(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜、被着体および塗膜剥離方法
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20230927BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230927BHJP
C09D 175/08 20060101ALI20230927BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230927BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230927BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230927BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20230927BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20230927BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230927BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230927BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230927BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/02
C09D175/08
C09D7/20
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/20
B05D3/12 E
B05D5/00 A
B05D7/24 302T
B05D7/24 302V
B32B27/18 E
B32B27/18 Z
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2020050323
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(72)【発明者】
【氏名】伊東寛明
(72)【発明者】
【氏名】今岡寿仁
(72)【発明者】
【氏名】辰巳優斗
(72)【発明者】
【氏名】桐野学
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216660(JP,A)
【文献】特開2011-79967(JP,A)
【文献】特開昭62-246972(JP,A)
【文献】特開平03-074481(JP,A)
【文献】特開平06-154705(JP,A)
【文献】特開2018-154818(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081731(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163394(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104559721(CN,A)
【文献】特開昭59-196372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含む、ポリカーボネートまたはポリエーテル構造を有するウレタンエマルジョンまたはウレタンディスパージョン(A)と、有機溶剤(B)と、塩基価130mgKOH/g以下である金属スルホネート化合物(C)とを含む、塗料組成物。
【請求項2】
前記(C)成分の添加量が、前記(A)成分の固形分100質量部に対して0.1~70質量部含むことを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、pH5.0~10.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記(B)成分の添加量が、前記(A)成分の固形分100質量部に対して、0.1~700質量部を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が、沸点が105~250℃であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記(B)成分が、石油系炭化水素溶剤、芳香族炭化水素系溶剤およびグリコール系溶剤からなる群から少なくとも1以上選択される化合物であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記(C)成分が、カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネートおよびバリウムスルホネートからなる群から少なくとも1以上選択される化合物であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
被着体がガラス、セラミック、被皮、金属およびプラスチックからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜を有する被着体。
【請求項11】
被着体の表面に、請求項1~7に記載されたいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜を、使用後に、剥離する塗膜剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料組成物、塗膜、被着体および塗膜剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料組成物とは、被着体の表面を保護する目的で使用されるものである。特に、工場などで生産された電気電子分野等の製品の表面に塗膜を形成することにより、輸送や保管した際の傷、腐食、変色、汚染などを防止するものである。また、不要になった際は表面を汚すことなく容易に剥離することができる。
【0003】
このような塗料組成物としては、例えば、特許文献1には、(メタ)アクリルポリマーエマルジョンを主成分とする水性塗料組成物が開示されている。また、特許文献2には、水性ポリウレタン分散液と、溶媒と ステアリン酸の金属塩の分散液またはワックスの分散液を含む剥離添加剤を含む塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-233338号公報
【文献】特表2005-504861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の塗料組成物は剥離性を有する塗膜であるものの、耐水性、耐塩水噴霧性が劣る塗膜であったことから、被着体の表面を安定して保護することができなかった。また、特許文献2の塗料組成物は、剥離性、耐塩水噴霧性(防錆性)が劣る塗膜であった。(本明細書の比較例6,7参照)
【0006】
そこで、本発明は、上記の状況に鑑みてされたものであり、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の要旨を有するものである。
[1]水を含む、ポリカーボネートまたはポリエーテル構造を有する、ウレタンエマルジョンまたはウレタンディスパージョン(A)と、有機溶剤(B)と、塩基価130mgKOH/g以下である金属スルホネート化合物(C)とを含む、塗料組成物。
[2]前記(C)成分の添加量が、前記(A)成分の固形分100質量部に対して0.1~70質量部含むことを特徴とする[1]に記載の塗料組成物。
[3]前記(A)成分が、pH5.0~10.0であることを特徴とする[1]または[2]に記載の塗料組成物。
[4]前記(B)成分の添加量が、前記(A)成分の固形分100質量部に対して、0.1~700質量部を含むことを特徴とする[1]~[3]のいずれか1項に記載の塗料組成物。
[5]前記(B)成分が、沸点が105~250℃であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1項に記載の塗料組成物。
[6]前記(B)成分が、石油系炭化水素溶剤、芳香族炭化水素系溶剤およびグリコール系溶剤からなる群から少なくとも1以上選択される化合物であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか1項に記載の塗料組成物。
[7]前記(C)成分が、カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネートおよびバリウムスルホネートからなる群から少なくとも1以上選択される化合物であることを特徴とする[1]~[6]のいずれか1項に記載の塗料組成物。
[8]被着体がガラス、セラミック、被皮、金属、プラスチックからなる群から少なくとも1以上選択されることを特徴とする、[1]~[7]のいずれか1項に記載の塗料組成物。
[9] [1]~[7]のいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜。
[10] [1]~[7]のいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜を有する被着体。
[11]被着体の表面に、[1]~[7]に記載されたいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜を、使用後に、剥離する塗膜剥離方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる塗料組成物を提供することを目的とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に発明の詳細を説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。
<(A)成分>
本発明で用いられる(A)成分は、水を含む、ポリカーボネートまたはポリエーテル構造を有する、ウレタンエマルジョンまたはウレタンディスパージョンであれば特に制限されるものではない。中でも、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができるという観点から、ウレタンディスパージョンが好ましい。前記ウレタンエマルジョンとは、ウレタン樹脂が水を含有する水性媒体中で分散してなる乳濁液を意味し、前記ウレタンディスパージョンとは、ウレタン樹脂が水を含有する水性媒体中で分散してなる分散液を意味する。前記(A)成分のpHは特に制限されないが、好ましくは5.0~10.0であり、さらに好ましくは6.0~9.5であり、特に好ましくは6.5~9.0である。pHの測定方法は、JIS Z 8802(2011)に準拠したものである。
【0010】
前記(A)成分の固形分の含有量は特に限定されないが、例えば、10?95質量%であり、特に好ましくは20~75質量%の範囲である。上記の範囲内であることで、取り扱い性が優れる。
【0011】
<(B)成分>
本発明で用いられる(B)成分は、有機溶剤であれば、特に制限されるものではない。本発明の(B)成分は本発明の(A)成分、(C)成分と併用することにより、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる。前記(B)成分としては、特に制限されないが、沸点が105~250℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは110~200℃であり、特に好ましくは、115~190℃の範囲である。上記の範囲内であることでより一層に、塗膜形成作業に適し、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる。本発明において沸点とは初留点を意味し、初留点は、JIS-K-2435に準拠したものである。
【0012】
前記(B)成分としては、特に制限されないが、例えば、非極性溶剤または極性溶剤などが挙げられる。
前記非極性溶剤としては例えば、炭化水素系溶剤が挙げられ、より好ましくは、石油系炭化水素溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。前記石油系炭化水素溶剤としては、市販品としては、スワクリーン150(丸善石油化学製)、Aソルベント、ミネラルスピリットA(JXTGエネルギー製)などが挙げられる。また、前記芳香族炭化水素系溶剤としては、市販品としては、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンなどが挙げられる。前記極性溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリコール系溶剤などが挙げられる。前記グリコール系溶剤としては、例えば、メチルエチルジグリコール、ジメチルジグリコール、メチルプロピレングリコールアセテート、メチルプロピレングリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール、イソブチルグリコール、ブチルジグリコール(日本乳化剤製)などが挙げられる。
【0013】
前記(B)成分の添加量は、特に制限されないが、例えば前記(A)成分中の固形分100質量部に対して、0.1~700質量部であり、好ましくは、0.3~500質量部であり、特に好ましくは0.5~50質量部である。上記の範囲内であることでより一層に、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる。
【0014】
<(C)成分>
本発明の(C)成分は、塩基価130mgKOH/g以下である金属スルホネート化合物であれば、特に制限されない。本発明のその他成分と組み合わせることにより、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる塗料組成物を得ることができる。また、(C)成分により、各種被着体に対して優れた剥離性を示すことができる。(C)成分の塩基価は好ましくは70mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは50mgKOH/g以下であり、特に好ましくは、20mgKOH/g以下である。本発明の(C)の所定の塩基価範囲内であることで、製造直後に分離せず、塗膜として利用することができ、且つ、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる塗料組成物を得ることができる。なお、前記塩基価はJISK2501に準拠して測定し得られた値である。
【0015】
前記金属スルホネート化合物とは、スルホン酸の金属塩などが挙げられる。前記スルホン酸としては、特に制限されないが、例えば、芳香族石油スルホン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸などが挙げられる。前記(C)成分の金属とは、好ましくは、周期表第2族元素、第4族元素から群から少なくとも一種の元素を含む金属であり、さらに好ましくはアルカリ土類金属であり、特に好ましくはカルシウム、マグネシウム、バリウムなどが挙げられる。
【0016】
前記(C)成分は、特に制限されないが、例えば、カルシウムスルホネート、マグネシウムスルホネート、バリウムスルホネートなどが挙げられる。(C)成分の市販品としては、例えば、NA-SUL 729(LOCKHART社製)、QUIMICA LIPOSOLUBLE2066(QUIMICA社製)、BA-50(LOCKHART社製)、Lz5342(LUBRIZOL社製)などが挙げられる。
【0017】
前記(C)成分の添加量は、特に制限されないが、例えば前記(A)成分中の固形分100質量部に対して、0.1~70質量部であり、好ましくは0.5~50質量部であり、特に好ましくは1.0~30質量部である。また、前記(B)成分に対する(C)成分の質量比率((C)成分/(B)成分)は、特に制限されないが、例えば、0.1~70であり、より好ましくは0.2~50であり、特に好ましくは0.3~30などが挙げられる。(C)成分が上記の範囲内であることで、より一層に、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れる塗膜を得ることができる。
【0018】
<任意成分>
また本発明においては、塗料組成物の特性を損なわない範囲において任意の添加成分をさらに含ませることができる。前記任意成分としては例えば、安定剤、可塑剤、分散剤、レベリング剤、湿潤剤、消泡剤等の界面活性剤、帯電防止剤、表面潤滑剤、レオロジー調整剤、着色剤、撥水剤、撥油剤、紫外線吸収剤等の老化防止剤等を挙げることができる。
【0019】
<剥離性塗料組成物の製造方法>
本発明の塗料組成物は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、(A)成分~(C)成分の所定量を配合して、ミキサー等の混合手段を使用して、好ましくは10~70℃の温度で好ましくは0.1~72時間混合することにより製造することができる。
【0020】
本発明の塗料組成物により形成された塗膜;本発明の塗料組成物により形成された塗膜を有する被着体;被着体の表面に、本発明の塗料組成物の塗膜を、使用後に、塗膜を剥離する塗膜剥離方法もまた、本発明の一態様である。なお、本発明において、被着体とは、本発明の塗料組成物により形成された塗膜により保護されるものであれば、どのようなものも含まれるものとする。
【0021】
<塗膜の形成方法>
剥離性塗料組成物を用いて塗膜を形成する際にも、特に制限はなく、剥離性塗料組成物を適宜被着体に塗布し、乾燥すればよい。塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、ローラー、スプレー、浸漬等により塗膜を形成することができる。塗膜の厚さは特に制限はないが、乾燥後の塗膜厚さが3~100μm、好ましくは5~70μmであることが部材の保護性と剥離性とのためには好適である。乾燥は、剥離性塗料組成物を塗布後、室温(25℃)にて15分~36時間放置することにより行うことができる。また、加温することでより短時間で乾燥することができる。
【0022】
前記被着体としては、ガラス、セラミック、被皮、ゴム、金属、プラスチックなどが挙げられ、中でも、本発明の剥離性塗料組成物が優れた剥離性を示すものとしては、特にガラス、金属、プラスチックである。前記金属とは、鉄、SUS、アルミニウム、マグネシウム、チタン、金、銀、銅などが挙げられる。前記プラスチックとは、特に制限されないが、例えば、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂)、PC(ポリカーボネート)、(メタ)アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PPO(ポリフェニレンエーテル樹脂)、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタラート)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)などが挙げられる。
【0023】
<剥離方法>
本発明の塗料組成物を用いた塗膜剥離方法もまた、本発明の一態様である。具体的には、被着体の表面に形成された塗膜を、使用後に、塗膜を剥離する塗膜剥離方法が挙げられる。剥離は、形成された塗膜表面にテープを貼り付け、テープを剥がすことで同時に塗膜が追従し剥離する方法、塗膜形成時に一部を厚膜で硬化させ、その部分を起点に剥離していく方法、塗装前に塗装対象物にテープなどを貼り付け、その上に塗膜を形成した後、そのテープを剥がすことで同時に塗膜も剥離可能な方法、塗膜形成後、高級アルコール系溶剤を湿らせたウエスを貼り付け数分放置した後にスクレーパーなどで剥離する方法などが挙げられる。
【0024】
<用途>
本発明の塗料組成物は、被着体の表面を保護する目的で使用できる。特に、工場などで生産された電気電子分野、自動車分野等の製品の表面に、本発明の塗料組成物による塗膜を形成することで、輸送中や保管中など一定期間において傷や腐食を防止することができる。また、不要になった際は表面を汚すことなく容易に剥離できるものである。本発明の塗料組成物は、部材を選ばず剥離性が優れることから、特に限定されるものではないが、例えば、自動車分野、自転車分野、鉄道車両分野、航空機分野、建築分野、電気電子分野、通信機器分野、家具分野、医療分野、工作機器分野、FA機器、床、塗装ブースなどの各種用途で使用可能である。自動車分野としては、例えば、自動車外装、バンパー、サイドミラー、ホイールなどが挙げられる。
【0025】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制約されるものではない。
【実施例】
【0026】
<塗料組成物の調製>
各成分を表1に示す質量部で採取し、常温にてプラネタリーミキサーで60分混合し、塗料組成物を調製し、各種物性に関して次のようにして測定した。
【0027】
<(A)成分>
a1:pH=8.5であり、固形分33質量%である、水を含むポリエーテル系ポリウレタンディスパージョン (DSIM製NeoRez R-600)
a2:pH=8.3であり、固形分35質量%である、水を含むポリカーボネート系ポリウレタンディスパージョン(DIC株式会社製ハイドランWLS-210)
<(A)成分の比較成分>
a’1:pH=8.3であり、固形分33質量%である、水を含むポリエステル系ポリウレタンディスパージョン(NeoRez R-960)
a’2:pH=7.5であり、固形分35質量%である、水を含むバーサチック酸ビニルエステル共重合アクリルエマルジョン(VANORA社製DSV.4176)
<(B)成分>
b1:沸点160℃である、石油系炭化水素溶剤(JXTGエネルギー株式会社製Aソルベント)
b2:沸点150℃である、石油系炭化水素溶剤(丸善石油化学株式会社製スワクリーン150)
b3:沸点176℃である、メチルエチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製MEDG)
b4:沸点162℃である、ジメチルジグリコール(日本乳化剤株式会社製DMDG)
b5:沸点146℃である、メチルプロピレングリコールアセテート(日本乳化剤株式会社製MFG-AC
b6:沸点121℃である、メチルプロピレングリコール(日本乳化剤株式会社製MFG)
b7:沸点150℃である、プロピルプロピレングリコール(日本乳化剤株式会社製PFG)
b8:沸点170℃である、ブチルプロピレングリコール(日本乳化剤株式会社製BFG)
<(C)成分>
c1:塩基価1mgKOH/gである、カルシウムスルホネート(LOCKHART製NA-SUL 729)
c2:塩基価22mgKOH/gである、カルシウムスルホネート(QUIMICA社製QUIMICA LIPOSOLUBLE2066)
c3:塩基価4である、バリウムスルホネート(LOCKHART社製BA-50)
<(C)の比較成分>
c’1:塩基価150である、カルシウムスルホネート(LOCKHART製SulfoGel 380)
c’2:パラフィンワックス(日本精蝋株式会社製)
c’3:カルナバワックス(日本精蝋株式会社製)
c’4:リン酸塩系防錆剤(共栄社化学共栄社製ラスミンV-4)
c’5:亜硝酸ナトリウムを含む防錆剤(キレスト株式会社サビノンL)
【0028】
実施例及び比較例において使用した試験法は下記の通りである。
【0029】
<塗膜の剥離性>
サイズ0.8×70×150mmのSUS430製板の上に、各塗料組成物を乾燥膜厚が35μmとなるようにバーコーターで塗布する。次に、25℃×55%Rh雰囲気で、24時間養生することで塗膜を得た。そして、塗板上の塗膜の端部を爪で剥がし、90℃方向に塗膜端部を引っ張り、塗板から塗膜を引き剥がした。その際に、剥離の状態と塗膜の状態を以下の評価基準で評価した。結果を表1にまとめた。本発明の塗料組成物としては、評価結果がAまたはBであることが好ましい。
[評価基準]
A:塗膜の剥離が容易であり、塗膜が切れずに剥離可能
B:塗膜の剥離は可能であるが、塗膜が切れる。
C:塗膜の剥離ができない。
【0030】
<塗膜の耐水性>
サイズ0.8×70×150mmのSUS430製板の上に、各塗料組成物を乾燥膜厚が35μmとなるようにバーコーターで塗布する。次に、25℃×55%Rh雰囲気で、24時間養生することで試験片を得た。得られた試験片をPP製容器に入った純水に25℃環境下で24時間浸漬した。次に、PP製容器から試験片を取り出して、30分間乾燥させた後の塗膜の外観を目視で確認し、次の基準に基づき評価した。結果を表1にまとめた。本発明の塗料組成物としては、評価結果がAまたはBであることが好ましく、特に好ましくはAである。
[評価基準]
A:変化がみられないもの。
B:わずかな膨れあり(乾いたあとは平滑な塗板となる)
C:白化及び膨れあり(乾いたあとも膨れたまま)
【0031】
<塗膜の耐塩水噴霧性>
サイズ0.8×70×150mmのSUS430製板の上に、各塗料組成物を乾燥膜厚が35μmとなるようにバーコーターで塗布する。次に、25℃×55%Rh雰囲気で、24時間養生することで試験片を得た。得られた試験片を塩水噴霧試験機(製品名STP-90V-4 スガ試験機)に設置し、35℃×95%RHで5% NaCl水溶液を噴霧する条件下で24時間静置した。その後、試験片を取り出して、塗板中央の50×50mmを100マス方眼として、そのマスのうちどの程度錆が発生しているかを目視で確認し、下記の基準に基づき評価した。(JIS K2246に準拠)
[評価基準]
A:錆の発生がない
B:錆の発生が10%以下(面積比)
C:錆の発生が10%以上(面積比)
【0032】
【0033】
表1の実施例1~19の結果より、本発明の塗料組成物の塗膜は、剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れることがわかる。一方で、比較例1は本発明の(B)成分、(C)成分を含まない塗料組成物であるが、塗膜の耐塩水噴霧性が劣る結果であった。また、比較例2は、本発明の(B)成分を含まない塗料組成物であるが、塗膜の耐塩水噴霧性が劣る結果であった。比較例3は本発明の(A)成分ではないa’1を用いた塗料組成物であるが、塗膜の耐水性が劣る結果であった。また、比較例4は本発明の(A)成分ではないa’2を用いた塗料組成物であるが、塗膜の剥離性が劣る結果であった。また、比較例5は本発明の(C)成分ではないc’1成分(本発明の(C)成分が規定する塩基価の範囲外)を用いた塗料組成物であるが、製造直後に分離したことが確認された。そのため、各種評価を行うことができなかった。また、比較例6、7は特許文献2に開示されたワックスを含む塗料組成物を想定したものである。具体的には、本発明の(C)成分ではないc2’(パラフィンワックス)、c’3成分(カルナバワックス)を用いた塗料組成物であるが、膜組成物の塗膜は、剥離性、耐塩水噴霧性が劣る結果であった。
【0034】
次に、各種部材に対する剥離性を評価した。
<各種部材に対する剥離性(1)>
サイズ1.6×25×100mmの下記の各種プラスチック製板の上に、実施例1,3、13、比較例1の塗料組成物を乾燥膜厚が35μmとなるようにバーコーターで塗布する。次に、25℃×55%Rh雰囲気で、24時間養生することで塗膜を得た。そして、塗板上の塗膜の端部を爪で剥がし、90℃方向に塗膜端部を引っ張り、塗板から塗膜を引き剥がした。その際に、剥離の状態と塗膜の状態を以下の評価基準で評価した。結果を表2にまとめた。本発明の塗料組成物としては、評価結果がAまたはBであることが好ましく、特に好ましくはAである。
[評価した材質]
PET(ポリエチレンテレフタラート)、ポリ塩化ビニル
[評価基準]
A:塗膜の剥離が容易であり、塗膜が切れずに剥離可能
B:塗膜の剥離は可能であるが、塗膜が切れる。
C:塗膜の剥離ができない。
【0035】
【0036】
<各種部材に対する剥離性(2)>
サイズ1.6×25×100mmの下記の各種プラスチック製板の上に、実施例1の塗料組成物を乾燥膜厚が35μmとなるようにバーコーターで塗布する。次に、25℃×55%Rh雰囲気で、24時間養生することで塗膜を得た。そして、塗板上の塗膜の端部を爪で剥がし、90℃方向に塗膜端部を引っ張り、塗板から塗膜を引き剥がした。その際に、剥離の状態と塗膜の状態を以下の評価基準で評価した。結果を表3にまとめた。本発明の塗料組成物としては、評価結果がAまたはBであることが好ましく、特に好ましくはAである。
[評価した材質]
PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂)、アクリル樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PS(ポリスチレン)、PP(ポリプロピレン)
[評価基準]
A:塗膜の剥離が容易であり、塗膜が切れずに剥離可能
B:塗膜の剥離は可能であるが、塗膜が切れる。
C:塗膜の剥離ができない。
【0037】
【0038】
表2、3の実施例1、3、13の結果より、本発明の塗料組成物の塗膜は、各種プラスチックに対して剥離性を有することがわかる。一方で、比較例1は、本発明の(B)成分、(C)成分を含まない塗料組成物であるが、ポリ塩化ビニル、PCに対する剥離性が劣る結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の塗料組成物の塗膜は剥離性、耐水性、耐塩水噴霧性が優れることから、極めて有効であり、広い分野に適用可能であることから産業上有用である。