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  • 特許-ファイバレーザ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】ファイバレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/067 20060101AFI20230926BHJP
   H01S 3/10 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
H01S3/067
H01S3/10 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022551163
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2021027692
(87)【国際公開番号】W WO2022064832
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2020159746
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】中西 康生
(72)【発明者】
【氏名】北原 倫太郎
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-307000(JP,A)
【文献】特許第6731099(JP,B1)
【文献】特開2018-125406(JP,A)
【文献】特開2006-245334(JP,A)
【文献】特開2007-318013(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0372442(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102801091(CN,A)
【文献】国際公開第2011/115275(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/10 -3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1波長の第1励起光を出力する第1励起光源と、
前記第1波長とは異なる第2波長の第2励起光を出力する第2励起光源と、
前記第1励起光及び前記第2励起光により励起される活性元素が添加されたコアを有する増幅用ファイバと、
前記増幅用ファイバの第一端側に設けられたHR-FBGと、
前記増幅用ファイバの第二端側に設けられ、前記HR-FBGよりも反射率が小さいOC-FBGと、
前記第1励起光を、前記第一端側から前記増幅用ファイバに結合させる第1結合器と、
前記第2励起光を、前記第二端側から前記増幅用ファイバに結合させる第2結合器と、
前記増幅用ファイバで増幅されて前記OC-FBGを介したレーザ光を出力する出力端と、
を備え、
前記活性元素の前記第1波長における吸収率は、前記活性元素の前記第2波長における吸収率より低く、
前記第1波長及び前記第2波長は、前記レーザ光の波長よりも短く、
前記第1波長は、前記第2波長より長い、
ファイバレーザ装置。
【請求項2】
前記第2波長は、前記活性元素の吸収率が最も高い波長と一致する、請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項3】
前記活性元素の吸収率が最も高い波長は、前記第1波長と前記第2波長との間の波長である、請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項4】
前記第1波長及び前記第2波長は、前記活性元素の吸収率が最も高い波長よりも長波長側の波長である、請求項1記載のファイバレーザ装置。
【請求項5】
前記第1波長と前記第2波長との差は、1nm以上5nm以下である、請求項1から請求項4の何れか一項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項6】
前記第一端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーと前記第二端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーとが同じ場合に、前記増幅用ファイバの前記第一端における発熱量は、前記増幅用ファイバの前記第二端における発熱量より小さい、請求項1から請求項5の何れか一項に記載のファイバレーザ装置。
【請求項7】
前記第一端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーは、前記第二端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーより小さい、請求項1から請求項5の何れか一項に記載のファイバレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザ装置に関する。
本願は、2020年9月24日に日本に出願された特願2020-159746号について優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工分野、自動車分野、医療分野等の様々な分野において、ファイバレーザ装置が注目されている。ファイバレーザ装置は、概して、レーザ光を増幅するための増幅用ファイバと、増幅用ファイバの両端に設けられた一対のFBG(Fiber Bragg Grating:ファイバブラッググレーティング)と、一方のFBGを透過したレーザ光(信号光)を外部に出力する出力端と、増幅用ファイバに励起光を供給する励起光源とを備える。
【0003】
このようなファイバレーザ装置は、励起光の供給方法に着目すると、前方励起型のファイバレーザ装置、後方励起型のファイバレーザ装置、双方向励起型のファイバレーザ装置に大別される。前方励起型のファイバレーザ装置は、増幅用ファイバに対して出力端とは反対側から励起光を供給する。後方励起型のファイバレーザ装置は、増幅用ファイバに対して出力端の側から励起光を供給する。双方向励起型のファイバレーザ装置は、増幅用ファイバに対して出力端とは反対側及び出力端の側の双方から励起光を供給する。以下の特許文献1には、従来の双方向励起型のファイバレーザ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2018-41792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複数のモードを有する増幅用ファイバを用いたファイバレーザ装置では、TMI(Transverse Mode Instability:Thermal Modal Instability ともいう)現象が発生し得る。TMI現象とは、増幅用ファイバに投入する励起光のパワーを増大させていくと、熱の影響で増幅用ファイバのコアにレーザ光の基本モードと高次モードとの伝搬定数の差に応じた周期的な屈折率変動が生じる現象である。この現象が生じると、基本モードから高次モードへのモード間の結合が生じるため、レーザ光のビーム品質が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができるファイバレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、第1波長の第1励起光を出力する第1励起光源と、前記第1波長とは異なる第2波長の第2励起光を出力する第2励起光源と、前記第1励起光及び前記第2励起光により励起される活性元素が添加されたコアを有する増幅用ファイバと、前記増幅用ファイバの第一端側に設けられたHR-FBGと、前記増幅用ファイバの第二端側に設けられ、前記HR-FBGよりも反射率が小さいOC-FBGと、前記第1励起光を、前記第一端側から前記増幅用ファイバに結合させる第1結合器と、前記第2励起光を、前記第二端側から前記増幅用ファイバに結合させる第2結合器と、前記増幅用ファイバで増幅されて前記OC-FBGを介したレーザ光を出力する出力端と、を備える。前記活性元素の前記第1波長における吸収率が、前記活性元素の前記第2波長における吸収率より低い。前記第1波長及び前記第2波長が、前記レーザ光の波長よりも短く、前記第1波長が、前記第2波長より長い。
【0008】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置では、増幅用ファイバの第一端側から増幅用ファイバに結合される励起光の波長である第1波長における活性元素の吸収率が、増幅用ファイバの第二端側から増幅用ファイバに結合される励起光の波長である第2波長における活性元素の吸収率より低くされている。また、第1波長及び第2波長が、レーザ光の波長よりも短く、第1波長が、第2波長より長くされている。これにより、増幅用ファイバの第一端側における単位長さ当たりの励起光の吸収率を、増幅用ファイバの第二端側における単位長さ当たりの励起光の吸収率よりも下げることができる。更に、第1波長を第2波長より長く(レーザ光の波長に近く)することで、量子欠損による増幅用ファイバの第一端側の温度上昇を抑制し得る。その結果、増幅用ファイバの第一端側における温度上昇が抑制され、基本モードから高次モードへのモード間の結合を防ぐことができるため、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができる。
【0009】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記第2波長が、前記活性元素の吸収率が最も高い波長と一致していてもよい。
【0010】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記活性元素の吸収率が最も高い波長が、前記第1波長と前記第2波長との間の波長であってもよい。
【0011】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記第1波長及び前記第2波長が、前記活性元素の吸収率が最も高い波長よりも長波長側の波長であってもよい。
【0012】
また、本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記第1波長と前記第2波長との差が、1nm以上5nm以下であってもよい。
【0013】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記第一端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーと前記第二端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーとが同じ場合に、前記増幅用ファイバの前記第一端における発熱量は、前記増幅用ファイバの前記第二端における発熱量より小さくてもよい。
【0014】
本発明の一態様によるファイバレーザ装置は、前記第一端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーは、前記第二端側から前記増幅用ファイバに結合される励起光のパワーより小さくてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態において、増幅用ファイバに添加された活性元素の吸収スペクトルの一例を示す図である。
図3】本発明の第3実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態によるファイバレーザ装置について詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態によるファイバレーザ装置の要部構成を示す図である。図1に示す通り、本実施形態のファイバレーザ装置1は、励起光源11(第1励起光源)、励起光源12(第2励起光源)、コンバイナ13(第1結合器)、コンバイナ14(第2結合器)、増幅用ファイバ15、及び出力端16を備える。このようなファイバレーザ装置1は、いわゆる双方向励起型のファイバレーザ装置である。
【0019】
本明細書では、増幅用ファイバ15から見て、励起光源11側を「前方」といい、出力端16側を「後方」という場合がある。また、図1では、各種ファイバの融着接続部を×印で示している。この融着接続部は、実際には、補強部(図示省略)の内部に配置されて保護される。ここで、補強部は、例えば、光ファイバを収容可能な溝が形成されたファイバ収容体と、融着接続部がファイバ収容体の溝に収容された状態で各種ファイバをファイバ収容体に固定する樹脂とを備えて構成されている。
【0020】
励起光源11は、波長λ1(第1波長)の励起光(第1励起光)を出力する。波長λ1は、励起光源11から出力される励起光のピーク波長である。励起光源11は、増幅用ファイバ15を前方励起するために設けられる。図1では4つの励起光源11を図示しているが、励起光源11の数は、ファイバレーザ装置1の出力端16から出力されるレーザ光(信号光)のパワーに応じて任意の数とすることができる。励起光源11としては、例えば、レーザダイオードを用いることができる。励起光源11から出力される励起光の波長λ1及びパワーの詳細については後述する。
【0021】
励起光源12は、波長λ2(第2波長)の励起光(第2励起光)を出力する。波長λ2は、励起光源12から出力される励起光のピーク波長である。励起光源12は、増幅用ファイバ15を後方励起するために設けられる。図1では4つの励起光源12を図示しているが、励起光源12の数は、ファイバレーザ装置1の出力端16から出力されるレーザ光のパワーに応じて任意の数とすることができる。励起光源12としては、励起光源11と同様に、例えば、レーザダイオードを用いることができる。励起光源12から出力される励起光の波長λ2及びパワーの詳細については後述する。
【0022】
コンバイナ13は、励起光源11の各々が出力した励起光を、増幅用ファイバ15の前方の端部(増幅用ファイバ15の第一端)に結合させる。具体的に、コンバイナ13は、励起光源11の各々に接続される複数の光ファイバ13aと、これら複数の光ファイバ13aと光学的に結合していて、後方の端部が増幅用ファイバ15の前方の端部に融着接続される1本の光ファイバ13bとを備える。以下では、後述するHR-FBG13cが形成された光ファイバと、増幅用ファイバ15との融着接続部を「融着接続部F1」と称する。本実施形態では、光ファイバ13bと増幅用ファイバ15との融着接続部を「融着接続部F1」と称する。
【0023】
光ファイバ13bのコア内には、HR-FBG(High Reflectivity-Fiber Bragg Grating)13cが形成されている。HR-FBG13cは、励起状態にされた増幅用ファイバ15の活性元素が放出する光のうち、信号光の波長λ0の光をほぼ100%の反射率で反射するように調整されている。HR-FBG13cは、その長手方向に沿って一定の周期で高屈折率の部分が繰り返される構造である。
【0024】
コンバイナ14は、励起光源12の各々が出力した励起光を、増幅用ファイバ15の後方の端部(増幅用ファイバ15の第二端)に結合させるとともに、信号光の一部を出力端16に導く。具体的に、コンバイナ14は、励起光源12の各々に接続される複数の光ファイバ14aと、これら複数の光ファイバ14aと光学的に結合していて、前方の端部が増幅用ファイバ15の後方の端部に融着接続される1本の光ファイバ14bとを備える。また、コンバイナ14は、光ファイバ14bと光学的に結合しているデリバリファイバ14dを備える。以下では、後述するOC-FBG14cが形成された光ファイバと増幅用ファイバ15との融着接続部を「融着接続部F2」と称する。本実施形態では、光ファイバ14bと増幅用ファイバ15との融着接続部を「融着接続部F2」と称する。
【0025】
光ファイバ14bのコア内には、OC-FBG(Output Coupler-Fiber Bragg Grating)14cが形成されている。OC-FBG14cは、HR-FBG13cとほぼ同様の構造を有しているが、HR-FBG13cよりも低い反射率で、光を反射するように調整されている。例えば、OC-FBG14cは、信号光の波長λ0の光に対する反射率が10~20%程度となるように調整されている。
【0026】
デリバリファイバ14dは、増幅用ファイバ15内で増幅された信号光の一部を伝送する。デリバリファイバ14dは、コアと、コアを囲うクラッドと、クラッドを覆う被覆とを備える。デリバリファイバ14dとしては、例えば、シングルモードファイバを用いることができる。デリバリファイバ14dは、例えば、マルチモードファイバであっても、フューモードファイバであってもよい。
【0027】
増幅用ファイバ15は、1種類又は2種類以上の活性元素が添加されたコアと、コアを覆う第1クラッドと、第1クラッドを覆う第2クラッドと、第2クラッドを覆う保護被覆とを有する。つまり、増幅用ファイバ15は、ダブルクラッドファイバである。コアに添加される活性元素としては、例えばエルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、或いはネオジム(Nd)等の希土類元素が使用される。増幅用ファイバ15のコアに添加された活性元素は、励起光源11,12から出力される励起光によって励起される。
【0028】
コア及び第1クラッドとしてはシリカガラス等を用いることができる。第2クラッドとしては、ポリマー等の樹脂を用いることができる。保護被覆としては、アクリル樹脂やシリコーン樹脂等の樹脂材料を用いることができる。増幅用ファイバ15は、いわゆるフューモードファイバ又はマルチモードファイバであり、複数のモードを伝播可能である。フューモードファイバが伝播するモードの数は、例えば、2以上25以下である。
【0029】
増幅用ファイバ15の前方の端部は、光ファイバ13bの後方の端部に融着接続されており、増幅用ファイバ15の後方の端部は光ファイバ14bの前方の端部に接続されている。ここで、光ファイバ13bに形成されたHR-FBG13c、光ファイバ14bに形成されたOC-FBG14c、及び増幅用ファイバ15は、共振器Rを構成している。共振器Rは、励起光源11,12が出力する励起光によって励起された活性元素から放出される光を共振させてレーザ光である信号光を生成する。
【0030】
増幅用ファイバ15内では、HR-FBG13c及びOC-FBG14cで反射した信号光が、増幅用ファイバ15の長手方向で往復する。信号光は、この往復に伴って増幅されてレーザ光となる。このように、共振器R内では、光が増幅されて信号光(レーザ光)が生成される。
【0031】
出力端16は、デリバリファイバ14dの後方の端部に接続されており、デリバリファイバ14dによって伝送されてきたレーザ光を外部に出力する。出力端16は、デリバリファイバ14dによって伝送されてきたレーザ光を透過する柱状体(光透過柱状部材)を備える。この部材は、いわゆるエンドキャップと呼ばれる。
【0032】
図2は、本発明の第1実施形態において、増幅用ファイバに添加された活性元素の吸収スペクトルの一例を示す図である。図2に例示する吸収スペクトルは、イッテルビウム(Yb)の吸収スペクトルである。図2に示す通り、イッテルビウム(Yb)の吸収スペクトルでは、波長975nm付近及び波長915nm付近で大きな吸収ピークが現れる。波長975nm付近で現れる吸収ピークは吸収率が最も大きく、波長915nm付近で現れる吸収ピークは、波長975nm付近で現れる吸収ピークよりも吸収率が小さい。
【0033】
本実施形態のファイバレーザ装置1では、共振器Rの共振波長が、例えば、1060~1080nm程度に設定されている。つまり、本実施形態において、ファイバレーザ装置1の出力端16から外部に出力される信号光(レーザ光)の波長λ0は、1060~1080nm程度に設定されている。図2に示す通り、信号光の波長λ0は、例えば、1070nmであり、増幅用ファイバ15に添加された活性元素であるイッテルビウム(Yb)に殆ど吸収されない波長である。
【0034】
本実施形態において、励起光源11から出力される励起光の波長λ1及び励起光源12から出力される励起光の波長λ2は、以下の(1),(2)式が満たされるように設定されている。
【0035】
【数1】
【数2】
【0036】
つまり、上記(1)式に示す通り、波長λ1,λ2は、波長λ1における活性元素の吸収率α(λ1)が、波長λ2における活性元素の吸収率α(λ2)よりも低くなるように設定されている。また、上記(2)式に示す通り、波長λ1,λ2は、信号光の波長λ0よりも短く設定されており、且つ、波長λ1は、波長λ2よりも長く設定されている。このように設定するのは、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制するためである。
【0037】
上記(1)式が満たされる場合には、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の単位長さ当たりの励起光の吸収率を、増幅用ファイバ15の融着接続部F2付近の単位長さ当たりの励起光の吸収率よりも下げることができる。これにより、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の温度上昇が抑制され、基本モードから高次モードへのモード間の結合を防ぐことができるため、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができる。
【0038】
上記(2)式において、波長λ1,λ2が、信号光の波長λ0よりも短く設定されているのは、波長λ0の信号光を得るには、信号光よりも高いエネルギーを有する励起光(波長λ1,λ2の励起光)が必要になるためである。また、上記(2)式において、波長λ1が、波長λ2よりも長く設定されているのは、波長λ1を信号光の波長λ0に近づけることで、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の量子欠損による温度上昇を抑制するためである。
【0039】
ここで、増幅用ファイバ15における単位長さ当たりの発熱量Q[W/m]は、以下の(3)式で表される。
【0040】
【数3】
【0041】
上記(3)式中におけるPp(λp)は、励起光のパワースペクトル[W]であり、A(λp)は、増幅用ファイバ15の単位長さ当たりの励起光の吸収量のスペクトル[dB/m]である。また、λpは、励起光の波長[nm]であり、λsは、信号光の波長[nm]である。右辺の係数0.230は、0.1×ln(10)であり、[dB]からリニアへの変換係数である。
【0042】
上記(3)式を参照すると、増幅用ファイバ15における単位長さ当たりの発熱量Qは、励起光のパワーと単位長さ当たりの吸収量(吸収率)とに比例することが分かる。ここで、上記(3)式の右辺の(1-λp/λs)の部分が量子欠損に起因する項である。λp<λsなる関係があるため、λpが長波長になるほど、量子欠損に起因する発熱量を低減することができる。従って、本実施形態では、波長λ1を、波長λ2よりも長く設定し、波長λ1を信号光の波長λ0に近づけることで、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の量子欠損による温度上昇を抑制するようにしている。
【0043】
ここで、励起光の波長λ1,λ2は、上述した(1),(2)式の関係を満たしつつ、以下の(A)~(C)の何れかの関係を満たすことが望ましい。
(A)波長λ2が、活性元素の吸収率が最も高い波長λPと一致する。
(B)活性元素の吸収率が最も高い波長λPが、波長λ1と波長λ2との間にある。
(C)波長λ1,λ2は、活性元素の吸収率が最も高い波長λPよりも長波長側にある。
【0044】
上記(A)の関係が満たされる場合には、励起光源12から出力される励起光の波長λ2が、活性元素の吸収率が最も高い波長λPと一致する。このため、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の温度上昇を抑制しつつ、励起光源12から出力される励起光を効率的に吸収することができる。図2に示す例において、活性元素の吸収率が最も高い波長λPは975nm付近である。上記(A)の関係が満たされる場合には、励起光源12から出力される励起光の波長λ2は975nm付近に設定される。上記の「一致する」とは、波長λ2と波長λPとの差が±1nm以内であることを意味する。
【0045】
上記(B)の関係が満たされる場合には、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近に加えて、融着接続部F2付近の温度上昇を抑制しつつ、励起光源11,12から出力される励起光を効率的に吸収することができる。図2に示す例において、上記(B)の関係が満たされる場合には、例えば、励起光源11から出力される励起光の波長λ1が978nm付近に設定され、励起光源12から出力される励起光の波長λ2が973nm付近に設定される。ここで挙げる具体的な波長は、あくまでも一例である点に注意されたい。
【0046】
上記(C)の関係が満たされる場合には、上記(A)の関係が満たされる場合に比べて、励起光源11,12から出力される励起光の吸収率を低下させることができる。また、励起光源11,12から出力される励起光の波長λ1,λ2を、より信号光の波長λ0に近づけることができる。このため、上記(A)の関係が満たされる場合よりも、増幅用ファイバ15の融着接続部F1,F2付近の温度上昇を抑制することができる。図2に示す例において、上記(C)の関係が満たされる場合には、例えば、励起光源11から出力される励起光の波長λ1が985nm付近に設定され、励起光源12から出力される励起光の波長λ2が980nm付近に設定される。ここで挙げる具体的な波長は、あくまでも一例である点に注意されたい。
【0047】
ここで、励起光源11から出力される励起光の波長λ1と、励起光源12から出力される励起光の波長λ2との差は、1nm以上5nm以下であることが望ましい。増幅用ファイバ15の長さは、吸収率の低い波長λ1の励起光が十分吸収(例えば、95%吸収)される長さに設定される。波長λ1,λ2の差が、1nm以上5nm以下であれば、波長λ1の励起光の吸収率が、波長λ2の励起光の吸収率に比べて極端に低くなることはないため、吸収率の低い波長λ1の励起光を十分吸収させるために、増幅用ファイバ15の長さを極端に長くするといった事態を避けることができる。これにより、誘導ラマン散乱の発生も抑制することができる。
【0048】
以上の通り、本実施形態では、波長λ1の励起光を増幅用ファイバ15(コアに活性元素が添加された光ファイバ)の前方の端部側から増幅用ファイバ15に供給するとともに、波長λ2の励起光を増幅用ファイバ15の後方の端部側から増幅用ファイバ15に供給している。ここで、波長λ1における活性元素の吸収率は、波長λ2における活性元素の吸収率より低く、波長λ1,λ2は、信号光の波長λ0よりも短く、波長λ1は、波長λ2よりも長く設定されている。
【0049】
これにより、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の単位長さ当たりの励起光の吸収率を、増幅用ファイバ15の融着接続部F2付近の単位長さ当たりの励起光の吸収率よりも下げることができる。その結果、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の温度上昇が抑制され、基本モードから高次モードへのモード間の結合を防ぐことができるため、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態によるファイバレーザ装置について説明する。本実施形態のファイバレーザ装置は、増幅用ファイバ15に対する励起光の供給方法が異なる。上述した第1実施形態によるファイバレーザ装置1は、励起光源11,12から出力される励起光をそれぞれ、コンバイナ13,14によって増幅用ファイバ15に供給している。これに対し、本実施形態のファイバレーザ装置は、サイドポンプにより励起光を供給する点が異なる。ここで、サイドポンプとは、励起光が供給される供給用ファイバのクラッドと、励起光を供給すべき被供給用ファイバのクラッドとの側面を部分的に接触させ、或いは部分的に融着接続し、供給用ファイバに供給される励起光を、接触部を介して被供給用ファイバに供給する方式である。
【0051】
具体的に、本実施形態のファイバレーザ装置は、図1に示すコンバイナ13,14が省略されている。そして、励起光源11から出力される励起光(波長λ1の励起光)が、サイドポンプ(第1結合器)により、例えば、HR-FBG13cと融着接続部F1との間に供給される。また、励起光源12から出力される励起光(波長λ2の励起光)が、サイドポンプ(第2結合器)により、例えば、OC-FBG14cと融着接続部F2との間に供給される。
【0052】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、励起光源11から出力される波長λ1の励起光は、増幅用ファイバ15の第一端側(融着接続部F1側)から増幅用ファイバ15に供給される。また、励起光源12から出力される波長λ2の励起光は、増幅用ファイバ15の第二端側(融着接続部F2側)から増幅用ファイバ15に供給される。
【0053】
本実施形態のファイバレーザ装置においても、励起光の波長λ1,λ2は、前述した(1),(2)式の関係を満たしつつ、前述した(A)~(C)の何れかの関係を満たすようにされる。このため、本実施形態においても、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の温度上昇が抑制され、基本モードから高次モードへのモード間の結合を防ぐことができるため、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができる。
【0054】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態によるファイバレーザ装置について説明する。本実施形態のファイバレーザ装置は、HR-FBG13c及びOC-FBG14cが形成されている光ファイバが異なる。前述した第1実施形態では、コンバイナ13に設けられた光ファイバ13bのコアにHR-FBG13cが形成されており、コンバイナ14に設けられた光ファイバ14bのコアにOC-FBG14cが形成されていた。
本実施形態のファイバレーザ装置1Aは、コンバイナ13に設けられた光ファイバ13bとは別の光ファイバ13dのコアにHR-FBG13cが形成されており、コンバイナ14に設けられた光ファイバ14bとは別の光ファイバ14eのコアにOC-FBG14cが形成されている。
本実施形態では、光ファイバ13dと増幅用ファイバ15との融着接続部を「融着接続部F1」と称し、光ファイバ14eと増幅用ファイバ15との融着接続部を「融着接続部F2」と称する。
【0055】
HR-FBG13cが形成された光ファイバ13dは、前方の端部がコンバイナ13の光ファイバ13bに接続され、後方の端部が増幅用ファイバ15の前方の端部に接続される。OC-FBG14cが形成された光ファイバ14eは、前方の端部が増幅用ファイバ15の後方の端部に接続され、後方の端部がコンバイナ14の光ファイバ14bに接続される。本実施形態のファイバレーザ装置1Aでは、図3に示すように、光ファイバ13bとHR-FBG13cとの間に融着接続部F3が形成され、光ファイバ14bとOC-FBG14cとの間に融着接続部F4が形成されている。
【0056】
本実施形態のファイバレーザ装置1Aにおいても、励起光の波長λ1,λ2は、前述した(1),(2)式の関係を満たしつつ、前述した(A)~(C)の何れかの関係を満たすようにされる。このため、本実施形態においても、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の温度上昇が抑制され、基本モードから高次モードへのモード間の結合を防ぐことができるため、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、波長λ1の励起光で増幅用ファイバ15を前方励起し、波長λ2の励起光で増幅用ファイバ15を後方励起する例について説明した。しかしながら、増幅用ファイバ15を前方励起する励起光(第一端側から増幅用ファイバ15に結合される励起光)及び後方励起する励起光(第二端側から増幅用ファイバ15に結合される励起光)は、波長λ1,λ2が含まれてもよい。
【0058】
例えば、図1に示すファイバレーザ装置1,1Aにおいて、4つの励起光源11のうちの幾つか(例えば、1つ)と、4つの励起光源12のうちの幾つか(例えば、1つ)とが入れ替えられた構成であってもよい。この構成のファイバレーザ装置では、波長λ1,λ2が含まれる励起光によって増幅用ファイバ15が前方励起されるとともに、波長λ1,λ2が含まれる励起光によって増幅用ファイバ15が後方励起される。
【0059】
このような構成のファイバレーザ装置では、前述したTMI現象によるビーム品質の低下を抑制するために、以下の(a)又は(b)の関係を満たすことが望ましい。
(a)増幅用ファイバ15を前方励起する励起光と増幅用ファイバ15を後方励起する励起光とのパワーが同じ場合に、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近における発熱量が、融着接続部F2付近における発熱量より小さい。
(b)増幅用ファイバ15を前方励起する励起光のパワーが、増幅用ファイバ15を後方励起する励起光のパワーより小さい。
【0060】
上記(a)又は(b)の関係が満たされる場合には、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近における発熱量が、融着接続部F2付近における発熱量より小さくなる。これにより、増幅用ファイバ15の融着接続部F1付近の温度上昇が抑制され、基本モードから高次モードへのモード間の結合を防ぐことができるため、TMI現象によるビーム品質の低下を抑制することができる。
【0061】
また、上述した実施形態のファイバレーザ装置1,1Aは、1つの出力端16を有する構成であったが、出力端16の先にさらに光ファイバ等を接続してもよい。また、出力端16の先にビームコンバイナを接続し、複数のレーザ装置からのレーザ光を束ねるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1,1A…ファイバレーザ装置、11…励起光源、12…励起光源、13…コンバイナ、13c…HR-FBG、14…コンバイナ、14c…OC-FBG、15…増幅用ファイバ、16…出力端
図1
図2
図3