(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】可搬型測定装置および電源制御方法
(51)【国際特許分類】
G06F 1/26 20060101AFI20230926BHJP
G08C 19/00 20060101ALI20230926BHJP
G06F 1/04 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
G06F1/26
G08C19/00 G
G06F1/04 510
(21)【出願番号】P 2022050098
(22)【出願日】2022-03-25
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】古木 敦
【審査官】石川 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-153225(JP,A)
【文献】特開2009-222486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 1/26
G08C 19/00
G06F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準発振器(6)とバッテリ(10)が内蔵され、測定サイトに持ち運んで所定の測定を行う可搬型測定装置(1)であって、
前記バッテリの充電の開始/停止を制御するバッテリ制御手段(9a)と、
前記基準発振器への給電のオン/オフを制御する発振器制御手段(9b)と、を備え、
前記バッテリ制御手段は、前記発振器制御手段により前記基準発振器への給電をオフした状態で前記バッテリの充電を開始し、予め設定した閾値を超えたときに前記バッテリの充電を停止し、
前記発振器制御手段は、前記バッテリ制御手段により前記バッテリの充電が停止した後に前記基準発振器への給電をオンすることを特徴とする可搬型測定装置。
【請求項2】
前記発振器制御手段は、予め設定されるスケジュールに基づいて前記基準発振器への給電をオフすることを特徴とする請求項1に記載の可搬型測定装置。
【請求項3】
基準発振器(6)とバッテリ(10)が内蔵され、測定サイトに持ち運んで所定の測定を行う可搬型測定装置(1)の電源制御方法であって、
前記基準発振器への給電をオフした状態で前記バッテリの充電を開始し、予め設定した閾値を超えたときに前記バッテリの充電を停止するステップと、
前記バッテリの充電が停止した後に前記基準発振器への給電をオンするステップと、を含むことを特徴とする電源制御方法。
【請求項4】
予め設定されるスケジュールに基づいて前記基準発振器への給電をオフするステップを含むことを特徴とする請求項3に記載の電源制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定サイトに持ち運んで例えば極めて高精度・高確度の時刻情報を要求する被試験装置や、被試験ネットワークに対する同期誤差測定を行う可搬型測定装置および電源制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばルータ、スイッチングハブ、伝送装置などのネットワーク機器やネットワーク回線を被測定物(DUT:Device Under Test )として各種測定を行う測定装置として、下記特許文献1などに開示されるネットワーク試験装置が知られている。
【0003】
ところで、被測定物としての被試験ネットワークが通信規格を満たしているかを試験する際には、周波数・時間を判断の指標とする測定として、極めて高精度・高確度の時刻情報を要求する被測定装置や、被測定ネットワークに対する同期誤差測定をこの種のネットワーク試験装置を用いて行うことが求められている。
【0004】
また、近年では、ネットワークの要求精度・確度が高くなってきているため、測定誤差を減らす観点からも、ネットワーク試験装置の時刻同期精度・確度向上が求められている。例えばGPS,GLONASS,Galileo,QZSS等のGNSSシステムの電波をネットワーク試験装置が受信して、高精度・高確度の時刻情報を得ている。
【0005】
さらに、この種のネットワーク試験装置は、装置本体に基準発振器が内蔵されており、GNSSシステムの電波を受信できなくなっても、測定要件を満たす限りにおいては、基準発振器の有する周波数の精度・確度により、被測定装置や、被測定ネットワークの測定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したネットワーク試験装置を測定サイトに持ち運べるように可搬型で構成される場合、測定サイトで直ぐに使用するためには、時間のかかる処理、具体的には装置本体に内蔵されたバッテリの充電や発振周波数を安定させるための基準発振器への給電によるウォームアップを事前に行っておく必要がある。
【0008】
しかしながら、バッテリの充電と基準発振器への給電を同時に行うと、バッテリの充電、放電による発熱で装置本体の内部に温度変化が生じて基準発振器の発振周波数に影響を及ぼすだけでなく、
図3に示すように、バッテリの充電が途中で止まることもある。しかも、測定の実行中は測定内容の大容量、高速な処理のため、装置本体の内部の温度上昇も大きく、装置本体に内蔵された基準発振器の発振周波数が影響され、時刻同期精度・確度が低下する問題が発生するおそれがあった。
【0009】
この問題を解消するため、基準発振器を温度安定性の高い物にすることも考えられるが、可搬型ゆえに消費電力増加、大型化、重量増加と、コスト増加があり、容易に採用することができなかった。
【0010】
しかも、ユーザは任意の時間に測定サイトにネットワーク測定装置を持ち運んで所望の測定を行うため、バッテリの充電、放電のタイミングがその都度変化し、使用するときに基準発振器の有する精度・確度に好ましい内部の温度条件とは必ずしもならず、改善が求められていた。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、装置本体の内部の温度上昇に伴う基準発振器の発振周波数に与える影響を抑制することができる可搬型測定装置および電源制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された可搬型測定装置は、基準発振器6とバッテリ10が内蔵され、測定サイトに持ち運んで所定の測定を行う可搬型測定装置1であって、
前記バッテリの充電の開始/停止を制御するバッテリ制御手段9aと、
前記基準発振器への給電のオン/オフを制御する発振器制御手段9bと、を備え、
前記バッテリ制御手段は、前記発振器制御手段により前記基準発振器への給電をオフした状態で前記バッテリの充電を開始し、予め設定した閾値を超えたときに前記バッテリの充電を停止し、
前記発振器制御手段は、前記バッテリ制御手段により前記バッテリの充電が停止した後に前記基準発振器への給電をオンすることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項2に記載された可搬型測定装置は、請求項1の可搬型測定装置において、
前記発振器制御手段は、予め設定されるスケジュールに基づいて前記基準発振器への給電をオフすることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項3に記載された電源制御方法は、基準発振器6とバッテリ10が内蔵され、測定サイトに持ち運んで所定の測定を行う可搬型測定装置1の電源制御方法であって、
前記基準発振器への給電をオフした状態で前記バッテリの充電を開始し、予め設定した閾値を超えたときに前記バッテリの充電を停止するステップと、
前記バッテリの充電が停止した後に前記基準発振器への給電をオンするステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項4に記載された電源制御方法は、請求項3の電源制御方法において、
予め設定されるスケジュールに基づいて前記基準発振器への給電をオフするステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バッテリの充電中は基準発振器への給電を行わないので、従来よりもバッテリへの高速充電が可能となり、充電時間の短縮を図ることができる。そして、短縮された時間を効率的に利用して基準発振器の発振周波数が安定するようにウォームアップを行うことができる。その結果、バッテリの充電、放電のタイミングや、大容量、高速な処理による装置本体の内部の温度上昇に伴う基準発振器の発振周波数に与える影響を抑制することができ、時刻同期精度・確度を維持し、被測定装置や、被測定ネットワークに対して極めて高精度・高確度な同期誤差測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る可搬型測定装置のブロック構成図である。
【
図2】本発明に係る可搬型測定装置の基準発振器をロックさせるまでのタイムチャートを示す図である。
【
図3】従来と本発明においてバッテリの充電を開始するタイミングと基準発振器への給電をオンするタイミングの関係を示す図である。
【
図4】本発明に係る電源制御方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態の可搬型測定装置1は、測定サイトに持ち運んで例えばUTC(協定世界時)時刻などの基準時刻との差(Time Error)などの各種測定を行うものであり、GNSSアンテナ2、アンテナ用直流電源3、GNSS受信機4、測定モジュール5、基準発振器6、1PPS信号生成部7、表示操作部8、制御部9、バッテリ10を備えて概略構成される。
【0020】
GNSSアンテナ2は、不図示のGNSS衛星から送信される信号(GNSS信号)を受信するもので、可搬型測定装置1の装置本体に設けられるコネクタ11に着脱可能に接続される。
【0021】
アンテナ用直流電源3は、コネクタ11に接続されたGNSSアンテナ2に必要な電源電圧を供給する。
【0022】
GNSS受信機4は、GNSSアンテナ2から受信したGNSS信号を、コネクタ11、コンデンサ12を介して入力し、GNSS衛星の受信信号情報として測定モジュール5、1PPS信号生成部7に出力する。
【0023】
測定モジュール5は、測定用端子13を介して不図示の被試験ネットワークや被試験装置に接続され、例えばUTC時刻などの基準時刻との差、時刻同期誤差測定(1PPS信号測定、パケット TE測定を含む)等の各種測定処理動作を実行する。
【0024】
さらに説明すると、測定モジュール5は、GNSSアンテナ2から入力する受信信号に基づきGNSS受信機4が出力する同期信号、例えば基準1PPS信号に対しての、被測定ネットワークや被試験装置から取り込まれる信号(被測定1PPS信号)の位相を比較する1PPS信号 TE測定の他、片方向遅延量(One Way Delay:OWD)、OWD/パケット TE測定などの測定を行う。
【0025】
基準発振器6は、装置本体に内蔵され、制御部9からの設定電圧によって周波数が制御される周波数発振器であり、安定度の高い周波数(例えば10MHzの基準周波数)の発振信号を1PPS信号生成部7に出力する。
【0026】
1PPS信号生成部7は、GNSS衛星からGNSS受信機4が受信したGNSS信号をもとに生成される1PPS信号をカウントするカウンタ7aを備え、カウンタ7aによるカウント値を制御部9に出力する。1PPS信号生成部7は、GNSS受信機4が受信したGNSS衛星からの信号であるGNSS信号を解析し、GNSSに同期した安定度の高い基準発振器6の発振信号を基準とする1PPS信号を生成して測定モジュール5に出力する。測定モジュール5は、1PPS信号生成部7から入力された1PPS信号を時刻の基準として、1PPS信号TE測定の他、片方向遅延量(One Way Delay:OWD)、OWD/パケット TE測定などの測定を行う。
【0027】
表示操作部8は、例えば表示機能や入力操作機能を兼用したタッチパネルなどで構成され、各種測定を行うために必要な測定条件、各種パラメータなどの設定、各種測定を行ったときの結果などを表示するときに操作される。
【0028】
制御部9は、電源制御を行う手段として、バッテリ制御手段9aと発振器制御手段9bを含み、各種測定を行う際に可搬型測定装置1の各部を統括制御するものであり、例えば測定モジュール5によって得られる各種測定の結果を表示操作部8に出力したり、1PPS信号生成部7のカウンタ7aからのカウント値に応じた設定電圧により基準発振器6を電圧制御する。
【0029】
バッテリ制御手段9aは、発振器制御手段9bにより基準発振器6をオフした状態でバッテリ10の充電を開始し、予め設定した閾値を超えたときにバッテリ10の充電を停止するように制御する。
【0030】
なお、閾値は、例えば希望の充電時間の数値、充電量(%)、基準発振器6の発振周波数が安定するまでに要するウォームアップ時間を考慮した時間の何れかで設定される。
【0031】
ここで、基準発振器6のウォームアップ時間について
図2を参照しながら説明する。基準発振器6は、
図2に示すように、「Power Off」→「Initializing」→「Wait for 1PPS Sync. InまたはWait for GPS/GNSS」→「Learning」→「Sync with 1PPS Sync In.またはSync with GPS/GNSS」の状態を経由して「Fine Locked」に移行する。この
図2において、基準発振器6のウォームアップ時間とは、「Sync with 1PPS Sync In.またはSync with GPS/GNSS」の状態に関係なく、OSCランプが点灯してから3時間が経過した時間を意味する。
【0032】
なお、
図2において、「Power Off」は電源オフ状態、「Initializing」は装置が安定するのを待っている状態、「Wait for 1PPS Sync. In」は1PPS Sync. Inコネクタに信号が入力されるのを待っている状態、「Wait for GPS/GNSS」はGPSまたはGNSSと接続することを待っている状態、「Learning」はOSCランプが点灯かつ衛星を4つ以上捕捉して、衛星から受信した1PPS信号と同期しようとしている状態、「Sync with 1PPS Sync. In」は基準発振器6が1PPS Sync. Inコネクタに入力されている信号に同期している状態(OSCランプが点灯してから3時間未満)、「Sync with GPS/GNSS」は基準発振器6が衛星から受信した1PPS信号に同期している状態(OSCランプが点灯してから3時間未満)を示している。
【0033】
発振器制御手段9bは、バッテリ10の充電を開始するときに基準発振器6への給電をオフし、バッテリ制御手段9aによりバッテリ10の充電が停止した後に基準発振器6への給電をオンするように制御する。
【0034】
発振器制御手段9bは、予め設定されるスケジュールに基づいて基準発振器6への給電をオフするように制御する。例えば測定サイトに出向く前日の終業時間にスケジュールを設定しておけば、発振器制御手段9bは、ユーザが測定サイトに出向く前日の終業時間になると、基準発振器6への給電を自動的にオフするように制御する。
【0035】
なお、発振器制御手段9bによる基準発振器6への給電のオフ、およびバッテリ制御手段9aによる基準発振器6のオフ状態からのバッテリ10の充電の開始は、可搬型測定装置1を次回使用するまでの時間を考慮して、ユーザが手動により切り替えることも可能である。
【0036】
バッテリ10は、可搬型測定装置1の装置本体に対して着脱交換可能に設けられ、各種測定を行う際に各部の駆動に必要な電源を供給する。
【0037】
次に、上記のように構成される可搬型測定装置1を用いた電源制御方法について
図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0038】
まず、発振器制御手段9bにより基準発振器6への給電をオフする(ST1)。この基準発振器6への給電をオフするタイミングは、例えば予め設定されるスケジュールやユーザの手動切り替えにより実行される。
【0039】
そして、基準発振器6への給電がオフした状態で、バッテリ制御手段9aによりバッテリ10の充電を開始する(ST2)。このバッテリ10の充電時は、
図3に示すように、基準発振器6への給電がオフしているので、バッテリ10の充電と基準発振器6への給電を同時に開始する従来と比較して、バッテリ10への電流供給量が増加し、バッテリ10に対してより高速な充電が可能となり、充電時間の短縮を図ることができる。
【0040】
次に、バッテリ10への充電が開始されると、予め設定した閾値(例えば希望の充電時間、充電量、基準発振器6のウォームアップ時間を考慮した時間の何れか)を超えたか否かを判別する(ST3)。そして、予め設定した閾値を超えたと判別すると(ST3-Yes)、バッテリ10の充電を停止する(ST4)。その後、発振器制御手段9bにより基準発振器6への給電をオンする(ST5)。
【0041】
このように、本実施の形態によれば、バッテリの充電中は基準発振器への給電をオフし、予め設定した閾値を超えたときにバッテリの充電を停止して基準発振器への給電をオンするように制御する。これにより、バッテリの充電中は基準発振器への給電を行わないので、従来よりもバッテリへの高速充電が可能となり、充電時間の短縮を図ることができる。そして、短縮された時間を効率的に利用して基準発振器の発振周波数が安定するようにウォームアップを行うことができる。その結果、バッテリの充電、放電のタイミングや、大容量、高速な処理による装置本体の内部の温度上昇に伴う基準発振器の発振周波数に与える影響を抑制することができ、時刻同期精度・確度を維持し、被測定装置や、被測定ネットワークに対して極めて高精度・高確度な同期誤差測定が可能となる。
【0042】
以上、本発明に係る可搬型測定装置および電源制御方法の最良の形態について説明したが、この形態による記述および図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例および運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 可搬型測定装置
2 GNSSアンテナ
3 アンテナ用直流電源
4 GNSS受信機
5 測定モジュール
6 基準発振器(周波数発振器)
7 1PPS信号生成部
7a カウンタ
8 表示操作部
9 制御部
9a バッテリ制御手段
9b 発振器制御手段
10 バッテリ
11 コネクタ
12 コンデンサ
13 測定用端子
【要約】
【課題】装置内部の温度上昇に伴う基準発振器の発振周波数に与える影響を抑制する。
【解決手段】可搬型測定装置1は、基準発振器6とバッテリ10が内蔵され、測定サイトに持ち運んで所定の測定を行うものであり、バッテリ10の充電の開始/停止を制御するバッテリ制御手段9aと、基準発振器6への給電のオン/オフを制御する発振器制御手段9bと、を備える。バッテリ制御手段9aは、発振器制御手段9bにより基準発振器6への給電をオフした状態でバッテリ10の充電を開始し、予め設定した閾値を超えたときにバッテリ10の充電を停止する。発振器制御手段9bは、バッテリ制御手段9aによりバッテリ10の充電が停止した後に基準発振器6への給電をオンする。
【選択図】
図1