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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】PC鋼材の緊張力調整方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20230926BHJP
   E04C 5/12 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
E04G21/12 104B
E04G21/12 104A
E04C5/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019238238
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021105326
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514250078
【氏名又は名称】中日本高速技術マーケティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮介
(72)【発明者】
【氏名】細居 清剛
(72)【発明者】
【氏名】荒木 茂
(72)【発明者】
【氏名】野田 一成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 唯史
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-256764(JP,A)
【文献】特開昭58-127866(JP,A)
【文献】特開2011-043025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D1/00-24/00
E04C5/00-5/20
E04G21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力を調整する緊張力調整方法であって、
前記PC鋼材の端部は略直方体形状のコンクリート製定着装置が備える定着具により定着され、前記コンクリート製定着装置は前記PC鋼材の長手方向における前記定着具が設けられた面の反対側の面に接続用PC鋼材が接続可能に構成され、
前記コンクリート製定着装置に前記接続用PC鋼材を接続する接続ステップと、
前記PC鋼材の長手方向における前記接続用PC鋼材が接続された側において、前記定着具と同じ緊張方向になるように中間定着具を前記PC鋼材に取り付ける取付ステップと、
前記PC鋼材の長手方向における前記コンクリート製定着装置側から離隔する方向へ前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第一支圧板と油圧ジャッキと前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第二支圧板とをこの順に準備して、前記挿通孔に前記PC鋼材および前記接続用PC鋼材をそれぞれ挿通させるとともに前記第一支圧板の一方の面に前記中間定着具が対向し他の面に前記油圧ジャッキが対向し、前記第二支圧板の一方の面に前記油圧ジャッキが対向し他の面に前記接続用PC鋼材の定着部材が対向するように設置する設置ステップと、
前記接続用PC鋼材を前記油圧ジャッキに連結するジャッキ連結ステップと、
前記第二支圧板における前記油圧ジャッキの逆側において前記接続用PC鋼材を定着部材により定着させる接続PC定着ステップと、
前記油圧ジャッキを用いて、前記中間定着具と前記定着具との間の前記PC鋼材の緊張力を十分に低下させる緊張力低下ステップと、
前記中間定着具と前記定着具との間の緊張力が十分に低下した後に、前記中間定着具と前記定着具との間の任意の位置で前記PC鋼材を切断する切断ステップと、
前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記PC鋼材の緊張力が開放された状態を実現する緊張力開放ステップと、
前記接続用PC鋼材と前記中間定着具と前記第一支圧板と前記第二支圧板と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む、緊張力調整方法。
【請求項2】
前記緊張力低下ステップは、前記中間定着具と前記定着具との間の前記PC鋼材の緊張力が0になるように低下させる、請求項1に記載の緊張力調整方法。
【請求項3】
プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力を調整する緊張力調整方法であって、
前記PC鋼材の端部は略直方体形状のコンクリート製定着装置が備える定着具により定着され、前記コンクリート製定着装置は前記PC鋼材の長手方向における前記定着具が設けられた面の反対側の面に接続用PC鋼材が接続可能に構成され、前記定着具はリングナットを含み、前記リングナットにより前記PC鋼材の緊張力が保持され、
前記コンクリート製定着装置に前記接続用PC鋼材を接続する接続ステップと、
前記PC鋼材の長手方向における前記接続用PC鋼材が接続された側において、前記定着具と同じ緊張方向になるように中間定着具を前記PC鋼材に取り付ける取付ステップと、
前記PC鋼材の長手方向における前記コンクリート製定着装置側から離隔する方向へ前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第一支圧板と油圧ジャッキと前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第二支圧板とをこの順に準備して、前記挿通孔に前記PC鋼材および前記接続用PC鋼材をそれぞれ挿通させるとともに前記第一支圧板の一方の面に前記中間定着具が対向し他の面に前記油圧ジャッキが対向し、前記第二支圧板の一方の面に前記油圧ジャッキが対向し他の面に前記接続用PC鋼材の定着部材が対向するように設置する設置ステップと、
前記接続用PC鋼材を前記油圧ジャッキに連結するジャッキ連結ステップと、
前記第二支圧板における前記油圧ジャッキの逆側において前記接続用PC鋼材を定着部材により定着させる接続PC定着ステップと、
前記油圧ジャッキを用いて、前記中間定着具と前記定着具との間の前記PC鋼材の緊張力を前記リングナットが回転可能な状態まで低下させる緊張力低下ステップと、
予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力が減少するように、前記リングナットを緩めるリング緩めステップと、
前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記PC鋼材の緊張力が減少された状態を実現する緊張力減少ステップと、
前記接続用PC鋼材と前記中間定着具と前記第一支圧板と前記第二支圧板と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む、緊張力調整方法。
【請求項4】
前記緊張力減少ステップにおいて前記PC鋼材の緊張力が0である状態を実現する場合には、前記リング緩めステップにおいて前記リングナットを緩めて取り外す、請求項3に記載の緊張力調整方法。
【請求項5】
前記設置ステップにおいて、ピストンが前記PC鋼材の緊張力の開放または減少に対応した状態に設定された前記油圧ジャッキが設置される、請求項1~請求項4のいずれかに記載の緊張力調整方法。
【請求項6】
前記コンクリート製定着装置は、前記PC鋼材の長手方向における前記定着具が設けられた側に前記油圧ジャッキを設置するスペースを備えず、その反対側に前記油圧ジャッキを設置するスペースを備える、請求項1~請求項5のいずれかに記載の緊張力調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、PC鋼材に付与されている緊張力を調整(以下においては緊張力を0(ゼロ)に調整することにより緊張力を開放することを含む)することのできる技術に関し、特に、作業空間(作業スペース)が狭くても好ましくPC鋼材に付与される緊張力を調整することのできる技術に関する。なお、本発明において、PC鋼材には、PC鋼線およびPC鋼より線を含む。また、本発明は、プレストレストコンクリート構造物のうち、特にコンクリートに埋設されない(補強用)外ケーブルを用いた外ケーブル方式に適用されることが好ましいためにそのような実施の形態について説明するが、本発明がこのような外ケーブルに限定されて適用されるものではない。
【背景技術】
【0002】
PC鋼線またはPC鋼より線から構成されるPC鋼材(PCケーブル)を定着する最も一般的なPC定着システムは、コンクリート内に埋め込まれたキャスティングブロックとアンカーヘッドとから構成されている。PC鋼線またはPC鋼より線は、緊張後、それぞれくさびによりアンカーヘッドに固定され、キャスティングブロックに設けられたグラウト孔より、キャスティングブロックおよびシース内にグラウトを充填して定着を完了する。
【0003】
このような定着作業におけるくさび定着(ウェッジ(くさび)とテーパー孔を備えたスリーブとからなる定着具(定着グリップ)を用いてウェッジ内周でPC鋼線を噛み込ませ、ウェッジ外周とスリーブのテーパー孔とで固定して定着)では、ウェッジは緊張時にはスリーブの外側に突出しているが、定着時にジャッキの引張荷重を解放(除荷)すると、PC鋼より線の戻り(緩み)によりウェッジがスリーブ内にめり込んでセット量が発生し、その分だけプレストレスの減少(セットロス)が発生する。このセットロスは、PC鋼より線の長さ(部材長)が短ければ短いほど影響が大きく、設計プレストレスに対する割合も大きく、設計プレストレスの導入が困難となる場合もある。このため、このセット量を補正する作業が必要となる。この補正作業の方式として、本願出願人を含み特許出願されて特許第6131292号公報(特許文献1)として登録公報が発行された以下の技術が公知である。
【0004】
この特許文献1に開示されたセット量補正治具は、緊張・定着作業においてセット量が発生したPC構造物において、重量の大きい油圧ジャッキを繰返し脱着する労力を軽減しつつ、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することのできることを目的として、以下の構成を備える。このセット量補正治具は、PC鋼材を1次緊張してPC構造物に圧縮力を付与するために使用されるとともに前記PC鋼材のセット量をリングナットにより補正する2次緊張のために使用される油圧ジャッキの先端に取り付けられる、本体部と固定リングと可動リングとを含むPC鋼材のセット量補正治具であって、前記本体部は、前記PC鋼材を通す中心穴を備えた略中空円筒形状であって、支圧板側にリングナットを備えた定着具と前記PC鋼材の軸芯を対称中心とした形状の固定リングおよび可動リングとを収納して、反支圧板側に前記油圧ジャッキが取り付けられ、前記固定リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転不可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の固定支圧部を備え、前記可動リングは、前記本体部の中空円筒内面に前記軸芯周りに回転可能に設けられ、前記軸芯を中心とした所定の中心角の部分に軸心方向に同じ厚みの複数の可動支圧部を備え、前記可動リングは、前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合う1次緊張状態から前記可動リングを前記軸芯周りに回転させることにより前記固定支圧部と前記可動支圧部とが重なり合わない2次緊張状態へ遷移させるための回転棒を装着する穴部をリング外周面に備え、前記本体部は、前記穴部に装着した回転棒を前記軸芯周りに回転させる部分の外周面が切り欠かれていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6131292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献1に開示されたセット量補正治具は、重量の大きい油圧ジャッキを繰返し脱着する労力を軽減しつつ、狭小位置において容易な作業で作業工数を削減してセット量を補正することのできる点で非常に効果が高く好評を得ている。
ところで、PC構造物に圧縮力を付与するためのPC鋼材の緊張力には、PC構造物の種類およびPC鋼材の種類等により様々な大きさ(緊張荷重値)が存在することはいうまでもない。特に、小さな緊張力をPC鋼材に付与する場合、正確に緊張力をPC鋼材に付与する場合には、以下の課題が発生する。
【0007】
<課題1>低緊張力では十分な定着性能が発揮できない
くさび式定着具において、施工時に導入する緊張力が小さい場合にはくさび歯形の食い込みが浅いため、衝撃的な力に対して十分な定着性能を発揮できない可能性がある。
これに対して、低緊張力におけるくさび歯型の食い込みを深くするために、通常の張力(>低緊張力)で緊張した後に低緊張力にするために緊張材の伸び量を戻すためにくさびを外して伸び量を戻してしまうと、新たな位置において低張力で定着するために、結局はくさび歯型の食い込みが浅くなる。
【0008】
<課題2>張力の微調整が困難である
緊張材を緊張機器により所定の引張力で引き込んでも,その緊張力をくさび式定着具に移行する過程で発生するくさびの食い込み量(セットロス)により緊張力が低減し、かつ、その食い込み量は緊張力、緊張材・定着具個体でもわずかに異なるために所定の引張力に調整することが難しい。
【0009】
<課題3>供用時でも緊張材の余長を残す必要がある
緊張材に導入された緊張力を開放(開放とは緊張力を0(ゼロ)に調整することであるため緊張力の開放とは緊張力の調整に含まれるものである)するためには緊張材の余長を残す必要があり、供用時に定着部分が長くなる。また、くさび式定着具で緊張力を開放するためにはくさびを外すためにさらに緊張して伸ばす必要があるが、導入済みの緊張力が大きい場合はくさびを動かすだけの伸び量を確保できないために緊張力の開放ができない。
【0010】
さらに、限定されるものではないが、上記<課題1>に関連して、プレストレストコンクリート構造の中でコンクリートに埋設されない(後付けの)外ケーブルを用いた外ケーブル方式と呼ばれる技術がある。この外ケーブル方式とは、防錆処理を施した緊張材(PC鋼材)をPC構造物の外部に配置して、定着部(スリーブ、ウェッジ、アンカープレートからなる定着具により外ケーブルを緊張・固定する)および偏向部(PC構造物に取り付けられた偏向具により外ケーブルの位置を保持するとともに偏向させる)によりプレストレス力を付与する構造の総称である。このような、PC構造物であるPC橋梁(所定のプレストレス力が付与)にこの外ケーブル方式を採用して外ケーブルに低緊張力を付与しておいて、PC構造物自体が変形したときに、この外ケーブルの緊張力が自然に高まり、PC構造物にプレストレス力を付与してPC構造物を補強するためのケーブルとして機能する。このような外ケーブルはPC構造物の施工時には低緊張力で定着するために、上述した<課題1>が発生する。
【0011】
<課題4>緊張時よりも大きな作業空間(作業スペース)が必要である
緊張材に導入された緊張力を調整(開放を含む)するためには、通常は反力架台(チェア)を使用する必要があり、緊張時に対して油圧ジャッキに加えて反力架台も使用するために大きな作業空間が必要となる。
さらに、限定されるものではないが、上記<課題4>に関連して、上述した外ケーブル方式において外ケーブルの緊張力を調整する場合には外ケーブルを緊張・固定する定着部側に大きな作業空間が存在しないことが多く、反力架台および油圧ジャッキを設置することは現実的に不可能なことがある。
【0012】
本発明は、従来技術の上述の問題点(課題)に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、反力架台を使用しないことに起因して大きな作業空間を必要としないでPC鋼材に付与されている緊張力を調整することのできる調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明のある局面に係るPC鋼材の緊張力調整方法は、プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力を調整する緊張力調整方法であって、前記PC鋼材の端部は略直方体形状のコンクリート製定着装置が備える定着具により定着され、前記コンクリート製定着装置は前記PC鋼材の長手方向における前記定着具が設けられた面の反対側の面に接続用PC鋼材が接続可能に構成され、前記コンクリート製定着装置に前記接続用PC鋼材を接続する接続ステップと、前記PC鋼材の長手方向における前記接続用PC鋼材が接続された側において、前記定着具と同じ緊張方向になるように中間定着具を前記PC鋼材に取り付ける取付ステップと、前記PC鋼材の長手方向における前記コンクリート製定着装置側から離隔する方向へ前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第一支圧板と油圧ジャッキと前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第二支圧板とをこの順に準備して、前記挿通孔に前記PC鋼材および前記接続用PC鋼材をそれぞれ挿通させるとともに前記第一支圧板の一方の面に前記中間定着具が対向し他の面に前記油圧ジャッキが対向し、前記第二支圧板の一方の面に前記油圧ジャッキが対向し他の面に前記接続用PC鋼材の定着部材が対向するように設置する設置ステップと、前記接続用PC鋼材を前記油圧ジャッキに連結するジャッキ連結ステップと、前記第二支圧板における前記油圧ジャッキの逆側において前記接続用PC鋼材を定着部材により定着させる接続PC定着ステップと、前記油圧ジャッキを用いて、前記中間定着具と前記定着具との間の前記PC鋼材の緊張力を十分に低下させる緊張力低下ステップと、前記中間定着具と前記定着具との間の緊張力が十分に低下した後に、前記中間定着具と前記定着具との間の任意の位置で前記PC鋼材を切断する切断ステップと、前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記PC鋼材の緊張力が開放された状態を実現する緊張力開放ステップと、前記接続用PC鋼材と前記中間定着具と前記第一支圧板と前記第二支圧板と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む。
【0014】
好ましくは、前記緊張力低下ステップは、前記中間定着具と前記定着具との間の前記PC鋼材の緊張力が0(ゼロ)になるように低下させるように構成することができる。
本発明の別の局面に係るPC鋼材の緊張力調整方法は、プレストレストPC構造物に圧縮力を付与しているPC鋼材の緊張力を調整する緊張力調整方法であって、前記PC鋼材の端部は略直方体形状のコンクリート製定着装置が備える定着具により定着され、前記コンクリート製定着装置は前記PC鋼材の長手方向における前記定着具が設けられた面の反対側の面に接続用PC鋼材が接続可能に構成され、前記定着具はリングナットを含み、前記リングナットにより前記PC鋼材の緊張力が保持され、前記コンクリート製定着装置に前記接続用PC鋼材を接続する接続ステップと、前記PC鋼材の長手方向における前記接続用PC鋼材が接続された側において、前記定着具と同じ緊張方向になるように中間定着具を前記PC鋼材に取り付ける取付ステップと、前記PC鋼材の長手方向における前記コンクリート製定着装置側から離隔する方向へ前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第一支圧板と油圧ジャッキと前記PC鋼材の挿通孔および前記接続用PC鋼材の挿通孔を備えた第二支圧板とをこの順に準備して、前記挿通孔に前記PC鋼材および前記接続用PC鋼材をそれぞれ挿通させるとともに前記第一支圧板の一方の面に前記中間定着具が対向し他の面に前記油圧ジャッキが対向し、前記第二支圧板の一方の面に前記油圧ジャッキが対向し他の面に前記接続用PC鋼材の定着部材が対向するように設置する設置ステップと、前記接続用PC鋼材を前記油圧ジャッキに連結するジャッキ連結ステップと、前記第二支圧板における前記油圧ジャッキの逆側において前記接続用PC鋼材を定着部材により定着させる接続PC定着ステップと、前記油圧ジャッキを用いて、前記中間定着具と前記定着具との間の前記PC鋼材の緊張力を前記リングナットが回転可能な状態まで低下させる緊張力低下ステップと、予め定められた緊張力まで前記PC鋼材の緊張力が減少するように、前記リングナットを緩めるリング緩めステップと、前記油圧ジャッキによる緊張力を開放して、前記PC鋼材の緊張力が減少された状態を実現する緊張力減少ステップと、前記接続用PC鋼材と前記中間定着具と前記第一支圧板と前記第二支圧板と前記油圧ジャッキとを取り外す取り外しステップと、を含む。
【0015】
好ましくは、前記実現ステップにおいて前記PC鋼材の緊張力が0である状態を実現する場合には、前記リング緩めステップにおいて前記リングナットを緩めて取り外すように構成することができる。
さらに好ましくは、前記設置ステップにおいて、ピストンが前記PC鋼材の緊張力の開放または減少に対応した状態に設定された前記油圧ジャッキが設置されるように構成することができる。
【0016】
さらに好ましくは、前記コンクリート製定着装置は、前記PC鋼材の長手方向における前記定着具が設けられた側に前記油圧ジャッキを設置するスペースを備えず、その反対側に前記油圧ジャッキを設置するスペースを備えるように構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法によれば、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、反力架台を使用しないことに起因して大きな作業空間を必要としないでPC鋼材に付与されている緊張力を調整することのできる調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法が好ましく適用されるプレストレストPC橋100の補強例を示す図である。
図2図1に示すコンクリート製定着装置(定着部200)の断面図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順11および手順12を説明するための側面図である。
図4】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順13および手順14を説明するための側面図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順15および手順16を説明するための側面図である。
図6】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法が好ましく適用されるプレストレストPC橋100の補強例を示す図である。
図7図6に示すコンクリート製定着装置(定着部202)の断面図である。
図8】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順21および手順22を説明するための側面図である。
図9】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順23および手順24を説明するための側面図である。
図10】本発明の第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法の手順25および手順26を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るPC鋼材の緊張量調整方法(以下、単に緊張量調整方法または調整方法と記載する場合がある)を、図面に基づき詳しく説明する。ここで、全ての図面について、断面図でない部位に断面が示されている場合、断面図である部位に外観が示されている場合、断面図を示す部位が図面間で一致していない場合、手前の部材が描かれておらず透視しているように奥側の部材が示されている場合等を含むことがあるが、これらは本発明の実施の形態に係る調整方法を容易に理解して本発明の十分な理解に繋げるためであって、基本的にはハッチングを伴わない断面図または透視図で本発明に係る部材を示している。また、本発明とは特段に関係しない、防錆のためのキャップ、パッキン、シーリング等については図示していないものがある。
【0020】
なお、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法は、プレストレスをコンクリート躯体に導入する施工時の新設PC構造物のPC鋼材の緊張力を調整する場合にも、プレストレスをコンクリート躯体に導入して供用時の既設PC構造物のPC鋼材の緊張力を調整する場合にも、好適に適用することができる。
また、本発明におけるPC鋼材は、複数の鋼線から構成されるPC鋼線またはPC鋼より線であればよく、複数の鋼線の1本は、さらに細い複数の鋼線から構成されるより線であっても単一の鋼線であっても構わない。
【0021】
さらに、以下においては、おねじ、オネジ、雄ねじ、雄ネジ、外ねじ、外ネジを区別しないで記載するとともに、めねじ、メネジ、雌ねじ、雌ネジ、内ねじ、内ネジを区別しないで記載することがある。
【0022】
[適用事例の一例]
発明が解決しようとする課題でも説明したように、本発明の適用が限定されるものではないが、本発明に係る緊張力調整方法は、プレストレストコンクリート構造の中でコンクリートに埋設されない(後付けの)外ケーブルを用いた外ケーブル方式に好ましく適用される。このような外ケーブルを緊張力調整の対象として、本発明に係るPC鋼材の張力調整方法の一例として第1の実施の形態を図3図5に示す手順11~手順16で説明して、本発明に係るPC鋼材の張力調整方法の別の一例として第2の実施の形態を図8図10に示す手順21~手順26で説明する。これらの2つの調整方法を説明する前に、第1の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法が好ましく適用されて補強されるプレストレストPC橋について図1および図2を参照して、第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法が好ましく適用されて補強されるプレストレストPC橋について図6および図7を参照して、それぞれ説明する。なお、(図3図5に示すPC鋼材の緊張力調整方法が好ましく適用される一例を示す)図1および図2と、(図7図10に示すPC鋼材の緊張力調整方法が好ましく適用される一例を示す)図6および図7とでは、図6および図7にはリングナット1300を備えるが図1および図2ではリングナット1300を備えない点、および、鋼管付きアンカープレート500の内径が異なる点が相違している。これらの相違点以外は基本的に図1および図2図6および図7とでは同じ構成を備え、同じ構成には同じ符号を付して、同じ説明は繰り返していない。ここで、鋼管付きアンカープレート500は、鋼管510の端部に支圧板として機能するアンカープレート520(このアンカープレート520を単に支圧板520と記載する場合がある)を備えるものである。
【0023】
図1および図2ならびに図6および図7を参照して、プレストレストPC橋100の補強例をこの外ケーブル方式により施工する事例について説明する。図1(A)および図6(A)は補強対象のプレストレストPC橋100および外ケーブルである緊張材(PC鋼材300)を含む外ケーブル方式による補強方式を示す側面図、図1(B)および図6(B)はその正面図、図1(C)および図6(C)は図1(A)における1C部分の拡大側面図および図6(A)における6C部分の拡大側面図である。また、図2図1に示すコンクリート製定着装置(定着部200)の断面図であって、図7図6に示すコンクリート製定着装置(定着部202)の断面図である。なお、これらの図においては、1つの略直方体形状のコンクリート製定着装置(図1および図2における定着部200、図6および図7における定着部202)に対して、緊張力調整方法の対象であるPC鋼材300が図1(B)および図6(B)における左右方向に2本、接続用PC鋼材810が図1(B)および図6(B)における左右上下方向に4本接続可能に構成されているが、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法はこれらの本数に限定されるものではない。特に、後述する図3図5および図8図10を参照したPC鋼材の緊張力調整方法においては、1本のPC鋼材300を2本の接続用PC鋼材810を用いてPC鋼材300の張力を調整(開放を含む)している。
【0024】
これらの図に示すように、プレストレストPC橋100の補強する外ケーブル方式は、防錆処理を施した外ケーブルである緊張材(PC鋼材300)をPC構造物(プレストレストPC橋100)の外部に配置して、定着部200または定着部202(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520からなり外ケーブル(PC鋼材300)を緊張・固定するが定着部202はこれらに加えてリングナット1300を備える)および偏向部400(プレストレストPC橋100に取り付けられ外ケーブルの位置を保持するとともに偏向させる)によりプレストレス力を付与する。このような、PC構造物であるプレストレストPC橋100(所定のプレストレス力が付与)にこの外ケーブル方式を採用して外ケーブルに低緊張力を付与しておいて、PC構造物であるプレストレストPC橋100自体が変形したときに(たとえば下側に撓んだときに)、この外ケーブルの緊張力が自然に高まり、PC構造物であるプレストレストPC橋100にプレストレス力を付与して補強する。このような外ケーブルはPC構造物であるプレストレストPC橋100の施工時には低緊張力で定着しておいて、供用開始後にプレストレストPC橋100自体が変形したときに(たとえば下側に撓んだときに)緊張材(PC鋼材300)が(施工時には低緊張力で定着されているために緊張力に余裕があるために)破断することなく、引張強度等の規格内の所定の緊張力が付与されることによりプレストレストPC橋100を補強する。
【0025】
なお、図1(C)および図6(C)においては、外ケーブルである緊張材(被覆材302で覆われたPC鋼材300)の端部には様々な防錆処理部材が実際には取付けられているが、本発明に係るPC鋼材の緊張力調整方法として後述する第1の実施を説明するための図3図5および第2の実施を説明するための図8図10においては、このような防錆処理部材が取り付けられる前の状態からの緊張力調整方法、または、取り外されている状態からの緊張力調整方法を説明する。
【0026】
図1および図2ならびに図6および図7に示すように、緊張力調整方法の対象であるPC鋼材300の端部は略直方体形状のコンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)が備える定着具(定着部200においてはスリーブ1100とウェッジ1200とアンカープレート520とを備え、定着部202はこれらに加えてリングナット1300をさらに備える)により定着されている。
【0027】
ここで、コンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)は、PC鋼材300の長手方向における定着具(定着部200においてはスリーブ1100とウェッジ1200とアンカープレート520とを備え、定着部202はこれらに加えてリングナット1300を備える)が設けられた側に油圧ジャッキ700(ならびに接続用PC鋼材810、中間定着具900、第一支圧板910および第二支圧板920)を設置するスペースを備えず、その反対側に油圧ジャッキ700(ならびに接続用PC鋼材810、中間定着具900、第一支圧板910および第二支圧板920)を設置するスペースを備える。
【0028】
このコンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)はPC鋼材300の長手方向における定着具が設けられた面(図1および図2ならびに図6および図7における右側)の反対側(図1および図2ならびに図6および図7における左側)の面に接続用PC鋼材810が接続可能に構成される。より具体的には図2および図7に示すように、コンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)は、PC鋼材300の長手方向における定着具が設けられた面の反対側(図1および図2ならびに図6および図7における左側)の面に接続用PC鋼材810が接続できるように埋設定着部800が予め埋め込まれて設けられている。この埋設定着部800は、一例であるが、定着ナット802、支圧板804、PC鋼材で構成された埋設緊張材806および接続カプラ808で構成される。たとえば、接続カプラ808の内周面に設けられた雌ネジに接続用PC鋼材810の外周に設けられた雄ネジを螺合させることにより、コンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)に接続用PC鋼材810が接続される。
【0029】
ここで、第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法が適用されるコンクリート製定着装置(定着部202)が備えるリングナット1300について説明する。このリングナット1300は、たとえば、円環形状を備え、PC鋼材を1次緊張した後のセット量の補正のための治具である(セット量補正としてリングナット方式が採用)。コンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)においてPC鋼材300は、PC鋼材300の長手方向に垂直な面から見て2個以上のウェッジ片に分割されたウェッジ(くさび)、略中空円筒形状であって内周面にウェッジに組み合わせられるテーパー孔を備えたスリーブとにより定着されており、定着部202が備え定着部200が備えないリングナット1300は、スリーブの外周面に備えられた雄ねじに螺合する雌ねじが略円環形状のリングナット1300の内周に設けられ、スリーブと螺合させること、および、PC鋼材300の長手方向に移動可能に設けられている。
【0030】
なお、特許文献1(特許第6131292号公報)に開示されたセット量補正治具を必ずしも用いる必要はないもののリングナットは第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法には必要不可欠である。第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法を実施する前には、通常は、特許文献1(特許第6131292号公報)に開示されたセット量補正治具を用いて、緊張力調整対象のPC鋼材は、1次緊張した後にリングナットを支圧板に当接させて2次緊張してPC鋼材のセット量が補正されている。ここで、後述する第2の実施の形態に係るPC鋼材の緊張力調整方法によりセット量の補正も可能であるために、リングナット(および支圧板)は必要不可欠であるが、2次緊張は必要不可欠ではない。
【0031】
このように上述したコンクリート製定着装置(定着部200、定着部202)が備える治具(スリーブ1100、ウェッジ1200、鋼管付きアンカープレート500、リングナット1300)、埋設定着部800が備える治具(定着ナット802、支圧板804、埋設緊張材806、接続カプラ808)、油圧ジャッキ700、接続用PC鋼材810、第一支圧板910および第二支圧板920は、公知の治具である。ここで、支圧板に設けられる緊張状態のPC鋼材300用の挿通孔は、単なる円形状の穴では定着具等で保持されたPC鋼材300の端部から支圧板をセットすることができないために、たとえばU字溝形状の挿通孔を備えた公知の支圧板が用いられる。さらに、後述するPC鋼材の緊張力調整方法で使用する中間定着具900も公知の治具であって、PC鋼材300の長手方向に垂直な面から見て2個以上(2個~3個であることが多い)のウェッジ片に分割されたウェッジ(くさび)904と、略中空円筒形状であって同じくPC鋼材300の長手方向に垂直な面から見て2個のスリーブ片に分割され内周面にウェッジ904に組み合わせられるテーパー孔を備えたスリーブ902とを備え、2個のスリーブ片はPC鋼材300にウェッジ904とともにセットされた後にボルトで一体化される。
【0032】
[緊張力調整方法]
上述した適用事例に対する、本実施の形態に係る緊張力調整方法について、上述した図1および図2ならびに図6および図7に、図3図5ならびに図8図10を加えて説明する。なお、以下においては、第1の実施の形態に係る張力調整方法を図3図5に示す手順11~手順16で説明して、第2の実施の形態に係る張力調整方法を図8図10に示す手順21~手順26で説明する。ここで、第1の実施の形態に係る張力調整方法は、PC構造物の供用時であってリングナットを使用しないでPC鋼材300の緊張力を開放する場合の緊張力調整方法(緊張力開放)であって、第2の実施の形態に係る張力調整方法は、PC構造物の供用時であってリングナットを使用してPC鋼材300の緊張力を減少または開放する場合の緊張力調整方法(緊張力開放を含む減少)である。
【0033】
・第1の実施の形態:緊張力調整(開放)
図3:手順11:接続ステップ>
コンクリート製定着装置(定着部200)に接続用PC鋼材810を接続する。より詳しくは、予め埋設した埋設定着部800の接続カプラ808に接続用PC鋼材810を連結する。
図3:手順12:取付ステップのための準備>
PC鋼材300の長手方向における接続用PC鋼材810が接続された側において、定着具と同じ緊張方向になるように中間定着具900をPC鋼材300に取り付けるために、中間定着具900を取付ける箇所のPC鋼材300の被覆材302を除去する。
【0034】
図4:手順13:取付ステップおよび設置ステップ>
被覆材302を除去されたPC鋼材300に中間定着具900を取り付ける。
PC鋼材300の長手方向におけるコンクリート製定着装置(定着部200)側から離隔する方向へPC鋼材300の挿通孔(たとえばU字形状)および接続用PC鋼材810(たとえばU字形状または円形状)の挿通孔を備えた第一支圧板910と油圧ジャッキ700とPC鋼材300の挿通孔(第一支圧板910と同じ形状)および接続用PC鋼材の挿通孔(第一支圧板910と同じ形状)を備えた第二支圧板920とをこの順に準備する。ここで、PC鋼材300はその両端が定着具等で保持された緊張状態であるために、この緊張状態のPC鋼材300の挿通孔とは、上述したように、たとえばU字形状の溝であることは本発明が属する技術分野において広く知られている。そして、挿通孔にPC鋼材300および接続用PC鋼材810をそれぞれ挿通させるとともに第一支圧板910の一方の面に中間定着具900が対向し他の面に油圧ジャッキ700が対向し、第二支圧板920の一方の面に油圧ジャッキ700が対向し他の面に接続用PC鋼材810の定着部材(ここでは定着ナット930)が対向するように設置する。この設置ステップにおいて、油圧ジャッキ700のピストンはPC鋼材300の緊張力の開放または減少に対応した状態に設定される。より詳しくは、油圧ジャッキ700のピストンは、図4における左側のPC鋼材300の緊張力の開放に必要な量だけ出しておく。このように油圧ジャッキ700のピストンを出しておく理由は、後述する手順16において、図面右側の緊張力が0になると、図面左側の緊張力をジャッキ700が受け持つことになるのでその分の伸び量を戻す必要があるために、この手順13において図面左側の緊張力の伸び量分だけピストンを事前に出している。
【0035】
そして、接続用PC鋼材810を油圧ジャッキ700に連結する(ジャッキ連結ステップ)とともに、第二支圧板920における油圧ジャッキ700の逆側において接続用PC鋼材810を定着部材(ここでは定着ナット930)を用いて定着させる(接続PC定着ステップ)。
なお、設置ステップにおける処理の順序、および、設置ステップとジャッキ連結ステップと接続PC定着ステップとのステップ間の順序は、特に限定されるものではなく、緊張力低下ステップを実現できる順序であれば構わない。
【0036】
図4:手順14:緊張力低下ステップ>
油圧ジャッキ700を用いて、中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間のPC鋼材300の緊張力を十分に低下させる。このとき、中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間のPC鋼材300の緊張力が0になるように低下させる。より詳しくは、油圧ジャッキ700のピストンを出して中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間のPC鋼材300の緊張力を0(ゼロ)にする。
【0037】
すなわち、図4の手順14に示すように、油圧ジャッキ700のピストンを出して第一支圧板910を黒塗り矢示の方向へ移動させて、図4における右側のPC鋼材300の伸びを減少させて緊張力を減少させて、図4における半波線領域内のPC鋼材300の緊張力の緊張力を0(ゼロ)にする。
【0038】
図5:手順15:切断ステップ>
中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間の緊張力が十分に低下した後に(ここでは0(ゼロ)とする)、中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間の任意の位置でPC鋼材300を切断する。
図5:手順16:緊張力開放ステップ>
PC鋼材300を任意の位置で切断した後に、油圧ジャッキ700による緊張力を開放して、PC鋼材300の緊張力が開放された状態を実現する。この手順16において、PC鋼材300の緊張力が解放されて図面左側のPC鋼材300の伸び量が図面左側へ戻っていく。これに対応させるために、手順13において油圧ジャッキ700のピストンを事前に出している。
さらに、最後に、接続用PC鋼材810(定着ナット930を取り外し接続カプラ808から取り外す)と中間定着具900と第一支圧板910と第二支圧板920と油圧ジャッキ700とを取り外す(取り外しステップ)。
【0039】
・第2の実施の形態:緊張力調整(開放を含む減少)
図8:手順21:接続ステップ>
コンクリート製定着装置(定着部200)に接続用PC鋼材810を接続する。より詳しくは、予め埋設した埋設定着部800の接続カプラ808に接続用PC鋼材810を連結する。
図8:手順22:取付ステップのための準備>
PC鋼材300の長手方向における接続用PC鋼材810が接続された側において、定着具と同じ緊張方向になるように中間定着具900をPC鋼材300に取り付けるために、中間定着具900を取付ける箇所のPC鋼材300の被覆材302を除去する。
【0040】
図9:手順23:取付ステップおよび設置ステップ>
被覆材302を除去されたPC鋼材300に中間定着具900を取り付ける。
PC鋼材300の長手方向におけるコンクリート製定着装置(定着部200)側から離隔する方向へPC鋼材300の挿通孔(たとえばU字形状)および接続用PC鋼材810(たとえばU字形状または円形状)の挿通孔を備えた第一支圧板910と油圧ジャッキ700とPC鋼材300の挿通孔(第一支圧板910と同じ形状)および接続用PC鋼材の挿通孔(第一支圧板910と同じ形状)を備えた第二支圧板920とをこの順に準備する。そして、挿通孔にPC鋼材300および接続用PC鋼材810をそれぞれ挿通させるとともに第一支圧板910の一方の面に中間定着具900が対向し他の面に油圧ジャッキ700が対向し、第二支圧板920の一方の面に油圧ジャッキ700が対向し他の面に接続用PC鋼材810の定着部材(ここでは定着ナット930)が対向するように設置する。この設置ステップにおいて、油圧ジャッキ700のピストンはPC鋼材300の緊張力の開放または減少に対応した状態に設定される。より詳しくは、油圧ジャッキ700のピストンは、上述した第1の実施の形態における手順13と同様に、(本実施の形態における手順26が対応する第1の実施の形態における手順16と同じく図面左側のPC鋼材300の伸び量が図面左側へ戻っていくために)図9における左側のPC鋼材300の緊張力の開放に必要な量だけ事前に出しておく。
【0041】
そして、接続用PC鋼材810を油圧ジャッキ700に連結する(ジャッキ連結ステップ)とともに、第二支圧板920における油圧ジャッキ700の逆側において接続用PC鋼材810を定着部材(ここでは定着ナット930)を用いて定着させる(接続PC定着ステップ)。
なお、設置ステップにおける処理の順序、および、設置ステップとジャッキ連結ステップと接続PC定着ステップとのステップ間の順序は、特に限定されるものではなく、緊張力低下ステップを実現できる順序であれば構わない。
【0042】
図9:手順24:緊張力低下ステップ>
油圧ジャッキ700を用いて、中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間のPC鋼材300の緊張力を十分に低下させる。このとき、中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間のPC鋼材300の緊張力がリングナット1300が回転可能な状態まで低下させる。より詳しくは、油圧ジャッキ700のピストンを出して中間定着具900と定着具(スリーブ1100、ウェッジ1200、アンカープレート520)との間のPC鋼材300の緊張力を0(ゼロ)にしてリングナット1300を支圧板520よりわずかに浮かせて回せる状態にする。
【0043】
すなわち、図9の手順24に示すように、油圧ジャッキ700のピストンを出して第一支圧板910を黒塗り矢示の方向へ移動させて、図9における右側のPC鋼材300の伸びを減少させて緊張力を減少させて、図9における半波線領域内のPC鋼材300の緊張力の緊張力を0(ゼロ)にする。このようにすることによりリングナット1300が支圧板520からわずかに(でも)浮いてリングナット1300を回転させることができるようになる。
【0044】
図10:手順25:リング緩めステップ>
予め定められた緊張力までPC鋼材300の緊張力が減少するように、支圧板520からわずかに浮いて回転可能な状態になったリングナット1300を緩める。より詳しくは、図10の手順25に示すように、リングナット1300をPC鋼材1300の緊張力調整に必要な量に応じて黒塗り矢示の方向へ移動させる。ここで、PC鋼材300の緊張力が0である状態を実現する場合(緊張力を完全に開放する場合)には、このリング緩めステップにおいてリングナット1300を緩めて取り外すようにしてもかまわない。
図10:手順26:緊張力開放ステップ>
リングナット1300を回転させてPC鋼材1300の緊張力調整に必要な量に応じて黒塗り矢示の方向へリングナット1300を移動させた後に、油圧ジャッキ700による緊張力を開放して、PC鋼材300の緊張力が減少(開放を含む)された状態を実現する。
さらに、最後に、接続用PC鋼材810(定着ナット930を取り外し接続カプラ808から取り外す)と中間定着具900と第一支圧板910と第二支圧板920と油圧ジャッキ700とを取り外す(取り外しステップ)。
【0045】
[緊張力調整方法の作用効果]
このようにして、本実施の形態に係る緊張力調整方法によると、プレストレスをコンクリート躯体に導入する新設PC構造物またはプレストレスがコンクリート躯体に既に導入された既設PC構造物において、作業空間(作業スペース)が狭くてもPC鋼材に付与されている緊張力を(0(ゼロ)に開放することを含めて減少させることを含めて)調整することのできる調整方法を提供することができる。
【0046】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、PC鋼材によりプレストレスを付与する場合に発生する緊張力の調整方法に好ましく、作業空間(作業スペース)が狭くてもPC鋼材に付与されている緊張力を(0(ゼロ)に開放することを含めて減少させることを含めて)調整することのできる調整方法に特に好ましい。
【符号の説明】
【0048】
100 プレストレストPC橋(プレストレストPC構造物)
200、202 定着部(コンクリート製定着装置)
300 PC鋼材(緊張材、外ケーブル)
400 偏向部
500 鋼管付きアンカープレート
510 鋼管
520 アンカープレート(支圧板)
700 油圧ジャッキ
800 埋設定着部
900 中間定着具
1100 スリーブ
1200 ウェッジ
1300 リングナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10