(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】塗装装置、及び塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05B 12/08 20060101AFI20230926BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20230926BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20230926BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B05B12/08
B05C11/00
B05D1/02 Z
B05D3/00 D
(21)【出願番号】P 2019066377
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】堀内 亮
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-058666(JP,U)
【文献】特開2011-240281(JP,A)
【文献】特開2013-017970(JP,A)
【文献】特開2017-062556(JP,A)
【文献】特開2009-136860(JP,A)
【文献】特開2012-141421(JP,A)
【文献】特開2002-096015(JP,A)
【文献】特開2015-186782(JP,A)
【文献】特表2013-544689(JP,A)
【文献】特開昭60-114373(JP,A)
【文献】特開2001-113223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 12/00-12/14
13/00-13/06
B05C 7/00-21/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者によって船舶の塗装対象物に塗料を塗布する塗装装置であって、
前記作業者によって塗布する際の前記塗装装置の状態を検出する検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて、前記塗装装置の状態を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づく前記塗装装置のパラメータの調整を行うことなく、前記判定部に基づく情報を人に出力する出力部と、を備え
、
前記検出部として、
前記塗装対象物へ前記塗料を塗布する塗布部と前記塗装対象物との距離を測定する距離センサ、
前記塗布部の角度を検出する角度センサ、及び
前記塗布部が移動する速度を検出する速度センサの少なくとも何れかが備えられる、塗装装置。
【請求項2】
前記出力部は、塗装作業中に前記情報を出力する、請求項1に記載の塗装装置。
【請求項3】
前記判定部に基づく前記情報を記憶しておく記憶部を更に備え、
前記出力部は、塗装作業終了後に前記情報を出力する、請求項1に記載の塗装装置。
【請求項4】
塗装作業の作業内容を特定する特定部と、
前記特定部で特定された前記作業内容に基づいて、当該作業内容に関する指示情報を設定する設定部と、を更に備える、請求項1~3の何れか一項に記載の塗装装置。
【請求項5】
前記検出部として、
前記距離センサが少なくとも一対備えられ、
一対の前記距離センサは、前記塗布部の基準軸を挟むように配置される、請求項1~4の何れか一項に記載の塗装装置。
【請求項6】
作業者によって船舶の塗装対象物に塗料を塗布する塗装方法であって、
塗装装置で前記塗装対象物へ前記塗料を塗布する塗布工程と、
前記塗装装置の状態を検出する検出工程と、
前記検出工程での検出結果に基づいて、前記塗装装置の状態を判定する判定工程と、
前記判定工程の判定結果に基づく前記塗装装置のパラメータの調整を行うことなく、前記判定工程の判定結果に基づく情報を人に出力する出力工程と、を備
え、
前記検出工程では、前記塗装対象物へ前記塗料を塗布する塗布部と前記塗装対象物との距離、前記塗布部の角度、及び前記塗布部が移動する速度の少なくとも何れかを検出する、塗装方法。
【請求項7】
前記塗装装置を基準となる位置にて基準となる姿勢に設定した後、前記検出工程を開始する、請求項6に記載の塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装装置、及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、作業者が操作を行う事で塗装ガンから塗装対象物に塗料を塗布する塗装装置が記載されている。作業者がこのような塗装ガンを用いて塗装を行うときは、作業者は、塗装対象物に対して所定の距離、及び所定の角度で塗装ガンを保持し、所定の速度で塗装ガンを移動させながら塗装を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、塗装作業における作業者の動作は非常に自由度が高く、安定した品質を得るための動作の標準化が難しい。また、塗装作業は危険作業であるため、他の作業者が近づいて評価を行うことも容易ではなく、塗装作業の品質の保持は現場の作業者の技能に委ねられていた。従って、塗装対象物に対する塗装の品質を向上できる塗装装置が求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、塗装対象物に対する塗装の品質を向上できる塗装装置、及び塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る塗装装置は、作業者によって塗装対象物に塗料を塗布する塗装装置であって、作業者によって塗布する際の塗装装置の状態を検出する検出部と、検出部の検出結果に基づいて、塗装装置の状態を判定する判定部と、判定部に基づく情報を出力する出力部と、を備える。
【0007】
本発明に係る塗装装置は、塗装装置の状態を検出する検出部と、検出部の検出結果に基づいて、塗装装置の状態を判定する判定部と、を備えている。これにより、作業者が塗装作業を行っているときに、判定部は、塗装装置による塗装作業の中で、塗装の品質を低下させるような状態となっていないかを判定することができる。そして、塗装装置は、判定部に基づく情報を出力する出力部を備えている。従って、出力部は、作業者に対して、塗装作業中における判定結果を伝達することができる。これにより、作業者は、当該判定結果に基づいて、塗装の品質を高めるような塗装作業を行うことができる。以上により、塗装対象物に対する塗装の品質を向上できる。
【0008】
出力部は、塗装作業中に情報を出力してよい。この場合、塗装装置が塗装の品質を低下させるような状態となったタイミングで、作業者は、リアルタイムに当該状態を知ることができる。これにより、作業者は、塗装の品質を高めることができるように塗装装置の状態を修正することができる。
【0009】
塗装装置は、判定部に基づく情報を記憶しておく記憶部を更に備え、出力部は、塗装作業終了後に情報を出力してよい。この場合、塗装作業が終わった後に、記憶部に記憶された判定部に基づく情報を有効に活用することができる。作業者は、自身の作業内容を見直すことができるため、次の塗装作業を行う時に、塗装の品質を高めるような塗装作業を行うことができる。
【0010】
塗装装置は、塗装作業の作業内容を特定する特定部と、特定部で特定された作業内容に基づいて、当該作業内容に関する指示情報を設定する設定部と、を更に備えてよい。この場合、作業者は、塗装作業を行う前段階において、これから実行する塗装作業の作業内容に関する指示情報を知ることができるため、塗装の品質を高めるような塗装作業を行うことができる。
【0011】
検出部として、塗装対象物へ塗料を塗布する塗布部と塗装対象物との距離を測定する距離センサが少なくとも一対備えられ、一対の距離センサは、塗布部の基準軸を挟むように配置されてよい。この場合、塗布部が塗装対象物に対して傾いたとしても、基準軸を挟むように配置された一対の距離センサの検出結果に基づくことで、基準軸における塗布部と塗装対象物との距離を検出する事が可能となる。また、塗装対象物の端部などにおいて、一方の距離センサでの距離検出が不能になったとしても、他方の距離センサによって距離を検出することができる。
【0012】
本発明の一形態に係る塗装方法は、作業者によって塗装対象物に塗料を塗布する塗装方法であって、塗装装置で塗装対象物へ塗料を塗布する塗布工程と、塗装装置の状態を検出する検出工程と、検出工程での検出結果に基づいて、塗装装置の状態を判定する判定工程と、判定工程の判定結果に基づく情報を出力する出力工程と、を備える。
【0013】
この塗装方法によれば、上述の塗装装置と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0014】
塗装方法では、塗装装置を基準となる位置にて基準となる姿勢に設定した後、検出工程を開始してよい。この場合、判定工程では、これらの基準位置及び基準姿勢を考慮して、塗装作業を判定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗装対象物に対する塗装の品質を向上できる塗装装置、及び塗装方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る塗装装置を示すブロック図である。
【
図3】塗装装置によって塗装が行われる作業現場の一例を示す図である。
【
図4】スタンド及び塗装対象物を示す概略図である。
【
図5】各センサによって検出可能なパラメータを説明するための概念図である。
【
図6】距離センサが基準軸を挟むように両側に設けられていることの効果について説明するための概念図である。
【
図7】距離センサが基準軸を挟むように両側に設けられていることの効果について説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による塗装装置の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る塗装装置を示すブロック図である。
図2は、
図1に示す塗装ガンの斜視図である。
【0018】
本実施形態に係る塗装装置100は、塗装ガン1と、制御装置2と、入力部3と、出力部4と、を備える。塗装装置100は、塗装対象物W(
図3参照)に塗料を塗布するための装置である。
【0019】
塗装ガン1は、作業者によって塗装対象物Wに塗料を塗布する機器である。塗装ガン1には、塗布のON・OFFの切替を検出する切替検出センサ11と、距離センサ12と、角度センサ13と、速度センサ14と、を備えている。
【0020】
図2を参照して、塗装ガン1の構成について詳細に説明する。塗装ガン1は、塗布ノズル16(塗布部)と、ハンドル17と、レバー18と、金具19と、を備える。塗布ノズル16は、先端の塗布口16aから塗料を噴出することによって、塗装対象物Wに塗料を塗布する部分である。塗布ノズル16は、中心線を基準軸CLとして塗料を塗布する。塗料は、基準軸CLを中心として、放射状に広がるように噴出される。塗布ノズル16には、塗布口16aとは反対側から、図示されないチューブを介して塗料が供給される。
【0021】
ハンドル17は、作業者が塗装ガン1を保持するときに、手で掴むための部分である。ハンドル17は、塗布ノズル16から基準軸CLと交差する方向へ延びるように設けられる。レバー18は、塗布ノズル16の塗料の塗布と停止を切り替える部分である。レバー18は、塗布ノズル16からハンドル17と対向するように延びている。作業者は、塗料の塗布を行うときは、ハンドル17と共にレバー18を握り込む。作業者は、塗料の塗布を停止するときは、レバー18を離して元の位置に復帰させる。なお、レバー18には、前述の切替検出センサ11が設けられている。切替検出センサ11は、レバー18が握り込まれたときには塗料の塗布がONになったことを検出し、レバー18が戻されたときは塗料の塗布がOFFとなった事を検出する。
【0022】
金具19は、塗布ノズル16からハンドル17と離間して対向するように延びると共に、下端側においてハンドル17へ向かって延びて、当該ハンドル17と連結される部分である。金具19は、作業者がレバー18を握るときに、作業者の指と干渉しないように、レバー18を回避するように回り込むように延びている。金具19は、後述のスタンド(
図3参照)に塗装ガン1をセットするときの治具としても機能する。
【0023】
上述のように、塗装ガン1には、距離センサ12、角度センサ13、及び速度センサ14が取り付けられている。これらの距離センサ12、角度センサ13、及び速度センサ14は、作業者によって塗布する際の塗装装置100の状態を検出する検出部として機能する。なお、検出部とは、塗装装置100の状態のうち、塗装対象物Wに対する塗装の品質に影響を及ぼし得る状態を検出する部分である。
【0024】
距離センサ12は、塗布ノズル16と塗装対象物Wとの距離を測定するセンサである。距離センサ12は、塗布ノズル16の基準軸CLを挟むように一対配置される。具体的には、塗布ノズル16の上側には、基準軸CLと直交する方向へ延びる取付板21が設けられる。取付板21は、基準軸CLを水平な状態とし、且つ、基準軸CLが延びる方向から見たときにハンドル17が鉛直方向に延びる状態としたときに、水平方向に延びるように配置される。取付板21は、基準軸CLに対して両側へ延びる。取付板21の一端側に一方の距離センサ12が設けられ、取付板21の他端側に他方の距離センサ12が設けられる。距離センサ12の種類は特に限定されないが、例えばレーザを用いたタイプのセンサが適用されてよい。この場合、距離センサ12は、前方へ向かってレーザを照射し、塗装対象物Wで反射してきたレーザを受信することで、塗装対象物Wとの距離を測定する。なお、距離センサ12は、基準軸CLと平行な方向へレーザを照射する。
【0025】
角度センサ13は、水平方向に対する塗布ノズル16の角度を検出するセンサである。角度センサ13は、基準軸CLの水平方向に対する角度、すなわち作業者が塗布ノズル16を向けている角度を検出する。角度センサ13は、例えばジャイロセンサなどによって構成される。速度センサ14は、塗布ノズル16が移動する速度、すなわち作業者が塗布ノズル16を動かしているときの速度を検出する。速度センサ14は、例えば三軸の加速度センサなどによって構成される。速度センサ14は、検出された加速度に基づいて演算を行うことで速度を検出可能である。このように、速度センサ14は、速度を直接的に検出するもののみに限られず、演算によって間接的に検出できるようなセンサが用いられてもよい。他の検出パラメータについても同様である。角度センサ13及び速度センサ14は、金具19の下端部に設けられる。
【0026】
図1に示すように、制御装置2は、塗装装置100全体を制御する装置である。制御装置2は、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを備え、一般的なコンピュータとして構成されている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの演算器である。メモリは、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。ストレージは、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。通信インターフェースは、データ通信を実現する通信機器である。プロセッサは、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを統括し、後述する機能を実現する。制御装置2では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。制御装置2は、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0027】
制御装置2は、判定部31と、特定部32と、設定部33と、演算部34と、記憶部36と、を備える。
【0028】
判定部31は、距離センサ12、角度センサ13、及び速度センサ14の検出結果に基づいて、塗装装置100の状態を判定する。判定部31は、距離センサ12の検出結果に基づいて、塗布ノズル16が塗装対象物Wに近づきすぎていないか、または遠すぎないかを判定することができる。判定部31は、角度センサ13の検出結果に基づいて、塗布ノズル16が塗装対象物Wに対して傾斜しすぎていないかを判定することができる。判定部31は、速度センサ14の検出結果に基づいて、塗布ノズル16が遅すぎないか、または早すぎないかを判定することができる。
【0029】
特定部32は、塗装作業の作業内容を特定する。特定部32は、入力部3で入力された情報に基づいて、作業内容を特定することができる。設定部33は、特定部32で特定された作業内容に基づいて、当該作業内容に関する指示情報を設定する。特定部32及び設定部33の詳細な処理内容については後述する。
【0030】
演算部34は、制御装置2によって行われる各種演算を行う部分である。記憶部36は、各種情報を記憶しておく部分である。記憶部36は、塗装装置100の状態を判定するために予め設定された基準値(閾値)を記憶することができる。具体的には、記憶部36は、距離センサ12の検出結果に対する距離の閾値、角度センサ13の検出結果に対する角度の閾値、及び速度センサ14の検出結果に対する速度の閾値を予め記憶しておいてよい。また、記憶部36は、判定結果に基づく情報を記憶しておく。また、記憶部36は、設定部33が設定する指示情報を記憶しておく。
【0031】
入力部3は、所定の情報を制御装置2に入力する部分である。作業者は、作業を行う前に、入力部3にて、作業内容や作業条件などを入力することができる。入力部3は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネルなどのインターフェースによって構成される。
【0032】
出力部4は、判定部31に基づく情報を出力する部分である。出力部4は、塗装作業中に情報を出力することができる。塗装作業中に情報を出力する場合、出力部4は、例えばパトランプ(登録商標)やブザーなどによって構成されてよい。例えば、判定部31によって、塗布ノズル16の距離、角度及び速度のいずれかが適切値を超えたことを検出された場合、出力部4は、パトランプの点滅やブザーの音によって、作業者に適正値を超えた旨の情報を伝達する。また、出力部4は、作業が完了した後に情報を出力してもよい。この場合、出力部4は、モニタなどによって構成される。判定部31が、作業開始から作業終了までの間に、塗布ノズル16の距離、角度及び速度のいずれかが適切値を超える箇所があった場合、出力部4はモニタに当該情報を出力する。
【0033】
次に、
図3~
図7を参照して、塗装装置100の動作態様について説明する。
【0034】
図3は、塗装装置100によって塗装が行われる作業現場の一例を示す図である。塗装装置100は、例えば船舶の塗装に特に有効に用いられる。船舶の塗装を行う場合、大容量のタンクの内部空間に作業者が入って塗装作業を行わなくてはならない。このような内部空間は、補強部材などが入り組んだ構造をしている。例えば、
図3に示すように、床51や壁52に対して補強部材53が設けられている。補強部材53は、立ち上がり部53aと、先端部で広がる拡大部53bと、を有する。このような床51、壁52及び補強部材53が塗装対象物Wであるため、塗布ノズル16は、様々な位置や角度から塗料を塗布しなくてはならない。このような作業現場では、工場のラインで小さな部品に対して塗装ロボットで塗装を行うような場合とは異なり、塗装ロボットを持ち込むことが難しい。従って、本実施形態に係る塗装装置100を用いて、作業者の塗装作業を判定しながら塗装作業を行うことが有効になる。
【0035】
図3に示すように、作業現場には、原点出しを行うためのスタンド60が設けられている。このスタンド60は、作業開始時に塗装ガン1をセットするための部材である。スタンド60は、作業現場において塗装装置100の塗装ガン1の基準となる位置、及び基準となる姿勢を決める部材である。スタンド60は、塗装対象物Wである補強部材53の上面における、当該補強部材53の端部付近に設けられている。
【0036】
図4に示すように、スタンド60は、塗装ガン1を配置して保持するためのホルダ61と、ホルダ61を設置場所である補強部材53に取り付ける取付部材62と、処理装置63と、を備える。処理装置63は、作業者によってボタンなどが押されたら、ホルダ61に塗装ガン1が設置されたことを検出すると共に、当該検出結果を制御装置2へ送信する。これにより、判定部31は、塗装ガン1が基準位置にて基準姿勢となっていることを把握する。このとき、判定部31は、角度センサ13の0点調整を行い、当該状態における角度センサ13の検出角度を基準角度とする。また、判定部31は、当該位置を基準位置として、その後の塗装ガン1の移動距離や移動方向を演算する。塗装ガン1がスタンド60から取り外されて、塗装のために移動を行ったら、判定部31は、速度センサ14からの検出結果を用いて演算を行うことで、塗装ガン1が基準位置からどの方向へどの程度の距離を移動したか把握することができる。
【0037】
塗装工程が開始されたら、判定部31は、
図5(a)に示すように、距離センサ12の検出結果に基づいて、塗布ノズル16からの塗装対象物Wの距離L1を判定する。また、判定部31は、角度センサ13の検出結果に基づいて、横方向から見た時の塗布ノズル16の基準角度(ここでは水平)からの角度θ1を判定する。判定部31は、速度センサ14の検出結果に基づいて、塗布ノズル16の速度を判定する。判定部31は、各パラメータについて予め定めておいた閾値と、各センサからの検出結果に基づくパラメータとを比較し、何れかのパラメータが閾値を超えた場合、出力部4のパトライト等で品質低下の可能性を作業者に伝達する。前述のように、これらの閾値は、記憶部36に予め記憶されている。なお、これらの閾値は、標準的な閾値として予め設定されたものがもちいられてもよいが、作業内容に対応するような指示情報を用いる場合、作業内容に合わせて適切に調整された閾値を用いることも可能である。指示情報の詳細については後述する。なお、以下の説明においては、何れかのパラメータが閾値を超えた箇所を、品質低下について注意すべき箇所として「注意箇所」と称する場合がある。このとき、出力部4は、どのパラメータが閾値を超えたかを識別せずに出力してもよいし、識別して出力してもよい。識別する場合は、例えば、パトライトの色を変えることなどによって識別する。なお、判定部31は、切替検出センサ11の検出結果を考慮し、塗布がOFFとされているときは、上記判定を中断してよい。
【0038】
判定部31は、
図5(b)に示すように、速度センサ14の検出結果に基づいて、塗装対象物Wの基準位置SPから所定の位置P1までの塗装長さL2を取得する。判定部31は、速度センサ14がどの方向へどの程度の速度で移動しているかという検出結果を累積的に取得しているため、基準位置SPからの塗装長さL2を演算可能である。これにより、判定部31は、塗布ノズル16による塗装箇所を把握することができる。従って、判定部31は、塗装箇所と上述の注意箇所とを時系列で紐付けて判定することで、塗装対象物Wのどの位置が注意箇所に対応するかを把握することができる。
【0039】
ここで、
図6及び
図7を参照して、一対の距離センサ12が基準軸CLを挟むように両側に設けられていることの効果について説明する。
図6は、距離センサ12が片側にだけ設けられている場合について説明する図である。
図6(a)に示すように、塗装対象物Wに対する塗布ノズル16の横方向の傾斜角度θ2が変動する場合、片側の距離センサ12で検出される距離L1は、実際の塗布ノズル16から塗装対象物Wの距離に対して誤差を有するものとなる。傾斜角度θ2が大きいほど、誤差が大きくなる。また、
図6(b)に示すように、塗装対象物Wの端部付近を塗装する場合、距離センサ12の前方に塗装対象物Wが存在しなくなることで、距離L1を測定できなくなる場合がある。その一方、基準軸CLと略一致する位置に距離センサ12を設けた場合、塗装対象物Wの基準軸CL付近の位置には塗料が一定範囲で塗布された状態となるため、測定を行えない。従って、基準軸CLと略一致する位置には、距離センサ12を設けることができない。
【0040】
これに対し、本実施形態では、距離センサ12が基準軸CLの両側に一対設けられている。
図7(a)に示すように、塗布ノズル16で塗料を噴射した場合、塗装対象物Wでの塗装領域PEは上下方向に長手方向を有するような卵型の形状をなして広がる。従って、一対の距離センサ12は、塗装領域PEの横方向の両側の狭まった位置を測定するように、基準軸CLを挟んで配置される。このとき、両側の距離センサ12の検出距離の平均値を取得することで、傾斜角度θ2が大きくなった場合でも、判定部31は、塗布ノズル16の先端と塗装対象物Wとの距離L1を少ない誤差で測定することができる。また、
図7(b)に示すように、一方の距離センサ12で測定不能となっても、もう一方の距離センサ12で距離を測定することができる。
【0041】
判定部31は、判定結果を順次記憶部36に記憶させる。塗装作業が完了したら、出力部4は、記憶部36に記憶された判定結果をモニタなどに出力してよい。このとき、出力部4は、注意箇所を塗装対象物Wの塗装箇所と紐づけた状態で情報を出力してよい。このとき、どのパラメータが閾値を超えたかを識別して示してもよく、識別せずに示してもよい。あるいは、出力部4は、作業中に注意箇所が何回生じたかなどの情報を出力してよい。
【0042】
なお、作業者は、作業開始前に、入力部3にて、塗装対象物Wの種類など、各種作業条件を入力する。特定部32は、入力部3で入力された条件に基づき、どのような作業がなされるかを示す作業内容を特定する。このとき、特定部32は記憶部36に記憶されたデータを参照し、どのような入力がなられたときに、どのような作業内容となるかを示す情報を取得してよい。また、設定部33は、作業者がどのような作業を行えば良いかを示す指示情報を設定する。例えば、設定部33は、特定部32で特定された作業内容について、角度、速度、及び距離においてどの程度の範囲に抑える必要があるかを指示情報として設定してよい。例えば、指示情報は、塗装位置を塗装対象物Wのある点からある点まで移動させる間に、角度、速度、及び距離の各パラメータをどのような範囲内におさめれば良いかという情報を、塗装位置ごとに有している。例えば、ある塗装位置を塗装する場合は塗布ノズル16をなるべく真っ直ぐにした方がよく、他の塗装位置を塗装する場合は塗布ノズル16を少し傾けた方がいいような場合、指示情報は各塗布位置に合わせて、適切な角度の閾値を作業者に指示することができる。なお、出力部4は、設定部33で設定された指示情報を出力してよい。
【0043】
次に、本実施形態に係る塗装方法について説明する。
【0044】
まず、塗装開始前段階において、塗装ガン1をスタンド60に設置する。これにより、塗装ガン1を基準となる位置にて基準となる姿勢に設定する。これにより、判定部31が、当該位置を基準位置として把握すると共に、各センサの0点調整を行う。その後、塗布工程及び検出工程を行う。塗布工程は、塗布ノズル16から塗装対象物Wへ塗料を塗布する工程である。また、検出工程は、塗装装置100の状態を検出する工程である。塗布工程と検出工程は同時に行われる。塗布工程及び検出工程が行われる一方で、検出工程での検出結果に基づいて、塗装装置100の状態を判定する判定工程が実行される。判定工程は、塗布工程及び検出工程が行われている間、連続的に実行される。また、判定工程での判定結果が出たら、当該判定結果に基づく情報を出力する出力工程が実行される。塗装作業中に判定結果を作業者に伝達する場合、出力工程は、塗布工程及び検出工程の途中で、距離、角度、または速度が閾値を超えたタイミングで実行される。塗装作業後に判定結果を作業者に伝達する場合、出力工程は、塗布工程及び検出工程が終わってから、実行される。
【0045】
次に、本実施形態に係る塗装装置100、及び塗装方法の作用・効果について説明する。
【0046】
本実施形態に係る塗装装置100は、塗装装置100の状態を検出する検出部として機能する距離センサ12、角度センサ13、及び速度センサ14と、各センサの検出結果に基づいて、塗装装置100の状態を判定する判定部31と、を備えている。これにより、作業者が塗装作業を行っているときに、判定部31は、塗装装置100による塗装作業の中で、塗装の品質を低下させるような状態となっていないかを判定することができる。そして、塗装装置100は、判定部31に基づく情報を出力する出力部4を備えている。従って、出力部4は、作業者に対して、塗装作業中における判定結果を伝達することができる。これにより、作業者は、当該判定結果に基づいて、塗装の品質を高めるような塗装作業を行うことができる。以上により、塗装対象物Wに対する塗装の品質を向上できる。
【0047】
出力部4は、塗装作業中に情報を出力する。この場合、塗装装置100が塗装の品質を低下させるような状態となったタイミングで、作業者は、リアルタイムに当該状態を知ることができる。これにより、作業者は、塗装の品質を高めることができるように塗装装置100の状態を修正することができる。
【0048】
塗装装置100は、判定部31に基づく情報を記憶しておく記憶部36を更に備え、出力部4は、塗装作業終了後に情報を出力する。この場合、塗装作業が終わった後に、記憶部36に記憶された判定部31に基づく情報を有効に活用することができる。作業者は、自身の作業内容を見直すことができるため、次の塗装作業を行う時に、塗装の品質を高めるような塗装作業を行うことができる。
【0049】
塗装装置100は、塗装作業の作業内容を特定する特定部32と、特定部32で特定された作業内容に基づいて、当該作業内容に関する指示情報を設定する設定部33と、を更に備える。この場合、作業者は、塗装作業を行う前段階において、これから実行する塗装作業の作業内容に関する指示情報を知ることができるため、塗装の品質を高めるような塗装作業を行うことができる。
【0050】
検出部として、塗布ノズル16と塗装対象物Wとの距離を測定する距離センサ12が少なくとも一対備えられ、一対の距離センサ12は、塗布ノズル16の基準軸CLを挟むように配置される。この場合、塗布ノズル16が塗装対象物Wに対して傾いたとしても、基準軸CLを挟むように配置された一対の距離センサ12の検出結果に基づくことで、基準軸CLにおける塗布ノズル16と塗装対象物Wとの距離L1を検出する事が可能となる。また、塗装対象物Wの端部などにおいて、一方の距離センサ12での距離検出が不能になったとしても、他方の距離センサ12によって距離を検出することができる。
【0051】
本実施形態に係る塗装方法は、作業者によって塗装対象物Wに塗料を塗布する塗装方法であって、塗装装置100で塗装対象物Wへ塗料を塗布する塗布工程と、塗装装置100の状態を検出する検出工程と、検出工程での検出結果に基づいて、塗装装置100の状態を判定する判定工程と、判定工程の判定結果に基づく情報を出力する出力工程と、を備える。
【0052】
この塗装方法によれば、上述の塗装装置100と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0053】
塗装方法では、塗装装置100の塗装ガン1を基準となる位置にて基準となる姿勢に設定した後、検出工程を開始する。この場合、判定工程では、これらの基準位置及び基準姿勢を考慮して、塗装作業を判定することができる。
【0054】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、塗装装置は、少なくとも塗装ガンと、判定部と、出力部を備えていればよく、特定部、設定部などは適宜省略してよい。
【0056】
また、塗装装置は、距離センサ、角度センサ、速度センサの全てを備えている必要はなく、少なくとも一つを有していればよい。
【0057】
また、塗装対象物は、上述のような船舶に限定されず、様々な構造物を塗装対象物としてもよい。
【符号の説明】
【0058】
4…出力部、16…塗布ノズル(塗布部)、12…距離センサ(検出部)、13…角度センサ(検出部)、14…速度センサ(検出部)、31…判定部、32…特定部、33…設定部、36…記憶部、100…塗装装置。