IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三ツ星ベルト株式会社の特許一覧

特許7355700分極処理用導電性組成物、仮電極および圧電セラミックスの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】分極処理用導電性組成物、仮電極および圧電セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/87 20230101AFI20230926BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20230926BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20230926BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20230926BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20230926BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230926BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20230926BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20230926BHJP
   H10N 30/853 20230101ALI20230926BHJP
【FI】
H10N30/87
C08K3/08
C08L1/08
C08L33/04
C08L71/02
C08L101/00
H01B1/22 A
H10N30/045
H10N30/853
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020068508
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2020181978
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2019083153
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】豊村 一期
(72)【発明者】
【氏名】松野 剛士
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-238230(JP,A)
【文献】特開平07-069834(JP,A)
【文献】特開昭55-151706(JP,A)
【文献】特公昭60-48116(JP,B2)
【文献】特開平10-070322(JP,A)
【文献】特開2009-078964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/87
C08K 3/08
C08L 1/08
C08L 33/04
C08L 71/02
C08L 101/00
H01B 1/22
H10N 30/045
H10N 30/853
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミックスを製造するための分極処理で利用される仮電極を形成するための導電性組成物であって、
金属粒子(A)、非水溶性樹脂(B)、水溶性ポリエーテルポリマー(C)および有機溶剤(D)を含み、
前記非水溶性樹脂(B)の割合が、前記金属粒子(A)100質量部に対して5~20質量部であり、かつ
前記有機溶剤(D)の沸点が140~200℃である導電性組成物。
【請求項2】
前記金属粒子(A)が銀粒子である請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記非水溶性樹脂(B)が(メタ)アクリル系樹脂および/またはセルロース誘導体である請求項1または2記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)がポリC2-3アルキレングリコールまたはそのブロック共重合体である請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項5】
前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)が数平均分子量200以上のポリエチレングリコールである請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項6】
前記有機溶剤(D)が前記非水溶性樹脂(B)および前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)を溶解可能な溶剤である請求項1~のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項7】
前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)の割合が、前記金属粒子(A)100質量部に対して5~20質量部である請求項1~のいずれか1項に記載の導電性組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の導電性組成物で形成された圧電セラミックス製造用仮電極。
【請求項9】
圧電セラミックス前駆体の表面に請求項1~のいずれか1項に記載の導電性組成物をコーティングして乾燥することにより仮電極を形成する仮電極形成工程、得られた仮電極を通じて前記前駆体に電圧を負荷して分極させる分極工程、分極した前記前駆体を水または水溶液で洗浄することにより仮電極を除去して圧電セラミックスを得る水洗浄工程を含む圧電セラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記仮電極形成工程において、乾燥温度が120℃以下である請求項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックスを製造するための分極処理で利用される仮電極を形成するための導電性組成物ならびにこの組成物で形成された仮電極およびこの仮電極を用いて圧電セラミックスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、高純度な粉体(酸化チタン、酸化バリウム等)を焼き固めた多結晶体セラミックスであり、電気エネルギーと機械エネルギーとの変換を行う圧電効果を有する。このような圧電セラミックスは、多結晶体セラミックスに分極処理を施すことで圧電性が付与される。この分極処理では、高い温度下でセラミックスに直流高電圧を加えて自発分極の向きを揃え極性が付与される。
【0003】
詳しくは、圧電セラミックスは、多結晶体セラミックスに導電性ペーストを仮電極として印刷し、乾燥または硬化した後、分極処理することにより製造される。この仮電極を形成する方法としては、400℃以上の高温焼成型の導電性ペーストを用いる方法、200℃以下の温度での乾燥硬化型の導電性ペーストを用いる方法、めっきや蒸着を利用する方法などがある。いずれの方法においても、仮電極は分極後に除去されるが、高温焼成型ペーストを用いる方法や、めっきや蒸着を利用する方法で仮電極を形成した場合、仮電極を除去するのに機械研磨が必要となり、生産効率、コストなどが低下する。また、乾燥硬化型で樹脂系導電性ペーストを用いる場合は、仮電極の除去に有機溶媒を用いなければならないが、溶媒での洗浄は環境への悪影響が懸念され、水で洗浄可能な仮電極用の導電性ペーストが求められている。
【0004】
特開昭55-151706号公報(特許文献1)には、圧電素子などの分極時の仮電極や仮導体として用いる導電性組成物として、導電性物質、水溶性樹脂、水を含有し、150℃、60分の条件で硬化しても、水で再溶解できる導電性組成物が開示されている。
【0005】
特公昭60-48116号公報(特許文献2)には、導電性金属粉、熱可塑性水溶性樹脂、水または水-エチレングリコール混合溶媒を含み、150℃、30分の条件で乾燥しても水洗浄が可能な分極用ペーストが開示されている。
【0006】
特開平7-238230号公報(特許文献3)には、圧電材料の表面に仮電極を形成してろ波器を製造するための導電性樹脂組成物として、水溶性樹脂、平均粒子寸法0.05~50μmの導電粒子、前記水溶性樹脂を溶解させる溶媒を含み、100℃、5分の条件で乾燥の水洗浄が可能な導電性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭55-151706号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特公昭60-48116号公報(特許請求の範囲、実施例)
【文献】特開平7-238230号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2の組成物は、仮電極として利用するための導電性を発現させるために、100℃を超える温度で乾燥する必要がある。また、溶媒に水を用いているが、水系のスクリーン印刷では、使用するマスクに通常用いられる乳剤ではなく、水溶媒系に耐える乳剤が必要である。また、作業温度における蒸気圧が高く、マスクに付着した導電ペーストが乾燥して、マスクの目詰まりが起こったり、連続印刷時に粘度上昇が起こるなど印刷性に問題がある。さらに外気の湿度の影響も受けやすい。
【0009】
特許文献3でも、水溶性樹脂としてセルロース誘導体での実施例が示されているが、エチルセルロースのような非水溶性樹脂では、水洗浄性は得られていなかった。また、一般に水溶性樹脂は銀粉の分散安定性を低下させ、印刷性が低下する虞もある。
【0010】
従って、本発明の目的は、仮電極を形成するためのコーティング性に優れ、低温短時間で乾燥でき、水洗浄が可能な分極処理用導電性組成物ならびにこの組成物で形成された仮電極およびこの仮電極を用いた圧電セラミックスの製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、既存の有機溶剤系スクリーン印刷工程を利用できる分極処理用導電性組成物ならびにこの組成物で形成された仮電極およびこの仮電極を用いた圧電セラミックスの製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、仮電極に必要な導電性および膜強度を実現できる分極処理用導電性組成物ならびにこの組成物で形成された仮電極およびこの仮電極を用いた圧電セラミックスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、金属粒子(A)と非水溶性樹脂(B)と水溶性ポリエーテルポリマー(C)と有機溶剤(D)とを組み合わせることにより、圧電セラミックスを製造するための分極処理で利用される仮電極を形成すると、コーティング性に優れ、低温短時間で乾燥でき、水洗浄が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の導電性組成物は、圧電セラミックスを製造するための分極処理で利用される仮電極を形成するための導電性組成物であって、金属粒子(A)、非水溶性樹脂(B)、水溶性ポリエーテルポリマー(C)および有機溶剤(D)を含む。前記金属粒子(A)は銀粒子であってもよい。前記非水溶性樹脂(B)は(メタ)アクリル系樹脂および/またはセルロース誘導体であってもよい。前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)はポリC2-3アルキレングリコールまたはそのブロック共重合体(特に、数平均分子量200以上のポリエチレングリコール)であってもよい。前記有機溶剤(D)の沸点は140~200℃程度である。前記有機溶剤(D)は、前記非水溶性樹脂(B)および前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)を溶解可能な溶剤であってもよい。前記非水溶性樹脂(B)の割合は、前記金属粒子(A)100質量部に対して5~20質量部程度である。前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)の割合は、前記金属粒子(A)100質量部に対して5~20質量部程度である。
【0015】
本発明には、前記導電性組成物で形成された圧電セラミックス製造用仮電極も含まれる。
【0016】
本発明には、圧電セラミックス前駆体の表面に前記導電性組成物をコーティングして乾燥することにより仮電極を形成する仮電極形成工程、得られた仮電極を通じて前記前駆体に電圧を負荷して分極させる分極工程、分極した前記前駆体を水または水溶液で洗浄することにより仮電極を除去して圧電セラミックスを得る水洗浄工程を含む圧電セラミックスの製造方法も含まれる。前記仮電極形成工程において、乾燥温度は120℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、金属粒子(A)と非水溶性樹脂(B)と水溶性ポリエーテルポリマー(C)と有機溶剤(D)とを組み合わせているため、圧電セラミックスの製造するための分極処理で利用される仮電極を形成すると、コーティング性/印刷性に優れ、低温短時間で乾燥でき、水洗浄が可能である。また、組成物自身は有機溶剤系であるため、既存の有機溶剤系スクリーン印刷工程に利用できる。さらに、簡便な方法で製造できるにも拘わらず、仮電極に必要な導電性および膜強度を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[金属粒子(A)]
本発明の導電性組成物は、金属粒子(A)を含む。この金属粒子(A)は、圧電セラミックスを製造するための仮電極として必要な導電性を有する導電性金属で形成された粒子であればよい。
【0019】
導電性金属としては、例えば、遷移金属(例えば、チタンなどの周期表第4族金属;バナジウム、ニオブなどの周期表第5族金属;モリブデン、タングステンなどの周期表第6族金属;周期表第7族金属;鉄、ルテニウム、オスミウムなどの周期表第8族金属;コバルト、ロジウム、イリジウムなどの周期表第9族金属;ニッケル、パラジウム、白金などの周期表第10族金属;銅、銀、金などの周期表第11族金属など)、周期表第12族金属(例えば、亜鉛など)、周期表第13族金属(例えば、インジウム、アルミニウム、ガリウムなど)、周期表第14族金属(例えば、スズ、鉛など)、周期表第15族金属(例えば、アンチモンなど)などが挙げられる。これらの導電性金属は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、導電性が高い金属、例えば、パラジウム、白金などの周期表第10族金属、銅、銀、金などの周期表第11族金属、アルミニウムなどの周期表第13族金属が好ましく、銀が特に好ましい。
【0020】
金属粒子(A)は銀粒子を含むのが好ましく、銀粒子単独であってもよく、銀粒子と他の導電性粒子との組み合わせ(例えば、銀粒子と銅粒子との組み合わせ)であってもよいが、銀粒子単独が特に好ましい。銀粒子の割合は、金属粒子(A)中10質量%以上であってもよく、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0021】
金属粒子(特に、銀粒子)の形状としては、例えば、球状(真球状または略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体状(多角錘状、立方体状や直方体状などの多角方形状など)、フレーク状、ロッド状または棒状、繊維状、樹針状、不定形状などが挙げられる。これらのうち、球状などの粒状、フレーク状が汎用され、フレーク状を含むのが好ましい。フレーク状は、扁平状、薄片状、鱗片状の形状を含み、球状や塊状の粒子を押し潰した形状も含む。粒状は凝集体の形状であってもよい。
【0022】
金属粒子(A)がフレーク状を含む場合、フレーク状単独であってもよく、フレーク状と粒状との組み合わせであってもよいが、フレーク状単独が特に好ましい。フレーク状金属粒子の割合は、金属粒子(A)中10質量%以上であってもよく、好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
【0023】
金属粒子(特に、銀粒子)の粒径は、特に限定されず、中心粒径(D50)として0.1~50μm程度の範囲から選択でき、中心粒径は、例えば1~30μm、好ましくは2~20μm、さらに好ましくは2~10μm(例えば3~10μm)、より好ましくは3.5~7μm(特に3.5~5.5μm)程度である。中心粒径が小さすぎると、取り扱い性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、均一な組成物を調製するのが困難となる虞がある。
【0024】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、粒子(後述する他の粒子も含む)の中心粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された平均粒径(体積基準)を意味する。
【0025】
金属粒子(A)(特に、銀粒子)の比表面積(BET比表面積)は、例えば0.1~5m/g、好ましくは0.3~3m/g、さらに好ましくは0.5~1m/g程度である。
【0026】
金属粒子(A)(特に、銀粒子)の割合は、導電性組成物中10~90質量%程度の範囲から選択でき、例えば20~80質量%、好ましくは30~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%(特に45~55質量%)程度である。金属粒子(A)の割合が少なすぎると、導電性が低下する虞があり、逆に多すぎると、圧電セラミックス前駆体に対する密着性が低下する虞がある。
【0027】
[非水溶性樹脂(B)]
本発明の導電性組成物は、前記金属粒子(A)に加えて、非水溶性樹脂または水不溶性樹脂(B)をさらに含む。非水溶性樹脂(B)は、バインダーとして機能させるために配合され、非水溶性であり、有機溶媒に溶解可能な樹脂が好ましい。
【0028】
非水溶性樹脂(B)としては、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体など)が挙げられる。これらの樹脂成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの非水溶性樹脂のうち、(メタ)アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)、セルロース誘導体(エチルセルロース、ブチルセルロース、酢酸セルロースなど)、ゴム類(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)などが汎用され、(メタ)アクリル系樹脂および/またはセルロース誘導体が好ましい。
【0029】
非水溶性(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレン(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリイソブチル(メタ)アクリレートなどのポリアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの非水溶性(メタ)アクリル系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ポリC1-8アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、ポリC2-6アルキル(メタ)アクリレートがさらに好ましく、ポリイソブチルメタクリレートなどのポリC3-5アルキルメタクリレートが特に好ましい。
【0030】
非水溶性セルロース誘導体としては、例えば、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、ブチルセルロースなどのアルキルセルロース;酢酸セルロース、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースアシレート;ニトロセルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどのセルロース無機酸エステルなどが挙げられる。これらの非水溶性セルロース誘導体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エチルセルロースなどのC2-4アルキルセルロースが好ましい。
【0031】
2-4アルキルセルロースのエーテル置換度は、例えば30~70質量%、好ましくは40~60質量%、さらに好ましくは45~50質量%程度である。
【0032】
(メタ)アクリル系樹脂およびセルロース誘導体の中でも、ポリC1-8アルキル(メタ)アクリレート、アルキルセルロース、セルロースアシレートが好ましく、C2-4アルキルセルロースが特に好ましい。
【0033】
非水溶性樹脂(B)(特に、アルキルセルロースなどのセルロース誘導体)の粘度(25℃、5質量%溶液、溶媒:トルエン/エタノール(質量比)=80/20)は、例えば40~400mPa・s、好ましくは60~350mPa・s、さらに好ましくは80~300mPa・s程度である。
【0034】
非水溶性樹脂(B)(特に、(メタ)アクリル系樹脂および/またはセルロース誘導体)の割合は、金属粒子(A)100質量部に対して、例えば1~30質量部(例えば5~30質量部)、好ましくは3~25質量部(例えば5~20質量部)、さらに好ましくは3.5~10質量部(特に4~7質量部)程度である。非水溶性樹脂(B)の割合は、導電組成物中1~15質量%(例えば2~15質量%)、好ましくは1.5~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%程度であってもよい。非水溶性樹脂(B)の割合が少なすぎると、印刷性、基板への密着力、膜強度が低下する虞があり、逆に多すぎると、導電性が低下する虞がある。
【0035】
[水溶性ポリエーテルポリマー(C)]
本発明の導電性組成物は、前記金属粒子(A)および前記非水溶性樹脂(B)に加えて、水溶性ポリエーテルポリマー(C)をさらに含む。水溶性ポリエーテルポリマー(C)は、分極処理後の膜状態の仮電極を水洗可能とするために配合され、水溶性であり、有機溶剤(D)に溶解可能な樹脂が好ましい。
【0036】
水溶性ポリエーテルポリマー(C)としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリブチレンオキシドブロック共重合体などのポリC2-4アルキレングリコールまたはそのブロック共重合体などが挙げられる。これらの水溶性ポリエーテルポリマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、仮電極の水洗浄性を向上できる点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドブロック共重合体、ポリプロピレングリコールなどのポリC2-3アルキレングリコールまたはそのブロック共重合体が好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0037】
水溶性ポリエーテルポリマー(C)の分子量は、特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコールの場合、平均分子量600程度までは常温で液体であり、平均分子量1000の前後では常温でろう状であり、平均分子量約2000以上では常温で固体である。ポリエチレングリコールの場合、いずれの分子量でも水に可溶であり、水洗浄性に効果がある。
【0038】
水溶性ポリエーテルポリマー(C)(特に、ポリエチレングリコール)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したとき、ポリスチレン換算で150~10000程度の範囲から選択できるが、200以上(特に300以上)が好ましく、例えば200~1800、好ましくは200~1000、さらに好ましくは300~900、より好ましくは400~800(特に500~700)程度である。分子量が小さすぎると、揮発性が高く加熱時に揮発して仮電極の水洗浄性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、他の成分との相溶性や膜強度が低下する虞がある。
【0039】
水溶性ポリエーテルポリマー(C)(特に、ポリエチレングリコール)の割合は、金属粒子(A)100質量部に対して、例えば1~30質量部(例えば5~30質量部)、好ましくは3~25質量部(例えば5~20質量部)、さらに好ましくは3.5~10質量部(特に4~7質量部)程度である。水溶性ポリエーテルポリマー(C)の割合は、導電組成物中1~15質量%(例えば2~15質量%)、好ましくは1.5~10質量%、さらに好ましくは2~5質量%程度であってもよい。水溶性ポリエーテルポリマー(C)の割合が少なすぎると、水洗浄性が低下する虞があり、逆に多すぎると、他の成分との相溶性や膜強度が低下する虞がある。
【0040】
[有機溶剤(D)]
本発明の導電性組成物は、前記金属粒子(A)、前記非水溶性樹脂(B)および前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)に加えて、有機溶剤(D)をさらに含む。有機溶剤(D)は、塗布性を向上させるために配合され、前記非水溶性樹脂(B)および前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)を溶解可能な溶媒が好ましい。このような有機溶剤(D)は、導電性組成物(ペースト)に適度な粘度を生じさせるとともに、前記金属粒子(A)、前記非水溶性樹脂(B)および前記水溶性ポリエーテルポリマー(C)を均一に混合させやすく好適である。
【0041】
有機溶剤(D)の沸点は、例えば100~220℃(例えば140~200℃)、好ましくは150~210℃(例えば150~195℃)、さらに好ましくは170~200℃(特に180~195℃)程度である。沸点が低すぎると、印刷時に揮発し、カスレなどが発生する虞があり、逆に高すぎると、成膜性が低下する虞がある。
【0042】
有機溶剤(D)としては、例えば、グリコールエーテル類[エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)などのセロソルブ類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メチルカルビトール)などのカルビトール類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルなど]、グライムまたはジグライム類(エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPDM)など)、グリコールエーテルエステル類[例えば、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(メチルセロソルブアセテート)、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート]、エステル類(酢酸3-メトキシブチル、酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、安息香酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、コハク酸ジメチルなど)、ケトン類(ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、アミド類(N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのモノまたはジC1-4アシルアミド類など)、アルコール類(ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノールなどのアルキルアルコール類、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどのシクロアルキルアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2-6アルキレングリコールなど)、その他(ジメチルスルホキシド、ジアセトンアルコールなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
これらのうち、グリコールエーテル類、ジグライム類、アルコール類などが好ましく、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPDM)などのジグライム類、1-ヘプタノールなどのC6-8アルキルアルコール類、シクロヘキサノンなどの環状ケトン類が特に好ましい。これらの溶媒であれば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等で印刷可能な粘度をペーストに付与し、かつペーストを基板に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発できる。
【0044】
有機溶剤(D)の割合は、金属粒子(A)100質量部に対して、例えば10~200質量部、好ましくは30~150質量部、さらに好ましくは50~100質量部(特に70~90質量部)程度である。有機溶剤(D)の割合は、導電組成物中10~80質量%、好ましくは20~60質量%、さらに好ましくは30~50質量%程度であってもよい。有機溶剤(D)の割合が少なすぎると、塗布性が低下する虞があり、逆に多すぎると、金属粒子が沈降したり、膜厚が低下する虞がある。
【0045】
[他の成分]
本発明の導電性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、ガラス粒子、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤または分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤またはレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性付与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の割合は、成分の種類に応じて選択でき、通常、金属粒子(A)100質量部に対して10質量部以下(例えば0.01~10質量部)程度である。
【0046】
[導電性組成物の調製方法]
本発明の導電性組成物(または導電性ペースト)の調製方法としては、各成分を均一に分散させるため、慣用の混合機を用いて混合する方法などを利用でき、遊星式攪拌・脱泡装置や、粉砕機能を有する装置(例えば、3本ロール、乳鉢、ミルなど)を使用してもよい。各成分の添加方法は、一括添加して混合する方法であってもよく、分割して添加して混合する方法であってもよい。
【0047】
[圧電セラミックスの製造方法]
本発明の導電性組成物は、圧電セラミックスを製造するための仮電極を形成するために用いるのが好ましく、圧電セラミックス製造用導電性組成物であってもよい。
【0048】
本発明の導電性組成物を用いた圧電セラミックスの製造方法は、圧電セラミックス前駆体の表面に前記導電性組成物をコーティングして乾燥することにより仮電極を形成する仮電極形成工程、得られた仮電極を通じて前記前駆体に電圧を負荷して分極させる分極工程、分極した前記前駆体を水または水溶液で洗浄することにより仮電極を除去して圧電セラミックスを得る水洗浄工程を含む。
【0049】
前記仮電極形成工程において、導電性組成物のコーティングとしては、慣用のコーティング方法を利用できる。
【0050】
慣用のコーティング方法としては、例えば、フローコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などを利用できる。前記コーティング方法において、塗膜でパターンを形成(描画)してもよく、形成されたパターン(描画パターン)を乾燥することによりパターン(金属膜、導体層)を形成できる。パターン(塗布層)を描画するための描画法(又は印刷法)としては、パターン形成可能な印刷法であれば特に限定されず、例えば、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、凹版印刷法(例えば、グラビア印刷法など)、オフセット印刷法、凹版オフセット印刷法、フレキソ印刷法などが挙げられる。これらのうち、スクリーン印刷法が好ましい。
【0051】
本発明の導電性組成物は、仮電極形成工程において、コーティング後に低温および短時間で乾燥できる。乾燥温度は120℃以下であってもよく、例えば50~120℃、好ましくは60~110℃、さらに好ましくは70~100℃(特に80~100℃)程度である。本発明では、このような低温で乾燥しても、分極に必要な導電性を発現できるとともに、仮電極として必要な膜強度も実現できる。乾燥時間は30分以下であってもよく、例えば1~30分、好ましくは3~25分、さらに好ましくは5~20分(特に10~15分)程度であってもよい。
【0052】
圧電セラミックス前駆体としては、圧電素子として慣用的に利用される多結晶体セラミックスを利用できる。多結晶体セラミックスは、圧電性を示すセラミックスとして、例えば、酸化チタン、酸化バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛、チタン酸鉛、チタン酸バリウムなどのABO型ペロブスカイト酸化物などを含んでいてもよい。
【0053】
乾燥は、空気中で行われてもよく、不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなど)雰囲気中で行われてもよい。
【0054】
分極工程では、圧電セラミックスの製造方法における慣用の分極処理を利用できる。慣用の分極処理では、通常、直流の電圧が付加される。
【0055】
水洗浄工程において、水または水溶液で洗浄する方法としては、特に限定されず、簡便性などの点から超音波洗浄が好ましい。
【実施例
【0056】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例で使用した材料を以下に示す。
【0057】
[使用した材料]
銀粒子A:フレーク状、中心粒径(D50)3.5~5.5μm、比表面積0.6~0.9m/g
銀粒子B:フレーク状、中心粒径(D50)2.0~3.4μm、比表面積0.6~0.8m/g
銀粒子C:フレーク状、中心粒径(D50)1.0~3.5μm、比表面積0.5~1.5m/g
銀粒子D:凝集粉、中心粒径(D50)1.8~2.2μm、比表面積1.5~1.7m/g
銅粒子:フレーク状、中心粒径(D50)4.7μm、比表面積0.53m/g
エチルセルロース:ダウケミカル社製「STD100」、エトキシ基含有量48.0~49.5質量%、粘度90~110mPa・s(25℃、5質量%溶液:トルエン/エタノール=8/2(w/w))
ニトロセルロース:Korea CNC社製「RS120」、窒素含有量11.5~12.2%、12.2質量%溶液粘度(JIS K6703に準じて測定した落下時間123~138秒)
(メタ)アクリル樹脂:ポリ(イソブチルメタクリレート)
PEG200:富士フイルム和光純薬(株)製「ポリエチレングリコール200」、ポリエチレングリコール、平均分子量180~220
PEG300:富士フイルム和光純薬(株)製「ポリエチレングリコール300」、ポリエチレングリコール、平均分子量260~340
PEG600:富士フイルム和光純薬(株)製「ポリエチレングリコール600」、ポリエチレングリコール、平均分子量560~640
PEG1000:富士フイルム和光純薬(株)製「ポリエチレングリコール1000」、ポリエチレングリコール、平均分子量900~1100
PPG700:富士フイルム和光純薬(株)製「ポリプロピレングリコール、ジオール型、700」、ポリプロピレングリコール、平均分子量約700
DPDM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル、沸点194℃
1-ヘプタノール:沸点176℃
シクロヘキサノン:沸点155.6℃
アセトン:沸点56℃
ブチルカルビトール:沸点247℃。
【0058】
実施例1~22、参考例1~3および比較例1~2
(導電性組成物の調製)
銀粒子、非水溶性樹脂(エチルセルロース)、水溶性ポリエーテルポリマー(PEG600)、溶剤(DPDM)を表1に示す組成で、遊星式攪拌・脱泡装置(クラボウ(株)製「マゼルスターKK-400W」)を用いて均一になるまで混合し、導電性ペーストを調製した。なお、導電性ペーストに添加する有機溶剤の量は、導電性ペーストの粘度が、E型粘度計(コーンプレート型粘度計)で、コーン直径4cm、コーン角度2°、せん断速度5s-1、測定温度25℃の条件で測定したときに約5Pa・sとなるように調整した。
【0059】
(成膜)
得られた導電性ペーストを、ガラス基板上に電極をスクリーン印刷した。その後、100℃のホットプレート上で15分間乾燥した後、ホットプレートから取出し、室温まで急冷した。
【0060】
(成膜性の評価)
成膜性は、100℃15分間の乾燥で膜が形成できたものを○、膜が形成しなかったものを×とした。また、スクリーン印刷時に膜にカスレが生じたものも「×」と判定した。
【0061】
(耐擦過性の評価)
耐擦過性は、乾燥後の膜について指で触った時に粉の付着や膜剥がれを確認し、以下の基準で判定した。
【0062】
◎:粉の付着や、膜剥がれがない
○:粉が指に僅かに付着する程度で、膜剥がれがない
×:粉が指に付着する、または膜が剥がれる。
【0063】
(水洗浄性の評価)
水洗浄性は、純水中超音波洗浄(出力100W、37kHz、1分)で電極を除去できるかどうかを確認し、以下の基準で判定した。
【0064】
◎:40秒未満で電極を除去できる
○:40秒以上、60秒以下で電極を除去できる
×:電極が除去できない。
【0065】
(初期判定)
上記評価試験の結果について、初期判定として、以下の基準で評価し、ランク付けした。
【0066】
ランクA:成膜性、耐擦過性、水洗浄性のうち、◎が2個以上あり、×がない(合格)
ランクB:成膜性、耐擦過性、水洗浄性のうち、◎が1個あり、×がない(合格)
ランクC:成膜性、耐擦過性、水洗浄性に×がある(不合格)。
【0067】
(体積抵抗率の評価)
体積抵抗率は、低抵抗測定器および触針式表面形状測定装置を用いて、四探針法での表面抵抗と膜厚とから算出した。得られた膜について、それぞれ10サンプルの測定を行い、その平均値を求めた。350μΩ・cm未満を合格とした。
【0068】
(総合判定)
総合判定は、以下の基準で評価し、ランク付けした。
【0069】
ランクA:初期判定がAであり、体積抵抗率が200μΩ・cm未満(合格)
ランクB:初期判定がAまたはBであり、体積抵抗率が200μΩ・cm以上、350μΩ・cm未満(合格)
ランクC:初期判定がCまたは、体積抵抗率が350μΩ・cm以上(不合格)。
【0070】
結果を表1~4に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
なお、表1~4において、金属粒子(A)に対する非水溶性樹脂(B)の割合(質量%)は、金属粒子(A)100質量部に対する非水溶性樹脂(B)の質量部を意味し、水溶性ポリエーテルポリマー(C)の割合も同様である。
【0076】
表1の結果から明らかなように、実施例1~2は、フレーク状の銀粒子、非水溶性樹脂(セルロース誘導体;エチルセルロース)、水溶性ポリエーテルポリマー(PEG600)、有機溶剤(DPDM)を含む例であり、成膜性、耐擦過性、体積抵抗率、水洗浄性の全ての評価項目について優れており、体積抵抗率も小さく、総合評価はA判定であった。なかでも、実施例2が諸特性のバランスに優れていた。
【0077】
一方、実施例1に対して、非水溶性樹脂を含有するが、水溶性ポリエーテルポリマーを含まない場合(比較例1)は、水洗浄性が不合格となった。また、非水溶性樹脂を含まない場合(比較例2)、成膜はしたものの耐擦過性が不合格となった。
【0078】
以上から、非水溶性樹脂および水溶性ポリエーテルポリマーの両方を含有するとき、成膜性、耐擦過性、水洗浄性の全ての評価項目について優れ、さらに体積抵抗率も小さく高い導電性が得られると云える。
【0079】
表1の結果から明らかなように、実施例2に対して、非水溶性樹脂としてニトロセルロースを用いた実施例3では、実施例2よりも体積抵抗率が小さくなって導電性に優れる一方、水洗浄性がやや低下したことで、総合評価はB判定となった。また、非水溶性樹脂としてアクリル樹脂を用いた実施例4では、実施例2よりも導電性がやや劣るものの、成膜性、耐擦過性、水洗浄性はいずれも優れており、総合評価はA判定であった。
【0080】
なお、比較として、非水溶性樹脂ではない、水溶性のセルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース)を用いた例も検証したが、DPDMやブチルカルビトール等の有機溶剤に溶解せず、導電性ペーストが作製できなかった。
【0081】
実施例2に対して、水溶性ポリエーテルポリマーとして、平均分子量の異なるポリエチレングリコールを用いた実施例5(PEG200)、実施例6(PEG300)、実施例7(PEG1000)およびポリプロピレングリコールを用いた実施例8(PPG700)でも、成膜性、耐擦過性、水洗浄性がいずれも優れており、体積抵抗率も小さく、総合評価はA判定であった。
【0082】
なお、ポリエチレングリコールは、平均分子量約1000程度までは、粘液またはワックス状であるため、容易にペーストを作製できる。しかし、平均分子量が約2000以上になると固形であるため、ペーストへの分散性が悪くなり、ペーストが作製できなかった。
【0083】
また、最も諸特性のバランスに優れていた実施例2の結果については、表1だけでなく、表2~4においても、比較のために記載した。
【0084】
表2では、銀粒子に対する非水溶性樹脂(エチルセルロース)または水溶性ポリエーテルポリマー(PEG600)の割合を変量した例を示す。
【0085】
表2の結果から明らかなように、非水溶性樹脂の割合が5質量%である実施例2に対して、20質量%まで増量した実施例10では、体積抵抗率が大きくなって導電性がやや低下するものの、総合評価はA判定となった。さらに25質量%まで増量した実施例11では、いっそう導電性が低下して、総合評価はB判定となった。非水溶性樹脂の割合を3質量%に減量した実施例9では、耐擦過性が低下したことで、総合評価はB判定となった。
【0086】
また、水溶性ポリエーテルポリマーの割合が5質量%である実施例2に対して、20質量%まで増量した実施例13では、体積抵抗率が大きくなって導電性がやや低下するものの、総合評価はA判定となった。さらに、25質量%まで増量した実施例14では、いっそう導電性が低下して、総合評価はB判定となった。水溶性ポリエーテルポリマーの割合を3質量%に減量した実施例12では、水洗浄性が低下したことで、総合評価はB判定となった。
【0087】
表3では、金属粒子(A)の種類を変更した例を示す。実施例15および16は、実施例2に対して、粒径が異なるフレーク状銀粒子を用いた例であるが、表3の結果から明らかなように、成膜性、耐擦過性、水洗浄性がいずれも優れ、体積抵抗率も合格レベルで総合評価はA判定となった。実施例17は、銀粒子として凝集粉を用いた例であるが、水洗浄性がやや低下し、体積抵抗率が大きくなったものの、総合評価はB判定となった。実施例18は、フレーク状銀粒子と凝集粉とを併用した例であるが、成膜性、耐擦過性、水洗浄性はいずれも優れ、体積抵抗率も合格レベルで総合評価はA判定となった。
【0088】
実施例19、20、参考例1は、銀以外の金属粒子として、銅粒子(フレーク状銅粒子)を用いた例である。金属粒子として、フレーク状銅粒子のみを用いた参考例1では、成膜性、耐擦過性、水洗浄性はいずれも優れたものの、体積抵抗率が大きくなりすぎた(測定不能)。フレーク状銀粒子とフレーク状銅粒子とを併用した実施例19、20でも、成膜性、耐擦過性、水洗浄性はいずれも優れ、体積抵抗率も実用的に合格のレベルであった。
【0089】
表4では、実施例2に対して、DPDM以外の有機溶剤を用いた例を示す。有機溶剤として1-ヘプタノール(実施例21)、シクロヘキサン(実施例22)を用いた場合は、実施例2と同等の結果が得られた。なお、有機溶剤として、低沸点(沸点56℃)のアセトンを用いた参考例2では、印刷時に溶剤が揮発してカスレが生じたため、均一な成膜ができなかった。一方、高沸点(沸点231℃)のブチルカルビトールを用いた参考例3では、膜が乾燥しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の導電性組成物は、圧電セラミックスを製造するための分極処理で利用される仮電極を形成するための導電性組成物として利用できる。前記圧電セラミックスは、例えば、各種の電気機器、計測機、光学機器などの圧電素子として利用できる。