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特許73558011,4-ジエン系の部位特異的同位体標識
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】1,4-ジエン系の部位特異的同位体標識
(51)【国際特許分類】
   C07B 59/00 20060101AFI20230926BHJP
   C07C 69/587 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 67/30 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 33/02 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 29/00 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 11/21 20060101ALI20230926BHJP
   C07C 5/00 20060101ALI20230926BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20230926BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20230926BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C07B59/00
C07C69/587
C07C67/30
C07C33/02
C07C29/00
C07C11/21
C07C5/00
B01J31/24 Z
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021198937
(22)【出願日】2021-12-08
(62)【分割の表示】P 2018526719の分割
【原出願日】2016-09-09
(65)【公開番号】P2022046501
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】62/258,993
(32)【優先日】2015-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510247526
【氏名又は名称】レトロトップ、 インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RETROTOPE, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィドヴィチ、ドラゴスラヴ
(72)【発明者】
【氏名】シチェピノフ、ミハイル、セルゲーエヴィチ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-528833(JP,A)
【文献】特表2008-538117(JP,A)
【文献】国際公開第2004/060831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 59/
C07C 69/
C07C 67/
C07C 33/
C07C 29/
C07C 11/
C07C 5/
B01J 31/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジュウテリウムで多価不飽和脂質を部位特異的に修飾するための方法であって、
下記式から選択されるルテニウム触媒の存在下で多価不飽和脂質を O又はDO-C 1-10 アルキルと反応させることによって、
【化1】
1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位にジュウテリウム置換を有する重水素化多価不飽和脂質を得る工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ルテニウム触媒が、置換又は非置換シクロペンタジエニルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ルテニウム触媒が、非置換シクロペンタジエニルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ルテニウム触媒が、下記式で表される、請求項1に記載の方法。
【化2】
【請求項5】
前記多価不飽和脂質が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸チオエステル及び脂肪酸アミドらなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
出願データシートにおいて特定されたいずれかのおよびすべての優先権主張またはそれらに対する任意の補正が、参照により本明細書に援用される。本願は、2015年11月23日に出願された米国仮出願第62/258,993号の利益を主張する。上述の出願は、その全体が参照により本明細書中に援用され、明確に本明細書の一部を成す。
【0002】
同位体的に修飾された多価不飽和脂質、同位体的に修飾された多価不飽和脂質の混合物、そのような化合物または混合物を作製する方法、そのような化合物または混合物を含む薬学的組成物および医薬、ならびに疾患、障害または状態を処置、予防、軽減または診断するためにそのような化合物または混合物を使用する方法が提供される。同位体的に修飾された1,4-ジエン系、例えば、多価不飽和脂肪酸(「PUFA」)も開示される。
【背景技術】
【0003】
酸化的損傷は、ミトコンドリア病、神経変性疾患、神経変性筋疾患、網膜疾患、エネルギー処理疾患(energy processing disorders)、腎疾患、肝疾患、脂血症、心疾患、炎症および遺伝性障害を含むがこれらに限定されない多種多様の疾患に関与している。
【0004】
酸化ストレスに関連する疾患の数は、数多く、多様であるが、細胞内での正常な酸化還元状態の乱れによって酸化ストレスが引き起こされることは十分に確立されている。過酸化物およびフリーラジカルなどの活性酸素種(「ROS」)の日常的な生成と解毒との不均衡が、細胞構造および細胞機構への酸化的損傷をもたらし得る。通常の条件下では、好気性生物におけるROSの潜在的に重要な供給源は、正常な酸化的呼吸におけるミトコンドリアからの活性酸素の漏出である。さらに、マクロファージおよび酵素反応も、細胞内のROSの発生に寄与することが知られている。細胞およびその内部の細胞小器官は、脂質膜に包まれているので、ROSは、容易に膜成分と接触し、脂質酸化を引き起こすことができる。最終的には、このような酸化的損傷は、活性化酸素、酸化膜の成分または他の酸化細胞成分との直接および間接的な接触を介して、膜および細胞の中の他の生体分子(例えば、タンパク質およびDNA)に伝えられることがある。したがって、どのようにして酸化的損傷が細胞全体に伝播し、内部成分の移動性および細胞経路の相互連絡をもたらし得るかは容易に想像することができる。
【0005】
脂質を形成する脂肪酸は、生細胞の主要な成分の1つとしてよく知られている。したがって、それらは、数多くの代謝経路に関与し、様々な病態において重要な役割を果たす。多価不飽和脂肪酸(「PUFA」)は、脂肪酸の重要なサブクラスである。必須栄養素は、直接、または変換を介して、必要不可欠な生物学的機能を果たす食物成分であって、内因的に産生されないかまたは必要量を賄うほど大量には産生されない食物成分である。恒温動物にとって、2つの厳密に必須のPUFAは、リノール酸(cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸;(9Z,12Z)-9,12-オクタデカジエン酸;「LA」;18:2;n-6)およびアルファ-リノレン酸(cis,cis,cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸;(9Z,12Z,15Z)-9,12,15-オクタデカトリエン酸;「ALA」;18:3;n-3)であり、以前はビタミンFとして知られていた(Cunnane SC.Progress in Lipid Research 2003;42:544-568)。LAは、さらなる酵素的不飽和化および伸長によって、n-6のより高度なPUFA、例えば、アラキドン酸(AA;20:4;n-6)に変換されるのに対して;ALAは、エイコサペンタエン酸(EPA;20:5;n-3)およびドコサヘキサエン酸(DHA;22:6;n-3)を含むがこれらに限定されない、より高度なn-3系列を生じる(Goyens PL.et al.Am.J.Clin.Nutr.2006;84:44-53)。ある特定のPUFAまたはPUFA前駆体の本質的な性質のために、それらの欠乏症の多くの例が知られており、これらは、病状に関連していることが多い。さらに、多くのPUFAサプリメントが、店頭で入手可能であり、ある特定の病気に対して有効性が証明されている(例えば、米国特許第7,271,315号明細書および米国特許第7,381,558号明細書を参照のこと)。
【0006】
PUFAは、最適な酸化的リン酸化を行うために必要な適切な流動性をミトコンドリア膜に付与する。PUFAはまた、酸化ストレスの開始および伝播において重要な役割を果たす。PUFAは、元の事象を増幅する連鎖反応を通じてROSと反応する(Sun M,Salomon RG,J.Am.Chem.Soc.2004;126:5699-5708)。しかしながら、高レベルの脂質ヒドロペルオキシドの非酵素的形成は、いくつかの有害な変化をもたらすことが知られている。実際に、コエンザイムQ10は、PUFAの過酸化を介してPUFAの毒性の増大、および得られる生成物の毒性に関係している(Do TQ et al,PNAS USA 1996;93:7534-7539)。そのような酸化生成物は、それらの膜の流動性および透過性に悪影響を及ぼし;それらは、膜タンパク質の酸化をもたらし;そしてそれらは、高度に反応性の多数のカルボニル化合物に変換され得る。後者は、アクロレイン、マロン酸ジアルデヒド、グリオキサール、メチルグリオキサールなどの反応性種を含む(Negre-Salvayre A,et al.Brit.J.Pharmacol.2008;153:6-20)。
【0007】
ROSに関連する損傷を未然に防ぐ論理的な方法は、抗酸化剤でそれらを中和することであるだろう。しかしながら、これまでの抗酸化剤での治療の成功は、限定的である。このことは、いくつかの理由に起因し得、それらの理由としては、(1)飽和に近い量の抗酸化剤が生細胞に既に存在していること、およびROSによってもたらされる損傷の確率的性質、(2)防御機構の細胞シグナル伝達およびホルミシス(順応性)のアップレギュレーションにおけるROSの重要性、(3)ビタミンEなどの一部の抗酸化剤の酸化促進の性質、(4)もはやほとんどの抗酸化剤でクエンチできないPUFA過酸化産物の非ラジカル性質が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,271,315号明細書
【文献】米国特許第7,381,558号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Cunnane SC.Progress in Lipid Research 2003;42:544-568
【文献】Goyens PL.et al.Am.J.Clin.Nutr.2006;84:44-53
【文献】Sun M,Salomon RG,J.Am.Chem.Soc.2004;126:5699-5708
【文献】Do TQ et al,PNAS USA 1996;93:7534-7539
【文献】Negre-Salvayre A,et al.Brit.J.Pharmacol.2008;153:6-20
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
いくつかの実施形態は、1,4-ジエンをビス-アリル位において酸化して過酸化物を得る工程;および酸化されたビス-アリル位に同位体を挿入する工程を含む、同位体的に修飾された1,4-ジエン系を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態において、1,4-ジエンのビス-アリル位の酸化には、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはルテニウムから選択される遷移金属が利用される。他の実施形態において、その遷移金属は、ロジウム(II)金属またはルテニウム(III)金属である。いくつかの実施形態において、酸化されたビス-アリル位に同位体を挿入する工程は、そのビス-アリル位において過酸化物を還元して、アルコールを得る工程をさらに含む。他の実施形態では、アマルガム化アルミニウムまたはホスフィンが、過酸化物を還元する。いくつかの実施形態において、酸化されたビス-アリル位に同位体を挿入する工程は、アルコールを同位体と交換する工程をさらに含む。他の実施形態において、重水素化トリブチルスズが、アルコールをジュウテリウムと交換する。
【0011】
いくつかの実施形態は、アルコールをビス-アリル位において酸化して、ケトンを得る工程;およびそのケトンを還元して、そのビス-アリル位に、同位体で置換されたメチレン基を得る工程を含む、同位体的に修飾された1,4-ジエン系を調製する方法を提供する。他の実施形態において、ケトンの還元には、Wolff-Kishner反応条件が利用される。
【0012】
いくつかの実施形態は、1,4-ジエンと金属との間で1つ以上のπ-アリル錯体を形成する工程;および1種以上の同位体を1つ以上のビス-アリル位に挿入する工程を含む、同位体的に修飾された1,4-ジエン系を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態において、その金属は、Ni、PdおよびIrから選択される。他の実施形態において、1つ以上のπ-アリル錯体は、6員環として形成される。いくつかの実施形態において、2つ以上のπ-アリル錯体が、6員環として形成される。他の実施形態において、同位体は、1つ以上のジュウテリウム原子である。
【0013】
いくつかの実施形態において、上記化学転換のうちのいずれか1つ以上が、1つ以上のビス-アリル位に1種以上の同位体を導入するために繰り返され得る。
【0014】
いくつかの実施形態において、1,4-ジエン系は、PUFAである。他の実施形態において、PUFAは、式1A、1Bまたは1Cの化合物であり、式中、Rは、C-Cアルキル基であり、C-Cの「a」および「b」は、1、2、3、4または5のうちのいずれか1つ以上である。
【化1】
【0015】
いくつかの実施形態において、PUFAは、式1Aの化合物であり、Rは、C-Cアルキル基である。
【化2】
【0016】
いくつかの実施形態は、多価不飽和脂質を同位体で部位特異的に修飾するための方法に関し、その方法は、遷移金属系触媒の存在下で多価不飽和脂質を同位体含有物質と反応させることによって、1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位に同位体を有する同位体的に修飾された多価不飽和脂質を得る工程を含み、その同位体含有物質は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の同位体を含む。
【0017】
いくつかの実施形態は、多価不飽和脂質混合物を同位体で部位特異的に修飾するための方法に関し、その方法は、遷移金属系触媒の存在下で多価不飽和脂質混合物を同位体含有物質と反応させることによって、1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位に同位体を有する同位体的に修飾された多価不飽和脂質混合物を得る工程を含み、その同位体含有物質は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の同位体を含む。
【0018】
いくつかの実施形態は、主に1つ以上のアリル部位に同位体を有する1つ以上の同位体的に修飾された多価不飽和脂質を含む組成物に関し、その同位体は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される。
いくつかの実施形態は、以下の態様を含む。
[1]
多価不飽和脂質を同位体で部位特異的に修飾するための方法であって、該方法は、
遷移金属系触媒の存在下で多価不飽和脂質を同位体含有物質と反応させることによって、1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位に該同位体を有する同位体的に修飾された多価不飽和脂質を得る工程を含み、該同位体含有物質は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の同位体を含む、方法。
[2]
前記多価不飽和脂質が、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸チオエステル、脂肪酸アミド、脂肪酸模倣物および脂肪酸プロドラッグからなる群より選択される、[1]に記載の方法。
[3]
前記多価不飽和脂質が、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記多価不飽和脂質が、少なくとも3つの炭素-炭素二重結合を有する、[1]~[3]のいずれか1に記載の方法。
[5]
前記多価不飽和脂肪酸が、式(IA):
【化3】
(式中、
は、HおよびC1-10アルキルからなる群より選択され;
は、-OH、-OR、-SR、ホスフェートおよび-N(Rからなる群より選択され;
各Rは、独立して、C1-10アルキル、C2-10アルケン、C2-10アルキン、C3-10シクロアルキル、C6-10アリール、4~10員のヘテロアリールおよび3~10員の複素環式環からなる群より選択され、各Rは、置換されるか、または非置換であり;
nは、1~10の整数であり;
pは、1~10の整数である)
に記載の構造を有する、[1]~[4]のいずれか1に記載の方法。
[6]
前記多価不飽和脂質が、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸およびオメガ-9脂肪酸からなる群より選択される、[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
[7]
前記多価不飽和脂質が、リノール酸およびリノレン酸からなる群より選択される、[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
[8]
前記多価不飽和脂質が、ガンマリノレン酸、ジホモガンマリノレン酸、アラキドン酸およびドコサテトラエン酸からなる群より選択される、[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
[9]
前記多価不飽和脂肪酸エステルが、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドからなる群より選択される、[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
[10]
前記脂肪酸エステルが、エチルエステルである、[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
[11]
前記同位体的に修飾された多価不飽和脂質が、1つ以上のビス-アリル部位にジュウテリウムを有する重水素化多価不飽和脂質である、[1]~[10]のいずれか1に記載の方法。
[12]
前記同位体的に修飾された多価不飽和脂質が、すべてのビス-アリル部位にジュウテリウムを有する重水素化多価不飽和脂質である、[1]~[11]のいずれか1に記載の方法。
[13]
前記同位体的に修飾された多価不飽和脂質が、1つ以上のモノ-アリル部位にジュウテリウムを有する重水素化多価不飽和脂質である、[1]~[12]のいずれか1に記載の方法。
[14]
前記同位体的に修飾された多価不飽和脂質が、ビス-アリル部位に50%を超える重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である、[1]~[13]のいずれか1に記載の方法。
[15]
前記同位体的に修飾された多価不飽和脂質が、モノ-アリル部位に30%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である、[1]~[14]のいずれか1に記載の方法。
[16]
前記遷移金属系触媒が、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ルテニウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される遷移金属を含む、[1]~[15]のいずれか1に記載の方法。
[17]
前記遷移金属系触媒が、ルテニウム触媒である、[16]に記載の方法。
[18]
前記遷移金属系触媒が、式(IIA)
[ML(L]Q (IIA)
(式中、
Mは、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびルテニウムからなる群より選択され;
は、C3-10シクロアルキル、C6-10アリール、4~10員のヘテロアリールおよび3~10員の複素環式環からなる群より選択され、Lは、置換されるか、または非置換であり;
各Lは、独立して、アミン、イミン、カルベン、アルケン、ニトリル、イソニトリル、アセトニトリル、エーテル、チオエーテル、ホスフィン、ピリジン、置換C3-10シクロアルキル、非置換C3-10シクロアルキル、置換C6-10アリール、4~10員の置換ヘテロアリール、非置換C6-10アリール、4~10員の非置換ヘテロアリール、3~10員の置換複素環式環、3~10員の非置換複素環式環およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
mは、1~3の整数であり;
Qは、単一電荷を有するアニオンであり、
nは、0または1である)
に記載の構造を有する、[16]に記載の方法。
[19]
Mが、ルテニウムである、[1]~[18]のいずれか1に記載の方法。
[20]
が、-P(Rであり、各Rが、独立して、水素、C1-15アルキル、C3-8シクロアルキル、4~10員のヘテロアリール、C6-15アリールからなる群より選択され、各々が、C1-15アルキル、C2-15アルケン、C2-15アルキン、OH、ハロゲン、シアノ、アルコキシ、C3-8シクロアルキル、4~10員のヘテロアリールおよびC6-15アリールで必要に応じて置換される、[1]~[18]のいずれか1に記載の方法。
[21]
前記同位体含有物質が、DO、DO-C1-10アルキル、TOおよびTO-C1-10アルキルからなる群より選択される、[1]~[20]のいずれか1に記載の方法。
[22]
多価不飽和脂質混合物を同位体で部位特異的に修飾するための方法であって、該方法は、
遷移金属系触媒の存在下で該多価不飽和脂質混合物を同位体含有物質と反応させることによって、1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位に該同位体を有する同位体的に修飾された多価不飽和脂質混合物を得る工程を含み、該同位体含有物質は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の同位体を含む、方法。
[23]
主に1つ以上のアリル部位に同位体を有する1つ以上の同位体的に修飾された多価不飽和脂質を含む組成物であって、該同位体は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、組成物。
[24]
前記同位体的に修飾された多価不飽和脂質が、[1]~[22]のいずれか1に記載の方法に従って調製される、[23]に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、1,4-ジエン系を同位体的に修飾するための直接交換法の描写である。
図2図2は、同位体的に修飾された1,4-ジエン系を調製するための方法の模式図である。
図3図3は、同位体的に修飾された1,4-ジエン系を調製するための、π-アリル錯体の使用および1種以上の同位体の同時の挿入の模式図である。
図4図4は、多価不飽和脂質の重水素化について試験されたルテニウム系錯体のリストを示している。
図5図5は、リノレン酸エチル(E-lnn)のビス-アリル位での重水素化反応における中間体を示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本明細書中で用いられる項の見出しは、単に構成上の目的のものであって、説明されている主題を限定すると解釈されるべきでない。
【0021】
本明細書中で使用されるとき、省略形は、以下のとおり定義される:
ALA アルファ-リノレン酸
LIN リノレエート
LNN リノレネート
ARA アラキドネート
cap カプロラクタメート
負に帯電したジュウテリウムイオン
負に帯電したトリチウムイオン
DHA ドコサヘキサエン酸
DNA デオキシリボ核酸
EPA エイコサペンタエン酸
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
IR 赤外
LA リノール酸
LC/MS 液体クロマトグラフィー/質量分析
mg ミリグラム
mmol ミリモル
NMR 核磁気共鳴
PUFA 多価不飽和脂肪酸
保持因子
ROS 活性酸素種
TBHP tert-ブチルヒドロペルオキシド
TLC 薄層クロマトグラフィー
UV 紫外線
Cp シクロペンタジエニル
【0022】
本明細書中で使用されるとき、任意の「R」基(例えば、以下に限定されないが、R、R、R、R、RおよびR’)は、示される原子に結合され得る置換基を表す。R基は、置換されてもよいし、非置換であってもよい。
【0023】
本明細書中で使用されるとき、「C-C」(ここで、「a」および「b」は整数である)は、アルキル、アルケニルもしくはアルキニル基における炭素原子の数、またはシクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリールもしくはヘテロアリシクリル基の環における炭素原子の数のことを指す。すなわち、そのアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキルの環、シクロアルケニルの環、シクロアルキニルの環、アリールの環、ヘテロアリールの環またはヘテロアリシクリルの環は、「a」~「b」個(両端値を含む)の炭素原子を含み得る。したがって、例えば、「C-Cアルキル」基は、1~4個の炭素を有するすべてのアルキル基、すなわち、CH-、CHCH-、CHCHCH-、(CHCH-、CHCHCHCH-、CHCHCH(CH)-および(CHC-のことを指す。アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル シクロアルケニル、シクロアルキニル、アリール、ヘテロアリールまたはヘテロアリシクリル基について「a」および「b」が指定されていない場合、これらの定義に記載されている最も広い範囲が想定されるべきである。
【0024】
本明細書中で使用されるとき、「アルキル」は、完全に飽和した(二重結合または三重結合がない)炭化水素基を含む直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖のことを指す。アルキル基は、1~20個の炭素原子を有し得る(アルキル基が本明細書中に現れるときはいつでも、「1~20」などの数値範囲は、その所与の範囲内の各整数のことを指し;例えば、「1~20個の炭素原子」は、そのアルキル基が、1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子など、最大20個を含む炭素原子からなり得ることを意味するが、本定義は、数値範囲が指定されていない用語「アルキル」の存在にも及ぶ)。アルキル基は、1~10個の炭素原子を有する中程度のサイズのアルキルでもあり得る。アルキル基は、1~6個の炭素原子を有する低級アルキルでもあり得る。化合物のアルキル基は、「C-Cアルキル」または同様の呼称として指定され得る。単なる例として、「C-Cアルキル」は、そのアルキル鎖に1~4個の炭素原子が存在すること、すなわち、そのアルキル鎖が、メチル、エチル、プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチルおよびt-ブチルから選択されることを示す。典型的なアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第三級ブチル、ペンチルおよびヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基は、置換されてもよいし、非置換であってもよい。
【0025】
本明細書中で使用されるとき、「アルケニル」は、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖に1つ以上の二重結合を含むアルキル基のことを指す。アルケニル基は、2~20個の炭素原子を有し得るが、本定義は、数値範囲が指定されていない用語「アルケニル」の存在にも及ぶ。アルケニル基は、2~9個の炭素原子を有する中程度のサイズのアルケニルでもあり得る。アルケニル基は、2~4個の炭素原子を有する低級アルケニルでもあり得る。化合物のアルケニル基は、「C2-4アルケニル」または同様の呼称として指定され得る。単なる例として、「C2-4アルケニル」は、そのアルケニル鎖に2~4個の炭素原子が存在すること、すなわち、そのアルケニル鎖が、エテニル、プロペン-1-イル、プロペン-2-イル、プロペン-3-イル、ブテン-1-イル、ブテン-2-イル、ブテン-3-イル、ブテン-4-イル、1-メチル-プロペン-1-イル、2-メチル-プロペン-1-イル、1-エチル-エテン-1-イル、2-メチル-プロペン-3-イル、ブタ-1,3-ジエニル、ブタ-1,2,-ジエニルおよびブタ-1,2-ジエン-4-イルからなる群より選択されることを示す。典型的なアルケニル基としては、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルおよびヘキセニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルケニル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0026】
本明細書中で使用されるとき、「アルキニル」は、直鎖または分枝鎖の炭化水素鎖に1つ以上の三重結合を含むアルキル基のことを指す。アルキニル基は、2~20個の炭素原子を有し得るが、本定義は、数値範囲が指定されていない用語「アルキニル」の存在にも及ぶ。アルキニル基は、2~9個の炭素原子を有する中程度のサイズのアルキニルでもあり得る。アルキニル基は、2~4個の炭素原子を有する低級アルキニルでもあり得る。化合物のアルキニル基は、「C2-4アルキニル」または同様の呼称として指定され得る。単なる例として、「C2-4アルキニル」は、そのアルキニル鎖に2~4個の炭素原子が存在すること、すなわち、そのアルキニル鎖が、エチニル、プロピン-1-イル、プロピン-2-イル、ブチン-1-イル、ブチン-3-イル、ブチン-4-イルおよび2-ブチニルからなる群より選択されることを示す。典型的なアルキニル基としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニルおよびヘキシニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキニル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0027】
本明細書中で使用されるとき、「シクロアルキル」は、完全に飽和した(二重結合または三重結合がない)単環式または多環式の炭化水素環系のことを指す。2つ以上の環から構成されるとき、それらの環は、縮合の様式で共に結合され得る。シクロアルキル基は、環に3~10個の原子または環に3~8個の原子を含み得る。シクロアルキル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。典型的なシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびシクロオクチルが挙げられるが、これらに限定されない。シクロアルキル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0028】
本明細書中で使用されるとき、「シクロアルケニル」は、少なくとも1つの環に1つ以上の二重結合を含む単環式または多環式の炭化水素環系のことを指すが;1つより多い二重結合が存在する場合、それらの二重結合は、すべての環にわたって、完全に非局在化したπ電子系を形成できない(そうでなければ、その基は、本明細書中で定義されるような「アリール」であり得る)。2つ以上の環から構成されるとき、それらの環は、縮合の様式で共に結合され得る。シクロアルケニル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0029】
本明細書中で使用されるとき、「シクロアルキニル」は、少なくとも1つの環に1つ以上の三重結合を含む単環式または多環式の炭化水素環系のことを指す。1つより多い三重結合が存在する場合、それらの三重結合は、すべての環にわたって、完全に非局在化したπ電子系を形成できない。2つ以上の環から構成されるとき、それらの環は、縮合の様式で共に結合され得る。シクロアルキニル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0030】
本明細書中で使用されるとき、「カルボシクリル」は、すべての炭素環系のことを指す。そのような系は、不飽和であり得るか、いくらかの不飽和を含み得るか、またはいくつかの芳香族部分を含み得るか、またはすべて芳香族であり得る。カルボシクリル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0031】
本明細書中で使用されるとき、「アリール」は、環の少なくとも1つにわたって、完全に非局在化したπ電子系を有する、炭素環式の(すべて炭素の)単環式または多環式の芳香環系(例えば、2つの炭素環が化学結合を共有する、縮合環系、架橋環系またはスピロ環系、例えば、1つ以上のアリール環および1つ以上のアリール環または非アリール環が挙げられる)のことを指す。アリール基における炭素原子の数は、様々であり得る。例えば、アリール基は、C-C14アリール基、C-C10アリール基またはCアリール基であり得る。アリール基の例としては、ベンゼン、ナフタレンおよびアズレンが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は、置換されてもよいし、非置換であってもよい。
【0032】
本明細書中で使用されるとき、「ヘテロシクリル」は、少なくとも1つのヘテロ原子(例えば、O、N、S)を含む環系のことを指す。そのような系は、不飽和であり得るか、いくらかの不飽和を含み得るか、またはいくつかの芳香族部分を含み得るか、またはすべて芳香族であり得る。ヘテロシクリル基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。
【0033】
本明細書中で使用されるとき、「ヘテロアリール」は、1つ以上のヘテロ原子、すなわち、炭素以外の元素(窒素、酸素および硫黄が挙げられるがこれらに限定されない)および少なくとも1つの芳香環を含む単環式または多環式の芳香環系(完全に非局在化したπ電子系を有する少なくとも1つの環を有する環系)のことを指す。ヘテロアリール基の環における原子の数は、様々であり得る。例えば、ヘテロアリール基は、環に4~14個の原子、環に5~10個の原子または環に5~6個の原子を含み得る。さらに、用語「ヘテロアリール」には、2つの環(例えば、少なくとも1つのアリール環および少なくとも1つのヘテロアリール環、または少なくとも2つのヘテロアリール環)が少なくとも1つの化学結合を共有する縮合環系が含まれる。ヘテロアリール環の例としては、フラン、フラザン、チオフェン、ベンゾチオフェン、フタラジン、ピロール、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-オキサジアゾール、チアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、ベンゾチアゾール、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、インドール、インダゾール、ピラゾール、ベンゾピラゾール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、イソチアゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、プリン、プテリジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリンおよびトリアジンが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基は、置換されてもよいし、非置換であってもよい。
【0034】
本明細書中で使用されるとき、「ヘテロ脂環式」または「ヘテロアリシクリル」は、3員、4員、5員、6員、7員、8員、9員、10員、最大18員の単環式、二環式および三環式の環系のことを指し、ここで、炭素原子が1~5個のヘテロ原子と一体となって、前記環系を構成する。しかしながら、複素環は、完全に非局在化したπ電子系がすべての環にわたって存在しないように位置している1つ以上の不飽和結合を必要に応じて含んでもよい。それらのヘテロ原子は、独立して、酸素、硫黄および窒素から選択される。複素環は、その定義にオキソ系およびチオ系(例えば、ラクタム、ラクトン、環状イミド、環状チオイミドおよび環状カルバメート)を含ませるために、1つ以上のカルボニルまたはチオカルボニル官能基をさらに含み得る。2つ以上の環から構成されるとき、それらの環は、縮合の様式で共に結合され得る。さらに、ヘテロ脂環式における任意の窒素が、四級化され得る。ヘテロアリシクリルまたはヘテロ脂環式基は、非置換であってもよいし、置換されてもよい。そのような「ヘテロ脂環式」または「ヘテロアリシクリル」基の例としては、1,3-ジオキシン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジオキソラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキソラン、1,3-オキサチアン、1,4-オキサチイン、1,3-オキサチオラン、1,3-ジチオール、1,3-ジチオラン、1,4-オキサチアン、テトラヒドロ-1,4-チアジン、2H-1,2-オキサジン、マレイミド、スクシンイミド、バルビツール酸、チオバルビツール酸、ジオキソピペラジン、ヒダントイン、ジヒドロウラシル、トリオキサン、ヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、イソオキサゾリン、イソオキサゾリジン、オキサゾリン、オキサゾリジン、オキサゾリジノン、チアゾリン、チアゾリジン、モルホリン、オキシラン、ピペリジンN-オキシド、ピペリジン、ピペラジン、ピロリジン、ピロリドン、ピロリジオン、4-ピペリドン、ピラゾリン、ピラゾリジン、2-オキソピロリジン、テトラヒドロピラン、4H-ピラン、テトラヒドロチオピラン、チアモルホリン、チアモルホリンスルホキシド、チアモルホリンスルホンおよびそれらのベンゾ縮合アナログ(例えば、ベンゾイミダゾリジノン、テトラヒドロキノリン、3,4-メチレンジオキシフェニル)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0035】
本明細書中で使用されるとき、「アラルキル」および「アリール(アルキル)」は、低級アルキレン基を介して置換基として結合されるアリール基のことを指す。アラルキルの低級アルキレンおよびアリール基は、置換されてもよいし、非置換であってもよい。例としては、ベンジル、2-フェニルアルキル、3-フェニルアルキルおよびナフチルアルキルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0036】
本明細書中で使用されるとき、「ヘテロアラルキル」および「ヘテロアリール(アルキル)」は、低級アルキレン基を介して置換基として結合されるヘテロアリール基のことを指す。ヘテロアラルキルの低級アルキレンおよびヘテロアリール基は、置換されてもよいし、非置換であってもよい。例としては、2-チエニルアルキル、3-チエニルアルキル、フリルアルキル、チエニルアルキル、ピロリルアルキル、ピリジルアルキル、イソオキサゾリルアルキルおよびイミダゾリルアルキルならびにそれらのベンゾ縮合アナログが挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
「(ヘテロアリシクリル)アルキル」は、低級アルキレン基を介して置換基として結合される複素環式基またはヘテロアリシクリル基である。(ヘテロアリシクリル)アルキルの低級アルキレンおよび複素環式またはヘテロシクリルは、置換されてもよいし、非置換であってもよい。例としては、テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)メチル、(ピペリジン-4-イル)エチル、(ピペリジン-4-イル)プロピル、(テトラヒドロ-2H-チオピラン-4-イル)メチルおよび(1,3-チアジナン-4-イル)メチルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
「低級アルキレン基」は、それらの末端の炭素原子を介して分子フラグメントを結合するための結合を形成する、直鎖の-CH-テザリング基である。例としては、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、プロピレン(-CHCHCH-)およびブチレン(-CHCHCHCH-)が挙げられるがこれらに限定されない。低級アルキレン基は、低級アルキレン基の1つ以上の水素を、「置換される」の定義において列挙される置換基で置換することによって、置換され得る。
【0039】
本明細書中に記載されるアミン配位子は、単座配位子または多座配位子であり得、モノアミン、ジアミンおよびトリアミン部分を含む。モノアミンは、N(Rという式を有し得、例示的なモノアミンとしては、ジアルキルモノアミン(例えば、ジ-ra-ブチルアミンすなわちDBA)およびトリアルキルモノアミン(例えば、N,N-ジメチルブチルアミンすなわちDMBA)が挙げられるがこれらに限定されない。好適なジアルキルモノアミンとしては、ジメチルアミン、ジ-ra-プロピルアミン、ジ-ra-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジベンジルアミン、メチルエチルアミン、メチルブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N-フェニルエタノールアミン、N-(p-メチル)フェニルエタノールアミン、N-(2,6-ジメチル)フェニルエタノールアミン、N-(p-クロロ)フェニルエタノールアミン、N-エチルアニリン、N-ブチルアニリン、N-メチル-2-メチルアニリン、N-メチル-2,6-ジメチルアニリン、ジフェニルアミンなど、およびそれらの組み合わせが挙げられる。好適なトリアルキルモノアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ブチルジメチルアミン、フェニルジエチルアミンなど、およびそれらの組み合わせが挙げられる。ジアミンは、式(RN-R-N(Rを有し得、例示的なジアミンとしては、アルキレンジアミン、例えば、N,N’-ジ-ieri-ブチルエチレンジアミンすなわちDBEDAが挙げられ得る。トリアミンは、3つのアミン部分を有する有機分子のことを指し、それらとしては、ジエチレントリアミン(DETA)、グアニジンHCl、テトラメチルグアニジンなどが挙げられるがこれらに限定されない。モノアミンとジアミンの両方の式について、Rは、置換されたまたは非置換の二価の残基であり;各Rは、独立して、水素、C-CアルキルまたはC6-10アリールである。上記式のいくつかの例において、2つまたは3つの脂肪族炭素原子が、2つのジアミン窒素原子の間に最も近い結合を形成する。具体的なアルキレンジアミン配位子としては、Rが、ジメチレン(-CHCH-)またはトリメチレン(-CHCHCH-)であるものが挙げられる。Rは、独立して、水素、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチルまたはC-Cアルファ-第三級アルキル基であり得る。いくつかの実施形態において、ジアミンは、エチレンジアミンであり得る。いくつかの実施形態において、トリアミンは、ジエチレントリアミンであり得る。
【0040】
アルキレンジアミン配位子は、単座配位子または多座配位子であり得、例としては、N,N,N’,N’テトラメチルエチレンジアミン(TMED)、N,N’-ジ-tert-ブチルエチレンジアミン(DBEDA)、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン(TMPD)、N-メチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N-エチル-1,3-ジアミノプロパン、N-メチル-1,4-ジアミノブタン、N,N’-トリメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’-トリメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,5-ジアミノペンタンおよびそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、アミン配位子は、ジ-ra-ブチルアミン(DBA)、N,N-ジメチルブチルアミン(DMBA)、N,N’-ジ-tert-ブチルエチレンジアミン(DBEDA)およびそれらの組み合わせから選択される。
【0041】
本明細書中に記載されるアルケン配位子は、単座配位子または多座配位子であり、それらとしては、少なくとも1つの非芳香族炭素-炭素二重結合を有する分子が挙げられ、モノアルケンおよびジアルケンが挙げられ得るがこれらに限定されない。アルケン配位子の例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、デセン、ブタジエンなどが挙げられ得る。
【0042】
本明細書中に記載されるイソニトリル配位子は、少なくとも1つの-NC部分を有する分子のことを指し、単座配位子または多座配位子であり得、それらとしては、モノイソニトリルおよびジイソニトリル配位子が挙げられるがこれらに限定されない。モノイソニトリルおよびジイソニトリルの例としては、C1-10アルキル-NCおよびCN-R-NCが挙げられるがこれらに限定されず、Rは、C1-10アルキレン、t-ブチル-NC、メチル-NC、PhP(O)(OCHCH(t-Bu)NC)、PhP(O)(OCHCH(Bn)NC) PhP(O)(OCHCH(i-Pr)NC)、PhP(O)(OCHCHCH(i-Pr)NC)、PhP(O)(OCHCH(CH)NC)である。さらなるイソニトリル配位子は、Naik et al.,Chem.Commun.,2010,46,4475-4477(その全体が参照により本明細書中に援用される)に見られる。
【0043】
本明細書中に記載されるニトリル配位子は、少なくとも1つの-CN部分を有する分子のことを指し、単座配位子または多座配位子であり得、それらとしては、モノイソニトリルおよびジイソニトリル配位子が挙げられるがこれらに限定されない。モノイソニトリルおよびジイソニトリルの例としては、C1-10アルキル-CNおよびCN-R-CNが挙げられるがこれらに限定されず、Rは、C1-10アルキレン、アセトニトリル、1,3,5-シクロヘキサントリカルボニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、グルタロニトリル、ピバロニトリル、カプロニトリル、(CHCN、(CHCN、(CHCNである。さらなるニトリル配位子は、Lee et al.,Inorganic and Nuclear Chemistry letters,v10,10(Oct 1974)p.895-898(その全体が参照により本明細書中に援用される)に見られる。
【0044】
本明細書中に記載されるエーテル配位子は、少なくとも1つのR-O-R部分(各Rは、独立して、アルキルまたはアリール基である)を有する分子のことを指し、単座配位子または多座配位子であり得、それらとしては、モノエーテル、ジエーテルおよびトリエーテル配位子が挙げられる。モノエーテル、ジエーテル、トリエーテルおよび他の好適なエーテルの例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールおよびアニソールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0045】
本明細書中に記載されるチオエーテル配位子は、少なくとも1つのR-S-R部分(各Rは、独立して、アルキルまたはアリール基である)を有する分子のことを指し、単座配位子または多座配位子であり得、それらとしては、モノチオエーテル、ジチオエーテルおよびトリチオエーテル配位子が挙げられる。モノチオエーテル、ジチオエーテルおよびトリチオエーテルの例としては、ジメチルスルフィドおよびメチルフェニルスルフィドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0046】
本明細書中に記載されるイミン配位子は、少なくとも1つの炭素窒素二重結合部分を有する分子のことを指し、単座配位子または多座配位子であり得、それらとしては、モノイミン、ジイミンおよびトリイミン配位子が挙げられる。イミン配位子の例としては、1,2-エタンジイミン、イミダゾリン-2-イミン、1,2-ジケチミン、ジメチルグリオキシム、o-フェニレンジアミン、1,3-ジケチミンおよびグリオキサール-ビス(メシチルイミン)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0047】
本明細書中に記載されるようなカルベン配位子は、金属に配位されていないとき、その価電子殻に6つの電子しか有しない少なくとも1つの二価の炭素原子を有する化合物のことを指す。この定義は、カルベンから合成される金属-カルベン錯体に限定されず、むしろ、金属に結合された炭素原子に関連する軌道構造および電子分布について言及することを目的としている。この定義は、「カルベン」が、金属に結合しているとき、技術的に二価でないかもしれないが、金属から引き離されている場合、二価であるかもしれないことを認める。多くのそのような化合物は、まずカルベンを合成し、次いで、それを金属に結合することによって合成されるが、この定義は、同様の軌道構造および電子配置を有する、他の方法によって合成される化合物を包含することを目的としている。Lowry&Richardson,Mechanism and Theory in Organic Chemistry 256(Harper&Row,1976)では、「カルベン」を、その用語が本明細書中で使用される方法と一致するように定義している。本明細書中に記載されるカルベン配位子は、モノカルベン、ジカルベンおよびトリカルベンであり得る。カルベン配位子の例としては、1,10-ジメチル-3,30-メチレンジイミダゾリン-2,20-ジイリデン、1,10-ジメチル-3,30-エチレンジイミダゾリン-2,20-ジイリデン、1,10-ジメチル-3,30-プロピレンジイミダゾリン-2,20-ジイリデン、1,10-ジメチル-3,30-メチレンジベンゾイミダゾリン-2,20-ジイリデン、1,10-ジメチル-3,30-エチレンジベンゾイミダゾリン-2,20-ジイリデン、1,10-ジメチル-3,30-プロピレンジベンゾイミダゾリン-2,20-ジイリデン、
【化4】
(nは、1、2または3である)および
【化5】
が挙げられるがこれらに限定されない。さらなるカルベン配位子は、Huynh et al.,Journal of Organometallic Chemistry,v696,21,(October 2011),p.3369-3375およびMaity et al.,Chem.Commun.,2013,49,1011-101(これらの全体が参照により本明細書中に援用される)に見られる。
【0048】
本明細書中に記載されるようなピリジン配位子は、少なくとも1つのピリジン環部分を有する分子のことを指し、それらとしては、モノピリジン、ジピリジンおよびトリピリジン配位子が挙げられ得る。ピリジン配位子の例としては、2,2’-ビピリジン(bypiridine)および2,6-ジ(2-ピリジル)ピリジンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0049】
本明細書中に記載されるようなホスフィン配位子は、少なくとも1つのP(Rを有する分子のことを指し、各Rは、独立して、水素、必要に応じて置換されるC1-15アルキル、必要に応じて置換されるC3-8シクロアルキル、必要に応じて置換されるC-15アリールおよび必要に応じて置換される4~10員のヘテロアリールからなる群より選択される。ホスフィン配位子としては、モノホスフィン、ビスホスフィンおよびトリスホスフィンが挙げられ得る。好適なホスフィン配位子の例としては、PH、トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフルオロホスフィン、トリメチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリシクロヘキシルホスフィン、ジメチルホスフィノメタン(dmpm)、ジメチルホスフィノエタン(dmpe)、PROPHOS、PAMP、DIPAMP、DIOP、DuPHOS、P(tBu)Ph、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、4-(tert-ブチル)-2-(ジイソプロピルホスファネイル)-1H-イミダゾール、P(t-Bu)(C)が挙げられ得るがこれらに限定されない。
【0050】
本明細書中で使用されるとき、置換された基は、1つ以上の水素原子と別の原子または基との交換が行われる、非置換の親基から誘導される。別段示されない限り、ある基が、「置換される」と見なされるとき、その基は、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-Cヘテロアルキル、C-Cカルボシクリル(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、C-C-カルボシクリル-C-C-アルキル(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、5~10員のヘテロシクリル(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、5~10員のヘテロシクリル-C-C-アルキル(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、アリール(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、アリール(C-C)アルキル(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、5~10員のヘテロアリール(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、5~10員のヘテロアリール(C-C)アルキル(ハロ、C-Cアルキル、C-Cアルコキシ、C-CハロアルキルおよびC-Cハロアルコキシで必要に応じて置換される)、ハロ、シアノ、ヒドロキシ、C-Cアルコキシ、C-Cアルコキシ(C-C)アルキル(すなわち、エーテル)、アリールオキシ、スルフヒドリル(メルカプト)、ハロ(C-C)アルキル(例えば、-CF)、ハロ(C-C)アルコキシ(例えば、-OCF)、C-Cアルキルチオ、アリールチオ、アミノ、アミノ(C-C)アルキル、ニトロ、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、S-スルホンアミド、N-スルホンアミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、アシル、シアナト、イソシアナト、チオシアナト、イソチオシアナト、スルフィニル、スルホニルおよびオキソ(=O)から独立して選択される1つ以上の置換基で置換されていることが意味されている。ある基が、「置換される」とどこで記載されても、その基は、上記置換基で置換され得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、置換される基は、C-Cアルキル、アミノ、ヒドロキシおよびハロゲンから個々に独立して選択される1つ以上の置換基で置換される。
【0052】
ある特定のラジカルを命名する慣例は、状況に応じてモノ-ラジカルまたはジ-ラジカルのいずれかを含み得ると理解されるべきである。例えば、ある置換基が、その分子の残りの部分に対して2つの結合点を必要とする場合、その置換基は、ジ-ラジカルであると理解される。例えば、2つの結合点を必要とするアルキルと特定される置換基としては、-CH-、-CHCH-、-CHCH(CH)CH-などのジ-ラジカルが挙げられる。他のラジカルを命名する慣例は、そのラジカルが、「アルキレン」または「アルケニレン」などのジ-ラジカルであることを明らかに示すものである。
【0053】
用語「多価不飽和脂質」は、本明細書中で使用されるとき、その疎水性テールに1つ以上の不飽和結合(例えば、二重結合または三重結合)を含む脂質のことを指す。本明細書中の多価不飽和脂質は、多価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸エステル、多価不飽和脂肪酸チオエステル、多価不飽和脂肪酸アミド、多価不飽和脂肪酸模倣物または多価不飽和脂肪酸プロドラッグであり得る。
【0054】
用語「モノ-アリル部位」は、本明細書中で使用されるとき、ただ1つのビニル基に結合されたメチレン基に対応し、かつ2つ以上のビニル基に隣接しない、多価不飽和脂質(例えば、多価不飽和脂肪酸またはそのエステル)の位置のことを指す。例えば、(9Z,12Z)-9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸)におけるモノ-アリル部位としては、炭素8位および炭素14位におけるメチレン基が挙げられる。
【0055】
用語「ビス-アリル部位」は、本明細書中で使用されるとき、1,4-ジエン系のメチレン基に対応する多価不飽和脂質(例えば、多価不飽和脂肪酸またはそのエステル)の位置のことを指す。1つ以上のビス-アリル位にジュウテリウムを有する多価不飽和脂質の例としては、11,11-ジジュウテロ-cis,cis-9,12-オクタデカジエン酸(11,11-ジジュウテロ-(9Z,12Z)-9,12-オクタデカジエン酸;D2-LA);および11,11,14,14-テトラジュウテロ-cis,cis,cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸(11,11,14,14-テトラジュウテロ-(9Z,12Z,15Z)-9,12,15-オクタデカトリエン酸;D4-ALA)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0056】
用語「プロ-ビス-アリル位」は、本明細書中で使用されるとき、不飽和化の際にビス-アリル位になるメチレン基のことを指す。前駆体PUFAにおいてビス-アリルではないいくつかの部位が、生化学的変換においてビス-アリルになり得る。プロ-ビス-アリル位は、重水素化に加えて、炭素-13によって、各々、天然に存在する存在量レベルを超える同位体存在量レベルにおいて、さらに強化され得る。例えば、プロ-ビス-アリル位は、既存のビス-アリル位に加えて、下記の式(2)(式中、Rは、アルキル、カチオンまたはHであり;m=1~10であり;n=1~5であり;p=1~10である)に示されるような同位体置換によって強化され得る。式(2)において、X原子の位置は、プロ-ビス-アリル位を表す一方で、Y原子の位置は、ビス-アリル位を表し、X、X、YまたはY原子のうちの1つ以上が、ジュウテリウム原子であり得る。
【化6】
ビス-アリル位およびプロ-ビス-アリル位を有する化合物の別の例が、式(3)に示され、式中、Y-Yおよび/またはX-Xの対のいずれもが、それぞれPUFAのビス-アリル位およびプロ-ビス-アリル位を表し、これらの位置が、ジュウテリウム原子を含み得る。
【化7】
【0057】
1つ以上のキラル中心を有する本明細書中に記載されるいずれの化合物においても、絶対立体化学が明確に示されない場合、各中心は、独立して、R-配置またはS-配置またはその混合物であり得ると理解される。したがって、本明細書中に提供される化合物は、鏡像異性的に純粋であり得るか、鏡像異性的に濃縮され得るか、または立体異性混合物であり得、すべてのジアステレオ異性体および鏡像異性体を含む。さらに、EまたはZとして定義され得る幾何異性体を生成する1つ以上の二重結合を有する本明細書中に記載されるいずれの化合物においても、各二重結合は、独立して、EまたはZ、その混合物であり得ると理解される。所望であれば、立体選択的な合成および/またはキラルクロマトグラフィーカラムによる立体異性体の分離などの方法によって、立体異性体が得られる。
【0058】
同様に、記載されるいずれの化合物においても、すべての互変異性体も包含されると意図されていると理解される。
【0059】
本明細書中で使用されるとき、用語「チオエステル」は、カルボン酸とチオール基とがエステル結合によって連結されている構造、またはカルボニル炭素が硫黄原子と共有結合を形成する構造-COSR(ここで、Rは、水素、C1-30アルキル(分枝鎖または直鎖)および必要に応じて置換されるC6-10アリール、ヘテロアリール、環式構造または複素環式構造を含み得る)のことを指す。「多価不飽和脂肪酸チオエステル」は、構造P-COSR(ここで、Pは、本明細書中に記載される多価不飽和脂肪酸である)のことを指す。
【0060】
本明細書中で使用されるとき、用語「アミド」は、カルボニルまたはチオカルボニル基の炭素に結合された窒素原子を含む化合物または部分(例えば、-C(O)NRまたは-S(O)NNRを含む化合物)のことを指し、RおよびRは、独立して、C1-30アルキル(分枝鎖または直鎖)、必要に応じて置換されるC6-10アリール、ヘテロアリール、環式、複素環式またはC-20ヒドロアルキルであり得る。「多価不飽和脂肪酸アミド」は、アミド基がカルボニル部分の炭素を介して本明細書中に記載される多価不飽和脂肪酸に結合された構造のことを指す。
【0061】
本明細書中で使用されるとき、用語「プロドラッグ」は、インビボにおいて代謝活性化を起こして、活性な薬物を生成する前駆体化合物のことを指す。カルボン酸が、エステルおよび様々な他の官能基に変換されて、吸収、分布、代謝および排泄などの薬物動態を高め得ることがよく知られている。エステルは、アルコール(またはその化学的等価物)とカルボン酸(またはその化学的等価物)との縮合によって形成されるカルボン酸の周知のプロドラッグ型である。いくつかの実施形態において、PUFAのプロドラッグに組み込むためのアルコール(またはその化学的等価物)には、薬学的に許容され得るアルコール、または代謝されると、薬学的に許容され得るアルコールを生成する化学物質が含まれる。そのようなアルコールとしては、プロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール(Transcutol(登録商標),Gattefosse,Westwood,N.J.07675)、ベンジルアルコール、グリセロール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300またはポリエチレングリコール400;ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(例えば、ポリオキシエチレングリセロールトリリシノレエートまたはポリオキシル35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL,BASF Corp.)、ポリオキシエチレングリセロールオキシステアレート(Cremophor(登録商標)RH40(ポリエチレングリコール40硬化ヒマシ油)またはCremophor(登録商標)RH60(ポリエチレングリコール60硬化ヒマシ油),BASF Corp.));飽和ポリグリコール化グリセリド(例えば、Gattefosse,Westwood,N.J.07675から入手可能な、Gelucire(登録商標)35/10、Gelucire(登録商標)44/14、Gelucire(登録商標)46/07、Gelucire(登録商標)50/13またはGelucire(登録商標)53/10);ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、セトマクロゴール1000);ステアリン酸ポリオキシエチレン(例えば、ステアリン酸PEG-6、ステアリン酸PEG-8、ステアリン酸ポリオキシル40NF、ステアリン酸ポリオキシエチル50NF、ステアリン酸PEG-12、ステアリン酸PEG-20、ステアリン酸PEG-100、ジステアリン酸PEG-12、ジステアリン酸PEG-32またはジステアリン酸PEG-150);オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル;ジメチルイソソルビド;N-メチルピロリジノン;パラフィン;コレステロール;レシチン;坐剤基剤;薬学的に許容され得るろう(例えば、カルナウバろう、黄ろう、白ろう、ミクロクリスタリンワックスまたは乳化ろう);薬学的に許容され得るケイ素液;ソルビタン脂肪酸エステル(ラウリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン、パルミチン酸ソルビタンまたはステアリン酸ソルビタンを含む);薬学的に許容され得る飽和脂肪または薬学的に許容され得る飽和油(例えば、硬化ヒマシ油(グリセリル-tris-12-ヒドロキシステアレート)、セチルエステルワックス(約43~47℃の融解範囲を有するC14-C18飽和脂肪酸の主にC14-C18飽和エステルの混合物)またはモノステアリン酸グリセリル)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
いくつかの実施形態において、脂肪酸プロドラッグは、エステルP-Bによって表され、ここで、基Pは、PUFAであり、基Bは、生物学的に許容され得る分子である。したがって、エステルP-Bの切断によって、PUFAおよび生物学的に許容され得る分子がもたらされる。そのような切断は、酸、塩基、酸化剤および/または還元剤によって誘導され得る。生物学的に許容され得る分子の例としては、栄養性の材料、ペプチド、アミノ酸、タンパク質、炭水化物(単糖類、二糖類、多糖類、グリコサミノグリカンおよびオリゴ糖を含む)、ヌクレオチド、ヌクレオシド、脂質(一置換、二置換および三置換のグリセロール、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質およびステロイドを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、PUFAのプロドラッグに組み込むためのアルコール(またはそれらの化学的等価物)としては、多価アルコール(例えば、ジオール、トリオール、テトラ-オール、ペンタ-オールなど)が挙げられる。アルコールの例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソ-プロピルアルコールおよび他のアルキルアルコールが挙げられる。多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、メチルプロパンジオール、エトキシジグリコール、ヘキシレングリコール、ジプロピレングリコールグリセロールおよび炭水化物が挙げられる。多価アルコールおよびPUFAから形成されるエステルは、モノ-エステル、ジ-エステル、トリ-エステルなどであり得る。いくつかの実施形態において、複数の(multiply)エステル化された多価アルコールは、同じPUFAでエステル化されている。他の実施形態において、複数のエステル化された多価アルコールは、異なるPUFAでエステル化されている。いくつかの実施形態において、その異なるPUFAは、同じ様式で安定化されている。他の実施形態において、その異なるPUFAは、異なる様式(例えば、1つのPUFAではジュウテリウム置換、および別のPUFAでは13C置換)で安定化されている。いくつかの実施形態において、1つ以上のPUFAは、オメガ-3脂肪酸であり、1つ以上のPUFAは、オメガ-6脂肪酸である。いくつかの実施形態において、エステルは、エチルエステルである。いくつかの実施形態において、エステルは、モノ-、ジ-またはトリグリセリドである。
【0063】
PUFAおよび/またはPUFA模倣物および/またはPUFAプロドラッグを、上記実施形態において使用するための塩として製剤化することが有用であり得ることも企図される。例えば、薬学的化合物の特性を目的に合わせる手段として塩形成を使用することが、よく知られている。Stahl et al.,Handbook of pharmaceutical salts:Properties,selection and use(2002)Weinheim/Zurich:Wiley-VCH/VHCA;Gould,Salt selection for basic drugs,Int.J.Pharm.(1986),33:201-217を参照のこと。塩の形成を用いることによって、溶解度を上昇または低下させること、安定性または毒性を改善すること、および薬物製品の吸湿性を低下させることができる。
【0064】
PUFAおよび/またはPUFAエステルおよび/またはPUFA模倣物および/またはPUFAプロドラッグを塩として製剤化することには、本明細書中に記載される任意のPUFA塩が含まれ得る。
【0065】
用語「多価不飽和脂肪酸模倣物」は、本明細書中で使用されるとき、天然に存在する多価不飽和脂肪酸と構造的に似ているが、ビス-アリル位における水素引き抜きを防止するために非同位体的に修飾された化合物のことを指す。様々な方法を用いることによって、多価不飽和脂肪酸を非同位体的に修飾して多価不飽和脂肪酸模倣物を生成することができ、例としては、不飽和結合を移動させて1つ以上のビス-アリル位を除去すること、ビス-アリル位における少なくとも1つの炭素原子を酸素または硫黄で置換すること、ビス-アリル位における少なくとも1つの水素原子をアルキル基で置換すること、ビス-アリル位における水素原子をシクロアルキル基で置換すること、および少なくとも1つの二重結合をシクロアルキル基で置換することが挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
いくつかの実施形態において、非同位体修飾は、不飽和結合を移動させて、1つ以上のビス-アリル位を除去することによって達成される。多価不飽和脂肪酸は、式(I):
【化8】
(式中、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、nは、1~4であり、mは、1~12である)の構造を有し得る。いくつかの実施形態において、Rは、-Cであり得る。多価不飽和脂肪酸模倣物の例としては、
【化9】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0067】
いくつかの実施形態において、非同位体修飾は、ビス-アリル位における少なくとも1つの炭素原子を酸素または硫黄で置換することによって達成される。多価不飽和脂肪酸は、式(II):
【化10】
(式中、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Xは、OまたはSであり、nは、1~4であり、mは、1~12である)の構造を有し得る。いくつかの実施形態において、Rは、-Cであり得る。多価不飽和脂肪酸模倣物の例としては、
【化11】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0068】
いくつかの実施形態において、非同位体修飾は、ビス-アリル位における少なくとも1つの水素原子をアルキル基で置換することによって達成される。多価不飽和脂肪酸は、式(III)
【化12】
(式中、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Xは、OまたはSであり、nは、1~4であり、mは、1~12である)の構造を有し得る。いくつかの実施形態において、Rは、-Cであり得る。多価不飽和脂肪酸模倣物の例としては、
【化13】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0069】
いくつかの実施形態において、非同位体修飾は、ビス-アリル位における水素原子をシクロアルキル基で置換することによって達成される。多価不飽和脂肪酸は、式(IV):
【化14】
(式中、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、nは、1~5であり、mは、1~12である)の構造を有し得る。いくつかの実施形態において、Rは、-Cであり得る。多価不飽和脂肪酸模倣物の例としては、
【化15】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0070】
いくつかの実施形態において、非同位体修飾は、少なくとも1つの二重結合をシクロアルキル基で置換することによって達成される。多価不飽和脂肪酸は、式(V)、(VI)または(VII)
【化16】
(式中、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、Rは、HまたはC1-10アルキルであり、nは、1~5であり、mは、1~12である)の構造を有し得る。いくつかの実施形態において、Rは、-Cであり得る。多価不飽和脂肪酸模倣物の例としては、
【化17】
が挙げられるがこれらに限定されない。
【0071】
本明細書中で使用されるとき、「主に」は、約40%またはそれ以上のことを指す。1つの実施形態において、「主に」は、約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%を超えることを指す。1つの実施形態において、「主に」は、約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%のことを指す。1つの実施形態において、「主に」は、約50%~98%、55%~98%、60%~98%、70%~98%、50%~95%、55%~95%、60%~95%または70%~95%のことを指す。例えば、「主にビス-アリル部位に同位体を有する」は、ビス-アリル部位における同位体修飾の量が、約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%を超えることを意味する。別の実施形態において、「主に1つ以上のアリル部位に同位体を有する」は、アリル部位における同位体修飾の量が、約40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または100%を超えることを意味する。
【0072】
「被験体」は、本明細書中で使用されるとき、ヒトまたは非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、非ヒト霊長類または鳥類、例えば、ニワトリ、ならびに他の任意の脊椎動物または無脊椎動物を意味する。
【0073】
用語「哺乳動物」は、その通常の生物学的意味で用いられる。したがって、それには、霊長類(サル(チンパンジー、類人猿、サル)およびヒトを含む)、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、げっ歯類、ラット、マウス、モルモットなどが明確に含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
「有効量」または「治療有効量」は、本明細書中で使用されるとき、疾患または状態の1つ以上の症状をある程度軽減するかまたはその発生の確率を低下させるのに有効である治療薬の量のことを指し、それには、疾患または状態の治癒が含まれる。「治癒」は、疾患または状態の症状が除去されることを意味するが;しかしながら、治癒が得られた後であっても(例えば、広範な組織損傷)、ある特定の長期のまたは永久の効果が存在し得る。
【0075】
「処置する(Treat)」、「処置」または「処置する(treating)」は、本明細書中で使用されるとき、予防目的および/または治療目的で化合物または薬学的組成物を被験体に投与することを指す。用語「予防的処置」は、疾患または状態の症状をまだ示していないが、特定の疾患もしくは状態が起こりやすい被験体またはそうでなければ特定の疾患もしくは状態のリスクがある被験体を処置することを指し、その処置は、その患者がその疾患または状態を発症する可能性を低下させる。用語「治療的処置」は、既に疾患または状態に罹患している被験体に処置を施すことを指す。
【0076】
より重い同位体ジュウテリウム(HまたはD)による水素(H)の置換を含む重水素化(またはH/D交換)のプロセスが、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析、ポリマー科学などに適用され得る。さらに、ある特定の医薬の代謝経路は、H/D交換によって劇的に影響され得るので、選択的な重水素化は、ドラッグデザイン、薬物開発および創薬に関する製薬業界におけるツールであり得る。そして、これを用いることにより、薬物の生物学的半減期が延長され得るので、例えば、投与される投与量を減少させることができる。さらに、ある特定の薬物および生物学的分子は、破壊的な副作用に至る代謝経路の低下にも直面するが、その破壊的な副作用は、特定のH/D交換プロセスによって防ぐことができる。例えば、HIV感染の処置のために使用されるNevirpine(Viramune(登録商標))によって引き起こされるヒトにおける皮膚の紅斑および肝毒性は、この薬物の選択的な重水素化によって低減され得る。すべての細胞およびいくつかの細胞小器官(細胞内の部分)の膜に見られる分子である多価不飽和脂肪酸(PUFA)の有害な代謝経路は、数多くの神経疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、フリードライヒ運動失調症など)に関連する。PUFAの有害な代謝経路は、細胞の正常な酸素消費プロセスにおいて絶えず産生されている、ラジカルに基づく分子(ラジカルは自由電子を含む)によって通常、誘導される。次いで、これらの非常に反応性のラジカル種は、PUFAにおける特定のC-H結合を攻撃して切断し、これらの生物学的分子に対して回復不能の損傷をもたらすが、その損傷は、選択的なH/DまたはH/T交換によって防止できる。重大な副作用を有しないと以前に示された選択的に重水素化されたPUFAに基づく薬物は、フリードライヒ運動失調症の処置のために使用することができる。他の多くの潜在的な医薬に対して、標的ビス-アリル(2つのアルケンフラグメントの間に見られるCH基)位におけるPUFAの選択的な重水素化は、金銭的かつ現実的に工業規模では実行可能でないかもしれない広範な合成手順(または完全な合成)に限定されている。ゆえに、遷移金属系錯体によって優先的に実施される選択的かつ触媒的なH/DまたはH/T交換プロセスの開発が、これらの生物学的に重要な分子のさらなる探索および商業実用化にとって非常に価値のあるものになり得る。
【化18】
重水素化ネビラピン
【0077】
本明細書中に記載される方法において使用するための遷移金属系触媒および他の作用物質としては、J.W.Faller,H.Felkin,Organometallics 1985,4,1487;J.W.Faller,C.J.Smart,Organometallics 1989,8,602;B.Rybtchinski,R.Cohen,Y.Ben-David,J.M.L.Martin,D.Milstein,J.Am.Chem.Soc.2003,125,11041;R.Corberan,M.Sanau,E.Peris,J.Am.Chem.Soc.2006,128,3974;S.K.S.Tse,P.Xue,Z.Lin,G.Jia,Adv.Synth.Catal.2010,352,1512;A.Di Giuseppe,R.Castarlenas,J.J.Perez-Torrente,F.J.Lahoz,V.Polo,L.A.Oro,Angew.Chem.Int.Ed.2011,50,3938;M.Hatano,T.Nishimura,H.Yorimitsu,Org.Lett.2016,18,3674;S.H.Lee,S.I.Gorelsky,G.I.Nikonov,Organometallics 2013,32,6599;G.Erdogan and D.B.Grotjahn,J.Am.Chem.Soc.2009,131,10354;G.Erdogan and D.B.Grotjahn,Top Catal.2010,53,1055;M.Yung,M.B.Skaddan,R.G.Bergman,J.Am.Chem.Soc.2004,126,13033;M.H.G.Prechtl,M.Hoelscher,Y.Ben-David,N.Theyssen,R.Loschen,D.Milstein,W.Leitner,Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,2269;T.Kurita,K.Hattori,S.Seki,T.Mizumoto,F.Aoki,Y.Yamada,K.Ikawa,T.Maegawa,Y.Monguchi,H.Sajiki,Chem.Eur.J.2008,14,664;Y.Feng,B.Jiang,P.A.Boyle,E.A.Ison,Organometallics 2010,29,2857;S.K.S.Tse,P.Xue,C.W.S.Lau,H.H.Y.Sung,I.D.Williams,G.Jia,Chem.Eur.J.2011,17,13918;E.Khaskin,D.Milstein,ACS Catal.2013,3,448(これらの各々が、その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されている触媒および作用物質が挙げられ得る。
【0078】
さらなる好適な遷移金属(transitional metal)触媒としては、D.B.Grotjahn,C.R.Larsen,J.L.Gustafson,R.Nair,A.Sharma,J.Am.Chem.Soc.2007,129,9592;J.Tao,F.Sun,T.Fang,J.Organomet.Chem.2012,698,1;Atzrodt,V.Derdau,T.Fey,J.Zimmermann,Angew.Chem.Int.Ed.2007,46,7744.b)T.Junk,W.J.Catallo,Chem.Soc.Rev.1997,26,401;L.Neubert,D.Michalik,S.Baehn,S.Imm,H.Neumann,J.Atzrodt,V.Derdau,W.Holla,M.Beller,J.Am.Chem.Soc.2012,134,12239;T.G.Grant,J.Med.Chem.2014,57,3595;R.P.Yu,D.Hesk,N.Rivera,I.Pelczer,P.J.Chirik,Nature 2016,529,195(これらのすべてが、それらの全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されている触媒が挙げられ得る。
【0079】
アラキドン酸などの高級ホモログを生じるオメガ-6必須PUFAであるリノール酸は、6工程の合成(米国特許出願第12/916347)によって11,11-D2-誘導体として首尾よく調製された。同位体的に修飾された1,4-ジエン、例えば、PUFAを合成するための方法が、本明細書中に記載される。
【0080】
[同位体的に修飾された1,4-ジエンの合成]
修飾されていない1,4-ジエン系から「直接交換」合成経路を介してビス-アリル位において同位体的に修飾された1,4-ジエン系を調製することが、ビス-アリル位に同位体修飾を有する化合物を調製するための効率的な方法である。しかしながら、塩基を用いてビス-アリル水素を引き抜き、得られたラジカルをDOでクエンチし、次いで、このプロセスを繰り返して、第2のビス-アリル水素を置換すると、ビス-アリル位からの水素引き抜きの際に共役1,3-ジエンに再配列する1,4-ジエン系の固有の傾向に起因して、必然的に二重結合がシフトしてしまう。ゆえに、二重結合の再配列をもたらさない「より穏やかな」方法が必要とされる。
【0081】
いくつかの遷移金属が、C-H(炭素-水素)結合を弱めると知られている。例えば、白金錯体は、白金原子をC-H結合に挿入し得る。次いで、得られた有機金属(organometalic)化合物は、同位体的に標識された化合物を得るためのその後の誘導体化(derivization)の影響を受けやすくなる。しかしながら、Shilovシステム(Chem.Rev.1997,97(8),2879-2932)で用いられるように白金を遷移金属として使用することは、(1)Shilovシステムが、より弱いC-H結合よりも、より強いC-H結合を優先的に活性化するので、および(2)白金錯体が、二重結合に対して反応性であるので、PUFAなどのある特定の化合物に直接適用できない場合がある。
【0082】
いくつかの実施形態において、直接交換法は、ビス-アリル位において1つ以上のジュウテリウム原子および/または1つ以上のトリチウム原子によって同位体的に修飾された1,4-ジエン系をもたらす。そのような実施形態は、図1に示されており、ここで、R、R、RおよびRは、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-Cシクロアルキル、C-Cシクロアルケニル、C-Cシクロアルキニル、C-Cカルボシクリル、C-Cヘテロシクリル、C-Cヘテロアリール、C-Cヘテロ脂環式、C-Cアラルキル、C-Cヘテロアラルキル、C-Cヘテロアリシクリル(アルキル)またはC-C低級アルキレン基のうちのいずれか1つ以上であり、そのC-Cの「a」および「b」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20のうちのいずれか1つ以上であり、Yは、ジュウテリウムまたはトリチウムである。R、R、RおよびRの各々は、独立して、置換され得るか、または非置換であり得る。
【0083】
いくつかの実施形態において、1,4-ジエン系のビス-アリル位は、遷移金属および同位体源での処理によって同位体的に修飾される。他の実施形態において、遷移金属は、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはルテニウムのうちのいずれか1つ以上である。他の実施形態において、遷移金属は、ロジウム(II)金属またはルテニウム(III)金属である。他の実施形態において、遷移金属は、ジロジウム(II)またはルテニウム(III)であり、配位子が、利用される。他の実施形態において、遷移金属および配位子は、カプロラクタム酸ジロジウム(II)錯体または塩化ルテニウム(III)錯体である。いくつかの実施形態において、遷移金属は、触媒量で使用される。他の実施形態において、遷移金属は、化学量論的量で使用される。いくつかの実施形態において、共触媒が、使用される。いくつかの実施形態において、同位体源は、DまたはTの起源である。他の実施形態において、同位体源は、重水素化トリブチルスズである。
【0084】
いくつかの実施形態において、式1の化合物から式2および3の化合物への、ならびに/または式2の化合物から式3の化合物への、図2における合成経路は、式4~6の化合物など中間体を介して進行する工程を含み、式中、R’は、独立して、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-Cシクロアルキル、C-Cシクロアルケニル、C-Cシクロアルキニル、C-Cカルボシクリル、C-Cヘテロシクリル、C-Cヘテロアリール、C-Cヘテロ脂環式、C-Cアラルキル、C-Cヘテロアラルキル、C-Cヘテロアリシクリル(アルキル)またはC-C低級アルキレン基から選択され、C-Cの「a」および「b」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20のうちのいずれか1つ以上である。そのような実施形態は、図2に模式的に示されており、R、R、R、RおよびYは、先に定義された。
【0085】
図2の反応(a)において、「アリル酸化」と呼ばれる方法の適合が用いられることにより、式1の化合物から式5の化合物がもたらされる(Catino AJ et al,JACS 2004;126:13622;Choi H.et al Org.Lett.2007;9:5349;および米国特許第6,369,247号明細書(これらの開示の全体が、参照により本明細書に援用される)を参照のこと)。遷移金属および有機過酸化物の存在下における式1の化合物の酸化は、容易に式5の有機過酸化物をもたらす。いくつかの実施形態において、遷移金属は、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはルテニウムのうちのいずれか1つ以上である。他の実施形態において、遷移金属は、ロジウム(II)金属またはルテニウム(III)金属である。他の実施形態において、遷移金属は、ジロジウム(II)またはルテニウム(III)であり、配位子が利用される。他の実施形態において、遷移金属および配位子は、カプロラクタム酸ジロジウム(II)錯体または塩化ルテニウム(III)錯体である。いくつかの実施形態において、遷移金属は、触媒量で使用される。他の実施形態において、遷移金属は、化学量論的量で使用される。
【0086】
多くの有機過酸化物が、本明細書中に記載される実施形態において使用され得る。いくつかの実施形態において、これらの有機過酸化物には、C-Cアルキル過酸化物、C-Cアルケニル過酸化物、C-Cアルキニル過酸化物、C-Cシクロアルキル過酸化物、C-Cシクロアルケニル過酸化物、C-Cシクロアルキニル過酸化物、C-Cカルボシクリル過酸化物、C-Cヘテロシクリル過酸化物、C-Cヘテロアリール過酸化物、C-Cヘテロ脂環式過酸化物、C-Cアラルキル過酸化物、C-Cヘテロアラルキル過酸化物、C-Cヘテロアリシクリル(アルキル)過酸化物またはC-C低級アルキレン基過酸化物が含まれ、C-Cの「a」および「b」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20のうちのいずれか1つ以上である。他の実施形態において、有機過酸化物は、TBHPである。
【0087】
図2において、式5の化合物は、ジュウテリウムおよび/またはトリチウムを1,4-ジエン系のビス-アリル位に組み込むための万能な中間体である。式5の化合物は、還元されることにより、ビス-アリル位にアルコールを有する式6の化合物をもたらすことができる。そのような有機過酸化物の還元は、種々の条件で実施され得、それらの条件としては、水素および触媒;LiAlH、Naのアルコール溶液;Znの酢酸溶液;CuCl;トリフェニルホスフィンおよびトリブチルホスフィンなどのホスフィン;HNCSNH;NaBH;SmI;およびアルミニウムアマルガムが挙げられるが、これらに限定されない(例えば、Comprehensive Organic Transformations,2nd Ed.,1073-75頁およびこれに引用されている参考文献(これらのすべてが参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)。
【0088】
図2において、式6の化合物も、ジュウテリウムおよび/またはトリチウムを1,4-ジエン系のビス-アリル位に組み込むための万能な中間体である。式6の化合物は、複数の方法(反応c)を用いて還元されて式2の化合物をもたらすことができ、その複数の方法としては、重水素化トリブチルスズ脱酸素(Watanabe Y et al,Tet.Let.1986;27:5385);LiBDEt(J.Organomet.Chem.1978;156,1,171;ibid.1976;41:18,3064);Zn/NaI(Tet.Lett.1976;37:3325);DCC(Ber.1974;107:4,1353);チオアセタール(Tet.Lett.1991;32:49,7187)が挙げられるがこれらに限定されない。図2における反応a、bおよびcについて上に記載された工程の反復を用いることにより、同位体的に1つ修飾された式2の化合物を、同位体的に2つ修飾された式3の化合物に変換することができる。
【0089】
あるいは、式6の化合物は、ビス-アリルカルボニル基を有する式4の化合物であり得るか、またはビス-アリルカルボニル基を有する式4の化合物を得るためにさらに酸化され得る(反応d)。そのような酸化は、種々の条件で実施され得る(例えば、Comprehensive Organic Transformations,2nd Ed.,1234-1250頁およびこれに引用されている参考文献(これらのすべてが参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)。式4の化合物に存在するカルボニル基は、様々な反応条件を用いて、ジュウテロメチレン基である-CD-にさらに還元され得、それらの反応条件としては、Wolff-Kishner反応が挙げられるが、これに限定されない(例えば、Furrow ME et al.,JACS 2004;126:5436(参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)。
【0090】
上記の式1および2の化合物に存在する系などの1,4-ジエン系のビス-アリル部位に直接対処するために、遷移金属も使用され得る。そのような遷移金属の使用は、図2の反応fに表されている。そのような遷移金属の使用は、π-アリル錯体の形成、ならびに二重結合の再配列なしでのジュウテリウムおよび/またはトリチウムなどの同位体の同時の挿入を含み得る。このプロセスの実施形態は、図3に表されている。
【0091】
図3において、式8および9の化合物などのジュウテリウム原子含有遷移金属錯体を含む、式7の化合物などの遷移金属錯体は、この1,4-ジエンフラグメントを6員環系に折り畳むのを助ける。次いで、その6員構造の上部におけるビス-アリルメチレンは、ベンゼンにおいてジュウテリウムをスクランブルする周知のプロセスと同様にして重水素化され得る。いくつかの実施形態において、Mは、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはルテニウムのうちのいずれか1つ以上である。他の実施形態において、Mは、ロジウム(II)金属またはルテニウム(III)金属である。他の実施形態において、Mは、ジロジウム(II)またはルテニウム(III)であり、配位子が、利用される。他の実施形態において、Mは、カプロラクタム酸ジロジウム(II)錯体または塩化ルテニウム(III)錯体である。図3において、R、R、R、RおよびYは、上で定義されたとおりである。
【0092】
[同位体的に修飾されたPUFAの合成:]
「直接交換」合成経路を介した修飾されていないPUFAからの同位体的に修飾されたPUFAの調製は、図1~3において、上に記載されたように達成され得る。いくつかの実施形態において、式1の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化19】
式1A~1Cの化合物において、Rは、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-Cシクロアルキル、C-Cシクロアルケニル、C-Cシクロアルキニル、C-Cカルボシクリル、C-Cヘテロシクリル、C-Cヘテロアリール、C-Cヘテロ脂環式、C-Cアラルキル、C-Cヘテロアラルキル、C-Cヘテロアリシクリル(アルキル)またはC-C低級アルキレン基であり、そのC-Cの「a」および「b」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20のうちのいずれか1つ以上である。いくつかの実施形態において、Rは、C-Cアルキル基であり、そのC-Cの「a」および「b」は、1、2、3、4または5のうちのいずれか1つ以上である。
【0093】
いくつかの実施形態において、式2の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化20】
式2A~2Cの化合物において、YおよびRは、先に定義されたとおりである。
【0094】
いくつかの実施形態において、式3の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化21】
式3A~3Eの化合物において、YおよびRは、先に定義されたとおりである。
【0095】
いくつかの実施形態において、式4の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化22】
式4A~4Cの化合物において、Rは、先に定義されたとおりである。
【0096】
いくつかの実施形態において、式5の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化23】
式5A~5Cの化合物において、R’およびRは、先に定義されたとおりである。
【0097】
いくつかの実施形態において、式6の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化24】
式6A~6Cの化合物において、Rは、先に定義されたとおりである。
【0098】
いくつかの実施形態において、式7の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化25】
式7A~7Cの化合物において、MおよびRは、先に定義されたとおりである。
【0099】
いくつかの実施形態において、式8の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化26】
式8A~8Cの化合物において、M、YおよびRは、先に定義されたとおりである。
【0100】
いくつかの実施形態において、式9の化合物は、以下の化合物のうちのいずれか1つ以上から選択される:
【化27】
式9A~9Cの化合物において、M、YおよびRは、先に定義されたとおりである。
【0101】
[部位特異的同位体修飾の方法]
D-PUFAは、単純なフラグメントを段階的な様式で化学的にアセンブルして所望の誘導体を生成する全合成によって製造され得る。その単純なD-PUFAであるD-リノール酸(D-Lin)は、このアプローチを用いて生成され得る。しかしながら、二重結合の数が増加するにつれて、その合成は、より複雑かつ高価になり、収率は低下し、不純物のレベルが上がる。2より多い二重結合の数を有するD-PUFA、例えば、リノレン酸(LNN)、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびデコサヘキサエン酸(decosahexaenoic)(DHA)は、ますます生成するのが困難である。精製工程を必要としない合成法が、非常に望ましい。しかし、2より多い二重結合数のために、D-PUFAは、高価で時間のかかるクロマトグラフィー精製工程を必要とし得る。4を超える二重結合の数を有するD-PUFAの場合、硝酸銀含浸シリカゲルクロマトグラフィーに基づく精製が、いっそう非効率的であることから、全合成の製造アプローチが本質的に不適切となる。本明細書中に記載される方法は、より少ない反応工程で選択的かつ効率的な同位体修飾を達成するだけでなく、高価で時間のかかる精製工程を回避する。
【化28】
【0102】
遷移金属を触媒として使用する、1つのアルケンを含む分子の従来の重水素化は、主にビニル位(二重結合した炭素原子に結合している水素原子)が選択的に重水素化されることをはじめとした問題を有することが多い。多くのアルケンは、動きが制限された二重結合を含む。直鎖(動きが制限されていない)アルケンの限定的な例は、位置異性体を生成し、cisからtransへの異性化は、常に重水素化プロセスを伴い、多価不飽和アルケンが関わるH/D交換に関するいかなる報告もない。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、PUFAの二重結合は、cis配置で存在するだけなく、メチレン基(すなわち、ビス-アリル位;図1)によって分断されているので、いくつかの触媒系は、これらの分子のビス-アリル位における標的H/D交換にとって十分でないと考えられている。この特定のアルケン配置は、すべてのtrans結合を共役配置で含む系よりも熱力学的に好ましくない。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、ある触媒系が、既に記載された機構のいずれかによってビス-アリル位において選択的な重水素化を行う場合、これらの熱力学的なシンク/トラップにポリアルケンが「落ち込む」ことが防止される必要があると考えられている;さもなければ、標的H/D交換は、新しい同位体修飾の機構によって行われる必要があるだろう。最も安価なジュウテリウム源であるDOを用いた、商業的に入手可能なRu系錯体によるビス-アリル部位における様々なポリアルケン(PUFAを含む)の選択的かつ効率的な重水素化が、本明細書中に記載される方法によって達成され得る。本明細書中に記載される同位体修飾は、様々な有機基質の重水素化のために既に確立されたものとは全く異なる機構によって、熱力学的副生成物(trans-異性体および共役アルケン)が無い状態で生じ得る。
【化29】
【0103】
本明細書中に記載される方法を用いることによって、容易に入手可能な同位体修飾剤(例えば、ジュウテリウム源としてDO)を用いて、遷移金属系触媒(例えば、Ru系錯体)によるビス-アリル部位における様々な多価不飽和脂質(PUFAを含む)の選択的かつ効率的な同位体修飾(例えば、DまたはT)を達成することができる。H/D交換などの同位体修飾は、熱力学的副生成物(trans-異性体および共役アルケン)が無い状態で生じ得る。
【0104】
さらに、本明細書中に記載される方法を用いることによって、反応前に多価不飽和脂質を分離する必要なく、多価不飽和脂質(例えば、PUFAまたはPUFAエステル)の混合物の選択的な同位体修飾を行うことができる。
【0105】
本明細書中に記載されるように、遷移金属系触媒(例えば、Ru系触媒)は、3つ以上の二重結合を有する系(例えば、E-Lnn、E-Ara、E-DHAなど)のビス-アリル位を重水素化し得るか、またはトリチウム化し得、かつその多価不飽和脂質におけるcis-trans異性化またはアルケン共役を引き起こさない。E-Lnnのビス-アリル位の重水素化に対する中間体が、図5に示されている。
【0106】
本明細書中に記載される方法を用いることにより、1つ以上のアリル位において選択的に重水素化されたまたはトリチウム化された多価不飽和脂質を得ることができる。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される方法は、1つ以上のアリル位において重水素化されたまたはトリチウム化された多価不飽和脂質の混合物を生成し得る。
【0107】
重水素化されていない「天然の」PUFAから直接開始する、ビス-アリル部位における触媒的H/D交換が、本明細書中に記載される方法を用いて達成される。本明細書中に記載される合成方法は、熱力学的な問題と選択性の問題の両方を解決し得る。PUFAの二重結合は、cis配置であるだけでなく、すべてのtrans結合を共役配置で含み得る系よりも熱力学的に好ましくないメチレン基(すなわち、ビス-アリル位またはスキップジエン)によって分断されている。さらに、標的H/D交換のための機構が、アリル中間体の形成を必要とし得る場合、モノ-アリル位とビス-アリル位との区別は、困難であり得る。
【0108】
本明細書中に記載される方法は、多価不飽和脂質の部位特異的重水素化をもたらし、ここで、その重水素化は、モン-アリル(mon-allylic)位およびビス-アリル位において生じる。3つ以上の二重結合を有する多価不飽和脂質の場合、本明細書中に記載される方法は、主にビス-アリル位で生じる重水素化をもたらすことができる。
【0109】
いくつかの実施形態は、多価不飽和脂質を同位体で部位特異的に修飾するための方法に関し、その方法は、遷移金属系触媒の存在下で多価不飽和脂質を同位体含有物質と反応させることによって、1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位にその同位体を有する同位体的に修飾された多価不飽和脂質を得る工程を含み、その同位体含有物質は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の同位体を含む。
【0110】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸チオエステル、脂肪酸アミド、脂肪酸模倣物および脂肪酸プロドラッグからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸チオエステルおよび脂肪酸アミドからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、脂肪酸または脂肪酸エステルである。
【0111】
複数の二重結合を有する多価不飽和脂質は、本明細書中に記載される方法を用いて、同位体的に修飾され得る。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、3つ以上の炭素-炭素二重結合を有する。
【0112】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂肪酸は、式(IA):
【化30】
(式中、
は、HおよびC1-10アルキルからなる群より選択され;
は、-OH、-OR、-SR、ホスフェートおよび-N(Rからなる群より選択され;
各Rは、独立して、C1-10アルキル、C2-10アルケン、C2-10アルキン、C3-10シクロアルキル、C6-10アリール、4~10員のヘテロアリールおよび3~10員の複素環式環からなる群より選択され、各Rは、置換されるか、または非置換であり;
nは、1~10の整数であり;
pは、1~10の整数である)
に記載の構造を有する。
【0113】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、オメガ-3脂肪酸、オメガ-6脂肪酸およびオメガ-9脂肪酸からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、オメガ-3脂肪酸である。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、オメガ-6脂肪酸である。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、オメガ-9脂肪酸である。
【0114】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、リノール酸およびリノレン酸からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、リノール酸である。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、リノレン酸である。
【0115】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、ガンマリノレン酸、ジホモガンマリノレン酸、アラキドン酸およびドコサテトラエン酸からなる群より選択される。
【0116】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂肪酸エステルは、トリグリセリド、ジグリセリドおよびモノグリセリドからなる群より選択される。
【0117】
いくつかの実施形態において、脂肪酸エステルは、エチルエステルである。
【0118】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、1つ以上のビス-アリル部位にジュウテリウムを有する重水素化多価不飽和脂質である。
【0119】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、すべてのビス-アリル部位にジュウテリウムを有する重水素化多価不飽和脂質である。
【0120】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、1つ以上のモノ-アリル部位にジュウテリウムを有する重水素化多価不飽和脂質である。
【0121】
いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、少なくとも1つの1,4-ジエン部分を有する。いくつかの実施形態において、多価不飽和脂質は、2つ以上の1,4-ジエン部分を有する。
【0122】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%を超える重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に50%を超える重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に90%を超える重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に95%を超える重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に約50%~約95%の範囲の重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に約80%~約95%の範囲の重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、ビス-アリル部位に約80%~約99%の範囲の重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。
【0123】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に80%、70%、60%、50%、45%、40%、35%、30%、20%または10%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に60%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に50%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に45%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に40%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に35%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に30%より低い重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に約50%~約20%の範囲の重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、モノ-アリル部位に約60%~約20%の範囲の重水素化度を有する重水素化多価不飽和脂質である。
【0124】
いくつかの実施形態において、遷移金属系触媒は、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ルテニウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される遷移金属を含む。いくつかの実施形態において、遷移金属系触媒は、ルテニウム触媒である。
【0125】
いくつかの実施形態において、遷移金属系触媒は、式(IIA):
[ML(L]Q (IIA)
(式中、
Mは、ロジウム、イリジウム、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムおよびルテニウムからなる群より選択され;
は、C3-10シクロアルキル、C6-10アリール、4~10員のヘテロアリールおよび3~10員の複素環式環からなる群より選択され、Lは、置換されるか、または非置換であり;
各Lは、独立して、アミン、イミン、カルベン、アルケン、ニトリル、イソニトリル、アセトニトリル、エーテル、チオエーテル、ホスフィン、ピリジン、非置換C3-10シクロアルキル、置換C3-10シクロアルキル、置換C6-10アリール、4~10員の置換ヘテロアリール、非置換C6-10アリール、4~10員の非置換ヘテロアリール、3~10員の置換複素環式環、3~10員の非置換複素環式環およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択され;
mは、1~3の整数であり、
Qは、単一電荷を有するアニオンであり、
nは、0または1である)
に記載の構造を有する。
【0126】
いくつかの実施形態において、Mは、ルテニウムである。
【0127】
いくつかの実施形態において、Lは、C3-10シクロアルキルであり、Lは、置換されるか、または非置換である。いくつかの実施形態において、Lは、4~10員のヘテロアリールであり、Lは、置換されるか、または非置換である。いくつかの実施形態において、Lは、非置換シクロペンタジエニルである。いくつかの実施形態において、Lは、置換シクロペンタジエニルである。
【0128】
いくつかの実施形態において、各Lは、独立して、アミン、ニトリル、イソニトリル、アセトニトリル、エーテル、チオエーテル、ホスフィン、イミン、カルベン、ピリジン、置換C6-10アリール、4~10員の置換ヘテロアリール、非置換C6-10アリール、4~10員の非置換ヘテロアリール、3~10員の置換複素環式環および3~10員の非置換複素環式環からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、各Lは、-NCCHである。いくつかの実施形態において、各Lは、独立して、-NCCH、P(Rおよび4~10員の置換ヘテロアリールならびにそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのLは、-P(Rであり、各Rは、独立して、水素、C1-15アルキル、C3-8シクロアルキル、4~10員のヘテロアリール、C6-15アリールからなる群より選択され、これらの各々は、C1-15アルキル、C2-15アルケン、C2-15アルキン、ハロゲン、OH、シアノ、アルコキシ、C3-8シクロアルキル、4~10員のヘテロアリールおよびC15アリールで必要に応じて置換される。いくつかの実施形態において、P(Rは、P(t-Bu)(C)である。いくつかの実施形態において、P(Rは、4-(tert-ブチル)-2-(ジイソプロピルホスファネイル)-1H-イミダゾールである。いくつかの実施形態において、各Lは、独立して、アセトニトリルまたは必要に応じて置換されるシクロペンタジエニルである。
【0129】
いくつかの実施形態において、mは、2である。いくつかの実施形態において、mは、3である。いくつかの実施形態において、mは、4である。
【0130】
いくつかの実施形態において、Qは、(PF、Cl、F、I、Br、NO 、ClO またはBF である。いくつかの実施形態において、Qは、(PFである。
【0131】
遷移金属系触媒である本明細書中に記載される式(IIA)において、各Lは、独立して、好適な単座配位子または多座配位子配位子のリストから選択され得る。いくつかの実施形態において、各Lは、独立して、アミン、イミン、カルベン、アルケン、ニトリル、イソニトリル、アセトニトリル、エーテル、チオエーテル、ホスフィン、ピリジン、置換C6-10アリール、4~10員の置換ヘテロアリール、非置換C6-10アリール、4~10員の非置換ヘテロアリール、3~10員の置換複素環式環および3~10員の非置換複素環式環からなる群より選択される少なくとも2つの部分を含み得る。いくつかの実施形態において、1つのLは、アミンであり得、1つのLは、カルベンであり得、1つのLは、イミンであり得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのLは、配位子の中に2つまたは3つのキレート原子を有し得る。いくつかの実施形態において、式(IIA)における1つのLは、イミン部分とホスフィン部分の両方および2つ以上のキレート原子を有する配位子であり得る。いくつかの実施形態において、式(IIA)における1つのLは、ニトリル、イソニトリルおよびホスフィン部分ならびに少なくとも3つのキレート原子を有する配位子であり得る。
【0132】
いくつかの実施形態において、ルテニウム触媒は、
【化31】
からなる群より選択される構造を有する。
【0133】
いくつかの実施形態において、ルテニウム触媒は、
【化32】
の構造を有する。
【0134】
いくつかの実施形態において、遷移金属系触媒は、
【化33】
の構造を有する。いくつかの実施形態において、ルテニウム触媒は、
【化34】
の構造を有する。
【0135】
いくつかの実施形態は、多価不飽和脂質混合物を同位体で部位特異的に修飾するための方法に関し、その方法は、遷移金属系触媒の存在下で多価不飽和脂質混合物を同位体含有物質と反応させることによって、1つ以上のモノ-アリル部位またはビス-アリル部位に同位体を有する同位体的に修飾された多価不飽和脂質混合物を得る工程を含み、その同位体含有物質は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種の同位体を含む。
【0136】
[組成物]
いくつかの実施形態は、主に1つ以上のアリル部位に同位体を有する1つ以上の同位体的に修飾された多価不飽和脂質を含む組成物に関し、その同位体は、ジュウテリウム、トリチウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの実施形態において、同位体は、ジュウテリウムである。いくつかの実施形態において、同位体は、トリチウムである。
【0137】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、本明細書中に記載される方法に従って調製される。
【0138】
いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される組成物における同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、主にビス-アリル部位において重水素化されている。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される組成物における同位体的に修飾された多価不飽和脂質は、主にモノ-アリル部位において重水素化されている。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される組成物は、2つ以上の炭素-炭素二重結合を有する多価不飽和脂質を含む。いくつかの実施形態において、本明細書中に記載される組成物は、3つ以上の炭素-炭素二重結合を有する多価不飽和脂質を含む。
【0139】
開示される反応スキームによってもたらされる同位体的に標識された化合物は、重要な生物学的プロセスに対して最小の影響を及ぼすべきであるかまたはそのような影響を及ぼすべきでない。例えば、生物学的基質に存在する同位体の天然存在度は、同位体的に標識された低レベルの化合物が、生物学的プロセスに対して無視できる影響を及ぼすだろうということを含意する。さらに、水素原子が水から生物学的基質に組み込まれるが、低レベルのDOすなわち重水の消費は、ヒトに健康の脅威を与えないことが知られている。例えば、“Physiological effect of heavy water.”Elements and isotopes:formation,transformation,distribution.Dordrecht:Kluwer Acad.Publ.(2003)pp.111-112(70kgの人間が、深刻な結果なしに4.8リットルの重水を飲むかもしれないことが示唆されている)を参照のこと。さらに、多くの同位体的に標識された化合物が、U.S.Food&Drug Administrationによって診断目的および処置目的で承認されている。
【0140】
開示される反応スキームによってもたらされる化合物を同位体的に標識することに関して、いくつかの実施形態において、ジュウテリウムは、地球上の海洋に天然に存在するすべての水素のおよそ0.0156%という天然存在度を有する。したがって、天然存在度を超えるジュウテリウムを有するPUFAなどの1,4-ジエン系は、このレベルより高いかまたはおよそ0.0156%という天然存在度レベルより高いレベル(例えば、0.02%)のジュウテリウムで強化された水素原子を有し得るが、好ましくは、各PUFA分子における1つ以上の水素原子に対して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは100%または上述のパーセンテージのいずれか2つによって境界される範囲のジュウテリウムを有し得る。
【0141】
いくつかの実施形態において、同位体純度は、分子の総数に対する、組成物中の同位体的に修飾された1,4-ジエン系、例えば、PUFAの分子のパーセンテージのことを指す。例えば、同位体純度は、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは100%または上述のパーセンテージのいずれか2つによって境界される範囲であり得る。いくつかの実施形態において、同位体純度は、組成物中の分子の総数の約50%~99%であり得る。
【0142】
いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された化合物は、1つのジュウテリウム原子を含み得る(例えば、メチレン基における2つの水素のうちの1つがジュウテリウムによって置換されているとき)ので、それは、「D1」化合物と称されることがある。同様に、同位体的に修飾された化合物は、2つのジュウテリウム原子を含み得る(例えば、メチレン基における2つの水素が両方ともジュウテリウムによって置換されているとき)ので、ゆえに、「D2」化合物と称されることがある。同様に、同位体的に修飾された化合物は、3つのジュウテリウム原子を含み得、「D3」化合物と称されることがある。同様に、同位体的に修飾された化合物は、4つのジュウテリウム原子を含み得、「D4」化合物と称されることがある。いくつかの実施形態において、同位体的に修飾された化合物は、5つのジュウテリウム原子または6つのジュウテリウム原子を含み得、それぞれ「D5」または「D6」化合物と称されることがある。
【0143】
分子における重原子の数、すなわち同位体負荷率(isotopic load)は、様々であり得る。例えば、比較的低い同位体負荷率を有する分子は、約1、2、3、4、5または6個のジュウテリウム原子を含み得る。中程度の同位体負荷率を有する分子は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個のジュウテリウム原子を含み得る。非常に高い負荷率を有する分子では、各水素が、ジュウテリウムで置換され得る。したがって、同位体負荷率は、各分子における重原子のパーセンテージのことを指す。例えば、同位体負荷率は、同じタイプの重原子を有しない分子と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは100%または上述のパーセンテージのいずれか2つによって境界される範囲の同じタイプの原子の数であり得る(例えば、水素は、ジュウテリウムと「同じタイプ」であり得る)。組成物、特に、PUFA組成物中に高い同位体純度が存在するが、所与の分子には低い同位体負荷率が存在する場合、意図しない副作用が低減すると予想される。例えば、高い同位体純度であるが低い同位体負荷率を有するPUFA組成物を使用することによって、代謝経路はより影響を受けないようである。
【0144】
メチレン基の2つの水素のうちの1つが、ジュウテリウム原子で置換されるとき、得られる化合物は、立体中心を有し得ることが容易に理解されるだろう。いくつかの実施形態において、ラセミ化合物を使用することが望ましい場合がある。他の実施形態において、鏡像異性的に純粋な化合物を使用することが望ましい場合がある。さらなる実施形態において、ジアステレオ異性的に純粋な化合物を使用することが望ましい場合がある。いくつかの実施形態において、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%もしくは100%または上述のパーセンテージのいずれか2つによって境界される範囲の鏡像体過剰率および/またはジアステレオ過剰率を有する化合物の混合物を使用することが望ましい場合がある。いくつかの実施形態において、例えば、酵素反応またはキラル分子との接触が、酸化的損傷を弱めるために標的化されているとき、実施形態の立体化学的に純粋なエナンチオマーおよび/またはジアステレオマーを利用することが好ましい場合がある。しかしながら、多くの状況において、非酵素的プロセスおよび/または非キラル分子が、酸化的損傷を弱めるために標的化されている。そのような状況において、実施形態は、立体化学的純度の懸念なく利用され得る。さらに、いくつかの実施形態において、化合物が、酸化的損傷を弱めるために酵素反応および/またはキラル分子を標的化しているときでさえ、エナンチオマーおよびジアステレオマーの混合物が使用され得る。
【0145】
いくつかの態様において、同位体的に修飾された化合物は、投与時に、ある量の重原子を特定の組織に付与する。したがって、いくつかの態様において、重分子の量は、組織における同じタイプの分子の特定のパーセンテージであり得る。例えば、重分子のパーセンテージは、約1%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%または上述のパーセンテージのいずれか2つの選択によって境界される範囲であり得る。
【実施例
【0146】
[実施例1.リノール酸メチルの酸化]
【化35】
【0147】
リノール酸メチル(400mg、1.36mmol;99%純度)を5mLの無水塩化メチレンに溶解した。炭酸カリウム(94mg、0.68mmol)およびカプロラクタム酸ジロジウム(II)の小さい結晶(2mg)を加え、その混合物を撹拌することにより、薄紫色の懸濁液を得た。Tert-ブチルヒドロペルオキシド(0.94mL、6.8mmol;70%水溶液 約7.2M)を加え、その反応混合物を撹拌した。45分後に行ったTLC(9:1ヘプタン:酢酸エチル)は、出発物質が存在しないこと(R=0.51)、近くを流れる1つのメジャースポット(R=0.45)およびいくつかのより遅いスポットを示した。その反応混合物を、15%亜硫酸ナトリウム水溶液の存在下において撹拌し、12%ブライン(brine)および飽和ブラインで洗浄し、次いで、硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過および揮発性物質の除去によって、黄色物質を得た。このスケールでの4回のランを合わせ、シリカゲルカラム(床=2.4cm×25cm)においてクロマトグラフィー分析した。そのカラムは、99:1ヘプタン:酢酸エチルが詰められており、それを1%~7%の酢酸エチルのグラジエントで溶出した。R=0.45の主要な生成物を300mgの無色物質として単離したところ、それは、TLCおよびLC/MSによって実質的に純粋であった。この材料のNMRスペクトルは、11-t-ブチルペルオキシリノール酸メチルに対して報告されたもの(Lipids 2000,35,947)と一致した。UVおよびIR解析から、単離された生成物が、共役ジエンでないことが確認された。
【0148】
米国特許第6,369,247号明細書の実施例3(参照により本明細書中に援用される)において特定されている条件下での、TBHPおよび触媒的塩化ルテニウム(III)を含むヘプタン/水を用いたリノール酸メチルの酸化は、上に記載された反応順序と本質的に同じ結果をもたらした。
【0149】
[実施例2.同位体的に修飾された多価不飽和脂質の合成]
【0150】
同位体修飾をビス-アリル部位において選択的に行うために、様々なRu系錯体を使用した。試験されたPUFAのいくつかは、2つの二重結合を有し、いくつかは、3つ以上の二重結合を有する。これらの反応は、観察可能なtrans異性化も、共役配置の形成ももたらさなかった。
【0151】
図4は、この同位体修飾反応のために使用された6つのRu系錯体を示している。図4において、錯体1は、モノ-アルケンのアリル位において、触媒的重水素化を行うことができる。しかしながら、この錯体は、最大30個の位置にわたって二重結合を移動させることができる優れたアルケンジッパー触媒でもあり得る。
【化36】
【0152】
様々なRu錯体(図4における錯体1~6)を部位特異的同位体修飾反応において試験した。各試験において、多価不飽和脂質を、各錯体を含むアセトン溶液と混合し、その反応混合物を直ちに共役系の形成に進めた。結果を下記の表1に示し、その表1の前に、この表において使用されている省略形の定義を含む略語一覧を示す。
【化37】
【0153】
【表1】
【0154】
錯体4を用いたE-Lnnのビス-アリル位の重水素化が、60℃のアセトン溶液中の過剰なDOにE-Lnnを加えることによって達成され、94%のビス-アリルプロトンおよび19%のモノ-アリルプロトンがH/D交換を起こし(エントリー5、表1)、リノレン酸エチル(E-Lnn)が得られたことから、選択的な同位体修飾が示された。
【0155】
錯体4を重水素化反応において試験したところ、試験された他の調査された試験錯体よりも部位特異的重水素化に対して効率的な触媒であることが証明された。1、2および3におけるホスフィン配位子(1におけるイミダゾリル部分を含む)は、重水素化プロセスに関与しなかった可能性がある。それにもかかわらず、錯体5(図4)が、E-Lnnに対して低い活性を示したので(エントリー7、表1)、シクロペンチル環の存在は、かなり重要であると見られる。しかしながら、4の完全メチル化されたアナログである錯体6(図4)は、E-Lnnを基質として使用したとき、標的の重水素化において、いかなる手がかりもなく、cis-trans異性化だけを行ったことを示した。
【0156】
アラキドン酸エチル(E-Ara、エントリー6、表1)、ドコサヘキサエン酸エチル(E-DHA、エントリー7、表1)、リノレン酸のトリグリセリド(T-Lnn;エントリー8、表1)およびアラキドン酸のトリグリセリド(T-Ara;エントリー9、表1)が、錯体4を用いて、ビス-アリル位において首尾良く選択的に重水素化された。E-Lnn、E-AraおよびE-DHAの混合物(1:1:1の質量比、エントリー10、表1)を用いて、選択的なH/D交換を行うことも可能であり、様々なPUFAの中から費用のかかる分離を不要にする大きな可能性が示唆された。E-LnnおよびE-DHAのアルコールアナログ(O-LnnおよびO-DHA;エントリー11および13)および炭化水素アナログ(H-LnnおよびH-DHA;エントリー12および14)も、標的の重水素化に適切な基質であった。ビス-アリル位における平均重水素化は、およそ95%であった一方で、モノ-アリル位は、選択された基質に対して約25%以下で重水素化された。モノアリル位と比べてビス-アリル位でのより高い重水素化度(約98%)が可能であったが、選択性が失われた(例えば、エントリー12および13、表1を参照のこと)。13C NMR分光法を用いることによって、異なる(脂肪族 対 エステル/アルコール/還元脂肪族)モノ-アリル位における重水素化の相対パーセンテージを推定することが可能であった。すべての場合において、より長い鎖またはエステル/アルコール基の存在を有するモノ-アリル部位は、おそらくより大きな立体的影響に起因して、重水素化の程度がより低かった(例えば、エントリー7、表1)。
【0157】
表1において用いられた反応条件に対して、任意のcis-trans異性化が生じるかを調べるために、DOの代わりにHOを使用することによって、制御された実験を行った。13C NMRスペクトルにおけるE-Linのアリル位は、cisからtransに異性化した各二重結合について、約5ppm低磁場にシフトしたことが報告されている。例えば、E-Lnnにおけるビス-アリル位は、隣接する2つの二重結合を有するので、これらの二重結合のいずれか1つが、transに異性化される場合、δシグナルが、約5ppm低磁場にシフトし得る。両方の結合が、transに異性化される場合、そのシフトは、約10ppmである。この情報を用いて、DOをHOで置き換えた表2に記載されている実験を繰り返したところ、試みたいずれのPUFAに対しても、いかなるtrans含有異性体も形成されなかったことが、13C NMR分光法によって確かめられた。
【0158】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、これまで収集された実験データは、錯体4を用いた重水素化の機構が、他の有機基質について記載されたものとは異なることが示唆されたと考えられる。錯体4が、(i)E-Linをモノ-アリル位だけにおいて重水素化すること、(ii)3つ以上の二重結合を有する系(E-Lnn、E-Ara、E-DHA)のビス-アリル位を重水素化すること、および(iii)これらのPUFAにおいてcis-trans異性化を引き起こさないことを考慮すると、アニオン性のアリル中間体が、観察されたH/D交換に対する機構全体に関与しなかった可能性がある。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、E-Lnnのビス-アリル位の重水素化に対して存在し得る中間体が図5に示されていると考えられる。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、その基質は、2つの二重結合を介してルテニウム中心に結合し、それにより、ビス-アリル部位の1つのプロトンがより金属中心に近くなり、Ru...H接触(アゴスティック相互作用)がもたらされ得ると考えられる。次いで、このRu...H接触は、そのプロトンの酸性度を上昇させて、いかなるcis-trans異性化または共役系の形成もなく、標的H/D交換を可能にし得る。この中間体は、E-Linに対してモノ-アリル選択性をもたらし得る。なぜなら、この基質の唯一のビス-アリル位が、ルテニウム中心から離れて向き得るからである。このことは、ペンダント基の立体的な要求に基づき、モノ-アリル位の重水素化の選択性ももたらし得る(E-DHAの場合)(エントリー9、表1)。
【0159】
本明細書中に記載される直接的なビス-アリル重水素化方法は、いくつかのRu系錯体(図4)を用いて、様々なPUFAを効率的に修飾した。錯体(2)は、錯体1と比べて、二重結合の共役をもたらさなかったが、この錯体は、E-Linのモノ-アリル位の重水素化だけを行うことができた。しかしながら、E-Lnnの使用は、ビス-アリル位の重水素化も同様にもたらした。錯体1、2および3におけるホスフィン配位子は、反応速度は別として、標的の重水素化に対して影響を及ぼさず、錯体4が最も見込みのある選択肢であることをもたらした。最後に、モノ-アリル位における重水素化が最小で、E-Lnn、E-Ara、E-DHAおよびT-Lnnのビス-アリル位におけるH/D交換が、錯体4を用いて達成された。
【0160】
ポリブタジエンおよびcis-1,4-ヘキサジエンを用いたH/D交換も試験した。cis-ポリブタジエンの溶解度は、アセトン/DO混合物において理想的ではなかったが、このポリマーも、モノ-アリル位において重水素化されることができたことを示唆する証拠が存在した(POLY;エントリー17、表1)。この材料は、アルケンフラグメントの間に2つのメチレン基を含むので、記載される重水素化は、スキップアルケン(例えば、PUFA)だけに限定されないことが示唆された。さらに、cis-1,4-ヘキサジエン(HEXD;エントリー18、表1)のアリル-CH基においてもH/D交換が成功し、これは、化学的に異なるアルケン基の存在が、重水素化に使用できたことを強調する。
【0161】
ルテニウム触媒におけるCp配位子の役割も調べた。Hexa(アセトニトリル)錯体5(図4)は、E-Lnnを用いたとき、重水素化能力を示さなかったことから、環状置換基の重要性が示された(エントリー15、表1)。しかしながら、過メチル化アナログを使用した場合(すなわち、錯体6;図4)、cisからtransへの異性化だけが観察された(エントリー16、表1)。多価不飽和アルケンのcis-trans異性化の割合は、Cp環がメチル化されるときにRu-アルケン結合の相互作用のうちの1つがゆるむことにおそらく起因して、Cp環にメチルフラグメントが連続的に付加するにつれて徐々に増加した。
【0162】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、E-Linを基質として使用したとき、錯体1は、共役系を形成したと考えられ、これは、標的のビス-アリル重水素化を触媒するのに効果的でない可能性がある。より立体的に要求の厳しい錯体(2)を形成することにより、二重結合の共役の非存在およびE-Linのモノ-アリル位の選択的な重水素化がもたらされた。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、全体のイミダゾリル-ホスフィン配位子の冗長性は、錯体3の活性、およびより重要なことには、錯体ホスフィン非含有錯体4の活性によって支持されたと考えられる。次いで、錯体4を使用して、ポリブタジエンおよびcis-1,4-ヘキサジエンを含む様々な基質の選択的な重水素化を行った。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、その機構は、様々な有機基質の重水素化について記載された他のどの機構とも異なる、ビス-アルケン中間体の形成が関係すると考えられる。
【0163】
ほとんどの場合において(例えば、エントリー1~4および9~18、表1)、上記反応物を、以下の手順に従ってJ.Young NMRチューブを用いて調製し、モニターした:J.Young NMRチューブに、10mgの基質を投入した後、DO(ビス-アリル位1つあたり73または100当量;またはポリブタジエンの場合、溶解度の問題に起因して、メチレン基1つあたり5当量)およびアセトン-d(約0.5ml)を投入し、その後、まず、H NMRスペクトルを取得した。グローブボックス内において、ルテニウム錯体をアセトン-d(約0.3ml)に溶解し、上記チューブに移し、必要であれば加熱した。反応の進行を、最初の12時間は1時間ごとのH NMRスキャン、その後は、毎日のスキャンによってモニターした。
【0164】
選択されたラン(エントリー5~8、表1)に対しては、これらの反応の実質的に定量的な収量を得ることができたことを強調するために、上記反応を、100mgの基質を用いて行った:グローブボックス内において、2本のシンチレーションバイアルに、それぞれ基質(E-Lnn、E-Ara、E-DHAまたはT-Lnn)および錯体4を投入した。両方を、それぞれ3つの0.5mlのアセトンを用いて2つの別個のSchlenkフラスコに移した。PUFAを含むフラスコにDOを加えた後、同種の(homogenous)溶液を形成するのに必要な量のアセトンを加えた。次いで、錯体4を含むアセトンの溶液を、基質/DO含有溶液に移し、反応物を室温において撹拌したまま放置した。反応が完了したら、過剰量の2N HCl(反応混合物の5倍以上の体積)を加え、その混合物を15分間、激しく撹拌した。その生成物を100mlのヘキサンで抽出し、次いで、その溶液を飽和NaHCOおよびNaCl溶液で洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。その溶液を濾過し、活性炭を加えた。さらに15分間撹拌し、濾過して、真空中で揮発性物質を除去することにより、所望の生成物を得た。
【0165】
[様々なルテニウム錯体を用いてE-LinおよびE-Lnnを重水素化するための一般手順A(表1)]
J Young NMRチューブに、PUFAを投入した後、DOおよびアセトン-dを投入し、その後、まず、H NMRスペクトルを取得した。次いで、グローブボックス内において、PUFA溶液を、それぞれのルテニウム錯体を含むシンチレーションバイアルに移した。得られた溶液を十分に混合し、NMRチューブに戻した。反応の進行を、最初の12時間は1時間ごとのH NMRスキャン、その後は、毎日のスキャンによってモニターした。
【0166】
[錯体4を用いて様々なPUFAを重水素化するための一般手順B]
グローブボックス内において、2本のシンチレーションバイアルに、それぞれPUFAおよび錯体4を投入した。両方を、それぞれ3つの0.5mlのアセトンを用いて2つの別個のSchlenkフラスコに移した。PUFAを含むフラスコにDOを加えた後、同種の溶液を形成するのに必要な量のアセトンを加えた。次いで、錯体4を含むアセトンの溶液を、カニューレを介してPUFAの溶液に加え、反応物を室温において撹拌したまま放置した。反応が完了したら、過剰量の2N HCl(反応混合物の5倍以上の体積)を加え、その混合物を15分間、激しく撹拌した。その生成物を100mlのヘキサンで抽出し、次いで、その溶液を飽和NaHCOおよびNaCl溶液で洗浄し、無水NaSOで乾燥させた。その溶液を濾過し、活性炭を加えた。さらに15分間撹拌し、濾過して、真空中で揮発性物質を除去することにより、所望の生成物を得た。
【0167】
[重水素化されたリノレン酸エチル(E-Lnn)の合成]
一般手順Bの後、100mgのE-Lnn(0.326mmol)、1.18mlのD2O(65.40mmol)および1.42mgの錯体4(1%、3.26μmol)を含む10mlのアセトンを共に混合し、1時間撹拌して、所望の重水素化された生成物を無色透明の油状物として得た(101.06mg、99.6%収率)。
【0168】
[重水素化されたアラキドン酸エチル(E-Ara)の合成]
一般手順Bの後、100mgのE-Ara(0.301mmol)、1.63mlのD2O(90.22mmol)および1.31mgの錯体4(1%、3.01μmol)を含む12.5mlのアセトンを共に混合し、24時間撹拌して、所望の重水素化された生成物を無色透明の油状物として得た(101.36mg、99.5%収率)。
【0169】
[重水素化されたドコサヘキサエン酸エチル(E-DHA)の合成]
一般手順Bの後、100mgのE-DHA(0.280mmol)、2.53mlのD2O(0.14mol)および2.44mgの錯体4(2%、5.61μmol)を含む15mlのアセトンを共に混合し、18時間撹拌して、所望の重水素化された生成物を無色透明の油状物として得た(101.96mg、99.8%収率)。
【0170】
[重水素化されたトリリノレニン(T-Lnn)の合成]
一般手順Bの後、100mgのT-Lnn(0.115mmol)、1.24mlのD2O(68.70mmol)および0.50mgの錯体4(1%、1.15mmol)を含む20mlのアセトンを共に混合し、7時間撹拌して、所望の重水素化された生成物を無色透明の油状物として得た(101.34mg、99.7%収率)。
【0171】
[結論]
本開示は、図面および前述の説明において詳細に例証され、記載されてきたが、そのような例証および説明は、例証的または例示的であって、限定的でないと見なされるべきである。本開示は、開示された実施形態に限定されない。特許請求される開示を実施する際、図面、本開示および添付の請求項を検討することによって、開示された実施形態に対するバリエーションが当業者によって理解され得、実施され得る。
【0172】
本明細書中に引用されたすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書中に援用される。参照により援用される刊行物および特許または特許出願が、本明細書に含められている開示と矛盾する限りは、本明細書は、そのような矛盾するいずれの材料にも取って代わるおよび/または優先されると意図される。
【0173】
別段定義されない限り、すべての用語(専門用語および科学用語を含む)は、当業者にとってのそれらの通常の意味および通例の意味を与えられるべきであり、本明細書中でそのように明確に定義されない限り、特別な意味またはカスタマイズされた意味に限定されるべきでない。本開示のある特定の特徴また態様を説明するときの特定の用語の使用は、その用語が関連している本開示の特徴または態様の任意の特定の特性を含めるためにその用語が限定されるように本明細書中で再定義されていることを含意していると受け取られるべきでないことに注意するべきである。本願において使用される用語および句ならびにそれらの変形は、特に添付の請求項において、別段明確に述べられない限り、限定に対立するようにオープンエンドとして解釈されるべきである。前述の例として、用語「含む(including)」は、「含むがこれらに限定されない(including、without limitation)」、「含むがこれらに限定されない(including but not limited to)」などを意味すると解読されるべきである;用語「含む(comprising)」は、本明細書中で使用されるとき、「含む(including)」、「含有する(containing)」または「特徴とする」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、記載されていないさらなるエレメントまたは方法工程を排除しない;用語「有する」は、「少なくとも有する」と解釈されるべきである;用語「挙げられる」は、「挙げられるがこれらに限定されない」と解釈されるべきである;用語「例」は、論じている項目の例示的な例を提供するために使用されているのであって、その網羅的または限定的なリストを提供するために使用されているのではない;「公知の」、「通常の」、「標準的な」などの形容詞および同様の意味の用語は、記載されている項目を所与の時間または所与の時間の時点において利用可能な項目に限定すると解釈されるべきでなく、その代わりに、現在または将来の任意の時点において利用可能であり得るかまたは公知であり得る、公知の、通常の、または標準的な技術を包含すると解読されるべきである;「好ましくは」、「好ましい」、「所望の」または「望ましい」のような用語および同様の意味の単語の使用は、ある特定の特徴が、本発明の構造または機能にとって重大であるか、必須であるか、またはさらには重要であることを含意していると理解されるべきでなく、その代わりに、本発明の特定の実施形態において利用されるかもしれないかまたは利用されないかもしれない代替のまたはさらなる特徴を強調することを単に意図していると理解されるべきである。同様に、接続詞「および」で連結された項目の群は、その群に存在している項目の各々およびすべてを必要とすると解読されるべきでなく、むしろ、別段明確に述べられない限り、「および/または」と解読されるべきである。同様に、接続詞「または」で連結された項目の群は、その群の中での相互排他性を必要とすると解読されるべきでなく、むしろ、別段明確に述べられない限り、「および/または」と解読されるべきである。
【0174】
値の範囲が提供される場合、上限および下限、ならびにその範囲の上限と下限との間に介在する各値が、実施形態に包含されると理解される。
【0175】
本明細書中における実質的に任意の複数および/または単数の用語の使用に関して、当業者は、文脈および/または適用に対して適切であるように、複数から単数へおよび/または単数から複数へ言い換えることができる。様々な単数/複数の置換が、明確さのために、明確に本明細書中に示され得る。不定冠詞「a」または「an」は、複数であることを排除しない。単一のプロセッサまたは他のユニットは、請求項において記載されたいくつかの項目の機能を満たし得る。ある特定の基準が相互に異なる従属クレームにおいて記載されているという単なる事実は、これらの基準の組み合わせを有利に使用できないことを示さない。請求項におけるいずれの引用符号も、その範囲を限定すると解釈されるべきでない。
【0176】
特定の数の導入されたクレーム記載物(claim recitation)が意図される場合、そのような意図は、請求項において明示的に記載され、そのような記載物がない場合は、そのような意図は存在しないことが、当業者によってさらに理解されるだろう。例えば、理解の助けとして、以下の添付の請求項は、クレーム記載物を導入するために、前置きの句「少なくとも1つの」および「1つ以上の」の使用を含むことがある。しかしながら、同じ請求項が、前置きの句「1つ以上の」または「少なくとも1つの」および「a」または「an」などの不定冠詞を含むときであっても、そのような句の使用は、不定冠詞「a」または「an」によるクレーム記載物の導入が、そのような導入されたクレーム記載物を含む任意の特定の請求項を、ただ1つのそのような記載物を含む実施形態に制限することを含意すると解釈されるべきでない(例えば、「a」および/または「an」は、通常、「少なくとも1つの」または「1つ以上の」を意味すると解釈されるべきである);クレーム記載物を導入するために使用された定冠詞の使用についても同じことが言える。さらに、特定の数の導入されたクレーム記載物が、明示的に記載されても、当業者は、そのような記載物が、通常、少なくとも記載された数を意味すると解釈されるべきであることを認識するだろう(例えば、他の修飾語を有しない「2つの記載物」という、何も伴わない記載物は、通常、少なくとも2つの記載物または2つ以上の記載物を意味する)。さらに、「A、BおよびCなどのうちの少なくとも1つ」に類似の慣例が使用される場合、一般に、そのような構文は、当業者がその慣例を理解し得る意味で意図されている(例えば、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有する系」は、Aのみを有する系、Bのみを有する系、Cのみを有する系、AとBを共に有する系、AとCを共に有する系、BとCを共に有する系、ならびに/またはA、BおよびCを共に有する系などを含み得るが、これらに限定されない)。「A、BまたはCなどのうちの少なくとも1つ」に類似の慣例が使用される場合、一般に、そのような構文は、当業者がその慣例を理解し得る意味で意図されている(例えば、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有する系」は、Aのみを有する系、Bのみを有する系、Cのみを有する系、AとBを共に有する系、AとCを共に有する系、BとCを共に有する系、ならびに/またはA、BおよびCを共に有する系などを含み得るが、これらに限定されない)。2つ以上の代替的な用語を示す実質的に任意の離接語および/または離接句は、説明に存在するか、請求項に存在するか、または図面に存在するかに関係なく、それらの用語のうちの1つ、それらの用語のうちのいずれか、またはそれらの両方の用語を含む可能性を企図していると理解されるべきであることが、当業者によってさらに理解されるだろう。例えば、句「AまたはB」は、「A」または「B」または「AおよびB」の可能性を含むと理解される。
【0177】
本明細書において使用された成分の量、反応条件などを表すすべての数字は、すべての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、それとは反対のことが示されない限り、本明細書中に示される数値パラメータは、得ようと努力されている所望の特性に応じて変動し得る近似値である。最低限でも、本願に対して優先権を主張している任意の出願における任意の請求項の範囲への均等論の適用を制限しようとする試みとしてではなく、各数値パラメータは、有効数字の数字および通常の丸めのアプローチを考慮して解釈されるべきである。
【0178】
さらに、前述は、明確にすることおよび理解させることを目的に例証および例示によっていくらか詳細に記載されてきたが、当業者には、ある特定の変更および改変が実施され得ることが明らかである。ゆえに、この説明および例示は、本発明の範囲を本明細書中に記載された特定の実施形態および実施例に限定すると解釈されるべきでなく、むしろ、本発明の真の範囲および真意に伴うすべての改変および代替物も網羅する。
図1
図2
図3
図4
図5