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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】電動モータ式四輪駆動車の駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/356 20060101AFI20230926BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20230926BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20230926BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
B60K17/356 B
B60L15/20 S
B60L15/20 K
B60L7/14
B60L9/18 P
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019176203
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021054110
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 直寛
(72)【発明者】
【氏名】村上 守
(72)【発明者】
【氏名】稲生 崇人
(72)【発明者】
【氏名】満元 弘毅
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206074(JP,A)
【文献】特開2014-187788(JP,A)
【文献】特表2015-505762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/356
B60L 15/20
B60L 7/14
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪側と後輪側との間で動力を伝達するプロペラシャフトと、
前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に設けられた第1差動機構と、
前輪側又は後輪側のうちの他方側の駆動軸に設けられた第2差動機構と、
前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第1切り離し機構と、
前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第2切り離し機構と、
前記プロペラシャフトに対し、前記第1切り離し機構よりも前輪側又は後輪側のうちの前記一方側に接続された第1モータと、
前記第1切り離し機構と前記第2切り離し機構との間に接続された第2モータと、
前記第1モータと、前記第2差動機構と、の接続を切り離す第3切り離し機構と、
前輪側又は後輪側のうちの前記一方側の左輪と前記第1差動機構との間の駆動軸に対する前記第1モータの直結状態又は切断状態を切り替える第4切り離し機構と、
前輪側又は後輪側のうちの前記一方側の右輪と前記第1差動機構との間の駆動軸に対する前記第1モータの直結状態又は切断状態を切り替える第5切り離し機構と、
を備える、電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項2】
前記第1モータの出力軸は、前記前輪側の駆動軸と平行となるように配置されてなる、請求項1に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項3】
前記第2モータの出力軸は、前記プロペラシャフトと平行となるように配置されてなる、請求項1又は2に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項4】
前記第2モータの最大出力は前記第1モータの最大出力より高く、
前記第2モータは、変速機又は減速機を介して前記プロペラシャフトと接続されてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項5】
前記第1切り離し機構、前記第2切り離し機構、前記第3切り離し機構、前記第4切り離し機構および前記第5切り離し機構の切り離しを制御する制御装置をさらに含み、
前記制御装置は、前記第1モータと前記第2モータの出力状態に応じて各々の切り離し機構における切り離しの制御を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すとともに前記第1モータと前記第1差動機構との接続を維持するように、少なくとも前記第1切り離し機構および前記第3切り離し機構を制御し、
前記第2モータからの出力は行われず前記第1モータからの出力が前記第1差動機構を介して前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に伝達される、
請求項5に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するように、少なくとも前記第1切り離し機構及び前記第2切り離し機構を制御し、
少なくとも前記第2モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側および後輪側の駆動軸に伝達される、
請求項5又は6に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前輪側又は後輪側のうちの一方側における左輪と右輪のいずれか一方のみが少なくとも前記第1モータと直結された状態となるように、前記第4切り離し機構および前記第5切り離し機構を制御し、
少なくとも前記第1モータからの出力が前記左輪と前記右輪のうち前記第1モータと直結された側へ伝達されるとともに、前記第1モータと直結されない側は前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の差動機構によって差回転が許容される、
請求項5~7のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに、前記前輪側又は後輪側のうちの一方側における左輪と右輪とが直結された状態となるように、少なくとも前記第1切り離し機構と前記第4切り離し機構と前記第5切り離し機構とを制御し、
少なくとも前記第2モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に伝達される、
請求項5~8のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記前輪側又は後輪側のうちの一方側における左輪と右輪とが直結された状態となるように、少なくとも前記第4切り離し機構と前記第5切り離し機構とを制御し、
少なくとも前記第1モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に伝達される、
請求項5~9のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記第1モータと前記第1差動機構との接続を維持するように、少なくとも前記第3切り離し機構を制御し、
少なくとも前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸の回転を介して前記第1モータによって回生充電が行われる、
請求項5~10のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【請求項12】
前記前輪側又は後輪側のうちの一方側は、後輪側である、
請求項5~11のいずれか一項に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータで駆動する電気自動車の駆動系技術に関し、より詳細には複数の電動モータで前輪および後輪を駆動させる電動モータ式四輪駆動車の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータで駆動する電気自動車では、4輪すべてを駆動輪とする四輪駆動方式が既知である(例えば特許文献1、2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-92995号公報
【文献】特開2018-70076号公報
【文献】特開2014-87251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献などに例示される駆動方式は、すべて機械構造部品としてのプロペラシャフトを持たない構造である。プロペラシャフトを搭載しないことは、軽量化の観点では良い面もあるものの、従来の確立された内燃機関における四輪駆動車のごとき性能を達成することが困難となる。
【0005】
すなわち、例えば不整路などで左右のいずれかの駆動輪がスリップした場合、電動モータで発生する駆動力を非スリップ側の駆動輪に再分配することは構造的に不可能である。さらにこのようなスリップ状態において非スリップ側の駆動輪だけで対処しようとすれば、車両に搭載される電動モータのトルク容量を増大させねばならず、コストアップや体積増を招いてしまう。
【0006】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、プロペラシャフトを用いて電動モータの効率的な駆動力伝達を実現可能な電動モータ式四輪駆動車の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態における電動モータ式四輪駆動車の駆動装置は、(1)前輪側と後輪側との間で動力を伝達するプロペラシャフトと、前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に設けられた第1差動機構と、前輪側又は後輪側のうちの他方側の駆動軸に設けられた第2差動機構と、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第1切り離し機構と、前記第2差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離す第2切り離し機構と、前記プロペラシャフトに対し、前記第1切り離し機構よりも前輪側又は後輪側のうちの前記一方側に接続された第1モータと、前記第1切り離し機構と前記第2切り離し機構との間に接続された第2モータと、前記第1モータと、前記第2差動機構と、の接続を切り離す第3切り離し機構と、前輪側又は後輪側のうちの前記一方側の左輪と前記第1差動機構との間の駆動軸に対する前記第1モータの直結状態又は切断状態を切り替える第4切り離し機構と、前輪側又は後輪側のうちの前記一方側の右輪と前記第1差動機構との間の駆動軸に対する前記第1モータの直結状態又は切断状態を切り替える第5切り離し機構と、を備える。
【0008】
なお、上記した(1)に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(2)前記第1モータの出力軸は、前記前輪側の駆動軸と平行となるように配置されてなることが好ましい。
【0009】
また、上記した(1)又は(2)に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(3)前記第2モータの出力軸は、前記プロペラシャフトと平行となるように配置されてなることが好ましい。
【0010】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(4)前記第2モータの最大出力は前記第1モータの最大出力より高く、前記第2モータは、変速機又は減速機を介して前記プロペラシャフトと接続されてなることが好ましい。
【0011】
また、上記した(1)~(4)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(5)前記第1切り離し機構、前記第2切り離し機構、前記第3切り離し機構、前記第4切り離し機構および前記第5切り離し機構の切り離しを制御する制御装置をさらに含み、前記制御装置は、前記第1モータと前記第2モータの出力状態に応じて各々の切り離し機構における切り離しの制御を行うことが好ましい。
【0012】
また、上記した(5)に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(6)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を切り離すとともに前記第1モータと前記第1差動機構との接続を維持するように、少なくとも前記第1切り離し機構および前記第3切り離し機構を制御し、前記第2モータからの出力は行われず前記第1モータからの出力が前記第1差動機構を介して前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0013】
また、上記した(5)又は(6)に記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(7)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに前記第1モータと前記第1差動機構との接続を維持するように、少なくとも前記第1切り離し機構、前記第2切り離し機構および前記第3切り離し機構を制御し、前記第1モータおよび前記第2モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側および後輪側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0014】
また、上記した(5)~(7)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(8)前記制御装置は、前輪側又は後輪側のうちの一方側における左輪と右輪のいずれか一方のみが少なくとも前記第1モータと直結された状態となるように、前記第4切り離し機構および前記第5切り離し機構を制御し、少なくとも前記第1モータからの出力が前記左輪と前記右輪のうち前記第1モータと直結された側へ伝達されるとともに、前記第1モータと直結されない側は前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の差動機構によって差回転が許容されることが好ましい。
【0015】
また、上記した(5)~(8)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(9)前記制御装置は、前記第1差動機構と前記プロペラシャフトとの接続を維持するとともに、前記前輪側又は後輪側のうちの一方側における左輪と右輪とが直結された状態となるように、少なくとも前記第1切り離し機構と前記第4切り離し機構と前記第5切り離し機構とを制御し、少なくとも前記第2モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0016】
また、上記した(5)~(9)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(10)前記制御装置は、前記前輪側又は後輪側のうちの一方側における左輪と右輪とが直結された状態となるように、少なくとも前記第4切り離し機構と前記第5切り離し機構とを制御し、少なくとも前記第1モータからの出力が前記プロペラシャフトを介して前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に伝達されることが好ましい。
【0017】
また、上記した(5)~(10)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(11)前記制御装置は、前記第1モータと前記第1差動機構との接続を維持するように、少なくとも前記第3切り離し機構を制御し、少なくとも前記前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸の回転を介して前記第1モータによって回生充電が行われることが好ましい。
【0018】
また、上記した(5)~(11)のいずれかに記載の電動モータ式四輪駆動車の駆動装置においては、(12)前記前輪側又は後輪側のうちの一方側は、後輪側であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、様々な路面状況に対する高い走破性と操縦安定性を維持しつつ、効率的な駆動力の伝達を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る電動モータ式四輪駆動車における駆動力伝達系を示すブロック図である。
図2】制御部による各電動モータと切り離し機構の制御状態を示した状態比較図である。
図3】第1の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図4】第2の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図5】第3の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態(その1)を模式的に示した模式図である。
図6】第3の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態(その2)を模式的に示した模式図である。
図7】第4の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図8】第5の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図9】第6の状態における、電動モータの駆動力が駆動輪へ伝達される状態を模式的に示した模式図である。
図10】実施形態に係る電動モータ式四輪駆動車における駆動制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明では、それぞれ便宜的に電動モータ式四輪駆動車100の車高方向をZ方向、車長方向をY方向、これらZ方向及びY方向と直交する車幅方向をX方向として定義して説明する。しかしながら本発明は上述した方向の規定に左右されるものではなく、特許請求の範囲を不当に減縮するものでないことは言うまでもない。また、以下で詳述する以外の構成については、上記した特許文献を含む公知技術を適宜補完してもよい。
【0022】
<電動モータ式四輪駆動車100>
まず本発明の好適な実施形態における係る電動モータ式四輪駆動車100の構成について、図1を参照しながら説明する。
同図に示すとおり、本実施形態の電動モータ式四輪駆動車100は、駆動輪1を電動モータによって駆動する電気自動車であって、プロペラシャフト10、第1差動機構20、第2差動機構30、切り離し機構40(第1切り離し機構41、第2切り離し機構42、第3切り離し機構43、第4切り離し機構44および第5切り離し機構45)、第1モータMG1、第2モータMG2及び制御部ECUを含んで構成されている。
【0023】
本実施形態における駆動輪1は、前輪側を構成する右前輪1RFと左前輪1LF、後輪側を構成する右後輪1RRと左後輪1LRを含んでいる。そして図1に示すとおり、右前輪1RFと左前輪1LFは、前輪側の駆動軸11F及び差動機構としての第2差動機構30を介して連結されている。また、右後輪1RRと左後輪1LRは、後輪側の駆動軸11R及び差動機構としての第1差動機構20を介して連結されている。
【0024】
プロペラシャフト10は、上記した前輪側と後輪側との間で駆動力(回転)を伝達する機能を有している。より具体的に、このプロペラシャフト10における前輪側の端部には、第9ギアg9としてのドライブピニオンが設けられている。この第9ギアg9は、後述する第2切り離し機構42と連動する直交ギアとしての第10ギアg10と噛み合うことが可能となっている。他方、プロペラシャフト10における後輪側の端部には、第8ギアg8としてのドライブピニオンが設けられている。この第8ギアg8は、後述する第1切り離し機構41と連動する直交ギアとしての第7ギアg7と噛み合うことが可能となっている。
【0025】
第1差動機構20は、前輪側11F又は後輪側11Rのうちの一方側の駆動軸に設けられる。第1差動機構20は、本実施形態においては後輪側の駆動軸11Rに設けられている。換言すれば、前輪側11F又は後輪側11Rのうちの一方側は、後輪側であることが好ましい。以下、本実施形態では前輪側11F又は後輪側11Rのうちの一方側を後輪側として説明を継続する。
第1差動機構20は、旋回時などに右後輪1RRと左後輪1LRとに回転数の差を与えることが可能となっている。より具体的に、第1差動機構20は、後述する第4ギアg4と噛み合うリングギア21を含んでいる。なお第1差動機構20は不図示のデフケースを備えており、このデフケース内には、右後輪1RR及び左後輪1LRそれぞれの駆動軸11Rへと繋がるサイドギア(不図示)が左右に1つずつ、さらにその双方のギアに噛み合う形でピニオンギア(不図示)が2つ配されている。
【0026】
第2差動機構30は、前輪側11F又は後輪側11Rのうちの他方側の駆動軸に設けられる。第2差動機構30は、本実施形態においては前輪側の駆動軸11Fに設けられている。
第2差動機構30は、第1差動機構20と同様に、旋回時などに右前輪1RFと左前輪1LFとに回転数の差を与えることが可能となっている。より具体的に、第2差動機構30は、後述する第11ギアg11と噛み合うリングギア31を含んでいる。第1差動機構20と同様に、第2差動機構30も不図示のデフケースを備えており、このデフケース31内には上記した不図示のサイドギアとピニオンギアが設置される。
【0027】
第1切り離し機構41は、上記した第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を切り離す機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の第1切り離し機構41は、後述する制御部ECUの制御の下で、第1差動機構20とプロペラシャフト10とが連結されて駆動力が伝達可能な維持状態と、これらの連結が切断されて駆動力が伝達されない切断状態と、の二通りの状態を作り出すことができる。かような第1切り離し機構41の具体的な構造としては、例えばラチェットシフト式ドッグクラッチなど公知のクラッチ機構や、特開2018-17354号に例示されるディスコネクト機構を採用してもよい。
【0028】
第2切り離し機構42は、上記した第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を切り離す機能を有して構成されている。より具体的に本実施形態の第2切り離し機構42は、後述する制御部ECUの制御の下で、第2差動機構30とプロペラシャフト10とが連結されて駆動力が伝達可能な維持状態と、これらの連結が切断されて駆動力が伝達されない切断状態と、の二通りの状態を作り出すことができる。かような第2切り離し機構42の具体的な構造としては、公知のクラッチ機構など上記第1切り離し機構41と同様の構造を採用してもよい。
【0029】
第3切り離し機構43は、後述する第1モータMG1と、上記した第2差動機構30と、の接続を切り離す機能などを有して構成されている。より具体的に本実施形態の第3切り離し機構43は、後述する中空円筒状の第2中間シャフトTSに設置されて、後述する制御部ECUの制御の下で前輪側と後輪側との間における各電動モータからの出力を伝達しあるいは遮断したりするように構成されている。かような第3切り離し機構43の具体的な構造としては、公知のクラッチ機構など上記第1切り離し機構41などと同様の構造を採用してもよい。
【0030】
第4切り離し機構44は、前輪側又は後輪側のうちの一方側の左輪と第1差動機構20との間の駆動軸に対する第1モータMG1の直結状態又は切断状態を切り替える機能を有して構成されている。なお、上述したとおり、本実施形態では、前輪側又は後輪側のうちの一方側は後輪側となっている。
従って本実施形態の第4切り離し機構44は、左後輪1LRと第1差動機構20との間の駆動軸11Rと共に回転可能に設置されており、後述する制御部ECUの制御の下で所定のギア(第1ギアg1、第2ギアg2、第5ギアg5および第6ギアg6)を介して第1モータMG1と左後輪1LRとが直結された状態またはこれが切断された状態を切り替え可能なように構成されている。
換言すれば、本実施形態の第4切り離し機構44は、第1モータMG1の駆動力(トルク)が左後輪1LRへ伝達される度合いを調節してトルクベクタリングする機能や、後述する第5切り離し機構45と協働して差動制限を行う機能などを有するように構成されている。
かような第4切り離し機構44の具体的な構造としては、公知のクラッチ機構など上記第1切り離し機構41などと同様の構造を採用してもよい。
【0031】
第5切り離し機構45は、前輪側又は後輪側のうちの一方側の右輪と第1差動機構20との間の駆動軸に対する第1モータMG1の直結状態又は切断状態を切り替える機能を有して構成されている。
この第5切り離し機構45は、右後輪1RRと第1差動機構20との間の駆動軸11Rと共に回転可能に設置されており、後述する制御部ECUの制御の下で所定のギア(第1ギアg1、第2ギアg2および第3ギアg3)を介して第1モータMG1と右後輪1RRとが直結された状態または切断された状態を切り替え可能なように構成されている。
かような第5切り離し機構45の具体的な構造としては、公知のクラッチ機構など上記第1切り離し機構41などと同様の構造を採用してもよい。
【0032】
このように本実施形態の第5切り離し機構45は、第1モータMG1の駆動力(トルク)が右後輪1RRへ伝達される伝達度合いを調節してトルクベクタリングする機能を有するように構成されている。また第5切り離し機構45は、上記のとおり第4切り離し機構44との協働による差動制限機能を有している。
より具体的には、第4切り離し機構44と第5切り離し機構45は、例えば一方を直結状態としつつ他方を切断状態とすることで、直結された接続側の駆動輪には電動モータからのトルクを直接的に伝達させつつ、切断された側の駆動輪は差動機構を介して差回転を許容するように構成されている。また、第4切り離し機構44と第5切り離し機構45は、例えば双方を直結状態とすることで、左右の駆動輪には電動モータから同一のトルクが伝達されるようになり、これによって上記した差回転ができず差動機能に制限がかかることとなる。
【0033】
第1モータMG1は、上記したプロペラシャフト10に対し、第1切り離し機構41よりも前輪側又は後輪側のうちの一方側に接続される。すなわち第1モータMG1は、第1切り離し機構20よりも前輪側で配置されていても後輪側に配置されていてもよい。本実施形態においては、図1に示すとおり、第1切り離し機構41よりもプロペラシャフト10に対して後輪側に接続されている。これにより、第1モータMG1からの出力(駆動力)は、第1切り離し機構41を介してプロペラシャフト10の第8ギアg8に伝達される。
かような第1モータMG1の具体例としては、不図示のインバーターなどを介して制御される公知の永久磁石式三相交流モータなどを適用してもよい。
【0034】
さらに本実施形態においては、この第1モータMG1の出力軸OSは、図1から明らかなとおり、後輪側の駆動軸11R(又は前輪側の駆動軸11F)と平行となるように配置(このモータの配置態様を「横置き」とも称する)されていてもよい。これにより、(本例の場合は後輪側の駆動軸11Rへ)直交ギアを介さず平歯車を適用して効率良く第1モータMG1で発生する駆動力を伝達することが可能となっている。
また、不図示のバッテリーへの回生充電時にも直交ギアが介在しないことで、駆動輪から第1モータMG1への伝達効率が下がってしまうことを抑制可能となっている。このように本実施形態では、プロペラシャフト10へ機械的に接続された第2モータMG2でなく前輪側と機械的に接続された第1モータMG1で回生充電を行っていることから、より高い効率でバッテリーへの回生充電を実行可能となっている。
【0035】
第2モータMG2は、上記した第1切り離し機構41(又は第3切り離し機構43)と第2切り離し機構42との間に接続されている。より具体的には、本実施形態においては、第1切り離し機構41(又は第3切り離し機構43)と第2切り離し機構42との間であって、プロペラシャフト10に対して公知の減速機50を介して接続されている。なお本実施形態の第2モータMG2は、上記した減速機50を介してプロペラシャフト10に接続されているが、この形態に限られず減速機50に代えて公知の変速機を介して接続されていてもよい。
【0036】
さらに本実施形態においては、この第2モータMG2の出力軸OSは、図1に示すとおり、プロペラシャフト10と平行となるように配置されていてもよい。換言すれば、本実施形態においては、第1モータMG1の出力軸OSと第2モータMG2の出力軸OSとは、互いに直交する配置関係となっていることが好ましい。これにより、第2モータMG2についても直交ギアが介在せずにプロペラシャフト10に駆動力を伝達することが可能となっている。
【0037】
また、この第2モータMG2の最大出力(定格出力)は、上記した第1モータMG1の最大出力(定格出力)より高いことが好ましい。これにより、後述する制御部ECUによるトルク分配制御において、走行状態に応じてより最適なトルク分配を実現することが可能となっている。
【0038】
<駆動力伝達系の詳細な構成>
図1に示すとおり、本実施形態においては、第1モータMG1における出力軸OSには平歯車で構成された第1ギアg1が設けられている。また、第1モータMG1における出力軸OSと後輪側の駆動軸11Rとの間には、第1モータMG1からの駆動力や駆動輪からの回生力を中継可能な中間シャフトTsが設置されている。
【0039】
この中間シャフトTsは、中空で円筒状の第2中間シャフトTSと、この第2中間シャフトTSの内側を貫通する第1中間シャフトTSとを含んで構成されている。図示からも明らかなとおり、第1中間シャフトTSと第2中間シャフトTSは互いに共通する回転軸を有した同軸構造となっている。従って第1中間シャフトTSと第2中間シャフトTSの一方が回転すれば、他方も当該一方に追従して回転可能なように構成されている。
なお本実施形態における第1中間シャフトTSと第2中間シャフトTSは、第1モータMG1における出力軸OSや後輪側の駆動軸11Rと平行となるように設置されている。
【0040】
第1中間シャフトTSのうち一方の端部には、上記した第1ギアg1と噛み合う第2ギアg2が設けられている。この第2ギアg2は後述する第3ギアg3と噛み合っており、第1モータMG1からの出力などは第2ギアg2と第3ギアg3及び第5切り離し機構45を介して後輪側のうち右後輪1と接続する駆動軸11Rに伝達可能に構成されている。
また、第1中間シャフトTSのうち他方の端部には、上記した第6ギアg6と噛み合う第5ギアg5が設けられている。この第5ギアg5は上記した第6ギアg6と噛み合っており、第1モータMG1からの出力などは第5ギアg5と第6ギアg6及び第4切り離し機構44を介して後輪側のうち左後輪1LRと接続する駆動軸11Rに伝達可能に構成されている。
【0041】
上記した第1中間シャフトTSと同期して回転可能な第2中間シャフトTSには、第1切り離し機構41および第3切り離し機構43が設けられる。また、本実施形態の第2中間シャフトTSには、上記第1切り離し機構41と第3切り離し機構43との間に第4ギアg4が設置されている。この第4ギアg4は、第2中間シャフトTSの回転に同期して回転可能とされており、上述したとおり第1差動機構20のリングギア21と噛み合うように設けられている。
さらに第2中間シャフトTSの端部には直交ギアとしての第7ギアg7が設けられている。この第7ギアg7は、第2中間シャフトTSの回転に同期して回転可能とされており、上述したプロペラシャフト10の第8ギアg8と噛み合うように設けられている。
【0042】
第2モータMG2の出力軸OSは、減速機50と接続されており、さらにこの減速機50を介してプロペラシャフト10と機械的に接続されている。プロペラシャフト10のうち第8ギアg8とは反対側の端部(本例では前輪側)には第9ギアg9が設けられている。
第9ギアg9は、直交ギアとしての第10ギアg10と噛み合っている。この第9ギアg9は、プロペラシャフト10と前輪側の駆動軸11Fとの間に設けられた第3中間シャフトTSのうち一方の端部に設けられている。
【0043】
また、この第3中間シャフトTSのうち他方の端部には第11ギアg11が設けられているとともに、第3中間シャフトTSのうち第10ギアg10と第11ギアg11の間には上記した第2切り離し機構42が設置されている。
第11ギアg11は上記した第2差動機構30のリングギア31と噛み合っており、これによりプロペラシャフト10からの駆動力は第10ギアg10と第11ギアg11及び第2切り離し機構42を介して第2差動機構30に伝達される。
なお、上記した第3中間シャフトTSは、前輪側の駆動軸11Fや第1モータMG1の出力軸OSに対して平行となるように配置されている。換言すれば、本実施形態においては、第1中間シャフトTS~第3中間シャフトTSは、互いに平行となるようにそれぞれ配置されている。
【0044】
従って、例えば第1モータMG1から発生した駆動力は、第1ギアg1、第2ギアg2、第3ギアg3および第5切り離し機構45の順に伝達されて右後輪1RRへ伝達するように構成されている。また、例えば第1モータMG1から発生した駆動力は、第1ギアg1、第2ギアg2、第5ギアg5、第6ギアg6および第4切り離し機構44の順に伝達されて左後輪1LRへ伝達するように構成されている。さらに、例えば第1モータMG1から発生した駆動力は、第1ギアg1、第2ギアg2、第3切り離し機構43、第4ギアg4およびリングギア21の順に伝達されて第1差動機構20へ伝達するように構成されている。さらに、例えば第1モータMG1から発生した駆動力は、第1ギアg1、第2ギアg2、第3切り離し機構43、第1切り離し機構41、第7ギアg7、第8ギアg8を通してプロペラシャフト10へと伝達されるように構成されている。
【0045】
一方で、例えば第2モータMG2から発生した駆動力は、前輪側又は後輪側のうちの他方側(本例では前輪側)の駆動軸に関しては、第9ギアg9、第10ギアg10、第2切り離し機構42、第11ギアg11およびリングギア31の順に伝達されて第2差動機構30へ伝達するように構成されている。また、例えば第2モータMG2から発生した駆動力は、前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸に関しては、プロペラシャフト10の第8ギアg8から第7ギアg7を経由して伝達されるように構成されている。
【0046】
<制御部ECUによるトルク分配制御>
次に図2を用いて本実施形態における制御部ECUによるトルク分配制御について詳述する。
本実施形態の制御部ECUは、CPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)等のプロセッサや電気回路、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子を備えて構成されている。また、制御部ECUは、不図示のインバーターを介して第1モータMG1や第2モータMG2を制御するとともに、車両挙動を制御する公知のビークルダイナミクス制御(VDC)部などを含んで構成されている。各種の制御ユニットは、通信バスによって形成される車内ネットワーク(CANなど)を介して各種演算値等の制御情報や車速センサーなど各種センサーによって検出した制御パラメータ情報を相互に交換してモータ駆動力制御や車両挙動制御等を実行している。
【0047】
さらに制御部ECUは、上記した駆動力伝達系を制御することで前後の駆動輪1に対して最適なトルク分配を実行する機能を備えている。より具体的に、本実施形態における制御部ECUは、上記した第1切り離し機構41、第2切り離し機構42、第3切り離し機構43、第4切り離し機構44および第5切り離し機構45の切り離し状態又は維持状態を制御する機能を有している。
【0048】
かような制御装置ECUによる前後のトルク分配制御の一例を図2に示す。
同図に示されるとおり、制御装置ECUは、第1モータMG1と第2モータMG2の出力状態に応じて第1切り離し機構41~第5切り離し機構45のうち任意の組合せにおける切り離しの制御を行うように構成されている。
【0049】
以下、ある特定の走行条件または走行状態における非制限的なトルク分配制御の例を、図3図9を用いて説明する。
[第1の状態]
図2に示されるとおり、第1の状態としては、電動モータ式四輪駆動車100における二輪(本例では前輪側又は後輪側のうちの一方側としての後輪側)のみの走行が例示できる。また、この第1の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図3に示す。
【0050】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を切り離すとともに、第1モータMG1と第1差動機構20との接続を維持するように、少なくとも第1切り離し機構41および第3切り離し機構43を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、第2モータMG2の駆動を停止するとともに不図示のインバーターを介して第1モータMG1から駆動力を後輪側へ伝達させる制御を行う。
【0051】
なお、このとき、第4切り離し機構44および第5切り離し機構45については、上記した差動機能を有効としたい場合には共に切断状態とし、この差動機能を制限したい場合には共に接続した状態(直結状態)としてもよい。
これにより、第2モータMG2からの出力は行われず、第1モータMG1からの出力が第1差動機構20を介して前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸(本例では後輪側の駆動軸11R)に伝達される。
【0052】
[第2の状態]
図2に示されるとおり、第2の状態としては、例えば登坂走行時や不整路走行時など、電動モータ式四輪駆動車100の四輪すべてで駆動する全輪走行(AWD)が例示できる。また、この第2の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図4に示す。
【0053】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を維持するとともに、第2差動機構30とプロペラシャフト10との接続を維持するように、少なくとも第1切り離し機構41および第2切り離し機構42を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介して少なくとも第2モータMG2から駆動力を各駆動輪1へ伝達させる制御を行う。
なお、このとき、第4切り離し機構44および第5切り離し機構45については、上記した差動機能を有効としたい場合には共に切断状態とし、この差動機能を制限したい場合には共に接続した状態(直結状態)としてもよい。また、第3切り離し機構43については切断状態としてもよいし、接続された状態としてもよい。
【0054】
以上の構成により、第2モータMG2からの出力が、プロペラシャフト10や中間シャフトTsを介して前輪側の駆動軸11Fと後輪側の駆動軸11Rにそれぞれ伝達される。これにより、例えばSUVタイプの車両には特に好適な高い走破性を、2つの電動モータとプロペラシャフト10を介して実現することが可能となっている。
なお本例では第2モータMG2のみから出力しているが、これに限られず第1モータMG1からも出力を行ってもよい。なお第1モータMG1からの出力も実行する場合には第3切り離し機構43は維持状態とすることが好ましい。例えばこの第2の状態では高いトルクを必要とする状況であることから、これにより第1モータMG1と第2モータMG2をフル駆動して前後すべての駆動輪に最大限の駆動力が分配されるハイパワー重視の構成とすることもできる。
【0055】
[第3の状態]
図2に示すとおり、第3の状態としては、例えば旋回時などで左右の駆動輪1に対してトルク配分を行うトルクベクタリング走行が例示できる。また、この第3の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図5及び6に示す。
【0056】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、前輪側又は後輪側のうちの一方側(本例では後輪側)における左輪と右輪のいずれか一方のみが少なくとも第1モータMG1と直結された状態となるように、少なくとも第4切り離し機構44および第5切り離し機構45を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介して少なくとも第1モータMG1からの駆動力を前輪側又は後輪側のうちの一方側(本例では後輪側)に伝達させる制御を行う。
【0057】
このため、例えば図5に示す状態においては、左後輪1LRが所定のギア(第1ギアg1、第2ギアg2、第5ギアg5および第6ギアg6)を介して第1モータMG1と直結されるため、第1モータMG1から直接伝達される出力(トルク)によって左後輪1LRが回転される。他方で第1モータMG1と直結されない右後輪1RRについては、第1モータMG1から直接的にトルク伝達が行われず、第1差動機構20を介して差回転が許容された状態となる。
【0058】
これに対して図6に示す状態においては、右後輪1RRが所定のギア(第1ギアg1、第2ギアg2および第3ギアg3)を介して第1モータMG1と直結されるため、第1モータMG1から直接伝達される出力(トルク)によって右後輪1RRが回転される。他方で第1モータMG1と直結されない左後輪1LRについては、第1モータMG1から直接的にトルク伝達が行われず、第1差動機構20を介して差回転が許容された状態となる。
上述したとおり、第3の状態では左右への旋回時などを想定しており、例えば右へ旋回する場合などに右側の駆動輪に対するトルクは維持しつつ左側の駆動輪に対してより多くのトルクを配分(トルクベクタリング)することが可能となっている。
【0059】
なお、このとき、第1切り離し機構41、第2切り離し機構42および第3切り離し機構43は、それぞれ切り離し状態と維持状態のうちいずれの状態となっていてもよい。また、第2モータMG2からの出力を行ってもよいし、行わなくともよい。
すなわち、例えば上記で例示した第3の状態からさらに第1切り離し機構41及び第2切り離し機構42を維持状態としつつ第2モータMG2からも出力を行うようにすれば、第2モータMG2で全輪駆動を行いつつ第1モータMG1で後輪側の左右輪を独立して制御することができる。あるいは、例えば上記で例示した第3の状態からさらに第1切り離し機構41を維持状態としつつ第2モータMG2からも出力を行うようにすれば、第2モータMG2の出力で後輪側の駆動輪11R(第1差動機構20)を回転させつつ、さらに第1モータMG1で後輪側の左右輪を独立して制御することができる。
【0060】
[第4の状態]
図2に示すとおり、第4の状態としては、例えば高負荷走行時などで左右の差動制限を行う場合が例示できる。また、この第4の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図7に示す。
【0061】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1差動機構20とプロペラシャフト10との接続を維持するとともに、前輪側又は後輪側のうちの一方側(本例では後輪側)における左輪と右輪とが直結された状態となるように、少なくとも第1切り離し機構41と第4切り離し機構44と第5切り離し機構45とを制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介して少なくとも第2モータMG2からの出力がプロペラシャフト10を介して前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸(本例では後輪側の駆動軸11R)に伝達される制御を行う。
なお、このとき、第2切り離し機構42および第3切り離し機構43は、それぞれ切り離し状態と維持状態のうちいずれの状態となっていてもよい。また、第1モータMG1からの出力を行ってもよいし、行わなくともよい。
【0062】
これにより、図7に示すように、少なくとも後輪側の駆動軸11Rに関しては、左後輪1LRと右後輪1RRとが直結された状態となって第2モータMG2から同一のトルクを受けることとなり、これによって第1差動機構20の差動機能が働かず制限された状態となる。
このように第4の状態では、相対的に高出力の第2モータMG2による出力を用いつつ左右の駆動輪に対する差動制限を行うことで、例えば沼地などで片側の駆動輪がスリップすることを抑制しつつプロペラシャフト10を介して電動モータからの出力を効率的に伝達しながら走破することが可能となっている。
【0063】
[第5の状態]
図2に示すとおり、第5の状態としては、例えば低負荷走行時などで左右の差動制限を行う場合が例示できる。また、この第5の状態における電動モータからの駆動力の伝達並びにトルク分配の状態を図8に示す。
【0064】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、前輪側又は後輪側のうちの一方側(本例では後輪側)における左輪と右輪とが直結された状態となるように、少なくとも第4切り離し機構44と第5切り離し機構45とを制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介して少なくとも第1モータMG1からの出力が前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸(本例では後輪側の駆動軸11R)に伝達される制御を行う。
なお、このとき、第1切り離し機構41および第2切り離し機構42は、それぞれ切り離し状態と維持状態のうちいずれの状態となっていてもよい。
また、図示では第1差動機構20に第1モータMG1からの出力が伝達されるように第3切り離し機構43が接続状態となっているが、この第3切り離し機構43は切断状態としてもよい。
また、上記の変形に対応させて第2モータMG2からの出力を行ってもよいし、行わなくともよい。
【0065】
これにより、図8に示すように、少なくとも後輪側の駆動軸11Rに関しては、左後輪1LRと右後輪1RRとが直結された状態となって第1モータMG1のトルクが直接伝達されるため、第1差動機構20の機能が働かず制限された状態となる。
このように第4の状態では、相対的に低出力の第1モータMG1による出力を用いつつ左右の駆動輪に対する差動制限を行うことで、例えば第4の状態よりは過酷でない環境下でスリップすることを抑制しつつ、エネルギー消費をも抑えながらプロペラシャフト10を介して電動モータの出力を駆動輪に伝達しながら走行することが可能となっている。
【0066】
[第6の状態]
図2に示すとおり、第6の状態としては、例えば回生充電時が例示できる。また、この第6の状態における駆動輪から電動モータへの駆動力の伝達状態を図9に示す。
【0067】
これらの図からも明らかなとおり、制御装置ECUは、第1モータMG1と第1差動機構20との接続を維持するように、少なくとも第3切り離し機構43を制御する。これと並行して、制御装置ECUは、不図示のインバーターを介し、少なくとも前輪側又は後輪側のうちの一方側の駆動軸(本例では後輪側の駆動軸11R)の回転を利用して第1モータMG1によって回生充電が行われる制御を行う。
【0068】
なお、このとき、第4切り離し機構44および第5切り離し機構45については、上記した差動機能を有効としたい場合には共に切断状態とし、この差動機能を制限したい場合には共に接続した状態(直結状態)としてもよい。
また、第1切り離し機構41および第2切り離し機構42は、それぞれ切り離し状態と維持状態のうちいずれの状態となっていてもよく、この状態の変更に対応させて第2モータMG2による回生充電を行ってもよい。
【0069】
<電動モータ式四輪駆動車100における駆動制御方法>
次に図10を参照しつつ、本実施形態に係る制御部ECUによる電動モータ式四輪駆動車100の駆動制御方法について説明する。なお以下の説明では、制御部ECUによるトルク分配制御の一例として、上記した第1の状態乃至第6の状態を適宜選択する例について説明する。しかしながら当該第1の状態乃至第6の状態は例示であって、これら以外の状態を採用してもよい。
【0070】
電動モータ式四輪駆動車100に搭乗した運転者が電動モータを始動後、まずステップ1において自動モードが設定されているか否かが制御部ECUにおいて判定される。そしてステップ1で自動モードが設定されている場合にはステップ2-1に移行し、自動モードが設定されていない場合にはステップ2-2にそれぞれ移行する。
【0071】
自動モードが設定されているステップ2-1では、制御部ECUの制御の下で、電動モータ式四輪駆動車100に具備された速度/加速度センサーやジャイロセンサーなどの各種センサーや、車載カメラやナビゲーションシステムなどの車載機器から各種情報が取得される。なお、本ステップ2-2で取得される情報の一例としては、例えば速度、加速度、角加速度、車速パルス、画像情報、位置情報あるいは地図情報などが例示できる。
【0072】
次いでステップ3-1では、制御部ECUの制御の下で、上記取得した各種の情報に基づいて最適な状態が決定される。より具体的には、制御部ECUは、例えば取得した加速度情報に基づいて電動モータ式四輪駆動車100が発進時であると判定される場合には、例えば上記した第1の状態となるように各電動モータや各切り離し機構を制御する。また、発進後しばらく経過した後の運転中においては、例えば上記地図情報に基づいて電動モータ式四輪駆動車100が登坂中であると判定される場合には、上記した第2の状態となるように各電動モータや各切り離し機構を制御する。
【0073】
このように本実施形態では、電動モータ式四輪駆動車100の走行状況を各種センサーや車載機器からの情報で判定し、この判定結果に基づいて最適なトルク分配となるように各電動モータや各切り離し機構を制御している。これにより、運転者が特に煩わしい操作を省略しつつ様々な路面状況に対する高い走破性と操縦安定性を両立することが可能となっている。また、電動モータ式四輪駆動車100の走行状況を各種センサーや車載機器からの情報で判定して最適なトルク分配を行えることから、2つの電動モータを用いて駆動輪への効率的な駆動力の伝達が実現される。
【0074】
続くステップ4-1では、運転者など搭乗者からモードの変更があったか否かが判定される。より具体的には、制御部ECUの制御の下で、自動モードから手動モードへの切り替えがあったかが判定され、手動モードへの切り替えがある場合にはステップ2-2に移行する。他方でモード変更がない場合には、続くステップ5-1で電動モータの電源OFFがなされたかが判定される。そしてステップ5-1で電動モータの電源がOFFとされていない場合には、ステップ2-1に戻って以降の処理を再び継続する制御が実行される。
【0075】
次に手動モードでスタートする場合の例について説明する。
すなわちステップ1で手動モードであると判定された場合には、ステップ2-2で現在の状態で制御が開始される。通常、電動モータの電源が投入されて始動となるときは発進時であるので、ステップ1から移行した際は例えば第1の状態となるように各電動モータや各切り離し機構が制御される。他方でステップ4-1から移行した際には、そのときの状態が維持されて制御が継続される。
【0076】
そして続くステップ3-2ではモード変更の有無が判定され、変更があった場合には上記したステップ2-1へ移行するとともに、変更がない場合にはステップ4-2へ移行する制御が実行される。
モード変更がない場合に続くステップ4-2では、運転者などの搭乗者による状態の変更があるか否かが判定され、状態の変更がある場合にはステップ5-2で新たに選択された状態となるように各電動モータや各切り離し機構が制御される。他方、ステップ4-2で状態の変更がない場合にはステップ2-2へ戻って以降の制御が継続される。
【0077】
このように本実施形態における電動モータ式四輪駆動車100における駆動装置によれば、2つの電動モータとプロペラシャフトとで四輪を機械的に直結した構造を採用しつつ、上記した2つの切り離し機構によって駆動輪へのトルク/駆動力の分配を図っていることから、これら電動モータの回転を効率よく駆動輪に伝達することが可能となっている。
また、本実施形態における電動モータ式四輪駆動車100における駆動制御方法によれば、自動モードが選択される場合には車載されるセンサーや機器からの各種情報に基づいて取り得る最適な状態が設定されるので、様々な路面状況に対する高い走破性と操縦安定性を維持しつつ効率的な駆動輪への駆動力の伝達が実現できる。
【0078】
なお上記した実施形態は本発明の好適な一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、実施形態の各要素を適宜組み合わせて新たな構造や制御を実現してもよい。
例えば上記した実施形態では、第1モータMG1には減速機又は変速機が介在しない形態を説明したが、これに限られず第2モータMG2と同じ仕様としてもよく、さらに第1モータMG1側に減速機又は変速機を設置してもよい。
また、上記した実施形態では第1モータMG1と第2モータMG2のツインモータ構成としたが、これに限られず合計3つ以上の電動モータを搭載する形態であってもよい。
また、上記した実施形態では前輪側又は後輪側のうちの一方側を後輪側として説明したが、前輪側と後輪側を反対にして上記した一方側を前輪側として構成してもよい。
【0079】
以上説明したように、本発明の電動モータ式四輪駆動車における駆動装置およびその制御方法は、効率的なトルク配分によって高い走破性と操縦安定性を維持可能な四輪駆動車を実現するのに適している。
【符号の説明】
【0080】
100 電動モータ式四輪駆動車
10 プロペラシャフト
20 第1差動機構
30 第2差動機構
40 切り離し機構
41 第1切り離し機構
42 第2切り離し機構
43 第3切り離し機構
44 第4切り離し機構
45 第5切り離し機構
MG1 第1モータ
MG2 第2モータ
ECU 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10