(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】設計システム及び設計方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20230926BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
G06F30/23
G01N3/00 Z
(21)【出願番号】P 2019177125
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】池田 竜介
(72)【発明者】
【氏名】新田 康男
(72)【発明者】
【氏名】河本 悠歩
(72)【発明者】
【氏名】津嘉田 敬章
(72)【発明者】
【氏名】田中 義輝
(72)【発明者】
【氏名】谷内 孝誠
(72)【発明者】
【氏名】後藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】松本 将武
【審査官】岡本 俊威
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-170919(JP,A)
【文献】特開2002-358541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元の有限要素法を用いて設計対象の構造物の設計を支援する設計システムであって、
前記構造物の構造及び荷重に関する設計データに基づいて、地震入力に対して前記構造物に作用する応力の成分を3次元解析し、前記構造物に作用する軸力と曲げモーメントとの関係を示す軌跡を算出し、前記軌跡が含まれる領域を凸状に包絡するように設計用応力空間を設定し、前記設計用応力空間に基づいて、前記構造物の断面に作用する第1設計用応力を算出する演算部を備えることを特徴とする、
設計システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記設計データに基づいて、固定荷重を含む静的荷重に対して前記構造物に作用する応力の成分を3次元解析し、前記構造物の断面に作用する第2設計用応力を算出し、
前記第1設計用応力と前記第2設計用応力とに基づいて、前記構造物の断面に作用する応力を算出する、
請求項1に記載の設計システム。
【請求項3】
3次元の有限要素法を用いて設計対象の構造物の設計を支援する設計方法であって、
前記構造物の構造及び荷重に関する設計データに基づいて、地震入力に対して前記構造物に作用する応力の成分を3次元解析し、
前記構造物に作用する軸力と曲げモーメントとの関係を示す軌跡を算出し、
前記軌跡が含まれる領域を凸状に包絡するように設計用応力空間を設定し、
前記設計用応力空間に基づいて、前記構造物の断面に作用する第1設計用応力を算出することを特徴とする、
設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の設計のための応力計算を行う設計システム及び設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海外の原子力発電所等の構造物の設計では3次元の有限要素法(3D-FEM:Finite Element Method)を用いた地震応答解析(動解)から直接得られる要素応力や複数要素で構成される部材応力を用いた設計が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
3D-FEMを用いた解析により応力時刻歴データを計算すると、出力されるデータ量が膨大なので全時刻で構造物の断面算定をすると、計算時間が膨大となる。そこで、設計上クリティカル(重大)となる応力データを抽出し、抽出した応力データに基づいて設計が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、3D-FEMを用いた解析結果に基づいて、時刻に関係なく応力の最大値を用いた設計を行うと、例えば軸力の最大値と曲げモーメントの最大値が同時に発生する保守的な設計となってしまうという課題がある。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたものであり、構造物に作用する応力の膨大なデータから簡易に必要なデータを抽出しつつも合理的な設計を行える設計システム及び設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、本発明は、3次元の有限要素法を用いて設計対象の構造物の設計を支援する設計システムであって、前記構造物の構造及び荷重に関する設計データに基づいて、地震入力に対して前記構造物に作用する応力の成分を3次元解析し、前記構造物に作用する軸力と曲げモーメントとの関係を示す軌跡を算出し、前記軌跡が含まれる領域を凸状に包絡するように設計用応力空間を設定し、前記設計用応力空間に基づいて、前記構造物の断面に作用する第1設計用応力を算出する演算部を備えることを特徴とする、設計システムである。
【0008】
本発明によれば、地震入力により構造物の断面に作用する動的な応力の3次元の有限要素法を用いた解析において、解析結果を全て包絡する前記設計用応力空間を設定することにより、設計上クリティカルとなる応力データを合理的に抽出すると共に、設計に用いるデータの数を大幅に削減することができる。
【0009】
また、本発明は、前記演算部は、前記設計データに基づいて、固定荷重などの静的荷重に対して前記構造物に作用する応力の成分を3次元解析し、前記構造物の断面に作用する第2設計用応力を算出し、前記第1設計用応力と前記第2設計用応力とに基づいて、前記構造物の断面に作用する応力を算出するように構成されていてもよい。
【0010】
本発明によれば、固定荷重などにより構造物の断面に作用する応力の3次元の有限要素法を用いた解析をすることにより、第1設計用応力と第2設計用応力とを組み合わせた応力に基づいて構造物の断面算定することができる。
【0011】
3次元の有限要素法を用いて設計対象の構造物の設計を支援する設計方法であって、前記構造物の構造及び荷重に関する設計データに基づいて、地震入力に対して前記構造物に作用する応力の成分を3次元解析し、前記構造物に作用する軸力と曲げモーメントとの関係を示す軌跡を算出し、前記軌跡が含まれる領域を凸状に包絡するように設計用応力空間を設定し、前記設計用応力空間に基づいて、前記構造物の断面に作用する第1設計用応力を算出することを特徴とする、設計方法である。
【0012】
本発明によれば、地震入力により構造物の断面に作用する動的な応力の3次元の有限要素法を用いた解析において、解析結果を全て包絡する前記設計用応力空間を設定することにより、設計上クリティカルとなる応力データを合理的に抽出すると共に、設計に用いるデータの数を大幅に削減することができる。
【0013】
本発明によれば、構造物に作用する応力の膨大なデータから簡易に必要なデータを抽出しつつも合理的な設計を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る設計システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】3次元の有限要素法によりモデル化された建物を示す斜視図である。
【
図3】有限要素法の要素に加わる応力を示す図である。
【
図4】有限要素法による軸力と曲げモーメントとの関係を示す解析結果を示す図である。
【
図5】解析結果の軌跡を凸状に包絡する方法を示す図である。
【
図6】設計システムにおいて実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る設計システム1の実施形態について説明する。設計システム1は、地震力により建物の断面に作用する応力を3次元の有限要素法(3D-FEM)を用いて解析する設計支援装置である。
【0016】
図1に示されるように、設計システム1は、設計データが入力される入力部2と、入力されたデータに基づいて設計値を算出する演算部4と、演算部4の算出結果を表示する表示部6と、演算部4の演算に必要なデータを記憶する記憶部8と、を備える。
【0017】
設計システム1は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の端末装置により実現される。設計システム1は、ネットワークを通じて演算結果を出力するサーバ装置であってもよい。
【0018】
入力部2は、キーボード、タッチパネル等により実現されるデータ入力のためのユーザインタフェースである。入力部2は、タブレット型端末やスマートフォンにより無線又は有線等により接続される別体の端末装置であってもよい。入力部2からは、設計対象の建物の構造及び荷重等の設計に関する設計データが入力される。入力された設計データは、記憶部8に記憶される。設計データは、例えば、設計対象物の寸法、間取り、部材の重量、材料、地震波の波形、風荷重等の固定荷重等の各種データが含まれる。
【0019】
記憶部8は、フラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体により構成された記憶装置である。記憶部8は、入力部2により入力された設計データの他、3D-FEMの解析に必要な数式を実行するプログラム等のデータを記憶する。記憶部8は、設計システム1に内蔵されている。記憶部8は、設計システム1に着脱自在な記憶装置であってもよいし、ネットワークを通じて接続されるサーバ装置に内蔵されていてもよい。
【0020】
演算部4は、メモリや記憶部8に記憶されたデータに基づいて、建物の設計に必要な3D-FEM等の演算を実行する。演算部4は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。これらの各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0021】
プログラムは、予めHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体がドライブ装置に装着されることで記憶装置にインストールされてもよい。プログラムは、ネットワークを通じて通じた外部サーバから実行されるものであってもよい。
【0022】
表示部6は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ等の表示装置である。表示部6は、必ずしも設計システム1に設けられていなくてもよく、設計システム1と無線又は有線で接続されるパーソナルコンピュータ、タブレット型端末、スマートフォン等の他の端末装置により実現されてもよい。
【0023】
次に、演算部4の具体的な処理の内容について説明する。ユーザは、入力部2を介して設計対象物である建物等の構造物の設計データを入力する。設計データは、記憶部8に記憶される。
【0024】
図2に示されるように、演算部4は、記憶部8から設計データを読み出し、建物の3次元モデルを生成する。演算部4は、例えば、設計データに基づいて原子炉建屋等の構造物の3次元モデルを生成する。
【0025】
演算部4は、設計データに基づいて有限要素法(Finite Element Method:FEM)モデルを用いて、構造物を無数の要素に分割し、各要素に作用する応力成分を算出する。演算部4は、弾塑性地震応答解析を行う。演算部4は、例えば、地震入力により構造物に作用する動的なn個(nは自然数)の応力成分(第1設計用応力)を算出する。演算部4は、地震時以外の他に、静的荷重により構造物に作用する応力成分(第2設計用応力)を算出する。静的荷重は、例えば、D:固定荷重、L:積載荷重、T:温度荷重、S:積雪荷重、W:風圧力、H:土圧および水圧等の荷重が含まれる。
【0026】
演算部4は、第1設計用応力と、第2設計用応力とを3次元FEM応答解析モデルで組み合わせて算出する。演算部4は、算出した組合せ応力を用いて構造物の断面算定を実施する。
【0027】
図3に示されるように、演算部4は、各要素に作用する応力を成分毎に時刻歴に基づいて算出する。各要素は、構造物を構成する部位の構造に応じてシェル要素と梁要素とに分けられる。シェル要素は、板やシェルの様な形状の連続体からなる薄板形状の部材のモデル化に用いられる要素である。シェル要素は、見かけ上において厚みがゼロの面で構成され、計算上は板厚分の剛性を持つ。梁要素は、梁などの様な形状の連続体からなる棒状のような形状の部材のモデル化に使用される要素である。梁要素は、見かけ上において線だけの要素で、構成され、計算上は指定した断面の剛性を持つ。
【0028】
演算部4は、部材をシェル要素に基づいて解析する。演算部4は、シェル要素に作用する8成分の応力時刻歴データを算出する。演算部4は、例えば、部材を梁要素に基づいて解析する。演算部4は、梁要素に作用する6成分の応力時刻歴データを算出する。
【0029】
シェル要素の断面設計では、例えば、膜力と曲げの応力6成分(Nx,Ny,Nxy,Mx,My,Mxy)のつり合いを計算する断面設計が行われる。以下、地震応答解析について説明する。
【0030】
演算部4は、設計データに基づいて地震入力に対して構造物に作用する動的な応力を3次元解析(地震応答解析)する。演算部4は、地震が入力される所定時間内において作用する応力の全データを応力時刻歴データとして出力する。
【0031】
全ての応力時刻歴データは、応力成分を算出するための壁、床などに作用する軸力、せん断力、曲げモーメント等のn個の応力の関係を示すn次元空間に描かれる計算結果が含まれており、膨大なデータとなる。そのため、演算部4は、膨大な応力時刻歴データから断面設計に用いる設計用応力を抽出する。演算部4は、膨大な応力時刻歴データの中から断面設計上、クリティカル(重大)となる応力データを抽出する。
【0032】
演算部4は、例えば、軸力と曲げモーメントとの関係を示す計算結果の軌跡が含まれる領域を凸状に包絡するように設計用応力空間を設定し、設計用応力空間を設計値として算出する。凸状に包絡するとは、空間に描かれる計算結果の軌跡が含まれる領域を凹みのないように図形で覆うことである。演算部4は、膜力と曲げの応力6成分について凸状に包絡する設計用応力空間を設定する。以下2次元の領域を例に説明する。
【0033】
図4に示されるように、演算部4は、所定時間における軸力と曲げモーメントとの関係を示す解析結果の全ての応力時刻歴データDを示す軌跡の中から、全データを凸形状に包絡する領域Rを抽出する。凸形状に包絡するアルゴリズムは、Quickhull法として知られている。
【0034】
図5(A)に示されるように、演算部4は、応力時刻歴データDの中からx座標が最大と最小となる2点P1,P2を求め、2点を結ぶ直線Lを引き、領域を2分割する。次に、演算部4は、各領域において直線に対する垂線T1,T2の長さが最大となる点P3,P4を抽出する(
図5(B)参照)。次に、演算部4は、抽出した点P3,P4から直線Lの両端を直線で結んだ三角形の領域R1,R2を生成する(
図5(C)参照)。
【0035】
演算部4は、三角形の領域R1,R2に含まれる点(内側の点とエッジ上の点)を処理から除外し、三角形の領域R1,R2外の点と新たに結んだ直線に対して垂線T3,T4の長さが最大となる点P5,P6を抽出する(
図5(D)参照)。次に、演算部4は、抽出した点P5,P6から三角形の領域R3,R4を生成する(
図5(E)参照)。
【0036】
演算部4は、上記処理を繰り返し、外側の点が無くなったら処理を終了する。応力の2成分の場合、凸形状で囲まれた領域の中に解析結果データが全て包絡される。上記処理は、応力3成分以上にも拡張される。演算部4は、n次元空間に描かれる計算結果の軌跡を凸形状に包絡するようにデータを抽出する。上記処理により凸形状の中に解析結果データが全て包絡される第1設計用応力のデータが抽出される。抽出される第1設計用応力のデータは解析結果の一部なので保守的な設計となることはない。
【0037】
図6は、設計システム1において実行される設計方法の処理の流れを示すフローチャートである。演算部4は、入力部2に入力された設計用データに基づいて、3D-FEMを用いて建物の3Dモデルを構築し、地震応答解析により3Dモデルの各要素に作用する応力をそれぞれ算出し、建物に作用する動的な応力を解析する(ステップS10)。演算部4は、地震入力により建物に作用する応力の解析結果の全ての応力時刻歴データを示す軌跡の中から、全データを凸形状に包絡する領域を設定し、第1設計用応力を抽出する(ステップS12)。
【0038】
演算部4は、設計用データに基づいて、3D-FEMを用いて固定荷重などの静的荷重により作用する応力を解析し第2設計用応力を算出する(ステップS14)。演算部4は、第1設計用応力と第2設計用応力とを3D-FEMを用いた応解モデルで組合せた応力(組合せ応力)を算出する(ステップS16)。演算部4は、算出した組合せ応力を用いて建物の断面算定を行う(ステップS18)。
【0039】
上述したように設計システム1によれば、継続時間20秒/刻み0.005秒で算出される全時刻歴データは、4000個程度であるのに対して、上記処理により6次元包絡してデータを抽出することにより、データ量を全時刻歴データの1/6程度の700個程度に大幅に低減することができる。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 設計システム
2 入力部
4 演算部
6 表示部
8 記憶部