(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】回路基板
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20230926BHJP
B60R 16/03 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
H02M3/155 K
B60R16/03 S
(21)【出願番号】P 2019214307
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】300052246
【氏名又は名称】ニデックエレシス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】松下 大貴
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 優作
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088776(JP,A)
【文献】特開2014-186795(JP,A)
【文献】特開平06-229312(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0060170(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
B60R 16/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリより供給された電源の電圧を昇圧する昇圧部と、
前記昇圧部に対して昇圧許可指示または昇圧禁止指示の制御信号を出力し、あるいは前記昇圧部における前記制御信号の入力端子の電圧レベルを検出する制御部と、
前記バッテリの出力電圧あるいは前記昇圧部による昇圧後の電圧を所定電圧に変換し、該所定電圧を少なくとも前記制御部に供給する電源生成部と、
を備え、
前記制御部は、前記検出した電圧レベルに基づいて前記昇圧部が故障状態にあるか否かを診断し、故障状態にない場合、前記昇圧部に対して昇圧許可指示信号を出力する回路基板。
【請求項2】
前記制御部は、該制御部の単一の信号端子より前記入力端子へ前記制御信号を出力する動作と、前記単一の信号端子を使用して前記入力端子の前記電圧レベルを入力する動作とを切り替える請求項1に記載の回路基板。
【請求項3】
前記制御部は、前記昇圧部の前記入力端子の電圧レベルが前記昇圧許可指示を示す信号レベルに固着状態となっている場合、該昇圧部が故障状態にあると診断する請求項2に記載の回路基板。
【請求項4】
前記バッテリから前記昇圧部をバイパスして前記電源生成部に至る迂回経路をさらに備える請求項1に記載の回路基板。
【請求項5】
前記バッテリの出力電圧が所定値よりも高い場合、前記迂回経路を介して供給された該バッテリの出力電圧を前記電源生成部によって所定電圧に変換し、前記バッテリの出力電圧が所定値以下の場合、前記昇圧部で昇圧後の電圧を前記電源生成部によって所定電圧に変換する請求項
4に記載の回路基板。
【請求項6】
前記バッテリの出力電圧、あるいは前記昇圧後の電圧を前記昇圧部の動作電源電圧とする請求項1~5のいずれか1項に記載の回路基板
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の回路基板を備えた車両の電子制御装置。
【請求項8】
前記車両は、自動ブレーキ機能を備えたガソリン車である請求項7に記載の車両の電子制御装置。
【請求項9】
バッテリより供給された電源の電圧を昇圧する昇圧部の故障診断方法であって、
前記昇圧部に対する昇圧許可前の所定期間において昇圧許可指示の入力端子が所定の信号レベルに固着状態にあるか否かを判断する判断工程と、
前記判断工程において前記入力端子が昇圧許可の信号レベルに固着していないと判断された場合、該入力端子に昇圧許可指示信号を入力して昇圧を許可し、所定条件に応じて前記バッテリの出力電圧、あるいは前記昇圧部による昇圧後の電圧を所定電圧に変換する工程と、
前記判断工程において前記入力端子が昇圧許可の信号レベルに固着していると判断された場合、前記昇圧部が故障状態にあると診断する工程と、
を備える昇圧部の故障診断方法。
【請求項10】
前記所定条件には、前記バッテリの出力電圧が所定値よりも高い場合と、前記バッテリの出力電圧が所定値以下の場合とが含まれる請求項9に記載の昇圧部の故障診断方法。
【請求項11】
前記昇圧部は車両の制御装置に搭載されており、前記所定期間は該車両のイグニッション信号がONとなった後の一定期間である請求項9に記載の昇圧部の故障診断方法。
【請求項12】
前記昇圧部が故障状態にあるとする診断結果を通知する工程をさらに備える請求項9に記載の昇圧部の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、バッテリより供給された電源の電圧を昇圧する昇圧部を有する回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両(ガソリン車)には、燃料消費量の節減、排気による環境汚染の低減のためアイドルストップ機能が搭載されている。車両においてアイドルストップ機能が作動した後、エンジン再始動時におけるクランキングによる電力消費によってバッテリ電圧が低下し、電子制御ユニット(Electronic Control Unit: ECU)内の制御部(CPU)がリセットするという問題がある。
【0003】
バッテリ電圧の低下に対処するため、バッテリからの電源電圧を昇圧する技術として、例えば特許文献1は、スタータ信号が供給されているときにスイッチング信号に従ってスイッチングを行うことで、バッテリからの電源電圧を昇圧して電子制御回路に供給する昇圧回路を備えた制御装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の制御装置は、スタータ信号により昇圧回路が動作しており、制御部(CPU)が昇圧回路に対して昇圧の開始/停止を制御する構成をとっていない。そのため、何らかの原因で昇圧回路が動作し続けてしまった場合、暗電流が増加するという問題がある。また、昇圧回路の故障を検出する手段がないため、故障による暗電流によってバッテリ上がりが生じることをユーザ等に通知できないという問題がある。
【0006】
さらに特許文献1の制御装置の昇圧回路は、セルモータを起動する始動時にのみ昇圧動作を行い、始動後は昇圧を行わないので、バッテリの電圧低下が連続して生じている場合に対応できないという問題がある。
【0007】
自動ブレーキ機能を備える車両(ガソリン車)において、クランキングによりバッテリ電圧が所定値以下になると、ECU内のマイコンがリセットし、例えばその車両が坂道停車中の場合には、マイコンのリセットによりブレーキ力が弱まり、車両がずり下がってしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、バッテリ電圧が低下して、制御回路の動作電圧より低電圧状態になっても、制御回路の動作電源を確保可能な回路基板を提供することである。また、バッテリ電圧の昇圧回路の故障を容易に診断できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本願の例示的な第1の発明は、回路基板であって、バッテリより供給された電源の電圧を昇圧する昇圧部と、前記昇圧部に対して昇圧許可指示または昇圧禁止指示の制御信号を出力し、あるいは前記昇圧部における前記制御信号の入力端子の電圧レベルを検出する制御部と、前記バッテリの出力電圧あるいは前記昇圧部による昇圧後の電圧を所定電圧に変換し、該所定電圧を少なくとも前記制御部に供給する電源生成部とを備え、前記制御部は、前記検出した電圧レベルに基づいて前記昇圧部が故障状態にあるか否かを診断し、故障状態にない場合、前記昇圧部に対して昇圧許可指示信号を出力することを特徴とする。
【0010】
本願の例示的な第2の発明は、車両の制御装置であって、上記例示的な第1の発明に係る回路基板を備えたことを特徴とする。
【0011】
本願の例示的な第3の発明は、バッテリより供給された電源の電圧を昇圧する昇圧部の故障診断方法であって、前記昇圧部に対する昇圧許可前の所定期間において昇圧許可指示の入力端子が所定の信号レベルに固着状態にあるか否かを判断する判断工程と、前記判断工程において前記入力端子が昇圧許可の信号レベルに固着していないと判断された場合、該入力端子に昇圧許可指示信号を入力して昇圧を許可し、所定条件に応じて前記バッテリの出力電圧、あるいは前記昇圧部による昇圧後の電圧を所定電圧に変換する工程と、前記判断工程において前記入力端子が昇圧許可の信号レベルに固着していると判断された場合、前記昇圧部が故障状態にあると診断する工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バッテリ電圧が電圧低下によって制御回路の動作電圧より低電圧状態になっても制御回路の動作電源を確保できる。また、制御部の出力端子を入力端子に切り替えて昇圧回路の入力信号レベルを検知することで、昇圧回路の入力端子の固着故障を迅速かつ簡単に診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る電子制御装置の詳細構成を示す図である。
【
図2】
図2は、電子制御装置の昇圧回路の入出力特性の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、昇圧回路における昇圧制御動作の一例を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、電子制御装置における昇圧部の故障診断の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施形態に係る電子制御装置を搭載した車両の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電子制御装置の詳細構成である。
図1に示す電子制御装置10は、例えば、ガソリン車においてブレーキ制御等を行う電子制御ユニット(Electronic Control Unit: ECU)に搭載される。
【0015】
制御部(CPU)1は、昇圧回路3を含む電子制御装置10全体の制御を司る、例えばマイクロプロセッサである。車両に搭載された電子制御装置10は、外部バッテリBATTより供給されたバッテリ電圧(+B)が所定の電圧値以下に低下した場合、制御部(CPU)1により昇圧動作を許可された昇圧回路3が作動して、低下した入力電圧を所定の電圧に昇圧する。
【0016】
昇圧回路3は、昇圧型のDCDCコンバータであり、外部バッテリBATTと、ECUの制御回路の動作電源を生成する制御部用電源生成部(VCC)5および各種センサの動作電源を生成するセンサ用電源生成部(SVCC)7との間に配置されている。
【0017】
具体的には、昇圧回路3を構成する昇圧制御部(昇圧制御IC)8は、外付けされた半導体スイッチング素子(FET)6をスイッチング制御することで、外部バッテリBATTより供給された電圧を昇圧し、昇圧後の電圧を制御部用電源生成部5とセンサ用電源生成部7に供給する。
【0018】
スイッチング素子(FET)6として、例えば、MOSFET(Metal-Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)を使用する。大容量、かつ高耐圧が必要な場合には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)をスイッチング素子6として使用する。
【0019】
スイッチング素子6は、
図1に示す例では昇圧制御IC8の外部に接続した構成としているが、昇圧制御IC8に内蔵した構成としてもよい。
【0020】
制御部用電源生成部5は、昇圧回路3より入力された電圧を、例えば、ロジックレベルの電圧(5V)に変換して、それをECUの制御回路に供給する。また、制御部用電源生成部5で生成された電源は、制御部(CPU)1の動作電源となる。センサ用電源生成部7で生成された電源は、例えば、液圧センサ、ホール(角度)センサ、ペダルストロークセンサ等のセンサ(不図示)の動作電源となる。
【0021】
さらに、外部バッテリBATTの出力電圧、あるいは昇圧回路3で昇圧後の電圧を、昇圧回路3の動作電源電圧としているので、昇圧回路3の動作用電源を別途設ける必要がない。そのため、電子制御装置10の回路構成が簡単になる。
【0022】
外部バッテリBATTと昇圧回路3との間には、逆接保護用のダイオードD1が配置されている。コンデンサC1は、外部バッテリBATTからの供給電源に含まれるノイズ等を吸収して、電源電圧を平滑する。
【0023】
昇圧回路3において、昇圧制御IC8の制御によりスイッチング素子6がON状態になると、その一端が外部バッテリBATTに接続されたインダクタL1に対して、昇圧回路3の入力端子3aから流入する電流が線形に増加する。このとき、ダイオード(還流ダイオード、昇圧フライバックダイオードともいう)D2は逆止状態になり、昇圧回路3の出力端子3bからの逆流を防止する。
【0024】
一方、スイッチング素子6がOFF状態になると、インダクタL1は、スイッチング素子6がONのときに蓄えていた電流エネルギーにより電流を流し続けようとする。その結果、ダイオードD2が導通して還流が発生し、負荷である制御部用電源生成部5とセンサ用電源生成部7に電流が供給される。外部バッテリBATTより供給された電力は、インダクタL1からコンデンサC2へ移動するので、インダクタL1の電流値が減少する。
【0025】
なお、昇圧回路3の出力端子に接続されたコンデンサC3は、出力電圧の平滑用コンデンサである。
【0026】
昇圧制御IC8は、その出力電圧を抵抗R1,R2で分圧し、その分圧電圧をフィードバック端子(FB)に入力することで、分圧電圧が所定電圧(基準電圧)値以下になった場合、スイッチング素子6のゲート端子にスイッチング信号を入力して、その基準電圧を維持するようにスイッチング素子6をON/OFF制御する。
【0027】
後述するように、電子制御ユニット(ECU)が起動されると、制御部(CPU)1は、その出力端子11より、昇圧制御IC8の入力端子(RUN端子)18に昇圧許可指示信号(昇圧開始信号)BOOSTENを出力する。さらに、制御部(CPU)1は、その出力端子11を、出力端子(出力モード)から入力端子(入力モード)に切り替えることで、昇圧制御IC8の入力端子18の固着故障(例えば、論理“High”レベルでのHigh固着故障)を検知する。
【0028】
図2は、昇圧回路3の入出力特性の一例である。
図2の横軸は入力電圧、縦軸は出力電圧である。
図2に示すように、ECUの起動後、外部バッテリBATTの出力端子電圧(+B)が、例えば3Vまで低下した場合、昇圧回路3による昇圧動作によって、昇圧回路3の出力電圧Voutが6.2Vに維持される。
【0029】
一方、外部バッテリBATTの出力端子電圧(+B)が所定電圧まで低下しておらず、+Bが、昇圧回路3の出力電圧Voutが6.2V以上となる電圧の場合には、バッテリ端子電圧(~40V)がそのまま昇圧回路3の出力電圧Voutとして、スルー出力される(+B≒Vout)。なお、上記の出力電圧Vout(6.2V)は、抵抗R1,R2の分圧比で決定する。
【0030】
すなわち、外部バッテリBATTに電圧低下がない場合、外部バッテリBATTからインダクタL1、ダイオードD2を介して電源生成部に至る、昇圧制御IC8をバイパスする迂回経路によって、制御部用電源生成部5とセンサ用電源生成部7にバッテリ電圧が供給される。
【0031】
次に、本実施形態に係る電子制御装置の昇圧回路における昇圧制御動作について説明する。
図3は、昇圧回路における昇圧制御動作の一例を示すタイミングチャートである。
【0032】
図1に示すイグニッションスイッチ(IG-SW)4は、その一端がバッテリBATTに接続され、他端はIG電圧検出部9に接続されている。IG電圧検出部9は、イグニッション(IG)電圧値をAD変換し、それをデジタルのIG電圧値として制御部(CPU)1に入力する。
【0033】
例えば、
図3に示す時刻t0で車両のIG-SW(イグニッションスイッチ)4がON(IG起動)になると、制御部(CPU)1は、その出力端子11を入力端子に切り替え、時刻t1となるまで入力モードを維持する。つまり、制御部(CPU)1は、時刻t0~t1の期間Tを、昇圧制御IC8の入力端子18の固着故障の診断タイミングとする。
【0034】
昇圧制御IC8の入力端子18は、例えばICの内部で抵抗によりプルダウンされている。したがって、昇圧許可指示信号が入力されていないときには、入力端子18の電圧レベルは論理Lowとなる。よって、制御部(CPU)1は、上記の診断タイミングにおいて、昇圧制御IC8の入力端子18の電圧レベルとして論理Highを検知した場合、入力端子18がHigh固着故障していると診断する。
【0035】
一方、診断タイミングTにおいて、昇圧制御IC8の入力端子18の電圧レベルが論理Highではない場合(論理Low)、制御部(CPU)1は、入力端子18がHigh固着状態にはなく、正常であると診断する。そして、制御部(CPU)1は、時刻t1において、出力端子11を入力端子から出力端子に切り替えて、昇圧制御IC8の入力端子(RUN端子)18に昇圧許可指示信号BOOSTENとして論理Highを出力する。
【0036】
上述したように、昇圧制御IC8は、その出力電圧を抵抗R1,R2で分圧し、その分圧電圧をフィードバック端子(FB)に入力している。外部バッテリBATTの出力端子電圧(+B)が低下して、例えば時刻t2で、分圧電圧(
図3のFB端子電圧)がFB基準電圧(例えば、0.8V)以下になった場合、昇圧制御IC8は、既に時刻t1で、制御部(CPU)1より昇圧許可指示信号BOOSTENを受けているので、上記のFB基準電圧を維持するようにスイッチング素子6をON/OFF制御する。
【0037】
よって、昇圧制御IC8は、昇圧許可中であれば、外部バッテリBATTの出力端子電圧(+B)が低下しても昇圧動作によって、
図3の時刻t2~t3において、出力電圧Voutを、例えば6.2Vに維持する。これはVoutを、制御部用電源生成部(VCC)5およびセンサ用電源生成部(SVCC)7の動作保証可能な電圧とするためである。Voutは、外部バッテリBATTの出力電圧が逆接保護用のダイオードD1の順方向電圧Vfだけ降下した電圧である。
【0038】
なお、外部バッテリBATTの出力端子電圧(+B)が所定値まで低下する前(
図3の時刻t1~t2)、および電圧低下が昇圧によって解消された後(
図3の時刻t3以降)は、上述した迂回経路を介して、バッテリ端子電圧がそのまま出力電圧Voutとしてスルー出力される。これらの期間では、昇圧制御IC8はFB端子の電圧が基準電圧を超過していると判定して、スイッチング素子6のスイッチング動作を停止する。
【0039】
このように、昇圧回路3に対する昇圧許可前の所定期間(すなわち、IG-SW(イグニッションスイッチ)4によって車両の制御部(ECU)を起動後の特定の期間)を診断タイミングとして、昇圧回路3の昇圧指示信号の入力端子が固着状態にあるか否かを判断することで、入力端子の電圧レベルを常時、監視する煩雑さを回避できる。
【0040】
次に、上述した構成を有する本実施形態に係る電子制御装置の昇圧部における故障診断処理について説明する。
【0041】
図4は、電子制御装置における昇圧部の故障診断の処理手順を示すフローチャートである。電子制御装置10の制御部(CPU)1は、IG-SW(イグニッションスイッチ)4の操作によりIG起動されると、ステップS13において、制御部(CPU)1の出力端子11を出力端子(出力モード)から入力端子(入力モード)に切り替える。そして、ステップS15において、昇圧制御IC8の入力端子18の論理レベル(電圧レベル)が論理“High”か否かを判定する。
【0042】
制御部(CPU)1は、昇圧制御IC8の入力端子18の電圧レベルが論理“High”ではない場合、ステップS17において、入力端子18の論理レベル(電圧レベル)判定を所定回数(例えば、3回)以上行ったか否かを判断する。論理レベル(電圧レベル)判定が所定回数に達していないと判断した場合、ステップS15に戻って、昇圧制御IC8の入力端子18の電圧レベル判定を継続する。これにより、入力端子18の電圧レベルの誤判定を防止できる。
【0043】
上記の処理で、昇圧制御IC8の入力端子18の論理レベル(電圧レベル)が論理“High”ではない、あるいは論理“Low”であることが確定した場合、制御部(CPU)1は、ステップS19において、昇圧制御IC8が正常に動作している(固着故障状態にない)と診断して、出力端子11を入力端子(入力モード)から出力端子(出力モード)に切り替える。そして、制御部(CPU)1は、ステップS21において、昇圧制御IC8の入力端子(RUN端子)18に昇圧許可指示信号BOOSTENを出力する。
【0044】
一方、ステップS15において、昇圧制御IC8の入力端子18の論理レベル(電圧レベル)が論理“High”と検知された場合、制御部(CPU)1は、ステップS25において、昇圧制御IC8の入力端子18がHigh固着故障していると診断する。
【0045】
制御部(CPU)1は、続くステップS27において、昇圧制御IC8の入力端子18がHigh固着故障している旨をユーザ等に通知する。この通知は、昇圧制御IC8に対して昇圧許可指示をしていないにも拘わらず昇圧許可状態になっているHigh固着故障を放置した場合、IG-SWがOFFとなっても故障によって暗電流が多くなりバッテリ上がりとなることへの警告である。これによりユーザ等に暗電流抑制のための故障修理等の対処を促すことができる。ここでは、例えば、特定の表示器への可視表示、音声等による通知を行う。
【0046】
次に、本実施形態に係る電子制御装置を車両に搭載した場合の構成について説明する。車両が坂道で停車中のときにクランキングによりバッテリ電圧が低下して、ブレーキ制御に係るECU内のCPUがリセットするとブレーキ力が弱まり、車両がずり下がる恐れがある。例えば、クランキングによりバッテリ電圧が3V以下になり、車両の電子制御ユニットECU内のマイコンがリセットすると、自動ブレーキが作動中に運転者がブレーキペダルから足を離している場合には、坂道等において車両がずり下がる。
【0047】
そこで、制御部(CPU)等に電源を供給する電源回路(電源IC)の動作保証電圧以上となるようにバッテリ電圧を昇圧する昇圧回路を動作させることで、制御部(CPU)のリセットを防ぎ、坂道停車中の車両のずり下がりを防止できる。
【0048】
図5は、ブレーキ装置用の電子制御装置の例としての本実施形態に係る電子制御装置を搭載した車両の概略構成である。
図5において車両20は、例えば、自動ブレーキ機能を備えたガソリン車(アイドルストップ車両)である。自動ブレーキ機能は、運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作によらず、自動的に車両20の車輪33,35に制動力を付与する機能である。
【0049】
ブレーキ装置23は、車両20のブレーキペダルが操作されることで、電磁弁で構成されるブレーキアクチュエータ、ブレーキマスターシリンダ等に制御信号を送り、所定のブレーキ制動力を得ている。ブレーキ装置23は、上述した昇圧回路3を有する電子制御装置10を備えており、電子制御装置10よりブレーキ装置23の動作電源が供給される。
【0050】
車両20がアイドリングストップ状態から復帰する際、車両制御部31からの制御信号によりスタータモータ27が駆動され、クランキング動作が実行されてエンジン25が再始動する。
【0051】
クランキングによりバッテリ電圧が所定の電圧値以下に低下した場合、ブレーキ装置23に設けた電子制御装置10の昇圧制御ICは、外付けした半導体スイッチング素子をスイッチングして、外部バッテリより供給された電圧を昇圧する。昇圧後の電圧は、ブレーキ装置23等に供給される。その結果、ブレーキ装置23はブレーキ機能を維持できる。
【0052】
よって、クランキングによるバッテリの電圧低下があっても、車両のブレーキ装置に昇圧後の電圧を供給できるので、ブレーキ機能が失陥する等の不具合を回避できる。その結果、アイドリングストップ状態から復帰する際に、坂道等で停車中の車両が重力によって移動する(ずり下がる)ことを防止して、車両の安全を確保できる。
【0053】
以上説明したように本実施形態に係る電子制御装置は、バッテリの電圧を昇圧する昇圧制御ICの入力端子へ昇圧許可指示信号を出力する制御部の一つの信号端子を、出力モードから入力モードに変換して昇圧制御ICの入力端子の電圧レベルを検知し、検知した電圧レベルに基づいて昇圧制御ICが故障状態にあるか否かを診断する。
【0054】
このような構成とすることで、バッテリ電圧の低下があっても(例えば、制御回路の動作電圧より低電圧状態になっても)、昇圧制御ICにより昇圧された電圧を受けた電源生成部によって、制御回路の動作電源を確保できる。さらには、昇圧制御ICの入力端子が昇圧許可指示信号レベルで固着している場合、昇圧制御ICが故障状態にあると診断して、その旨をユーザ等に通知することで、昇圧部の故障時における暗電流を抑制できる。
【0055】
また、制御部の同一の信号端子を、昇圧制御ICへの制御信号の出力端子(出力モード)、あるいは、昇圧制御ICの入力端子の電圧レベル検知用の入力端子(入力モード)に切り替えることで、昇圧制御ICの故障診断に対して追加の端子が不要となり、回路構成の簡素化とコストダウンが可能になる。
【0056】
一方、バッテリ電圧が所定値以上であれば、昇圧制御ICを作動させずに迂回経路を介して電源生成部にバッテリ電圧を供給して、制御回路の動作用電源を生成することができる。
【0057】
このようにバッテリの出力電圧値に応じて、バッテリ電圧そのものから制御回路動作用の電源を生成する、あるいは、昇圧制御ICで昇圧された電圧から制御回路動作用の電源を生成することが可能となるので、バッテリが低電圧状態になっても制御回路の動作用電源を確保できる。
【0058】
なお、上述した実施形態では、車両におけるクランキングに起因するバッテリの電圧低下に着目して、バッテリ電圧を昇圧する態様を説明したが、このようなバッテリ電圧の昇圧構成は、経年変化等によりバッテリが劣化して電圧低下に至った場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1 制御部(CPU)
3 昇圧回路
4 IG-SW(イグニッションスイッチ)
5 制御部用電源生成部(VCC)
6 半導体スイッチング素子(FET)
7 センサ用電源生成部(SVCC)
8 昇圧制御IC
9 IG電圧検出部
10 電子制御装置
20 車両
23 ブレーキ装置(ブレーキECU)
25 エンジン
27 スタータモータ
31 車両制御部
33,35 車輪
BATT 外部バッテリ