(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ゴムウエットマスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230926BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20230926BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230926BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230926BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20230926BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08J3/215
C08K3/013
C08K3/04
C08L21/00
C08L15/00
(21)【出願番号】P 2022084423
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2018144855の分割
【原出願日】2018-08-01
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近野 優也
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-224067(JP,A)
【文献】特開2010-150481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/22
C08J 3/215
C08K 3/013
C08K 3/04
C08L 21/00
C08L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機充填剤、カーボンブラックおよびゴム成分を含有するゴムウエットマスターバッチであって、
前記無機充填剤はモース硬度が5以上であり、
前記カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、前記無機充填材の添加量が50質量%未満であり、
前記ゴム成分として、少なくとも変性ジエン系ゴムを含有するものであって、前記変性ジエン系ゴムが、変性ジエン系ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥してなるゴムであり、
前記変性ジエン系ゴムラテックス溶液が、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液であり、
前記エポキシ化天然ゴムラテックス溶液の
エポキシ化天然ゴムにおけるエポキシ基の変性率が30~50モル%であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともカーボンブラック、無機充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックを含有するゴム組成物を製造する際の加工性や、カーボンブラックの分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、カーボンブラックと分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力でカーボンブラックを分散溶媒中に分散させたカーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、カーボンブラックとゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、カーボンブラックの分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性や補強性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
ゴムウエットマスターバッチを製造する技術において、特にカーボンブラック含有スラリー溶液の製造工程について検討した報告例は多数存在する。
【0004】
例えば下記特許文献1では、酸化亜鉛とカーボンブラックとを同時に高せん断ミキサーを用いて分散させる酸化亜鉛含有ゴムウエットマスターバッチの製造方法が記載されている。また、下記特許文献2では、カーボンブラックおよびスメクタイト系粉体を水スラリー状で湿式混合する予備混合工程を有するゴム組成物の製造方法が記載されている。
【0005】
また、下記特許文献3では、カーボンブラックの添加量を120gとしたとき、シリカを100g(カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、シリカを83質量%)添加し、界面活性剤の不存在下、高せん断ミキサーを用いて水分散させることによりスラリー溶液を調製する工程を含むゴムウエットマスターバッチの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-213791号公報
【文献】特開2002-256109号公報
【文献】特開2006-219593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、上記先行技術ではカーボンブラックの分散性向上の点で、さらなる改良の余地があることが判明した。具体的には、前記特許文献1ではカーボンブラック含有スラリー溶液を製造する際、酸化亜鉛を配合しているが、酸化亜鉛はカーボンブラックの分散性向上には寄与しない。同様に、前記特許文献2におけるスメクタイト系粉体もカーボンブラックの分散性向上には寄与しない。なお、前記特許文献3では、カーボンブラック含有スラリー溶液を製造する際、シリカを添加しているが、カーボンブラックの添加量に対するシリカの添加量が非常に多く、カーボンブラックの分散性に優れたスラリー溶液、さらにはこれを原料として得られるゴムウエットマスターバッチは製造できないことが判明した。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カーボンブラックおよびカーボンブラック以外の無機充填材の分散性に優れたゴムウエットマスターバッチの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、無機充填材存在下、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する工程(i)、前記スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合して、スラリー含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(ii)、および前記スラリー含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥させることによりゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)を有し、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部が変性ジエン系ゴムラテックス溶液であり、前記無機充填材のモース硬度が5以上であり、前記工程(i)において、前記カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、前記無機充填材の添加量が50質量%未満であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【0010】
本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する工程(i)において、モース硬度が5以上である無機充填材存在下で、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる。モース硬度が5以上である無機充填材はカーボンブラックより硬く、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際、無機充填材により、カーボンブラックが破砕されつつ分散する。その結果、無機充填材およびカーボンブラックを含有するスラリー溶液中でのカーボンブラックの分散性が非常に高まるため、工程(ii)および工程(iii)を経由しても、最終的に製造されるゴムウエットマスターバッチ中でのカーボンブラックの分散性が向上する。
【0011】
ただし、本発明においては、工程(i)において、カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、無機充填材の添加量を50質量%未満にする必要がある。カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、無機充填材の添加量を50質量%未満とすることにより、スラリー溶液中のカーボンブラックの凝集塊に無機充填材が入り込み、均一にカーボンブラックが分散したスラリー溶液を製造することができる。一方、カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、無機充填材の添加量が50質量%を超えると、過剰な無機充填材が却ってカーボンブラックの分散性を悪化させ、さらには無機充填材自体の分散性も悪化するため好ましくない。
【0012】
なお、本発明では使用するゴムラテックス溶液の少なくとも一部が変性ジエン系ゴムラテックス溶液であるため、カーボンブラックだけでなくカーボンブラック以外の無機充填材の分散性も向上する。また、カーボンブラック以外の無機充填材の分散性向上に伴い、最終的に得られる加硫ゴム物性、例えば低発熱性や補強性が向上する。
【0013】
上記製造方法において、前記変性ジエン系ゴムラテックス溶液が変性天然ゴムラテックス溶液であることが好ましく、前記変性天然ゴムラテックス溶液が、主鎖または側鎖に三員複素環構造を有する天然ゴムラテックス溶液であることがより好ましく、前記変性天然ゴムラテックス溶液が、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液であることが特に好ましい。これらの場合、カーボンブラック以外の無機充填材の分散性がより向上するため、最終的に得られる加硫ゴム物性、例えば低発熱性や補強性が向上する。
【0014】
上記製造方法において、前記工程(i)が、高せん断ミキサーを用いて、前記カーボンブラックを前記分散溶媒中に分散させる工程であることが好ましい。カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際、高せん断ミキサーを使用することにより、無機充填材によるカーボンブラックの破砕効果がより高まるため、カーボンブラック含有スラリー溶液中、さらには最終的に製造されるゴムウエットマスターバッチ中でのカーボンブラックの分散性がより向上する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、少なくともカーボンブラック、無機充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【0016】
本発明において、カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。ゴムウエットマスターバッチを原料として得られるゴム組成物中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、カーボンブラックの配合量は10~80質量部であることが好ましく、20~60質量部であることがより好ましい。
【0017】
無機充填材としては、モース硬度が5以上のものを使用する。モース硬度は、1から10までの整数値に対応する10種の標準鉱物を用い、対象物質を標準鉱物で順次ひっかいて硬度を決める。数値が大きいほど硬いことを表す。標準鉱物は以下のとおりである。滑石(モース硬度1)、石膏(モース硬度2)、方解石(モース硬度3)、蛍石(モース硬度4)、燐灰石(モース硬度5)、正長石(モース硬度6)、石英(モース硬度7)、トパーズ(モース硬度8)、コランダム(モース硬度9)、ダイヤモンド(モース硬度10)。モース硬度が5以上の無機充填材としては、例えばシリカ(モース硬度(7))、アルミナ(モース硬度9)などが挙げられる。なお、シリカのモース硬度は、シリカを構成する二酸化珪素のモース硬度に基づき決定した。ゴムウエットマスターバッチを原料として得られるゴム組成物中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、無機充填材の配合量は1~40質量部であることが好ましく、3~30質量部であることがより好ましい。なお、工程(i)における、カーボンブラックの添加量に対する無機充填材の添加量については後述する。
【0018】
シリカとしては、たとえば、湿式シリカ、乾式シリカを用いることができる。なかでも、含水ケイ酸を主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。
【0019】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0020】
ゴムラテックス溶液としては、少なくとも一部に変性ジエン系ゴムラテックス溶液を含有するゴムラテックス溶液を使用する。変性ジエン系ゴムラテックス溶液は、そのゴム成分をジエン系ゴムで構成する。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴムなどが例示される。なかでも天然ゴムが好ましく、これらを主成分とする変性天然ゴムラテックス溶液が好ましい。
【0021】
変性天然ゴムラテックス溶液としては、イソプレン骨格が有する二重結合が三員複素環構造に置換された変性天然ゴムラテックス溶液が好ましい。かかる三員複素環構造を構成する原子としては、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。ゴムラテックス溶液中のゴム分(固形分)の全量を100質量部としたとき、変性天然ゴムラテックス溶液の配合量は固形分で10~50質量部であることが好ましく、20~50質量部であることが好ましい。また、イソプレン骨格が有する二重結合を三員複素環構造に変性した際の変性率は10~50mol %であることが好ましく、10~30mol %であることがより好ましい。
【0022】
変性天然ゴムラテックス溶液の中でも、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液およびエピスルフィド化天然ゴムラテックス溶液を使用することが好ましく、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液を使用することがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液をエポキシ化する方法は当業者に公知の方法が使用可能であり、例えば、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法などを挙げることができる。過酸法としては、例えば天然ゴムのエマルジョンに過酢酸や過蟻酸などの有機過酸をエポキシ化剤として反応させる方法を挙げることができる。
【0023】
変性ジエン系ゴムラテックス溶液以外に使用可能なゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液が挙げられる。天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0024】
以下に、本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法について説明する。かかる製造方法は、無機充填材存在下、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する工程(i)、前記スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合して、スラリー含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(ii)、および前記スラリー含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥させることによりゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)を有し、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部が変性ジエン系ゴムラテックス溶液であり、前記無機充填材のモース硬度が5以上であり、前記工程(i)において、前記カーボンブラックの添加量を100質量%としたとき、前記無機充填材の添加量が50質量%未満であることを特徴とする。
【0025】
(1)工程(i)
工程(i)では、無機充填材存在下、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させて、無機充填材およびカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。分散溶媒中へのカーボンブラックの添加タイミングとしては、分散溶媒中に無機充填材を予め添加し、必要に応じて無機充填材を分散溶媒中に分散させた後、カーボンブラックを添加してもよく、分散溶媒中にカーボンブラックを予め添加してから無機充填材を添加してもよい。あるいは、分散溶媒中にカーボンブラックと無機充填材とを同時に添加してもよい。工程(i)において、分散溶媒中のカーボンブラックの濃度は、作業性などを考慮して適宜調整可能であるが、カーボンブラックの分散性を考慮した場合、2~15質量%程度が好ましい。
【0026】
工程(i)における、カーボンブラックの添加量に対する無機充填材の添加量は50質量%未満とする。均一にカーボンブラックが分散したスラリー溶液を製造するためには、カーボンブラックの添加量に対する無機充填材の添加量を45質量%未満とすることがより好ましい。なお、カーボンブラックの添加量に対する無機充填材の添加量が著しく少ない場合、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際、無機充填材による破砕が十分に進行し難くなる。このため、カーボンブラックの添加量に対する無機充填材の添加量を5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがより好ましい。
【0027】
工程(i)において、無機充填材存在下、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる方法としては、高せん断ミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。特に本発明においては、工程(i)において、高せん断ミキサーを用いて、無機充填材存在下、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させることが好ましい。
【0028】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0029】
(2)工程(ii)
工程(ii)では、スラリー溶液とゴムラテックス溶液とを混合して、スラリー含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液およびゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機や円筒状容器内でブレードが回転する混合機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0030】
(3)工程(iii)
工程(iii)では、まずスラリー含有ゴムラテックス溶液を凝固して、カーボンブラック含有ゴム凝固物を製造する。凝固方法としては、スラリー含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させる方法が例示可能である。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。次いで工程(iii)では、得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物を脱水・乾燥することにより、最終的にゴムウエットマスターバッチを製造する。得られたカーボンブラック含有ゴム凝固物の脱水・乾燥方法としてはたとえば、単軸押出機を使用し、100~250℃に加熱しつつ、カーボンブラック含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水・乾燥することが可能である。なお、脱水・乾燥の前に、必要に応じて、カーボンブラック含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的として、例えば、遠心分離や振動スクリーンを使用した固液分離工程を設けてもよく、あるいは、洗浄を目的として、水洗法などの洗浄工程などを設けてもよい。また、ゴムウエットマスターバッチをさらに乾燥するために、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0031】
前記工程(iii)の後、得られたゴムウエットマスターバッチに各種ゴム配合剤を乾式混合することによりゴム組成物を製造する。使用可能なゴム配合剤としては、例えば、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0032】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3~6質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5~5.5質量部であることがより好ましく、2.0~4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0033】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1.0~5.0質量部であることがより好ましく、1.5~4.0質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン-ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.5~6.0質量部であることがより好ましく、1.0~4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0035】
上述のとおり、工程(iii)で得られるゴムウエットマスターバッチは、カーボンブラックおよびカーボンブラック以外の無機充填材の分散性に優れる。このため、かかるゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物を用いて製造された空気入りタイヤ、具体的にはトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムに本発明に係るゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、たとえば低発熱性能および耐疲労性能が両立したゴム部を備える。
【実施例】
【0036】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0037】
(使用原料)
a)カーボンブラック「N134」;「シースト9H」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N234」;「シースト7HM」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N330」;「シースト3」(東海カーボン社製)
b)無機充填材
シリカ;「Ultrasil7000GR」(エボニック社製)、モース硬度7、BET比表面積170m2/g
c)分散溶媒 水
d)ゴムラテックス溶液
変性天然ゴムラテックス溶液A;天然ゴムラテックス(「LA ラテックス」、レジテックス社製、ゴム濃度60質量%)200gに対し、蟻酸8g及び過酸化水素(35質量%水溶液)36gを加え、50℃、24時間攪拌することにより、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液(「三員複素環構造を構成する原子」が酸素原子)である変性天然ゴムラテックス溶液Aを得た。得られたラテックスの変性率は10モル%であった。
変性天然ゴムラテックス溶液B;天然ゴムラテックス(「LA ラテックス」、レジテックス社製、ゴム濃度60質量%)200gに対し、蟻酸24g及び過酸化水素(35質量%水溶液)108gを加え、50℃、24時間攪拌することにより、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液(「三員複素環構造を構成する原子」が酸素原子)である変性天然ゴムラテックス溶液Bを得た。得られたラテックスの変性率は30モル%であった。
変性天然ゴムラテックス溶液C;天然ゴムラテックス(「LA ラテックス」、レジテックス社製、ゴム濃度60質量%)200gに対し、蟻酸40g及び過酸化水素(35質量%水溶液)180gを加え、50℃、24時間攪拌することにより、エポキシ化天然ゴムラテックス溶液(「三員複素環構造を構成する原子」が酸素原子)である変性天然ゴムラテックス溶液Cを得た。得られたラテックスの変性率は50モル%であった。
変性天然ゴムラテックス溶液D;変性天然ゴムラテックス溶液Aに対し、チオシアン酸カリウム40gを溶解させた水溶液150gを加え、50℃、24時間攪拌することにより、エピスルフィド化天然ゴムラテックス溶液(「三員複素環構造を構成する原子」が硫黄原子)である変性天然ゴムラテックス溶液Dを得た。得られたラテックスの変性率は10モル%であった。
天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス);(Golden Hope社製)(DRC=31.2%のものをゴム濃度が25質量%となるように調整
e)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの);「ナカライテスク社製」
f)酸化亜鉛 酸化亜鉛2種;(三井金属鉱業社製)
g)ステアリン酸;「ルナックS-20」、(花王社製)
h)ワックス;「OZOACE0355」、(日本精蝋社製)
i)老化防止剤
(A)N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン「6C」、(大内新興化学工業社製)
(B)2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体「RD」、(大内新興化学工業社製)
j)硫黄、(鶴見化学工業社製)
k)加硫促進剤
N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド;「サンセラーCM」、(三新化学工業社製)
【0038】
上記変性天然ゴムラテックス溶液A~Dに関し、変性率の定量は以下の手法により行った。
(天然ゴムラテックス溶液の変性率の分析)
変性率は、ゴム中の全ジエンユニットのモル数に対する変性基のモル数の比率であり、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)により、ジエンユニットの二重結合と変性基結合部のプロトンピークの比により定量した。
【0039】
実施例1~12
分散溶媒としての水に表1および表2に記載の量のカーボンブラックおよびシリカを同時に添加し、高せん断ミキサーであるシルバーソン社製粉液混合ミキサー(フラッシュブレンド)を使用してカーボンブラックを分散させることにより(該フラッシュブレンドの条件:3600rpm、30分)、カーボンブラックおよびシリカを含有するスラリー溶液を製造した(工程(i))。得られたスラリー溶液に、固形分で表1および表2に記載の量の天然ゴムラテックス溶液および変性天然ゴムラテックス溶液を添加し、カワタ社製混合機(スーパーミキサーSM-20)を使用して混合し(ミキサー条件1000rpm、30分)、スラリー含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程(ii))。
【0040】
工程(ii)で製造されたスラリー含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造した。得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物に対し、固液分離工程を実施し、次いでスエヒロEPM社製スクリュープレスV-02型に投入し、乾燥することでゴムウエットマスターバッチを製造した(工程(iii))。表1および表2中の配合比率は、天然ゴムラテックス溶液および変性天然ゴムラテックス溶液中のゴム成分(固形分)の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0041】
得られたゴムウエットマスターバッチに、表1および表2に記載の各種ゴム配合剤を添加し、バンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した。なお、表1および表2中の配合比率は、天然ゴムラテックス溶液および変性天然ゴムラテックス溶液中のゴム成分(固形分)の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0042】
比較例1~3
変性天然ゴムラテックス溶液を使用しなかったこと以外は実施例と同様の方法によりゴムウエットマスターバッチおよびゴム組成物を製造した。
【0043】
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、150℃で30分間加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
【0044】
(シリカ充填度)
比較例1~3において、ゴムウエットマスターバッチ製造時の工程(i)で添加したシリカ量に対し、実際に工程(iii)後に得られたゴムウエットマスターバッチ中に含まれるシリカ量の比率をそれぞれ測定した。実施例1~6については、比較例1のシリカ量の比率を100として指数評価した。数値が大きいほど、ゴムウエットマスターバッチ中にロスなくシリカが配合されていることを意味する。同様に実施例7~10については比較例2、実施例11~12については比較例3を基準に評価した。
【0045】
(加硫ゴムの低発熱性)
株式会社東洋精機製作所製の粘弾性試験機を用いて、初期歪み10%、動的歪み1%、周波数10Hz、温度60℃の条件下で損失係数tanδを測定した。実施例1~6については、比較例1のtanδを100として指数評価した。数値が小さいほど、加硫ゴムの低発熱性に優れることを意味する。同様に実施例7~10については比較例2、実施例11~12については比較例3を基準に評価した。
【0046】
(加硫ゴムの補強性(耐チッピング性))
JIS K6252に準拠し、製造したクレセント形サンプルを用いて、加硫ゴムの補強性を評価した。実施例1~6については、比較例1の耐チッピング性を100として指数評価した。数値が大きいほど、加硫ゴムの補強性に優れることを意味する。同様に実施例7~10については比較例2、実施例11~12については比較例3を基準に評価した。
【0047】
【0048】