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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】自動運転車両、および、その制御方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20230926BHJP
【FI】
G08G1/00 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020066599
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021163360
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 健志
(72)【発明者】
【氏名】東出 宇史
(72)【発明者】
【氏名】宇野 慶一
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-264210(JP,A)
【文献】特開2015-182623(JP,A)
【文献】特開2019-172219(JP,A)
【文献】特開2019-008540(JP,A)
【文献】特開2012-053732(JP,A)
【文献】特開2020-027450(JP,A)
【文献】特開2018-060286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車外に設けられた運行管理装置から走行計画を受信する通信装置と、
前記走行計画を充足するように、複数の駅が設定された走行経路に沿って自車を自律的に走行させる自動運転コントローラと、
を備え、
前記自動運転コントローラは、前記自車の標準的な運行スケジュールを規定した標準計画を有しており、
前記自動運転コントローラは、前記走行計画が必要タイミングまでに不着、または、前記走行計画が異常の場合、前記標準計画に基づいて臨時計画を生成し、前記臨時計画を充足するように前記自車を自律的に走行させる、
ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項2】
請求項1に記載の自動運転車両であって、
前記標準計画は、複数の駅それぞれの発車または到着のタイミングを時間間隔または経過時間で規定している、ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動運転車両であって、
前記自動運転コントローラは、前記走行計画が不着または異常の際に、直近で取得した正常な前記走行計画または前記臨時計画に対して前記車両が遅延している場合、前記遅延を解消するように、自車を加速させる計画を前記臨時計画として生成する、ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の自動運転車両であって、
前記自動運転コントローラは、前記標準計画を複数種類有しており、前記走行計画が不着または異常の場合、前記複数種類の標準計画から択一的に選択した前記標準計画に基づいて臨時計画を生成する、ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項5】
請求項4に記載の自動運転車両であって、
前記自動運転コントローラは、日時、走行経路の路面状況、および走行経路の渋滞状況の少なくとも一つに基づいて、前記複数種類の標準計画から一つの前記標準計画を選択する、ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の自動運転車両であって、
前記自動運転コントローラは、前記走行計画で規定された表定速度が、規定の基準速度範囲から外れている場合には、前記走行計画を異常と判断する、ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の自動運転車両であって、
前記自動運転コントローラは、前記運行管理装置から運行中断指令を受けた後、運行再開指令を受けた場合、前記標準計画に基づいて前記臨時計画を生成し、前記臨時計画を充足するように前記自車を一定区間、自律的に走行させる復帰走行を実行する、
ことを特徴とする自動運転車両。
【請求項8】
自動運転車両に搭載された通信装置が車外に設けられた運行管理装置から走行計画を受信し、
前記自動運転車両に搭載された自動運転コントローラが、前記走行計画を充足するように、複数の駅が設定された走行経路に沿って自車を自律的に走行させるように前記自動運転車両の駆動ユニットを制御する
自動運転車両の制御方法であって、
前記自動運転コントローラが、前記走行計画が必要タイミングまでに不着、または、前記走行計画が異常と判断した場合、前記自車の標準的な運行スケジュールを規定した標準計画に基づいて臨時計画を生成し、前記臨時計画を充足するように前記自車を自律的に走行させるように、前記駆動ユニットを制御する
ことを特徴とする自動運転車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、運行管理装置から送信される走行計画に従って自律的に走行する自動運転車両およびその制御方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、自律走行可能な車両を用いた交通システムが提案されている。例えば、特許文献1には、専用路線に沿って自律走行可能な車両を用いた車両交通システムが開示されている。この車両交通システムは、専用路線に沿って走行する複数の車両と、当該複数の車両を運行させる管制制御システムと、を備える。管制制御システムは、運行計画に従い、車両に出発指令や進路指令を送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-264210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした交通システムでは、何らかのトラブルにより、車両が運行計画を受信できなかったり、運行計画の内容に何らかの異常が発生したりする場合がある。かかる場合、車両側において適切な対策が取れなければ、車両の円滑な運行が妨げられることになる。しかしながら、特許文献1では、車両が適切な運行計画が受信できない場合の対策について何ら、検討されていない。
【0005】
そこで、本明細書では、自動運転車両の円滑な運行をより確実に実現できる自動運転車両、および、その制御方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示する自動運転車両は、車外に設けられた運行管理装置から走行計画を受信する通信装置と、前記走行計画を充足するように、複数の駅が設定された走行経路に沿って自車を自律的に走行させる自動運転コントローラと、を備え、前記自動運転コントローラは、前記自車の標準的な運行スケジュールを規定した標準計画を有しており、前記自動運転コントローラは、前記走行計画が必要タイミングまでに不着、または、前記走行計画が異常の場合、前記標準計画に基づいて臨時計画を生成し、前記臨時計画を充足するように前記自車を自律的に走行させる、ことを特徴とする。
【0007】
かかる構成とすることで、走行計画が不着または異常の場合であっても、自動運転車両を円滑に運行できる。
【0008】
この場合、前記標準計画は、複数の駅それぞれの発車または到着のタイミングを時間間隔または経過時間で規定してもよい。
【0009】
発着タイミングを、時刻ではなく、時間間隔または経過時間で規定することで、標準計画84の時刻依存性がなくなり、時刻を問わずに、一つの標準計画を利用することができる。
【0010】
また、前記自動運転コントローラは、前記走行計画が不着または異常の際に、直近で取得した正常な前記走行計画または前記臨時計画に対して前記車両が遅延している場合、前記遅延を解消するように、自車を加速させる計画を前記臨時計画として生成してもよい。
【0011】
かかる構成とすることで、走行計画が不着または異常の場合であっても、車両の遅延を解消でき、ひいては、他の自動車両との間隔を適切に保つことができる。
【0012】
また、前記自動運転コントローラは、前記標準計画を複数種類有しており、前記走行計画が不着または異常の場合、前記複数種類の標準計画から択一的に選択した前記標準計画に基づいて臨時計画を生成してもよい。この場合、前記自動運転コントローラは、日時、走行経路の路面状況、および走行経路の渋滞状況の少なくとも一つに基づいて、前記複数種類の標準計画から一つの前記標準計画を選択してもよい。
【0013】
かかる構成とすることで、より適切な臨時計画を生成でき、自動運転車両をより円滑に運行できる。
【0014】
また、前記自動運転コントローラは、前記走行計画で規定された表定速度が、規定の基準速度範囲から外れている場合には、前記走行計画を異常と判断してもよい。
【0015】
かかる構成とすることで、簡易に走行計画の異常を判断できる。
【0016】
また、前記自動運転コントローラは、前記運行管理装置から運行中断指令を受けた後、運行再開指令を受けた場合、前記標準計画に基づいて前記臨時計画を生成し、前記臨時計画を充足するように前記自車を一定区間、自律的に走行させる復帰走行を実行してもよい。
【0017】
かかる構成とすることで、運行再開指令を受けた時点で、走行計画を受信できない場合でも、自動運転車両を円滑に運行できる。
【0018】
本明細書で開示する自動運転車両の制御方法は、自動運転車両に搭載された通信装置が車外に設けられた運行管理装置から走行計画を受信し、前記自動運転車両に搭載された自動運転コントローラが、前記走行計画を充足するように、複数の駅が設定された走行経路に沿って自車を自律的に走行させるように前記自動運転車両の駆動ユニットを制御する、自動運転車両の制御方法であって、前記自動運転コントローラが、前記走行計画が必要タイミングまでに不着、または、前記走行計画が異常と判断した場合、前記自車の標準的な運行スケジュールを規定した標準計画に基づいて臨時計画を生成し、前記臨時計画を充足するように前記自車を自律的に走行させるように、前記駆動ユニットを制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本明細書で開示の技術によれば、自動運転車両の円滑な運行をより確実に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】交通システムのイメージ図である。
図2】交通システムのブロック図である。
図3】運行管理装置の物理構成を示すブロック図である。
図4図1の交通システムで用いられる走行計画の一例を示す図である。
図5図4の走行計画に従って自律走行する各車両の運行タイミングチャートである。
図6】標準計画の一例を示す図である。
図7】標準計画の他の一例を示す図である。
図8】臨時計画の一例を示す図である。
図9図8の臨時計画にしたがって走行した後に生成される臨時計画の一例を示す図である。
図10】臨時計画の他の一例を示す図である。
図11】臨時計画の生成の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、複数の自動運転車両(以下「車両」と略す)を有する交通システム10の構成について説明する。図1は、交通システム10のイメージ図であり、図2は、交通システム10のブロック図である。さらに、図3は、運行管理装置12の物理構成を示すブロック図である。
【0022】
この交通システム10は、予め規定された走行経路50に沿って、不特定多数の利用者を輸送するためのシステムである。交通システム10は、走行経路50に設定された複数の駅54a~54dと、走行経路50に沿って自律走行可能な複数の車両52A~52Dと、を有している。以下では、複数の自動運転車両52A~52Dを区別しない場合は、添え字アルファベットを省略し、「車両52」と表記する。同様に、複数の駅54a~54dも、区別の必要がない場合は、「駅54」と表記する。
【0023】
複数の車両52は、走行経路50に沿って一方向に周回走行し、一つの車列を構成する。車両52は、各駅54において、一時的に停車する。利用者は、車両52が一時停車するタイミングを利用して、車両52に乗車、または、車両52から降車する。したがって、本例において、各車両52は、一つの駅54から他の駅54まで不特定多数の利用者を輸送する乗り合いバスとして機能する。運行管理装置12(図1では図示せず、図2図3参照)は、こうした複数の車両52の運行を管理する。本例において、運行管理装置12は、複数の車両52が、等間隔運行となるように、その運行を制御している。等間隔運行とは、各駅54における車両52の発車間隔が均等となるような運行形態である。したがって、等間隔運行は、例えば、駅54aにおける発車間隔が5分の場合、他の駅54b,54c,54dにおける発車間隔も5分となるような運行形態である。
【0024】
こうした交通システム10を構成する各要素について、より具体的に説明する。車両52は、運行管理装置12から提供される走行計画80に従って自律走行する。走行計画80は、車両52の走行スケジュールを定めたものである。本例では、後に詳説するが、走行計画80には、各駅54a~54dにおける車両52の発車タイミングが規定されている。車両52は、この走行計画80で定められた発車タイミングで各駅54を発車できるように自律走行する。換言すれば、駅間での走行速度や、信号等での停車、他の車両の追い越し要否等の判断は、全て、車両52側で行う。
【0025】
図2に示すように、車両52は、自動運転ユニット56を有している。自動運転ユニット56は、駆動ユニット58と、自動運転コントローラ60と、に大別される。駆動ユニット58は、車両52を走行させるための基本的なユニットであり、例えば、原動機、動力伝達装置、ブレーキ装置、走行装置、懸架装置、かじ取り装置等を含む。
【0026】
自動運転コントローラ60は、この駆動ユニット58の駆動を制御し、車両52を自律走行させる。自動運転コントローラ60は、例えば、プロセッサ60aとメモリ60bを有するコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、プロセッサとは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit、等)や、専用のプロセッサ(例えばGPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。また、図2では、自動運転コントローラ60を単一の要素として記載しているが、自動運転コントローラ60は、互いに協働可能な複数のプロセッサ60aおよび複数のメモリ60bを有してもよい。
【0027】
自動運転コントローラ60のメモリ60bには、自車の標準的な運行スケジュールを規定した標準計画84が記憶されている。運行管理装置12から適切なタイミングで適切な走行計画80を受信できない場合、自動運転コントローラ60は、この標準計画84を参照して臨時計画86を生成するが、これについては後述する。
【0028】
自律走行を可能にするために、車両52には、さらに、環境センサ62および位置センサ66が搭載されている。環境センサ62は、車両52の周辺環境を検知するもので、例えば、カメラ、Lidar、ミリ波レーダ、ソナー、磁気センサ等を含む。自動運転コントローラ60は、この環境センサ62での検知結果に基づいて、車両52の周辺の物体の種類、当該物体との距離、走行経路50上の路面表示(例えば白線等)、および、交通標識等を認識する。また、位置センサ66は、車両52の現在位置を検出するもので、例えば、GPSである。位置センサ66での検出結果も、自動運転コントローラ60に送られる。自動運転コントローラ60は、環境センサ62および位置センサ66の検出結果に基づいて、車両52の加減速および操舵を制御する。こうした自動運転コントローラ60による制御状況は、走行情報82として運行管理装置12に送信される。この走行情報82には、少なくとも、車両52の現在の位置が含まれる。
【0029】
車両52には、さらに、通信装置68が設けられている。通信装置68は、運行管理装置12と無線通信する装置である。通信装置68は、例えば、WiFi(登録商標)等の無線LANや、携帯電話会社等がサービス提供するモバイルデータ通信を介して、インターネット通信できる。通信装置68は、運行管理装置12から走行計画80を受信するとともに、走行情報82を運行管理装置12に送信する。
【0030】
運行管理装置12は、車両52の運行状況を監視し、その運行状況に応じて、車両52の運行を制御する。この運行管理装置12は、物理的には、図3に示すように、プロセッサ22と、記憶装置20と、入出力デバイス24と、通信I/F26と、を有したコンピュータである。プロセッサとは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU)や、専用のプロセッサ(例えばGPU、ASIC、FPGA、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。また、記憶装置20は、半導体メモリ(例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ等)および磁気ディスク(例えば、ハードディスクドライブ等)の少なくとも一つを含んでもよい。なお、図3では、運行管理装置12を単一のコンピュータとして図示しているが、運行管理装置12は、物理的に分離された複数のコンピュータで構成されてもよい。
【0031】
運行管理装置12は、機能的には、図2に示すように、計画生成部14と、通信装置16と、運行監視部18と、記憶装置20と、を有している。計画生成部14は、複数の車両52それぞれに対して走行計画80を生成する。走行計画80は、複数の車両52の運行間隔が、予め規定された目標運行間隔になるように生成される。
【0032】
通信装置16は、車両52と無線通信するための装置であり、例えば、WiFiまたはモバイルデータ通信を利用してインターネット通信が可能である。通信装置16は、計画生成部14で生成された走行計画80を車両52に送信するとともに、走行情報82を車両52から受信する。
【0033】
運行監視部18は、各車両52から送信された走行情報82に基づいて、車両52の運行状況を取得する。走行情報82には、上述した通り、車両52の現在の位置が含まれる。運行監視部18は、この各車両52の位置と、走行計画80と、を照らし合わせ、走行計画80に対する車両52の遅延量や、各車両52の運行間隔等を算出する。
【0034】
次に、こうした交通システム10における運行管理について詳説する。図4は、図1の交通システム10で用いられる走行計画80の一例を示す図である。図1の例では、車列は、四つの車両52A~52Dで構成されており、走行経路50には、四つの駅54a~54dが等間隔に配置されている。また、本例において、各車両52が、走行経路50を1周するのに要する時間、すなわち、周回時間TCは、20分であるとする。
【0035】
この場合、運行管理装置12は、各駅54における車両52の発車間隔が、周回時間TCを車両52の個数Nで除した時間、20/4=5分となるように、走行計画80を生成する。走行計画80には、各駅における発車タイミングが記録されている。例えば、車両52Aに送信される走行計画80Aには、当該車両52Aが、駅54a~54dそれぞれを発車する目標時刻が記録されている。
【0036】
また、走行計画80には、通常、1周分のタイムスケジュールのみが記録されており、各車両52が、特定の駅、例えば、駅54aに到着したタイミングで、運行管理装置12から車両52に送信される。例えば、車両52Aは、駅54に到達したタイミング(例えば、7:59)に、1周分の走行計画80Aを運行管理装置12から受け取り、車両52Bは、駅54に到達したタイミング(例えば、6:54)に、1周分の走行計画80Bを運行管理装置12から受け取る。
【0037】
各車両52は、受け取った走行計画80に従って自律走行する。図5は、図4の走行計画80に従って自律走行する各車両52A~52Dの運行タイミングチャートである。図5において、横軸は、時刻を、縦軸は、車両52の位置を、それぞれ示している。各車両52の走行の様子について説明する前に、以下の説明で用いる各種パラメータの意味について簡単に説明する。
【0038】
以下の説明では、一つの駅54から次の駅54までの距離を「駅間距離DS」と呼ぶ。また、車両52が、一つの駅54を発車してから次の駅54を発車するまでの時間を「駅間所要時間TT」、利用者の乗降のために車両52が駅54で停車する時間を「停車時間TS」と呼ぶ。さらに、一つの駅54を発車してから次の駅54に到達するまでの時間、すなわち、駅間所要時間TTから停車時間TSを減算した時間を「駅間走行時間TR」と呼ぶ。図4において丸で囲った数字は、駅間所要時間TTを示している。
【0039】
さらに、移動距離を停車時間TSも含めた移動時間で除した値を「表定速度VS」と呼び、移動距離を停車時間TSも含めない移動時間で除した値を「平均走行速度VA」と呼ぶ。図5のラインM1の傾きは、平均走行速度VAを表しており、図5のラインM2の傾きは、表定速度VSを表している。表定速度VSは、駅間所要時間TTに反比例する。
【0040】
次に、図5を参照して、車両52の運行について説明する。図4の走行計画80に従えば、車両52Aは、7:00に駅54aを発車した後、5分後の7:05に駅54bを発車しなければならない。車両52Aは、この5分の間に、駅54aから駅54bへの移動と、利用者の乗降と、を完了するように、その平均走行速度VAを制御する。
【0041】
具体的に説明すると、車両52は、利用者の乗降のために必要な標準的な停車時間TSを、計画停車時間TSpとして予め記憶している。そして、車両52は、走行計画80で定められた駅54の発車時刻から、この計画停車時間TSpを引いた時刻を、当該駅54への到達目標時刻として算出する。例えば、計画停車時間TSpが1分の場合、車両52Aの駅54bへの到達目標時刻は、7:04となる。車両52は、こうして算出された到達目標時刻までに、次の駅54に到達できるように、その走行速度を制御する。
【0042】
ところで、通信障害や運行管理装置12でのトラブル等に起因して、適切な走行計画80が、適切なタイミングで、各車両52が受信できない場合がある。例えば、上述した通り、走行計画80は、車両52が特定の駅54aに到達したタイミングで、運行管理装置12から車両52に送信されるが、通信障害により、車両52が、駅54aに到達したタイミングで走行計画80を受信できない場合がある。また、走行計画80を受信できたとしても、当該走行計画80で規定される表定速度VSが、過度に大きい、あるいは、過度に小さい場合には、走行計画80は異常であると判断できる。
【0043】
このように、走行計画80が不着または異常の場合、車両52の安定した走行が妨げられる。そこで、本例では、各車両52の自動運転コントローラ60は、自車の標準的な運行スケジュールを規定した標準計画84を有しており、走行計画80が、不着または異常の場合には、標準計画84に基づいて臨時計画86を生成し、この臨時計画86にしたがって自車を走行させる。以下、これについて、詳説する。
【0044】
図6は、自動運転コントローラ60のメモリに記憶されている標準計画84の一例を示す図である。標準計画84は、自車の標準的な運行スケジュールを定めたものである。本例の標準計画84は、図6に示すように、特定の駅54aを発車してから、各駅54を発車するまでの経過時間を規定している。図6の標準計画84では、車両52が駅54aを発車してから、5分後に駅54bを発車し、駅54aを発車してから10分後に、駅54cを発車すると規定されている。
【0045】
また、別の形態として、標準計画84は、特定の駅54aを基準とする経過時間ではなく、図7に示すように、各駅間の時間間隔を規定したものでもよい。図7の標準計画84では、車両52が、駅54aを発車してから5分後に駅54bを発車し、駅54bを発車してから5分後に駅54cを発車すると規定されている。いずれにしても、各駅54の到着または発車タイミングを、時刻ではなく、経過時間または時間間隔で規定した場合、標準計画84に時刻依存性がなくなるため、いずれの時刻でも一つの標準計画84を利用することができる。
【0046】
ただし、標準計画84は、把握できるものであれば、その構成は、特に限定されない。したがって、標準計画84は、各駅54の到着または発車の時刻を規定した運行ダイヤ形式でもよい。
【0047】
図4の走行計画80に従えば、車両52Aは、7:20に駅54aを発車するが、この発車の直前までに適切な走行計画80を受信できない場合、自動運転コントローラ60は、この標準計画84に基づいて、臨時計画86を生成する。図8は、図6の標準計画84に基づいて生成された臨時計画86の一例を示す図である。臨時計画86に従えば、車両52Aは、駅54aを発車した5分後に駅54bを、10分後に駅54cを、それぞれ出発する。したがって、この場合、自動運転コントローラ60は、車両52Aが、7:25に駅54bを発車し、7:30に駅54cを発車する臨時計画86を生成する。そして、自動運転コントローラ60は、この臨時計画86に従って自車の走行を制御する。
【0048】
このように、走行計画80が不着または異常の場合には、予め記憶した標準計画84に基づいて臨時計画86を生成することで、通信障害や運行管理装置12のトラブルが発生した場合でも、車両52を安定して走行させることができる。
【0049】
ところで、走行経路50の渋滞状況や、駅54での乗降時間TEの増加等に起因して、車両52が、走行計画80または臨時計画86に対して遅延する場合がある。運行管理装置12が正常で、車両52と適切に通信ができる場合、運行管理装置12は、こうした遅延による問題を解消できるように走行計画80を修正し、修正後の各車両52に送信する。しかし、通信障害や運行管理装置12にトラブルが生じている場合には、適切に修正された走行計画80を車両52が受信できない。
【0050】
そこで、走行計画80の不着または異常が発生したタイミングで、直近の走行計画80または臨時計画86に対する車両52の遅延が発生している場合、自動運転コントローラ60は、この遅延を解消し得る臨時計画86を生成する。具体的に説明する。
【0051】
図4の走行計画80に従えば、車両52Aは、7:20に駅54aを発車する。しかし、何らかのトラブルにより、車両52Aが、駅54aを発車したのが、2分遅れの7:22となり、この発車の直前まで、適切な走行計画80を受信できなかったとする。この場合、自動運転コントローラ60は、直近で取得した走行計画80、すなわち、図4の走行計画80を基準として、臨時計画86を生成する。
【0052】
すなわち、実際には車両52Aは、7:22に駅54aを発車しているが、図4の走行計画80の通り、車両52Aが7:20に駅54aを発車しているとみなして臨時計画86を生成する。この場合、臨時計画86は、図8のようになる。自動運転コントローラ60は、この図8の臨時計画86に従って車両52を走行させるが、駅54aを発車した段階で、車両52は臨時計画86に対して遅延している。そのため、自動運転コントローラ60は、この遅延を解消するように、自車の平均走行速度VAを一時的に増加または駅54での停車時間TSを一時的に短縮し、自社の表定速度VSを一時的に増加させる。
【0053】
図8の臨時計画86に従って走行した結果、車両52Aが駅54aを、臨時計画86に対して1分遅れとなる7:41に発車し、この発車の直前まで、適切な走行計画80を受信できなかったとする。この場合、自動運転コントローラ60は、直近の臨時計画86、すなわち、図8の臨時計画86の通り、車両52Aが7:40に駅54aを発車しているとみなして、新たな臨時計画86を生成する。この場合、新たな臨時計画86は、図9のようになる。
【0054】
このように、走行計画80の不着または異常が発生した際に、車両52が、直近の走行計画80または臨時計画86に対して遅延している場合には、直近の走行計画80または臨時計画86を基準として、臨時計画86を生成することで、当該遅延を解消するように車両52の表定速度VSを一時的に増加させることができる。
【0055】
なお、上記の例では、直近の走行計画80または臨時計画86を基準として、臨時計画86を生成しているが、遅延を解消できるように、車両52の表定速度VSを一時的に増加できるのであれば、臨時計画86は他の形態でもよい。例えば、図8の臨時計画86に替えて、図10に示すように、臨時計画86上でも、表定速度VSを一時的に増加させる臨時計画86を用いてもよい。図10の臨時計画86では、車両52Aは、駅54aを7:22に発車した後、その4分後の7:26に駅54bを発車し、さらにその4分後の7:30に駅54cを発車する、と規定されている。かかる臨時計画86でも、遅延を解消できる。
【0056】
図11は、臨時計画86の生成の流れを示すフローチャートである。自動運転コントローラ60は、自車が特定の駅54aに到着した場合(S10でYes)、運行管理装置12に走行計画80のリクエストを送信する(S12)。リクエストの送信後、自動運転コントローラ60は、走行計画80を運行管理装置12から受信できたか否かを確認する(S14)。発車時刻までに走行計画80を受信できない場合(S16でYes)、自動運転コントローラ60は、ステップS20に進み、臨時計画86を生成する。
【0057】
一方、発車時刻までに、走行計画80を受信できた場合(S14でYes)、自動運転コントローラ60は、受信した走行計画80が、正常か否かを確認する(S18)。例えば、自動運転コントローラ60は、走行計画80で求まる表定速度VSが、予め規定された基準速度範囲から外れている場合、すなわち、表定速度VSが過度に大きい場合または過度に小さい場合に、走行計画80が異常であると判断する。また、自動運転コントローラ60は、走行計画80が、予め規定の形式から外れている場合等にも、走行計画80が異常であると判断する。
【0058】
確認の結果、走行計画80が、正常である場合(S18でYes)、自動運転コントローラ60は、臨時計画86を生成することなく、処理を終了する。一方、走行計画80が異常の場合(S18でNo)、自動運転コントローラ60は、ステップS20に進み、臨時計画86を生成する。
【0059】
ステップS20では、自動運転コントローラ60は、直近の正常な走行計画80または臨時計画86で規定された発車時刻を基準として、標準計画84に基づいて、臨時計画86を生成する。
【0060】
以上の説明から明らかな通り、本例によれば、走行計画80が不着または異常の場合であっても、車両52側で臨時計画86が生成されるため、車両52を安定して走行させることができる。ただし、自動運転コントローラ60は、あくまで、自車の走行状況のみを把握しており、他車の走行状況は把握していない。かかる状態で、長期間、臨時走行に基づいて走行した場合、何らかの問題が生じるおそれがある。そこで、正常な走行計画80が、規定の許容時間を越えて受信できない場合には、臨時計画86の生成を停止し、車両52を停車するようにしてもよい。
【0061】
なお、自動運転コントローラ60は、標準計画84を複数種類、有してもよい。例えば、走行経路50が渋滞している場合、平均走行速度VAが低下するため、駅間所要時間TTは長くなりやすい。また、乗降する利用者が多い場合、駅54での停車時間が長くなりやすく、駅間所要時間TTも長くなりやすい。また、路面の凍結時には、平均走行速度VAを上げることができないため、駅間所要時間TTが長くなりやすい。そのため、各車両52の適切な駅間所要時間TTは、渋滞状況や路面状況、輸送需要等によって、異なる。そこで、自動運転コントローラ60は複数種類の標準計画84を有しておき、状況に応じて一つの標準計画84を選択するようにしてもよい。
【0062】
この場合、自動運転コントローラ60は、日時、走行経路50の路面状況および渋滞状況の少なくとも一つに基づいて、標準計画84を選択してもよい。ここで、日時は、輸送需要や渋滞状況に大きく影響を与える。輸送需要が低く、渋滞が生じにくい夜間は、駅間所要時間TTが短い標準計画84を選択し、輸送需要が高く、渋滞が生じやすい通勤時間帯には、所要時間が長い標準計画84を選択するようにしてもよい。また、また、路面が凍結している場合には、駅間所要時間TTが長い標準計画84を選択してもよい。さらに、渋滞が発生している場合には、駅間所要時間TTが長い標準計画84を選択してもよい。
【0063】
いずれにしても、状況に応じて選択した標準計画84に基づいて臨時計画86を生成することで、車両52をより適切に運行させることができる。
【0064】
また、これまで説明した例では、走行計画80が、不着または異常の場合に臨時計画86を生成しているが、臨時計画86は、他のタイミングで生成されてもよい。例えば、何らかの理由により、運行管理装置12から車両52に対して、運行中断指令が送信される場合がある。かかる場合、車両52は、安全を確認したうえでその場で停車する。この車両52の停車位置は、通常、走行計画80を受信するポイント、すなわち、特定の駅54aとは異なる位置である。したがって、車両52は、一時停車した後、運行管理装置12から、運行再開指令を受信したとしても、その停車位置では、走行計画80を受信できない。
【0065】
このように、運行中断指令を受信した後、運行再開指令を受信した場合、自動運転コントローラ60は、標準計画84に基づいて臨時計画86を生成し、この臨時計画86に従って自車を走行させる。例えば、車両52Aが、駅54aと駅54bとの中間位置において、運行中断指令を受信したとする。この場合、車両52Aは、当該中間位置において、一時停車する。その後、自動運転コントローラ60は、運行再開指令を受信した場合、車両52Aの走行を再開する。
【0066】
例えば、自動運転コントローラ60は、中間位置から駅54bまでは、臨時計画86を生成せずに、制限速度を守った状態で自車を走行させる。そして、駅54bに到着すれば、駅54bの予定発車時刻を基準として、標準計画84に基づいて、駅54aまでの臨時計画86を生成する。そして、臨時計画86が生成された後は、自動運転コントローラ60は、当該臨時計画86に従って自車を走行させる。こうした走行の結果、車両52が、駅54aに到着すれば、自動運転コントローラ60は、運行管理装置12に対して走行計画80のリクエストを送信する。そして、運行管理装置12から適切な走行計画80が送信されれば、以降は、この走行計画80に従って車両52を走行させる。
【0067】
以上の通り、運行中断指令と運行再開指令を受けた場合にも、標準計画84に基づいて臨時計画86を生成することで、車両52を安定して走行させることができる。
【0068】
なお、これまで説明した構成は一例であり、走行計画80が不着または異常の場合に、自動運転コントローラ60が、標準計画84に基づいて臨時計画86を生成し、この臨時計画を充足するように自車を自律的に走行させるのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。例えば、走行計画80、標準計画84、臨時計画86の形態は、適宜変更されてもよい。また、車両52および駅54の個数や間隔も適宜変更されてもよい。したがって、複数の車両52は必ずしも等間隔運行である必要はない。
【符号の説明】
【0069】
10 交通システム、12 運行管理装置、14 計画生成部、16 通信装置、18 運行監視部、20 記憶装置、22,60a プロセッサ、24 入出力デバイス、26 通信I/F、50 走行経路、52 車両、54 駅、56 自動運転ユニット、58 駆動ユニット、60 自動運転コントローラ、60b メモリ、62 環境センサ、66 位置センサ、68 通信装置、80 走行計画、82 走行情報、84 標準計画、86 臨時計画。
図1
図2
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図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11