(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】光触媒を用いた水素ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20230926BHJP
B01J 23/02 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C01B3/04 A
B01J23/02 Z
(21)【出願番号】P 2020171600
(22)【出願日】2020-10-11
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】増田 泰造
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】富澤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】吉村 篤軌
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-246355(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0196268(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第03009427(FR,A1)
【文献】特開2011-105534(JP,A)
【文献】特開平06-157002(JP,A)
【文献】特開2005-288405(JP,A)
【文献】特開2018-178227(JP,A)
【文献】特開2016-044922(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/04
B01J 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガス製造装置であって、
水を受容する容器部と、
前記容器部内の水に接触するよう配置された光触媒部材にして、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒を有する光触媒部材と、
前記光触媒部材へ照射されて前記水の分解反応を惹起する光を発する光源と、
前記光源の排熱を前記容器部内の水へ伝達する熱交換手段と
を含み、
前記光触媒部材に於いて分解されることとなる前記容器内の水が前記熱交換手段により前記光源の排熱によって加温され
、
前記容器部が前記水から前記容器部外への放熱を抑制するための断熱機構を有している装置。
【請求項2】
請求項1の装置であって、前記光源が太陽光発電により得られた電力により作動され前記光触媒部材へ照射される前記光を発すると共に、その作動時の排熱が前記熱交換手段により前記水へ伝達されるよう構成されている装置。
【請求項3】
請求項1又は2の装置であって、前記光触媒部材へ照射される前記光の密度が、所定値以上の、前記光触媒に入射される光子量当たりの水素ガスの発生量の割合である光触媒効率を与える密度に又はそれより低く調整される装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの装置であって、前記光源から発せられた光が前記容器部に閉じ込められるよう構成されている装置。
【請求項5】
請求項4の装置であって、前記容器部が前記光源から発せられた光を前記容器内に閉じ込めるための光反射機構を有している装置。
【請求項6】
請求項4又は5の装置であって、前記光触媒部材が、前記光触媒が層状に形成されている部材であり、前記光触媒の層は、その厚みが、前記光が前記光触媒の層へ最初に入射した際に前記光の全てが前記光触媒に吸収されない厚みに形成され、前記光触媒部材を透過した光が前記光触媒部材へ再度照射される装置。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれかの装置であって、前記光触媒部材が、複数の板状部材にして、それぞれの面方向に沿って前記光触媒が層状に固定され、それぞれの面が互いに対向し且つ前記光源から離れるほど近づくように傾斜されて配置された部材を含み、前記光触媒部材のそれぞれの面に対する前記光源から発せられる光線の入射角が0°より大きくなっている装置。
【請求項8】
請求項
7の装置であって、前記光触媒部材の前記光触媒の層が、その厚みが前記光源から離れるほど増大するように形成されている装置。
【請求項9】
請求項
7又は8の装置であって、前記光源から発せられる光が板状部材に2回以上反射する条件を満たすように前記光触媒部材が構成されている装置。
【請求項10】
請求項2又は請求項2を引用する請求項3乃至
9のいずれかの装置であって、前記太陽光発電の定格電流値の電流が前記光源へ供給されているときに、前記光源の発光効率が最大となるように前記光源の定格出力が調整されている装置。
【請求項11】
請求項2又は請求項2を引用する請求項3乃至
10のいずれかの装置であって、前記光源が複数のLEDを含み、前記太陽光発電の出力電流に応じて、前記光源の発光効率が最大となるように前記複数のLEDのうちの作動するLEDの個数が変更される装置。
【請求項12】
請求項1乃至
11のいずれかの装置であって、前記光源の発光波長が前記光触媒の量子収率が所定の閾値を超える波長帯域に入るように選択されている装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガス製造装置に係り、より詳細には、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは、燃焼しても二酸化炭素を生じないクリーンな次世代の燃料としての利用が期待されている。水素ガスは、光触媒を用いた光エネルギーによる水の分解反応により生成できるので、光触媒を用いた水素ガスの製造技術が種々提案されている。例えば、特許文献1、2に於いては、紫外光又は可視光の照射により水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒とその調製方法が開示されている。特許文献3は、太陽光のうちの紫外光から可視光による光触媒を利用する水の酸化反応手段と太陽光のうちの可視光から赤外光の熱を利用する水の還元反応手段とを含む水素製造装置の構成を開示している。特許文献4は、光触媒粒子が分散された水を、受光窓を有する筐体内に循環させて、光による水の分解反応を起こし、水素ガスを発生させる水素発生装置の構造を提案している。特許文献5は、水中に置かれた光触媒からなる電極21を内蔵したレシーバに太陽光集光器を用いて集積させた光を照射して、光触媒内の荷電子を励起させ、周囲の水の電気分解を行い、連続的に水素ガスを生産する水素発生システムの構成を提案している。なお、水素ガスの製造技術ではないが、特許文献6に於いて、二酸化炭素を溶解させた溶媒にsp3結晶構造の炭素同素体から成るプレート状炭素材を浸水し、ヒーターによって溶媒の温度を上昇させながら、紫外光を溶媒に照射することにより、炭素材が励起することによって二酸化炭素のC=O結合が切り離され、一酸化炭素生成とともにメタンが生成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平9-510657
【文献】特開2003-251197
【文献】特開2013-234077
【文献】特開2015-218103
【文献】特開2017-24956
【文献】特開2016-108181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き水に浸漬した光触媒に光を照射して水の分解反応を起こして水素ガスを製造する技術に於いて、装置又はシステムの寸法をできるだけ小型化できると有利である。そのための一つの手法として、単位量当たりの光触媒に照射する光の密度(光強度)を高くして、光触媒にて発生する励起電子と正孔の密度を高くし、これにより、単位量当たりの光触媒に於いて製造される水素ガスの量を増大することが考えられる。例えば、水素ガスの製造のために、再生可能なエネルギーである太陽光エネルギーを用いる場合でも、太陽光を、そのまま、光触媒へ照射するのでは、その光密度が低いので、より多量の光エネルギーを光触媒へ供給しようとすると、光触媒の占める空間が大きくなってしまうところ、光をより高密度にて光触媒へ照射すれば、光触媒の占める空間を小さくでき、水素の製造のためのシステム又は装置の寸法がより小型化することが可能となる。しかしながら、この点に関し、本発明の発明者等による研究によれば、後の実施形態の欄に於いて詳細に説明される如く、驚くべきことに、光触媒に照射する光密度を増大すると、水素ガスの製造効率(入射光量当たりの水素ガスの製造量)は低減してしまうことが見いだされた。これは、光強度の増大により光触媒にて発生する励起電子と正孔の密度が増大しても、励起電子及び正孔との水との分解反応の速度が遅く、励起電子と正孔がそれぞれ水と反応する前に再結合により消滅してしまうことから、エネルギーが有効に水素ガスの製造に利用されないことによると考えられる。このことから、水素製造システム又は装置の小型化のために単に光触媒に照射する光の密度を増大したとしても、照射する光量に対する水素ガスの製造効率が低下してしまい、小型化と高効率化とを両立できないことが明らかになった。
【0005】
ところで、本発明の発明者等の更なる研究に於いて、水素ガスの製造効率は、反応物である水の温度が高くなると、高くなることも見いだされた。従って、水素ガスの製造装置又はシステムの小型化に於いて、水の温度を上昇させれば、光触媒に照射する光の密度の増大による水素ガス製造の効率の低下を補償することができそうである。その際、水の加温のために、別にエネルギーを外部から供給するヒーターを用いるのではなく、光触媒への照射光を発生する光源の排熱を利用できるようになっていれば、より具体的には、光源から水への輻射熱だけでなく、光源にその排熱を水へ直接伝達する熱交換手段が装備され、水素ガスの製造効率を上昇させるのに十分な水の加温ができるようになっていれば、水素製造に関わるエネルギーの利用効率をより高めることも可能となる。本発明に於いては、この知見が利用される。
【0006】
かくして、本発明の主な課題は、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する装置に於いて、水素ガスの製造の効率をできるだけ低下させずに、或いは向上させつつ、装置の小型化が達成できる構造を提供することである。
【0007】
また、本発明のもう一つの課題は、上記の如き装置であって、水素製造に関わるエネルギーの利用効率がより高められるよう構成された装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様によれば、上記の課題は、水素ガス製造装置であって、
水を受容する容器部と、
前記容器部内の水に浸漬されるよう配置された光触媒部材にして、光が照射されると、励起電子と正孔を発生し、水を水素と酸素とに分解する水の分解反応を起こし水素ガスを発生する光触媒を有する光触媒部材と、
前記光触媒部材へ照射されて前記水の分解反応を惹起する光を発する光源と、
前記光源の排熱を前記容器部内の水へ伝達する熱交換手段と
を含み、
前記光触媒部材に於いて分解されることとなる前記容器内の水が前記熱交換手段により前記光源の排熱によって加温される装置
によって達成される。
【0009】
上記の構成に於いて、「光触媒」は、上記の如く、光を照射されると、水の分解反応を惹起して、水を還元して水素ガスを発生することのできる物質であってよい。「光触媒部材」は、かかる光触媒物質そのもので形成された部材又は任意の基板又は基質上に光触媒物質を固定してなるもののいずれであってもよい。「光源」は、典型的には、電力の供給を受けて、光触媒に吸収されて水の分解反応を惹起させる光を発する任意の形式のものであってよい。また、光触媒へ照射される光が効率的に光触媒に吸収されて励起電子と正孔とを生成するように、光源の発光波長は、好適には、光触媒の量子収率が(任意に選択されてよい)所定の閾値を超える波長帯域に入るように選択される。この点に関し、後の実施形態の欄に於いて例示されるように、典型的な光触媒の量子収率は、照射光の波長が或る波長付近を下回ると急激に増大する。従って、光源の発光波長が、かかる光触媒の量子収率の急激な増大が生ずる波長よりも短波長側となるように、光源が選択されてよい。本発明に於いて利用可能な光触媒としては、例えば、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、Ga2O3(酸化ガリウム)、GaN(窒化ガリウム)、NaTaO3(タンタル酸ナトリウム)、TiO2(酸化チタン)などが利用可能である。一方、光源としては、種々の発光ダイオード(LED)が採用されてよく、具体的には、インジウム窒化ガリウム(InGaN)、ダイヤモンド(紫外)、窒化ガリウム(GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)(紫外、青)、セレン化亜鉛(青)、酸化亜鉛(近紫外、紫、青)を用いたものが利用可能である。そして、本発明の装置の構成に於いては、上記の如く、「熱交換手段」が設けられる。かかる熱交換手段としては、光源の排熱が容器内の水に伝達できれば、任意の形態であってよい。一つの態様としては、後の実施形態の欄に例示されている如く、光源に、そこから放出される排熱を液体へ伝達する熱交換器の機能を果たす構成を設け、その熱交換器の構成に容器部内の水を循環させる構造が装備されていてよい。また、別の態様に於いては、光源が、防水された状態で容器部内の水に接触又は浸漬され、光源の排熱が水へ伝達されるように構成されていてもよい。
【0010】
上記の本発明の装置の構成に於いては、水に接触した光触媒に光を照射して水の分解反応を惹起して水素ガスを製造する装置に於いて、水を光源の排熱により加温する構成が設けられる。かかる構成によれば、単位量当たりの光触媒に照射する光の密度を上げて光触媒の占める空間を小さくして水素ガス製造装置の小型化を図る場合に、反応物である水が加温されることで、光触媒への照射光の密度を上げることによる水素ガス製造の効率の低下が補償されることとなる。また、その際、水の加温が光源の排熱を利用して達成されるために、水の加温のためのヒーター等を別途設ける必要がなく、従って、水の加温のためにエネルギーを別途供給する必要がないので、水素ガスの製造に要するエネルギーの効率化が図られることとなる。即ち、上記の本発明の装置の構成によれば、水素ガスの製造の効率の低下を抑えつつ、装置を小型化できると共に、エネルギーの効率化も達成できることとなる。なお、後の実施形態の欄にも説明される如く、水素ガスの製造の効率を表わす光触媒効率(光触媒に入射される光子量当たりの水素ガスの発生量の割合)は、照射光の密度(照射光強度)が低いほど増大するので、所望の光触媒効率が得られるように、光触媒部材へ照射される光の密度は、任意に選択されてよい所定値以上の光触媒効率を与える密度に又はそれより低く調整されてよい。ここで、重要なことは、本発明の装置に於いては、水の加温により光触媒効率が上昇されているので、或る水素ガス製造の効率を得るための照射光の密度を高くすることができ、その分、水素ガス製造の効率を落とさずに装置の小型化が可能となるという点である。
【0011】
上記の本発明の装置の構成に於いて、容器部内の水は加温され、周囲の常温よりも高いので、そのままでは、容器部内の水から容器部外の放熱が生じやすい。そこで、加温された水からの放熱を防ぎ、光触媒効率の低下を抑制し、光源の排熱がより有効に利用されるように、容器部は、水から容器部外への放熱を抑制するための断熱機構を有していてよい。例えば、容器部が断熱性能の高い材料にて製作されるか、容器部の周囲が断熱材で覆われるなどして、断熱構造が設けられていてよい。
【0012】
また、上記の本発明の装置の構成に於いて、光源から発せられた光が有効に光触媒に吸収され、水の分解反応に寄与するように、装置は、光源から発せられた光が容器部に閉じ込められるよう構成されていることが好ましい。そのために、一つの態様としては、容器部が光源から発せられた光を容器内に閉じ込めるための光反射機構を有していてよい。光反射機構は、例えば、容器部の内面が反射ミラーにて覆われていてもよく、或いは、光触媒部材に隣接して、反射ミラーが配置されるなどしていてよい。
【0013】
更に、上記の本発明の装置の構成に於いて、光触媒部材は、光触媒が層状に形成されている部材であり、光触媒の層は、その厚みが、光が光触媒の層へ最初に入射した際に光の全てが光触媒に吸収されない厚みに形成され、光触媒部材を透過した光が、(容器部内に閉じ込められるために、)光触媒部材へ再度照射されるように構成されていてよい。光触媒に於いて、照射光により発生した励起電子のできるだけ多くが、正孔に再結合する前に、水の水素原子を還元して水素ガスの発生に寄与できるようにするためには、光を吸収した光触媒へ水が到達し易くなっていることが好ましい。従って、上記のように、光触媒の層が、光が光触媒の層へ最初に入射した際に光の全てが光触媒に吸収されない厚みに形成されている場合には、光触媒層に於いて、表面から離れた水が到達しにくい部位で光触媒に吸収されてしまう光の量が低減され、一方、光触媒に吸収されずに、光触媒部材を透過した光は、容器部の光の閉じ込め構造により、再度、光触媒部材へ照射されて、光触媒に吸収されて、励起電子を発生し、水素ガスの発生に寄与することとなるので、結局、より多くの光が、光触媒の表面近傍の水が到達しやすい部位にて光触媒に吸収されることとなり、水素ガスの発生に寄与させることが可能となり、水素ガスの製造量をより多くできることが期待される。
【0014】
上記の本発明の装置に於いて、光触媒部材は、具体的には、板状部材であって、その面方向に沿って光触媒が層状に固定された形態であってよい。そして、一つの態様に於いては、光触媒部材は、複数の、上記の如き板状部材が、それぞれの面が互いに対向し且つ光源から離れるほど近づくように傾斜されて配置されて構成され、光触媒部材のそれぞれの面に対する光源から発せられる光線の入射角が0°より大きいことが好ましい。かかる構成によれば、光源から発せられた光が複数の部材のうちの一つの部材に当たった後、そこを反射した光は、対向する部材に当たることとなり、かくして、より多くの光を光触媒に吸収させ、水素ガスの発生に寄与させることが可能となる。なお、光線の入射角が0°より大きくするのは、反射光線が別の対向する部材に当たらずに光源へ戻る方向に進むことを避けるためである。また、上記の如く、複数の対向する板状部材の間にて光が反射しながら進行する構成に於いては、光源から離れるほど光の反射回数が多くなり、光の密度が高くなるので、光触媒部材の光触媒の層が、その厚みが光源から離れるほど増大するように形成され、これにより、光触媒部材に於いて、光触媒による光の吸収量を増やすと共に、光の密度に対応して、光触媒の量を調整し、光触媒量が効率的に配分されるようになっていてよい(光触媒量の効率化)。なお、上記の如き複数の板状部材が配置された光触媒部材は、光源から発せられる光が板状部材に2回以上反射する条件を満たすように構成されていてよい
【0015】
上記の本発明の装置に於いて、光源は、太陽光発電により得られた電力により作動され、光触媒部材へ照射される光を発すると共に、その作動時の排熱が熱交換手段により水へ伝達されるよう構成されていてよい。これにより、水素ガスの製造は、再生可能エネルギーにより達成されることとなる。また、太陽光そのものを光触媒部材へ照射するのではなく、太陽光から得られた電力にて光源を作動することによれば、単位面積当たりに於いて薄い太陽光エネルギーを濃縮して光エネルギーを光触媒部材へ供給することが可能となり、装置の小型化が図られることとなる。
【0016】
ところで、電力で光源を作動する場合、光源の発光効率が最大になっていることが好ましい。従って、光源を太陽光発電により得られた電力により作動する場合には、太陽光発電の定格電流値の電流が光源へ供給されているときに光源の発光効率が最大となるように、光源の定格出力が調整されていてよい。これにより、太陽光エネルギーをより有効に水素ガスの製造に利用できることとなる。また、太陽光発電の場合、日照条件により出力が変動し、利用可能な電流が時々刻々に変動し得る。その場合、光源は、その時々で、発光効率が最大となるよう作動された方が、水素ガスの製造に利用されるエネルギーの効率が良いこととなる。この点に関し、光源として複数個のLEDが採用されてよく、その場合、個々のLEDの発光効率は、投入される電流に応じて変化するので、光源は、太陽光発電の出力電流に応じて、光源の発光効率が最大となるように複数個のLEDのうちの作動するLEDの個数が変更されるように構成されていてよい。これにより、太陽光エネルギーをより有効に光源からの光に変換して水素ガスの製造に利用できることが期待される。
【発明の効果】
【0017】
かくして、上記の本発明によれば、光触媒を用いた水の分解反応により水素ガスを製造する場合に、照射光の密度を高くすると、光触媒効率が低下してしまうが、反応物である水の温度を上昇させることで、光触媒効率の低下を補償することができるという知見に基づき、光触媒を用いた水素ガス製造装置に於いて、水を光源の排熱により加温する熱交換手段を設け、これにより、光源の排熱による水の加温で、照射光の密度の増大による光触媒効率の低下を補償するようにし、かくして、水素ガス製造の効率ができるだけ低下しないように、且つ、エネルギーの効率化を図りながら、装置の小型化の達成を可能とする構成が提供される。また、特に、光源の排熱により水を加温する構成によれば、光源の輻射熱により水を加温する場合よりも、確実に水の温度を上昇させ、光触媒効率の低下の抑制が期待される。更に、本発明の装置の光源を太陽光エネルギー由来の電力で作動する態様の場合には、二酸化炭素を排出せずに、効率的に水素エネルギーを得ることが可能となる。
【0018】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明による水素ガス製造装置の一つの実施形態の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明による水素ガス製造装置に使用される典型的な光触媒(SrTiO
3)の吸光率及び量子収率の波長特性と、光源(InGaN系LED)の発光波長特性との例を示した図である。データは、本発明の発明者等が測定した。
【
図3】
図3(A)は、光触媒に照射される光の密度(光強度)に対する光触媒効率の変化を示したグラフ図である。
図3(B)は、実験により得られた光触媒の接触する水に温度に対する光触媒効率の変化を示したグラフ図である。データは、本発明の発明者等による実験により得られた。
【
図4】
図4は、本発明による水素ガス製造装置の別の実施形態の模式図である。
【
図5】
図5(A)は、本発明による水素ガス製造装置に於ける光触媒部材の光触媒層の模式図であり、照射光が光触媒層を一旦透過した後に、反射手段により反射して光触媒層へ再度照射される様子を示している。
図5(B)は、本発明による水素ガス製造装置の更に別の実施形態の模式図であって、複数の光触媒部材がV字型に配置されている例を示している。
図5(C)は、
図5(A)に於ける光源から発せられる光線の範囲の指向角度θとV字型に配置された光触媒部材の夾角ψとの関係を説明する図である。
図5(D)は、
図5(A)の構成に於いて更に有利な特徴的な構成が付与された実施形態の模式図である。
【
図6】
図6は、
図1又は
図5(A)、(C)の如く、熱交換手段により光源の排熱にて水を加温する構成に於いて、シミュレーションにより得られた水温に対するその上昇率の変化を示したグラフ図である。容器部に断熱機構が備えられている場合と備えられていない場合が示されている。データは、本発明の発明者等によるシミュレーションにより得られた。
【
図7】
図7(A)は、電源に4つのLEDが並列に接続された光源に於いて、実験により得られた光源への投入電流に対する発光効率の変化を示したグラフ図である。
図7(B)は、電源に1つのLEDが並列に接続された光源に於いて、光源への投入電流に対する発光効率の変化を示したグラフ図である。データは、本発明の発明者等による実験により得られた。
【
図8】
図8(A)~(C)は、太陽光パネルの発電電流量に応じて作動するLEDの数が変更できるようになった光源の回路構成を模式的に表わした図である。
【符号の説明】
【0020】
1…水素ガス製造装置
2…容器部
3、3a、3b…光触媒部材
4…光源装置
5…太陽光パネル
6…電力線
7…熱交換手段
7a…熱交換器
7b…送水管
7c…ポンプ
8…送気管
9a、9b…反射ミラー
10…断熱層
W…水
L…光線
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
水素ガス製造装置の基本構成
図1を参照して、本実施形態の水素ガス製造装置1は、その基本構成に於いて、水(液体)Wを受容する任意の形態の容器部2と、容器部2内にて水Wに接触又は浸漬される光触媒を担持する光触媒部材3と、光触媒部材3へ照射される光を発する光源装置4と、容器部2内に溜められた水Wを光源装置4の排熱により加温するための熱交換手段7と、発生した水素ガスと酸素ガスとを分離器へ送る送気管8とを有する。
【0022】
かかる水素ガス製造装置1の構成に於いて、光触媒部材3は、光を照射されると、光子を吸収して励起電子と正孔とを生成し、水の分解反応を惹起して、水を還元して水素ガスを発生することのできる光触媒物質を担持する部材であって、光触媒物質そのもので形成されてもよく、任意の基板又は基質上に光触媒物質を固定してなるもののいずれであってもよい。光触媒部材3は、典型的には、図示の如く、板状に形成されてよいが、光触媒物質が水Wに接触できるようになっていれば、これに限定されない。例えば、一つの態様に於いて、光触媒部材3は、ガラス基板やセラミックス基板上に全体的に光触媒物質の粉末を載せ、加熱して焼結することによって、光触媒物質を基板上に固定することにより、形成されてよい。また、光触媒物質が板状に固められた基板が光触媒部材3として採用されてもよい。本実施形態に於いて使用される光触媒物質としては、上記の如く、この分野で利用されている、光の照射により水から水素ガスを発生することが可能な物質が用いられてよく、具体的には、例えば、SrTiO
3(チタン酸ストロンチウム)、Ga
2O
3(酸化ガリウム)、GaN(窒化ガリウム)、NaTaO
3(タンタル酸ナトリウム)、TiO
2(酸化チタン)などが利用可能である。光触媒物質は、典型的には、
図2に示されている如く、照射光の波長を長波長側から短波長側へ変化させていくと、或る波長付近にて、吸光率及び量子収率が急激に増大する波長特性を呈する(吸光率及び量子収率が増大する波長帯域で光子の吸収による励起電子と正孔との生成量が増大する。)。
【0023】
光源装置4は、上記の光触媒部材3上の光触媒物質に吸収され、励起電子と正孔とを発生させる波長の光を発する任意の光源であってよい。この点に関し、より詳細には、上記の
図2の如く、光触媒物質の吸光率及び量子収率が、或る波長より短波長側の光が照射されたときに増大する波長特性を有しているので、光源装置4に於いては、光触媒部材3の光触媒物質の吸光率及び量子収率が増大する波長帯域の光を発生する発光素子又は発光体が選択される。具体的には、光源の発光素子又は発光体としては、インジウム窒化ガリウム(InGaN)、ダイヤモンド(紫外)、窒化ガリウム(GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)(紫外、青)、セレン化亜鉛(青)、酸化亜鉛(近紫外、紫、青)などを用いた種々の発光ダイオード(LED)が採用されてよい。例えば、
図2の、光触媒物質としてSrTiO
3が用いられている場合には、照射光の波長が380nmを下回ると、吸光率及び量子収率が増大するので、360~370nmに発光波長のピークを有するInGaN系のLEDが光源装置4の発光体として有利に用いることが可能である。
【0024】
そして、本実施形態の水素ガス製造装置1に於いては、上記の如く、容器部2内の光触媒部材3に接触する水Wを光源装置4の排熱により加温するための熱交換手段7が設けられ、エネルギーの損失をできるだけ抑えつつ、装置の小型化と水素ガス製造の効率の改善との両立が図られる。
【0025】
この点に関し、「発明の概要」の欄に於いて触れた如く、本発明の発明者等の研究によれば、光触媒による水素ガス製造の効率は、光触媒に照射する光の密度(光強度)を高くすると、低減する一方、反応物である水の温度を上昇させると、上昇することが以下の如き実験により見いだされた。
【0026】
実験に於いては、ガラス板上に100mgのSrTiO3(チタン酸ストロンチウム)を展開し焼結してなる光触媒部材を、石英ガラス製の容器に入れられた水200ml内に浸漬し、水温をヒーターで種々の値に調節しつつ、スポットタイプのLED(最大出力0.691W)により365nmの光を種々の光強度にて照射し、水の分解反応を惹起させて発生した水素ガスを回収し、水素ガスの発生量を測定した。光の照射面積は、2cm2とした。LEDの出力(照射光強度)は、パワーメータ(オフォールジャパン 50(150)A-BB26)を用いて計測しながら調節した。そして、光触媒への照射光の光量(入射光量)は、以下により算出した。
入射光量(mmol・cm-2・hr-1)=P×λ×3600/(A・h・c)
ここで、Pは、LED出力(W・cm-2)であり、λは、波長=365(nm)であり、Aは、アボガドロ数(mol-1)であり、hは、プランク定数(J・s)であり、cは、光速(m・s-1)である。そして、水素ガス製造の効率(光触媒効率)は、以下により算出した。
光触媒効率(%)=水素ガスH2の発生量×2/入射光量
ここで、水素ガスの発生量の単位は、mmol・cm-2・hr-1である(水素イオンの還元量は、水素ガスの二倍である。)。
【0027】
結果に於いて、まず、
図3(A)を参照して、水温を25℃(室温)として、LED出力を最大出力の5%、10%、20%、60%、100%と変化させると、光触媒効率は、LED出力、即ち、照射光の密度の増大と共に低下した。これは、光強度の増大により光触媒にて発生する励起電子と正孔の密度が増大しても、励起電子及び正孔との水との分解反応の速度が遅く、励起電子と正孔がそれぞれ水と反応する前に再結合により消滅してしまうことによると考えられる。即ち、光触媒に照射する光の密度を増加すると、水素ガスの発生に寄与する光子エネルギーの割合が低減してしまうことが示されている。一方、
図3(B)を参照して、LED出力を最大出力に維持しながら、水温を30℃、40℃、50℃、60℃と昇温させると、光触媒効率は、水温の上昇と共に増加した。これは、加熱により光触媒による電子と水との反応速度を増大したためと考えられる。
【0028】
かくして、
図3(A)と
図3(B)の結果とを合わせて考慮すると、水素ガス製造装置に於いて、小型化を図るべく、光触媒へ照射する光の密度を増加して光触媒の占める空間を小さくする際には、水温が常温のままでは、水素ガス製造の効率、即ち、投入する光子エネルギー当たりの水素ガスの製造量が低減してしまい、エネルギー効率が低下してしまうこととなるが、反応物である水の温度が高められるようにすると、照射光密度の増加に起因する水素ガス製造の効率の低下を補償でき、或いは、効率を維持できることが期待される。また、水の加温に関して、通常、光触媒への照射光を発する光源装置は、光と共に熱を排出するところ、その光源装置の排熱を水の加温に利用可能であれば、別途、ヒーターを準備する必要がなくなり、ヒーターに供給するエネルギーも不要となるので、水素ガス製造に関わるエネルギーの節約が可能となる。以上の知見から、水素ガス製造装置1に於いては、上記の如き熱交換手段7が備えられる。
【0029】
熱交換手段7は、光源装置4の排熱で容器部2内の水の加温ができれば、任意の形態にて実現されてよい。一つの態様に於いては、
図1に模式的に描かれている如く、光源装置4に隣接して熱交換器7aを取り付け、送水管7bを通じて容器部2内の水をポンプ7cにより熱交換器7aへ圧送して循環させることにより、水が加温されてよい。また、別の態様に於いては、
図4に模式的に描かれている如く、熱交換器7が装備され防水された光源装置4が容器部2内の水Wに浸漬され、これにより、水Wが光源装置4の排熱で加温されてもよい。その際、例えば、容器部2内の水Wの対流を発生するための撹拌手段7eが設けられていてもよい。或いは、光源装置4が容器部2の底部に配置され、光触媒部材3が容器部2の上部に配置され、光源装置4にて加温された水が容器部2の上部へ上昇するようになっていてもよい。これらの熱交換器を用いた構成によれば、光源からの輻射熱だけの場合よりも、速やかに、水の加温が達成される点で有利である(光源装置4へ供給される電力が変動する場合(電力が再生可能エネルギーによる発電源から送られてくる場合など)にも、水の加温が速やかに達成されるので有利である。)。
【0030】
上記の構成に於いて、光触媒部材3上へ照射される光の密度(光強度)は、
図3(A)に示されている如く、光触媒効率が比較的高くなるように選択されてよい。例えば、光源装置4からの光出力P
L(W)は、光触媒部材3の照射光を受ける面積がAcm
2のとき、光触媒効率が高くなる光強度0.1W/cm
2以下となるように、0.1・A(W)となるように調節されてよい。理解されるべきことは、光強度を上げたことによる光触媒効率の低下は、水温の上昇によって補償できるということである。
【0031】
上記の本実施形態の装置1の光源装置4は、電力にて作動されるところ、その電力は、好ましくは、太陽光パネルなどにて発電された太陽光由来のエネルギー又はその他の再生可能エネルギーにより与えられてよい。そのために、光源装置4は、太陽光パネル5などの再生可能エネルギーによる発電源からの送電線6を通じて電力の供給を受けるよう構成されてよい。
【0032】
本実施形態の水素ガス製造装置1の作動に於いては、光源装置4が太陽光パネル5等の発電源からの電力の供給を受けて光を発し、その光が容器部2内の光触媒部材3上の光触媒物質に照射される。また、容器部2内の水Wは、熱交換手段7により光源装置4の排熱により加温される。そして、光触媒物質に於いては、光が吸収され、励起電子と正孔が発生し、励起電子により、水の水素が還元されて水素ガスを形成し、正孔により、水の酸素が酸化されて、酸素ガスを形成する。かくして、発生した水素ガスと、酸素ガスとは、送気管8を通り、分離器(図示せず)へ送られ、水素ガスが分離され回収されることとなる。分離器は、例えば、この分野で利用されている水素分離膜を用いた任意の分離器であってよい。
【0033】
水素ガス製造装置の構成の改良
本実施形態の水素ガス製造装置の構成は、光源装置4から発せられる光及び排熱がより有効に水素ガスの製造に寄与するように、以下に例示される如く、種々改良されてよい。
【0034】
(a)光源装置4からの光の利用効率を高める構成
光源装置4からの光を水素ガスの製造により有効に利用できるようにするために、一つの態様に於いては、光源装置4からの光Lが容器部2内に閉じ込めるための構成が設けられてよい。例えば、容器部2の内壁や光触媒部材3に隣接して反射ミラーなどの光反射機構が設けられてよい。その場合、光源装置4から直接に容器部2の内壁に当たった光線は、そこで反射した後、光触媒部材3へ入射することが期待される。また、
図5(A)に模式的に描かれている如く、光触媒部材3へ照射された光Lのうち、その一部は、光触媒部材3を透過した後に、反射ミラー9にて反射され、反射光Lrが光触媒部材3へ再度入射するようになっていてよい。この点に関し、光触媒部材3への照射光により生成された励起電子が水の分解反応を起こすためには、光触媒部材3の表面にて水分子と接触する必要がある(光触媒部材3の深部にて生成された励起電子は、水分子と反応せずに正孔に再結合して消滅する。)。そのためには、入射される光子は、できるだけ、光触媒部材3の表面にて吸収されることが好ましい。そこで、本実施形態に於いては、光触媒部材3が、光触媒物質が層状に形成されている部材である場合には、光触媒層は、光が光触媒層へ最初に入射した際に光の全てが光触媒に吸収されない厚みに形成されることが好ましい。そうすると、
図5(A)の如く、光触媒部材3を透過した光Lが反射ミラー9にて反射した後、光触媒部材3の裏側の表面に照射されることとなり、より多くの光子が光触媒部材3の表面又はその近傍にて吸収され(光触媒部材3の深部にて吸収される光子の数が低減する。)、より多くの光子エネルギーを水素ガスの発生に寄与させることが可能となる。
【0035】
また、本実施形態の水素ガス製造装置1に於いて、
図5(B)に模式的に描かれている如く、光触媒部材3は、複数の板状部材3a、3bが、それぞれの面が互いに対向し且つ光源から離れるほど近づくように傾斜されてV字型に配置された構造に形成されてよい。かかる構成によれば、板状部材3a、3bのうちの一方に照射された光Lのうち、光触媒物質に吸収されずに反射した光が、板状部材3a、3bのうちの他方に照射されて、光触媒物質に吸収される機会ができるので、より多くの光子エネルギーを水素ガスの発生に寄与させることが可能となる。その場合、光源装置4から発せられた光Lが板状部材3a、3bの一方にて反射されて光源装置4に戻らずに、板状部材3a、3bの他方へ向かうように、好ましくは、板状部材3a、3bのそれぞれの面に対する光源装置4から発せられる光線Lの入射角(α)が0°より大きいことが好ましい(
図5(A)参照)。なお、
図5(C)を参照して、上記の如く、複数の光触媒部材3a、3bが夾角ψにてV字型に配置される構成に於いて、光触媒部材3a、3bの板長xと、V字型に構成される装置の夾角になる点と光源装置4までの距離yがx≦y・sin(ψ/2)を満たすとき、光源装置4からの指向角θにて発せられた光線Lが光触媒部材3a、3bのうちの一方に到達し、更に、そこで反射した光線Lrが、他方にも到達する場合、光線Lと光触媒部材3a、3bのうちの一方の面との成す角Φ1=θ/2+ψ/2と、反射光線Lrと光触媒部材3a、3bのうちの他方の面との成す角Φ2=180°-(θ/2+3/2ψ)とに於いて、Φ1≦Φ2の条件が成立する。従って、複数の光触媒部材3a、3bの夾角ψと光源装置4の指向角θとは、
ψ≦90°-θ/2
の関係が成立するように調整されてよい。更に、複数の板状部材3a、3bを透過した光が再度板状部材3a、3bへ入射されるように、複数の板状部材3a、3bのそれぞれの光源装置4とは反対側に、それぞれに隣接して、反射ミラー9a、9bが設けられていてよい。
【0036】
また更に、上記の如く、光触媒部材3がV字型に配置された複数の板状部材3a、3bにて構成される場合、
図5(D)に模式的に描かれている如く、光触媒部材3a、3bの光触媒の層が、その厚み(t1、t2)が光源装置4から離れるほど増大するように形成されてよい(t1<t2)。図示の如く、光源装置4からの光線(L1~L4)がV字型に配置された光触媒部材3a、3bの間にて反射されつつ、進行する構成に於いては、光源装置4から離れるほど、到達する光線の量が多くなり、光の密度が高くなる。そこで、上記の如く、光触媒層の厚み(t1、t2)を光源装置4から離れるほど大きくして、光触媒物質の量を多くすることで、光触媒物質による光の吸収量が増えるようになっていてよい。これにより、光触媒部材3に於いて、光強度の低いところには、光触媒量を少なくし、光強度の高いところには、光触媒量を多くすることで、光触媒物質が無駄に用いられることを回避し、光触媒量の効率的な配分が達成される。
【0037】
かくして、上記の一連の構成により、光源装置4から発せられた光がより多く光触媒物質に吸収され、光源装置4から光として放出されるエネルギーの損失の抑制が図られることとなる。
【0038】
(b)光源装置4からの排熱の損失を抑制する構成
既に述べた如く、本実施形態の水素ガス製造装置1では、光源装置4の排熱により反応物である水が加温される。かかる構成に於いて、装置1が常温(室温)下に設置される場合には、容器部2から放熱され、加温された水の温度が下がり、光源装置4の排熱から得たエネルギーが無駄となってしまう。そこで、容器部2に於いては、その周囲を断熱材に覆うなどにより、放熱を抑制するための断熱機構10が設けられ、光源装置4からの排熱の損失を抑制できるようになっていてよい。
【0039】
この点に関し、光源装置4の排熱を用いて水を加温し、容器部2に断熱機構10を設けることで、光触媒効率が高くなる水温を達成し、保持できることは、以下の如き本発明の発明者等によるシミュレーションに於いて確認された。シミュレーションでは、
図1の如く、水500mlが入れられた容器部2(ガラス製、半径40mm、高さ40mmの円柱状)に、11.05Wの発熱量の光源装置4(光出力5W、発光効率31.4%)を備え、光源装置4に隣接した熱交換器にチューブ(径6mm、長さ1m)を介して容器部2からの水を循環させる構成を想定した。そして、その構成に於いて、常温(約25℃)下にて、容器部2を断熱材(熱伝導率0.03W/mK、厚み10mm)で覆った場合と、覆っていない場合とで、水を光源装置4の排熱で加温した時の種々の水温時に於ける水温上昇率(℃/hr)を算出した。
図6は、各水温時に於ける水温上昇率(℃/hr)を示している。図示の如く、容器部2を断熱材で覆っていない場合には、水温が45℃を上回ると、光源装置4の排熱で水を加温しても温度が低下し(水温上昇率が負)、放熱量が水の加熱量を上回ることとなった。一方、容器部2を断熱材で覆っている場合には、実験した温度範囲で、水温上昇率が常に正であり、水が加温された状態に保持されることが確認された。特に、
図3(B)の結果と比較して、光触媒効率の有意な増大が得られる水温が50℃以上の場合に於いても、上記の構成に於いて、水温が低下しなかった。このことにより、容器部2に断熱機構10を設けることで、光源装置4の排熱により、水を加温でき、水素ガスの製造に有効に利用できることが示された。
【0040】
光源装置の出力制御
既に述べた如く、本実施形態の水素ガス製造装置1に於いて、光源装置4へ供給される電力は、太陽光パネル5などの再生可能エネルギー由来のものであってよい。光触媒に照射する光として、太陽光をそのまま利用するのではなく、太陽光エネルギーから変換された電力により光源装置から発せられる光を用いることにより、光の波長を光触媒が吸収しやすい波長帯域に変換し、また、光の密度を濃縮することができ、これにより、光触媒の占める空間を小さくでき、水素ガス製造装置の小型化が容易となる。
【0041】
ところで、光源装置4へ電力を供給して発光素子又は発光体を発光させて光触媒への照射光を得る場合、LEDなどの発光素子又は発光体は、その発光効率が、投入される電流量に対して変化することが見出されている。本発明の発明者等の実験によれば、
図7(A)に例示されている如く、定格電流1A、定格電圧3.54VのLEDを4つ並列に接続した状態で、投入した電流に対して発光効率(%)を計測したところ、図示の如く、発光効率が最大となったのは、投入電流が定格電流に満たない値(1.6A)のときであった。即ち、このことは、発光効率が最大となる電流以上の電流を発光素子又は発光体へ投入すると、光に変換されないエネルギーの割合が相対的に増加し、エネルギーの損失が増大することを示している。そこで、本実施形態に於いては、光源装置4へ投入する電流は、発光素子又は発光体の発光効率が最大となるように調整されることが好ましい。或いは、光源装置4へ投入され得る電流に於いて、発光効率が最大となるように発光素子又は発光体に於ける電流量が調整されてよい。具体的には、光源装置4へ投入され得る電流が投入されたときに、最大の発光効率を与える電流が流れる定格出力の発光素子又は発光体が選択されてよい。従って、例えば、光源装置4へ電力を供給する電力源が太陽光パネルであるとき、好ましくは、その太陽光パネルの定格電流値に於いて、最大の発光効率を与える電流が流れるように発光素子又は発光体が選択される。
【0042】
また、太陽光パネルなどの再生可能エネルギーによる発電源が光源装置4へ電力を供給する電力源として用いられている場合、発電源の出力は、日照条件などの環境条件により出力が変動し、利用可能な電流が時々刻々に変動し得る。その際、光源装置が、その時々で、発光効率が最大となる状態にて作動されるようにいれば、水素ガスの製造に利用されるエネルギーの効率が良いこととなる。そのための一つの手法として、本実施形態の光源装置4に於いて、発光素子又は発光体として、
図8(A)~
図8(C)に描かれている如く、複数個のLEDを並列に接続した構成が採用されてよい。かかる構成に於いては、発電源の出力に応じて、発電源に接続されるLEDの数が調整され、これにより、接続されているLEDに於いては、常に、できるだけ発光効率が最大となる電流が流れるように構成されることとなる。例えば、発電源の出力がその定格出力であるときには、
図8(A)の如く複数個のLEDの全てが発電源PVに接続され、発電源の出力がその定格出力の半分程度になったときには、
図8(B)の如く、半数個のLEDが発電源PVに接続され、発電源の出力がその定格出力の1/4程度になったときには、
図8(C)の如く、1/4個数のLEDが発電源PVに接続されてよい。これにより、
図7(B)に例示されている如く、発電源PVに接続されているLEDには、最大の発光効率を与える電流が流れる状態を達成することが可能となる。即ち、発電源の出力に応じて、接続するLEDの数を調整することにより、発電源から電流を受けるLEDの各々に於ける発光効率ができるだけ最大に近い状態となり、光の発生に寄与しないエネルギーの損失の抑制が可能となる。
【0043】
かくして、本実施形態による水素ガス製造装置1によれば、光触媒への照射光を、電力の供給を受けて作動する光源装置により与える構成に於いて、反応物である水を光源装置の排熱により加温することにより、光源装置からの光触媒への照射光の密度の増大による水素ガスの製造効率の低下が補償されるので、単位量あたりの光触媒への照射光量を高くすることによる装置の小型化に於いて、水素ガスの製造効率の低下を抑制でき、装置の小型化と高効率化との両立が図られることとなる。また、
図5に例示した一連の構成によれば、光源装置からの照射光をできるだけ多く光触媒に吸収させることと、光源装置の排熱の損失をできるだけ抑制することとにより、光源装置からの光子エネルギーと熱エネルギーとのできるだけ多くを水素ガスの製造に寄与させることができ、
図7、8に関連して例示した構成によれば、更に、光源装置の発光効率をできるだけ最大にすることで、光源装置に投入されるエネルギーのできるだけ多くを水素ガスの製造に寄与させることができ、これらの本実施形態の一連の構成によれば、水素ガスの製造のエネルギー効率の更なる改善が期待される。
【0044】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。