(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】尿素を含むモルタルまたはコンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230926BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20230926BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/12 Z
C04B22/06 Z
(21)【出願番号】P 2020060865
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【氏名又は名称】箱田 満
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】竹下 永造
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-151250(JP,A)
【文献】特開2010-083726(JP,A)
【文献】特開2008-120625(JP,A)
【文献】特開昭58-156558(JP,A)
【文献】特開平09-156978(JP,A)
【文献】特開2010-059002(JP,A)
【文献】米国特許第4447267(US,A)
【文献】特表2013-504410(JP,A)
【文献】特開2007-022934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材と、
尿素顆粒と、
を含むモルタルまたはコンクリート組成物であって、
前記尿素顆粒の粒径がD50粒径で0.60mm以上4.00mm以下であり、
前記尿素顆粒の配合量が前記結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である、モルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項2】
前記尿素顆粒の粒径が、D10粒径で0.40mm以上3.00mm以下である、請求項1に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項3】
前記尿素顆粒の粒径が、D90粒径で1.00mm以上5.00mm以下である、請求項1または2に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項4】
前記結合材がセメントと膨張材を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項5】
前記膨張材の配合量が、前記セメントの重量に対して3.0重量%~10.0重量%である、請求項4に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
【請求項6】
モルタルまたはコンクリートの製造方法であって、
結合材と、尿素顆粒と、骨材とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物に水を添加して混錬する工程と、を含み、
前記尿素顆粒の粒径がD50粒径で0.60mm以上4.00mm以下であり、
前記尿素顆粒の配合量が前記結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素を含むモルタルまたはコンクリート組成物、および尿素を含むモルタルまたはコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、硬化した後にコンクリート中に含まれる水が乾燥によって逸散することにより収縮することがある(乾燥収縮ともいう)。そのような乾燥収縮を低減させる技術の一つとして、尿素粉末を利用したコンクリートの乾燥収縮低減技術がある(特許文献1)。尿素の水溶液は高い不揮発性(保水性)を示し、硬化したコンクリートからの水分逸散を抑制するため、硬化したコンクリートに対し保水効果を付与して、乾燥収縮ひずみを低減できると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コンクリートに尿素を含有させる場合、コンクリート製造に用いられる水に尿素が直ちに溶解するため、尿素を添加した分だけあたかも加水されたかのようになることがある。さらに、尿素が水に溶解して尿素水溶液となると、コンクリート等の流動性が変化し、フレッシュ性状に影響を及ぼす虞がある。そのため、尿素をモルタルやコンクリート組成物(以下、「コンクリート組成物等」とも称する)に配合する際には、尿素の添加量を考慮して配合の単位水量を低減させる必要が生じることがある。実際、特許文献1においても、尿素の質量(単位量)の0.77倍に相当する分だけ単位水量が低減されている(特許文献1、段落0017)。このことから、尿素をモルタルやコンクリート(以下、「コンクリート等」とも称する)に用いる場合には、尿素非添加のコンクリート等とは異なる配合比を別途計算する必要があった。
【0005】
このような状況の下、尿素を添加しても単位水量を低減させる必要がなく、尿素非添加のコンクリート等と同様の単位水量とすることができるコンクリート組成物等が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、尿素をコンクリート組成物等に添加する際に、尿素を所定の大きさの顆粒状にし、結合材の重量に対して所定量で添加することで、単位水量を低減することなく尿素を含むコンクリート等のフレッシュ性状への影響を低減することができることを知得した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0007】
すなわち本発明には以下の態様の発明が含まれる。
[1]
結合材と、
尿素顆粒と、
を含むモルタルまたはコンクリート組成物であって、
前記尿素顆粒の粒径がD50粒径で0.60mm以上4.00mm以下であり、
前記尿素顆粒の配合量が前記結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である、モルタルまたはコンクリート組成物。
[2]
前記尿素顆粒の粒径が、D10粒径で0.40mm以上3.00mm以下である、[1]に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
[3]
前記尿素顆粒の粒径が、D90粒径で1.00mm以上5.00mm以下である、[1]または[2]に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
[4]
前記結合材がセメントと膨張材を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
[5]
前記膨張材の配合量が、前記セメントの重量に対して3.0重量%~10.0重量%である、[4]に記載のモルタルまたはコンクリート組成物。
[6]
モルタルまたはコンクリートの製造方法であって、
結合材と、尿素顆粒と、骨材とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物に水を添加して混錬する工程と、を含み、
前記尿素顆粒の粒径がD50粒径で0.60mm以上4.00mm以下であり、
前記尿素顆粒の配合量が前記結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である、製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、尿素を添加しても単位水量を低減させる必要がなく、尿素非添加のコンクリート等と同様の単位水量とすることができるコンクリート組成物等を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、コンクリート組成物への尿素の添加によるコンクリートのフレッシュ性状への影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例において使用した尿素粉末および種々の尿素顆粒の粒径分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「モルタルまたはコンクリート組成物」とは、水を添加する前のモルタルやコンクリート前駆体を意味し、一方、「モルタルまたはコンクリート」とは、モルタルまたはコンクリート組成物に水を加えた状態のものであり、硬化前および硬化後の両方を意味する。本明細書において「モルタル」とは、セメントと水と細骨材を含むものを示し、「コンクリート」とは、セメントと水と細骨材と粗骨材を含むものを示す。なお、本明細書においてモルタルまたはコンクリートの「フレッシュ性状」とは、モルタルまたはコンクリート組成物に水を加えて混錬し、硬化する前までのものの性状(流動性など)を意味し、特に混錬開始から30分以内のものの性状を意味する。
【0011】
本発明の内容について、以下に詳細に説明する。
【0012】
1.モルタルまたはコンクリート組成物
本発明によるモルタルまたはコンクリート組成物は、結合材と、尿素顆粒とを含むモルタルまたはコンクリート組成物であって、尿素顆粒の粒径がD50粒径で0.60mm以上4.00mm以下であり、尿素顆粒の配合量が前記結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である、モルタルまたはコンクリート組成物である。本発明のモルタルまたはコンクリート組成物は所定の粒径を有する尿素顆粒を結合材の重量に対して所定量含むことで、尿素を添加しても単位水量を低減させる必要がなく、尿素非添加のコンクリート等と同様の単位水量とすることができる。また、本発明の一態様によるモルタルまたはコンクリート組成物は、コンクリート組成物への尿素の添加によるコンクリートのフレッシュ性状への影響を低減することができる。
【0013】
本発明によるモルタルまたはコンクリート組成物は、上記のとおり、結合材と、尿素顆粒とを含む。また、任意の構成要素として、モルタルまたはコンクリート組成物に含まれる一般的な原料を含んでいてもよい。各構成要素について、以下にそれぞれ説明する。なお、本明細書において、「単位量(kg/m3)」とは、1m3のコンクリートを作製するときに用いる各原料の使用量を意味する。
【0014】
[結合材]
本明細書において、「結合材」とは、コンクリート組成物に配合される粉体のうち、水と反応してコンクリートの強度発現に寄与する物質を生成するものの総称をいう。本発明の一態様において、結合材はセメントを含む。本発明の他の態様において、結合材はセメントと膨張材を含む。本発明のさらに他の態様において、結合材は、セメントと膨張材の他に、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、シリカフューム、石灰石微粉末、メタカオリン等を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の一態様によるコンクリート組成物等における結合材の配合量は、使用する結合材の種類および他の配合原料によって適宜設定することができるが、水以外の配合原料の総重量に対して10重量%~40重量%であることが好ましく、15重量%~35重量%であることがより好ましく、18重量%~32重量%であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の一態様によるコンクリート等における結合材の配合量は、使用する結合材の種類および単位水量によって適宜設定することができるが、単位量で300kg/m3~550kg/m3であることが好ましく、350kg/m3~500kg/m3であることがより好ましく、380kg/m3~480kg/m3であることがさらに好ましい。
【0017】
(セメント)
本発明に用いるセメントとしては、種々のものを使用することができ、例えば、ポルトランドセメントや混合セメントなどを使用することができる。そのようなポルトランドセメントとしては、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。混合セメントとしては、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等が混合された各種の混合セメントが挙げられる。また、上記以外のセメントとしては、速硬性を有しない普通セメントタイプのエコセメントなどが挙げられる。これらのセメントは、いずれか1種を選択して使用することもできるが、2種以上のセメントを組み合わせて使用してもよい。
【0018】
これらのセメントの中では、膨張材、促進剤との組合せによって、優れた初期強度の発現性を示す観点から、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0019】
本発明の一態様によるコンクリート組成物等におけるセメントの配合量は、使用するセメントの種類および他の配合原料によって適宜設定することができるが、水以外の配合原料の総重量に対して10重量%~40重量%であることが好ましく、15重量%~35重量%であることがより好ましく、18重量%~32重量%であることがさらに好ましい。
【0020】
本発明の一態様によるコンクリート等におけるセメントの配合量は、使用するセメントの種類および単位水量によって適宜設定することができるが、単位量で300kg/m3~550kg/m3であることが好ましく、350kg/m3~500kg/m3であることがより好ましく、380kg/m3~480kg/m3であることがさらに好ましい。
【0021】
(膨張材)
本発明の一態様におけるコンクリート組成物等およびコンクリート等は、さらに膨張材を含んでいてもよい。本発明者らは、尿素特有の水分保持性と膨張材の反応性の相性が良く、尿素添加により膨張材の性能を相乗的に発揮させられることを知得した。これにより、膨張材と尿素を用いたコンクリート等によるひび割れ防止が可能となることが分かった。
【0022】
本発明の一態様によるコンクリート組成物等に用いる膨張材としては、特に限定されないが、例えば、粒度がブレーン比表面積で2,000cm2/g~7,000cm2/gの膨張材を好適に用いることができる。本発明の一態様において、粒度がブレーン比表面積で2,500cm2/g~6,000cm2/g、3,000cm2/g~5,000cm2/gのものを用いてもよい。なお、ブレーン比表面積は、JIS R 5201(セメントの物理試験方法)に規定するブレーン空気透過装置を用いて、セメントを詰めたセルの中を通過する空気の早さを溶液ヘッドの変化時間で求め、標準試料と比較計算することで算出される。
【0023】
本発明の一態様によるコンクリート組成物等における膨張材の配合量は、使用する膨張材の種類および他の配合原料によって適宜設定することができるが、セメントの重量に対して3.0重量%~10.0重量%であることが好ましい。本発明の他の態様において、膨張材の配合量は、セメントの重量に対して4.0重量%~9.0重量%、5.0重量%~8.5重量%または6.0重量%~8.0重量%であってもよい。膨張材の配合量をこの範囲とすることで、尿素顆粒と組み合わせた相乗効果が得られると推察される。
【0024】
本発明の一態様における膨張材の配合量は、単位量で10kg/m3~30kg/m3であることが好ましく、より好ましくは15kg/m3~25kg/m3である。膨張材の配合量をこの範囲とすることで、尿素顆粒と組み合わせた相乗効果が得られると推察される。
【0025】
本発明に用いる膨張材の種類としては、粒度が上記範囲内であれば種々の膨張材を使用することができ、具体的には石灰系膨張材およびカルシウムサルフォアルミネート系膨張材等を使用することができる。その中でも、反応速度の観点から特に好ましいのは、石灰系膨張材である。
【0026】
石灰系膨張材は、遊離生石灰(CaO)を含有する膨張性焼成物と石膏から構成される。遊離生石灰を含有する膨張性焼成物は、炭酸カルシウム、消石灰、生石灰等のカルシウム質原料、シリカ質原料、アルミナ質原料、酸化鉄原料および石膏原料等の焼成原料を電気炉やロータリーキルン等で焼成することによって得られる。得られた膨張性焼成物はボールミル等で粉砕・分級され粒度が調整される。石膏は、粉末にしたものを膨張性焼成物の粉砕物とミキサ等で混合してもよいし、石膏と膨張焼成物を混合粉砕してもよい。石膏は種々のものを用いることができるが、無水石膏が好ましく、II型無水石膏がより好ましい。
【0027】
[尿素顆粒]
本発明に用いる尿素顆粒は、化学式CO(NH2)2で示される化合物を含む顆粒であり、所定の粒径を有していればその由来は問わない。また、尿素顆粒は実質的に尿素から成っていればよく、不可避的な不純物などを含んでいてもよい。例えば、尿素顆粒は市販のものを用いてもよく、あるいは、市販の尿素粉末を固化・成形などによって顆粒状にしたものであってもよい。
【0028】
本発明に用いる尿素顆粒の粒径は、D50粒径(メジアン径ともいう)で0.60mm以上4.00mm以下ある。本明細書において、D50粒径は、レーザー回折粒子測定機によって測定することができる。本発明の好ましい態様において、D50粒径は、0.80mm以上3.80mm以下、1.00mm以上3.60mm以下または1.10mm以上3.30mm以下であってもよい。尿素顆粒のD50粒径を上記範囲とすることで、尿素を添加しても単位水量を低減させる必要がなく、尿素非添加のコンクリート等と同様の単位水量とすることができる。理論に拘束されるものではないが、尿素顆粒のD50粒径を上記範囲内とすることで、尿素顆粒の水への溶解速度を遅くすることができ、これによって尿素溶液によるコンクリートの流動性の変化が小さくなっているものと推察される。
【0029】
本発明の一態様において、尿素顆粒の粒径はD10粒径で0.40mm以上3.00mm以下あることが好ましい。本明細書において、D10粒径は、レーザー回折粒子測定機によって測定することができる。本発明の他の好ましい態様において、D10粒径は、0.45mm以上2.60mm以下、0.50mm以上2.50mm以下、0.60mm以上2.40mm以下または0.70mm以上2.30mm以下であってもよい。尿素顆粒のD10粒径を上記範囲とすることで、尿素を添加しても単位水量を低減させる必要がなく、尿素非添加のコンクリート等と同様の単位水量とすることができる。理論に拘束されるものではないが、尿素顆粒のD10粒径を上記範囲内とすることで、尿素顆粒の水への溶解速度をさらに遅くすることができ、これによって尿素溶液によるコンクリートの流動性の変化が小さくなっているものと推察される。
【0030】
本発明の一態様において、尿素顆粒の粒径はD90粒径で1.00mm以上5.00mm以下あることが好ましい。本明細書において、D90粒径は、レーザー回折粒子測定機によって測定することができる。本発明の他の好ましい態様において、D90粒径は、1.05mm以上4.90mm以下、1.10mm以上4.85mm以下、1.30mm以上4.80mm以下または1.50mm以上4.50mm以下であってもよい。尿素顆粒のD90粒径を上記範囲とすることで、尿素を添加しても単位水量を低減させる必要がなく、尿素非添加のコンクリート等と同様の単位水量とすることができる。理論に拘束されるものではないが、尿素顆粒のD90粒径を上記範囲内とすることで、尿素顆粒の水への溶解速度をさらに遅くすることができ、これによって尿素溶液によるコンクリートの流動性の変化が小さくなっているものと推察される。
【0031】
本発明に用いる尿素顆粒のD10、D50およびD90粒径を上記範囲内に調整する方法は特に限定されないが、例えばふるい分け、混合によって調整することができる。また、本発明に用いる尿素顆粒の粒径分布は、レーザー回折粒子測定機によって測定することができる。
【0032】
本発明に用いる尿素顆粒の配合量は、結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である。本発明の他の態様によれば、尿素顆粒の配合量は、結合材の重量に対して0.8重量%~4.0重量%、0.8重量%~3.0重量%、0.8重量%~3.5重量%、0.9重量%~2.5重量%または0.9重量%~1.9重量%であってもよい。尿素顆粒の配合量を上記範囲内とすることで、尿素添加によるコンクリート等のフレッシュ性状への影響を低減することができる。また上記範囲内とすることで、乾燥収縮を低減しつつ、セメント系材料の凝縮時間の遅延も抑えることができる。
【0033】
本発明の一態様における尿素顆粒の配合量は、単位量で2kg/m3~8kg/m3であることが好ましくり、より好ましくは3kg/m3~7kg/m3である。尿素顆粒の配合量をこの範囲とすることで、尿素添加によるコンクリート等のフレッシュ性状への影響を低減することができる。また上記範囲内とすることで、乾燥収縮を低減しつつ、セメント系材料の凝縮時間の遅延も抑えることができる。
【0034】
[その他の構成要素]
本発明によるモルタルまたはコンクリート組成物は、必要に応じて以下の構成要素を含有することができる。
【0035】
(分散剤)
本発明の一態様によるモルタルまたはコンクリート組成物は、さらに分散剤が添加されていてもよい。本発明で用いることができる分散剤は、一般的にモルタルやコンクリートの製造に使用されるセメント用の分散剤である。そのような分散剤としては、例えば、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤および流動化剤等が挙げられる。具体的には、メラミンスルホン酸系分散剤、ポリカルボン酸系分散剤およびナフタレンスルホン酸系分散剤等の分散剤が挙げられる。これらの中では、特にポリカルボン酸系の分散剤が好ましい。
【0036】
分散剤の添加量は、セメントおよび膨張材等の粉体の合計重量(膨張材を含まない場合は、セメントのみの重量)に対して、1.0質量%~3.5質量%が好ましく、所要の流動性および初期強度の確保の観点から、1.5質量%~3.0質量%がより好ましい。
【0037】
分散剤の添加方法としては、例えば、コンクリートプラントにおいて他の配合材料と併せて添加して混練する方法、あるいはコンクリート施工現場において最後に添加し混練する方法があるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0038】
(骨材)
本発明に用いられる骨材は、特に制限されるものではなく、通常のモルタルまたはコンクリートの製造に使用される細骨材および粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材および粗骨材として、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材および再生粗骨材等が挙げられる。
【0039】
骨材の配合量は、単位量で1,300kg/m3~2,000kg/m3であり、さらに1,500kg/m3~1,800kg/m3とするのが、発熱および乾燥収縮の抑制ならびにワーカビリティー確保のバランスの点で好ましい。
【0040】
本発明の一態様によるモルタル組成物における細骨材の配合量は、使用するセメントの種類および他の配合原料によって適宜設定することができるが、水以外の配合原料の総重量に対して65重量%~85重量%であることが好ましく、68重量%~82重量%であることがより好ましく、70重量%~80重量%であることがさらに好ましい。
【0041】
また、全骨材の容積に対する細骨材の容積の占める割合(s/a)は、通常35%~50%であり、40%~45%であることがワーカビリティー確保の観点から好ましい。
【0042】
(水)
本発明によるモルタルまたはコンクリート組成物を、水を用いて混練することでモルタルとコンクリートがそれぞれ得られる。水の配合量(単位水量)は、150kg/m3~250kg/m3、160kg/m3200kg/m3または165kg/m3~180kg/m3とすることができる。混練には、コンクリートミキサを用いることが好ましい。
【0043】
水(W)と「セメント+膨張材(P)」との重量比(W/P)は、通常40~65%であり、45~60%であることが好ましい。本発明では、コンクリート等に尿素を用いているが、所定の粒径の尿素顆粒を所定量含んでいるため、W/Pは通常のコンクリート等と同様に設定することができる。
【0044】
(任意の混和剤)
さらに、本発明によるモルタルまたはコンクリート組成物は、本発明の効果を実質的に失わない範囲で、例えばモルタルやコンクリートに使用できる他の成分(混和剤(材))を含有するものであってもよい。このような成分として、具体的には、収縮低減剤、保水剤、防錆剤、空気連行剤、消泡剤、起泡剤、防水材、撥水剤、白華防止剤、凝結調整剤、顔料、繊維、シリカフューム、スラグおよびフライアッシュ等が例示される。
【0045】
本発明のコンクリートの硬化は任意の方法によって行うことができるが、例えば、上記コンクリートの組成物と水とを混練し、その混練物を型枠等に流し込んだ後に養生することで硬化させてもよい。
【0046】
2.モルタルまたはコンクリートの製造方法
本発明のモルタルまたはコンクリートの製造方法は、本発明のモルタルまたはコンクリート組成物と水とを混錬する方法であれば特に限定されない。本発明の一態様において、本発明のモルタルまたはコンクリートは、結合材と、尿素顆粒と、骨材とを混合して混合物を得る工程と、混合物に水を添加して混錬する工程と、を含み、尿素顆粒の粒径がD50粒径で0.60mm以上4.00mm以下であり、尿素顆粒の配合量が結合材の重量に対して0.8重量%~5.0重量%である製造方法によって製造することができる。混合方法は特に制限されるものではなく、例えば、傾動ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ、グラウトミキサ、ホバートミキサ、オムニミキサなど汎用的なミキサを用いることができる。
【0047】
本発明の他の態様のモルタルまたはコンクリートの製造方法において、尿素顆粒、結合材、セメント、膨張材およびその他の構成要素は、上記の「1.モルタルまたはコンクリート組成物」に記載のものを用いることができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]種々の尿素顆粒を含むモルタルの評価
尿素を含むモルタル組成物およびモルタルを製造し、評価した。製造に用いた原料は表1のとおりである。
【表1】
【0050】
尿素顆粒1~3は以下の方法で調製した。
工業用尿素(市販品;粒径が0.8~3.0mmのものと2.0~9.0mmのもの)をふるい分けし、特定の粒度分布となるように調整した。
【0051】
本実施例に用いた尿素粉末および尿素顆粒1~3の粒径分布を、ふるい(東京スクリーン株式会社製)およびレーザー回折粒子測定機(Sympatec GmbH製)を用いてそれぞれ測定した。両方の測定方法で結果が同等であることを確認した。その結果を表2と
図1に示す。
【表2】
【0052】
また尿素粉末および尿素顆粒1~3の平均粒径(D10粒径、D50粒径、D90粒径)を、レーザー回折粒子測定機(Sympatec GmbH製)を用いて測定した。結果を表3に示す。
【表3】
【0053】
表1に記載の材料を用い、表4に記載の比率でモルタル組成物を製造し、そこに表4の比率で水を加えて環境温度20℃にて、モルタルミキサを用いて練り混ぜることでモルタルを得た。
【表4】
【0054】
上記表において、2.3g、4.5gおよび9.0gの尿素の配合量は、結合材(セメント(OPC))の配合重量に対して、それぞれ0.5%、1.0%および2.0%である。得られたモルタルについて、モルタルフロー、単位容積重量、拘束膨張率および圧縮強度を表5に記載の基準に基づいて測定した。モルタルの目標フロー値は220±15mm、目標単位容積重量は2.2±0.1g/cm
3とした。また、目標圧縮強度については、28日PL強度比で90%以上とした。拘束膨張率については、28日PL収縮低減率で10%以上とした。
【表5】
【0055】
測定によって得られたモルタルフローと単位容積質量の試験結果を表6に示す。
【表6】
【0056】
配合3および4については、モルタルの目標フロー値である220±15mmの範囲から外れていた。このことから、配合3および4では、尿素の粒度が細かいため、尿素の溶解・液化が容易となり、少ない添加量においてもフレッシュ性状(流動性)に影響を及ぼしたものと考えられる。一方で、尿素顆粒1~3を用いた配合では、尿素配合量が9.0g(配合した結合材(セメント)の重量に対して2.0%)以下の範囲においていずれもフロー値が目標フロー値の範囲内に収まっていた。また、尿素顆粒1~3を用いた配合は、いずれも単位容積重量についても目標範囲(2.2±0.1g/cm3)以内に収まっていた。
【0057】
次に、測定によって得られた圧縮強度試験結果を表7に示す。
【表7】
【0058】
モルタルの目標圧縮強度は、28日のPL強度比(尿素を添加していないモルタルに対する強度比)で90%以上であるが、尿素顆粒1~3を用いた配合では、尿素配合量が9.0g(配合した結合材(セメント)の重量に対して2.0%)以下の範囲においていずれもこの目標値を満たしていた。
【0059】
次に、測定によって得られた拘束膨張率試験結果を表8に示す。
【表8】
【0060】
上記表からわかるように、尿素添加率0.5%(添加量2.3g)では、「28日PL収縮低減率で10%以上」という目標の性能が得られなかった。一方で、0.5%を超える尿素添加率の配合においては、いずれも拘束膨張率の目標性能を満たしていた。
【0061】
[実施例2]膨張材を含むモルタルの評価
尿素および膨張材を含むモルタル組成物およびモルタルを、実施例1と同様に製造して評価した。製造に用いた膨張材(EX)は、太平洋ハイパーエクスパン(石灰系膨張材(20型)汎用品、太平洋マテリアル株式会社製、ブレーン比表面積4,000cm2/g、密度3.16g/cm3)である。製造に用いたその他の原料は表1のとおりである。
【0062】
製造したそれぞれの尿素および膨張材を含むモルタル組成物およびモルタルの配合を表9に示す。
【表9】
【0063】
上記表において、4.5gおよび9.0gの尿素の配合量は、結合材(セメント(OPC)と膨張材(EX)の合量)の配合重量に対して、それぞれ1.0%および2.0%である。得られたモルタルについて、モルタルフロー、単位容積重量、拘束膨張率および圧縮強度を実施例1の表5に記載の基準に基づいて測定した。モルタルの目標フロー値は220±15mm、目標単位容積重量は2.2±0.1g/cm3とした。また、目標圧縮強度については、28日PL強度比で90%以上とした。拘束膨張率については、収縮0以上を目標とした。
【0064】
測定によって得られたモルタルフローと単位容積質量の試験結果を表10に示す。
【表10】
【0065】
膨張材と尿素顆粒2を用いた配合では、尿素配合量が9.0g(配合した結合材(セメントおよび膨張材)の重量に対して2.0%)以下の範囲においていずれもフロー値が目標フロー値(220±15mm)の範囲内に収まっていた。また、膨張材と尿素顆粒2を用いた配合は、いずれも単位容積重量についても目標範囲(2.2±0.1g/cm3)以内に収まっていた。
【0066】
次に、測定によって得られた圧縮強度試験結果を表11に示す。
【表11】
【0067】
モルタルの目標圧縮強度は、28日のPL強度比(尿素を添加していないモルタルに対する強度比)で90%以上であるが、膨張材と尿素顆粒2を用いた配合では、尿素配合量が9.0g(配合した結合材(セメントおよび膨張材)の重量に対して2.0%)以下の範囲においていずれもこの目標値を満たしていた。
【0068】
次に、測定によって得られた拘束膨張率試験結果を表12に示す。また、対比のために、実施例1における配合1、9および10(膨張材の使用無し)の結果も併せて記載する。
【表12】
【0069】
膨張材と尿素顆粒2を用いた配合では、膨張材のみを用いて尿素を用いなかった配合14と比較して、拘束膨張率が増加することが分かった。また、収縮低減効果も効果を発揮するため、収縮が0×10-6以上の目標値を満足する結果が得られた。さらに実施例1における配合1、9および10(配合15および16と膨張材の添加以外は同じ組成)との対比から、膨張材と尿素顆粒の両方を用いることで、単なる相加効果ではなく相乗効果が奏されていると考えられる。すなわち、膨張材を用いていない配合1、9および10を対比すると、配合9(尿素添加量4.5g)による収縮低減効果は0.67×10-6であり、配合10(尿素添加量9.0g)による収縮低減効果は1.05×10-6である。これに対して、膨張材を用いた配合14、15および16を対比すると、配合15(尿素添加量4.5g)による収縮低減効果は1.14×10-6であり、配合16(尿素添加量9.0g)による収縮低減効果は1.48×10-6であることから、単なる相加効果ではないと考えられる。