプコントロールを結合した蛍光ビーズと比較して、腸管M細胞モデルであるin vitro M-like cellで経細胞輸送による取り込みが高まる。すなわち、薬剤化合物にポドカリキシン標的分子を結合させることで、当該薬剤化合の経粘膜からの吸収は向上し、薬剤化合物の単体投与に比べて高い薬効が期待される。
したがって、ポドカリキシン標的分子を結合させた薬剤化合物は経粘膜投与薬剤となり得る。
【0021】
本発明の経粘膜投与薬剤は、固形、半固形若しくは液体形態で、粘膜投与のための製薬上許容し得る担体と共に組成物(医薬組成物)として製剤化され得る。
当該組成物の剤形としては、各種の体腔等の粘膜上で溶解又は崩壊できるものであれば、特に限定されず、投与部位となる部位に倣った形状等とすることができる。すなわち、フィルム、タブレット、乾燥粉末の他、チューブ等の容器やカプセル等に充填され得る液剤(懸濁状、不定形ゲル状を含む)等とすることができる。
例えば、呼吸器(例えば鼻)の粘膜への送達を意図したものである場合、典型的は、組成物は、エアロゾル又は点鼻薬としての投与のために水性溶液として製剤されるか、あるいは、例えば鼻道内で迅速に堆積するように乾燥粉末として製剤化される。
液剤としては、精製水、緩衝液に溶解したもの等が挙げられる。懸濁剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルビロリドン、ゼラチン、カゼイン等と共に精製水、緩衝液等に懸濁させたもの等が挙げられる。
また、フィルム状製剤やタブレット状製剤としては、水溶性マトリックス材料(例えば、プルラン、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、デンプン等)からなり、粘膜付着層を含む積層構造を有する成形体が挙げられる。
【0022】
斯かる製剤組成物は、通常含まれるタイプの1又は複数の賦形剤、例えば保存料、粘度調節剤、等張化剤、緩衝剤、吸収促進剤、界面活性剤、安定化剤、防湿剤、溶解補助剤等を含有し得る。
なお、乾燥粉末製剤には、粘膜接着性物質の他、充填剤や適切な粉末流及びサイズの特徴を齎すための作用物質(例えばマンニトール、ショ糖、トレハロース、キシリトール等)を適宜配合することができる。
【0023】
本発明の粘膜投与薬剤が含有することができる有効成分(ポドカリキシン標的分子を結合させた薬剤化合物)の量は、有効性を示すのに十分な量であれば特に限定されるものではなく、併用するポドカリキシン標的化分子の結合比率も勘案して適宜設定することができる。
【0024】
本発明の粘膜投与薬剤の投与対象は、ヒト及びヒトを除く哺乳動物が挙げられるが、ヒトが好ましい。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、アカゲザル、カニクイザル、オランウータン、チンパンジー等が挙げられる。
【実施例
【0025】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
参考例1 in vitro M-like cellにおけるポドカリキシンの発現確認
文献(Kai H, Motomura Y, Saito S, Hashimoto K, Tatefuji T, Takamune N, Misumi S.Royal jelly enhances antigen-specific mucosal IgA response. Food Sci Nutr. 2013 Mar 6;1(3):222-227.)に記載の通り、トランズウェル(Corning、ポアサイズ:3μm、24ウェル)の膜上に3×10個のCaco-2細胞を播種し、一晩静置して、その後20%仔ウシ血清、0.1mM 非必須アミノ酸を含むイーグルスMEM(20%FBS、0.1mM NEAA EMEM)を加えた24ウェルプレートにトランズウェルの膜を浸漬させる。おおよそ3日ごとに新たな20%FBS、0.1mM NEAA EMEMを加えた24ウェルプレートにトランズウェルを移し替えながら、21日間培養し、Caco-2の単層を形成させる。21日間の培養後、トランズウェルの上部チャンバーに1×10個のRaji B細胞を加え、更に3日間培養することでM-like cellへの分化を促した。このとき、対照としてRaji B細胞と共培養しないトランズウェルも作製した(対照:Caco-2単層)。
【0026】
Raji B細胞との3日間の共培養後、トランズウェルの膜を切り離し、10分間メタノールに浸漬させて固定化した後、5%スキムミルク含有D-PBSでマスキングを行った。抗ポドカリキシン抗体(R&D Systems)をスキムミルク含有D-PBSで40倍希釈し、そこへマスキング後の膜を浸し、次にAlexa488標識したロバ抗ヤギIgG抗体とAlexa555標識した抗GP2抗体、及びジアミノ-フェニルイオダイド(DAPI)を含むスキムミルク含有D-PBSに膜を浸した。染色後の膜をレーザー顕微鏡(Keyence)で観察した。
【0027】
図1AにRaji B細胞との共培養を行っていない膜の顕微鏡画像を示すが、M細胞への分化を促していないため、ポドカリキシン及びM細胞マーカーであるGP2は、どちらもほとんど確認されなかった。これに対して、Raji B細胞と共培養を行い、M細胞への分化を促した場合は、図1Bに示すようにGP2の発現向上だけでなく、ポドカリキシンの発現も高まり、ポドカリキシンはM細胞マーカーであるGP2と共局在することが確認された。したがって、in vitroで分化させたM細胞では、ポドカリキシンが発現すると考えられた。
【0028】
参考例2 カニクイザルの腸管M細胞におけるポドカリキシンの発現確認
カニクイザルの盲腸から回腸側へ30cmの所から盲腸までの部分を切除し、これをOCT Compound(サクラファインテック)で埋包して凍結切片を作製した。パイエル板を含む凍結切片を冷アセトンに浸漬して固定化処理を行い、その後5%スキムミルク含有D-PBSに3時間浸してマスキング処理を行った。マスキング後、抗ポドカリキシン抗体(R&D Systems)、Alexa488標識したロバ抗ヤギIgG抗体、Alexa555標識した抗GP2抗体、及びジアミノ-フェニルイオダイド(DAPI)を含むスキムミルク含有D-PBSで染色を行った。染色後の組織切片をレーザー顕微鏡(Keyence)で観察した。
【0029】
図2にレーザー顕微鏡の観察像を示すが、図中の矢印で示す部分にM細胞マーカーであるGP2の発現と共にポドカリキシンの発現も確認された。したがって、カニクイザルの腸管M細胞においてもポドカリキシンは発現することが確認された。
【0030】
実施例1 抗ポドカリキシン抗体結合ビーズによるトランスサイトーシスの評価
ビオチン標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch)をビオチンとして220pmol採取し、そこへ950μLのPBSを加え、更に0.1mg相当のFluoSpheresTM Streptavidin-Labeled Microspheresを少しずつ添加した。添加後、遮光して1時間振とうし、抗マウスIgG抗体が結合した蛍光ビーズを調製した。
【0031】
抗マウスIgG抗体が結合した蛍光ビーズに、200μLのPBSを加え、更に抗ポドカリキシン抗体(デンカ生研株式会社製、クローン名:4D2)若しくはマウスIgG2a Isotypecontrol(Sigma Aldrich)を176pmol添加し、遮光して1時間振とうした。振とう後、15,000rpmで30分間遠心分離し、沈殿に1.3mLの20%仔ウシ血清、1%NEAA、0.0293%L-グルタミンを加えたMEM(GIBCO)を加えて懸濁し、これを抗ポドカリキシン抗体標識蛍光ビーズ若しくはIsotypecontrol標識蛍光ビーズとした。
【0032】
参考例1に記載の通り、in vitroでM-like cellへ分化を促した細胞をトランズウェルの膜上で調製し、その下部のチャンバーに上記で調製した抗ポドカリキシン抗体標識蛍光ビーズ若しくはIsotypecontrol標識蛍光ビーズを加え、添加から1、2及び3時間経過後に上部チャンバーに移行したビーズ量を評価するため、上部チャンバー溶液の蛍光強度を測定した。
【0033】
図3に各蛍光ビーズの上部チャンバーの蛍光強度の測定結果を示すが、1、2及び3時間後のいずれのサンプリング時点においても、Isotypecontrolに比べて、抗ポドカリキシン抗体を標識した蛍光ビーズの方が上部チャンバーの蛍光強度が高かった。これは、抗ポドカリキシン抗体を標識した蛍光ビーズの方が下部チャンバーから上部チャンバーへM細胞を介したトランスサイトーシスによる輸送効率が良いことを示している。 したがって、ポドカリキシン標的分子を結合した物質では、M細胞のトランスサイトーシスを介した粘膜からの吸収効率が高まると考えられる。
図1A
図1B
図2
図3