(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-26
(45)【発行日】2023-10-04
(54)【発明の名称】煙除去装置
(51)【国際特許分類】
A62C 2/00 20060101AFI20230927BHJP
A62B 13/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A62C2/00 S
A62B13/00 C
(21)【出願番号】P 2019091397
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-05-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年5月16日に、ヨネ株式会社が、煙除去装置が掲載された製品情報カタログを、別紙に示す全国の消防本部や商社へ送付した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000240673
【氏名又は名称】ヨネ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】米田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】高雄 信行
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04986364(US,A)
【文献】米国特許第04779801(US,A)
【文献】特開昭52-028199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00
A62B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋の外側から窓の下枠に懸垂させて配設し、下端より供給した水をノズルより窓外方向へ噴射拡散させ、屋内に立ちこめた煙を前記窓を介して屋外へ排出させる煙除去装置において、
前記下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構
と、
前記懸垂させた状態にて供給された水を外壁面に沿って上方へ導く長直管状の第1昇水管と、
前記下枠上面上に載置され前記第1昇水管の上部より屋内側へ水を導く屋内誘導管と、
同屋内誘導管の屋内側端部より上方へ水を導く第2昇水管と、
同第2昇水管の上部より窓外方向へ水を導く放出管と、
同放出管の下流端部より水を噴射拡散させるノズルと、
を備え、
前記挟持機構は、
前記屋内誘導管と前記第2昇水管とを接続する第1接続部を、第2昇水管が屋内誘導管に対し左右方向への軸線周りに揺動可能に構成し、
前記第2昇水管と前記放出管とを接続する第2接続部を、放出管が第2昇水管に対し左右方向への軸線周りに揺動可能に構成し、
屋内誘導管の中途部と放出管の中途部との間にリンク板を揺動可能に架け渡し、
屋内誘導管の中途部から第1接続部までを静止節、第2昇水管を従動節、第2接続部から放出管の中途部までを中間節、リンク板を原動節とする平行リンク機構を備えると共に、
前記第2昇水管には、同第2昇水管の上流側下端部よりも伸延方向下方へ向けて挟圧杆が延設されており、前記ノズルからの水の噴射による反作用によって前記第1昇水管と前記挟圧杆の下端近傍との間で前記下枠又は同下枠下の壁部を挟圧するよう構成したことを特徴とする煙除去装置。
【請求項2】
前記屋内誘導管の下面と係合する係合片を前記挟圧杆の下部に設けたことを特徴とする請求項
1に記載の煙除去装置。
【請求項3】
前記ノズルには同ノズルから噴射される水の量や拡散度合いを調整する噴射態様調整機構が備えられており、同噴射態様調整機構の操作部を前記第1昇水管に配設したことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の煙除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火災現場では、要救助者の捜索や消火活動を行うために、熱気や煙が充満する屋内への進入が必要となることがある。
【0003】
従来、このような場合には、屋内へ放水したり送風するなどして屋内を大気圧に比して陽圧とし、充満している熱気や煙を屋外へ排出しながら救助活動や消火活動を行っている。
【0004】
しかし、このような強制的に送水したり送気して屋内を陽圧化する方法では、屋外に排出される熱気や煙が建屋のどの窓や扉から排出されるか予測が困難であり、他方から進入しようとする消防隊員の活動を妨げてしまう場合がある。
【0005】
また屋内では、まだ煙や熱気が到達していない通路や部屋にこれらを運んでしまうことがあり、救助活動や消火活動を困難化させるおそれがあった。
【0006】
そこで、屋内へ送気するのではなく、屋外へ排気を強制的に行うことで、上述の問題に対応した煙除去装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
このような煙除去装置によれば、排気は煙除去装置を配置した場所、すなわち、排気場所として意図的に選択した場所から行われ、その他の場所からは吸気が行われることとなるため、効率的に屋内の煙や熱気を排出しつつ円滑な救助活動や消火活動を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の如く従来の煙除去装置は、熱気や煙が充満する建屋の選択された場所、多くの場合選択された一つの開放窓から水を屋外に向けて放水することにより屋内を大気圧に比して陰圧とし、他の場所からは屋外の空気が屋内へ流入することとなるため消防隊員の活動の妨げにはなりにくい。
【0010】
しかしながら、当該従来の煙除去装置を消火・救助活動時に実際に使用した場合、窓の下枠に対しては、符号55で示される”the grasping mechanism”を構成する固定された2枚の板の間でしか固定することはできず、この間隔より広い窓枠では固定ができないことから、安定性に欠けるものであった。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、水の噴射拡散時に安定して窓の下枠や下壁に係止させることができる煙除去装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る煙除去装置では、(1)建屋の外側から窓の下枠に懸垂させて配設し、下端より供給した水をノズルより窓外方向へ噴射拡散させ、屋内に立ちこめた煙を前記窓を介して屋外へ排出させる煙除去装置において、前記下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構と、前記懸垂させた状態にて供給された水を外壁面に沿って上方へ導く長直管状の第1昇水管と、前記下枠上面上に載置され前記第1昇水管の上部より屋内側へ水を導く屋内誘導管と、同屋内誘導管の屋内側端部より上方へ水を導く第2昇水管と、同第2昇水管の上部より窓外方向へ水を導く放出管と、同放出管の下流端部より水を噴射拡散させるノズルと、を備え、前記挟持機構は、前記屋内誘導管と前記第2昇水管とを接続する第1接続部を、第2昇水管が屋内誘導管に対し左右方向への軸線周りに揺動可能に構成し、前記第2昇水管と前記放出管とを接続する第2接続部を、放出管が第2昇水管に対し左右方向への軸線周りに揺動可能に構成し、屋内誘導管の中途部と放出管の中途部との間にリンク板を揺動可能に架け渡し、屋内誘導管の中途部から第1接続部までを静止節、第2昇水管を従動節、第2接続部から放出管の中途部までを中間節、リンク板を原動節とする平行リンク機構を備えると共に、前記第2昇水管には、同第2昇水管の上流側下端部よりも伸延方向下方へ向けて挟圧杆が延設されており、前記ノズルからの水の噴射による反作用によって前記第1昇水管と前記挟圧杆の下端近傍との間で前記下枠又は同下枠下の壁部を挟圧するよう構成した。
【0013】
また、本発明に係る煙除去装置では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記屋内誘導管の下面と係合する係合片を前記挟圧杆の下部に設けたこと。
(3)前記ノズルには同ノズルから噴射される水の量や拡散度合いを調整する噴射態様調整機構が備えられており、同噴射態様調整機構の操作部を前記第1昇水管に配設したこと。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る煙除去装置によれば、建屋の外側から窓の下枠に懸垂させて配設し、下端より供給した水をノズルより窓外方向へ噴射拡散させ、屋内に立ちこめた煙を前記窓を介して屋外へ排出させる煙除去装置において、前記下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構を備えたため、水の噴射拡散時に安定して窓の下枠に係止させることができる煙除去装置を提供することができる。
【0015】
また、前記煙除去装置は、前記懸垂させた状態にて供給された水を外壁面に沿って上方へ導く長直管状の第1昇水管と、前記下枠上面上に載置され前記第1昇水管の上部より屋内側へ水を導く屋内誘導管と、同屋内誘導管の屋内側端部より上方へ水を導く第2昇水管と、同第2昇水管の上部より窓外方向へ水を導く放出管と、同放出管の下流端部より水を噴射拡散させるノズルと、を備え、前記挟持機構は、前記屋内誘導管と前記第2昇水管とを接続する第1接続部を、第2昇水管が屋内誘導管に対し左右方向への軸線周りに揺動可能に構成し、前記第2昇水管と前記放出管とを接続する第2接続部を、放出管が第2昇水管に対し左右方向への軸線周りに揺動可能に構成し、屋内誘導管の中途部と放出管の中途部との間にリンク板を揺動可能に架け渡し、屋内誘導管の中途部から第1接続部までを静止節、第2昇水管を従動節、第2接続部から放出管の中途部までを中間節、リンク板を原動節とする平行リンク機構を備えると共に、前記第2昇水管には、同第2昇水管の上流側下端部よりも伸延方向下方へ向けて挟圧杆が延設されており、前記ノズルからの水の噴射による反作用によって前記第1昇水管と前記挟圧杆の下端近傍との間で前記下枠又は同下枠下の壁部を挟圧するよう構成すれば、下枠又は同下枠下の壁部をよりしっかりと挟持することができ、煙除去装置の懸垂状態をより安定なものとすることができる。
【0016】
また、前記屋内誘導管の下面と係合する係合片を前記挟圧杆の下部に設けることとすれば、挟持対象となる下枠又は同下枠下の壁部の厚みが足らず、しっかりと挟持することができない場合であっても、平行リンク機構の過剰な動きを制限して、ノズルが窓の下枠よりも下の位置に移動してしまうことを規制することができる。
【0017】
また、
前記ノズルには同ノズルから噴射される水の量や拡散度合いを調整する噴射態様調整機構が備えられており、同噴射態様調整機構の操作部を前記第1昇水管に配設すれば、屋内より排出される煙や熱気に阻害されることなくノズルの噴霧形状や噴霧量を排出する煙の様子を見ながら遠隔操作で調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る煙除去装置の使用状態を示した説明図である。
【
図2】本実施形態に係る煙除去装置の使用状態を示した説明図である。
【
図3】本実施形態に係る煙除去装置の使用状態を示した説明図である。
【
図4】本実施形態に係る煙除去装置の側面視における構成を示した説明図である。
【
図5】本実施形態に係る煙除去装置の上面視における構成を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、建屋の外側から窓の下枠に懸垂させて配設し、下端より供給した水をノズルより窓外方向へ噴射拡散させ、屋内に立ちこめた煙を前記窓を介して屋外へ排出させる煙除去装置に関するものであり、水の噴射拡散時に安定して窓の下枠に係止させることができる煙除去装置を提供するものである。
【0020】
本明細書において建屋は特に限定されるものではない。例えば、一般家屋やビル、マンションなどその用途や階層は限定されない。
【0021】
窓は、その形成場所や形状は特に限定されるものではない。一般には採光や通風、眺望などの目的のために設けられ、日常では人の出入りに供さない開口をいうが、本明細書においては、マンション等において居室とベランダを出入りする掃き出し窓なども含む。また上下左右などいずれでもよいのであるが、本明細書における窓は、窓枠の周囲に本実施形態に係る煙除去装置の挟持対象となる壁(以下、窓枠周壁と称する。)を備えた開口である。
【0022】
追って図面を参照しながら煙除去装置の使用態様について説明するが、掃き出し窓ではない窓に対して本実施形態に係る煙除去装置を配置する場合は、挟持対象となる窓枠周壁は専ら窓下枠の下方の壁(以下、下壁ともいう。)となる。
【0023】
また通常、掃き出し窓には下壁がない。従って、本実施形態に係る煙除去装置を掃き出し窓に配置する場合は、窓枠の左右側の壁が挟持対象の壁として利用可能である。なお以下では、最も一般的な設置状況である下壁に煙除去装置を配設した場青を中心に説明する。
【0024】
窓の下枠は、例えば矩形状の窓であれば下辺に相当する部位の枠部分であるが、本実施形態に係る煙除去装置を配設する窓の形状は特に限定されないため、概ね窓の下部の枠程度の意味合いとして解釈すべきである。なお、下枠に取り付けて使用しないとしても、下枠に取付けて使用可能であるならば、本発明に係る煙除去装置に含まれる。同様に、下枠に懸垂させて配設しないとしても、下枠に懸垂させた状態で使用可能であるならば、本発明に係る煙除去装置に含まれる。
【0025】
本実施形態に係る煙除去装置により除去する対象は、火災により生じた煙は勿論のこと、火災以外のもの、例えば粉塵なども含まれる。また、煙以外にも火災の熱気なども除去対象となりうる。
【0026】
そして、本実施形態に係る煙除去装置の特徴としては、窓の下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構を備えた点が挙げられる。
【0027】
すなわち、前述の如き従来の煙除去装置は、横向きU字状の配管の下部に下方へ向けて2枚の板が所定間隔を隔てて固定配置されており、この固定された板の間で窓の下枠等に係止することとしているが、壁厚は建屋によって異なるため煙除去装置の水の噴射拡散時の安定性に不安がある。
【0028】
この点、本実施形態に係る煙除去装置によれば、窓の下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構を備えることとしたため、様々な壁に対し、その厚みに拘わらずしっかりと挟持することができ、水の噴射拡散時において安定して窓の下枠に係止させることができる。
【0029】
以下、本実施形態に係る煙除去装置について、まずは
図1~
図3を参照しつつその使用態様について概説し、その後煙除去装置の構成について詳細に説明する。
【0030】
図1は、火災に見舞われて屋内に煙Sが立ちこめた建屋としての家屋10を示している。例えば消防隊員のような消火活動を行う作業者Pは、屋内の煙Sを屋外へ強制的に排出すべく、家屋10に本実施形態に係る煙除去装置Aを設置しようとしている。なお、煙除去装置Aの構成や使い方の説明を容易とすべく、位置や方向を表す際には、作業者Pの視点や、煙除去装置Aの使用状態に倣って表現する。すなわち、例えば
図1の構図での紙面上下方向を上方向-下方向、紙面左右方向を屋外方向-屋内方向、紙面奥行き方向-手前方向を左方向-右方向のように表現し、その他の図においても各図に示した凡例の如く表現する。
【0031】
図1において作業者Pは、既にガラスが除かれた窓11の下枠12に対して、家屋10の外側から煙除去装置Aの屋内誘導管31部分を載置し、下枠12や下枠12の下の壁部(以下、下壁13と称する。)が煙除去装置Aの挟持空間20内に収まるよう、下枠12に煙除去装置Aを懸垂させて配設する。
【0032】
図2は、窓11の下枠12部分に、煙除去装置Aを懸垂させて配設した状態を示している。追って詳述するが、煙除去装置Aは懸垂部昇水管30や屋内誘導管31、傾動昇水管32、放出管33など全体として管状の部材を連通連結させて構成しており、作業者Pは、その流路の上流端となる下部末端に形成された給水ホース接続部30aに給水ホース23を接続し、煙除去装置Aへ水の供給作業を行う。
【0033】
そして
図3に示すように、作業者Pは煙除去装置Aの操作ハンドル24の操作を行う。この操作ハンドル24は、ノズル26の内部に設けられ吐水や停止、量や拡散度合いの調整を可能とした噴射態様調整機構(図示せず)と摺動ワイヤ52を介して接続されており、操作ハンドル24の動きが噴射態様調整機構に伝達されるよう構成している。
【0034】
また、噴射態様調整機構は、ノズル26の伸延方向軸線と同軸状に配した調整リング26a(後述)を備えており、この調整リング26aを回動させることで水量や拡散度合の変更を可能としている。そして、操作ハンドル24の回動動作(開動作)が調整リング26aへ伝達されると、ノズル26からの水の噴射が開始される。
【0035】
すると、
図3に示す如く屋内の空気は散水と共に屋外へ導かれるため、煙Sもまた勢いよく屋内からの排出がなされる。
【0036】
また、本実施形態に係る煙除去装置Aの特徴として、同煙除去装置Aの上部に位置する流路下流側近傍にはリンク機構部27を構築しており、このリンク機構部27には挟圧杆37を延設して挟持機構29を実現している。
【0037】
従って、水の噴射に伴う反作用でノズル26の位置が屋内側に後退し、リンク機構部27は平行四辺形状に変形すると、懸垂部昇水管30と挟圧杆37との間で挟持空間20内に納められた下枠12や下壁13が挟持され、水の噴射拡散時においても、煙除去装置Aを安定して窓の下枠に係止させることが可能となる。なお、以下の説明において、
図2に示す如くノズル26から水を噴射する前のリンク機構部27の状態、本実施形態では側面視において略矩形状となっているリンク機構部27の形態を止水時形態と称し、
図3に示す如くノズル26から水を噴射させているリンク機構部27の状態、本実施形態では側面視において略平行四辺形状となっているリンク機構部27の形態を放水時形態と称する。
【0038】
次に、煙除去装置Aの具体的な構成について説明する。
図4は放水時形態における煙除去装置Aの構成を示した側面図であり、
図5は同平面図である。
【0039】
図4に示すように煙除去装置Aは、懸垂部昇水管30と、屋内誘導管31と、傾動昇水管32と、放出管33とを備えている。
【0040】
懸垂部昇水管30は煙除去装置Aを下枠12に懸垂させた状態にて、給水ホース23より供給された水を外壁面に沿って上方へ導くための第1の昇水管として機能する長直管状の配管である。
【0041】
懸垂部昇水管30の流路上流側となる下方基端部には、給水ホース接続部30aが形成されている。この給水ホース接続部30aには、例えば消火現場に駆けつけたポンプ車等から導かれる給水ホース23を接続することで、煙除去装置Aに水が供給される。煙除去装置Aに供給された水は下壁13に沿って懸垂部昇水管30の内部を上昇し、懸垂部昇水管30の上端に至る。
【0042】
懸垂部昇水管30の上流側端部には、屋内誘導管31が接続されている。この屋内誘導管31は、供給された水を下枠12を跨いで屋外側から屋内側へ導く配管である。なお、本実施形態においてこの屋内誘導管31は、L字状の管を採用することで懸垂部昇水管30と一体に構成しているがこれに限定されるものではなく、それぞれ別体の懸垂部昇水管30と屋内誘導管31とを連通させて煙除去装置Aを構築することも可能である。
【0043】
屋内誘導管31の流路下流側となる屋内側の端部は、
図5にて示すように、水平方向へ略直角(本実施形態では、右方向)に折曲し開口させている。この屋内誘導管下流端開口部31aは、次に述べる傾動昇水管32の上流端開口部32aと嵌め合って水を流通可能とし、更に左右方向に伸延する第1軸線Q1周りにて傾動昇水管32を揺動可能に枢支する第1回動連結部40を構成する。
【0044】
傾動昇水管32は
図4に示すように、屋内誘導管31の屋内側端部である屋内誘導管下流端開口部31aより供給された水を上方へ導く第2昇水管としての役割を有する配管である。
【0045】
また
図5にて示すように、上述の如く傾動昇水管32の上流側端部を側方(本実施形態では左方向)に折曲し開口させた上流端開口部32aは、屋内誘導管下流端開口部31aと共に第1回動連結部40を構成し、第1軸線Q1周りに傾動昇水管32を揺動可能としている。
【0046】
また、傾動昇水管32の下流側端部は、水平方向へ略直角(本実施形態では左方向)に折曲開口させている。この傾動昇水管下流端開口部32bは、次に述べる放出管33の放出管上流端開口33aと嵌め合って水を流通可能としつつ左右方向に伸延する第2軸線Q2周りにて放出管33を傾動昇水管32に対し揺動可能に枢支する第2回動連結部41を構成する。
【0047】
また、傾動昇水管32の伸延方向中途位置であって下壁13と対向する周面には、取付けホルダ37aを介して挟圧杆37を配設している。
【0048】
この挟圧杆37は、外壁面に沿って懸垂状態に配された懸垂部昇水管30との間で下壁13を挟圧するための部材であり、傾動昇水管32の上流側下端部よりも伸延方向下方へ向けて延設されている。
【0049】
また、挟圧杆37の下部には係合片37bを配設している。この係合片37bは、非放水時状態から放水時状態へ変化する際に、下壁13の壁厚が薄く挟圧杆37で下壁13を挟圧することができない場合であっても、屋内誘導管31の下面に当接して平行リンク機構35の過剰な変形を防ぎつつ、ノズル26が屋内側へ移動しすぎないようにするためのものである。
【0050】
放出管33は
図5に示すように、上流側端部を水平方向へ略直角(本実施形態では右方向)に折曲開口させる一方、下流側端部にノズル26を配設した短管である。放出管上流端開口33aは、先述の通り傾動昇水管下流端開口部32bと嵌め合って水を流通可能としつつ左右方向に伸延する第2軸線Q2周りにて放出管33を揺動可能に枢支する第2回動連結部41を構成する。
【0051】
また放出管33は、その軸線X1の伸延方向を、屋内誘導管31の伸延方向と略同方向とし、また、懸垂部昇水管30の伸延方向と交叉するよう構成しており、ノズル26より噴出する水の反作用によって懸垂部昇水管30の軸線を中心とする回転力が生じてしまうことを抑制している。
【0052】
ノズル26は放出管33の下流側末端に配設されており、供給された水を噴射拡散させる役割を担う部位である。
【0053】
またノズル26には、噴射態様調整機構(図示せず)が内蔵されている。この噴射態様調整機構は、吐水や停止、水の吐出量や拡散度合いの調整を行うための機構であり、作業者Pがノズル26に設けられた調整リング26aを回動させることで、吐水や停止、水の吐出量や拡散度合いの変更を行うことができるよう構成している。
【0054】
また、この噴射態様調整機構には、
図4にて懸垂部昇水管30の給水ホース接続部30aの近傍に示すように遠隔操作機構36が取り付けられており、作業者Pは、ノズル26の調整リング26aを直接操作することなく、ノズル26から離れた場所から吐水や停止、水の吐出量や拡散度合いの調整を行えるようにしている。
【0055】
図6は、ノズル26や遠隔操作機構36の構成を示した説明図である。
図6(a)に示すように遠隔操作機構36は、操作部45と、動作伝達部46と、ノズル取付部47とで構成している。
【0056】
操作部45は、グリップ部50と、グリップベース51とで構成している。グリップ部50は作業者Pが把持回動させるための部位であり、次に述べるグリップベース51に対し、バイク等のアクセルの如く回動可能に構成している。
【0057】
グリップベース51は、作業者Pが操作したグリップ部50の動きを操作部45へ伝達させるための機構を収容するための部位である。
図6(a)の遠隔操作機構36を紙面左方より見た状態を
図6(b)に示す。
【0058】
図6(b)に示すように、グリップベース51には円形凹状の回転板収容部51aが形成されており、同回転板収容部51aには主回転板51bが収容されている。この主回転板51bは、グリップ部50の回転操作と共に回動する円盤であり、グリップ部50と同軸に回動可能な状態で回転板収容部51a内に軸支されている。
【0059】
また主回転板51bには、凹状のタイコ係止部51cが形成されている。このタイコ係止部51cは、動作伝達部46を構成する摺動ワイヤ52、特にインナーワイヤ52iの端部に固着したタイコ52tを係合させるための部位であり、グリップ部50の回動に伴ってインナーワイヤ52iが摺動し動力が伝達されるよう構成している。なお、符号51dは回転板収容部51aの開口を閉蓋するためのカバー板であり、
図6(b)では説明の便宜上、当該カバー板51dが外された状態を示している。
【0060】
動作伝達部46は、作業者Pが操作部45で行った操作をノズル26の噴射態様調整機構へ伝達するための部位であり、本実施形態では2本の摺動ワイヤ52により構成している。
【0061】
具体的に言及すると、
図6(b)に示すように動作伝達部46には、グリップ部50の時計回り方向の動作を主に引き動作によってノズル26へ伝達する往路ワイヤ52aと、グリップ部50の反時計回りの動作を主に引き動作によってノズル26へ伝達する復路ワイヤ52bとが備えられている。
【0062】
往路ワイヤ52a及び復路ワイヤ52bは、いずれも所謂摺動ワイヤ52であり、インナーワイヤ52iとアウターワイヤ52oとを備えている。また、往路ワイヤ52a及び復路ワイヤ52bを構成するインナーワイヤ52iの両端には、それぞれタイコ52tが固着されており、一端側のタイコ52tは前述の主回転板51bのタイコ係止部51cに係止し、他端側のタイコ52tは次に述べる従動回転板54のタイコ係止部54aに係止している。
【0063】
ノズル取付部47は、ワイヤステー53と従動回転板54とを備えている。
【0064】
ワイヤステー53は、摺動ワイヤ52のアウターワイヤ52oの端部をノズル26に対して固定した状態で配置するためのステーであり、
図6(a)に示すように、ワイヤステー53自体をノズル26の周囲に固定するためのノズル装着部53aと、アウターワイヤ52oの端部を従動回転板54の近傍に配置するアウターワイヤ固定部53bとを備えている。
【0065】
図6(b)に示すように、アウターワイヤ固定部53bでは、往路ワイヤ52aと復路ワイヤ52bとのそれぞれについて、アウターワイヤ52oが固定される。また、それぞれのアウターワイヤ52oからはインナーワイヤ52iが導出され、従動回転板54に係止されるよう構成している。
【0066】
従動回転板54は
図6(b)に示すように略円盤状の部材であり、作業者Pがグリップ部50を操作することにより、動作伝達部46を介して従動する回転板である。
【0067】
またこの従動回転板54は、
図6(a)に示すようにノズル26の調整リング26aに連動連結されており、従動回転板54が動くことで噴射態様調整機構による吐水や停止、水の吐出量や拡散度合いの調整が行われる。
【0068】
また、従動回転板54には
図6(b)に示すように、主回転板51bと同様にタイコ係止部54aが形成されており、往路ワイヤ52a及び復路ワイヤ52bの各タイコ52tを係止させている。また、インナーワイヤ52iを従動回転板54の周面に刻設されたインナーワイヤ溝54bに沿わせて配置している。
【0069】
そして、このような構成を備える遠隔操作機構36によれば、例えば本実施形態に係る煙除去装置Aの場合、
図4に示すように操作部45を懸垂部昇水管30の下方に位置する給水ホース接続部30aの近傍に配置していることから、作業者Pは放水を行うにあたりノズル26に近づく必要がなく、ノズル26からの放水によって濡れてしまったり、排出される煙に巻き込まれるなど作業を阻害されずにノズル26からの放水の態様を遠隔操作によって変化させることができる。
【0070】
ここで再び
図5を参照しつつ管路構成の説明に戻ると、放出管33の長手方向(屋外-屋内方向)の中途部には左右側方(本実施形態では右方向)へ向けて枢支台座42を突設している。
【0071】
この枢支台座42は、屋内誘導管31の長手方向(屋外-屋内方向)の中途部にも同様に設けられており、この2つの枢支台座42,42にはリンク板34が揺動自在に枢支された状態で架け渡されている。すなわち、リンク板34は、放出管33の枢支台座42の第3軸線Q3と、屋内誘導管31の枢支台座42の第4軸線Q4との軸回りに揺動自在に枢支されている。
【0072】
また
図4に示すように、リンク板34の長さ、より詳細には、第3軸線Q3から第4軸線Q4までの長さL3は、傾動昇水管32の長さ、特に第2軸線Q2から第1軸線Q1までの長さL1と略同じ長さとし、第3軸線Q3となる枢支台座42の形成位置を第2軸線Q2から放出管33の伸延方向に沿って長さL2となる位置とし、第4軸線Q4となる枢支台座42の形成位置を第1軸線Q1から屋内誘導管31の伸延方向に沿って長さL2と略同じ長さL4となる位置としており、屋内誘導管の中途部から第1接続部までとなる第4軸線Q4から第1軸線Q1までを静止節とし、傾動昇水管32を従動節とし、第2接続部から放出管33の中途部までとなる第2軸線Q2から第3軸線Q3までを中間節とし、リンク板34を原動節とする平行リンク機構35が構築されている。
【0073】
また、平行リンク機構35には図示しない復帰用弾性体が配されており、止水時形態に付勢されている。この復帰用弾性体の付勢力は、ノズル26からの水の放出に伴う反作用で止水時形態であった平行リンク機構35が放水時形態に変化できる程度の付勢力であり、また、ノズル26からの水の放出が止まれば、平行リンク機構35を再び止水時形態に変化させることができる程度の付勢力である。なお、復帰用弾性体の種類や取付け位置は特に限定されるものではなく、放水時形態から止水時形態に変化する際に距離が縮まる2点間に架け渡した引張バネや、距離が伸びる2点間に架け渡した圧縮バネなどにより実現可能である。
【0074】
従って、
図2に示す如く煙除去装置Aを懸垂させた状態において、作業者Pが操作部45のグリップ部50を操作してノズル26からの放水を開始すると、ノズル26より噴出する水の反作用により、止水時形態であった平行リンク機構35は
図3に示すような放水時形態に変化することとなる。
【0075】
また、
図4及び
図5に示すように、傾動昇水管32には、同傾動昇水管32の伸延方向下方へ向けて平行に挟圧杆37を延設している。
【0076】
従って、平行リンク機構35が放水時形態に変化することで、挟圧杆37は下壁13と当接して懸垂部昇水管30との間、すなわち屋外側と屋内側との間で下壁13を挟圧することができ、この挟持機構により水の噴射拡散時においても安定して窓の下枠に係止させることができる。
【0077】
上述してきたように、本実施形態に係る煙除去装置Aによれば、建屋の外側から窓の下枠に懸垂させて配設し、下端より供給した水をノズルより窓外方向へ噴射拡散させ、屋内に立ちこめた煙を前記窓を介して屋外へ排出させる煙除去装置において、前記下枠又は同下枠下の壁部を屋外側と屋内側との間で挟圧する挟持機構を備えたため、水の噴射拡散時に安定して窓の下枠や下壁に係止させることができる煙除去装置を提供することができる。
【0078】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0079】
例えば、本実施形態に係る煙除去装置Aでは、リンク機構部27を平行リンク機構35により実現しているがこれに限定されるものではなく、例えば、放水時形態に変化した際や、止水時形態からの変化が大きくなる程(角度が大きく傾く程)ノズルが若干上向きになるようなリンク機構を構築することもできる。
【0080】
すなわち、ノズル26から屋外へ向けて円錐状に散水した場合、リンク機構部27が放水時形態に変形するとノズル26が屋内側へ位置することとなり散水の一部が下枠と干渉して屋外へ噴霧されない領域が生じてしまうおそれがあるが、上述の構成とすることにより、散水の下枠との干渉を軽減し、より多くの散水によって屋内を陰圧化することができ、煙や熱気の効率的な排出を行わせることができる。
【0081】
このような構成の一例としては、リンク板34の第3軸線Q3又は第4軸線Q4の挿通穴をリンク板34の伸延方向に沿った長穴状とし、止水時形態では長さL3≒長さL1としつつ、放水時形態では長さL3>長さL1となるような構成が挙げられるが、別の構成を適用しても良いのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0082】
10 家屋
11 窓
12 下枠
13 下壁
20 挟持空間
21 屋内誘導管
24 操作ハンドル
26 ノズル
27 リンク機構部
29 第1上昇管
30 昇水管
30a 給水ホース接続部
31 屋内誘導管
32 傾動昇水管
33 放出管
34 リンク板
35 平行リンク機構
36 遠隔操作機構
37 挟圧杆
37b 係合片
40 第1回動連結部
41 第2回動連結部
A 煙除去装置
P 作業者
S 煙