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特許7355954連接コンクリートブロック体からなる上路式アーチ橋の吊り上げ搬送・設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-25
(45)【発行日】2023-10-03
(54)【発明の名称】連接コンクリートブロック体からなる上路式アーチ橋の吊り上げ搬送・設置方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 4/00 20060101AFI20230926BHJP
   E01D 21/00 20060101ALI20230926BHJP
【FI】
E01D4/00
E01D21/00 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023016039
(22)【出願日】2023-02-06
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000161817
【氏名又は名称】ケイコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】荒川 崇
(72)【発明者】
【氏名】金丸 和生
(72)【発明者】
【氏名】星田 典行
(72)【発明者】
【氏名】白石 芳明
(72)【発明者】
【氏名】新田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山口 薫
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康夫
(72)【発明者】
【氏名】下瀬 裕一
(72)【発明者】
【氏名】東 大智
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-78297(JP,A)
【文献】特開2017-78296(JP,A)
【文献】特開昭54-30612(JP,A)
【文献】特許第2812885(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 4/00
E01D 21/00
E04B 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下底よりも上底が長い逆台形を底面としてこれに側稜が直交する四角柱状の迫石ブロックを、この逆台形の下底と接する四角柱の側面を下平面とし上底と接する側面を上平面とする向きで逆台形の上底の延伸方向に多数並列して並べ置くように配設し、それらの複数個の迫石ブロックの上平面近傍内部に連接材を埋設するようにして巡らせ、隣接する迫石ブロックと上平面近傍で連接することで、隣接する迫石ブロックとの連接箇所を軸として下方に吊り下がる迫石ブロックを回動可能として、全体を吊り上げたときに下底側を内周とし、上底側を外周とする円弧状のアーチ橋に形成可能とした、アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体を、平置状態から湾曲状態へと吊り上げて基台に載置するための、連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法であって、
クレーンにより吊り下がる水平支柱の左右に設けた1対の定滑車には、平置状態の連接コンクリートブロック体を係止するためのワイヤーが、ワイヤーの一方端が連接コンクリートブロック体の中央寄りの迫石ブロックに係止され他方端を中央から離れた位置の迫石ブロックに係止されるようにして、定滑車それぞれに対称に配されており、
水平支柱をクレーンで上方に吊り上げていくことで、定滑車を回転させつつ定滑車とワイヤーの両端までの各吊り下げ長さを変動させ、連接コンクリートブロック体を湾曲状態に吊り下げる、連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法。
【請求項2】
左右の定滑車に配されているワイヤーの一方端は、連接コンクリートブロック体の中央ブロックに隣接するブロックにそれぞれ係止されていることを特徴とする、請求項1に記載の連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法。
【請求項3】
左右の定滑車に配されているワイヤーの他方端は、中央の迫石ブロックと端の迫石ブロックの中間のブロックもしくは中間ブロックに隣接するブロックにそれぞれ係止されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法。
【請求項4】
迫石ブロックに係止されるワイヤーは、定滑車から迫石ブロックまでの経路上で二股に分かれて、同じ迫石ブロックの長手方向に2ヶ所に分かれて係止されていること、を特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多数のコンクリートブロックを連接して形成するアーチ橋に用いるコンクリートブロック体の吊り上げ搬送・設置方法に関する。すなわち、水平に平置きされてあったコンクリートブロック連接体を上方に吊り上げることによって、ブロック全体をアーチ形状に形成して、基礎ブロック上に載せ置くことのできる、吊り上げ搬送・設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にアーチ橋をコンクリートで製造しようとするときには、大きな構造物であるから、現場打ちで作業がなされている。まず、現地にて足場を架設してアーチの下方および側面を形づくるように型枠を形成し、構造物内部に適宜配筋を配してから、コンクリートを打設する。そして、流し込んだコンクリートが固化するまで十分に養生するといった必要もある。すると、大がかりであるから、建造コストや工期が大きなものとなってくる。ところが、道路整備が一巡したような現在では、新設する橋ばかりではなく、現在既にかかっている老朽化した橋を掛け換えるといった要請がむしろ高いものとなっている。15m以上の橋梁は14万6千橋あり、15m以下の橋梁も推定によると約84万橋あるとされている。そして、15m以上の橋梁は、2016年にはその20%が、2026年にはその48%が寿命とされる50年に達するとされており、15m以下の橋梁においても、老朽化や改修の要請される傾向は同様であろうと想定される。
【0003】
そして、橋の掛け替え工事においては、一般的に長寿命化修繕が志向されていることから、耐久性のある強固なコンクリート橋は、要望に適う手法のひとつに足りうる。しかしながら、日頃利用に供されている橋であればあるほど、利用・通行を阻害しないようにスムーズな掛け替え工事が望まれていることから、工期が長くなりがちなコンクリート構造物を選択することは必ずしも容易ではない。また、工期が長くかかるとコストも増していくことが多い。
【0004】
さて、アーチ橋の構造物は古くはローマ時代から石造の橋として広く活用されていたことが知られている。アーチ構造は、それぞれの迫石部材に曲げの力が大きくかかることがなく、鉛直方向の荷重の大部分の力は圧縮力であり両端の支点まで伝えられるものであるから、二つの支点間のスパンを比較的長く確保しやすいという利点がある。そして、コンクリートは、非常に圧縮に対して強い素材であるから、アーチ構造に際して適した素材である。
【0005】
そして、アーチ橋そのものを一体的に大型プレキャストコンクリートとして製造してしまうことができれば、工場で成型した物を現場に持ち込んで据え付け工事をすることができるので、現地での施工工程が簡略化できることから、アーチ橋をプレキャストコンクリートブロックで製造することの有用性は高い。一方で、コンクリートの圧縮応力が十分に発揮されるには、養生温度にもよるとはいえ、打設後1週間以上かかる。そこで、プレキャストブロックで十分に養生したものであれば、強度が十分に備わった状態で現場での施工ができることとなる。もっとも、アーチ橋そのものを全体として一体的にプレキャスト化すると、構造物が大きすぎるものとなり、その搬送は困難になる。そこで、ある程度大まかに分割したブロックとする場合でも、大型ブロックとなってしまうので、各ブロックの重量が数トンにも及んでしまうこととなる。しかし、大型で大重量となると、工場からの搬出・搬送が容易ではなく、重機や輸送手段も大型化してしまうほか、アーチの高さ(迫高,アーチライズ)は高さがあるので、公道を走行するには支障がでやすく現実的には諸々の困難を伴いやすい。また、アーチの両端同士の距離(径間,スパン)とアーチライズは、橋によって種々にバリエーションがあるところ、プレキャストコンクリートの型枠をそれに種々に対応させることとなっては、大量生産に不向きものとなってしまい、コストに見合う実用化が容易とはいえなくなる。そこで、実用的にスパンやアーチライズなどのアーチ橋の設計に対応しやすい自由度の高い工法が望まれている。
【0006】
もっとも、コンクリートブロックを迫石部のブロックひとつずつで製造し、これらを石積のようにひとつひとつ積み上げていくような手法をとるとなると、かえって実用性が乏しいものとなる。もちろん、設計自由度が高いものとなるであろうが、石積みのようにブロックを積み上げていくには、支点間のスパンにアーチの円弧の土台を土で盛るなどして築くなどの必要があり、大がかりな作業が事前に必要となる。しかし、河川での工法として採用するには、土台の支保工や足場工の困難さを考えると、実用的な工法とは言い難い。そして、ブロックをアーチ状に隙間なく積み上げていく作業は手間と時間がかかるのみならず、そもそも精緻な積み上げをするとなれば、作業者には相応な熟練の技量が要請されることとなる。すると、再現性がある安定的な一般的工法として建設業界に広く普及させていくには不向きな技術となるので、もっと簡便な取り扱いのできる施工しやすい工法の可能な建造物が望まれている。
【0007】
そこで、より簡便な工法を志向したもののひとつとして、クイーンズ大学ベルファスト校は、複数のコンクリートブロックを配列して形成させるアーチ橋およびその工法として、アーチの円弧を複数の逆台形状の複数個の迫石部に分割し、これらの迫石部を平面上に一列に展開して並べ置き、それぞれの迫石部の上平面を一連の補強材の格子状のポリプロピレン樹脂で連接した後、平面上の状態で現場まで搬送してから、現場で中央の迫石部のブロックが高くなるように吊り上げて全体を円弧状のアーチに形成して、現場に設置する方法を提案している(特許文献1および特許文献2参照。)
【0008】
たしかに、この工法によると、平面上に一列に配列して上平面を連接した一連の複数の迫石部を現場まで搬送後、吊り上げてアーチ状にすることとなるので、搬送時にはアーチライズ自体は考慮せずともよくなり、また複数のアーチ部材を平置きで重ね置くこともできる余地がある。そして、現場での足場工や支保工を簡略化できるので、通常のアーチ橋の架設に比した場合、現場での工期短縮が見込まれる。
【0009】
そして、これらの特許文献1、2で、具体的に実施の形態として発明の詳細な説明に開示されている手順は、1個の型枠で1個ずつ同形状の迫石部のコンクリートブロックを成型したうえで、この迫石部のブロックを平面に一列に配してから、格子状のポリプロピレン樹脂を上平面に渡して補強連結する手順である。
【0010】
もっとも、これらの特許文献1、2の工法によると、最終的には、一連に連接されたアーチ橋が平置状態に展開された状態となるため、この一連のものを搬送するために吊り上げる際にも大型の重機が必要となる。また、設置時にも大型重機で吊り上げる必要がある。すなわち、製造時に最初から一連一体にするとなると、搬送自体がかなり大がかりな作業となる。たとえば、スパン10m、アーチライズ2.5mのときには、平面に展開した迫石部ブロックの全長は約12mとなる。また、スパン10m、アーチライズ4mならば、全長は約14mともなる。長大かつ大重量なので、大型のトレーラーでなければ、平置であっても日本国内の道路上を安全に搬送することができないものとなる。そこで、平置き状態で製造し、搬送できる便宜性が十分に活かせるものとは必ずしもいえなかった。なお、特許文献1、2においては、3~8m程度のスパンが開示されるに留まっている。
【0011】
そこで、本願出願人は、複数の迫石ブロック同士を、埋設された連接部材で連接して一体化したものをブロック群として、ブロック群同士を連結して、全体を一連一体の連接コンクリートブロック体とし、吊り上げることで円弧にしたとき、アーチ橋に形成しうるアーチ橋の構造用の連接コンクリートブロック体を発明し、提案している(特許文献3参照。)
【0012】
この特許文献3に記載の連接コンクリートブロック体を用いると、複数のブロック群を一体にして全体を形成させることから、製造、搬送等がブロック群単位で扱えて容易となり、また、ブロック群の両端を半分のサイズのブロック同士として、これらを互いに突き合わせて一体にして1つのブロックサイズとすることによって接合する手法をとることから、ブロック同士の接合部において、各ブロックの上端を連接する樹脂部材が伸びてしまうトラブルを避けられるものとなっている。
【0013】
もっとも、吊り上げ作業によりアーチをきれいに形づくるのは容易ではない。たとえば、迫石部のブロックをクレーンで吊り上げていくとき、迫石部の各ブロックは隣接するブロックと壁面を接するように密着させながら吊り下がっていくこととなるので、きれいなアーチの円弧が自然と形成されることが想定されている。
ところが、実際に中央を高く吊り上げてアーチ状に吊り下げてみようとすると、とりわけ、アーチライズが高くなるような深い円弧を描く配置を用いた場合には、吊り下がる両端の迫石部のブロックは、隣接するブロックと密着することができないこととなる。アーチのきれいな円弧のラインまで両端のブロックは傾かず、外側に開いた状態で吊り下がってしまうこととなる問題が発生し、隙間が空いて外向きに折れ曲がったようになってしまうのである。すると、設計上の設置スパンどおりに両端のブロックを配設することが難しくなり、計画どおりには設置作業が進めにくくなる。
一方で、ブロックの自重は重いことから、吊り下がった状態で開いた位置のブロックを所望の位置に傾け直すことは容易ではない。そこで、設置する所期のスパンのとおりに再現性高く作業を進めることが求められることとなる。
【0014】
そこで、本願出願人は、両端近くの下方のブロック同士を拘束部材で引き寄せて密着させる工夫として、「複数の迫石ブロック同士を、埋設されたジオグリッドで連接して一体化し、少なくとも下端ブロックは隣接ブロックとの隙間の開き具合を拘束部材によって調整可能とした、アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体」を提案している(特許文献4参照。)。
たしかにこうした工夫によって、両端の吊り下がる姿勢は適切に保たれるものとなりうるが、本願の課題において述べるとおり、多数のブロックに分割して平面状に並べ置いた状態から、クレーンで吊り上げてアーチ状に形成し、所望の円弧を形成させた状態で据え置くためには、クレーンによる吊り上げによって連接されたブロックが吊り下がる際に姿勢変化を伴うこととなる。そこで、さらに吊り上げ中に生じる動的な変化に追従できる対応性が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第2004/044332号
【文献】米国特許第7204058号明細書
【文献】特開2017-78297号公報
【文献】特開2017-78296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
吊り上げについて整理すると、上方が連接された端面が迫石形状のブロックをクレーンで吊り上げるとき、上平面側に隣接ブロックとの連接部があるので、その連接部位を回転支軸としてブロック自体は吊り下がることとなる。
【0017】
もっとも、迫石部のコンクリートブロックは、1個が150kg以上もあるので、吊り下げられると、回転支軸となる連接部位を中心に回転しながら、その重心が支軸の鉛直下になる向きに移動しようと回転しようとする。
【0018】
吊り下がったブロックは、重心移動のみによって、隣接するブロックに接する方向へ回転しようとするので、隣接するブロックに隙間なく接するようになる。そこで、吊り上げるだけできれいな所望のアーチのラインが自然と形成されることとなる。
【0019】
このように、連接された迫石ブロックからなるコンクリートブロック体が、当初は水平な状態で連接されて並べられており、迫石ブロックが中央を高く吊り上げられた際には、連接箇所で各々回転することで両端が垂れ下がってアーチ形状になっている。そこで、吊り上げ動作の途中で、水平からアーチへと形状が変形する動きが伴われることとなるが、その姿勢変化は容易ではない。
【0020】
たしかに吊り上げの際に、適切に荷重が移動されれば、自重だけでこのような理想的なアーチ形状を形づくるよう促されることとなるので、姿勢変形は一見容易にみえる。ところが、実際に吊り上げることはなかなか簡単ではない。
なぜなら、自重が数トンもあるコンクリートブロックであり、中央が高くなるように吊り下げようとして、中央1点だけで吊り下げようとすれば、中央周辺に負荷がかかりすぎて不都合が生じる。また、中央1点だけで吊り上げると容易に回転してしまい不安定となる。
【0021】
すなわち、コンクリートブロックの迫石は、1個が150kg以上あるので、単純に中央の迫石ブロックを高く吊り上げていくだけでは、中央1本のワイヤーに3トンもの荷重が集中してしまう。吊り上げるワイヤー自体に負荷が集中するだけではなく、中央付近のブロックの連接部の樹脂に、端部までのブロックの荷重がかかるので、連接部への負担が非常に大きなものとなる。そこで、連接部が意図せず引き伸ばされてしまうこととなる。しかしながら、連接部の樹脂が延びしてしまえば、それだけでアーチ全体のスパンが変わってしまうこととなる。アーチはあらかじめ設置した両端を固定する基台の上に載せ置くことが構造上重要であるところ、所定のアーチスパンからずれてしまうとなれば、アーチ形状を予め設計どおりに設置された基台のうえに載せ置くことが困難となる。このように、設計どおりにアーチを描かせること自体が容易ではなくなるので、中央だけで引き上げることは適切ではない。
【0022】
また、仮に中央のブロックのみを持ち上げることでアーチを形づくることが強度的に可能であるとしても、左右均等に吊り下がるゆえに、吊り上げた中央部のブロックを中心にコマのようにちょっとした風などで容易に回転してしまうこととなる。すると、吊り上げ作業自体が不安定になりやすい。
【0023】
それでは、中央のブロックの引き上げに加えて荷重を分散させるために、中央以外に左右に数か所をワイヤーで係止して吊り下げることで、安定して吊り上げられるかといえば、姿勢変化のためにワイヤーの長さを調整する必要があり、作業上の支障が大きく、簡単な作業とはいえないのである。
【0024】
たとえば、中央のほかに左右に1ヶ所ずつ、3本のワイヤーで吊り上げるとすれば、ワイヤーが同じ長さであれば、3箇所の高さは変わらないので、他の部分が吊り下がるため、中央がそのままでは高くならず、波打ってしまうため、アーチ状にならない。
【0025】
他方、中央を左右のワイヤーより短い長さのワイヤーで吊り上げるとすると、中央のみが先に吊り上がるので、左右のワイヤーが利き出すまでは、中央のブロックの動きに引きずられて地面の上で左右のブロックが中央方向へと引っ張られることとなるので、中央付近にかかる負荷は大きい。
【0026】
それでは、地面から水平に吊り上げてから、中央のワイヤーの長さを吊り上げ後に短く変えていくこと、空中で姿勢変化させることができるかといえば、これも容易ではない。コンクリートブロックは重く、危険であるため、作業者が下方に位置することは避けなければならないので、吊り上がった中央のワイヤーの長さをウインチなどで調整すること自体も簡単ではなく、余計な道具を必要とする。また、高さ調整を慎重に作業しなければならないので、吊り上げ作業自体の工程が多く、作業難易度が高くなってしまうこととなる。
【0027】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、水平状態に配置された連接されたブロックをワイヤーで持ち上げることによって、簡便かつ安定的に連接コンクリートブロック体を湾曲変形させていき、アーチ形状に吊り上げることができる吊り上げ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の課題を解決するための第1の手段は、下底よりも上底が長い逆台形を底面としてこれに側稜が直交する四角柱状の迫石ブロックを、この逆台形の下底と接する四角柱の側面を下平面とし上底と接する側面を上平面とする向きで逆台形の上底の延伸方向に多数並列して並べ置くように配設し、それらの複数個の迫石ブロックの上平面近傍内部に連接材を埋設するようにして巡らせ、隣接する迫石ブロックと上平面近傍で連接することで、隣接する迫石ブロックとの連接箇所を軸として下方に吊り下がる迫石ブロックを回動可能として、全体を吊り上げたときに下底側を内周とし、上底側を外周とする円弧状のアーチ橋に形成可能とした、アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体を、平置状態から湾曲状態へと吊り上げて基台に載置するための、連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法であって、クレーンにより吊り下がる水平支柱の左右に設けた1対の定滑車には、平置状態の連接コンクリートブロック体を係止するためのワイヤーが、ワイヤーの一方端が連接コンクリートブロック体の中央寄りの迫石ブロックに係止され他方端を中央から離れた位置の迫石ブロックに係止されるようにして、定滑車それぞれに対称に配されており、
水平支柱をクレーンで上方に吊り上げていくことで、定滑車を回転させつつ定滑車とワイヤーの両端までの各吊り下げ長さを変動させ、連接コンクリートブロック体を湾曲状態に吊り下げる、連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法である。
【0029】
すなわち、H型鋼のような剛性の支柱をクレーンで水平に吊り上げることによって、その水平な支柱の左右に均等に配された定滑車を介して吊り下がった連接コンクリートブロック体は、中央寄りの迫石ブロックから定滑車までのワイヤーの距離と、中央から離れた迫石ブロックから定滑車までのワイヤーの距離が、定滑車上をワイヤーが回転移動することで調整されるので、平置き状態からワイヤーの距離が変わりながら、吊り上がることで、自然と湾曲するように導かれる。
【0030】
その第2の手段は、左右の定滑車に配されているワイヤーの一方端が、連接コンクリートブロック体の中央ブロックに隣接するブロックにそれぞれ係止されていることを特徴とする、第1の手段に記載の連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法である。
【0031】
その第3の手段は、左右の定滑車に配されているワイヤーの他方端は、中央の迫石ブロックと端の迫石ブロックの中間のブロックもしくは中間ブロックに隣接するブロックにそれぞれ係止されていることを特徴とする、第1又は第2の手段に記載の連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法である。
【0032】
その第4の手段は、迫石ブロックに係止されるワイヤーは、定滑車から迫石ブロックまでの経路上で二股に分かれて、同じ迫石ブロックの長手方向に2ヶ所に分かれて係止されていること、を特徴とする、第1又は第2の手段に記載の連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明の手段によると、水平状態で平置された連接コンクリートブロック体は、1対の定滑車で左右対称に吊り上げられる際に、水平支柱がクレーンの上昇につれて、定滑車が回転してワイヤーが移動することから、定滑車から一方端の迫石ブロックまでの長さと定滑車から他方端の迫石ブロックまでのワイヤー長がブロックの荷重によって自然と変動していくこととなる。すると、水平支柱が上昇するだけで、定滑車から迫石ブロックまでのワイヤーの長さが調整され、吊り上がることで連接コンクリートブロック体が湾曲することとなる。そこで、中央のワイヤーの長さを吊り上げて途中でウインチで調整するといった手間を要せずに、作業者を介さずとも、湾曲状態を形成していくことができる。
【0034】
定滑車を介して係止する迫石ブロックの一方を中央の迫石ブロックの両隣とすることで、中央部分が他方の係止箇所よりも高く持ち上がるようにすることができる。また、他方の係止箇所を、中央と両端の中間の箇所のブロックもしくはその前後のブロックとすることで、吊り上げる際の荷重バランス上、定滑車が回転して、中央寄りブロックまでのワイヤーの長さが短くなることが安定して促される。
【0035】
定滑車から迫石ブロックまでの経路で、さらに二股に分かれることで、迫石ブロックの長手方向中央で係止する場合に比して、長手方向に2ヶ所に分かれて係止されるため、回転しにくく、より安定した吊り上げ作業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施の形態として、一連一体に連接されたアーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体を側面から示した図である。(a)は平面上に平置きした状態、(b)は吊り上げることでアーチ状になった状態を示している。
図2】他の実施の形態として、複数のブロック群を連結して一体化したアーチ端構造用の連接コンクリートブロック体を側面から示した図である。(a)は平面上に平置きした状態、(b)は吊り上げることでアーチ状になった状態を示している。
図3】(a)は平置きされた状態の連接コンクリートブロック体を、水平支柱と左右の定滑車を介してワイヤーで係止する様子を示した図である。(b)は、迫石ブロックの長手方向から示した図である。
図4】本発明の手段で吊り上げられて湾曲形状を形成した連接コンクリートブロック体の吊り上げられた状態を示す図である。
図5】両端に分割ブロックを用いたブロック群の例を示す。
図6】分割ブロック同士を縦割り面を向かい合わせて偏心座金で連結する部分の拡大図である。
図7】埋設されるジオグリッドの格子とブロック群の連結の様子の模式図である。
図8】逆台形の四角柱(面取りなし)の迫石ブロックの基本形の概略図である。
図9】アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体を基礎ブロック上に載置し、周囲を打設してアーチ端として構築する作業工程の一例を図示した従来工程の吊り下げ方法を用いた説明図である。
図10】迫石ブロックの上底と下底の比率あるいは、連接部材が伸びてしまった場合に、アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体の内側のスパンの幅および内側の空間の高さが容易に変動することを示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら、以下に23個の迫石ブロックの形状を例に説明する。
図1にアーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体(1)の基本形状を示す。逆台形状の迫石ブロック(2)の上底(6)の近傍に樹脂部材を埋設して23個の迫石ブロックを連接している。迫石ブロック(2)を23個、逆台形(5)の上辺(6)の延伸方向に、上平面(9)の近傍に埋設した連接部材のジオグリッド(15)によって一連に連接され、アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体(1)となっている。隣接するブロックとの間には、平面に展開された状態で並べられている図1(a)の状態では、下辺(7)の長さが短いことから、楔状の隙間(13)が形成されている。なお、連接部材の例として以下の実施例ではジオグリッドを用いて説明するが、これに限定されるものではない。ジオグリッドは、3cmないし5cmの深さのところに埋設されている。ジオグリッド(15)が長手に配されて埋設されることで形成した連接面(11)で一連に接合されており、隣接するブロック同士は、連接箇所(12)を連接軸としてそれぞれ回動しうるようになっている。
【0038】
中央が高くなるように吊り上げるとき、吊り下がった自重でもって、自然と迫石ブロック同士が当接して、アーチ状に円弧(17)を形成することとなる。なお、迫石ブロック(2)は、最上部中央のブロックを要石のように機能させるとアーチが安定しやすいので、奇数個の迫石ブロック(2)を用いるほうが安定的に施工しるものとなる
【0039】
迫石ブロック(2)の連接個数が多いと、吊り下がる荷重がジオグリッド(15)の連接箇所(12)に大きな負荷となるので、そもそも多数の連接は容易ではないが、加えて、スパンが長くなり、アーチライズが高くなると、上平面(9)の傾きが強くなるので、重心(19)によってブロックの回動する向きが、想定外の逆方向になり、楔状に開くこととなりやすいこととなる。
【0040】
そこで、下端ブロック(18)をはじめとして、左右両端に近い部分のブロックとそれに隣接するブロックとの間に、ターンバックル(20)などの拘束部材を設置する。拘束部材は、ターンバックルに限らず、ワイヤーやゴム紐や、さらにバックルによる長さ調整などが適用しうる。ターンバックルは、以下のとおり、安全かつ確実に適用しうる。さて、ターンバックル(20)は、中央にターンバックル胴(21)、その左右にねじの向きが逆向きのターンバックルボルト(22,22)を配した器具で、これをブロックの下方または側方下部と繋いで、ターンバックル胴(21)を回転させることで、楔状の隙間(13)の開き具合を調整しうるものとする。
【0041】
前提となる逆台形状の迫石ブロックについて説明する。逆台形の迫石ブロックのサイズは、たとえば、上底の幅は32.4cm、下底の幅は30cm、高さは23cm、側稜(10)の長さが100cmである。上底に対する下底の長さは、適宜変更することができる。比率を変えることで曲率が変わるので、アーチライズやスパンを変えることができる。ただし、1mmの長さの違いで大きな曲率変化となる。そこで、迫石ブロックの製造精度を厳密にすることが重要となる。また、迫石同士の連接が伸びてしまうことも、同様にスパンを狂わせてしまうことから、基台の上に所定のとおりに載せることが困難となってしまう。そこで、過度に連接部材に荷重が集中しないように、迫石ブロック5~6個分程度の吊り下げ負荷となるように、吊り上げ係止するワイヤーの配置を工夫することができると、連接部材の想定外の伸びを避けることにつながる。
【0042】
なお、四角柱の迫石ブロックの逆台形(5)の上隅は、上平面(9)から3cmないし5cmの深さに形成された連接部材による連接面(11)から上の部分が面取りされており、面取部(14)を形成している。面取部(14)の切欠きは、この実施例では、深さ3cm、幅1cmのサイズである。角度にして20度弱である。面取部(14)は直線的に図示されているが、断面が円弧状に角丸めしてあるものであってもよい。面取部(14)をあらかじめ設けておくと、上記サイズであれば、面取りにより19度程度の傾斜を付すこととなる。左右合計で38度分、逆方向に開いても面取り部が接触しない余裕が生じることとなる。そこで、隣接ブロック同士の上端が接触しにくくなるので、欠落や剥離が生じにくい。吊り上げる際にS字になる際に、楔状の開きが大きく逆向きとなる場合についても、面取りは十分なマージンとなる。
【0043】
図2では、本願出願人が従前に改良した複数のブロック群を連結して一体化したアーチ端構造用の連接コンクリートブロック体(1)である。ブロック群(4)は、迫石ブロックを半分に割ったような分割ブロック(3)を左右両端に配置し(3a,3b)、隣接する他のブロック群の分割ブロック同士を組み合わせて偏心座金で固定して一体化するようにしたものである。
図1のアーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体(1)との相違は、ブロック群に分割されているものを施工現場で連結する構造である点である。分割された点以外の部分に相違はなく、たとえば下端ブロック(18)と隣接するブロックにターンバックル(20)を渡したり、各ブロックの上端を面取りして面取部(14)を設ける点などは、図1に記載の場合と同様である。
【0044】
そして、ブロック群(4)の右端ブロック(3a)は、その縦割り面(30)に向かい合う位置に、隣接のブロック群(4)の左端ブロック(3b)の縦割り面(30)を沿わせるようにして、これをリブ(25,25)付き鋼製のプレート(24)と偏心座金(23)を用いて緊締して一体に連結している。連結された右端ブロック(3a)と左端ブロック(3b)とは、ぴったり向かい合って連結することで迫石ブロックと同形状になるので、アーチの円弧(17)を違和感なく描けるので、ブロック群(4,4)を適切に連結しうる構成となっている。
【0045】
ブロック群(4)と隣接するブロック群(4)の締結に用いる偏心座金(23)による固定は、図6に示す器具を用いてコンクリートブロック同士を締付けるものとなっている。具体的には、連結する右端ブロック(3a)と左端ブロック(3b)の上平面にそれぞれボルト孔を穿設しておき、そのボルト孔の上に、鋼製のプレート(24)の平板部分を載せ、プレート(4)に設けられたボルト通し用のプレート孔(28,28)の上にそれぞれ座金を載置し、ボルト(31)で上から締めつける。その際、プレート孔の一方を細長いプレート長孔(27)とする。そして、長孔側には円板の中心から偏心して孔が開口している偏心座金(23)が載置される。プレートの長孔側の端には、偏心座金(23)と接する外側の突起(29)があり、同様にプレートの中央寄りにも座金と当接する内側の突起が設けられている。
【0046】
偏心座金(23)による固定は、ボルトを軽く締めつけた後に、偏心座金(23)を回転させてボルトの軸間が狭まるように、ボルト(31)を近接方向に押し出すことで、コンクリートブロック同士を密着させるものである。偏心座金(23)の回転時に生じる押圧力に抗する当接部の外側の突起(29)は、外に拡がろうとする引っ張り応力に抗するものであって、回転する偏心座金(23)を規制することでボルトを押圧し、コンクリートブロック同士を密着させるものである。なお、内側の突起は、逆に圧縮応力が過度にかかりすぎないように、備えるものである。
【0047】
また、1m幅の分割ブロック同士の固定には、偏心座金を用いたプレートを3枚用いて、3カ所で締めるなど、複数個使用すると安定的に固定ができる。さらに、分割ブロック(3)の縦割り面(30)の中央付近に、ガイドピン(35)を入れるガイドピン孔(34)を穿っておき、縦割り面(30,30)を向かい合わせて分割ブロック(3,3)を連結する際に、内部にガイドピン(35)を入れて分割ブロック同士が位置ズレしにくいようにしておくと、より好適である。ガイドピン(35)のジョイントピンは、たとえば、直径2cm長さ5cm程度の樹脂製とし、縦割り面に穿設されたガイドピン孔(34)に差し入れる。また、吊り上げ中に位置ズレしにくいのみならず、向かい合わせるときの位置決めにもガイドピンは有用である。
【0048】
他方、ブロック群を全て迫石ブロック(2)で構成する場合には、両端の迫石ブロック同士の連結に際して偏心座金とプレートでボルト締めする場合には、用いるプレートにはリブを立設しないものとする。平面から持ち上がって吊り下がる際には、楔状の隙間(13)が消えてブロック同士が密接するようにして、円弧(17)を形成する必要があるからである。そして、迫石ブロック同士を連結する場合は、プレート自体が追従して折れ曲がることがかえって望ましいので、平板のプレートである必要がある。
【0049】
一群のブロック群(4)は、5ブロック程度を連接した構成なので、連接部材の一例として一面の格子状のジオグリッド(15)を上平面近傍に埋設してコンクリートと密着するように打設しておけば、ブロック群(4)単体であれば、吊り上げ移動することに特段の困難は生じない。ブロック群の上平面から数センチに埋設されている。
【0050】
ところが、ブロック群(4)同士を多数連結して一体化していくと、ブロック群(4)の両端のブロックには、そこから吊り下がる下方に連結されたブロック群の荷重もかかってくることとなる。すると、端から端まで一体の一連のジオグリッド(15)を用いる場合と異なり、円弧の途中で途切れ途切れになっている関係で、ブロック群(4)の端のブロックのコンクリート内からジオグリッド(15)が抜け落ちてしまうことも起こりうる。コンクリートと密着して成型されていたとしても、ジオグリッド(15)が連接面(11)の方向に引っ張られたとき、密着面積が狭いので、保持できるとは限らず、力負けして抜け落ちてしまうことが起こらないとも限らない。そこで、末端を90度折り曲げてより上平面からみて深い位置まで達するようにしてみたり、コの字に曲げてみたり、端を少し丸めてゆるく深さ方向にカーブさせるように配するものとすると、両端のブロックのなかで、ジオグリッドが3次元的な位置取りとなるので、打設されたとき、ジオグリッドの格子は多方向に絡むように密着することとなるので、より抜け落ちにくくなる。
【0051】
以上のようにして、連接部材によって回動しつつも丈夫な連接コンクリートブロック体(1)を得ることができる。
【0052】
本発明の吊り上げ方法は、いずれの連接コンクリートブロック体(1)にも適用できるが、図3図4以下では、分割ブロック(3)を用いた場合を例に、設置のための吊り下げ具と吊り下げ方法を説明する。
【0053】
クレーンで水平支柱(45)を吊り下げ、水平支柱の左右に均等に配された定滑車(46)からワイヤー(47)の一方端(48)が中央に隣接した迫石ブロックに、他方端(49)が両端から5個目ぐらいの迫石ブロックにそれぞれ係止されている。なお、ワイヤー(47)の途中にリング(50)を設けて、そこから下方を2股に分岐させ、係止される迫石ブロックの上平面のブロック長手方向に2ヶ所設けた窪みの中心の突起を吊り下げ部位(33)としてワイヤーを係止すると、回転せずに好適に安定して吊り上げることができる。
【0054】
こうした係止具を用いて、水平状態の平置きされた連接コンクリートブロック体(1)を上方へ吊り上げることで、アーチ状に変形させて、基台(39)の上に載せ置くことができる。
【0055】
クレーンで吊り下げる水平支柱(45)は、たとえば、高さ20cm、幅10cm、長さ2m~3m程度のH型鋼であり、Hの字を横倒しした工の向きで用いる。吊り下げ荷重は3トン程度であるから、その荷重に耐える鋼材であればこの形状に限られない。
【0056】
さて、たとえば21個の迫石ブロックからなる連接コンクリートブロック体を吊り上げる場合は、水平支柱の直下に、170~175cm程度離間させて(図3のa)左右の定滑車を左右均等に配している。
【0057】
この定滑車(46)は、1基あたりに1.5t程度の荷重がかかることとなる。そこで、それら荷重に耐えうる定滑車を選定している。
【0058】
右の定滑車(46)に吊り下がったワイヤー(47)は、その一方端を中央の1つ右隣の迫石ブロックの上端に、経路途中でリング(50)を介して2股に分かれるようにして吊り下げ部位(33)に係止され、また他方端は、右端から5番目の迫石ブロックの吊り下げ部位(33)に係止されている。ワイヤーの強度や太さは、荷重に応じて選択する。
【0059】
定滑車から分かれたワイヤーの他方端が係止されるブロックの位置(33)は、平置き時の連接コンクリートブロックの長さ(図3のb)を4分割したときの位置を目安として決定するとよい。一方端~他方端までの吊り下げ角度は、当初は、25~30度程度である。吊り上がると角度は若干変動する。
【0060】
なお、この21個のブロックは、たとえば湾曲時のアーチライズは100cm(図4のd)、アーチスパンは460cm(図4のc)である。
【0061】
図9に従来の工法による中心と左右の3ヶ所で吊り上げる説明図を示す。中央のワイヤーを予め短く設定して、吊り上げるか、中央のワイヤーを途中で短くする必要がある。中央から吊り上がるが、荷重が集中するので、負担が大きく、吊り上げ時に連接部材が伸びるおそれがあった。また、中央が最初に持ち上がるとき、ブロックの両端は水平で、中央だけがアーチを描くことかになるので、S字状に曲がるため、逆方向に曲がる所が生じる。予め面取りしておくことで上平面が欠けることは避けられるとはいえ、逆方向に曲がることは好ましくはない。
【0062】
参考のために図10に、本来のアーチライズやスパンが、連接部材などの伸びやブロックの製造誤差でずれやすいことを図示して示す。連接部材に過度な荷重がかかると、基台(39)に適切に載せ置くことが困難となってしまう。アーチは、両端に圧縮力が集中し、それを基台(39)が受け止める構造であるから、なんとなくアーチの湾曲が形成されたでは実用性が発揮されず、基台がしっかりと下から押し返すことができることが重要である。
【0063】
本発明の方法によれば、自然と荷重により湾曲が適切に形成されつつ、各ワイヤーに荷重が分散されるため、一部の上部ブロックの連接部材に過度に荷重が集中し過ぎることがなく、安定して吊り下がるものとなる。また、2股に分かれていることで、回転せずに安定するので、スムーズに吊り上げと載せ置く作業が実施できる。また、ほぼ4ヶ所に分散して吊り下げることとなるので、当初の吊り上げ時に中央部分が過度に高くなりすぎず、比較的穏やかな角度で吊り上げることができるため、連接箇所の周囲が逆方向に曲がりすぎて破損するといったトラブルも低減できることとなる。
【符号の説明】
【0064】
1 アーチ橋構造用の連接コンクリートブロック体
2 迫石ブロック
3 分割ブロック
3a 右端ブロック
3b 左端ブロック
4 ブロック群
5 逆台形
6 上底
7 下底
8 斜辺
9 上平面
10 側稜
11 連接面
12 連接箇所
13 楔状の隙間
14 面取部
15 ジオグリッド
16 端部
17 円弧
18 下端ブロック
19 重心
20 ターンバックル
23 偏心座金
24 プレート
25 リブ
30 縦割り面
31 ボルト
32 基本部分
33 吊り下げ部位
34 ガイドピン孔
35 ガイドピン
39 基台
40 バックフィル
41 化粧パネルブロック
42 スパン
43 アーチライズ
44 上路
45 水平支柱
46 定滑車
47 ワイヤー
48 一方端
49 他方端
50 リング
【要約】
【課題】 簡便で安全に水平状態から湾曲状態に連接コンクリートブロック体を吊り上げる方法の提供。
【解決手段】 クレーンにより吊り下がる水平支柱の左右に設けた1対の定滑車には、平置状態の連接コンクリートブロック体を係止するためのワイヤーが、ワイヤーの一方端が連接コンクリートブロック体の中央寄りの迫石ブロックに係止され他方端を中央から離れた位置の迫石ブロックに係止されるようにして、定滑車それぞれに対称に配されており、水平支柱をクレーンで上方に吊り上げていくことで、定滑車を回転させつつ定滑車とワイヤーの両端までの各吊り下げ長さを変動させ、連接コンクリートブロック体を湾曲状態に吊り下げる、連接コンクリートブロック体の吊り上げ方法。。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10