(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】液体急結剤、補修材料、硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20230926BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230926BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20230926BHJP
C04B 103/12 20060101ALN20230926BHJP
【FI】
C04B22/14 A
C04B28/02
C04B24/24 A
C04B103:12
(21)【出願番号】P 2023006358
(22)【出願日】2023-01-19
【審査請求日】2023-05-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】水野 博貴
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
(72)【発明者】
【氏名】山岸 隆典
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特許第7209878(JP,B1)
【文献】特開2002-047048(JP,A)
【文献】特許第6989719(JP,B1)
【文献】特開2021-143090(JP,A)
【文献】特開2018-030731(JP,A)
【文献】特開2005-060201(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112608065(CN,A)
【文献】特開2022-076297(JP,A)
【文献】特開2022-072727(JP,A)
【文献】特開2021-178751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C04B 103/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる液体急結剤であって、
アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、
下記の条件で測定される
27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する、液体急結剤。
(条件)
観測核:
27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
【請求項2】
セメント及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる補修用の液体急結剤であって、
アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、
下記の条件で測定される
27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する、補修用の液体急結剤。
(条件)
観測核:
27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
【請求項3】
前記化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲のピークの半値幅が、10.0ppm以下である、請求項1または2に記載の液体急結剤。
【請求項4】
前記液体急結剤中の全アルカリ量R
2O(Rはアルカリ金属)が、1.0質量%以下である、請求項1または2に記載の液体急結剤。
【請求項5】
セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物と、請求項1に記載の液体急結剤とを含有する、補修材料。
【請求項6】
セメント及び細骨材を含有するセメント組成物と、請求項2に記載の液体急結剤とを含有する、補修材料。
【請求項7】
前記セメント組成物が、さらにポリマーを含有する、請求項6に記載の補修材料。
【請求項8】
前記セメント組成物中の細骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対して40~300質量部である、請求項5~7のいずれか1つに記載の補修材料。
【請求項9】
請求項5~7のいずれか1つに記載の補修材料を用いてなる、硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体急結剤、補修材料、及び硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル工事やコンクリート構造物の補修工事等において吹付け材料の急結性がもとめられる場合、吹付け材料とともに急結剤が使用されている。
急結剤には、主に粉体及び液体の2種類があり、液体急結剤は一般的に、粉体急結剤と比較して急結性が低いため、改善策として、例えば、特許文献1に示されるような、硫酸イオン濃度を高めることによって強度を改善する対策がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高濃度の液体急結剤は、長期間保存すると液中に析出物が生成したり、液がゲル化したり、懸濁粒子が沈降したりする場合があった。硫酸アルミニウムの水に対する溶解度は20℃で27%であり、共存する溶質や液温によって変動するが、溶解度以上の硫酸アルミニウムを含有する液体急結剤は、貯蔵安定性が悪く、また、セメント組成物と組み合わせた場合の付着性が課題となることがあった。
【0005】
以上より、本発明は、優れた貯蔵安定性を有し、セメント組成物とともに用いた際、付着性を良好にする液体急結剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような課題を踏まえて鋭意検討を行った結果、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、27Al-NMRによって得られるスペクトルおいて、特定の化学シフトにピークを有する液体急結剤が、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0007】
[1] セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる液体急結剤であって、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、下記の条件で測定される27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する、液体急結剤。
(条件)
観測核:27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
[2] セメント及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる補修用の液体急結剤であって、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、下記の条件で測定される27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する、補修用の液体急結剤。
(条件)
観測核:27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
[3] 前記化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲のピークの半値幅が、10.0ppm以下である、上記[1]または[2]に記載の液体急結剤。
[4] 前記液体急結剤中の全アルカリ量R2O(Rはアルカリ金属)が、1.0質量%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の液体急結剤。
[5] セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物と、上記[1]、[3]または[4]のいずれか1つに記載の液体急結剤とを含有する、補修材料。
[6] セメント及び細骨材を含有するセメント組成物と、上記[2]~[4]のいずれか1つに記載の液体急結剤とを含有する、補修材料。
[7] 前記液体急結剤が、さらにポリマーを含有する、上記[6]に記載の補修材料。
[8] 前記組成物中の細骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対して40~300質量部である、上記[5]~[7]のいずれか1つに記載の補修材料。
[9] 上記[5]~[8]のいずれか1つに記載の補修材料を用いてなる、硬化体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた貯蔵安定性を有し、セメント組成物とともに用いた際、付着性を良好にする液体急結剤を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)を詳細に説明するが、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書における「%」は特に規定しない限り質量基準とする。
【0010】
[1.液体急結剤]
本実施形態に係る液体急結剤の第一の態様は、セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる液体急結剤であって、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、下記の条件で測定される27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する液体急結剤である。本発明の液体急結剤は、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて所定の位置にピークを有することにより、優れた貯蔵安定性を有し、セメント、ポリマー、及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いた際、だれを抑制し付着強度を向上させることにより付着性を良好にする。
(条件)
観測核:27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
【0011】
また、本実施形態に係る液体急結剤の第二の態様は、セメント及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる補修用の液体急結剤であって、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、既述の条件で測定される27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する補修用の液体急結剤である。本発明の液体急結剤は、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて所定の位置にピークを有することにより、優れた貯蔵安定性を有し、セメント及び細骨材を含有するセメント組成物とともに補修用として用いた際、だれを抑制し付着強度を向上させることにより付着性を良好にする。
【0012】
第一の態様及び第二の態様の液体急結剤は、27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する。また、当該ピークの半値幅は、例えば、10.0ppm以下が好ましく、9.0ppm以下がより好ましく、8.0ppm以下がさらに好ましい。これにより、液体急結剤の貯蔵安定性を向上することができる。なお、半値幅は、例えば、0.1ppm以上でもよい。なお、液体急結剤の27Al-NMR測定は、市販の測定装置、例えば、日本電子製の超伝導核磁気共鳴装置(ECX-400)を用いて行うことができる。
以下、第一の態様及び第二の態様をまとめて単に液体急結剤ということがある。
【0013】
液体急結剤は、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有する。アルミニウム成分の原料としては、例えば、硫酸アルミニウム、各種ミョウバン、水酸化アルミニウムを使用することができ、硫黄成分の原料としては、硫酸等を使用することができる。ここで、アルミニウム分の原料と硫黄分の原料の比率において、アルミニウム分の原料の比率を大きくすると、上記化学シフトが所望の範囲に入りやすく、硫黄分の原料の比率を大きくすると、半値幅が小さくなりやすい。
【0014】
液体急結剤中のアルミニウム成分は、付着性及び貯蔵安定性の観点から、液体急結剤の質量を100%とすると、Al2O3換算で3.0~20.0%であり、5.0~18.0%が好ましく、7.0~15.0%がさらに好ましい。液体急結剤中のアルミニウム成分の含有量は、液体急結剤調製時に、アルミニウム成分の原料の使用量を調整することで、液体急結剤中のアルミニウム成分をAl2O3換算で上記範囲内とすることができる。
【0015】
液体急結剤部中の硫黄成分は、付着性及び貯蔵安定性の観点から、液体急結剤の質量を100%とすると、SO3換算で10.0~30.0%であり、15.0~29.0%が好ましく、15.0~20.5%がさらに好ましい。液体急結剤中の硫黄成分の含有量は、液体急結剤調製時に、硫黄成分の原料の使用量を調整することで、液体急結剤中の硫黄成分をSO3換算で上記範囲内とすることができる。
【0016】
液体急結剤は、環境保全の観点から、フッ化物イオン濃度が、500ppm以下であることが好ましく、450ppm以下がより好ましく、350ppm以下がさらに好ましく、0ppmであってもよい。なお、本発明において、液体急結剤中のフッ化物イオンの濃度は、市販の分析装置、例えば、Thermo Scientific製のイオンクロマトグラフィー(ICS2100)によって測定することができる。分析に際しては、予めフッ化物イオンが検量線内となるように希釈することで、測定を実施することができる。
【0017】
液体急結剤のpHは、7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。pHが7以下であることで、環境負荷低減効果および人体への悪影響を抑制させることができる。また、pHは2以上であることが好ましい。なお、液体急結剤のpHは、pH計を用いて測定することができる。
【0018】
液体急結剤における全アルカリ量R2O(Rはアルカリ金属)は、作業者の安全性の観点から、1.0%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。また、0%以上であってもよい。なお、液体急結剤中の全アルカリ量R2Oは、原子吸光法により測定することができる。
【0019】
液体急結剤は、例えば、硫酸アルミニウム、各種ミョウバン、水酸化アルミニウム、硫酸等の原料を混合し、加熱して反応させることによって得ることが出来る。加熱温度としては、70~100℃が好ましく、85~100℃がより好ましく、85~95℃がさらに好ましい。反応時間としては、30~150分が好ましく、60~150分がより好ましく、90~120分がさらに好ましい。
【0020】
液体急結剤は、既述の成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で種々の添加剤を含有させることができるが、取扱い性の観点から、アルミン酸ソーダは含有しないことが好ましい。
【0021】
[2.補修材料]
本実施形態に係る補修材料は、セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物と、本発明の液体急結剤とを含有する。補修材料中の液体急結剤の含有量は、セメント組成物中のセメント100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、0.03~10質量部がより好ましく、0.05~5質量部がさらに好ましい。補修材料中の液体急結剤の含有量が上記範囲内であると、補修材料の付着性を向上させることができる。
【0022】
セメントは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、低熱および中庸熱等の各種セメント、これらのセメントに、高炉スラグやフライアッシュやシリカフュームなどを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)、市販されている微粒子セメントなどが挙げられ、各種セメントや各種混合セメントを微粉末化して使用することも可能である。また、通常セメントに使用されている成分(例えばセッコウ等)量を増減して調整されたものも使用可能である。
本発明では、付着性の観点から、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントを選定することが好ましい。
【0023】
セメントは、製造コストや強度発現性の観点から、ブレーン比表面積値が、2,500~7,000cm2/gであることが好ましく、2,750cm2/g~6,000cm2/gであることがより好ましく、3,000cm2/g~4,500cm2/gであることがさらに好ましい。
ブレーン比表面積値は、JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)に準拠して求められる。
【0024】
細骨材は、特に限定されるものではなく、通常のセメントモルタルやコンクリートに使用するものと同様の細骨材が使用可能である。すなわち、川砂、砕石、砕砂、石灰砂、けい砂、色砂、及び人工軽量骨材等が使用可能であり、これらを組み合わせることも可能である。特に、シリカ質のけい砂や石灰砂の使用が好ましく、細骨材の粒度は、JIS6~8号が好ましい。
【0025】
セメント組成物中の細骨材の含有割合は、セメント100質量部に対して、40~300質量部であることが好ましく、45~275質量部であることがより好ましく、50~250質量部であることがさらに好ましい。細骨材の含有割合が上記範囲内であることで、補修材料の付着性をより良好にすることができる。
【0026】
セメント組成物は、さらにポリマーを含有することが好ましい。ポリマーのとしては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム等のゴムラテックスや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル酸エステル共重合体やアクリロニトリル・アクリル酸エステルに代表されるアクリル酸エステル系共重合体、酢酸ビニルビニルバーサテート系共重合体等の樹脂エマルジョン等が挙げられる。
ポリマーの形態としては、再乳化型粉末タイプや液体タイプがあり、付着性改善、さらに、モルタルの耐久性向上のために使用される。
【0027】
セメント組成物中のポリマーの含有割合は、セメント100質量部に対して、固形分量で1~20質量部であることが好ましく、2~18質量部であることがより好ましく、3~15質量部であることがさらに好ましい。ポリマーの含有割合が上記範囲内であることで、補修材料の付着性を向上させることができる。
【0028】
セメント組成物は、さらに繊維を含有することが好ましい。繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニロン繊維、プロピレン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の高分子繊維類や、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維、及び玄武岩等の岩石を溶融紡糸した繊維等の無機繊維類が挙げられる。
【0029】
セメント組成物中の繊維の含有割合は、セメント100質量部に対して、0.02~3.0質量部であることが好ましく、0.03~2.5質量部であることがより好ましく、0.05~2.0質量部であることがさらに好ましい。繊維の含有割合が0.02質量部以上であることで、付着性を改善する効果を十分に発揮することができる。また、繊維の含有割合が1.5質量部以下であることで、流動性を高めることができる。繊維の長さは、コテ仕上げ面の美観の観点から、15mm以下であることが好ましく、12mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。繊維の長さの下限は特に限定されず、例えば、1mm以上であればよい。
【0030】
セメント組成物は、さらに減水剤を含有することが好ましい。減水剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナフタレン系減水剤、メラミン系減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、及びポリカルボン酸系減水剤が挙げられ、本発明ではこれら減水剤のうちの一種又は二種以上が使用可能である。
【0031】
セメント組成物中の減水剤の含有割合は、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1~2質量部が好ましく、0.2~1.8質量部がより好ましく、0.3~1.0質量部がさらに好ましい。減水剤の含有割合が上記下限値以上であることで、十分な流動性を得ることができる。また、減水剤の含有割合が上記上限値以下であることで、材料分離を抑制することができる。
【0032】
セメント組成物は、さらに急硬材を含有してもよい。急硬材としては、凝結を促進し、短期での強度増進を図るものであれば、特に限定されるものではない。急硬材は、凝結を促進するものとして、ギ酸カルシウムに代表される有機酸のカルシウム塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、チオシアン酸塩、アミン類、無水マレイン酸、水ガラスに代表される珪酸塩、硫酸アルミニウム、及び、ミョウバンに代表されるアルミニウム塩、カルシウムアルミネート(アルミン酸カルシウム)、アルミン酸塩等が挙げられる。これらの中では、強度発現性の観点から、アルミン酸塩が好ましく、カルシウムアルミネート(CA)を含むことが好ましい。
【0033】
カルシウムアルミネートは、カルシア原料とアルミナ原料等とを混合して、キルンで焼成し、あるいは、電気炉で溶融し冷却して得られるCaOとAl2O3とを主成分とする水和活性を有する物質の総称であり、結晶質、又は非晶質のいずれであっても使用可能である。硬化時間が早く、初期強度発現性が高い材料である。カルシウムアルミネートの代表的なものとしてはアルミナセメントが挙げられ、通常、市販品が使用できる。例えば、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号などが使用できる。なかでも、アルミナセメントよりも短時間で硬化し、その後の初期強度発現性が高い点から、溶融後に急冷した非晶質カルシウムアルミネートが好ましい。
カルシウムアルミネートのなかでも、CaOとAl2O3とのモル比(CaO/Al2O3モル比)は、1.0~3.0であることが好ましく、1.7~2.5であることがより好ましい。モル比が上記範囲内であることで、硬化時間をより短縮して初期強度発現性を高めることができる。
【0034】
本発明で使用する急硬材の含有割合は、セメント100質量部に対して、1~30質量部であることが好ましく、3~25質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることがさらに好ましい。また、急硬材としてカルシウムアルミネートを含有する場合、カルシウムアルミネートの含有割合は、セメント100質量部に対して、2~20質量部であることが好ましく、3~18質量部であることがより好ましく、4~15質量部であることがさらに好ましい。急硬材の含有割合が上記下限値以上であることで、強度発現性を良好としやすい。
【0035】
本発明では、性能に悪影響を与えない範囲で、凝結調整剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、及びパルプスラッジ焼却灰等の混和材料、消泡剤、増粘剤、収縮低減剤、ベントナイト、セピオライトなどの粘土鉱物、並びに、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0036】
本発明の補修材料において、各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を施工時に混合しても良いし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。例えば、吹付け工法で用いる場合は、あらかじめセメント組成物の材料を混合し、液体急結剤を吹付け時に混合して補修材料を吹付けることができる。混合装置としては、既存のいかなる装置、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、ヘンシェルミキサ、V型ミキサ、及びナウタミキサなどの使用が可能である。
【0037】
[3.硬化体]
本実施形態に係る硬化体は、本発明の補修材料を用いてなる硬化体である。本発明の補修材料と水とを混練し、通常、左官コテによる塗り付け方法や、スクイズ式等のモルタルポンプにより施工箇所まで圧送して吹付けノズルより吹付ける吹付け方法により、硬化体とすることができる。
【0038】
練り混ぜ水量は、使用する目的・用途や各材料の含有割合によって変化するため特に限定されるものではないが、補修材料100質量部に対して、5~70質量部であることが好ましく、8~65質量部であることがより好ましく、10~60質量部であることがさらに好ましい。練り混ぜ水量が上記下限値以上であることで、流動性の低下を抑制し、発熱量が極めて大きくなることを抑制することができる。また、練り混ぜ水量が上記上限値以下であることで、強度発現性を確保することができる。
【0039】
本発明において、補修材料と水との練り混ぜ方法は特に限定されるものではないが、回転数が900rpm以上のハンドミキサ、通常のモルタルミキサ、又は二軸型の強制ミキサを使用することが好ましい。
ハンドミキサやモルタルミキサでの練り混ぜは、例えば、ペール缶等の容器やミキサにあらかじめ所定量の水を入れ、その後ミキサを回転させながら残りの補修材料を投入し、3分以上練り混ぜることが好ましい。又、強制ミキサでの練り混ぜは、例えば、あらかじめ補修材料をミキサに投入し、ミキサを回転させながら所定量の水を投入し、少なくとも4分以上練り混ぜることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1~7]
<液体急結剤の調製>
アルミニウム成分及び硫黄成分を、それぞれAl2O3換算及びSO3換算で表1に示す量となるよう各種原料を調整、混合し、90℃で2時間加熱することで液体急結剤を作製した。
【0042】
<使用材料>
アルミニウム成分源:水酸化アルミニウム、工業用品用
硫黄成分源:硫酸、工業用品用
溶媒:純水
【0043】
<27Al-NMR測定>
調製した液体急結剤は、超伝導核磁気共鳴装置(日本電子製、ECX-400)を用いて下記の条件で行い、ピークの化学シフト及び半値幅を測定した。結果を下記表1に示す。
【0044】
<27Al-NMR測定条件>
観測核:27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
【0045】
<貯蔵試験>
液体急結剤の貯蔵安定性を評価するために貯蔵試験を実施した。貯蔵性が低下すると特に低温環境において液体急結剤中に析出物が生成する。液体急結剤を10℃環境1か月間静置し、その析出物をろ紙にて抽出し、液体急結剤100g当たりの析出物量を算出した。結果を下記表1に示す。
【0046】
[比較例1~4]
実施例1~7と同様にして、液体急結剤を作製し、各試験により評価した。結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
(実験例1)
<補修材料の調製>
セメント100質量部に対して、細骨材200質量部、繊維0.1質量部、減水剤0.5質量部、水14質量部とし、セメント組成物を調製した。このセメント組成物中のセメント100質量部に対して、実施例1~5及び比較例1~2の液体急結剤を6質量部混合し、補修材料を調製した。
【0049】
<圧縮強度試験>
圧縮強度:JSCE-G 561-2010に準じて型枠に吹付けて、材齢1日、28日時点での圧縮強度を測定した。試験結果を下記表2に示す。
【0050】
<厚塗り性試験(だれの有無)>
下地をコンクリート製平板とし厚さ10mm×縦150mm×横250mmの型枠内にモルタルを吹き付け、コテ仕上げを行った後に、その枠を取りはずし、直ちに試験体を垂直に立て、1日静置し、だれの有無を確認した。試験結果を下記表2に示す。
【0051】
<付着強度試験>
付着強度:300×300×60mmの舗道板に補修材料を60mm吹付け、試験体を作製した。材齢28日にφ55mmでコアリングし、建研式接着力試験器(オックスジャッキ株式会社社製)を用いて付着強度を測定した。試験結果を下記表2に示す。
【0052】
【0053】
(実験例2)
<補修材料の調製>
セメント100質量部に対して、細骨材200質量部、ポリマー(ポリアクリル酸エステル再乳化樹脂、市販品、水分率0.8%、密度0.5g/mL)3.0質量部、繊維0.1質量部、減水剤0.5質量部、水14質量部とし、セメント組成物を調製した。このセメント組成物中のセメント100質量部に対して、実施例1~5及び比較例1~2の液体急結剤を6質量部混合し、補修材料を調製した。得られた補修材料は、実験例1と同じ方法により、圧縮強度、厚塗り性及び付着強度を測定した。結果を下記表3に示す。
【0054】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の液体急結剤は、例えば、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルや、法面等において露出した地山面へ吹付けるセメントコンクリートや、コンクリート構造物の補修材料等に対して好適に使用できる。
【要約】
【課題】優れた貯蔵安定性を有し、セメント組成物とともに用いた際、付着性を良好にする液体急結剤を提供することを目的とする。
【解決手段】セメント、ポリマー及び細骨材を含有するセメント組成物とともに用いられる液体急結剤であって、アルミニウム成分及び硫黄成分を含有し、下記の条件で測定される27Al-NMRによって得られるスペクトルにおいて、化学シフト-1.0ppm以上3.0ppm以下の範囲にピークを有する、液体急結剤である。
(条件)
観測核:27Al
試料管回転数:12Hz
測定温度:25℃
パルス幅:5μsec(45°パルス)
待ち時間:5秒
外部標準:塩化アルミニウム水溶液
【選択図】なし