(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】コールドクルーシブル溶解炉、および、そのメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
F27B 14/08 20060101AFI20230927BHJP
F27B 14/06 20060101ALI20230927BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20230927BHJP
F27D 11/06 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F27B14/08
F27B14/06
F27D7/06 B
F27D11/06 A
(21)【出願番号】P 2019005346
(22)【出願日】2019-01-16
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】中井 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】津田 正徳
(72)【発明者】
【氏名】中本 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】米虫 悠
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-285726(JP,A)
【文献】特開平10-072606(JP,A)
【文献】特表2008-545885(JP,A)
【文献】特開平11-310833(JP,A)
【文献】特開2005-214438(JP,A)
【文献】特開平03-281709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/08
F27B 14/06
F27D 7/06
F27D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のるつぼと、
前記るつぼの底部側を塞ぐ底板と、
前記底板に設けられた出湯ノズルと、
前記るつぼの周囲に配置された溶解用コイルと、
前記出湯ノズルの周囲に配置された出湯用コイルと、
前記るつぼが配置される溶湯空間および前記出湯ノズルの下方に設けられる出湯空間を内部に形成するチャンバーと、
を備え、
前記るつぼと前記底板と前記出湯ノズルとが、溶解ユニットとしてユニット化されており、
前記溶解ユニットが、前記チャンバーに対して着脱自在に形成され、
前記出湯用コイルは、前記溶解ユニットが前記チャンバーから取り外されたときに前記チャンバーの側に残される、
コールドクルーシブル溶解炉。
【請求項2】
筒状のるつぼと、
前記るつぼの底部側を塞ぐ底板と、
前記底板に設けられた出湯ノズルと、
前記るつぼの周囲に配置された溶解用コイルと、
前記出湯ノズルの周囲に配置された出湯用コイルと、
前記るつぼが配置される溶湯空間および前記出湯ノズルの下方に設けられる出湯空間を内部に形成するチャンバーと、
前記出湯用コイルの下方に配置された噴射ノズルと、
前記出湯用コイルと前記噴射ノズルの間に配置され、前記出湯用コイルにより形成される磁界から前記噴射ノズルを遮蔽する電磁シールド部材と、
を備え、
前記るつぼと前記底板と前記出湯ノズルとが、溶解ユニットとしてユニット化されており、
前記溶解ユニットが、前記チャンバーに対して着脱自在に形成されている、
コールドクルーシブル溶解炉。
【請求項3】
請求項
2に記載のコールドクルーシブル溶解炉であって、
前記電磁シールド部材の上に設けられた、筒状の保護部材、
を備え、
前記底板が、前記保護部材の上に当接して配置され、
前記電磁シールド部材、前記保護部材、および、前記底板によって囲まれる空間に、前記出湯用コイルが配置される、
コールドクルーシブル溶解炉。
【請求項4】
請求項
3に記載のコールドクルーシブル溶解炉であって、
前記出湯用コイル、前記電磁シールド部材、および、前記保護部材は、
前記溶解ユニットが前記チャンバーから取り外されたときに前記チャンバーの側に残される、
コールドクルーシブル溶解炉。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載のコールドクルーシブル溶解炉であって、
前記底板に接続された、冷媒を供給する供給配管と、
前記底板に接続された、冷媒を排出する排出配管と、
を備え、
前記供給配管および前記排出配管の各々が、
その延在途中に設けられた接続部において分離接続可能であり、
前記接続部において分離される一方側の配管部分が、前記溶解ユニットに含まれており、他方側の配管部分が、前記溶解ユニットが前記チャンバーから取り外されたときに前記チャンバーの側に残される、
コールドクルーシブル溶解炉。
【請求項6】
筒状のるつぼと、前記るつぼの底部側を塞ぐ
底板と、前記底板に設けられた出湯ノズルと、前記るつぼの周囲に配置された溶解用コイルと、前記出湯ノズルの周囲に配置された出湯用コイルと、前記るつぼが配置される溶湯空間および前記出湯ノズルの下方に設けられる出湯空間を内部に形成するチャンバーと、を備えるコールドクルーシブル溶解炉のメンテナンス方法であって、
前記るつぼと
、前記底板と
、前記るつぼと連結される連結板と、前記底板と連結される支持部材と、前記連結板と前記支持部材とを連結する連結柱と、前記出湯ノズルとがユニット化された溶解ユニットを、前記チャンバーから取り外す工程と、
メンテナンス済みの溶解ユニットを、前記チャンバーに取り付ける工程と、
前記チャンバーから取り外した溶解ユニットの前記るつぼと前記底板と前記出湯ノズルとを分解して、これらにメンテナンスを施す工程と、
を備える、コールドクルーシブル溶解炉のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボトム出湯方式のコールドクルーシブル溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なコールドクルーシブル溶解炉は、チャンバーと、その内部に組み付けられた、るつぼとを備える。るつぼの内部で溶解した被溶解材料(溶湯)を、るつぼの底部側に設けられた出湯ノズルを介して取り出す出湯方式(いわゆる、ボトム出湯方式)の場合、チャンバーの内部空間が上下に区画されて、るつぼが上側の空間に配置され、下側の空間が、出湯ノズルを介して溶湯が出湯される出湯空間とされることがある。
【0003】
一般に、るつぼは、銅等の良電導性金属からなる複数のセグメントを円筒状に配列することにより形成されている。また、るつぼの周囲には、誘導コイルが設けられる。一方、るつぼの底部側を塞ぐ底板には、漏斗状の出湯ノズルが配設され、この出湯ノズルの周囲にも、誘導コイルが設けられる。
【0004】
このような構成において、るつぼの中に金属等の被溶解材料が投入され、るつぼの周囲に設けられた誘導コイルに高周波電流が流されると、るつぼの中にある被溶解材料に渦電流が発生し、被溶解材料は渦電流による発熱(誘導加熱)によって、昇温し、溶解する。このとき、被溶解材料は、るつぼの底部側および出湯ノズルにおける拡径部の内部に、スカル(溶湯の凝固層)を形成しつつ、溶解する。このスカルによって出湯ノズルが栓をされ、るつぼの中で溶解した被溶解材料が出湯ノズルから漏れ出さないようになっている。そして、るつぼの中で被溶解材料が十分に溶解した後に、出湯ノズルの周囲に設けられた誘導コイルに高周波電流が流されると、出湯ノズルの内部のスカルが誘導加熱によって溶解し、るつぼ内の溶湯が、出湯ノズルを介して出湯空間に出湯される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボトム出湯方式のコールドクルーシブル溶解炉においては、るつぼの内部の溶湯が少なくなるにつれて溶解電力が入りにくくなる。このため、溶湯が出湯し切ったときに、るつぼの内壁、底板の上面、出湯ノズルの内部、等にスカルが残存することが避けられない。
【0007】
スカルが残存した状態のままで次のロットに係る溶解・出湯動作が行われると、該残存していたスカルが、るつぼ、底板、あるいは、出湯ノズルと密着してしまう。内壁と密着してしまったスカルは、誘導加熱によってほとんど溶解されない。このため、安定した出湯が行われず、最悪の場合、出湯不能に陥るおそれがある。また、次のロットにおいて被溶解材料の種類が変更される場合は、残存しているスカルが、異種金属混入による汚染(コンタミネーション)の原因となってしまう。
【0008】
このような事態を回避するべく、1回あるいは所定回数の溶解・出湯動作が完了する毎に、るつぼ、底板、および、出湯ノズルに対して、これらに付着しているスカルを除去する作業を施す必要がある。また、高温環境に晒されるこれらの部品には損傷も生じやすく、スカルの除去に加えて、損傷部分の補修、部品の交換、等も適宜に行う必要がある。
【0009】
しかしながら、るつぼ、底板、出湯ノズル等の各要素は、チャンバーの内部に組み付けられており、該チャンバーの内部には、誘導コイルと高周波電源を接続するためのケーブルや、るつぼや底板に冷媒を循環させるための配管などが複雑に配設されている。このため、るつぼ等に対する上記のメンテナンス作業は非常に困難なものとなり、十分なメンテナンス品質を担保するためには、熟練の技術者が相当の時間をかけてメンテナンス作業を行わなければならなかった。
【0010】
また、メンテナンス作業中は、当然のことながら、コールドクルーシブル炉を稼働させることができないため、メンテナンス作業の所要時間が長くなるにつれて、コールドクルーシブル溶解炉の稼働効率が悪化してしまう。
【0011】
本発明は、上記の各課題を解決するためになされたものであり、ボトム出湯方式のコールドクルーシブル溶解炉において、メンテナンス作業の能率化を実現できる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0013】
すなわち、本発明は、コールドクルーシブル溶解炉であって、
筒状のるつぼと、
前記るつぼの底部側を塞ぐ底板と、
前記底板に設けられた出湯ノズルと、
前記るつぼの周囲に配置された溶解用コイルと、
前記出湯ノズルの周囲に配置された出湯用コイルと、
前記るつぼが配置される溶湯空間および前記出湯ノズルの下方に設けられる出湯空間を内部に形成するチャンバーと、
を備え、
前記るつぼと前記底板と前記出湯ノズルとが、溶解ユニットとしてユニット化されており、
前記溶解ユニットが、前記チャンバーに対して着脱自在に形成され、
前記出湯用コイルは、前記溶解ユニットが前記チャンバーから取り外されたときに前記チャンバーの側に残される。
【0014】
ここで、「ユニット化される」とは、複数の要素が互いに連結される等して、まとまった1つの部品として扱える状態とされていることをいう。
【0015】
この構成によると、ユニット化されている各要素、すなわち、るつぼ、底板、および、出湯ノズルを、まとめてチャンバーから取り外すことができる。チャンバーから取り外された溶解ユニットを別の場所に運んで分解して、るつぼ、底板、出湯ノズルを分離させれば、これらの各要素に残存しているスカルの除去、損傷部分の補修、部品の交換、等を、容易かつ短時間で行うことが可能となり、メンテナンス作業が能率化される。
【0016】
また、複数個の溶解ユニットを準備しておき、使用済みの溶解ユニットを、メンテナンス済みの溶解ユニットと交換して用いるようにすれば、使用済みの溶解ユニットにメンテナンス作業が施されている間も、コールドクルーシブル溶解炉を稼働させることができる。こうすることで、コールドクルーシブル溶解炉の稼働効率を飛躍的に高めることができる。
【0019】
本発明は、コールドクルーシブル溶解炉であって、
筒状のるつぼと、
前記るつぼの底部側を塞ぐ底板と、
前記底板に設けられた出湯ノズルと、
前記るつぼの周囲に配置された溶解用コイルと、
前記出湯ノズルの周囲に配置された出湯用コイルと、
前記るつぼが配置される溶湯空間および前記出湯ノズルの下方に設けられる出湯空間を内部に形成するチャンバーと、
前記出湯用コイルの下方に配置された噴射ノズルと、
前記出湯用コイルと前記噴射ノズルの間に配置され、前記出湯用コイルにより形成される磁界から前記噴射ノズルを遮蔽する電磁シールド部材と、
を備え、
前記るつぼと前記底板と前記出湯ノズルとが、溶解ユニットとしてユニット化されており、
前記溶解ユニットが、前記チャンバーに対して着脱自在に形成されている。
【0020】
この構成によると、ユニット化されている各要素、すなわち、るつぼ、底板、および、出湯ノズルを、まとめてチャンバーから取り外すことができる。チャンバーから取り外された溶解ユニットを別の場所に運んで分解して、るつぼ、底板、出湯ノズルを分離させれば、これらの各要素に残存しているスカルの除去、損傷部分の補修、部品の交換、等を、容易かつ短時間で行うことが可能となり、メンテナンス作業が能率化される。
また、複数個の溶解ユニットを準備しておき、使用済みの溶解ユニットを、メンテナンス済みの溶解ユニットと交換して用いるようにすれば、使用済みの溶解ユニットにメンテ
ナンス作業が施されている間も、コールドクルーシブル溶解炉を稼働させることができる。こうすることで、コールドクルーシブル溶解炉の稼働効率を飛躍的に高めることができる。
また、出湯ノズルより出湯される溶湯に向けて噴射ノズルからガス等を吹き付けることによって、溶湯を凝固させて微粒粉を生成することができる(いわゆる、アトマイズ処理)。一方で、この噴射ノズルは、電磁シールド部材によって、出湯用コイルにより形成される磁界から遮蔽されるので、噴射ノズルが、出湯用コイルにより形成される磁界によって誘導加熱されることがない。したがって、噴射ノズルを出湯用コイルに十分に近づけて配置することが可能となり、アトマイズ処理で生成される微粒粉の品質を担保することができる。
【0023】
好ましくは、前記コールドクルーシブル溶解炉は、
前記電磁シールド部材の上に設けられた、筒状の保護部材、
を備え、
前記底板が、前記保護部材の上に当接して配置され、
前記電磁シールド部材、前記保護部材、および、前記底板によって囲まれる空間に、前記出湯用コイルが配置される。
【0024】
この構成によると、出湯用コイルが、噴射ノズルからガスを吹き付けられた溶湯の吹き上がりや、アトマイズ処理で生成された微粒粉の巻き上がりによって、汚染されにくい。したがって、出湯用コイルにパーティクルが付着し、これが異種金属混入による汚染の原因となる、といった事態が発生しにくい。また、出湯用コイルの近傍に溶湯の吹き上がりや、微粒粉の巻き上がりが到達することに起因する放電の発生も抑制されるので、安定したアトマイズ処理を行うことができる。
【0025】
好ましくは、前記コールドクルーシブル溶解炉において、
前記出湯用コイル、前記電磁シールド部材、および、前記保護部材は、
前記溶解ユニットが前記チャンバーから取り外されたときに前記チャンバーの側に残される。
【0026】
この構成によると、溶解ユニットが大型化、重量化することが抑制され、溶解ユニットの着脱や運搬を容易に行うことができる。
好ましくは、前記コールドクルーシブル溶解炉は、
前記底板に接続された、冷媒を供給する供給配管と、
前記底板に接続された、冷媒を排出する排出配管と、
を備え、
前記供給配管および前記排出配管の各々が、
その延在途中に設けられた接続部において分離接続可能であり、
前記接続部において分離される一方側の配管部分が、前記溶解ユニットに含まれており、他方側の配管部分が、前記溶解ユニットが前記チャンバーから取り外されたときに前記チャンバーの側に残される。
この構成によると、底板と接続される供給配管および排出配管の各々を、その延在途中に設けられた接続部において分離させることで、一部の配管部分を溶解ユニットから切り離すことができる。これにより、溶解ユニットが大型化、重量化することが抑制され、溶解ユニットの着脱や運搬を容易に行うことが可能となる。
【0027】
また、本発明は、コールドクルーシブル溶解炉のメンテナンス方法も対象としている。すなわち、該メンテナンス方法は、
筒状のるつぼと、前記るつぼの底部側を塞ぐ底板と、前記底板に設けられた出湯ノズルと、前記るつぼの周囲に配置された溶解用コイルと、前記出湯ノズルの周囲に配置された出湯用コイルと、前記るつぼが配置される溶湯空間および前記出湯ノズルの下方に設けられる出湯空間を内部に形成するチャンバーと、を備えるコールドクルーシブル溶解炉のメンテナンス方法であって、
前記るつぼと、前記底板と、前記るつぼと連結される連結板と、前記底板と連結される支持部材と、前記連結板と前記支持部材とを連結する連結柱と、前記出湯ノズルとがユニット化された溶解ユニットを、前記チャンバーから取り外す工程と、
メンテナンス済みの溶解ユニットを、前記チャンバーに取り付ける工程と、
前記チャンバーから取り外した溶解ユニットの前記るつぼと前記底板と前記出湯ノズルとを分解して、これらにメンテナンスを施す工程と、
を備える。
【0028】
この構成によると、ユニット化されている各要素、すなわち、るつぼ、底板、および、出湯ノズルを、まとめてチャンバーに対して着脱するので、メンテナンス作業が能率化される。
【0029】
ただし、上記の構成において、チャンバーから取り外される溶解ユニットと、チャンバーに取り付けられる溶解ユニットは、同一のものであってもよいし、別のものであってもよい。すなわち、予め複数個の溶解ユニットが準備されており、使用済みの溶解ユニットがチャンバーから取り外された後に、該溶解ユニットとは別のメンテナンス済みの溶解ユニットがチャンバーに取り付けられるものとしてもよいし、使用済みの溶解ユニットが取り外されて、これにメンテナンスが施された後に、該溶解ユニットがチャンバーに取り付けられるものとしてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、メンテナンス作業の能率化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉の構成を示す側断面図。
【
図2】
図1において、出湯ノズルの近傍を拡大して示す側断面図。
【
図4】チャンバー部から溶解ユニットが取り外された状態を示す側断面図。
【
図5】
図4において、出湯ノズルの近傍を拡大して示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
<1.コールドクルーシブル溶解炉の全体構成>
実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉の構成を、
図1、
図2を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFの構成を示す側断面図である。
図2は、
図1において、出湯ノズル32の近傍を拡大して示す側断面図である。
【0034】
コールドクルーシブル溶解炉CCFは、チャンバー部1、るつぼ部2、底板部3、溶解用コイル部4、出湯用コイル部5、アトマイズ処理部6、および、出湯用コイル保護部7を備える。
【0035】
(チャンバー部1)
チャンバー部1は、内部に、るつぼ部2、底板部3、溶解用コイル部4、出湯用コイル部5、アトマイズ処理部6、および、出湯用コイル保護部7が収容される容器である。チャンバー部1は、下端が閉塞されるとともに上端が開口した円筒状の容器であるチャンバー本体11と、その上端の開口に着脱自在に設けられた蓋部(図示省略)と、を備える。また、チャンバー本体11には真空ポンプ(図示省略)が接続されている。チャンバー本体11の開口が蓋部によって気密に塞がれると、チャンバー本体11の内部は閉鎖空間となる。この状態で、真空ポンプによってチャンバー本体11の内部が減圧されることによって、該内部が真空空間となる。
【0036】
チャンバー本体11の内部には、平面視においてリング状の仕切り板12が設けられており、この仕切り板12によって、チャンバー本体11の内部空間が上下に区画されている。仕切り板12よりも上側の空間は、被溶解材料を溶解させるための空間(溶解空間)V1となり、仕切り板12よりも下側の空間は、溶解空間で溶解された溶湯が出湯される空間(出湯空間)V2となる。この実施形態では、出湯空間V2において、出湯された溶湯にアトマイズ処理が施されて微粒分が生成される。アトマイズ処理とは、周知の通り、出湯されてきた溶湯にガスを吹き付けて、微粒粉を生成する処理である。チャンバー本体11における仕切り板12よりも下側の部分には、出湯空間V2にて生成された微粒粉等を取り出すための開閉構造(図示省略)が設けられる。
【0037】
仕切り板12の下方には、平面視においてリング状の支持板13が設けられている。支持板13の外径は、仕切り板12の内径よりも大きく、支持板13の内径は、仕切り板12の内径よりも小さい。したがって、支持板13は、その内径側の部分が、仕切り板12の内側に張り出すように設けられる。後述するように、支持板13の上面は、溶解ユニットUTが載置される載置面を構成する。
【0038】
(るつぼ部2)
るつぼ部2は、円筒状のるつぼ21と、るつぼ21を冷却するための冷媒循環機構(第1冷媒循環機構)22とを備える。
【0039】
るつぼ21は、銅により形成されるとともに、内部に水等の冷媒が循環される水冷銅セグメントが複数枚組み合わされた構造(いわゆる、水冷銅セグメント構造)となっている。すなわち、るつぼ21は、断面弧状の縦長の水冷銅セグメントが、隣り合う水冷銅セグメントとの間にスリット状の間隙を設けつつ、絶縁材を介して周方向に複数枚並べられることによって、円筒状に組み立てられたものである。るつぼ21を構成する各セグメントの内部には、冷媒の循環路211が形成されている。第1冷媒循環機構22がこの循環路211に冷媒を循環させることによって、るつぼ21が冷却されるようになっている。
【0040】
るつぼ21の上端側には、支持部212が一体的に設けられている。支持部212の内部には、るつぼ21を構成する各セグメントに形成された循環路211と連通する円環状の供給用水路および排水用水路が形成されている。また、支持部212の上側には、径方向に張り出したフランジ部213が、ボルトB1によって固定されて設けられている。
【0041】
第1冷媒循環機構22は、循環路211に冷媒を循環させるための機構であり、循環路211に冷媒を供給する供給配管221と、循環路211に供給された冷媒を排出する排出配管222とを備える。
【0042】
供給配管221は、一端が冷媒供給源と接続され、他端が支持部212の内部に形成された供給用水路と接続される。具体的には、供給配管221の該他端側は、端部を供給用水路と連通させるような姿勢で支持部212に埋設されることで、支持部212に対して固定的に支持される。これによって、供給配管212の他端が、供給用水路を介して、るつぼ21を構成する各セグメントに形成された循環路211と連通する。
【0043】
排出配管222は、一端が支持部212の内部に形成された排出用水路と接続され、他端が排出ラインと接続される。具体的には、排出配管222の該一端側は、端部を排出用水路と連通させるような姿勢で支持部212に埋設されることで、支持部212に対して固定的に支持される。これによって、排出配管222の一端が、排出用水路を介して、るつぼ21を構成する各セグメントに形成された循環路211と連通する。
【0044】
各配管221,222の延在途中には、配管を分離接続させるための接続部223が設けられており、各配管221,222は、接続部223よりもるつぼ21側の部分(第1部分)と他方側の部分(第2部分)とに、分離接続可能に構成されている。各配管221,222における第2部分の延在途中には、開閉バルブ、流量調整弁、等が介挿される。
【0045】
(底板部3)
底板部3は、るつぼ21の底部側を塞ぐ平板状の底板31と、底板31に設けられた出湯ノズル32と、底板31を冷却するための冷媒循環機構(第2冷媒縦貫機構)33と、を備える。
【0046】
底板31は、るつぼ21と同様、水冷銅セグメント構造となっている。すなわち、底板31は、平面視にて扇形の水冷銅セグメントが、隣り合う水冷銅セグメントとの間にスリット状の間隙を設けつつ、絶縁材を介して周方向に複数枚並べられることによって、円板状に組み立てられたものである。底板31を構成する各セグメントの内部には、冷媒の循環路311が形成されている。第2冷媒循環機構33がこの循環路311に冷媒を循環させることによって、底板31が冷却されるようになっている。
【0047】
出湯ノズル32は、全体として漏斗状を呈する部材であり、上端に近づくにつれて拡径する逆円錐形状の拡径部の下側に、その軸方向の全体に亘って径寸法が変化しない筒状のストレート部が連なっている。出湯ノズル32は、底板31の略中央に設けられた貫通孔に挿通して設けられる。
【0048】
第2冷媒循環機構33は、底板31に設けられた循環路311に冷媒を循環させるための機構であり、循環路311に冷媒を供給する供給配管331と、循環路311に供給された冷媒を排出する排出配管332とを備える。供給配管331は、一端が冷媒供給源と接続されるとともに他端が循環路311と接続される。また、排出配管332は、一端が循環路311と接続されるとともに他端が排出ラインと接続される。各配管331,332の延在途中には、配管を分離接続させるための接続部333が設けられており、各配管331,332は、接続部333よりも底板31側の部分(第1部分)と他方側の部分(第2部分)とに、分離接続可能に構成されている。各配管331,332における第2部分の延在途中には、開閉バルブ、流量調整弁、等が介挿される。
【0049】
各配管331,332における、循環路311と接続される側の端部およびその近傍は、底板31の下方に設けられた支持部材334によって所定の位置に支持されている。すなわち、支持部材334は、リング状の部材であって、循環路311と連通する集水溝3341が設けられる。そして、各配管331,332の端部およびその近傍が、該端部を集水溝3341と連通させるような位置および姿勢で、支持部材334に埋設あるいは貫通して設けられている。この支持部材334が、集水溝3341が循環路311と連通するような位置に配置されて、ボルトB2等によって底板31の下面に対して固定される。これによって、各配管331,332が、端部を循環路311と連通させつつ、底板31に対して固定的に支持される。
【0050】
(溶解用コイル部4)
溶解用コイル部4は、るつぼ21の周囲に設けられるコイル(溶解用コイル)41と、溶解用コイル41と接続された電源装置(第1電源装置)42とを備える。後に説明するように、第1電源装置42から溶解用コイル41に高周波電力が投入されると、溶解用コイル41に高周波電流が流れ、るつぼ21の中にある被溶解材料が誘導加熱によって昇温して溶解する。
【0051】
(出湯用コイル部5)
出湯用コイル部5は、出湯ノズル32の周囲に設けられるコイル(出湯用コイル)51と、出湯用コイル51と接続された電源装置(第2電源装置)52とを備える。後に説明するように、第2電源装置52から出湯用コイル51に高周波電力が投入されると、出湯用コイル51に高周波電流が流れ、出湯ノズル32の拡径部内に形成されているスカル(溶湯の凝固層)が誘導加熱によって昇温して溶解する。これにより、るつぼ21の中にある溶湯が出湯ノズル32から出湯する。
【0052】
(アトマイズ処理部6)
アトマイズ処理部6は、出湯ノズル32の下方に設けられた噴射ノズル61と、出湯用コイル51と噴射ノズル61の間に設けられた電磁シールド部材62と、電磁シールド部材62を冷却するための冷却機構63とを備える。
【0053】
噴射ノズル61は、ガスを高圧で噴射するノズルであり、SUS等の金属により形成される。噴射ノズル61は、リング状を呈しており、出湯ノズル32の下方であって、中心線が出湯ノズル32と同軸となるような位置に設けられる。噴射ノズル61の下面側には、斜め下方向にガスを噴出する噴出口611が、周方向に沿って複数個配列されて設けられている。また、噴射ノズル61には、各噴出口611にガス(例えば、アルゴンガス等の不活性ガス)を供給するためのガス供給機構(図示省略)が接続されている。ガス供給機構は、具体的には、ガス供給源、これと噴射ノズル61を接続する配管、および、該配管に介挿されたバルブ、等を含んで構成される。
【0054】
噴射ノズル61の中心線上であって噴射ノズル61よりも下側の位置には、所定の目標位置Pが規定されており、噴射ノズル61の各噴出口611は、この目標位置Pに向けてガスを噴出するようになっている。したがって、出湯ノズル32から出湯された溶湯は、この目標位置Pにおいて各噴出口611から吐出されたガスと衝突する。ガスと衝突した溶湯は、粉砕されつつ凝固し、これによって、微粒粉が生成される。
【0055】
電磁シールド部材62は、出湯用コイル51により形成される磁界から噴射ノズル61を遮蔽する部材であり、出湯用コイル51と噴射ノズル61の間に設けられる。電磁シールド部材62は、具体的には、導体材料(例えば、銅)により形成される平面視にてリング状の平板部材であり、中心線が出湯用コイル51の中心線と一致するような位置に設けられる。また、電磁シールド部材62は、内径が噴射ノズル61の内径よりも小さく、かつ、外径が噴射ノズル61の外径よりも大きいものとされ、上方から見て噴射ノズル61を完全に覆うことができるようなサイズとされる。
【0056】
冷却機構63は、電磁シールド部材62を冷却するための機構であり、循環配管631と、ここに冷媒を供給する供給配管632と、循環配管631に供給された冷媒を排出する排出配管(図示省略)とを備える。循環配管631は、電磁シールド部材62の下面に、例えばろう付けされることによって、電磁シールド部材62の下面と接触した状態で直接に設けられている。供給配管632は、一端が冷媒供給源と接続されるとともに他端が循環配管631と接続される。また、排出配管は、一端が循環配管631と接続されるとともに他端が排出ラインと接続される。供給配管632および排出配管の各延在途中には、開閉バルブ、流量調整弁、等が介挿される。
【0057】
(出湯用コイル保護部7)
出湯用コイル保護部7は、出湯用コイル51を保護するための要素であり、第1保護部材71と第2保護部材72とを備える。
【0058】
第1保護部材71および第2保護部材72は、いずれも、電磁シールド部材62の上面に、同心配置で固定して設けられた円筒状の部材であり、各種の耐火物、BN等のセラミックス、等により形成される。第1保護部材71は、相対的に外側に配置されており、その外径は、電磁シールド部材62の外径以下であり、かつ、出湯用コイル51の外径以上とされている。一方、第2保護部材72は、相対的に内側に配置されており、その外径は、電磁シールド部材62の内径と略同一であり、出湯用コイル51の内径以下とされている。
【0059】
底板31は、その下面と、各保護部材71,72の上端面とが接触するようにして配置される。したがって、電磁シールド部材62、底板31、および、一対の保護部材71,72で囲まれる空間(保護空間)V21が形成され、出湯用コイル51はこの保護空間V21に配置される。保護空間V21は、少なくとも、溶湯や微粉流等のパーティクルが入り込まない程度の閉鎖性を有していればよい。
【0060】
<2.溶解ユニットUT>
コールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、チャンバー部1の内部に配置される各要素のうち、るつぼ21、底板31、出湯ノズル32、および、溶解用コイル41が、溶解ユニットUTとしてユニット化されている。そして、この溶解ユニットUTが、チャンバー部1に対して着脱自在に形成されている。
【0061】
ただしここで、「ユニット化される」とは、複数の要素が互いに連結される等して、まとまった1つの部品として扱える状態とされていることをいう。
【0062】
溶解ユニットUTの構成について、
図3~
図5を参照しながら具体的に説明する。
図3は、溶解ユニットUTの構成を示す側断面図である。
図4は、チャンバー部1から溶解ユニットUTが取り外された状態を示す側断面図である。
図5は、
図4において、出湯ノズル32の近傍を拡大して示す側断面図である。
【0063】
るつぼ21と底板31は、連結板81および連結柱82を介して連結される。すなわち、連結板81は、支持部材334の外径と略同一の外径を有する、平面視リング状の平板状部材であり、るつぼ21の上端に形成されたフランジ部213の下方に、ボルトB3を用いて連結される。一方、連結柱82は、底板31の下方に設けられた支持部材334の外縁側に、周方向に沿って複数個配列されて立設されており、各連結柱82の上端が連結板81の下面に対してボルト等を用いて連結される。これによって、るつぼ21と底板31が連結される。るつぼ21と底板31の連結強度は、るつぼ21と底板31の隙間から溶湯が漏れ出ない程度であればよい。
【0064】
上記の通り、出湯ノズル32は底板31に設けられている。また、溶解用コイル41は底板31に対してボルトB4を用いて連結されている。したがって、るつぼ21と底板31が連結されることによって、るつぼ21、底板31、出湯ノズル32、および、溶解用コイル41がユニット化されることとなり、これにより溶解ユニットUTが形成される。
【0065】
溶解ユニットUTは、支持板13上に載置され、ボルト(ユニット固定ボルト)B5を用いて支持板13に対して固定されることによって、チャンバー部1に対して固定される。すなわち、支持部材334における上方から見て支持板13と重なる領域にはボルト挿通孔が設けられており、支持板13における対応する位置にはボルト孔が設けられている。溶解ユニットUTが支持板13に載置され、さらに、支持部材334のボルト挿通孔にユニット固定ボルトB5が挿通されて、支持板13のボルト孔に螺合させつつ締め込まれることによって、溶解ユニットUTがチャンバー部1に対して固定される。このようにして溶解ユニットUTがチャンバー部1に設置された状態において、るつぼ21が出湯空間V1に配置されるとともに、出湯ノズル32の下方に出湯空間V2が設けられることとなる。
【0066】
<3.残留ユニットSUT>
コールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、チャンバー部1内に配置される各要素のうち、溶解ユニットUTとしてユニット化されない各要素である、出湯用コイル51、噴射ノズル61、電磁シールド部材62、および、一対の保護部材71,72もまた、残留ユニットSUTとしてユニット化されている。以下において、残留ユニットSUTの構成について、
図5を参照しながら具体的に説明する。
【0067】
噴射ノズル61と電磁シールド部材62は、連結柱83を介して連結される。すなわち、電磁シールド部材62の下面側には、連結柱83の上端が固定されており、該連結柱83に、噴射ノズル61がボルトB6を用いて連結される。これによって、噴射ノズル61が、電磁シールド部材62の下方側に、これと離間しつつ、略水平姿勢で配設される。
【0068】
上記の通り、一対の保護部材71,72は、電磁シールド部材62の上面に固定して設けられている。また、出湯用コイル51は電磁シールド部材62に対して固定されている。したがって、噴射ノズル61と電磁シールド部材62が連結されることによって、噴射ノズル61、電磁シールド部材62、一対の保護部材71,72、および、出湯用コイル51がユニット化されることとなり、これにより残留ユニットSUTが形成される。
【0069】
残留ユニットSUTは、支持板13に対して固定されることによって、チャンバー部1に対して固定される。すなわち、電磁シールド部材62の下面における外周縁の付近には、複数の支柱84の上端が固定されている。そして、各支柱84の下端と支持板13の下面が、連結片85に対してそれぞれボルトB7で固定される。これによって、支持板13と電磁シールド部材62が連結される。すなわち、残留ユニットSUTがチャンバー部1に固定される。残留ユニットSUTは、溶解ユニットUTと異なり、チャンバー部1に対して頻繁に着脱されるものではなく、基本的にチャンバー部1に固定された状態のままとされる。
【0070】
<4.コールドクルーシブル溶解炉CCFの動作>
次に、コールドクルーシブル溶解炉CCFの動作について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
【0071】
(溶解処理工程)
コールドクルーシブル溶解炉CCFにおいて、被溶解材料を溶解する際には、るつぼ21の中に被溶解材料が投入されるとともに、第1電源装置42から溶解用コイル41に高周波電力が投入される。溶解用コイル41に高周波電流が流れると、るつぼ21の中にある被溶解材料が誘導加熱によって昇温する。被溶解材料は、るつぼ21の底部側および出湯ノズル32における拡径部の内部にスカルを形成しつつ、溶解する。このスカルによって出湯ノズル32が栓をされることになり、溶解した被溶解材料(溶湯)9が出湯ノズル32から漏れ出さないようになっている。この溶解処理工程が行われる間、各冷媒循環機構22,32が、循環路211,311に冷媒を循環させている。これにより、るつぼ21および底板31が、溶解、変形、損傷等しないように担保されている。
【0072】
(アトマイズ処理工程)
るつぼ21の中の被溶解材料が十分に溶解すると、第2電源装置52から出湯用コイル51に高周波電力が投入される。出湯用コイル51に高周波電流が流れると、出湯ノズル32の内部およびその付近に形成されているスカルが誘導加熱によって昇温し、溶解する。これにより、るつぼ21の中にある溶湯が出湯ノズル32から出湯する。出湯ノズル32から溶湯が出湯開始されるのとほぼ同時に、噴射ノズル61からのガスの噴射が開始される。したがって、出湯ノズル32から出湯された溶湯は、目標位置Pにおいて各噴出口61から吐出されたガスと衝突して粉砕されつつ凝固し、微粒粉となる。
【0073】
上記の通り、噴射ノズル61は、電磁シールド部材62によって、出湯用コイル51により形成される磁界から遮蔽されている。したがって、このアトマイズ処理工程において、噴射ノズル61が出湯用コイル51により形成される磁界に晒されて誘導加熱される、という事態が回避される。一方、電磁シールド部材62の方は、出湯用コイル51により形成される磁界に晒されて誘導加熱され得る。しかしながら、このアトマイズ処理工程が行われる間、冷却機構63が電磁シールド部材62を冷却している。したがって、アトマイズ処理工程において、電磁シールド部材62が、溶解、変形、損傷等しないように担保されている。
【0074】
また、このアトマイズ処理工程において、出湯空間V2には、溶湯の吹き上がりや微粒粉の巻き上がりが生じる可能性があるが、出湯用コイル51は、電磁シールド部材62、一対の保護部材71,72、および、底板31によって形成される保護空間V21の内部に配置されているので、出湯用コイル51が溶湯の吹き上がりや微粒粉の巻き上がり等によって汚染されることがない。また、出湯用コイル51に溶湯の吹き上がりや、微粒粉の巻き上がりが到達することによって放電が発生する、といった事態も回避される。
【0075】
(溶解ユニット交換工程)
るつぼ21の中にある溶湯が出湯し切ると、噴射ノズル61からのガスの噴射が停止され、アトマイズ処理が終了する。るつぼ21の中にある溶湯8が出湯し切った状態において、るつぼ21や出湯ノズル32の内部等にはスカルが残存している。このような状態のまま、次のロットに係る溶解処理工程が連続して行われると、出湯ノズル32の内部等に残存していたスカルを溶解するために非常に大きな電力が必要となるばかりか、最悪の場合、スカルが十分に溶解されないために出湯が困難になる虞もある。また、次のロットにおいて被溶解材料の種類が変更される場合は、るつぼ21や出湯ノズル32の内部に残存しているスカルが、異種金属混入による汚染(コンタミネーション)の原因にもなってしまう。これらの事態を回避するべく、次のロットに係る溶解処理工程が行われる前に、溶解ユニットUTの交換が行われる。
【0076】
具体的には、まず、チャンバー本体11から蓋部が取り外され、使用済みの溶解ユニットUTが、チャンバー部1から取り外されて、ここから搬出される。具体的には、まず、第1冷媒循環機構22の各配管221,222が、接続部223において切り離されて、第1部分と第2部分に分離される。同様に、第2冷媒循環機構32の各配管331,332も、接続部333において切り離されて、第1部分と第2部分に分離される。また、溶解用コイル41の接続端子が第1電源装置42のコネクタから取り外される。また、溶解ユニットUTをチャンバー部1に固定しているユニット固定ボルトB5が取り外される。その後、溶解ユニットUTの連結板81の上面に設けられた被係止部811に昇降装置(例えば、クレーン)のフック等が引っ掛けられ、該昇降装置によって溶解ユニットUTが持ち上げられてチャンバー部1から搬出される。
【0077】
これにより、溶解ユニットUTに含まれる各要素、すなわち、るつぼ21、底板31、出湯ノズル32、および、溶解用コイル41、等が、まとめてチャンバー部1から取り外されて、ここから搬出される。また、第1冷媒循環機構22が備える供給配管221および排出配管222における、接続部223よりもるつぼ21の側の第1部分が、溶解ユニットUTに含まれて、これとともにチャンバー部1から搬出され、他方側の第2部分が、チャンバー部1の側に残される。同様に、第2冷媒循環機構33が備える供給配管331および排出配管332における、接続部333よりも底板31の側の第1部分が、溶解ユニットUTに含まれて、これとともにチャンバー部1から搬出され、他方側の第2部分が、チャンバー部1の側に残される。また、残留ユニットSUTに含まれる各要素、すなわち、出湯用コイル51、噴射ノズル61、電磁シールド部材62、および、一対の保護部材71,72、等も、チャンバー部1の側に残される。
【0078】
使用済みの溶解ユニットUTがチャンバー部1から搬出されると、これとは別のメンテナンス済みの溶解ユニットUTが、チャンバー部1に搬入されてこれに取り付けられる。具体的には、まず、該別の溶解ユニットUTの被係止部811に昇降装置のフック等が引っ掛けられ、該昇降装置で溶解ユニットUTが持ち上げられてチャンバー部1に搬入され、仕切り板12の上に載置される。このとき、一対の保護部材71,72の上端と、溶解ユニットUTにおける底板31の下面とが、互いの間に隙間を設けることなく当接した状態となる。これによって、保護空間V21が形成されるとともに、その内部に出湯用コイル51が収容された状態となる。
【0079】
続いて、支持部材334のボルト挿通孔にユニット固定ボルトB5が挿通されて、支持板13のボルト孔に螺合させつつ締め込まれる。また、第1冷媒循環機構22の各配管221,222が、接続部223において接続されて、第1部分と第2部分が連通した状態とされる。同様に、第2冷媒循環機構32の各配管331,332も、接続部333において接続されて、第1部分と第2部分が連通した状態とされる。また、溶解用コイル41の接続端子が第1電源装置42のコネクタに取り付けられる。これによって、溶解ユニットUTの組み付けが完了する。以上で、溶解ユニットUTの交換が完了し、次のロットに係る溶解処理工程が開始可能な状態となる。
【0080】
なお、チャンバー部1から搬出された溶解ユニットUTは、次のロットに係る処理工程が行われている間に、メンテナンスを施される。すなわち、チャンバー部1から搬出された溶解ユニットUTは、別の解体場所等に運ばれて、分解される。そして、分離された各要素、すなわち、るつぼ21、底板31、出湯ノズル32は、各々に付着しているスカルが除去されたり、必要に応じて損傷分が補修されたり、部品の交換等がなされたりした上で、再び組み立てられる。このようにしてメンテナンスを施された溶解ユニットUTは、使用済みの溶解ユニットUTと交換されて、再使用される。
【0081】
<5.効果>
上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、るつぼ21と底板31と出湯ノズル32とが、溶解ユニットUTとしてユニット化されており、この溶解ユニットUTが、チャンバー部1に対して着脱自在に形成されている。
【0082】
この構成によると、溶解ユニットUTとしてユニット化されている各要素、すなわち、るつぼ21、底板31、および、出湯ノズル32を、まとめてチャンバー部1から取り外すことができる。チャンバー部1から取り外された溶解ユニットUTを別の場所に運んで分解して、るつぼ21、底板31、出湯ノズル32を分離させれば、これらの各要素に残存しているスカルの除去、損傷部分の補修、部品の交換、等を、容易かつ短時間で行うことが可能となり、メンテナンス作業が能率化される。
【0083】
また、上記の実施形態では、複数個の溶解ユニットUTが準備されており、使用済みの溶解ユニットUTとメンテナンス済みの溶解ユニットUTとが交換して用いられるので、使用済みの溶解ユニットUTにメンテナンス作業が施されている間も、コールドクルーシブル溶解炉CCFを稼働させることができる。こうすることで、コールドクルーシブル溶解炉CCFの稼働効率を飛躍的に高めることができる。
【0084】
また、上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、底板31に接続された、冷媒を供給する供給配管331と、底板31に接続された、冷媒を排出する排出配管332と、を備える。そして、供給配管331および排出配管332の各々が、その延在途中に設けられた接続部333において分離接続可能であり、接続部333において分離される一方側の配管部分が、溶解ユニットUTに含まれており、他方側の配管部分が、溶解ユニットUTがチャンバー部1から取り外されたときにチャンバー部1の側に残される。
【0085】
この構成によると、底板31と接続される供給配管331および排出配管332の各々を、その延在途中に設けられた接続部333において分離させることで、一部の配管部分を溶解ユニットUTから切り離すことができる。これにより、溶解ユニットUTが大型化、重量化することが抑制され、溶解ユニットUTの着脱や運搬を容易に行うことが可能となる。
【0086】
また、上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、出湯用コイル51の下方に配置された噴射ノズル61と、出湯用コイル51と噴射ノズル61の間に配置され、出湯用コイル51により形成される磁界から噴射ノズル61を遮蔽する電磁シールド部材62と、を備える。
【0087】
この構成によると、出湯ノズル32より出湯される溶湯に向けて噴射ノズル61からガス等を吹き付けることによって、溶湯を凝固させて微粒粉を生成することができる。一方で、この噴射ノズル61は、電磁シールド部材62によって、出湯用コイル51により形成される磁界から遮蔽されるので、噴射ノズル61が、出湯用コイル51により形成される磁界によって誘導加熱されることがない。したがって、噴射ノズルを出湯用コイルに十分に近づけて配置することが可能となる。すなわち、目標位置Pを、出湯ノズル32の吐出口に近接した位置に設定することができる。出湯ノズル32から出湯される溶湯の流れは、出湯ノズル32の吐出口から離れるにつれて乱れやすくなるところ、安定した溶湯の流れが得られる範囲内に目標位置Pが設定されることによって、アトマイズ処理で生成される微粒粉の品質(具体的には、微粒粉の形状、粒径、等)を担保することができる。
【0088】
また、上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、電磁シールド部材62を冷却するための冷却機構63をさらに備える。
【0089】
この構成によると、電磁シールド部材62が、出湯用コイル51により形成される磁界によって誘導加熱されても、過度に昇温することがない。したがって、電磁シールド部材62が、誘導加熱によって溶解、変形、損傷等しにくい。
【0090】
また、上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、電磁シールド部材62の上に設けられた、筒状の保護部材71,72を備える。そして、底板31が、保護部材71,72の上に当接して配置され、電磁シールド部材62、保護部材71,72、および、底板31によって囲まれる保護空間V21に、出湯用コイル51が配置される。
【0091】
この構成によると、出湯用コイル51が、噴射ノズル61からガスを吹き付けられた溶湯の吹き上がりや、アトマイズ処理で生成された微粒粉の巻き上がりによって、汚染されにくい。したがって、出湯用コイル51にパーティクルが付着し、これが異種金属混入による汚染の原因となる、といった事態が発生しにくい。
【0092】
また、出湯の際、出湯用コイル51は高電圧状態となるところ、溶湯の吹き上がりや、微粒粉の巻き上がりがこのような出湯用コイル51の近傍に到達すると、放電が発生する虞がある。放電が発生すると、出湯用コイル51に対する電力の供給が停止され、その結果、出湯が不安定となってしまい、あるいは、停止されてしまい、アトマイズ処理を安定的に行うことができない。ひいては、生成される微粒粉の品質の低下や製造効率の低下が生じる。また、最悪の場合、放電が発生することで、出湯用コイルや電源装置が損傷する虞もある。上記の構成によると、出湯用コイル51の近傍に溶湯の吹き上がりや、微粒粉の巻き上がりが到達することがないので、放電の発生が抑制される。これによって、安定したアトマイズ処理を行うことができるとともに、出湯用コイル51や第2電源装置52が損傷することも回避される。
【0093】
また、上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFにおいては、出湯用コイル51、電磁シールド部材62、および、保護部材71,72は、溶解ユニットUTがチャンバー部1から取り外されたときに、チャンバー部1の側に残される。
【0094】
この構成によると、溶解ユニットUTが大型化、重量化することが抑制され、溶解ユニットUTの着脱や運搬を容易に行うことができる。
【0095】
また、上記の実施形態に係るコールドクルーシブル溶解炉CCFのメンテナンス方法においては、るつぼ21と底板31と出湯ノズル32とがユニット化された溶解ユニットUTを、チャンバー部1から取り外す工程と、メンテナンス済みの溶解ユニットUTを、チャンバー部1に取り付ける工程と、を備える。
【0096】
この構成によると、溶解ユニットUTとしてユニット化されている各要素をまとめてチャンバー部1に対して着脱するので、メンテナンス作業が能率化される。
【0097】
<6.他の実施形態>
上記の実施形態においては、電磁シールド部材62を冷却するための冷媒が循環される循環配管631は、電磁シールド部材62の下面にろう付けされていたが、循環配管631は電磁シールド部材62の内部に埋設して設けられてもよい。
【0098】
溶解ユニットUTとしてユニット化される要素は、上記の実施形態において例示されたものに限らない。例えば、出湯用コイル51、第1保護部材71、第2保護部材72、電磁シールド部材62、冷却機構63、および、噴射ノズル61のうちの少なくとも1個が、溶解ユニットUTとしてユニット化されてもよい。
【0099】
上記の実施形態では、噴射ノズル61はリング状であるとしたが、噴射ノズルは必ずしもリング状でなくともよい。例えば、棒状の噴射ノズルパーツが、周方向に複数個配列されて、噴射ノズルを構成してもよい。
【0100】
上記の実施形態では、出湯ノズル32から出湯した溶湯に対してアトマイズ処理が施されて微粒粉が生成されていたが、出湯された溶湯は、鋳型に注湯されて鋳造品が生成されてもよい。いうまでもなく、この場合は、噴射ノズル61を設ける必要はない。
【0101】
上記の実施形態では、出湯用コイル保護部7は、一対の保護部材71,72を備えるものとしたが、出湯用コイル保護部の構成はこれに限らない。例えば、出湯用コイル保護部を、耐火物、セラミックス、等で形成されるブロック体により構成し、出湯用コイル51の全体が、該ブロック体の内部に埋設されてもよい。
【0102】
上記の実施形態において、第1保護部材71、および、第2保護部材72は、必須の要素ではなく、これらのうちの少なくとも一方が省略されてもよい。出湯用コイル51の下方に、電磁シールド部材62が設けられている場合、溶湯の吹き上がりや微粒粉の巻き上がりは、電磁シールド部材62によってある程度遮蔽されるため、一対の保護部材71,72を省略しても、出湯用コイル51の汚染等をある程度抑制することができる。
【0103】
上記の実施形態において、電磁シールド部材62を冷却する冷却機構63の構成は、上記に例示したものに限らない。例えば、電磁シールド部材62の上に、磁性体から形成されるプレートを積層して配置してもよい。このような構成によると、出湯用コイル51と電磁シールド部材62との間に、磁性体から形成されるプレートが介在することによって、電磁シールド部材62の誘導加熱が抑制される。したがって、冷却機構63を設けなくとも、電磁シールド部材62が、誘導加熱によって溶解、変形、損傷等することを回避できる。
【0104】
上記の実施形態において、電磁シールド部材62は、必須の要素ではなく、これを省略してもよい。
【0105】
上記の実施形態において、るつぼ21は、底板31上に載置され、連結板81および連結柱82を介して、間接的に底板31と連結されるものとしたが、るつぼ21の下端部が底板31に対して嵌め合い構造等によって固定されることで、るつぼ21と底板31が直接的に連結されてもよい。
【0106】
上記の実施形態において、るつぼ21は、必ずしも円筒状である必要はなく、多角形筒状であってもよい。また、るつぼ21は、必ずしも上下に亘って同径なストレート形状である必要はなく、下広がりのテーパー状であってもよい。
【0107】
上記の実施形態において、溶解ユニットUTの交換は、1回のロットに係る一連の処理工程が終わる毎に行われてもよいし、被溶解材料の種類が変更される毎に行われてもよい。
【0108】
上記の実施形態では、複数個の溶解ユニットUTが準備されており、使用済みの溶解ユニットUTと別のメンテナンス済みの溶解ユニットUTとが交換されるものとしたが、必ずしも複数個の溶解ユニットUTが準備されている必要はない。この場合、使用済みの溶解ユニットUTがチャンバー部1から搬出されてメンテナンスを施されている間は、コールドクルーシブル溶解炉CCFを稼働させることができないので、その稼働効率を大きく高めることはできない。しかしながら、この場合も、るつぼ21、底板31、出湯ノズル32、等の各要素に対するメンテナンス作業の作業効率、確実性、作業性を、これらの各要素がチャンバー部1に組み付けられた状態のままで行う場合と比べて、十分に向上させることができる。
【0109】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 チャンバー部
11 チャンバー本体
12 仕切り板
13 支持板
2 るつぼ部
21 るつぼ
211 循環路
212 支持部
213 フランジ部
22 冷媒循環機構(第1冷媒循環機構)
221 供給配管
222 排出配管
223 接続部
3 底板部
31 底板
32 出湯ノズル
33 冷媒循環機構(第2冷媒循環機構)
331 供給配管
332 排出配管
333 接続部
334 支持部材
4 溶解用コイル部
41 溶解用コイル
42 第1電源装置
5 出湯用コイル部
51 出湯用コイル
52 第2電源装置
6 アトマイズ処理部
61 噴射ノズル
62 電磁シールド部材
63 冷却機構
631 循環配管
7 出湯用コイル保護部
71 保護部材(第1保護部材)
72 保護部材(第2保護部材)
9 被溶解材料(溶湯)
CCF コールドクルーシブル溶解炉
UT 溶解ユニット
SUT 残留ユニット