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  • 特許-水素充填用ホース 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】水素充填用ホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/12 20060101AFI20230927BHJP
   F16L 11/08 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16L11/12 K
F16L11/08 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019187898
(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2021063539
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 郁真
【審査官】伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-205417(JP,A)
【文献】特開2018-194068(JP,A)
【文献】特表2009-504445(JP,A)
【文献】特開昭54-128022(JP,A)
【文献】特公昭49-023923(JP,B1)
【文献】特開昭59-040079(JP,A)
【文献】米国特許第6334466(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/12
F16L 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸状に積層された内面層および外面層と、前記内面層と前記外面層との間に同軸状に積層された補強層とを備えて、前記内面層が90℃における乾燥水素ガスのガス透過係数が1×10-8cc・cm/cm2・sec.・cmHg以下の熱可塑性樹脂により形成されている使用圧力が70MPa以上、かつ、マイナス20℃以下の水素ガスを供給する水素充填用ホースにおいて、
前記内面層により形成される流路の直径が10mm以上25mm以下であり、前記補強層が4層以上8層以下であり、それぞれの前記補強層が金属線材を螺旋状に巻き付けて形成されているスパイラル構造であり、前記外面層が熱可塑性樹脂、または、ゴムと熱可塑性樹脂とで形成されていて、前記外面層に厚さ方向に貫通して外気に連通しているプリッキング孔が散在していることを特徴とする水素充填用ホース。
【請求項2】
前記使用圧力が作用していない時に対する前記使用圧力87.5MPaが作用している時の前記ホースの外径および長さの変化率が、±1%以内である請求項1に記載の水素充填用ホース。
【請求項3】
前記使用圧力87.5MPaが作用し、前記流路を流れる水素ガスの温度がマイナス40℃以上マイナス33℃以下の条件下で、前記ホースの最大流量が60g/分以上300g/分以下である請求項2に記載の水素充填用ホース。
【請求項4】
前記使用圧力87.5MPaが作用し、前記ホースの使用環境温度が23±2℃の条件下で前記流路から前記ホース外部への水素ガス透過量が500cm3/(m・h)以下である請求項1~3のいずれかに記載の水素充填用ホース。
【請求項5】
それぞれの前記補強層は前記内面層よりも気体透過度が大きく、前記外面層はそれぞれの前記補強層よりも気体透過度が大きい請求項1~4のいずれかに記載の水素充填用ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填用ホースに関し、さらに詳しくは、高圧の水素ガスをより大流量で流すことが可能な水素充填用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車等に水素ガスを充填するホースが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。水素充填用ホースには、優れた耐水素ガス透過性が求められるだけでなく、近年ではより短時間でより多量の水素ガスをディスペンサから燃料電池自動車等に供給することが要望されている。
【0003】
このような要望に応えるために単純にホース内径を大きくして、高圧の水素ガスの流量を増加させると、ホースの破壊圧が低下する。そのため、ホースの耐圧性能を向上させる必要がある。隣接する層に確実に力を伝えて耐圧効率を向上させるには、ホースの補強層を繊維よりも金属線材で形成する方が有利である。また、補強層はブレード構造よりもスパイラル構造にする方が耐圧性能を向上させるには有利である。
【0004】
一方で、ホース内径を大きくすることに伴い、水素ガスの透過量が増加するため、補強層を金属線材により形成した場合は、金属線材が水素脆化し易くなるという問題が生じる。そのため、高圧の水素ガスをより大流量で流すには、ホース構造を改善する余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-194068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高圧の水素ガスをより大流量で流すことが可能な水素充填用ホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の水素充填用ホースは、同軸状に積層された内面層および外面層と、前記内面層と前記外面層との間に同軸状に積層された補強層とを備えて、前記内面層が90℃における乾燥水素ガスのガス透過係数が1×10-8cc・cm/cm2・sec.・cmHg以下の熱可塑性樹脂により形成されている使用圧力が70MPa以上、かつ、マイナス20℃以下の水素ガスを供給する水素充填用ホースにおいて、前記内面層により形成される流路の直径が10mm以上25mm以下であり、前記補強層が4層以上8層以下であり、それぞれの前記補強層が金属線材を螺旋状に巻き付けて形成されているスパイラル構造であり、前記外面層が熱可塑性樹脂、または、ゴムと熱可塑性樹脂とで形成されていて、前記外面層に厚さ方向に貫通して外気に連通しているプリッキング孔が散在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、流路の直径が10mm以上25mm以下の大口径にすることで、高圧の水素ガスの流量を大きくすることができる。また、前記補強層を4層以上8層以下にして、それぞれの前記補強層を金属線材を螺旋状に巻き付けて形成されているスパイラル構造にすることで、ホースは流路を大口径にしながらも、実用に耐え得る十分な耐圧性能を確保することが可能になる。そして、外面層にプリッキング孔を散在させることで、内面層を透過した水素ガスはホースの外部に円滑に流出し易くなるので、金属線材の水素脆化を抑制するには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の水素充填用ホースの実施形態を一部切開して例示する側面図である。
図2図1のホースの一部を拡大して横断面視で例示する説明図である。
図3】水素ステーションに設置されたディスペンサに装備されたホースを例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水素充填用ホースを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1、2に例示する本発明の水素充填用ホース1(以下、ホース1という)の実施形態は、内周側から順に、内面層2、補強層3(3a、3b、3c、3d)、外面層5が同軸状に積層されている。図面の一点鎖線CLは、ホース軸心を示している。
【0012】
このホース1は図3に例示するように、水素ステーションに設置されるディスペンサ7に装備される場合には、ホース1の両端にホース金具8が加締めて取付けられる。ホース1を通じてディスペンサ7から車両9や貯蔵タンクなどに低温(例えばマイナス40℃以上マイナス20℃以下)で高圧(例えば70MPa以上87.5MPa以下)の水素ガスhが供給、充填される。即ち、ホース1の使用圧力は70MPa以上になっている。
【0013】
ホース1の最内周に配置された内面層2によって円筒状の流路2aが形成されている。内面層2には高圧の水素ガスhが直接接触するので、内面層2は、90℃における乾燥水素ガスのガス透過係数が1×10-8cc・cm/cm2・sec.・cmHg以下の熱可塑性樹脂により形成されている。このガス透過係数は、JIS K7126に準拠して測定した値である。この熱可塑性樹脂としては、ナイロン(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11等)、フッ素樹脂、ポリアセタール、エチレンビニルアルコール共重合体等を例示することができる。
【0014】
このように水素ガスバリア性が良好な樹脂を内面層2に用いることにより、優れた耐水素ガス透過性を得ることができる。流路2aの直径(即ち、ホース1の内径)は例えば、10mm以上25mm以下、より好ましくは12mm以上25mm以下、さらに好ましくは16mm以上25mm以下の大口径に設定されている。流路2aの直径が大きくなる程、水素ガスhの流量を増加させるには有利になり、この直径が小さくなる程、ホース1の耐圧性能を確保する(破壊圧を大きくする)には有利になる。
【0015】
内面層2の寸法変化を抑制するには層厚を厚くすることが好ましい。一方、ホース1の柔軟性を確保するには、内面層2の層厚を薄くすることが好ましい。そのため、内面層2の層厚は例えば、0.5mm以上2.5mm以下、より好ましくは1.0mm以上2.0mm以下に設定される。
【0016】
補強層3は金属線材4により形成されていて、ホース1に要求される耐圧性能、曲げ性能等に基づいて、適切な材料や構造等が選択される。この実施形態では補強層3が4層であるが、ホース1に要求される性能に基づいて、4層以上8層以下の範囲で設定される。
【0017】
それぞれの補強層3は金属線材4で形成されたスパイラル構造になっている。それぞれの補強層3a、3b、3c、3dを形成する金属線材4は、ホース軸心CLに対して所定の編組角度A1、A2、A3、A4で螺旋状に巻き付けられている。それぞれの補強層3a、3b、3c、3dは、積層順に金属線材4の巻き付け方向が交互に異ならされる。
【0018】
金属線材4の巻き付け方向を異ならせて隣り合って積層される補強層3どうしが対になるので、補強層3の積層数は基本的に複数にする。それぞれの補強層3どうしの間には、互いの接触を防止する中間層を配置することもできる。この中間層は繊維、樹脂やゴム等で形成できる。介在させる中間層は、隣り合って積層される補強層3と接着させる。
【0019】
それぞれの編組角度A1、A2、A3、A4は、45°以上60°以下が好ましい。編組角度が45°未満ではホース内圧が作用した際のホース1の径方向の変化量が過大になり、60°超ではホース1の長手方向の変形量が過大になる。それぞれの編組角度A1、A2、A3、A4は同じにすることも異ならせることもできる。
【0020】
金属線材4としては、ピアノ線(JIS G 3502で規定された仕様)、硬鋼線材(JIS G 3506で規定された仕様)、硬鋼線(JIS G 3521で規定された仕様)、ステンレス鋼線材(JIS G 4308で規定された仕様)、銅及び銅合金の線(JIS H 3260で規定された仕様)、アルミニウム及びアルミニウム合金の線(JIS H 4040で規定された仕様)、マグネシウム合金の線(JIS H 4203で規定された仕様)、チタン及びチタン合金の線(JIS H 4670で規定された仕様)や、これらに伸線処理を施したものを例示できる。金属線材4の外径は、ホース1の耐圧性能および柔軟性を考慮して、例えば0.2mm以上1.2mm以下、より好ましくは0.25mm以上0.40mm以下にする。金属線材4の物性としては、常温での破断強度が100N以上好ましくは160N以上より好ましくは200N以上で、破断伸びが5%以下より好ましくは3.5%以下さらに好ましくは3.0%以下にする。
【0021】
ホース1の最外周に配置される外面層5には、ホース1に要求される性能(耐候性、耐摩耗性、柔軟性等)や使用環境等に基づいて、適切な材料が選択され、適切な層厚が設定される。外面層5は熱可塑性樹脂から成る単層構造にすることも、ゴムと熱可塑性樹脂との複層構造にすることもできる。外面層5を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステル等を例示することができ、ゴムとしては、クロロプレンアクリロゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等を例示することができる。
【0022】
外面層5の層厚は例えば、0.2mm以上1.5mm以下、より好ましくは0.5mm以上1.0mm以下に設定される。外面層4の層厚が大きくなる程、ホース1の耐候性を確保するには有利になり、層厚を小さくする程、柔軟性を確保するには有利になる。ホース1の耐候性と柔軟性を両立させるには、外面層5の層厚を上述した範囲に設定することが好ましい。
【0023】
外面層5には厚さ方向に貫通するプリッキング孔6が散在している。プリッキング孔6の外径は例えば0.2mm以上1.2mm以下である。プリッキング孔6の配置密度は、ホース1の長さ1m当たり5個以上にする。プリッキング孔6の配置密度の上限は一概に特定することはできないが、外面層5の機能を確保しつつ、金属線材4の水素脆化の抑制に効果的な配置密度を例えば実験データ等に基づいて把握して、その把握した配置密度でプリッキング孔6を配置するとよい。プリッキング孔6は外面層5に均等に分布して配置されることが望ましい。
【0024】
従来の水素充填用ホースの内径(流路の直径)は、10mm未満が一般的なので、流路2aの直径を10mm以上25mm以下にしたこのホース1は従来に比して大口径になっている。そのため、高圧の水素ガスhの流量を大きくすることができる。流量をより大きくするために、流路2aの直径は12mm以上、或いは16mm以上にすることが望ましい。尚、ホース口径をよりダウンサイジングした仕様にまで適用して、流路2aの直径を4mm以上25mm以上にすることもできる。
【0025】
流路2aを大口径にすることによるホース1の破壊圧の低下を回避するために、金属線材4で形成されたスパイラル構造の補強層3を4層以上有する仕様にしている。尚、補強層8の積層数が増加するとホース1の柔軟性が損なわれるため、これを回避するために、補強層3の積層数は8層以下にする。この仕様にすることで、ホース1は、流路2aを大口径にしながらも、実用に耐え得る十分な耐圧性能を確保している。
【0026】
また、流路2aを流れる水素ガスhの流量が増加することに伴って、内面層2を透過する水素ガスhの量も増加する。これに伴い、それぞれの補強層3を形成する金属線材4が水素ガスhに接触し易くなる。金属線材4に水素ガスhが接触している時間が長くなるに連れて、金属線材4の水素脆化が促進されて補強層3の耐用期間が短くなる。
【0027】
ゴムや樹脂で形成された外面層5は、金属線材4を巻き付けて形成されたそれぞれの補強層3よりも水素ガスhが透過し難い。そのため、内面層2を透過した水素ガスhが金属線材4に接触する時間が長くなり易い。そこで、このホース1では、外面層5にプリキング孔6を散在させている。内面層2を透過した水素ガスhは、プリッキング孔6通じてホース1の外部により円滑に流出し易くなる。その結果、それぞれの補強層3を形成する金属線材4が水素ガスhに接触する時間が短くなり、金属線材4の水素脆化を抑制するには有利になっている。
【0028】
流路2aには、水素ガスh以外の流体が意図せずに流れる場合も想定される。この場合、その流体がホース1の内部に残留すると、ホース内圧が低下した場合に、残留した流体が膨張してホース1内部で層間剥離が発生する可能性が高くなる。そこで、それぞれの補強層3は内面層2よりも気体透過度Tを大きくし、外面層5はそれぞれの補強層3よりも気体透過度Tを大きくする。補強層3の間に中間層を介在させる場合は、中間層の気体透過度Tはそれぞれの補強層3と同等以上にする。
【0029】
この気体透過度T(mm3/mm2・sec・MPa)は、透過係数P(mm3・mm/mm2・sec・MPa)を、気体を透過させる層の層厚tで除して算出される(T=P/t)。透過係数Pとは、単位時間、単位面積、単位圧力当たりにその層を透過する気体の量であるので、気体透過度Tは層厚tに依存しない指標になる。透過係数Pは具体的には、JIS K 7126-1に規定されたガス透過度試験方法に準拠して取得する。試験温度は室温、透過させる気体としては空気を用いて気体透過度を取得する。
【0030】
ディスペンサ7からホース1を介して車両9などに高圧の水素ガスhを安全に供給、充填するには、ホース1に使用圧力が作用していない時(ホース内圧がゼロの時)に対する使用圧力87.5MPaが作用している時のホース1の外径および長さの変化率は、±1%以内にすることが好ましい。この変化率を±1%以内にするには、特にそれぞれの補強層3において編組角度Aの平均を54°以上55°以下にするとよい。
【0031】
また、高圧の水素ガスhをより多量に短時間で確実に供給、充填するには、ホース1に使用圧力87.5MPaが作用し、流路2aを流れる水素ガスhの温度がマイナス40℃以上マイナス33℃以下の条件下で、水素ガスhの最大流量を60g/分~300g/分にするとよい。この最大流量を確保するには、上述したように流路2aを大口径にしつつ、ホース1の耐圧性能を確保できる上述した補強層3の仕様と、プリッキング孔6の仕様との最適な組み合わせを採用する。
【0032】
または、ホース1に使用圧力87.5MPaが作用し、ホース1の使用環境温度が23±2℃の条件下で、流路2aからホース1外部への水素ガスhの透過量を500cm3(m・h)以下にすることが望ましい。この透過量500cm3/(m・h)以下を確保しつつ、上述した水素ガスhの最大流量を60g/分~300g/分を確保することがより望ましい。
【0033】
このホース1によれば、例えば、ホース内径が小さい従来のホースを3本程度同時に使用した場合と同じ流量の高圧の水素ガスhを同じ時間で、車両9などに供給、充填することが可能になる。
【符号の説明】
【0034】
1 水素充填用ホース
2 内面層
2a 流路
3(3a、3b、3c、3d) 補強層
4 金属線材
5 外面層
6 プリッキング孔
7 ディスペンサ
8 ホース金具
9 車両
CL ホース軸心
図1
図2
図3