(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】冷凍パンの解凍装置、冷凍パンの解凍方法
(51)【国際特許分類】
F24C 7/02 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
F24C7/02 340J
(21)【出願番号】P 2023546473
(86)(22)【出願日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2023012581
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2022058868
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502342428
【氏名又は名称】新光食品機械販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭
【審査官】根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/025519(WO,A1)
【文献】特開昭58-205483(JP,A)
【文献】特開2014-096998(JP,A)
【文献】特表2022-524737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 7/02
A23L 3/365
F24C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍パンを入れられる、前記冷凍パンの出し入れを行うための開閉自在とされた扉を有する解凍室と、
それが稼働したときに、前記解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、
それが稼働したときに、前記解凍室内に入れられた前記冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、
それが稼働したときに、前記解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、
前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置を制御する制御装置と、
を備えている、冷凍パンの解凍装置であって、
前記制御装置は、前記解凍室に入れられた前記冷凍パンを解凍するとき、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のいずれかが稼働している連続する時間を加熱時間帯と定義した場合に、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の所定のタイミングまで前記スチーム発生装置を稼働させ、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで前記ヒータを稼働させ、また、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで前記マイクロ波照射装置を稼働させるようになっているとともに、
前記加熱時間帯内の前記スチーム発生装置が稼働しているときにおいて、前記解凍室内の気圧が常圧となるように、且つ前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れが生じるように構成されている
とともに、
前記スチーム発生装置は、前記冷凍パンの表面で結露した前記水蒸気が前記冷凍パンに凝縮潜熱を与えるような前記水蒸気を発生させるようなものとされている、
冷凍パンの解凍装置。
【請求項2】
前記加熱時間帯は300秒以内であり、前記制御装置は、前記ヒータを、少なくとも、前記加熱時間帯の中央のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで稼働させるようになっている、
請求項1記載の冷凍パンの解凍装置。
【請求項3】
前記加熱時間帯は300秒以内であり、前記制御装置は、前記スチーム発生装置を、前記加熱時間帯の最初のタイミングから最後のタイミングまで稼働させるようになっている、
請求項1記載の冷凍パンの解凍装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のすべてを、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで稼働させるようになっている、
請求項1記載の冷凍パンの解凍装置。
【請求項5】
前記解凍室内から前記解凍室外へ連通する管である排出管を備えており、当該排出管を介して前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れが生じるようになっている、
請求項1記載の冷凍パンの解凍装置。
【請求項6】
前記解凍室に対して閉まった状態になったときに前記扉の周囲の適宜の位置に前記解凍室の内外の空間を連通させる隙間が生じるようになっており、当該隙間を介して前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れが生じるようになっている、
請求項1記載の冷凍パンの解凍装置。
【請求項7】
冷凍パンを入れられる、前記冷凍パンの出し入れを行うための開閉自在とされた扉を有する解凍室と、
それが稼働したときに、前記解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、
それが稼働したときに、前記解凍室内に入れられた前記冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、
それが稼働したときに、前記解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、
前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置を制御する制御装置と、
を備えている、冷凍パンの解凍装置にて実行される冷凍パンの解凍方法であって、
前記制御装置に、前記解凍室に入れられた前記冷凍パンを解凍するとき、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のいずれかが稼働している連続する時間を加熱時間帯と定義した場合に、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の所定のタイミングまで前記スチーム発生装置を稼働させ、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで前記ヒータを稼働させ、また、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで前記マイクロ波照射装置を稼働させるとともに、
前記加熱時間帯内の前記スチーム発生装置が稼働しているときにおいて、前記解凍室内の気圧を常圧とし、且つ前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れを生じさせる
とともに、
前記水蒸気を、前記冷凍パンの表面で結露した前記水蒸気が前記冷凍パンに凝縮潜熱を与えるようなものとする、
冷凍パンの解凍方法。
【請求項8】
冷凍パンを入れられる、前記冷凍パンの出し入れを行うための開閉自在とされた扉を有する解凍室と、
それが稼働したときに、前記解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、
それが稼働したときに、前記解凍室内に入れられた前記冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、
それが稼働したときに、前記解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、
を備えている、冷凍パンの解凍装置を用いて実行される冷凍パンの解凍方法であって、
前記解凍室に入れられた前記冷凍パンを解凍するとき、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のいずれかが稼働している連続する時間を加熱時間帯と定義した場合に、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の所定のタイミングまで前記スチーム発生装置を稼働させ、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで前記ヒータを稼働させ、また、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで前記マイクロ波照射装置を稼働させるとともに、
前記加熱時間帯内の前記スチーム発生装置が稼働しているときにおいて、前記解凍室内の気圧を常圧とし、且つ前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れを生じさせる
とともに、
前記水蒸気を、前記冷凍パンの表面で結露した前記水蒸気が前記冷凍パンに凝縮潜熱を与えるようなものとする、
冷凍パンの解凍方法。
【請求項9】
解凍された冷凍パンが、解凍前の冷凍パンの持っていた水分量以上の水分量を含むようにする、
請求項7又は8記載の冷凍パンの解凍方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍パンを解凍するための技術、例えば、冷凍パンの解凍装置や、冷凍パンの解凍方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍パンが急速に普及している。なお、本願における「冷凍パン」とは、焼成前の生地を冷凍したパンではなく、焼成後のパンを、例えば室温まで冷ました後に、再度冷凍したパンを意味する。
例えば、家庭用の冷凍パンは、解凍することにより、焼き立ての状態に近いパンに戻すことができる。冷凍パンを解凍して得られるパンは、冷凍されていない状態で販売されたパン(要するに、普通のパン)よりも、焼きたての状態に近い場合があり、一般に食味が良い。そのような理由で家庭用の冷凍パンが近年普及してきている。
また、業務用の冷凍パンも普及してきている。冷凍パンの食味は上述のように焼きたてのパンに近く食味が良いため、例えば大規模にチェーン展開を行うパンの製造、販売会社が、セントラルキッチン方式で大量生産した冷凍パンをパンの販売店に供給し、各販売店がそれを解凍して販売するといった手法で、冷凍パンを導入する事例が増えてきている。また、焼きたてのパンを販売する小規模なパンの販売店(いわゆる街のパン屋)では近年、重労働であるパン職人の担い手が不足する事態が生じているため、パン職人の負担を軽減する目的で冷凍パンが採用されることも増えてきている。
【0003】
冷凍パンを解凍する場合の一般的な目的は、冷凍パンを解凍して、「焼きたて」のパン(或いは後述する「食べごろ」のパン)になるべく近い状態に戻すことである。
冷凍パンを焼きたてのパンに近い状態に戻すことを可能とするために、幾つかの技術が用いられている。
まず、冷凍パンにマイクロ波を照射することである。電子レンジの要領で冷凍パンにマイクロ波を照射すると、冷凍パンの生地が発熱して解凍が進む。
冷凍パンに水蒸気を供給する技術も用いられている。蒸し器の要領で冷凍パンに水蒸気を供給すると、水蒸気から冷凍パンに与えられる熱により冷凍パンの生地の解凍が進む。それに加えて、水蒸気が冷凍パンの生地に入り込み、冷凍パンの生地、特にクラム(後述する。)の水分量が増える。水分量が過度に増えた場合にはその限りではないが、これは一般に、解凍後の冷凍パンの食味と老化耐性を向上させる。
冷凍パンに遠赤外線を照射する技術も用いられている。例えば、ヒータによって冷凍パンに遠赤外線を照射することにより、冷凍パンの生地に熱を加え、それにより冷凍パンの生地の解凍が進む。また、遠赤外線を照射することにより、パンのクラスト(後述する。)の水分量を減らし、クラストのカリッと或いはサクッとした食感を増すことができる。これも、クラストの水分量が過度に減った場合を除き、一般に、解凍後の冷凍パンの食味を向上させる。
マイクロ波、水蒸気、遠赤外線を冷凍パンに供給する上述の3つの技術は、個別に用いられる場合もあるが、組合せて用いられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-279148
【文献】特開2014-031948
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
とはいえ、従来の技術を用いて冷凍パンを解凍した場合に、解凍後の冷凍パンを、「焼きたてのパンに近い状態」に戻すことは難しい。
従来の技術を用いて冷凍パンを解凍した場合には、解凍された冷凍パンの水分が、「焼きたて」のパンよりも、そして更には、一般的に「食べごろ」と言われる、粗熱の取れた(温度は38℃程度)焼きたてから20分ほど経過したパンよりも、下がっていることが殆どである。
また、水蒸気の供給を伴う加熱時間を長くすることにより、この問題をある程度解決することができるが、解凍にかかる時間が長くなると、家庭用の用途で用いるにせよ、業務用の用途で用いるにせよ、冷凍パンの使い勝手が悪くなる。
【0006】
パンの解凍技術の詳細な課題について述べる前に、まず、パンの構成と、パンの美味しさがどのようにして生じるのか、ということについて説明を行う。
パンは、クラムとクラストとからできている。クラムとは、内層とも呼ばれるパンの中身であって、一般には乳白色を呈する部分である。クラストとは、皮、表皮とも呼ばれるパンの表面であって、一般には茶色を呈する部分である。パン生地を焼成することにより、パンのクラムとクラストは、以下のようにして生成される。
パンを焼成する場合、例えば24℃程度の常温のパン生地を焼成する場合を考える。
パンを焼成する場合、パン生地の底面は、焼成の当初から、例えば200℃を超える温度の床と接触し、そこからの熱伝導によって生地の全体を膨張させるとともに、短時間で乾燥することで床からある程度断熱された状態となる。
他方、パン生地の底以外の部分は、焼成室に存在する空気と水蒸気により表面から伝導加熱されていく。焼成室内の空気には、時間の経過によりパン生地から生じた水蒸気も含まれ得る。生地の内部に大量に分布する生地の発酵によって生じた炭酸ガスによる気泡が水和デンプンから発生する水蒸気を含むことによって、焼成中にパンは大きく膨張する。水分の一部はパン生地から外部へ逃げるが、基本的にはパン生地の内部に残る。クラム中で水和デンプンは、α化(糊化)して粘り気を生じ、それによりモチモチとした食感を生む。他方、パン生地の表面では、α化したデンプンが乾燥し、メイラード反応を経て、香ばしく、パリパリ或いはサクサクといった食感を持つクラストとなる。クラストは、乾燥しており水分が少ないため、熱伝導率が低く、パン生地の外部と内部を断熱する。そのため一般に、クラムの中心の温度は焼成が終了するまで100℃を超えない状態に保たれる。そのような状態を保ちつつパンの焼成が終了し、クラムとクラストが生成されることになる。
【0007】
以上の説明から分かるように、パンの食味には、クラストの香ばしさや食感を保証するための「クラストがよく乾燥していること」と、クラムの食感を保証するための「クラムが良く水分を含んでいること」とが大きく関係する。
これらはいずれも、パンの水分に関するものである。パンの美味しさを決定する要素にはもちろん他のものも存在するが、本願では、パンに含まれる水分量をパンの美味しさを評価するための要素とする。
【0008】
クラストは、少なくともクラムに比して乾燥している。そのため、クラストには黴が生えにくく、パンを保存食とするのに役立つ。クラストは、クラムから水分が逃げることを防ぐ機能をも有する。それにより、クラムの乾燥がある程度の期間防がれる。
焼成直後の「焼きたて」のパンに含まれた水分は、時間の経過とともに失われていくが、一般に、粗熱の取れた焼き立てから20分程が経過したときの状態のパンが「食べごろ」と呼ばれる。
とはいえ、クラムに含まれていた水分は、「食べごろ」の状態から時間が更に経過するに連れて徐々に失われていき老化していく。クラムから水分が抜けていく過程ではまず、クラムに含まれていた水分がクラストへ移り、クラムとクラストの水分量が均一化していくという現象が生じる。この現象が生じると、クラストの食感が劣化し、また、クラムにぱさつきが生じる。また、クラストから水分が抜け温度が下がっていくにしたがって、クラム内のα化していたデンプンはβ化して固くなり、ぼそぼそとした食感となる(これがここまでに何度か登場している「老化」という文言の意味である。)。更にパンの乾燥が進むと、クラストもクラムも乾燥した状態となる。クラムからの水分を受取ることにより水分過多に陥ったクラストが乾燥していく過程でクラストの食感は一時的に回復するが、乾燥が更に進むとその食感は再び悪くなる。また、クラムの食感は、クラムの乾燥が進むに連れ、つまり、「食べごろ」の状態から時間が経過する程落ちていく。
【0009】
冷凍パンは一般に、「食べごろ」程度にまで温度が下がった状態のパンを冷凍することにより作られる。また、冷凍パンを製造するためにパンの冷凍を行うと、パンの水分が冷凍の過程で一部失われる。したがって、冷凍パンに含まれる水分量は、「焼き立て」のパンよりも、更には「食べごろ」のパンよりも幾らか少ないのが一般的である。
冷凍パンを解凍したときに、冷凍パンに元々含まれていた水分量をそのまま維持できるのであれば、解凍された冷凍パンは、「焼き立て」のパンよりも幾らか低い程度の水分量を保っているはずである。しかしながら、従来の解凍方法で解凍された冷凍パンは、冷凍された時点での水分量と同じ水分量を保っていない。それは、解凍を行う際に必ず行われる加熱によって、冷凍パン内の水分が外部に逃げるからである。
その結果、従来の解凍方法で解凍された冷凍パンは、「焼き立て」の状態よりも幾らか水分量が少ない「食べごろ」の状態よりも更に幾らか水分量が少なくなっている冷凍パンの水分量よりも、それに含まれる水分量が更に低くなっている。
逆にいえば、冷凍パンを解凍したときに、解凍された冷凍パンが、解凍前の冷凍パンに元々含まれていた水分量をそのまま維持しているのであれば、少なくとも解凍前の冷凍パンの水分量にごく近い水分量を維持しているのであれば、「食べごろ」のパンに含まれる水分量よりもその水分量は幾らか少ないものの、十分に美味しいパンであるはずである。
冷凍パンを解凍したときに、解凍された冷凍パンに含まれる水分量が、「焼き立て」のパンに元々含まれていた水分量と略同じか、それ以上となっているのであれば、「焼き立て」のパンと同じかそれ以上の食味となる。そもそも、焼成直後の「焼き立て」のパンと同等の水分量を持つパンは、流通の過程に乗ることもないし、また、パン焼きの設備を持つ飲食施設でも提供されることがないので、そのようなパンは、従来のパンを超えた新しい食味を持つ(場合によっては優れた食味を持つ)ものである可能性があるとさえ言える。
冷凍パンが含んでいた水分量を超える水分量を持つ冷凍パンを解凍して得られたパンは、場合によってはそのような新しい食味を持つものとなる。
【0010】
本願発明は、冷凍パンを焼きたてのパンに近い状態に戻すことができる技術、例えば、冷凍パンを解凍することにより得られるパンの水分量を解凍前の冷凍パンの水分量と略同じかそれ以上の水分量とするような冷凍パンを解凍するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、冷凍パンの解凍方法について研究を重ねた。その結果以下の知見を得た。
上述したように、従来の方法で解凍されるとき、冷凍パンに含まれる水分は加熱により減るため、解凍された冷凍パンに含まれる水分量は、解凍前の冷凍パンに含まれる水分量を下回るのが一般的である。
しかしながら、本願発明者は、様々な条件で実験を重ねた結果、冷凍パンを解凍するときに水蒸気を用い、且つパンに水蒸気が与えられるときに、解凍室内に気体の流れを生じさせた場合には、解凍された冷凍パンに含まれる水分量を、解凍前の冷凍パンに含まれていた水分量と略同じ水分量か、殆どの場合解凍前の冷凍パンに含まれていた水分量以上の水分量にまで高めることが可能であり、しかも解凍に要する時間を短縮できるという知見を得た。
本願発明は、そのような知見に基づく。
【0012】
本願発明は、冷凍パンを入れられる、前記冷凍パンの出し入れを行うための開閉自在とされた扉を有する解凍室と、それが稼働したときに、前記解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、それが稼働したときに、前記解凍室内に入れられた前記冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、それが稼働したときに、前記解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置を制御する制御装置と、を備えている、冷凍パンの解凍装置である。
この冷凍パンの解凍装置(以下、単に「解凍装置」と呼ぶ場合がある。)は、背景技術の欄で述べた従来の解凍装置で応用されていた3種類の加熱手段、つまり、スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置を有する。スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置それ自体は従前のものと同じで構わない。
前記制御装置は、前記解凍室に入れられた前記冷凍パンを解凍するとき、スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置を以下のように制御する。具体的には、制御装置は、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のいずれかが稼働している連続する時間を加熱時間帯と定義した場合に、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の所定のタイミングまで前記スチーム発生装置を稼働させ、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで前記ヒータを稼働させ、また、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで前記マイクロ波照射装置を稼働させるようになっている。
また、前記加熱時間帯内の前記スチーム発生装置が稼働しているときにおいて、前記解凍室内の気圧が常圧となるように、且つ前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れが生じるように構成されている。
【0013】
本願の解凍装置における制御装置は、加熱時間帯、つまり、スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置とのいずれかが稼働している時間帯において、スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置とを制御する。制御装置は、加熱時間帯の最初のタイミングから加熱時間帯の所定のタイミングまでスチーム発生装置を稼働させ、加熱時間帯の所定のタイミングから加熱時間帯の最後のタイミングまでヒータを稼働させ、また、加熱時間帯の所定のタイミングから加熱時間帯のその後の所定のタイミングまでマイクロ波照射装置を稼働させる。
加熱時間帯の最初のタイミングからスチーム発生装置を稼働させることにより、加熱時間帯の最初のタイミングから解凍室内に水蒸気を供給するのは、マイクロ波はよく知られているように水分を効率よく加熱するのに対して凍結水分を効率よく加熱することはできないところ、非常に冷たい(例えば、-18℃前後かそれ以下)パンの表面に水蒸気が付着すると、パンの表面で結露した水蒸気がパンに凝縮潜熱を与え、パンを素早く解凍させるのに都合が良いからである。
また、加熱時間帯の所定のタイミングから加熱時間帯の最後のタイミングまでヒータを稼働させるのは、つまり、加熱時間帯の最後のタイミングでヒータによる冷凍パンに対する遠赤外線の照射を行うのは、遠赤外線によって温度が上昇することによる冷凍パンの解凍の効果ももちろんあるが、水蒸気に曝されることにより適正な水分量よりも大きな水分量を持つに至ったクラストの水分量を適正な水分量にまで下げるためには、加熱時間帯の最後のタイミングで遠赤外線を冷凍パンに照射することが必要であるからである。
マイクロ波照射装置は、加熱時間帯の所定のタイミングからその後の所定のタイミングまで稼働する。加熱時間帯において冷凍パンに対して照射されるマイクロ波は、冷凍パンに与えられる熱量を基準として考えた場合には通常、水蒸気や遠赤外線よりも大きな役割を果たす。逆に言えば、冷凍パンを解凍するための熱量を発生させるに十分なマイクロ波が冷凍パンに照射される時間範囲で、マイクロ波照射装置は冷凍パンにマイクロ波を照射するようになっていてもよい。マイクロ波は、加熱時間帯の最初のタイミングから照射されても良いし、加熱時間帯の最後のタイミングまで照射されても良いし、加熱時間帯の全時間帯で照射されてもよい。なお、マイクロ波は、例えば、3秒照射、7秒休みを繰り返すように、或いは、5秒照射、5秒休みを繰り返すように間欠的に照射される場合もある。それでもなお、そのような間欠的な照射が繰り返される場合でも(或いはマイクロ波照射装置が間欠的に稼働する場合でも)、本願では、マイクロ波が連続して照射されている(マイクロ波照射装置が連続的に稼働している)ものとして扱う。なお、この事情は、スチーム発生装置と、ヒータにおいても同様であり、それらが間欠的に稼働する場合でも、本願ではスチーム発生装置と、ヒータが連続して稼働しているものとして扱う。
そして、本願発明の解凍装置は、加熱時間帯内のスチーム発生装置が稼働しているときにおいて、解凍室内の気圧が常圧となるように、且つ解凍室内から解凍室外への気体の流れが生じるように構成されている。
本願出願人は、本願出願前に、スチーム発生装置が稼働しているときにおける解凍室内の気圧が常圧よりも大きく保たれていると、詳しい機序は不明であるが、スチーム発生装置が発生させた水蒸気が解凍中の冷凍パンに良く入り込み、解凍終了後の冷凍パンに含まれる水分量が、従来の解凍方法で解凍された解凍終了後の冷凍パンに含まれる水分量よりも有意に高くなることを見出していた。
しかしながら、更に冷凍パンの解凍技術について研究を重ねた結果、スチーム発生装置が稼働しているときに解凍室内に気体、つまり空気と水蒸気の流れを作ると、仮に解凍室内の気体の圧力が常圧であったとしても、スチーム発生装置が発生させた水蒸気が解凍中の冷凍パンに良く入り込み、解凍終了後の冷凍パンに含まれる水分量が、従来の解凍方法で解凍された解凍終了後の冷凍パンに含まれる水分量よりも有意に高くなることを見出した。解凍された冷凍パンに含まれる水分量は解凍前の冷凍パンに含まれていた水分量と略同じか、殆どの場合解凍前の冷凍パンに含まれていた水分量を上回る。
このような効果が生じる機序は詳しくは不明である。しかしながら、解凍時において冷凍パンに新鮮な水蒸気が次々と当たり続けて冷凍パンの表面で結露し、冷凍パンに凝縮潜熱を与え続けるから、解凍室内の気体に流れがある場合の方が、解凍後のパンに含まれる水分量が増すのだと思われる。
しかも、解凍室内の圧力が常圧でも良いということは、冷凍パンの解凍装置における解凍室を備える筐体に高圧に耐える気密性を与える必要がなくなるため、冷凍パンの解凍装置の製造コストを抑制できる。また、冷凍パンを解凍して得られたパンの水分量があまりにも高くなると例えばクラストがベタつく等してパンの食味が落ちる可能性があり、高圧下で冷凍パンを解凍した場合にはパンの水分量が過剰となることもあるところ、常圧下で気体の流れを作りつつ水蒸気を用いて解凍した冷凍パンは、水分量が過剰に高くなることが少ない。つまり、常圧下で気体の流れを作りつつ水蒸気を用いて冷凍パンを解凍する技術は、いわばラフな制御しか行えなかったとしても、解凍後のパンの水分量を、冷凍されたパンに含まれていた水分量と略同じかそれより幾らか高いという範疇に収めることができ、水分量が過剰となるおそれが小さいという効果も併せ持つ。
なお、ヒータからの遠赤外線により冷凍パンに与えられる熱エネルギーの総量は、クラストが厚い程、又はクラストが乾燥しているほど、又はクラストが厚くて乾燥している程、大きくすべきと考えられる。上述したように、クラストはクラムから水分が逃げるのを防ぐ機能を持つ。したがって、冷凍パンに水蒸気由来の水分を多く供給しようとすると、厚い、乾燥している、又は厚くて乾燥しているクラスト程それを妨げる。そうすると、例えば解凍室内の気体の流れを大きくして、クラストを通過させていわば強引にクラムへ水分を入れることが必要となる。そうすると、厚い、乾燥している、又は厚くて乾燥しているクラストは、当初より柔らかくなって解凍後の冷凍パンの食味が落ちるおそれが強くなる。したがって、クラストをより乾燥させるために、ヒータから遠赤外線によって冷凍パンに与えられる熱エネルギーの総量を、クラストが厚い程、又はクラストが乾燥している程、又はクラストが厚くて乾燥している程、大きくすべきということとなる。
【0014】
前記加熱時間帯は300秒以内であり、前記制御装置は、前記ヒータを、少なくとも、前記加熱時間帯の中央のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで稼働させるようになっていてもよい。つまり、制御装置はヒータを、そのように制御するようになっていても良い。300秒以下の加熱時間帯の少なくとも後半の半分の時間帯にヒータを稼働させれば、解凍後のパンのクラストを、パンの種類に概ね関係なく、食味が落ちない程度に乾燥させることができる。
前記加熱時間帯は300秒以内であり、前記制御装置は、前記スチーム発生装置を、前記加熱時間帯の最初のタイミングから最後のタイミングまで稼働させるようになっていてもよい。つまり、制御装置はスチーム発生装置を、そのように制御するようになっていても良い。300秒以下の加熱時間帯の全体でスチーム発生装置を稼働させれば、解凍後のパンの水分量を、パンの種類に概ね関係なく、冷凍パンの水分量と略同じかそれ以上の水分量とすることができるようになる。
加熱時間帯が300秒以内であるか否かによらず、前記制御装置は、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のすべてを、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで稼働させるようになっていてもよい。つまり、制御装置はヒータ、マイクロ波照射装置、スチーム発生装置を、そのように制御するようになっていても良い。加熱時間帯の全体でヒータ、マイクロ波照射装置、スチーム発生装置のすべてを稼働させれば、加熱時間帯を短縮する、例えば300秒以内にするのに役立つ。
なお、この段落で述べたすべての場合に共通するが、加熱時間帯を300秒以下と比較的短くすると、特に解凍された冷凍パンを客に提供する飲食施設のオペレーションに向く。300秒以下の加熱時間帯の下限は、ヒータ、マイクロ波照射装置、スチーム発生装置の能力にもよるが、30秒程度(例えば、30秒)である。逆に、加熱時間帯の上限は特に無い。
【0015】
解凍装置は、上述したように、加熱時間帯内のスチーム発生装置が稼働しているときにおいて、解凍室内の気圧が常圧となるように、且つ解凍室内から解凍室外への気体の流れが生じるようになっている。
解凍室内を常圧としつつ、解凍室内から解凍室外への気体の流れを作るためには以下のようにすれば良い。例えば、前記解凍室内から前記解凍室外へ連通する管である排出管を備えており、当該排出管を介して前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れが生じるようになっていてもよい。或いは、前記解凍室に対して閉まった状態になったときに前記扉の周囲の適宜の位置に前記解凍室の内外の空間を連通させる隙間が生じるようになっており、当該隙間を介して前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れが生じるようになっていてもよい。
【0016】
本願発明者は、以上で説明した冷凍パンの解凍装置で実行される方法をも、本願の発明の一態様として提案する。この発明の効果は、冷凍パンの解凍装置の効果に等しい。
一例となる方法は、冷凍パンを入れられる、前記冷凍パンの出し入れを行うための開閉自在とされた扉を有する解凍室と、それが稼働したときに、前記解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、それが稼働したときに、前記解凍室内に入れられた前記冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、それが稼働したときに、前記解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置を制御する制御装置と、を備えている、冷凍パンの解凍装置にて実行される冷凍パンの解凍方法(以下、単に「解凍方法」という場合がある。)である。
そして、この解凍方法は、前記制御装置に、前記解凍室に入れられた前記冷凍パンを解凍するとき、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のいずれかが稼働している連続する時間を加熱時間帯と定義した場合に、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の所定のタイミングまで前記スチーム発生装置を稼働させ、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで前記ヒータを稼働させ、また、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで前記マイクロ波照射装置を稼働させるとともに、前記加熱時間帯内の前記スチーム発生装置が稼働しているときにおいて、前記解凍室内の気圧を常圧とし、且つ前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れを生じさせるようにする。
本願発明者は、以上で説明した冷凍パンの解凍装置であって、上述の制御装置を有さないものを用いて実行できる方法をも、本願の発明の一態様として提案する。その方法は、手動で、スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置とを制御し、或いは解凍室内の気圧を制御する場合をも含むものとなる。その点を除けば、この発明の効果は、冷凍パンの解凍装置の効果に等しい。
一例となるその方法は、冷凍パンを入れられる、前記冷凍パンの出し入れを行うための開閉自在とされた扉を有する解凍室と、それが稼働したときに、前記解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、それが稼働したときに、前記解凍室内に入れられた前記冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、それが稼働したときに、前記解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、を備えている、冷凍パンの解凍装置を用いて実行される冷凍パンの解凍方法である。
この解凍方法は、前記解凍室に入れられた前記冷凍パンを解凍するとき、前記スチーム発生装置、前記ヒータ、前記マイクロ波照射装置のいずれかが稼働している連続する時間を加熱時間帯と定義した場合に、前記加熱時間帯の最初のタイミングから前記加熱時間帯の所定のタイミングまで前記スチーム発生装置を稼働させ、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯の最後のタイミングまで前記ヒータを稼働させ、また、前記加熱時間帯の所定のタイミングから前記加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで前記マイクロ波照射装置を稼働させるとともに、前記加熱時間帯内の前記スチーム発生装置が稼働しているときにおいて、前記解凍室内の気圧を常圧とし、且つ前記解凍室内から前記解凍室外への気体の流れを生じさせる。
本願の解凍方法では、解凍された冷凍パンが、解凍前の冷凍パンの持っていた水分量以上の水分量を含むようにする、ことができる。それにより、得られた解凍されたパンは、従来の方法で解凍された冷凍パンよりも食味が良く、老化しにくいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態による冷凍パンの解凍装置の透視正面図。
【
図2】
図1に示した冷凍パンの解凍装置の透視右側面図。
【
図3】
図1に示した冷凍パンの解凍装置の透視平面図。
【
図4】加熱時間帯における、スチーム発生装置、ヒータ、マグネトロンそれぞれの稼働状態を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい一実施形態について説明する。
各実施形態の説明において、共通する対象には共通の符号を付すものとし、重複する説明は、場合により省略するものとする。
【0019】
この実施形態による冷凍パンの解凍装置1は、
図1から
図3に示したようなものである。
図1は正面図、
図2は右側面図、
図3は、平面図である。
冷凍パンの解凍装置1の構成は、後述する制御装置の機能と、弁とを除けば、スチーム発生装置、ヒータ、及びマイクロ波照射装置を備える既存の解凍装置と同じでよい。そのため、解凍装置1の構成の説明は比較的簡単に行うこととする。
【0020】
解凍装置1は筐体10を備えている。筐体10は、例えば、金属製であり、これには限られないが、この実施形態では略直方体形状である。筐体10の内部には、解凍室11が設けられている。解凍室11は、その内部に、解凍の対象となる冷凍パンを入れられる空間である。これには限られないが、解凍室11は、略直方体の形状をしている。これには限られないがこの実施形態における解凍室11の大きさは、幅405mm×奥行645mm×高さ245mmであり、その容積は略0.064m
3(64l)である。
解凍室11の内壁面は、後述するスチーム発生装置から供給される水蒸気或いは水に耐えられるようになっており、後述するヒータの熱に耐えられるようになっており、また、後述するようにしてマイクロ波照射装置から照射されるマイクロ波を反射できるようになっている。また、解凍室11の内壁は、蓄熱性が大きいほうが有利である。
筐体10の前面には扉12が設けられている。扉12は、解凍室11を開閉するためのものである。
図1では扉12は閉状態であり、
図3では扉12は開状態である。扉12は、
図1の左側の辺で例えば筐体10にヒンジ接続されており、筐体10に対して開閉できるようになっている。
これには限られないが扉12は矩形であり、また、これには限られないがこの実施形態ではその真中に、解凍室11内を外部から覗くためのガラス窓12Aが設けられている。ただし、ガラス窓12Aからの放熱やマイクロ波の漏れのおそれがあるなら、ガラス窓12Aは省略することができる。扉12が閉められたとき、扉12の縁と筐体10との間は、気密になるようになっていても良いが、隙間が生じるようになっていてもよい。この点については後述する。
筐体10の、これには限られないが前面の
図1における右側には操作パネル13が設けられている。操作パネル13は、後述する制御装置に所望の入力を行うためのものである。操作パネル13には、制御装置に入力を行うための入力装置が設けられているが図示を省略している。入力装置は、押し釦、回転式のダイヤル、タッチパネル等の公知、或いは周知の適宜のものを用いれば良い。
【0021】
解凍装置1は、それが稼働したときに、解凍室11内に水蒸気を供給するスチーム発生装置20と、それが稼働したときに、解凍室11内に入れられた冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータ30と、それが稼働したときに、解凍室11内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、スチーム発生装置20、ヒータ30、マイクロ波照射装置を制御する制御装置50とを備えている。この実施形態では、スチーム発生装置20、ヒータ30、マイクロ波照射装置、及び制御装置50はすべて筐体10内に設けられているが、制御装置50は筐体10外に設けられていても構わない。
【0022】
スチーム発生装置20は、いわゆるボイラーである。スチーム発生装置20は、公知或いは周知の手法で、筐体10の外部からその内部に水を供給可能となっている。スチーム発生装置20は、その内部の水を火力、或いは電力により沸騰させ、水蒸気を発生させるようになっている。これには限られないが、この実施形態のスチーム発生装置20は、大型の2kwヒータを備え応答性をよくするため容積を小型にしたボイラーとされている。このボイラーが供給する水蒸気の圧力の上限は設計上無限であるが、ボイラーが供給する水蒸気の圧力は、解凍室11内の圧力を予定された圧力にするのに必要な圧力に設定されている。また、スチーム発生装置20が供給する水蒸気の温度は、常圧では99℃程度であるが、圧力が上がると103℃程度まで上がることがあり得る。
スチーム発生装置20は間欠的に稼働する場合もある。
スチーム発生装置20は、その一端側を解凍室11に連通させられた例えば金属製の管であるスチーム管21の他端と接続されている。スチーム発生装置20は、その内部で発生させた水蒸気を、スチーム管21を介して、解凍室11内に供給することができるようになっている。
これには限られないが、ボイラーであるこの実施形態におけるスチーム発生装置20の相当蒸発量は、以下の数式により求めることができ、およそ3.30kg/hである。
相当蒸発量=電気消費量(2kw)×電気発熱量(3.6MJ/kw)×ボイラー効率(95%)÷2257kJ/kg
【0023】
ヒータ30は、遠赤外線を発生させ、それを解凍室11内に入れられた冷凍パンに対して照射する。それが可能な限り、ヒータ30は、既存のものでよく、公知或いは周知のものを用いることができる。
これには限られないがこの実施形態におけるヒータ30は、例えば、シーズヒータとすることができ、これには限られないがこの実施形態ではそうしている。金属製の管にシリカを詰め込んで構成されており、絶縁性に加えて防水性が高いため、水蒸気が充満する雰囲気下でも使用可能である。
これには限られないが、この実施形態におけるヒータ30は棒状であり、解凍室11の天井の直下と床の直上(炉床板60の直下)にそれぞれ4本ずつ、それらの長さ方向が解凍装置1の前後方向と一致するようにして水平に取付けられている。つまり、これには限られないがこの実施形態におけるヒータ30は、上下双方向から冷凍パンに遠赤外線を加えるようになっている。この実施形態では上側のヒータ30は合計で1500W、下側のヒータは合計で1000Wであるが、これもこの限りではない。
シーズヒータは折り曲げ等の加工も可能である。したがって、ヒータ30は棒状である必要はなく、例えば、上側のヒータ30を一連のW字型、下側のヒータ30を一連のU字型とする等、適当に設計することが可能である。
ヒータ30は間欠的に稼働する場合もある。
【0024】
マイクロ波照射装置は、公知或いは周知のように、マイクロ波を発生させるマグネトロン41と、マグネトロン41が発生させたマイクロ波を解凍室11内に導く導波管42とから構成されている。
マグネトロン41は例えば、マイクロ波を発生させられる機器であれば公知或いは周知のもので良く、例えば磁電管とも呼ばれる発振用真空管により構成されている。これには限られないが、この実施形態では、マグネトロン41は2つであり、これには限られないが、この実施形態では、筐体10内の解凍室11の後方に設けられている。これには限られないが、この実施形態における各マグネトロン41が発生させるマイクロ波の周波数は、日本で使用できる企画周波数である2450MHzであり、その出力は1.1kwである。
マグネトロン41は間欠的に稼働する場合もある。
導波管42は、マグネトロン41が発生させたマイクロ波を解凍室11に導く管である。導波管42の構成も、公知或いは周知のものとすることができる。これには限られないがこの実施形態の導波管42は、各マグネトロン41の下方を基端とし、解凍装置1の前方に向かってその先端が水平に伸びる、断面矩形の金属製の管である。両導波管42の上面は解凍室11の床と面一とされ、解凍室11内に露出している。導波管42の上面には、左右方向に伸びる切れ目である多数のスリット42Aが設けられている。マグネトロン41から導波管42内に至ったマイクロ波は、導波管42の基端から先端に向かい、その途中にある多数のスリット42Aから出て、解凍室11内に、或いは解凍室11内に入れられた冷凍パンに照射されるようになっている。マグネトロン41が間欠的に稼働するのであれば、マイクロ波の照射も間欠的なものとなる。
【0025】
なお、解凍室11内の、床面の直上のヒータ30のすぐ上には、解凍室11の水平断面に対応した矩形の板である炉床板60が水平にわたされている。
炉床板60はスチーム発生装置20から解凍室11内に導かれた水蒸気が導波管42の内部に入り込むことを防ぐための板であり、水蒸気は通さないが、マイクロ波を通し、遠赤外線で蓄熱するものとなっている。したがって、水蒸気が導波管42に入り込むことはないが、マイクロ波とヒータ30からの遠赤外線は、解凍中の冷凍パンを問題なく加熱できるようになっている。
炉床板60としては、日光化成株式会社が製造、販売を行う耐熱ボードである「ベスサーモF(商標)」を用いることができる。
【0026】
制御装置50は上述したように、スチーム発生装置20、ヒータ30、マイクロ波照射装置(正確には、マイクロ波照射装置に含まれるマグネトロン41)を制御する。制御装置50はそれが可能なように、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41のそれぞれと、図示を省略の信号線によって接続されている。
制御装置50は、公知或いは周知の装置により構成することができ、公知或いは周知のコンピュータやマイコンによって構成することができる。制御装置50がコンピュータなのであれば、コンピュータは例えば、演算装置であるCPU(central processing unit)と、書換不可能な記録媒体であるROM(read only memory)と、書換可能な記録媒体であるRAM(random access memory)と、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41及び操作パネル13との信号線を介しての接続をなすためのインターフェイスと、を含んで構成されている。
スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41は信号線を通って制御装置50から送られた信号によって、それぞれ稼働し(もちろん、公知或いは周知のように信号によってそれぞれの稼働の状態をも制御可能である)、また停止するようになっている。
制御装置50は、また、操作パネル13からの入力を受付けることが可能なように、操作パネル13と図示を省略の信号線で接続されている。信号線を介して操作パネル13から入力された信号に基づいて、制御装置50は、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41を制御するための信号を生成するようになっている。
【0027】
この実施形態における解凍装置1は、加熱時間帯内のスチーム発生装置20が稼働しているときにおいて、解凍室内の気圧が常圧となるように、且つ解凍室内から解凍室外への気体の流れが生じるようになっている。
そのような条件を満足させるために、これには限られないがこの実施形態では、解凍室11と解凍装置1外とを繋ぐ、例えば金属製の管である排気管71が設けられている。解凍室11内の気体(主に、空気と水蒸気)の圧力が上がりそうになったら、解凍室11内の気体が、排気管71を介して互いに連通する解凍室11内から解凍室11外へと流れ出す。それにより解凍室11内の気体の圧力が常圧に保たれるとともに、解凍室11内に気体の流れが生じる。排気管71の断面積は、解凍室11内の気体の圧力を常圧に保てる程度に大きな面積とするが、解凍室11内の温度が下がりすぎない程度に小さな面積とする。
なお、これには限られないがこの実施形態における排気管71の解凍装置1の外面部分の開口に、弁72が設けられている。弁72は、後述する試験例1から3のうち、解凍室11内の気体の圧力を上げる場合の試験を実行するために便宜的に設けられているものであり、そのような特別な目的がなければ必要ない。
この実施形態では、弁72は、筐体10の
図1における左側面に設けられているが、もちろんこれはこの限りではない。
弁72は、公知或いは周知のものでよい。弁72が解凍室11内の気体を外部に排出するときの解凍室11内の圧力は、その操作によって調整可能とされている。弁72が解凍室11内の気体を外部に排出するときの解凍室11内の圧力の調整は、弁72に対して手動で行うようになっていても良いし、操作パネル13の操作によって制御装置50が行うようになっていても良い。後者の場合であれば、制御装置50は信号線で弁72と接続されることになる。
上述したように扉12と筐体10とは、扉12が閉められたときに扉12の縁と筐体10との間に隙間が空くようになっていてもよい。そのような隙間が存在する場合にその隙間が上述した排気管71の機能、つまり筐体10に設けられた解凍室11の内側から解凍室11の外側へと解凍室11内の気体を排出する機能を担うことができるようになっているのであれば、上述の排気管71を省略することも可能である。隙間は、扉12の縁と筐体10の間の適宜の部分に設けることができる。隙間は例えば、扉12の縁を一周囲むように存在しても良いし、扉12の上側のみ、上側と正面から見て右側のみといった、扉12の縁の一部における適宜の位置にのみ存在していても良い。また、隙間の幅は長さ方向のすべての位置で同一でも良いし、そうでなくともない。この実施形態では、排気管71が存在するので、扉12を閉めたときに扉12の縁と筐体10との間には隙間が生じないようになっている。隙間を生じさせないようにするための技術としては、パッキンを用いる等の公知或いは周知の技術によれば良い。
【0028】
以上のような解凍装置1の使用方法と動作、具体的には、冷凍パンを解凍するときの使用方法と動作について説明する。
【0029】
解凍装置1を用いて冷凍パンを解凍する場合には、閉状態にあった解凍装置1の扉12を開状態にして、解凍室11内に解凍の対象となる冷凍パンを入れる。冷凍パンは複数である場合がある。次いで、扉12を閉状態とする。これにより、弁72の部分を除き、解凍室11は気密な状態となる。
次いで、操作パネル13を操作して、冷凍パンの解凍方法を決定する。なお、操作パネル13の操作は、解凍室11に冷凍パンを入れて扉12を閉状態にする前に行っても良い。
決定するのは、少なくとも、加熱時間帯(加熱時間帯とは、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マイクロ波照射装置のうちのマグネトロン41とのいずれかが稼働している時間帯を意味する。)の中のどのタイミングで、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マイクロ波照射装置のうちのマグネトロン41とをそれぞれ稼働させ、どのタイミングでそれぞれ稼働させないかということである。また、それらに加えて、加熱時間帯の長さを最初に決定するようにすることも可能である。
更に、それらに加えて、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41の出力を決定できるようにしてもよい。例えば、スチーム発生装置20が発生させる水蒸気の量や温度をどのようにするか、ヒータ30の放熱量(上下のヒータ30の作動温度設定を異ならせることも可能である。)、マグネトロン41が発生させるマイクロ波の強さをユーザに設定させることができる。スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41の出力は、加熱時間帯において、経時的に変化するようにすることも可能である。
この実施形態では、それらが稼働するときにおけるスチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41の出力はどれも常に一定であることとし、操作パネル13から入力されるのは、加熱時間帯の長さと、加熱時間帯中のどのタイミングで、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マグネトロン41とを稼働させ、どのタイミングで稼働させないかという情報であるものとする。
なお、加熱時間帯の長さと、加熱時間帯中のどのタイミングで、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マグネトロン41とを稼働させ、どのタイミングで稼働させないかということには、後述するようにこの実施形態では制限がある。その制限を超える入力が操作パネル13からなされた場合には、制御装置50は例えばエラーとしてその入力を受付けないようにすることができる。
また、ある解凍装置1を用いて解凍されるパンの種類には限りがあるだろうし、同じ設定を複数種類の冷凍パンに適用できることもあるであろう。したがって、ユーザの予めの設定により、或いは解凍装置1のメーカーによる出荷時から、制御装置50の例えばRAMに、加熱時間帯の長さと、加熱時間帯中のどのタイミングで、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マグネトロン41とを稼働させ、どのタイミングで稼働させないかという情報のすべてを特定するデータを、例えば複数記録しておくことも可能である。そのようなことが予めなされている場合には、ユーザはそれら複数のデータのいずれかを選択することにより、選択したデータに含まれる上述した情報のすべてを、一括して入力することができるから便利である。
なお、この実施形態では、操作パネル13の操作を行うのと前後して、弁72が解凍室11内の気体を外部に排出するときの解凍室11内の圧力を調整する。この調整は、既に述べたように、それが可能とされている場合には操作パネル13の操作によって行ってもよい。
また、設定方法の別によらず、ヒータ30からの遠赤外線によって冷凍パンに与えられる熱エネルギーの総量は、クラストが厚い程、又はクラストが乾燥しているほど、又はクラストが厚くて乾燥している程、大きくすべきと考えられる。遠赤外線によって冷凍パンに与えられる熱エネルギーの総量を大きくするには、例えば、ヒータ30の設定温度を上げるか、加熱時間帯に占めるヒータ30の稼働時間の割合を大きくすれば良い。
【0030】
ユーザが操作パネル13を操作して上述の入力を行うと、信号線を介してその情報が制御装置50に送られる。例えば、ユーザが、操作パネル13にあるスタートスイッチを操作すると、制御装置50は、制御のための信号をそれぞれ、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マグネトロン41とに送る。それにより、加熱時間帯が開始され、解凍室11内の冷凍パンの解凍が開始される。
加熱時間帯とは、スチーム発生装置20と、ヒータ30と、マイクロ波照射装置のうちのマグネトロン41とのいずれかが稼働している時間帯を意味する。
【0031】
加熱時間帯の長さは、それ以上の長さとすることも可能であるが、この実施形態では300秒以下とする。加熱時間帯の長さは概ね30秒が下限である。これには限られないが、この実施形態では加熱時間帯の長さは300秒とされる。
加熱時間帯の長さによらず、加熱時間帯において、スチーム発生装置20は、少なくとも加熱時間帯の最初のタイミングから加熱時間帯の所定のタイミングまで稼働させられる。ただし、スチーム発生装置20が稼働する時間の長さは、解凍された冷凍パンに含まれる水分量が、解凍前の冷凍パンに含まれる水分量と略同じかそれを超える範囲となるようにする。この実施形態ではこれには限られないが、解凍された冷凍パンに含まれる水分量が、解凍前の冷凍パンに含まれる水分量と略同じかそれ以上となるようにする。
加熱時間帯の長さによらず、加熱時間帯において、ヒータ30は、少なくとも加熱時間帯の所定のタイミングから加熱時間帯の最後のタイミングまで稼働させられる。ただし、ヒータ30が稼働する時間の長さは、解凍された冷凍パンにおけるクラストが十分に乾燥した状態となるのに十分な長さとする。
加熱時間帯の長さによらず、加熱時間帯において、マイクロ波照射装置におけるマグネトロン41は、加熱時間帯の所定のタイミングから加熱時間帯のその後の所定のタイミングまで稼働させられる。ただし、マグネトロン41が稼働する時間の長さは、冷凍パンが解凍するのに十分な熱量を冷凍パンが生じるだけの長さとする。
【0032】
この実施形態では加熱時間帯の長さは300秒であるが、加熱時間帯が300秒以内である場合、制御装置50は、ヒータ30を、少なくとも、加熱時間帯の中央のタイミングから加熱時間帯の最後のタイミングまで稼働させる。300秒以下の加熱時間帯の少なくとも後半の半分の時間帯にヒータ30を稼働させれば、解凍後のパンのクラストを、パンの種類に概ね関係なく、食味が落ちない程度に乾燥させることができる。
この実施形態では加熱時間帯の長さは300秒であるが、加熱時間帯が300秒以内である場合、制御装置50は、スチーム発生装置20を、加熱時間帯の最初のタイミングから最後のタイミングまで稼働させる。300秒以下の加熱時間帯の全体でスチーム発生装置20を稼働させれば、解凍後のパンの水分量を、パンの種類に概ね関係なく、「焼き立てに近い状態」のパンの水分量の範囲に収めることができる。
このような条件を満たす、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41それぞれのON、OFFを示すタイミングチャートを
図4(A)に示す。網掛けされている時間帯は、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41のそれぞれがONとなっている時間帯であり、網掛けされていない時間帯はそれらがOFFとなっている時間帯である。この例では、スチーム発生装置20は、300秒の加熱時間帯のうちの最初の150秒間稼働してその後は停止し、ヒータ30は、加熱時間帯のうちの最初の150秒間は停止しているがその後の150秒間は稼働し、マグネトロン41は、加熱時間帯のうちの37.5秒経過時点から250秒経過時点まで稼働し、その余の時間は停止する。
加熱時間帯の長短によらず、加熱時間帯のすべての時間帯において、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41のすべてがONで有り続けても良い。それを示したタイミングチャートが、
図4(B)である。
図4(B)では、加熱時間帯の長さは300秒である。30秒とする等、加熱時間帯を短くしようとすれば、タイミングチャートはいきおい
図4(B)に示したようなものとなる。
【0033】
ヒータ30やマグネトロン41による加熱により解凍室11内の温度が上昇することにより解凍室11内の空気が膨張することによっても、弁72がなければ解凍室11内の気圧が常圧よりも大きくなる場合がある。加熱時間帯において、スチーム発生装置20が稼働しているときにおける解凍室11内の気圧は、弁72がなければ常圧よりも大きくなる場合がある。弁72はそれらの状況が生じた場合においても解凍室11内の気圧が所望のものとなるように調整されている。解凍室11内の気体の圧力を常圧とする本願発明の場合であれば、存在するのであれば弁72は全開にしておけば良い。
なお、「スチーム発生装置20が稼働しているとき」には、スチーム発生装置20が停止状態から稼働状態へ変化しているときと、稼働状態から停止状態へ変化しているときは含まれない。これは、本願のすべてで共通である。
例えば、弁72が作動しなければ、解凍室11内の気体の圧力が、弁72が作動して外部に解凍室11内の気体を排出する圧力よりも高くなるようにスチーム発生装置20が水蒸気を解凍室11内に供給する場合がある。そのような場合においても弁72が全開となっていれば、解凍室11内の気体(主に、空気と水蒸気)が弁72を介して解凍室11外に排出されることによって、解凍室11内の気圧が常圧に保たれることになる。また、弁72の作動の程度を適宜調整することによって、解凍室11内の気体の圧力を所望の圧力に保つことも可能である。排気管71と弁72を介して解凍室11内の気体が解凍室11外に排出されると、それにより解凍室11内に気体の流れができることになる。
【0034】
加熱時間帯において冷凍パンが解凍されるときには、概ね以下の現象が起きる。
解凍室11内にスチーム発生装置20から水蒸気を供給する。クラストの表面に水蒸気が結露して、凝縮潜熱により冷凍パンが表面から加熱される。それにより、熱或いは熱を帯びた水分が冷凍パンの中心に向かって、氷の結晶を溶かしながら浸透していく。
水蒸気の供給開始と同時に或いはそれに遅れてマイクロ波照射装置からマイクロ波が照射される。マイクロ波は冷凍パンの中心付近の水分を加熱する。それによって生じる熱により、冷凍パンの解凍が進む。
加熱時間帯の最初から、或いは途中から最後のタイミングまで、ヒータ30による冷凍パンの加熱が行われる。それにより、クラストが乾燥し、また、クラストにおいてメイラード反応が生じて香りが立つ。メイラード反応はクラストの温度が160℃を超えると生じ、180℃を超えるとクラストが褐変する。クラストが乾燥することによってクラストの厚さと強度が維持され、クラストが水蒸気によって軟弱となることによって生じる解凍後の冷凍パンの収縮(しぼみ)が防止される。
クラストは水蒸気から水分を添加されながら乾燥するため、解凍された冷凍パンに添加された水分(解凍前の冷凍パンの水分量を超える分の水分)の大半はクラムに入り込むことになる。
上述したように、解凍室11内には気体の流れがある。したがって、スチーム発生装置20から解凍室11内に供給される水蒸気は、冷凍パンに良く吸収される。
【0035】
以上のようにして冷凍パンの解凍が終了する。
ユーザは、扉12を開状態にして、解凍された冷凍パンを解凍室11から取り出せば良い。
≪試験例≫
以下、試験結果について説明する。試験例1から試験例3の試験内容、及び試験結果について説明する。
上述した解凍装置1を用いて、試験例1ではバターロールを、試験例2では食パンを、試験例3ではフランスパン(ミニフランス)をそれぞれ解凍した。
試験例1から試験例3ではそれぞれ10通りの異なる方法で冷凍パンを解凍した。試験例1で採用した10通りの方法のすべてを、試験例2、試験例3でも採用した。
加熱時間帯の長さは180秒である。また、スチーム発生装置20、ヒータ30、マグネトロン41は、
図4(B)に示したタイミングチャートにしたがって、加熱時間帯のすべての時間帯でON(稼働状態)とした。
マグネトロン41の出力は最大出力ではなく500Wとし、加熱時間帯のすべての時間帯で、3秒稼働、7秒停止を繰り返させた。
ヒータ30の設定温度は、上側のヒータ30を170℃、下側のヒータ30を170℃とし、また、上側のヒータ30を170℃、下側のヒータ30を170℃とした状態で予め30分予熱してから解凍の対象となる冷凍パンを解凍装置1の解凍室11内に入れて解凍した。
ここまでは、試験例1から試験例3でそれぞれ採用された10通りの解凍方法のすべてで共通する。
【0036】
他方、試験例1から試験例3では、加熱時間帯における解凍室11内の気体の圧力を2通りとした。一つは常圧である0kpaであり、もう一つは3kpaである。
試験例1から試験例3では、解凍室11内の気体の圧力が0kpaである場合に、解凍室11内の気体の流れが0の状態と、弱い状態から強い状態までいずれも解凍室11内で気体の流れが存在する5つの状態とで、都合6通りの試験を行った。
また、試験例1から試験例3では、解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合に、解凍室11内の気体の流れが0の状態と、弱い状態から中くらいの状態までいずれも解凍室11内で気体の流れが存在する3つの状態とで、都合4通りの試験を行った。
試験例1から試験例3では、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときに5通り、解凍室11内の気体の圧力が3kpaのときに3通りの気体の流れの強さが異なる状態での冷凍パンの解凍の試験を行った。ここで、気体の流れの強さの調整は以下のようにして行った。
上述の実施形態で説明した解凍装置1、つまり試験例1から試験例3までで用いられる解凍装置1におけるボイラーであるスチーム発生装置20の相当蒸発量は、およそ3.30kg/hである。これは、スチーム発生装置20が供給することのできる最大の水蒸気量が1時間あたり3.30kgであるということを意味している。そして、スチーム発生装置20は、図示は省略されているが、水蒸気の供給量を決定する回転式のハンドルを、スチーム発生装置20と解凍室11とを繋ぐスチーム管21の途中の適宜の位置に備えている。そのハンドルは、スチーム管21を完全に閉じた状態から10回転程させることができるが、5回転させたところでスチーム管21は全開となる。
ハンドルが回転させられておらずスチーム管21が完全に閉じた状態では当然に、スチーム発生装置20から解凍室11に供給される水蒸気の量は0である。他方、スチーム管21が完全に閉じた状態からハンドルを1回転させるとスチーム管21は幾らか開き、スチーム発生装置20から解凍室11に相当蒸発量の水蒸気の1/5の量の水蒸気がスチーム管21を介して供給されることになる。同様に、スチーム管21が完全に閉じた状態からハンドルを2回転させると相当蒸発量の水蒸気の2/5の量、3回転させると相当蒸発量の水蒸気の3/5の量、4回転させると相当蒸発量の水蒸気の4/5の量、そして5回転させると相当蒸発量に相当する量の水蒸気がスチーム発生装置20から解凍室11にスチーム管21を介して供給されることになる。
他方、既に説明したように、上述の実施形態で説明した解凍装置1、つまり試験例1から試験例3までで用いられる解凍装置1における解凍室11の内外を繋ぐ排気管71の外側の端部には弁72が存在している。
解凍室11内の気体の圧力を0kpaに保つ場合には、スチーム発生装置20から解凍室11への水蒸気の供給量の大小によらず、弁72は全開の状態とされる。それにより、解凍室11への水蒸気の供給量の大小によらず、解凍室11内の気体は容易に外部へ漏れ出して解凍室11内の気体の圧力は0kpaに保たれる。
大雑把にいうと、解凍室11から外部へ漏れ出す単位時間あたりの気体の量は、概ねスチーム発生装置20から解凍室11へ供給される水蒸気の量に一致する。したがって、スチーム管21が完全に閉じた状態(ハンドルを0回転させた状態)では解凍室11内の気体の流れは事実上0であるが、スチーム管21が完全に閉じた状態からハンドルを1回転させると解凍室11内には解凍室11内から解凍室11外へ解凍室11内の気体が流れ出すことに基づく気体の流れが生じ、その流れはハンドルを1回転させるごとに順に大きくなっていく。
解凍室11内の気体の圧力を3kpaに保つ場合には、解凍室11内の気体の圧力が3kpaとなるように弁72の開き具合を調整する。上述したように、ハンドルの回転のさせ方によって、スチーム発生装置20から解凍室11へ供給される水蒸気量は、0から相当蒸発量相当量まで変化する。
大雑把にいうと、解凍室11内の気体の圧力を3kpaに保つには、解凍室11内の気体の量を解凍室11内の気体を3kpaに保つに必要な量としつつ、スチーム発生装置20から解凍室11へ供給される水蒸気の量と、解凍室11の内部から外部へ排気される気体の量とを一致させることにより両者をバランスさせれば良い。弁72の開き具合をそのようなバランスを保てるような状態に調整することにより、スチーム発生装置20から解凍室11への水蒸気の供給量の大小によらず、解凍室11内の気体の圧力を3kpaに保つことができるようになる。
解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合においても、スチーム管21が完全に閉じた状態(ハンドルを0回転させた状態)では解凍室11内の気体の流れは事実上0であり、スチーム管21が完全に閉じた状態からハンドルを1回転させる毎に、解凍室11内の気体の流れは大きくなっていく。
以下に詳述する試験例1から試験例3の結果の説明において、「フロー0」から「フロー5」という文言が登場するが、それらはそれぞれ、ハンドルを0回転させた状態からハンドルを5回転させ、弁72を上述のように調整した状態をそれぞれ意味する。これは、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときも3kpaのときも同じである。
なお、試験例1から試験例3における各パンの水分量の測定は、クラムとクラストを、各パンにおける両者の存在比率に合わせて採取したものについて行ったので、パン全体の水分量を意味する。
【0037】
<試験例1>
試験例1ではバターロールを解凍した。試験例1で用いたバターロールは、山崎製パン株式会社が製造、販売するバターロール(ヤマザキバターロール12個入り、JANコード:4903110152934)とした。そのバターロールを個別にパック包装して水分蒸散対策を施してから冷凍することにより、解凍前の冷凍パンとした。冷凍後のバターロールの水分量は35%(35.00%)であった。そのため試験例1では、これには限られないが、解凍後のバターロールの水分量を解凍前のパンの水分量と同じ35%にすることを目標と設定した。つまり、解凍後のバターロールの許容できる水分量の下限は35%である。
その上で、冷凍パンであるバターロールを、解凍装置1で解凍した。
解凍時の条件は、解凍室11内の気体の圧力が0kpaである場合におけるフロー0からフロー5までの6種類と、解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合におけるフロー0からフロー3までの4種類との合計10種類とした。
試験結果を
図5に示す。
解凍室11内の気体の圧力が0kpaでフロー0のとき(「0kpaフロー0」のとき、以下も解凍室11内の気体の圧力とフローとを組み合わせて同様の表記を行う。)、解凍後のバターロールの水分量は34.41%であり、解凍前のバターロールの水分量である35%を0.59%下回った。
次いで、0kpaフロー1、0kpaフロー2、0kpaフロー3、0kpaフロー4、0kpaフロー5のときは、すべて目標の下限の35%を上回り、0kpaフロー1の35.61%から0kpaフロー5の37.72%まで、解凍室11内の気体の流れが増す毎に、解凍後のバターロールの水分量が増えていった。
着目すべきは0kpaフロー0と、0kpaフロー1の差である。両者の差は、上下に並んだ他の2つの差よりも有意に大きく、フロー1という解凍室11内の小さな気体の流れの存在ですら、解凍後のバターロールの水分量の増加に大きく寄与していることがわかった。
3kpaのデータはいずれも参考である。
3kpaフロー0のとき、解凍後のバターロールの水分量は34.76%であり、解凍前のバターロールの水分量である35%を0.24%下回った。次いで、3kpaフロー1、3kpaフロー2、3kpaフロー3のときは、すべて目標の下限の35%を上回り、3kpaフロー1の36.07%から3kpaフロー3の36.92%まで、解凍室11内の気体の流れが増す毎に、解凍後のバターロールの水分量が増えていった。ただし、解凍後のバターロールの水分は、同じフローのもの同士を比べると、0kpaのときよりも3kpaのときの方が総じて大きい。これは、解凍室11内の気体の圧力を高めると、解凍中のバターロールの内部に水蒸気がより多く入り込むということを示している。
解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合における解凍後のバターロールの水分量に関するフローに対する挙動はいずれも、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときに準じている。また、3kpaフロー0と、3kpaフロー1の差が上下に並んだ他の2つの差よりも有意に大きいという結果も、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときに準じている。3kpaフロー3(36.92%)のときよりも、0kpaフロー4(37.47%)、0kpaフロー5(37.72%)のときの方が、解凍後のバターロールに含まれる水分量は多い。これは、解凍室11内の気体の流れを十分に大きくすれば、解凍室11内の気体の圧力を常圧としていても、解凍後のバターロールに含まれる水分量を、解凍室11内を加圧したときと同じ程度にまで十分に大きくすることができる、ということを示している。また、同じフローの場合における解凍後のバターロールの水分量は、解凍室11内の気体の圧力が常圧である場合の方が、解凍室11内の気体に加圧を行った場合よりも小さい。これは、解凍後のバターロールの水分量が過大になり、食味が落ちたりクラストがべとついたりすることを抑制すると考えられる。
【0038】
<試験例2>
試験例2では食パンを解凍した。試験例2で用いた食パンは、フジパン株式会社が製造、株式会社ヨークがヨークマートにて販売する食パン(セブン・ザ・プライス食パン 8枚切り)であった。そして、その食パンを冷凍することにより、解凍前の冷凍パンとした。冷凍後の食パンの水分量は41%(41.00%)であった。そのため試験例2では、これには限られないが、解凍後の食パンの水分量を解凍前のパンの水分量と同じ41%にすることを目標と設定した。つまり、解凍後の食パンの許容できる水分量の下限は41%である。
その上で、冷凍パンである食パンを、解凍装置1で解凍した。
解凍時の条件は、試験例1の場合と同じく、解凍室11内の気体の圧力が0kpaである場合におけるフロー0からフロー5までの6種類と、解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合におけるフロー0からフロー3までの4種類との合計10種類とした。
試験結果を
図6に示す。
0kpaフロー0のとき、解凍後の食パンの水分量は40.30%であり、解凍前の食パンの水分量である41%を0.70%下回った。
次いで、0kpaフロー1、0kpaフロー2、0kpaフロー3、0kpaフロー4、0kpaフロー5のときは、すべて目標の下限の41%を上回り、0kpaフロー1の41.77%から0kpaフロー5の43.76%まで、解凍室11内の気体の流れが増す毎に、解凍後の食パンの水分量が増えていった。
着目すべきは0kpaフロー0と、0kpaフロー1の差である。両者の差は、上下に並んだ他の2つの差よりも有意に大きく、フロー1という解凍室11内の小さな気体の流れの存在ですら、解凍後の食パンの水分量の増加に大きく寄与していることがわかった。
試験例2でも3kpaのデータはいずれも参考である。
3kpaフロー0のとき、解凍後の食パンの水分量は41.09%であり、解凍前の食パンの水分量である41%を0.09%上回った。このように、フローがなくても、パンの種類によっては、解凍室11内の気体に加圧を行うことにより、解凍後のパンの水分量を解凍前の冷凍パンの水分量よりも大きくすることができる場合がある。ただし、既に述べたようにこれはパンの種類によって生じる現象であり、スライスされた食パンは露出するクラムの面積が大きいため、他のパンに比べて水蒸気が内部に入り込みやいから上述の現象が生じると考えられる。
次いで、3kpaフロー1、3kpaフロー2、3kpaフロー3のときも、すべて目標の下限の41%を上回り、3kpaフロー1の42.16%から3kpaフロー3の44.17%まで、解凍室11内の気体の流れが増す毎に、解凍後の食パンの水分量が増えていった。ただし、解凍後の食パンの水分は、同じフローのもの同士を比べると、0kpaのときよりも3kpaのときの方が総じて大きい。これは、解凍室11内の気体の圧力を高めると、解凍中の食パンの内部に水蒸気がより多く入り込むということを示している。
解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合における解凍後の食パンの水分量に関するフローに対する挙動はいずれも、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときに準じている。また、3kpaフロー0と、3kpaフロー1の差が上下に並んだ他の2つの差よりも有意に大きいという結果も、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときに準じている。3kpaフロー1(42.16%)のときよりも、0kpaフロー2(42.63%)から0kpaフロー5(43.76%)のときの方が、解凍後の食パンに含まれる水分量は多い。これは、解凍室11内の気体の流れを十分に大きくすれば、解凍室11内の気体の圧力を常圧としていても、解凍後の食パンに含まれる水分量を、解凍室11内を加圧したときに得られる水分量のある程度の大きさまで大きくすることができる、ということを示している。また、同じフローの場合における解凍後の食パンの水分量は、解凍室11内の気体の圧力が常圧である場合の方が、解凍室11内の気体に加圧を行った場合よりも小さい。もっといえば、解凍室11内の気体の圧力が常圧である場合には、フローを大きくした場合における解凍後の食パンの水分量の増加は緩やかである。これは、解凍後の食パンの水分量が過大になり、食味が落ちたり表面がべとついたりすることを抑制すると考えられる。
【0039】
<試験例3>
試験例3ではフランスパンを解凍した。試験例3で用いたフランスパンは、株式会社タカキベーカリーが製造、販売するフランスパン(商品名:石窯ミニフランス(8))とした。そのフランスパンを冷凍することにより、解凍前の冷凍パンとした。冷凍後のフランスパンの水分量は37%(37.00%)であった。そのため試験例3では、これには限られないが、解凍後のフランスパンの水分量を解凍前のパンの水分量と同じ37%にすることを目標と設定した。つまり、解凍後のフランスパンの許容できる水分量の下限は37%である。
その上で、冷凍パンであるフランスパンを、解凍装置1で解凍した。
解凍時の条件は、解凍室11内の気体の圧力が0kpaである場合におけるフロー0からフロー5までの6種類と、解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合におけるフロー0からフロー3までの4種類との合計10種類とした。
試験結果を
図7に示す。
0kpaフロー0のとき、解凍後のフランスパンの水分量は36.67%であり、解凍前のフランスパンの水分量である37%を0.33%下回った。
次いで、0kpaフロー1、0kpaフロー2、0kpaフロー3、0kpaフロー4、0kpaフロー5のときは、すべて目標の下限の37%を上回り、0kpaフロー1の37.05%から0kpaフロー5の39.20%まで、解凍室11内の気体の流れが増す毎に、解凍後のフランスパンの水分量が増えていった。
試験例3では、試験例1、2とは異なり、0kpaフロー0と0kpaフロー1のときの解凍後のフランスパンの水分量の差よりも、0kpaフロー1と0kpaフロー2のときの解凍後のフランスパンの水分量の差の方が大きくなった。この他のパンとの違いはクラストの厚みと乾燥度に関係するものと考えられる。
しかしながら、それよりもフローを大きくした場合における解凍後のフランスパンの水分量の伸びは、抑制的である。これから見て、少なくともフロー2という解凍室11内の小さな気体の流れの存在ですら、解凍後のフランスパンの水分量の増加に大きく寄与していることがわかった。
試験例3でも3kpaのデータはいずれも参考である。
3kpaフロー0のとき、解凍後のフランスパンの水分量は36.83%であり、解凍前のフランスパンの水分量である37%を0.17%下回った。次いで、3kpaフロー1、3kpaフロー2、3kpaフロー3のときは、すべて目標の下限の37%を上回り、3kpaフロー1の38.24%から3kpaフロー3の38.83%まで、解凍室11内の気体の流れが増す毎に、解凍後のフランスパンの水分量が増えていった。ただし、解凍後のフランスパンの水分は、同じフローのもの同士を比べると、0kpaのときよりも3kpaのときの方が総じて大きい。これは、解凍室11内の気体の圧力を高めると、解凍中のフランスパンの内部に水蒸気がより多く入り込むということを示している。
解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合における解凍後のフランスパンの水分量に関するフローに対する挙動は概ね、解凍室11内の気体の圧力が0kpaのときに準じている。ただし、解凍室11内の気体の圧力が0kpaであった場合には0kpaフロー1と0kpaフロー2の間にあった解凍後のフランスパンにおける水分量の上方向の飛躍が、解凍室11内の気体の圧力が3kpaである場合には、3kpaフロー0と3kpaフロー1の間に来ている。フランスパンはクラストの乾燥している層が厚いため、解凍室11内の気体を加圧した方がより水蒸気がクラムに入りやすく、水蒸気の流れの効果が強く出るためだと推測される。
3kpaフロー3(38.83%)のときよりも、0kpaフロー4(39.15%)、0kpaフロー5(39.20%)のときの方が、解凍後のフランスパンに含まれる水分量は多い。これは、解凍室11内の気体の流れを十分に大きくすれば、解凍室11内の気体の圧力を常圧としていても、解凍後のフランスパンに含まれる水分量を、解凍室11内を加圧したときと同じ程度にまで十分に大きくすることができる、ということを示している。また、同じフローの場合における解凍後のフランスパンの水分量は、解凍室11内の気体の圧力が常圧である場合の方が、解凍室11内の気体に加圧を行った場合よりも小さい。これは、解凍後のフランスパンの水分量が過大になり、食味が落ちたりクラストがべとついたり軟化したりすることを抑制すると考えられる。
【0040】
[試験例についてのまとめ]
3種類のパンについて概ね同様の結果が得られた。
パンの種類によらず、常圧の解凍室11内に気体の流れを作ることにより、解凍後のパンの水分量を解凍前の冷凍パンの水分量と略同一かそれ以上とすることができるということがわかった。試験例1から試験例3による3種類のパンのいずれにおいても、常圧の解凍室11内に気体の流れを作ることにより、解凍後のパンの水分量は、解凍前の冷凍パンの水分量を上回った。
フロー1、フロー2という比較的弱いものであっても、解凍室11内に気体の流れが存在すると気体の流れが無いときと比べて飛躍的に解凍後の冷凍パンの水分量が増えることがわかった。
また、常圧の解凍室11内に気体の流れを作ることによる解凍後のパンにおける水分量の増加は、解凍室11内に気体の流れを作り且つ解凍室11内の気体を加圧したときよりも抑制的になることがわかった。これは解凍後のパンの水分量を過剰にしないことに役立つと考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1 解凍装置
11 解凍室
20 スチーム発生装置
30 ヒータ
41 マグネトロン
42 導波管
50 制御装置
72 弁
【要約】
冷凍パンを焼きたてのパンに近い状態に戻すことができる技術を提供する。
解凍装置は、解凍室内に水蒸気を供給するスチーム発生装置と、解凍室内に入れられた冷凍パンに遠赤外線を照射するヒータと、解凍室内にマイクロ波を照射するマイクロ波照射装置と、を備える。冷凍パンを解凍するとき、スチーム発生装置と、ヒータと、マイクロ波照射装置をすべて例えば300秒間の加熱時間帯の全時間帯にわたって稼働させる。スチーム発生装置を稼働させるとき、解凍室内の気体を常圧とするとともに、解凍室内の気体を解凍室外に排出して、解凍室内に気体の流れを作る。