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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ワイン用アルミニウム製容器
(51)【国際特許分類】
   B65D 8/16 20060101AFI20230926BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20230926BHJP
   B21D 51/44 20060101ALI20230926BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20230926BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20230926BHJP
   B32B 15/098 20060101ALI20230926BHJP
   C12G 1/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B65D8/16
B21D51/26 X
B21D51/44 C
B32B15/01 G
B32B15/09 A
B32B15/098
C12G1/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018017418
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019131275
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-19
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 諭
(72)【発明者】
【氏名】永井 信彦
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 千晶
(72)【発明者】
【氏名】竹治 仁詩
(72)【発明者】
【氏名】八百井 悦子
【合議体】
【審判長】藤原 直欣
【審判官】西本 浩司
【審判官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107093(JP,A)
【文献】特開2015-193782(JP,A)
【文献】特開2013-249376(JP,A)
【文献】特開2017-136815(JP,A)
【文献】特開2014-162539(JP,A)
【文献】特開2002-192614(JP,A)
【文献】特開昭62-52048(JP,A)
【文献】特開2006-62688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 8/16
B21D 51/26 - 51/44
B32B 15/01 - 15/098
B65D 25/14
C12G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム製缶体、及び該缶体の開口部を覆うアルミニウム製缶蓋とから成るワイン用アルミニウム製容器において、
前記アルミニウム製缶体の内面には、缶体の胴部において4~6μmの最低厚みを有するポリエステル樹脂被覆が形成されており、該ポリエステル樹脂被覆には亜硫酸を捕捉するための捕捉剤が配合されておらず、
前記アルミニウム製缶蓋の内面には、6μm以上の厚みのポリエステル/フェノール系塗料から成る塗膜が形成されており、前記アルミニウム製缶蓋が、ステイオンタブ式のイージーオープン缶蓋であることを特徴とするワイン用アルミニウム製容器。
【請求項2】
前記缶蓋の塗膜の厚みが、6~20μmの範囲にある請求項1記載のワイン用アルミニウム製容器。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂被覆が、エチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂から成る請求項1または2記載のワイン用アルミニウム製容器。
【請求項4】
前記ポリエステル/フェノール系塗料が、ポリエステル樹脂を主剤、レゾール型フェノール樹脂を硬化剤とする塗料組成物から形成されている請求項1~3の何れかに記載のワイン用アルミニウム製容器。
【請求項5】
前記缶体が、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板を、絞り加工、曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工により成形して成るシームレス缶である請求項1~4の何れかに記載のワイン用アルミニウム製容器。
【請求項6】
請求項1~の何れかに記載のワイン用アルミニウム製容器に、ワインを充填・密封して成ることを特徴とする容器詰めワイン。
【請求項7】
前記ワインが亜硫酸塩を含有する請求項記載の容器詰めワイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイン用アルミニウム製容器に関するものであり、より詳細には、酸化防止剤として亜硫酸塩を含有するワインを充填・密封した場合にも、容器の腐食や、ワインのフレーバーを損なうことが有効に抑制されたワイン用アルミニウム製容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ワインは酸化されやすく、酸化によりフレーバーが損なわれやすいことから、一般に酸素を透過しないガラス瓶に充填・密封されて保存・流通されている。その一方、ガラス瓶は重く、衝撃に弱いことから、ワインにおいても軽量で衝撃に強い容器に充填・密封されることが望まれている。
金属製容器はガラス瓶と同様にガスバリア性に優れていると共に、遮光性を有することから、ワインを金属製容器に充填・密封することも提案されている。しかしながら、一般にワインには酸化防止剤として亜硫酸塩が含有されており、この亜硫酸が金属に対する腐蝕性が高いことから、金属に腐食を生じてしまうと共に、金属との反応により発生する硫化水素により、ワインのフレーバーが損なわれるという問題があった。
【0003】
このような金属製容器の問題を解決するために、下記特許文献1には、缶内面側に亜硫酸と反応する捕酸剤として炭酸カルシウムが添加された樹脂層が形成されたワイン缶詰用金属缶が提案されている。また下記特許文献2には、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂及び酸化亜鉛を含有する缶胴及び缶蓋用の塗料樹脂組成物が提案されており、酸化亜鉛により亜硫酸系化合物を捕捉することにより、耐食性と内容物保持性を発揮できることが記載されている。特許文献3には、ワイン中の亜硫酸濃度を50ppm以下に低減することにより、金属缶の腐食やフレーバー劣化の生じないワイン缶詰が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-62688号公報
【文献】特開2012-31223号公報
【文献】特開平2-76565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1は樹脂層を透過した亜硫酸を樹脂層の接着剤層に含有させた炭酸カルシウムによって捕捉するものであるため、生産性や経済性の点において満足するものではなかった。
また上記特許文献2記載の塗料組成物を用いる場合には、金属缶の成形後に塗膜を形成する必要があり、生産性の点で未だ十分満足するものではないと共に、上記特許文献1と同様に、亜硫酸を捕捉するための捕捉剤が必要であることから、経済性の点においても満足するものではなかった。
上記特許文献3記載のワイン缶詰を用いる場合には、遊離亜硫酸濃度が50ppm以上のワインを充填できないという問題があった。
【0006】
従って本発明の目的は、亜硫酸を捕捉するための特別な捕捉剤を用いることなく、亜硫酸塩を含有するワインを充填・密封した場合であっても、容器の腐食の発生やワインのフレーバーを損なうことが有効に防止されたワイン用アルミニウム製容器を提供することである。
本発明の他の目的は、品質低下がなく、軽量で取扱い性にも優れた容器詰めワインを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、アルミニウム製缶体、及び該缶体の開口部を覆うアルミニウム製缶蓋とから成るワイン用アルミニウム製容器において、前記アルミニウム製缶体の内面には、缶体の胴部において4~6μmの最低厚みを有するポリエステル樹脂被覆が形成されており、該ポリエステル樹脂被覆には亜硫酸を捕捉するための捕捉剤が配合されておらず、前記アルミニウム製缶蓋の内面には、6μm以上の厚みのポリエステル/フェノール系塗料から成る塗膜が形成されており、前記アルミニウム製缶蓋が、ステイオンタブ式のイージーオープン缶蓋であることを特徴とするワイン用アルミニウム製容器が提供される。
本発明のワイン用アルミニウム製容器においては、
1.前記缶蓋の塗膜の厚みが、6~20μmの範囲にあること、
2.前記ポリエステル樹脂被覆が、エチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂から成ること、
3.前記ポリエステル/フェノール系塗料が、ポリエステル樹脂を主剤、レゾール型フェノール樹脂を硬化剤とする塗料組成物から形成されていること、
4.前記缶体が、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板を、絞り加工・曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工により成形して成るシームレス缶であること
好適である。
【0008】
本発明によればまた、上記ワイン用アルミニウム製容器に、ワインを充填・密封して成ることを特徴とする容器詰めワインが提供される。
本発明の容器詰めワインでは、亜硫酸塩を含有するワインが好適に充填・密封されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のワイン用アルミニウム製容器においては、特定の厚みのポリエステル樹脂フィルムから成る内面被覆を有するアルミニウム製缶体と、特定の厚みのポリエステル/フェノール系内面塗膜を有するアルミニウム製缶蓋とを組み合わせることにより、亜硫酸塩を含有するワインを充填・密封しても、亜硫酸がアルミニウム製缶体の樹脂被覆及びアルミニウム製缶蓋の塗膜を透過することが抑制されているため、長期に亘ってアルミニウムの腐食及びフレーバーの低下を有効に防止することが可能になる。
しかも亜硫酸を捕捉するための捕捉剤を配合する必要がないと共に、絞りしごき加工等の過酷な加工によっても樹脂被覆の密着不良を生じることなく、生産性や経済性にも優れており、軽量で破損のおそれがなく取扱い性に優れたワイン用アルミニウム製容器が提供できる。
またポリエステル樹脂被覆アルミニウム製缶体は、被覆からの有機成分の溶出がほとんどなく耐溶出性に優れていることから、亜硫酸と金属との反応による硫化水素の発生が抑制されていることと相俟って、ワインのフレーバーを損なうことがない。
【0010】
本発明のワイン用アルミニウム製容器の上述した効果は、後述する実施例の結果からも明らかである。すなわち、本発明で用いるアルミニウム製缶体を用いても、エポキシ/アクリル系塗膜を有するアルミニウム製缶蓋を組み合わせて用いた場合には、塗膜厚みが上記範囲にある場合であっても、缶蓋に腐食を生じ(比較例1及び2)、ポリエステル樹脂被覆の厚みが上記範囲よりも薄い場合には、缶体の腐食は生じないが、ワインのフレーバーが低下し(比較例3)、缶体及び缶蓋共に、エポキシ/アクリル系塗膜を形成した場合には、ワインのフレーバーが大きく低下すると共に、缶体及び缶蓋の両方に腐食を生じ(比較例4)、本発明で用いるアルミニウム製缶蓋を用いても、エポキシ/アクリル製塗膜を有するアルミニウム製缶体を組み合わせで用いた場合には、ワインのフレーバーが大きく低下すると共に、缶体に腐食を生じている(比較例5)。これに対して、本発明で用いるアルミニウム製缶体とアルミニウム製缶蓋とを組み合わせで用いた場合には、官能評価(ワインのフレーバー性)、並びに缶体及び缶蓋の両方の耐食性において満足する結果が得られている(実施例1)。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のシームレス缶にワインを充填密封して23℃の恒温条件下で6か月経過後の缶ネック部(A)及び缶胴ストレート部(B)における内面の写真である。
図2】比較例4のシームレス缶にワインを充填密封して23℃の恒温条件下で6か月経過後の缶ネック部(A)及び缶胴ストレート部(B)における内面の写真である。
図3】実験例3に用いた装置を示す図である。
図4】実験例3により測定された亜硫酸透過量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ワイン用アルミニウム製容器)
本発明のワイン用アルミニウム製容器は、アルミニウム製缶体、及び該缶体の開口部を覆うアルミニウム製缶蓋とから成り、前記アルミニウム製缶体の内面には、缶体の胴部において4μm以上、好適には4~30μmの範囲の厚みを有するポリエステル樹脂被覆が形成されており、前記アルミニウム製缶蓋の内面には、6μm以上、好適には6~20μmの範囲の厚みのポリエステル/フェノール系塗料から成る塗膜が形成されていることを特徴とする。
アルミニウム製缶体の内面樹脂被覆の厚みが上記範囲よりも薄い場合には、亜硫酸の樹脂被覆の透過を抑制することができず、フレーバー性が低下する。一方アルミニウム製缶体の内面樹脂被覆の厚みが上記範囲よりも厚い場合には、経済性に劣るだけでなく、成形時に樹脂被覆の密着不良が生じるおそれがある。
同様に、アルミニウム製缶蓋の内面塗膜の厚みが上記範囲よりも薄い場合には、耐食性が損なわれ、一方アルミニウム製缶蓋の内面塗膜の厚みが上記範囲よりも厚いと経済性に劣るだけでなく、塗料だれや塗膜形成の際のブリスタの発生により、正常な塗膜を形成できず、結果として亜硫酸透過を抑制し得る塗膜を形成できないおそれがある。
【0013】
[アルミニウム製缶体]
本発明のワイン用アルミニウム製容器に使用されるアルミニウム製缶体は、缶体の胴部において4μm以上、好適には4~30μmの範囲の厚みのポリエステル樹脂被覆を有する限り、その形状や成形方法は特に限定されないが、特にポリエステル樹脂被覆アルミニウム金属板をポリエステル樹脂被覆が内面となるように成形されたシームレス缶であることが好適である。
本発明で規定するポリエステル樹脂被覆の厚みは、缶体において樹脂被覆が最も薄い部分の厚みであり、絞り加工・しごき加工等により成形されるシームレス缶においては、ポリエステル樹脂被覆金属板が最も薄肉化されている缶体胴部における厚みであり、この部分はポリエステル樹脂被覆も過酷な成形加工により最も薄肉化されている。
【0014】
本発明のアルミニウム製缶体を成形するために用いる、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板は、アルミニウム板の少なくとも缶内面となる面に、後述するポリエステル樹脂を被覆して成るものである。
アルミニウム板としては、純アルミニウム或いはアルミニウム合金から成るアルミニウム板(本明細書においては、アルミニウム合金板を含め「アルミニウム板」という)を使用することができる。
アルミニウム板は、樹脂被覆との密着性及び耐食性を向上するために、従来公知の表面処理が施されていることが好ましく、これに限定されないが、リン酸クロメート処理、Zr(ジルコニウム)含有の有機無機系表面処理等の表面処理が施されているアルミニウム板であることが好ましい。
アルミニウム板の厚みは0.15~0.40mm、特に0.20~0.30mmの厚みのものを使用することが望ましい。
【0015】
アルミニウム板に施されるポリエステル樹脂被覆を構成するポリエステル樹脂としては、芳香族カルボン酸成分の80モル%以上、特に90モル%以上がテレフタル酸成分から成り、アルコール成分の80モル%以上、特に90モル%以上がエチレングリコールから成るエチレンテレフタレート系のポリエステル樹脂(以下、単に「PET樹脂」ということがある)であることが好ましい。このポリエステル樹脂はホモポリエチレンテレフタレートでも、共重合ポリエステルでも、或いはこれらの2種以上のブレンド樹脂であってもよい。
【0016】
テレフタル酸成分以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p-β-オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸、1,1,2,2-エタンテトラカルボン酸、1,1,2-エタントリカルボン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトロカルボン酸、ビフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、ダイマー酸等を挙げることができ、特にイソフタル酸、ダイマー酸を含有することが好適である。
一方、エチレングリコール以外のアルコール成分としては、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン等のアルコール成分を挙げることができる。
ポリエステル樹脂は、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度(IV)が0.55dL/g以上、特に0.6~1.0dL/gの範囲にあることが腐食成分に対するバリア性や機械的性質の点でよい。
【0017】
ポリエステル樹脂被覆は、単層のみならず多層であってもよく、これに限定されないが、表層がイソフタル酸含有量が5モル%以下のホモPET又は共重合PET、下層がイソフタル酸含有量が5~15モル%、ダイマー酸含有量が1~6モル%の共重合PETから成り、表層と下層の厚み比が2:8~8:2の範囲にある二層構成とすることもできる。
また絞り加工・曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工から成形される場合には、ポリエステル樹脂被覆アルニムニウム板の状態において、ポリエステル樹脂被覆の厚みが8~30μmの範囲にあることが、成形後の缶体のポリエステル樹脂内面被覆の胴部における厚みを上記範囲に設定する上で好ましい。ポリエステル樹脂被覆を多層とする場合には、トータル厚みが上記厚み範囲にあることが好ましい。
またアルミニウム板へのポリエステル樹脂の被覆は、従来公知の積層方法によって行うができ、好適には、キャストフィルム(多層キャストフィルム)のラミネーション、または押出コート(共押出コート)により接着剤を用いることなく被覆することができるが、勿論、接着剤を用いることを制限するものではなく、アルミニウム板との接着に従来公知の接着用プライマーを用いることもできる。
尚、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板の外面側は、従来公知の缶用塗料やポリエステル樹脂被覆を制限なく形成することができる。
【0018】
本発明においては、上述したポリエステル樹脂被覆アルミニウム板を、絞り加工・再絞り加工、絞り加工・曲げ伸ばし加工、絞り加工・曲げ伸ばし加工・しごき加工或いは絞り・しごき加工等の従来公知の手段に付すことによって製造することができ、特に、絞り加工・曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工から成形されることが好適である。缶体の薄肉化は、底部に比して胴部は曲げ伸ばし加工及び/又はしごき加工により、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板の素板厚の20~95%、特に30~85%の厚みになるように薄肉化されているのが好ましい。
成形された缶体は、従来公知の方法により、トリミング加工、熱処理、ネックイン加工、フランジ加工、必要により缶体外面への印刷が施されて、後述する缶蓋巻締め用のシームレス缶とすることができる。
【0019】
[アルミニウム製缶蓋]
本発明のワイン用アルミニウム製容器に使用されるアルミニウム製缶蓋は、6μm以上、好適には6~20μmの範囲の厚みのポリエステル/フェノール系内面塗膜を有する限り、その形状や成形方法は特に限定されない。
アルミニウム製缶蓋を成形するために用いる、ポリエステル/フェノール系塗膜を有する塗装アルミニウム板は、前述したアルミニウム製缶体の成形に用いるアルミニウム板に、主剤としてポリエステル樹脂、硬化剤としてフェノール樹脂を含有する塗料組成物を塗工して成るものである。
【0020】
本発明において、上記ポリエステル/フェノール系塗膜を形成可能な塗料組成物としては、主剤としてポリエステル樹脂、硬化剤としてフェノール樹脂を含有する塗料組成物であるかぎり、特に限定されない。
例えば、これに限定されないが、特開2003-321646号公報に記載された、10~30mgKOH/gの酸価と、3000~10000の数平均分子量とを有するカルボキシル基含有芳香族ポリエステル樹脂とメタクレゾールから誘導されるフェノール樹脂を含有する水性塗料組成物や、特開2013-249376号公報に記載された、酸価が2~50mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が35~100℃であるポリエステル樹脂(A)と、酸価が0~50mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)が-20~25℃であるポリエステル樹脂(B)とを混合した混合ポリエステル樹脂と、該混合ポリエステル樹脂の樹脂固形分100重量部当たり1~30重量部のレゾール型フェノール樹脂と、全樹脂固形分100重量部に対して1~30重量部の量の硬化触媒とを含有する塗料組成物等、を好適に使用することができる。
本発明においては、前述したとおり、この塗料組成物を塗膜厚が6μm以上、特に6~20μmとなるように、アルミニウム板に塗工する。用いるアルミニウム板は、アルミニウム製缶体に用いたものと同様のものを使用することができる。
塗料組成物のアルミニウム板への塗装方法としては、特に制限はなく、従来公知の塗装方法、例えば、スプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装等の何れの方法によっても塗装することができる。また塗膜の焼付条件としては、一般的には100~300℃で5秒~30分間、好適には150~270℃で15秒~15分間であることが好ましい。
【0021】
本発明のアルミニウム製缶蓋は、前述した蓋素材を使用する点を除けば、それ自体公知の成形法で成形することができる。すなわち、塗装アルミニウム板を所定の形状及び寸法に打ち抜き、次いでプレス型で蓋の形に成形することができる。本発明に用いるアルミニウム製蓋は、これに限定されないが、ステイオンタブ(SOT)式のイージーオープン蓋、フルオープンタイプのイージーオープン蓋等であり、特にSOT蓋であることが好適である。
【0022】
(容器詰めワイン)
本発明の容器詰めワインは、上述したアルミニウム製缶体及びアルミニウム製缶蓋から成る容器にワインを充填・密封して成るものであり、前述したとおり、亜硫酸塩を酸化防止剤として含有するワインであっても、容器の内面腐食がなく、ワインのフレーバーを長期に亘って損なうことがない。
ワインは、赤、白、ロゼ等従来公知のワインを制限なく収納することができ、遊離亜硫酸濃度が50ppm以上であるワインも充填することができる。またスパークリングワインにも対応することができる。
【実施例
【0023】
(缶体の作製)
アルミニウム板として、リン酸クロメート表面処理アルミニウム板(板厚0.28mm)を使用した。
この表面処理アルミニウム板を250℃に加熱し、その両面に、ポリエステル樹脂フィルムをラミネートロールを介して熱圧着した後、直ちに水冷することにより、ポリエステル樹脂被覆アルミニウム板を作製した。尚、缶内面側のポリエステル樹脂フィルムとしては、表1に示す厚みのイソフタル酸含有量が10モル%の共重合PET樹脂フィルムを用い、缶外面側には、10μm厚のイソフタル酸含有量が12モル%の共重合PET樹脂フィルムを用いた。
得られたポリエステル樹脂被覆アルミニウム板の両面に、パラフィンワックスを静電塗油した後、直径156mmの円形に打ち抜き、浅絞りカップを作成した。次いで、この浅絞りカップを、再絞り-しごき加工及びドーミング成形を行い、開口端縁部のトリミング加工を行い、201℃で75秒間、次いで210℃で80秒間熱処理を施し、開口端をネッキング加工、フランジング加工を行い、缶胴211径でネック部206径の容量500mlのポリエステル樹脂被覆アルミニウム製シームレス缶を作製した。
尚、シームレス缶は、缶体径:66mm、缶体高さ:168mmであり、元板厚に対する缶側壁部の平均板厚減少率:60%である。
【0024】
また比較品として、上記表面処理アルミニウム板を、ポリエステル樹脂フィルムを被覆することなく、上記と同様にしてシームレス缶を作製した後、缶内面に表1に示す厚みのエポキシ/アクリル系塗膜を形成して、内面塗膜を有するアルミニウム製シームレス缶を作製した。
【0025】
(缶蓋の作製)
板厚0.26mmのJIS A5182H19アルミニウム合金コイルに、ポリエステル/フェノール系塗料又はエポキシ/アクリル系塗料を、内面側となる面に乾燥塗膜として表1に記載した厚みとなるように、コイルコートした後、アルミニウム板のピーク温度が260℃で全加熱時間が28秒となるようにガスオーブンで塗膜を焼付け、塗装アルミニウムコイルを得た。また、アルミニウム板の外面側には、内面側とは異なる種類のエポキシ/アクリル系塗料を乾燥膜厚が4μmとなるように形成した。
尚、ポリエステル/フェノール系塗料としては、特開2013-249376号公報の実施例8に記載された塗料を使用し、内面側となる面に使用したエポキシ/アクリル系塗料としては、国際公開第2010/013655号の実施例1に記載された塗料を使用した。
前記塗装アルミニウムコイルを使用し、シェル(開封用タブ取付け用蓋)成形機にて、強化環状溝のラジアス部の中央パネルからの深さが2.5mm、およびラジアス部の曲率半径が0.50mmである206径シェルを成形した。これにリベット加工、蓋外面側からスコア加工(スコア残存厚み95μm)、および開封用タブの取付けを行い、SOT蓋を作製した。
【0026】
【表1】
【0027】
(実験例1)
白ワイン(pH3.4、遊離亜硫酸濃度80ppm、総亜硫酸濃度225ppm)を、表1に示す実施例1及び比較例4の容器にそれぞれに充填して密封した。この容器詰めワインを23℃の恒温条件下で6ヶ月保管した後、缶内面を観察したところ、実施例1の容器では、明らかに腐食が抑えられた。
6か月経過後の缶内面の写真((A)はネック部、(B)は缶胴ストレート部)を、図1(実施例1)及び図2(比較例4)に示す。
【0028】
(実験例2)
白ワイン(pH3.2、遊離亜硫酸濃度30ppm、総亜硫酸濃度105ppm)を、実施例1で作製したシームレス缶に充填し、下記表2に示す内面塗膜が異なる3種のアルミニウム製缶蓋を用いて密封した。この容器詰めワインを23℃または37℃の恒温条件下で3ヶ月保管した後に缶蓋内面を観察したところ、ポリエステル/フェノール塗膜仕様の蓋では、明らかに腐食が抑えられた。5μmでは37℃恒温条件下で3か月経過後に腐食が発生し、8μmでは23℃および37℃の恒温条件下で3か月経過後の腐食発生率がいずれも0であった。
【0029】
【表2】
【0030】
(実験例3)
実施例1、比較例2、比較例4のシームレス缶の缶胴の内面樹脂皮膜を単離し、図3に示す球型のガラス製カラムクロマト管(アズワン社、OF-30)を使用して、亜硫酸透過量の大小を比較した。
フッ素ゴム製のパッキン2を介して内面樹脂被膜3をカラム1(A)およびカラム1(B)で挟んで固定した後、カラム1(A)に純水、カラム1(B)に亜硫酸ナトリウムを添加したクエン酸溶液(pH3.1、総亜硫酸量500ppmに調製)を充填し、シリコンゴム製のセプタム4で封をした。
23℃の恒温条件下で1週間保管した後に、カラム1(A)に充填された純水中の亜硫酸量を測定した。
亜硫酸量測定には、イオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、ICS-2100)を使用した。結果を図4に示す。
3種の内面樹脂皮膜について評価を行ったところ、エポキシ/アクリル系塗膜を有する比較例4のシームレス缶に対して、最低膜厚が4μm以上のポリエステルフィルムを有する実施例1、比較例2では亜硫酸の透過を少なく抑えられた。
【0031】
(実験例4)
白ワイン(pH3.2、遊離亜硫酸濃度30ppm、総亜硫酸濃度105ppm)を表1に示した実施例1、比較例1~5の容器に充填・密封した後、23℃の恒温条件下で3ヶ月経時後のワインの官能評価を実施した。
缶胴にポリエステルフィルムを使用し、その膜が厚いほど、ワインのフレーバーの低下を抑えられた。官能評価と耐食性評価の結果を表1に合わせて示した。
【0032】
(実験例5)
表1に示した実施例1と比較例4の容器に蒸留水を充填し、90℃30分の殺菌処理をした後に、内容液の過マンガン酸カリウム消費量を滴定法によって測定した。過マンガン酸カリウム消費量は、水中の有機物や還元性物質(被酸化性物質)を酸化させるのに必要な過マンガン酸カリウムの量であり、酸化されやすい(反応性の高い)成分の溶存量の目安となる。
実施例1の容器では、過マンガン酸カリウム消費量が、0.1~0.2ppmであるのに対して、比較例4の容器では0.4~0.5ppmであった。比較例4のエポキシ/アクリル系塗膜を有するシームレス缶に対して、実施例1のポリエステル樹脂被覆を有するシームレス缶ではワインの風味を損なうおそれのある酸化されやすい(反応性の高い)有機成分の溶出が少ないことから、フレーバー性に優れていると考えられる。
【符号の説明】
【0033】
1(A)、1(B) カラム
2 パッキン
3 内面樹脂皮膜
4 セプタム
5 カラムクロマト管
図1
図2
図3
図4