(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】C末端ヘリカル領域にシステインを有するFC結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20230926BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20230926BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20230926BHJP
B01D 15/38 20060101ALI20230926BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20230926BHJP
C12N 15/70 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
B01J20/281 R
B01J20/34 G
B01D15/38
B01J20/24 C
C12N15/70 Z
(21)【出願番号】P 2020506937
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2018071232
(87)【国際公開番号】W WO2019030156
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2017/069976
(32)【優先日】2017-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504232044
【氏名又は名称】レプリゲン・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】REPLIGEN CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110003579
【氏名又は名称】弁理士法人山崎国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(72)【発明者】
【氏名】フィードラー、エリック
(72)【発明者】
【氏名】ハウプトス、ウルリッヒ
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-531055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
B01J 20/281
B01J 20/34
B01D 15/38
B01J 20/24
C12N 15/70
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のドメインを含んでいる苛性安定性のFc結合タンパク質であって、少なくとも1つのドメインが、配列番号3~86、90~99のアミノ酸配列または前記アミノ酸配列のそれぞれと少なくとも
91%の同一性を有するアミノ酸配列、のいずれか1つを含んでおり、配列番号3に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである、Fc結合タンパク質。
【請求項2】
1つ以上のドメインを含んでいる苛性安定性のFc結合タンパク質であって、少なくとも1つのドメインが、配列番号2のアミノ酸配列を含んでおり、配列番号2に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである、Fc結合タンパク質。
【請求項3】
少なくとも1つのドメインが、配列番号3~16のアミノ酸配列、または配列番号3~16のそれぞれと少なくとも
91%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおり、配列番号3~16に対応する位置40、42、43、46、47、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである、請求項1に記載のFc結合タンパク質。
【請求項4】
少なくとも1つのドメインが、配列番号7~8のアミノ酸配列、または配列番号7~8のそれぞれと少なくとも
91%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおり、配列番号7~8に対応する位置40、42、43、46、47、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである、請求項1に記載のFc結合タンパク質。
【請求項5】
配列番号3に対応する位置43、46または47での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである、請求項1に記載のFc結合タンパク質。
【請求項6】
少なくとも1つのドメインが、配列番号17~86、90~99の群から選ばれたアミノ酸配列、または前記配列番号17~86、90~99の群から選ばれたアミノ酸配列のそれぞれと少なくとも
91%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいる、請求項1に記載のFc結合タンパク質。
【請求項7】
前記ドメインが、前記ドメインのN末端の最初の4つのアミノ酸のうちの1つ、2つまたは3つのアミノ酸の欠失および/または前記ドメインのC末端の最初の2つのアミノ酸のうちの1つまたは2つのアミノ酸の欠失を有する、請求項1に記載のFc結合タンパク質。
【請求項8】
前期タンパク質が、互いに連結された2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つのドメインを含んでいる、請求項1~7のいずれか1項に記載のFc結合タンパク質。
【請求項9】
前期タンパク質がホモ多量体またはヘテロ多量体である、請求項8に記載のFc結合タンパク質。
【請求項10】
前期1つ以上のドメインが、互いに直接または1つ以上のリンカー、好ましくはペプチドリンカーで連結されている、請求項9に記載のFc結合タンパク質。
【請求項11】
前記タンパク質が、固体担体に、好ましくは位置40、42、43、46、47、50、51、53または54でのシステインを介してコンジュゲートされる、請求項1~10のいずれか1項に記載のFc結合タンパク質。
【請求項12】
前記タンパク質が、IgG
1、IgG
2、IgG
4、IgM、IgA、Fc領域を含んでいるIg断片、IgのFc部位を含んでいる融合タンパク質、およびIgのFc部位を含んでいるコンジュゲートに結合する、請求項1~11のいずれか1項に記載のFc結合タンパク質。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のFc結合タンパク質を含んでいる、アフィニティー分離マトリックス。
【請求項14】
Fc配列を含んでいる任意のタンパク質のアフィニティー精製のための、請求項1~12のいずれか1項に記載のFc結合タンパク質または請求項13に記載のアフィニティー分離マトリックスの使用。
【請求項15】
Fc配列を含んでいるタンパク質のアフィニティー精製の方法であって、以下の工程を含む方法:(a)Fc配列を含んでいるタンパク質を含有する液体を準備する工程;(b)アフィニティー分離マトリックスにカップリングされた請求項1~12のいずれか1項に記載の少なくとも1つのFc結合タンパク質を含んでいる前記アフィニティー分離マトリックスを準備する工程;(c)前記アフィニティー分離マトリックスと前記液体とを、前記請求項1~12のいずれか1項に記載の少なくとも1つのFc結合タンパク質がFc配列を含んでいるタンパク質に結合することを可能にする条件の下で接触させる工程;および(d)前記アフィニティー精製マトリックスから前記Fc配列を含んでいるタンパク質を溶出させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C末端ヘリカル領域にシステインを有する1つ以上のドメインを含んでいるFc結合タンパク質に関する。本発明はさらに、本発明のFc結合タンパク質を含んでいるアフィニティーマトリックスに関する。本発明はまた、免疫グロブリンをアフィニティー精製するためのこれらのFc結合タンパク質またはアフィニティーマトリックスの使用、および本発明のFc結合タンパク質を使用したアフィニティー精製の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生物工学的および製薬学的用途では、抗体を含んでいるサンプルから汚染物質を除去することが要求される。抗体を捕捉しおよび精製するための確立された方法は、免疫グロブリン用の選択的リガンドとして黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の細菌細胞表面タンパク質Aを使用したアフィニティークロマトグラフィーである(たとえば、Huseら、J.Biochem.Biophys. Methods、51、2002年、217~231頁を参照せよ。)。
【0003】
野生型タンパク質Aは、高い親和性(アフィニティ-)および選択性でIgG分子のFc領域に結合し、高温度および広い範囲のpH値において安定である。アルカリ安定性のような改善された特性を有するタンパク質Aの変異体が、抗体を精製するために利用可能であり、タンパク質Aリガンドを含んでいる様々なクロマトグラフィーマトリックスが市販されている。しかし、野生型タンパク質Aに基くクロマトグラフィーマトリックスは特に、アルカリ性条件に曝露された後に免疫グロブリンに対する結合能力の喪失を示す。
[本発明の根底にある技術的課題]
【0004】
抗体またはFc含有融合タンパク質の大規模製造プロセスの多くは、アフィニティー精製のためにタンパク質Aを使用する。しかし、アフィニティークロマトグラフィーにおけるタンパク質Aの適用には限界があるために、免疫グロブリンのアフィニティー精製を容易にするためには、免疫グロブリンに特異的に結合する改善された特性を有する新規なFc結合タンパク質を提供する必要が当該技術分野に存在する。
【0005】
Fc結合タンパク質を含んでいるクロマトグラフィーマトリックスの価値を最大限に引き出すためには、アフィニティーリガンドマトリックスを複数回使用することが望ましい。クロマトグラフィーサイクルの間に、マトリックス上の残留汚染物質の消毒および除去のために徹底的な洗浄手順が必要である。この手順では、高濃度NaOHのアルカリ溶液をアフィニティーリガンドマトリックスに施与することが一般的な慣行である。野生型タンパク質Aドメインは、そのような過酷なアルカリ性条件に長時間耐えることができず、免疫グロブリンに対する結合能力を急速に失う。したがって、アルカリ性条件下での長時間の処理に耐えることができる新規なFc結合タンパク質を得るための継続した必要が当該分野に存在する。
【0006】
本発明は、免疫グロブリンのアフィニティー精製に特によく適しているにもかかわらず、従来技術の欠点をも克服するFc結合タンパク質を提供する。特に、本発明のFc結合タンパク質の重要な利点は、高pHにおいてFc結合能力を低減することなく長時間にわたる改善される安定性とともに高い動的結合能力である。さらに、この新規なFc結合タンパク質は、マトリックスに固定化されたFc結合タンパク質から、3.5以上のpHにおいて、結合されたFcタンパク質の95%超の溶出が可能である。
【0007】
以上の概説は、本発明により解決される必ずしも全ての課題を記載しているわけではない。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の様相は、アフィニティー精製に適しているFc結合タンパク質を提供することである。これは、1つ以上のFc結合ドメインを含んでいるFc結合タンパク質を用いて達成され、この1つ以上のFc結合ドメインでは配列番号2に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである。ヘリックス3中の1つまたは2つのアミノ酸がシステインであることが好ましい。
【0009】
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は1つ以上のFc結合ドメインを含んでおり、少なくとも1つのドメインは配列番号2のアミノ酸配列、またはそれと少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおりまたはそれから本質的に成りまたはそれから成り、その配列では配列番号2に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである。
【0010】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのドメインは配列番号3~16のアミノ酸配列、またはそれらのそれぞれと少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおりまたはそれから本質的に成りまたはそれから成り、その配列では配列番号3~16に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである。
【0011】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのドメインは配列番号7~8のアミノ酸配列、またはそれらのそれぞれと少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおりまたはそれから本質的に成りまたはそれから成り、その配列では配列番号7~8に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである。
【0012】
いくつかの実施形態では、配列番号2に対応する位置43、46または47での1つまたは2つのアミノ酸はシステインであり、好ましくは位置43、46または47での1つのアミノ酸はシステインであり、または位置43および46または43および47での2つのアミノ酸はシステインである。
【0013】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのドメインは配列番号17~77、90~99の群から選ばれたアミノ酸配列、またはそれらのそれぞれと少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおりまたはそれから本質的に成りまたはそれから成る。
【0014】
第2の様相では、本発明は第1の様相のFc結合タンパク質を含んでいるアフィニティー分離マトリックスに関する。
【0015】
第3の様相では、本発明は、第1の様相のFc結合タンパク質の使用、または免疫グロブリンまたは免疫グロブリンのFc部分を含んでいるタンパク質をアフィニティー精製するための第2の様相のアフィニティー分離マトリックスの使用に関する。
【0016】
第4の様相では、本発明は、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンのFc部分を含んでいるタンパク質のアフィニティー精製の方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
(a)免疫グロブリンを含んでいる液体を準備する工程;
(b)アフィニティー分離マトリックスにカップリングされた第1の様相の固定化されたFc結合タンパク質を含んでいる当該アフィニティー分離マトリックスを準備する工程;
(c)当該液体と当該アフィニティー分離マトリックスとを接触させて、当該免疫グロブリンが当該固定化されたFc結合タンパク質に結合する工程;および
(d)当該マトリックスから当該免疫グロブリンを溶出させ、それによって当該免疫グロブリンを含んでいる溶出液を得る工程。
【0017】
本発明のこの概要は、必ずしも本発明の全ての特徴を説明するものではない。他の実施形態は以下の詳細な説明の検討から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】C末端ヘリカル領域(ヘリックス3)中にシステインを有するFc結合ドメインのアミノ酸配列を示す図である。第1行の数字は、Fc結合ドメインの対応するアミノ酸の位置を指す。
図1Aは、配列番号2のFc結合ドメインを示す図である。
【
図1B】C末端ヘリカル領域(ヘリックス3)中にシステインを有するFc結合ドメインのアミノ酸配列を示す図である。第1行の数字は、Fc結合ドメインの対応するアミノ酸の位置を指す。
図1Bは、ヘリックス3中にCysを有するFc結合ドメインの例を示す図である。
【
図2A】ヘリックス3中にシステインを有するFc結合ドメインの固定化を示す図である。
図2Aは、エポキシマトリックス上の位置43、46、47、50または58にシステインを有するIB14タンパク質のカップリング効率を示す図である。Y軸はナノモル/ml単位でのカップリングされたタンパク質の量を示す。
【
図2B】ヘリックス3中にシステインを有するFc結合ドメインの固定化を示す図である。
図2Bは、エポキシ活性化されたセファロース(Sepharose)6Bマトリックスへのcs14 43Cおよびcs14 46Cのカップリングを示す図である。Y軸はナノモル単位でのn(樹脂ml当たりのタンパク質の量)を示す。
【
図3A】ヘリックス33中にシステインを有するFc結合タンパク質の苛性安定性を示す図である。
図3Aは、位置43、46、47、50または58にシステインを有するIB14のアルカリ安定性の分析結果を示す。Y軸はFc結合タンパク質IB14およびCys変異体の%単位での残存IgG結合活性である。灰色(ブランク)のカラム:6時間の連続的な0.5MのNaOH処理後のIgG結合活性。黒色(斜線)のカラム:NaOHを含まない場合のIgG結合活性。
【
図3B】ヘリックス33中にシステインを有するFc結合タンパク質の苛性安定性を示す図である。
図3Bは、位置43または46にシステインを有するcs14の苛性安定性およびDBC 10%を示す。Y軸はDBC 10%(mg/ml)である。黒色(右上がりの斜線):DBC 10%(mg/ml)、0時間のNaOH処理。明るい灰色(ブランク):DBC 10%(mg/ml)、18時間のNaOH処理。暗い灰色(右下がりの斜線):DBC 10%(mg/ml)、72時間のNaOH処理。Cys変異体が、(位置58の後に)C末端システインを有するcs14と、およびタンパク質Aと、比較された。
【
図4】6、24および36時間の連続的な0.5MのNaOH処理の後の(%単位での)残存結合能力がcs26 46Cについて示され、位置46にCysを有しないcs26と比較され、および野生型タンパク質AドメインCと比較される図である。X軸は、時間単位での0.5MのNaOHインキュベーション時間を示す。
【
図5】動的結合能力(DBC;mg/ml)が、cs26 46C(モノマーおよびダイマー)について示され、位置46にCysを有しないcs26と比較され、および組み換え野生型タンパク質Aと比較される図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本発明が以下に詳細に記載される前に、本発明は、本明細書に記載された特定の方法、プロトコルおよび試薬に限定されるものではなく、それらが変更可能であることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は添付された特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。他様に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0020】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、「バイオテクノロジー用語の多言語用語集(IUPAC勧告)(A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations))」、Leuenberger,H.G.W、Nagel,B.およびKolbl,H.編、(1995年)、Helvetica Chimica Acta社刊,スイス国、Basel、CH-4010)に規定された定義と一致している。
【0021】
本明細書および添付された特許請求の範囲の全体にわたって、文脈上別の必要がない限り、「comprise(を含んでいる)」の語および「comprises」および「comprising」などのその変化形は、記載された構成員、整数もしくは工程または構成員、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他の構成員、整数もしくは工程または構成員、整数もしくは工程の群の排除をも意味するものではないことが理解されるべきである。
【0022】
本発明の説明および添付された特許請求の範囲で使用される単数形の「a(1つの)」、「an(1つの)」および「the(その)」は互換的に使用され、文脈が明らかに他様に指示しない限り、複数形も同様に含み、各意味の中に含まれることが意図されている。また、本明細書で使用される「および/または」は、列挙された項目の1つ以上の任意のおよび全ての可能な組合わせを指し、かつそれらを包含し、同様に選択枝(「または」)に解釈される場合には組合わせの欠如を指している。本明細書で使用される用語「約」は、明示的に記載された量とともにそれからの士10%の偏差を包含する。より好ましくは、偏差5%が用語「約」に包含される。
【0023】
本明細書の本文全体に、いくつかの文書(たとえば、特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書等)が引用されている。本明細書中のいかなる記載も、本発明が従来発明によってそのような開示物よりも先行する権利がないと認めるものとして解釈されてはならない。本明細書で引用される文書のいくつかは、「参照によって組み込まれる」ものとして特徴付けられている。そのように組み込まれた文献の定義または教示と本明細書に記載された定義または教示との間に矛盾がある場合には、本明細書の本文が優先される。
【0024】
本明細書で言及される全ての配列は添付された配列表に開示されており、その配列表の内容および開示の全体は本明細書の一部である。
【0025】
本発明の文脈では、「Fc結合タンパク質」または「免疫グロブリン結合タンパク質」または「Ig結合タンパク質」の用語は、免疫グロブリンのFc領域に特異的に結合することができるタンパク質を記載するために使用される。Fc結合タンパク質は、少なくとも1つの「Fc結合ドメイン」または「免疫グロブリン結合ドメイン」または「Ig結合ドメイン」を含んでおり、これはアミノ酸残基7~19からのヘリックス1、アミノ酸残基23~37からのヘリックス2およびアミノ酸残基40~55からのヘリックス3を有する58個のアミノ酸の3-ヘリックス束によって特徴付けられる。Fc結合ドメインは、3-ヘリックス束構造を失うことなく、欠失、たとえばN末端での6個までのアミノ酸またはC末端での4個までのアミノ酸の欠失を含んでいてもよい。
【0026】
本明細書で理解される「免疫グロブリン」としては、哺乳動物IgG、たとえば例としてヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG4、マウスIgG、ラットIgG、ヤギIgG、牛IgG、ギニアIgG、ウサギIgG、ヒトIgM、ヒトIgAおよびFc領域を含んでいる免疫グロブリン断片が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。Fc領域への特異的な結合の故に、本発明の「Fc結合タンパク質」または「Ig結合タンパク質」は、免疫グロブリンの全体に、およびFc領域を含んでいる免疫グロブリン断片、免疫グロブリンのFc領域を含んでいる融合タンパク質、および免疫グロプリンのFc領域を含んでいるコンジュゲートに結合することができる。本発明のFc結合タンパク質は免疫グロブリンのFc領域への特異的な結合を示すけれども、Fc結合タンパク質は低減された親和性でさらに他の領域、たとえば免疫グロブリンのFab領域に結合することができることは排除されない。
【0027】
本発明による用語「結合」は、好ましくは特異的結合に関する。「特異的結合」とは、Fc結合タンパク質またはFc結合ドメインが免疫グロブリンに、より強力に結合し、それ故に他の非免疫グロプリン標的への結合に比較して特異的であることを意味する。
【0028】
用語「結合活性」は、本発明のFc結合タンパク質が免疫グロプリンに結合する能力を指す。たとえば、結合活性は、アルカリ処理の前および/または後に測定されることができる。結合活性は、Fc結合タンパク質についてまたはマトリックスにカップリングされたFc結合タンパク質、すなわち固定化結合タンパク質について測定されることができる。
【0029】
用語「人工的」とは、天然に存在しない物体を指す、すなわちこの用語はヒトによって製造されまたは改変されていない物体を指す。たとえば、ヒトによって(たとえば、遺伝子工学、シャッフリング法または化学反応等によって実験室で)生成されまたは意図的に改変されたポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、人工的である。
【0030】
用語「解離定数」または「KD」とは、特異的結合アフィニティー(親和性)を定義する。本明細書で使用される用語「KD」(通常「モル/L」単位で測定され、「M」と略称されることもある。)は、第1のタンパク質と第2のタンパク質との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことが意図されている。本発明の文脈では、用語KDは、Fc結合タンパク質と免疫グロブリンとの間の結合アフィニティーを記述するために特に使用される。Fc結合タンパク質が、少なくとも1μM以下、または好ましくは100nM以下、より好ましくは50nM以下、さらにより好ましくは10nM以下の免疫グロブリンへの解離定数KDを有するならば、本発明のFc結合タンパク質は免疫グロブリンに結合していると見なされる。
【0031】
用語「タンパク質」および「ポリペプチド」とは、ペプチド結合によって連結された2個以上のアミノ酸の任意の線状分子鎖を指し、生成物の特定の長さを指すものではない。したがって、「ペプチド」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」または2個以上のアミノ酸の鎖を指すために使用される任意の他の用語は、「ポリペプチド」の定義内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、任意のこれらの用語の代わりにまたは互換的に使用されることができる。用語「ポリペプチド」は、ポリペプチドの翻訳後修飾生成物を指すことも意図されており、それには、当技術分野で周知のグリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、タンパク質分解切断、天然に存在しないアミノ酸による修飾および類似の修飾が含まれるが、これらに限定されない。したがって、2個以上のタンパク質ドメインを含んでいるIg結合タンパク質も、用語「タンパク質」または「ポリペプチド」の定義に含まれる。
【0032】
用語「アルカリ安定性の」または「アルカリ安定性」または「苛性安定性の」または「苛性安定性」(本明細書では「cs」とも略称される。)とは、免疫グロブリンに結合する能力が著しく損なわれないでアルカリ性条件に耐える本発明のFc結合タンパク質の能力を指す。この分野の当業者は、たとえば実施例に記載されたようにFc結合タンパク質を水酸化ナトリウム溶液でインキュベートし、当業者に知られている通常の実験、たとえばクロマトグラフィー法を用いて、免疫グロブリンへの結合活性の試験を行うことによって、アルカリ安定性を容易に試験することができる。
【0033】
本発明のFc結合タンパク質とともに本発明のFc結合タンパク質を含んでいるマトリックスは、「増加した」または「改善された」アルカリ安定性を示し、これは、参照タンパク質と比較して、当該Fc結合タンパク質を組み込んでいる分子およびマトリックスが長時間にわたってアルカリ性条件下で安定であることを意味する。
【0034】
本明細書で使用される用語「親タンパク質」または「親ドメイン」における用語「親」とは、Fc結合タンパク質を指し、これはその後に改変されて、当該親タンパク質またはドメインの変異体を生成する。当該親タンパク質またはドメインは、人工的ドメイン(たとえば、これらに限定されないが配列番号78~83)、天然型の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質Aドメイン(たとえば、ドメインCについて配列番号84、ドメインBについて配列番号85)、または天然型の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)タンパク質Aドメインの変異体もしくは遺伝子組み換え版(たとえば、ドメインZについて配列番号86)であってもよい。
【0035】
本明細書で使用される用語「変異体」は、Fc結合タンパク質またはドメインのアミノ酸配列であって、別のアミノ酸配列と少なくとも1個のアミノ酸の置換、欠失または挿入の分だけ異なっているアミノ酸配列を含んでいる。これらの改変は、遺伝子工学によって、または人によって行なわれた化学合成または化学反応によって生成されてもよい。たとえば、配列番号27(cs26 A46C)は配列番号7(cs26)の変異体である。
【0036】
本明細書で使用される用語「コンジュゲート」は、少なくとも1つの第1のタンパク質が他の物質、たとえば第2のタンパク質または非タンパク質性部分に化学的に付加されたものを含んでいる、またはそれから本質的に成る分子に関する。
【0037】
用語「改変」または「アミノ酸改変」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置でのアミノ酸の、別のアミノ酸との交換、欠失または挿入に関する。公知の遺伝子コードならびに組換えおよび合成DNA技術を所与として、当業者はアミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0038】
用語「置換」または「アミノ酸置換」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置でのアミノ酸の別のアミノ酸による交換を指す。たとえば、置換G46Cとは、位置46でのグリシンがシステインによって置き換えられたFc結合タンパク質を指す。この例の場合、46Cは位置46でのシステインを指す。本明細書の目的のためには、多数の置換は、典型的にはスラッシュによって分けられる。たとえば、A1I/S11A/K35R/A46Cは、置換A1I、S11A、K35RおよびA46Cの組み合わせを含む変異体を指す。
【0039】
用語「欠失」または「アミノ酸欠失」とは、親ポリペプチド配列内の特定の位置でのアミノ酸の除去を指す。
【0040】
用語「挿入」または「アミノ酸挿入」とは、親ポリペプチド配列へのアミノ酸の付加を指す。
【0041】
この明細書の記載の全体にわたって、
図1のアミノ酸残基位置の番号付け方法が使用され、位置の番号が、たとえば配列番号1~16における番号に対応するものとして指定される。
【0042】
用語「アミノ酸配列同一性」とは、2つ以上のタンパク質のアミノ酸配列の同一性(または差異)の定量的比較を指す。参照ポリペプチド配列に対して「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」または「パーセント同一の」または「パーセント同一性」とは、2つの配列のアラインメントをし、必要に応じてギャップを導入して、最大パーセントの配列同一性を達成した後の、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一であるその配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。
【0043】
配列同一性を決定するためには、照会のタンパク質の配列を参照タンパク質の配列とアラインメントする。アラインメントの方法は、当技術分野において周知である。たとえば、参照アミノ酸配列に対する任意のポリペプチドのアミノ酸配列同一性の程度を決定するためには、SIM局所類似性プログラムが好ましくは使用され(Xiaoquin HuangおよびWebb Miller(1991年)、Advances in Applied Mathematics、第12巻、337~357頁)、これは無料で入手できる(http://www.expasy.org/tools/sim-prot.htmlも参照せよ。)。多重アラインメント分析のためには、ClustalWが好ましくは使用される(Thompsonら、(1994年)、Nucleic Acids Res.、第22巻、4673~4680頁)。好ましくは、配列同一性パーセンテージを計算するときに、SIM局所類似性プログラムまたはClustalWのデフォルトパラメーターが使用される。
【0044】
本発明の文脈では、配列同一性の程度は一般に、明示的に別段の断りがなければ、改変されていない配列の全長に対して計算される。
【0045】
所与の位置での参照アミノ酸配列と異なる照会配列の各アミノ酸は、1つの差異として数えられる。差異の合計が次に参照配列の長さに関連付けられて、非同一性のパーセンテージが得られる。同一性の定量的パーセンテージは、100から非同一性のパーセンテージを差し引いたものとして計算される。
【0046】
本明細書で使用される語句「パーセント同一の」または「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」または「パーセント同一性」は、2つのポリペプチド配列の文脈では、最大の一致となるように比較されアラインメントされたときに、以下の配列比較アルゴリズムを使用して測定されてまたは目視検査されて、いくつかの実施形態では少なくとも約80%の、いくつかの実施形態では少なくとも82%の、いくつかの実施形態では少なくとも84%の、いくつかの実施形態では少なくとも86%の、いくつかの実施形態では少なくとも87%の、いくつかの実施形態では少なくとも89.5%の、いくつかの実施形態では少なくとも91%の、いくつかの実施形態では少なくとも93%の、いくつかの実施形態では少なくとも94%の、いくつかの実施形態では少なくとも96%の、いくつかの実施形態では少なくとも98%の、およびいくつかの実施形態では100%の、アミノ酸残基の同一性を有する2つ以上の配列または部分配列を指す。明確にするために言うと、たとえば少なくとも89.5%の同一性を有する配列は、89.5%の同一性よりも高い同一性、たとえば少なくとも91%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、100%を有する実施形態の全ての配列を含む。
【0047】
パーセント同一性は、いくつかの実施形態では少なくとも50残基数の領域にわたって、少なくとも52残基数にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも53残基数の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも54残基数の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも55残基数の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも56残基数の領域にわたって、いくつかの実施形態では少なくとも57残基数の領域にわたって、およびいくつかの実施形態では少なくとも58残基数の領域にわたって存在する。
【0048】
用語「融合され」とは、成分がペプチド結合によって、直接的にあるいはペプチドリンカーを介してのいずれかで、連結されていることを意味する。
【0049】
用語「融合タンパク質」とは、少なくとも1つの第2タンパク質に遺伝子的に連結された少なくとも1つの第1のタンパク質を含んでいるタンパク質に関する。融合タンパク質は、元々は別々のタンパク質のためにコードされた2つ以上の遺伝子が連結されることによって作り出される。したがって、融合タンパク質は、単一の線状ポリペプチドとして発現される、同一のまたは異なるタンパク質の多量体を含んでいることがある。
【0050】
本明細書中で使用される用語「リンカー」とは、その最も広い意味において、少なくとも2つの他の分子を共有結合で連結する分子を指す。本発明の典型的な実施形態では、「リンカー」は、Fc結合ドメインを少なくとも1つのさらなるFc結合ドメインと結合する部分、すなわち2つのタンパク質ドメインを互いに連結して多重体を生成する部分として理解されるべきである。好ましい実施形態では、「リンカー」はペプチドリンカー、すなわち2つのタンパク質ドメインを連結する部分が、1つの単一アミノ酸または2つ以上のアミノ酸を含んでいるペプチドである。
【0051】
用語「クロマトグラフィー」とは、移動相および固定相を用いて、サンプル中の1つの種類の分子(たとえば、免疫グロブリン)を他の分子(たとえば、混入物質)から分離するための分離技術を指す。液体移動相は、分子の混合物を含み、固定相(たとえば、固体マトリックス)を横断させてまたはその中を通してそれらを移送する。移動相中の異なる複数の分子の固定相との差分的な相互作用に起因して、移動相中の複数の分子が分離されることができる。
【0052】
用語「アフィニティークロマトグラフィー」とは、クロマトグラフィーの特定の様式を指し、この様式では、固定相にカップリングされたリガンドが移動相(サンプル)中の分子(すなわち、免疫グロブリン)と相互作用する、すなわちリガンドは精製されるべき分子に対して特異的な結合親和性を有する。本発明の文脈において理解されるように、アフィニティークロマトグラフィーは、クロマトグラフィーリガンド、たとえば本発明のFc結合タンパク質を含んでいる固定相に、免疫グロブリンを含有するサンプルを添加することに関する。
用語「固体支持体」または「固体マトリックス」は、固定相と互換的に使用される。
【0053】
本明細書で互換的に使用される用語「アフィニティーマトリックス」または「アフィニティー分離マトリックス」または「アフィニティークロマトグラフィーマトリックス」は、アフィニティーリガンド、たとえば本発明のFc結合タンパク質が付着されたマトリックス、たとえばクロマトグラフィーマトリックスを指す。リガンド(たとえば、Fc結合タンパク質)は、目的の分子(たとえば、上で定義された免疫グロブリン)に特異的に結合して、目的の分子が精製されまたは混合物から除去されることができる。
【0054】
本明細書で使用される用語「アフィニティー精製」とは、マトリックスに固定化されたFc結合タンパク質に上で定義された免疫グロブリンを結合させることによって、液体から上で定義された免疫グロブリンを精製する方法を指す。それによって、免疫グロブリン以外の混合物の他の全ての成分が除去される。さらなる工程では、結合された免疫グロブリンは、精製された形態で溶出される。
【0055】
本発明の実施形態
本発明がこれからさらに説明される。以下の節では、本発明の様々な様相がより詳細に定義される。以下に定義される各様相は、明確に反対の表示がない限り、1または複数の任意の他の様相と組み合わされることができる。特に、好ましいまたは有利であると示される任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示される1または複数の他の任意の特徴と組み合わされることができる。
【0056】
第1の様相では、本発明はFc結合タンパク質に関し、配列番号2に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインであり、好ましくは配列番号2に対応する位置40、42、43、46、47、49、50、51、53および54の群から選択された1つの位置でのアミノ酸がシステインである。第1の様相の1つの実施形態では、配列番号2に対応する位置43でのアミノ酸、位置46でのアミノ酸、位置47でのアミノ酸、位置50でのアミノ酸、位置51でのアミノ酸または位置53でのアミノ酸がシステインである。
【0057】
第1の様相では、Fcタンパク質は1つ以上のドメインを含んでおり、少なくとも1つのドメインは、配列番号2のアミノ酸配列または少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも89.5%、少なくとも91%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでおり、またはそれから本質的に成り、またはそれから成り、配列番号2に対応する位置40、42、43、46、47、50、51、53または54での少なくとも1つのアミノ酸がシステインである。2つ以下のシステイン残基が、配列番号2~86、90~99またはそれらと少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列のヘリックス3の中にあることが好ましい。
【0058】
本発明のFc結合ドメインは、典型的にはアミノ酸残基7~19からのヘリックス1、アミノ酸残基23~37からのヘリックス2およびアミノ酸残基40~55からのヘリックス3を有する58個のアミノ酸の3つのヘリックス束として理解される。Fc結合はヘリックス1およびヘリックス2によって介在される。ヘリックス3の中にシステインを有するFc結合タンパク質の驚くべき利点は、それが、Fc結合特性を損なわずに、かつ高い結合能力を提供するマトリックスへの部位特異的なカップリング効率とともに長時間にわたるアルカリ安定性を与えることである。本発明のFc結合タンパク質は、少なくとも6時間から少なくとも72時間にわたる0.5MのNaOH中でインキュベートされた後でも、結合能力の低下は20%未満である。たとえば、マトリックスが数回使用されることができるように、高いNaOH濃度のアルカリ溶液を使用してマトリックス上の汚染物質を除去するクリーニング方法を用いるクロマトグラフィーの取り組みにとって、この特徴は重要である。さらに、高い苛性安定性を有することに加えて、ヘリックス3の中にCysを有するFc結合タンパク質は高いカップリング効率を示す。
例として、たとえば位置46にCysを有する変異体の動的結合能力は、組換えタンパク質Aと比較して優れている(
図5を参照せよ)。
【0059】
ヘリックス3の中にシステインを有する好ましいFc結合タンパク質
いくつかの実施形態は、配列番号1~86、90~99から成る群から選ばれたアミノ酸を有する配列に関する。いくつかの実施形態は、配列番号1~86、90~99から成る群から選ばれたアミノ酸と少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも89.5%、少なくとも91%、少なくとも93%、少なくとも94.5%、少なくとも96%、少なくとも98%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列に関し、但しそれらが、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54の中に少なくとも1つのシステインを有することを条件とする。好ましいのは、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54に、好ましくは位置43または/および46に、より好ましくは位置46に少なくとも1つのシステインを有する配列番号1~86、90~99から成る群から選ばれたアミノ酸と、少なくとも89.5%の同一性を有する配列を有する実施形態である。好ましいのは、ヘリックス3の中に1つまたは2つのシステインを有するFc結合タンパク質の実施形態である。
【0060】
本発明のFc結合タンパク質のアミノ酸配列は、さらなる改変、たとえば挿入、欠失またはさらなる置換を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、Fc結合ドメインは1、2、3、4、5または6つのさらなる置換を有する。いくつかの実施形態では、Fc結合ドメインは、そのN末端の最初の4つのアミノ酸以内に1、2、3または4つのアミノ酸の欠失および/またはC末端に1つまたは2つのアミノ酸の欠失を有する。いくつかの実施形態では、Fc結合ドメインは、N末端に、たとえば位置1、2および4にまたは位置1、2および3に欠失を有する。いくつかの実施形態では、Fc結合ドメインは、C末端に、たとえば位置57および/または58に(たとえば、配列番号33~34に限定されないが、配列番号33~34に示されたように)欠失を有する。いくつかの実施形態は、上記の配列番号(たとえば、配列番号1~86、90~99に限定されないが、配列番号1~86、90~99)のいずれかのアミノ酸配列に少なくとも89.5%の配列同一性を有するアミノ酸配列に関する。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54に少なくとも1つのCys、好ましくは1つのCysを有するFc結合ドメインの例は、たとえば
図1に示されたアミノ酸配列を含むが、これに限定されない。
【0061】
配列番号7(cs26)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列の、またはそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の、1つ以上のドメインを含んでいる。たとえば、配列番号7に少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列はcs24(配列番号8)を含んでいるが、これに限定されない。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs26の変異体の例は、たとえば配列番号26~39および90~99を含んでいるが、これらに限定されない。
【0062】
配列番号8(cs26)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号8のアミノ酸配列の、またそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の、1つ以上のドメインを含んでいる。たとえば、配列番号8に少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列はcs26(配列番号7)を含んでいるが、これに限定されない。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs26の変異体の例は、たとえば配列番号26~39および90~99を含んでいるが、これらに限定されない。
【0063】
配列番号3(cs14)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列の、またそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の1つ以上のドメインを含んでいる。たとえば、配列番号3に少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列は、配列番号10(cs25)、配列番号11(cs47h3)、配列番号12(cs47h4)、配列番号13(cs74h1)および配列番号14(cs74h2)を含んでいるが、これらに限定されない。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs14の変異体の例は、たとえば配列番号17~20、40~52、64、65、70、71および74~76を含んでいるが、これらに限定されない。
【0064】
配列番号4(cs27)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列の、またそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の1つ以上のドメインを含んでいる。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs27の変異体の例は、たとえば配列番号21~25を含んでいるが、これらに限定されない。
【0065】
配列番号5(cs20)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号5のアミノ酸配列の、またそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の1つ以上のドメインを含んでいる。たとえば、配列番号5に少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列は配列番号9(cs17)を含んでいるが、これに限定されない。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs20の変異体の例は、たとえば配列番号53~57を含んでいるが、これらに限定されない。
【0066】
配列番号6(cs42)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号6のアミノ酸配列の、またそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の1つ以上のドメインを含んでいる。たとえば、配列番号16に少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列はcs28(位置4で異なる。)またはcs41(配列番号15)を含んでいるが、これに限定されない。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs42の変異体の例は、たとえば配列番号58~63を含んでいるが、これらに限定されない。
【0067】
配列番号16(cs43)および変異体
いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は、配列番号16のアミノ酸配列の、またそれと少なくとも89.5%の同一性を有する、位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54でのシステインによる改変に適したアミノ酸配列の1つ以上のドメインを含んでいる。たとえば、配列番号16に少なくとも89.5%の同一性を有するアミノ酸配列はcs44(位置44で異なる。)、cs31(位置25および54で異なる。)またはcs45(位置25および26で異なる。)を含んでいるが、これに限定されない。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54にCysを有するcs43の変異体の例は、たとえば配列番号66~69および72を含んでいるが、これらに限定されない。
【0068】
Fc結合タンパク質の配列;好ましいアミノ酸の位置
驚いたことに、Fc結合ドメインのヘリックス3中のシステインは、図および実施例に示されるように、ヘリックス3中にシステインを有しないドメインと比較して、Fc結合ドメインのアルカリ安定性を増加させ、かつマトリックスへのFc結合タンパク質の部位特異的なカップリングを改善し、これは能力を改善する。
【0069】
いくつかの実施形態では、当該Fc結合ドメインは位置1にイソロイシンを含んでいる。Fc結合ドメインの位置1でのアミノ酸はトレオニン(T)でないことが好ましい。位置1でのアミノ酸はイソロイシン(I)またはアラニン(A)であることが好ましい。あるいは、位置1は欠失されてもよい。
【0070】
いくつかの実施形態では、当該Fc結合ドメインは位置11にアラニン(A)、グルタミン酸(E)またはイソロイシン(I)を含んでいる。位置11でのアミノ酸はアスパラギン(N)またはリジン(K)でないことが好ましい。位置11でのアミノ酸はアラニン(A)、イソロイシン(I)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)またはプロリン(P)であることが好ましく、より好ましくはA、IまたはE、最も好ましくはAである。あるいは、位置11でのアミノ酸はセリン(S)である。
【0071】
いくつかの実施形態では、当該Fc結合ドメインは位置35にアルギニン(R)またはイソロイシン(I)を含んでいる。位置35でのアミノ酸はプロリン(P)、アスパラギン(N)、グリシン(G)、トリプトファン(W)、アラニン(A)、グルタミン(Q)またはメチオニン(M)でないことが好ましい。
いくつかの実施形態では、当該Fc結合ドメインは位置42にロイシン(L)を含んでいる。位置42のアミノ酸はチロシン(Y)でないことが好ましい。
【0072】
いくつかの実施形態では、40C、42C、43C、46C、47C、49C、50C、51C、53Cまたは54Cに加えて、Fc結合ドメインは1I、11A、11S、35Rおよび42Lから成る群から選ばれたアミノ酸の位置のうちの2、3または4つを含んでいる。
【0073】
いくつかの実施形態では、位置1I、3A、6D、9Q、10Q、12A、13F、14Y、15E、16I、17L、18H、19L、20P、21N、22L、23T、24E、26Q、27R、28N、29A、30F、31I、32Q、33S、34L、36D、37D、38P、39S、41S、42L、45L、48A、52N、55Q、56A、57Pの少なくとも90%は、本発明のFc結合ドメイン群において同一である。位置2はAまたはDであり、位置4はKまたはQであり、位置5はHまたはFであり、位置7はKまたはEであり、位置8はD、AまたはEであり、位置11はA、S、IまたはEであり、位置25はDまたはEであり、位置35はRまたはIであり、位置40はV、T、QまたはCであり、位置42はLまたはCであり、位置43はE、SまたはCであり、位置44はI、VまたはLであり、位置46はC、AまたはGであり、位置47はEまたはCであり、位置49はK、QまたはCである、位置50はKまたはCであり、位置51はLまたはCであり、位置53はDまたはEまたはCであり、位置54はA、SまたはCであり、および位置58はPまたはKであることが好ましい。
【0074】
本発明のFc結合タンパク質は1つ以上のFc結合ドメインを含んでおり、Fc結合ドメインは配列番号2のアミノ酸配列またはそれと少なくとも89.5%同一のアミノ酸配列を含んでおり、またはそれから本質的に成り、またはそれから成る。配列番号2のアミノ酸配列は以下のアミノ酸配列である:
IX2AX4X5DX7X8QQX11AFYEILHLPNLTEX25QRNAFIQSLX35DDPSX40SLX43X44LX46X47AX49X50X51NX53X54QAPX58。
この配列で、位置1でのアミノ酸はIから選ばれまたは欠失され、位置2(X2)でのアミノ酸はAまたはDから選ばれまたは欠失され、位置3でのアミノ酸はAから選ばれるまたは欠失され、位置4(X4)でのアミノ酸はKまたはQから選ばれまたは欠失され、位置5(X5)でのアミノ酸はHまたはFから選ばれ、位置7(X7)でのアミノ酸はKまたはEから選ばれ、位置8(X8)でのアミノ酸はD、AまたはEから選ばれ、位置11(X11)でのアミノ酸はA、S、IまたはEから選ばれ、位置25(X25)でのアミノ酸はDまたはEから選ばれ、位置35(X35)でのアミノ酸はRまたはIから選ばれ、位置40(X40)でのアミノ酸はQ、T、VまたはCから選ばれ、位置42(X42)でのアミノ酸はLまたはCから選ばれ、位置43(X43)でのアミノ酸はE、SまたはCから選ばれ、位置44(X44)でのアミノ酸はI、LまたはVから選ばれ、位置46(X46)でのアミノ酸はG、AまたはCから選ばれ、位置47(X47)でのアミノ酸はEまたはCから選ばれ、位置49(X49)でのアミノ酸はK、QまたはCから選ばれ、位置50(X50)でのアミノ酸はKまたはCであり、位置51(X51)でのアミノ酸はLまたはCであり、位置53(X53)でのアミノ酸はD、EまたはCから選ばれ、位置54(X54)でのアミノ酸はAまたはSまたはCから選ばれ、位置57でのアミノ酸はPから選ばれまたは欠失され、および位置58(X58)でのアミノ酸はPまたはKから選ばれまたは欠失される。本発明のFc結合タンパク質は以下の位置のうちの1つまたは2つにシステインを有する:40、42、43、46、47、49、50、51、53および54。本発明のFc結合ドメイン用に選ばれる例としては、たとえば配列番号17~73および90~99が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
Fc結合タンパク質のC末端領域にシステインを有する結果としての高いアルカリ安定性
いくつかの実施形態では、実施例および図に示されるように、ヘリックス3中にシステインを有するFc結合タンパク質は、Fc結合タンパク質の驚くほど特に良好なアルカリ安定性を提供する。ヘリックス3中にシステインを有するFc結合タンパク質が、数時間のアルカリ処理の後でさえもIgに結合することができることは最も驚くべきことでありかつ予期し得ないことであった。Fc結合タンパク質のアルカリ安定性は、0.5MのNaOH中で少なくとも6時間のインキュベーション後のIg結合活性の損失量を比較することによって測定される(
図3を参照せよ。)。たとえば、cs26 46Cの結合能力は、0.5MのNaOHを用いた長時間(たとえば、36時間)のインキュベーション後の野生型ドメインCよりも少なくとも20%高く保持されている(
図4を参照せよ。)。
【0076】
免疫グロブリンへの親和力
本発明の全てのFc結合タンパク質は、好ましくは500nM未満、または100未満nM、さらにより好ましくは10nM以下の解離定数KDで免疫グロブリンに結合する。Fc結合タンパク質またはドメインの結合親和力を測定する方法、すなわち解離定数KDを測定する方法は、当業者に知られており、たとえば当技術分野で知られた以下の方法から選ばれることができる:表面プラズモン共鳴(SPR)に基いた技術、バイオ層干渉計使用法(BLI)、酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)、フローサイトメトリー、等温滴定熱量測定法(ITC)、分析的超遠心分離、放射免疫検定(RIAまたはIRMA)および増強化学発光(ECL)。これらの方法のいくつかは実施例にさらに記載される。
【0077】
典型的には、解離定数KDは20℃、25℃または30℃で測定される。特に指定のない限り、本明細書に記載されたKD値は表面プラズモン共鳴によって22℃±3℃で測定される。第1の様相の実施形態では、Fc結合タンパク質は、0.1nM~100nM、好ましくは0.1nM~50nMの範囲のヒトIgG1に対する解離定数KDを有する。
【0078】
多量体
本発明の1つの実施形態では、Fc結合タンパク質は1、2、3、4、5、6、7または8つ、好ましくは2、3、4、5または6つの互いに連結されたFc結合ドメインを含んでいる、すなわちFc結合タンパク質は、たとえば単量体、二量体、三量体、四量体、五量体または六量体であることができる。多量体は2、3、4つまたはさらにそれより多くの結合ドメインを含んでいてもよい。本発明の多量体は、一般に当業者に周知の組換えDNA技術によって人工的に生成された融合タンパク質である。
【0079】
いくつかの実施形態では、多量体はホモ多量体である、たとえば、Fc結合タンパク質の全てのFc結合ドメインのアミノ酸配列は同一である。
多量体は2つ以上のFc結合ドメインを含んでいてもよく、その場合に当該Fc結合ドメインは、好ましくは上記の配列を含んでおり、またはそれから本質的に成り、但しそれらがヘリックス3中に少なくとも1つのシステインを有することを条件とする。
たとえば、配列番号27または配列番号22が使用されて、本明細書の実施例1に記載されたホモ多量体融合構成物が生成される。たとえば配列番号32、配列番号35または配列番号25を参照せよ。
【0080】
いくつかの実施形態では、多量体はヘテロ多量体である。たとえば、少なくとも1つのアルカリ安定性のFc結合ドメインは、免疫グロブリンに結合しているタンパク質内の他のFc結合ドメインとは異なるアミノ酸配列を有する。
【0081】
リンカー
第1の様相のいくつかの実施形態では、1つ以上のFc結合ドメインは、互いに直接連結される。他の実施形態では、1つ以上のFc結合ドメインは、互いに1つ以上のリンカーによって連結される。これらの典型的な実施形態で好ましいのは、ペプチドリンカーである。これは、ペプチドリンカーが第1のFc結合ドメインを第2のFc結合ドメインに結合するアミノ酸配列であることを意味する。ペプチドリンカーは、第1のFc結合ドメインおよび第2のFc結合ドメインに、これらのドメインのC末端とN末端の間のペプチド結合によって結合され、それによって単一の線状のポリペプチド鎖を生成する。リンカーの長さおよび構成は、少なくとも1個と約30個までのアミノ酸の間で様々であってもよい。より具体的には、ペプチドリンカーは、1~30個のアミノ酸、たとえば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30個のアミノ酸の長さを有する。
【0082】
ペプチドリンカーのアミノ酸配列は、苛性条件およびプロテアーゼに対して安定していることが好ましい。リンカーは、Fc結合タンパク質の中のドメインの配座を不安定にするべきではない。周知なのは、小さいアミノ酸、たとえばグリシンおよびセリンを含んでいるまたはそれから成るリンカーである。リンカーはグリシンに富むことができる(たとえば、リンカー中の残基の50%超がグリシン残基であることができる。)。同様に好ましいのは、さらなるアミノ酸を含んでいるリンカーである。本発明の他の実施形態は、アラニン、プロリンおよびセリンから成るリンカーを含む。タンパク質の融合用の他のリンカーが当技術分野で知られており、それらが使用されることができる。いくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質の多量体は、Fc結合ドメインを結合する1つ以上のリンカーを含んでおり、それらは同一であるかまたは異なっている。
【0083】
固体担体へのコンジュゲーション
本発明のいくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質は固体担体にコンジュゲートされる。Fc結合ドメインのヘリックス3の中のシステインは、固体担体へのFc結合タンパク質の部位特異的な共有結合によるカップリングのための付加部位を含んでいる。位置40、42、43、46、47、49、50、51、53または54での少なくとも1つのシステインは、固相の反応基との、または固相とタンパク質、たとえばN-ヒドロキシスクシンイミド、ヨードアセトアミド、マレイミド、エポキシまたはアルケン基から選ばれたものとの間のリンカーとの特定の化学反応を可能にする。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態では、Fc結合タンパク質はまた、Nおよび/またはC末端に追加のアミノ酸残基を、たとえばNおよび/またはC末端にタグを有するまたは有しない追加の配列を含んでいてもよい。
【0085】
アフィニティー分離マトリックス
別の様相では、本発明は、第1の様相のFc結合タンパク質を含んでいるアフィニティー分離マトリックスに関する。
第2の様相の好ましい実施形態では、アフィニティー分離マトリックスは固体担体である。アフィニティー分離マトリックスは、本発明の少なくとも1つのFc結合タンパク質を含んでいる。
アフィニティーマトリックスは免疫グロブリンの分離に有用であり、洗浄工程の際に適用されるような高度にアルカリ性の条件の後でさえもIg結合特性を保持するべきである。マトリックスのそのような洗浄は、マトリックスの長期間の繰り返し使用にとって不可欠である。
【0086】
アフィニティークロマトグラフィー用の固体担体マトリックスは当技術分野で知られており、たとえば、アガロース(Agarose)およびアガロースの安定化誘導体(たとえば、セファロ-ス(Sepharose)6B、Praesto(商標)Pure;CaptivA(商標)、rPROTEIN A Sepharose Fast Flow、Mabselect(商標)、PrismA(商標)等)、セルロースまたはセルロースの誘導体、細孔性ガラス(たとえば、ProSep(商標)vA樹脂)、モノリス(たとえば、CIM(商標)モノリス)、シリカ、酸化ジルコニウム(たとえばCMジルコニアまたはCPG(商標))、酸化チタンまたは合成ポリマー(たとえば、ポリスチレン、たとえばPoros 50AまたはPoros MabCapture(商標)A樹脂、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリヒドロキシアルキルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド等)および様々な組成物のヒドロゲルが挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態では、担体はポリヒドロキシポリマー、たとえば多糖を含んでいる。担体に適した多糖の例は、寒天、アガロース、デキストラン、でんぷん、セルロース、プルラン等およびこれらの安定化変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
固体担体マトリックスのためのフォーマットは、任意の適当な周知の種類のものであることができる。本発明のFc結合タンパク質をカップリングさせるためのそのような固体担体マトリックスは、たとえば以下の1つを含んでいてもよい:カラム、毛細管、粒子、膜、フィルター、モノリス、ファイバー、パッド、ゲル、スライド、プレート、カセット、またはクロマトグラフィーに一般的に使用され当業者に知られている他のフォーマット。
【0088】
1つの実施形態では、マトリックスは実質的に球状の粒子から構成され、これはビーズとしても知られており、たとえばセファロ-ス(Sepharose)ビーズまたはアガロース(Agarose)ビーズがある。適当な粒子サイズは、5~500μm、たとえば10~100μm、たとえば20~80μm、たとえば40~70μmの直径の範囲にあってもよい。粒子形態のマトリックスは、充填床として、または懸濁形態で、たとえば膨張層として使用されることができる。代わりの実施形態では、固体担体マトリックスは膜、たとえばヒドロゲル膜である。いくつかの実施形態では、アフィニティー精製はマトリックスとしての膜を含み、それに第1の様相のFc結合タンパク質が共有結合で結合されている。固体担体はまた、カートリッジ内の膜の形態をしていることができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、アフィニティー精製は、第1の様相のFc結合タンパク質が共有結合で結合されている固体担体マトリックスを含んでいるクロマトグラフィーカラムを含む。本発明のFc結合タンパク質は、従来のカップリング技術によって適当な固体担体マトリックスに付加されてもよい。固体担体へのタンパク質リガンドの固定化の方法はこの分野では周知であり、標準的な技術および装置を使用してこの分野の当業者によって容易に実施される。
【0090】
Fc結合タンパク質の使用
第3の様相では、本発明は、第1の様相のFc結合タンパク質または第2の様相のアフィニティーマトリックスの、免疫グロブリンまたはその変異体のアフィニティー精製への使用に関する。すなわち、本発明のFc結合タンパク質はアフィニティークロマトグラフィーに使用される。いくつかの実施形態では、本発明のFc結合タンパク質は、本発明の第2の様相に記載された固体担体上に固定化される。
【0091】
免疫グロブリンのアフィニティー精製の方法
第4の様相では、本発明は、免疫グロブリンのアフィニティー精製の方法に関し、この方法は以下の工程を含む:(a)免疫グロブリンを含んでいる液体を準備する工程;(b)アフィニティー分離マトリックスにカップリングされた第1の様相の固定化されたFc結合タンパク質を含んでいる当該アフィニティー分離マトリックスを準備する工程;(c)当該液体と当該アフィニティー分離マトリックスとを接触させて、当該免疫グロブリンが当該固定化されたFc結合タンパク質に結合する工程;および(d)当該マトリックスから当該免疫グロブリンを溶出させ、それによって当該免疫グロブリンを含有する溶離液を得る工程。
【0092】
いくつかの実施形態では、アフィニティー精製の方法は、アフィニティー分離マトリックスからそこに非特異的に結合された一部または全ての分子を除去するのに十分な条件の下で、工程(c)と(d)との間で実施される1つ以上の洗浄工程をさらに含んでもよい。「非特異的に結合された」とは、本明細書に開示された本発明の対象である少なくとも1つの結合ドメインと免疫グロブリンとの間の相互作用に関与しない任意の結合を意味する。
本明細書に開示された使用および方法に適したアフィニティー分離マトリックスは、上に記載された実施形態によるおよび当業者に知られているマトリックスである。
【0093】
第4の様相のいくつかの実施形態では、工程(d)におけるマトリックスからの免疫グロブリンの溶出は、pHの変化および/または塩濃度の変化によって達成される。任意の適当な溶液が使用されることができ、たとえば、5以下のpHを有する溶液(たとえば、実施例9の表3を参照せよ。)によって、またはpH11以上を有する溶液によって溶出される。
【0094】
いくつかの実施形態では、アフィニティーマトリックスの効率的な洗浄および消毒のために、さらなる工程(f)が、好ましくはアルカリ性の液体、たとえば13~14のpHを有するアルカリ性の液体を使用する工程が加えられる。ある実施形態では、洗浄液は0.1~1.0MのNaOHまたはKOH、好ましくは0.25~0.5MのNaOHまたはKOHを含んでいる。本発明のFc結合タンパク質の高いアルカリ安定性の故に、このような強アルカリ性溶液が洗浄の目的のために使用されることができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、アフィニティーマトリックスは、少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、少なくとも60回、少なくとも70回、少なくとも80回、少なくとも90回または少なくとも100回、工程(a)~(e)の反復により再使用されることができ、任意的に、(a)~(e)が少なくとも10回、少なくとも20回、少なくとも30回、少なくとも40回、少なくとも50回、少なくとも60回、少なくとも70回、少なくとも80回、少なくとも90回または少なくとも100回、繰り返されることができる。
【0096】
一般に、アフィニティー精製の方法を実施するのに適した条件は当業者に周知である。いくつかの実施形態では、開示されたFc結合ドメインを含む、アフィニティー精製の開示された使用および方法は、3.5以上の(たとえば約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0または約6.5の)pHでFc含有タンパク質の少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%または少なくとも約99%の溶出を提供してもよい。
【0097】
核酸分子
第5の様相では、本発明は、上に開示された任意の実施形態のFc結合タンパク質をコードする核酸分子、好ましくは単離された核酸分子に関する。1つの実施形態では、本発明は核酸分子を含んでいるベクターに関する。ベクターとは、タンパク質をコードする情報を宿主細胞中に転移するために使用されることができる任意の分子または部分(たとえば、核酸、プラスミド、バクテリオファージまたはウィルス)を意味する。1つの実施形態では、ベクターは発現ベクターである。
【0098】
第6の様相では、本発明は、上で開示された核酸またはベクターを含んでいる発現システムに関し、たとえば原核生物の宿主細胞、例として大腸菌(E. Coli)、または真核生物の宿主、例として酵母サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)もしくはピキア・パストリス(Pichia pastoris)、または哺乳類細胞、例としてCHO細胞に関する。
【0099】
Fc結合タンパク質を産生する方法
第7の様相では、本発明は、以下の工程を含む本発明のFc結合タンパク質を産生する方法に関する:(a)当該Fc結合タンパク質を得るために、この結合タンパク質の発現に適した条件の下で第6の様相の宿主細胞を培養する工程;および(b)任意的に当該Fc結合タンパク質を分離する工程。原核生物または真核生物の宿主の培養に適した条件は当業者に周知である。
【0100】
本発明のFc結合分子は、多くの従来型で周知の技術、たとえば単純な有機合成戦略、固相支援合成技術または市販の自動シンセサイザーのいずれかによって調製されてもよい。他方において、本発明のFc結合分子は、従来の組み換え技術によって単独でまたは従来の合成技術との組み合わせで調製されてもよい。
【0101】
本発明の1つの実施形態は、上で詳細に説明された本発明によるFc結合タンパク質を調製する方法に関し、当該方法は以下の工程を含む:(a)上に定義されたFc結合タンパク質をコードする核酸を準備する工程;(b)当該核酸を発現ベクターに導入する工程;(c)当該発現ベクターを宿主細胞に導入する工程;(d)宿主細胞を培養する工程;(e)Fc結合タンパク質が発現される培養条件に宿主細胞を付する工程、それによって(e)上に記載されたFc結合タンパク質を産生する工程;任意的に、(f)工程(e)で産生されたタンパク質を単離する工程;および(g)任意的に、上に記載された固体マトリックスに当該タンパク質をコンジュゲートする工程。
本発明のさらなる実施形態では、Fc結合タンパク質の産生は無細胞の生体外の転写/翻訳によって実施される。
[実施例]
【0102】
以下の実施例は、本発明のさらなる例示のために提供される。しかし、本発明はそれに限定されず、以下の実施例は上の記載に基いて本発明が実施可能であることを単に示すに過ぎない。
【実施例1】
【0103】
Fcに結合する人工モザイクタンパク質の産生
Fc結合タンパク質が、天然型のタンパク質Aのドメイン(E、B、D、A、C、Z)のシャッフリングプロセスによって初めに生成された。より詳細には、本明細書で理解されるシャッフリングプロセスとは、1組の同一でない既知のアミノ酸配列から出発して人工的なアミノ酸配列をもたらす組み立てプロセスである。シャッフリングプロセスは以下の工程から構成される:a)5つの天然型のタンパク質AのドメインE、B、D、AおよびCならびにタンパク質A変異体ドメインZの配列を準備する工程;およびb)当該配列のアラインメント;c)コンピューター内での統計的断片化によって、組み換えられた部分配列を同定する工程;そして次にd)様々な断片から新規な人工的な配列を組み立てて、モザイク産物、すなわち新規かつ人工的なアミノ酸配列を生成する工程。工程c)で生成された断片は任意の長さのもの、たとえば断片化された親配列がnの長さを有していた場合、断片は長さが1~n-1であった。
【0104】
モザイク産物中のアミノ酸の相対的位置は、出発のアミノ酸配列に関して維持された。位置Q9、Q10、A12、F13、Y14、L17、P20、L22、Q26、R27、F30、I31、Q32、S33、L34、D36、D37、P38、S39、S41、L45、E47、A48、K50、L51、Q55、A56、P57の少なくとも90%は、たとえばIB14、IB27、IB24、IB26、IB28、IB20(配列番号78~83)の人工的なモザイクアミノ酸配列と天然型のタンパク質Aドメインまたはタンパク質Aドメイン変異体との間で同一である。モザイクドメインおよび天然型のタンパク質Aドメインまたはタンパク質Aドメイン変異体は、アミノ酸残基7~19からのヘリックス1、アミノ酸残基23~37からのヘリックス2およびアミノ酸残基40~55からのヘリックス3を有する58個のアミノ酸の3つのヘリックス束によって特徴付けられる。たとえば人工のFc結合ドメインIB14、IB26およびIB27の全アミノ酸配列は、それが天然型のタンパク質AドメインまたはドメインZのいずれかの全アミノ酸配列と85%以下の同一性である点において人工的である。最初の人工的なFc結合タンパク質が生成された後に、いくつかの場合には、このタンパク質はアミノ酸配列の部位特異的なランダム化によってさらに改変されて、生化学的な特性がさらに改変された。このさらなる改変は、個々のアミノ酸残基の部位飽和突然変異生成によって導入された。
【0105】
人工的なFc結合タンパク質用の遺伝子は当業者に知られた標準方法を使用して合成され、大腸菌(E.Coli)発現ベクター中にクローンが作られた。DNAシークエンシングが使用されて、挿入された断片の正確な配列が検証された。
多量体Fc結合タンパク質を生成するために、2つまたは3つの同一のFc結合ドメインが遺伝子工学的に融合された。
特定の精製については、任意的に、strepタグ(WSHPQFEK;配列番号89)がFc結合タンパク質のC末端に付加された。
【実施例2】
【0106】
変異体を生成する突然変異生成
部位特異的な突然変異生成については、Q5(商標)部位特異的突然変異生成キット(NEB;カタログ番号E0554S)が製造業者の取扱説明書に従って使用された。PCRが、各特定の置換のそれぞれをコードするオリゴヌクレオチドおよびテンプレートを含有するプラスミドを用いて実施された。産物がライゲーションされ、電気穿孔法によって大腸菌(E.Coli)XL2-ブルー細胞(Stratagene社)中に形質転換された。単一コロニーが単離され、DNAシークエンシングが挿入物含有クローンについて使用されて、正確な配列が検証された。
【0107】
いくつかの点変異の組み合わせがGeneArt(商標)Strings(商標)合成法(Thermo Fisher Scientific社)によって生成された。StringsのDNA断片は精製されたPCR産物に相当し、pET28aベクターの派生物中にクローンされた。ライゲーション産物が電気穿孔法によって大腸菌(E.Coli)XL2-ブルー細胞(Stratagene社)中に形質転換された。単一コロニーがPCRによってスクリーニングされて、正しいサイズの挿入物を含有する構築物が同定された。DNAシークエンシングが使用されて、正確な配列が検証された。点変異を有するいくつかの変異体が、たとえば
図1に示される。
【実施例3】
【0108】
Fc結合タンパク質の発現
BL21(DE3)コンピテント細胞が、Fc結合タンパク質をコードする発現プラスミドを用いて形質転換された。細胞は選択的寒天プレート(カナマイシン)上に広げられ、37℃で一晩インキュベートされた。予備培養物は100mlの2×YT培地中で単一コロニーから接種を受けて、ラクトースおよび消泡剤を含んでいない150μg/mlのカナマイシンで補給された、バッフル付き1リットルのエルレンマイヤーフラスコ中の従来型の軌道シェーカーの中で160rpm、37℃で16時間培養された。OD600の計測値は6~12の範囲にあるはずである。主培養物は、150μg/mlのカナマイシンで補給された、1リットルの厚肉エルレンマイヤーフラスコ内の400mlのスーパーリッチ培地(変性H15培地2%のグルコース、5%の酵母エキス、0.89%のグリセリン、0.76%のラクトース、250mMのMOPS、202mMのTRIS、pH7.4、消泡剤SE15)中で、0.5の調整後の開始時OD600計測値を有する先の一晩培養物から接種を受けた。培養物は共鳴音響ミキサー(RAMbio)に転送され、20×g、37℃でインキュベートされた。通気はOxy-Pumpストッパーによって促進された。組み換えタンパク質の発現が、グルコースを代謝させ、引き続いてラクトースを細胞内に進入させることによって誘導された。所定の時点でOD600が測定され、5/OD600に調整されたサンプルが抜き出され、ペレット化され、-20℃で凍結された。細胞はおよそ24時間にわたり一晩増殖させられて、約45~60の最終OD600に達した。バイオマスを収集するために、細胞は20℃で10分間、16000×gで遠心分離された。ペレットは秤量(湿潤重量)され、pHが上清中で測定された。細胞はプロセッシングされるまで-20℃で貯蔵された。
【実施例4】
【0109】
Fc結合タンパク質の発現および溶解度のSDS-PAGE分析
発酵中に採取されたサンプルが、300μlの抽出緩衝液(0.2mg/mlのリゾチーム、0.5×のBugBuster、7.5mMのMgSO4、40UのBenzonaseで補給されたPBS)中に再懸濁され、700rpm、室温で15分間、サーモミキサー中の撹拌によって溶解された。可溶性タンパク質が遠心分離(16000×g、2分間、室温)によって不溶性タンパク質から分離された。上清(可溶性画分)が抜き出され。ペレット(不溶性画分)が同等量の尿素緩衝液(8Mの尿素、0.2MのTris、2 mMのEDTA、pH8.5)の中に再懸濁された。50μlが可溶性および不溶性画分の両方から採取され、12μlの5×サンプル緩衝液とともに5μlの0.5MのDTTが添加された。サンプルは95℃で5分間沸騰させられた。最後に、8μlのこれらのサンプルが、製造業者の推奨条件に従って稼働されるNuPage Novex 4~12%のBis-TrisSDSゲルにかけられ、クーマシィーで染色された。全てのFc結合タンパク質の高いレベルの発現が、選択された時間内の最適化された条件の下で見出された(データは示されていない。)。発現されたFc結合タンパク質はすべて、SDS-PAGEによって95%超まで可溶性であった。
【実施例5】
【0110】
Fc結合タンパク質の精製
Fc結合タンパク質が、C末端StrepタグII(WSHPQFEK)を用いて大腸菌(E.Coli)の可溶性画分中で発現された。細胞は2つの凍結/溶解サイクルによって溶解され、精製工程がStrep-Tactin(商標)樹脂を用いて製造業者(IBA社、独国、ゲッチンゲン)の取扱説明書に従って実施された。ジスルフィドの形成を回避するために、緩衝液には1mMのDTTが補給された。
【0111】
あるいは、Fc結合タンパク質は、C末端StrepタグIIを用いて大腸菌(E.Coli)の可溶性画分中で発現された。細胞は細胞破砕緩衝液の中に再懸濁され、2つのサイクルについて1kバールで一定の細胞破砕システム(ユニットF8B、Holly Farm Business Park社)によって溶解された。精製工程は、製造業者の取扱説明書に従ってAKTAxpressシステム(GE Healthcare社)を使用して、Strep-Tactin樹脂(IBA社、独国、ゲッチンゲン)および追加のゲルロ過(Superdex 75 16/60;GE Healthcare社)を用いて実施された。ジスルフィドの形成を回避するために、Strep-Tactin精製用の緩衝液は1mMのDTTを補給され、クエン酸塩緩衝液(20mMのシトラート、150mMのNaCl、pH6および0)がゲルロ過のためのランニング緩衝液として使用された。
【実施例6】
【0112】
Fc結合タンパク質は高い親和性でIgGに結合する(ELISAによる測定結果)
酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)を使用して、IgG1またはIgG2またはIgG4へのFc結合タンパク質の親和性が測定された。IgG1またはIgG2またはIgG4含有抗体(たとえば、IgG1についてCetuximab、IgG2についてPanitumumabまたはIgG4についてNatalizumab)が、96ウェルNunc MaxiSorb ELISAプレート(2μg/ml)上に固定化された。4℃で16時間のインキュベーションの後、ウェルはPBST(PBS+0.1%のTween20)で3回洗われ、ウェルはPBS中3%のBSAでブロックされた(室温で2時間)。陰性対照物は、BSAでのみブロックされたウェルであった。ブロッキングの後、ウェルはPBSTで3回洗われ、Fc結合タンパク質とともに(PBST中で)室温で1時間インキュベートされた。インキュベーションの後、ウェルはPBSTで3回洗われ、引き続いて、Strep-Tactin-HRP(1:10000)(IBA社、独国、ゲッチンゲン)を用いて室温で1時間インキュベートされた。その後、ウェルはPBSTで3回およびPBSで3回洗われた。ホースラディシュ・ペルオキシダーゼの活性が、TMB-Plus基質を加えることにより視覚化された。30分後、反応は0.2MのH2SO4を加えることにより停止され、吸光度が450nmで測定された。たとえば、ELISAによって測定されて、ヒトIgG1についてのKDはIB14の場合、4.9nM;ドメインZの場合、3.4nM;ドメインBの場合、3.1nM;およびドメインCの場合、2.8nMである。
【実施例7】
【0113】
Fc結合タンパク質は高い親和性でIgGに結合する(表面プラズモン共鳴実験による測定結果)
CM5センサーチップ(GE Healthcare社)がSPRランニング緩衝液で平衡化された。表面に露出したカルボキシル基がEDCとNHSとの混合物を通されることによって活性化されて、反応性エステル基が生成された。700~1500RUのオンリガンドがフローセル上に固定化され、オフリガンドは別のフローセル上に固定化された。リガンド固定化後のエタノールアミンの注入が、非共有結合で結合されたFc結合タンパク質を除去する。リガンドが結合した後、検査対象タンパク質は表面に蓄積され、屈折率を増加させる。屈折率のこの変化はリアルタイムで測定され、時間に対する応答または共鳴単位(RU)としてプロットされた。検査対象物は、適当な流量(μl/分)による連続希釈法でチップにかけられた。各実験の後、チップ表面は再生緩衝液で再生され、ランニング緩衝液で平衡化された。対照サンプルはマトリックスに適用された。再生および再平衡は、先に言及されたように実施された。結合の検討は、25℃でBiacore(商標)3000(GE Healthcare社)を使用することによって実施され、データ評価は、Langmuir 1:1モデル(RI=0)を使用して、製造業者によって提供されたBIAevaluation 3.0ソフトウェアによって行われた。評価された解離定数(KD)はオフターゲットに対して標準化され、ヒトIgG1-Fc、Cetuximab(IgG1)、Natalizumab(IgG4)またはPanitumomab(IgG2)についての異なる人工的Fc結合タンパク質のKD値が表1に示される。
【0114】
【実施例8】
【0115】
エポキシ活性化マトリックス(セファロ-ス6B)にカップリングされたFc結合タンパク質
精製されたFc結合タンパク質が、製造業者の取扱説明書(カップリング条件:pH9.0、一晩、エタノールアミンでの5時間のブロッキング)に従ってエポキシ活性化マトリックス(セファロ-ズ6B、GE社カタログ番号17-0480-01)にカップリングされた。CetuximabがIgGサンプル(5mg;1mg/mlのマトリックス)として使用された。Cetuximabは、固定化されたFc結合タンパク質を含んでいるマトリックスに飽和量で適用された。マトリックスは100mMのグリシン緩衝液、pH2.5で洗われ、固定化されたIgG結合タンパク質に結合されたCetuximabが溶出された。溶出されたIgGの濃度は、Fc結合タンパク質の結合活性を決定するために、BLIによって測定された(Cetuximabを標準として、タンパク質Aオクテットセンサーを用いた定量化)。
【0116】
図2Aは、IB14(配列番号78)および位置43、46、47、50または58にシステインを有するIB14変異体(それぞれ、配列番号74~77)のカップリング効率を示す。位置43、46、47、50または58にCysを有する全てのIB14変異体のカップリング効率はIB14についてのものよりも高かった。
図2Bは、cs14 46C(配列番号18)またはcs14 43C(配列番号17)のエポキシ活性化されたセファロ-ス6Bマトリックスへのカップリング量を、C末端Cysを有するcs14と比較して、および市販のタンパク質Aと比較して示す。カップリング条件は、450μM、4500nモル/ml、pH9、30℃で2時間または18時間、1mMのTCEP、1Mの(NH
4)
2SO
4であった。正味のカップリング割合のほんのわずかな変化が2時間と18時間との間で観察された。カップリング割合はnモル(ドメイン)/ml単位で示される。
【実施例9】
【0117】
エポキシ活性化されたマトリックスにカップリングされたFc結合タンパク質のアルカリ安定性
カラムは、室温(22℃±3℃)で0時間、6時間、18時間、24時間、36時間または72時間、0.5MのNaOHでインキュベートされた。固定化されたタンパク質のIg結合活性が、0.5MのNaOHでのインキュベーション前後で分析された。NaOH処理前の固定化されたタンパク質のIg結合活性が100%と定義された。
【0118】
6時間の連続的な0.5M NaOH処理後の残存IgG結合活性が、IB14変異体(配列番号74~77)について
図3Aに示される。
図3Bは、cs14 46C、cs14 43C、cs14および市販のタンパク質Aについて0時間、18時間または72時間の連続的な0.5M NaOH処理後の苛性安定性を示す。これらのタンパク質は30℃で2時間エポキシセファロ-スに固定化された(4500nモル/ml)。動的結合能力DBC10%が5分間の滞留時間で測定された。Cs14 46Cは、19.5mg/mlという72時間の連続的な0.5M NaOH処理後の最も高いDBC10%を示し、これは市販のタンパク質Aについて測定された値よりも20%超大きい。
図4は、cs26 46C(配列番号27)についての6、24および36時間の連続的な0.5M NaOH処理後の残存結合能力を、cs26(配列番号7)と比較して、および野生型ドメインC(配列番号84)と比較して示す。Cs26 A46C(単量体または二量体)の結合能力は、少なくとも36時間の0.5M NaOHのインキュベーションの後に20%超残存している。表2を参照せよ。
【0119】
【実施例10】
【0120】
アガロースに基いたクロマトグラフィービーズPraesto(商標)Pure45にカップリングされたFc結合タンパク質
精製されたFc結合タンパク質が、製造業者の取扱説明書(カップリング条件:pH9.5、3時間、35℃、4.1MのNaSO4、エタノールアミンを用いた一晩のブロッキング)に従ってアガロースに基いたクロマトグラフィービーズ(Praesto(商標)Pure45、Purolite;カタログ番号PR01262-166)にカップリングされた。多クローン性のヒトIgG Gammanorm(商標)(Ocatpharm社)が、IgGサンプル(濃度2.2mg/ml)として使用された。多クローン性のヒトIgGサンプルは、固定化されたFc結合タンパク質を含んでいるマトリックスに飽和量で適用された。マトリックスは100mMのクエン酸塩緩衝液、pH2.0で洗われて、固定化されたFc結合タンパク質に結合されたヒトIgGが溶出された。動的結合能力が、cs26 46C(モノマーおよび二量体;配列番号27、32)について、組み換え野生型タンパク質Aと比較されて、6分間の滞留時間、10%破過で注入されたヒトIgGの質量によって測定された。
図5は、cs26 46Cが組換えタンパク質Aよりも6分間の滞留時間で61.2%高いDBCを有することを示す。
【実施例11】
【0121】
アガロースに基いたクロマトグラフィービーズPraesto(商標)Pure45および/またはPure85にカップリングされたFc結合タンパク質からのIgGの溶出
精製されたFc結合タンパク質(cs26 46C)が、製造業者の取扱説明書に従ってアガロースに基いたクロマトグラフィービーズ(Praesto(商標)Pure45または85)にカップリングされた。多クローン性のヒトIgG Gammanorm(商標)および単クローン性IgG1抗体Cetuximabが、IgGサンプル(濃度2.2mg/ml)として使用され、DBC10%まで仕込まれた。多クローン性のヒトIgGサンプルは、固定化されたFc結合タンパク質を含んでいるマトリックスに飽和量で適用された。2段階の工程では、マトリックスは最初に100mMのクエン酸塩緩衝液、pH3.5で、次に100mMのクエン酸塩緩衝液、pH2.0で洗われて、固定化されたFc結合タンパク質に結合されたヒトIgGが溶出された。表3は、cs26 46CとカップリングされたビーズからpH3.5で、結合されたIgGのほとんど100%が溶出されたことを示す。
【0122】
【配列表】