(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】サセプタの製造方法、サセプタおよび熱処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20230926BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
H01L21/26 Q
H01L21/26 T
H01L21/265 602B
(21)【出願番号】P 2019200433
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】布施 和彦
(72)【発明者】
【氏名】三宅 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃頌
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133424(JP,A)
【文献】特開平01-179309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0076965(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/26
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射によって加熱される基板を支持するサセプタの製造方法であって、
前記サセプタの下方から前記サセプタに支持された前記基板に光を照射したときに前記基板に生じる温度分布を取得する温度分布取得工程と、
前記温度分布において所定温度以上となる前記基板の高温領域に対向する前記サセプタの表面の一部領域を粗面とする粗面化加工工程と、
を備え
、
前記温度分布取得工程と前記粗面化加工工程とを複数回繰り返すことを特徴とするサセプタの製造方法。
【請求項2】
請求項
1記載のサセプタの製造方法において、
前記基板の前記高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向する前記サセプタの部位の表面粗さを粗くすることを特徴とするサセプタの製造方法。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載のサセプタの製造方法において、
前記サセプタの下面を粗面とすることを特徴とするサセプタの製造方法。
【請求項4】
光照射によって加熱される基板を支持するサセプタであって、
前記サセプタの下方から前記サセプタに支持された前記基板に光を照射したときに前記基板に生じる温度分布において所定温度以上となる前記基板の高温領域に対向する前記サセプタの表面の一部領域に粗面が形成され
、
前記基板の前記高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向する前記サセプタの部位の表面粗さが粗くなり、前記部位の透過率が低下することを特徴とするサセプタ。
【請求項5】
請求項
4記載のサセプタにおいて、
前記サセプタの下面に粗面が形成されることを特徴とするサセプタ。
【請求項6】
基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置であって、
前記基板を収容するチャンバーと、
前記チャンバー内に設けられて前記基板を支持する
請求項4または請求項5に記載のサセプタと、
前記サセプタの下方より光を照射して前記基板を加熱する連続点灯ランプと、
を備えることを特徴とする熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって加熱される半導体ウェハー等の薄板状精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)を支持するサセプタ、当該サセプタの製造方法および当該サセプタを搭載した熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するフラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0003】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。
【0004】
このようなフラッシュランプアニールは、極短時間の加熱が必要とされる処理、例えば典型的には半導体ウェハーに注入された不純物の活性化に利用される。イオン注入法によって不純物が注入された半導体ウェハーの表面にフラッシュランプからフラッシュ光を照射すれば、当該半導体ウェハーの表面を極短時間だけ活性化温度にまで昇温することができ、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
このようなキセノンフラッシュランプを使用した熱処理装置として、特許文献1,2には、半導体ウェハーの表面側にフラッシュランプ等のパルス発光ランプを配置し、裏面側にハロゲンランプ等の連続点灯ランプを配置し、それらの組み合わせによって所望の熱処理を行うものが開示されている。特許文献1,2に開示の熱処理装置においては、ハロゲンランプ等によって半導体ウェハーをある程度の温度まで予備加熱し、その後フラッシュランプからのパルス加熱によって所望の処理温度にまで昇温している。
【0006】
特許文献1,2に開示されるようなハロゲンランプにて予備加熱を行う場合には、比較的高い予備加熱温度にまで半導体ウェハーを短時間で昇温することができるというプロセス上のメリットが得られるものの、ウェハー周縁部の温度が中心部よりも低くなる問題が生じやすい。このような温度分布の不均一が生じる原因としては、半導体ウェハーの周縁部からの熱放射、或いは半導体ウェハーの周縁部から比較的低温の石英サセプタへの熱伝導などが考えられる。そこで、このような問題を解決するために、特許文献3には、半透明な素材にて形成された円筒形状のルーバーをハロゲンランプと半導体ウェハーとの間に設置して予備加熱時の面内温度分布を均一にすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭60-258928号公報
【文献】特表2005-527972号公報
【文献】特開2012-174879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に提案されるような技術を用いたとしても、ハロゲンランプから光照射を行ったときの半導体ウェハーの面内温度分布を十分に均一にすることは困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、基板の面内温度分布の均一性を高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、光照射によって加熱される基板を支持するサセプタの製造方法において、前記サセプタの下方から前記サセプタに支持された前記基板に光を照射したときに前記基板に生じる温度分布を取得する温度分布取得工程と、前記温度分布において所定温度以上となる前記基板の高温領域に対向する前記サセプタの表面の一部領域を粗面とする粗面化加工工程と、を備え、前記温度分布取得工程と前記粗面化加工工程とを複数回繰り返すことを特徴とする。
【0012】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係るサセプタの製造方法において、前記基板の前記高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向する前記サセプタの部位の表面粗さを粗くすることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明に係るサセプタの製造方法において、前記サセプタの下面を粗面とすることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4の発明は、光照射によって加熱される基板を支持するサセプタにおいて、前記サセプタの下方から前記サセプタに支持された前記基板に光を照射したときに前記基板に生じる温度分布において所定温度以上となる前記基板の高温領域に対向する前記サセプタの表面の一部領域に粗面が形成され、前記基板の前記高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向する前記サセプタの部位の表面粗さが粗くなり、前記部位の透過率が低下することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5の発明は、請求項4の発明に係るサセプタにおいて、前記サセプタの下面に粗面が形成されることを特徴とする。
【0017】
また、請求項6の発明は、基板に光を照射することによって該基板を加熱する熱処理装置において、前記基板を収容するチャンバーと、前記チャンバー内に設けられて前記基板を支持する請求項4または請求項5に記載のサセプタと、前記サセプタの下方より光を照射して前記基板を加熱する連続点灯ランプと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1から請求項3の発明によれば、サセプタの下方からサセプタに支持された基板に光を照射したときに基板に生じる温度分布を取得し、その温度分布において所定温度以上となる基板の高温領域に対向するサセプタの表面の一部領域を粗面とするため、基板の高温領域の照度が低下し、基板の面内温度分布の均一性を高めることができる。
【0019】
特に、請求項2の発明によれば、基板の高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向するサセプタの部位の表面粗さを粗くするため、より高い精度にて基板の面内温度分布の均一性を高めることができる。
【0020】
請求項4から請求項6の発明によれば、サセプタの下方からサセプタに支持された基板に光を照射したときに基板に生じる温度分布において所定温度以上となる基板の高温領域に対向するサセプタの表面の一部領域に粗面が形成されるため、基板の高温領域の照度が低下し、基板の面内温度分布の均一性を高めることができる。また、基板の高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向するサセプタの部位の表面粗さが粗くなって透過率が低下するため、より高い精度にて基板の面内温度分布の均一性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【
図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
【
図8】半導体ウェハーに生じた面内温度分布の一例を示す図である。
【
図9】
図10での粗面化加工の効果を示す図である。
【
図10】一部領域に粗面化加工が施されたサセプタの平面図である。
【
図11】
図10に示すサセプタに支持した半導体ウェハーに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
【
図13】一部領域に粗面化加工が施されたサセプタの平面図である。
【
図14】
図13に示すサセプタに支持した半導体ウェハーに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
【
図16】一部領域に粗面化加工が施されたサセプタの平面図である。
【
図17】
図16に示すサセプタに支持した半導体ウェハーに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
【
図19】一部領域に粗面化加工が施されたサセプタの平面図である。
【
図20】
図19に示すサセプタに支持した半導体ウェハーに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。
図1の熱処理装置1は、基板として円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。処理対象となる半導体ウェハーWのサイズは特に限定されるものではないが、例えばφ300mmやφ450mmである。なお、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0025】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0026】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0027】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0028】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。
【0029】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0030】
さらに、チャンバー側部61には、貫通孔61aが穿設されている。チャンバー側部61の外壁面の貫通孔61aが設けられている部位には放射温度計20が取り付けられている。貫通孔61aは、後述するサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの下面から放射された赤外光を放射温度計20に導くための円筒状の孔である。貫通孔61aは、その貫通方向の軸がサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの主面と交わるように、水平方向に対して傾斜して設けられている。よって、放射温度計20はサセプタ74の斜め下方に設けられることとなる。貫通孔61aの熱処理空間65に臨む側の端部には、放射温度計20が測定可能な波長領域の赤外光を透過させるフッ化バリウム材料からなる透明窓21が装着されている。
【0031】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガスを供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は処理ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、処理ガス供給源85から緩衝空間82に処理ガスが送給される。緩衝空間82に流入した処理ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。処理ガスとしては、例えば窒素(N2)等の不活性ガス、または、水素(H2)、アンモニア(NH3)等の反応性ガス、或いはそれらを混合した混合ガスを用いることができる(本実施形態では窒素ガス)。
【0032】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、処理ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0033】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。保持部7は、基台リング71、連結部72およびサセプタ74を備えて構成される。基台リング71、連結部72およびサセプタ74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0034】
基台リング71は円環形状から一部が欠落した円弧形状の石英部材である。この欠落部分は、後述する移載機構10の移載アーム11と基台リング71との干渉を防ぐために設けられている。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(
図1参照)。基台リング71の上面に、その円環形状の周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。
【0035】
サセプタ74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。
図3は、サセプタ74の平面図である。また、
図4は、サセプタ74の断面図である。サセプタ74は、保持プレート75、ガイドリング76および複数の基板支持ピン77を備える。保持プレート75は、石英にて形成された略円形の平板状部材である。保持プレート75の直径は半導体ウェハーWの直径よりも大きい。すなわち、保持プレート75は、半導体ウェハーWよりも大きな平面サイズを有する。
【0036】
保持プレート75の上面周縁部にガイドリング76が設置されている。ガイドリング76は、半導体ウェハーWの直径よりも大きな内径を有する円環形状の部材である。例えば、半導体ウェハーWの直径がφ300mmの場合、ガイドリング76の内径はφ320mmである。ガイドリング76の内周は、保持プレート75から上方に向けて広くなるようなテーパ面とされている。ガイドリング76は、保持プレート75と同様の石英にて形成される。ガイドリング76は、保持プレート75の上面に溶着するようにしても良いし、別途加工したピンなどによって保持プレート75に固定するようにしても良い。或いは、保持プレート75とガイドリング76とを一体の部材として加工するようにしても良い。
【0037】
保持プレート75の上面のうちガイドリング76よりも内側の領域が半導体ウェハーWを保持する平面状の保持面75aとされる。保持プレート75の保持面75aには、複数の基板支持ピン77が立設されている。本実施形態においては、保持面75aの外周円(ガイドリング76の内周円)と同心円の周上に沿って30°毎に計12個の基板支持ピン77が立設されている。12個の基板支持ピン77を配置した円の径(対向する基板支持ピン77間の距離)は半導体ウェハーWの径よりも小さく、半導体ウェハーWの径がφ300mmであればφ270mm~φ280mm(本実施形態ではφ270mm)である。それぞれの基板支持ピン77は石英にて形成されている。複数の基板支持ピン77は、保持プレート75の上面に溶接によって設けるようにしても良いし、保持プレート75と一体に加工するようにしても良い。
【0038】
図2に戻り、基台リング71に立設された4個の連結部72とサセプタ74の保持プレート75の周縁部とが溶接によって固着される。すなわち、サセプタ74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されている。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、サセプタ74の保持プレート75は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。すなわち、保持プレート75の保持面75aは水平面となる。
【0039】
チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7のサセプタ74の上に水平姿勢にて載置されて保持される。このとき、半導体ウェハーWは保持プレート75上に立設された12個の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。より厳密には、12個の基板支持ピン77の上端部が半導体ウェハーWの下面に接触して当該半導体ウェハーWを支持する。12個の基板支持ピン77の高さ(基板支持ピン77の上端から保持プレート75の保持面75aまでの距離)は均一であるため、12個の基板支持ピン77によって半導体ウェハーWを水平姿勢に支持することができる。
【0040】
また、半導体ウェハーWは複数の基板支持ピン77によって保持プレート75の保持面75aから所定の間隔を隔てて支持されることとなる。基板支持ピン77の高さよりもガイドリング76の厚さの方が大きい。従って、複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの水平方向の位置ずれはガイドリング76によって防止される。
【0041】
また、
図2および
図3に示すように、サセプタ74の保持プレート75には、上下に貫通して開口部78が形成されている。開口部78は、放射温度計20が半導体ウェハーWの下面から放射される放射光(赤外光)を受光するために設けられている。すなわち、放射温度計20が開口部78およびチャンバー側部61の貫通孔61aに装着された透明窓21を介して半導体ウェハーWの下面から放射された光を受光して当該半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、サセプタ74の保持プレート75には、後述する移載機構10のリフトピン12が半導体ウェハーWの受け渡しのために貫通する4個の貫通孔79が穿設されている。なお、本実施形態においては、サセプタ74の保持プレート75の下面の一部領域に粗面化加工を施して透過率を低下させているが、これについてはさらに後述する。
【0042】
図5は、移載機構10の平面図である。また、
図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。移載アーム11およびリフトピン12は石英にて形成されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(
図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(
図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0043】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12がサセプタ74に穿設された貫通孔79(
図2,3参照)を通過し、リフトピン12の上端がサセプタ74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を貫通孔79から抜き取り、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0044】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0045】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。複数のフラッシュランプFLが配列される領域は半導体ウェハーWの平面サイズよりも大きい。
【0046】
キセノンフラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部にコンデンサーに接続された陽極および陰極が配設された円筒形状のガラス管(放電管)と、該ガラス管の外周面上に付設されたトリガー電極とを備える。キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、コンデンサーに電荷が蓄積されていたとしても通常の状態ではガラス管内に電気は流れない。しかしながら、トリガー電極に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には、コンデンサーに蓄えられた電気がガラス管内に瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。このようなキセノンフラッシュランプFLにおいては、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが0.1ミリセカンドないし100ミリセカンドという極めて短い光パルスに変換されることから、ハロゲンランプHLの如き連続点灯の光源に比べて極めて強い光を照射し得るという特徴を有する。すなわち、フラッシュランプFLは、1秒未満の極めて短い時間で瞬間的に発光するパルス発光ランプである。なお、フラッシュランプFLの発光時間は、フラッシュランプFLに電力供給を行うランプ電源のコイル定数によって調整することができる。
【0047】
また、リフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されている。
【0048】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4は、筐体41の内側に複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLを内蔵している。ハロゲン加熱部4は、複数のハロゲンランプHLによってチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行って半導体ウェハーWを加熱する。
【0049】
図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。40本のハロゲンランプHLは上下2段に分けて配置されている。保持部7に近い上段に20本のハロゲンランプHLが配設されるとともに、上段よりも保持部7から遠い下段にも20本のハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0050】
また、
図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0051】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向と下段に配置された20本のハロゲンランプHLの長手方向とが互いに直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0052】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。すなわち、ハロゲンランプHLは少なくとも1秒以上連続して発光する連続点灯ランプである。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0053】
また、ハロゲン加熱部4の筐体41内にも、2段のハロゲンランプHLの下側にリフレクタ43が設けられている(
図1)。リフレクタ43は、複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射する。
【0054】
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行う回路であるCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えている。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。
【0055】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0056】
次に、熱処理装置1における処理動作について説明する。ここでは、製品となる通常の半導体ウェハー(プロダクトウェハー)Wに対する典型的な熱処理動作について説明する。以下に説明する半導体ウェハーWの処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0057】
まず、半導体ウェハーWの処理に先立って給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0058】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される。このときには、半導体ウェハーWの搬入にともなって装置外部の雰囲気を巻き込むおそれがあるが、チャンバー6には窒素ガスが供給され続けているため、搬送開口部66から窒素ガスが流出して、そのような外部雰囲気の巻き込みを最小限に抑制することができる。
【0059】
搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が貫通孔79を通ってサセプタ74の保持プレート75の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。このとき、リフトピン12は基板支持ピン77の上端よりも上方にまで上昇する。
【0060】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7のサセプタ74に受け渡されて水平姿勢にて下方より保持される。半導体ウェハーWは、保持プレート75上に立設された複数の基板支持ピン77によって支持されてサセプタ74に保持される。また、半導体ウェハーWは、パターン形成のなされた表面を上面として保持部7に保持される。複数の基板支持ピン77によって支持された半導体ウェハーWの裏面(表面とは反対側の主面)と保持プレート75の保持面75aとの間には所定の間隔が形成される。サセプタ74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0061】
半導体ウェハーWが石英にて形成された保持部7のサセプタ74によって水平姿勢にて下方より保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64およびサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの下面に照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが予備加熱されて温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0062】
ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定される。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、放射温度計20による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御する。
【0063】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、放射温度計20によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を調整し、半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0064】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時点でフラッシュ加熱部5のフラッシュランプFLがサセプタ74に保持された半導体ウェハーWの表面にフラッシュ光照射を行う。このとき、フラッシュランプFLから放射されるフラッシュ光の一部は直接にチャンバー6内へと向かい、他の一部は一旦リフレクタ52により反射されてからチャンバー6内へと向かい、これらのフラッシュ光の照射により半導体ウェハーWのフラッシュ加熱が行われる。
【0065】
フラッシュ加熱は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光(閃光)照射により行われるため、半導体ウェハーWの表面温度を短時間で上昇することができる。すなわち、フラッシュランプFLから照射されるフラッシュ光は、予めコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが極めて短い光パルスに変換された、照射時間が0.1ミリセカンド以上100ミリセカンド以下程度の極めて短く強い閃光である。そして、フラッシュランプFLからのフラッシュ光照射によりフラッシュ加熱される半導体ウェハーWの表面温度は、瞬間的に1000℃以上の処理温度T2まで上昇した後、急速に下降する。
【0066】
フラッシュ加熱処理が終了した後、所定時間経過後にハロゲンランプHLが消灯する。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1から急速に降温する。降温中の半導体ウェハーWの温度は放射温度計20によって測定され、その測定結果は制御部3に伝達される。制御部3は、放射温度計20の測定結果より半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12がサセプタ74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWをサセプタ74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットによりチャンバー6から搬出され、半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0067】
光照射によって加熱される半導体ウェハーWを支持するサセプタ74の下面(厳密にはサセプタ74の保持プレート75の下面)の一部領域には粗面化加工が施されている。以下、サセプタ74に対する粗面化加工の手順について説明する。
【0068】
まず、粗面化加工が全く施されていないサセプタ74に半導体ウェハーWを支持した状態でハロゲンランプHLから光照射を行ったときに半導体ウェハーWに生じる面内温度分布を求める。ハロゲンランプHLは上面に半導体ウェハーWを支持するサセプタ74の下方から光照射を行う。ハロゲンランプHLから出射された光は石英のサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの裏面に照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWが加熱されて昇温するのであるが、このときに半導体ウェハーWに面内温度分布が生じる。そして、その半導体ウェハーWに生じた面内温度分布を取得するのである。面内温度分布は、実際にサセプタ74に支持した半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光照射を行って求めるようにしても良いし、シミュレーションによって取得するようにしても良い(以降の面内温度分布の取得も同様である)。
【0069】
図8は、半導体ウェハーWに生じた面内温度分布の一例を示す図である。同図の横軸には、直径φ300mmの半導体ウェハーWの径方向に沿ったウェハー中心からの距離を示している。同図の縦軸には、熱処理の結果として得られる半導体ウェハーWのシート抵抗値を示している(
図11,14,17,20において同じ)。シート抵抗値が小さくなるほど、半導体ウェハーWが高温に加熱されていたことを示している。すなわち、
図8では、下側ほど半導体ウェハーWが高温である。
【0070】
図8に示すように、粗面化加工が全く施されていないサセプタ74に支持した半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光照射を行ったときには、半導体ウェハーWの中心部近傍が高温に加熱される一方で周縁部は比較的低温となる傾向が認められる。すなわち、半導体ウェハーWに生じる面内温度分布は均一であるとは言えない。
【0071】
図8に示す温度分布では、半導体ウェハーWの中心部近傍が所定温度以上の高温に加熱されているため、
図10に示すように、半導体ウェハーWの中心部に対向するサセプタ74の下面の中心部領域91に粗面化加工を施す。すなわち、
図8の温度分布において所定温度以上となる半導体ウェハーWの高温領域に対向するサセプタ74の表面の一部領域を粗面とするのである。粗面化加工は、例えばサンドブラスト処理によって行うようにすれば良い。サセプタ74の下面の中心部領域91が粗面とされることにより、その中心部領域91の光の透過率が他の領域の透過率よりも低くなる。なお、
図10は、サセプタ74を下方から見た平面図であるが、開口部78および貫通孔79については図示を省略している(
図13,16,19において同じ)。
【0072】
図9は、
図10での粗面化加工の効果を示す図である。同図の横軸には、直径φ300mmの半導体ウェハーWの径方向に沿ったウェハー中心からの距離を示している。同図の縦軸には、シート抵抗値増加量を示している(
図12,15,18において同じ)。サセプタ74の下面の中心部領域91が粗面とされることにより、ハロゲンランプHLから光照射を行ったときに、半導体ウェハーWの中心部近傍に到達する光の光量が低下し、当該中心部近傍の温度が低下する(つまり、シート抵抗値は増加する)。シート抵抗値の増加量は、粗面とされる中心部領域91の大きさおよび粗さによって
調整可能である。
【0073】
次に、
図10に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に半導体ウェハーWを支持した状態でハロゲンランプHLから光照射を行ったときに半導体ウェハーWに生じる面内温度分布を求める。ハロゲンランプHLから出射された光はサセプタ74を透過して半導体ウェハーWの裏面に照射されるのであるが、中心部領域91の透過率が低くなっているため、半導体ウェハーWの中心部近傍の照度が低下して当該中心部近傍の温度が相対的に低くなる。
【0074】
図11は、
図10に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に支持した半導体ウェハーWに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
図11に示すように、中心部領域91が粗面とされたサセプタ74に支持した半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光照射を行ったときには、
図8に比較して半導体ウェハーWの中心近傍の温度が低下している。すなわち、
図11の面内温度分布は、概ね
図8の面内温度分布に
図9が合成されたものである。
【0075】
図13に示すように、
図11の温度分布において所定温度以上となる半導体ウェハーWの高温領域に対向するサセプタ74の下面の領域92に粗面化加工を施す。領域92は中心部領域91を取り囲むような円環状の領域である。
図13においては、サセプタ74の下面の中心部領域91およびそれを取り囲む領域92が粗面とされている。
【0076】
図12は、
図13での新たな粗面化加工の効果(領域92による効果)を示す図である。サセプタ74の下面の領域92が粗面とされることにより、ハロゲンランプHLから光照射を行ったときに、領域92に対向する半導体ウェハーWの部位の温度が低下する。その温度の低下量は、粗面とされる領域92の幅および粗さによって調整可能である。
【0077】
次に、
図13に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に半導体ウェハーWを支持した状態でハロゲンランプHLから光照射を行ったときに半導体ウェハーWに生じる面内温度分布を求める。
図14は、
図13に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に支持した半導体ウェハーWに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
図14に示すように、中心部領域91および領域92が粗面とされたサセプタ74に支持された半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光照射を行ったときには、それら中心部領域91および領域92に対向する半導体ウェハーWの部位の温度が相対的に低下している。
図14の面内温度分布は、概ね
図11の面内温度分布に
図12が合成されたものである。
【0078】
図16に示すように、
図14の温度分布において所定温度以上となる半導体ウェハーWの高温領域に対向するサセプタ74の下面の領域93に粗面化加工を施す。領域93は領域92をさらに取り囲むような円環状の領域である。
図16においては、サセプタ74の下面の中心部領域91、領域92および領域93が粗面とされている。
【0079】
図15は、
図16での新たな粗面化加工の効果(領域93による効果)を示す図である。サセプタ74の下面の領域93が粗面とされることにより、ハロゲンランプHLから光照射を行ったときに、領域93に対向する半導体ウェハーWの部位の温度が低下する。その温度の低下量は、粗面とされる領域93の幅および粗さによって調整可能である。
【0080】
同様に、
図16に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に半導体ウェハーWを支持した状態でハロゲンランプHLから光照射を行ったときに半導体ウェハーWに生じる面内温度分布を求める。
図17は、
図16に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に支持した半導体ウェハーWに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
図17に示すように、中心部領域91、領域92および領域93が粗面とされたサセプタ74に支持された半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光照射を行ったときには、それら中心部領域91、領域92および領域93に対向する半導体ウェハーWの部位の温度が相対的に低下している。
図17の面内温度分布は、概ね
図14の面内温度分布に
図15が合成されたものである。
【0081】
図17に示す温度分布では、半導体ウェハーWの周縁部近傍が所定温度以上の高温に加熱されているため、
図19に示すように、半導体ウェハーWの周縁部に対向するサセプタ74の下面の周縁部領域94に粗面化加工を施す。すなわち、
図17の温度分布において所定温度以上となる半導体ウェハーWの高温領域に対向するサセプタ74の下面の周縁部領域94に粗面化加工を施す。周縁部領域94は、半導体ウェハーWの周縁部に対向する円環状の領域である。
図19においては、サセプタ74の下面の中心部領域91、領域92、領域93および周縁部領域94が粗面とされている。
【0082】
図18は、
図19での新たな粗面化加工の効果(周縁部領域94による効果)を示す図である。サセプタ74の下面の周縁部領域94が粗面とされることにより、ハロゲンランプHLから光照射を行ったときに、周縁部領域94に対向する半導体ウェハーWの周縁部の温度が低下する。その温度の低下量は、粗面とされる周縁部領域94の幅および粗さによって調整可能である。
【0083】
図20は、
図19に示すような粗面化加工が施されたサセプタ74に半導体ウェハーWを支持した状態でハロゲンランプHLから光照射を行ったときに半導体ウェハーWに生じる面内温度分布の一例を示す図である。
図20に示すように、中心部領域91、領域92、領域93および周縁部領域94が粗面とされたサセプタ74に支持された半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光照射を行ったときには、それら中心部領域91、領域92、領域93および周縁部領域94に対向する半導体ウェハーWの部位の温度が相対的に低下している。
図20の面内温度分布は、概ね
図17の面内温度分布に
図18が合成されたものである。
【0084】
図8と
図20とを比較すれば明らかなように、
図19に示すような粗面の領域が形成されたサセプタ74に半導体ウェハーWを支持してハロゲンランプHLから光照射を行うと、半導体ウェハーWに生じる面内温度分布が顕著に均一となる。その結果、ハロゲンランプHLによる予備加熱時には半導体ウェハーWの面内温度分布が均一となり、その後に良好なフラッシュ加熱処理を行うことが可能となる。
【0085】
本実施形態においては、サセプタ74に支持された半導体ウェハーWにハロゲンランプHLから光を照射したときに半導体ウェハーWに生じる面内温度分布を取得する工程と、その面内温度分布において所定温度以上となる半導体ウェハーWの高温領域に対向するサセプタ74の表面の一部領域を粗面とする工程と、を複数回繰り返している。これにより、
図19に示すように、サセプタ74の下面には複数の粗面領域が形成される。そして、
図19に示すようなサセプタ74に半導体ウェハーWを支持してハロゲンランプHLから光照射を行うことにより、半導体ウェハーWの高温領域の照度が低下し、半導体ウェハーWの面内温度分布の均一性を高めることができる。
【0086】
半導体ウェハーWとハロゲンランプHLとの間に存在する他の石英部材、例えば下側チャンバー窓64に粗面領域を設けたとしても同様の効果が期待できるが、半導体ウェハーWとの距離がより短いサセプタ74に粗面領域を設けるようにした方がより高い精度にて半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることができる。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、サセプタ74に支持された半導体ウェハーWの温度分布を取得する工程と、その温度分布に基づいてサセプタ74の一部領域に粗面化加工を施す工程とを4回繰り返していたが、これに限定されるものではない。両工程を繰り返す回数は、4回より多くても良いし、4回未満であっても良く、少なくとも1回以上であれば良い。両工程を繰り返す回数が多くなるほど、ハロゲンランプHLから光を照射したときの半導体ウェハーWの面内温度分布の均一性を高めることができるものの、作業が繁雑になる。
【0088】
また、半導体ウェハーWに生じる面内温度分布における温度の高さに応じて粗面の粗さを異ならせるようにしても良い。具体的には、半導体ウェハーWの高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向するサセプタ74の部位の表面粗さを粗くすれば良い。このようにすれば、半導体ウェハーWの高温領域における温度が高くなるほど、その温度が高くなる位置に対向するサセプタ74の部位の透過率が低くなり、半導体ウェハーWの当該位置における温度がより大きく低下することとなる。その結果、より高い精度にて半導体ウェハーWの面内温度分布の均一性を高めることができる。
【0089】
また、上記実施形態においては、サセプタ74の下面に粗面化加工を施していたが、これに代えてサセプタ74の上面に粗面化加工を施すようにしても良い。サセプタ74の上面を粗面にしたとしても、上記実施形態と同様の作用効果により、半導体ウェハーWの面内温度分布の均一性を高めることができる。但し、サセプタ74の上面を粗面とすると支持した半導体ウェハーWと粗面とが擦れてパーティクルが発生するおそれがあるため、上記実施形態のようにサセプタ74の下面を粗面とするのが好ましい。
【0090】
また、サセプタ74の下面の周縁部領域94を粗面とするのに代えて、サセプタ74の上面の周縁部領域94に石英のリング状部材を設け、そのリング状部材によって半導体ウェハーWを支持するようにしても良い。これにより、周縁部領域94と対向する半導体ウェハーWの部位が石英のリング状部材によって冷却され、周縁部領域94を粗面とするのと同様の効果を得ることができる。
【0091】
また、上記実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0092】
また、上記実施形態においては、1秒以上連続して発光する連続点灯ランプとしてフィラメント方式のハロゲンランプHLを用いて半導体ウェハーWの予備加熱を行っていたが、これに限定されるものではなく、ハロゲンランプHLに代えて放電型のアークランプ(例えば、キセノンアークランプ)を連続点灯ランプとして用いて予備加熱を行うようにしても良い。
【0093】
また、熱処理装置1によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。
【符号の説明】
【0094】
1 熱処理装置
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
20 放射温度計
65 熱処理空間
74 サセプタ
75 保持プレート
78 開口部
77 基板支持ピン
91 中心部領域
92,93 領域
94 周縁部領域
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー