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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20230926BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/04 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019219599
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021089033
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】児玉 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-240839(JP,A)
【文献】特開2008-082542(JP,A)
【文献】特開2009-085362(JP,A)
【文献】特開平10-252820(JP,A)
【文献】特開2005-265132(JP,A)
【文献】特開平06-213273(JP,A)
【文献】特開2008-082541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00-5/48
E04H 9/00-9/16
F16F 15/00-15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体と、
前記構造体の上に設けられた第1ばね要素と、
前記第1ばね要素を介して前記構造体の上に設けられた第1振動体と、
前記第1振動体の上に設けられた第2ばね要素と、
前記第2ばね要素を介して前記第1振動体の上に設けられた第2振動体と、
前記第1振動体と前記第2振動体との間に前記第2ばね要素と並列に設けられ慣性質量を付与する慣性質量装置と、を有し、
前記第1振動体の質量は、前記第2振動体の質量以上に設定され、
前記第1ばね要素のばね剛性は、前記第2ばね要素のばね剛性よりも小さく設定され、
前記慣性質量装置は、下式のように設定されることを特徴とする防振構造。
【数1】
【請求項2】
前記第1振動体と前記第2振動体との間に前記第2ばね要素と並列に設けられた減衰要素を有することを特徴とする請求項1に記載の防振構造。
【請求項3】
前記慣性質量装置は、回転慣性質量ダンパであることを特徴とする請求項1又は2に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
音楽ライブホールやダンススタジオ等の施設では、多人数客の屈伸運動による鉛直振動(いわゆるタテノリ振動)が生じることがあり、これに対応するため当該部分の床を構造躯体と絶縁した浮き床とする防振構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような防振構造では、構造躯体を部分的に凹ませ、凹ませた凹部にばね支持された浮き床を設けている。共振時の過度な応答を抑制するために、浮き床と構造躯体との間には、減衰要素を支持ばねと並列に設置している。
【0003】
浮き床は、構造躯体に対して鉛直方向にばね支持されている。タテノリ振動で振動障害が問題となる振動数は概ね2~3.5Hzとされていることから、一般的には浮き床の鉛直固有振動数を1Hz程度とし、浮き床の通常使用時の鉛直変位が1~2cm程度以下となるように浮き床の質量とばねの諸元を設定している。
しかし、固有振動数が1Hzの一般的な浮き床では、タテノリ加振振動数が2Hzであると加振力の1/3以上が浮き床を支持する構造躯体に伝達され、大幅な防振効果は期待できない。
【0004】
特許文献1に開示された防振構造では、慣性質量装置を支持ばねおよび減衰要素と並列に設置している。これにより、タテノリ振動での振動障害が問題となる振動数2~4Hzで基礎(構造躯体)に伝達される加振力を概ね1/10以下とすることができ、大幅な防振効果が期待できる。
【0005】
浮き床上からの加振力Fに対する基礎反力Rの比率R/Fを反力倍率とし、慣性質量装置があるケースおよび無いケースそれぞれの加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係(振動数伝達関数)を図6に示す。振動数伝達関数は、調和振動(正弦波振動)を対象として、加振力の振幅に対する反力の振幅比を振動数毎に下記条件でプロットしたものである。
【0006】
【数1】
【0007】
ここでは、慣性質量装置があるケースおよび無いケースともに、共振時の過大な応答を抑制するため、減衰定数h=0.05の減衰要素を付加した防振構造のモデルに対して検討する。
慣性質量装置があるケースおよび無いケースともに、浮き床の質量と支持ばね剛性から決定される固有振動数f=1.0Hzとする。慣性質量装置があるケースでは、慣性質量比μ=0.17とする。
【0008】
図6より、慣性質量装置があるケースでは、加振振動数2~3Hzの基礎反力Rが大きく低減され、加振振動数2~4Hzで反力倍率R/Fが概ね1/10以下になることがわかる。
慣性質量装置が無いケース(一般的な防振構造)と、慣性質量装置があるケース(特許文献1の防振構造)とを比較すると、慣性質量装置があるケースでは、特定の振動数領域(タテノリ振動が問題となる2~3.5Hz)で反力倍率を大きく低下させ防振性能を向上させることがわかる。例えば、タテノリ加振振動数2Hzにおける反力倍率は、慣性質量装置が無いケースでは0.34で、慣性質量装置があるケースでは0.10である。
【0009】
慣性質量ψを付加することで、慣性質量装置があるケースの固有振動数は、慣性質量装置が無いケースの固有振動数の
【0010】
【数2】
【0011】
となり、慣性質量装置が無いケースよりも長周期化される。このため、図6に示すように、1.0Hz付近にある反力倍率が最大となる共振点は、慣性質量装置があるケースが慣性質量装置が無いケースよりもやや左側にシフトすることになる。
また、減衰を考慮せず慣性質量装置があるケースの反力倍率が最小となる振動数(遮断振動数)は、慣性質量装置が無いケースの固有振動数の
【0012】
【数3】
【0013】
となる(図6で破線が示す2.42Hz)。なお、減衰を考慮した場合、慣性質量装置があるケースの反力倍率が最小となる振動数は2.46Hzである。反力倍率が最小となる振動数は減衰付加により微増する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2008-82541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、高振動数領域(例えば3.5Hz以上)では、慣性質量装置があるケースの方が、慣性質量装置が無いケースよりも反力倍率が大きくなり、防振効果が劣ってしまうという問題がある。
【0016】
そこで本発明は、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させつつ、ジャンプなどの衝撃加振などによる高振動数成分も低下させることができる防振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明に係る防振構造は、構造体と、前記構造体の上に設けられた第1ばね要素と、前記第1ばね要素を介して前記構造体の上に設けられた第1振動体と、前記第1振動体の上に設けられた第2ばね要素と、前記第2ばね要素を介して前記第1振動体の上に設けられた第2振動体と、前記第1振動体と前記第2振動体との間に前記第2ばね要素と並列に設けられ慣性質量を付与する慣性質量装置と、を有し、前記第1振動体の質量は、前記第2振動体の質量以上に設定され、前記第1ばね要素のばね剛性は、前記第2ばね要素のばね剛性よりも小さく設定され、前記慣性質量装置は、下式のように設定されることを特徴とする。
【0018】
【数4】
【0019】
本発明では、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させることができるとともに、ジャンプによる衝撃加振などによって生じる高振動数成分に対しても反力倍率を大きく低下させることができ、優れた防振特性を実現できる。
第2ばね要素は、第2振動体を支持するだけであるため、第1振動体および第2振動体を支持する第1ばね要素よりも支持荷重が小さい。第2ばね要素は、ばね剛性が第1ばね要素のばね剛性よりも大きいとともに、支持荷重が第1ばね要素よりも小さいため、第2ばね要素の撓みを第1ばね要素の撓みよりも小さくすることができる。これにより、第2ばね要素に安価なばね装置を用いることができる。
また、第2ばね要素の変形が僅かとなると、本発明の防振構造の固有振動数は概ね第1振動体の質量、第2振動体の質量および第1ばね要素のばね剛性で決定される。共振振動数(固有振動数)と大きな防振効果が得られる遮断振動数との比が小さくなるため、第1ばね要素のばね剛性を増して第1振動体の揺れを抑制できる。
第2ばね要素の変形が小さいことにより、これと並列する慣性質量装置に生じる変形も小さくなる。このため、慣性質量装置を、ストロークが小さいコンパクトで安価な装置とすることができる。
【0020】
また、本発明に係る防振構造では、前記第1振動体と前記第2振動体との間に前記第2ばね要素と並列に設けられた減衰要素を有していてもよい。
このような構成とすることにより、共振を抑えることができる。
【0021】
また、本発明に係る防振構造では、前記慣性質量装置は、回転慣性質量ダンパであってもよい。
このような構成とすることにより、慣性質量装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させつつ、ジャンプなどの衝撃加振などによる高振動数成分も低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態による防振構造の一例を示す模式図である。
図2】慣性質量装置の一例を示す模式図である。
図3】本実施形態による防振構造の加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
図4】本実施形態による防振構造、および本実施形態による防振構造と第1支持ばねのばね剛性と第2支持ばねのばね剛性との比が異なる防振構造の加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
図5】本実施形態による防振構造、および本実施形態による防振構造と慣性質量が異なる防振構造の加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
図6】従来の防振構造の加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態による防振構造について、図1図2に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による防振構造1は、構造体2と、構造体2の上方に設置された第1浮き床3(第1振動体)と、第1浮き床3の上方に設置された第2浮き床4(第2振動体)と、構造体2と第1浮き床3との間に介在する第1支持ばね5(第1ばね要素)と、第1浮き床3と第1浮き床3との間に介在する第2支持ばね6(第2ばね要素)と、構造体2と第1浮き床3との間に介在する第1減衰要素7と、第1浮き床3と第2浮き床4との間に介在する慣性質量装置8と、第1浮き床3と第2浮き床4との間に介在する第2減衰要素9と、を有している。
本実施形態による防振構造1は、例えば、大規模な音楽ホールなどの建物に採用され、第2浮き床4の上部に人や物が載るようになっている。防振構造1では、第2浮き床4の上部で多人数客が曲に合わせて屈伸運動するなどして第2浮き床4が加振された際に、第2浮き床4に鉛直振動(いわゆるタテノリ振動)が生じることを想定している。
【0025】
構造体2は、例えば、基礎などで、RC造で構築されている。構造体2は、上方に開口する凹部21が形成されている。構造体2は、凹部21の下側となる基礎部22と、凹部21の側方に位置する側壁部23と、を有している。
基礎部22の上面は水平面に形成されている。
第1浮き床3および第2浮き床4は、それぞれ平板状に形成され、板面が水平面となる向きで構造体2の凹部21に配置されている。第1浮き床3は基礎部22の上方に重なって配置され、第2浮き床4は、第1浮き床3の上方に重なって配置されている。
【0026】
第1浮き床3は、基礎部22の上方に第1支持ばね5および第1減衰要素7を介して配置されている。第1支持ばね5と第1減衰要素7とは並列に設けられている。第1支持ばね5は、ばね軸方向が上下方向となる向きに配置されている。
第1浮き床3は、構造体2に対して第1支持ばね5および第1減衰要素7の変形可能範囲において上下方向に変位可能に構成されている。
【0027】
第2浮き床4は、第1浮き床3の上方に第2支持ばね6、慣性質量装置8および第2減衰要素9を介して配置されている。第2支持ばね6、慣性質量装置8および第2減衰要素9は並列に設けられている。第2支持ばね6は、ばね軸方向が上下方向となる向きに配置されている。
第2浮き床4は、構造体2に対して上下方向に変位可能に構成されているとともに、第1浮き床3に対して第2支持ばね6および慣性質量装置8の変形可能範囲において上下方向に変位可能に構成されている。
【0028】
第1浮き床3の質量Mは、第2浮き床4の質量M以上に設定されている(M≧M)。
第1支持ばね5のばね剛性kは、第2支持ばね6のばね剛性kよりも小さく設定されている(K<K)。
第2支持ばね6は、第1支持ばね5よりも変位が小さく、更に第1支持ばね5よりも支持荷重が小さいため、本実施形態では、第1支持ばね5よりも軽微なばねが用いられている。
【0029】
図2に示すように慣性質量装置8は、いわゆる回転慣性質量ダンパで、直動変位(鉛直変位)をボールねじ機構81などにより回転変位に変換し回転錘82(フライホイール)を回転させる仕組みとなっている。慣性質量装置8は、回転錘82の質量に対し数百倍~数千倍もの大きな慣性質量を付与することができる。
慣性質量装置8の負担力は、回転錘82の直径D、質量m、リードL、装置負担力P、変位X、錘回転角θ、慣性質量ψとすると、下式で表される。
【0030】
【数5】
【0031】
回転錘82の密度ρ、厚さt、回転慣性モーメントIθとすると、下式となり、慣性質量ψは錘径の4乗に比例する。
【0032】
【数6】
【0033】
慣性質量装置8は、以下のように設定される。
慣性質量装置8が設けられていない(慣性質量ψが無い)場合の防振構造1の固有振動数をfとする。反力倍率を大きく低下させたい特定の振動数領域の下限振動数をfminとし、上限振動数をfmaxとする。kは、第2支持ばね6のばね剛性である。
慣性質量装置8は、下式を満足するように設定される。
【0034】
【数7】
【0035】
なお、fminとfmaxの中間にある式は、図6で説明した遮断振動数となる。
【0036】
上記の本実施形態の防振構造1の諸元の一例を下記に示す。
第1浮き床3の質量M=0.75M
第2浮き床4の質量M=0.25M
第1支持ばね5の剛性k=k
第2支持ばね6の剛性k=2k
慣性質量ψを除いた防振構造1の固有振動数f=0.98Hz
基礎部22と第1浮き床3との間の第1減衰要素7の減衰係数c=1.2c
第1浮き床3と第2浮き床4との間の第2減衰要素9の減衰係数c=c
慣性質量ψ=0.48M
【0037】
これらの諸元は、下記の式から設定している。
【0038】
【数8】
【0039】
ここでは低振動数領域の防振効果を重視するため、ψ/M=0.48とした。
なお、減衰c=0での反力倍率が極小化される遮断振動数は、以下となる。
【0040】
【数9】
【0041】
減衰cを付与した場合は2.06Hzとなり、減衰cを考慮しない場合よりも微増する。
【0042】
第2浮き床4上からの加振力Fに対する基礎部22の反力Rの比率R/Fを反力倍率とする。
本実施形態による防振構造の加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係(振動数伝達関数)を図3に示す。なお、図3には、図6に示す従来の防振構造の慣性質量装置があるケースおよび無いケースそれぞれの加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係(振動数伝達関数)についても表記している。
【0043】
本実施形態の防振構造1によれば、2Hz以上の全振動数領域で反力倍率は概ね0.1以下となり、タテノリ振動が問題となる特定の振動数領域(2~3.5Hz)において慣性質量ψが無い一般的な浮き床より大幅に反力低減できるとともに、高振動数領域でも慣性質量ψが無い場合より反力が増大することがない。
【0044】
第1支持ばね5および第2支持ばね6の剛性比率が異なる場合の比較を図4に示す。
第1支持ばね5の剛性k、第2支持ばね6の剛性kとの比を以下の3ケースとした場合を比較する。
=kの場合(図4において一点鎖線で示す)は、防振特性は優れるが、加振対象物が載荷されたときの撓みがk=2kの2倍になる。
=2kの場合(図4において実線で示す)は、上述したように、2Hz以上の全振動数領域で反力倍率は概ね0.1以下となり、タテノリ振動が問題となる特定の振動数領域(2~3.5Hz)において慣性質量ψが無い一般的な浮き床より大幅に反力低減できるとともに、高振動数領域でも慣性質量ψが無いの場合より反力が増大することがない。
=3kの場合(図4において2点鎖線で示す)では、防振効果を発揮したい特定の振動数領域において反力倍率が0.1より大きくなる。
いずれのケースにおいても、慣性質量ψが無い一般的な浮き床より大幅に反力低減できるとともに、高振動数領域でも慣性質量ψが無い場合より反力が増大することがない。
【0045】
第2支持ばね6に並列する慣性質量ψが異なる場合の比較を図5に示す。
ψ=0.3Mの場合(図5において一点鎖線で示す)は、2.5Hz以上の高振動数領域での防振特性は優れるが、2.5Hz以下では上記の実施形態による防振構造1よりも防振特性が劣る。
ψ=0.48Mの場合(図5において実線で示す)は、上記のk=2kの場合と同じである。
ψ=0.7Mの場合(図5において二点鎖線で示す)は、1.5Hz以上で防振効果を発揮するが、2~3Hzで反力倍率が0.1より大きくなる。
以上より、慣性質量ψを調整することで、防振効果を発揮する振動数領域が変化することがわかる。
いずれのケースも高振動数領域では、慣性質量ψがない一般的な浮き床より反力が小さくなる。
【0046】
次に、上記の実施形態による防振構造1の作用・効果について説明する。
上記の実施形態による防振構造1では、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させることができるとともに、ジャンプによる衝撃加振などによって生じる高振動数成分に対しても反力倍率を大きく低下させることができ、優れた防振特性を実現できる。なお、慣性質量ψが無い従来の一般的な防振構造1では、共振振動数の2倍の加振振動数での反力を1/3以下にすることはできなかった。
【0047】
第2支持ばね6は、第21浮き床を支持するだけであるため、第1浮き床3および第21浮き床を支持する第1支持ばね5よりも支持荷重が小さい。第2支持ばね6は、ばね剛性kが第1支持ばね5のばね剛性kよりも大きいとともに、支持荷重が第1支持ばね5よりも小さいため、第2支持ばね6の撓みを第1支持ばね5の撓みよりも小さくすることができる。これにより、第2支持ばね6に安価なばね装置を用いることができる。
また、第2支持ばね6の変形が僅かとなると、本発明の防振構造1の固有振動数は概ね第1浮き床3の質量M、第2浮き床4の質量Mおよび第1支持ばね5のばね剛性kで決定される。共振振動数(固有振動数)と大きな防振効果が得られる遮断振動数との比が小さくなるため、第1支持ばね5のばね剛性kを増して第1浮き床3(第1振動体)の揺れを抑制できる。
第2支持ばね6の変形が小さいことにより、これと並列する慣性質量装置8に生じる変形も小さくなる。このため、慣性質量装置8を、ストロークが小さいコンパクトで安価な装置とすることができる。なお、慣性質量ψは小さくならないが、これは装置内にある回転錘82の径の4乗に比例するので、慣性質量ψを大幅に増しても重量増加はわずかで済む。
【0048】
第1支持ばね5に並列する減衰cが小さいほど防振効果が高いが、共振時(検討例では1.0Hz近傍)の反力応答倍率は減衰cに反比例して大きくなる傾向がある。そのため、ここでは共振時の応答倍率を10倍以内になるように諸元を設定したが、防振特性だけに注目するのであれば、もっと減衰cを小さくした方が高性能となる。
第2支持ばね6に並列する減衰cが小さいほど遮断振動数近傍の反力応答倍率を低下させることができるが、第1支持ばね5、第2支持ばね6や慣性質量装置8の摩擦等を考慮し、無理なく実現できるやや大きめの減衰cを設定した。
【0049】
上記の実施形態による防振構造1では、構造体2と第1浮き床3との間に第1支持ばね5と並列に設けられた第1減衰要素7を有していることにより、共振を抑えることができる。
【0050】
以上、本発明による防振構造1の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、上記の実施形態による防振構造1では、構造体2と第1浮き床3との間に第1減衰要素7が第1支持ばね5と並列に設けられているが、第1減衰要素7は設けられていなくてもよい。第1浮き床3と第2浮き床3との間に第2減衰要素9が第2支持ばね6および慣性質量装置8と並列に設けられているが、第2減衰要素9は設けられていなくてもよい。
また、上記の実施形態では、慣性質量装置8は、回転慣性質量ダンパであるが、回転慣性質量ダンパ以外の慣性質量装置8であってもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 防振構造
2 構造体
3 第1浮き床(第1振動体)
4 第2浮き床(第2振動体)
5 第1支持ばね(第1ばね要素)
6 第2支持ばね(第2ばね要素)
7 第1減衰要素
8 慣性質量装置
9 第2減衰要素(減衰要素)
図1
図2
図3
図4
図5
図6