(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】モータ装置およびフォークリフト
(51)【国際特許分類】
H02P 6/16 20160101AFI20230926BHJP
【FI】
H02P6/16
(21)【出願番号】P 2021099161
(22)【出願日】2021-06-15
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000232807
【氏名又は名称】三菱ロジスネクスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 雅之
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-110215(JP,A)
【文献】特開2011-239563(JP,A)
【文献】特開2019-122117(JP,A)
【文献】特開2012-196063(JP,A)
【文献】特開2006-238601(JP,A)
【文献】特開2001-103784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極性を有するロータおよびステータを含む同期モータと、
前記ロータのロータ位置を検出するセンサと、
前記ロータ位置に基づいて前記同期モータを制御する制御装置と、
を備えるモータ装置であって、
前記制御装置は、
高周波により前記ロータの電気角の推定値である推定電気角を算出する推定部と、
前記同期モータに対して直流励磁を行う直流励磁部と、
を備え、
前記直流励磁部は、
前記推定部で前記推定電気角が算出されると、前記直流励磁の電気角として、前記推定電気角に最も近い所定角刻みの角度で前記直流励磁を行い、
前記所定角は、前記直流励磁において励磁角と前記ロータの停止角とのずれ量がゼロになる
単一の刻み角度であ
り、
前記直流励磁部は、前記単一の刻み角度である前記所定角を記憶しており、前記推定電気角と前記所定角とに基づいて前記電気角を算出する
ことを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
前記直流励磁部は、
前記直流励磁の前記電気角を電気角Aとし、前記所定角を所定角Bとしたときに、
係数C=(推定電気角+0.5×所定角B)/所定角Bからなる第1式により前記係数Cを算出し、
前記係数Cの小数点以下を切り捨てた値を係数Dとし、
電気角A=係数D×所定角Bからなる第2式により前記電気角Aを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ装置。
【請求項3】
前記直流励磁部は、
前記直流励磁の前記電気角を電気角Aとし、前記所定角を所定角Bとしたときに、
係数C=推定電気角/所定角Bからなる第1式により前記係数Cを算出し、
前記係数Cの小数点以下を四捨五入した値を係数Dとし、
電気角A=係数D×所定角Bからなる第2式により前記電気角Aを算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ装置。
【請求項4】
突極性を有するロータおよびステータを含む同期モータと、
前記ロータのロータ位置を検出するセンサと、
前記ロータ位置に基づいて前記同期モータを制御する制御装置と、
を備えるモータ装置であって、
前記制御装置は、
高周波により前記ロータの電気角の推定値である推定電気角を算出する推定部と、
前記同期モータに対して直流励磁を行う直流励磁部と、
前記推定電気角ごとに、前記直流励磁において励磁角と前記ロータの停止角とのずれ量が最小になる前記直流励磁の電気角が関連付けられたデータを格納する記憶部と、
を備え、
前記データは、前記同期モータを用いて前記励磁角を0度から180度まで変化させた場合における前記ずれ量の変化を予め測定した測定結果に基づいて、前記ずれ量が最小になる前記電気角をデータ化したものであり、
前記直流励磁部は、
前記推定部で前記推定電気角が算出されると、
前記記憶部に格納された前記データに基づいて前記電気角を算出し、算出した前記電気角で前記直流励磁を行う
ことを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のモータ装置を備える
ことを特徴とするフォークリフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置およびフォークリフトに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリフォークリフト等のフォークリフトには、ロータおよびステータを含む同期モータが備えられており、同期モータを制御するためには、ステータに対するロータのロータ位置(ロータの電気角)を正確に検出する必要がある。ロータ位置の検出は、同期モータに取り付けられたレゾルバまたはエンコーダ等のセンサによって行われる。
【0003】
しかしながら、センサの取り付け位置のずれにより、センサで検出されるロータ位置と実際のロータ位置とにずれが生じる。そのずれを修正するために、位置合わせが行われる。例えば、センサがインクリメンタル型のロータリーエンコーダの場合、電源投入時に毎回位置合わせを行う必要がある。
【0004】
位置合わせでは、一般に直流励磁が行われ、直流励磁の電気角(励磁角)とセンサで検出したロータの電気角(停止角)とが一致するように、物理的にセンサの取り付け位置を修正するか、またはソフト的に電気角のずれ量を修正する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
直流励磁はロータの初期位置とは無関係に特定の電気角で行われるため、ロータの初期位置によってはロータの移動量が大きくなる。ロータの移動量が大きくなると、位置合わせ時間が長くなり、ロータの移動に伴う動作音が大きくなるという問題が生じる。例えば、
図4に示すように、Aの位置に磁束が発生するように直流励磁が行われた場合、ロータはほぼ動かないが、Bの位置に磁束が発生するように直流励磁が行われた場合、ロータは大きく(機械角で約45度)動き、上記の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、センサの位置合わせ時間を短縮し、位置合わせ時の動作音を低減することが可能なモータ装置およびフォークリフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係るモータ装置は、
突極性を有するロータおよびステータを含む同期モータと、
前記ロータのロータ位置を検出するセンサと、
前記ロータ位置に基づいて前記同期モータを制御する制御装置と、
を備えるモータ装置であって、
前記制御装置は、
高周波により前記ロータの電気角の推定値である推定電気角を算出する推定部と、
前記同期モータに対して直流励磁を行う直流励磁部と、
を備え、
前記直流励磁部は、
前記推定部で前記推定電気角が算出されると、前記直流励磁の電気角として、前記推定電気角に最も近い所定角刻みの角度で前記直流励磁を行い、
前記所定角は、前記直流励磁において励磁角と前記ロータの停止角とのずれ量がゼロになる刻み角度であることを特徴とする。
【0009】
前記モータ装置において、
前記直流励磁部は、
前記直流励磁の前記電気角を電気角Aとし、前記所定角を所定角Bとしたときに、
係数C=(推定電気角+0.5×所定角B)/所定角Bからなる第1式により係数Cを算出し、
前記係数Cの小数点以下を切り捨てた値を係数Dとし、
電気角A=係数D×所定角Bからなる第2式により前記電気角Aを算出するよう構成できる。
【0010】
前記モータ装置において、
前記直流励磁部は、
前記直流励磁の前記電気角を電気角Aとし、前記所定角を所定角Bとしたときに、
係数C=推定電気角/所定角Bからなる第1式により係数Cを算出し、
前記係数Cの小数点以下を四捨五入した値を係数Dとし、
電気角A=係数D×所定角Bからなる第2式により前記電気角Aを算出するよう構成できる。
【0011】
前記課題を解決するために、本発明に係るモータ装置は、
突極性を有するロータおよびステータを含む同期モータと、
前記ロータのロータ位置を検出するセンサと、
前記ロータ位置に基づいて前記同期モータを制御する制御装置と、
を備えるモータ装置であって、
前記制御装置は、
高周波により前記ロータの電気角の推定値である推定電気角を算出する推定部と、
前記同期モータに対して直流励磁を行う直流励磁部と、
前記推定電気角ごとに、前記直流励磁において励磁角と前記ロータの停止角とのずれ量が最小になる前記直流励磁の電気角が関連付けられたデータを格納する記憶部と、
を備え、
前記直流励磁部は、
前記推定部で前記推定電気角が算出されると、前記データに基づいて前記電気角を算出し、算出した前記電気角で前記直流励磁を行うことを特徴とする。
【0012】
前記課題を解決するために、本発明に係るフォークリフトは、
前記いずれかのモータ装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、センサの位置合わせ時間を短縮し、位置合わせ時の動作音を低減することが可能なモータ装置およびフォークリフトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るモータ装置のブロック図である。
【
図3】直流励磁の電気角(励磁角)に対するロータの電気角(停止角)のずれ量を示す図である。
【
図4】直流励磁の磁束とロータの移動量との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るモータ装置およびフォークリフトの実施形態について説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係るモータ装置1を示す。モータ装置1は、同期モータ10と、センサ20と、制御装置30とを備える。モータ装置1は、例えば、バッテリフォークリフト等のフォークリフトに搭載され、フォークリフトに荷役動作を行わせるための荷役装置および/またはフォークリフトを走行させるための走行装置の駆動源として用いられる。
【0017】
同期モータ10は、例えば、三相同期モータである。同期モータ10は、
図2に示すように、シャフト11を有するロータ12と、ロータ12を回転させるステータ13とを含む。ロータ12は、突極性を有する。ステータ13には、複数のスロット14が形成されており、スロット14内には図示しないコイルが配置されている。
【0018】
センサ20は、シャフト11に取り付けられ、ステータ13に対するロータ12のロータ位置(例えば、ロータ12の電気角)を検出するよう構成されている。センサ20として、例えば、インクリメンタル型のロータリーエンコーダを用いる。
【0019】
制御装置30は、駆動部31と、推定部32と、直流励磁部33とを含み、同期モータ10を制御するよう構成されている。
【0020】
駆動部31は、センサ20が検出したロータ位置に基づいて、同期モータ10を制御するよう構成されている。駆動部31は、例えば、同期モータ10を回転させるためのインバータ回路と、当該インバータ回路を制御するための制御回路とを含む。
【0021】
推定部32は、制御装置30に電源電圧が供給されると(例えば、フォークリフトの電源が投入されると)、センサ20の位置合わせを行うために、高周波によりロータ12の電気角の推定値である推定電気角を算出するよう構成されている。推定部32は、センサレス制御で一般的に用いられている高周波位置推定を実行する。
【0022】
例えば、突極性を有するロータ12は、ロータ位置(ロータ12の電気角)によってインダクタンスが異なるため、高周波電圧を印加した際にコイルに流れる高周波電流の振幅値が電気角によって変化する。d-q座標系においてd軸にのみ高周波電圧を印加した場合、高周波電圧を印加するd軸とロータ12の実際のd軸とが一致していると、q軸に高周波電流は流れないが、高周波電圧を印加するd軸とロータ12の実際のd軸とがずれていると、そのずれ量に応じた高周波電流がq軸に流れる。推定部32は、q軸の高周波電流がゼロとなる角度を探すことで、推定電気角を算出することができる。
【0023】
直流励磁部33は、センサ20の位置合わせとして、同期モータ10に対して直流励磁を行うよう構成されている。直流励磁部33は、推定部32で推定電気角が算出されると、直流励磁の電気角(励磁角)として、推定電気角に最も近い所定角刻みの角度で直流励磁を行う。所定角は、直流励磁の電気角(励磁角)とロータ12の電気角(停止角)とのずれ量がゼロになる電気角の刻み角度(本実施形態では、15度)である。なお、刻み角度同士にずれがある場合は、複数の刻み角度の平均値を所定角としてもよい。
【0024】
図3に、直流励磁の電気角(励磁角)に対するロータ12の電気角(停止角)のずれ量を示す。同図に示すように、直流励磁の電気角を0度から180度まで変化させた場合、ロータ12の電気角とのずれ量は所定の範囲(
図3では、-4度から+4度の範囲)で変化する。このずれ量は、同期モータ10の設計によって決まるため、設計が異なる同期モータ10ごとに予め測定しておく必要がある。この測定結果より、ずれ量がゼロになる電気角(本実施形態では、15度刻みの電気角)で直流励磁を行えば、直流励磁の電気角(励磁角)とロータ12の電気角(停止角)とを一致させることができる。
【0025】
直流励磁部33は、直流励磁を行う電気角(励磁角)をAとし、所定角をB(本実施形態では、B=15度)としたときに、係数C=(推定電気角+0.5×所定角B)/所定角Bからなる第1式により係数Cを算出し、係数Cの小数点以下を切り捨てた値を係数Dとし、電気角A=係数D×所定角Bからなる第2式により電気角Aを算出する。
【0026】
例えば、下記の表1に示すように、推定電気角が0度、7.4度の場合、電気角Aは0度となる。推定電気角が7.5度、15.0度、22.4度の場合、電気角Aは15度となる。推定電気角が22.5度の場合、電気角Aは30度となる。
【0027】
【0028】
結局、本実施形態に係るモータ装置1では、推定部32で推定電気角が算出されると、直流励磁部33が推定電気角に最も近い15度刻みの電気角で直流励磁を行うので、高精度にセンサ20の位置合わせを行うことができる。その結果、センサ20の位置合わせ時間を短縮し、位置合わせ時の動作音を低減することが可能となる。
【0029】
なお、直流励磁を行った後は、物理的にセンサ20の取り付け位置を修正してもよいし、または制御装置30(例えば、駆動部31の制御回路)でソフト的に電気角のずれ量を修正してもよい。
【0030】
以上、本発明に係るモータ装置およびフォークリフトの実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0031】
[変形例]
例えば、本発明の直流励磁部は、電気角を電気角Aとし、所定角を所定角Bとしたときに、係数C=推定電気角/所定角Bからなる第1式により係数Cを算出し、係数Cの小数点以下を四捨五入した値を係数Dとし、電気角A=係数D×所定角Bからなる第2式により電気角Aを算出してもよい。
【0032】
本発明の制御装置は、推定電気角ごとに、直流励磁において直流励磁の電気角(励磁角)とロータの電気角(停止角)とのずれ量が最小(例えば、ゼロ)になる電気角が関連付けられたデータ(例えば、テーブルデータ)を格納する記憶部を備えていてもよい。上記データは、例えば、直流励磁の電気角に対するロータの電気角のずれ量の測定結果(
図3参照)に基づいて、電気角のずれ量をデータ化することで生成できる。この場合、推定部で推定電気角が算出されると、直流励磁部は、上記データに基づいて電気角を算出し、算出した電気角で直流励磁を行う。この構成によれば、上記データを格納するための記憶部を確保する必要はあるが、上記実施形態と比較して、より高精度にセンサの位置合わせを行うことができる。
【0033】
本発明のセンサは、インクリメンタル型のロータリーエンコーダに限定されるものではなく、任意のセンサを用いることができる。例えば、レゾルバのように絶対角度を検出可能なセンサを用いる場合、センサの位置合わせは組み立て時の1回だけであるが、本発明によれば、その際の位置合わせ時間を短縮し、位置合わせ時の動作音を低減することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 モータ装置
10 同期モータ
11 シャフト
12 ロータ
13 ステータ
14 スロット
20 センサ
30 制御装置
31 駆動部
32 推定部
33 直流励磁部