(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】フォトマスク、電子デバイスの製造方法、および、フォトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/32 20120101AFI20230926BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2019192029
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2018198733
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 周平
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-062462(JP,A)
【文献】特開2018-077266(JP,A)
【文献】国際公開第2014/111983(WO,A1)
【文献】特開2008-122698(JP,A)
【文献】特開2014-191323(JP,A)
【文献】特開2018-116088(JP,A)
【文献】米国特許第05308741(US,A)
【文献】特開平11-271958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86、7/20-7/24、9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクであって、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に透過制御膜が形成されてなる透過制御部と、前記透明基板が露出する透光部とを有し、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対し、
255度以上360度未満の位相シフト量を有する、フォトマスク。
【請求項2】
前記透過制御部は、露光光に対して、300度以上
360度未満の位相シフト量を有する、
請求項1に記載のフォトマスク。
【請求項3】
前記転写用パターンが転写される被転写体上の感光性材料がネガ型である場合、前記透過制御部は、前記フォトマスクを用いた露光、及び現像によって前記感光性材料が溶出する領域に対応するものであり、
前記透過制御部の透過率をT、前記被転写体上のレジスト膜が現像によって不溶となる光強度の閾値をIthとしたとき、(Ith-T)/(Ith+T)として定義されるコントラストは、0.667以上である、請求項1
または請求項2に記載のフォトマスク。
【請求項4】
ネガ型感光性材料露光用である、請求項1
または請求項2に記載のフォトマスク。
【請求項5】
前記露光光は、波長313nm、334nm、365nm、405nmまたは436nmの少なくともいずれかの波長の光を含む、請求項1~
4のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項6】
前記透過制御部は、露光光に対する透過率が10%以下である、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項7】
前記転写用パターンは、幅3~10μmのライン状の透光部を有する、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項8】
前記転写用パターンは、被転写体上のネガ型感光性材料に、10μm以下の幅のライン状のパターンを形成するものである、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項9】
前記転写用パターンは、前記透過制御部と前記透光部とが規則的に配列する繰返しパターンを有し、前記繰返しパターンの反復ピッチは10~35μmである、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項10】
前記転写用パターンは、前記透過制御部と前記透光部とが規則的に配列する繰返しパターンを有し、かつ、前記透過制御部は、閉じた線に囲まれた形状を有する、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項11】
前記転写用パターンは、前記透過制御部が規則的に配列する繰返しパターンを有し、かつ、前記透過制御部は、四角形である、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項12】
前記透過制御部は、露光光に対し、330度以下の位相シフト量を有する、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項13】
前記転写用パターンは、ブラックマトリクス又はブラックストライプ形成用パターンである、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項14】
前記転写用パターンは、前記透明基板上において、前記透過制御膜のみがパターニングされてなることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスク。
【請求項15】
請求項1~
5のいずれか一つに記載のフォトマスクを用意する工程と、
近接露光装置によって前記フォトマスクを露光し、被転写体上に形成したネガ型感光性材料膜に、前記転写用パターンを転写する転写工程と、
を有し、
前記転写工程では、プロキシミティギャップを50~200μmの範囲に設定した近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクの製造方法であって、
前記透明基板上に、前記透過制御膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記透過制御膜に対してパターニングを施し、前記転写用パターンを形成する、パターニング工程と、
を有し、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に前記透過制御膜が形成されてなる透過制御部と、前記透明基板が露出する透光部とを有し、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対し、10%以下の透過率および
255度以上360度未満の位相シフト量を有する、
フォトマスクの製造方法。
【請求項17】
前記転写用パターンが転写される被転写体上の感光性材料がネガ型である場合、前記透過制御部は、前記フォトマスクを用いた露光、及び現像によって前記感光性材料が溶出する領域に対応するものであり、
前記透過制御部の透過率をT、前記被転写体上のレジスト膜が現像によって不溶となる光強度の閾値をIthとしたとき、(Ith-T)/(Ith+T)として定義されるコントラストは、0.667以上である、
請求項16に記載のフォトマスクの製造方法。
【請求項18】
前記露光光は、波長313nm、334nm、365nm、405nmまたは436nmの少なくともいずれかの波長の光を含む、
請求項16または17に記載のフォトマスクの製造方法。
【請求項19】
フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法であって、
請求項16~18のいずれか一つに記載の製造方法により、フォトマスクを用意する工程と、
近接露光装置によって前記フォトマスクを露光し、被転写体上に形成したネガ型感光性材料膜に、前記転写用パターンを転写する転写工程と、
を有し、
前記転写工程では、プロキシミティギャップを50~200μmの範囲に設定した近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク、電子デバイスの製造方法、および、フォトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイおよび半導体集積回路等の電子デバイスの製作には、透明基板の一主表面上に遮光膜等の光学膜をパターニングして形成された、転写用パターンを有するフォトマスクが使用される。
【0003】
特に、半導体集積回路(以下、LSI:Large-scale Integrated Circuit)製造用フォトマスクとして、ハーフトーン型位相シフトマスクが知られている。このフォトマスクは、バイナリマスクにおける遮光領域を、パターンが転写しない程度の透過率をもつものとし、透過する光の位相を180度シフトさせる構造として、解像性能を向上させるものである(非特許文献1)。
【0004】
一方、画像表示装置においても、画素数を増大させ、更に高い解像度を有するものへの要望が生じたことから、LSI製造に用いられた位相シフトマスクを、画像表示装置の製造に使用する試みがなされている(特許文献1)。
【0005】
また、フラットパネルディスプレイの製造に使用される、多階調のハーフトーンマスクが知られている。例えば、透明基板上に、透過率が20~50%、位相差が60~90度の半透過膜パターンと遮光膜パターンを備える。このような多階調のハーフトーンマスクを使用することにより、1回の露光で、位置によって膜厚の異なるフォトレジストパターンを形成することができ、フラットパネルディスプレイの製造工程におけるリソグラフィーの工程数を削減し、製造コストを低減することができる。このような用途のハーフトーンマスクは、透明基板、半透過膜、遮光膜により、3階調を実現することができ、また、複数の透過率の半透過膜を用いた4階調以上のハーフトーンマスクを実現することもできる。(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-092727号公報
【文献】特開2018-005072号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】田邉功、竹花洋一、法元盛久著、「フォトマスク電子部品製造の基幹技術」、初版、東京電機大学出版局、2011年4月20日、p.245-246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フラットパネルディスプレイの製造工程においては、近接(プロキシミティ)露光方式が適用される場合がある。近接露光装置は、投影(プロジェクション)露光装置と比較すると、解像性能においては及ばない一方、フォトマスクと被転写体(ディスプレイ基板など)の間に結像光学系を設けないことにより装置構成がシンプルであり、装置導入が比較的容易であり、また製造上のコストメリットが高い。このような理由により、近接露光装置は、液晶表示装置のカラーフィルタ(CF:Color Filter)に用いるブラックマトリクス又はブラックストライプ、或いはフォトスペーサ(PS:Photo Spacer)の製造に主に適用される。また、有機EL表示装置のブラックマトリクスなどにも用いることができる。
【0009】
一方、フラットパネルディスプレイの画素密度増大や明るさの増大、省電力の要望により、製造工程に使用するフォトマスクにおいても転写用パターンの微細化傾向が顕著である。微細なパターンの転写に、投影露光方式を用いれば、解像力は有利であるが、近接露光による上記メリットが失われるため、近接露光方式を適用しつつ、微細なパターンを精緻に転写することが新たな課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクであって、前記転写用パターンは、前記透明基板上に透過制御膜が形成されてなる透過制御部と、前記透明基板が露出する透光部とを有し、前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対し、255度以上360度未満の位相シフト量を有する、フォトマスクである。
【0011】
本発明の第2の態様は、
前記透過制御部は、露光光に対して、300度以上360度未満の位相シフト量を有する、第1の態様のフォトマスクである。
【0012】
本発明の第3の態様は、
前記転写用パターンが転写される被転写体上の感光性材料がネガ型である場合、前記透過制御部は、前記フォトマスクを用いた露光、及び現像によって前記感光性材料が溶出する領域に対応するものであり、
前記透過制御部の透過率をT、前記被転写体上のレジスト膜が現像によって不溶となる光強度の閾値をIthとしたとき、(Ith-T)/(Ith+T)として定義されるコントラストは、0.667以上である、第1または第2の態様のフォトマスクである。
【0013】
本発明の第4の態様は、
ネガ型感光性材料露光用である、第1または第2の態様のフォトマスクである。
【0014】
本発明の第5の態様は、
前記露光光は、波長313nm、334nm、365nm、405nmまたは436nmの少なくともいずれかの波長の光を含む、第1~第4の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0015】
本発明の第6の態様は、
前記透過制御部は、露光光に対する透過率が10%以下である、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0016】
本発明の第7の態様は、
前記転写用パターンは、幅3~10μmのライン状の透光部を有する、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0017】
本発明の第8の態様は、
前記転写用パターンは、被転写体上のネガ型感光性材料に、10μm以下の幅のライン状のパターンを形成するものである、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0018】
本発明の第9の態様は、
前記転写用パターンは、前記透過制御部と前記透光部とが規則的に配列する繰返しパターンを有し、前記繰返しパターンの反復ピッチは10~35μmである、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0019】
本発明の第10の態様は、
前記転写用パターンは、前記透過制御部と前記透光部とが規則的に配列する繰返しパターンを有し、かつ、前記透過制御部は、閉じた線に囲まれた形状を有する、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0020】
本発明の第11の態様は、
前記転写用パターンは、前記透過制御部が規則的に配列する繰返しパターンを有し、かつ、前記透過制御部は、四角形である、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0021】
本発明の第12の態様は、
前記透過制御部は、露光光に対し、330度以下の位相シフト量を有する、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0022】
本発明の第13の態様は、
前記転写用パターンは、ブラックマトリクス又はブラックストライプ形成用パターンである、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0023】
本発明の第14の態様は、
前記転写用パターンは、前記透明基板上において、前記透過制御膜のみがパターニングされてなることを特徴とする、第1~第5の態様のいずれか一つのフォトマスクである。
【0024】
本発明の第15の態様は、
第1~第5の態様のいずれか一つに記載のフォトマスクを用意する工程と、
近接露光装置によって前記フォトマスクを露光し、被転写体上に形成したネガ型感光性材料膜に、前記転写用パターンを転写する転写工程と、
を有し、
前記転写工程では、プロキシミティギャップを50~200μmの範囲に設定した近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法である。
【0025】
本発明の第16の態様は、
透明基板上に形成された透過制御膜がパターニングされてなる転写用パターンを備えた、近接露光用のフォトマスクの製造方法であって、
前記透明基板上に、前記透過制御膜が形成されたフォトマスクブランクを用意する工程と、
前記透過制御膜に対してパターニングを施し、前記転写用パターンを形成する、パターニング工程と、
を有し、
前記転写用パターンは、前記透明基板上に前記透過制御膜が形成されてなる透過制御部と、前記透明基板が露出する透光部とを有し、
前記透過制御部は、前記フォトマスクを露光する露光光に対し、10%以下の透過率および255度以上360度未満の位相シフト量を有する、
フォトマスクの製造方法である。
本発明の第17の態様は、
前記転写用パターンが転写される被転写体上の感光性材料がネガ型である場合、前記透過制御部は、前記フォトマスクを用いた露光、及び現像によって前記感光性材料が溶出する領域に対応するものであり、
前記透過制御部の透過率をT、前記被転写体上のレジスト膜が現像によって不溶となる光強度の閾値をIthとしたとき、(Ith-T)/(Ith+T)として定義されるコントラストは、0.667以上である、第16の態様のフォトマスクの製造方法である。
本発明の第18の態様は、
前記露光光は、波長313nm、334nm、365nm、405nmまたは436nmの少なくともいずれかの波長の光を含む、第16または第17の態様のフォトマスクである。
本発明の第19の態様は、
フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法であって、
第16~第18の態様のいずれか一つに記載の製造方法により、フォトマスクを用意する工程と、
近接露光装置によって前記フォトマスクを露光し、被転写体上に形成したネガ型感光性材料膜に、前記転写用パターンを転写する転写工程と、
を有し、
前記転写工程では、プロキシミティギャップを50~200μmの範囲に設定した近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、近接露光装置を用いて、フォトマスクの転写用パターンをより正確に転写するためのフォトマスク等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ブラックマトリクスを形成するための転写用パターンの一例を示す。
【
図2】被転写体を構成するガラス基板上にブラックマトリクスが形成された状態の断面説明図を示す。
【
図3】近接露光装置の構成を模式的に説明する説明図である。
【
図4】
図1に示す転写用パターンが、忠実に被転写体上に転写されたと仮定した場合に、被転写体上に形成されるブラックマトリクスの形状を例示する。
【
図5】
図1に示す転写用パターンをもつバイナリマスクを近接露光し、被転写体上に転写されるときに、光の回折、干渉の作用によって形状が劣化した場合の転写像を示す。
【
図6】フォトマスク10と、近接露光によって形成される転写像を説明する説明図である。
【
図7】
図1の形状、表1の寸法をもつ転写用パターンにつき、プロキシミティギャップGを100μmとし、透過制御部の位相シフト量を変化させたときの転写像への影響を、差分Sの数値と形状差異の分布により示したものである。
【
図8】シミュレーションにおいて、プロキシミティギャップGが150μmとなった場合の、フィデリティについて、検討を行なった結果を示す。
【
図9】シミュレーション結果の表示方法を説明する説明図である。
【
図10】シミュレーション結果を説明する説明図である。
【
図11】シミュレーション結果を説明する説明図である。
【
図12】シミュレーション結果を説明する説明図である。
【
図13】被転写体上に形成される転写像のコントラストCoを算定した結果を示す。
【
図14】ブラックマトリクス形成用の転写用パターンの他の例を示す。
【
図15】
図14に示す転写用パターンが、忠実に被転写体上に転写されたと仮定した場合に、被転写体上に形成されるブラックマトリクスの形状を示す。
【
図16】
図14に示す転写用パターンを近接露光した場合について、
図7、8において行なったのと同様の光学シミュレーションの結果を示す。
【
図17】
図14に示す転写用パターンを近接露光した場合について、
図7、8において行なったのと同様の光学シミュレーションの結果を示す。
【
図18】
図9から
図11におけると同様のシミュレーションによる結果を説明する説明図である。
【
図19】
図9から
図11におけると同様のシミュレーションによる結果を説明する説明図である。
【
図20】
図9から
図11におけると同様のシミュレーションによる結果を説明する説明図である。
【
図21】近接露光においてフォトマスクを透過した露光光が、被転写体上の任意の一点に到達する様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
フラットパネルディスプレイなど、得ようとする電子デバイスの設計が高精細化し、密度が増大したとき、これを製造するために用いるフォトマスクの転写用パターンを、単純に微細化するのみでは、不都合が生じる。例えば、微細なパターン幅(CD:Critical Dimension)をもつブラックマトリクスの転写用パターンを、近接露光方式を用いて露光すると、四辺形のピクセルの角部が丸みを帯びるなど、転写像におけるパターン形状の劣化が生じやすい。
【0029】
図1は、ブラックマトリクスを形成するための転写用パターン35の一例を示す。この転写用パターン35は、透明基板21(
図6参照)に形成され、透過制御部36と透光部37とを有する。透光部37は、透明基板21の表面が露出したライン状の部分であり、透過制御部36は、透明基板21上に透過制御膜が形成された四角形の形状であり、透光部37を介してマトリクス状に配置されている。すなわち、閉じた線に囲まれた形状(ここでは4つの角部をもつ四角形)の透過制御部36が透光部37を介して、X方向およびそれと垂直なY方向に規則的に所定のピッチで配列している。角部は、
図1に示すように直角である場合のほか、後述の実施例に示すように、鋭角や鈍角が含まれていてもよい。
【0030】
ところで、従来のフォトマスクにおいては、透過制御部36に相当する領域は、透明基板21上に遮光膜を形成した遮光部として形成され、フォトマスクを露光する際に、実質的に露光光を透過しない領域であった。この場合、パターンが微細化し、CDが小さくなるに従い、近接露光によって被転写体51(
図3参照)上に転写して得られる転写像の形状が劣化し、転写用パターン35の形状を忠実に反映しないものとなる傾向がみられた。
【0031】
図5には、透光部と遮光部からなる従来のフォトマスクを、近接露光装置50(
図3参照)によって、被転写体51の表面に設けられたネガ型感光性材料(以下、感光性材料を便宜的にレジストともいう)に転写したときに、得られるブラックマトリクス52の形状を例示する。これは、
図1に示す転写用パターン35を露光した際、忠実なパターン転写が行われなかった場合の一例である。
図1と比較すると、四角形の角部に丸みを生じ、ライン状の部分の形状にも変化が生じている。
【0032】
これは、近接露光の際に、転写用パターン35のエッジにおいて光の回折が生じ、更に、フォトマスクと被転写体51との間隙(すなわちプロキシミティギャップ)によって、被転写体51上において複雑な光の干渉が生じるためと考えられる。すなわち、被転写体51上に形成される透過光の光強度分布が、フォトマスクの転写用パターン35を忠実に反映しないという問題がある。特に高精細なパターンにおいてこの傾向が顕著にみられる。
【0033】
一方、遮光膜の代わりに、露光光に対して所定範囲の光透過率をもち、露光光の位相を180度シフトさせる、いわゆるハーフトーン型位相シフトマスクは、主として投影露光を適用する、半導体装置製造用マスク(LSIマスク)の分野で適用されている。そこで、このハーフトーン型位相シフトマスクを、近接露光用のフォトマスクとして用いることにより、より転写用パターン35を正確に転写する可能性が考えられる。そこで、
図1における透過制御部36に、透過光の位相を180度シフトする位相シフト膜を形成したときの、パターンの転写性の向上を検討した。しかしながら、後述の実施の形態に示すとおり、その効果は、必ずしも期待どおりではなかった。
【0034】
一般的に、近接露光によって転写像が形成される原理にはフレネル回折が作用することが知られている。
図21は、近接露光においてフォトマスク10を透過した露光光が、被転写体51上の任意の一点に到達する様子を示す模式図である。
図21において、光波は実線と破線の周期構造によって表されている。実線が波の山を、破線が波の谷を、それぞれ示す(山と谷を逆転して考えても良い)。スリットSL(Slit)を透過した光が、エッジにて回折(回り込み)を生じつつ進行し、様々な位相で被転写体51上の到達点に届くことがわかる。
【0035】
到達点の任意の一点(x,y)における、光の振幅情報U(x,y)は、以下のフレネル回折式(1)で近似される(J.W.Goodman, Introduction to Fourier Optics (3rd Edition), Roberts & Company Publishers (2016), p. 66-67)。
【0036】
フレネル回折式(1)中、ξおよびηはそれぞれフォトマスク10上のX座標およびY座標を表す。すなわちU(ξ,η)は、フォトマスク10上の座標(ξ,η)における光の振幅情報である。また、zはプロキシミティギャップ、λは露光光の波長、kは波数、jは虚数単位を、それぞれ表す。
【0037】
【0038】
そして、被転写体51上の所定面内のすべての位置における上記振幅情報U(x,y)を統合したものが、転写像の光強度分布を決定し、被転写体51上に転写される。
【0039】
一方、フォトマスク10の転写用パターン35を、近接露光するとき、形成される転写像の解像性、忠実性を向上するには、被転写体51上の光の位相、振幅を最適化することが有用であると考えられる。これによって、既存のバイナリマスクにおいて生じていたフレネル回折に対して、より有利な光強度分布を生じさせ得る可能性が考えられる。
【0040】
本発明者の検討によると、上記を考察するとき、投影露光にて使用される、ハーフトーン型位相シフトマスクの位相シフト量(180度)が、必ずしも近接露光において最適ではないことが見出された。
【0041】
そして、検討の結果、近接露光用の転写用パターン35(例えば
図1における透過制御部36)を、位相シフト作用のある透過制御膜によって形成し、かつ、その位相シフト量を、既存のハーフトーン型位相シフトマスクより大きいものとするとき、被転写体51上に得られる転写像の形状劣化を低減し、転写の忠実性を向上できることが明らかになった。
【0042】
[実施の形態1]
本実施の形態のフォトマスク10は、主面が長方形又は正方形の板状の透明基板21の一主面に、所定の転写用パターン35を設けて構成されている。透明基板21は、合成石英などの透明材料を加工し、主表面を平坦、平滑に研磨したものが用いられる。フラットパネルディスプレイ用のフォトマスクに用いる透明基板21としては、主面の短辺が300~2000mm、厚みが5~16mmのものが好適に使用される。
【0043】
フォトマスク10がもつ転写用パターン35を
図1に例示する。転写用パターン35は、透明基板21上に、透過制御膜が形成されてなる透過制御部36と、透明基板21が露出した透光部37とを含む。
【0044】
ここで、透過制御部36は、短辺の寸法がB、長辺の寸法がCの長方形であり、短辺方向にD、長辺方向にEの間隔を空けて、マトリクス状に配置されている。すなわち、それぞれの透過制御部36が、透光部37を介して、規則的に配列し、長辺方向のピッチPm1(長手ピッチともいう)がPm1(=C+E)、短辺方向のピッチPm2(短手ピッチともいう)がPm2(=B+D)の、繰返しパターンとなっている。本形態において、転写用パターン35は、フラットパネルディスプレイに使用されるブラックマトリクス52(
図4参照)用のパターンであり、
図1における縦横にのびる透光部37が、被転写体51上のネガ型感光性材料に転写され、得ようとするブラックマトリクス52となる。
図2に、被転写体51を構成するガラス基板56上にブラックマトリクス52が形成された状態の断面説明図を示す。
【0045】
すなわち、フォトマスク10は、被転写体上に、感光材料が残存する部分としない部分とを形成する2階調のフォトマスクであり、透過制御部36は、従来のバイナリマスクの遮光部に対応する。
【0046】
転写用パターン35の各部分の寸法(CD)は、例えば以下のようにすることが好ましい。
図1において縦方向のライン状透光部37(長手スリットともいう)の幅Dは、
3≦D≦10(μm)
であることが好ましく、より好ましくは、
3≦D≦8(μm)
更に好ましくは
3≦D≦6(μm)
である。上記により、フラットパネルディスプレイにおいて開口率の高い良好なブラックマトリクス52が得られる。このような微細なCDをもつ高精細パターンであっても本発明を適用すると、形状劣化が低減され、効果が顕著である。
【0047】
また、
図1において横方向にのびるライン状の透光部37(短手スリットともいう)の幅Eは、上記長手スリットの幅Dと同等でもよく、またそれより大きくても良い。
例えば、3≦E≦30 (μm)
であってもよい。
【0048】
また、
図1の繰返しパターンの短手ピッチ(反復ピッチ)Pm2は、
10≦Pm2≦35 (μm)
とすることができる。
より好ましくは、
15≦Pm2≦35 (μm)
とすることができる。この程度であるとき、250ppiから、700ppi程度の、高精細なディスプレイに適切に利用できる。
【0049】
一方、長手ピッチPm1は、上記Pm2より大きいことが好ましい。例えば、
30≦Pm1≦105
【0050】
尚、近接露光では、投影倍率は設定されず(すなわち等倍)、被転写体51上での長手ピッチPp1、短手ピッチPp2は、上記Pm1、Pm2と同一になる。
【0051】
また、このような転写用パターン35を用いて近接露光するとき、プロキシミティギャップGは、50~200μm程度が好適に用いられる。そして、本発明によれば、プロキシミティギャップGの面内不均一がある場合においても、それによって生じる転写像の面内不均一が低減される。近接露光のコリメーション角は1.5~2.5度程度が好ましい。
【0052】
上記のような転写用パターン35を用いて、被転写体51上に、上記幅Dのライン状透光部37に対応して、幅10μm以下のライン状パターンを形成することを考える。例えば、3~10μm幅、より微細なものとしては、3~8μm幅、更には3~6μm幅のパターンを形成し、微細幅のブラックマトリクス52とすることを考える。
【0053】
本実施の形態のフォトマスク10において、透過制御部36を形成するための透過制御膜は、フォトマスク10を露光する露光光に対し、その位相をφ(度)シフトする作用をもつ。すなわち、透過制御膜の位相シフト量φは、
φ>180(度)
である。
【0054】
尚、φ>180、すなわち、180度を超える位相シフト量とは、下記(2)式によって定義される位相シフト量φの範囲を表す。(2)式中のMは負でない整数を表す。
180+360M<φ<360+360M(度) ‥‥‥ (2)
【0055】
ここでフォトマスク10を露光する露光光とは、近接露光装置50によって、転写用パターン35を露光し、転写するために用いる光であり、313~365nmの範囲内の波長をもつ光が好ましく用いられる。複数波長を含む露光光においては、上記波長範囲に含まれるいずれかの波長(好ましくは強度ピークをもつ波長)を、代表波長として上記位相シフト量φの基準とすることができる。
【0056】
例えば、313~365nmの範囲内の波長を含む露光光を用いる場合、短波長側の313nmを代表波長としてもよく、上記波長域の中央値に近い334nmを代表波長としてもよい。また、上記波長範囲の最長側にある365nmを代表波長とすることができる。
【0057】
更に、露光光が、複数波長を含む場合に、上記波長範囲に含まれるすべての波長に対して、φ>180とすることができる。また、以下に記載された好ましい波長範囲についても同様である。
【0058】
従って、例えば、フォトマスク10は、波長313~365nmの波長域内の波長を含む露光光によって近接露光するためのフォトマスク10にであって、上記透過制御部36は、もっとも長波長側の波長365nmの光に対し、180度を超える位相シフト量を有するフォトマスク10とすることができる。この場合、実質的に、露光光に含まれる上記波長範囲のすべての波長に対して、透過制御部36の位相シフト量は180度を超えたものとなる。
【0059】
或いは、露光光の波長が、365~436nm(i線、h線、g線)を含むものとする場合には、もっとも長波長側の436nmを代表波長とし、これに対する、透過制御膜の位相シフト量φを、φ>180としてもよい。更には、使用する露光光の波長域において、もっとも強度の大きい波長を代表波長としてもよい。
【0060】
また、透過制御部36を形成するための透過制御膜は、露光光に対して、透過率Tを有する。この透過率Tは、透明基板21を1.0(100%)としたときの数値である。また、ここでいう透過率は、上記位相シフト量に関して述べたものと同様の代表波長に対するものとすることができる。
【0061】
透過率Tは、0.1(10%)以下であることが好ましい。例えば、透過率Tは、
0.01≦T≦0.1
とすることができる。Tが小さすぎると、既存のバイナリマスクに対して、後述のフィデリティ向上効果が顕著に得られない。Tが大きすぎると、透過制御部36のうち、エッジから遠い領域において、遮光性が不十分になるリスクが生じる。
【0062】
透過制御膜の透過率Tおよび位相シフト量φの詳細については、後述する。
【0063】
フォトマスク10を用いて、フラットパネルディスプレイのブラックマトリクス52を形成するとき、
図1において、2点鎖線によりこのフラットパネルディスプレイを構成する各ピクセル(画素)同士の境界線に対応する線を示す。この例では、一つのピクセルは、赤、緑、および、青の合計3個のサブピクセルを含み、一辺の長さがA(=Pm1)である正方形である。
図1における透過制御部36に対応する部分に、それぞれ1個のサブピクセルが形成される。
【0064】
フラットパネルディスプレイが、液晶ディスプレイである場合、対向配置されたカラーフィルタ基板と、TFT(Thin-Film-Transistor)基板との間に、液晶を封止して製作される。ブラックマトリクス52は、カラーフィルタ基板の一面に形成される。例えば、
図1における透過制御部36に対応する部分に、赤、緑および青のカラーフィルタを形成することができる。
【0065】
フラットパネルディスプレイが、有機EL(electro-luminescence)ディスプレイである場合、
図1における透過制御部36が設けられた部分に、赤、緑および青の有機EL発光素子が形成される
【0066】
いずれの場合であっても、ブラックマトリクス52は、サブピクセル間の混色や光もれを防ぎ、フラットパネルディスプレイに表示される画像・映像を鮮明にする。高精細、すなわち個々の画素が小さく画素密度が大きい上に、明るいフラットパネルディスプレイを実現するには、ブラックマトリクス52の幅を細く、(例えば、3~10μm、より好ましくは、3~8μm)、かつ、設計通りの形状に形成する必要がある。
【0067】
従って、フォトマスク10の有する転写用パターン35の形状を、できる限り忠実に(フィデリティを高くして)、被転写体51上の転写像に反映することが望まれる。ここでフィデリティとは、フォトマスク10の転写用パターン35の形状が、被転写体51上に維持される度合いをいい、例えば、転写用パターン35の角部が、被転写体51上の転写像において丸まりを生じる程度が低減され、或いは、転写用パターン35のライン状の部分が、転写像において太くなり、又は細くなる程度が低減された場合などに、フィデリティが向上したということができる。
【0068】
上記のように、転写用パターン35は、閉じた線に囲まれた透過制御部36が、ライン状の透光部37を介して配置されている。この透過制御部36により、フォトマスク10を用いた露光、及び現像によって被転写体51上の感光性材料が溶出し、他方、これを囲む透光部37に対応する部分には感光性材料による立体構成物(たとえばブラックマトリクス)が形成される。そして、本発明のフォトマスク10は、この立体構造物の形状フィデリティの向上に優れた効果がある。
【0069】
以下においては、
図1に示すAからEが表1に示す長さである場合を例にして、説明する。
【0070】
【0071】
本発明のフォトマスク10の露光には、近接露光装置50が好ましく用いられる。
図3は、近接露光装置50の構成を模式的に説明する説明図である。近接露光装置50は、光源57から出射した光を、照明系58を介して、フォトマスク10の裏面12の側に照射する。照射された光は、転写用パターンが形成された表面11側に透過し、被転写体51に到達する。フォトマスク10と、被転写体51との間には、プロキシミティギャップGが設けられる。
【0072】
光源57は高圧水銀ランプとすることができる。高圧水銀ランプは、i線、h線、g線に強いピークを有するが、本実施の形態のフォトマスク10の露光には、i線(波長λ=365nm)、および、それより短波長側のスペクトル群を利用することが好ましい。例えば、365nm、334nm、および313nmのピークをもつ露光光に対して、良好な感度域をもつネガ型レジストを用いることが有用である。
【0073】
図4は、
図1に示す転写用パターン35が、忠実に被転写体51上に転写されたと仮定した場合に、被転写体51上に形成されるブラックマトリクス52の形状を例示する。ネガ型の感光性材料を使用した場合、
図1に対して白黒が反転する。ここでは、
図4の形状を、理想状態のブラックマトリクスとする。
【0074】
一方、
図5は、
図1に示す転写用パターン35をもつバイナリマスクを近接露光し、被転写体51上に転写されるときに、光の回折、干渉の作用によって形状が劣化した場合の転写像を示す。例えば、
図1に示す透過制御部36を遮光部とした従来のフォトマスクにおいては、こうした形状劣化が生じやすい。この場合、サブピクセルに対応する部分の角部が丸みを帯びるなど、転写の忠実度(フィデリティ)が不十分である。
【0075】
そこで、
図1に示す転写用パターン35において、透過制御部36に用いた透過制御膜を、所定の透過率Tと位相シフト量φをもつものとしたとき、転写像のフィデリティがどのように変化するかを、フレネル回折を用いた光学シミュレーションにより検証した。
【0076】
すなわち、上記転写用パターン35を、近接露光によって露光したとき、被転写体51上に形成される露光光の光強度分布を光学シミュレーションにより求め、よりよい転写条件を見出すとともに、透過制御膜の透過率Tおよび位相シフト量φによる、上記転写像への影響を検討した。
【0077】
図6を用いて、フォトマスク10と、近接露光によって形成される転写像を説明する。
図6(a)には、フォトマスク10を透過制御部36の短辺方向に沿って切断した模式断面図を示す。
図1を使用して説明したように、透過制御部36の幅はB、透光部37の幅はDとする。ここでは、ブラックマトリクス52の幅に対応するDの寸法は、10μm以下の微細寸法である。
【0078】
図6(b)は、フォトマスク10の裏面側から近接露光装置50によって露光したときに、被転写体51上に形成される光強度分布を示す。横軸は、被転写体51上の位置を示し、縦軸は光強度を示す。
【0079】
光強度Ithは、現像によって、被転写体51上のネガ型感光性材料に、幅Dのブラックマトリクス52を形成するときの、光強度の閾値に相当する。このとき、現像挙動が完全な可溶と完全な不溶に二値化できるような、理想的な現像モデルを考える場合、Ithはネガ型感光性材料が完全不溶となる光強度の閾値である。
【0080】
ラインアンドスペースパターンなどの、明暗が交互に反復する繰返しパターンにおいては、一般に転写像の優劣をコントラストと呼ばれる指標によって評価する。コントラスト値が高いほど、明部と暗部との光強度差がはっきりする。フォトリソグラフィは、この明暗の差を用いて転写情報を被転写体51上に焼き付ける手法であるから、一定値以上のコントラストをもつことが好まれる。
【0081】
コントラストの定量化にはいくつかの手法が存在するが、差に注目する手法としては、Michelson Contrastによる定量化が広く用いられる。Michelson Contrastは明部の光強度をI1、暗部の光強度をI2としたときに、{(I1-I2)/((I1+I2)}として定義される。本発明においては、明部の光強度を表す指標として既にIthを定義した。一方、暗部については、透過制御部36の性質によって大きく支配されることが、
図6(b)からも明らかである。
図6(b)では、暗部Bが十分に暗い場合を想定した、I2が0に近い場合を図示しているが、後述するように透過制御膜に有意な透過率Tを持たせた場合、この暗部は、フォトマスク上に配置される位置、あるいは被転写体上で作用する位置によっては、無視できない光強度としてふるまうことがある。
【0082】
以上を踏まえ、ここでは、本実施の形態におけるコントラストCoを、(3)式により定義し、透過制御部36の透過率Tや、位相シフト量φが上記光強度分布に与える影響を調べる。
【0083】
【0084】
ここで、Ithは、上記のとおり、被転写体51上のレジスト膜が現像によって不溶となる光強度の閾値に相当する。そして、被転写体51上に幅Dをもつ転写像を形成することを想定したものである。
【0085】
Tは、透過制御部36の露光光に対する、位相効果を考慮しない、透過制御膜固有の膜透過率であり、透過率が100%のときに、Tを1とする数値である。
【0086】
(3)式においてコントラストCoは、IthとTとのMichelson Contrastを示す。すなわち、Tの値がIthに対して無視できない、十分な割合を持つと、分母に対して分子が相対的に小さくなり、コントラストCoも小さくなる。このとき、期待するフィデリティ改善効果とは別に、以下のような懸念が生じることが予想できる。
【0087】
レジストはネガ型であるとき、露光光が照射されることにより架橋反応が進行し、現像によって溶出しない状態となる。
【0088】
理想的なモデルを除いて、現実の感光性材料においては多かれ少なかれ中途半端な光反応や、それによる中途半端な現像挙動が存在する。結果として、被転写体51上において最終的にはレジストによる構造物が不要となる部分(例えばブラックマトリクス52を形成するべきでない部分)で部分的に架橋反応が進行し、現像後に残渣が滞留するリスクが考えられる。すなわち、透過率Tの値がIthに近いと、上記構造物が不要となる部分での架橋反応、ひいては残渣滞留のリスクが上昇することがあり得る。これを避けるため、透過制御部36の透過率Tが、露光による光強度閾値Ithの2割を越えない範囲であることが望ましい。透過率Tが、露光による光強度閾値Ithの2割である場合のコントラストC2は、(4)式により算出される。
【0089】
【0090】
すなわち、コントラストは、0.667以上とすることが好ましい。
【0091】
また、露光工程やその後の現像工程で生じ得る変動(照射強度の変動、現像の面内不均一など)が生じる可能性を考慮すると、より優れた歩留を得るためには、透過制御部36の透過率Tが、露光量閾値Ithの1割以下であることがより望ましい。透過率Tが、露光量閾値Ithの1割である場合のコントラストC1は、(5)式により算出される。
【0092】
【0093】
すなわち、コントラストは、0.818以上であることが更に望ましい。そして、上記(4)、(5)式から明らかなとおり、これらの好ましいコントラストの値は、Ithの値によらない。
【0094】
更に、フォトマスク10に形成された転写用パターン35が、被転写体51に反映される程度(フィデリティ)を、より直接的に評価するため、シミュレーションにより、近接露光によって被転写体51上に形成される転写用パターン35の転写像を得て、得られた転写像と転写用パターン35との形状差異を定量化し、差分Sとして算出する。
【0095】
差分Sは、フォトマスク10上の転写用パターン35の形状と、被転写体51上に形成された転写像の形状の相違する面積に対応する。差分Sは、(6)式により定義される。差分Sが0に近いほど、フォトマスク10上のパターンが、被転写体51に忠実に転写される、いわゆるフィデリティが良い状態である。
【0096】
S=S1+S2 ‥‥‥ (6)
ここで、S1は、フォトマスク10の転写用パターン35が忠実に転写されればブラックマトリクス52を構成する領域になるが、シミュレーションにより得られた転写像では、光強度が、露光量閾値Ithに満たないため、ブラックマトリクス52を構成しない領域となる面積を意味する。
【0097】
一方、S2は、フォトマスク10の転写用パターン35が忠実に転写されればブラックマトリクス52を構成しない領域であるが、シミュレーションにより得られた転写像では、光強度が閾値Ithを上回り、ブラックマトリクス52を構成する領域となる面積を意味する。
【0098】
すなわち、S1、S2はそれぞれ、忠実な転写からのマイナス側、プラス側の誤差(逸脱分)の絶対値と考えることができ、その合計をここでは評価する。尚、S1、S2の数値は、680ピクセル四方に出力したときの上記逸脱部分のピクセル数を算定し、これにピクセル単位面積のuを掛け合わせたものとして定量化した。
【0099】
図7は、
図1の形状、表1の寸法をもつ転写用パターン35につき、プロキシミティギャップGを100μmとし、透過制御部36の位相シフト量を変化させたときの転写像への影響を、シミュレーションによって、差分Sの数値と形状差異の分布(
図7(b)~(f))により示したものである。具体的には、透過率をゼロとしたバイナリマスクの比較例1とともに、透過制御部36の透過率を0.03(3%)とし、透過制御部36の位相シフト量を、0、90、180、270度のそれぞれの場合についての差分Sおよび差分Sに対応する形状差異の分布を求めている。尚、ここでのIthは被転写体51上で細幅のブラックマトリクス52に相当する部分(
図1の透光部37の幅Dに対応する部分)が、6μmとなるように設定した。
【0100】
転写用パターン35の形状(a)に対して、上記Sを算出するための形状差異の分布、および、それを定量化したSの数値をみると以下のことがわかる。(b)の比較例1(バイナリマスク、以下単に「バイナリ」ともいう)や(c)の参考例1(位相シフトのないハーフトーンマスク、以下「位相差のないHTM」ともいう)に対して、位相シフト量を180度より大きくした(f)の実施例1は、差分Sの数値が最も低く、フィデリティが優れている。
【0101】
(e)に示す、位相シフト量180度のいわゆるハーフトーン型位相シフトマスク(以下「180度PSM」ともいう)を用いて透過制御部36とした参考例3は、(b)に示す比較例1のバイナリマスクより、フィデリティが低かった。
【0102】
上記傾向は、
図7の形状差異の分布から、視覚的にも把握することができる。すなわち、本形態のフォトマスク10は、透過制御部36の位相シフト量を、180度を超える数値とすることにより、従来のいずれのフォトマスクよりも、優れた転写像を得られるものであることが、明らかになった。
【0103】
一般に、近接露光方式は、プロキシミティギャップを所定値(例えば100μm)に設定して行なうが、フォトマスク10の面内全域にわたって、被転写体51との距離をこの数値に設定することは現実的には不可能である。例えば、大サイズのフラットパネルディスプレイ用フォトマスク10においては、近接露光時に自重によるたわみが生じるために、フォトマスク10の中心付近と、外縁付近とでは、プロキシミティギャップが異なる場合が生じている。或いは、このたわみを低減する目的で、フォトマスク10に加重をかける保持機構などにより、より複雑なプロキシミティギャップの面内分布(ばらつき)が生じる場合もある。
【0104】
そこで、上記シミュレーションにおいて、プロキシミティギャップGが150μmとなった場合の、フィデリティについて、検討を行なった結果を、
図8に示す。この場合、150μmというプロキシミティギャップは面内分布などにより意図せず生じたものであるから、露光量閾値には、意図して設定した所定プロキシミティギャップ値である、100μmにおいて導出したIthの値を用いる。
【0105】
図8によると、
図7と同様、(b)に示すバイナリマスクや、(e)に示す180度PSMと比較して、(f)に示す実施例2のフォトマスク10においては形状差異が小さく、優れたフィデリティを示している。
【0106】
上記からは、近接露光用のフォトマスク10に、位相シフト膜を適用して、位相シフト効果による解像性の向上を得ようとした場合に、その位相シフト量は、投影露光方式において確立している180度の位相シフトが必ずしも最適ではないことが明らかになった。すなわち、近接露光方式で用いる位相シフト作用は、その位相シフト量が180度を超えたときに、より優れたフィデリティを示すことが判明した。特に、この場合、プロキシミティギャップGの変動に対して、転写像の形状安定性が、際立って優れていることがわかった。この点は、実施例1と実施例2の差異(つまり
図7(f)と
図8(f)との差分Sの差異)が小さいことからも理解できる。
【0107】
次に、得られる転写像のフィデリティについて、更に詳細な光学シミュレーションを示す。
【0108】
以下の光学シミュレーションは、
図1の転写用パターン35において、位相シフト量φと透過率Tとがそれぞれ変化したときに、透過制御部36の位相シフト量φ、透過率Tと、転写像のコントラストCo、差分Sの相関について調べたものである。
【0109】
図9は、シミュレーション結果の表示方法を説明する説明図である。シミュレーションは、透過制御部36の位相シフト量φと透過率Tとの組合せを種々に変更して実施する。
図9において、横軸は位相シフト量φ(度)を示し、縦軸は透過率Tを示す。境界を破線で示す一つ一つの長方形枠が、それぞれのシミュレーション条件を示す。
【0110】
太枠で囲んだK部は、透過制御部36の透過率Tが0、すなわち透過制御部36が光を透過しない、バイナリマスクを示す。太枠で囲んだL部は、透過制御部36の位相シフト量φが360度、すなわち0度であり、位相差のないHTMを示す。太枠で囲んだM部は、180度PSMを示す。太枠で囲んだN部は、位相シフト量φが180度を越えて360度未満の透過制御部36を示す。以後の説明においてはN部に該当する透過制御部36を備えるフォトマスク10を、過シフト角位相シフトマスクともいう。
【0111】
シミュレーションでは、露光光として、波長が313nm、334nmおよび365nmの光(強度比0.25:0.25:0.5)を含むブロード波長域に露光条件を適用した。これらは、高圧水銀ランプの放射スペクトルのうち、ブラックマトリクス52等の製造に適用される、ネガ型のレジストがもつ感光域に適合するi線以下の主要なピーク成分である。透過率Tおよび位相差φは、シミュレータ特性により、波長ごとに所定値に一致している。また、プロキシミティギャップGは100μmとした。
【0112】
また、フォトマスク10の転写用パターン35は、
図7について説明したものと同じである。
【0113】
そして、本シミュレーションでは、上記の各シミュレーション条件におけるコントラストCoと差分Sの値を算出し、
図9の破線で示す各長方形枠に対応づけた。
【0114】
図10から
図12は、シミュレーション結果を説明する説明図である。
図10は、プロキシミティギャップGが100μmである場合を示し、太線で囲んだ部分は、過シフト角位相シフトマスクによる差分Sが、同じ透過率(0.03)をもつ位相差のないHTM、180度PSMと比較して小さく、かつ、バイナリより小さい領域を示す。
【0115】
すなわち、太線内の領域は、過シフト角位相シフトマスクにおける、転写のフィデリティがバイナリ、位相差のないHTM、180度PSMのいずれよりも優れた領域である。
【0116】
図11は、プロキシミティギャップGを150μmとしたこと以外は、
図10と同じ条件で行なったシミュレーション結果を示す。太線で囲んだ部分は、上記と同じ基準で、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが、バイナリ、位相差のないHTM、180度PSMのいずれよりも優れた領域を示す。
【0117】
一般にプロキシミティギャップGが設定値より大きくなると、転写像の劣化は顕著になる傾向がある。この点は、
図7、8からも把握できる。しかしながら、本発明の過シフト角位相シフトマスクによれば、プロキシミティギャップGが面内で変化し、設定値より大きくなっても、既存のフォトマスクに比べて、安定したフィデリティをもった高い転写性を示すことがわかる。
【0118】
図12の一点鎖線で囲まれた領域は、
図10および
図11において、太線で囲まれた部分の和集合を示す。つまり、プロキシミティギャップGが、100μm又は150μmのいずれかの場合において、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが他のフォトマスク10より高い領域を示す。また、太線で囲んだ部分は、
図10および
図11のいずれにおいても太線で囲まれた部分、すなわち共通集合を示す。すなわち、プロキシミティギャップGが100μmと150μmとのいずれの場合においても、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが高い領域を示す。
【0119】
図12より、透過制御部36の位相シフト量φが180度を越える、過シフト角位相シフトマスクが、既存のフォトマスクよりも有利なフィデリティを有するものであることがわかる。
【0120】
また、
図10によると、透過制御部36の位相シフト量φが255度以上のとき、このプロキシミティギャップGのときのフィデリティが有利であることがわかる。
【0121】
更に、
図10によると、透過制御部36の透過率Tが0.06以下であると、良好なフィデリティを得るための透過制御部36の位相シフト量φの選択範囲が広い。
【0122】
更に、
図11によると、プロキシミティギャップが、面内分布などにより意図せず広がった場合においても、透過制御部36の位相シフト量φが330度以下の広い過シフト角範囲で良好なフィデリティが得られる。
【0123】
また、
図10から
図12によると、透過制御部36の位相シフト量φは255度以上330度以下であるとき、プロキシミティギャップGの変動によるフィデリティへ影響が小さい利点があり、270度以上のときには、その利点がより顕著である。
【0124】
また、透過率Tを0.06以下とすれば、プロキシミティギャップGの変動に関わらず、有利なフィデリティを得られるための位相シフト量φの選択範囲が広い。
【0125】
更には、過シフト角位相シフトマスクの位相シフト量φを270度以上とすれば、有利なフィデリティを得られるための透過率Tの選択範囲が広い。
【0126】
尚、
図13には、被転写体51上に形成される転写像のコントラストCoを算定した結果を示す。太枠で囲んだW部は、コントラストCoが0.667以上となる領域(但し0.818未満)であり、更に、太枠で囲んだV部は、コントラストCoが0.818以上となる領域である。すなわち、領域Wは、前記(4)式による好ましい範囲であり、領域Vは、前記(5)式による、より好ましい範囲である。
【0127】
従って、上述した有利なフィデリティを得られる好ましい位相シフト量φや透過率Tの条件に加えて、更に、
図13における、有利なコントラストCoの範囲をあわせて考慮することにより、より好ましい転写性が得られることがわかる。
【0128】
例えば、過シフト角位相シフトマスクにおいて透過制御部36の位相シフト量φが225度以上であるとき、コントラストの良好な転写像を得るための適用透過率Tの範囲が広がり、位相シフト量φを270以上とすると、更に広がる有利な効果が得られることがわかる。
【0129】
また、透過率Tの値は、上記のとおり、0.1以下であることが好ましいが、特に、
0.01≦T≦0.09
であると、透過制御部36の位相シフト量φの広い範囲において、コントラストが良好な転写像が得られる。
0.01≦T≦0.08
であればその利点がより顕著である。
【0130】
更に、
T≦0.05
であれば、更に好ましいコントラストCoが得られ、
T≦0.04
であれば、好ましいコントラストを得るための、透過制御部36の位相シフト量φの選択範囲が高い。
【0131】
[実施の形態2]
図14は、フォトマスク10のもつ転写用パターン35の設計形状を実施の形態1から変更した場合を示す。すなわち、このフォトマスク10が有する転写用パターン35は、長方形のかわりに平行四辺形の繰返しパターンをもつ。例えば、フラットパネルディスプレイのサブピクセルの形状が平行四辺形である場合の設計とする。
【0132】
図14においては、透過制御部36は底辺の長さがC,高さがB、鋭角部分の角度が45度、鈍角部分の角度が135度の平行四辺形である。透過制御部36は、高さ方向にD、底辺に沿う方向にEの間隔を空けて、マトリクス状に配置されている。本形態の転写用パターン35は、これらのパターンのデザイン変更のほかは、特記する以外において実施の形態1と同様とし、また、ここでのAからEの寸法は、表1に示す寸法と同一とする。
【0133】
図15は、
図14に示す転写用パターン35が、忠実に被転写体51上に転写されたと仮定した場合に、被転写体51上に形成されるブラックマトリクス52の形状を示す。これを、理想状態のブラックマトリクス52とする。但し、実際に
図14の転写用パターン35を近接露光すると、被転写体51上の転写像には、光の回折、干渉による形状劣化が生じる。
【0134】
ここで、
図14に示す転写用パターン35を近接露光した場合について、上記
図7、8において行なったのと同様の光学シミュレーションの結果を、
図16、17に示す。
【0135】
すなわち、
図14の転写用パターン35について、Dを6μm、プロキシミティギャップGを100μmとした、透過制御部36の位相シフト量を変化させたときの、転写像と差分Sを、
図16(b)~(e)に示す。具体的には、透過率をゼロとしたバイナリマスクの比較例4とともに、透過制御部36の透過率を0.03(3%)とし、透過制御部36の位相シフト量を、0、90、180、270度のそれぞれの場合についての差分Sを求めている。尚、ここでも、Ithは、細幅のブラックマトリクス52(転写用パターン35のDに相当する部分)が、6μmとなるよう光強度を規格化した。近接露光のコリメーション角は2.0度とした。シミュレーション条件は、実施の形態1の場合と同様とした。
【0136】
更に、
図17はプロキシミティギャップGが150μmである他は、
図16と同一の条件でシミュレーションした結果を示す。
【0137】
図16、17によると、バイナリマスクや、180度PSMと比較して、差分Sの値により、実施例3、および実施例4の過シフト角位相シフトマスクの転写フィデリティが優れていることがわかる。また、
図16によるとプロキシミティギャップGが100μmの場合には、実施例3よりも位相差のないHTMのフィデリティがわずかに良いものの、
図17によると、プロキシミティギャップGが150μmになると、実施例4の差分Sの数値がより優れたものとなる。更に、近接露光において、面内の位置によって異なるプロキシミティギャップGが形成されるとき、そのプロキシミティギャップGの変動によって、差分Sの変化量が小さい点も、実施例3、4から理解できる。この点は、特にフラットパネルディスプレイの製造において、転写されるパターンの面内均一性を維持する点で、非常に意義が大きい。
【0138】
【0139】
図18は、プロキシミティギャップGが100μmである場合を示し、太線で囲んだ部分は、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが、バイナリ、位相差のないHTM、180度PSMのフィデリティよりも優位な領域を示す。
すなわち、太線内の領域は、過シフト角位相シフトマスクにおける、上記差分Sが、バイナリより小さく、更に同じ透過率をもつ位相差のないHTM、180度PSMのいずれよりも小さい領域である。
【0140】
図19は、プロキシミティギャップGを150μmとしたこと以外は、
図18と同じ条件で行なったシミュレーション結果を示す。太線で囲んだ部分は、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが、バイナリ、位相差のないHTM、180度PSMのいずれよりも優れた領域を示す。
【0141】
図20の、一点鎖線で囲まれた領域は、
図18および
図19において、太線で囲まれた部分の和集合を示す。つまり、プロキシミティギャップGが、100μm又は150μmのいずれかの場合において、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが高い領域を示す。また、太線で囲んだ部分は、
図18および
図19のいずれにおいても太線で囲まれた部分、すなわち共通集合を示す。すなわち、プロキシミティギャップGが100μmと150μmとのいずれの場合においても、過シフト角位相シフトマスクのフィデリティが高い領域を示す。
【0142】
図20より、透過制御部36の位相シフト量φが180度を越える、過シフト角位相シフトマスクが、既存のフォトマスクよりも有利なフィデリティを有するものであることがわかる。また、位相シフト量φが300度以上であるとき、特に良好な結果が得られることがわかる。
【0143】
また、実施の形態1におけると同様、
図13による、コントラストCoが良好な範囲を同時に考慮することにより、よりフィデリティの有利な条件を選択することができる。
【0144】
上記の実施の形態1および2に示すとおり、過シフト角位相シフトマスクによると、近接露光装置50を用いて、フィデリティの良好なフォトリソグラフィを行なえるフォトマスク10を提供できる。
【0145】
また、上記実施の形態によると、フォトマスク10の面内位置によってプロキシミティギャップGが変動した場合であっても、それによる転写像の形状(CDを含む)の変化を低減することが可能なフォトマスク10を提供できる。特に、フラットパネルディスプレイに用いられる大型のフォトマスク10においては、自重によるたわみや露光装置の保持手段によるプロキシミティギャップGの変動が生じやすいため、本実施の形態のフォトマスク10の採用が有効である。
【0146】
更に、上記実施の形態によると、ネガ型感光材料を用いたレジストと、高圧水銀ランプとを組み合わせて、フィデリティの高い露光を行なえるフォトマスク10を提供できる。
【0147】
透過制御部36を構成する透過制御膜は、所定の露光光透過率と位相シフト量を有するものとするために、その組成や膜厚が決定されたものであり、その組成は膜厚方向に均一でもよく、又は、異なる組成や異なる膜物性の膜が積層されてひとつの透過制御膜を構成するものでもよい。
【0148】
但し、本発明の作用効果を損なわない限りにおいて、付加的に、異なる膜(遮光膜、エッチングストッパ膜等)を有してもよく、付加的な膜による膜パターンを、透過制御膜のパターンの上面側又は下面側に有していてもよい。
【0149】
また、転写用パターン35の外周側に、付加的な膜パターン(例えば、遮光膜パターン)を有していても良く、このような付加的な膜パターンに、フォトマスク10の露光時やハンドリング時に参照されるマークパターンを形成してもよい。
【0150】
上記2つの実施の形態に共通して、本発明のフォトマスク10は、例えば以下の製造方法によって製造することができる。
【0151】
まず、透明基板21上に透過制御膜が成膜された、フォトマスクブランクを用意する。透過制御膜の成膜においては、露光光に対して所定の透過率、および位相シフト量を満足するように、その素材と膜厚を選択する。成膜方法はスパッタ法など、公知の成膜方法を適用することができる。
【0152】
次いで、透過制御膜上にレジスト膜が形成された、レジスト付フォトマスクブランクを用意する。レジストは、ポジ型でもネガ型でもよいが、ポジ型が好ましい。
【0153】
そして、上記レジスト付フォトマスクブランクに対して、パターニングを施す。具体的には、レーザ描画装置等の描画装置を用い、所定のパターンデータによる描画を行ない、現像を行なう。更に、現像により形成されたレジストパターンをマスクとして、透過制御膜にドライ又はウェットエッチングを施し、転写用パターン35を形成する。そして、レジストパターンを剥離する。
【0154】
以上の工程によれば、1回のみのパターニング(すなわち1回のみの描画)によってフォトマスク10を形成することができる。すなわち、透過制御膜のみをパターニングしてなるフォトマスク10であることが好ましい。必要に応じて、付加的な膜の形成、およびパターニングを行なってもよい。
【0155】
透過制御膜の材料は、例えば、Si、Cr、Ta、Zrなどを含有する膜とすることができ、これらの化合物から適切なものを選択することができる。
【0156】
Si含有膜としては、Siの化合物(SiONなど)、又は遷移金属シリサイド(MoSi、TaSi、ZrSiなど)や、その化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、酸化窒化炭化物など)を用いることができる。
【0157】
Cr含有膜としては、Crの化合物(酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物、酸化窒化炭化物)を使用することができる。
【0158】
本発明は、フォトマスク10を用いた、フラットパネルディスプレイ用電子デバイスの製造方法を含む。
【0159】
すなわち、上記の過シフト角位相シフトマスクを用意する工程と、近接露光装置50によってこれを露光し、被転写体51上に前記転写用パターン35を転写する転写工程とを
有し、前記転写工程では、プロキシミティギャップが50~200μmの近接露光を適用する、フラットパネルディスプレイ用の電子デバイスの製造方法である。
【0160】
フォトマスク10の用途は、ブラックマトリクス52又はブラックストライプの製造に好適に使用することができるが、これらに限定しない。但し、本発明のフォトマスクは、被転写体上に、感光性材料による立体構造物を形成する目的に、特に好適に利用できる。これは、上述の閉じた線に囲まれた透過制御部と、これを囲む透光部とが形成する、立体構造物の形状において、優れたフィデリティを得られることが、極めて有意義であるためである。
【0161】
また、本発明は、ラインアンドスペースパターンのように、光学的に互いに影響を及ぼす距離にある単位パターンが規則的に繰返される、いわゆる密集パターンを含む転写用パターンに、好適に適用することができる。
【0162】
各実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0163】
10 フォトマスク
21 透明基板
35 転写用パターン
36 透過制御部
37 透光部
50 近接露光装置
51 被転写体
52 ブラックマトリクス
56 被転写体(ガラス基板)
57 光源
58 照明系