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  • 特許-燃料電池用ラジカル硬化性シール部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】燃料電池用ラジカル硬化性シール部材
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0284 20160101AFI20230926BHJP
   C08F 290/04 20060101ALI20230926BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20230926BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230926BHJP
【FI】
H01M8/0284
C08F290/04
C09K3/10 E
H01M8/10 101
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019155491
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021034286
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-122139(JP,A)
【文献】特開2016-157635(JP,A)
【文献】特開2016-065183(JP,A)
【文献】特開2011-222312(JP,A)
【文献】特開2017-082168(JP,A)
【文献】特開2018-138682(JP,A)
【文献】特開2008-150502(JP,A)
【文献】特開2000-072816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
C08F 290/04
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(D)成分を含有し、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を20~90重量部、(C)成分を1~10重量部、(D)成分を0.01~10重量部含有し、(C)成分に対する(B)成分の重量比[(B)/(C)]が4~24、且つ、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100重量%に対する(C)成分の含有量[(C)/{(A)+(B)+(C)}]が1~7重量%であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材であって、ガラス転移温度(Tg)が-40℃以下であることを特徴とする燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
【請求項2】
上記(B)成分のガラス転移温度(Tg)が、-40℃以下である、請求項1に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項3】
上記(B)成分が、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソデシルおよびアクリル酸n-オクチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項4】
上記(A)成分の数平均分子量(Mn)が、5,000~100,000である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項5】
上記(A)成分が、エステル基の炭素数が2~14のアクリル酸エステルモノマーからなる共重合体、または、エステル基の炭素数が8~14のメタクリル酸エステルモノマーからなる共重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項6】
上記(A)成分が、アクリル酸n-ブチルとアクリル酸2-エチルヘキシルからなる共重合体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項7】
上記共重合体の共重合比(アクリル酸n-ブチル:アクリル酸2-エチルヘキシル)が、40~60:60~40である、請求項6に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項8】
上記(C)成分が、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールアクリレート系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項9】
さらに、シリカを含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項10】
上記シリカが、ジメチルシリル化シリカ、トリメチルシリル化シリカ、オクチルシリル化シリカおよびメタクリルシリル化シリカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項11】
上記ラジカル硬化性組成物が、紫外線硬化性組成物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項12】
上記燃料電池用ラジカル硬化性シール部材が、膜状のシール部材である、請求項1~11のいずれか一項に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【請求項13】
上記膜状のシール部材の厚みが、50~1,000μmである、請求項12に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構成部材をシールするために用いられるラジカル硬化性シール部材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を構成する部材には各種のシール部材が用いられている。例えば、自動車用の固体高分子型燃料電池では、ガスおよび冷媒の漏れを防止すると共に、セル内を湿潤状態に保持するために、膜電極接合体(MEA)および多孔質層の周囲や、セパレータ間のシール性を確保するシール部材が用いられている。当該シール部材には、各種の機械的特性のほか、長期信頼性などを確保するため、耐へたり性(圧縮永久歪み性)に優れることが求められる。
【0003】
かかる要求に応じて、出願人は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)に対して、有機過酸化物と脂肪酸カリウムなどを配合した架橋体からなるシール部材を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-188417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のシール部材は、EPDMを含有する組成物を射出成形装置の金型内に充填し、加硫させることにより成形されるため、充填工程や加硫工程に相応の時間を要する。また、製造設備に関する初期投資費や維持管理費に多大なコストを要するため、生産性を更に向上させる点では改善の余地がある。
【0006】
また、当該シール部材は、高粘性を有するEPDMを主成分とするため、低粘度化に限界があり、シール部材の薄膜化による燃料電池などの小型化を図る点では改善の余地がある。
【0007】
また、近年の燃料電池の普及に伴い、極低温環境下における燃料電池の使用も想定されるため、幅広い温度範囲においてシール性を確保することが求められる。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、薄膜化が可能であり、幅広い温度範囲において優れたシール性を有する燃料電池用ラジカル硬化性シール部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、意外にも、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー、単官能(メタ)アクリルモノマー、多官能(メタ)アクリルモノマー、およびラジカル重合開始剤を所定割合で配合した組成物からなる架橋体を用いることにより、生産性に優れ、薄膜化が可能である燃料電池用ラジカル硬化性シール部材を提供できること、また、幅広い温度範囲において圧縮永久歪み性および圧縮割れ性に優れる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材を提供できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[14]をその要旨とする。
[1]下記(A)~(D)成分を含有し、(A)成分100重量部に対して、(B)成分を20~90重量部、(C)成分を1~10重量部、(D)成分を0.01~10重量部含有し、(C)成分に対する(B)成分の重量比[(B)/(C)]が4~24、且つ、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100重量%に対する(C)成分の含有量[(C)/{(A)+(B)+(C)}]が1~7重量%であるラジカル硬化性組成物の架橋体からなる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材であって、ガラス転移温度(Tg)が-40℃以下であることを特徴とする燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
[2]上記(B)成分のガラス転移温度(Tg)が、-40℃以下である、[1]に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[3]上記(B)成分が、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソデシルおよびアクリル酸n-オクチルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[4]上記(A)成分の数平均分子量(Mn)が、5,000~100,000である、[1]~[3]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[5]上記(A)成分が、エステル基の炭素数が2~14のアクリル酸エステルモノマーからなる共重合体、または、エステル基の炭素数が8~14のメタクリル酸エステルモノマーからなる共重合体である、[1]~[4]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[6]上記(A)成分が、アクリル酸n-ブチルとアクリル酸2-エチルヘキシルからなる共重合体である、[1]~[5]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[7]上記共重合体の共重合比(アクリル酸n-ブチル:アクリル酸2-エチルヘキシル)が、40~60:60~40である、[6]に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[8]上記(C)成分が、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールアクリレート系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[7]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[9]さらに、シリカを含有する、[1]~[8]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[10]上記シリカが、ジメチルシリル化シリカ、トリメチルシリル化シリカ、オクチルシリル化シリカおよびメタクリルシリル化シリカからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[9]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[11]上記ラジカル硬化性組成物が、紫外線硬化性組成物である、[1]~[10]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[12]上記燃料電池用ラジカル硬化性シール部材が、膜状のシール部材である、[1]~[11]のいずれかに記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
[13]上記膜状のシール部材の厚みが、50~1,000μmである、[12]に記載の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生産性が良好であり、薄膜化が可能であって、幅広い温度範囲において圧縮永久歪み性および圧縮割れ性に優れる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材をシール体とした一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施形態に限られるものではない。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの両方を包含する概念として用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方を包含する概念として用いられる語である。また、「ポリマー」は、コポリマーおよびオリゴマーを包含する概念として用いられる語である。
【0014】
本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材(以下、単に「シール部材」という場合がある。)は、下記の(A)~(D)成分を所定の配合割合で含有するラジカル硬化性組成物の架橋体からなり、必要に応じて、上記ラジカル硬化性組成物にさらに、(E)成分、(F)成分などを含有する。
(A)(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマー。
(B)単官能(メタ)アクリルモノマー。
(C)多官能(メタ)アクリルモノマー。
(D)ラジカル重合開始剤。
(E)フィラー。
(F)老化防止剤。
【0015】
<(A)成分>
(A)成分は、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリルポリマーである。本発明に用いる上記ラジカル硬化性組成物の主成分であり、通常、組成物全体の過半を占める。
【0016】
(A)成分の分子鎖(主鎖)は、1種以上の(メタ)アクリルモノマーの単独重合体や共重合体、または、1種以上の(メタ)アクリルモノマーおよびこれと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体で構成される。
(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸オレイル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸2-デシルテトラデカニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数を共重合させてもよい。
【0017】
また、上記(メタ)アクリルモノマーを他のモノマーと共重合、さらにはブロック共重合させてもよい。共重合させるモノマーとしては、例えば、スチレンなどのスチレン系モノマー、パーフルオロエチレンなどのフッ素含有ビニルモノマー、ビニルトリメトキシシランなどのケイ素含有ビニル系モノマー、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル基含有ビニル系モノマー、アクリルアミド、メタクリルアミドなどのアミド基含有ビニル系モノマーなどが挙げられる。
【0018】
上記のなかでも、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましく、エステル基の炭素数が2~14のアクリル酸エステルモノマー、エステル基の炭素数が8~14のメタクリル酸エステルモノマーがより好ましい。エステル基の炭素数が上記範囲外になると、低温における圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。また、特に、炭素数が上記範囲より大きくなると、重合時の反応性が悪くなり、合成し難くなる傾向がみられる。
【0019】
(A)成分は、(メタ)アクリロイル基を分子鎖末端に有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体であることが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマーをラジカル重合して得られる共重合体であることがより好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルを重合して得られる共重合体が特により好ましい。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーの共重合体の共重合比(重量比)としては、例えば、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルを重合して得られる共重合体の場合(アクリル酸n-ブチル:アクリル酸2-エチルヘキシル)、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、40~60:60~40であるのが好ましい。
【0021】
(A)成分は、少なくとも一方の分子鎖末端に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルポリマーであるが、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、分子鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルポリマーが好ましい。
【0022】
(A)成分は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【化1】
(ただし、一般式(1)中、R1は水素原子または炭素数1~20のエステル残基、R2は水素原子または炭素数1~20の有機基、nは20~800の整数である。)
【0023】
上記一般式(1)中、炭素数1~20のエステル残基としては、直鎖状、分岐状および環状のいずれでもよく、例えば、メチルエステル残基、エチルエステル残基、n-プロピルエステル残基、イソプロピルエステル残基、n-ブチルエステル残基、イソブチルエステル残基、t-ブチルエステル残基、ペンチルエステル残基、ヘキシルエステル残基、ヘプチルエステル残基、オクチルエステル残基、シクロペンチルエステル残基、シクロヘキシルエステル残基などが挙げられる。なかでも、上記エステル残基としては、炭素数2~14のエステル残基が好ましい。また、一般式(1)中、有機基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基などの炭素数1~20の非置換、または置換1価の炭化水素基などが挙げられる。上記有機基としては、反応性を高める観点から、水素原子またはアルキル基が好ましく、なかでも、水素原子またはメチル基がより好ましい。また、一般式(1)中、nは20~800であるが、なかでも、50~400が好ましい。
【0024】
これら(A)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、例えば、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(A)成分のガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温における圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃である。
かかる(A)成分のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)で測定される。具体的には、セイコーインスツルメンツ社製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC-5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め、その極大点からガラス転移温度を求める。
【0026】
(A)成分の数平均分子量(Mn)は、例えば、5,000~100,000であり、10,000~50,000がより好ましい。数平均分子量(Mn)が上記範囲よりも小さいと、圧縮割れ性に劣る傾向がみられ、上記範囲よりも大きいと圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられると共に、高粘性を発現しハンドリング性が低下する傾向がみられる。
【0027】
(A)成分の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、1.1~1.6が好ましく、1.1~1.4がより好ましい。なお、上記数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。具体的には、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量などはポリスチレン換算で求めることができる。
【0028】
(A)成分の23℃での粘度は、本発明の効果をより効果的に発揮する観点から、40~1,000Pa・sが好ましく、100~800Pa・sがより好ましい。
【0029】
(A)成分を合成する方法としては、公知の合成方法を用いることができ、例えば、(メタ)アクリル酸モノマーをラジカル重合することよって合成することができる。なかでも、リビングラジカル重合や原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0030】
また、(A)成分は市販品としても入手可能であり、例えば、RC-100C、RC-200C(以上、カネカ社製)などが挙げられる。
【0031】
<(B)成分>
(B)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に1つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和単官能モノマーが挙げられ、例えば、上記(A)の主鎖を構成するモノマーとして用いられる(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。なかでも、本発明の効果をより高める観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸アルキルエステルモノマーが好ましい。なかでも、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソデシルがより好ましい。
【0032】
これら(B)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、20~90重量部であり、本発明の効果をより高める観点からは、25~60重量部が好ましい。
【0034】
(B)成分のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、-40℃以下が好ましく、-50℃以下がより好ましい。(B)成分のガラス転移温度(Tg)が上記温度よりも高くなると、低温における圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃である。かかる(B)成分のガラス転移温度(Tg)は、(B)成分である単官能(メタ)アクリルモノマーのホモポリマーを、上記と同様、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
【0035】
<(C)成分>
(C)成分の多官能(メタ)アクリルモノマーは、分子構造内に2つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物である。具体的には、公知のエチレン性不飽和多官能モノマーが挙げられ、分子構造内に2つの(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
(メタ)アクリロイル基を3個以上有する(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートや、モノペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトール(メタ)アクリレートなどのペンタエリスリトール構造と(メタ)アクリレート構造を有するペンタエリスリトールアクリレート系化合物などが挙げられる。
【0037】
これら(C)成分のなかでも、本発明の効果をより高める観点から、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,12-ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,7-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物が好ましい。なかでも、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物がより好ましい。
【0038】
(C)成分の多官能(メタ)アクリルモノマーの分子鎖(主鎖)の炭素数は、6以上であることが好ましい。炭素数が上記数値未満であると、圧縮割れ性に劣る傾向が見られる。
【0039】
これら成分(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、ペンタエリスリトールアクリレート系化合物として、トリペンタエリスリトールアクリレートと、ジペンタエリスリトールアクリレートと、モノペンタエリスリトールアクリレートと、ポリペンタエリスリトールアクリレートとの混合物を用いてもよい。
【0040】
(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、1~10重量部であり、本発明の効果をより高める観点から、2~7.5重量部が好ましい。
【0041】
(C)成分に対する(B)成分の重量比[(B)/(C)]は、4~24であり、なかでも、6~15が好ましい。重量比が上記範囲よりも小さい場合、圧縮割れ性に劣る傾向がみられ、重量比が上記範囲よりも大きい場合、圧縮永久歪み性に劣る傾向がみられる。
【0042】
(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計100重量%に対する(C)成分の含有量[(C)/{(A)+(B)+(C)}]は1~7重量%であり、なかでも、1.5~4重量%が好ましい。(C)成分の含有量が上記範囲よりも多い場合、圧縮割れ性に劣る傾向がみられる。
【0043】
<(D)成分>
(D)成分のラジカル重合開始剤としては、エネルギー線を照射することによりラジカルが発生する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、メチルオルトベンゾイルベンゾエイト、4-フェニルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン型化合物、t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノンなどのアントラキノン型化合物、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン}、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインメチルエーテル、2-メチル-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}-2-メチルプロパン-1-オンなどのアルキルフェノン型化合物、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン型化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド型化合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステルなどのフェニルグリオキシレート型化合物などが挙げられる。なかでも、反応性に優れる観点から、アルキルフェノン型化合物が好ましく、具体的には、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどが好ましい。
【0044】
これら(D)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
(D)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して0.01~10重量部であり、なかでも、0.1~10重量部が好ましい。
【0046】
<(E)成分>
(E)成分のフィラーとしては、特に制限されないが、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク、クレー、ガラスバルーンなどが挙げられ、なかでも補強性に優れることからシリカが好ましい。また、分散性向上の観点から、表面処理剤により疎水化されたシリカがより好ましい。表面処理剤により疎水化されたシリカとしては、例えば、シラン化合物で表面処理されたシリカが好ましく、ジメチルシランで表面処理されたジメチルシリル化シリカ、トリメチルシランで表面処理されたトリメチルシリル化シリカ、オクチルシランで表面処理されたオクチルシリル化シリカ、メタクリロキシシランで表面処理されたメタクリルシリル化シリカがより好ましく、なかでも、トリメチルシリル化シリカ、メタクリルシリル化シリカが特により好ましい。
【0047】
(E)成分の市販品としては、例えば、トリメチルシリル化シリカである「AEROSIL RX200」(AEROSIL社製)、メタクリルシリル化シリカである「AEROSIL R7200」(AEROSIL社製)などが挙げられる。
【0048】
これら(E)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
(E)成分を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、通常、(A)成分100重量部に対して、1~30重量部である。(E)成分の含有量が上記範囲より多くなると、高粘性を発現しハンドリング性が悪くなる傾向がある。
【0050】
<(F)成分>
(F)成分の老化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、ジ(4-オクチルフェニル)アミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミンなどのアミン系老化防止剤、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、スチレン化フェノール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(2,6-t-ブチルフェノール)、4,4’-イソプロピリデンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-イソブチリデンビス(4,6-ジメチルフェノール)などのフェノール系老化防止剤、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩、2-メルカプトメチルベンズイミダゾールなどのイミダゾール系老化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのイオウ系老化防止剤などが挙げられる。なかでも、アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤が好ましく、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好ましい。
【0051】
これら(F)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
(F)成分を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、通常、(A)成分100重量部に対して、0.1~10重量部であり、0.5~5重量部が好ましい。
【0053】
<各種の添加剤>
本発明のラジカル硬化性組成物には、上記(A)~(F)成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、相溶化剤、硬化性調整剤、滑剤、顔料、消泡剤、発泡剤、光安定剤、表面改質剤など、各種の添加剤を配合してもよい。
【0054】
<ラジカル硬化性組成物の製造方法>
本発明に用いるラジカル硬化性組成物の製造方法は、公知の方法により製造される。例えば、(B)成分、(C)成分、(D)成分および各種の添加剤などを配合して撹拌したものに(A)成分を加え、ミキサーを用いて混合することにより製造される。また、(E)成分としてシリカなどを配合する場合は、例えば、(B)成分、(C)成分、(D)成分および各種の添加剤などを配合して撹拌したものに、(E)成分を分散した(A)成分を加え、ミキサーを用いて混合することにより製造される。
【0055】
<硬化方法>
本発明に用いるラジカル硬化性組成物は、特に限定されないが、電子線や紫外線などの活性エネルギー線により硬化される。なかでも、基材へのダメージが少ない紫外線が好ましい。活性エネルギー源としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、高圧水銀灯、ブラックライト、LED、蛍光灯などを用いることができる。
【0056】
本発明のラジカル硬化性組成物の架橋体からなる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材のガラス転移温度(Tg)は、-40℃以下である。本発明の効果をより高める観点から、-45℃以下がより好ましい。なお、下限値は特に限定されるものではないが、例えば-100℃である。かかるガラス転移温度(Tg)は、上記と同様、示差走査熱量計(DSC)により測定される。
【0057】
<シール方法>
本発明に用いるラジカル硬化性組成物のシール方法は、特に限定されないが、例えば、ラジカル硬化性組成物を燃料電池の構成部材に塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させればよい。塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ディスペンサー、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷などの各種方法を用いることができる。より具体的には、FIPG(フォームインプレイスガスケット)、CIPG(キュアーインプレイスガスケット)、MIPG(モールドインプレイスガスケット)などのシール方法を用いることができる。
【0058】
本発明は、(A)~(D)成分を含有するラジカル硬化性組成物を、上記シール方法を用いて、燃料電池の構成部材にシールすることにより、短時間(例えば、数十秒程度)で架橋することが可能であり、生産性に優れる。また、本発明のシール部材は、膜状のシール部材にすることが容易であり、シール部材の薄膜化により、燃料電池の小型化を実現することができる。具体的には、例えば、膜状のシール部材の厚みを50~1,000μmにすることが容易であり、燃料電池の小型化を実現できる。さらに、本発明のシール部材は、幅広い温度範囲において、圧縮永久歪み性および圧縮割れ性に優れる燃料電池用ラジカル硬化性シール部材を提供することができる。
【0059】
<用途>
本発明のシール部材は、燃料電池の構成部材に用いられる。特に、寒冷地での使用など、幅広い温度範囲におけるシール性が要求される燃料電池に好適に用いられる。
【0060】
<燃料電池用ラジカル硬化性シール部材の作製>
本発明の燃料電池用ラジカル硬化性シール部材は、(A)~(D)成分、および必要に応じて、(E)成分、(F)成分などを含有する組成物を調製した後、燃料電池のセパレータなどの各種構成部材に対してディスペンサーなどを用いて塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより作製することができる。
また、燃料電池の各種構成部材に接着剤を塗布した面に対し、上記組成物を塗布し、活性エネルギー線を照射して硬化させることにより作製することもできる。
さらに、燃料電池の各種構成部材のシール対象部分の形状に応じて、所定形状に成形しておくこともできる。例えば、フィルム状に成形すると、燃料電池の各種構成部材にシール部材を、接着剤により貼り付けて利用に供することができる。
【0061】
本発明のシール部材によりシールされる燃料電池用の構成部材は、燃料電池の種類、構造などにより様々であるが、例えば、セパレータ(金属セパレータ、カーボンセパレーターなど)、ガス拡散層、MEA(電解質膜、電極)などが挙げられる。
【0062】
本発明のシール部材の一例を図1に示す。複数枚のセルが積層されてなる燃料電池における単一のセル1を主として示したものであり、セル1は、MEA2と、ガス拡散層3と、シール部材4と、セパレータ5と、接着層6を備えている。
【0063】
本発明のシール部材としては、例えば、セパレータ5とシール部材4とが接着層6を介して接着されてなるもの、セパレータ5と自己接着性を有するシール部材4とが接着されてなるもの、MEA2とシール部材4とが接着層6を介して接着されてなるもの、隣接するシール部材4同士が接着層6を介して接着されてなるものなどが挙げられる。
【0064】
MEA2は、図示しないが、電解質膜と、電解質膜を挟んで積層方向両側に配置された一対の電極からなる。電解質膜および一対の電極は、矩形薄板状を呈している。MEA2を挟んで積層方向両側には、ガス拡散層3が配置されている。ガス拡散層3は、多孔質層で、矩形薄板状を呈している。
【0065】
セパレータ5は、カーボンセパレーターもしくは金属製のものが好ましく、導通信頼性の観点から、DLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)やグラファイト膜などの炭素薄膜を有する金属セパレータが特に好ましい。セパレータ5は、矩形薄板状を呈しており、長手方向に延在する溝が合計六つ凹設されており、この溝により、セパレータ5の断面は、凹凸形状を呈している。セパレータ5は、ガス拡散層3の積層方向両側に対向して配置されている。ガス拡散層3とセパレータ5との間には、凹凸形状を利用して、電極にガスを供給するためのガス流路7が区画されている。
【0066】
シール部材4は、矩形枠状を呈している。そして、シール部材4は、接着層6を介して、MEA2やガス拡散層3の周縁部、およびセパレータ5に接着され、MEA2やガス拡散層3の周縁部を封止している。なお、図1の例において、シール部材4は、上下に分かれた2個の部材を使用しているが、両者を合わせた単一のシール部材であっても差し支えない。
【0067】
接着層6を形成する材料としては、例えば、ゴム糊、常温(23℃)で液状のゴム組成物、プライマーなどが用いられる。上記材料の塗布方法としては、例えば、ディスペンサー塗布などがあげられ、通常は常温の条件下で塗布すればよい。燃料電池シール体における接着層の厚みは、上記液状ゴム組成物を用いる場合、通常、0.01~0.5mmである。
【0068】
固体高分子型燃料電池などの燃料電池の作動時には、燃料ガスおよび酸化剤ガスが、各々ガス流路7を通じて供給される。ここで、MEA2の周縁部は、接着層6を介して、シール部材4によりシールされている。このため、ガスの混合や漏れは生じない。
【実施例
【0069】
以下、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0070】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0071】
<(A)成分>
アクリロイル基末端ポリアクリレートA1(合成例)
公知の方法(例えば、特開2012-211216号公報記載)に従い、臭化第一銅を触媒、ペンタメチルジエチレントリアミンを配位子、ジエチル-2,5-ジブロモアジペートをラジカル重合開始剤とした。アクリルモノマーとして、アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチルを50重量部/50重量部用い、アクリルモノマー/ラジカル重合開始剤比(モル比)を180にして重合し、末端臭素基アクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体を得た。この共重合体をN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させ、アクリル酸カリウムを加え、窒素雰囲気下、70℃で加熱撹拌した。この混合液中のN,N-ジメチルアセトアミドを減圧留去したのち、残渣に酢酸ブチルを加えて、不溶分を濾過により除去した。濾液の酢酸ブチルを減圧留去して、末端にアクリロイル基を有するアクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体[A1]を得た。数平均分子量は23,000、分子量分布は1.1、重合体1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数を1H-NMR分析により求めたところ約1.9個であった。また、ガラス転移温度(Tg)は-50℃であった。
【0072】
アクリロイル基末端ポリアクリレートA2(合成例)
アクリルモノマー/ラジカル重合開始剤比を80とする以外は、アクリロイル基末端ポリアクリレート[A1]と同様の方法により、末端にアクリロイル基を有するアクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体[A2]を得た。数平均分子量は7,000、分子量分布は1.1、重合体1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数を1H-NMR分析により求めたところ約1.8個であった。また、ガラス転移温度(Tg)は-50℃であった。
【0073】
アクリロイル基末端ポリアクリレートA3(合成例)
アクリルモノマー/ラジカル重合開始剤比を550とする以外は、アクリロイル基末端ポリアクリレート[A1]と同様の方法により、末端にアクリロイル基を有するアクリル酸2-エチルヘキシル/アクリル酸n-ブチル共重合体[A3]を得た。数平均分子量は95,000、分子量分布は1.4、重合体1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数を1H-NMR分析により求めたところ約2.0個であった。また、ガラス転移温度(Tg)は-51℃であった。
【0074】
アクリロイル基末端ポリアクリレートA4(合成例)
アクリルモノマーとして、アクリル酸エチル/アクリル酸n-ブチルを50重量部/50重量部用い、アクリルモノマー/ラジカル重合開始剤比を180とする以外は、アクリロイル基末端ポリアクリレート[A1]と同様の方法により、末端にアクリロイル基を有するアクリル酸エチル/アクリル酸n-ブチル共重合体[A4]を得た。数平均分子量は20,000、分子量分布は1.2、重合体1分子当たりに導入された平均のアクリロイル基の数を1H-NMR分析により求めたところ約1.9個であった。また、ガラス転移温度(Tg)は-35℃であった。
【0075】
<(B)成分>
アクリル酸2-エチルヘキシル(Tg:-70℃、三菱ケミカル社製)
アクリル酸n-ブチル(Tg:-55℃、三菱ケミカル社製)
アクリル酸n-オクチル(Tg:-65℃、大阪有機化学工業社製)
アクリル酸イソボルニル(Tg:97℃、大阪有機化学工業社製)
<(C)成分>
1,9-ノナンジオールジメタクリレート(日本油脂社製)
1,9-ノナンジオールジアクリレート(新中村化学工業社製)
ペンタエリスリトールアクリレート(大阪有機化学工業社製、ビスコート#802〔トリペンタエリスリトールアクリレート、モノペンタエリスリトールアクリレート、ジペンタエリスリトールアクリレート、ポリペンタエリスリトールアクリレートの混合物〕)
<(D)成分>
2-ヒドロキシ-2-メチル-1フェニルプロパン-1-オン(iGM RESINS社製、Omnirad1173)
<(E)成分>
トリメチルシリル化シリカ(AEROSIL社製、AEROSIL RX200)
メタクリルシリル化シリカ(AEROSIL社製、AEROSIL R7200)
<(F)成分>
4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(精工化学社製、ノンフレックスDCD)
【0076】
[実施例1~18、比較例1~10]
(燃料電池用ラジカル硬化性シール部材の作製)
下記の表1および表2に示す各成分を、同表に示す割合で配合し、プラネタリーミキサー(井上製作所社製)で混練することにより、ラジカル硬化性組成物を調製した。高圧水銀UV照射機(ヘレウス社製、F600V-10)にて紫外線を照射し(照射強度:250mW/cm2、積算光量:3000mJ/cm2)、直径15mm、厚み1mmの各試験用サンプルを得た。
【0077】
上記により得られた各試験用サンプルに関し、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、同表1および表2に示す。
【0078】
<高温圧縮永久歪み>
各試験用サンプルについて、JIS K 6262に準拠した高温での圧縮永久歪み試験を行った。各サンプルを、圧縮率25%で圧縮し、その状態で120℃×24時間の加熱を行った後、解放し、室温(25℃)下で30分間経過した後の各サンプルの厚みを測定して、圧縮永久歪み(%)を算出し、以下の基準により評価した。
10%未満 ◎
10%以上~20%未満 ○
20%以上~30%未満 △
30%以上 ×
【0079】
<高温圧縮割れ>
また、上記圧縮率を40%、50%、または60%に変更した以外は、上記試験と同様の条件により試験を行い、各サンプルの割れの有無を目視にて確認した。
60%圧縮で割れ無し ◎
50%圧縮で割れ無し ○
40%圧縮で割れ無し △
40%圧縮で割れ有り ×
【0080】
<低温圧縮永久歪み>
各試験用サンプルについて、JIS K 6262に準拠した低温での圧縮永久歪み試験を行った。すなわち、加硫ゴムを圧縮率25%で圧縮し、その状態で-30℃下に24時間静置した後、圧縮を解放し、そのままの温度下で30分間経過した後の加硫ゴムの厚みを測定して、圧縮永久歪み(%)を算出し、以下の基準により評価した。
55%未満 ◎
55%以上~65%未満 ○
65%以上~75%未満 △
75%以上 ×
【0081】
<低温圧縮割れ>
また、上記圧縮率を40%、50%、または60%に変更した以外は、上記試験と同様の条件により試験を行い、各サンプルの割れの有無を目視にて確認した。
60%圧縮で割れ無し ◎
50%圧縮で割れ無し ○
40%圧縮で割れ無し △
40%圧縮で割れ有り ×
【0082】
≪総合評価≫
全ての特性評価が「○」または「◎」であって、「◎」の数が3つ以上の場合を総合評価「◎」とした。また、全ての特性評価が「○」または「◎」であって、「◎」の数が3つ未満の場合を総合評価「○」とした。また、各特性の評価において一つでも「×」がある場合を、総合評価「×」とした。
【0083】
<ガラス転移温度>
上記により得られた各試験用サンプルについて、上記と同様、示差走査熱量計(DSC)により、ガラス転移温度を測定した。その結果を、同表1および表2に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
上記表1の結果から、本発明の各要件を充足する実施例1~18のシール部材は、高温における圧縮永久歪み性および圧縮割れ性、低温における圧縮永久歪み性および圧縮割れ性の各評価において良好な結果が得られることがわかる。
これに対し、上記表2の結果から、比較例1のシール部材は、[(B)/(C)]および[(C)/{(A)+(B)+(C)}]の値が本発明の範囲外であるため、高温および低温における圧縮永久歪み性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例2のシール部材は、(C)成分の含有量が多く、[(C)/{(A)+(B)+(C)}]の値が本発明の範囲外であるため、高温および低温における圧縮割れ性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例3のシール部材は、(B)成分の含有量が少なく、[(B)/(C)]の値が本発明の範囲外であるため、高温および低温における圧縮割れ性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例4のシール部材は、(B)成分の含有量が多いため、高温および低温における圧縮永久歪み性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例5のシール部材は、[(B)/(C)]の値が本発明の範囲外であるため、高温および低温における圧縮永久歪み性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例6のシール部材は、[(B)/(C)]および[(C)/{(A)+(B)+(C)}]の値が本発明の範囲外であるため、高温および低温における圧縮割れ性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例7のシール部材は、(C)成分を含有しないため、高温および低温における圧縮永久歪み性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例8のシール部材は、(B)成分を含有しないため、高温および低温における圧縮割れ性の評価において劣る結果が得られた。
また、比較例9、10のシール部材は、ガラス転移温度(Tg)が、本発明の範囲外であるため、低温における圧縮永久歪みの評価などにおいて劣る結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のシール部材は、燃料電池を構成する部材に用いられ、例えば、金属セパレータなどの燃料電池用構成部材と、それをシールするゴム製のシール部材とが接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体、もしくは上記シール部材同士が接着層を介して接着されてなる燃料電池シール体の上記シール部材に用いられる。
【符号の説明】
【0088】
1 セル
2 MEA
3 ガス拡散層
4 シール部材
5 セパレータ
6 接着層
7 ガス流路
図1