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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】積層造形方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20230926BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230926BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20230926BHJP
【FI】
B23K9/04 E
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B33Y10/00
B33Y50/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020071058
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2020192605
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019097064
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-121094(JP,A)
【文献】特開2001-150140(JP,A)
【文献】特開2019-84553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B33Y 10/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融、凝固させたビードを、該ビードの形成順を定めた積層計画に従って基材の表面に積層して積層造形物を形成する積層造形方法であって、
前記積層計画によって決定されるビード形成軌道に沿って、前記ビードを積層するビード積層工程と、
互いに隣接したビード同士間に形成される複数のV溝部で発生したスラグを、スラグ除去ツールを用いて除去するスラグ除去工程と、
を有し、
前記スラグ除去工程は、
前記積層計画のビード形状と前記ビード形成軌道の情報から、前記ビード形成軌道に直交する軌道方向垂直断面における前記V溝部を形成するビードのビード高さHとビード幅Wとの寸法比H/Wを求め、
複数の前記V溝部のうち前記寸法比H/Wが0.2を超えるV溝部を除去候補箇所として抽出し、
抽出された前記除去候補箇所の前記スラグを除去する、
積層造形方法。
【請求項2】
前記除去候補箇所を、前記積層造形物の外側表面を除く造形物内部に配置されたV溝部から抽出する請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記除去候補箇所となる前記V溝部は、前記軌道方向垂直断面において、前記V溝部の底部から延び、前記V溝部を形成する一方のビードの外側表面の接線と、他方のビードの外側表面の接線とが成す開き角が120°未満である請求項2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記スラグ除去ツールは、前記スラグにタガネ部材を突き当てて振動させ、前記スラグに打撃を加えるタガネ機構を有し、
前記タガネ部材の突き当て方向の軸線と、前記V溝部の前記開き角の二等分線との交差角を、前記開き角の±1/4までの範囲内に設定する請求項3に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記スラグ除去工程は、前記スラグ除去ツールを、前記ビード形成軌道にオフセットを付与した移動軌道に沿って移動させる請求項3又は4に記載の積層造形方法。
【請求項6】
前記スラグ除去工程は、
前記ビード積層工程で形成した前記ビードの表面形状を計測する工程と、
前記表面形状の計測結果に応じて、前記開き角と前記オフセットの少なくとも一方を補正する工程と、
をさらに含む請求項5に記載の積層造形方法。
【請求項7】
前記スラグ除去工程の実施前に、前記V溝部の開き角が100°未満となる前記ビードの表面を切削して、前記開き角を増加させる切削工程をさらに含む請求項1~5のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【請求項8】
前記スラグ除去工程は、前記ビードが複数段に積層されたビードユニットと、当該ビードユニットの形成後、前記ビードユニットに隣接して形成されるビードとの間のV溝部のスラグを除去する工程を含み、
前記ビードユニットに対応する前記ビード高さとビード幅は、前記ビードユニットを構成する1つのビードであって、前記ビードユニットに隣接して形成されるビードと同じ層のビードのビード高さとビード幅である請求項1~7のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【請求項9】
前記ビード高さH、前記ビード幅W、前記スラグ除去ツールの先端径のうち、少なくとも二つを用いて計算される特徴量が所定の基準範囲から外れる場合において、前記スラグ除去ツールの先端に存在する少なくとも二つの面を、前記V溝部に突き当てて前記スラグ除去工程を実施する、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【請求項10】
前記ビード高さH、前記ビード幅W、前記スラグ除去ツールの先端径のうち、少なくとも二つを用いて計算される特徴量が所定の基準範囲から外れる場合において、前記スラグ除去ツールの先端部に存在する少なくとも二つの面を、前記V溝部の側方に当てつつ、前記スラグ除去ツールを前記ビード形成軌道に沿って移動させることにより、前記スラグ除去工程を実施する、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードを積層した積層造形物を形成する積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末をレーザビームで焼結させたビードを積層して三次元造形を行う積層造形方法が知られている。この方法は、比較的高級な金属を用いた製品の少量生産に一部が適用されている。一方、機械部品の造形等の産業向けには、より高速で造形でき、内部品質を担保できるプロセスが期待されている。このような造形技術として、溶加材を供給するアーク溶接用のトーチを移動させることで溶融金属(ビード)を積層させ、造形物を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3784539号公報
【文献】特許第2974305号公報
【文献】特許第5883700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、形成されるビードの表面には、脱酸材と酸素が反応したスラグが発生し、そのスラグの上に更にビードを積層すると、アークの不安定性が増加し、スラグ巻き込みによる溶接不良も生じる。スラグ巻き込みは、溶融金属中に酸化物が閉じ込められて凝固する現象であって、スラグと金属との接合強度が小さいため、積層造形物の強度や耐久性を低下させてしまう。
【0005】
溶接時に発生するスラグを除去する技術として、例えば、特許文献2には、溶接後にスラグを除去するロボットが開示され、特許文献3には、トーチと取り替えて用いるタイプとトーチに追加装着して用いるタイプのスラグ除去装置が開示されている。しかし、特許文献2、3に開示された技術では、スラグ巻き込みが懸念される箇所であるか否かを考慮することなくスラグ除去が行われるため、除去作業が煩雑となり、作業に多くの時間を要する。そのため、積層造形物を高速且つ高品質に製造することは困難であった。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、高速且つ高品質に積層造形物を形成できる積層造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
溶加材を溶融、凝固させたビードを、該ビードの形成順を定めた積層計画に従って基材の表面に積層して積層造形物を形成する積層造形方法であって、
前記積層計画によって決定されるビード形成軌道に沿って、前記ビードを積層するビード積層工程と、
互いに隣接したビード同士間に形成される複数のV溝部で発生したスラグを、スラグ除去ツールを用いて除去するスラグ除去工程と、
を有し、
前記スラグ除去工程は、
前記積層計画のビード形状と前記ビード形成軌道の情報から、前記ビード形成軌道に直交する軌道方向垂直断面における前記V溝部を形成するビードのビード高さHとビード幅Wとの寸法比H/Wを求め、
複数の前記V溝部のうち前記寸法比H/Wが0.2を超えるV溝部を除去候補箇所として抽出し、
抽出された前記除去候補箇所の前記スラグを除去する、
積層造形方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スラグ巻き込みが懸念される箇所を優先してスラグを除去することで、高速且つ高品質に積層造形物を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、積層造形システムの概略構成図である。
図2図2は、図1に示す積層造形システムにより形成される積層造形物の模式的な一例を示す断面図である。
図3図3は、スラグの除去候補箇所及びスラグ除去ツールの突き当て方向の決定手順を示す説明図である。
図4図4の(A)~(C)は、図2の示す積層造形物を造形する工程を段階的に示す工程説明図である。
図5図5の(A)~(D)は、図2の示す積層造形物を造形する工程を段階的に示す工程説明図である。
図6図6の(A),(B)は、ビードの形成順に応じたV溝部の開き角を示す説明図である。
図7図7は、従来の方法における問題点を説明する説明図である。
図8図8は、図7で説明した問題点を解消するためのスラグ除去ツールの突き当て方法を示す説明図である。
図9図9は、図8におけるスラグとV溝部の部分の拡大図を示し、スラグ除去前の状態を説明する説明図である。
図10図10は、図8におけるスラグとV溝部の部分の拡大図を示し、スラグ除去後の状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
<積層造形システムの構成>
図1に示すように、本実施形態の積層造形物を形成する積層造形システム100は、積層造形装置11と、スラグ除去装置13と、積層造形装置11及びスラグ除去装置13を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0012】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。トーチ17は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。
【0013】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0014】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、製造する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0015】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、後述の基材51上に溶加材Mの溶融凝固体である線状のビード53が形成される。
【0016】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層造形物の更なる品質向上に寄与できる。
【0017】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0018】
スラグ除去装置13は、汎用ロボット41を備える。汎用ロボット41は、溶接ロボット19と同様に多関節ロボットであり、先端アーム43の先端部には、スラグ除去ツール45が装着される。汎用ロボット41は、コントローラ15からの指令により、スラグ除去ツール45の位置や姿勢が、先端アーム43の自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0019】
汎用ロボット41は、積層造形装置11の溶接ロボット19によって基材表面51aに積層されたビード53に生じるスラグを、スラグ除去ツール45を用いて除去する。スラグ除去ツール45としては、スラグにタガネ部材を突き当てて振動させ、スラグに打撃を加えるタガネ機構(例えば、特許第2974305号公報参照)が例示できる。タガネ部材は、多芯のワイヤ部材の束からなり、その束の先端が平坦状、湾曲した凸状等に形成されるが、形状はこれに限らない。ここで、除去対象となるスラグは、互いに隣接するビード53間のV溝部に存在するスラグである。
【0020】
また、汎用ロボット41は、ツールチェンジャ機能を有することが好ましく、その場合、周知のツール交換用のチェンジャーユニット47を備える。チェンジャーユニット47には、例えば、エンドミルや研削砥石などの金属加工ツール49が着脱自在に設けられる。
【0021】
これにより、汎用ロボット41の先端アーム43の先端部には、スラグ除去ツール45と金属加工ツール49のいずれかを必要に応じて取り付ける可能となっている。金属加工ツール49の位置や姿勢は、スラグ除去ツール45と同様に、先端アーム43の自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0022】
また、基材51の上方に、ビード53の表面形状を計測する表面形状計測装置48を配置してもよい。表面形状計測装置48は、ビード53の形状が計測できればよく、周知の形状計測方法を利用した装置を採用できる。例えば、ビード53の表面にスリット光を照射する照明部と、スリット光が照射されたビード53の表面を撮像する撮像部と、撮像部により得られた画像を解析してビード53の表面の断面形状を測定する形状測定部とを備える構成であってもよい。表面形状計測装置48による測定データは、コントローラ15に入力される。
【0023】
表面形状計測装置48は、適宜なフレーム部材(不図示)に固定すればよいが、これに限らず、汎用ロボット41や溶接ロボット19に取り付けてもよい。
【0024】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0025】
CAD/CAM部31は、製造しようとする積層造形物の形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡、及び汎用ロボット41によるスラグ除去ツール45や金属加工ツール49の移動軌跡を求める。スラグ除去ツール45と金属加工ツール49の軌道は、積層計画に基づくトーチ17の軌道に、ツール形状に応じたオフセットを付与することで求められる。
【0026】
記憶部35は、積層造形物の形状データ、生成された層形状データ、トーチ17の移動軌跡、及びスラグ除去ツール45や金属加工ツール49の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0027】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に応じた駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡に応じて、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。これにより、ビード53が形成される(ビード積層工程)。
【0028】
また、制御部37は、記憶部35に記憶された形状データやスラグ除去ツール45の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、汎用ロボット41を駆動する。これにより、汎用ロボット41の先端アーム43に設けられたスラグ除去ツール45によって、ビード間に形成されたV溝部のスラグを除去する(スラグ除去工程)。
【0029】
また、制御部37は、詳細を後述するが、スラグの除去候補箇所、スラグ除去ツール45のビード53のV溝部に対する突き当て方向を決定し、必要に応じて、表面形状計測装置48による計測結果に応じて、スラグ除去ツール45の軌道及び突き当て方向を補正する。
【0030】
<第1の積層造形方法>
次に、図1の積層造形システム100を用いた積層造形方法の手順について説明する。 図2図1に示す積層造形システム100により形成される積層造形物の模式的な一例を示す断面図である。
【0031】
図2には、制御部37(図1参照)の指令により、基材51の上面に第1層目のビードとして4本のビード53A~53Dを図面奥行き方向に沿って形成し、第1層目のビード53A~53Dの上に、第2層目のビード53E~53Gを積層した状態が示されている。この場合、7本のビード53A~53Gからなる積層造形物55の点線DLよりも外側のビード領域を切削除去することで、点線DLで示す台形の三次元造形物57が得られる。
【0032】
積層造形物55は、7本のビード53A,53B,53C,53D,53E,53F,53Gを、この順に積層することにより形成される。本積層造形方法においては、既に形成されたビード上に次のビードを積層する前に、図2に黒丸で示されたスラグの除去候補箇所R1~R4からスラグを除去する工程を有する。図2に白丸で示された非候補箇所Pは、スラグを除去しなくて済む箇所である。このように、スラグの除去は、制御部37の指令によって選択的に実施される。
【0033】
(スラグの除去候補箇所の決定)
図3はスラグの除去候補箇所及びスラグ除去ツールの突き当て方向の決定手順を示す説明図である。
図3にビード形成途中の様子を示すように、互いに隣接するビード間に、谷間であるV溝部61A,61B,61Cがビード形成方向に沿って連続して形成される。
【0034】
制御部37は、複数のV溝部のうち、完成した積層造形物の外側表面を除く造形物内部に配置されたV溝部であって、スラグが残存する可能性が高い部位のみを除去候補箇所として抽出する。
【0035】
ここで、完成した積層造形物の外側表面のV溝部を除くことは、図2に示す積層造形物55の場合、第2層目のビード53E,53F,53Gの形成後に、各ビード53E,53F,53Gの外側表面に形成されるV溝部K1,K2,K3,K4を除去候補箇所から除くことを意味する。また、造形物内部に配置されたV溝部とは、図2に示すビード並び方向(水平方向)及びビード積層方向(鉛直方向)に関して、ビードによって囲まれた除去候補箇所R1~R4、及び非候補箇所Pを意味する。そして、スラグが残存する可能性が高い部位とは、ビードの形成時に溶融したビードの表面に浮上するスラグが、溶融ビードの側方に流れ出ずに溜まる開き角の小さいV溝部である。具体的には、特にビード形成軌道に直交する軌道方向垂直断面における開き角θが130°未満、好ましくは120°未満、より好ましくは100°未満のV溝部である。
【0036】
ここで、V溝部の開き角θとは、図3に示す軌道方向垂直断面においてV溝部61Bを一例として示すと、V溝部61Bの底部から延び、V溝部61Bを形成する一方のビード53Bの外側表面63aの接線L1と、他方のビード53Cの外側表面63bの接線L2とが成す角である。
【0037】
V溝部の開き角θの大小は、そのV溝部を形成するビードのビード高さとビード幅によっても概ね推定できる。また、ビード高さとビード幅は、設計計画に基づいてモデル化した寸法と、実際にビード形成した場合の寸法との対応関係が良好であることが多い。一方、開き角θは、上記したモデルによる角度と実際の角度とが必ずしも一致しないことが多い。そのため、設計計画の情報からV溝部の開き角θの大小を判断するには、ビード高さとビード幅から判断するのが好ましい。
【0038】
そこで、制御部37は、ビード間に形成される複数のV溝部に対して、V溝部を形成するビードのビード高さHとビード幅Wとの寸法比H/Wが、予め定めた閾値を超えるか否かをそれぞれ判定し、閾値を超えるV溝部をスラグの除去候補箇所として抽出する。寸法比H/Wを求めるビードは、V溝部を形成する一対のビードのうち、いずれか一方のビードであってもよく、双方のビードとする場合には、各ビードの平均値、最小値、最大値等で判定してもよい。予め定めた寸法比H/Wの閾値としては、例えば、0.2、好ましくは0.5、さらに好ましくは0.7に設定できる。
【0039】
その結果、図2に示す積層造形物55の場合には、制御部37は、複数のV溝部のうち、R1~R4を除去候補箇所として抽出し、Pについては開き角が大きいため、スラグが溜まらないと判断して非候補箇所とする。
【0040】
また、制御部37は、スラグ除去工程におけるスラグ除去ツールの突き当て方向を、V溝部の開き角θの二等分線Nを中心に、開き角θの±1/4までの範囲内に設定する。
【0041】
(ビード形成工程及びスラグ除去工程)
次に、図4図5を用いてビード形成工程とスラグ除去工程を説明する。
図4の(A)~(C)及び図5の(A)~(D)は、図3に示すビード積層状態から図2に示すビード積層状態に至るまでの一連の工程を段階的に示す工程説明図である。
【0042】
前述したように、制御部37(図1参照)は、予め設定された積層計画に基づいて、積層造形物に形成されるV溝部の除去候補箇所を抽出する。そして、ビードを形成するビード形性工程と、除去候補箇所のスラグを除去するスラグ除去工程とを実施する。以下の工程は、図1に示す制御部37からの指令により、溶接ロボット19、汎用ロボット41を駆動して実施される。
【0043】
まず、図4の(A)に示すように、基材表面51aに、第1層目のビード53A,53B,53C,53Dをこの順に形成する。すると、ビード53Aとビード53Bとの間のV溝部61A(除去候補箇所R1)と、ビード53Bとビード53Cとの間のV溝部61B(除去候補箇所R2)には、スラグSLがそれぞれ残存した状態となる。
【0044】
次いで、第2層目のビードを形成する前に、図4の(B)に示すように、スラグ除去ツール45をV溝部61Aの位置に配置して、スラグ除去ツール45の打撃によってV溝部61AのスラグSLを除去する。その後、図4の(C)に示すように、不図示のトーチをV溝部61Aに配置してビード53Eを形成する。すると、ビード53Eとビード53Bとの間に新たに形成されるV溝部61D(除去候補箇所R3)には、スラグSLが残存した状態となる。また、ビード53Eとビード53Aとの間のV溝部K1にもスラグSLが残存するが、V溝部K1はビードで覆われることがないため、スラグSLの残存は問題とならない。
【0045】
なお、図4、次の図5は、スラグ除去ツール45の先端を特に示しており、この先端、いわゆるチッパーが上述したタガネ(例えば、特許第2974305号公報参照)の部分に相当する。スラグ除去ツール45の先端に相当するタガネは、多芯のワイヤ部材の束から構成され、この束の先端が平坦状、湾曲した凸状等に形成され得るが、形状はこれに限らない。
【0046】
次に、図5の(A)に示すように、V溝部61B(除去候補箇所R2)とV溝部61D(除去候補箇所R3)の位置に、順次にスラグ除去ツール45を配置して、それぞれのV溝部61B,61DからスラグSLを除去する。
【0047】
その後、図5の(B)に示すように、不図示のトーチをV溝部61B,61Dの付近に配置してビード53Fを形成する。すると、ビード53Fとビード53Cとの間に新たに形成されるV溝部61F(除去候補箇所R4)には、スラグSLが残存した状態となる。なお、ビード53Fとビード53Eとの間に新たに形成されるV溝部K2にもスラグSLが残存するが、V溝部K1と同様に問題にならない。
【0048】
次に、図5の(C)に示すように、V溝部61F(除去候補箇所R4)の位置に、順次にスラグ除去ツール45を配置して、V溝部61FからスラグSLを除去する。なお、V溝部61Cは、開き角が大きく、除去候補箇所として抽出されなかった部位である。そのため、V溝部61に残存するスラグは殆どない。
【0049】
その後、図5の(D)に示すように、不図示のトーチをV溝部61F,61Cの付近に配置してビード53Gを形成する。すると、ビード53Gとビード53Dとの間、及びビード53Gとビード53Fとの間に新たに形成されるV溝部K4,K3には、スラグSLが残存するが、V溝部K1と同様に問題にならない。
【0050】
以上のビード形成工程及びスラグ除去工程とを実施することにより、基材表面51aに7本のビード53A~53Gが積層された積層造形物55が形成される。
【0051】
ここで、図4の(B)、図5の(A)及び(C)のいずれかのスラグ除去工程において、除去候補箇所のV溝部の開き角θが小さく、図1に示すトーチ17やスラグ除去ツール45が干渉するおそれがある場合には、その箇所を開き角が大きくなるように切削することが好ましい。切削を要すると判断するV溝部の開き角θの閾値角度は、トーチ17や各種ツールのサイズに応じて設定されるが、例えば、100°未満、好ましくは90°未満、より好ましくは80°未満の角度に設定できる。
【0052】
V溝部を切削する場合には、スラグを除去した後に、図1に示す汎用ロボット41の先端アーム43に取り付けられたスラグ除去ツール45を、チェンジャーユニット47に保持された金属加工ツール49に交換する。そして、汎用ロボット41の駆動により切削対象のV溝部に金属加工ツール49を移動させ、金属加工ツールによって切削加工する。
【0053】
上記のように、この積層造形方法によれば、既に形成されたビード上に次のビードを積層する前に、既に形成されたビードの表面に形成されたスラグを除去することにより、スラグ巻き込みを防止して、積層造形物55の強度や耐久性を向上できる。
【0054】
また、この積層造形方法では、予め定めた積層計画に基づいて、複数のV溝部の中からスラグの除去候補箇所R1~R4を抽出し、これら除去候補箇所R1~R4に対してのみスラグを除去する。そのため、スラグ巻き込みが懸念される箇所のスラグを優先的に除去でき、全てのV溝部にスラグ除去を実施する場合と比較して、タクトタイムを短縮して生産性を向上させることができる。よって、高速且つ高品質に積層造形物55を形成できる。
【0055】
また、この積層造形方法によれば、スラグ除去ツール45によるスラグ除去の軌道を、積層造形時の軌道にオフセットを付与するだけの簡単な処理により正確に設定できる。そのため、スラグ除去工程でのスラグ除去ツール45の軌道計算が煩雑にならず、スラグ除去の工数を簡単に見積もることができる。また、スラグ除去の条件を容易に設定できる。
【0056】
また、V溝部の開き角θが所定の閾値角度(例えば、100°)未満である場合に、そのV溝部に対しては、金属加工ツール等切削加工により開き角θを大きくすることで、トーチ17、スラグ除去ツール45との隙間を増加させることができる。これにより、トーチ17やスラグ除去ツール45との干渉を回避でき、積層造形物55内における空隙の発生を防止できる。
【0057】
なお、上記の積層造形方法では、積層造形物55の外側表面のV溝部についてのスラグ除去工程を省略しているが、スラグ除去を実施してもよい。その場合、基材51と第1層目のビードとの間に形成されるV溝部についてもスラグ除去を実施する。これによれば、積層造形物55の形成後に表面処理等を行う後処理を、不要又は簡単化できるため、生産性をより高められる。
【0058】
<第2の積層造形方法>
上記した第1の積層造形方法では、予め設定された積層計画に基づいて、スラグの除去候補箇所を抽出して、ビード形成工程と、抽出された除去候補箇所のスラグ除去工程とを実施していたが、本積層造形方法では、除去候補箇所を、ビード形状を実測して決定する。
【0059】
本積層造形方法では、図1に示す表面形状計測装置48により、形成したビードの形状を計測する。表面形状計測装置48は、溶接ロボット19によるトーチ17の移動により形成されるビードの、ビード幅W、ビード高さH(図3参照)、ビード位置等を計測し、その計測結果を制御部37に出力する。
【0060】
制御部37は、入力されたビードの計測結果から、実測したビード形状やビード位置と、積層計画に基づいて予測されるビード形状やビード形成軌道とを比較して、V溝部のスラグを除去する除去候補箇所を抽出する条件や、スラグ除去ツール45の軌道を決定するためのオフセット値等を必要に応じて補正する。
【0061】
そして、制御部37は、補正後の抽出条件やオフセット値等の補正情報を用いて、前述した第1の積層造形方法と同様に積層造形物を造形する。
【0062】
本積層造形方法によれば、実際に形成したビードに応じて除去候補箇所やオフセット値等が決定されるため、正確なビード形成と、最適なスラグの除去を実現でき、積層造形物の品質と生産性をより高められる。
【0063】
<第3の積層造形方法>
上記した第1、第2の積層造形方法においては、ビードの積層順序は、基本的に下層の形成を完了した後、上層の形成を開始するものである。しかし、ビードが積層されて得られる積層造形物55の外形は同じであっても、ビードを積層する工程によっては、不具合が生じることがある。例えば、ビード形成時に溶融した溶加材が液だれする等、重力の影響を受ける場合には、液だれ防止用として、一方向に延びる複数のビードからなるビード積層体を先に形成するのが好ましい。その場合、ビード積層体形成後のビード形成時に、流動可能な溶加材の溶融体が生じても、溶融体の下方に形成されたビード積層体が溶融体の流動を阻止することで液だれを防止できる。
【0064】
このような場合には、前述したV溝部の開き角θの定義が異なるため、スラグを除去する除去候補箇所の条件や、スラグ除去ツールの突き当て方向が前述した第1、第2の積層造形方法の場合と異なる。つまり、図6の(A)に示すように、基材表面51a上の第1層目のビード54A、ビード54B、第2層目のビード54C、ビード54Dの順に形成する場合、V溝部62の開き角θは、ビード54Cとビード54Dの外側表面の接線L1,L2との成す角で表される。
【0065】
これに対して、図6の(B)に示すように、ビードを垂直方向に積層したビード積層体(壁体)を先に形成する場合、つまり、基材表面51a上の第1層目のビード54A、第2層目のビード54B、第2層目のビード54C、第1層目のビード54Dの順に形成する場合、V溝部62の開き角θは、ビード54A,54B,54Cの積層方向LNと、ビード54Dの外側表面の接線L2との成す角で表される。
【0066】
このように、ビードの積層順の採り方によってV溝部の開き角θは異なるので、同じ形状の積層造形物であっても、積層計画の内容によっては、スラグ除去工程が変化する。例えば、図6の(A)に示す場合には、V溝部の周囲のスペースが確保されるため、スラグ除去ツールや金属加工ツール等のアクセスが容易であるが、図6の(B)に示す場合には、ビード54A,54B,54Cからなるビード積層体が壁となり、ツールのアクセスに制限が生じる。
【0067】
そのため、本積層造形方法においては、積層計画に定めたビードの積層順序に応じて、V溝部の開き角θを適切に求め、これに応じてスラグの除去候補箇所を決定する。これによれば、スラグ除去ツール45や金属加工ツール等がV溝部に干渉することなく適切にアクセス可能となる。
【0068】
<第4の積層造形方法>
上記した第1、第2の積層造形方法においては基本的に、スラグ除去ツールがV溝部のスラグに届くケースを対象としている。しかし、ビードの表面形状、積層状態等によっては、スラグが、スラグ除去ツールの届かない場所に蓄積することがある。例えば、スラグ除去ツールの先端の径に対し、V溝部があまりに小さい場合、スラグ除去ツールを垂直に下ろしてスラグの表面に打突を加えても、V溝部の深いところまでは当たらず、スラグの取り残しが発生しうる。
【0069】
図7は、ビード幅Wとスラグ除去ツール45の先端の径(先端径)dの関係が、例えばW/d<1/2となるケース、すなわちビード幅Wに比してスラグ除去ツール45の先端径dが大きいケースを示している(先端径dがビード幅Wの2倍より大きい)。このようなケースでは、スラグ除去ツール45の先端を特殊な形状に加工しない限り、先端がV溝部61に到達し難く、スラグSLの除去が困難である。なお、スラグ除去ツール45の先端(チッパー)は、例えば上述した様な多芯のタガネ、すなわちワイヤ部材の束によって構成され得るが、この様な例においては、スラグ除去ツール45の先端の径(先端径)dは、ワイヤ部材の束の径を意味する。
【0070】
この様なケースにおいて問題となるのはV溝部61の大きさである。V溝部61の大きさはビード単体の形状や隣接するビードとの重なり量、溶接時の状態等の要因によって左右される。しかしながら、ビード幅W、ビード高さH、スラグ除去ツール45の先端径dといった値を各々比較することにより、上述した様なスラグ除去が難しいケースを予見できる。
【0071】
すなわち、ビード幅W、ビード高さH、先端径dのうち、少なくとも二つを用いて計算される特徴量が所定の基準範囲から外れる場合は、スラグ除去が難しいケースであると判定する。具体的には、d/W、H/Wd、W/H、d/Wの少なくともいずれか一つの値が、所定の基準値より大きくなる場合は、スラグ除去ツール45を通常の方法で用いてもスラグ除去が難しいと判定する。
スラグ除去が困難であると判定された場合、本方法においては、スラグ除去ツール45を垂直方向から傾ける。具体的には、図8のようにスラグ除去ツール45を傾けつつ、V溝部61にスラグ除去ツール45の傾斜した先端を接触させることにより、先端とスラグSLを限りなく近接させる。本実施形態のスラグ除去ツール45の先端は、傾斜した際に少なくとも二つの面が二つのビード53の間のV溝部61と接触するように加工されている。すなわち、スラグ除去ツール45の先端に存在する少なくとも二つの面を、V溝部61に突き当ててスラグ除去工程を実施する。この状態であれば、スラグ除去ツール45の先端がスラグSLに直接届かなくても、スラグ除去ツール45に振動を与えてスラグSLを浮かすため、円滑にスラグSLを除去できる。さらにスラグ除去ツール45の先端をV溝部61の側方に当てつつ、スラグ除去ツール45をビード形成軌道に沿って移動させることにより、スラグ除去工程を実施する。
【0072】
図9図10は、図8におけるスラグSLとV溝部61の部分の拡大図を示す。本実施形態において、スラグ除去ツール45の先端46は、少なくとも図示する限りにおいて第1の面46a、第2の面46b、第3の面46cの複数の面を含んでいる。先端46がワイヤ部材の束によって構成される場合、各ワイヤ部材の長さ(ワイヤ部材の先端の位置)を調整することにより、この様な複数の面を先端に設けることができる。本例では先端46はCカットされており、第1の面46aが側面、第3の面46cがCカットの頂面、第2の面46bが第1の面46aと第3の面46cを繋ぐ面になっている。
【0073】
図9においては、スラグ除去ツール45の先端46がスラグSLまで達しきっておらず、スラグSLが残存している。図8のようにスラグ除去ツール45が傾いており、図10に示す様に振動により先端46が矢印で示す様に前進した際、第1の面46a、第2の面46bがスラグSLに到達し、除去候補箇所R5,R6におけるスラグSLが円滑に除去される。V溝部61がスラグ除去ツール45(の先端46)に比して小さい場合、除去候補箇所R5,R6におけるスラグSLを除去するのは一般的に困難である。本例においては、先端46が複数の面を持つように加工し、スラグ除去ツール45を斜めに傾けた状態でV溝部61に挑むように配置することにより、除去困難な箇所におけるスラグSLも除去することが可能となる。
【0074】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0075】
例えば、上記の実施形態では、板状の基材51にビードを積層して積層造形物を形成する場合を示したが、基材51の形状は板状に限らず、円柱状、円筒状、円錐状、多角形の角柱や角錐等、他の形状であってもよい。
【0076】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融、凝固させたビードを、該ビードの形成順を定めた積層計画に従って基材の表面に積層して積層造形物を形成する積層造形方法であって、
前記積層計画によって決定されるビード形成軌道に沿って、前記ビードを積層するビード積層工程と、
互いに隣接したビード同士間に形成される複数のV溝部で発生したスラグを、スラグ除去ツールを用いて除去するスラグ除去工程と、を有し、
前記スラグ除去工程は、
前記積層計画のビード形状と前記ビード形成軌道の情報から、前記ビード形成軌道に直交する軌道方向垂直断面における前記V溝部を形成するビードのビード高さHとビード幅Wとの寸法比H/Wを求め、
複数の前記V溝部のうち前記寸法比H/Wが0.2を超えるV溝部を除去候補箇所として抽出し、
抽出された前記除去候補箇所の前記スラグを除去する、
積層造形方法。
この積層造形方法によれば、スラグ巻き込みが懸念される箇所のスラグを優先的に除去して、高速に且つ高品質な積層造形物を安定して製造できる。
【0077】
(2) 前記除去候補箇所を、前記積層造形物の外側表面を除く造形物内部に配置されたV溝部から抽出する(1)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、強度に影響を及ぼさないV溝部をスラグの除去候補箇所から除外することで、スラグ除去の実施回数が抑えられ、生産性を向上できる。
【0078】
(3) 前記除去候補箇所となる前記V溝部は、前記軌道方向垂直断面において、前記V溝部の底部から延び、前記V溝部を形成する一方のビードの外側表面の接線と、他方のビードの外側表面の接線とが成す開き角が120°未満である(2)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、スラグ除去を実施する箇所をV溝部の開き角から直接的に判定するので、スラグの残存する箇所を正確に求めることができる。
【0079】
(4) 前記スラグ除去ツールは、前記スラグにタガネ部材を突き当てて振動させ、前記スラグに打撃を加えるタガネ機構を有し、
前記タガネ部材の突き当て方向の軸線と、前記V溝部の前記開き角の二等分線との交差角を、前記開き角の±1/4までの範囲内に設定する(3)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、スラグ除去ツールのV溝部への突き当て方向が開き角の中心側に設定されるため、スラグ除去ツールがV溝部周囲のビードと干渉しにくくなる。
【0080】
(5) 前記スラグ除去工程は、前記スラグ除去ツールを、前記ビード形成軌道にオフセットを付与した移動軌道に沿って移動させる(3)又は(4)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、スラグ除去ツールの軌道や突き当て角度を、ビード形成軌道を利用して簡単に設定できる。
【0081】
(6) 前記スラグ除去工程は、
前記ビード積層工程で形成した前記ビードの表面形状を計測する工程と、
前記表面形状の計測結果に応じて、前記開き角と前記オフセットの少なくとも一方を補正する工程と、
をさらに含む(5)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、実際に形成されたビード形状に応じてスラグの除去候補箇所を抽出できる。そのため、除去候補箇所を抽出がより正確に行え、スラグの除去漏れや無用な除去処理が生じることを未然に防止できる。
【0082】
(7) 前記スラグ除去工程の実施前に、前記V溝部の開き角が100°未満となる前記ビードの表面を切削して、前記開き角を増加させる切削工程をさらに含む(1)~(5)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、V溝部の開き角が小さい箇所では、スラグを除去してもビード形成後に空隙が発生するおそれがある。そのような箇所においては、ビードのV溝部を切削して開き角を増加させることで、トーチをV溝部の溝内に十分に近づけられるようにすることで、ビード形成後に空隙が発生することを防止できる。
【0083】
(8) 前記スラグ除去工程は、前記ビードが複数段に積層されたビードユニットと、当該ビードユニットの形成後、前記ビードユニットに隣接して形成されるビードとの間のV溝部のスラグを除去する工程を含み、
前記ビードユニットに対応する前記ビード高さと前記ビード幅は、前記ビードユニットを構成する1つのビードであって、前記ビードユニットに隣接して形成されるビードと同じ層のビードのビード高さとビード幅である(1)~(7)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、複数のビードを一つのビードユニットとして判断することで、ビードの形成順によってビード形成の周囲状況が異なる場合であっても、適切にスラグを除去すべきV溝部を選定できる。
【0084】
(9) 前記ビード高さH、前記ビード幅W、前記スラグ除去ツールの先端径のうち、少なくとも二つを用いて計算される特徴量が所定の基準範囲から外れる場合において、前記スラグ除去ツールの先端に存在する少なくとも二つの面を、前記V溝部に突き当てて前記スラグ除去工程を実施する、(1)~(8)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、スラグ除去が難しいケースを予見し、円滑にスラグを除去できる。
【0085】
(10) 前記ビード高さH、前記ビード幅W、前記スラグ除去ツールの先端径のうち、少なくとも二つを用いて計算される特徴量が所定の基準範囲から外れる場合において、前記スラグ除去ツールの先端部に存在する少なくとも二つの面を、前記V溝部の側方に当てつつ、前記スラグ除去ツールを前記ビード形成軌道に沿って移動させることにより、前記スラグ除去工程を実施する、(1)~(8)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、スラグ除去が難しいケースを予見し、円滑にスラグを除去できる。
【符号の説明】
【0086】
11 積層造形装置
13 スラグ除去装置
15 コントローラ
17 トーチ
19 溶接ロボット
21 溶加材供給部
31 CAD/CAM部
33 軌道演算部
35 記憶部
37 制御部
41 汎用ロボット
43 先端アーム
45 スラグ除去ツール
47 チェンジャーユニット
48 表面形状計測装置
49 金属加工ツール
51 基材
51a 表面
53,53A,53B,53C,53D,53E,53F,53G ビード
55 積層造形物
57 三次元造形物
61A,61B,61C V溝部
63a 外側表面
63b 外側表面
100 積層造形システム
R1,R2,R3,R4 除去候補箇所
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10