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特許7356064T継手、建築構造、及びT継手の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】T継手、建築構造、及びT継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/02 20060101AFI20230927BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B23K9/02 S
B23K9/02 D
B23K9/00 501B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022503111
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020046966
(87)【国際公開番号】W WO2021171749
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2020030108
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020030109
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020030110
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】石田 欽也
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
(72)【発明者】
【氏名】安富 隆
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198796(JP,A)
【文献】特開2019-089099(JP,A)
【文献】特表2019-520216(JP,A)
【文献】特開平11-058000(JP,A)
【文献】特開2019-155391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/02
B23K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼板と、第2の鋼板と、隅肉溶接部とを備え、
前記第2の鋼板の板厚は6.0mm以下であり、
前記第2の鋼板は前記第1の鋼板の第1面に立っていて、
前記隅肉溶接部は前記第1の鋼板の前記第1面と前記第2の鋼板の第1面とを接合し、
前記第1の鋼板の前記第1面又は前記第2の鋼板の前記第1面の少なくとも一方が、亜鉛系めっきを有し、
前記第2の鋼板の第2面側の、前記第2の鋼板の突き合わせ端部は傾斜面を有し、
前記第1の鋼板の板厚方向及び前記第2の鋼板の板厚方向に沿った断面において、前記傾斜面は、前記第1の鋼板の前記第1面と鋭角を形成する
T継手。
【請求項2】
前記傾斜面において前記隅肉溶接部の溶接金属が露出している請求項1に記載のT継手。
【請求項3】
前記第2の鋼板の板厚は4.5mm以下である請求項1又は2に記載のT継手。
【請求項4】
前記隅肉溶接部の全長に占める気孔欠陥率が30%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のT継手。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のT継手を備える建築構造。
【請求項6】
第1の鋼板の第1面に第2の鋼板を立てること、及び
前記第1の鋼板の前記第1面と前記第2の鋼板の第1面とを隅肉溶接すること、
を備え、
前記第2の鋼板の板厚は6.0mm以下であり、
前記第1の鋼板の前記第1面と前記第2の鋼板の前記第1面の少なくとも一方に亜鉛系めっきを有し、
前記第1の鋼板の前記第1面に前記第2の鋼板を立てたとき、前記第1の鋼板の板厚方向及び前記第2の鋼板の板厚方向に沿った断面において、前記第2の鋼板は、前記第2の鋼板の第2面の前記第1の鋼板側の端部に、前記第1の鋼板の前記第1面と鋭角を形成する傾斜面を備える、
T継手の製造方法。
【請求項7】
前記隅肉溶接では、前記傾斜面において隅肉溶接部の溶接金属が露出するように隅肉溶接する請求項6に記載のT継手の製造方法。
【請求項8】
前記第2の鋼板の板厚は4.5mm以下である請求項6又は7のT継手の製造方法。
【請求項9】
前記第1の鋼板の前記第1面に前記第2の鋼板を立てたとき、前記第1の鋼板の前記板厚方向及び前記第2の鋼板の前記板厚方向に沿った前記断面において、前記第2の鋼板は、前記第2の鋼板の前記第1面の前記第1の鋼板側の端部に、前記第1の鋼板の前記第1面と鋭角を形成する傾斜面を備える請求項6~8のいずれかのT継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T継手、建築構造、及びT継手の製造方法に関する。
本願は、2020年2月26日に日本に出願された特願2020-030108号、2020年2月26日に日本に出願された特願2020-030109号、及び2020年2月26日に日本に出願された特願2020-030110号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
耐食性が求められる部材を構成する材料の一例として、亜鉛系めっき鋼板がある。亜鉛系めっき鋼板とは、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板等の、亜鉛を主成分とするめっきを有する鋼板の総称である。亜鉛系めっきは、犠牲防食効果を有し、鋼板の耐食性を飛躍的に向上させることができる。
【0003】
一方、亜鉛系めっき鋼板を用いて部材を製造するために、亜鉛系めっき鋼板を溶接すると、鋼板表面の亜鉛系めっきが溶接熱で気化する。気化した亜鉛系めっき、即ちめっき蒸気は、溶接金属中に気泡を形成する。気泡は、ブローホール及びピット等の気孔欠陥を溶接ビードに生じさせ、溶接不良を引き起こす。気孔欠陥は、溶接部の外観品位を損ない、さらに継手強度を低下させるおそれがある。例えば「建築用薄板溶接接合部 設計・施工マニュアル」(日本建築センター、2011年12月)の付則3.2.2「内部欠陥の合否判定基準」によれば、X線透過試験において気孔欠陥率が30%を超える溶接継手は、不合格とみなされる。この説明を受けて、多くの住宅メーカーでは、気孔欠陥率の合否基準が30%以下、又は20%以下とされている。この基準を満足しない材料や溶接方法は、溶接継手の強度測定結果の大小に関わらず、採用されない状況にある。
【0004】
気孔欠陥の問題は、様々な継手において生じうる。例えば、T継手を隅肉溶接によって製造する際にも、上述のめっき蒸気による溶接不良が問題となる。図1に、亜鉛系めっき鋼板11’に亜鉛系めっき鋼板12’を立てて、隅肉溶接することにより製造されたT継手断面写真を示す。なお、断面写真は、亜鉛系めっき鋼板11’の板厚方向及び亜鉛系めっき鋼板12’の板厚方向に沿った断面の写真である。図2に、このT継手のX線写真を示す。溶接ビード延在方向と、図2の写真の長手方向とが一致するように、X線写真を撮影した。隅肉溶接部13’内に点々と存在する暗色の領域が気孔欠陥dである。この気孔欠陥dは、めっき蒸気によって生じたものと推定される。
【0005】
亜鉛系めっき鋼板を隅肉溶接してT継手を製造する際に問題となる気孔欠陥を解消するための、種々の方法が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、第1鋼板と第2鋼板の一方又は両方に亜鉛めっき鋼板を使用し、前記第1鋼板と前記第2鋼板の接合領域をアーク溶接する亜鉛めっき鋼板の隅肉溶接方法であって、前記第1鋼板における接合領域の全体に複数の溝を並設し、前記第2鋼板の当接面が各溝と交差するように第2鋼板の当接面を第1鋼板の接合領域に当接し、前記第2鋼板の当接面の両側で各溝の両端部が露出した状態で前記接合領域をアーク溶接することを特徴とする亜鉛めっき鋼板の隅肉溶接方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、少なくとも一方の部材にZn系めっきが被覆されている二つの部材の当接部を接合してT字継手を形成するアーク溶接方法であって、二つの部材のうち、部材の表面が当接部となる部材を横部材、部材の端面が当接部となる部材を縦部材と呼ぶとき、縦部材の端面に厚み方向に圧縮する塑性加工により当該端面に対して隆起する1つ以上の突起を設け、縦部材をその突起を介して横部材に突き当てることにより、縦部材と横部材の間に突起の突き出し量に相当する大きさの隙間を形成した後にアーク溶接を行うことを特徴とするZn系めっき鋼板のアーク溶接方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、T型下向隅肉溶接用立板部材の底面に形成する開先形状を、一方の表面から他方の表面に向う下り勾配の傾斜面と、上記一方の表面から上記他方の表面に向う上り勾配の傾斜面が、上記立板部材長手方向に沿って交互に表われる様に形成してなることを特徴とするT型下向隅肉アーク溶接用立板部材が開示されている。
【0009】
特許文献4には、溶接用立板部材の一方の表面から該部材厚の1/5以下の範囲内に、上記立板部材厚の1/10以下の長さを有するルート面を該部材の長手方向に沿って形成すると共に、該ルート面の稜線から他方の表面へ向けて3°以上10°以下の上り勾配を有する傾斜面を形成せしめてなるT型隅肉アーク溶接用立板部材が開示されている。
【0010】
特許文献5には、片側開先を有する第1の母材を第2の母材にT字型に当接し溶接する方法において、前記第1の母材と前記第2の母材との仮付溶接部を所定肉厚まで除去後、前記第1の母材と前記第2の母材で形成される開先溶接部に溶接ワイヤを臨ませ、前記溶接ワイヤを溶接方向に移動させながら、前記溶接ワイヤからのアークによって前記開先溶接部を開先側から溶融しかつ溶融物を開先裏側へ押し出して裏波ビードを形成することを特徴とする溶接方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、これら特許文献に開示された従来技術においては、溶接前に亜鉛系めっき鋼板に複雑な機械加工を行う必要がある。この機械加工に要するコストが大きいので、従来技術による気孔欠陥の抑制手段は経済的ではない。また、本発明者らが検討したところでは、これら従来技術を亜鉛系めっき鋼板のアーク溶接に適用した場合、気孔欠陥の抑制効果が十分ではない場合がある。さらに、これら機械加工は、部材の機械強度を低下させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】日本国特開2016-198796号公報
【文献】日本国特開2014-113641号公報
【文献】日本国特開昭62-3878号公報
【文献】日本国特開昭60-54274号公報
【文献】日本国特開2004-98124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上の事情に鑑みて、本発明は、亜鉛系めっき鋼板を隅肉溶接して得られるT継手であって、様々な溶接条件において溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制可能であるT継手およびその製造方法、並びにこれを有する建築構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るT継手は、第1の鋼板と、第2の鋼板と、隅肉溶接部とを有し、前記第2の鋼板の板厚は6.0mm以下であり、前記第2の鋼板は前記第1の鋼板の第1面に立っていて、前記隅肉溶接部は前記第1の鋼板の前記第1面と前記第2の鋼板の第1面とを接合し、前記第1の鋼板の前記第1面又は前記第2の鋼板の前記第1面の少なくとも一方が、亜鉛系めっきを有し、前記第2の鋼板の第2面側の、前記第2の鋼板の突き合わせ端部は傾斜面を有し、前記第1の鋼板の板厚方向及び前記第2の鋼板の板厚方向に沿った断面において、前記傾斜面は、前記第1の鋼板の前記第1面と鋭角を形成する。
(2)上記(1)に記載のT継手では、前記傾斜面において前記隅肉溶接部の溶接金属が露出していてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のT継手では、前記第2の鋼板の板厚は4.5mm以下であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のT継手では、前記隅肉溶接部の全長に占める気孔欠陥率が30%以下であってもよい。
(5)本発明の別の態様に係る建築構造は、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載のT継手を有する。
(6)本発明の別の態様に係るT継手の製造方法は、第1の鋼板の第1面に第2の鋼板を立てること、及び前記第1の鋼板の前記第1面と前記第2の鋼板の第1面とを隅肉溶接すること、を有し、前記第2の鋼板の板厚は6.0mm以下であり、前記第1の鋼板の前記第1面と前記第2の鋼板の前記第1面の少なくとも一方に亜鉛系めっきを有し、前記第1の鋼板の前記第1面に前記第2の鋼板を立てたとき、前記第1の鋼板の板厚方向及び前記第2の鋼板の板厚方向に沿った断面において、前記第2の鋼板は、前記第2の鋼板の第2面の前記第1の鋼板側の端部に、前記第1の鋼板の前記第1面と鋭角を形成する傾斜面を有する。
(7)上記(6)に記載のT継手の製造方法では、前記隅肉溶接において、前記傾斜面において隅肉溶接部の溶接金属が露出するように隅肉溶接してもよい。
(8)上記(6)又は(7)のT継手の製造方法では、前記第2の鋼板の板厚は4.5mm以下であってもよい。
(9)上記(6)~(8)のいずれかのT継手の製造方法では、前記第1の鋼板の前記第1面に前記第2の鋼板を立てたとき、前記第1の鋼板の前記板厚方向及び前記第2の鋼板の前記板厚方向に沿った前記断面において、前記第2の鋼板は、前記第2の鋼板の前記第1面の前記第1の鋼板側の端部に、前記第1の鋼板の前記第1面と鋭角を形成する傾斜面を有してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、亜鉛系めっき鋼板を隅肉溶接して得られるT継手であって、様々な溶接条件において溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制可能であるT継手およびその製造方法、並びにこれを有する建築構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】亜鉛系めっき鋼板を隅肉溶接して製造されたT継手の断面写真である。(従来例)
図2】亜鉛系めっき鋼板を隅肉溶接して製造されたT継手のX線写真である。(従来例)
図3-1】本発明の一態様に係るT継手の断面模式図である。
図3-2】本発明の別の態様に係るT継手の断面模式図である。
図3-3】本発明の別の態様に係るT継手の断面模式図である。
図3-4】本発明の別の態様に係るT継手の断面模式図である。
図4-1】本発明の一態様に係るT継手の断面写真である。
図4-2】本発明の別の態様に係るT継手の断面写真である。
図4-3】本発明の別の態様に係るT継手の断面写真である。
図5-1】本発明の一態様に係るT継手のX線写真である。
図5-2】本発明の別の態様に係るT継手のX線写真である。
図5-3】本発明の別の態様に係るT継手のX線写真である。
図6】本発明の一態様に係るT継手の製造方法の概念図である。
図7】第2の鋼板の切断方法の一例(a-1)を示す概念図である。
図8】第2の鋼板の切断方法の別の例(a-2)を示す概念図である。
図9】切断された、溶接前の第2の鋼板の端部の一例の断面模式図である。
図10-1】傾斜面において溶接金属が露出しないT継手の谷部の断面拡大図である。
図10-2】傾斜面の一部において溶接金属が露出するT継手の谷部の断面拡大図である。
図10-3】傾斜面の全部において溶接金属が露出するT継手の谷部の断面拡大図である。
図11】種々のアーク電圧を適用した隅肉アーク溶接によって製造された、谷部が設けられたT継手、及び谷部の設けられていないT継手の気孔欠陥率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、様々な溶接条件において溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制可能であるT継手、建築構造、及びT継手の製造方法について鋭意検討を重ねた。
本発明者らの検討の結果、アーク電圧と気孔欠陥の発生頻度との間に関係性があることがわかった。具体的には、本発明者らがアーク電圧を種々変更してT継手を作製したところ、特定のアーク電圧において気孔欠陥が生じやすいことが判明した。気孔欠陥が発生しやすいアーク電圧は、母材の材質等に応じて異なっていた。
しかしながら、アーク電圧の調節を通じて気孔欠陥を抑制することは、現実の溶接においては困難である。何故なら、アーク電圧は重要な溶接パラメータであり、気孔欠陥の抑制以外の目的で決定されているからである。例えば、アーク溶接においては、アークの長さを適正範囲内とするように、溶接電圧が制御されている。アーク長さを適正範囲内とすることにより、T継手の外観不良を招くスパッタの発生を抑制することができる。
ここで問題となるのが、スパッタを抑制しやすい溶接電流とアーク電圧の組み合わせと、気孔欠陥を抑制しやすい溶接電流とアーク電圧の組み合わせとが必ずしも一致しない点である。スパッタ抑制を目的として溶接電流とアーク電圧とを設定した場合、気孔欠陥を抑制することができるとは限らない。
本発明者らは、様々な溶接条件、具体的には様々な溶接電流とアーク電圧において溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制可能なT継手及びその製造方法についてさらなる検討を重ねた。そして本発明者らは、溶接ビードの反対側に谷部を設けることが、様々な溶接条件において気孔欠陥を抑制するために極めて有効であることを知見した。
【0018】
図4-1~図4-3に、谷部が設けられたT継手の、溶接ビード(隅肉溶接部13)延在方向に垂直な断面写真を示し、図5-1~図5-3に、これらのT継手のX線写真を示す。図4-1が図5-1に対応し、図4-2が図5-2に対応し、図4-3が図5-3に対応する。溶接ビード延在方向と、図5-1~図5-3の写真の長手方向とが一致するように、X線写真を撮影した。図2に示される谷部の設けられていないT継手と比較して、図5-1~図5-3に示されるT継手における気孔欠陥の発生量は著しく少ない。これは、溶接中に生じためっき蒸気が、谷部から排出されるからであると推定される。
また、着目されるべきは、溶け込み深さに関わらず、気孔欠陥の発生量が抑制された点にある。溶接条件と溶け込み深さとの間には密接な関係がある。溶接のエネルギーはアーク電圧と溶接電流の積に依存する。アーク電圧が高くなるほどアークは広がるので溶接部に投入されるエネルギー密度が低くなる。すなわち、アーク電圧が高いほど溶接金属の幅は広くなり、溶け込み深さは小さくなる傾向がある。一方、溶接電流が大きくなってもアークはさほど広がらないので、溶接部に投入されるエネルギー密度が高くなる。すなわち、溶接電流が大きいほど溶け込み深さは大きくなる。図4-1のT継手は、他の継手よりも小さい溶接電流が適用されたものであり、溶け込み深さが小さい。図4-3のT継手は、他の継手よりも大きい溶接電流が適用されたものであり、溶け込み深さが大きい。これらすべての継手において気孔欠陥の発生量が抑制された事実は、本実施形態に係るT継手が様々な溶接条件において気孔欠陥の発生量を抑制可能であることを意味する。
さらに図11に、種々のアーク電圧を適用した隅肉アーク溶接によって製造された、谷部が設けられたT継手、及び谷部の設けられていないT継手の気孔欠陥率を示す。図11に示されるグラフの横軸は、T継手の製造時に適用された溶接電圧であり、縦軸は、T継手の気孔欠陥率である。図11の実験において、供試材とアーク電圧以外の溶接条件(溶接電流、溶接速度など)は同一である。気孔欠陥率の評価は後述の方法で行った。この実験において、谷部の設けられていないT継手は、アーク電圧が21~22Vの場合に多くの気孔欠陥が発生した。一方、谷部が設けられたT継手は、様々なアーク電圧において、気孔欠陥率が10%以下に抑制された。
【0019】
なお、上述の谷部は、容易に形成可能である。谷部の製造方法は特に限定されないが、例えばT継手を構成する亜鉛系めっき鋼板を切断する際に、図7又は図8に示されるような楔形状の刃部(又は環状刃部)を用いることにより、図9に示されるように、亜鉛系めっき鋼板の切断端部に傾斜面を形成することができる。傾斜面を有する亜鉛系めっき鋼板を、別の鋼板に突き当てて隅肉溶接をすると、谷部を有するT継手が得られる。
さらに、傾斜面が形成される面に亜鉛系めっきを有する鋼板を図7又は図8に示されるような方法で切断すると、切断面である傾斜面に亜鉛系めっきが付着する。この亜鉛系めっきは、隅肉溶接後も、谷部を構成する傾斜面に残存し、谷部の耐食性を向上させる。
【0020】
このように、谷部を配することで、様々な溶接条件において気孔欠陥の発生を抑制できる。また、谷部の傾斜面に亜鉛系めっきを配することで、谷部の耐食性を向上させることができる。加えて、谷部の形成、及び谷部の傾斜面への亜鉛系めっきの配置は、亜鉛系めっき鋼板を切断して部材形状をなす際にあわせて行うことができる。即ち、本実施形態に係るT継手によれば、製造工程の数を増大させることなく、その気孔欠陥を抑制し、且つ耐食性を高めることができる。
【0021】
以上の知見により完成された、本発明の一態様に係るT継手1は、図3-1等に例示されるように、第1の鋼板11と、第2の鋼板12と、隅肉溶接部13とを有し、第2の鋼板12の板厚は6.0mm以下であり、第2の鋼板12は第1の鋼板11の第1面111に立っていて、隅肉溶接部13は第1の鋼板11の第1面111と第2の鋼板12の第1面121とを接合し、第1の鋼板11の第1面111又は第2の鋼板12の第1面121の少なくとも一方が、亜鉛系めっき14を有し、第2の鋼板12の第2面122側の、第2の鋼板12の突き合わせ端部は傾斜面1221を有し、第1の鋼板11の板厚方向及び第2の鋼板12の板厚方向に沿った断面において、傾斜面1221は、第1の鋼板11の第1面111と鋭角を形成する。換言すると、本発明の一態様に係るT継手1は、第1の鋼板11と、第1の鋼板11の第1面111に端部が突き合わされた第2の鋼板12と、第1の鋼板11の第1面111と、第2の鋼板12の第1面121とを接合する隅肉溶接部13と、を備え、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121の一方又は両方が、亜鉛系めっき14を有し、第2の鋼板12の第2面122が、第2の鋼板12の突き合わせ端部において、傾斜面1221を有し、第1の鋼板11の第1面111と、傾斜面1221とが、谷部15を形成する。以下、本実施形態に係るT継手1について詳細に説明する。
【0022】
本実施形態に係るT継手1は、一方の板の端部を他方の板の表面に突き合わせた継手である。ここで便宜上、端部が他方の板の表面に突き合わされた鋼板を「第2の鋼板12」と称し、もう一方の鋼板を「第1の鋼板11」と称する。従って、本実施形態に係るT継手1において、第2の鋼板12は第1の鋼板11の第1面111に立っていることになる。
第1の鋼板11及び第2の鋼板12の種類は特に限定されず、後述されるような構成を適宜採用することができる。また、第1の鋼板11の板厚も特に限定されない。
一方、第2の鋼板12の板厚は6.0mm以下とされる。一般に、板厚が薄い構造物の隅肉アーク溶接では、母材の溶け込みが板厚に対して相対的に深い。そのため、開先加工による完全溶け込み溶接を行わなくとも十分な接合深さが得られ、継手強度を満足することが多い。さらに、板厚が薄い場合は、スリッターやプレスなどのせん断法によって、鋼板を高能率かつ安価に切断でき、そのまま溶接に供することで最も生産コストを抑制できる。従って、従来のT継手においては、板厚6.0mm以下の鋼板の端部に対して、溶接前に加工は行われない。また、隅肉アーク溶接において不必要に大きなサイズの溶接をすると、熱歪みが大きく、かつHAZが広くなる。そのため、板厚が大きい場合は、両側隅肉溶接によって片側の溶接ビードの入熱を下げ、且つ、開先加工によって溶け込み深さを大きくすることが通常である。このような方法は、板厚が4.5mm以上、特に6.0mm以上のT継手の製造において見られる。逆に、板厚が薄い構造物では、開先加工をしない片側隅肉溶接が多用される。しかしながら本実施形態に係るT継手1では、第2の鋼板12の板厚は6.0mm以下であるにもかかわらず、気孔欠陥の発生を抑制するために、後述する傾斜面1221が第2の鋼板12の端部に形成される。第2の鋼板12の板厚は5.5mm以下、5.0mm以下、4.5mm以下、4.0mm以下、又は3.5mm以下であってもよい。第2の鋼板12の板厚の下限値は特に限定されないが、例えば1.5mm以上、又は2.0mm以上であってもよい。
【0023】
また、本実施形態に係るT継手1は、第1の鋼板11の一方の面と、第2の鋼板12の一方の面との交線に隅肉溶接部13を配するように隅肉溶接をすることによって製造される。隅肉溶接部13は、溶接金属から構成され、第1の鋼板11と第2の鋼板12とを接合する。ここで便宜上、本実施形態に係るT継手では、第1の鋼板11の表面のうち、隅肉溶接される側の面を「第1の鋼板11の第1面111」と称し、隅肉溶接されない側の面を「第1の鋼板11の第2面112」と称する。また、第2の鋼板12の表面のうち、隅肉溶接される側の面を「第2の鋼板12の第1面121」と称し、隅肉溶接されない側の面を「第2の鋼板12の第2面122」と称する。
【0024】
本実施形態に係るT継手は、さらに亜鉛系めっき14を有する。亜鉛系めっき14とは、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき等の、亜鉛を主成分とするめっきである。亜鉛系めっき14は、犠牲防食効果を有し、鋼板の耐食性を飛躍的に向上させることができる。耐食性を確保するために、本実施形態に係るT継手1では、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121の少なくとも一方に、亜鉛系めっき14が配される。
【0025】
一方、当然のことながら、その他の面に亜鉛系めっき14が配されてもよい。図3-2に例示されるT継手1では、第2の鋼板12の第1面121に加えて、第2の鋼板12の第2面122に亜鉛系めっき14が配されている。好ましくは、第1の鋼板11及び第2の鋼板の両方が、その両面に亜鉛系めっき14を有する。
【0026】
亜鉛系めっき14は、T継手1の耐食性を向上させる一方、T継手1の溶接不良の原因となりうる。亜鉛系めっき14は、溶接の際に気化してめっき蒸気となる。めっき蒸気は、ブローホール及びピット等の気孔欠陥を溶接ビードに生じさせ、溶接不良を引き起こす。この問題を解決するために、本実施形態に係るT継手1では、第2の鋼板12の第2面122側において、第2の鋼板12の突き合わせ端部が傾斜面1221を有する。第1の鋼板11の板厚方向及び第2の鋼板12の板厚方向に沿った断面において、この傾斜面1221は、第1の鋼板11の第1面111と鋭角をなす。換言すると、本実施形態に係るT継手1では、第2の鋼板12の第2面122が、第2の鋼板12の突き合わせ端部(第2の鋼板12の、第1の鋼板11に突き合わせられた端部)において傾斜面1221を有し、主にこの傾斜面1221と、第1の鋼板11の第1面111とが谷部15を形成する。これにより、谷部15は、隅肉溶接部13の反対側に配されることになる。なお、傾斜面1221とは、第2の鋼板12の第2面122の端部に位置し、第2の鋼板12の第2面122に対して若干の角度をなして傾斜した面であって、端部に近づくにつれて第2の鋼板12の板厚を減少させる面である。
【0027】
本発明者らは、谷部15を設けたT継手において、隅肉溶接部13における気孔欠陥の発生頻度が、様々な溶接条件において著しく抑制されることを知見した。図4-1~図4-3に、谷部15が設けられた本実施形態に係るT継手1の、溶接ビード(隅肉溶接部13)延在方向に垂直な断面写真を示し、図5-1~図5-3に、このT継手1のX線写真を示す。溶接ビード延在方向と、図5-1~図5-3の写真の長手方向とが一致するように、X線写真を撮影した。図2に示される谷部の設けられていないT継手と比較して、図5-1~図5-3に示される本実施形態に係るT継手1における気孔欠陥の発生量は著しく少ない。これは、溶接中に生じためっき蒸気が、谷部15から排出されるからであると推定される。さらに図11に、種々のアーク電圧を適用した隅肉アーク溶接によって製造された、谷部が設けられたT継手、及び谷部の設けられていないT継手の気孔欠陥率を示す。この実験において、谷部の設けられていないT継手は、アーク電圧が21~22Vの場合に多くの気孔欠陥が発生した。一方、谷部が設けられたT継手は、様々なアーク電圧において、気孔欠陥率が10%以下に抑制された。
【0028】
また図3-2に示されるように、本実施形態に係るT継手1においては、第2の鋼板12の第2面122、及び傾斜面1221が亜鉛系めっき14を有することが好ましい。従来技術においては、めっき蒸気を排出するための機構は、めっき後の鋼板に追加工することで形成される(例えば特許文献1等参照)。追加工がなされた箇所では、めっき鋼板の母材が露出する。しかしながら、本実施形態に係るT継手1においては、傾斜面1221に亜鉛系めっき14が配されてもよい。これにより、T継手1の耐食性を一層高めることができる。なお、傾斜面1221の全域にわたって亜鉛系めっき14を配することが最も好ましいが、傾斜面1221の一部のみに亜鉛系めっき14を配してもよい。
ここまでの説明において参照された図3-1に記載のT継手1では、隅肉溶接部13の溶接金属の溶け込み深さが小さい。従って、第2の鋼板12の第2面122側の傾斜面1221において、隅肉溶接部13の溶接金属が露出していない。一方、図3-3又は図3-4に例示されるように、第2の鋼板12の第2面122側の傾斜面1221の一部または全部において、隅肉溶接部13の溶接金属が露出していてもよい。
図3-3に示されるT継手1の断面において、溶接金属は傾斜面1221の一部で露出している。換言すると、図3-3に示されるT継手1は、第1の鋼板11と、第1の鋼板11の第1面111に端部が突き合わされた第2の鋼板12と、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する、溶接金属から構成される隅肉溶接部13と、を備えるT継手1であって、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121の一方又は両方が、亜鉛系めっき14を有し、第2の鋼板12の第2面122が、第2の鋼板12の突き合わせ端部において、その一部が溶接金属から構成された傾斜面1221を有し、第1の鋼板11の第1面111と傾斜面1221とが、谷部15を形成する。
図3-4に示されるT継手の断面において、溶接金属は傾斜面1221の全てにおいて露出している。換言すると、図3-4に示されるT継手1は、第1の鋼板11と、第1の鋼板11の第1面111に端部が突き合わされた第2の鋼板12と、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121を接合する、溶接金属から構成される隅肉溶接部13と、を備えるT継手1であって、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121の一方又は両方が、亜鉛系めっき14を有し、第2の鋼板12の第2面122が、第2の鋼板12の突き合わせ端部において、溶接金属から構成される傾斜面1221を有し、第1の鋼板11の第1面111と傾斜面1221とが、谷部15を形成する。
溶接条件と溶け込み深さとの間には密接な関係がある。例えば、溶接電流が大きいほど溶け込み深さが大きくなる。しかし本実施形態に係るT継手では、溶け込み深さが小さい場合(即ち図3-1に例示される場合)でも、溶け込み深さが大きい場合(即ち図3-3に例示される場合)でも、気孔欠陥を抑制することができる。従って本実施形態に係るT継手は、様々な溶接条件において溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制可能である。
【0029】
本実施形態に係るT継手1の製造方法は特に限定されないが、以下に、製造方法の好適な一例について説明する。本実施形態に係るT継手の製造方法によれば、本実施形態に係るT継手1が簡便に得られる。ただし、上述の要件を満たすT継手は、その製造方法に関わらず本実施形態に係るT継手1とみなされる。
【0030】
本実施形態に係るT継手の製造方法は、例えば、第1の鋼板11の第1面111に第2の鋼板12を立てること、及び第1の鋼板11の第1面111と第2の鋼板12の第1面121とを隅肉溶接すること、を備え、第2の鋼板12の板厚は6.0mm以下であり、第1の鋼板11の第1面111と第2の鋼板12の第1面121の少なくとも一方に亜鉛系めっき14を有し、第1の鋼板11の第1面111に第2の鋼板12を立てたとき、第1の鋼板11の板厚方向及び第2の鋼板12の板厚方向に沿った断面において、第2の鋼板12は、第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に、第1の鋼板11の第1面111と鋭角を形成する傾斜面1221を有する。これにより、谷部15を備える本実施形態に係るT継手1を得ることができる。
第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に配された傾斜面1221において、隅肉溶接部の溶接金属が露出しないように隅肉溶接を行ってもよい。一方、傾斜面1221の一部または全部において、隅肉溶接部の溶接金属が露出するように隅肉溶接を行ってもよい。いずれの場合であっても、本実施形態に係るT継手の製造方法は、気孔欠陥の発生を抑制することができる。
第2の鋼板の板厚は6.0mm以下とされるが、例えば上述の通り5.5mm以下、5.0mm以下、4.5mm以下、4.0mm以下、又は3.5mmであってもよい。第2の鋼板12の板厚の下限値は特に限定されないが、例えば1.5mm以上、又は2.0mm以上であってもよい。
【0031】
第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に配された傾斜面1221を形成する方法は特に限定されない。例えば、せん断加工によって形成された第2の鋼板12の端部に、適宜機械加工を施して、傾斜面1221を形成することができる。一方、図6図9に例示される方法によれば、傾斜面1221を簡便に形成することができる。以下に、その詳細について説明する。
図6図9に例示される、本実施形態に係るT継手の製造方法の一層好ましい例では、第1の鋼板11の第1面111に第2の鋼板12を立てたとき、第1の鋼板11の板厚方向及び第2の鋼板の前記板厚方向に沿った断面において、第2の鋼板12は、第2の鋼板12の第1面121の第1の鋼板11側の端部に、第1の鋼板11の第1面111と鋭角を形成する傾斜面を備える。以下、便宜上、第2の鋼板12の第1面121に配された傾斜面を第1の傾斜面1211と称し、第2の鋼板12の第2面122に配された傾斜面を第2の傾斜面1221と称する。換言すると、第2の鋼板12は、隅肉溶接に供される前の段階において、その両面に傾斜面が形成されているのである。
さらに具体的に説明すると、本実施形態に係るT継手の製造方法の一層好ましい例は、
(a)第2の鋼板12の端部に、板厚方向に第1面121から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面1211と、板厚方向に第2面122から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面1221と、第1の傾斜面1211と第2の傾斜面1221との間に配される破断面123と、を形成する工程と、
(b)第2の鋼板12の端部を、第1の鋼板11の第1面111に突き合わせる工程と、
(c)第1の鋼板11の第1面111と、第2の鋼板12の第1面121とを隅肉溶接する工程と
を備え、第1の鋼板11の第1面111及び第2の鋼板12の第1面121の一方又は両方が、亜鉛系めっき14を有する。
【0032】
(a)本実施形態に係るT継手の製造方法の一層好ましい例では、先ず、第2の鋼板12の端部に、第1の傾斜面1211、第2の傾斜面1221、及び破断面123を作成する。
第2の鋼板12の第1の傾斜面1211は、第2の鋼板12の板厚方向に、第2の鋼板12の第1面121から、第2の鋼板12の板厚中央に向かって傾斜するように形成される。
第2の鋼板12の第2の傾斜面1221は、第2の鋼板12の板厚方向に、第2の鋼板12の第2面122から、第2の鋼板12の板厚中央に向かって傾斜するように形成される。
第2の鋼板12の破断面123は、第1の傾斜面1211と第2の傾斜面1221との間に配される。
【0033】
第2の鋼板12の第1の傾斜面1211、第2の傾斜面1221、及び破断面123は、例えば図7に示されるように、以下の手順a-11及びa-12を有する切断方法(以下、切断方法a-1と称する)によって作成することが好適である。
(a-11)楔形状の第1の刃部A1を有するダイAと、楔形状の第2の刃部B1を有するパンチBとを、第1の刃部A1及び第2の刃部B1が対向するように配置する。
(a-12)ダイA及びパンチBとの間に、第2の鋼板12を配置し、パンチBをダイA側に相対的に押し込んで、第2の鋼板12を切断する。
切断方法a-1は、第2の鋼板12の切断と、傾斜面の形成を、同時に行うことができる。従って、切断方法a-1は、谷部を有するT継手の製造を容易にするという効果を有する。
【0034】
さらに、第2の鋼板12がその第2面122に亜鉛系めっき14を有する場合、切断方法a-1は、第2の傾斜面1221に、第2の鋼板12の第2面122に付着していた亜鉛系めっき14を配することができる。切断方法a-1においては、パンチBをダイAに押し込んだ際、第1の刃部A1及び第2の刃部B1と、第2の鋼板12との間に生じる引張力により、第2の鋼板12の表面の亜鉛系めっき14を切断端面に入り込ませ、切断端面が亜鉛系めっき14によって覆われるようにすることができる。即ち、パンチBをダイAに押し込んだときの第2の鋼板12に対する第1の刃部A1及び第2の刃部B1の動きに、第2の鋼板12の表面の亜鉛系めっき14を追従させ、亜鉛系めっき14を切断端面に入り込ませることができる。これにより、第2の鋼板12の切断と、傾斜面の形成と、第2の傾斜面1221への亜鉛系めっき14の配置とを、同時に行うことができる。なお、この切断方法においては、第2の鋼板12は第1の刃部A1及び第2の刃部B1によって塑性変形され、ネッキング部が形成される。このネッキング部にクラックが生じ、破断することによって得られるのが破断面123である。
【0035】
また、第2の鋼板12の第1の傾斜面1211、第2の傾斜面1221、及び破断面123は、例えば図8に示されるように、以下の手順a-21及びa-22を含む切断方法(以下、切断方法a-2と称する)によって作成することも好適である。
(a-21)刃先の径方向断面形状がV字形状である第1の環状刃部A’及び第2の環状刃部B’を、刃先が対向するように配置する。
(a-22)第1の環状刃部A’の刃先A1’と、第2の環状刃部B’の刃先B1’との間に、第2の鋼板を通板させて、第2の鋼板12に刃先を押し込み、第2の鋼板12を切断する。
【0036】
切断方法a-2においては、回転する第1の環状刃部及び第2の環状刃部に第2の鋼板を通板させることにより、第1の環状刃部及び第2の環状刃部が第2の鋼板に押し込まれる。その結果、切断方法a-1と同様に、第2の鋼板12の切断と、傾斜面の形成とを、同時に行うことができる。さらに、第2の鋼板12がその第2面122に亜鉛系めっき14を有する場合、第2の鋼板12の切断の際に、第1の環状刃部及び第2の環状刃部と、第2の鋼板12との間に生じる引張力により、第2の鋼板12の表面の亜鉛系めっき14を切断端面に入り込ませ、切断端面が亜鉛系めっき14によって覆われるようにすることができる。
【0037】
第2の鋼板12がその第2面122に亜鉛系めっき14を有する場合に、上述の切断方法a-1又はa-2によって得られる、第2の鋼板12の端部の断面概略図を図9に示す。第1の傾斜面1211及び第2の傾斜面1221は、ダレ及び直線部から構成される。ダレは、第2の鋼板12を刃部又は環状刃部によって切断加工した際、第2の鋼板12の表面に作用した引張力により生じた変形である。第2の鋼板12の第2面122に亜鉛系めっき14が配されている場合、第2の傾斜面1221は亜鉛系めっき14によって覆われることとなる。
【0038】
(b)本実施形態に係るT継手の製造方法の一層好ましい例では、次に、第2の鋼板12の端部を、第1の鋼板11の第1面111に突き合わせる。当然のことながら、第1の鋼板11に突き合わせる端部は、第1の傾斜面1211、第2の傾斜面1221、及び破断面123を有する端部である。突き合わせるための手段は特に限定されず、従来のT継手の製造における手段を適宜採用することができる。
【0039】
(c)そして、本実施形態に係るT継手の製造方法の一層好ましい例では、第1の鋼板11の第1面111と、第2の鋼板12の第1面121とを隅肉溶接する。これにより、第1の傾斜面1211はT継手1の隅肉溶接部13に取り込まれ、第2の傾斜面1221は、T継手1の傾斜面1221となる。
【0040】
隅肉溶接の際、隅肉溶接部13の溶け込み深さが大きい場合、溶接金属が第2の鋼板12の第2の傾斜面1221にまで及ぶ。そのため、最終的に得られるT継手において、第2の傾斜面1221に亜鉛系めっき14が配されないことがある。ただしこの場合であっても、図4-2及び図4-3の断面写真に例示されるように、溶接金属はおおむね第2の傾斜面1221の形状を保ち、傾斜面を形成することとなる。従って、溶け込み深さが大きい場合であっても、気孔欠陥を抑制することは可能である。従って、隅肉溶接条件は特に限定されない。なお、第2の傾斜面1221のうち溶接金属に取り込まれなかった部分は、溶接前の状態を保ったままでT継手1の傾斜面1221となる。そのため、第2の傾斜面1221に亜鉛系めっき14が配されていた場合、この亜鉛系めっき14が、T継手1の傾斜面1221のうち溶接金属に取り込まれなかった部分に残存することとなる。
【0041】
以上、本実施形態に係るT継手1の製造方法の一例について説明した。しかしながら、本実施形態に係るT継手の製造方法は、上述の方法に限定されない。例えば、谷部15を形成する手段に関しては、溶接前の第2の鋼板12の端部において、2つの傾斜面を形成することに代えて、1つの傾斜面のみを形成してもよい。また、谷部15の傾斜面1221に亜鉛系めっき14を配する手段に関しては、第2の鋼板12を切断する際にその表面の亜鉛めっき14を傾斜面に移動させることに代えて、第2の鋼板12の切断後に端部(又は第2の鋼板12全体)に亜鉛系めっき14を形成してもよい。しかしながら、製造効率の観点からは、上に例示された製造方法が最も好適である。なお、上に例示された製造方法によって得られたT継手1の谷部15を構成する傾斜面1221においては、図9に示されるように、亜鉛系めっき14の厚さが一様ではなく、第2の鋼板12の表面から内部に向けて次第に薄くなることが通常である。
【0042】
以下に、T継手及びT継手の製造方法の一層好ましい態様について説明する。
【0043】
第1の鋼板11及び第2の鋼板12の種類は特に限定されない。第1の鋼板11及び第2の鋼板12は熱延鋼板であっても冷延鋼板であってもよい。第1の鋼板11及び第2の鋼板12の強度についても特に限定はなく、これらが、引張強さが270MPa級の軟鋼であってもよいし、引張強さが400MPa級又は570MPa級の高強度鋼板であってもよい。第1の鋼板11及び第2の鋼板12の種類が異なっていてもよい。第1の鋼板11及び/又は第2の鋼板12の表面に配される亜鉛系めっき14の種類、成分及び付着量、化成処理の有無等も特に限定されない。なお亜鉛系めっき14の例として、Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si、Zn-6%Al-3%Mg、Zn-55%Al、及びZn-5%Al-0.1%Mgなどの組成があるが、これらの亜鉛系めっきの種類に限定されるものではない。
【0044】
第2の鋼板の板厚については上述された通りであるが、第1の鋼板11の板厚に制限はない。第1の鋼板11の板厚として、1.0~4.5mmが例示される。第1の鋼板11の板厚が1.5mm以上であってもよく、2.0mm以上であってもよい。第1の鋼板11の板厚が4.0mm以下であってもよく、3.5mm以下であってもよい。
【0045】
隅肉溶接部13の成分等も特に限定されない。隅肉溶接部13は、第1の鋼板11、第2の鋼板12、及び溶接ワイヤなどの溶接材料が溶融凝固して形成された溶接金属である。溶接金属の成分は、第1の鋼板11、第2の鋼板12、及び溶接材料の成分と、溶接条件によって決まる。隅肉溶接部13の耐食性を高めたい場合は、溶接材料にNiやCr等の耐食性向上元素を含有させることができる。
【0046】
谷部15の形状も特に限定されず、めっき蒸気を排出可能な範囲内で適宜選択することができる。好適な谷部15の形状を例示すると以下の通りである。
【0047】
谷部15の深さは、第2の鋼板12の厚さの10%以上70%以下であることが好ましい。谷部15の深さを、第2の鋼板12の厚さの10%以上とすることにより、めっき蒸気を一層効率的に排出し、気孔欠陥の発生を一層抑制することができる。また、谷部15の深さを、第2の鋼板12の厚さの70%以下とすることにより、T継手1の接合強度を一層強固とすることができる。谷部15の深さを、第2の鋼板12の厚さの20%以上、25%以上、30%以上、又は40%以上としてもよい。谷部15の深さを、第2の鋼板12の厚さの65%以下、60%以下、又は50%以下としてもよい。
【0048】
谷部15の傾斜角は、10°以上80°未満であることが好ましい。谷部15の傾斜角を10°以上とすることにより、めっき蒸気を一層効率的に排出し、気孔欠陥の発生を一層抑制することができる。また、谷部15の傾斜角を80°未満とすることにより、T継手1の接合強度を一層強固とすることができる。谷部15の傾斜角を、15°以上、20°以上、又は30°以上としてもよい。谷部15の傾斜角を、70°以下、70°未満、65°以下、60°以下、又は50°以下としてもよい。
【0049】
ここで、谷部15の深さD1及び傾斜角θ1は、溶接金属の溶け込み深さに応じて、異なる定義がされる。
まず、第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に配された傾斜面1221において、隅肉溶接部の溶接金属が露出しないT継手1(即ち、図3-1に例示されるT継手1)の谷部15の深さD1及び傾斜角θ1を図10-1に示す。谷部15の深さD1とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において、第2の鋼板12の厚さ方向に沿って測定される、第2の鋼板の第2面122と、谷部15の底との距離である。谷部15の底とは、溶接金属(隅肉溶接部13)の外周面と、第1の鋼板11の第1面111とが交わる箇所である。また、谷部15の傾斜角θ1とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において測定される、第2の鋼板の傾斜面1221の継手外側終端と、上述の谷部15の底とを結ぶ線が、第1の鋼板11の第1面111となす狭角である。
次に、第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に配された傾斜面1221の一部において、隅肉溶接部の溶接金属が露出するT継手1(即ち、図3-2に例示されるT継手1)の谷部15の深さD1及び傾斜角θ1を図10-2に示す。谷部15の深さD1とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において、第2の鋼板12の厚さ方向に沿って測定される、第2の鋼板の第2面122と、谷部15の底Pとの距離である。谷部15の底Pとは、溶接金属(隅肉溶接部13)の外周面と、第1の鋼板11の第1面111とが交わる箇所である。谷部15の傾斜角θ1とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において測定される、溶融境界Qの高さXの1/3だけ第1の鋼板の第1面111から離れた、第1の鋼板の第1面111に平行な直線と、溶接金属の外周面との交点のうち谷部15側にある点Rと、上述の谷部15の底Pとを結ぶ線が、第1の鋼板11の第1面111となす狭角である。ここで、溶融境界Qとは、隅肉溶接部13を構成する溶接金属と、第2の鋼板12の第2面122とが交わる位置である。溶融境界Qの高さXとは、溶融境界Qと第1の鋼板11の第1面111との距離である。
さらに、第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に配された傾斜面1221の全部において、隅肉溶接部の溶接金属が露出するT継手1(即ち、図3-3に例示されるT継手1)の谷部15の深さD1及び傾斜角θ1を図10-3に示す。谷部15の深さD1とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において、第2の鋼板12の厚さ方向に沿って測定される、第2の鋼板の第2面122と、谷部15の底Pとの距離である。谷部15の底Pとは、溶接金属(隅肉溶接部13)の外周面と、第1の鋼板11の第1面111とが交わる箇所である。谷部15の傾斜角θ1とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において測定される、溶融境界Qの高さXの1/3だけ第1の鋼板の第1面111から離れた、第1の鋼板の第1面111に平行な直線と、溶接金属の外周面との交点のうち谷部15側にある点Rと、上述の谷部15の底Pとを結ぶ線が、第1の鋼板11の第1面111となす狭角である。ここで、溶融境界Qとは、隅肉溶接部13を構成する溶接金属と、第2の鋼板12の第2面122とが交わる位置である。溶融境界Qの高さXとは、溶融境界Qと第1の鋼板11の第1面111との距離である。
【0050】
谷部15の深さD1、谷部15の傾斜角θ1は、第2の鋼板12の第2の傾斜面1221の傾斜角及び大きさ、並びに隅肉溶接部13の溶け込み深さに応じて決まる値である。第2の傾斜面1221の傾斜角及び大きさは、一対の刃部(環状刃部)の大きさ及び先端の角度を変化させることにより、適宜調整することができる。なお、図9に例示された、隅肉溶接前の第2の鋼板12の端部においては、第1の傾斜面1211及び第2の傾斜面1221の大きさが同一とされている。しかし、一対の刃部(環状刃部)の大きさを異ならせることにより、第1の傾斜面1211及び第2の傾斜面1221の大きさを異ならせてもよい。また、隅肉溶接部13の溶け込み深さは、隅肉溶接における入熱量及び溶接速度等を変化させることにより、適宜調整することができる。
【0051】
傾斜面1221の形状も特に限定されず、めっき蒸気を排出可能な範囲内で適宜選択することができる。
【0052】
例えば、第2の鋼板12の第2面の第1の鋼板11側の端部に配された傾斜面1221において、隅肉溶接部の溶接金属が露出しないT継手1(即ち、図3-1に例示されるT継手1)において、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において測定される、傾斜面1221の深さD2を、第2の鋼板12の厚さの10%以上70%以下としてもよい。傾斜面1221の深さD2とは、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において、第2の鋼板12の厚さ方向に沿って測定される、第2の鋼板の第2面122と、傾斜面1221の内側終端との距離である(図10-1参照)。傾斜面の深さD2は、一層好ましくは、第2の鋼板12の厚さの15%以上、20%以上、又は30%以上である。傾斜面の深さD2は、一層好ましくは、第2の鋼板12の厚さの60%以下、55%以下、又は50%以下である。
【0053】
また、隅肉溶接部の溶接金属が露出しないT継手1(即ち、図3-1に例示されるT継手1)に関し、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において測定される、傾斜面1221の傾斜角θ2を、10°以上60°以下としてもよい。傾斜面1221の傾斜角θ2とは、第2の鋼板12の第2面122に垂直な線と傾斜面1221とがなす角である(図10-1参照)。傾斜面1221の傾斜角θ2は、一層好ましくは15°以上、20°以上である。傾斜面1221の傾斜角θ2は、一層好ましくは50°以下、45°以下である。
【0054】
傾斜面1221は平面であっても曲面であってもよい。傾斜面1221が曲面である場合、傾斜面1221は、溶接ビード延在方向に垂直なT継手1の断面において曲線として認められる。この場合において、傾斜面の深さD2、及び傾斜面1221と第2の鋼板の第2面122とがなす傾斜角θ2は、曲線の両端を結んだ直線を傾斜面1221とみなして測定すればよい。
【0055】
本実施形態に係るT継手1の上述した諸構成は、第2の鋼板12の突き合わせ部の、溶接ビードの延在方向に沿った全域にわたって適用されていることが好ましい。しかしながら、本実施形態に係るT継手1の諸構成を、T継手1の一部にのみ形成してもよい。即ち、上述した諸構成を一部のみに有するT継手も、本実施形態に係る本実施形態に係るT継手1とみなされる。例えば、ビード延在方向に沿って断続的に谷部15を設けることによっても、気孔欠陥を減少させることが可能である。ビード延在方向に沿って、谷部の深さ、及び谷部の傾斜角等を変化させてもよい。
また、本実施形態に係るT継手1では、隅肉溶接部13の全長に占める気孔欠陥率が30%以下、28%以下、25%以下、20%以下、又は10%以下であってもよい。これにより、T継手1の溶接部の外観品位及び継手強度を一層高めることができる。ここで、気孔欠陥率は以下の手順で求められる値である。まず、T継手1の溶接ビードをX線撮影する。X線写真における、溶接始終端を含む溶接ビードの全長に対して各気孔欠陥の溶接方向の長さの和が占める割合を、気孔欠陥率とみなす。
本発明の別の態様に係る建築構造は、上述された本実施形態に係るT継手を有する。これにより、本実施形態に係る建築構造では、気孔欠陥の発生が抑制されている。また、本実施形態に係る建築構造の製造の際には、様々な溶接条件を採用することが可能である。そのため、本実施形態に係る建築構造では、スパッタを抑制して美観を向上させたり、設計の自由度を高めたりすることができる。
【実施例
【0056】
(実施例1:傾斜面において隅肉溶接部の溶接金属が露出しないT継手)
種々の鋼板(第2の鋼板)の端部に、板厚方向に第1面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、板厚方向に第2面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、第1の傾斜面と第2の傾斜面との間に配される破断面と、を形成した。次いで、第2の鋼板の端部を、種々の鋼板(第1の鋼板)の第1面に垂直に突き合わせて、第1の鋼板の第1面と、第2の鋼板の第1面とを隅肉溶接した。ここでは、図3-1に示されるように、傾斜面において隅肉溶接部の溶接金属が露出しないように隅肉溶接をした。また、楔形状の第1の刃部を有するダイと、楔形状の第2の刃部を有するパンチとを、第1の刃部及び第2の刃部が対向するように配置する工程と、ダイ及びパンチとの間に、第2の鋼板を配置する工程と、パンチをダイ側に相対的に押し込んで、第2の鋼板を切断する工程と、を含む切断方法によって、第1の傾斜面、第2の傾斜面、及び破断面を形成した。また、第1の鋼板及び第2の鋼板のいずれも、両面に亜鉛系めっきを有する亜鉛系めっき鋼板であった。
【0057】
第2の鋼板の端部における、傾斜面の傾斜角θ3及びθ4、並びに破断面の厚さW(第2の鋼板の板厚に対する百分率での割合)は表1に示す通りとした。なお、第1の傾斜面の傾斜角θ3とは、第2の鋼板の第1面に垂直な線と第1の傾斜面とがなす角のことであり、第2の傾斜面の傾斜角θ4とは、第2の鋼板の第2面に垂直な線と第2の傾斜面とがなす角のことである(図9参照)。
【0058】
【表1】
【0059】
また、これら鋼板の端部形状以外の条件は以下の通りとした。
・鋼板の板厚:2.3mm
・鋼板の強度:400MPa級
・亜鉛系めっきの成分:Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si
・亜鉛系めっきの付着量:両面合計で180g/m(3点平均で算出された最小付着量)
【0060】
これら鋼板を、以下の条件の隅肉ガスシールドアーク溶接に供して、T継手を製造した。
・溶接ワイヤ:日鉄溶接工業製YM-28(φ1.2mm)
・溶接速度:40cm/min
・溶接種別:DC-CO溶接
・シールドガス種:CO
・シールドガス流量:20l/min
・溶接電流:110~160Aの間で適宜調整
・アーク電圧:17~24Vの間で適宜調整
・ビード長さ:80mm
【0061】
このようにして得られた種々のT継手の溶接ビードをX線撮影し、気孔欠陥の有無を調査した。具体的には、溶接始終端を含む溶接ビードの全長に対して各気孔欠陥の溶接方向の長さの和が占める割合を気孔欠陥率とみなし、この気孔欠陥率が30%以下のものを合格と判定し、判定結果を表2に記載した。
【0062】
また、T継手の強度を以下の方法で評価した。すなわち、第2の鋼板を引張試験機のグリップで直接把持し、第1の鋼板を治具を介してグリップで把持し、10mm/minの速度で両者を引き離す方向に引っ張った。なお、第2の鋼板の把持位置は、第1の鋼板の第1面から75mm以遠の位置とした。第1の鋼板の把持位置は、第2の鋼板の厚さ中心を基準として隅肉溶接部側に25mm以遠の位置、及びその反対側に25mm以遠の位置とした。すなわち、第2の鋼板の把持間隔(スパン)は50mmとした。引張試験の結果、第1または第2の鋼板で破断したものを合格、隅肉溶接部で破断したものを不合格とした。
【0063】
さらに、参考のために、これらT継手を溶接ビードの延在方向に垂直に切断し、谷部の深さD1及び谷部の傾斜角θ1を測定し、表2に記載した。
【0064】
【表2】
【0065】
表に示すように、谷部を有する発明例1~4は、溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制することができた。なお、これら谷部は、第2の鋼板を切断して部材形状とする際に、あわせて形成することができた。即ち、これら発明例は、追加工を要することなく容易に製造することができた。
【0066】
また、発明例1~4は、強度が従来のT継手と同等であった。従って、谷部が継手強度を損なうこともないことが明らかとなった。
【0067】
さらに、T継手の断面観察によれば、発明例1~4の谷部を構成する傾斜面のいずれにも、亜鉛系めっきが配されていた。従って、発明例1~4の谷部は、いずれも良好な耐食性を有すると推定される。
【0068】
(実施例2:傾斜面の一部において隅肉溶接部の溶接金属が露出するT継手)
【0069】
種々の鋼板(第2の鋼板)の端部に、板厚方向に第1面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、板厚方向に第2面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、第1の傾斜面と第2の傾斜面との間に配される破断面と、を形成した。次いで、第2の鋼板の端部を、種々の鋼板(第1の鋼板)の第1面に垂直に突き合わせて、第1の鋼板の第1面と、第2の鋼板の第1面とを隅肉溶接した。ここでは、図3-3に示されるように、傾斜面の一部において隅肉溶接部の溶接金属が露出するように隅肉溶接をした。また、楔形状の第1の刃部を有するダイと、楔形状の第2の刃部を有するパンチとを、第1の刃部及び第2の刃部が対向するように配置する工程と、ダイ及びパンチとの間に、第2の鋼板を配置する工程と、パンチをダイ側に相対的に押し込んで、第2の鋼板を切断する工程と、を含む切断方法によって、第1の傾斜面、第2の傾斜面、及び破断面を形成した。また、第1の鋼板及び第2の鋼板のいずれも、両面に亜鉛系めっきを有する亜鉛系めっき鋼板であった。
【0070】
第2の鋼板の端部における、傾斜面の傾斜角θ3及びθ4、並びに破断面の厚さW(第2の鋼板の板厚に対する百分率での割合)は表3に示す通りとした。なお、第1の傾斜面の傾斜角θ3とは、第2の鋼板の第1面に垂直な線と第1の傾斜面とがなす角のことであり、第2の傾斜面の傾斜角θ4とは、第2の鋼板の第2面に垂直な線と第2の傾斜面とがなす角のことである(図9参照)。
【0071】
【表3】
【0072】
また、これら鋼板の端部形状以外の条件は以下の通りとした。
・鋼板の板厚:2.3mm
・鋼板の強度:400MPa級
・亜鉛系めっきの成分:Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si
・亜鉛系めっきの付着量:両面合計で180g/m(3点平均で算出された最小付着量)
【0073】
これら鋼板を、以下の条件の隅肉ガスシールドアーク溶接に供して、T継手を製造した。
・溶接ワイヤ:日鉄溶接工業製YM-28(φ1.2mm)
・溶接速度:40cm/min
・溶接種別:DC-CO溶接
・シールドガス種:CO
・シールドガス流量:20l/min
・溶接電流:110~160Aの間で適宜調整
・アーク電圧:17~24Vの間で適宜調整
・ビード長さ:80mm
【0074】
このようにして得られた種々のT継手の溶接ビードをX線撮影し、気孔欠陥の有無を調査した。具体的には、X線写真における溶接ビードの長さに対して各気孔欠陥の溶接方向の長さの和が占める割合を気孔欠陥率とみなし、この気孔欠陥率が30%以下のものを合格と判定し、判定結果を表4に記載した。なお、ビードの両端は評価対象とはせず、ビードの始端及び終端を除いた50mm長さの領域で、上記の判定を行った。
【0075】
また、T継手の強度を以下の方法で評価した。すなわち、第2の鋼板を引張試験機のグリップで直接把持し、治具を介して第1の鋼板をグリップで把持し、10mm/minの速度で両者を引き離す方向に引っ張った。なお、第2の鋼板の把持位置は、第1の鋼板の第1面から75mm以遠の位置とした。第1の鋼板の把持位置は、第2の鋼板の厚さ中心を基準として隅肉溶接部側に25mm以遠の位置、及びその反対側に25mm以遠の位置とした。すなわち、第2の鋼板の把持間隔(スパン)は50mmとした。引張試験の結果、第1または第2の鋼板で破断したものを合格、隅肉溶接部で破断したものを不合格とした。
【0076】
さらに、参考のために、これらT継手を溶接ビードの延在方向に垂直に切断し、谷部の深さD1及び谷部の傾斜角θ1を測定し、表4に記載した。
【0077】
【表4】
【0078】
表に示すように、谷部を有する発明例1~4は、溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制することができた。なお、これら谷部は、第2の鋼板を切断して部材形状とする際に、あわせて形成することができた。即ち、これら発明例は、追加工を要することなく容易に製造することができた。
【0079】
また、発明例1~4は、強度が従来のT継手と同等であった。従って、谷部が継手強度を損なうこともないことが明らかとなった。
【0080】
さらに、T継手の断面観察によれば、発明例1~4の谷部を構成する傾斜面のいずれにも、亜鉛系めっきが配されていた。従って、発明例1~4の谷部は、いずれも良好な耐食性を有すると推定される。
【0081】
(実施例3:傾斜面の全部において隅肉溶接部の溶接金属が露出するT継手)
種々の鋼板(第2の鋼板)の端部に、板厚方向に第1面から中央に向かって傾斜する第1の傾斜面と、板厚方向に第2面から中央に向かって傾斜する第2の傾斜面と、第1の傾斜面と第2の傾斜面との間に配される破断面と、を形成した。次いで、第2の鋼板の端部を、種々の鋼板(第1の鋼板)の第1面に垂直に突き合わせて、第1の鋼板の第1面と、第2の鋼板の第1面とを隅肉溶接した。ここでは、図3-4に示されるように、傾斜面の全部において隅肉溶接部の溶接金属が露出するように隅肉溶接をした。楔形状の第1の刃部を有するダイと、楔形状の第2の刃部を有するパンチとを、第1の刃部及び第2の刃部が対向するように配置する工程と、ダイ及びパンチとの間に、第2の鋼板を配置する工程と、パンチをダイ側に相対的に押し込んで、第2の鋼板を切断する工程と、を含む切断方法によって、第1の傾斜面、第2の傾斜面、及び破断面を形成した。また、第1の鋼板及び第2の鋼板のいずれも、両面に亜鉛系めっきを有する亜鉛系めっき鋼板であった。
【0082】
第2の鋼板の端部における、傾斜面の傾斜角θ3及びθ4、並びに破断面の厚さW(第2の鋼板の板厚に対する百分率での割合)は表5に示す通りとした。なお、第1の傾斜面の傾斜角θ3とは、第2の鋼板の第1面に垂直な線と第1の傾斜面とがなす角のことであり、第2の傾斜面の傾斜角θ4とは、第2の鋼板の第2面に垂直な線と第2の傾斜面とがなす角のことである(図9参照)。
【0083】
【表5】
【0084】
また、これら鋼板の端部形状以外の条件は以下の通りとした。
・鋼板の板厚:2.3mm
・鋼板の強度:400MPa級
・亜鉛系めっきの成分:Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si
・亜鉛系めっきの付着量:両面合計で180g/m(3点平均で算出された最小付着量)
【0085】
これら鋼板を、以下の条件の隅肉ガスシールドアーク溶接に供して、T継手を製造した。
・溶接ワイヤ:日鉄溶接工業製YM-28(φ1.2mm)
・溶接速度:40cm/min
・溶接種別:DC-CO溶接
・シールドガス種:CO
・シールドガス流量:20l/min
・溶接電流:120~170Aの間で適宜調整
・アーク電圧:17~24Vの間で適宜調整
・ビード長さ:80mm
【0086】
このようにして得られた種々のT継手の溶接ビードをX線撮影し、気孔欠陥の有無を調査した。具体的には、X線写真における溶接ビードの長さに対して各気孔欠陥の溶接方向の長さの和が占める割合を気孔欠陥率とみなし、この気孔欠陥率が30%以下のものを合格と判定し、判定結果を表6に記載した。なお、ビードの両端は評価対象とはせず、ビードの始端及び終端を除いた50mm長さの領域で、上記の判定を行った。
【0087】
また、T継手の強度を以下の方法で評価した。すなわち、第2の鋼板を引張試験機のグリップで直接把持し、第1の鋼板を治具を介してグリップで把持し、10mm/minの速度で両者を引き離す方向に引っ張った。なお、第2の鋼板の把持位置は、第1の鋼板の第1面から75mm以遠の位置とした。第1の鋼板の把持位置は、第2の鋼板の厚さ中心を基準として隅肉溶接部側に25mm以遠の位置、及びその反対側に25mm以遠の位置とした。すなわち、第2の鋼板の把持間隔(スパン)は50mmとした。引張試験の結果、第1または第2の鋼板で破断したものを合格、隅肉溶接部で破断したものを不合格とした。
【0088】
さらに、参考のために、これらT継手を溶接ビードの延在方向に垂直に切断し、谷部の深さD1及び谷部の傾斜角θ1を測定し、表6に記載した。
【0089】
【表6】
【0090】
表に示すように、谷部を有する発明例1~4は、溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制することができた。なお、これら谷部は、第2の鋼板を切断して部材形状とする際に、あわせて形成することができた。即ち、これら発明例は、追加工を要することなく容易に製造することができた。
【0091】
また、発明例1~4は、強度が従来のT継手と同等であった。従って、谷部が継手強度を損なうこともないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、亜鉛系めっき鋼板を隅肉溶接して得られるT継手であって、製造が容易であり、且つ溶接ビードにおける気孔欠陥の発生を抑制可能であるT継手、建築構造、及びT継手の製造方法を提供することができる。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0093】
1 T継手
11 第1の鋼板
111 第1の鋼板の第1面
112 第1の鋼板の第2面
12 第2の鋼板
121 第2の鋼板の第1面
1211 第1の傾斜面(傾斜面)
122 第2の鋼板の第2面
1221 第2の傾斜面(傾斜面)
123 破断面
13 隅肉溶接部
14 亜鉛系めっき
15 谷部
A ダイ
A1 第1の刃部
B パンチ
B1 第2の刃部
A’ 第1の環状刃部
A1’ 刃先
B’ 第2の環状刃部
B1’ 刃先
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11