(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】装置制御システム及び装置制御方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/093 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
E21D9/093 Z
(21)【出願番号】P 2019154798
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-075291(JP,A)
【文献】特開平05-263584(JP,A)
【文献】特開2013-256842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土圧式シールド工法における地山の地盤を掘削した掘削土を取り込むチャンバー内において、前記掘削土を所定の塑性流動性を有する泥土とするための添加材の注入量を制御する装置制御システムであり、
機械学習モデルを用い、前記チャンバー内の
所定期間における土圧の計測値の平均値から求めた変動幅に基づく土圧変動と、前記掘削土の性状との各々を含む入力データから、当該チャンバー内の前記掘削土を泥土化するために注入する前記添加材の注入量を推定する添加材注入量推定部
を備えることを特徴とする装置制御システム。
【請求項2】
前記掘削土の前記性状が、添加材が注入された掘削土である泥土の密度、前記泥土の水分量、前記泥土に含まれる粒子の粒度分布のいずれか、あるいは組み合せ、または全てである
ことを特徴とする請求項1に記載の装置制御システム。
【請求項3】
前記入力データが、地山の地盤を切削するカッターヘッドが回転する際の抵抗であるトルクカッタートルク、地山を前記カッターヘッドで掘削する速度である掘進速度、及び地山を掘削した排土である前記掘削土の排出を行うスクリューコンベアのスクリューの回転を制御するスクリューコンベア油圧のいずれか、あるいは組み合せ、または全てを含んでいる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装置制御システム。
【請求項4】
前記塑性流動性が予め設定された範囲に含まれた際の前記入力データと前記添加材の注入量とを教師データとして、前記機械学習モデルの機械学習を行うモデル学習部がさらに設けられた
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置制御システム。
【請求項5】
土圧式シールド工法における地山の地盤を掘削した掘削土を取り込むチャンバー内において、前記掘削土を所定の塑性流動性を有する泥土とするための添加材の注入量を制御する装置制御方法であり、
添加材注入量推定部が、機械学習モデルを用い、前記チャンバー内の
所定期間における土圧の計測値の平均値から求めた変動幅に基づく土圧変動と、前記掘削土の性状との各々を含む入力データから、当該チャンバー内の前記掘削土を泥土化するために注入する前記添加材の注入量を推定する添加材推定過程
を含むことを特徴とする装置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置制御システム及び装置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土圧式シールド工法においては、地山における地盤を掘削するカッター装置の背後に、掘削土を取り込むチャンバーが設けられている。
従来から、土圧式シールド工法により地山にトンネルなどを掘削する際、シールド掘削機が地盤を掘削することでチャンバー内に堆積する掘削土に、添加材(例えば、化泥材、加水ベンナイト、高分子材料など)を添加して、掘削土を泥土化している。
【0003】
そして、上述したように、チャンバー内に添加材を注入しつつ、攪拌翼等で攪拌することにより、掘削土を泥土化して所定の塑性流動性を与え、生成した泥土をスクリューコンベアにより流動体としてトンネル外に排出している。
このとき、添加材を添加した泥土の塑性流動性が、掘削土を排出する処理の安全性及び効率に影響を与える大きなファクターとなる。
【0004】
すなわち、泥土の塑性流動性が低いと掘削土の排出効率が低下し、逆に塑性流動性が高いと泥土がスクリューコンベアから噴出する。
このため、塑性流動性を確認しつつ、添加材の注入量を調整することにより、泥土の塑性流動性を所定の範囲にコントロールする必要がある。
このコントロールの処理には、泥土の直接的な観察、例えば目視や触診、ベーン剪断試験、スランプ試験などにより、泥土の塑性流動性を評価し、得られた塑性流動性に対応して添加材の注入量を調整する方法がある。
【0005】
また、土圧式シールド工法において、添加材を注入したチャンバー内の塑性流動性を定量的に評価する(チャンバー内可視化)技術がある(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1においては、塑性流動性としてチャンバー内の土圧を評価することで、この土圧に対応させて掘削の速度である掘進速度と、泥土を排出する速度である排土速度とのバランスを制御することにより、地山を安定させて掘削させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シールド掘削機のカッタービットによる地盤の切削においては、切削対象が岩盤部の場合、地盤調査結果における粒度分布とは異なった状態で掘削土が排出されるため、地盤調査結果から添加材の注入量を推定することが困難である。
そのため、すでに述べたように、排出される泥土の直接的な観察を行って添加材の注入量を調整することが行われている。
【0008】
しかし、管理者が排出される掘削土の状態を観察して塑性流動性を評価する処理に手間がかかり、処理を行うために長い時間が必要となり、所定の時間間隔で塑性流動性の管理を継続的に行うことができない。
この結果、急激な塑性流動性の変化に対応できず、その時点の塑性流動性に対応した添加材の注入量を求めることができない場合がある。
【0009】
また、特許文献1は、チャンバー内の土圧を常時監視することが可能であるが、掘進速度と排土速度とをバランスさせるための構成である。
このため、チャンバー内の泥土の塑性流動性として土圧を測定はしているが、所定の土圧より高いか低いかを判定する程度の評価で有り、掘削土に注入する添加材の注入量を調整する程度に精度が高いわけではない。
【0010】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、チャンバー内の泥土の塑性流動性が所定の範囲に制御される、掘削土に注入する添加材の注入量(あるいは注入率)を求めることができる装置制御システム及び装置制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の装置制御システムは、土圧式シールド工法における地山の地盤を掘削した掘削土を取り込むチャンバー内において、前記掘削土を所定の塑性流動性を有する泥土とするための添加材の注入量を制御する装置制御システムであり、機械学習モデルを用い、前記チャンバー内の所定期間における土圧の計測値の平均値から求めた変動幅に基づく土圧変動と、前記掘削土の性状との各々を含む入力データから、当該チャンバー内の前記掘削土を泥土化するために注入する前記添加材の注入量を推定する添加材注入量推定部を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の装置制御システムは、前記掘削土の前記性状が、添加材が注入された掘削土である泥土の密度、前記泥土の水分量、前記泥土に含まれる粒子の粒度分布のいずれか、あるいは組み合せ、または全てであることを特徴とする。
【0013】
本発明の装置制御システムは、前記入力データが、地山の地盤を切削するカッターヘッドが回転する際の抵抗であるトルクカッタートルク、地山を前記カッターヘッドで掘削する速度である掘進速度、及び地山を掘削した排土である前記掘削土の排出を行うスクリューコンベアのスクリューの回転を制御するスクリューコンベア油圧のいずれか、あるいは組み合せ、または全てを含んでいることを特徴とする。
【0014】
本発明の装置制御システムは、前記塑性流動性が予め設定された範囲に含まれた際の前記入力データと前記添加材の注入量とを教師データとして、前記機械学習モデルの機械学習を行うモデル学習部がさらに設けられたことを特徴とする。
【0015】
本発明の装置制御方法は、土圧式シールド工法における地山の地盤を掘削した掘削土を取り込むチャンバー内において、前記掘削土を所定の塑性流動性を有する泥土とするための添加材の注入量を制御する装置制御方法であり、添加材注入量推定部が、機械学習モデルを用い、前記チャンバー内の所定期間における土圧の計測値の平均値から求めた変動幅に基づく土圧変動と、前記掘削土の性状との各々を含む入力データから、当該チャンバー内の前記掘削土を泥土化するために注入する前記添加材の注入量を推定する添加材推定過程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、泥土の塑性流動性が所定の範囲に制御される、チャンバー内における掘削土に注入する添加材の注入量(あるいは注入率)を求めることができ、土圧式シールド工法において、地山の掘削により生じる掘削土をトンネル外へ排出する処理の安全性及び効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態の装置制御システムが適用される、土圧式シールド工法によるシールド掘削機の構成例を示す概略構成図である。
【
図2】本実施形態の装置制御システムを用いたシールド掘削機の制御系を示す概念図である。
【
図3】制御履歴データ記憶部における制御履歴データテーブルの構成例を示す図である。
【
図4】本実施形態による装置制御システムの添加材の注入量の推定処理の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本実施形態の装置制御システムが適用される、土圧式シールド工法によるシールド掘削機の構成例を示す概略構成図である。
図1(a)は、シールド掘削機10を側面から見た概念図、
図1(b)は、シールド掘削機10を推進させるシールドジャッキ20を正面からみた概念図をそれぞれ示している。
【0019】
図1(a)に示すように、シールド掘削機10は、円筒形のスキンプレート11の後部において、エレクタ(不図示)によりセグメントを組み立てて、一次覆工Sを施工しつつ、地山を掘削するための機構である。シールド掘削機10においては、カッタービット15を備えた環状かつ面板型のカッター16の後部にチャンバー12が設けられている。チャンバー12内の側壁には複数の土圧計Dが設置される。土圧計Dは、チャンバー12における泥土の圧力(制御土圧)を測定する。
【0020】
チャンバー12には作泥土材注入管13から添加材14が注入される。チャンバー12内に堆積された掘削土は、練混ぜ翼(不図示)により、添加材14と撹拌されることで練混ぜられ、泥土に変換される。
スクリューコンベア17は、チャンバー12の泥土を、排土ゲートGを介してコンベア18に排土する。そして、コンベア18は、スクリューコンベア17より排出された泥土を、コンベア19を介してトンネルの外部に搬出する。架台Mは、スクリューコンベア17と、コンベア18、及び19とを支持している。
【0021】
計測器群4は、コンベア近傍に設けられており、排土ゲートGから排出される泥土の性状データの各々を計測する複数の計測器である。
この計測器群4における計測器は、密度計、土壌水分計及び粒度分布計の各々などである。密度計は、排土ゲートGから排出される、所定の体積の泥土における粒子の密度を計測して、密度データとして出力する。土壌水分計は、土壌水分計などであり、泥土における含水率を測定し、水分量データとして出力する。
【0022】
また、粒度分布計は、集合体としての泥土における粒子の各々の大きさ(粒子径)毎の存在比率の分布を求め、粒度分布データとして出力する。土壌水分計は、例えば中性子線透過型、誘電率測定型などを用いることで、リアルタイムに泥土の水分量を計測することができる。また、密度計は、例えばγ線透過型であれば、リアルタイムに泥土の密度を計測することができる。
【0023】
また、
図1(b)に示すように、シールドジャッキ20は、スキンプレート11の内周を囲むようにして複数設けられ、スキンプレート11とセグメントとの間に配置される。
シールドジャッキ20が油圧操作により推進(伸長)されることでスキンプレート11の面が押されシールド掘削機10が推進する。
【0024】
図2は、本実施形態の装置制御システムを用いたシールド掘削機の制御系を示す概念図である。装置制御システム1は、土圧計Dから供給される土圧から求めた土圧変動と、計測器群4から供給される性状データ(粒度分布データ、密度データ及び水分量データ)とにより、現在の泥土の状態に対応した添加材の注入量を推定して、添加材注入装置2に対して供給する。
添加材注入装置2は、装置制御システム1から供給される添加材の注入量に対応して、チャンバー12内の掘削土に対して添加材を注入する。
制御装置3は、シールド掘削機10におけるカッター16を回転させるカッタートルク、スクリューコンベア17のスクリューを回転させるスクリューコンベアトルク、シールドジャッキ20の推進(掘進速度)などの制御を行う。
【0025】
装置制御システム1は、データ入力部101、添加材注入量推定部102、モデル学習部103、推定値出力部104、制御履歴データ記憶部105、教師データ記憶部106、塑性流動性範囲記憶部107及び機械学習モデル記憶部108の各々を備えている。
【0026】
データ入力部101は、添加材の注入における制御周期毎に、制御周期が開始されてから所定期間に土圧計Dから供給される土圧の計測値を入力して土圧変動を求め、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルに対して、制御周期を識別するタイムスタンプを付与して、書き込んで記憶させる。このとき、データ入力部101は、上記制御履歴データテーブルにおける直前の制御周期のレコードにおける次周期土圧変動の欄に、この求めた制御周期を書き込んで記憶させる。
【0027】
添加材注入量推定部102は、機械学習モデル記憶部108から、機械学習モデルである添加材予測モデルを読み出す。
また、添加材注入量推定部102は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルからタイムスタンプが最も新しい制御周期の土圧変動及び性状データの各々を読み出す。
そして、添加材注入量推定部102は、添加材予測モデルに対して土圧変動及び性状データの各々を入力する。
【0028】
これにより、添加材予測モデルは、入力される土圧変動及び性状データに対応して、添加材の注入量を推定して出力する。
添加材注入量推定部102は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルにおける添加材注入量の欄に、添加材予測モデルが推定した添加材の注入量を書き込んで記憶させる。また、添加材注入量推定部102は、添加材予測モデルが推定した添加材の注入量を推定値出力部104へ出力する。
【0029】
図3は、制御履歴データ記憶部における制御履歴データテーブルの構成例を示す図である。
図3の制御履歴データテーブルには、レコード毎に、タイムスタンプの欄に対応して、注入前土圧変動、粒度分布データ、体積密度データ、水分量データ、添加材注入量、注入後土圧変動及び範囲内フラグの各々の欄が設けられている。
土圧変動は、添加材を注入する制御周期におけるチャンバー12内の泥土の圧力の変動である。
【0030】
次周期土圧変動は、添加材を注入した制御周期の直後の(次の)制御周期のチャンバー12における泥土の圧力の変動である。ここで、土圧変動は、所定の制御周期内における、土圧計Dにより計測される土圧値の変動の標準偏差などである。泥土の塑性流動性は、泥土(添加材により泥土化された掘削土)に対して与えられる外力により、適切な「せん断応力」と「ずり速度」との範囲にある場合を示している。このため、土圧変動を計測することにより、泥土の「せん断応力」と「ずり速度」とによる塑性流動性を間接的に取得することができる。
【0031】
粒度分布データは、集合体としての掘削土における粒子の大きさ(粒子径)毎の存在比率の分布である。ここで、存在比率の基準としては、体積基準(体積分布)及び個数基準(個数分布)などのいずれを用いても良い。密度データは、所定の体積の泥土における粒子の密度である。水分量データは、泥土の水分の含有率である含水率である。上記粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々は、掘削土の土砂としての物理的な性状(性質及び状態)を示す性状データである。
【0032】
添加材注入量は、制御周期においてチャンバー12内の掘削土に対して注入した添加材の注入量(またはチャンバー12の体積に対する注入する添加材の体積の割合として注入率)である。範囲内フラグは、同一のレコードの次周期土圧変動が、泥土の塑性流動性が排出する際に良好であるとされる土圧変動範囲に含まれることを示すフラグである。例えば、次周期土圧変動が土圧変動範囲に含まれる場合に「1」としてフラグを立て、次周期土圧変動が土圧変動範囲に含まれない場合に「0」としてフラグを立てない。
【0033】
図2に戻り、推定値出力部104は、添加材注入量推定部102から供給される添加材の注入量を、添加材注入装置2に対して出力する。
これにより、添加材注入装置2は、装置制御システム1から供給される添加材の注入量に対応させ、チャンバー12の掘削土に対して添加材を注入する。
【0034】
モデル学習部103は、教師データ記憶部106の教師データテーブルに記憶されている教師データにより、添加材予測モデルに対する機械学習を行う。
ここで、モデル学習部103は、塑性流動性範囲記憶部107から、塑性流動性が良好である場合の土圧変動の範囲である土圧変動範囲を読み出す。
そして、モデル学習部103は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルを参照し、上記土圧変動範囲に含まれる次周期土圧変動を抽出し、このタイムスタンプの直前のタイムスタンプの範囲内フラグを立てる。
【0035】
すなわち、測定された土圧変動及び性状データの各々から推定した流入量の添加材を注入した場合、この注入された添加材が攪拌されて土圧変動に反映されるのは次の制御周期となる。
このため、塑性流動性が最適とされる土圧変動範囲となる添加材の注入量は、この土圧変動範囲が得られた直前の制御周期に推定されて注入されたものである。
したがって、教師データは、塑性流動性が最適とされる土圧変動範囲となった制御周期の直前のタイムスタンプの制御周期における制御履歴データとなる。
【0036】
モデル学習部103は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルを参照し、範囲内フラグが立っているタイムスタンプのレコードを読出し、教師データ記憶部106の教師データテーブルに対して、順次、連結させる。
また、モデル学習部103は、機械学習モデル記憶部108から添加材予測モデルを読出す。
そして、モデル学習部103は、上記教師データテーブルのレコード毎に、順次、土圧変動及び性状データの各々を添加材予測モデルに対して入力し、同一レコードの添加材注入量が出力されるように、この添加材予測モデルの機械学習を行う。
【0037】
制御履歴データ記憶部105は、レコード毎に、制御周期のタイムスタンプに対応して、土圧変動、性状データ、添加材注入量、次周期土圧変動及び範囲内フラグの各々のデータが書き込まれた制御履歴データテーブルが記憶されている。
教師データ記憶部106は、レコード毎に、制御周期のタイムスタンプに対応して、土圧変動、性状データ、添加材注入量、次周期土圧変動及び範囲内フラグの各々のデータが書き込まれた、添加材予測モデルの機械学習を行う教師データテーブルが記憶されている。
【0038】
塑性流動性範囲記憶部107は、上述した土圧変動範囲が予め書き込まれて記憶されている。
機械学習モデル記憶部108は、土圧変動及び性状データの各々から添加材の注入量を推定する添加材予測モデルが書き込まれて記憶されている。
【0039】
図4は、本実施形態による装置制御システムの添加材の注入量の推定処理の動作例を示すフローチャートである。
図4(a)は、添加材の注入量の推定を行う処理の動作のフローチャートである。
図4(b)は、添加材の注入量の推定を行う添加材予測モデルの学習の処理の動作のフローチャートである。
図4(a)及び
図4(b)の各々のフローチャートの動作は、例えば、添加材の注入量を推定する制御周期毎に行われる。
まず、
図4(a)のフローチャートから説明する。
【0040】
ステップS11:データ入力部101は、土圧計Dから土圧の計測値を、制御周期の開始後の所定期間において入力する。
【0041】
ステップS12:データ入力部101は、上記所定期間における土圧の計測値の平均値を求め、この平均値からの変化幅を求める。
そして、データ入力部101は、求めた上記変化幅の標準偏差を算出し、この標準偏差を土圧変動とし、タイムスタンプを付与する。
【0042】
これにより、データ入力部101は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルに新たなレコードを生成し、付与したタイムスタンプに対応させて、土圧変動のデータを土圧変動の欄に書き込んで記憶させる。
また、データ入力部101は、この土圧変動のデータを、制御履歴データテーブルの直前のタイムスタンプの制御周期のレコードの次周期土圧変動の欄に書き込んで記憶させる。
【0043】
ステップS13:データ入力部101は、計測器群4から性状データである粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々を入力する。
そして、データ入力部101は、土圧変動を書き込んだレコードにおける対応する欄に、粒度分布データ、密度データ、水分量データのそれぞれを書き込む。
【0044】
ステップS14:添加材注入量推定部102は、機械学習モデル記憶部108から添加材予測モデルを読み出す。
また、添加材注入量推定部102は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルの最も新しいタイムスタンプのレコードから、土圧変動、粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々を読出す。
そして、添加材注入量推定部102は、読み出した土圧変動、粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々を添加材予測モデルに入力し、添加材の注入量の推定を行わせる。
【0045】
ステップS15:添加材注入量推定部102は、添加材予測モデルから出力される添加材の注入量を推定値出力部104に対して出力する。
また、添加材注入量推定部102は、添加材予測モデルから出力される添加材の注入量を、土圧変動が書き込まれたレコードの対応する欄に、添加材注入量として書き込む。
推定値出力部104は、添加材注入量推定部102から供給された添加材の注入量を、添加材注入装置2に対して出力する。
【0046】
上述した本実施形態の説明において、性状データとして、粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々を用いたが、これらの全てではなく、粒度分布データ、密度データ、水分量データのいずれか一つ、あるいは組合せを性状データとして用いてもよい。また、掘削土の土質を示す情報であれば、粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々に限らず、他のデータを用いてもよい。
【0047】
上述した本実施形態の説明において、推定値出力部104が、添加材注入量推定部102の推定した添加材の注入量を添加材注入装置2に出力する構成として説明したが、例えば、不図示の出力手段(表示装置、印刷装置など)から管理者に通知する構成としても良い。この場合、管理者が通知された添加材の注入量に対応して、添加材注入装置2を制御し、チャンバー12内に添加材を注入する。
【0048】
また、本実施形態においては、塑性流動性に関連する情報として、土圧変動のデータを用いたが、他にカッタートルク、掘進速度及びスクリューコンベアの各々のデータを、添加材の注入量を推定する入力データとして、添加材予測モデルを構成してもよい。
この場合、カッタートルク、掘進速度及びスクリューコンベアの各々を加えることにより、より塑性流動性の情報が供給できるため、推定する添加材の注入量の精度を向上させることができる。
【0049】
次に、
図4(b)のフローチャートを説明する。
ステップS21:モデル学習部103は、塑性流動性範囲記憶部107から土圧変動範囲を読み出す。
そして、モデル学習部103は、制御履歴データ記憶部105の制御履歴データテーブルを参照し、直前のタイムスタンプのレコードにおける次周期土圧変動が、土圧変動範囲に含まれているか否かの判定を行う。
【0050】
ステップS22:モデル学習部103は、直前のタイムスタンプのレコードにおける次周期土圧変動が、土圧変動範囲に含まれている場合、このレコードの制御履歴データを教師データとして抽出する。
そして、モデル学習部103は、この抽出したレコードのデータを、教師データ記憶部106の教師データテーブルに連結する。
【0051】
ステップS23:モデル学習部103は、教師データ記憶部106の教師データテーブルから順次、教師データとして、土圧変動、粒度分布データ、密度データ、水分量データ及び添加材注入量の各々を読み込む。
そして、モデル学習部103は、土圧変動、粒度分布データ、密度データ及び水分量データの各々を、添加材予測モデルに対して順次入力し、それぞれの入力データに対応する添加材注入力が正解データとして推定されるように、添加材予測モデルの機械学習を行う。
【0052】
ステップS24:モデル学習部103は、機械学習を行った添加材予測モデルを、機械学習モデル記憶部108の添加材学習モデルに上書きして、添加材予測モデルの更新を行う。
【0053】
また、上述した本実施形態においては、添加材を注入した制御周期の次の(直後の)制御周期の土圧変動を、制御履歴データを教師データとして用いるか否かの判定に用いている。
しかしながら、制御周期の開始から所定の期間に計測した土圧変動及び性状データにより添加材の注入量を推定し、この推定した注入量で添加材をチャンバー12に注入し、同一の制御周期の終了近傍の期間で、土圧変動を計測する構成としてもよい。
【0054】
すなわち、データ入力部101は、制御周期の開始から所定の期間において、土圧を計測して土圧変動を求め、また性状データを取得する。
添加材注入量推定部102は、制御周期の初期の土圧変動及び性状データを用い、添加材予測モデルにより添加材の注入量を推定する。
そして、添加材注入装置2は、装置制御システム1から供給される、添加材予測モデルにより推定された添加材の注入量に対応して、チャンバー12内に添加材を注入する。
【0055】
次に、データ入力部101は、添加材を注入した同一の制御周期の終了近傍の期間において、土圧を計測して評価用の土圧変動を求める。これにより、掘削土に注入した添加材が、泥土の塑性流動性に反映された後の土圧変動を取得することができる。
これにより、制御履歴データを学習データとするか否かの判定を、同一の制御周期で行うことができる。
【0056】
そして、モデル学習部103は、上記評価用の土圧変動が土圧変動範囲に含まれているか否かの判定を行う。
このとき、モデル学習部103は、評価用の土圧変動が土圧変動範囲に含まれていた場合、この制御周期における初期の土圧変動及び性状データと、これらにより推定された添加材の注入量とを教師データとする。
【0057】
上述した構成により、本実施形態によれば、土圧式シールド工法において泥土の塑性流動性が所定の範囲に制御される、チャンバー12内における掘削土に注入する添加材の注入量(あるいは注入率)を、土圧変動及び性状データの各々を添加材予測モデルに入力することで容易に推定して求めることができ、地山の掘削により生じる掘削土をトンネル外へ排出する処理の安全性及び効率を向上させることができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、添加材の注入量を推定する添加材予測モデルを、所定の土圧変動範囲に含まれる塑性流動性とされた注入量と、この注入量を推定する際に用いた土圧変動及び性状データとを教師データとして学習させるため、その地山の土質、掘削土の性状、使用する添加材の特性、シールド掘削機10の掘削特性の各々に対応する添加材の注入量の推定の精度を向上させることができる。
【0059】
また、上述した実施形態においては、添加材予測モデルを添加材の種類毎に作成する構成としている。
しかしながら、添加材予測モデルの入力データとして、土圧変動及び性状データに対して添加材の種類を加える構成としてもよい。
これにより、添加材予測モデルは、添加材の種類に応じた注入量を推定することができる。
【0060】
また、上述した添加材予測モデルにおいては、添加材予測モデルを地山やシールド掘削機毎に新たに生成する構成としている。
しかしながら、地盤の特性が近い地山(同一の添加材)で用いた添加材予測モデルを テンプレートとして用い、このテンプレートに対して追加の機械学習させることで 掘削している地山に対応させていく構成としても良い。
これにより、添加材予測モデルが入力データに対して、より精度の高い添加材の注入量を予測するまでに必要な機械学習の期間を短縮することができる。
【0061】
なお、本発明における
図1の装置制御システム1の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、掘削土に注入する添加材の注入量を推定する処理、及びこの推定に用いる添加材予測モデルの機械学習の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWW(World Wide Web)システムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc - Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0062】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0063】
1…装置制御システム
2…添加材注入装置
3…制御装置
4…計測器群
10…シールド掘削機
101…データ入力部
102…添加材注入量推定部
103…モデル学習部
104…推定値出力部
105…制御履歴データ記憶部
106…教師データ記憶部
107…塑性流動性範囲記憶部
108…機械学習モデル記憶部
D…土圧計