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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】地盤注入用固結材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/00 20060101AFI20230926BHJP
   C09K 17/12 20060101ALI20230926BHJP
   E02D 3/12 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C09K17/00 P
C09K17/12 P
E02D3/12 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017119795
(22)【出願日】2017-06-19
(65)【公開番号】P2019001957
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-06-15
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】合田 龍平
(72)【発明者】
【氏名】笹原 茂生
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】関根 裕
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-233192(JP,A)
【文献】特開昭60-231785(JP,A)
【文献】特開昭60-231786(JP,A)
【文献】特開2005-220547(JP,A)
【文献】特開2015-183391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K17/00-17/52
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO濃度が11質量%以上であり、
(2)Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であり、
(3)ゲル化時間が1時間以上である、
ことを特徴とする地盤注入用固結材。
【請求項2】
粘度が3.5mPa・s以下である、請求項1に記載の地盤注入用固結材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO濃度が11質量%以上であり、
(2)(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液と、を混合してC液を得る工程を有し、前記A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムは実質的に針状結晶を含有しない、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項4】
前記A液を調製する原料としての前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3~5であり、且つ、SiO濃度が10~30質量%である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記A液を調製する原料としての前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3.1~3.8であり、且つ、SiO濃度が20~30質量%である、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項3~5のいずれかに記載の製造方法において、前記C液を得る工程の後に、当該C液に珪酸ソーダ及び水を含有するD液を混合する工程を更に有する、中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤注入用固結材に関し、特に地盤注入時に地盤への浸透性が良好であり、また固結後に高強度を発揮する地盤注入用固結材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の液状化防止注入工事に有用な地盤注入用固結材としては、例えば、珪酸ソーダと酸成分を含有する地盤注入用固結材が知られている。珪酸ソーダ(水ガラス)としては、いわゆる5号珪酸ソーダ(SiO/NaOで表されるモル比が3.7程度)、3号珪酸ソーダ(SiO/NaOで表されるモル比が3.2程度)等が用いられている。また、地盤注入用固結材のSiO含有量を増加して強度を向上させるべく、水ガラスにコロイダルシリカを配合したものも知られている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、コロイダルシリカと水ガラスの混合物(アルカリ性シリカ溶液)に反応剤として硫酸、リン酸、塩化アルミニウム等を添加することにより得られるグラウト(地盤注入用固結材)が記載されている。特に[0029]段落には、「例えば、アルカリ性シリカ溶液に酸性反応剤を添加して該溶液を酸性~中性領域に調整して所定のゲル化時間(ゲルタイム)を有するグラウトとすることができる。」と記載されている。
【0004】
しかしながら、上記従来の地盤注入用固結材には次のような問題がある。即ち、従来の地盤注入用固結材はSiO含有量を増加するために水ガラスにコロイダルシリカを混合する場合があるが、コロイダルシリカが混合されることにより地盤注入時に地盤への浸透性が十分でない。特に密な地盤又は粘土質の地盤への浸透は困難である。
【0005】
地盤への浸透性を向上させるには、例えば、コロイダルシリカを使用せず、珪酸ソーダの含有量を多くすることによりSiO含有量を確保することが提案できるが、珪酸ソーダの含有量を多くするとゲル化時間が短くなるため、地盤注入用固結材の調製自体が困難であるという問題がある。
【0006】
よって、これらの問題を改善した地盤注入用固結材の開発が望まれており、具体的には、SiO含有量が11質量%以上と多いにもかかわらず、部分ゲルの発生が抑制されていて調製が容易であり、ゲル化時間が長く確保されており、しかも地盤への浸透性が良好な地盤注入用固結材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-3047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SiO含有量が11質量%以上と多いにもかかわらず、部分ゲルの発生が抑制されていて調製が容易であり、ゲル化時間が長く確保されており、しかも地盤への浸透性が良好な地盤注入用固結材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する特定の組成物からなる地盤注入用固結材が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の地盤注入用固結材及びその製造方法に関する。
1.珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO濃度が11質量%以上であり、
(2)Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であり、
(3)ゲル化時間が1時間以上である、
ことを特徴とする地盤注入用固結材。
2.粘度が3.5mPa・s以下である、上記項1に記載の地盤注入用固結材。
3.上記項1又は2に記載する地盤注入用固結材の製造方法であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO濃度が11質量%以上であり、
(2)(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液と、を混合してC液を得る工程を有し、前記A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムは実質的に針状結晶を含有しない、
ことを特徴とする製造方法。
4.前記A液を調製する原料としての前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3~5であり、且つ、SiO濃度が10~30質量%である、上記項3に記載の製造方法。
5.前記A液を調製する原料としての前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3.1~3.8であり、且つ、SiO濃度が20~30質量%である、上記項3又は4に記載の製造方法。
6.上記項3~5のいずれかに記載の製造方法において、前記C液を得る工程の後に、当該C液に珪酸ソーダ及び水を含有するD液を混合する工程を更に有する、中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の地盤注入用固結材は、(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液とを混合してC液を得ることにより調製される。この調製方法は、添加剤である水酸化マグネシウムの作用によりA液とB液とを混合した際のゲル化時間が長く確保されており、最終的な固結材のSiO濃度が11質量%以上と高濃度であっても部分ゲルの発生が抑制されていて調製が容易であり、しかも地盤(特に密な地盤や粘土質の地盤)への浸透性が良好である。また、SiO濃度が11質量%以上であるため固結後の強度も優れている。なお、部分ゲルの発生が抑制されていることは、地盤注入用固結材中のSiを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であることから把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1、比較例1~2で作製した3種の地盤注入用固結材のSiO濃度と各ゲルタイムとの関係を示すグラフである。10%ブランクは比較例1、12%ブランクは比較例2を示す。
図2】実施例1、比較例1~2で作製した3種の地盤注入用固結材を用いて試験例1で作製した3種の固結体の一軸圧縮強さ(7日、28日)を示すグラフである。10%ブランクは比較例1、12%ブランクは比較例2を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の地盤注入用固結材について詳細に説明する。
【0014】
本発明の地盤注入用固結材
本発明の地盤注入用固結材は、珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO濃度が11質量%以上であり、
(2)Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であり、
(3)ゲル化時間が1時間以上である、
ことを特徴とする。
【0015】
上記特徴を有する本発明の地盤注入用固結材は、(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液とを混合してC液を得ることにより調製される。
【0016】
この調製方法は、添加剤である水酸化マグネシウムの作用によりA液とB液とを混合した際のゲル化時間が長く確保されており、最終的な固結材のSiO濃度が11質量%以上と高濃度であっても部分ゲルの発生が抑制されていて調製が容易であり、しかも地盤(特に密な地盤や粘土質の地盤)への浸透性が良好である。また、SiO濃度が11質量%以上であるため固結後の強度も優れている。
【0017】
本発明の地盤注入用固結材は、(i)珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び水を含有するA液と、(ii)酸成分及び水を含有し且つ珪酸ソーダを含有しないB液とを混合してC液を得ることにより調製される。
【0018】
A液を調製する原料としての珪酸ソーダとしては限定されず、市販品やそれに水を加えて希釈した希釈溶液を使用できる。
【0019】
珪酸ソーダのモル比(SiO/NaO)は限定されないが、3~5程度が好ましく、汎用の珪酸ソーダが使えるため、3.1~3.8程度がより好ましい。
【0020】
珪酸ソーダに含まれるシリカ濃度(SiO濃度)としては、10~30質量%程度が好ましく、20~30質量%程度がより好ましい。
【0021】
珪酸ソーダとしては、一般に1号珪酸ソーダ~5号珪酸ソーダが知られているが、その中でも3号珪酸ソーダ~5号珪酸ソーダが好ましく、特に5号珪酸ソーダが好ましい。5号珪酸ソーダを用いることにより、部分ゲルの発生をより抑制することができ、得られる地盤注入用固結材の固結後の強度向上及び収縮抑制の効果が得られ易い。5号珪酸ソーダは、モル比が3.7、SiO濃度が25.6質量%であり、モル比が3.5~3.8、SiO濃度が24~30質量%の珪酸ソーダを用いる場合には、5号珪酸ソーダと同様の良好な効果が得られ易い。
【0022】
A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムとしては限定的ではないが、地盤注入用固結材の製品品質の観点からは平均粒子径が300~1000μmのものが好ましく、特に500~850μmのものがより好ましい。なお、本明細書における水酸化マグネシウムの平均粒子径は、光学顕微鏡を用いた2点間距離測定により測定した値である。
【0023】
A液を調製する原料としての水酸化マグネシウムは市販品を用いることができる。なお、本発明では、水酸化マグネシウムは球状結晶から構成されていることが好ましく、針状結晶は含まれていないことが好ましい。針状結晶が含まれる場合には、水酸化マグネシウムのA液中での溶解性に影響を及ぼす可能性がある。よって、針状結晶が含まれる場合には、光学顕微鏡で水酸化マグネシウム粒子200個を観察した際に針状結晶の個数は10個以下であることが好ましい。
【0024】
水酸化マグネシウムはA液とB液とを混合した際のゲル化時間の短縮を抑制することができるため、水酸化マグネシウムの添加により、部分ゲルの発生を抑制し、SiO濃度が11質量%以上である、ゲル化時間が1時間以上の地盤注入用固結材が得られる。
【0025】
A液に含まれる珪酸ソーダの含有量は限定的ではないが、A液中のSiO濃度は11~15質量%程度が好ましく、12~14質量%程度がより好ましい。
【0026】
また、A液に含まれる水酸化マグネシウムの含有量は限定的ではないが、A液中の濃度は0.7質量%程度以上が好ましく、0.7~1.0質量%程度がより好ましい。
【0027】
A液は、珪酸ソーダ、上記水酸化マグネシウム及び水を含有すれば良いが、実質的には当該3成分のみから構成されていることが好ましい。その他、本発明の効果を損なわない範囲で従来から地盤注入用固結材の分野で公知の添加剤を添加することは可能である。
【0028】
B液に含まれる酸成分としては、限定されないが、硫酸及び/又はリン酸が好ましい。これらの酸は複数種類を混合して使用することもできる。これらの酸は、酸濃度が50~80質量%の市販の酸溶液がそのまま使用できる。また、B液中の酸濃度としては、40質量%程度以上が好ましく、40~80質量%程度がより好ましい。
【0029】
B液には珪酸ソーダは含有されず、B液は実質的には酸成分及び水の2成分から構成されていることが好ましい。その他、本発明の効果を損なわない範囲で従来から地盤注入用固結材の分野で公知の添加剤を添加することは可能である。
【0030】
A液とB液とを混合することにより得られる本発明の地盤注入用固結材(C液)における酸成分及び水の含有量は、地盤注入用固結材の所望のSiO含有量、pH及びゲルタイムに応じて適宜設定することができる。
【0031】
本発明の地盤注入用固結材のSiO含有量は11質量%以上であり、12質量%以上が好ましく、上限値は13質量%程度である。また、pHとゲル化時間は関連しており、本発明の地盤注入用固結材は、ゲル化時間が1時間以上(緩結型)であって、pHは4~8程度であることが好ましい。なお、緩結型の固結材のゲル化時間の上限値としては24時間程度である。よって、地盤注入用固結材における水の含有量はSiO含有量の調整の点で設定し、酸成分の含有量はpH及びゲルタイムの調整の点で設定すればよい。
【0032】
A液とB液との混合方法は限定されないが、例えば、調製用容器にB液を入れておき、当該B液を撹拌しながらA液を滴下することにより各成分を混合することが好ましい。このような混合方法を採用することにより、部分ゲルの発生を抑制しながら本発明の地盤注入用固結材を効率的に調製することができるとともに、酸成分の供給による調製用容器の腐食等の発生を効果的に抑制することができる。
【0033】
本発明の地盤注入用固結材は、原料としてコロイダルシリカを用いる必要がない。通常、地盤注入用固結材に用いられるコロイダルシリカに含まれるシリカ(SiO)の平均粒子径は5~30nmであり、従来この大きな平均粒子径が地盤への浸透性を不十分とする原因になっていたが、本発明ではコロイダルシリカを用いる必要がないため地盤注入時に地盤への浸透性が良好である。このような本発明の地盤注入用固結材の粘度は限定的ではないが、3.5mPa・s以下が好ましい。
【0034】
上記工程により得られる本発明の地盤注入用固結材は、珪酸ソーダ、水酸化マグネシウム及び酸成分を含有する地盤注入用固結材であって、
(1)前記地盤注入用固結材は、SiO濃度が11質量%以上であり、
(2)Siを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であり、
(3)ゲル化時間が1時間以上である。
【0035】
ここで、地盤注入用固結材に含まれるSiを含有する固形分の平均粒子径が0.80nm以下であることは部分ゲルの発生が抑制(許容範囲の少量のゲルの発生が認められても地盤注入用固結材の実用性に影響はない)されていることを意味し、これは調製の容易性と地盤(特に密な地盤や粘土質の地盤)への良好な浸透性の効果をもたらす。
【0036】
本発明では、Siを含有する固形分の平均粒子径は、全自動水平型多目的X線回折装置(株式会社リガク製、製品名SmartLab)を用いて小角散乱を行い、次いで粒径・空孔径解析ソフトウェア(株式会社リガク製、製品名NANO-Solver)で球形解析することにより得られる値である。この平均粒子径は0.80nm以下であればゲルが実質的に認められず清澄であるか又は許容範囲の少量のゲルの発生が認められても地盤注入用固結材の実用性に影響はないことを意味する。この平均粒子径は0.80nm以下であればよいが、地盤への浸透性を考慮すると平均粒子径は小さい方が好ましく、測定可能な下限値としては0.10nm程度である。
【0037】
本発明では、地盤注入用固結材のゲル化時間は、室温下、500mlビーカーに地盤注入用固結材150ml及び38.4mm×φ8mm回転子を入れて、初速40rpmで回転させ、回転が停止した時間をゲル化時間とした。本発明では、ゲル化時間は1時間以上であればよいが、その中でも2~30時間が好ましく、3~20時間がより好ましい。
【0038】
本発明の地盤注入用固結材は、地盤の液状化防止注入工事、地盤補強工事等に広く利用することができる。特にコロイダルシリカを含有しない点で密な地盤及び粘土質地盤への浸透性も良好である上、SiO含有量は11質量%以上であり固結強度も優れている。
【0039】
中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材
上記A液とB液とを混合することにより得られる本発明の地盤注入用固結材(C液)は、ゲル化時間が1時間以上の緩結型である。当該C液に、更に珪酸ソーダ及び水を含有するD液を添加することにより、部分ゲルの発生を抑制しながら中結型(60秒以上1時間未満)又は瞬結型(60秒未満)の地盤注入用固結材をそれぞれ調製することができる。
【0040】
なお、D液は珪酸ソーダ及び水の2成分からなる混合物を基本組成とし、中結型の地盤注入用固結材を調製する際は、必要に応じて、基本組成に更に酸成分を含有して3成分からなる混合物を用いてもよい。瞬結型の地盤注入用固結材を調製する場合は、酸成分は含まずに2成分からなる基本組成を使用する。酸成分の有無及びその含有量は、中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材のゲル化時間及びシリカ濃度に応じて調整することができる。なお、珪酸ソーダ及び酸成分の説明は、上記と同じである。
【0041】
具体的には、最終的に中結型の地盤注入用固結材を得る場合には、D液中の珪酸ソーダ含有量は、SiO濃度として4~7質量%程度が好ましく、5~6質量%程度がより好ましい。D液中の酸濃度としては、0~2質量%程度の中で調整できる。また、最終的に得られる中結型の地盤注入用固結材としては、SiO濃度は6~10質量%程度)が好ましく、pHは3.4~5程度である。
【0042】
また、最終的に瞬結型の地盤注入用固結材を得る場合には、D液中の珪酸ソーダ含有量は、SiO濃度として2~5質量%程度が好ましく、3~4質量%程度がより好ましい。また、最終的に得られる瞬結型の地盤注入用固結材としては、SiO濃度は6~10質量%程度)が好ましく、pHは5~8程度である。
【0043】
上記の通り、一旦SiO含有量が11質量%以上の地盤注入用固結材(C液)を調製した後、そこに珪酸ソーダ及び水を含有し、必要に応じて更に酸成分を含有するD液を添加して中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材を調製することにより、必要成分を一度に混合して同組成の中結型又は瞬結型の地盤注入用固結材を調製する場合と比較して部分ゲルの発生を抑制しながら各地盤注入用固結材を調製することができる。
【実施例
【0044】
以下に実施例、比較例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0045】
実施例及び比較例では、下記材料を20℃の条件で使用した。
・5号珪酸ソーダ(富士化学株式会社製)
(SiO2:25.6質量%, Na2O:7.1質量%, モル比:3.7, 富士化学(株)製)
・3号珪酸ソーダ(富士化学株式会社製)
(SiO2:29.0質量%, Na2O:9.3質量%, モル比:3.2, 富士化学(株)製)
・78%硫酸(工業用)
・水酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)
但し、水酸化マグネシウムの平均粒子径は69.30nmであり、水酸化マグネシウムには実質的に針状結晶は含まれていなかった。
・水(工業用)
実施例1~2及び比較例1~3(地盤注入用固結材の調製)
下記表1に示すA液及びB液を用意し、B液を130rpmで撹拌しながらA液をポンプ流量9.05mL/secで滴下することにより混合し、実施例1~2及び比較例1~3の地盤注入用固結材を調製した。
【0046】
各地盤注入用固結材の特徴を表1に併せて示す。なお、ゲルタイムはカップ倒立法により測定した。本明細書における地盤注入用固結材の性状の評価基準は下記の通りである。
【0047】
○:ゲルが実質的に認められず清澄である
△:許容範囲の少量のゲルの発生が認められる(実用性あり)
×:多量のゲルの発生が認められる(実用性なし)
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果によれば、所定のA液とB液とを混合して得られる実施例1~2の地盤注入用固結材は、いずれもSiO濃度が11質量%以上であるが、ゲルの発生が認められないか又は許容範囲内のゲルの発生に留まっており、実用性がある。
【0050】
これに対して、水酸化マグネシウムを使用しない比較例2の地盤注入用固結材は、SiO濃度が12質量%では許容範囲を超える多量のゲルが生じたため、実用性がない。
【0051】
比較例3の地盤注入用固結材は、A液に水酸化マグネシウムを使用せず、且つ、5号珪酸ナトリウムをA液及びB液の両方に配合して調製したものであり、許容範囲を超える多量のゲルが生じたため、実用性がない。
【0052】
実施例3(瞬結型の地盤注入用固結材の調製)
実施例1で調製した地盤注入用固結材を200g用意し、そこに5号珪酸ナトリウム13.2g及び水90.0gからなる希釈5号珪酸ナトリウムを添加することにより瞬結型の地盤注入用固結材を調製した。
【0053】
得られた地盤注入用固結材の特徴は下記表2に示す通りである。
【0054】
実施例4(中結型の地盤注入用固結材の調製)
実施例1で調製した地盤注入用固結材を197.4g用意し、そこに78%硫酸2.6gを添加し、更にそこに5号珪酸ナトリウム25.9g及び水80.4gからなる希釈5号珪酸ナトリウムを添加することにより中結型の地盤注入用固結材を調製した。
【0055】
得られた地盤注入用固結材の特徴は下記表2に示す通りである。
【0056】
比較例4(中結型の地盤注入用固結材の調製)
5号珪酸ナトリウム119.84g及び水80.16gからなるA液と、78%硫酸16.2g及び水90.47gからなるB液とを混合する従来法(B液にA液を混合)によって、SiO濃度が10質量%の中結型の地盤注入用固結材を調製した。
【0057】
得られた地盤注入用固結材の特徴は下記表2に示す通りである。
【0058】
【表2】
【0059】
比較例4は従来法で調製した中結型の地盤注入用固結材であり、SiO濃度が10質量%,ゲルタイム20分の条件で性状が×であることが分かる。従来法で調製する限り、SiO濃度が10質量%においてゲルタイムが20分以下の条件はいずれも性状が×になることが分かっている。
【0060】
試験例1(固結体の作製及び一軸圧縮強さの測定)
実施例1、比較例1~2で作製した3種の地盤注入用固結材を用いて固結体(供試体)を作製し、一軸圧縮強度を測定した。具体的には、豊浦硅砂を用いてDr=50、φ=50mm、h=100mmで水中落下法により固結体を作製し、材令7日及び28日で一軸圧縮強さを測定した。
【0061】
結果を図2に示す。図2によれば、実施例1の地盤注入用固結材を用いて作製した固結体(以下、「実施例1の固結体」という。他も同様。)は、材令28日で目標値の800kN/mを達成した。この数値は、比較例1の固結体と比べて、材令7日では約42%、材令28日では約34%高い強度であった。
【0062】
なお、同じSiO濃度で比較すると、水酸化マグネシウムに含まれる添加物の影響と推測されるが、実施例1の固結体は比較例2の固結体と比べて強度はやや劣るが、材令7日では約16%低かった強度が、材令28日では約6%の低下に留まった。これは、水酸化マグネシウムを添加した実施例1の地盤注入用固結材のゲルタイムが長く、硬化までに時間を要するためと推測される。実施例1と比較例2の固結体を比較すると、材令28日以降ではほぼ遜色ない強度が得られている。
図1
図2