(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
D06M 13/224 20060101AFI20230926BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20230926BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20230926BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
D06M13/224
D06M13/17
D06M15/643
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2019130243
(22)【出願日】2019-07-12
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 基樹
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-021263(JP,A)
【文献】特開2010-053467(JP,A)
【文献】特開2013-091867(JP,A)
【文献】特開2011-042916(JP,A)
【文献】特開2005-089883(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024451(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族系化合物及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤であって、
前記炭素繊維前駆体用処理剤は、下記数1~数3において、0≦X1≦0.3、且つ0.1≦X2≦0.4、且つ0.2≦X3≦0.5を満たし、
前記芳香族系化合物が
、ビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイド0.1モル以上且つ2.5モル未満の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステル、及びビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイド2.5モル以上且つ6モル以下の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステルの組み合わせを含み、
前記非イオン界面活性剤が、有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミドに炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、及びポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記芳香族系化合物、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記芳香族系化合物の含有割合が5~90質量部であることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【数1】
【数2】
【数3】
(上記数1~数3において、
W1:前記炭素繊維前駆体用処理剤の付着量が1質量%である炭素繊維前駆体Aの1m当たりの質量、
W2:前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下200℃で30分間、単糸当たり0.12gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量、
W3:前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下220℃で1時間、単糸当たり0.15gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量、
W4:前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下240℃で2時間、単糸当たり0.15gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量。)
【請求項2】
更にシリコーンを含有する請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
前記芳香族系化合物、前記非イオン界面活性剤、及び前記シリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、前記芳香族系化合物の含有割合が5~95質量部である請求項2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により炭素繊維前駆体用処理剤から検出されるTi元素の濃度が200ppm以下であり、
イオンクロマトグラフ法により炭素繊維前駆体用処理剤から検出される硫酸イオンの濃度が200ppm以下であり、リン酸イオンの濃度が200ppm以下である請求項1~3のいずれか一項の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の強度を向上できる炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維は、例えばエポキシ樹脂等のマトリクス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。通常炭素繊維は、炭素繊維前駆体として、例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化処理工程、及び炭素化処理工程を経て製造される。炭素繊維前駆体には、炭素繊維の製造工程において生ずる繊維間の膠着又は融着を抑制するために、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される炭素繊維前駆体用処理剤が知られている。特許文献1は、ヒドロキシ安息香酸エステル、アミノ変性シリコーン、及びヒドロキシ安息香酸エステルと相溶し、空気雰囲気下での熱質量分析において300℃における残質量率R1が70~100質量%であり、100℃で液体である有機化合物を含有する炭素繊維前駆体アクリル繊維用油剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の炭素繊維前駆体用処理剤は、最終的に得られる炭素繊維の強度が未だ不十分であるという問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、炭素繊維の強度を向上できる炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、芳香族系化合物及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤を付着させた炭素繊維前駆体を所定条件下で焼成した場合の残存率を特定範囲に規定した炭素繊維前駆体用処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の炭素繊維前駆体用処理剤では、芳香族系化合物及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤であって、前記炭素繊維前駆体用処理剤は、下記数1~数3において、0≦X1≦0.3、且つ0.1≦X2≦0.4、且つ0.2≦X3≦0.5を満たし、
前記芳香族系化合物が、ビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイド0.1モル以上且つ2.5モル未満の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステル、及びビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイド2.5モル以上且つ6モル以下の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステルの組み合わせを含み、
前記非イオン界面活性剤が、有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミドに炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、及びポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記芳香族系化合物、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記芳香族系化合物の含有割合が5~90質量部であることを特徴とする。
【0008】
【0009】
【0010】
【数3】
(上記数1~数3において、
W1:前記炭素繊維前駆体用処理剤の付着量が1質量%である炭素繊維前駆体Aの1m当たりの質量、
W2:前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下200℃で30分間、単糸当たり0.12gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量、
W3:前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下220℃で1時間、単糸当たり0.15gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量、
W4:前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下240℃で2時間、単糸当たり0.15gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量。)
前記炭素繊維前駆体用処理剤は、更にシリコーンを含有することが好ましい。
【0011】
前記炭素繊維前駆体用処理剤は、前記芳香族系化合物、前記非イオン界面活性剤、及び前記シリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、前記芳香族系化合物の含有割合が5~95質量部であることが好ましい。
【0012】
前記炭素繊維前駆体用処理剤は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により炭素繊維前駆体用処理剤から検出されるTi元素の濃度が200ppm以下であり、イオンクロマトグラフ法により炭素繊維前駆体用処理剤から検出される硫酸イオンの濃度が200ppm以下であり、リン酸イオンの濃度が200ppm以下であることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の炭素繊維前駆体は、前記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素繊維の強度を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、芳香族系化合物及び非イオン界面活性剤を含有する。芳香族系化合物を構成する芳香族化合物としては、特に限定されないが、ベンゼン系芳香族化合物が好ましく、単環式化合物及び多環式化合物のいずれであってもよい。単環式化合物の具体例としては、例えば安息香酸等の芳香族モノカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。本発明において芳香族系化合物は、ビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイド0.1モル以上且つ2.5モル未満の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステル、及びビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイド2.5モル以上且つ6モル以下の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステルの組み合わせを含む構成が採用される。
【0016】
多環式化合物は、2つ以上の環が別々になっている構造の化合物であっても、縮合環化合物であってもよい。2つ以上の環が別々になっている構造の化合物の具体例としては、例えばビスフェノールA,AP,AF,B,BP,C,E,F,G,M,S,P,PH,TMC,Z等のビスフェノール等が挙げられる。これらの具体例の中でビスフェノールAが好ましい。
【0017】
本実施形態の処理剤に供される芳香族系化合物としては、上述した芳香族化合物にアルキレンオキサイドを付加した化合物、上述した芳香族化合物にアルキレンオキサイドを付加した化合物とカルボン酸との(ポリ)エステル化物、上述した芳香族モノカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル化合物が好ましい。かかる化合物を使用することにより、本発明の効果をより向上させる。
【0018】
芳香族化合物にアルキレンオキサイドを付加した化合物に供されるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。これらの中でエチレンオキサイドが好ましい。また、芳香族化合物1モルに対するアルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~50モル、より好ましくは1~20モル、さらに好ましくは2~10モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における芳香族化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0019】
芳香族化合物にアルキレンオキサイドを付加した化合物とカルボン酸との(ポリ)エステル化物に供されるカルボン酸としては、例えば脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。カルボン酸は、モノカルボン酸であっても、多価カルボン酸であってもよく、また、ヒドロキシ基を有してもよい。脂肪族カルボン酸の場合、飽和脂肪酸であっても不飽和脂肪酸であってもよく、また直鎖状であっても、分岐鎖を有してもよい。
【0020】
脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、例えばペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、オクチル酸、デカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソオクタデカン酸(イソステアリン酸)、ヒドロキシオクタデカン酸、12-ヒドロキシオクタデカン酸(12-ヒドロキシステアリン酸)、オクタデセン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸、ドコサン酸(ベヘニン酸)、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタドコサン酸、オクタコサン酸、リシノール酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0021】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、例えばコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0022】
芳香族カルボン酸の具体例としては、例えば安息香酸等の芳香族モノカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
芳香族モノカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル化合物を構成する芳香族モノカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸の具体例としては、上述したものを適宜採用することができる。芳香族モノカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル化合物を構成する脂肪族アルコールの具体例としては、例えばメチルアルコール、ブチルアルコール、オクチルアルコール、ノナノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セリルアルコール、イソブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、イソドデシルアルコール、イソヘキサデシルアルコール、イソステアリルアルコール、イソテトラコサニルアルコール、2-プロピルアルコール、12-エイコシルアルコール、ビニルアルコール、ブテニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、オレイルアルコール、エイコセニルアルコール、2-メチル-2-プロピレン-1-オール、6-エチル-2-ウンデセン-1-オール、2-オクテン-5-オール、15-ヘキサデセン-2-オール等の1価の脂肪族アルコールが挙げられる。芳香族モノカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族アルコールのエステル化合物の具体例としては、例えばジオクチルフタル酸、ジメチルテレフタル酸、ジメチルイソフタル酸、ジメチル-2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸と1価の脂肪族アルコールとのエステル化合物が挙げられる。
【0024】
上述した芳香族系化合物は、1種類の芳香族系化合物を単独で使用してもよいし、又は2種以上の芳香族系化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。
これらの芳香族系化合物の中で、ビスフェノールにアルキレンオキサイドを付加した化合物、及びビスフェノールにアルキレンオキサイドを付加した化合物とカルボン酸との(ポリ)エステル化物が好ましい。かかる化合物は、本発明の効果、特に紡糸集束性の効果をより向上させる。
【0025】
さらに、これらの芳香族系化合物の中でも、ビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイドを0.1モル以上且つ2.5モル未満の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステル、及びビスフェノールA1モルに対しアルキレンオキサイドを2.5モル以上且つ6モル以下の割合で付加させた化合物とカルボン酸とのエステルを併用することがより好ましい。かかる化合物を含むことにより、本発明の効果、特に平滑性をより向上させる。
【0026】
非イオン界面活性剤としては、公知のものが挙げられる。非イオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミドに炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、例えばポリオキシエチレンジラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリン酸エステルメチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイン酸ジエステル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテルメチルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンイソノニルエーテル、ポリオキシプロピレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル等のエーテル型非イオン界面活性剤、(2)ソルビタントリオレアート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノステアレート、グリセリンモノラウレラート等の多価アルコール部分エステル型非イオン界面活性剤、(3)ポリオキシアルキレンソルビタントリオレアート、ポリオキシアルキレンヤシ油、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油トリオクタノアート、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油のマレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、又はオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、(4)ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド型非イオン界面活性剤、(5)ポリオキシエチレンジエタノールアミンモノオレイルアミド、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤等が挙げられる。上述した非イオン界面活性剤は、1種類の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は2種以上の非イオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの非イオン界面活性剤の中で、本発明の効果に優れるためエーテル型非イオン界面活性剤が好ましい。本発明では、前記非イオン界面活性剤として、有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミドに炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、ポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤、及びポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン界面活性剤から選ばれる少なくとも1種を含む構成が採用される。
【0027】
本実施形態の処理剤において、前記芳香族系化合物、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記芳香族系化合物の含有割合は5~90質量部、好ましくは50~85質量部である。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上させる。
【0028】
本実施形態の処理剤は、更にシリコーンを含有することができる。このシリコーンを配合することにより、本発明の効果、特に炭素繊維の強度をより向上させる。シリコーンの具体例としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等が挙げられる。シリコーンは、1種類のシリコーンを単独で使用してもよいし、又は2種以上のシリコーンを適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、アミノ変性シリコーンが好ましい。
【0029】
アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは50mm2/s以上、より好ましくは100mm2/s以上である。アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは10000mm2/s以下、より好ましくは5000mm2/s以下である。
【0030】
本実施形態の処理剤において、前記芳香族系化合物、前記非イオン界面活性剤、及び前記シリコーンの含有割合は、特に限定されないが、前記芳香族系化合物、前記非イオン界面活性剤、及び前記シリコーンの含有割合の合計を100質量部とすると、前記芳香族系化合物の含有割合が好ましくは5~95質量部、より好ましくは15~70質量部である。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上させる。
【0031】
本実施形態の処理剤は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により検出されるTi元素の濃度が好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。また、処理剤は、イオンクロマトグラフ法により検出される硫酸イオンの濃度が好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。リン酸イオンの濃度は、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下である。処理剤中のTi元素、硫酸イオン、及びリン酸イオンの各濃度をかかる範囲に規定することにより、本発明の効果、特に繊維の融着を防止する効果を向上させる。なお、処理剤中のTi元素、硫酸イオン、及びリン酸イオンの各濃度は、溶媒を含まない不揮発分中の濃度を示す。
【0032】
本実施形態の処理剤は、下記数4~数6に示されるX1~X3が、0≦X1≦0.3、且つ0.1≦X2≦0.4、且つ0.2≦X3≦0.5の関係を満たすことが必要である。かかるX1~X3の各数値範囲に規定することにより、本発明の効果を向上させる。
【0033】
【0034】
【0035】
【数6】
上記数4~6中のW1は、前記処理剤の付着量が1質量%である炭素繊維前駆体Aの1m当たりの質量を示す。
【0036】
上記数4中のW2は、前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下200℃で30分間、単糸当たり0.12gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量を示す。より詳しくは、炭素繊維前駆体Aを常温から5℃/分の割合で昇温させ、200℃に到達してから30分間焼成したものである。
【0037】
上記数5中のW3は、前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下220℃で1時間、単糸当たり0.15gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量を示す。より詳しくは、炭素繊維前駆体Aを常温から5℃/分の割合で昇温させ、220℃に到達してから1時間焼成したものである。
【0038】
上記数6中のW4は、前記炭素繊維前駆体Aを空気雰囲気下240℃で2時間、単糸当たり0.15gの荷重で焼成した後の耐炎化繊維1m当たりの質量を示す。より詳しくは、炭素繊維前駆体Aを常温から5℃/分の割合で昇温させ、240℃に到達してから2時間焼成したものである。
【0039】
なお、上記X1~X3は、例えば、芳香族系化合物、非イオン界面活性剤、及びシリコーンの種類の組み合わせ、又は含有量を変化させることによって調整することができる。例えば、芳香族系化合物、非イオン界面活性剤、及びシリコーンを好ましい種類を選択したり、好ましい配合量範囲に規定することによって調整することができる。また、処理剤中の不純物の濃度を低減させることによって調整することができる。例えば、処理剤中のTi元素、硫酸イオン、及びリン酸イオンの濃度を上述した好ましい範囲に規定することによって調整することができる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維前駆体は、炭素繊維前駆体に第1実施形態の処理剤が付着している。
【0041】
本実施形態の炭素繊維前駆体を用いた炭素繊維の製造方法は、まず炭素繊維前駆体の原料繊維に上記の処理剤を付着させて炭素繊維前駆体を得た後、製糸する製糸工程が行われる。次に、その製糸工程で製造された炭素繊維前駆体を200~300℃、好ましくは230~270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300~2000℃、好ましくは300~1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程が行われる。
【0042】
製糸工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維に第1実施形態の処理剤を付着させて得られた炭素繊維前駆体を製糸する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。
付着処理工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維を紡糸した後、処理剤を付着させる工程である。つまり、付着処理工程で炭素繊維前駆体の原料繊維に処理剤を付着させる。またこの炭素繊維前駆体の原料繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気を用いた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーを用いた乾熱延伸法でもよい。
【0043】
炭素繊維前駆体の原料繊維は、例えばアクリル繊維等が挙げられる。アクリル繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。炭素繊維前駆体の単繊維繊度については、特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは0.1~2.0dTexである。また、炭素繊維前駆体の繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは1,000~96,000本である。
【0044】
処理剤は、製糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。また、延伸工程前の段階であればどの段階でも付着させてもよい。例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。製糸工程中、付着させる回数は特に限定されない。
【0045】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1~2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3~1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。第1実施形態の処理剤の付着方法としては公知の方法が適用でき、これには例えば、スプレー給油法、浸漬給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
【0046】
本実施形態の処理剤及び炭素繊維前駆体の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、最終的に得られる炭素繊維の強度を向上できる。また、最終的に得られる炭素繊維の融着を防止できる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性及び平滑性を向上できる。
【0047】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤として、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0049】
本実施例及び比較例で用いた芳香族系化合物を表1~4に示す。表1に記載の芳香族系化合物は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド2モル付加物と、カルボン酸とのエステルを示す。表2に記載の芳香族系化合物は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド3モル付加物と、カルボン酸とのエステルを示す。表3に記載の芳香族系化合物は、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を示す。表4に記載の芳香族系化合物は、ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド2~10モル付加した化合物2モルに、カルボン酸3モルでエステル化した化合物を示す。
【0050】
各芳香族系化合物を構成する芳香族化合物の種類とアルキレンオキサイドの種類、アルキレンオキサイドの付加モル数(モル比)、カルボン酸の種類は、表1~4の「芳香族化合物の種類」欄、「アルキレンオキサイドの種類」欄、「アルキレンオキサイドの付加モル数」欄、「カルボン酸の種類」欄に示すとおりである。
【0051】
【表1】
表1において、
A-1:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド2モル付加した化合物1モルに、オクチル酸2モルでエステル化した化合物、
A-2:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド0.2モル付加した化合物1モルに、オレイン酸2モルでエステル化した化合物、
A-3:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド2.2モル付加した化合物1モルに、ラウリン酸2モルでエステル化した化合物、
A-4:ビスフェノールA1モルにプロピレンオキサイド2モル付加した化合物1モルに、オクチル酸2モルでエステル化した化合物、
を示す。
【0052】
【表2】
表2において、
B-1:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド3モル付加した化合物1モルに、オクチル酸2モルでエステル化した化合物、
B-2:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド2.6モル付加した化合物1モルに、オレイン酸2モルでエステル化した化合物、
B-3:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド5モル付加した化合物1モルに、ラウリン酸2モルでエステル化した化合物、
B-4:ビスフェノールA1モルにプロピレンオキサイド3モル付加した化合物1モルに、オクチル酸2モルでエステル化した化合物、
を示す。
【0053】
【表3】
表3において、
C-1:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド4モル付加した化合物、
C-2:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド10モル付加した化合物、
C-3:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド18モル付加した化合物、
C-4:ビスフェノールA1モルにプロピレンオキサイド4モル付加した化合物、
を示す。
【0054】
【表4】
表4において、
D-1:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド2モル付加した化合物2モルに、アジピン酸1モル及びラウリン酸2モルでエステル化した化合物、
D-2:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド4モル付加した化合物2モルに、アジピン酸1モル及びラウリン酸2モルでエステル化した化合物、
D-3:ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド10モル付加した化合物2モルに、アジピン酸1モル及びステアリン酸2モルでエステル化した化合物、
を示す。
【0055】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の調製)
実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤は、ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド2モル付加した化合物1モルにオクチル酸2モルでエステル化した化合物(A-1)を130g、ビスフェノールA1モルにエチレンオキサイド3モル付加した化合物1モルにオクチル酸2モルでエステル化した化合物(B-1)を20g、粘度2000mm2/s、アミノ当量2000のアミノ変性シリコーン(F-1)を500g、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル、プロピレンオキサイド6モル付加物(G-1)を250g、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物(G-2)を100gをビーカーに加えてよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が30%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の30%水性液を調製した。
【0056】
実施例2~8、参考例9~20及び比較例1~6の各炭素繊維前駆体用処理剤は、表5に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調整した。
各例の炭素繊維前駆体用処理剤中における芳香族系化合物の種類と含有量、シリコーンの種類と含有量、非イオン界面活性剤の種類と含有量、その他化合物の種類と含有量は、表5の「芳香族系化合物」欄、「シリコーン」欄、「非イオン界面活性剤」欄、「その他化合物」欄に示すとおりである。
【0057】
また、各例の炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分中におけるTi元素の濃度、硫酸イオンの濃度、リン酸イオンの濃度を表5の「Ti元素」欄、「硫酸イオン」欄、「リン酸イオン」欄に示す。なお、Ti元素の濃度は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定した。硫酸イオンの濃度及びリン酸イオンの濃度は、イオンクロマトグラフ法により測定した。
【0058】
また、各例の炭素繊維前駆体用処理剤において、上述した数4~6により求められるX1~X3の値を、表5の「X1、X2,X3」欄に示す。
【0059】
【表5】
表5において、
※1:揮発分を除いた炭素繊維用前駆体処理剤に占める芳香族系化合物の割合(質量比)、
E-1:ジオクチルフタレート、
F-1:粘度2000mm
2/s、アミノ当量2000のアミノ変性シリコーン、
F-2:粘度300mm
2/s、アミノ当量4000のアミノ変性シリコーン、
F-3:粘度600mm
2/s、アミノ当量1500のアミノ変性シリコーン、
F-4:粘度5000mm
2/s、アミノ当量8000のアミノ変性シリコーン、
G-1:テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル、プロピレンオキサイド6モル付加物、
G-2:ドデシルアルコールのエチレンオキサイド10モル付加物、
G-3:イソノニルアルコールのエチレンオキサイド8モル付加物、
H-1:1-エチル-2-(ヘプタデセニル)-4,5-ジハイドロ-3-(2-ハイドロキシエチル)-1H-イミダゾリニウムのエチル硫酸塩、
H-2:イソドデシルホスフェートのカリウム塩、
H-3:ペンタエリスリトールのテトラオレイルエステル、
H-4:平均粒子径0.5μmのシリコーンレジン微粒子、
を示す。
【0060】
試験区分2(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0061】
アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0062】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。これを試験区分2で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を浸漬法にて炭素繊維前駆体用処理剤の付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように給油した。その後、このアクリル繊維ストランドを130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に糸管に巻き取ることで炭素繊維前駆体を得た。この炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間耐炎化処理した後、連続して窒素雰囲気下で300~1,300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取った。
【0063】
炭素繊維の強度及び融着の他、紡糸工程における集束性(紡糸集束性)及び平滑性を以下に示されるように評価した。結果を表5の「強度」欄、「融着」欄、「紡糸集束性」欄、「平滑性」欄に示す。
【0064】
試験区分3(評価)
・強度
JIS R7606(2000)に準じて上記得られた炭素繊維の強度を測定した。なお、JIS R7606(2000)は、1996年に第1版として発行されたISO11566、Carbon fibre-Determination of the tensile properties the single-filament specimensと対応し、両者の技術的内容は同等である。
◎(優):4.0GPa以上。
○(良):3.5GPa以上且つ4.0GPa未満。
×(不良):3.5GPa未満。
【0065】
・融着
試験区分2で得られた炭素繊維から無作為に10か所選び、1cmの短繊維を切り出してその融着状態を目視で観察し、次の基準で評価した。
◎(優):融着無し。
○(良):融着が1ヶ所以上且つ5ヶ所未満。
×(不良):融着が5ヶ所以上。
【0066】
・紡糸集束性
試験区分2に示したアクリル繊維ストランドに炭素繊維前駆体用処理剤を給油後から炭素繊維前駆体として巻き取るまでの工程において、糸の絡まり具合を目視で観察して、以下の基準で紡糸集束性の評価を行った。
◎(優):糸割れが無くすべての糸がスムーズに工程を通過した。
○(良):若干の糸割れがあるが糸がスムーズに工程を通過した。
×(不良):単糸が加熱ローラーに巻き付いたり巻き取り前で糸割れが見られたりして製造に支障が見られた。
【0067】
・平滑性
試験区分で得られた炭素繊維用前駆体に50gの重りをぶら下げ、その反対側に張力計をセットし、重りと張力計の間に角度135℃で直径1cmのクロム梨地ピンを周速10m/minで回転させて擦過させた場合の張力を測定し、次の基準で評価した。
◎(優):60g未満。
○(良):60g以上且つ65g未満。
×(不良):65g以上。
【0068】
表5の各比較例に対する各実施例の評価結果からも明らかなように、本発明の処理剤によると、炭素繊維の強度を向上でき、また炭素繊維の融着を防止できる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性及び平滑性を向上できる。