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特許7355625陽イオン交換膜、含フッ素系重合体、含フッ素系重合体の製造方法、及び電解槽
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  • 特許-陽イオン交換膜、含フッ素系重合体、含フッ素系重合体の製造方法、及び電解槽 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】陽イオン交換膜、含フッ素系重合体、含フッ素系重合体の製造方法、及び電解槽
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/22 20060101AFI20230926BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20230926BHJP
   C08F 214/18 20060101ALI20230926BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20230926BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20230926BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08J5/22 103
C08J5/22 CEW
C08F214/26
C08F214/18
C08F8/12
C08F2/38
C25B13/08 302
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019218014
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2020100816
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2018240146
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】貝原 慎一
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-252322(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203886(WO,A1)
【文献】特開2007-119526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/22
C08F 214/26
C08F 214/18
C08F 8/12
C08F 2/38
C25B 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基を有するパーフルオロ
エチレン単位(B)とを含有し、かつ、下記式(1)で表される主鎖末端構造(T)を有する含フッ素系重合体を含む、陽イオン交換膜。
【化1】
(式(1)中、m及びnは、3≧m≧2、n≧0、2m-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
【請求項2】
前記パーフルオロエチレン単位(B)が、下記式(2)で表される単位(B1)を含む
、請求項1に記載の陽イオン交換膜。
【化2】
(式(2)中、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは各々独
立にF又はCF3を表し、Mはアルカリ金属を表す。)
【請求項3】
テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフ
ルオロエチレン単位(b)とを含有し、かつ、下記式(1)で表される主鎖末端構造(T)を有する、含フッ素系重合体。
【化3】
(式(1)中、m及びnは、3≧m≧2、n≧0、2m-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
【請求項4】
前記カルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフルオロエチレン単位(b)が、下
記式(3)で表される単位(b1)を含む、請求項3に記載の含フッ素系重合体。
【化4】
(式(3)中、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは各々独
立にF又はCF3を表す。)
【請求項5】
請求項3又は4に記載の含フッ素系重合体の製造方法であって、
下記式(4)で表されるアルコール類よりなる連鎖移動剤を用いて重合する工程を含む、含フッ素系重合体の製造方法。
【化5】
(式(4)中、m及びnは、3≧m≧2、n≧0、2m+1-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
【請求項6】
前記アルコール類が、エタノール、n-プロパノール及び2-プロパノールからなる群
より選択される少なくとも1種を含む、請求項5に記載の含フッ素系重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項3又は4に記載の含フッ素系重合体の加水分解物を含む、陽イオン交換膜。
【請求項8】
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された、請求項1、2及び7のいずれか一項に記載の
陽イオン交換膜と、
を備える、電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換膜、含フッ素系重合体、含フッ素系重合体の製造方法、及び電解槽に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素イオン交換膜は、耐熱性及び耐薬品性が優れていることから、塩化アルカリの電解で塩素とアルカリを製造するための電解用陽イオン交換膜をはじめとして、オゾン発生用隔膜、燃料電池、水電解及び塩酸電解等の種々の電解用隔膜として用いられている。その中で、塩化アルカリの電解では、生産性の観点から電流効率が高いこと、経済性の観点から電解電圧が低いこと、製品の品質の観点から苛性ソーダ中の食塩濃度が低いことが要望されている。
【0003】
上記要望のうち、高い電流効率を発現するために、アニオン排除性の高いカルボン酸基をイオン交換基とするカルボン酸層と、低抵抗のスルホン酸基をイオン交換基とするスルホン酸層との少なくとも2層から構成されているイオン交換膜が一般的に用いられている。これらのうちカルボン酸層は、カルボン酸型イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を共押出しTダイ法等により溶融させ製膜し、カルボン酸型イオン交換基前駆体をイオン交換基に変換(加水分解)したものが一般的に用いられている。また、カルボン酸型イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体は、その製造工程において分子量調整のために連鎖移動剤として一般的にメタノールが用いられている。
しかしながら、連鎖移動剤としてメタノールを用いて製造した含フッ素系重合体は、重合体主鎖末端に不安定な-CH2OH構造を持つために熱安定性が低く、製膜時にムラが生じるなどの問題を有している。そのため、重合体主鎖末端構造を変更し、熱安定性を向上させる試みがなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、連鎖移動剤としてメタン、エタン、プロパンを用いて含フッ素系重合体を製造することにより、重合体主鎖末端を-CH2OH構造から変更し、熱安定性を向上できる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-150308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術においては、連鎖移動剤としてプロパン等を用いた場合に、製造された含フッ素系重合体を膜にした際に、抵抗率が高くなり、結果的に電解電圧が高くなるという問題を有している。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、従来相反する低い抵抗率及び高い熱安定性を両立する含フッ素系重合体、該含フッ素系重合体を含む陽イオン交換膜、該陽イオン交換膜を備える電解槽を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、テトラフルオロエチレン単位と、カルボン酸型イオン交換基を有するパーフルオロエチレン単位とを含有する特定の含フッ素系重合体を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基を有するパーフルオロ
エチレン単位(B)とを含有し、かつ、下記式(1)で表される主鎖末端構造(T)を有する含フッ素系重合体を含む、陽イオン交換膜。
【化1】
(式(1)中、m及びnは、3≧m≧2、n≧0、2m-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
〔2〕
前記パーフルオロエチレン単位(B)が、下記式(2)で表される単位(B1)を含む
、前記〔1〕に記載の陽イオン交換膜。
【化2】
(式(2)中、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは各々独
立にF又はCF3を表し、Mはアルカリ金属を表す。)
〔3〕
テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフ
ルオロエチレン単位(b)とを含有し、かつ、下記式(1)で表される主鎖末端構造(T)を有する、含フッ素系重合体。
【化3】
(式(1)中、m及びnは、3≧m≧2、n≧0、2m-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
〔4〕
前記カルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフルオロエチレン単位(b)が、下
記式(3)で表される単位(b1)を含む、前記〔3〕に記載の含フッ素系重合体。
【化4】
(式(3)中、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは各々独
立にF又はCF3を表す。)
〔5〕
前記〔3〕又は〔4〕に記載の含フッ素系重合体の製造方法であって、
下記式(4)で表されるアルコール類よりなる連鎖移動剤を用いて重合する工程を含む、含フッ素系重合体の製造方法。
【化5】
(式(4)中、m及びnは、3≧m≧2、n≧0、2m+1-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
〔6〕
前記アルコール類が、エタノール、n-プロパノール及び2-プロパノールからなる群
より選択される少なくとも1種を含む、前記〔5〕に記載の含フッ素系重合体の製造方法

〔7〕
前記〔3〕又は〔4〕に記載の含フッ素系重合体の加水分解物を含む、陽イオン交換膜

〔8〕
陽極と、
陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置された、前記〔1〕、〔2〕及び〔7〕のいずれか一
に記載の陽イオン交換膜と、
を備える、電解槽。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抵抗率が低く、かつ熱安定性が高い含フッ素系重合体、該含フッ素系重合体を含む陽イオン交換膜、該陽イオン交換膜を備える電解槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の一態様に係る電解槽の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
〔陽イオン交換膜〕
本実施形態の陽イオン交換膜は、テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基を有するパーフルオロエチレン単位(B)とを含有し、かつ、所定の主鎖末端構造(T)を有する含フッ素系重合体を含む。
本実施形態の陽イオン交換膜に含まれる含フッ素系重合体は、後述する本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解後の構造で特定することもできる。
【0013】
(含フッ素系重合体)
本実施形態の含フッ素系重合体は、テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフルオロエチレン単位(b)とを含有し、かつ、下記式(1)で表される主鎖末端構造(T)を有する。
【化6】
(式(1)中、m及びnは、m≧2、n≧0、2m-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
上記のように構成されているため、本実施形態の含フッ素系重合体は、陽イオン交換膜の材料として用いることにより、当該陽イオン交換膜は、抵抗率が低く、かつ熱安定性が高いものとなる。
なお、電解時の劣化を防止する観点から、m及びnは、2≦m≦5、0≦n≦9、1≦2m-n≦10であることが好ましい。
【0014】
含フッ素系重合体とは、イオン交換基を有する含フッ素系重合体、あるいは加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体を意味する。本実施形態の陽イオン交換膜には、イオン交換基を有する含フッ素系重合体の他、上記のような、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体が含まれていてもよい。
加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体とは、以下に限定されないが、例えば、フッ素化炭化水素の主鎖からなり、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基を側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体が挙げられる。
【0015】
一般的にパーフルオロ単量体としては、以下に限定されないが、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選ばれるパーフルオロ単量体が挙げられ、中でも、テトラフルオロエチレンは、本実施形態の含フッ素系重合体に、テトラフルオロエチレン単位(A)を導入するために用いられる。
【0016】
カルボン酸基(カルボン酸型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するパーフルオロビニル化合物は、本実施形態の含フッ素系重合体に、カルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフルオロエチレン単位(b)を導入するために用いられる。このようなパーフルオロビニル化合物としては、以下に限定されないが、例えば、CF2=CF(OCF2CYF)s-O(CZF)t-COORで表される単量体等が挙げられる。
ここで、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは、各々独立して、F又はCF3を表し、Rは低級アルキル基を表す。
なお、低級アルキル基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数5以下のアルキル基が挙げられる。なお本明細書中の、カルボン酸型イオン交換基前駆体とは、カルボン酸基(カルボン酸型イオン交換基)に変換し得る官能基のことを言う。
【0017】
これらのパーフルオロビニル化合物の中でも、CF2=CF(OCF2CYF)n-O(CF2m-COORで表される化合物が好ましい。
ここで、nは0~2の整数を表し、mは1~4の整数を表し、YはF又はCF3を表し、RはCH3、C25、又はC37を表す。
特に、本実施形態の含フッ素系重合体を含む陽イオン交換膜をアルカリ電解用陽イオン交換膜として用いる場合、本実施形態の含フッ素系重合体を製造する際の単量体としてパーフルオロ化合物を少なくとも用いることが好ましいが、エステル基のアルキル基(上記R参照)は加水分解される時点で重合体から失われるため、上記アルキル基(R)は全ての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキル基でなくてもよい。
【0018】
これらの具体例としては、以下に限定されないが、下記に表す単量体等が挙げられる;
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2COOCH3
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF22COOCH3
CF2=CF[OCF2CF(CF3)]2O(CF22COOCH3
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF23COOCH3
CF2=CFO(CF22COOCH3
CF2=CFO(CF23COOCH3
これらの中でも、CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF22COOCH3がより好ましい。
【0019】
本実施形態の含フッ素系重合体に含まれるカルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフルオロエチレン単位(b)は、上記で例示したパーフルオロ化合物に由来する単位であってよく、本実施形態の陽イオン交換膜の電解性能を向上させる観点から、下記式(3)で表される単位(b1)を含むことが好ましい。
【化7】
(式(3)中、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは各々独立にF又はCF3を表す。)
【0020】
(含フッ素系重合体の製造方法)
本実施形態の含フッ素系重合体は、例えば、テトラフルオロエチレンと、カルボン酸型イオン交換基前駆体を有するパーフルオロエチレン単位(b)に対応する単量体と、を重合して得ることができる。
【0021】
本実施形態の含フッ素系重合体は、フッ化エチレンの単独重合及び共重合に対して開発された種々公知の重合方法によって製造することができる。重合方法としては、特に限定されないが、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法及び乳化重合法が挙げられ、溶液重合法が好ましい。
【0022】
溶液重合法における重合溶媒としては、種々公知の含フッ素溶媒を用いることができる。重合溶媒として、以下に限定されないが、例えば、CF2ClCFCl2(CFC113)、CClF2CF2CFHCl(HCFC225cb)、CF3CHFCHFCF2CF3(HFC43-10mee)、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロジメチルシクロブタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロベンゼン等の不活性な含フッ素溶媒が挙げられ、ハイドロフルオロカーボン系の溶媒がより好ましい。
【0023】
本実施形態の含フッ素系重合体の重合に用いる重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ジペンタフルオロプロピオニルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t-ブチルパーオキシイソブチレート等のパーオキシエステル類、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等の油溶性重合開始剤が挙げられ、ジアシルパーオキサイド類が好ましい。
【0024】
本実施形態の含フッ素系重合体の分子量や主鎖末端構造は、重合の際、連鎖移動剤を用いることで調整することができる。
本実施形態の含フッ素系重合体の重合に用いる連鎖移動剤としては、下記式(4)で表されるアルコール類が好適なものとして挙げられる。
すなわち、本実施形態の含フッ素系重合体は、少なくとも下記式(4)で表されるアルコール類を用いて重合を行うことにより得られるものであることが好ましい。
また、本実施形態の含フッ素系重合体の製造方法は、下記式(4)で表されるアルコール類を含む連鎖移動剤を用いて重合する工程を含むことが好ましい。
【化8】
(式(4)中、m及びnは、m≧2、n≧0、2m+1-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
【0025】
上記アルコール類の中でも、炭素原子と水素原子の数が多すぎると、連鎖移動剤由来の主鎖末端中に電解時に劣化しやすい炭化水素構造を多く含むことになるため、電解時における含フッ素系重合体の劣化を防止する観点から、連鎖移動剤は、上記式(4)においてm及びnが2≦m≦5、0≦n≦10、1≦2m+1-n≦11を満たす任意の整数であることが好ましい。同様の観点から、連鎖移動剤は、エタノール、n-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0026】
なお、含フッ素系重合体の主鎖末端構造は連鎖移動剤の種類によって異なる。
例えば、連鎖移動剤としてメタノールを用いる場合、メタノールに由来する-CH2OH末端が生成される。
連鎖移動剤として上記アルコール類を用いることにより、主鎖末端構造は、上記式(1)で表される主鎖末端構造(T)となり、例えばエタノールを用いることにより、-CH2CH2OH末端、あるいは-CH(CH3)OH末端を生成する。
一方、連鎖移動剤としてアルカン類を用いた場合は、本実施形態における主鎖末端構造(T)は得られず、-CH3末端のようなヒドロキシル基を有さない末端を生成する。
【0027】
含フッ素系重合体の熱安定性は主鎖末端構造により異なる。
例えば主鎖末端構造に-CH2OH末端を有する場合、熱履歴を受けた際に酸化により-CH2OH末端が不安定な-COF末端に変化し、この-COF末端と含フッ素系重合体中の-CH2OH末端がエステル化反応を起こすことで分子量が増大する。また、含フッ素系重合体にエステル基を有する場合、-CH2OH末端とエステル基でエステル交換反応を起こすことでも分子量が増大する。
一方において、上記式(1)で表される主鎖末端構造(T)、すなわち、上記アルコール類を連鎖移動剤に使用した場合に生成する末端(例えば-CH(CH3)OHなど)は、酸化反応を起こしにくく、また立体障害によりエステル交換反応も抑制されるため、本実施形態の含フッ素系重合体は、熱に対して安定である。
【0028】
含フッ素系重合体の重合工程においては、重合圧力は、例えば、0.01MPa~20MPaの条件下で重合反応を行うことができ、0.03~10MPaが好ましい。0.01MPa以上とする場合は十分な重合速度を確保できるために工業的に好ましく、20MPa以下とする場合は、パーフルオロ単量体の重合を抑制できるため好ましい。
【0029】
重合圧力以外の他の条件や操作は、特に限定されることなく、広い範囲の反応条件を採用することができる。例えば、重合温度は0~200℃の条件下で重合反応を行うことができ、10℃~90℃が好ましい。0℃以上とする場合は十分な重合速度を確保できるために工業的に好ましく、200℃以下とする場合は、パーフルオロ単量体の重合を抑制できるため好ましい。
【0030】
本実施形態の含フッ素系重合体の重合工程においては、重合開始剤の添加量のみにより分子量を調整するのではなく、重合開始剤に加え連鎖移動剤を添加することが好ましい。
重合開始剤のみで分子量を調整した場合に比べ、連鎖移動剤を併用した場合の方が、分子量分布が小さい含フッ素系重合体が得られるため好ましい。
本実施形態の含フッ素系重合体の重合工程において、連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の種類に応じて適宜調整することができ、特に限定されないが、仕込み液質量の0.00001%~10%を添加することが好ましく、0.0001%~10%を添加することがより好ましい。なお、より分子量分布を狭くする観点から、連鎖移動剤は、複数回に分けて添加することが好ましい。含フッ素系重合体の分子量分布が狭いことは、電流効率の長期安定性を発現させる観点から好ましい。
【0031】
本実施形態の含フッ素系重合体の重合工程では、重合を停止する際に重合停止剤を用いることが好ましい。
重合停止剤としては、公知公用の重合停止剤を用いることができるが、重合中に生成する含フッ素系重合体の―COF末端を安定化することにより含フッ素系重合体の熱安定性が向上できる観点から、重合停止剤としては、アルコールを用いることが好ましく、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノールが更に好ましい。
【0032】
本実施形態の含フッ素系重合体の製造工程においては、重合液を加熱、減圧することで未反応のパーフルオロビニル化合物と重合溶媒を蒸発除去し、含フッ素系重合体を回収することが好ましい。
このような回収方法であれば、重合液から未反応のパーフルオロビニル化合物と重合溶媒を効果的に回収することが、凝集分離法等と比較して容易となる。
【0033】
(含フッ素系重合体の物性)
本実施形態の含フッ素系重合体のEW(equivalent weight)は、500~2000g/eq.であることが好ましく、800~1700g/eq.であることがより好ましく、単位(A)と単位(B)とのモル比がより適切な範囲となり、結果として電解性能が向上する観点から、900~1400g/eq.であることがさらに好ましく、1100~1300g/eq.であることがさらにより好ましい。
ここで、EWとは、含フッ素系重合体の当量重量[g-共重合体組成物/eq.-官能基](単位:g/eq.)である。
EWが500以上である場合は電流効率が向上する傾向にあり、また、EWが2000以下である場合は電解電圧が低減される傾向にある。
EWは中和滴定等によって測定することができる。
また、EWは本実施形態の含フッ素系重合体における各単位のモル比を調整すること等により上記範囲となるように調整することができる。
【0034】
本実施形態の含フッ素系重合体は、JIS K-7210に従って270℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定したメルトインデックス(MI)(単位:g/10分)をaとしたとき、aは3~50であることが好ましく、4~30であることがより好ましく、5~20であることがさらに好ましい。
aが3以上であると、製膜時に温度を過度に高くする必要がなく、含フッ素系重合体の劣化を防止でき、aが50以下であると膜強度の低下を防止することができる。
【0035】
本実施形態の含フッ素系重合体のメルトインデックスaは、含フッ素系重合体の分子量と相関があるため、重合時に添加する重合開始剤又は連鎖移動剤の量により調整することができる。なお、一般的に、分子量が高くなるほど含フッ素系重合体のメルトインデックスaは低くなる。
【0036】
本実施形態の含フッ素系重合体の熱安定性は、共押出しTダイ法等により溶融製膜する際に求められる指標である。
熱安定性が低い含フッ素系重合体は、Tダイ法等で熱履歴により分子量が徐々に増加する傾向にある。分子量の増加に伴い含フッ素系重合体の溶融粘度が経時的に増加し、製膜ムラが発生する。製膜ムラが発生した膜は膜厚が不均一となり、膜厚が厚い部分では、本実施形態の含フッ素系重合体を陽イオン交換膜として用いた場合に、電解時の電圧が高くなるという問題がある。また、膜厚が不均一になることで電圧そのものが不均一になりやすい。製膜ムラの発生を抑制させる観点から、含フッ素系重合体の熱安定性は高い方が好ましい。
【0037】
ここで、JIS K-7210に従って275℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定した含フッ素系重合体のメルトインデックス(MI)(g/10分)をbとする。一方、含フッ素系重合体を空気中、275℃環境下で60分間静置させたのち、275℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定した含フッ素系重合体のメルトインデックス(MI)(g/10分)をcとする。熱安定性が悪い含フッ素系重合体は、熱履歴により分子量が増加し溶融粘度も増加するため、cをbで除した値(c/b)が低くなる。
c/bは0<c/bの値をとり、当該c/dの値により含フッ素系重合体の熱安定性を評価することが可能である。
なお、c/bが高いほど熱安定性が高く、Tダイ法等で熱履歴を受けても製膜ムラの発生を抑制することができる。
上記観点から、本実施形態の含フッ素系重合体においては、0.6≦c/bであることが好ましく、0.7≦c/bであることがより好ましい。また、c/bの上限値は特に限定されないが、c/b≦1であることが好ましい。
【0038】
本実施形態の含フッ素系重合体のSR(Swell Ratio、単位は%)の値は、小さい方が好ましい。
SRが大きい含フッ素系重合体は、製膜に適さず、SRが小さい含フッ素重合体の方が製膜により適している。本明細書におけるSRは式(d-2.09)/2.09×100で定義される。なお、dはJIS K-7210に従って270℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下でメルトインデックスを測定する際の含フッ素系重合体ストランドの直径(単位はmm)である。
本実施形態の含フッ素系重合体において、SRの値は50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。SRの値は、例えば、分子量分布を狭めることにより、小さくなる傾向にある。
【0039】
本実施形態において、カルボン酸型イオン交換基を有する含フッ素系重合体、及びカルボン酸型イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体の加水分解物の抵抗率(Ω・cm)は、低い方が好ましい。
当該抵抗率とは、電気抵抗率であり、具体的には後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
抵抗率が低い場合、含フッ素系重合体の電気抵抗が低くなり、電解時の電解電圧が低くなる。
なお、抵抗率は含フッ素系重合体のEWによっても変化し、EWが低いほど抵抗率が低くなる傾向にある。
なお、EWが同じ含フッ素系重合体同士であっても、親水性基を末端構造にもち、抵抗率が低い含フッ素系重合体の方が、陽イオン交換膜として用いた場合に、電解電圧を低くすることができる観点で好ましい。
【0040】
<熱安定性>
本実施形態の含フッ素系重合体、及びこれを用いた陽イオン交換膜は、熱安定性に高いものである、という特徴を有している。
本実施形態の含フッ素系重合体及び陽イオン交換膜の熱安定性が高い理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
【0041】
主鎖末端構造に-CH2OH末端を有する場合、熱履歴を受けた際に酸化により-CH2OH末端が不安定な-COF末端に変化し、この-COF末端と含フッ素系重合体中の-CH2OH末端がエステル化反応を起こすことで分子量が増大する。また、含フッ素系重合体にエステル基を有する場合、-CH2OH末端とエステル基でエステル交換反応を起こすことでも分子量が増大する。一方において、本実施形態の含フッ素系重合体は、主鎖末端構造(T)、すなわち、上記アルコール類を連鎖移動剤に使用した場合に生成する末端(例えば-CH(CH3)OHなど)を有しているため、酸化反応を起こしにくく、また立体障害によりエステル交換反応も抑制され、熱に対して安定である。
【0042】
<抵抗率>
本実施形態の含フッ素系重合体、及びこれを用いた陽イオン交換膜は、抵抗率が低いという特徴を有している。
本実施形態の含フッ素系重合体及びこれを用いた陽イオン交換膜の抵抗率が低い理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
【0043】
連鎖移動剤に上記アルコール類を用いた場合、本実施形態の含フッ素系重合体は主鎖末端にヒドロキシル基を持つ。主鎖末端にヒドロキシル基のような親水基を持つ場合、含フッ素系重合体の電導度が高くなり、主鎖末端に親水基を持たない含フッ素系重合体と比較して、抵抗率が低くなる。
【0044】
〔陽イオン交換膜〕
陽イオン交換膜は、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、含フッ素系重合体を含むものであり、本実施形態の陽イオン交換膜は、本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解物を含む。
本実施形態の陽イオン交換膜は、膜本体として、スルホン酸基をイオン交換基として有するスルホン酸層と、カルボン酸基をイオン交換基として有するカルボン酸層と、を備えていることが好ましい。通常、陽イオン交換膜は、スルホン酸層が電解槽の陽極側に、カルボン酸層が電解槽の陰極側に、それぞれ配置されるように用いられる。スルホン酸層は電気抵抗が低い材料から構成され、膜強度の観点から膜厚が厚いことが好ましい。カルボン酸層は、膜厚が薄くても高いアニオン排除性を有し、かつ電気抵抗が低いことが好ましいため、本実施形態の含フッ素系重合体、より具体的には含フッ素系重合体の加水分解物を好ましく適用できる。膜本体は、陽イオンを選択的に透過する機能を有し、含フッ素系重合体を含むものであればよく、その構造は必ずしも上記構造に限定されない。ここで、アニオン排除性とは、陽イオン交換膜へのアニオンの浸入や透過を妨げようとする性質をいう。
【0045】
本実施形態の陽イオン交換膜は、次のとおり、本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解後の構造で特定することもできる。すなわち、本実施形態の陽イオン交換膜は、テトラフルオロエチレン単位(A)とカルボン酸型イオン交換基を有するパーフルオロエチレン単位(B)とを含有し、かつ、下記式(1)で表される主鎖末端構造(T)を有する含フッ素系重合体を含む。
【化9】
(式(1)中、m及びnは、m≧2、n≧0、2m-n≧1を満たす任意の整数を表す。)
【0046】
本実施形態において、パーフルオロエチレン単位(B)が、下記式(2)で表される単位(B1)を含むことが好ましい。
【化10】
(式(2)中、sは0~2の整数を表し、tは1~12の整数を表し、Y及びZは各々独立にF又はCF3を表し、Mはアルカリ金属を表す。)
【0047】
上記式(2)において、Mは、K又はNaであることが好ましく、Naであることがより好ましい。tは、1~4の整数であることが好ましく、1~3であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態の陽イオン交換膜は、上記のとおり、本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解したものを含むものとすることができるが、本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解は常法により実施することができる。
加水分解の条件としては、例えば、2.5~4.0規定(N)の水酸化カリウム(KOH)と20~40質量%のDMSO(Dimethyl sulfoxide)の水溶液中、40~90℃で、10分~24時間行うことが好ましい。その後、50~95℃の条件下、0.5~0.7規定(N)苛性ソーダ(NaOH)溶液を用いて塩交換処理を行うことが好ましい。なお、層厚の過度な増大に起因する電圧上昇をより効果的に防止する観点から、上記塩交換処理における処理温度を70℃以上とする場合は、処理時間を2時間未満とすることが好ましい。
【0049】
本実施形態の陽イオン交換膜は、本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解物の層と、スルホン酸型含フッ素系重合体の加水分解物の層と、を有する積層体であることが好ましい。
【0050】
スルホン酸型含フッ素系重合体としては、特に限定されず、種々公知のものを使用することができる。また、スルホン酸型含フッ素系重合体は、スルホン酸基(スルホン型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物を更に共重合することにより製造してもよい。スルホン酸基(スルホン型イオン交換基)に変換し得る官能基を有するビニル化合物としては、例えば、CF2=CFO-X-CF2-SO2Fで表される単量体が好ましい。ここで、Xはパーフルオロ基を表す。
【0051】
これらの具体例としては、下記に表す単量体等が挙げられる;
CF2=CFOCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、
CF2=CF(CF22SO2F、
CF2=CFO〔CF2CF(CF3)O〕2CF2CF2SO2F、
CF2=CFOCF2CF(CF2OCF3)OCF2CF2SO2F。
これらは、一種を単独で、又は二種以上を併用して、用いることができる。これらの中でも、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CF2SO2F、及びCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fがより好ましい。
【0052】
上述した単量体を使用することを除き、スルホン酸型含フッ素系重合体は、本実施形態の含フッ素系重合体と同様にして製造することができる。
【0053】
本実施形態の陽イオン交換膜は、膜本体の内部に配置された強化芯材を有することが好ましい。強化芯材は、イオン交換膜の強度や寸法安定性を強化する部材である。強化芯材を膜本体の内部に配置させることで、特に、イオン交換膜の伸縮を所望の範囲に制御することができる。かかるイオン交換膜は、電解時等において、必要以上に伸縮せず、長期に優れた寸法安定性を維持することができる。
【0054】
本実施形態の陽イオン交換膜は、酸又はアルカリを含む加水分解溶液に、本実施形態の含フッ素系重合体及び必要に応じて強化芯材を含む膜本体を浸漬させて加水分解して、カルボン酸型イオン交換基前駆体がカルボン酸型イオン交換基に変換(加水分解)されたもの、すなわち本実施形態の含フッ素系重合体の加水分解物を含み、電解等に使用することができる。
【0055】
本実施形態の陽イオン交換膜は、膜内部に連通孔を有することが好ましい。連通孔とは、電解の際に発生する陽イオンや電解液の流路となり得る孔をいう。また、連通孔とは、膜本体内部に形成されている管状の孔であり、犠牲芯材(又は犠牲糸)が含フッ素系重合体の加水分解のために用いる酸又はアルカリによって溶出することで形成される。連通孔の形状や径等は、犠牲芯材(犠牲糸)の形状や径を選択することによって制御することができる。
【0056】
本実施形態の陽イオン交換膜は、膜本体の陰極側表面及び/又は陽極側表面にガス付着防止のための無機物のコーティング層を有していることが好ましい。該コーティング層は、例えば、無機酸化物の微細粒子をバインダーポリマー溶液に分散した液をスプレーにより塗布することができる。
【0057】
〔電解槽〕
本実施形態の陽イオン交換膜は、電解槽の構成要素として使用することができる。すなわち、本実施形態の電解槽は、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置された本実施形態の陽イオン交換膜と、を備える。
図1は、本実施形態に係る電解槽の一実施形態の模式図である。
【0058】
本実施形態の電解槽100は、陽極200と、陰極300と、陽極200と陰極300との間に配置された、本実施形態の陽イオン交換膜1と、を少なくとも備える。ここでは、上記した陽イオン交換膜1を備えた電解槽100を一例として説明しているが、これに限定されるものではなく、本実施形態の効果の範囲内で種々構成を変形して実施することができる。
【0059】
電解槽100は、種々の電解に使用できるが、以下、代表例として、塩化アルカリ水溶液の電解に使用する場合について説明する。
【0060】
電解条件は、特に限定されず、公知の条件で行うことができる。例えば、陽極室に2.5~5.5規定(N)の塩化アルカリ水溶液を供給し、陰極室は水又は希釈した水酸化アルカリ水溶液を供給し、直流電流にて電解を実施する。
【0061】
本実施形態の電解槽の構成は、特に限定されず、例えば、単極式でも複極式でもよい。
電解槽100を構成する材料としては、特に限定されず、公知の材料を用いることができる。例えば、陽極室の材料としては、塩化アルカリ及び塩素に耐性があるチタン等が好ましく、陰極室の材料としては、水酸化アルカリ及び水素に耐性があるニッケル等が好ましい。
電極の配置は、陽イオン交換膜1と陽極200との間に適当な間隔を設けて配置してもよいが、陽極200と陽イオン交換膜1が接触して配置されていても、何ら問題なく使用できる。また、陰極は一般的には陽イオン交換膜と適当な間隔を設けて配置されているが、この間隔がない接触型の電解槽(ゼロギャップ式電解槽)であっても、何ら問題なく使用できる。
【実施例
【0062】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0063】
<熱安定性評価>
含フッ素系重合体の熱安定性を、以下の方法により評価した。
まず、JIS K-7210に従って275℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下でメルトインデックス(MI;g/10分)bを測定した。また、含フッ素系重合体を空気中、275℃環境下で60分間静置させたのち、275℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定したメルトインデックス(MI;g/10分)cを測定した。cをbで除した値(c/b)が、c/b≧0.6の場合は熱安定性が良好、c/b<0.6の場合は熱安定性が不良と判断した。
【0064】
<SR測定>
含フッ素系重合体のSwell Ratio(SR;%)を「(d-2.09)/2.09×100」で計算した。
ここで、dはJIS K-7210に従って270℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下でメルトインデックスを測定する際の含フッ素系重合体ストランドの直径(単位はmm)とした。
SR>50%は製膜に適さない含フッ素重合体と判断した。
【0065】
<抵抗率測定>
含フッ素系重合体の抵抗率を以下のとおりに測定した。
まず、カルボン酸型イオン交換基前駆体を有する含フッ素系重合体0.6gを、270℃で熱プレスに供し、約150μmの膜状に成形した。この膜を、80℃のジメチルスルホキシド(DMSO)30質量%、水酸化カリウム(KOH)15質量%を含む水溶液に30分浸漬することでケン化した後に、50℃の0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液に80分浸漬して、イオン交換基をCO2Na型に置換した。
置換後の膜は、水中に18時間浸漬させた後、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液に移し替え、18時間浸漬させた。
次に、膜を25℃、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で満たした測定セルに入れ、有効通電面積1cm2の白金電極で挟み、測定周波数1kHzの低抵抗計3566(鶴賀電機製)を用いて、抵抗値R1(Ω)を測定した。
次に、白金電極に挟まれている膜を取り外した後、液抵抗の抵抗値R2(Ω)を測定した。
また、取り出した膜の膜厚みL(cm)を、厚み計にて測定した。
抵抗率RM(Ω・cm)を、式RM=(R1-R2)×1(cm2)/Lにより求めた。
【0066】
[実施例1]
(含フッ素系重合体の作製)
カルボン酸型含フッ素系重合体を得るため、溶液重合を行った。
撹拌翼はイカリ型を用いた。まず、ステンレス製1LオートクレーブにCF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF22COOCH3を561.5g、HFC-43-10meeを561.5g入れ、容器内を充分に窒素置換した後、さらにCF2=CF2(テトラフルオロエチレン;TFE)で置換し、容器内の温度が25℃で安定になるまで加温してTFEで0.411MPa-G(ゲージ圧力)まで加圧した。次いで、重合開始剤として(CF3CF2CF2COO)2の5%HFC43-10mee溶液を4.49g、連鎖移動剤としてエタノールを0.059g入れて、反応を開始した。25℃で攪拌しながらTFEを断続的にフィードしつつ、途中でエタノールを0.059g入れ、TFE圧力を初期0.411MPa-Gから終了時0.387MPa-Gまで降下させて、2.5時間後にメタノールを14mL加え重合を停止した。未反応TFEを系外に放出した後、得られた重合液を加熱・減圧して液体を除去し、含フッ素系重合体を68g得た。
得られた含フッ素系重合体は(株)東洋精機製作所ラボプラストミル(型式4M150)で、温度260℃、ブレード回転数50rpmにて20分間混錬した。その後含フッ素系重合体のEW(equivalent weight、当量重量)を中和滴定で測定したところ、EWは1152g/eq.であった。
【0067】
上記含フッ素系重合体のMI(メルトインデックス)を、(株)東洋精機製作所メルトインデックサ F-F01を使用して測定した。
JIS K-7210に従って270℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定したメルトインデックスaは、12.0(g/10分)であった。
JIS K-7210に従って275℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定したメルトインデックスbと、含フッ素系重合体を空気中、275℃環境下で60分間静置させたのち、275℃、荷重2.16kg、オリフィス内径2.09mmの条件下で測定したメルトインデックスcからc/bを求めたところ、c/b=0.91であり熱安定性は良好であった。
【0068】
上記含フッ素系重合体のSRを測定した結果、15.9%であった。
【0069】
上記含フッ素系重合体の抵抗率を測定した結果、208(Ω・cm)であった。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、連鎖移動剤をn-プロパノールを変え、初期に添加するn-プロパノール量を0.079g、途中に添加するn-プロパノール量を0.079gとした。
また、TFE圧力を初期0.413MPa-Gから終了時0.389MPa-Gまで降下させた。それら以外は実施例1と同様に重合を行い、2.9時間後にメタノールを14mL加え重合を停止した。未反応TFEを系外に放出した後、得られた重合液を加熱・減圧して液体を除去し、含フッ素系重合体を75g得た。
得られた含フッ素系重合体は(株)東洋精機製作所ラボプラストミル(型式4M150)で、温度260℃、ブレード回転数50rpmにて20分間混錬した。
その後含フッ素系重合体のEWを測定し、EWは1152g/eq.であった。
【0071】
上記含フッ素系重合体のメルトインデックスaは、12.0(g/10分)であった。また、熱安定性評価のためメルトインデックスb、メルトインデックスcを測定しc/bを求めたところ、c/b=0.89であり熱安定性は良好であった。
【0072】
上記含フッ素系重合体のSRを測定した結果、16.3%であった。
【0073】
上記含フッ素系重合体の抵抗率を測定した結果、208(Ω・cm)であった。
【0074】
[比較例1]
実施例1において、連鎖移動剤をメタノールに変え、初期に添加するメタノール量を0.264g、途中に添加するメタノール量を0.264gとした。また、TFE圧力を初期0.413MPa-Gから終了時0.389MPa-Gまで降下させた。それら以外は実施例1と同様に重合を行い、2.6時間後にメタノールを14mL加え重合を停止した。未反応TFEを系外に放出した後、得られた重合液を加熱・減圧して液体を除去し、含フッ素系重合体を75g得た。
得られた含フッ素系重合体は(株)東洋精機製作所ラボプラストミル(型式4M150)で、温度260℃、ブレード回転数50rpmにて20分間混錬した。その後含フッ素系重合体のEWを測定し、EWは1152g/eq.であった。
【0075】
上記含フッ素系重合体のメルトインデックスaは、12.0(g/10分)であった。また、熱安定性評価のためメルトインデックスb、メルトインデックスcを測定しc/bを求めたところ、c/b=0.48であり熱安定性は不良であった。
【0076】
上記含フッ素系重合体のSRを測定した結果、15.8%であった。
【0077】
上記含フッ素系重合体の抵抗率を測定した結果、208(Ω・cm)であった。
【0078】
[比較例2]
実施例1において、連鎖移動剤をプロパンに変え、初期に添加するプロパン量を0.07g、途中に添加するプロパン量を0.07gとした。また、TFE圧力を初期0.421MPa-Gから終了時0.396MPa-Gまで降下させた。それら以外は実施例1と同様に重合を行い、4時間後にメタノールを14mL加え重合を停止した。未反応TFEを系外に放出した後、得られた重合液を加熱・減圧して液体を除去し、含フッ素系重合体を73g得た。
得られた含フッ素系重合体は(株)東洋精機製作所ラボプラストミル(型式4M150)で、温度260℃、ブレード回転数50rpmにて20分間混錬した。その後含フッ素系重合体のEWを測定し、EWは1149g/eq.であった。
【0079】
上記含フッ素系重合体のメルトインデックスaは、14.1(g/10分)であった。また、熱安定性評価のためメルトインデックスb、メルトインデックスcを測定しc/bを求めたところ、c/b=0.87であり熱安定性は良好であった。
【0080】
上記含フッ素系重合体のSRを測定した結果、13.9%であった。
【0081】
上記含フッ素系重合体の抵抗率を測定した結果、212(Ω・cm)であり、実施例1、2よりも高い抵抗率になった。
【0082】
[比較例3]
実施例1において、連鎖移動剤をn-へプタンに変え、初期に添加するn-へプタン量を0.112g、途中に添加するn-へプタン量を0.112gとした。また、TFE圧力を初期0.413MPa-Gから終了時0.389MPa-Gまで降下させた。それら以外は実施例1と同様に重合を行い、3.9時間後にメタノールを14mL加え重合を停止した。未反応TFEを系外に放出した後、得られた重合液を加熱・減圧して液体を除去し、含フッ素系重合体を57g得た。
得られた含フッ素系重合体は(株)東洋精機製作所ラボプラストミル(型式4M150)で、温度260℃、ブレード回転数50rpmにて20分間混錬した。その後含フッ素系重合体のEWを測定し、EWは1145g/eq.であった。
【0083】
上記含フッ素系重合体のメルトインデックスaは、13.2(g/10分)であった。また、熱安定性評価のためメルトインデックスb、メルトインデックスcを測定しc/bを求めたところ、c/b=0.88であり熱安定性は良好であった。
【0084】
上記含フッ素系重合体のSRを測定した結果、98.0%であり、製膜に適さない含フッ素系重合体であった。
【0085】
上記含フッ素系重合体の抵抗率を測定した結果、213(Ω・cm)であり、実施例1、2よりも高い抵抗率になった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の含フッ素系重合体は、塩化アルカリ電解等に用いられる陽イオン交換膜の材料として産業上の利用可能性を有している。また、本発明の陽イオン交換膜は、塩化アルカリ電解等に用いられる陽イオン交換膜として産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0087】
1…陽イオン交換膜、100…電解槽、200…陽極、300…陰極
図1