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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】温度勾配を確立するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   F25B 21/00 20060101AFI20230926BHJP
   H05H 1/24 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
F25B21/00 Z
H05H1/24
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020562794
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 AT2019060036
(87)【国際公開番号】W WO2019148226
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】A50086/2018
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】520282122
【氏名又は名称】ベーム、ジェラルド
(73)【特許権者】
【識別番号】520282133
【氏名又は名称】ヒルシュマナー、ルドルフ
(73)【特許権者】
【識別番号】520282144
【氏名又は名称】マイアーホーファー、ジークフリート
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベーム、ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ヒルシュマナー、ルドルフ
(72)【発明者】
【氏名】マイアーホーファー、ジークフリート
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/030264(WO,A1)
【文献】特表2003-519769(JP,A)
【文献】特開2004-150741(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0068218(US,A1)
【文献】特開2007-216193(JP,A)
【文献】特表2009-525620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 21/00
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極に接続された第1境界面及び第2電極に接続された第2境界面を有するとともに、低イオン化エネルギを有するガスが配置される、少なくとも1つの作動空間を備え、
前記作動空間内の前記第1電極及び前記第2電極の間に電圧が印加されると、前記第1境界面及び前記第2境界面の間に、前記ガスをイオン化する電場が生成されることができ、
前記第1境界面及び前記第2境界面の間の距離は、5000nm未満であり、
前記第1境界面は、ピークを含む少なくとも1つのフィールド増強デバイスを有し、それにより、前記第1電極及び前記第2電極の間に電圧が印加されると、前記フィールド増強デバイスの領域内の前記電場のフィールド強度は、前記作動空間内の前記電場の平均フィールド強度より大きく、
前記第2境界面は、誘電体により形成される、
前記第1境界面及び前記第2境界面の間の前記少なくとも1つの作動空間に温度勾配を確立するための装置。
【請求項2】
前記フィールド増強デバイスにおける電界強度は、少なくとも10倍前記作動空間内の平均電界強度より大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記フィールド増強デバイスは、先端に向けて略円錐形に具現化され、30度未満のテーパ角を有する、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記フィールド増強デバイスの前記第2境界面からの距離は、前記第1境界面及び前記第2境界面の間の最大境界面間隔の90%未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記作動空間は、前記第1電極及び前記第2電極の間に電圧が印加されると、前記作動空間内に電場が得られるように具現化され、電場は、前記作動空間の50%超過に亘って本質的に一様である、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記作動空間は、電圧が印加されると、前記作動空間内に電場が形成されるように具現化され、電場は、前記少なくとも1つのフィールド増強デバイスから1000nm未満離間された領域の外部で本質的に一様である、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記フィールド増強デバイスは、前記ピークとして具現化され、前記ピークの先端にて、10nm未満の面積を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1境界面及び前記第2境界面は、本質的に平面に具現化される、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記ガスは、5000nm未満の自由工程長を有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記ガスは、アルゴン、キセノン、C60、C6060、ヨウ素、SF、又はUFを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記作動空間内に電子ガスが配置される、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及び/又はセシウムが、前記作動空間内にプラズマ状態で配置される、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記誘電体は、ガラスである、請求項1から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記第2境界面は、前記第2電極に誘電体を介してのみ接続される、請求項1から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
少なくとも1つの前記ピークは、前記第1電極に導電方式で接続される、請求項1から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
第1電極に接続された第1境界面及び第2電極に接続された第2境界面を有するとともに、低イオン化エネルギを有するガスが配置される、少なくとも1つの作動空間を備え、
前記作動空間内の前記第1電極及び前記第2電極の間に電圧が印加されると、前記第1境界面及び前記第2境界面の間に、前記ガスをイオン化する電場が生成されることができ、
前記第1境界面及び前記第2境界面の間の距離は、5000nm未満であり、
前記第1境界面は、ピークを含む少なくとも1つのフィールド増強デバイスを有し、それにより、前記第1電極及び前記第2電極の間に電圧が印加されると、前記フィールド増強デバイスの領域内の前記電場のフィールド強度は、前記作動空間内の前記電場の平均フィールド強度より大きく、
リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及び/又はセシウムが、前記作動空間内にプラズマ状態で配置される、
前記第1境界面及び前記第2境界面の間の前記少なくとも1つの作動空間に温度勾配を確立するための装置。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の装置を用いて、前記温度勾配からエネルギを得るために使用される方法であって、
前記ガスの分子は、前記第1境界面にて配置されるフィールド増強デバイスにて前記作動空間内でイオン化され、その結果、イオン化された前記分子は、加熱されながら前記電場によって前記第2境界面に移動され、第2境界面で前記分子がエネルギを放出し、その後、前記分子が、冷却されつつ前記第1境界面に移動され、その結果、前記分子は、前記第1境界面にてエネルギを吸収する、方法。
【請求項18】
前記方法は、本質的にエネルギを入力しないで行われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
電気エネルギを伝達するための方法であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置の前記作動空間に電圧が印加され、
その結果、プラズマ又は電子ガスが、電場を用いて前記作動空間内に形成され、その後、電気エネルギが前記プラズマによって又は前記電子ガスによって伝達される、方法。
【請求項20】
電気エネルギを伝達するための方法であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の装置の前記作動空間に電圧が印加され、
その結果、超伝導体が、電場を用いて前記作動空間内に形成され、その後、電気エネルギが前記超伝導体によって伝達される、方法。
【請求項21】
電流フローが、前記第1境界面及び前記第2境界面の間の垂直間隔に略垂直な平面上で生じる、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度勾配を確立するための装置に関し、装置は、第1電極に接続された第1境界面及び第2電極に接続された第2境界面を有する少なくとも1つの気密作動空間を備え、作動空間内の第1電極及び第2電極の間に電圧が印加されると、第1境界面及び第2境界面の間に電場が生成されることができ、第1境界面及び第2境界面の間の距離は、5000nm未満である。
【0002】
さらに、本発明は、作動ガスに電場が印加される作動空間内に位置する作動ガスを用いて、第1境界面及び第2境界面を有する気密作動空間を有する装置を用いて、温度勾配を確立する方法に関する。
【0003】
さらに、本発明は、電気エネルギを伝達するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
温度勾配を確立するための最初にあげたタイプの装置及び方法は、従来技術から既知となっている。文献AT512577A1は、特に、温度勾配を確立するための方法とともにこの目的の装置を開示し、作動ガスの分子又は原子は、作動空間内のアノード及びカソードの間で振動し、電場に抗した運動において、分子は、それらがアノードに到達する前に冷却する。従って、熱エネルギは、アノードにて分子に伝達され、その結果、分子はカソードの方向に動かされ、それらは電場を介してカソードへの経路上でエネルギを吸収し、それにより、分子はエネルギをカソードに接触する際にカソードに放出することができる。
【0005】
この方法を用いて、非常に小量のエネルギのみが、アノードとカソードとの間で伝達されることができるという欠点が分かっている。
【発明の概要】
【0006】
これが本発明により対処される。本発明の目的は、大量のエネルギが伝達されることができる又は大きな温度勾配が生成されることができる最初にあげたタイプの装置を明示することである。
【0007】
さらに、最初にあげたタイプの方法は、大量のエネルギが伝達されることができる又は大きな温度勾配が生成されることができるものとして明示されるべきである。
【0008】
これに加えて、特に電気エネルギの効果的伝達のための方法が明示されるべきである。
【0009】
第1の目的は、第1境界面は、少なくとも1つのフィールド増強デバイス、特にピークを含み、それにより、電極に電圧が印加されると、フィールド増強デバイスの領域内の電場のフィールド強度は、作動空間内の電場の平均フィールド強度より大きいとする最初にあげたタイプの装置を使用して実現される。
【0010】
本発明の文脈において、改善されたエネルギ伝達、従って、分子の自然な分子運動のみが利用されるだけでなく、むしろ作動空間内に位置するガスの分子がイオン化され、それにより、電場内のイオン化分子が電場により加速される場合に、大きな温度勾配の確立が実現されることができることが認識された。それにより作動ガスのイオン化が、通常、境界面を含むプレート間に配置されるキャビティとして具現化される、作動空間内の電場の平均フィールド強度よりフィールド強度が大きい、典型的にピークとして具現化されるフィールド増強デバイスにて生じる。
【0011】
従って、温度勾配を確立するために、フィールド増強デバイスにてイオン化された分子は、電場内のイオン化分子に作用する力によって第2境界面に向かって加速され、その第2境界面にて分子がエネルギを放出し、その結果、分子が第2境界面により反射される。次に、分子は、第1境界面の方向に移動し、分子は、電場に抗して運動している間にエネルギを失って、プロセス内で冷却し、それにより、それらは、第1境界面にてエネルギを吸収することができ、第1境界面は冷却する。分子はその後、電場によって第2境界面に向かって加速され、そこでそれらはエネルギを第2境界面に放出し、第2境界面は加熱される。これらの運動の1つにおいて、分子は統計的にフィールド増強デバイスの領域に再度入り、それにより、分子のイオン化が保持される。
【0012】
例えば、第1電極が、第2電極に対して正に帯電されると、電子は、フィールド増強デバイスの領域内の高いフィールド強度の結果として、フィールド増強デバイスにてフィールド増強デバイスの領域内に位置する分子から除去され、それにより、カチオンと呼ばれる正に帯電したイオンが以前に帯電していない分子から形成する。このイオン化分子は、電場により負に帯電した第2境界面に向かって加速され、そこの第2境界面で分子がエネルギを放出することができ、その結果、第1境界面に向かって反射され、そこで分子がエネルギを吸収する。このようにして、エネルギが第1境界面から第2境界面に伝達されることができ、第2境界面はより高い温度を有する又は第1境界面より温かく、それにより、温度勾配が第2境界面及び第1境界面の間に開発する。
【0013】
フィールド増強デバイスにおける電界強度が、少なくとも10倍、好ましくは100倍、特に1000倍だけ作動空間内の平均電界強度より大きいと、有益である。結果として、作動ガスの分子は、第1境界面のフィールド増強デバイス(複数可)にてイオン化されるだけで、本質的に一様な電場が作動空間の残りの部分内に行きわたる。
【0014】
フィールド増強デバイスは、原則として、フィールド増強デバイスの領域内のフィールド強度が、作動空間内の電場の平均フィールド強度より大きく実現されることができる任意の望ましい形を有することができる。典型的に、フィールド増強デバイスは、少なくとも端面にて略円錐形に具現化され、好ましくは30度未満のテーパ角を有する。従って、特に有益なフィールドの誇張が実現される。通常、フィールド増強デバイスは、有益なイオン化を実現するべく、第1境界面の平らな断面から始まるその全長に亘って略円錐形に具現化される。
【0015】
フィールド増強デバイスの第2境界面からの距離は、第1境界面及び第2境界面の間の最大境界面間隔の90%未満、好ましくは80%未満であることが効果的と分かっている。従って、作動ガスの有益なイオン化が実現される。従って、フィールド増強デバイスは、通常、第1境界面から作動空間に、境界面間隔の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%だけ突出する。フィールド増強デバイスが第1境界面から作動空間に、境界面間隔の90%未満だけ突出すると有益である。境界面間隔は、典型的に、5000nm未満であり、それにより、第1境界面及び第2境界面の間の分子又は原子の運動は、自然な分子運動の結果として生じることもできる。
【0016】
通常、複数のフィールド増強デバイスが、第1境界面に提供され、通常、第1境界面上に一様に分配される。次に、フィールド増強デバイスの間の距離は、典型的に、第1境界面及び第2境界面の間の境界面間隔の10%から500%である。
【0017】
作動空間は、電極間に電圧が印加さるれると、作動空間内に電場が得られるように具現化され、電場は、作動空間の50%超過、好ましくは作動空間の70%超過、特に作動空間の90%超過に亘って本質的に一様であることが好ましくは提供される。従って、作動空間内の有益な分子運動が得られる。
【0018】
小空間内の大量のエネルギの伝達が、電圧が印加されると、作動空間内に電場が形成されるように作動空間が具現化された特に簡単な方式で可能であり、電場は、少なくとも1つのフィールド増強デバイスから1000nm未満、特に500nm未満、好ましくは200nm未満離間された領域の外部で本質的に一様である。
【0019】
作動空間内で可能な限り同時に一様な電場で作動ガスをイオン化する場合、フィールド増強デバイスは、ピークとして具現化され、一端にて、10nm未満、特に5nm未満の面積を有することが有益である。フィールド増強デバイスのこの領域は、典型的に、第1境界面に略平行に配置される。結果として、有利なイオン化は、少数のフィールド増強デバイスでも実現されることができる。作動空間内のより少ないピークは、第1境界面及び第2境界面の間の有益なエネルギ伝達を実現するべく有利である。より多くのピークが使用されるほど、さらに良好に、作動ガスの分子がイオン化されることができる。従って、これに応じて具現化されたフィールド増強デバイスを用いて、好適なエネルギ伝達及びガスのイオン化が、同時に実現される。
【0020】
同時に高い効果を有する装置のコンパクトなインストール空間は、第1境界面及び第2境界面が本質的に平面に具現化されると、実現される。典型的に、この境界面から突出するフィールド増強デバイスを除いて、第1境界面は、完全に平面に具現化され、第2境界面は完全に平面に具現化される。
【0021】
効果的な方式において境界面間でエネルギを伝達することを可能にするべく、作動空間内にガスが配置され、ガスは、5000nm未満、特に1000nm未満、好ましくは略500nmの自由工程長を有することが有益であり。従って、境界面の間で運動している間、作動空間内の分子は、他の分子とまれにのみ衝突し、それにより、作動空間内で分子間のエネルギ交換は、非常に限られた拡がりでのみ可能であり、これにより、エネルギ移動は境界面間で生じ、作動ガスの原子又は分子間では生じない又は非常に限られた拡がりでのみ生じる。
【0022】
典型的に、低イオン化エネルギを有するガス、特にアルゴン、キセノン、C60、C6060、ヨウ素、SF又はUFは、作動空間内に配置される。それらがイオン化し易く、エネルギを伝達するのに有益な質量を有しているから、このタイプのガスは、効果的であると分かっている。
【0023】
通常、装置は、フィールド強度がピークに達するように具現化され、ピークは、厳密に使用される作動ガスをイオン化するために、作動空間内に可能な限りほとんど一様な電場、同時にガスのイオン化を実現するのに十分である。
【0024】
電子ガスは、作動空間内に配置されると有益である。これは、例えば、第1電極が第2電極に対して負に帯電され、それにより、電子がフィールド増強デバイスにて放出されると、実現されることができる。次に、電子ガスを構成するこれらの電子は、特に低抵抗で電気エネルギを伝達するのに使用されることができ、それにより、装置は、超伝導体として使用されることができる。フィールド増強デバイスの結果として、電子ガスは、個々の電子が第2境界面を通じて作動空間を出るときでも保持される。もちろん、次に、電流フローが、ある方向に、又は第1境界面及び第2境界面の間の垂直間隔に略90度又は垂直な平面上で生じる。
【0025】
容易にイオン化可能なガス、特にリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及び/又はセシウムが、作動空間内に、好ましくはプラズマ状態で配置されることが効果的であると分かっている。そのようなプラズマは、電気エネルギを伝達する又は特に低い電気抵抗を用いて電流を伝導するために使用されることもでき、それにより、装置は、100℃未満の温度、特に室温でも本発明に係る装置を用いて保持されることができる対応するプラズマを用いる超伝導体として使用されることができる。この場合では、電流フローは、境界面間の垂直間隔を横切る電流方向にも生じる。作動空間内に対応するプラズマを供給するために、第1電極が、第2電極に対して正に帯電され、それにより、典型的にピークとして具現化されるフィールド増強デバイスにて、分子、例えばセシウム分子は、電子をフィールド増強デバイスに放出することができ、それにより、セシウム分子は、正に帯電して電気エネルギを伝導するのに利用可能となることは有益である。従って、フィールド増強デバイスの結果として、作動空間内に配置される分子、特にセシウム分子の正帯電が生じ、それにより、次に電流を導電するために利用可能である。さらに、電子が第2境界面を通じて作動空間に入り、個々の分子を中和する場合でも、作動空間内の分子の正帯電、又はプラズマは、フィールド増強デバイスにより保持される。従って、プラズマの導電性は持続される。
【0026】
境界面間の垂直間隔を横断する方向に作動空間内で電気エネルギを伝達するのに好適なプラズマ又は電子ガスを維持するために、フィールド増強デバイスが、50nm未満、好ましくは20nm未満、特に略12nmのピーク半径を有するピークを含み、フィールド増強デバイスのピークは、第1境界面から1000nm未満、特に略450nm離間されることは特に有益である。次に、作動空間に印加される10ボルトの電圧は、対応するプラズマを供給するのに十分であることができ、作動空間に印加される1ボルトの電圧は、対応する電子ガスを供給するのに十分であることができる。作動空間内の中性粒子の分圧は、この目的のために、例えば、10-8bar~10-5barであることができる。この場合における中性粒子は、まだイオン化されていないこれらの分子を指す。作動空間内の総圧は、例えば10-3barであることができる。
【0027】
作動空間内に配置されたプラズマ又はそれに応じて形成された電子ガスにより、導電体は、境界面間の垂直間隔を横断する方向に引き起こされることができ、その導体では、電気コンダクタンスは、金属より略10000倍高い。従って、伝達損失は、10倍だけ低減されることができる。プラズマ又は電子ガスの維持はこの導電性を維持するのに必要なので、導電性は、電極間に電圧を印加することにより、容易にアクティブ化及び非アクティブ化されることができる。従って、フィールド増強デバイスにて出入りする電子により、リーク電流は、それぞれ、第2境界面によりオフセットされ、そうでなければ、リーク電流は、作動空間の中和又は作動空間の分子の中和につながるであろう、それにより、それ以上の導電性は存在しないであろう。従って、本発明に係る装置は、室温にて電気的に切り替え可能な超伝導体として使用されることができ、超伝導体を用いて、電気エネルギが、必要なら長距離に亘っても、特に低損失で伝達されることができる。
【0028】
特に低エネルギ消費で方法を実施可能にするべく、第2境界面は誘電体、特にガラスにより形成されることが有利である。結果として、第2電極及び作動空間の間での電子の拡散は、低減又は防止される。
【0029】
好適には、第2境界面は、誘電体を介してのみ第2電極に接続される。このようにして、典型的に平面状で金属製である電極間の電流フローは、本質的に回避され、電流フローは、イオン化分子を再度非帯電状態に配置することができる。従って、ピークでの分子のイオン化は、電子が誘電体を通じて第2電極から作動空間に拡散する、極性が逆の場合、電子は誘電体を通じて作動空間から第2電極に拡散する場合にのみ必要であり、分子は再度、非帯電状態に配置される。
【0030】
作動空間内の電場の平均フィールド強度に対してピークにおける電場の有利な増強を実現するために、少なくとも1つのフィールド増強デバイスが第1電極に導電方式で接続されることが有利である。結果として、作動ガスの簡単なイオン化を実現するべく、ピークの領域内の分子は、容易に電子を吸収する、又は第1境界面の極性に応じて、第2境界面内に電子を放出することができる。この目的に対して、第1境界面は、金属から一様に形成されることができ、金属を介して第1電極に接続されることができる。第1電極及び第2電極は、通常、平面状で、第1境界面及び第2境界面に略平行に具現化される。
【0031】
本発明によると、他の目的は、最初にあげたタイプの方法を用いて実現され、その方法では、作動ガスの分子は、第1境界面に配置されるフィールド増強デバイスにて作動空間内でイオン化され、その結果イオン化分子は、加熱されながら電場により第2境界面に移動され、その第2境界面にて分子がエネルギを放出し、その後、分子は冷却されながら第1境界面に動され、その結果、分子は第1境界面にてエネルギを吸収する。電場内のイオン化された分子又は原子の使用を通じて、第1境界面が第2境界面より低い温度を有する場合でも、相対的に大量のエネルギが、第1境界面及び第2境界面の間で伝達されることができる。従って、本発明に係る方法により、熱エネルギが、より冷たいボディから温かいボディに伝達されることができる。
【0032】
もちろん、分子及び原子という用語は、この場合では同義語として使用される。印加された電場の極性は、本発明に係る方法の効果と関連しない。第1境界面がアノードとして又はカソードとして作用するかどうか、及び第2境界面がカソード又はアノードとして作用するかどうかに関わらず、第1境界面及び第2境界面の間の温度勾配は、電極間に電圧が印加されると生成され、第2境界面は通常第1境界面より温くなる。
【0033】
典型的に、方法は、本質的にエネルギを入力しないで行われる。結果として、温度勾配の生成は、エネルギを入力することなく完全に人工的に可能であり、それにより、文献AT514110A1において説明されるように、本発明に係る方法は、例えば、冷却器を動作する、又は温度勾配から電気エネルギを得るために使用されることができる。
【0034】
本発明によると、他の目的は、電気エネルギを伝達するための方法により実現され、その方法では、フィールド増強デバイスが配置される第1境界面及び第2境界面を有する気密作動空間を含む装置の作動空間、特に、本発明に係る装置の作動空間に電圧が印加され、その結果、プラズマ又は電子ガスが、電場を用いて作動空間内に形成され、その後、電気エネルギがプラズマによって又は電子ガスによって一方向に沿って伝達される。
【0035】
本発明に係る装置を用いて、対応するプラズマ又は電子ガスは、作動空間内に、作動空間に印加される電圧の分極に応じて特に簡単な方式で形成されることができ、プラズマ又は電子ガスにより、電気エネルギは、特に低損失方式で伝達されることができることが示されている。
【0036】
通常、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及び/又はセシウムを含むプラズマは、境界面間の作動空間に印加される0.1ボルトから100ボルト、特に略10ボルトの電圧で、10-8barから10-5barの圧力及び20℃から100℃で使用され、それにより、超伝導体が室温にて得られる。もちろん、電流フローは、典型的に、境界面間の垂直間隔に略垂直に整列される平面上で、境界面間の垂直間隔を横切るプラズマ又は電子ガスを通じて特に低抵抗で発生する。従って、プラズマ又は電子ガスは、特に高い導電度で作動空間内に導電層を形成する。
【0037】
本発明に係る装置は、導電体として、特に超伝導体として使用されることが効果的と分かっている。典型的に、それにより、電流フローが、第1境界面及び第2境界面の間の垂直間隔に略垂直な平面上で生じる。
【0038】
本発明の追加機能、メリット、及び効果は、下に説明される代表的な実施形態から得られる。それにより言及される図面は、以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明に係る装置を通る断面の概略図をしめす。
図2】本発明に係る装置を通る断面の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、概略図において本発明に係る装置1を通る断面を示し、作動空間5は、第1境界面6により底部側、第2境界面7により上部側が境界付けられるよう視認できる。第1電極2が、導電方式で、典型的に金属から構成る第1境界面6に接続される。
【0041】
第1境界面6は、円錐形状のピーク8として具現化されるフィールド増強デバイスを含み、フィールド増強デバイスは、示されるように、第1境界面6上に一様に分配されるように、すなわち、示される断面に典型的に垂直になるようにも配置される。ピーク8は、有益なフィールド増強、従って、作動ガスの有利なイオン化を実現するべく30度未満のテーパ角を有する。
【0042】
第2境界面7は、電気的絶縁方式で例えばガラスのような誘電体を介して第2電極3に接続され、それにより、作動空間5内の第1電極2及び第2電極3の間に電圧が印加されると電場が生成され、ピーク8の領域内の電場が増強される。
【0043】
作動空間5内で、アルゴンなどのような容易にイオン化可能なガスが使用され、作動ガスの分子間の自由工程長が、第1境界面6及び第2境界面7の間の最大距離として画定される面境界間隙10より大きくなるような希釈方式で作動空間5内に配置される。この場合では、境界面間隔10は5000nm未満であり、それにより、自然な分子運動は、第1境界面6及び第2境界面7の間でエネルギを伝達するべく利用されることができる。もちろん、大きな温度勾配を確立するために、図1に概略的に示される複数の装置1が直列に接続されることができる。次に、これらは、平面状方式で具現化される電極2、3が配置される基板4、好ましくはシリコン基板を介して接続されることができる。
【0044】
従って、電圧が印加されると、作動ガスの分子は、ピーク8にてイオン化され、その電界強度は例えば10V/mであることができ、その結果、これらの分子は、電場により第2境界面7に向かって加速される。第2境界面7に向かう運動において、分子は、電場からエネルギを吸収し、結果としてそれらは加熱される。次に、第2境界面7上に分子が衝突すると、分子は、エネルギを第2境界面7に放出し、これにより第2境界面7が加熱される。同時に、分子は、第2境界面7で跳ね返り、自然な分子運動により作動空間5内を移動し、分子はすぐに又は後で第1境界面6に接触する。この接触の前に、分子は、電場に抗した運動によりエネルギを失い、それにより、分子は運動している間に冷却し、第1境界面6に到達すると、第2境界面7から跳ね返ったときより冷たくなる。従って、第1境界面6にて、分子は、第1境界面6からエネルギを吸収することができ、分子が加熱される。次に、分子は自然な分子運動との組み合わせにおいて電場により第2境界面7に向かって移動し、その第2境界面7にて、分子は、再度エネルギを放出する。
【0045】
第2電極3及び第2境界面7の間で、誘電体、特にガラスのような絶縁体9が配置され、それにより、第2電極3から作動空間5への電流フローが本質的に回避されることができる。多くの場合、誘電体を通じての電子の拡散は、完全には回避されることはできない。電子が第2電極3から作動空間5に拡散する場合、又は極性が逆の場合、電子は、第2境界面7を通じて作動空間5から第2電極3に拡散し、これは、作動ガスの分子を再度非帯電状態に配置させることができる。しかしながら、自然な分子運動により、このタイプの分子は、またすぐに又は後でピーク8の領域に接触し、それにより、電子の拡散の結果として放電される分子でも、プロセスを維持するべくイオン化される。従って、方法により、外部エネルギを入力しないで、熱エネルギをより冷たい第1境界面6から温い第2境界面7に伝達することが本質的に可能である。
【0046】
図2は、本発明に係る装置1を示す。装置1は、超伝導体として使用される。見ることができるように、それにより、導電層11は境界面6、7間に形成される。この導電層11は、プラズマ、特にリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及び/又は、セシウムを含むプラズマにより、10-8barから10-5barの分圧及び20℃から100℃で、又は電子ガスにより、形成されることができる。
【0047】
導電層11が電子ガスにより形成される場合、第1電極2又は第1境界面6は、典型的に第2境界面7に対して負に帯電される。次に、第2境界面7を通じて作動空間5を出る電子のリーク電流は、フィールド増強デバイスを出る電子によりオフセットされる。次に、フィールド増強デバイスは、典型的に50nm未満、特に略1nmから12nmのピーク半径を有するピーク8を含み、次に、第2境界面7及び第1境界面6の間の電圧は例えば略1ボルトである。導電層11が電子ガスとして具現化される場合、作動空間5は、典型的に、完全に排気される、又は作動空間5内に真空が存在する。
【0048】
導電層11がプラズマにより形成される場合、第1電極2又は第1境界面6、従ってフィールド増強デバイスも、典型的に第2境界面7に対して正に帯電される。次に、第2境界面7を通じて作動空間5に入る電子のリーク電流は、フィールド増強デバイスに入る電子によりオフセットされる。次に、フィールド増強デバイスは、典型的に50nm未満、特に略1nmから12nmのピーク半径を有するピーク8を含み、次に、第1境界面6及び第2境界面7の間の電圧は例えば略10ボルトである。導電層11がプラズマとして具現化される場合、典型的に、作動空間5において、略10-3barの総圧及び10-8barから10-5barの中性粒子の分圧がある。
【0049】
電力の伝達が、図2に示される実施形態において、およそ、第1境界面6及び第2境界面7の間の垂直間隔に略垂直に整列される平面上を、例えば図2に示される電流方向12に走る導電層11に沿って発生する。次に、本発明に係る装置1により形成される超伝導体は、導電層11に沿った任意の望ましい長さで、同時に図1及び図2に示されるイメージ平面に垂直な小さい延長部で具現化されることができ、それにより、長くて薄い導体が形成されることができる。このタイプの超伝導体は、境界面6、7間に電圧を印加することにより、容易にアクティブ化及び非アクティブ化されることができ、すでにおよそ20℃の室温で超伝導特性を示し、例えば高電圧エンジニアリング及びマイクロエレクトロニクスにおいて大きな負荷を伝達するため、また小さい負荷を伝達するための両方に使用されることができる。次に、導電性をアクティブ化及び非アクティブ化する能力により、装置1は、機械的に移動可能なコンポーネントを用いることなく電気回路遮断器として具現化されることもできる。
【0050】
もちろん、図面は、概略図として理解されるべきである。従って、第1境界面6は、第1電極2と同じ材料で作られることもでき、又は第1電極2とマージすることができる。従って、ピーク8は、第1電極2と同じ材料で作られることもできる。導電層11は、示されるように薄い層として具現化されることもできるが、第2境界面7まで及び/又は第1境界面6の近くに延びることもできる。
【0051】
本発明に係る装置1により、人工的な温度勾配の生成が、特にエネルギ節約方式で、小空間内で可能である。従来技術からの方法と比較すると、かなりの大量のエネルギが、それにより伝達されることができ、大きな温度勾配が生成されることができる。
図1
図2