(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】多層シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20230926BHJP
B29D 35/14 20100101ALI20230926BHJP
A43B 23/02 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
B32B27/40
B29D35/14
A43B23/02 101A
(21)【出願番号】P 2020021581
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】303000545
【氏名又は名称】帝人コードレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 邦彦
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/155692(WO,A1)
【文献】特開2019-112737(JP,A)
【文献】特表2020-531322(JP,A)
【文献】特開平8-20096(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017724(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103696274(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/40
B29D 35/14
A43B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタンを熱溶融して賦形して得られたシート状の溶融接着性基材層、およびその一方の面に接着層を介して設けられたポリウレタンの表皮層からなる多層シートであって、溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンは、流動開始温度が100~120℃であり、表皮層のポリウレタンは、流動開始温度が150℃以上であり、接着層は1液型ポリウレタンからなり、該1液型ポリウレタンの流動開始温度が120~140℃であることを特徴とする、多層シート。
【請求項2】
接着層の1型ポリウレタンが、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールをジオール成分としてなるポリウレタンである、請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンが、ポリエステルポリオールを主たるジオール成分としてなる熱可塑性ポリウレタンである、請求項1または2に記載の多層シート。
【請求項4】
溶融接着性基材層が、Tダイ法、インフレーション法またはカレンダー法により賦形して得られた、請求項1~3のいずれかに記載の多層シート。
【請求項5】
ポリウレタンの表皮層が、水系ポリウレタンから形成されたシート状の表皮層である、請求項1~4に記載の多層シート。
【請求項6】
溶融接着性基材層の厚みが100~200μmであり、表皮層の厚みが20~80μmであり、接着層の厚みが50~150μmである、請求項1~5のいずれかに記載の多層シート。
【請求項7】
表皮層または接着層が、顔料または金属蒸着粉体によって着色されている、請求項1~6のいずれかに記載の多層シート。
【請求項8】
表皮層または接着層が、平均粒径10~100μmの中空マイクロカプセルを、該マイクロカプセルを含有する表皮層または接着層の重量を基準として1重量%以上含有する、請求項6に記載の多層シート。
【請求項9】
表皮層のポリウレタンが、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールを主たるジオール成分としてなるポリウレタン、または、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールを主たるジオール成分としてなるポリウレタンである、請求項1~8のいずれかに記載の多層シート。
【請求項10】
熱プレス成形による靴の製造に用いられる、請求項1~9のいずれかに記載の多層シート。
【請求項11】
(1)流動開始温度150℃以上のポリウレタンの溶液を離型紙の上に塗布してシート状の表皮前駆層を得る工程、および(2)流動開始温度100~120℃の熱可塑性ポリウレタンからなるシート状の溶融接着性基材層を表皮前駆層と接着する工程を含み、接着が流動開始温度120~140℃の1液型ポリウレタン溶液を接着剤として用いて行われ、該溶液の溶媒が一液型ポリウレタンの流動開始温度以上の沸点を有する有機溶媒を含むことを特徴とする、多層シートの製造方法。
【請求項12】
シート状の溶融接着性基材層がカレンダー方式で製造された、請求項11に記載の多層シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンの多層シートに関し、詳しくは、テキスタイルと貼り合わせて熱プレス成形により靴を製造するために用いる多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンを用いたホットメルト型のシートは、従来からいろいろな用途に使用されてきた。近年、靴の生産において、従来のミシンによる縫製工程を用いず、熱プレス成形により直接テキスタイルから靴の形に成形する方法が用いられるようになり、テキスタイル同士の接着を目的としてホットメルト型のポリウレタンシートをテキスタイルに貼り合わせて使用されることが多くなっている(例えば特許文献1)。
【0003】
他方、靴への加飾を目的として、ポリウレタンのシートの一方の面に色や柄をつけ、他方の面にテキスタイルを熱により溶融接着させるためのポリウレタン層(溶融接着性基材層)を設け、この面をテキスタイルに貼り合わせて靴の形に熱プレス成形することで靴に意匠を付与する方法も知られている。この方法では、テキスタイルとの接着を目的として流動開始温度の低いポリウレタンのシートが用いられる。
【0004】
ポリウレタンをテキスタイルに染みこませるための熱プレス成形により靴の形にしたときに、テキスタイルの接着面に十分な強度を付与するためには、ポリウレタンのシートにはある程度の多くの目付が必要である。このため、熱プレス成形用のポリウレタンのシートとして、別途カレンダー方式などで高目付の熱可塑性ポリウレタンシートを作成しておき、これを加飾目的のポリウレタン層に貼り合わせて用いることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱プレス成形用のポリウレタンシートと、加飾目的のポリウレタン層との貼り合わせには、通常は2液タイプの架橋剤を使用したポリウレタン接着剤が使用される。しかし、接着剤の架橋剤によりポリウレタンが経時的に物性変化してしまい、後にテキスタイルと貼り合わせて靴の形に熱プレス成形するときに、接着性能が落ちてしてしまう問題がある。
【0007】
本発明は、テキスタイルに貼り合わせて靴を熱プレス成形により製造するために用いる、溶融接着性基材層を備えるウレタンの多層シートであって、溶融接着性基材層の経時的な接着性能の低下の少ない、多層シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性ポリウレタンを熱溶融して賦形して得られたシート状の溶融接着性基材層、およびその一方の面に接着層を介して設けられたポリウレタンの表皮層からなる多層シートであって、溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンは、流動開始温度が100~120℃であり、表皮層のポリウレタンは、流動開始温度が150℃以上であり、接着層は1液型ポリウレタンからなり、該1液型ポリウレタンの流動開始温度が120~140℃であることを特徴とする、多層シートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、テキスタイルに貼り合わせて靴を熱プレス成形により製造するために用いる、溶融接着性基材層を備えるウレタンの多層シートであって、溶融接着性基材層の経時的な接着性能の低下の少ない、多層シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
〔溶融接着性基材層〕
溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンとして、流動開始温度が100~120℃のものを用いる。流動開始温度がこの範囲であることで、テキスタイルとの貼り合わせにおいて良好な加工性を得ることができる。流動開始温度が100℃未満であると、本発明の多層シートを用いて熱プレス成形して得られた靴を、自動車のトランクなど高温になる場所に長時間置いたときに、靴の強度が低下する原因になる。他方、流動開始温度が120℃を超えると加工しにくくなる。
【0012】
溶融接着性基材は、本発明の積層シートをテキスタイルと熱接着させるときに、熱と圧力によって溶融接着性基材を構成する熱可塑性ポリウレタンが溶融してテキスタイルに浸透し、テキスタイルを熱プレス成形により靴の形状に成形できるようにする作用を持つ。成形して得られる靴がスポーツシューズ向けの場合でも剥がれることのない高い接着強度を、妥当なコストで実現するために、溶融接着性基材の厚さは、好ましくは100~200μmである。接着強度の観点から100μm以上の厚が好ましく、他方、200μmを超えても接着強度は頭打ちとなりコストのみが上昇するため、好ましくない。
【0013】
溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンは、ポリエステルポリオールを主たるジオール成分してなる熱可塑性ポリウレタンであることが好ましい。「主たる」とは、全ジオール成分の例えば70重量%以上、好ましくは80重量%である。この熱可塑性ポリウレタンは、ポリオール成分がポリエステルポリオールである熱可塑性ポリウレタンが特に好ましい。この熱可塑性ポリウレタンを用いることで、靴の成形に適した柔軟性を得ることができる。一般的にテキスタイルとの接着に使用される溶融接着(ホットメルト)型のポリウレタンは、ポリエステルポリオールのタイプが多くの種類で流通しており、本発明ではこれを用いることができる。
【0014】
本発明では、熱可塑性ポリウレタンを予め熱溶融して賦形して得られたシート状の溶融接着性基材層を用いる。溶融接着性基材層は、テキスタイルと熱プレス加工による貼り合わせることから、ポリウレタン溶液のコーティングにより製造されたものであると、十分な量の熱可塑性ポリウレタンをテキスタイルに浸透させることができない。
【0015】
溶融接着性基材層は、Tダイ法、インフレーション法またはカレンダー法により製造されたものであることが好ましく、特にカレンダー法により製造されたものであることが好ましい。これらの方法、特にカレンダー法により製造された溶融接着性基材層を用いることで、テキスタイルと貼り合わせるときに、十分な量の熱可塑性ポリウレタンをテキスタイルに浸透させることができる。
【0016】
詳細に述べると、Tダイ法では、先端にTダイと呼ばれるスリット状の金型を装着した押出機が使用される。熱溶融した熱可塑性ポリウレタンが、Tダイからシート状に押し出され、冷却ローラーによって冷却されて巻き取られる。
【0017】
インフレーション法では、環状の金型を装着した押出機が用いられる。熱溶融した熱可塑性ポリウレタンが、管状の金型からチューブ状に連続的して押出され、金型の中央に設置された空気孔から、チューブ状の賦形物に空気が吹き込まれることで風船状に膨張され、ローラーで引っ張られながら冷却されて巻き取られる。巻き取られる直前に、通常は一端を切り開くことで平らなシートとして巻き取られる。
【0018】
カレンダー法では、カレンダーロールが用いられる。熱溶融した熱可塑性ポリウレタンが、複数のカレンダーロールに挟み込まれてシート状に圧延され、さらに冷却ローラーの表面で冷却されて巻き取られる。カレンダー法は、Tダイ法やインフレーション法と組み合わされてもよい。
【0019】
〔接着層〕
接着層は、溶融接着性基材層と表皮層とを接着する役割を果たす。
接着層は1液型ポリウレタンからなる。本発明においては、接着層のポリウレタンとして架橋剤を使用する2液タイプのポリウレタンを用いることはなく、必ず1液タイプのポリウレタンを用いる。もし2液タイプのポリウレタンを用いると、2液タイプで使用される架橋剤が溶媒の影響によって溶融接着性基材層に浸透してしまい、テキスタイルと本発明の多層シートとを熱で接着させるための溶融接着性基材層のポリウレタンを経時的に物性変化させてしまい、接着性が維持できなくなる。本発明では、接着層に1液タイプのポリウレタンを用いるため、接着する対象の溶融接着性基材層と表皮層とを貼り合わせて接着するときに、接着層のポリウレタンを塗布した後に、熱をかけながら溶融接着性基材層と表皮層とを貼り合わせることができる。
【0020】
この1液型ポリウレタンの流動開始温度は120~140℃である。流動開始温度は、表皮層のポリウレタンの流動化開始温度よりも低く、溶融接着性基材層のポリウレタンの流動開始温度よりも高いことが好ましい。流動開始温度が120℃未満であると、接着という点では容易になるが、本発明の多層シートをテキスタイルと貼り合わせて靴の成形に用いる場合に、溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンが溶融する前に接着層が先に溶融してしまい、靴の形状に成形するために裁断したパーツのエッジ部分から溶け出して外観を損ねてしまう。また、本発明の多層シートを用いて熱プレス成形により得られた靴を自動車のトランクなど高温の場所に長時間置くと、品質の劣化を起こす可能性もある。他方、流動開始温度が140℃を超えると、溶融しづらく、高い接着力を得ることができない。
【0021】
接着層の厚みは好ましくは50~150μmである。この範囲の厚みであることによって、溶融接着性基材層と表皮層を強固に接着しつつ、靴の形状への熱成形時に断面から接着層のポリウレタンが流れ出すことがなく、良好な外観をもつ靴を成形することができる。
【0022】
接着層の1液型ポリウレタンには、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来から公知の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
【0023】
接着層の1液型ポリウレタンとしては、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールをジオール成分としてなるポリウレタンが好ましい。これは、ポリエステルポリオールとポリエーテルポリオールの混合タイプのポリウレタンである。ポリエーテルポリオールを併用することにより接着時に表面粘着性が上がり、溶融接着性基材層との接着が容易となる。
【0024】
〔表皮層〕
表皮層は表面保護の役割を果たし、最終製品の靴が、摩耗により外観を損なうことがないように保護する役割を果たす。
【0025】
表皮層のポリウレタンとしては、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる、従来から公知の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
【0026】
表皮層のポリウレタンは、流動開始温度が150℃以上、好ましくは170~190℃である。この範囲の流動開始温度であることにより、靴の製造工程で熱プレスにより本発明の多層シートとテキスタイルとを熱により貼り合わせたときに、表皮層が熱溶融せずに保護層として維持される。
【0027】
優れた機械的強度と生産コストの観点から、表皮層のポリウレタンは、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリオールを主たるジオール成分としてなるポリウレタン、または、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールを主たるジオール成分としてなるポリウレタンであることが好ましい。「主たる」とは、全ジオール成分の例えば70重量%以上、好ましくは80重量%である。
【0028】
離型紙にポリウレタンの溶液を塗布して乾燥することで効率的に表皮層を形成することができることから、ポリウレタンの表皮層には、水系ポリウレタンを用いることが好ましい。すなわち表皮層は、水系ポリウレタンから形成されたシート状の表皮層であることが好ましい。
【0029】
表皮層の厚みは好ましくは20~80μmである。この範囲の厚みであることによって、靴の熱プレス成形の際に型に追随する柔軟性と、靴の表面の保護機能を得ることができる。
【0030】
表皮層のポリウレタンは、その100%モジュラスが2~20MPaであることが好ましい。モジュラスが2MPa未満であると表面摩耗強度が不足する傾向にあり好ましくない。他方、20MPaを超えると、硬く柔軟性のないものとなる傾向にあり、靴に用いるには適さず、好ましくない。
【0031】
〔マイクロカプセル等〕
表皮層または接着層は、平均粒径10~100μmの中空マイクロカプセルを、該中空マイクロカプセルを含有する表皮層または接着層の重量を基準として好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは3~5重量%含有する。いずれの層であっても中空マイクロカプセルを含有することで、軽量化することができる。中空マイクロカプセルを接着層に含有する場合には、表皮層と溶融接着性基材層との層間接着力を向上することができる。
【0032】
中空マイクロカプセルとして、例えば、外殻がアクリルニトリルや塩化ビニリデン樹脂などの熱可塑性樹脂で構成されたものを用いることができる。中空マイクロカプセルには、熱により発泡する熱膨張タイプのものと、熱では体積変化しないタイプのものがある。どちらの中空マイクロカプセルを使用しても、軽量化と層間接着力の向上の効果を望めるが、熱膨張タイプのものを用いると、高い層間接着力を得ることができ好ましい。熱膨張タイプのものを用いると、熱膨張後に中空マイクロカプセルが破壊され、そのときに発生する空洞部分に接着層のポリウレタンが入り込み、接着力が向上する。
【0033】
表皮層または接着層は、顔料または金属蒸着粉体によって着色されていることが好ましい。顔料により着色されている場合、本発明の多層シートを用いて作成された靴に、着色を付与することができる。金属蒸着粉体により着色されている場合、本発明の多層シートを用いて作成された靴に、金属光沢を有する着色を付与することができる。
【0034】
〔多層シートの製造方法〕
本発明の多層シートは、例えば以下の方法で製造することができる。
(1)流動開始温度150℃以上のポリウレタンの溶液を離型紙の上に塗布してシート状の表皮前駆層を得る工程、および(2)流動開始温度100~120℃の熱可塑性ポリウレタンからなるシート状の溶融接着性基材層を表皮前駆層と接着する工程を含み、接着が流動開始温度120~140℃の1液型ポリウレタン溶液を接着剤として用いて行われ、該溶液の溶媒が一液型ポリウレタンの流動開始温度以上の沸点を有する有機溶媒を含む、多層シートの製造方法。
【0035】
すなわち、本発明は、上記の製造方法を包含する。
【0036】
本発明の多層シートの製造は、上記(1)と(2)の工程を含み、連続生産が可能な長尺シートの製造として行われることが好ましく、例えば転写ラミネート方法を採用することが好ましい。なお、ここでは便宜上、表離型紙上に形成され後に表皮層となる層を表皮前駆層と表記する。
【0037】
この転写ラミネート方法では、まず生産ライン上を流れる離型紙の上に表皮前駆層の原料のポリウレタン溶液を塗布し乾燥チャンバーに入れて乾燥させて表皮前駆層を得る。つぎに、接着層を設けて溶融接着性基材層と貼り合わせて積層するか、予め接着層を設けられた溶融接着性基材層と貼り合わせて積層する。この積層で得られた積層シートは、離型紙、表皮前駆層、接着層および溶融接着性基材層がこの順で積層されている。離型紙は、靴の生地として用いるテキスタイルと貼り合わせた後まで剥がさずに残しておいてもよく、貼り合わせる前に剥がしてもよい。離型紙を剥がすことで、表皮前駆層が表面に現れて表皮層となる。得られる積層シートは、表皮層、接着層および溶融接着性基材層がこの順で積層されている。
【0038】
本発明の多層シートの製造方法を具体的に例示すると以下のとおりである。まず、離型紙の上に表皮層の原料の流動開始温度150℃以上のポリウレタンの溶液を1回または2回塗布する。乾燥チャンバーを通してこれを乾燥させ、離型紙と表皮前駆層との積層体を得る。そして、この積層体の表皮前駆層の上に接着層の原料の流動開始温度120℃~140℃の1液タイプのポリウレタンの溶液を塗布し、乾燥チャンバーを通して乾燥させる。その直後に、これに、溶融接着性基材層の流動開始温度100℃~120℃の熱可塑性ポリウレタンシートを重ね合わせ、その状態で、少なくとも片方が100℃以上に加熱された2本の熱ロール間を通して、熱をかけながら貼り合わせて接着する。
【0039】
〔靴の製造〕
本発明の多層シートを靴の生地となるテキスタイルと重ねた状態で、熱プレス成形により靴の形状に加工する。このとき、テキスタイルには溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンが流動化して浸透しており、靴の形状を保つ接着剤としての役割を果たす。
【0040】
なお、本発明の多層シートとテキスタイルの貼り合わせには、上下に熱プレートのあるプレス機を用いる。この貼り合わせでは、テキスタイルと本発明の多層シートとを重ね、プレス機により熱と圧力をかける。このとき、溶融接着性基材層の熱可塑性ポリウレタンが流動化して、テキスタイルに染みこみ接着する。本発明によれば、このテキスタイルとの貼り合わせにおいて高い生産性と、高い歩留まりを得ることができる。本発明の多層シートはテキスタイルと貼り合わせるより前に、靴の形状に応じた所望の形状に切り出しておいてもよく、テキスタイルと貼り合わせた後に、靴の形状に応じた所望の形状に切り出してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により説明する。物性は以下の方法で測定した。「部」は「重量部」を意味する。なお、メチルエチルケトンを「MEK」、ジメチルホルムアミドを「DMF」と略することがある。
(1)剥離強力
JIS K6301法に準じ、引張り速度50mm/分で100mm剥離させ、20mm毎のミニマム値5点の平均値をN/cmで表し、剥離強力とした。
(2)流動開始温度
JIS K7210に記載されている高化式フローテスターを用いて、MFRを測定した際に、フローレート値が初めて検出される時の温度を流出開始温度とした。
【0042】
〔実施例1〕
転写貼り合わせラインにてラインスピード7m/minで、152cm幅の離型紙(大日本印刷社製「UM32」)を流し、離型紙上に、ポリウレタン塗液を目付け150g/m2で塗布し100℃チャンバーにて乾燥する工程を2回繰り返して、厚さ0.05mmの高分子弾性体からなる表皮層(ポリウレタン層)を形成した。
【0043】
ポリウレタン塗液は、ポリウレタン(スタール社製「PERMUTEX RU-43-006」。これは、ポリウレタン濃度35重量%の水分散液であり、乾燥後のポリウレタンの流動開始温度が175℃、乾燥後のポリウレタンの100%モジュラスが5.0MPaである。)100部、熱膨張タイプのマイクロカプセル(松本油脂社製「マツモトマイクロスフェアF-36」)1部、熱膨張のないマイクロカプセル(松本油脂社製「マツモトマイクロスフェアF-80ED」2部および架橋剤(スタール社製XR―5588)2部を、増粘剤、レベリング剤および消泡剤で調整混合することで作成した。このとき、増粘剤、レベリング剤および消泡剤は、それぞれ5部、0.5部および0.3部とした。
【0044】
その表面に、接着層として流動開始温度125℃の1液タイプの溶剤型ポリウレタン(DIC社製「クリスボンOA320」。これはポリウレタン濃度40重量%の溶液(溶媒はDMFとMEKとの1:2(重量比)の混合溶媒)であり、乾燥後のポリウレタンの100%モジュラスが3.0MPaである。)100部、DMF20部およびMEK20部を混合した溶液を150g/m2で塗布し、100℃設定の乾燥チャンバーを通して加熱乾燥した後、温度が下がらない直後に、溶融接着性基材層としてTダイ法により作成された厚さ150μmかつ流動開始温度120℃のポリウレタンシート(ポリエステル系ポリオール、300%モジュラスが10MPa)と重ね合わせ、0.1mmの間隙の2本のロールを通過させて圧着した。その後巻き取り、室温の雰囲気下で1日間放置して冷却した後、離型紙を剥ぎ取り、シート-1を得た。
【0045】
このシート-1を靴のパーツの形に裁断後、テキスタイル上に重ね、熱プレス機にて120℃で30秒間の条件で貼り合わせて冷却後、剥離強度を測定したところ、5.4kg/cmと高い数値であった。また、このシートを作成3ヶ月後、経時変化を確認のために同様にテキスタイルと貼り合わせて剥離強度を測定したところ、5.2kg/cmと高い数値であった。
【0046】
【0047】
〔実施例2〕
ポリウレタン塗液にマイクロカプセルを配合しない他は実施例1と同様にして離型紙上に厚さ0.05mmの高分子弾性体からなる表皮層(ポリウレタン層)を形成し、これを用いて実施例1と同様にしてシート-1を得た。
【0048】
このシート-1を靴のパーツの形に裁断後、テキスタイル上に重ね、熱プレス機にて120℃で30秒間の条件で貼り合わせて冷却後、剥離強度を測定したところ、5.7kg/cmと高い数値であった。
【0049】
〔実施例3〕
ポリウレタン塗液にさらに水系白色顔料10部を添加撹拌した他は、実施例2と同様にして離型紙上に厚さ0.05mmの高分子弾性体からなる表皮層(ポリウレタン層)を形成し、これを用いて実施例2と同様にしてシート-1を得た。
【0050】
このシート-1を靴のパーツの形に裁断後、テキスタイル上に重ね、熱プレス機にて120℃で30秒間の条件で貼り合わせて冷却後、剥離強度を測定したところ、5.7kg/cmと高い数値であった。
【0051】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして、離型紙上に厚さ0.05mmの高分子弾性体からなる表皮層(ポリウレタン層)を形成した。
【0052】
その表面に接着層として2液型ポリウレタン系接着剤(DIC社製「クリスボンTA-365FT」。これはポリウレタン濃度65重量%の溶液(溶媒はDMFとMEKとの1:2(重量比)の混合溶媒)であり、乾燥後のポリウレタンの100%モジュラスが2.0MPaである。)100部、DMF20部、MEK20部および架橋剤「コロネートHL」15部を混合した溶液を目付150g/m2で塗布し100℃設定の乾燥チャンバーを通して加熱乾燥した後、溶融接着性基材層としてTダイ法により作成された厚さ150μmかつ流動開始温度120℃のポリウレタンシート(これはポリエステル系ポリオールからなり、300%モジュラスが10MPaである。)と重ね合わせ、0.1mmの間隙の2本のロールを通過させ圧着した。その後巻き取り、80℃の雰囲気下で2日間放置して2液ポリウレタンの架橋反応を完了させた後冷却し、離型紙を剥ぎ取り、シート-2を得た。
【0053】
このシート-2を靴のパーツに裁断後、テキスタイル上に重ね、熱プレス機にて120℃で貼り合わせて剥離強度を測定したところ、5.6kg/cmと高い数値であった。また、このシート-2を経時変化確認のため、作成の3ヶ月後に同様にテキスタイルと貼り合わせ剥離強度を測定したところ、2.8kg/cmと低い数値となっていた。
【0054】
〔比較例2〕
実施例1と同様にして、離型紙上に厚さ0.05mmの高分子弾性体からなる表皮層(ポリウレタン層)を形成した。
【0055】
その表面に接着層として1液型ポリウレタン(DIC社製「NB140」。これはポリウレタン濃度40重量%の水分散液であり、乾燥後のポリウレタンの流動開始温度が160℃である。)100部、DMF50部およびMEK50部を混合した溶液を150g/m2で塗布し100℃設定の乾燥チャンバーを通して乾燥した後、温度が下がらない直後に、溶融接着性基材層としてTダイ法により作成された厚さ150μmかつ流動開始温度120℃のポリウレタンシート(これはポリエステル系ポリオールからなり、300%モジュラスが10MPaである。)と重ね合わせ、0.1mmの間隙の2本のロールを通過させ圧着した。その後、室温の雰囲気下で1日間放置して冷却した後、離型紙を剥ぎ取り、シート-3を得た。
【0056】
このシート-3を靴のパーツに裁断後、テキスタイル上に重ね、熱プレス機にて120℃で貼り合わせて剥離強度を測定したところ、1.2kg/cmと低い数値であった。剥離点は接着層とTダイ法作成のポリウレタンシート(溶融接着性基材層)の間であった。
【0057】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして、離型紙上に厚さ0.05mmの高分子弾性体からなる表皮層(ポリウレタン層)を形成した。
【0058】
その表面に接着層として流動開始温度125℃の1液タイプの溶剤型ポリウレタン(DIC社製「クリスボンOA320」。これはポリウレタン濃度40重量%の溶液(溶媒はDMFとMEKとの1:2(重量比)の混合溶媒)であり、乾燥後のポリウレタンの100%モジュラスが3.0MPaである。)100部、DMF20部およびMEK20部を混合した溶液を150g/m2で塗布し100℃設定の乾燥チャンバーを通して加熱乾燥した後、溶融接着性基材層としてTダイ法により作成された厚さ150μmかつ流動開始温度150℃のポリウレタンシート(これはポリエステル系ポリオールからなる。)と重ね合わせ、0.1mmの間隙の2本のロールを通過させ圧着した。その後、室温の雰囲気下で1日間放置して冷却した後、離型紙を剥ぎ取り、シート-4を得た。
【0059】
このシート-4を靴のパーツに裁断後、テキスタイル上に重ね、熱プレス機にて120℃で貼り合わせたところ、最下層(溶融接着性基材層)が溶融しないためテキスタイルと接着させることができなかった。さらに熱プレス機の温度設定を上げて140℃および150℃にて貼り合わせを行ったところ、いずれも接着層のポリウレタンが裁断パーツ周囲に染み出し、外観的に好ましいものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の多層シートは、熱プレス成形による靴の製造、特に靴のアッパー部分の製造に用いられる。本発明の多層シートを靴の生地となるテキスタイルに熱プレスにより貼り合わせて靴成形用の多層シートとし、これを、所望の形状に切り出し、熱プレス成形によって靴の形状に成形する。