(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ゲル状食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/206 20160101AFI20230926BHJP
A23L 29/238 20160101ALI20230926BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20230926BHJP
A23L 29/281 20160101ALI20230926BHJP
【FI】
A23L29/206
A23L29/238
A23L29/256
A23L29/281
(21)【出願番号】P 2018065109
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 元裕
(72)【発明者】
【氏名】宮井 輝幸
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-271279(JP,A)
【文献】特開2009-055856(JP,A)
【文献】特開2009-045018(JP,A)
【文献】特開2015-195749(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0105438(US,A1)
【文献】特表2003-520039(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0161929(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0311638(US,A1)
【文献】タンパク素材の市場動向,月刊フードケミカル 2010年7月号 ,第26巻,川添 辰幸 株式会社食品化学新聞社
【文献】えんどう豆腐 by レナ♪ |レシピサイト Nadia | ナディア - プロの料理家のおいしいレシピ[online],2015年03月03日,[検索日:2021.11.2],https://oceans-nadia.com/user/20865/recipe/125624
【文献】Mintel GNPD [online], 2017年12月,ID#5325401, Vegan Organic Mozzarella Slices, [検索日:2022年5月24日]
【文献】Mintel GNPD [online], 2016年2月,ID#3775785, Semi-Cured Manchego-Style Cheese, [検索日:2022年5月24日]
【文献】Mintel GNPD [online], 2016年2月,ID#3775787, Gouda-Style Cheese, [検索日:2022年5月24日]
【文献】Mintel GNPD [online], 2017年3月,ID#4503424, Blueberry Dairy Free Yogurt, [検索日:2022年5月24日]
【文献】Mintel GNPD [online], 2017年3月,ID#4672107, Strawberry Dairy Free Yogurt, [検索日:2022年5月24日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00- 5/30
A23L 7/00- 9/20
A23L 21/00-21/25
A23L 29/00-29/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出物であるエンドウ豆タンパク質と、寒天、ゼラチンおよび増粘多糖類からなる群より選ばれる1種以上のゲル化剤とを含む原料を混合して混合液(ただし、脂質を42質量%以上含むものを除く)を調製し、得られた混合液をゲル化させ、ゲル状食品を得る、ゲル状食品の製造方法であって、
前記エンドウ豆タンパク質の含有量が、前記混合液の総質量に対して0.1~4質量%であり、
前記ゲル化剤が、カラギナンとローカストビーンガムの組み合わせ、寒天、及びゼラチンから選ばれる1つ以上を含む、ゲル状食品の製造方法
(ただし、油脂を含む油相5~60質量%と、エンドウ豆タンパク質を含む水相40~95質量%とを乳化し、殺菌又は滅菌処理して、エンドウ豆タンパク質を0.5~10.0重量%含有し、かつアレルギー表示対象物質を含まない水中油型乳化油脂組成物を製造し、前記水中油型乳化油脂組成物を、ゲル化剤及び水を含む液に加え加温して溶解させ、その後冷却してゲル化させる方法を除く)。
【請求項2】
前記ゲル化剤の含有量が、前記混合液の総質量に対して0.01~10質量%である、請求項1に記載のゲル状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル状食品は、蛋白等のゲル化力を利用した食品であり、例えば、チーズ、ヨーグルト等の発酵食品、ゼリー、プリン等のデザート類等が挙げられる。ゲル状食品は、工業的には、ゲル化剤や呈味成分等の原料を、ゲル化剤のゲル化温度よりも高い温度に加温、混合して原料液を調製し、容器に充填して冷却し、ゲル化剤の作用によりゲル化させる方法で製造されている。
【0003】
特許文献1、2には、ゲル化剤及び乳タンパク質を含むゲル状食品が開示されている。ゲル状食品の多くには、乳蛋白、卵蛋白、ゼラチン等の動物性蛋白が利用されている。これらの動物性蛋白は主要な食物アレルギー原因食品であるため、これらの原料を用いない植物性ゲル状食品について多く検討されている。アレルギー性物質を含まないゲル状食品として、例えば、特許文献3には、ゲル化剤および大豆タンパク質のサーモリシン加水分解物を含むゲル状食品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-220543号公報
【文献】特開2009-213409号公報
【文献】特開2013-31453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に記載のゲル状食品は硬度が低く、硬度の高く、かつ動物性蛋白を含まないゲル状食品の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、硬度の高いゲル状食品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1] エンドウ豆タンパク質と、寒天、ゼラチンおよび増粘多糖類からなる群より選ばれる1種以上のゲル化剤とを含む、ゲル状食品。
[2] 前記エンドウ豆タンパク質の含有量が、ゲル状食品の総質量に対して0.1~4質量%である、[1]のゲル状食品。
[3] 前記ゲル化剤の含有量が、ゲル状食品の総質量に対して0.01~10質量%である、[1]または[2]のゲル状食品。
[4] 前記増粘多糖類が、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガムからなる群より選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれかのゲル状食品。
[5] エンドウ豆タンパク質と、寒天、ゼラチンおよび増粘多糖類からなる群より選ばれる1種以上のゲル化剤とを含む混合液をゲル化させ、ゲル状食品を得る、ゲル状食品の製造方法。
[6] 前記エンドウ豆タンパク質の含有量が、前記混合液の総質量に対して0.1~4質量%である、[5]のゲル状食品の製造方法。
[7] 前記ゲル化剤の含有量が、前記混合液の総質量に対して0.01~10質量%である、[5]または[6]のゲル状食品の製造方法。
[8] 前記増粘多糖類が、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガムからなる群より選ばれる1種以上である、[5]~[7]のいずれかのゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬度の高いゲル状食品およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ゲル状食品>
本発明のゲル状食品は、エンドウ豆タンパク質と、ゲル化剤とを含む。
【0010】
(エンドウ豆タンパク質)
エンドウ豆タンパク質は、エンドウ豆由来のタンパク質である。
本発明において、用語「エンドウ豆」は、全ての野生種の平滑なエンドウ豆ならびにしわの寄ったエンドウ豆、および全ての変異種の平滑なエンドウ豆ならびにしわの寄ったエンドウ豆、例えば、Proceedings of the Symposium of the Industrial Biochemistry and Biotechnology Group of the Biochemical Society、1996年、pp.77-87でのC-L Heydleyらによる標題「Developing novel pea starches」の論文に記載されているものを使用することができる。
エンドウ豆タンパク質は、マメ科植物の全てのタンパク質同様、3つの主なタンパク質群:グロブリン類、アルブミン類およびいわゆる「不溶性」タンパク質からなる。
なお、エンドウ豆タンパク質は、エンドウ豆そのものから得られたタンパク質であってもよいし、エンドウ豆タンパク質の加水分解物であってもよいが、エンドウ豆を酸性化して凝集させて得られたエンドウ豆タンパク質加水分解物は、エンドウ豆タンパク質の酵素的加水分解により、化学的加水分解により、または同時の、または連続的な双方の経路により得られた調製物として定義される。タンパク質加水分解物は、異なるサイズのペプチドの混合物および遊離アミノ酸の混合物からなる。この加水分解はタンパク質の溶解性に影響を与え得る。酵素的加水分解および/または化学的加水分解は、例えば、特許出願国際公開第2008/001183号パンフレットに記載されている。
【0011】
エンドウ豆タンパク質としては、より硬度の高いゲル状食品が得られやすい観点から、下記破断試験において硬度と破断点を測定したときにゲルが破断しないエンドウ豆タンパク質を用いることが好ましい。ここで、「破断しない」とは、以下の方法で破断点を検出しないことを意味する。
破断試験:エンドウ豆タンパク質を濃度が25質量%になるように水に分散させてスラリーを調製する。得られたスラリーを容量200mlのステンレス製バットに150g分注し、90℃の恒温槽に60分間浸漬させ、加熱ゲルを形成させる。その後、加熱ゲルを冷蔵庫にて10℃で10時間静置冷却して、ゲルの芯温を一定にする。レオメーターを用い、治具として直径10mmの円形プランジャー(D10)を陥入速度80mm/min、HOLD6g、測定温度10℃の条件で、芯温が一定となったゲルに陥入させたときのゲルの硬度と破断点を測定する。ここで、HOLDとは、ゲルが破断する前の測定値と破断した後の測定値の差が一定以上(この場合6g)開いた時点の荷重量を表示するモードである。この場合、破断する前の測定値と破断した後の測定値の差が6g以上開いた時点の治具の陥入量を破断点(mm)とする。さらに、破断時点の測定値(g)(6g落ちる直前)を硬度(g)とする。
【0012】
エンドウ豆タンパク質の分子量は、10KDa~116KDaが好ましく、10KDa~90KDaがより好ましい。
なお、エンドウ豆タンパク質の分子量はSDS-PAGEで分析できる。
【0013】
エンドウ豆タンパク質の窒素溶解度指数(NSI)は15~100質量%が好ましく、30~95質量%がより好ましい。
窒素溶解度指数は、全窒素量に占める水溶性窒素の比率(質量%)を表したものであり、以下のようにして求められる。
エンドウ豆タンパク質2.5gを水100mlに分散させて得られた分散液のpHが3~10になるように、塩酸または水酸化ナトリウムで調整した後、30℃で2時間放置する。その後、分散液を遠心分離し、上澄み液について水溶性窒素含有量を測定し、下記式より窒素溶解度指数を求める。
窒素溶解度指数=(水溶性窒素含有量/エンドウ豆タンパク質に含まれる全窒素含有量)×100
【0014】
エンドウ豆タンパク質は、原料となるエンドウ豆を粉砕した後、粉砕物に水を加えてタンパク質成分を抽出し、得られた抽出液を濃縮、乾燥することで得られる。
エンドウ豆タンパク質は、市販品から入手可能である。
エンドウ豆タンパク質は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0015】
ゲル状食品の総質量に対するエンドウ豆タンパク質の含有量は、0.1~4質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。エンドウ豆タンパク質の含有量が上記下限値以上であれば、ゲル状食品の硬度がより高まる。エンドウ豆タンパク質の含有量が上記上限値以下であれば、エンドウ豆特有の風味が抑えられ、ゲル状食品の風味を妨げにくくなる。加えて、ゲル状食品を製造するに際して、予めエンドウ豆タンパク質を水に分散させておく場合、分散液のゲル化を抑制できるので、ハンドリング性を良好に維持できる。
【0016】
(ゲル化剤)
ゲル化剤は、寒天、ゼラチンおよび増粘多糖類からなる群より選ばれる1種以上である。
【0017】
寒天としては特に限定されず、市販品から適宜選択して用いることができる。寒天は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
寒天のゼリー強度は、日寒水式によって測定される値である。すなわち、日本寒天製造水産組合が採用した日寒水式ゼリー強度測定器を用いて測定される値であり、濃度1.5質量%の寒天水溶液を調製し、20℃で15時間放置して凝固させたゲルについて、その表面1cm2当たり20秒間耐えうる最大荷重(g)をゼリー強度(単位:g/cm2)とする。寒天のゼリー強度は10~1500g/cm2程度が好ましい。
寒天の凝固点および寒天の融点は特に限定されない。通常、寒天の凝固点は40~50℃程度、融点は80~90℃程度である。
寒天を2種以上併用する場合、各寒天のゼリー強度、凝固点および融点が、それぞれ上記の好ましい範囲内となるように選択して用いることが好ましい。なお寒天は、ゼラチン、増粘多糖類と併用してもよい。
【0018】
ゼラチンは、動物の皮や骨に多く含まれる不溶性タンパク質を、酸処理またはアルカリ処理して可溶化したものである。ゼラチンとしては特に限定されず、市販品から適宜選択して用いることができる。ゼラチンは1種でもよく2種以上を併用してもよい。
ゼラチンのゼリー強度は、JIS K 6503「にかわおよび工業用ゼラチン」に規定されている測定方法で測定されるゼリー強度である。すなわち、濃度6.67質量%のゼラチン水溶液を調製し、規定の容器に入れ10℃の恒温槽で16~18時間冷却して試料を得る。得られた試料の表面を、直径1/2インチ(12.7mm)のプランジャーで4mm押し下げるのに必要な荷重のグラム数をゼリー強度(単位:ブルームまたはg)とする。ゼラチンのゼリー強度は、100~300ブルーム(100~300g)程度が好ましい。
ゼラチンのゲル化温度およびゼラチンゲルの融点は特に限定されない。通常、ゼラチンのゲル化温度は15~20℃程度、融点は25~30℃程度である。
ゼラチンを2種以上併用する場合、各ゼラチンのゼリー強度、ゲル化温度および融点が、それぞれ上記の好ましい範囲内となるように選択して用いることが好ましい。なお、ゼラチンは、寒天、増粘多糖類と併用してもよい。
【0019】
増粘多糖類としては、例えばカラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガム、キサンタンガム、タマリンドガム等が挙げられる。
カラギナンとしては、カッパ-カラギナン、イオタカラギナンが使用できる。
ジェランガムには、脱アシル型とネイティブ型がある。脱アシル型の方がより固まりやすい。
増粘多糖類としては特に限定されず、市販品から適宜選択して用いることができる。増粘多糖類は1種でもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガムが好ましく、ローカストビーンガムを用いる場合は、カラギナンを併用することが好ましい。なお、増粘多糖類は、寒天、ゼラチンと併用してもよい。
【0020】
なお、エンドウ豆タンパク質の凝固性を高める観点から、ゲル化剤の種類に応じて、任意成分として一価のカチオンおよび二価のカチオンの少なくとも一方を併用してもよい。これらカチオンとしては、カルシウム、カリウム、マグネシウム等が挙げられる。以下に、ゲル化剤の好ましい態様の一例を示す。
(g1):ゲル化剤が寒天を含む。任意成分として前記カチオンは併用してもよいし、併用しなくてもよい。
(g2):ゲル化剤がゼラチンを含む。任意成分として前記カチオンは併用してもよいし、併用しなくてもよい。
(g3):ゲル化剤がカラギナンおよびローカストビーンガムを含む。任意成分として前記カチオンは併用してもよいし、併用しなくてもよい。
(g4):ゲル化剤がカラギナンを含み、任意成分として前記カチオンを併用する。
(g5):ゲル化剤がジェランガムを含み、任意成分として前記カチオンを併用する。
これらの中でも、(g1)~(g3)が特に好ましい。
【0021】
ゲル状食品の総質量に対するゲル化剤の含有量は、0.01~10質量%が好ましく、0.02~8質量%がより好ましく、0.05~2質量%がさらに好ましい。ゲル化剤の含有量が上記下限値以上であれば、エンドウ豆タンパク質を充分に凝固できる。ゲル化剤の含有量が上記上限値以下であれば、固くなりすぎて食感が悪くなる、製造適性が悪くなる、ゲル化剤そのものの味が出てきてしまうといった不具合を抑制できる。
【0022】
ゲル化剤が寒天を含む場合、ゲル状食品の総質量に対する寒天の含有量は、0.2~2質量%が好ましく、0.3~1質量%がより好ましい。
エンドウ豆タンパク質と寒天との質量比(エンドウ豆タンパク質:寒天)は、20:1~1:20が好ましく、10:1~1:10がより好ましい。
【0023】
ゲル化剤がゼラチンを含む場合、ゲル状食品の総質量に対するゼラチンの含有量は、0.4~10質量%が好ましく、0.6~5質量%がより好ましい。
エンドウ豆タンパク質とゼラチンとの質量比(エンドウ豆タンパク質:ゼラチン)は、7:1~1:100が好ましく、5:1~1:10がより好ましい。
【0024】
ゲル化剤がカラギナンおよびローカストビーンガムを含む場合、ゲル状食品の総質量に対するカラギナンおよびローカストビーンガムの含有量の合計は、0.1~1質量%が好ましく、0.2~0.8質量%がより好ましい。
エンドウ豆タンパク質とカラギナンおよびローカストビーンガムとの質量比(エンドウ豆タンパク質:カラギナン+ローカストビーンガム)は、40:1~1:10が好ましく、10:1~1:10がより好ましい。
カラギナンとローカストビーンガムとの質量比(カラギナン:ローカストビーンガム)は、10:1~1:10が好ましく、3:7~7:3がより好ましい。
【0025】
ゲル化剤がカラギナンを含む場合、ゲル状食品の総質量に対するカラギナンの含有量は、0.1~1質量%が好ましく、0.2~0.8質量%がより好ましい。
エンドウ豆タンパク質とカラギナンとの質量比(エンドウ豆タンパク質:カラギナン)は、40:1~1:10が好ましく、10:1~1:10がより好ましい。
【0026】
ゲル化剤がジェランガムを含む場合、ゲル状食品の総質量に対するジェランガムの含有量は、0.01~3質量%が好ましく、0.02~1.5質量%がより好ましい。
エンドウ豆タンパク質とジェランガムとの質量比(エンドウ豆タンパク質:ジェランガム)は、400:1~1:30が好ましく、100:1~1:10がより好ましい。
【0027】
(水)
ゲル状食品には、通常、水が含まれる。
水としては特に限定されず、水道水や脱イオン水等を用いることができる。
水の含有量は、例えばゲル状食品の総質量に対して、60~98質量%が好ましく、75~90質量%がより好ましい。
【0028】
(任意成分)
ゲル状食品には、上記の成分(エンドウ豆タンパク質、ゲル化剤および水)以外の任意成分を、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で含有させることができる。
任意成分としては、食品に配合可能な各種成分を用いることができ、例えば一価のカチオンおよび二価のカチオンの少なくとも一方(例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム等)、卵成分、果実由来成分、糖類、植物油脂、呈味成分、増粘剤、保水剤、乳化剤、色素、pH調整剤、酸化防止剤、消泡剤等が挙げられ、製造しようとするゲル状食品の風味や食感、製造適性等を考慮して適宜選択できる。
【0029】
前記カチオンは、カラギナン、ローカストビーンガム、ジェランガム等のゲル化剤と反応してゲルの形成を促進させる。ゲル化剤としてカラギナン、ローカストビーンガムまたはジェランガムを用いる場合は、一価のカチオンおよび二価のカチオンの少なくとも一方を併用することが好ましい。
例えばカルシウムは、カルシウムを含む原料(カルシウム原料)としてゲル状食品に配合できる。カルシウム原料の具体例としては、生乳、牛乳、部分脱脂乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、全脂練乳、脱脂練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、乳清(ホエー)、乳清蛋白質濃縮物(WPC)、乳清蛋白質分離物(WPI)、全乳蛋白質濃縮物(TMP)等の乳類;チーズ、バター、クリーム、無糖れん乳、加糖れん乳、バターオイル、バターミルク、バターミルクパウダー等の乳類を原料とする乳製品;乳酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硅酸カルシウム等のカルシウム塩などが挙げられる。
カリウムとしては、例えば塩化カリウム、リン酸1水素2カリウム、海藻エキス由来のもの等を使用できる。
前記カチオンの含有量は、ゲル状食品の総質量に対して、0.001~0.5質量%が好ましく、0.005~0.3質量%がより好ましい。
【0030】
卵成分は、卵黄のみでもよく、全卵でもよい。例えば液卵や粉末など適宜の性状に加工された原料を用いてもよい。
果実由来成分としては、例えばフルーツピューレ、果汁、果実等が挙げられる。
糖類としては、例えば砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、水飴、ブドウ糖、果糖、転化糖、異性化糖、黒糖等が挙げられる。
呈味成分としては、例えば糖類以外の甘味料、酸味料、調味料、香料、チョコレート、ココアパウダー、酒類、抹茶、小豆あん、練りゴマ、キャラメル、果汁、ナッツ、いも、栗、かぼちゃ等が挙げられる。
糖類以外の甘味料としては、例えば糖アルコール類(キシリトール、ソルビトール、マルチロール、エリスリトール等)、高甘味度甘味料(サッカリンナトリウム、サイクラメート及びその塩、アセスルファムカリウム、ソーマチン、アスパルテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、ステビア抽出物に含まれるステビオサイド等)等が挙げられる。
酸味料としては、例えばリンゴ酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
調味料としては、例えばクエン酸ナトリウム等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば加工澱粉等が挙げられる。
保水剤としては、例えばセルロース、デキストリン、こんにゃく粉等が挙げられる。
乳化剤としては、一般に食用に用いられている乳化剤を適宜用いることができ、例えば有機酸モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
色素としては、例えばカロチン、リコピン等が利用できる。
【0031】
(製造方法)
ゲル状食品は、前記エンドウ豆タンパク質と、前記ゲル化剤とを含む混合液をゲル化させ、ゲル状食品を得る工程を有する方法で製造できる。
ゲル化剤としては、寒天、ゼラチン、および増粘多糖類からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、当該増粘多糖類としては、カラギナン、ローカストビーンガム、及びジェランガムからなる群から選択されるいずれかが好ましい。なお、ローカストビーンガムを使用する場合はカラギナンを併用することが好ましい。ゲル化剤の好ましい態様としては、前記(g1)~(g5)が挙げられる。
【0032】
混合液は、エンドウ豆タンパク質と、ゲル化剤と、水とを含む。
混合液の総質量に対するエンドウ豆タンパク質の含有量は、0.1~4質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。
混合液の総質量に対するゲル化剤の含有量は、0.01~10質量%が好ましく、0.02~8質量%がより好ましく、0.05~2質量%がさらに好ましい。
混合液の総質量に対する水の含有量は、60~98質量%が好ましく、75~90質量%がより好ましい。
【0033】
なお、ゲル化剤が寒天を含む場合、混合液の総質量に対する寒天の含有量は、0.2~2質量%が好ましく、0.3~1質量%がより好ましい。
ゲル化剤がゼラチンを含む場合、混合液の総質量に対するゼラチンの含有量は、0.4~10質量%が好ましく、0.6~5質量%がより好ましい。
ゲル化剤がカラギナンおよびローカストビーンガムを含む場合、混合液の総質量に対するカラギナンおよびローカストビーンガムの含有量の合計は、0.1~1質量%が好ましく、0.2~0.8質量%がより好ましい。
ゲル化剤がカラギナンを含む場合、混合液の総質量に対するカラギナンの含有量は、0.1~1質量%が好ましく、0.2~0.8質量%がより好ましい。
ゲル化剤がジェランガムを含む場合、混合液の総質量に対するジェランガムの含有量は、0.01~3質量%が好ましく、0.02~1.5質量%がより好ましい。
エンドウ豆タンパク質と各種ゲル化剤との質量比の好ましい範囲は、上述した通りである。
【0034】
混合液は、必要に応じて任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、ゲル状食品の説明において先に例示した任意成分が挙げられる。
例えば、混合液が前記カチオンを含む場合、混合液の総質量に対する前記カチオンの含有量は、0.001~0.5質量%が好ましく、0.005~0.3質量%がより好ましい。
【0035】
混合液は、エンドウ豆タンパク質と、ゲル化剤と、水(溶解水)と、必要に応じて任意成分とを混合することで得られる。
具体的には、まず水に全原料を投入して撹拌して混合する。撹拌混合しただけでは全成分を溶解できない場合は、加熱処理して全成分を溶解すればよい。水の温度は特に限定されない。例えば常温(20~30℃、以下同様。)の溶解水に全原料を投入した後、殺菌処理を兼ねて加熱処理して原料を溶解させ、混合液とすることが好ましい。
加熱処理温度は80℃以上が好ましい。該加熱処理温度の上限はないが、風味の観点から例えば160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
加熱時間は、混合液中の原料を溶解させることができ、殺菌効果が得られ、かつ混合液中の成分が熱変性を生じない時間に設定することが好ましい。
【0036】
混合液の加熱処理の前または後に、必要に応じて混合液を均質化することが好ましい。混合液に油脂分が含まれている場合、均質化を行うことで油脂の乳化を促進させることができる。
均質化は10~30MPa程度の圧力下で行われることが好ましい。
【0037】
なお、エンドウ豆タンパク質を水に予め分散させて分散液を調製しておき、該分散液とゲル化剤と必要に応じて任意成分とを混合してもよい。また、ゲル化剤等と混合する前に、必要に応じて分散液を均質化しておいてもよい。
【0038】
混合液をゲル化させる方法としては特に制限されず、常温で混合液を放置する方法でもよいし、ゲル化剤のゲル化温度以下に混合液を冷却する方法でもよい。短時間でゲル状食品が得られる観点から、ゲル化温度以下に混合液を冷却して混合液をゲル化させることが好ましい。混合液をゲル化させる前に、必要に応じて混合液を容器等に充填してもよい。
混合液の容器等への充填は、例えば充填機のノズルから吐出する方法で行うことができる。
冷却温度は10℃以下が好ましい。冷却温度の下限値は凍結防止の点から1℃以上が好ましい。冷却時間は、充分にゲル化したゲル状物が得られればよく、例えば10時間以上、好ましくは20時間以上、さらに好ましくは24時間以上である。
【0039】
なお、ゲル化の前後において、混合液中の各成分の質量(含有量)は殆ど変化しない。すなわち、混合液中の各成分の含有量と、該混合液をゲル化して得られるゲル状食品中の各成分の含有量は、概ね一致する。
【0040】
(効果)
以上説明した本発明のゲル状食品は、エンドウ豆タンパク質と特定のゲル化剤とを含むので、寒天やゼラチン等を使った場合には乳タンパク質や大豆タンパク質を用いたゲル状食品に比べて硬度が高い。しかも、本発明のゲル状食品は、エンドウ豆タンパク質という、従来のゲル状食品に含まれる乳タンパク質や大豆タンパク質に代わる新たなタンパク質を含んだものであり、しかもアレルゲンが低減されている。
ところで、ゲル状食品の硬度を高めるには、ゲル化剤の含有量を増やせばよい。しかし、ゲル化剤の増量はゲル状食品の風味の低下や、コスト高の原因となる。
本発明のゲル状食品であれば、ゲル化剤の含有量を過度に増やすことなく、高い硬度を発現できるので、良好な風味を維持しつつ、製造コストを抑えることができる。
また、本発明のゲル状食品の製造方法によれば、硬度の高いゲル状食品を、良好な風味を維持しつつ、低コストで容易に製造できる。
【0041】
(用途)
本発明のゲル状食品の具体的な製品としては、プリン、ゼリー、茶わん蒸し、ゴマ豆腐、卵豆腐、水羊羹、煮こごり、アスピックゼリー、トコロテン等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
<使用原料>
・植物油脂(やし油、パーム油を含む):太陽油脂社製。
・甜菜糖:ホクレン農業協同組合連合会製、商品名「HBSビートグラニュ糖」。
・加工澱粉:松谷化学工業社製。
・チョコレート:森永製菓社製、商品名「クレオール」。
・ココアパウダー:森永製菓社製、商品名「ローヤルNPCココア」。
・エンドウ豆タンパク質:オルガノフードテック社製、商品名「PP-CS」、タンパク質含有量75質量%。
・乳タンパク質:MILEI GMBH社製、商品名「MILEI TMP」、タンパク質含有量76質量%。
・大豆タンパク質:ダニスコジャパン社製、商品名「SUPRO XT55IP」、タンパク質含有量87質量%。
・乳化剤:花王社製、商品名「ステップSS」、コハク酸モノグリセリド。
・寒天:伊那寒天社製、商品名「ウルトラ寒天AX-100」、日寒水式によるゼリー強度(1.5%濃度)100g/cm2、凝固点45℃、ゲルの融点85℃。
・ゼラチン:ルスロ社製 「Rousselot 250PS」、JIS K 6503によるゼリー強度250ブルーム(250g)、ゲル化温度20℃、ゲルの融点25℃。
・カラギナン:三栄源エフ・エフ・アイ社製、商品名「カラギニンCSK-1」。
・ローカストビーンガム:三栄源エフ・エフ・アイ社製、商品名「ビストップD/2050」。
・ネイティブ型ジェランガム:CPケルコ社製、商品名「ケルコゲルHM」。
【0044】
なお、エンドウ豆タンパク質について、前記破断試験において硬度と破断点を測定したときに破断しないことが確認された。
【0045】
<実施例1>
表1に示す配合で各原料を混合し、85℃で10分間加熱処理した後、均質機(三丸機械工業社製、製品名「Homogenizer」)を用いて15MPaの圧力で均質化し、混合液を得た。得られた混合液65gをプラスチック容器に充填し、冷蔵庫にて10℃で10時間静置冷却してゲル化させることにより、ゲル状食品を得た。プラスチック容器としては、ポリプロピレンを用いて円錐型に射出成型した容器(シンギ社製、商品名「PP71-110」、容量110ml)を用いた。
得られたゲル状食品について、以下に示す方法により硬度を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(硬度の測定)
レオメーター(サン科学社製、製品名「SUN RHEO METER COMPACK-100II」)を用い、治具として直径20mmの円形プランジャー(D20)を陥入速度80mm/min、HOLD6g、測定温度10℃の条件でゲル状食品に陥入させたときのゲル状食品の破断強度(g)を測定した。
測定は1種類のゲル状食品につき3回の測定を行い、3回の破断強度の平均値をそのゲル状食品の硬度とした。
【0047】
<実施例2、3>
表1に示す配合組成となるように混合液を調製した以外は、実施例1と同様にしてゲル状食品を製造し、硬度を測定した。結果を表1に示す。
なお、実施例3では、硬度の測定において、治具として直径10mmの円形プランジャー(D10)を用いた。
【0048】
<比較例1~6>
表2、3に示す配合組成となるように混合液を調製した以外は、実施例1と同様にしてゲル状食品を製造し、硬度を測定した。結果を表2、3に示す。
なお、比較例3、6では、硬度の測定において、治具として直径10mmの円形プランジャー(D10)を用いた。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
表1~3の結果に示されるように、実施例1~3で得られたゲル状食品は、比較例1~6で得られたゲル状食品に比べて硬度が高かった。
【0053】
<実施例4>
表4に示す配合組成となるように混合液を調製した以外は、実施例1と同様にしてゲル状食品を製造し、硬度を測定した。結果を表4に示す。
また、得られたゲル状食品について、以下に示す方法により風味を評価した。結果を表4に示す。
【0054】
(風味の評価)
ゲル状食品を品温10℃に温度調整し、専門パネラー9名が試食し、風味について下記の評価基準で評価した。9名の平均値を評価結果とする。平均値が高いほど風味の評価が高いことを意味する。
<<評価基準>>
5点:豆感を感じない。
4点:豆感をやや感じる。
3点:豆感を感じる。
2点:豆感を強く感じる。
1点:豆感を非常に強く感じる。
【0055】
<比較例7>
表4に示す配合組成となるように混合液を調製した以外は、実施例1と同様にしてゲル状食品を製造し、硬度を測定した。結果を表4に示す。
また、得られたゲル状食品について、実施例4と同様にして風味を評価した。結果を表4に示す。
【0056】
【0057】
表4の結果に示されるように、実施例4で得られたゲル状食品は、比較例7で得られたゲル状食品に比べて硬度が高く、風味も良好であった。