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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】プロセスチーズ類及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/082 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
A23C19/082
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019151915
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2020108368
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018247360
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】中田 創
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 まなみ
(72)【発明者】
【氏名】川上 真理
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-197690(JP,A)
【文献】特開2008-118856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼイン加水分解物を含む原料組成物を加熱乳化して加熱乳化物を得る工程を有し、
前記カゼイン加水分解物が、下記の(1)および(2)の理化学的性質を有する、プロセスチーズ類(但し、水相が連続相である複数の食品を、それぞれが個別に存在する形態で組み合わせた組み合わせ食品を除く)の製造方法。
(1)下記の分子量分布を有する。
10000ダルトン超:20~50%
5000ダルトン超10000ダルトン以下:10~25%
1000ダルトン超5000ダルトン以下:15~35%
1000ダルトン以下:10~30%
(2)トリニトロベンゼンスルホン酸法による分解率が1~5%である。
【請求項2】
ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方、カゼイン加水分解物、溶融塩、並びに水を含む原料組成物を加熱乳化して加熱乳化物を得る工程と、
前記加熱乳化物を冷却固化し、プロセスチーズ類とする工程と、を有する、請求項1に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項3】
前記カゼイン加水分解物のトリニトロベンゼンスルホン酸法による分解率が2.3~3.5%である、請求項1または2に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項4】
前記プロセスチーズ類は、蛋白質増加率が0質量%を超え、70質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項5】
前記加熱乳化物の粘度が30000mPa・s未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセスチーズ類の製造方法。
【請求項6】
ナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物を含み、
前記カゼイン加水分解物が、下記の(1)および(2)の理化学的性質を有する、プロセスチーズ類(但し、水相が連続相である複数の食品を、それぞれが個別に存在する形態で組み合わせた組み合わせ食品を除く)。
(1)下記の分子量分布を有する。
10000ダルトン超:20~50%
5000ダルトン超10000ダルトン以下:10~25%
1000ダルトン超5000ダルトン以下:15~35%
1000ダルトン以下:10~30%
(2)トリニトロベンゼンスルホン酸法による分解率が1~5%である。
【請求項7】
前記カゼイン加水分解物のトリニトロベンゼンスルホン酸法による分解率が2.3~3.5%である、請求項6に記載のプロセスチーズ類。
【請求項8】
前記プロセスチーズ類は、蛋白質増加率が0質量%を超え、70質量%以下である、請求項6または7に記載のプロセスチーズ類。
【請求項9】
前記プロセスチーズ類の10℃における破断応力が315000Pa以下である、請求項6~8のいずれか一項に記載のプロセスチーズ類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスチーズ類及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質は体作りや健康維持のために重要な栄養成分である。
プロセスチーズは蛋白質を豊富に含み、比較的長期間保存できるため、蛋白質を補給するのに有効な食品として注目されている。
【0003】
プロセスチーズは、概略、原料のナチュラルチーズ等に溶融塩を添加し、加熱乳化した後、冷却および成形する方法で製造される。
プロセスチーズ類の蛋白質含量を高めるため、プロセスチーズ類の製造時に、乳蛋白質濃縮物、乳清蛋白質濃縮物等の蛋白質含有原料を配合する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-121609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、加熱乳化時の粘度が低くなり、得られる高蛋白のプロセスチーズ類の食感が柔らかくなり、良い効果が得られることは判明している。しかしながら、一般的にプロセスチーズ類の蛋白質含量を高める場合には、加熱乳化時の粘度は可及的に低いほうが好ましく、得られるプロセスチーズ類の食感も可及的に柔らかいほうが好ましい。加熱乳化時の粘度が低くなると、乳化のための撹拌がより容易になり、プロセスチーズ類の製造がより容易になる。従って、さらに加熱乳化時の粘度が低く、柔らかく、かつ食感が良い、高蛋白のプロセスチーズ類が待望されていた。
【0006】
本発明の一態様は、蛋白質含有量が高くても、加熱乳化時の粘度がより低く、また、より柔らかく食感に優れるプロセスチーズ類およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]カゼイン加水分解物を含む原料組成物を加熱乳化して加熱乳化物を得る工程を有する、プロセスチーズ類の製造方法。
[2]ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方、カゼイン加水分解物、溶融塩、並びに水を含む原料組成物を加熱乳化して加熱乳化物を得る工程と、
前記加熱乳化物を冷却固化し、プロセスチーズ類とする工程と、を有する、[1]のプロセスチーズ類の製造方法。
[3]前記カゼイン加水分解物が、下記の(1)および(2)の理化学的性質を有する、[2]のプロセスチーズ類の製造方法。
(1)下記の分子量分布を有する。
10000ダルトン超:20~50%
5000ダルトン超10000ダルトン以下:10~25%
1000ダルトン超5000ダルトン以下:15~35%
1000ダルトン以下:10~30%
(2)トリニトロベンゼンスルホン酸法による分解率が1~5%である。
[4]前記プロセスチーズ類は、蛋白質増加率が0質量%を超え、70質量%以下である、[1]~[3]のいずれかのプロセスチーズ類の製造方法。
[5]前記加熱乳化物の粘度が30000mPa・s未満である、[1]~[4]のいずれかのプロセスチーズ類の製造方法。
[6]ナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物を含む、プロセスチーズ類。
[7]前記カゼイン加水分解物が、下記の(1)および(2)の理化学的性質を有する、[6]のプロセスチーズ類。
(1)下記の分子量分布を有する。
10000ダルトン超:20~50%
5000ダルトン超10000ダルトン以下:10~25%
1000ダルトン超5000ダルトン以下:15~35%
1000ダルトン以下:10~30%
(2)トリニトロベンゼンスルホン酸法による分解率が1~5%である。
[8]前記プロセスチーズ類は、蛋白質増加率が0質量%を超え、70質量%以下である、[6]または[7]のプロセスチーズ類。
[9]前記プロセスチーズ類の10℃における破断応力が315000Pa以下である、[6]~[8]のいずれかのプロセスチーズ類。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプロセスチーズ類の製造方法によれば、蛋白質含有量が高くても、加熱乳化時の粘度がより低く、また、より柔らかく食感に優れるプロセスチーズ類が得られる。
本発明のプロセスチーズ類は、蛋白質含有量が高くても、加熱乳化時の粘度がより低く、また、より柔らかく食感に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「プロセスチーズ類」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、および公正競争規約で定めるプロセスチーズ、チーズフード、または乳等を主要原料とする食品の規格のうちいずれかに該当するものであって、一般にプロセスチーズ類あるいはプロセスチーズ様食品とされるものをすべて包含するものとする。
【0010】
本発明において、カゼイン加水分解物の分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した値である(宇井信生ら編、「タンパク質・ペプチドの高速液体クロマトグラフィー」、化学増刊第102号、第241頁、株式会社化学同人、1984年)。詳しくは後述する実施例に記載のとおりである。
本発明において、カゼイン加水分解物の分解率は、トリニトロベンゼンスルホン酸(以下、「TNBS」とも記す。)法により測定した値である。詳しくは後述する実施例に記載のとおりである。
【0011】
本発明において、蛋白質含有量の値は、デュマ法(酸素循環燃焼方式)によって測定した値である。例えば分析機器SUMIGRAPH NC-220F(住化分析センター社製)を用い、下記の測定条件で測定できる。
電気炉温度:反応炉870℃、還元炉:600℃
酸素パージ:0.2±0.02L/min
カラム温度:70±5℃
検出器:検出器温度:100℃、CURRENT:160mA
キャリアーガス:カラム温度70±5℃の時にヘリウム流量80±5mL/min
構成基準物質:Aspartic acid
測定試料量:500±100mg
基準物質量:500±100mg
【0012】
本発明において、水分含有量の値は、常圧加熱・乾燥助剤法により測定した値である。具体的には、試料の採取量は3gとし、乾燥温度105℃で乾燥させて恒量(乾燥後の質量)を得、下記式によって水分含有量(単位:質量%)を求める。
水分含有量={(乾燥前の質量-乾燥後の質量)/乾燥前の質量}×100
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0014】
≪プロセスチーズ類の製造方法≫
本発明のプロセスチーズ類の製造方法は、カゼイン加水分解物を含む原料組成物を加熱乳化して加熱乳化物を得る工程を有する。より好適には、ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方、カゼイン加水分解物、溶融塩、並びに水を含む原料組成物を加熱乳化して加熱乳化物を得る工程(加熱乳化工程)と、前記加熱乳化物を冷却固化し、プロセスチーズ類とする工程(固化工程)と、を有する。
プロセスチーズ類にその他の成分を含有させる場合は、加熱乳化前または加熱乳化の途中で原料組成物にその他の成分を含有させる。
プロセスチーズ類に副原料を含有させる場合は、加熱乳化前または加熱乳化の途中で原料組成物に副原料を添加してもよく、加熱乳化後、固化させる前の加熱乳化物に副原料を添加してもよい。
【0015】
<ナチュラルチーズ>
本発明において使用されるナチュラルチーズは、乳等省令において定められる「ナチュラルチーズ」の1種以上からなる。ただし、ナチュラルチーズの原料である乳は、乳等省令で定義される乳(生乳、牛乳、特別牛乳、生やぎ乳、生めん羊乳、殺菌やぎ乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳等)のほかに、水牛の乳、ラクダの乳など、チーズの原料として公知の動物一般の乳も含むことができる。
ナチュラルチーズの種類は特に限定されず、プロセスチーズ類の製造に用いられる公知のナチュラルチーズを適宜使用できる。
具体例としては、モッツァレラ、ストリング、エダム(ソフトエダム)、ステッペン、サムソー、マリボー、エグモント、チルジット、ダンボー、ロックフォール、ブルー、クリームハバティ等の半硬質チーズ;エダム(ハードエダム)、ゴーダ、チェダー、エメンタール、グリィエール、プロボローネ等の硬質チーズ;パルメザン、グラナ、パルミジャーノレッジャーノ、ペコリーノ・ロマーノ、スブリンツ等の特別硬質チーズ等が挙げられる。
これらのうち、製造上の調整およびチーズ組織の適正化が容易である点で、硬質チーズまたは特別硬質チーズが好ましい。
ナチュラルチーズは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
<レンネットカゼイン>
本発明のプロセスチーズ類の製造方法において、ナチュラルチーズの一部または全量は、レンネットカゼインに置換することができる。本発明において使用されるレンネットカゼインは、脱脂乳等にレンネットを加えてカードを形成させた後、ホエイを除去して得られるものであり、一般的には乾燥して粉末化されたものである。本発明におけるレンネットカゼインとしては、市販品を使用することができる。
【0017】
<カゼイン加水分解物>
カゼイン加水分解物は、カゼインを含む原料(以下、「カゼイン原料」とも記す。)を加水分解処理したものであり、カゼインの加水分解により生成したペプチドおよび遊離アミノ酸を含む。カゼイン加水分解物は、水分、乳糖、脂肪、ミネラル等を含んでいてもよい。
カゼイン加水分解物の蛋白質含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0018】
カゼイン加水分解物は、下記の(1)および(2)の理化学的性質を有することが好ましい。
(1)下記の分子量分布を有する。
10000ダルトン超:20~50%
5000ダルトン超10000ダルトン以下:10~25%
1000ダルトン超5000ダルトン以下:15~35%
1000ダルトン以下:10~30%
(2)TNBS法による分解率が1~5%である。
【0019】
前記分子量分布を満たし、前記分解率が1%以上であるカゼイン加水分解物は、加熱乳化物の粘度を増加させにくい。また、前記分子量分布を満たし、前記分解率が5%以下であるカゼイン加水分解物は苦味が少ないので、蛋白質含有量を高めるためにカゼイン加水分解物の配合量を増やしても、得られるプロセスチーズ類の風味が良好である。
前記分子量分布は、10000ダルトン超が30~50%、5000ダルトン超10000ダルトン以下が10~20%、1000ダルトン超5000ダルトン以下が15~30%、1000ダルトン以下が15~25%であることがより好ましい。
前記分解率は、1~5%であることが好ましく、1.1~5%であることがより好ましく、1.1~3.5%であることがさらに好ましい。
【0020】
前記分子量分布において、分子量10000ダルトン超の画分の割合は、分子量分布曲線における全面積(分子量分布曲線とベースラインに囲まれた領域の合計面積)のうち、分子量が10000ダルトンを超える領域の面積の割合である。他の分子量画分の割合も同様である。
前記分子量分布および分解率は、カゼイン原料を加水分解処理する際の反応条件(反応温度、反応時間、酵素添加量等)を調整してカゼインの加水分解の程度を調整することにより調整できる。
【0021】
カゼイン加水分解物は、数平均分子量が500~2000であることが好ましく、数平均分子量が700~1500であることがより好ましい。数平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、加熱乳化物の粘度がより低くなる。数平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、得られるプロセスチーズ類の風味がより優れる。
【0022】
カゼイン加水分解物の平均分子量は、高速液体クロマトグラフィーにより測定される数平均分子量である。数平均分子量は、分子量分布から以下の概念により求める。分子量分布の測定方法は前記のとおりである。
数平均分子量(Number Average of Molecular Weight)は、例えば文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116~119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されているとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。すなわち、蛋白質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、蛋白質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要がある。数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の数式(1)により定義される。
【0023】
【数1】
【0024】
カゼイン加水分解物としては、市販品を用いてもよく、カゼイン原料を加水分解処理して調製したものを用いてもよい。
【0025】
カゼイン原料はカゼインを含み、水分、乳糖、脂肪、ミネラル等を含んでいてもよい。
カゼイン原料としては、市販品、又は牛乳、脱脂乳等から公知の方法により分離された乳酸カゼイン、硫酸カゼイン、塩酸カゼイン等の酸カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインカルシウム等のカゼイン塩、又はこれらの任意の混合物が挙げられる。
カゼイン原料の固形分(100質量%)のうちカゼインの割合(以下、「カゼイン含量」ともいう。)は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。カゼイン含量が前記下限値以上であれば、蛋白含量の高いカゼイン加水分物が得られ、製造効率が優れる。
【0026】
加水分解処理としては、蛋白分解酵素による酵素分解処理が好ましい。
蛋白質分解酵素としては、蛋白質を加水分解可能なものであればよく、容易に市販品が入手可能な点から、動物由来プロテアーゼ、バシラス由来プロテアーゼ、アスペルギルス由来プロテアーゼ、植物由来プロテアーゼ及び乳酸菌由来プロテアーゼからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
蛋白質分解酵素は、食品衛生上無害な市販品であってよい。動物由来プロテアーゼとしては、PTN6.0S(ノボザイムズ社製)、パンクレアチン×4.0滅菌品(天野エンザイム社製)、ペプシン(天野エンザイム社製)等が例示される。バシラス由来プロテアーゼとしては、プロテアーゼNアマノ(天野エンザイム社製)、ニュートラーゼ(ノボザイムズ社製)、ビオプラーゼSP-20(ナガセケムテックス社製)等が例示される。アスペルギルス由来プロテアーゼとしては、プロテアーゼAアマノ(天野エンザイム社製)、プロテアックス(天野エンザイム社製)、フレーバーザイム(ノボザイムズ社製)、スミチームMP(新日本化学社製)等が例示される。植物由来プロテアーゼとしては、パパインW-40(天野エンザイム社製)等が例示される。乳酸菌由来プロテアーゼとしては、FC-H(森永乳業社製)等が例示される。
蛋白質分解酵素は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
蛋白質分解酵素として、固定化酵素を使用することもできる。
【0027】
カゼイン原料の酵素分解処理は、バッチ処理により行ってもよく、連続処理により行ってもよい。
カゼイン原料の酵素分解処理方法の一例として、カゼイン原料を用いてカゼイン溶液を調製し、前記カゼイン溶液に蛋白質分解酵素を添加し、前記蛋白質分解酵素の至適温度で保温する方法が挙げられる。この方法では、保温時にカゼインの加水分解が進行する。酵素の添加量および保温時間によって、分子量や分解度を調整できる。
【0028】
カゼイン原料は、水又は温湯に分散し、必要に応じて水酸化ナトリウム等のアルカリ剤を添加して、溶解する。
カゼイン溶液の固形分濃度は格別の制限はないが、蛋白質換算で25質量%以下が好ましく、5~20質量%がより好ましい。蛋白質換算の濃度が25質量%以下であれば、分解効率の低下、加熱処理時の焦付き、冷却時の粘度上昇等の不具合が生じにくい。蛋白質換算の濃度が5質量%以上であれば、カゼイン加水分解物の製造上の効率が良好である。
【0029】
カゼイン溶液に蛋白質分解酵素を添加する前に、必要に応じて、酸やアルカリの溶液を用いて、カゼイン溶液のpHを蛋白質分解酵素の至適pHに調整する。蛋白質分解酵素の至適pHは、例えば3.0以上10.0以下である。
【0030】
蛋白質分解酵素は、一括又は適宜の間隔で乳蛋白質溶液に添加することができる。
蛋白質分解酵素の至適温度は、例えば30~70℃、好ましくは40~60℃である。
保温時間は、例えば10分間~24時間、好ましくは30分間~12時間である。保温中、至適pHを維持するため、カゼイン溶液のpHを適宜調整することもできる。
蛋白質分解酵素の添加量、保温時の温度、保温時間等の反応条件は、前記した(1)および(2)の理化学的性質を有するカゼイン加水分解物が得られるように設定することが好ましい。
【0031】
上記のようにして、カゼイン原料の酵素分解物を含むカゼイン加水分解物溶液が得られる。保温後、必要に応じて、カゼイン加水分解物溶液を加熱処理して酵素を失活させる。
加熱処理は、常法により行うことができる。加熱処理条件(温度及び時間)は、使用した蛋白質分解酵素の熱安定性に配慮し、充分に失活できる条件を適宜設定することができ、例えば80~135℃、30分間~2秒間の条件が挙げられる。加熱処理後のカゼイン加水分解物溶液は、常法により冷却する。
カゼイン加水分解物の分解率は、使用する酵素の添加量や分解時間等の条件を適宜設定することにより調整できる。
【0032】
得られたカゼイン加水分解物溶液は、このままプロセスチーズ類の製造に使用することも可能であり、また、必要に応じて、この溶液を公知の方法により濃縮した濃縮液、更に、この濃縮液を公知の方法により乾燥した粉末として使用することもできる。
【0033】
<溶融塩>
本発明において使用される溶融塩は、チーズの分野において公知の溶融塩を適宜使用できる。溶融塩は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
溶融塩の具体例としては、モノリン酸塩(オルトリン酸ナトリウム等)、ジリン酸塩(ピロリン酸ナトリウム等)、ポリリン酸塩(ポリリン酸ナトリウム等)等のリン酸塩;クエン酸塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等);等が挙げられる。
【0034】
<その他の成分>
その他の成分として、プロセスチーズ類において公知の植物油脂、調味料、保存料、増粘安定剤(またはゲル化剤)、溶融塩以外の乳化剤、pH調整剤、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。
植物油脂としては、パーム油、パーム核油、やし油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サンフラワー油等が挙げられる。
調味料としては、食塩、糖質類、香辛料等が挙げられる。
保存料としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、ナイシン等が挙げられる。
増粘安定剤(またはゲル化剤)としては、寒天、ゼラチン、ローカストビーンガム、カラギーナン、グアガム、キサンタンガム等が挙げられる。
溶融塩以外の乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、グリセライド類等が挙げられる。
pH調整剤としては、重曹、乳酸等が挙げられる。
【0035】
その他の成分として、ナチュラルチーズ、レンネットカゼインおよびカゼイン加水分解物以外の他の蛋白質含有原料を、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。
他の蛋白質含有原料は蛋白質を40質量%以上含むものが好ましい。
他の蛋白質含有原料は粉末状であることが好ましい。
他の蛋白質含有原料の例としては、乳蛋白質濃縮物、大豆蛋白質含有原料等が挙げられる。乳蛋白質濃縮物としては、乳清蛋白質濃縮物(WPC)、乳清蛋白質分離物(WPI)、乳蛋白質濃縮物(MPC)、乳蛋白質分離物(MPI)、ミセラカゼイン濃縮物(MCC)、ミセラカゼイン分離物(MCI)、およびカゼイネート等が挙げられる。カゼイネートは、カゼインを酸沈殿させ、アルカリで溶解して塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等)の形態にしたものである。他の蛋白質含有原料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。規格により許容される原料を適宜選択して適量使用すればよい。
【0036】
<副原料(具材)>
プロセスチーズ類は、原料組成物の加熱乳化物を固化してなるプロセスチーズ部分とは別に、副原料を含んでもよい。プロセスチーズ類において副原料は、均一なプロセスチーズ部分中に不均一な具材として存在するものである。副原料の例としては、肉類(例えば、サラミ等の食肉加工品)、魚介類(例えば水産加工品)、野菜、アーモンド等の植物の種子等の食品を粉砕した食品粉砕物;七味唐辛子や粉山葵等の粉末食品;明太子等のペースト状食品;ソースやシロップ等の液状食品が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
<加熱乳化工程>
加熱乳化工程は、具体的には、原料組成物を構成する各原料を乳化機に投入して加熱乳化する。加熱乳化は、原料組成物を撹拌しながら加熱処理を行う工程であり殺菌工程も兼ねる。加熱処理は、好ましくは直接または間接蒸気を用いて行われる。乳化機は、例えば、高速せん断型、ケトル型、2軸スクリューをもつクッカー型、サーモシリンダー型等の乳化機を用いることができる。
【0038】
ナチュラルチーズ、レンネットカゼインおよびカゼイン加水分解物の配合量は、製造するプロセスチーズ類の乳固形分、蛋白質含有量、食感、風味、製造適性等を考慮して設定される。
プロセスチーズ類として、乳等省令で定義されるプロセスチーズを製造する場合には、固化工程後の乳固形分が40質量%以上となるように設定される。
本発明の製造方法により製造するプロセスチーズ類の蛋白質含有量は、8~45質量%以上であることが好ましく、8~35質量%であることがより好ましく、20~35質量%であることがさらに好ましく、20質量%を超え、35質量%以下であることがとくに好ましく、23~30質量%であることが最も好ましい。蛋白質含有量が前記範囲の下限値以上であれば、蛋白質含有量を高めていない一般的なプロセスチーズ類に比べて蛋白質含有量が充分に高められており、従来の商品と差別化しやすい。蛋白質含有量が前記範囲の上限値以下であれば、プロセスチーズ類の食感や風味がより優れる。
【0039】
本発明では、カゼイン加水分解物を配合することによってプロセスチーズ類の蛋白質含有量を増加することができる。この増加の程度を示す指標としては蛋白質増加率が推奨される。蛋白質増加率は、プロセスチーズ類の全蛋白質量において、ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方に由来する蛋白質以外の蛋白質の量が占める割合で示される。すなわち、プロセスチーズ類中の全蛋白質の量(質量%)をXとし、ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方に由来する蛋白質の量をY(質量%)とした場合に、下記式により表すことができる。
蛋白質増加率(質量%)={(X-Y)/X}×100
【0040】
この蛋白質増加率は、0質量%を超えることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、27質量%以上であることがとくに好ましく、27.4%以上であることが最も好ましい。蛋白質増加率が前記範囲の下限値を越えるか下限値以上であれば、プロセスチーズ類の蛋白質含有量をより高めることができる。
上限値はとくに制約されないが、蛋白質増加率は70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、57質量%以下であることがさらに好ましい。蛋白質増加率が前記範囲の上限値以下であれば、プロセスチーズ類の破断応力が低くなり、より柔らかい食感が得られる。また、カゼイン加水分解物に由来する苦味を抑制でき、プロセスチーズ類の風味がより優れる。
【0041】
なお、蛋白質含有量の増加の程度を示す指標として、蛋白質増加量に代えて、ナチュラルチーズ、レンネットカゼインおよびカゼイン加水分解物の合計質量に対するカゼイン加水分解物の割合を用いてもよい。
【0042】
蛋白質含有量の増加の程度を示す指標として、蛋白質増加量に代えて、より単純な増加百分率を用いてもよい。増加百分率は、プロセスチーズ類の全蛋白質の量の、ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方に由来する蛋白質の量に対する割合で示される。すなわち、プロセスチーズ類中の全蛋白質の量(質量%)をXとし、ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方に由来する蛋白質の量(質量%)をYとした場合に、下記式により表すことができる。
増加百分率(質量%)={X/Y}×100
【0043】
この増加百分率は、100質量%を超えることが好ましく、110質量%以上であることがより好ましく、120質量%以上であることがさらに好ましく、130質量%以上であることがとくに好ましく、138質量%以上、とくに138質量%を越えることが最も好ましい。
上限値はとくに制約されないが、増加百分率は333質量%以下であることが好ましく、250質量%以下であることがより好ましく、230質量%以下であることがさらに好ましい。
ただし、ナチュラルチーズに由来する蛋白質以外の蛋白質の量が把握しやすい点で、増加百分率よりも蛋白質増加率のほうが指標としては好適であると考えられる。
【0044】
溶融塩の配合量は、原料組成物の総質量に対し、0.1~3.0質量%が好ましく、0.5~2.5質量%がより好ましい。溶融塩の配合量が前記範囲の下限値以上であれば、溶融塩の添加による乳化性の向上効果が充分に得られやすい。溶融塩の配合量が前記範囲の上限値以下であれば、溶融塩の添加による風味の低下が充分に抑えられる。
原料組成物の総質量とは、ナチュラルチーズ及びレンネットカゼインの一方または両方、カゼイン加水分解物、溶融塩、水、並びにその他の成分の合計である(その他の成分の含有量が0質量%である場合も含む)。副原料を用いる場合、副原料の質量は、原料組成物の総質量には含まれない。
【0045】
水の配合量は、加熱乳化工程を終えた時点での加熱乳化物の水分含有量を考慮して設定される。乳化機においてスチーム(蒸気)を用いる場合は、原料組成物がスチームと接触することによって増加する水分も、加熱乳化物の水分含有量に含まれる。
【0046】
他の蛋白質含有原料の配合量は、原料組成物の総重量に対し、5質量%以下が好ましく、0質量%が特に好ましい。すなわち原料組成物が他の蛋白質原料を含まないことが特に好ましい。
【0047】
加熱乳化の条件は特に限定されない。例えば、回転数120~1500rpmで撹拌しながら、加熱して乳化するとともに、所定の加熱殺菌条件を満たしたら、乳化を終了させる。加熱温度は70℃以上が好ましく、80~90℃がより好ましい。
【0048】
加熱乳化物の水分含有量は、20~65質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがより好ましく、40~58質量%であることがさらに好ましい。加熱乳化物の水分含有量が前記範囲の下限値以上であれば、加熱乳化物の粘度を低く抑えて良好な乳化状態を得ることができる。加熱乳化物の水分含有量が前記範囲の上限値以下であれば、加熱乳化物の取り扱いが容易である。また、固化工程で大きく変形することを抑制できる。
【0049】
加熱乳化物の粘度は、30000mPa・s未満が好ましく、22000mPa・s以下がより好ましい。加熱乳化物の粘度が前記上限値以下であれば、乳化のための撹拌がより容易である。
加熱乳化物の粘度は、加熱乳化物の取り扱い性の点では、100mPa・s以上が好ましく、500mPa・s以上がより好ましい。
加熱乳化物の粘度は、80℃における値である。
加熱乳化物の粘度は、単一円筒型回転粘度計(B型粘度計)により測定される。詳しくは、後述する実施例に記載の方法により測定される。
【0050】
<固化工程>
固化工程では、加熱乳化工程で得られた加熱乳化物を冷却固化する。
固化工程において、必要に応じて、加熱乳化物を冷却固化した後に、または冷却固化しながら、水分の除去を行ってもよい。
【0051】
固化工程において加熱乳化物を所望の形状に成形することが好ましい。成形は加熱乳化物を冷却する前、または冷却の途中で行うことが好ましい。
成形は公知の方法を用いて行うことができる。例えば、ケーシングに加熱乳化物を充填する方法で成形し、この状態で冷却固化を行うことが好ましい。
ケーシングの材質は、水分の除去を行う場合には、通気性を有するとともに、食品衛生法に適合したものを用いる。具体例としては、植物繊維から作ったセルロース、プラスチック系の塩化ビニリデン、牛皮から作った再生コラーゲン等が挙げられる。
【0052】
水分の除去を行う場合には、所定温度(乾燥温度)の環境下で自然乾燥する方法、またはファン等を用いて強制乾燥する方法で行うことが好ましい。
乾燥温度はプロセスチーズ類が凍結しない温度であればよい。
好ましくは、加熱乳化物を25℃~60℃で乾燥させる。乾燥温度が25℃以上であれば、乾燥後の表面が硬くなりやすく良好な強度が得られやすい。乾燥温度が60℃以下であれば、乾燥中に変形が生じ難い。
加熱乳化物を25℃~60℃で乾燥させた後、冷却庫内で冷却しながらさらに乾燥させることが好ましい。具体的に、目的とするプロセスチーズ類の水分含有量をW(質量%)とするとき、加熱乳化物を25℃~60℃で、W+1~W+3(質量%)程度まで乾燥させた後、冷却庫内で水分含有量W(質量%)となるまで乾燥させることが好ましい。冷却庫内での乾燥温度は-2~10℃が好ましい。冷却庫内での乾燥は自然乾燥でもよく強制乾燥でもよい。
【0053】
こうして、加熱乳化物が冷却固化されプロセスチーズ類が得られる。
ケーシング内に充填した状態で冷却固化されたプロセスチーズ類を製品化する際は、ケーシング内に充填されたままの状態でもよく、ケーシングから取り出した後に適宜な大きさに切断又はシュレッドしてもよい。
【0054】
≪プロセスチーズ類≫
本発明のプロセスチーズ類は、ナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物を含む。ナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物としては、ナチュラルチーズの製造に用いられた微生物由来の蛋白質分解酵素とは異なる蛋白質分解酵素によりカゼインが加水分解された加水分解物(例えば、カゼインの動物由来プロテアーゼ、バシラス由来プロテアーゼ、アスペルギルス由来プロテアーゼ、植物由来プロテアーゼ及び乳酸菌由来プロテアーゼ加水分解物)を例示することができる。
本発明のプロセスチーズ類は、ナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物を含むので、原料のナチュラルチーズに比べて、乳固形分当たりの蛋白質含有量が多い。
ナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物としては、前記したカゼイン加水分解物が挙げられ、前記(1)および(2)の理化学的性質を有するものが好ましい。
【0055】
本発明のプロセスチーズ類は、ナチュラルチーズに由来するカゼイン加水分解物を含んでいてもよい。
プロセスチーズ類の原料のナチュラルチーズには、カゼイン加水分解物を含むものがある。例えば、熟成工程を経て得られる熟成チーズ(ブルー、エダム、ゴーダ、チェダー、パルミジャーノレッジャーノ等)は通常、カゼイン加水分解物を含む。ナチュラルチーズがカゼイン加水分解物を含む場合、これを用いたプロセスチーズ類は、ナチュラルチーズに由来するカゼイン加水分解物を含む。
本発明のプロセスチーズ類は、レンネットカゼインに由来するカゼイン加水分解物を含んでいてもよい。ただし、レンネットカゼインに由来するカゼイン加水分解物は含まれていても僅かであると考えられる。
【0056】
本発明のプロセスチーズ類の蛋白質含有量は、8~35質量%であることが好ましく、20~35質量%であることがより好ましく、20質量%を超え35質量%以下であることがさらに好ましく、23.9~30質量%であることがとくに好ましい。蛋白質含有量が前記範囲の下限値以上であれば、蛋白質含有量を高めていない一般的なプロセスチーズ類に比べて蛋白質含有量が充分に高められており、従来の商品と差別化しやすい。蛋白質含有量が前記範囲の上限値以下であれば、プロセスチーズ類の食感や風味がより優れる。
プロセスチーズ類の固形分に対する蛋白質の割合は35~60質量%であることが好ましく、40~55質量%であることがより好ましい。
【0057】
本発明のプロセスチーズ類の10℃における破断応力は、100000~315000Paであることが好ましく、この場合は310700Pa未満であればより好ましい。また、100000~300000Paであることがさらに好ましい。破断応力が前記範囲内であれば、プロセスチーズ類の食感がより優れる。
【0058】
本発明のプロセスチーズ類は、プロセスチーズ部分のみからなるものであってもよく、プロセスチーズ部分と、プロセスチーズ部分中に不均一に存在する副原料とからなるものであってもよい。プロセスチーズ部分はナチュラルチーズに由来しないカゼイン加水分解物を含む。プロセスチーズ類が副原料を含む場合、前記した蛋白質含有量は、プロセスチーズ部分の値である。
【0059】
本発明のプロセスチーズ類は、例えば、前記した本発明のプロセスチーズ類の製造方法により製造できる。
【0060】
本発明のプロセスチーズ類は、一般的なプロセスチーズ類に比較して蛋白質の含有量が高められており、同じ使用量でもより多くの蛋白質を摂取することができる。
本発明のプロセスチーズ類は種々の用途に使用できる。例えば、グラタン、パスタ、ピザといったチーズ使用料理;チーズウィンナ一、チーズちくわのような畜肉、魚肉練り製品;おつまみ、お菓子、サラダ、カレー、牛丼のトッピング、サンドイッチ、おにぎりの具、ドレッシング、ディップソースの原料;チーズチキンカツ、チーズカツ、ゼッポリーネ、てんぷらなどの揚げ物;チーズつくね、チーズハンバーグ、チーズオムレツといったチーズ入り料理;その他のチーズを使用する料理において、当該チーズの一部又は全部を本発明のプロセスチーズ類に置き換えて使用することができる。使用の際は、適宜な大きさにカット、シュレッド等に裁断してもよく、削って粉状にしてもよい。
【実施例
【0061】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0062】
(分子量分布の測定方法)
カゼイン加水分解物の分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーにより以下の条件で測定した(宇井信生ら編、「タンパク質・ペプチドの高速液体クロマトグラフィー」、化学増刊第102号、第241頁、株式会社化学同人、1984年)。
ポリハイドロキシエチル・アスパルタミド・カラム[Poly Hydroxyethyl Aspartamide Column:ポリ・エル・シー(Poly LC)社製。直径4.6mmおよび長さ200mm]を用い、20mM塩化ナトリウム、50mMギ酸により溶出速度0.4mL/分で溶出した。検出は、UV検出器(島津製作所製)を用い、データ解析はGPC分析システム(島津製作所製)を使用した。
【0063】
(分解率の測定方法)
カゼイン加水分解物の分解率の測定は、TNBS法によって行った。すなわち、未分解カゼインおよびカゼイン加水分解物それぞれの乾燥粉末を蒸留水に溶解させ、0.4mg/mLとなるように調整後、得られた溶解液10μL、0.1Mホウ酸緩衝液60μL、0.1%TNBS溶液20μL、0.03M亜硫酸ナトリウム溶液10μLを混合し、37℃で60分間放置した後、波長425nmでの吸光度を測定した。測定結果から下記式により分解率を算出した。
分解率(%)=(h-h)/(htot-h)×100
h:カゼイン加水分解物の溶解液の吸光度。
:未分解カゼインの溶解液の吸光度。
tot:カゼインの塩酸分解試料(6N塩酸、100℃、24時間)の吸光度。
【0064】
(粘度の測定方法)
得られた加熱乳化物を直ちに、80℃に保温した300mLビーカーに移し、品温80℃で単一円筒型回転粘度計(リオン(株)社製)にて1号ロータを用いて粘度を測定した。
【0065】
(破断応力の測定方法)
得られたプロセスチーズを10℃に調温し、レオメーター(山電(株)製)を用いて破断応力を測定した。測定条件は、サンプル高10mm、進入速度1mm/秒、プランジャーφ8mm球とした。
【0066】
(舌触りの評価方法)
よく訓練された専門のパネラー15名が、得られたプロセスチーズを試食し、下記の基準で舌触りを3段階評価し、15名の合計点を求めた。合計点が20点以上の場合を◎、15点以上20点未満の場合を○、15点未満の場合を×とした。総じて、◎は食感、嗜好性が非常に良好なものであり、○は食感、嗜好性が良好なものであり、×は食感、嗜好性が劣るものを示す。
2点:噛んだ時の舌の感触が非常に良好なもの。
1点:噛んだ時の舌の感触がやや硬い、または、やや柔らかいが、良好なもの。
0点:噛んだ時の舌の感触が著しく硬い、または著しく柔らかいもの。
【0067】
(総合評価)
以上の評価を総合したところ、製品として消費者の嗜好にあうという観点からみれば、粘度および舌触りの影響がとくに大きいことが判明した。
そこで、以下の基準で◎、○、×の別に総合評価をした。
◎:粘度が30000mPa・s未満であるもの。
○:粘度が30000mPa・s以上であるが、食感、嗜好性が良好なもの。
×:粘度が30000mPa・s以上であり、食感、嗜好性が劣るもの。
【0068】
(使用原料)
プロセスチーズの製造に使用した原料は以下の通りである。
・ナチュラルチーズ:チェダーチーズ(蛋白質含有量24.5質量%)。
・蛋白質含有原料(1):カゼイン加水分解物(分解率:3.5%)製造例1参照。
・蛋白質含有原料(2):カゼイン加水分解物(分解率:2.3%)製造例2参照。
・蛋白質含有原料(3):カゼイン加水分解物(分解率:1.1%)製造例3参照。
・蛋白質含有原料(4):カゼインナトリウム、タンパク質含有量93.0質量%。
・蛋白質含有原料(5):乳蛋白質濃縮物(MPC)、乾燥粉末、蛋白質含有量77.0質量%。
・蛋白質含有原料(6):乳清蛋白質濃縮物(WPC)、乾燥粉末、蛋白質含有量81.0質量%。
・蛋白質含有原料(7):ミセラカゼイン濃縮物(MCC)、乾燥粉末、蛋白質含有量78.4質量%
・溶融塩:クエン酸三ナトリウム。
【0069】
(製造例1)
市販の乳酸カゼイン(フォンテラ社製)1000gに65℃の温湯を9000g加えてカゼインを膨潤後、10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて溶解した。得られた溶液のpHを8.0に調整し、90℃で10分間加熱殺菌し、50℃に冷却した。このカゼイン溶液にプロテアックス(天野エンザイム社製)50mgを加え、50℃で5時間加水分解した後、90℃で5分間加熱して酵素を失活させてカゼイン加水分解物溶液を得た。カゼイン加水分解物溶液を濃縮後、噴霧乾燥し、粉末状のカゼイン加水分解物約940gを得た。得られたカゼイン加水分解物の蛋白質含量は90.0質量%であった。
得られたカゼイン加水分解物の分子量分布は、10000ダルトン超:35%、5000ダルトン超10000ダルトン以下:20%、1000ダルトン超5000ダルトン以下:26%、1000ダルトン以下:19%であり、分解率は3.5%であった。
【0070】
(製造例2)
加水分解の条件を50℃で2時間に変更したことを除き、製造例1と同様にカゼイン加水分解物を調製した。得られたカゼイン加水分解物の分子量分布は、10000ダルトン超:40%、5000ダルトン超10000ダルトン以下:22%、1000ダルトン超5000ダルトン以下:20%、1000ダルトン以下:18%であり、分解率は2.3%であった。
【0071】
(製造例3)
加水分解の条件を50℃で30分間に変更したことを除き、製造例1と同様にカゼイン加水分解物を調製した。得られたカゼイン加水分解物の分子量分布は、10000ダルトン超:48%、5000ダルトン超10000ダルトン以下:24%、1000ダルトン超5000ダルトン以下:15%、1000ダルトン以下:13%であり、分解率は1.1%であった。
【0072】
(例1~8)
表1に示す配合(単位:質量%)に従い以下の手順でプロセスチーズ(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、および公正競争規約で定めるプロセスチーズ)を製造した。
まず、高速せん断型乳化機(ステファン社製)の乳化釜にナチュラルチーズを投入した後、蛋白質含有原料、溶融塩、および水(常温)を加えた。
次いで、回転数600rpmで撹拌し、投入物が均一になるように撹拌を1分間行い、回転数600rpmで撹拌しながら乳化釜にスチームを吹き込み、約5分間で90℃に達するように加熱して加熱乳化を行った。90℃に達したら、スチームの吹込みを停止した。さらに1分間撹拌することにより加熱殺菌した後、撹拌を停止して加熱乳化物を得た(加熱乳化工程)。
得られた加熱乳化物を、この加熱乳化物の品温が60℃以上である状態で、ポリエチレン袋に移し麺棒で厚さ1cm程度に伸ばした。
この後、温度-2℃の冷却室内で冷却して、目的のプロセスチーズを得た(固化工程)。
【0073】
表2に、各例で得られたプロセスチーズの水分、脂肪、蛋白質、炭水化物および灰分それぞれの含有量、並びに、固形分に対する蛋白質の割合、蛋白質増加率、および増加百分率、さらには、各例における加熱乳化物の粘度、得られたプロセスチーズの破断応力、舌触りの評価結果、総合評価を示す。なお、例1~5は実施例であり、例6~8は比較例である。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
カゼイン加水分解物を配合した例1~例5は、未分解のカゼイン、MPC、WPCを配合した例6~例8に比して、加熱乳化物の粘度がより低かった。そのため、撹拌工程時の乳化機の機械負荷がより少なくなり、実製造時の充填適性により優れていると考えられた。また、得られたプロセスチーズは、破断応力が低く、より良好な食感(舌触り)となり、嗜好性が優れていた。また、カゼイン加水分解物を配合した例1~例5は、WPCを配合した例8に比して、得られたプロセスチーズの破断応力は同等であったものの、得られたプロセスチーズは、ねっとりとした食感(舌触り)となり、嗜好性がより優れたものとなった。
次にカゼイン加水分解物の分解率の影響をみると、分解率3.5%のカゼイン加水分解物を配合した例1、および分解率2.3%のカゼイン加水分解物を配合した例2では、分解率1.1%のカゼイン加水分解物を配合した例3に比して、破断応力が低かった。このため総合評価は同じく◎ではあるものの、好ましさという点では例1および例2が例3を上回った。
また、カゼイン加水分解物の配合量をみると、分解率3.5%のカゼイン加水分解物を配合した例4及び例5では、粘度は低く破断応力も小さくなった。このため、カゼイン加水分解物の場合は、配合量を極めて高い数値までのばせることが判明した。
以上の結果から、カゼイン加水分解物を使用することにより、製造適性や食感をより良好にして、蛋白質含有量を高めたプロセスチーズを製造できることが確認できた。
【0077】
(例9および10)
表3に示す配合(単位:質量%)に従い以下の手順でレンネットカゼイン(フォンテラ社製、タンパク質含有量83.7質量%)を使用したプロセスチーズ類を製造した。
まず、高速せん断型乳化機(ステファン社製)の乳化釜にレンネットカゼインを投入した後、溶解水の一部(常温)を投入してカゼインを膨潤させた後、蛋白質含有原料、溶融塩、および残りの溶解水(常温)を加えた。
次いで、回転数1500rpmで撹拌し、投入物が均一になるように撹拌を1分間行い、回転数1500rpmで撹拌しながら乳化釜にスチームを吹き込み、約5分間で90℃に達するように加熱して加熱乳化を行った。90℃に達したら、スチームの吹込みを停止した。さらに30秒間撹拌することにより加熱殺菌した後、撹拌を停止して加熱乳化物を得た(加熱乳化工程)。
得られた加熱乳化物を、この加熱乳化物の品温が60℃以上である状態で、ポリエチレン袋に移し麺棒で厚さ1cm程度に伸ばした。
この後、温度-2℃の冷却室内で冷却して、目的のプロセスチーズ類を得た(固化工程)。
【0078】
表4に、各例で得られたプロセスチーズ類の水分、脂肪、蛋白質、炭水化物および灰分それぞれの含有量、並びに、固形分に対する蛋白質の割合、蛋白質増加率、増加百分率、各例における加熱乳化物の粘度、最大荷重、脂肪球平均面積、および脂肪球平均直径を示す。
最大荷重、並びに脂肪球平均面積および脂肪球平均直径は、以下の手順で測定した。
【0079】
<最大荷重>
各例のサンプルを直径27mm、高さ10mmの円柱状に成形して10℃に温調した後、クリープメーター(RE2-33005C、株式会社山電製)を用いて、各サンプルに対して、直径8mmの円柱型プランジャーを1mm/sの速度にて、試験体の高さ80%まで押し込み、最大荷重を測定した。
【0080】
<脂肪球平均面積、および脂肪球平均直径>
(1)各例のサンプルを10mm×10mm×5mmに切断したサンプルを、0.1%Nile Red/プロピレングリコール溶液で約30分間染色する。
(2)共焦点顕微鏡にて、488nmのレーザーを照射し、500-540nmの波長を検出する。
(3)60倍レンズ、ズーム2倍にて観察し画像を得る。
(4)得られた画像を解析ソフト(MediaCybernetics.Inc.製、Image-Pro PLUS)にて解析し、解析処理して得られた脂肪球それぞれの面積と直径を求める。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
カゼイン加水分解物を配合した例9は、未分解のカゼインを配合した例10に比して、加熱乳化物の粘度がより低かった。そのため、撹拌工程時の乳化機の機械負荷がより少なくなり、実製造時の充填適性により優れていると考えられた。また、例9は、例10に比して、最大荷重が低くなったことから、より良好な食感(舌触り)であると考え得られる。
さらに、例9は、例10に比して、脂肪球が小さくなったことから、カゼイン分解物の配合により乳化性が向上することが示唆された。