(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】表皮部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 27/08 20060101AFI20230927BHJP
B60N 2/58 20060101ALI20230927BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A41D27/08 C
B60N2/58
B68G7/05 Z
(21)【出願番号】P 2019205249
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598176938
【氏名又は名称】株式会社オーキッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 紘佑
(72)【発明者】
【氏名】細川 道隆
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3152523(JP,U)
【文献】登録実用新案第3154293(JP,U)
【文献】登録実用新案第3192480(JP,U)
【文献】登録実用新案第3189719(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0069309(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D27/00-27/28
B60N 2/00- 2/90
B68G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本的な外観をなす表皮と、前記表皮とは異なる外観の意匠部位とを備えた表皮部材の製造方法において、
前記表皮に比して外的刺激による変容の少ない面状部材に、外的刺激を伴う処理を施して前記意匠部位を形成する第一工程と、
第一工程後の前記面状部材を前記表皮の外面上に配置し、前記面状部材の周縁部を、取付け部材を介して前記表皮に取付ける第二工程とを備
え、
前記第一工程において、所定形状の刺繍で形成された刺繍部位が形成されている前記面状部材に、外的刺激としての熱及び圧力を伴う昇華プリント処理を施して前記意匠部位を形成する際に、
前記意匠部位を、前記刺繍部位の外周縁のみに重複させることにより、前記意匠部位の染料が前記刺繍部位を縁取るように定着して、前記外周縁を除く刺繍部位部分が外部に露出する表皮部材の製造方法。
【請求項2】
第二工程において、前記面状部材の周縁部を、前記取付け部材としての刺繍糸で縁取りしつつ前記表皮に縫い付ける請求項1に記載の表皮部材の製造方法。
【請求項3】
前記刺繍糸の縁取りをサテン縫いで形成する請求項2に記載の表皮部材の製造方法。
【請求項4】
前記第二工程に先立って、合成繊維からなる前記面状部材の外形形状をレーザによって整える請求項1~3のいずれか一項に記載の表皮部材の製造方法。
【請求項5】
前記第二工程において、前記面状部材を、張り付け部によって前記表皮に密着させた状態で、前記表皮の外面上に配置しておく請求項1~4のいずれか一項に記載の表皮部材の製造方法。
【請求項6】
前記張り付け部は、前記表皮と前記面状部材の双方に接着した状態でこれらの間に介装されている面状の接着部材で形成されている請求項
5に記載の表皮部材の製造方法。
【請求項7】
基本的な外観をなす表皮と、前記表皮とは異なる外観となるように外的刺激としての熱及び圧力を伴う昇華プリント処理を施して形成された意匠部位と、所定形状の刺繍で形成された刺繍部位とを備えた表皮部材において、
前記意匠部位と前記刺繍部位とは、前記表皮に比して外的刺激による変容の少ない面状部材に設けられているとともに、前記意匠部位が設けられた前記面状部材の周縁部は、取付け部材を介して前記表皮に後付けされて取付けられており、
前記意匠部位が、前記刺繍部位の外周縁のみに重複していることにより、前記意匠部位の染料が前記刺繍部位を縁取るように定着していると共に、前記外周縁を除く刺繍部位部分が外部に露出している表皮部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本的な外観をなす表皮と、表皮とは異なる外観の意匠部位とを有し、意匠部位が、熱や圧力などの外的刺激を伴う処理を施して形成されている表皮部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の表皮部材は、各種の製品の外装材として使用されることから、優れた意匠性を有していることが望まれている。このため表皮部材では、基本的な外観をなす表皮のほかに、表皮とは異なる外観の意匠部位が設けられ、この意匠部位によって意匠性の向上が図られている。例えば特許文献1に開示の技術では、立体的ワッペンを、本発明の表皮に相当する生地の表面に取付けることで意匠性の向上を図っている。この立体的ワッペンは、内部シートと装飾布とで形成された部材であり、意匠部位となる特定の文字が立体的に表現されている。公知技術では、生地の表面に、内部シートと装飾布をこの順で重ね、さらに装飾布の周縁を生地に縫い付けて取付けておく。そして内部シートは、弾性的に伸縮可能な樹脂発泡体であり、正面視で特定の文字を表現するように外形形状が整えられている。そこで内部シートを縁取るように装飾布と生地を縫合することにより、装飾布の一部を、内部シートによって特定の文字を表すように立体的に盛り上げておくことができる。
【0003】
ここで上述の表皮部材の分野では、更なる意匠性向上の観点などから、表皮部材に各種の処理を施して意匠部位を形成したいとの要請がある。例えば昇華プリント処理によって表皮部材を部分的に着色したり、エンボス加工や孔開け加工等によって表皮部材の形状を部分的に異ならせたりすることが考えられる。そして表皮部材の色や形状を部分的に異ならせて意匠部位を形成することにより、表現できる意匠のバリエーションの幅が広がり、表皮部材の意匠性向上に資する構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで上述の各種の処理は、熱や圧力などの外的刺激を伴うことが多く、この外的刺激によって表皮がダメージを受けることが懸念される。例えば昇華プリント処理を行う場合、転写部材に定着した昇華性染料を、熱と圧力をかけながら表皮部材に転写することにより、表皮部材の一部に着色等された意匠部位を形成する。このとき意匠部位の周囲に配置する表皮にも熱や圧力がかかるため、この熱と圧力によるダメージによって当該表皮の物性が変化して、その姿形が変化する変容が生じるおそれがある。このため表皮部材の分野では、外的刺激を伴う処理が避けられるなどして、意匠性向上の手段が限られる傾向にあった。本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、表皮部材に各種の外的刺激を伴う処理を施すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の表皮部材の製造方法は、基本的な外観をなす表皮と、表皮とは異なる外観の意匠部位とを備えた表皮部材の製造方法である。そして意匠部位は、後述するように外的刺激を伴う処理を施して形成されるのであるが、この種の構成では、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、表皮部材に各種の外的刺激を伴う処理を施すことが望まれる。
【0007】
そこで本発明では、下記の第一工程と第二工程によって、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、表皮部材に各種の外的刺激を伴う処理を施すこととした。すなわち第一工程では、表皮に比して外的刺激による変容の少ない面状部材に、外的刺激を伴う処理を施して意匠部位を形成する。そして第二工程では、第一工程後の面状部材を表皮の外面上に配置し、面状部材の周縁部を、取付け部材を介して表皮に取付ける。本発明では、相対的に変容しにくい面状部材に、外的刺激を伴う処理を施して意匠部位を形成することにより、表皮部材の意匠性の向上を図ることができる。そして第二工程において、取付け部材を介して面状部材を表皮に取付けることで、外的刺激を伴う処理が原因となる表皮のダメージ発生を極力回避することが可能となる。
【0008】
第1発明の表皮部材の製造方法は、所定形状の刺繍で形成された刺繍部位を面状部材に形成する。本発明の面状部材は、外的刺激を伴う処理にて形成された意匠部位と、所定形状の刺繍部位とによって、表現できる意匠のバリエーションの幅をより広げることが可能となっている。
【0009】
第1発明の表皮部材の製造方法は、第一工程において、刺繍部位が形成されている面状部材に、外的刺激としての熱及び圧力を伴う昇華プリント処理を施して意匠部位を形成する際に、意匠部位を、刺繍部位の外周縁のみに重複させることにより、意匠部位の染料が刺繍部位を縁取るように定着して、外周縁を除く刺繍部位部分が外部に露出するようにした。本発明では、昇華プリント処理による意匠部位を刺繍部位と組み合わせて用いることにより、表現できる意匠のバリエーションの幅をより適切に広げることが可能となっている。さらに本発明では、刺繍部位と意匠部位をこの順で形成する。このとき刺繍部位の周縁に意匠部位を重複させて形成することで、刺繍部位をよりシャープな形で表現することが可能となる。
【0010】
第2発明の表皮部材の製造方法は、第1発明の表皮部材の製造方法において、第二工程において、面状部材の周縁部を、取付け部材としての刺繍糸で縁取りしつつ表皮に縫い付ける。本発明では、取付け部材としての刺繍糸が、面状部材を縁取るように配置されて表皮部材の意匠の一部を構成するため、表皮部材の意匠性向上に資する構成となっている。
【0011】
第3発明の表皮部材の製造方法は、第2発明の表皮部材の製造方法において、刺繍糸の縁取りをサテン縫いで形成する。本発明では、取付け部材としての刺繍糸の縁取りが、ピッチ(縫目長さ)などの管理がしやすいサテン縫いで形成されているため、表皮部材の意匠性向上により確実に資する構成となっている。
【0012】
第4発明の表皮部材の製造方法は、第1発明~第3発明のいずれかの表皮部材の製造方法において、第二工程に先立って、合成繊維からなる面状部材の外形形状をレーザによって整える。本発明では、精密な加工に適するレーザによって面状部材の外形形状を整えて、面状部材の周縁部が想定外に溶けてしまうといった事態を極力回避することにより、所定形状の面状部材をより確実に得ることができる。
【0013】
第5発明の表皮部材の製造方法は、第1発明~第4発明のいずれかの表皮部材の製造方法において、第二工程において、面状部材を、張り付け部によって表皮の外面に張り付けて配置しておく。本発明では、面状部材を表皮に張り付け部で張り付けることにより、表皮から面状部材が浮き上がるといった事態を極力回避することができ、面状部材を表皮に見栄え良く取付けることが可能となる。
【0014】
第6発明の表皮部材の製造方法は、第5発明の表皮部材の製造方法において、張り付け部は、表皮と面状部材の双方に接着した状態でこれらの間に介装されている面状の接着部材で形成されている。本発明では、張り付け部としての接着部材の接着力によって、面状部材と表皮をより強固に張り付けることができ、面状部材をより確実に見栄え良く表皮に配置しておくことが可能となる。また刺繍部位を面状部材に設けた場合、刺繍部位は、接着部材による補強によって、刺繍糸の解れや破損が極力生じにくい構成となる。
【0015】
第7発明の表皮部材は、基本的な外観をなす表皮と、表皮とは異なる外観となるように外的刺激としての熱及び圧力を伴う昇華プリント処理を施して形成された意匠部位と、所定形状の刺繍で形成された刺繍部位とを備えた表皮部材である。そして意匠部位と刺繍部位とは、表皮に比して外的刺激による変容の少ない面状部材に設けられているとともに、意匠部位が設けられた面状部材の周縁部は、取付け部材を介して表皮に後付けされて取付けられており、意匠部位が、刺繍部位の外周縁のみに重複していることにより、意匠部位の染料が刺繍部位を縁取るように定着していると共に、外周縁を除く刺繍部位部分が外部に露出している。本発明の表皮部材は、面状部材に設けられた意匠部位にて意匠性の向上が適切に図られて、所望の意匠性を備えることとなる。そして本発明では、取付け部材を介して面状部材を表皮に後付けしたことにより、表皮が、ダメージ発生による変容の見られない優れた外観を維持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る第1発明によれば、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、表皮部材に各種の外的刺激を伴う処理を施すことができる。また第1発明によれば、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、意匠部位と刺繍部位を形成することで、表皮部材の意匠性をより向上させることができる。また第1発明によれば、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、昇華プリント処理を表皮部材に施すことができる。また第2発明によれば、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、面状部材を表皮に見栄え良く取付けることができる。また第3発明によれば、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、面状部材を表皮により確実に見栄え良く取付けることができる。また第4発明によれば、面状部材を見栄えの良い形で表皮に取付けることができる。また第5発明によれば、面状部材を表皮により見栄え良く取付けることができる。また第6発明によれば、面状部材を表皮により確実により見栄え良く取付けることができる。そして第7発明によれば、外観をなす表皮にダメージを極力与えることなく、表皮部材に各種の外的刺激を伴う処理を施しておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】面状部材を取り付けているシートカバー部分の正面図である。
【
図3】面状部材を取付けているシートカバー部分の断面図である。
【
図4】面状部材を取付けているシートカバー部分の拡大断面図である。
【
図5】
図2のVで示す丸で囲った部分の概略拡大正面図である。
【
図6】シートカバー製造時の第一工程を示す各部材の概略断面図である。
【
図7】第一工程の際の基材と転写部材の概略断面図である。
【
図8】基材をカットして得られた面状部材の概略断面図である。
【
図9】シートカバー製造時の第二工程を示す各部材の概略断面図である。
【
図10】変形例1の第一工程を示す各部材の概略断面図である。
【
図11】変形例1の第一工程の際の基材と転写部材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1~
図11を参照して説明する。各図には、便宜上、乗物用シート及び各部材の前後方向と左右方向と上下方向を示す矢線を適宜図示する。
図1の乗物用シート2は、乗物室内に設置される部材であり、シートクッション4と、シートバック6と、ヘッドレスト8を有する。これらシート構成部材(4,6,8)は、各々、シート骨格をなすシートフレーム(4F,6F,8F)と、シート外形をなすシートパッド(4P,6P,8P)と、シートパッドを被覆するシートカバー(4S,6S,8S)を有する。そしてシートクッション4の後部にシートバック6(詳細後述)の下部が起倒可能に連結され、シートバック6の上部にヘッドレスト8が配設されている。
【0019】
[シートバック]
図1に示すシートバック6は、乗員の背凭れとなる正面視で略矩形の部材であり、上述の基本構成(6F,6P,6S)を有し、その外観がシートカバー6Sで形成されている(各部材の詳細は後述)。このシートカバー6Sは、基本的な外観をなす複数の表皮61S~63S等と、一対の刺繍部位21,22と、一対の意匠部位31,32とを有している。そして各意匠部位31,32は、シートカバー6Sの意匠性向上などの観点から、後述するように熱や圧力などの外的刺激を伴う処理を経て形成される。この種の構成では、各意匠部位31,32の形成時の外的刺激によって、その周囲の特定の表皮(61S)がダメージを受けることは極力回避すべきである。そこで本実施例では、後述する面状部材10と製造方法によって、外観をなす特定の表皮(61S)にダメージを極力与えることなく、シートカバー6Sに各種の外的刺激を伴う処理を施すこととした。以下、シートカバー6Sの各構成の詳細と製造方法について詳述する。
【0020】
[基本構成]
ここで
図1に示すシートバック6は、シートパッド6P(図示省略)を、シートフレーム6F(図示省略)上に配置したのちシートカバー6Sで被覆することで形成されている。シートフレーム6Fは、典型的に正面視で略矩形又はアーチ状の枠体であり、金属や硬質樹脂などの剛性に優れる素材にて形成できる。またシートパッド6Pは、シートバック6の外形形状をなしている部材であり、例えばポリウレタンフォーム(密度:10kg/m
3~60kg/m
3)などの発泡樹脂で形成できる。このシートパッド6Pの着座面には、着座部6aと、左右一対の土手部6b,6cとが形成されている。着座部6aは、シート幅方向(
図1の左右方向)中央に形成された乗員の着座が可能な部位であり、適度な左右の幅寸法を有して上下方向に延長している。また右側の土手部6bと左側の土手部6cは、着座部6aの側方で相対的に前方に向けて山なりに盛り上がっている部位である。
【0021】
[シートカバー(表皮部材),表皮]
そして
図1に示すシートカバー6Sは、本発明の表皮部材に相当する面材であり、複数の表皮61S~63Sを縫合することで形成されている。例えばシートカバー6Sの前面は、着座部6aを被覆するメイン表皮61Sと、右側の土手部6bを被覆する右側サイド表皮62Sと、左側の土手部6cを被覆する左側サイド表皮63Sとを縫合することで形成されている。これら各表皮61S~63Sの素材として、シートの意匠面を構成可能な面材を用いることができ、例えば皮革(天然皮革,合成皮革)や、合成繊維や天然繊維製の布帛(織物,編物,不織布)を適宜選択して用いることができる。そしてシートカバー6Sの基本的な外観(基調となる外観)は各表皮61S~63Sで構成され、メイン表皮61Sは、本発明の表皮に相当し、後述する面状部材10が取付けられている。
【0022】
[面状部材]
図2及び
図3に示す面状部材10は、メイン表皮61Sよりも小寸な面状の部材であり、メイン表皮61Sの左下に後付けされて取付けられている。この面状部材10は、正面視で平行四辺形状をなすように周縁部10a~10dが形成されている。すなわち面状部材10では、周縁部をなす上縁部10a及び下縁部10bが、概ね左右方向に水平に延長し、周縁部をなす右縁部10c及び左縁部10dが、下から上に向かうにつれて次第に左側に傾斜している。そして面状部材10の外面10xには、左右一対の刺繍部位21,22と左右一対の各意匠部位31,32が形成されて外部に露出している。また面状部材10の裏面10y及び周縁部10a~10dは、後述の張り付け部40及び取付け部材50を介してメイン表皮61Sに後付けされて取付けられている。
【0023】
[面状部材の素材]
ここで面状部材10の素材として、メイン表皮61Sに比して熱や外力などの外的刺激による変容の少ない素材を使用でき、特に熱による変容の少ない素材であることが望ましい。なお変容とは、専ら物性変化によって姿形(外観や感触等)が変わることを意味し、加熱時の溶けが原因となる硬化や変色、皺又は弛みの発生を想定できる。この種の素材として、融点が高く耐熱性に優れる合成樹脂製の布帛を使用でき、例えば後述の昇華プリント処理を想定した場合には融点180℃以上の樹脂であることが好ましく、融点200℃以上の樹脂であることがより好ましい。この種の耐熱性に優れる合成樹脂として、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂およびそれらの混合樹脂を例示できる。例えば本実施例では、後述する昇華プリント処理を想定して、耐熱性と染色性に優れるポリエステル樹脂の繊維を織編等してなる布帛を面状部材10の素材に使用している。なおポリエステル樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(融点223℃)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(融点260℃)、ポリブチレンナフタレート樹脂(融点243℃)を例示でき、これらを単独又は二種以上混合して用いることができる。そしてポリエステル樹脂の含量は、後述する昇華性染料を定着可能であれば特に限定しないが、典型的には面状部材10の全重量に対して50wt%~100wt%のポリエステル樹脂を含むことで所望の染色性を確保できる。
【0024】
[刺繍部位]
図2及び
図3に示す左右一対の刺繍部位(右側刺繍部位21,左側刺繍部位22)は、それぞれ刺繍糸Y0を特定の形状に刺繍してなる部位であり、ミシンを用いた機械刺繍等で形成できる。ここで各刺繍部位21,22の形成手法(刺繍手法)は特に限定しないが、例えばタタミ縫いとサテン縫いとステッチ縫いの少なくとも一つを用いることが可能であり、各手法を組み合わせて用いることもできる。そして本実施例では、右側刺繍部位21が、正面視で概ね円形状の模様をなして、面状部材10の右側に形成されて外面10xに露出している。また左側刺繍部位22は、正面視で概ね四角形状の模様をなして、面状部材10の左側に形成されて外面10xに露出している。そして各刺繍部位21,22の色は、専ら刺繍糸Y0の着色で規定することが可能であり、相対的に目立ちやすいようにメイン表皮61Sとは異なる着色であることが望ましい。例えば本実施例の各刺繍部位21,22では、メイン表皮61Sとは異なる色である白色の刺繍糸Y0が用いられており、この白色は、後述の昇華プリント処理では表現しにくい色でもある。なお刺繍糸Y0の素材は特に限定しないが、例えば面状部材で例示の素材を用いることができ、染色性を考慮すると面状部材と同様にポリエステル樹脂を含むことが望ましい。
【0025】
[各意匠部位]
図2及び
図3に示す左右一対の各意匠部位(右側意匠部位31,左側意匠部位32)は、それぞれ面状部材10の外面10xに設けられた着色部位であり、昇華性染料の定着によって形成されている。この昇華性染料は、後述する昇華プリント処理に用いられるインクであり、例えばイエロー(Y)とマゼンタ(M)とシアン(C)を適宜組み合わせることで各種の色彩を表現することが可能である。なお各意匠部位31,32の着色に際しては、相対的に目立ちやすくなるようにメイン表皮61S及び対応する刺繍部位21,22とは異なる色を選択することが望ましい。例えば本実施例では、メイン表皮61S及び各刺繍部位21,22とは異なる色として、互いに異なる二色(第一色C1,第二色C2)を選択する(各図では、便宜上、着色されている部分にハッチを付け、特に
図2では、色の違いをハッチの違いで示している)。そして面状部材10の外面10xを左右に二等分した場合、面状部材10の右側に右側意匠部位31が形成され、面状部材10の左側に左側意匠部位32が形成されている。この右側意匠部位31は、第一色C1が選択されて着色され、右側刺繍部位21を囲むように面状部材10の右側に設けられている(意匠部位と刺繍部位の配置関係は後述)。また左側意匠部位32は、第二色C2が選択されて着色され、左側刺繍部位22を囲むように面状部材10の左側に設けられている。
【0026】
[刺繍部位と各意匠部位の配置関係]
ところで
図2及び
図3に示す各刺繍部位21,22の外形は、刺繍糸Y0のステッチが所定のデザインをなすように配置されることで形成されている。このため各刺繍部位21,22は、概ね狙ったデザイン通りの外形を呈するが、デザインのアウトラインをなす外縁側では、必ずしもデザインを精密に表現できるわけではない。例えば右側刺繍部位21は概ね円形状をなしているが、その外周縁21a側では、
図4及び
図5に示す刺繍糸Y0のステッチの端部(E)が突き出したような外観を呈し、やや凸凹状となることが避けられない(
図5では、便宜上、一つの刺繍糸のステッチにのみ対応する符号Y0、(E)を付す)。
【0027】
そこで本実施例では、
図4及び
図5に示す右側意匠部位31を、右側刺繍部位21に部分的に重複させて形成することにより、この右側刺繍部位21の外周縁21a側を目立ちにくくしている。すなわち右側意匠部位31の内縁部分31aは、相対的に凹凸のないシャープな円形状を有して、刺繍糸Y0のステッチの端部(E)を隠すように右側刺繍部位21の外周縁21aに重複している。そして右側意匠部位31の内縁部分31aの縁端E1が刺繍糸Y0のステッチの端部(E)よりも内方に配置することで、右側刺繍部位21の外側を、よりシャープな円形状の縁端E1で表現することができる。また同様に
図2及び
図3に示す左側意匠部位32も、左側刺繍部位22に部分的に重複させて形成することにより、この左側刺繍部位22の外周縁22a側を目立ちにくくしている。すなわち左側意匠部位32の内縁部分32aは、相対的に凹凸のないシャープな四角形状を有して、左側刺繍部位22の外周縁22aに重複している。このため左側刺繍部位22の外側も、よりシャープな四角形状の左側意匠部位32の内縁部分32aの縁端で表現できる。
【0028】
[張り付け部]
図3に示す張り付け部40は、メイン表皮61Sの外面61xに面状部材10の裏面10yを張り付けて密着させている部位であり、メイン表皮61Sと面状部材10の間に設けておくことができる。そしてメイン表皮61Sに面状部材10を張り付け部40で張り付けることにより、メイン表皮61Sから面状部材10が過度に浮き上がるといった事態を極力回避でき、面状部材10を見栄え良く配置することが可能となる。この種の張り付け部40として、メイン表皮61Sと面状部材10の間に介装可能な各種の部材を用いることが可能であり、例えば面状又は線状の接着部材、接着剤による接着層や貼着層、面ファスナなどの掛着部材を用いることができる。本実施例の張り付け部40は、表裏面に接着層を有する面状の接着部材41で形成されており、この接着部材41は、面状部材10が極度に盛り上がらないように適度な厚みを有している。そして接着部材41の表面が面状部材10の裏面10yに接着され、接着部材41の裏面がメイン表皮61Sの外面61xに接着されている。こうして面状の接着部材41の接着力を利用して、面状部材10とメイン表皮61Sの双方を接着して相対的に強固に密着させておくことで、メイン表皮61Sから面状部材10が浮き上がるといった事態をより確実に回避することができる。さらに本実施例のように面状部材10に各刺繍部位21,22を設けた場合、各刺繍部位21,22は、接着部材41による補強によって、刺繍糸Y0の解れや破損が極力生じにくい構成となる。
【0029】
[取付け部材]
図2~
図4に示す取付け部材50は、面状部材10の周縁部10a~10dをメイン表皮61Sに取付ける部材である。この種の取付け部材50として、面状部材10とメイン表皮61Sを物理的に接合可能な部材を用いることができ、後付け用の刺繍糸Y1などの各種糸類や、面ファスナなどの掛着部材を例示できる。例えば本実施例では、面状部材10の周縁部10a~10dが、取付け部材50としての後付け用の刺繍糸Y1で縁取りされた状態でメイン表皮61Sに縫い付けられている。ここで刺繍の手法としては、サテン縫いやタタミ縫いやステッチ縫いなどの各種の手法を例示でき、ピッチ(縫目長さ)などの管理がしやすいサテン縫いを用いることが好ましい。そこで本実施例では、取付け部材50としての後付け用の刺繍糸Y1のサテン縫いが、面状部材10の周縁部10a~10dを縁取りつつ、矩形の刺繍模様をなすように形成されている。こうして後付け用の刺繍糸Y1のサテン縫いの刺繍模様が、メイン表皮61Sの意匠の一部を構成するように形成されることで、シートカバー6Sの意匠性向上に資する構成となる。
【0030】
[シートカバー(表皮部材)の製造方法]
図1及び
図2に示すシートカバー6Sは、上述したように、基本的な外観をなすメイン表皮61S等と、各意匠部位31,32と、各刺繍部位21,22を備えている。そして各意匠部位31,32は、後述するように昇華プリント処理にて形成されるのであるが、この種の構成では、当該処理の際の外的刺激によって、メイン表皮61Sがダメージを受けることは極力回避すべきである。そこで本実施例のシートカバー6Sでは、面状部材10に各意匠部位31,32を形成したのち、この面状部材10を、取付け部材50を介してメイン表皮61Sに後付けしている。すなわち本実施例では、後述する第一工程と第二工程によって、メイン表皮61Sにダメージを極力与えることなく、シートカバー6Sに各種の外的刺激を伴う処理を施すこととしている。以下、
図2及び
図3に示すメイン表皮61Sと面状部材10を一例に、
図6~
図9を参照しつつ、シートカバー6Sの製造方法を説明する。
【0031】
[第一工程]
図6に示す第一工程では、メイン表皮に比して外的刺激による変容の少ない面状部材10に、後述の昇華プリント処理(外的刺激を伴う処理)を施して各意匠部位31,32を形成する。この第一工程では、
図7に示すように、面状部材10の原反となる基材100Xを用意する。この基材100Xは、面状部材10よりも面積の大きい面材であり、面状部材10と同様にポリエステル樹脂を含む布帛で形成されている。そこで本実施例では、基材100Xの面状部材10となる部分(以下、基準部位10Xと呼ぶ)に、各刺繍部位21,22を形成したのち、後述の昇華プリント処理を施して各意匠部位31,32を形成することとする(
図7では、便宜上、面状部材の各意匠部位を形成すべき位置に、意匠部位を示す符号31,32を付している)。
【0032】
[昇華プリント処理(各意匠部位の形成)]
ここで昇華プリント処理では、
図7に示すように、昇華性染料が定着した転写部材60を用意しておく。この転写部材60は、基準部位10Xに収まる外形形状の面材であり、ポリエステル樹脂等を含むフィルムやシートにて形成できる。そして転写部材60を左右に二等分した場合、その右側部分61は、その概ね全面に、右側意匠部位31を形成するための第一色C1が予め定着している。また右側部分61には、右側刺繍部位21に倣った円形の右側貫通孔61Hが設けられ、右側貫通孔61Hの周縁をなす周縁部分61aは、右側刺繍部位21の外周縁21aと重複するように形成されている。また転写部材60の左側部分62は、その概ね全面に、左側意匠部位32を形成するための第二色C2が予め定着している。そして左側部分62には、左側刺繍部位22に倣った四角形状の左側貫通孔62Hが設けられ、左側貫通孔62Hの周縁部分62aは、左側刺繍部位22の外周縁22aと重複するように形成されている。
【0033】
そして昇華プリント処理では、
図6に示す転写部材60の昇華性染料を、ヒートプレス装置70にて基材100Xの基準部位10Xに転写する。このとき基材100Xと転写部材60を、この順でヒートプレス装置70の台座部71に載置しておく。そしてこの状態の基材100Xと転写部材60を、ヒートプレス装置70のプレス部72で加圧しながら加熱する。なお昇華プリント処理の加熱温度は、昇華性染料を昇華(気化)可能であれば特に限定しないが、典型的には160~200℃の範囲(好ましくは180℃)に設定される。また設定圧力は、転写部材60と基材100Xを密着可能な押圧力を得られるならば特に限定しないが、典型的に0.01MPas~10MPasの範囲に設定できる。
【0034】
そして
図6及び
図7を参照して、プレス部72の加圧によって、転写部材60の右側部分61は、基材100X中の基準部位10Xの右側に押し当てられた状態となる。この状態で右側部分61の昇華用染料(第一色C1)が熱で昇華して転写されることにより、基準部位10Xの右側に右側意匠部位31を形成することができる。このとき円形状の右側貫通孔61Hから露出する右側刺繍部位21には、昇華用染料が転写されないため、そのままの外観で残ることとなる。さらに右側部分61では、右側貫通孔61Hの周縁部分61aが、右側刺繍部位21の外周縁21aと重複し、この状態で昇華用染料(第一色C1)が右側刺繍部位21の外周縁21aに転写される。すなわち右側貫通孔61Hの周縁部分61aによって、
図4及び
図5に示す右側意匠部位31の内縁部分31aが形成される。こうして内縁部分31aが、刺繍糸Y0のステッチの端部(E)を隠すように右側刺繍部位21の外周縁21aに重複して形成されることとなる。
【0035】
また同様に
図6及び
図7に示す転写部材60の左側部分62は、基材100X中の基準部位10Xの左側に押し当てられた状態となる。この状態で左側部分62の昇華用染料(第二色C2)が熱で昇華して転写されることにより、基準部位10Xの左側に左側意匠部位32を形成することができる。このとき四角形状の左側貫通孔62Hから露出する左側刺繍部位22には、昇華用染料が転写されないため、そのままの外観で残ることとなる。さらに左側部分62では、左側貫通孔62Hの周縁部分62aが、左側刺繍部位22の外周縁22aと重複し、この状態で昇華用染料(第二色C2)が左側刺繍部位22の外周縁22aに転写される。すなわち左側貫通孔62Hの周縁部分62aによって、
図3に示す左側意匠部位32の内縁部分32aが形成されることとなる。
【0036】
[基材のカット]
つぎに
図8を参照して、第二工程に先立って基材100Xをカットすることにより、所定形状に整えられた面状部材10を得ることができる。ここで基材100Xのカット方法は特に限定しないが、カッターや鋏などの刃物類を用いた機械的切断、レーザ切断やガス切断などによる熱切断を例示できる。例えば本実施例では、レーザ装置80から照射されたレーザによって、基材100Xの基準部位10Xの周囲をカットすることにより、所定形状に整えられた面状部材10を得ることができる。なおレーザ装置80の構成は特に限定しないが、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザを例示できる。そしてレーザは、指向性と集光性に優れており、加熱エリアが相対的に小さいことから精密な加工に適している。このためレーザによって面状部材10の外形形状を整えることで、
図2に示す面状部材10の周縁部10a~10dが想定外に溶けてしまうといった事態を極力回避でき、所望の形状の面状部材10をより確実に得ることができる。
【0037】
[第二工程]
図9に示す第二工程では、第一工程後の面状部材10をメイン表皮61Sの外面61x上に配置する。このとき張り付け部40としての面状の接着部材41を、面状部材10の裏面10yとメイン表皮61Sの外面61xの少なくとも一方に取付けておく。この状態で面状部材10をメイン表皮61Sの外面61x上に配置することにより、面状の接着部材41の接着力を利用して、面状部材10とメイン表皮61Sを相対的に強固に密着させておくことができる。つぎに
図2及び
図3に示すように、面状部材10の周縁部10a~10dを、取付け部材50としての後付け用の刺繍糸Y1の刺繍(サテン縫い)にてメイン表皮61Sに縫い付けて取付ける。そして本実施例では、取付け部材50としての後付け用の刺繍糸Y1のサテン縫いを、面状部材10の周縁部10a~10dを縁取るように設けて、矩形の刺繍模様をなすように形成する。このように後付け用の刺繍糸Y1のサテン縫いの刺繍模様が、メイン表皮61Sの意匠の一部を構成するように形成されることで、シートカバー6Sの意匠性向上に資する構成となる。
【0038】
以上説明した通り、本実施例の製造方法では、相対的に変容しにくい面状部材10に、外的刺激を伴う処理を施して各意匠部位31,32を形成することで、シートカバー6Sの意匠性の向上を図ることができる。そして第二工程において、取付け部材50を介して面状部材10をメイン表皮61Sに取付けることで、外的刺激を伴う処理が原因となるメイン表皮61Sのダメージ発生を極力回避することが可能となる。このため本実施例によれば、外観をなすメイン表皮61Sにダメージを極力与えることなく、シートカバー6Sに各種の外的刺激を伴う処理を施すことができる。そしてシートカバー6Sは、
図2に示すように面状部材10に設けられた各意匠部位31,32にて意匠性の向上が適切に図られて、所望の意匠性を備えることとなる。そして取付け部材50を介して面状部材10をメイン表皮61Sに後付けしたことにより、メイン表皮61Sが、ダメージ発生による変容の見られない優れた外観を維持することができる。
【0039】
さらに本実施例の面状部材10では、外的刺激を伴う処理にて形成された各意匠部位31,32と、所定形状の刺繍部位21,22とによって、表現できる意匠のバリエーションの幅をより広げることが可能となっている。特に本実施例では、昇華プリント処理による各意匠部位31,32を刺繍部位21,22と組み合わせて用いることにより、表現できる意匠のバリエーションの幅をより適切に広げることが可能となっている。さらに本実施例では、刺繍部位21,22と各意匠部位31,32をこの順で形成する。このとき刺繍部位21,22の周縁(21a,22a)に各意匠部位31,32を重複させて形成することで、刺繍部位21,22をよりシャープな形で表現することが可能となる。
【0040】
また本実施例では、取付け部材50としての後付け用の刺繍糸(Y1)が、面状部材10を縁取るように配置されてシートカバー6Sの意匠の一部を構成するため、シートカバー6Sの意匠性向上に資する構成となっている。また本実施例では、取付け部材50としての後付け用の刺繍糸(Y1)の縁取りが、ピッチ(縫目長さ)などの管理がしやすいサテン縫いで形成されているため、シートカバー6Sの意匠性向上により確実に資する構成となっている。また本実施例では、精密な加工に適するレーザによって面状部材10の外形形状を整えて、面状部材10の周縁部が想定外に溶けてしまうといった事態を極力回避することにより、所定形状の面状部材10をより確実に得ることができる。また本実施例では、面状部材10をメイン表皮61Sに張り付け部40で張り付けることにより、メイン表皮61Sから面状部材10が浮き上がるといった事態を極力回避することができ、面状部材10をメイン表皮61Sに見栄え良く取付けることが可能となる。そして本実施例では、張り付け部40としての接着部材41の接着力によって、面状部材10とメイン表皮61Sをより強固に張り付けることができ、面状部材10をより確実に見栄え良くメイン表皮61Sに配置しておくことが可能となる。また刺繍部位21,22を面状部材10に設けた場合、刺繍部位21,22は、接着部材41による補強によって、刺繍糸(Y0)の解れや破損が極力生じにくい構成となる。
【0041】
[変形例1]
ここでシートカバーの製造方法は、上述の手法のほか、各種の手法をとり得る。例えば
図10及び
図11に示す変形例1の製造方法では、各刺繍部位21,22を含む面状部材10の適宜の位置に、各意匠部位31,32を形成する点が実施例と異なっている。すなわち変形例1の第一工程では、
図11に示すように、貫通孔が形成されていない別の転写部材60Xを用意する。この別の転写部材60Xは、実施例と同様に、第一色C1が定着している右側部分61と、第二色C2が定着している左側部分62とを有している。なお本変形例では、各色C1(C2)が、転写部材60Xの対応する部分61(62)の概ね全面に定着していてもよく、特定の模様をなすように一部に定着していてもよい。
【0042】
そして
図10に示すプレス部72の加圧によって、別の転写部材60Xの右側部分61は、基材100X中の基準部位10Xの右側に押し当てられた状態となる。この状態で右側部分61の昇華用染料(第一色C1)が熱で昇華して転写されることにより、
図11に示すように、右側刺繍部位21を含む基準部位10Xの右側に右側意匠部位31を形成することができる。また同様に別の転写部材60Xの左側部分62は、基材100X中の基準部位10Xの左側に押し当てられた状態となる。そして左側部分62の昇華用染料(第二色C2)が熱で昇華して転写されることにより、左側刺繍部位22を含む基準部位10Xの左側に左側意匠部位32を形成することができる。こうして本変形例では、各意匠部位31(32)によって、対応する刺繍部位21(22)を着色したり、対応する刺繍部位21(22)に跨るように特定の模様を形成したりすることが可能となる。
【0043】
本実施形態の表皮部材は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施形態では、意匠部位31,32の構成(形状,寸法,形成位置,形成数、処理手法等)を例示したが、意匠部位の構成を限定する趣旨ではない。例えば意匠部位は、昇華プリント処理のほか、各種の外的刺激を伴う処理にて形成することができ、各種のプリント技術、加熱又は加圧を伴うエンボス加工や孔開け加工を例示できる。また面状部材には、単数又は3以上の意匠部位を設けることができ、各意匠部位は、特定の色又は複数色に着色されていてもよい。そして意匠部位によって、面状部材に着色を施す場合のほか、特定の文字や図柄を表現することも可能である。なお意匠部位の着色は、必ずしも表皮や刺繍部位を考慮して設定する必要はない。
【0044】
また本実施形態では、刺繍部位21,22の構成を例示したが、刺繍部位の構成を限定する趣旨ではない。例えば面状部材に単数又は3以上の刺繍部位を形成し、各刺繍部位又はすべての刺繍部位によって、特定の文字や図柄を表現することが可能である。また刺繍部位は、意匠部位の形成後に形成することが可能であり、この場合には意匠部位の上に刺繍部位が配置されることとなる。なお面状部材は、必ずしも刺繍部位を有している必要はなく、必要に応じて刺繍部位を省略することが可能である。なお刺繍部位の着色は、必ずしも表皮や意匠部位を考慮して設定する必要はない。
【0045】
また本実施形態では、張り付け部40(接着部材41)や取付け部材50(後付け用の刺繍糸Y1)の構成を例示したが、張り付け部や取付け部材の構成を限定する趣旨ではない。例えば面状部材10の寸法が小さい場合には、線状(帯状)や点状の張り付け部によって面状部材の一部を表皮に張り付けることができ、張り付け部を省略することもできる。また取付け部材によって、張り付け部の一部または全部を代用することが可能である。例えば取付け部材の後付け用の刺繍糸にて、面状部材の左右方向中央を横断するように表皮に縫い付けることで、面状部材の浮き上がりを回避することができる。また張り付け部によって、取付け部材を代用することもでき、例えば面ファスナを用いた張り付け部によって、面状部材を表皮に着脱自在に取付けることもできる。
【0046】
また本実施形態では、シートカバー6Sを一例に本実施例の構成を説明したが、本実施例の構成は、乗物内装品や、家庭用の内装品や、バッグやカバンなどの被服雑貨などに適用できる。なお乗物内装品として、乗物用シートのほか、ドア部やインストルメントパネルや天井部やコンソールなどの各種部材を例示でき、本実施例の構成は、車両や航空機や電車や船舶などの乗物に搭載される乗物内装品に適用できる。また乗物用シートにおいては、シートバックのほか、シートクッションやヘッドレストやアームレスト等の各種シート構成部材のシートカバーに本実施形態の構成を適用できる。そして表皮及び面状部材の構成と意匠部位及び刺繍部位の構成は、適用すべき製品の種類に応じて適宜変更可能であり、これらの色や模様もそれぞれ独立に設定できる。
【符号の説明】
【0047】
2 乗物用シート
4 シートクッション
6 シートバック
8 ヘッドレスト
6F シートフレーム
6S シートカバー(本発明の表皮部材)
61S メイン表皮(本発明の表皮)
61x メイン表皮の外面
62S 右側サイド表皮
63S 左側サイド表皮
6P シートパッド
6a 着座部
6b,6c 土手部
10 面状部材
10x 面状部材の外面
10y 面状部材の裏面
10a~10d 面状部材の周縁部
21 右側刺繍部位
21a 右側刺繍部位の外周縁
22 左側刺繍部位
22a 左側刺繍部位の外周縁
Y0 刺繍糸
E 刺繍糸のステッチの端部
31 右側意匠部位
31a 右側意匠部位の内縁部分
E1 右側意匠部位の内縁部分の縁端
32 左側意匠部位
32a 左側意匠部位の内縁部分
40 張り付け部
41 接着部材
50 取付け部材
Y1 後付け用の刺繍糸(本発明の取付け部材としての刺繍糸)
60 転写部材
61 転写部材の右側部分
61H 右側貫通孔
61a 右側貫通孔の周縁部分
62 転写部材の左側部分
62H 左側貫通孔
62a 左側貫通孔の周縁部分
60X 変形例の転写部材
70 ヒートプレス装置
71 台座部
72 プレス部
80 レーザ装置
100X 基材
10X 基準部位
C1 第一色
C2 第二色